説明

吸水性ポリマー粒子及び吸水性ポリマー粒子の製造方法

【課題】毒性の少ない吸水性ポリマー粒子を提供する。
【解決手段】ビニルエステル系化合物とエチレン系不飽和カルボン酸エステルを共重合させて得た共重合体をケン化させて吸水性ポリマー粒子を得る。このケン化時にケン化溶媒として水が30質量パーセント以下である水−アルコール混合溶媒を使用し、またケン化用アルカリとして前記共重合体の単量体1モルに対してアルカリを1.5モル以上使用してケン化を行うことにより、生理食塩液の吸水量が40g/g以下である吸水性ポリマー粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性を有するポリマー粒子及び吸水性ポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の疾病、特に腫瘍や出血に対して、該疾病部位の血管を塞栓し血流を抑えることにより腫瘍への栄養供給防止や止血を図ることが治療方法として行われている。この血管を塞栓させるために用いる物質は血管塞栓物質と呼ばれる血管塞栓材であり、その一つとして吸水性ポリマー粒子が使用されている。この吸水性ポリマー粒子は吸水して膨潤する高分子樹脂からなるポリマー粒子であり、血管内に注入されると血液中の水分を吸収し血管内で膨潤する。この膨潤した吸水性ポリマー粒子が血管の所定部位に多数堆積、積層されて血管を塞栓することにより血流が停止する。ここで、上記吸水性ポリマーとしてビニルエステルとアクリル酸エステル等との共重合体をケン化して得られるビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体が用いられることがある。
【0003】
ビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体は網目構造を有しており、この網目構造中に含まれるアクリル酸塩由来のカルボン酸塩が親水基であり、水が網目構造中に入ってくると塩(例えばナトリウム)がイオンとなって水中に移動し、分子鎖にはカルボン酸イオンが残る。この残ったカルボン酸イオン同士が反発して網目構造が拡げられ、さらに多くの水が入ってくることとなる。また、カルボン酸イオン同士は水を引き合うため、水分子はこれに捉えられポリマー内に保持されることとなり、瞬時に大量の水を吸収することとなる(特許文献1)。
【0004】
ところで、吸水性ポリマー粒子を構成するポリアクリル酸ナトリウムを高濃度で生体に非経口投与した場合にシステム的機能障害(チアノーゼ、心不整脈、神経筋障害等)が生じることが確認されている。これは、ポリアクリル酸ナトリウムがカルシウム沈着物を形成することにより血液中のカルシウム濃度が低下し、低カルシウム血症が発生することによって、生体の機能障害が発生しているものと推測されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−345966号公報
【非特許文献1】JOURNAL OF APPLIED TOXICOLOGY, VOL.9(3), 191-198(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このポリアクリル酸ナトリウムにより生ずる現象はナトリウム以外の塩(カリウム、カルシウム、マグネシウム)を用いたポリアクリル酸塩にも発生し得る。すなわち、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸マグネシウム、ポリアクリル酸カルシウムを投与した場合でも血液中のナトリウム、カリウム、マグネシウム濃度が低下し、低ナトリウム血症、低カリウム血症又は低マグネシウム血症が発生することが予想される。
【0006】
そこで、本発明は上記事実に鑑み、毒性の少ない吸水性ポリマー粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、ビニルエステル系化合物とエチレン系不飽和カルボン酸エステルの共重合体のケン化物からなり、生理食塩液の吸水量が40g/g以下である吸水性ポリマー粒子を要旨とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記吸水性ポリマー粒子の吸水量が26g/g以下であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明では、前記エチレン系不飽和カルボン酸エステルは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルであることを要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記エチレン系不飽和カルボン酸エステルはアクリル酸エステルであり、吸水性ポリマー粒子におけるモル比がアクリル酸エステル由来成分:ビニルアルコール=3:7〜7:3であることを要旨とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、ビニルアルコールとアクリル酸塩又はメタクリル酸塩との共重合体を含む吸水性ポリマー粒子であって、生理食塩液の吸水量が40g/g以下であることを要旨とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、ビニルエステルとエチレン系不飽和カルボン酸エステルとの共重合体をケン化させる吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、ケン化時の溶媒として水が30質量パーセント以下である水−アルコール混合溶媒を使用し、ケン化用アルカリとして前記共重合体の単量体1モルに対してアルカリを1.5モル以上使用してケン化を行う吸水性ポリマー粒子の製造方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、毒性の少ない吸水性ポリマー粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した吸水性ポリマー粒子の一実施形態を具体的に説明する。
吸水性ポリマー粒子について
本発明の吸水性ポリマー粒子(以下、単に「吸水性ポリマー」という。)は、水分を吸収して膨潤する高分子ポリマーであり、特に、液体と混和し適度に膨潤させた状態で体内に投与され、血管を塞栓する塞栓用物質として使用される。この吸水性ポリマーは、ビニルエステル系化合物の単量体(以下、単に「ビニルエステル」という。)とエチレン系不飽和カルボン酸エステルの単量体(以下、単に「カルボン酸エステル」という。)の2種類の単量体(モノマー)を用いて重合させた共重合体をケン化して得られる。この吸水性ポリマーは生理食塩液の吸水量(吸水性ポリマー1g当たりの生理食塩液の吸水量(g)を意味し、g/gで表す。)が40g/g以下であることが求められ、また好ましくは同吸水量が26g/g以下であることが好ましい。なお、吸水性ポリマーの原料として上記吸水性を発揮する範囲内でビニルエステル及びカルボン酸エステルの2種類の単量体以外の単量体を含めることも可能である。
【0014】
共重合に用いる一の単量体であるビニルエステル(単量体1)の具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等がある。また、もう一の単量体であるカルボン酸エステル(単量体2)の具体例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等がある。アクリル酸エステルの具体例としてアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。また、メタクリル酸エステルの具体例としてメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0015】
単量体1及び単量体2を使用する場合には、各単量体として例示した化合物をそれぞれ単独で使用してもよいしそれぞれ2種以上を使用してもよい。例えば、単量体1として酢酸ビニルを使用し、単量体2としてアクリル酸エチルとアクリル酸メチルの混合物を使用してもよい。また、単量体1として2種の化合物の混合物を使用し、単量体2に1種の化合物を使用してもよい。単量体1に対する単量体2のモル比は単量体1が1モルに対して単量体2が0.33〜2.0モルの範囲で使用することができ、単量体1が1モルに対して単量体2が0.5〜1.7モルの範囲が好ましい。また、最も好ましい範囲は単量体1が1モルに対して単量体2が0.6〜1.5モルの範囲である。
【0016】
共重合について
ビニルエステル単量体とカルボン酸エステル単量体との共重合体の製造にあたっては、特に限定はなく公知の共重合の手法を用いて製造することができる。例えば、重合触媒の存在下でビニルエステル単量体とカルボン酸エステル単量体とを重合反応させることによってビニルエステル−カルボン酸エステル共重合体を製造することができる。この共重合に使用する触媒として例えば過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物がある。
【0017】
特に、本発明では吸水性ポリマーを粒子状に形成することが望ましいため、重合触媒を用いる場合には水等の溶媒内にて分散、懸濁させて液滴を形成させ、前記した触媒を加えて共重合を行う懸濁重合法が好ましい。これにより、共重合が液滴中で進められ粒子状のポリマーが形成される。また、懸濁重合ではポリマーの単離が容易になるという利点もある。
【0018】
ケン化について
重合処理によって得られた共重合体をケン化させる。ここでいうケン化とは溶媒中にて共重合体をアルカリと反応させてアルカリ性条件下で加水分解を行うことをいう。
【0019】
ケン化に用いる溶媒として水とアルコールとの混合溶液を使用する。この混合溶液に使用するアルコールはメタノール、エタノール等の水に可溶なアルコールである。溶媒として用いる水−アルコール混合溶液の混合比率について、水の比率を上げると吸水性ポリマーの吸水量が増加し、逆に水の比率を下げると吸水性ポリマーの吸水量が低下する。このため、混合溶液における水の比率を30質量%以下に、好ましくは20質量%以下とすることが望ましい。
【0020】
ケン化に用いるアルカリとして具体的には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。また既存のアルカリ触媒を用いることもできる。アルカリ金属・アルカリ土類金属の水酸化物を使用する場合には、共重合体の単量体1モルに対するアルカリの使用量が少ないと吸水性ポリマーの吸水量が増加し、逆にアルカリの使用量が多いと吸水性ポリマーの吸水量が減少する。このため、共重合体の単量体1モルに対してアルカリを1.5モル以上使用することを要し、好ましくは1.75モル以上、更には2.2モル以上、最も好ましい範囲は3モル以上である。
【0021】
なお、共重合体の単量体1モルとは、共重合体に含まれるビニルエステル単量体の粒子数とカルボン酸エステル単量体の粒子数の合計が1モル分あることをいう。また、共重合体に含まれる各単量体の粒子数は共重合体の組成比に比例する。したがって、ビニルエステル:カルボン酸エステル=2モル:1モルである共重合体を得たとき、その共重合体の単量体1モルにはビニルエステル単量体0.67モルとカルボン酸エステル単量体0.33モルの割合で含まれているものとする。また、溶媒とアルカリとの関係では溶媒である水−アルコール混合溶液に対するアルカリ濃度が2.5質量%以上となることが好ましい。
【0022】
ケン化の手順として、まず所定割合に調製した溶媒の中から一部を取り出してこれに共重合体を加えて分散し第1溶液とする。次に、残りの溶媒にアルカリを加えて攪拌し、アルカリを溶解させた第2溶液を作成する。なお、溶媒に対してアルカリを完全に溶解させる必要はなく大きな固まりがなくなる程度でよい。第1溶液と第2溶液とをそれぞれ個別に調製した後、室温環境下にて第1溶液と第2溶液とを混合、十分に攪拌して、摂氏40度程度に加温した後、約6時間放置させる。この過程で共重合体がケン化されて目的とする吸水性を発揮する吸水性ポリマーが形成される。ケン化後は不純物除去のためアルコール又は水で十分に洗浄する。
【0023】
吸水量試験
吸水性ポリマーに対する生理食塩液(生理食塩水溶液)の吸水量を測定するためブルーデキストリン法(以下「BD法」という。)による吸水量試験を行った。この試験方法は「機能性高分子ゲルの開発技術(監修 長田義仁/王林) 普及版第1刷 株式会社シーエムシー発行」の吸水性の評価方法 6.1.2ブルーデキストリン(BD)法(第121頁)に記載してある方法に従い、具体的には以下の手順にて行った。
【0024】
まず、ブルーデキストリン0.3gを生理食塩液1000gに溶解させ、0.03質量%ブルーデキストリン溶液(以下「BD溶液」という。)を調製する。
吸水量試験の対象となる吸水性ポリマーを1種につき0.2gずつ2本準備し、それぞれを個別の容器(例えばビーカー)に投入する。このうち一方の試料が入っている容器に生理食塩液を20g滴下し、もう一方の試料が入っている容器にはBD溶液を20g滴下する。なお、滴下した生理食塩液或いはBD溶液が全て吸水性ポリマーに吸収されて容器内に水気がなくなった場合にはさらに生理食塩液或いはBD溶液を10g追加して滴下し、懸濁液の状態とする。
【0025】
各容器内の懸濁液をスターラーにて60分間継続して攪拌し、その後に容器内の懸濁液を遠心管に移し替え、3000rpmで10分間の遠心分離を行う。この遠心分離により懸濁液中の吸水性ポリマーが沈澱し、上層は液体のみとなる。なお、前記遠心分離によっても上層に吸水性ポリマーが浮遊するなど吸水性ポリマーが全て沈澱していない場合には再度遠心分離を行い、全ての吸水性ポリマーが沈澱したことを確認する。
【0026】
遠心分離の後、各遠心管の上澄みをそれぞれ採取し吸光光度計(島津製作所製 型式UV−240)を用いて617nmの波長における吸光度を測定する。またBD溶液についても同様に617nmの波長における吸光度を測定し以下の式により吸水性ポリマーの吸水量を算出する。
【0027】
【数1】

【実施例】
【0028】
以下に、具体的実施例を示す。
実施例1
共重合工程
単量体1・・酢酸ビニル(和光純薬工業株式会社 特級)60g(0.70モル)
単量体2・・アクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社 特級)40g(0.47モル)
重合触媒・・過酸化ベンゾイル(シグマアルドリッチジャパン株式会社)0.125g
分散安定剤・・ポリビニルアルコール(シグマアルドリッチジャパン株式会社)3g
重合溶媒・・塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社)10g、精製水300ml
容器内に精製水と塩化ナトリウムとを溶解させて重合溶媒とし、この重合溶媒中に上記の単量体1、単量体2、重合触媒及び分散安定剤を添加して攪拌、分散させた。分散後に容器を摂氏65度で4時間保持し、その後摂氏75度まで昇温させ同温度にて2時間保持させたまま懸濁重合を行った。これによって酢酸ビニルとアクリル酸メチルとの共重合体である酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体(以下、「共重合体」という。)が形成される。共重合処理の後は共重合体を精製水で十分に洗浄し不純物を除去した。
【0029】
ケン化工程
上記方法にて得た共重合体に対してケン化を行った。
ケン化用原料・・酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体 43g(共重合体の単量体0.5モル)
ケン化溶媒・・精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを5:95の質量割合とした混合溶液 1150g
アルカリ・・水酸化ナトリウム 60g(1.5モル)
調製したケン化溶媒の一部(150g程度)を容器に入れケン化用原料となる共重合体を添加、分散させて第1溶液とした。また、残りのケン化溶媒にアルカリを加えて攪拌し、アルカリを溶解させて第2溶液とした。第1溶液と第2溶液とをそれぞれ調製した後、第1溶液と第2溶液とを混合させ、前記ケン化の手順に沿って共重合体のケン化を行った。なお、酢酸ビニル−アクリル酸メチル共重合体をケン化することにより、それぞれの残基が加水分解されビニルアルコール−アクリル酸ナトリウム共重合体(以下、「共重合体ケン化物」という。)となる。この共重合体ケン化物をメタノールにて十分に洗浄、乾燥させ、さらにメタノールにて洗浄した後に所望の直径にふるい分けし、滅菌して試料1(吸水性ポリマー)を作成した。
【0030】
また、得られた試料1におけるアクリル酸メチル由来成分と、ビニルアルコールのモル比を核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR法)により測定したところ、アクリル酸メチル由来成分:ビニルアルコール=45:55であった。この試料1について吸水量試験を行った結果、吸水量は19g/gであった。なお、本実施例1と同条件で製造した複数の共重合体ケン化物から得た吸水性ポリマーについて同様にアクリル酸メチル由来成分と、ビニルアルコールのモル比を核磁気共鳴分光法にて測定したところ、モル比にはばらつきが生じアクリル酸メチル由来成分:ビニルアルコール=3:7〜5:5の範囲であったが、吸水量はいずれも19g/gであった。
【0031】
実施例2
ケン化溶媒として精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを15:85の質量割合とした以外は実施例1と同じ条件で試料2を作成した。得られた試料2の吸水量は21g/gであった。なお、得られた試料におけるアクリル酸メチル由来成分とビニルアルコールのモル比は、原料である単量体1及び単量体2のモル比に影響され、酢酸ビニルをビニルアルコールに、アクリル酸メチルをアクリル酸ナトリウムに変化させる(加水分解する)ケン化工程はこのモル比には影響を与えない。このため、試料2におけるアクリル酸メチル由来成分とビニルアルコールのモル比も、上記試料1と同様に3:7〜5:5の範囲となることは明らかであり、試料3乃至6、試料9及び10についても同様のことがいえる。
【0032】
実施例3
ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム43g(1.1モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料3を作成した。得られた試料3の吸水量は26g/gであった。
【0033】
実施例4
ケン化溶媒として精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを10:90の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム35g(0.88モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料4を作成した。得られた試料4の吸水量は33g/gであった。
【0034】
実施例5
ケン化溶媒として精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを10:90の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム30g(0.75モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料5を作成した。得られた試料5の吸水量は35g/gであった。
【0035】
実施例6
ケン化溶媒として精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを20:80の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム30g(0.75モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料6を作成した。得られた試料6の吸水量は40g/gであった。
【0036】
実施例7
共重合工程においては、単量体1に酢酸ビニルを40g(0.47モル)、単量体2にアクリル酸メチルを60g(0.70モル)使用した。また、ケン化工程においては、ケン化溶媒として精製水とメタノールとを10:90の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム60g(1.5モル)とした。これら以外は実施例1と同じ条件で試料7を作成した。得られた試料7の吸水量は25g/gであった。また、得られた試料7の吸水性ポリマーについてアクリル酸メチル由来成分と、ビニルアルコールのモル比を実施例1と同様に核磁気共鳴分光法にて測定したところ、アクリル酸メチル由来成分:ビニルアルコール=68:32であった。この試料7と同条件にて製造した複数の吸水性ポリマーについて同様にアクリル酸メチル由来成分とビニルアルコールのモル比を核磁気共鳴分光法にて測定したところ、モル比の範囲はアクリル酸メチル由来成分:ビニルアルコール=6:4〜7:3であった。
【0037】
実施例8
共重合工程においては、単量体1に酢酸ビニルを40g(0.47モル)、単量体2にアクリル酸メチルを60g(0.70モル)使用した。また、ケン化工程においては、ケン化溶媒として精製水とメタノールとを10:90の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム40g(1.0モル)とした。これら以外は実施例1と同じ条件で試料8を作成した。得られた試料8の吸水量は30g/gであった。また、実施例8にて使用した単量体1及び単量体2のモル比は実施例7と同じであるから、試料8におけるアクリル酸メチル由来成分とビニルアルコールのモル比も、試料7と同様となることは明らかである。
【0038】
比較例1
ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム20g(0.5モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料9を作成した。得られた試料9の吸水量は42g/gであった。
【0039】
比較例2
ケン化溶媒として精製水とメタノール(和光純薬工業株式会社 特級)とを40:60の質量割合とし、ケン化に使用するアルカリを水酸化ナトリウム25g(0.63モル)とした以外は実施例1と同じ条件で試料10を作成した。得られた試料10の吸水量は78g/gであった。
【0040】
抽出試料液投与試験
上記実施例1〜8、比較例1及び2により得られた試料1乃至10から試料液を作成し、各試料液をそれぞれマウス((SPF)ICR オス 4w 日本エスエルシー株式会社)に投与し、その体重変化を調べた。
【0041】
試料液の調製
試料液の試料濃度として吸水性ポリマー25mg当たり生理食塩液10mlとなるように調製した懸濁液を製造し、これを容器に入れて密栓し、摂氏70度で24時間加温した後に室温になるまで放置した。次に懸濁液を遠心管に移して2000rpmで6分間遠心分離し、吸水性ポリマーを沈澱させた。なお、吸水性ポリマーの沈澱が不十分な場合には遠心時間を延長して全ての吸水性ポリマーを沈澱させた。遠心管の上側にある(沈澱している吸水性ポリマー以外の)液体部分を回収して試料液とし、これを試料1乃至10についてそれぞれ準備した。作成した試料液を、マウス(試料液1種につきマウス5匹)に静脈内注射した。試料液の投与量はマウス体重1kgにつき試料液50mlとした(厚生労働省医薬局審査管理課 事務連絡 医療機器審査No.36に準拠)。また、試料液の作成にあたり吸水性ポリマー25mg当たり生理食塩液10ml(25mg/10ml)としたのは以下の理由による。
【0042】
市販の吸水性ポリマーがバイアル瓶1本に50mg入りで販売されており、これを人(大人)に対して1度で使用する可能性のある最大量と考えた場合には50mg/40〜50kg=1〜1.25mg/kgとなり、1.25mg/kg(体重1kgに対して吸水性ポリマー1.25mg)が最大量となる。ここで、動物種差の安全係数を10、個体差の安全係数を10とし両者の積である100を総合的な安全係数とすると、1.25mg×100=125mgとなり、その安全係数を考慮した体重1kg当たりの吸水性ポリマーの投与量(mg)は最大で125mg/kgとなる。一方、マウスへは試料液を50ml/kgの割合で投与するため、最大量である125mgを50mlに含ませるとすると、125mg/50ml=25mg/10mlとなる。
【0043】
試料液を投与した各マウスの生死及び体重変化を投与前日から24時間経過毎に5回(最終測定日は投与72時間後)測定し、測定回毎の体重と前回測定値からの体重変動値を求めた(表1〜表10)。また、生理食塩液を投与したマウス群をブランクとして上記同様の体重変化を測定した。その結果を表11として示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
【表10】

【0054】
【表11】

上記表1乃至11に示した24時間毎の平均体重と体重変動値とをまとめた表を表12として下に示す。
【0055】
【表12】

上記表12の通り、生理食塩液の吸水量が40g/g以下である試料1乃至試料8由来の試料液を投与したマウスはブランク同様に試料液投与後も体重が増加しているのに対して、試料9(吸水量42g/g)では投与後48時間の時点で5匹中4匹が死亡し、試料10(吸水量72g/g)では投与後24時間の時点で5匹全てが死亡した。
【0056】
残渣抽出及び抽出残渣のNMR測定試験
アクリル酸メチル由来成分とビニルアルコールのモル比が同一となる試料のうち、試料2、3、5、6、9及び10について吸水性ポリマーの残渣抽出及び抽出残渣のNMR測定を行った。まず、容器に吸水性ポリマー試料0.5gを投入した後に吸水量40g/g未満の試料については精製水200ml、吸水量40g/g以上の試料には精製水400mlを加えて試料液とし、容器に蓋をして摂氏70度で24時間加温した後に室温になるまで放置した。室温となった試料液を吸引濾過し、得られた濾液を加熱、蒸発乾燥させて残留物を得た。この残留物が吸水性ポリマーの抽出残渣であり、以下の測定条件にて抽出残渣の組成成分をNMR法により測定した。
【0057】
測定条件
観測周波数 :H;400MHz
測定溶媒 :D
測定温度 :室温
化学シフト基準 :TSP−d(0.00ppm)
<測定装置> Varian社製、UNITY INOVA400
抽出残渣のNMR測定結果を表13として以下に示す。
【0058】
【表13】

上記表13の結果から、吸水性ポリマーは、吸水量が大きくなるに従って抽出残渣に含まれるアクリル酸ナトリウム(共重合体であるため、正しくはポリアクリル酸ナトリウム)の割合が増加することが判った。したがって、吸水量が大きな吸水性ポリマーを投与した場合には吸水性ポリマーからのアクリル酸ナトリウムの溶出が多いため、これがマウスに対する毒性として作用していると推定することができる。また、このアクリル酸ナトリウムは、吸水量26g/g以下の吸水性ポリマーの抽出残渣からは検出することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル系化合物とエチレン系不飽和カルボン酸エステルの共重合体のケン化物からなり、生理食塩液の吸水量が40g/g以下であることを特徴とする吸水性ポリマー粒子。
【請求項2】
前記吸水性ポリマー粒子の吸水量が26g/g以下である請求項1に記載の吸水性ポリマー粒子。
【請求項3】
エチレン系不飽和カルボン酸エステルは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルである請求項1又は2に記載の吸水性ポリマー粒子。
【請求項4】
前記エチレン系不飽和カルボン酸エステルはアクリル酸エステルであり、吸水性ポリマー粒子におけるモル比がアクリル酸エステル由来成分:ビニルアルコール=3:7〜7:3である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の吸水性ポリマー粒子。
【請求項5】
ビニルアルコールとアクリル酸塩又はメタクリル酸塩の共重合体を含む吸水性ポリマー粒子であって、生理食塩液の吸水量が40g/g以下であることを特徴とする吸水性ポリマー粒子。
【請求項6】
ビニルエステル系化合物とエチレン系不飽和カルボン酸エステルとの共重合体をケン化させて吸水性ポリマー粒子を製造する方法であって、
ケン化時の溶媒として水が30質量パーセント以下である水−アルコール混合溶媒を使用し、ケン化用アルカリとして前記共重合体の単量体1モルに対してアルカリを1.5モル以上使用してケン化を行うことを特徴とする吸水性ポリマー粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−53222(P2010−53222A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218307(P2008−218307)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(591140938)テルモ・クリニカルサプライ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】