説明

吸水性樹脂組成物およびその製造方法、吸収性物品

経時変化等による通液性の低下が少なく、着色が抑制された吸水性樹脂組成物を実現する。本発明の吸水性樹脂組成物(粒子状吸収剤)は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含み(好ましくは吸水性樹脂組成物の粒子表面に含み)、Feカチオンを除く多価金属カチオンが吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く多価金属カチオンに対して5.00質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性樹脂組成物およびその製造方法、並びに該吸水性樹脂組成物を含む吸収性物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸水性樹脂ないし吸水性樹脂組成物は、体液(尿や血液)を吸収させることを目的として、紙おむつや生理用ナプキン、失禁パット等などの衛生材料(吸収性物品)において、その主要な構成材料として幅広く利用されている。
【0003】
上記吸水性樹脂組成物としては、例えば、ポリアクリル酸部分中和物架橋体、澱粉−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、澱粉−アクリル酸グラフト重合体の中和物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、カルボキシメチルセルロース架橋体、アクリロニトリル共重合体若しくはアクリルアミド共重合体の加水分解物またはこれらの架橋体、カチオン性モノマーの架橋体、架橋イソブチレン−マレイン酸共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とアクリル酸との架橋体等の吸水性樹脂を主成分とした吸水性樹脂組成物が知られている。
【0004】
近年、紙おむつなど衛生材料では高機能化および薄型化が進み、吸水性樹脂組成物の使用量や使用比率(吸収性物品中での質量換算での比率)を高めることで、吸収量の増大や漏れ防止性を確保しながら薄型化を図っている。
【0005】
このように、吸水性樹脂組成物を増加させた衛生材料は単純に液体を貯蔵するという観点からは好ましい方向である。しかしながら、実際のおむつの使用では吸水性樹脂組成物は吸水により膨潤し柔らかいゲル状となり、いわゆるおむつ中でゲルブロッキングを起こし、吸収量低下や漏れを起こすという問題が生じる。
【0006】
そこで、吸水性樹脂組成物の通液性が近年注目されている。通液性を高める方法として、アルミニウム等の多価金属カチオンで吸水性樹脂の表面を架橋させる方法が報告されている(例えば、特許文献1〜7参照)。また、多価金属カチオンは通液性向上以外の吸水性樹脂の改質(例えば、吸湿時の粉体流動性改善、吸水性樹脂への水性液の混合性改善)などにも多用されている。
【0007】
尚、硫酸アルミニウム中には、Feが、Alに対して一般に0.16〜11.5質量%の範囲内で含まれていることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
〔特許文献1〕米国特許第6620889号明細書(2003年9月16日公開)
〔特許文献2〕米国特許第6605673号明細書(2003年8月12日公開)
〔特許文献3〕米国特許第6863978号明細書(2005年3月8日公開)
〔特許文献4〕米国特許第6323252号明細書(2001年11月27日公開)
〔特許文献5〕米国特許出願公開第2005/00671号公報(2005年3月31日公開)
〔特許文献6〕米国特許第4771105号明細書(1988年9月13日公開)
〔特許文献7〕米国特許第4043952号明細書(1977年8月23日公開)
〔非特許文献1〕「EUROPEAN STANDARD」,EN878:2004,2004年6月発行,p10(表5)
【発明の開示】
【0009】
しかしながら、多価金属カチオンで吸水性樹脂の表面を架橋した、上記従来の吸水性樹脂組成物では、吸水性樹脂組成物をおむつ等の吸収性物品とした場合に、所望の通液性が得られず、さらには着色を生じる問題があることを本発明者が見出した。
【0010】
従来から、多価金属カチオンにより吸水性樹脂組成物を改質することは知られていたが、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物が、経時的な通液性低下(特に尿での実用時の低下)や着色(特に経時変化による着色)を生じることは知られていない。
【0011】
多価金属カチオンによって通液性を向上させた吸水性樹脂組成物は、通常、おむつなどの吸収性物品において高濃度(高重量)で使用されるため、使用量の多い吸水性樹脂組成物の着色は、吸収性物品の着色につながり、吸水性樹脂組成物の着色は吸収性物品の商品価値を低下させてしまう。
【0012】
また、複合化後(例えばおむつ製造後)の吸水性樹脂組成物の着色は、吸収性物品が流通過程や市販後に着色が生じてしまうため、消費者が使用する際に初めて吸収性物品が着色していることが確認されることが起こり得る。このため、消費者からクレームを受けるなどして、消費者の商品に対する信用を失い、商品価値が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、おむつなどの吸収性物品の実使用に適した吸水性樹脂組成物を提供することにあり、さらに詳しくは、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制されたおむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。該検討の過程において、吸水性樹脂組成物をおむつ等の尿を吸収する吸収性物品に使用した場合に、十分な通液性を発揮しないという問題が生じることを見出した。吸水性樹脂組成物の通液性の評価で使用する生理食塩水などに対しては通液性が向上していることから、上記問題は、尿と接触する環境下である吸収性物品の実使用時に吸水性樹脂組成物の経時変化等が生じることが原因であり、上記経時変化により吸水性樹脂組成物の通液性が低下していることを本発明者が見出した。
【0015】
具体的には、上記多価金属カチオンで表面を架橋した吸水性樹脂を含む吸水性樹脂組成物は、製造時には通液性が向上しているが、長時間の使用、特に尿と接触する環境下での長時間(例えば16時間)の使用では、経時変化等によって吸水性樹脂のポリマー鎖の分断等が生じ、通液性が低下してしまう。おむつの使用時間(例えば一晩)を考えると、上記時間範囲における通液性の低下は非常に好ましくない。このため、場合によっては、上記多価金属カチオンで表面を架橋した吸水性樹脂を含む吸水性樹脂組成物は、表面を架橋していない吸水性樹脂を含む吸水性樹脂組成物よりも最終的には通液性が低下してしまうことも起こり得る。
【0016】
更には、無色透明の多価金属カチオンを使用して吸水性樹脂の表面を架橋しても、得られる吸水性樹脂組成物が着色(黄変)してしまうという問題が生じることを本発明者が見出した。かかる着色は吸水性樹脂組成物の製造時にはほとんど確認できない程度である。しかしながら、吸水性樹脂組成物の製造後の保存時や複合化後(例えばおむつ製造後)では、吸水性樹脂組成物の着色の程度は時間と共に大きくなる。
【0017】
上記現象(吸水性樹脂組成物の通液性の低下および着色)を解決するため、本発明者は、使用する多価金属カチオンの量が増加するに従い、上記現象がより顕著に現れることを発見した。その結果、多価金属カチオンに含まれる特定不純物(Feカチオン)並びに、アクリル酸に含まれる、メトキシフェノール類及びフルフラールといった不純物が上記現象を引き起こすという事実を見出した。そして、通常の市販品の多価金属カチオンには、多価金属カチオンに対してFeカチオンが200〜50,000ppm含まれているが、多価金属カチオン中の特定不純物(Feカチオン)を臨界的な範囲に制御するか、アクリル酸に含まれるメトキシフェノール類及びフルフラールといった不純物を特定の範囲に制御するか、または、金属キレート剤を吸水性樹脂組成物に含有させることによって上記課題を解決することができることを見出して、本発明を完成するに至った。特に、水溶液重合で得られる吸水性樹脂組成物について、上記現象に影響を及ぼす不純物を特定することができ、上記現象に対して著しい抑制効果を発現する、上記不純物の含有割合を見出すことができた。
【0018】
すなわち、上記の目的を達成するために、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して5.00質量%以下であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量が吸水性樹脂に対して1ppm以下(好ましくは0.1ppm以下)であることを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、生理食塩水などに対して通液性が高いだけでなく、従来、吸水性樹脂組成物の製造時には何ら注目されていなかった吸水性樹脂組成物の吸収性物品などでの実使用時における通液性も高く、長時間使用時における通液性の低下を抑制することができる。また、Feカチオンに由来する吸水性樹脂組成物の着色、特に吸水性樹脂組成物の製造時には注目されていなかった吸水性樹脂組成物の経時的な着色を抑制することができるため、流通過程や販売後での着色が低減される。従って、上記構成によれば、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0021】
更には、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、上記の目的を達成するために、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50質量%以下であることを特徴としている。
【0022】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量が吸水性樹脂に対して1ppm以下(好ましくは0.1ppm以下)であることを特徴としている。
【0023】
上記構成によれば、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、Feカチオンの含有量が少なく、且つキレート剤を含有しているため、生理食塩水などに対して通液性が高いだけでなく、従来、吸水性樹脂組成物の製造時には何ら注目されていなかった吸水性樹脂組成物の吸収性物品などでの実使用時における通液性も高く、長時間使用時における通液性の低下を抑制することができる。また、Feカチオンに由来する吸水性樹脂組成物の着色、特に吸水性樹脂組成物の製造時には注目されていなかった吸水性樹脂組成物の経時的な着色を抑制することができるため、吸水性樹脂組成物または吸収性物品の流通過程や販売後の着色が低減される。従って、上記構成によれば、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物の製造方法は、上記の目的を達成するために、アクリル酸および/またはその塩を主成分とする酸基含有不飽和単量体を重合して架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を形成する工程と、上記吸水性樹脂に多価金属カチオンを、上記吸水性樹脂に対して0.001〜5質量%添加する工程とを含む吸水性樹脂組成物の製造方法であって、上記多価金属カチオンは、Feカチオンを除く多価金属カチオンに対するFeカチオンの含有量が0.50質量%以下であることを特徴としている。
【0025】
上記製造方法によれば、生理食塩水などに対して通液性が高いだけでなく、従来、吸水性樹脂組成物の製造時には何ら注目されていなかった吸水性樹脂組成物の吸収性物品などでの実使用時における通液性も高く、長時間使用時における通液性の低下を抑制することができる吸水性樹脂組成物を製造することができる。従って、上記方法によれば、経時変化等による通液性の低下が少なく、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を製造することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明に係る吸収性物品は、上記の目的を達成するために、紙おむつ、生理用ナプキンまたは失禁パットから選ばれる少なくとも1つの吸収性物品であって、本発明の吸水性樹脂組成物を含むことを特徴としている。
【0027】
上記構成によれば、本発明の吸水性樹脂組成物を含んでいるため、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、吸収性物品を提供することができるという効果を奏する。
【0028】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0030】
なお、以下の説明において、「重量」は「質量」と同義語として扱い、「重量%」は「質量%」と同義語として扱い、「主成分」とは50質量%以上含有しているという意味として扱う。また、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0031】
また、特に断らない限り、質量%(重量%)で小数点以下のゼロは省略するが、有効数字はppm単位であり、例えば、1質量%は10000ppmと同義語(1.0000質量%のゼロは省略)である。また、「ppm」は特に断らない限り質量換算で求められる値を意味し、例えば、10000ppmは1質量%を意味する。
【0032】
本実施の形態に係る第1の吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して5質量%(50000ppm)以下である。
【0033】
本実施の形態に係る第2の吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、キレート剤および多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50質量%(500000ppm)以下である。
【0034】
(1)吸水性樹脂
上記吸水性樹脂とは、ヒドロゲルを形成しうる水膨潤性であり、且つ水不溶性の架橋重合体のことである。水膨潤性の架橋重合体とは、例えば、イオン交換水中において必須に自重の5倍以上、好ましくは50倍から1000倍の水を吸収するものを指す。また、水不溶性の架橋重合体とは、例えば、吸水性樹脂中の未架橋の水可溶性成分(水溶性高分子)が好ましくは0〜50質量%、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下のものを指す。なお、これらの測定法は後述する実施例で規定する。
【0035】
上記吸水性樹脂としては、通液性および液吸い上げ特性の面から、酸基含有不飽和単量体(以下、単量体と記す)を重合して得られる架橋構造を有する吸水性樹脂が好ましく用いられ、より好ましくは、架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂である。尚、ポリカルボン酸系吸水性樹脂とは、主鎖にカルボキシ基を繰り返し単位として複数有する吸水性樹脂という意味である。
【0036】
上記吸水性樹脂として、具体的には、ポリアクリル酸部分中和物重合体、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物、またはこれらの架橋体、カルボキシル基含有架橋ポリビニルアルコール変性物、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体等の1種または2種以上の混合物が挙げられる。上記吸水性樹脂としては、アクリル酸および/またはその塩(中和物)を主成分とする単量体を重合および架橋することにより得られるポリアクリル酸部分中和物重合体が好ましい。
【0037】
なお、上記単量体としては、アクリロニトリルなど重合後の加水分解によって酸基となる単量体も酸基含有不飽和単量体とするが、好ましくは、重合時に酸基を含有する酸基含有不飽和単量体が用いられる。重合時に酸基を含有する上記酸基含有不飽和単量体としては、より好ましくはアクリル酸及び/またはその塩を主成分とする不飽和単量体が挙げられる。尚、本実施の形態では、単量体の調製に用いられるアクリル酸に予め重合不活性有機化合物が含有若しくは添加されていることが好ましい。つまり、未中和アクリル酸を用いて単量体の水溶液を調製する前に、重合不活性有機化合物を未中和アクリル酸に予め溶解させることが好ましい。
【0038】
上記重合不活性有機化合物とは、ビニル基やアリル基などの重合性不飽和結合を有しない有機化合物のことである。本実施の形態では、溶解度パラメータが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物を1〜1000質量ppm含む単量体を使用することができる。
【0039】
本明細書において、溶解度パラメータ(δ)とは凝集エネルギー密度のことであり、下記の式によって算出することができる。
【0040】
δ((Jm-31/2)=ρΣG/M
(式中、ρは密度(g/cm3)、GはHollyの凝集エネルギー密度、ΣGは成分原子団の凝集エネルギー定数の和であり、ρ、Gは25±1℃での値を示す。Mは分子量を表す。)
なお、本明細書においては、δが((calm-31/2)単位系で算出される場合は、適宜((Jm-31/2)単位系に変換するものとする。
【0041】
例えば、ポリマーハンドブック第3版(WILLEY SCIENCE社発行527〜539頁)や化学便覧基礎編(日本化学会編)等の刊行物に記載の溶解度パラメータやδ値が適用され、また前記刊行物に記載のない場合はポリマーハンドブック第3版(WILLEY SCIENCE社発行)の524頁記載のSmallの式に525頁記載のHollyの凝集エネルギー定数を代入して導いたδ値が適用される。
【0042】
本実施の形態では単量体中にかかる特定化合物を特定量使用することで、吸水性樹脂の相反する基本物性である「吸収倍率」と「水可溶性重合体」との関係を改善し、重合反応の制御が容易であり、かつ着色の少なく高吸収物性である吸水性樹脂を生産性高く製造することが可能になる。溶解度パラメータが(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2である重合不活性有機化合物の含有量が1質量ppm未満の単量体を使用した場合、重合時の発熱に伴う重合物の過度の温度上昇による重合制御が困難であり、吸収物性の低下を引き起こすために好ましくなく、1000質量ppmを超える単量体を使用した場合、目的を達する上で過剰であり、また、最終的に得られる吸水性樹脂に臭気などの問題が発生する恐れがある。
【0043】
また、特定化合物(重合不活性有機化合物)は後述の、特定の加熱工程(乾燥、表面処理等)により最終的に除去され、吸水性樹脂は臭気等を発生しない状態とされる。
【0044】
かかる重合不活性有機化合物の使用量は、単量体(若しくは後述する単量体組成物)に対して、1〜1000質量ppmであることが好ましく、、より好ましくは1〜500質量ppm、さらに好ましくは1〜300質量ppmであり、さらに好ましくは5〜300質量ppm、特に好ましくは10〜300質量ppm、最も好ましくは10〜100質量ppmである。
【0045】
上記重合不活性有機化合物の溶解度パラメータは(1.0〜2.5)×10(Jm-31/2であることが必須であり、好ましくは(1.0〜2.2)×10(Jm-31/2、より好ましくは(1.1〜2.0)×10(Jm-31/2、さらに好ましくは(1.3〜2.0)×10(Jm-31/2、最も好ましくは(1.5〜1.9)×10(Jm-31/2である。
【0046】
溶解度パラメータが(1〜2.5)×10(Jm-31/2である有機化合物とは、アクリル酸と相溶性が良く、かつ、重合性不飽和結合を有しない有機化合物のことであり、親油性有機化合物を指す。かかる重合不活性有機化合物のうち、環境負荷という観点から好ましくはハロゲンを含有しない有機化合物であり、さらには、炭素および水素のみで構成された炭化水素である。また、沸点は好ましくは95〜300℃、より好ましくは130〜260℃の有機化合物である。溶解度パラメータが2.5×10(Jm-31/2を超える場合は重合制御や反応面から好ましくない。
【0047】
具体的には、ヘプタン(沸点95℃)、ジメチルシクロヘキサン(同132℃)、エチルシクロヘキサン、トルエン(同110℃)、エチルベンゼン(同136℃)、キシレン(138−144℃)、ジエチルケトン(同101℃)、ジイソプロピルケトン(同124〜125℃)、メチルプロピルケトン(同102℃)、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、酢酸n−プロピル(同101℃)、酢酸n−ブチル(同124〜125℃)、ジフェニルエーテル(同259℃)およびジフェニル(同255℃)からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0048】
かかる重合不活性有機化合物の中では、ヘプタン、エチルベンゼン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルケトン、ジフェニルエーテルおよびジフェニルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が好ましく、疎水性化合物がより好ましく、芳香族化合物がさらに好ましく、重合特性や生産性の観点から、さらに重合工程終了後のポリマー鎖への酸化劣化を抑止する観点から、トルエン、ジフェニルエーテル、ジフェニルが特に好ましく、トルエンが最も好ましい。
【0049】
上記重合不活性有機化合物は重合前の単量体(若しくは後述する単量体組成物)に含ませることがより好ましく、調製法としては、単量体(若しくは後述する単量体組成物)の調製後に添加してもよく、単量体(若しくは後述する単量体組成物)に添加してもよく、また、単量体(若しくは後述する単量体組成物)の原料、例えば、アクリル酸、架橋剤、水、アルカリ化合物などに予め含有ないし添加されていてもよい。これらの中で、上記重合不活性有機化合物は疎水性で一般に水不溶性であるため、予めアクリル酸に溶解または含有されることが好ましい。本実施の形態では、単量体の調製に用いられるアクリル酸に予め、上記重合不活性有機化合物が含有ないし添加されていることが好ましい。すなわち、好ましくは、上記重合不活性有機化合物が未中和アクリル酸に予め溶解されており、該未中和アクリル酸を用いて単量体の水溶液が調製される。
【0050】
更に、本実施の形態に係るアクリル酸は、メトキシフェノール類を10〜180ppmの範囲内で含有していることが好ましく、より好ましくは10〜150ppmの範囲内であり、更に好ましくは10〜90ppmの範囲内であり、特に好ましくは10〜80ppmの範囲内であり、最も好ましくは10〜70ppmの範囲内である。
【0051】
上記メトキシフェノール類は、メトキシフェノール骨格を有する化合物を意味し、具体的には、o−,m−若しくはp−メトキシフェノールや、これらに更にメチル基、t−ブチル基、水酸基等の置換基を少なくとも1つ有する化合物等が挙げられる。尚、本実施の形態では、p−メトキシフェノールが特に好ましく用いられる。
【0052】
上記メトキシフェノール類(特に、p−メトキシフェノール)の含有量が180ppmを越える場合、得られた吸水性樹脂の着色(黄ばみ若しくは黄変)の問題が生じる。また、例えば、蒸留等の精製操作によりアクリル酸中の上記メトキシフェノール類(特に、p−メトキシフェノール)を除去することにより、上記メトキシフェノール類の含有量を10ppm未満とした場合(特に、5ppm未満である場合)、意図的に重合を開始させる前にアクリル酸の重合が開始してしまう危険性が高くなることのみならず、驚くべきことにアクリル酸の重合速度が反対に遅くなる傾向がある。
【0053】
また、本実施の形態で用いられるアクリル酸は、その製造工程において、p−メトキシフェノール等のメトキシフェノール類以外の重合禁止剤を用いてもよい。メトキシフェノール類以外の重合禁止剤としては、例えば、フェノチアジン、ハイドロキノン、銅塩、メチレンブルー等が有効に用いることができる。メトキシフェノール類以外のこれらの重合禁止剤は、メトキシフェノール類とは異なり、アクリル酸の重合を阻害するため、最終的なアクリル酸中の含有量は少ないほどよく、アクリル酸中の含有量は0.1ppm以下が好ましく、0ppm(検出限界以下)であることがより好ましい。
【0054】
更に、本実施の形態で用いられるアクリル酸は、フルフラールの含有量が20ppm以下であることが好ましい。アクリル酸中のフルフラールの含有量が増加するに従って、重合時間(重合ピーク温度に到達するまでの時間)が延びて単量体が残存し易くなり、結果として得られる吸水性樹脂の可溶分(水可溶分)が大きく増加する。吸水性樹脂の物性及び特性向上の観点から、アクリル酸中のフルフラールの含有量は、より好ましくは10ppm以下であり、更に好ましくは0.01〜5ppmの範囲内であり、特に好ましくは0.05〜2ppmの範囲内であり、最も好ましくは0.1〜1ppmの範囲内である。
【0055】
上記単量体としてアクリル酸および/またはその塩を主成分とする場合、他の単量体を併用してもよい。この場合、上述したメトキシフェノール類の含有量、並びにフルフラールの含有量は、他の単量体とアクリル酸および/またはその塩からなる単量体組成物における含有量で規定される。つまり、この単量体組成物は、メトキシフェノール類を10〜180ppmの範囲内で含有していることが好ましく、フルフラールの含有量が20ppm以下であることが好ましい。
【0056】
併用される他の単量体としては、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリロキシアルカンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソブチレン、ラウリル(メタ)アクリレート等の水溶性または疎水性不飽和単量体等が挙げられる。
【0057】
単量体としてアクリル酸(塩)以外を用いる場合には、アクリル酸(塩)以外の単量体は、主成分として用いるアクリル酸および/またはその塩の合計量に対して、好ましくは0〜30モル%、より好ましくは0〜10モル%の割合で用いられる。アクリル酸(塩)以外の単量体を上記割合で使用することにより、最終的に得られる吸水性樹脂(および吸水性樹脂組成物)の吸収特性がより一層向上すると共に、吸水性樹脂(および吸水性樹脂組成物)をより一層安価に得ることができる。
【0058】
上記吸水性樹脂は架橋構造を必須とする。吸水性樹脂に架橋構造を形成させるためには、内部架橋剤を使用してもよいし、内部架橋剤を使用しない自己架橋型のものであってもよい。上記架橋形成方法としては、一分子中に、2個以上の重合性不飽和基または2個以上の反応性基を有する内部架橋剤(吸水性樹脂の内部架橋剤)を共重合または反応させたものがより好ましい。
【0059】
上記内部架橋剤の具体例としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
上記内部架橋剤は、単独で用いてもよく、適宜2種類以上を混合して用いてもよい。また、上記内部架橋剤は、反応系に一括添加してもよく、分割添加してもよい。少なくとも1種または2種類以上の内部架橋剤を使用する場合には、最終的に得られる吸水性樹脂や吸水性樹脂組成物の吸収特性等を考慮して、1分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を重合時に必須に用いることが好ましい。
【0061】
上記内部架橋剤の使用量は上記単量体(内部架橋剤を除く)に対して、好ましくは0.001〜2モル%、より好ましくは0.005〜1モル%、さらに好ましくは0.005〜0.5モル%、さらに好ましくは0.01〜0.5モル%、さらに好ましくは0.01〜0.2モル%、特に好ましくは0.03〜0.2モル%、最も好ましくは0.03〜0.15モル%の範囲内とされる。上記内部架橋剤の使用量が0.001モル%よりも少ない場合、並びに、2モル%よりも多い場合には、水可溶成分が多くなったり、あるいは吸水倍率が低くなること等、充分な吸収特性が得られないおそれがある。
【0062】
上記内部架橋剤を用いた重合体内部への架橋構造の導入の時期は、特に限定されず、例えば、上記内部架橋剤を上記単量体の重合前、重合途中、重合後、または中和後に反応系に添加することにより行うことができる。
【0063】
尚、重合途中の上記内部架橋剤の添加とは、吸水性樹脂を形成する工程(上記単量体を重合する工程)における少なくとも1つの時期に断続的に添加すること、また、吸水性樹脂を形成する工程の最初から最後にかけて連続的に添加することの両方を意味する。
【0064】
本実施の形態に係る吸水性樹脂を得るための上記単量体の重合方法としては、バルク重合や沈殿重合を行うことが可能であるが、性能面や重合の制御の容易さ、さらには膨潤ゲルの吸収特性の観点から、上記単量体を水溶液として用いる水溶液重合や逆相懸濁重合を行うことが好ましい。尚、水溶液重合で得られる吸水性樹脂は、逆相懸濁重合で得られる吸水性樹脂よりも着色し易い傾向があるため、水溶液重合を用いた場合に、本発明の効果はより顕著に現れる。
【0065】
単量体を水溶液とする場合の該水溶液(以下、単量体水溶液と記す)中における単量体の濃度は、水溶液の温度や単量体の種類などによって決定され、特に限定されるものではないが、10〜70質量%の範囲内が好ましく、20〜60質量%の範囲内がさらに好ましい。また、上記水溶液重合を行う際には、水以外の溶媒を必要に応じて併用してもよく、併用して用いられる溶媒の種類は、特に限定されない。
【0066】
上記逆相懸濁重合とは、単量体水溶液を疎水性有機溶媒に懸濁させる重合法であり、例えば、米国特許4093776号明細書、同4367323号明細書、同4446261号明細書、同4683274号明細書、同5244735号明細書などの米国特許に記載されている。水溶液重合は分散溶媒を用いずに単量体水溶液を重合する方法であり、例えば、米国特許4625001号明細書、同4873299号明細書、同4286082号明細書、同4973632号明細書、同4985518号明細書、同5124416号明細書、同5250640号明細書、同5264495号明細書、同5145906号明細書、同5380808号明細書、同6174978号明細書、同6194531号明細書、同6207772号明細書、同6241928号明細書などの米国特許に記載されている方法により行うことができる。尚、本実施の形態では、逆相懸濁重合及び水溶液重合が記載された上述した米国特許明細書に例示の単量体や開始剤なども適用することができる。
【0067】
上記重合を開始させる際には、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のラジカル重合開始剤、および/または2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等の光重合開始剤を用いることができる。これら重合開始剤の使用量は重合後の吸水性樹脂の物性を考慮して、通常0.001〜2モル%、好ましくは0.01〜0.1モル%(対全単量体)である。
【0068】
重合後、重合体は通常、含水ゲル状架橋重合体であり、必要に応じて乾燥し、乾燥の前および/または後で通常粉砕することにより吸水性樹脂とする。また、乾燥は通常60〜250℃、好ましくは100〜220℃、より好ましくは120〜200℃の温度範囲で行われる。乾燥時間は、重合体の表面積、含水率(吸水性樹脂や吸水性樹脂組成物中に含まれる水分量で規定/105℃で3時間の乾燥減量で測定)、および乾燥機の種類に依存し、目的とする含水率になるよう設定される。かかる乾燥後の無加圧吸水倍率(CRC)は内部架橋の条件などの吸水性樹脂の重合条件または乾燥温度を調整することで、20g/g以上、好ましくは30〜60g/gに制御することができる。
【0069】
本実施の形態に係る吸水性樹脂は、粒子形状を有していることが好ましい。質量平均粒径(D50)等の上記吸水性樹脂の粒度は、吸水性樹脂組成物とした後に分級などで調整することができるため、特に限定はされない。しかしながら、吸水性樹脂組成物とした後の手間を省くことができるため、質量平均粒径(D50)は、250〜600μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは350〜550μmの範囲内であり、さらに好ましくは400〜500μmの範囲内である。また、標準篩で規定される粒子径が150〜850μmの範囲にある粒子が全体(吸水性樹脂全体)の90〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは95〜100質量%であり、さらに好ましくは99〜100質量%の範囲内である。
【0070】
上記吸水性樹脂を上記範囲内に製粒(粒度調整)するためには、逆相懸濁重合で製造した場合、粒子状で分散重合および分散乾燥させて調整してもよい。
【0071】
また、水溶液重合の場合には、乾燥後に粉砕および分級を行うことにより調整することができる。上記粉砕および分級による調整では、相反する質量平均粒子径D50と粒子径150μm未満の粒子の割合とを制御しながら、特定の粒度分布に調整される。例えば、質量平均粒子径D50を600μm以下と小さくしながら150μm未満の微粒子量を少なくするという特定粒度への調整では、必要により上記粉砕後に粗粒子と微粒子とを篩などの一般的な分級装置で除去してもよい。その際に除去される粗粒子としては好ましくは850μm〜5000μmの粒子径を有する粒子、より好ましくは850μm〜2000μmの粒子径を有する粒子、さらに好ましくは850μm〜1000μmの粒子径を有する粒子である。また、粒度調整により除去される微粒子としては、好ましくは200μm未満の粒子径を有する粒子、より好ましくは150μm未満の粒子径を有する粒子である。
【0072】
尚、除去した粗粒子はそのまま廃棄してもよいが、一般的には、再度上記粉砕工程にリサイクルされて粉砕される。また、除去された微粒子はそのまま廃棄してもよいが、後述する微粒子の凝集化を行えば、収率のロスを低減することができる。
【0073】
このようにして粉砕工程を経て特定の粒度分布に調整して得られた吸水性樹脂の形状は不定形破砕状の形状を示す。
【0074】
粉砕・分級などの粒度制御によって除去された微粒子は、より大きな粒子または粒子状凝集物に再生し、本実施の形態に係る吸水性樹脂として用いることができる。米国特許6228930号、同5264495号、同4950692号、同5478879号および欧州特許844270号などに記載の分離された微粒子と水性液とを特定の条件下で接触増粘させて凝集させる方法を用いることで微粒子をより大きな粒子または粒子状凝集物に再生することが可能であるが、このように再生された吸水性樹脂は実質的に多孔質構造を有する。
【0075】
本実施の形態に係る吸水性樹脂に含まれる、上述した粗粒子および微粒子から再生された吸水性樹脂の割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%、最も好ましくは10〜30質量%である。
【0076】
上記再生された吸水性樹脂の微粒子を本発明に係る吸水性樹脂として用いた場合、同じ粒子径を有する1次粒子と比べて表面積が大きいため、より速い吸収速度が得られ、性能的に有利である。このように微粒子が凝集することにより再生された吸水性樹脂は、一般には、粉砕および・分級および粒度制御を行う前に、上記乾燥工程で得た吸水性樹脂と混合される。
【0077】
また、本実施の形態では、「150μm未満の粒子」とは後述する篩分級方法で分級された後に、測定される150μmの目開きを有するJIS標準篩(JIS Z8801−1(2000))ないしその相当品の篩を通過した粒子を指す。また、「150μm以上の粒子」とは同様に後述する分級方法で分級された後に、測定される150μmの目開きを有するJIS標準篩の上に残った粒子を指す。他の目開きの大きさについても同様である。また、150μmの目開きを有するメッシュで粒子の50質量%が分級される場合、その質量平均粒子径(D50)は150μmである。
【0078】
本発明に係る吸水性樹脂組成物に用いられる吸水性樹脂は、重合後の吸水性樹脂を改質して諸物性を向上させるために、上記の架橋重合および乾燥して得られたものを、さらに表面架橋(二次架橋)してもよい。
【0079】
上記表面架橋を行うための表面架橋剤としては、種々のものがあるが、物性の観点から、一般的には、オキサゾリン化合物(米国特許6297319号),ビニルエーテル化合物(米国特許6372852号)、エポキシ化合物(米国特許6254990号)、オキセタン化合物(米国特許6809158号)、多価アルコール化合物(米国特許4734478号)、ポリアミドポリアミン−エピハロ付加物(米国特許4755562号および同4824901号)、ヒドロキシアクリルアミド化合物(米国特許6239230号)、オキサゾリジノン化合物(米国特許6559239号)、ビスまたはポリ−オキサゾリジノン化合物(米国特許6472478号)、2−オキソテトラヒドロ-1,3−オキサゾリジン化合物(米国特許6657015号)、アルキレンカーボネート化合物(米国特許5672633号)などの1種または2種以上が使用される。また、かかる表面架橋剤にアルカリ(米国特許2004−106745号)、有機酸や無機酸(米国特許5610208号)などを併用してもよい。また、吸水性樹脂の表面でモノマーの重合を行い表面架橋(米国特許2005−48221号)としてもよい。
【0080】
上記表面架橋剤としては、具体的には、例えば、モノ,ジ,トリ,テトラまたはポリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,3,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノールなどの多価アルコール化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテルやグリシドールなどのエポキシ化合物、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン等の多価アミン化合物;エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、α−メチルエピクロロヒドリン等のハロエポキシ化合物;上記多価アミン化合物と上記ハロエポキシ化合物との縮合物;2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン化合物;オキセタン化合物;環状尿素化合物;エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネート化合物(米国特許5409771号)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。吸水性樹脂の液吸い上げ特性をより向上させるために、これらの表面架橋剤の中でも少なくともオキセタン化合物、環状尿素化合物、多価アルコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、より好ましくは炭素数2〜10のオキセタン化合物あるいは多価アルコールから選ばれる少なくとも1種、さらに好ましくは炭素数3〜8の多価アルコールが用いられる。
【0081】
表面架橋剤の使用量は、用いる化合物やそれらの組み合わせ等にもよるが、吸水性樹脂100質量部に対して、0.001質量部〜10質量部の範囲内が好ましく、0.01質量部〜5質量部の範囲内がより好ましい。
【0082】
表面架橋には水を用いることができる。この際、使用する水の量は、使用する吸水性樹脂の含水率にもよるが、通常、好ましくは吸水性樹脂100質量部に対し0.5〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部の範囲である。また、水以外の親水性有機溶媒を用いてもよく、吸水性樹脂100質量部に対して好ましくは0〜10質量部、より好ましくは0〜5質量部、さらに好ましくは0〜3質量部の範囲である。
【0083】
さらに、表面架橋剤の混合方法としては、必要により水および/または親水性有機溶媒と表面架橋剤とを予め混合した後、次いで、その水溶液を吸水性樹脂に噴霧あるいは滴下混合する方法が好ましく、噴霧する方法がより好ましい。噴霧される液滴の大きさは、平均粒子径で1〜300μmが好ましく、10〜200μmがより好ましい。また混合に際し、本発明の効果を妨げない範囲で水不溶性微粒子粉体や界面活性剤等を共存させてもよい。
【0084】
上記吸水性樹脂を表面架橋する工程は、後述する多価金属カチオンを吸水性樹脂に添加する工程中に行ってもよいし、上記多価金属カチオンを吸水性樹脂に添加する工程の後に行ってもよい。
【0085】
上記表面架橋剤と混合後の吸水性樹脂は、好ましくは加熱処理される。上記加熱処理を行う際の条件としては、加熱温度(熱媒温度で規定)は、好ましくは100〜250℃、より好ましくは150〜250℃であり、加熱時間は、好ましくは1分〜2時間の範囲である。温度と時間の組み合わせの好適例としては、180℃で0.1〜1.5時間、200℃で0.1〜1時間である。
【0086】
上述した吸水性樹脂は、表面架橋の条件や吸水性樹脂の粒度などを制御することで、後述する吸水性樹脂組成物の物性(無加圧吸収倍率(CRC),加圧下吸収倍率(AAP),生理食塩水流れ誘導性(SFC))を制御することができる。具体的には、表面架橋後の吸水性樹脂のCRCを、表面架橋前の吸水性樹脂に対して0.50〜0.95倍、より好ましくは0.60〜0.90倍、さらに好ましくは0.70〜0.85倍に低下させることで、後述のAAPやSFCの値を好ましい範囲に制御することができる。
【0087】
(2)多価金属カチオン
本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物は、多価金属カチオンを含んでいる。
【0088】
上記多価金属カチオンを含有することによって、吸水性樹脂組成物とした場合の通液性をより向上させることができる。吸水性樹脂組成物の粒子内部における多価金属カチオンは通液性に寄与しないため、多価金属カチオンを吸水性樹脂組成物の粒子表面に含有させることが好ましい。多価金属カチオンを吸水性樹脂組成物の粒子表面に含有させるには、乾燥後の吸水性樹脂粉末に多価金属カチオンを添加すればよい。
【0089】
すなわち、本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物の製法は、例えば、アクリル酸および/またはその塩を単量体の主成分とする酸基含有不飽和単量体を重合して架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を形成する工程と、上記吸水性樹脂に多価金属カチオンを0.001〜5質量%添加する工程とを含む吸水性樹脂組成物の製造方法であって、上記多価金属カチオンは、Feカチオンを除く多価金属カチオンに対するFeカチオンの含有量が0.50質量%以下である。
【0090】
上記多価金属カチオンを形成する多価金属としては、特に限定はされないが、例えば、Al、Ti、Hf、Zr、ならびにその他の遷移金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子が好ましい。これらの中でも、カルボキシル基との結合性が強い、Al、Ti、Hf、Zrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子がより好ましく、Al、Zrがさらに好ましい。
【0091】
本発明に係る吸水性樹脂組成物においては、Feカチオン以外の多価金属カチオンの含有量は、吸水性樹脂に対して、0.001〜5質量%であり、0.001〜3質量%であることがより好ましく、0.01〜3質量%であることがさらに好ましく、0.03〜3質量%であることがさらに好ましく、0.04〜3質量%であることがさらに好ましく、0.1〜3質量%であることがさらに好ましく、0.3〜2.5質量%であることが特に好ましく、0.5〜2質量%であることが最も好ましい。上記Feカチオン以外の多価金属カチオンの含有量は、吸水性樹脂に対して5質量%を超えると吸水性樹脂組成物の吸水倍率の低下が生じるおそれがあり、0.001質量%未満であると、吸水性樹脂組成物に十分な通液性を付与することができないため好ましくない。上記Feカチオン含有量の少ない多価金属カチオンは、Feカチオンをイオン吸着剤で除去する等の精製方法を適宜選択することにより得ることができる。また、上記精製方法の効果が小さい場合には、さらに上記精製方法を繰り返し行うことによりFeカチオン含有量の少ない多価金属カチオンを得ることができる。
【0092】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物においては、Feカチオンの含有量は、上記Feカチオン以外の多価金属カチオンに対して、0〜0.50質量%であり、1ppm〜0.30質量%であることがより好ましく、10ppm〜0.20質量%であることがさらに好ましい。上記Feカチオン以外の多価金属カチオンに対するFeカチオンの含有量が0.5質量%を超えると、吸水性樹脂組成物においてFeカチオンが吸水性樹脂と作用し易くなるため、経時変化等により吸水性樹脂のポリマー鎖の切断などの劣化が生じ易く、また、吸水性樹脂または吸水性樹脂組成物の着色が多くなるため好ましくない。
【0093】
また、Feカチオンの含有量は同様の理由から、吸水性樹脂(若しくは吸水性樹脂組成物)に対して好ましくは0〜100ppm、より好ましくは0〜50ppm(若しくは0.01〜50ppm)、さらに好ましくは0〜20ppm(若しくは0.1〜20ppm)の範囲であり、さらに好ましくは0〜10ppmの範囲であり、さらに好ましくは0〜5ppmの範囲であり、さらに好ましくは0〜1ppmの範囲であり、さらに好ましくは0〜0.5ppmの範囲であり、さらに好ましくは0〜0.1ppmの範囲であり、特に好ましくは0〜0.01ppmの範囲であり、最も好ましくは検出限界以下である。なお、Feカチオンの含有量は、多価金属カチオン中のみならず、吸水性樹脂に含まれるFeカチオンも制御することが好ましい。吸水性樹脂に含まれるFeカチオンの量を一定の値以下に制限するには、吸水性樹脂の原料中(例えば、モノマー水溶液)のFeカチオン量や製造装置(例えば、ステンレス表面)からのFeカチオンの溶出を制御することにより、管理すればよい。
【0094】
上記Feカチオン以外の多価金属カチオンの含有量およびFeカチオンの含有量は、添加した多価金属カチオン塩の量などから計算によって求めることができるが、吸水性樹脂組成物から多価金属カチオンを抽出することにより求めることもできる。上記抽出による方法としては、例えば、実施例に記載の手法(プラズマ発光分光、水で抽出後にICPで定量)、国際公開第04/113452号に記載の方法などを用いる方法によって測定することができる。
【0095】
多価金属カチオンは、水溶性の化合物として用いれば特に限定されないが、例えば、OH 、CO2−、若しくはSO2−を有する無機化合物や、酢酸やプロピオン酸等の有機酸塩、および、ハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物として用いることが好ましい。これらのような化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム(水和物も含む)、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、水酸化アルミニウム、アセチルアセトンジルコニウム錯体、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、6フッ化ジルコニウムカリウム、6フッ化ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウムが好ましく例示され、中でも、水溶性の化合物であることがより好ましい。
【0096】
多価金属カチオンは、吸水性樹脂の表面架橋前に添加しても良いし、表面架橋と同時に添加しても良いし、表面架橋後の吸水性樹脂に添加しても良い。中でも、表面架橋前あるいは表面架橋後の吸水性樹脂に添加することが好ましく、表面架橋後の吸水性樹脂に添加することが特に好ましい。
【0097】
多価金属カチオンは、粉体(粉末状の粒子)の状態や、水や有機溶媒などに分散したスラリーの状態で添加してもよいが、水溶液あるいは水/有機溶媒の混合溶媒に溶解した溶液など、多価金属カチオンの溶液とした状態で添加することが好ましい。ここで用いることができる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソプロピルアルコールなどの1価のアルコール;プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール;酢酸、乳酸などの有機酸;アセトン、テトラヒドロフランなどの水と混合性の良い有機溶媒;などが好ましい。さらに、上記多価金属カチオンの溶液は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の2価より価数の少ない金属化合物を含んでいてもよい。
【0098】
また、上記多価金属カチオンに加えて、さらに高分子ポリアミン等の他の3価以上のポリカチオンで吸水性樹脂を表面架橋させてもよい。
【0099】
高分子ポリアミンとは、3個以上のカチオン性基を分子中に有するアミン化合物である。3価以上のポリカチオンは水溶性が好ましい。水溶性とは、25℃の水100gに対して、好ましくは0.5g以上、より好ましくは1g以上溶解することをいう。
【0100】
3価以上のポリカチオンとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンのカチオン性高分子が挙げられ、カチオン性高分子の重量平均分子量は好ましくは1000〜100万、さらに好ましくは1万〜50万である。その使用量は、吸水性樹脂および/または吸水性樹脂組成物との組み合わせにもよるが、例えば、吸水性樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0〜10質量部、より好ましくは0.001〜8質量部、さらに好ましくは0.01〜5質量部の範囲である。
【0101】
(3)キレート剤
本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物では、さらに、キレート剤を含有することが好ましい。上記キレート剤を使用することで、吸水性樹脂組成物に含まれるFeカチオンを上記キレート剤がキレートするため、Feカチオンの吸水性樹脂に対する作用を抑制することができる。よって、経時変化等による吸水性樹脂組成物の通液性の低下をより抑制することができる。
【0102】
上記キレート剤としては、Feカチオンをキレートすることができるものであれば特に限定はされないが、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤が挙げられる。
【0103】
上記アミノカルボン酸系キレート剤としては、アミノカルボン酸が好ましく、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラアミン6酢酸、シクロヘキサンジアミノ4酢酸、メチルグリシン2酢酸およびこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が使用可能であるが、中でもジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラアミン6酢酸、メチルグリシン2酢酸およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれるアミノカルボン酸が好ましい。
【0104】
上記キレート剤を含有した吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンの含有量は、上記Feカチオン以外の多価金属カチオンに対して、50質量%以下であり、より好ましくは200〜5000ppmであり、さらに好ましくは200〜1000ppmである。
【0105】
上記キレート剤の使用量は、特には限定されないが、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンを効率よくキレートさせるために、例えば、キレート剤の含有量は吸水性樹脂に対して好ましくは1ppm〜5質量%、より好ましくは10〜1000ppm、さらに好ましくは20〜200ppmの範囲である。
【0106】
本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物の製造方法では、好ましくは、さらに、吸水性樹脂ないし吸水性樹脂組成物にキレート剤を添加する工程を含み、キレート剤を添加する工程を、吸水性樹脂を形成する工程以降(同時を含む)に行う。
【0107】
上記キレート剤を吸水性樹脂に添加する時期は、吸水性樹脂を形成する工程の途中に添加してもよいし、吸水性樹脂を形成する工程の後に添加してもよい。また、吸水性樹脂の表面架橋と同時に添加してもよく、吸水性樹脂の表面架橋後に添加してもよい。
【0108】
尚、吸水性樹脂を形成する工程の途中に添加するとは、吸水性樹脂を形成する工程における少なくとも1つの時期に断続的に添加すること、また、吸水性樹脂を形成する工程の最初から最後にかけて連続的に添加することの両方を意味する。
【0109】
(4)吸水性樹脂組成物
一例として上述した製造方法により製造される本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物は、新規な吸水性樹脂組成物(粒子状吸水剤)を与える。
【0110】
すなわち、本発明の吸水性樹脂組成物は酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物(吸水剤)であり、その形状は好ましくは粒子状、すなわち粒子状吸水剤(粒子状吸水性樹脂組成物)である。主成分とされる吸水性樹脂の割合は必須に全体の50質量%以上100質量%未満、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、吸水性樹脂以外に必須にFeカチオン以外の多価金属カチオンを含み、Feカチオン以外の多価金属カチオンの含有量は好ましくは吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%である。さらに、吸水性樹脂組成物は、後述する水を含む。
【0111】
本実施の形態に係る吸水性樹脂組成物は、上述したように、例えば、上記吸水性樹脂に上記多価金属カチオンを添加することにより製造することができる。さらに、上記吸水性樹脂組成物(粒子状吸水剤)は、優れた吸収性物品(衛生材料)を与えるために、好ましくは以下に示す諸物性により規定される。以下に示す諸物性は、吸水性樹脂組成物の多価金属カチオン含有量およびFeカチオン含有量を規定することにより、好ましい範囲に制御される。
【0112】
(a)劣化通液速度
上記吸水性樹脂組成物は、劣化通液速度(実施例で規定)が0より遅く、40秒以下であることが好ましい。劣化通液速度とは、経時変化した吸水性樹脂組成物の通液性を表す指標であり、値が小さいほど通液性が高いことを示す。上記劣化通液速度は、例えば、吸水性樹脂組成物の粒度、表面架橋の条件に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0113】
通常、通液性は、試験液として生理食塩水(例えば、米国特許第6620889号明細書、米国特許第6605673号明細書、米国特許第6863978号明細書参照)を用いて測定される。しかしながら、試験液を生理食塩水とした通液性の試験では、尿での実使用における通液性との相関が低い。そこで、本発明者が検討した結果、試験液にL−アスコルビン酸を含ませることにより、尿での実使用における通液性と非常に高い相関が得られることを見出した。この試験液にL−アスコルビン酸を含ませる新規試験法を用いることにより劣化通液速度を規定することで、実使用において優れた通液性を示す吸尿物品(おむつ)を与えることができる吸水性樹脂組成物を得ることができる。
【0114】
試験方法の詳細については、後述の実施例にて説明する。上記吸水性樹脂組成物の劣化通液速度は、より好ましくは1〜35秒、さらに好ましくは2〜32秒の範囲である。
【0115】
上記劣化通液速度が40秒を超えると、吸水性樹脂組成物を紙おむつ等の吸収性物品における吸収体に適用した場合に、吸収体中で液体の拡散が行われずに液がブロッキングを起こす恐れがあり、紙おむつでの実使用で、漏れ、肌のかぶれ等の問題が生じてしまう。
【0116】
(b)劣化可溶分
上記吸水性樹脂組成物は、劣化可溶分が0〜30質量%であることが好ましい。劣化可溶分とは、経時変化した吸水性樹脂組成物のL−アスコルビン酸入り生理食塩水に対する溶解量を表す指標である。試験方法の詳細については、後述の実施例にて説明する。
【0117】
通常の可溶分は試験液に生理食塩水を用いて測定するが、尿での実使用における通液性との相関が低い。そこで、上記劣化通液速度と同様に、試験液にL−アスコルビン酸を含ませることにより、尿での実使用における通液性と非常に高い相関が得られることを本発明者が見出した。試験液にL−アスコルビン酸を含ませる新規試験法を用いることによって劣化可溶分を規定することで、実使用において優れた通液性を示す吸尿物品(おむつ)を与えることができる吸水性樹脂組成物を得ることができる。
【0118】
上記劣化可溶分は、例えば、吸水性樹脂の重合時の架橋条件、吸水性樹脂組成物の粒度、表面架橋の条件に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0119】
上記吸水性樹脂組成物の劣化可溶分は、より好ましくは1〜28質量%、さらに好ましくは2〜25質量%である。上記劣化可溶分が30質量%を超えると、吸水性樹脂組成物では吸水性樹脂のポリマー鎖の切断などの劣化が生じ易く、吸水性樹脂組成物は十分な通液性を長期間確保することができない。よって、吸水性樹脂組成物を紙おむつ等の吸収性物品における吸収体に適用した場合に、吸収体中で液体の拡散が行われず液がブロッキングを起こす恐れがあり、紙おむつでの実使用で、漏れ、肌のかぶれ等の問題が生じてしまう。
【0120】
(c)無加圧吸収倍率(CRC:Centrifuge Retention Capacity)
上記吸水性樹脂組成物は、無加圧吸収倍率(CRC)が15g/g以上であることが好ましく、20〜60g/gであることがより好ましく、25〜50g/gであることがさらに好ましく、30〜40g/gであることが特に好ましい。CRCが15g/g未満である場合は、実使用時に十分な吸収性が得られないおそれがある。また、CRCが高すぎる場合(例えば、50g/gより高い場合)、製造コストの割に実使用での効果が少ないうえ、他の物性(例えば、劣化通液性)を好ましい範囲内とすることが困難になる場合がある。上記CRCは、例えば、吸水性樹脂の内部架橋の条件、表面架橋剤の条件に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0121】
(d)加圧下吸収倍率(AAP:Absorbency Against Pressure)
上記吸水性樹脂組成物は、加圧下吸水倍率(AAP)が15g/g以上であることが好ましい。AAPとは、加圧下(4.83kPa、約0.7psiに相当)における吸水性樹脂組成物の吸収倍率であり、試験方法の詳細については、後述の実施例にて説明する。
【0122】
吸水性樹脂組成物のAAPは、より好ましくは15g/g以上であり、さらに好ましくは20〜40g/gであり、特に好ましくは22〜30g/gであり、最も好ましくは24〜29g/gである。吸水性樹脂組成物のAAPが15g/g未満の場合は、吸水性樹脂組成物に体重などの荷重がかかった場合における液体の液拡散および吸収力が劣るため、吸水性樹脂組成物を紙おむつなどの吸収性物品における吸収体に適用した場合に、吸収性物品中で液体の拡散が行なわれず液がブロッキングを起こし、例えば、紙おむつでの実使用で、漏れ、肌のかぶれ等の問題が生じる恐れがある。
【0123】
また、吸水性樹脂組成物のAAPが高すぎる場合(例えば、30g/gより高い場合)では、製造コストの割に実使用での効果が少ないうえ、他の物性の達成が困難になる場合がある。上記吸水性樹脂組成物のAAPは、例えば、吸水性樹脂組成物の粒度、表面架橋剤の種類または表面架橋剤の含有量に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0124】
(e)着色度
上記吸水性樹脂組成物は、着色度のL値が90以上であることが好ましい。着色度のL値とは着色度を表す指標の1つであり、値が大きいほど着色が少ないことを示す。試験方法の詳細については、後述の実施例にて説明する。上記吸水性樹脂組成物の着色度は例えば、吸水性樹脂の重合時のモノマーの種類や温度条件に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0125】
通液性を向上させた吸水性樹脂組成物は、通常、おむつなどの吸収性物品において高濃度(高重量)で使用されるため、上記着色度のL値が90未満であると、吸水性樹脂組成物を紙おむつ等の吸収性物品における吸収体に適用した場合に、吸収性物品の外観を悪化させ、商品価値を低下させてしまう。
【0126】
(f)形状
上記吸水性樹脂組成物の形状は繊維状、シート状、フィルム状でもよいが、好ましくは粒子形状(粒子状吸水剤)を有しており、通液性をより高めるために特定の粒度を有していることがより好ましい。具体的には、質量平均粒子径(D50)が250〜600μmであることが好ましく、より好ましくは350〜550μmであり、さらに好ましくは400〜500μmである。上記吸水性樹脂組成物の粒度は、例えば、粉砕、分級、造粒などの粒度制御を行うことにより達成される。
【0127】
また、150〜850μmの粒子の割合が全体(吸水性樹脂組成物全体)の90〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは95〜100質量%であり、さらに好ましくは99〜100質量%である。
【0128】
さらに、粒度分布の対数標準偏差(σζ)は0.10〜0.50、好ましくは0.20〜0.40、さらに好ましくは0.25〜0.35の範囲である。また、そのかさ比重は0.50〜0.82g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.55〜0.78g/cm、さらに好ましくは0.60〜0.75g/cmの範囲である。
【0129】
吸水性樹脂組成物の粒度が、上記範囲から外れる場合は、微粒子および粗粒子の含有量が多くなり、おむつでの実使用時に目的とする性能(おむつ性能)が得られない恐れがある。
【0130】
(g)生理食塩水流れ遊動性(SFC)
また、上記吸水性樹脂組成物の生理食塩水流れ遊動性(SFC)は、好ましくは1(単位;×10−7・cm・s・g−1)以上、より好ましくは5(単位;×10−7・cm・s・g−1)以上、さらに好ましくは20(単位;×10−7・cm・s・g−1)以上、特に好ましくは40(単位;×10−7・cm・s・g−1)以上、最も好ましくは60(単位;×10−7・cm・s・g−1)以上である。吸水性樹脂組成物のSFCが1(単位;×10−7・cm・s・g−1)未満である場合、おむつでの実使用時に目的とする性能(おむつ性能)が得られない恐れがある。上記吸水性樹脂組成物のSFCは、例えば、吸水性樹脂組成物の粒度、表面架橋の条件に加えて、吸水性樹脂組成物におけるFeカチオンおよび多価金属カチオンの含有量を規定することにより上記範囲内とすることができる。
【0131】
(h)残存モノマー
また、上記吸水性樹脂組成物中の残存モノマー含有量は、好ましくは0〜500ppm、より好ましくは0〜300ppm程度に制御される。上記吸水性樹脂組成物中の残存モノマー含有量は、例えば、吸水性樹脂の重合条件や乾燥条件などを調整することにより上記範囲内とすることができる。
【0132】
(i)含水率
本発明の吸水性樹脂組成物は、さらに少量の水を含む。吸水性樹脂組成物の含水率(1gに対して180℃で3時間の乾燥減量で規定)は、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは1.5〜10質量%、特に好ましくは2〜6質量%である。吸水性樹脂組成物の含水率が0.1質量%未満である場合、吸水速度が低下したり、粉体としての耐衝撃性が低下する。吸水性樹脂組成物の耐衝撃性が低いと、吸水性樹脂組成物粉体の輸送または加工時(例えば、おむつ製造時)に、粉体が破壊され、上記物性(劣化通液速度、AAP、SFC、形状)が悪化するので好ましくない。また、吸水性樹脂組成物の含水率が高くなると、吸水性樹脂組成物における吸水性樹脂の割合が少なくなるため吸水特性が低下する。このため、吸水性樹脂組成物の含水率が20質量%より高い場合では、吸水性樹脂組成物の吸水特性が大きく低下してしまうため好ましくない。
【0133】
(5)その他添加剤
また、上記吸水性樹脂組成物には、更に各種の無機粉末などの添加剤を加えてもよい。
【0134】
上記無機粉末としては、具体的には、例えば、二酸化珪素や酸化チタン等の金属酸化物、天然ゼオライトや合成ゼオライト等の珪酸(塩)、カオリン、タルク、クレー、ベントナイト等が挙げられ、コールターカウンター法により測定された平均粒子径が200μm以下の二酸化珪素及び珪酸(塩)が好ましい。
【0135】
上記無機粉末と、吸水性樹脂との混合方法において、無機粉末が固体粒子である場合、粉体同士を混合するドライブレンド法、湿式混合等を採用することができる。しかしながら、粉体同士を混合した場合、吸水性樹脂組成物に対して無機粉末が均一に混合されないことや、無機粉末と吸水性樹脂組成物との接着あるいは結合が十分でないことがある。このような吸水性樹脂組成物をおむつなどの吸収性物品に使用した場合、その製造過程等で、吸水性樹脂組成物と無機粉末とが分離、偏析することで均一な性能を持つおむつなどの吸収性物品を得ることが困難となり、好ましくない場合がある。
【0136】
上記無機粉末が固体粒子である場合、その使用量は、吸水性樹脂および/または吸水性樹脂組成物との組み合わせにもよるが、例えば、吸水性樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0〜0.5質量部、より好ましくは0〜0.3質量部、さらに好ましくは0〜0.1質量部、特に好ましくは0〜0.05質量部である。固体粒子状の無機粉末の添加量が0.5質量部より多い場合、前述した均一な性能を持つおむつなどの吸収性物品を得ることが困難となるおそれがあり、好ましくない。
【0137】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物およびその製造方法においては、さらに、必要に応じて、消臭剤、抗菌剤、香料、発泡剤、顔料、染料、可塑剤、粘着剤、界面活性剤、肥料、酸化剤、還元剤、水、塩類、殺菌剤、ポリエチレングリコールなどの親水性高分子、パラフィン、疎水性高分子、ポリエチレンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、ポリエステル樹脂やユリア樹脂などの熱硬化性樹脂等を液吸い上げ速度(液拡散速度)が低下しない範囲、例えば、吸水性樹脂および/または吸水性樹脂組成物100質量部に対して0〜10質量部程度、吸水性樹脂および/または吸水性樹脂組成物に添加してもよい。
【0138】
(6)用途
本発明に係る吸水性樹脂組成物は吸湿特性に優れており、農園芸、ケーブル止水剤、土木・建築、食品などの従来の吸水性樹脂の用途に広く使用できるが、おむつなどの吸収性物品における吸収体の必要物性である通液性を備えているため、尿、糞ないし血液の固化剤(吸収ゲル化剤)としても好適に使用される。
【0139】
通常、上記吸収体は、上記吸水性樹脂組成物を含んで成型される。上記吸収体は、吸水性樹脂組成物と親水性繊維との合計質量に対する吸水性樹脂組成物の含有量(コア濃度)が20〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量%、さらに好ましくは30〜90質量%、特に好ましくは40〜80質量%の範囲である。コア濃度が20質量%未満の場合は、吸水性樹脂組成物の特性が活かされ難い。
【0140】
なお、本発明に係る吸水性樹脂組成物の吸収体としての好ましい使用例の一例は、米国特許5853867号明細書に例示された膨張異方性(厚み方向での膨張性)の吸水性複合体への適用であり、本発明に係る拡散性の優れた吸水性樹脂組成物を用いることで、厚さ方向の膨張のみならず、横方向(平面方向)の液拡散が格段に改善された吸収体を得ることができる。
【0141】
上記吸収体は、好ましくは、密度0.06〜0.50g/cc、坪量0.01〜0.20g/cmの範囲に圧縮成形される。なお、用いられる繊維基材としては、親水性繊維、例えば、粉砕された木材パルプ、その他、コットンリンターや架橋セルロース繊維、レーヨン、綿、羊毛、アセテート、ビニロン等が挙げられる。好ましくはそれらをエアレイドしたものである。
【0142】
さらに、本発明に係る吸収性物品は、例えば、上記した吸収体、液透過性を有する表面シート、及び液不透過性を有する背面シートを備える吸収性物品である。吸収性物品としては具体的には、近年成長の著しい大人用紙おむつをはじめ、子供用おむつや生理用ナプキン、いわゆる失禁パッド等の衛生材料等が挙げられる。
【0143】
本発明に係る吸水性樹脂組成物は、以上のように、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物(吸水剤)であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して5.00質量%以下であることを特徴としている。これにより、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物(吸水剤)を提供することができるという効果を奏する。
【0144】
本発明に係る吸水性樹脂組成物では、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して1〜3000ppmであることが好ましい。
【0145】
上記構成によれば、経時変化等による吸水性樹脂組成物の通液性の低下をより少なくすることができ、吸水性樹脂組成物の着色(特に経時変化による着色)をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0146】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物は、酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物であって、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50質量%以下であることを特徴としている。これにより、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【0147】
本発明に係る吸水性樹脂組成物では、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して200〜5000ppmであることが好ましい。
【0148】
上記構成によれば、経時変化等による吸水性樹脂組成物の通液性の低下をより少なくすることができ、吸水性樹脂組成物の着色(特に経時変化による着色)をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0149】
本発明に係る吸水性樹脂組成物では、吸水性樹脂組成物の形状が粒子状であり、上記多価金属カチオンが粒子表面に含有した粒子形状を有しており、さらに、上記金属カチオンとは別の表面架橋剤によって表面架橋させたものであることが好ましい。
【0150】
上記構成によれば、多価金属カチオンのみならず、さらに別の表面架橋剤により吸水性樹脂に架橋構造を導入することができるため、相乗効果により、さらに吸水性樹脂組成物の通液性を高めることができる。また、上記構成により吸水性樹脂組成物の通液性が高められるだけではなく、吸水性樹脂組成物の加圧下吸収倍率(AAP)も向上する。さらには、表面架橋を行った場合に起こり易い、吸水性樹脂組成物の粉体流動性の低下を抑制することができる。従って、上記構成によれば、経時変化等による通液性の低下がより少なく、加圧下吸収倍率に優れ、粉体流動性の低下が抑制されたおむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を提供することができるというさらなる効果を奏する。
【0151】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、上記多価金属カチオンがアルミニウムカチオンであることが好ましい。
【0152】
上記構成によれば、吸水性樹脂組成物の通液性や吸湿時の粉体流動性をより高めることができるという更なる効果を奏する。
【0153】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、劣化通液速度が0より遅く、40秒以下であることが好ましい。
【0154】
上記構成によれば、吸水性樹脂組成物をおむつなどの吸収性物品に使用した場合、その実使用時に十分な通液性を長期間確保することができ、より漏れの少ない吸収性物品を提供することができる。
【0155】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、劣化可溶分が0〜30質量%であることが好ましい。
【0156】
上記構成によれば、吸水性樹脂組成物をおむつなどの吸収性物品に使用した場合、その実使用時に十分な通液性を長期間確保することができ、より漏れの少ない吸収性物品を提供することができる。
【0157】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、着色度のL値が90.0以上であることが好ましい。
【0158】
上記構成によれば、吸水性樹脂組成物をおむつなどの吸収性物品に使用した場合、その製造直後はもちろん、流通過程や購入後も長期間着色を抑制することができるため、商品価値に優れた吸収性物品を提供することができる。
【0159】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、吸水性樹脂組成物が粒子形状を有しており、質量平均粒子径が250〜600μmで、且つ粒子径が150〜850μmの範囲にある粒子が全体の90〜100質量%であることが好ましい。
【0160】
上記構成によれば、微粒子および粗粒子の含有量が少なく、吸水性樹脂組成物は通液性に適した粒度を有するため、吸水性樹脂組成物をおむつなどの吸収性物品に使用した場合、その実使用時に十分な通液性を長期間確保することができ、より漏れの少ない吸収性物品を提供することができる。
【0161】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物では、上記酸基含有不飽和単量体におけるメトキシフェノール類の含有量が10〜180ppmであることが好ましい。
【0162】
上記構成によれば、得られる吸水性樹脂の着色(黄ばみ若しくは黄変)をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0163】
また、本発明に係る吸水性樹脂組成物の製造方法は、酸基含有不飽和単量体を重合して架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を形成する工程と、上記吸水性樹脂に多価金属カチオンを、上記吸水性樹脂に対して0.001〜5質量%添加する工程とを含む吸水性樹脂組成物の製造方法であって、上記多価金属カチオンは、Feカチオンを除く多価金属カチオンに対するFeカチオンの含有量が0.5質量%以下であることを特徴としている。これにより、経時変化等による通液性の低下が少ない、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を製造することができるという効果を奏する。
【0164】
本発明に係る吸水性樹脂組成物の製造方法では、さらに、上記多価金属カチオンを添加する工程とは別に、上記多価金属カチオン以外の表面架橋剤により上記吸水性樹脂を表面架橋する工程を含み、上記多価金属カチオンを添加する工程を、上記吸水性樹脂を表面架橋する工程中、または上記吸水性樹脂を表面架橋する工程後に行うことが好ましい。
【0165】
上記製造方法によれば、多価金属カチオンのみならず、さらに別の表面架橋剤により吸水性樹脂に架橋構造を導入することができるため、相乗効果により、さらに吸水性樹脂組成物の通液性を高めることができる。また、上記方法により、吸水性樹脂組成物の通液性が高められるだけではなく、吸水性樹脂組成物の加圧下吸収倍率(AAP)も向上する。さらには、表面架橋を行った場合に起こり易い、吸水性樹脂組成物の粉体流動性の低下を抑制することができる。従って、上記方法によれば、経時変化等による通液性の低下がより少なく、加圧下吸収倍率に優れ、粉体流動性の低下が抑制されたおむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を製造することができるという更なる効果を奏する。
【0166】
本発明に係る吸水性樹脂組成物の製造方法では、さらに、上記吸水性樹脂にキレート剤を添加する工程を含み、キレート剤を添加する工程を、吸水性樹脂を形成する工程中、または吸水性樹脂を形成する工程後に行うことが好ましい。
【0167】
上記製造方法によれば、使用する多価金属カチオンを精製等により高純度化させる必要がないため、経時変化等による通液性の低下が少なく、おむつなどの吸収性物品の実使用に好適な吸水性樹脂組成物を製造することができるという更なる効果を奏する。
【0168】
本発明に係る吸水性樹脂組成物の製造方法では、吸水性樹脂を形成する上記工程における酸基含有不飽和単量体中に含まれるメトキシフェノール類の含有量を10〜180ppmに調製する工程を更に含むことが好ましい。尚、好ましい形態である、酸基含有不飽和単量体がアクリル酸とアクリル酸ナトリウムとの混合物中である場合、そのメトキシフェノール類の含有量は、未中和アクリル酸換算で求められる。
【0169】
上記構成によれば、得られる吸水性樹脂の着色(黄ばみ若しくは黄変)をより抑制することができるという更なる効果を奏する。
【0170】
また、本発明に係る吸収性物品は、紙おむつ、生理用ナプキンまたは失禁パットから選ばれる少なくとも1つの吸収性物品であって、本発明の吸水性樹脂組成物を含むことを特徴としている。これにより、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色(特に経時変化による着色)が抑制された、吸収性物品を提供することができるという効果を奏する。
【0171】
〔実施例〕
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)の諸性能は以下の方法で測定した。また実施例において使用される電気機器はすべて200Vまたは100V、60Hzの条件で使用した。さらに、吸水性樹脂組成物、吸水性樹脂は、特に指定がない限り、25℃±2℃、相対湿度50%RHの条件下で使用した。また、生理食塩水として0.90質量%塩化ナトリウム水溶液を用いた。
【0172】
また、下記測定法や実施例に例示の試薬や器具は適宜相当品で代替してもよい。
【0173】
尚、諸性能測定時の吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)は、有り姿(含水率等を調整されていない、市場等で得られたそのままの状態)で用いるが、市販品の吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)や、オムツ中の吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)を測定サンプルとする場合、これらサンプルは、時間の経過により吸水していることがある。この場合、これらサンプルを乾燥することにより、含水率を10質量%以下、好ましくは5±2質量%に調製した後に、本実施例で規定される吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)の諸物性を測定すればよい。上記乾燥条件としては、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)の分解や変性が起こらない条件であれば特には限定されないが、例えば、常温以上60℃以下の温度条件での減圧乾燥が好ましい。
【0174】
<着色度測定方法>
後述する実施例および比較例で得られた吸水性樹脂組成物の着色度(L値、a値、b値)を、日本電色工業株式会社製の分光式色差計(SZ-Σ80 COLOR MERSURING SYSTEM)を用いて測定した。
【0175】
着色度の測定は、具体的には、反射測定で、粉末及びペースト用標準丸白板No.2を標準とし、備え付けの試料台(付属の粉末及びペースト試料台)(内径30mm、高さ12mm)、並びに投光パイプ(内径30mm)を用いて行った。
【0176】
備え付けの試料台に吸水性樹脂組成物を約6g充填し(約6割程度の充填)、室温(20〜25℃)、湿度50%RHの条件下で、上記分光式色差計にて表面色(L,a,b)を測定した。
【0177】
続いて、50±1℃、相対湿度90±1%の雰囲気に調整した恒温恒湿機(タバイエスペック株式会社製、PLATINOUSLUCIFER、形式PL−2G)の中に、吸水性樹脂組成物を充填した上記備え付けの試料台を入れた。30日間静置後、上記分光式色差計にて表面色(L,a,b)を測定した。
【0178】
<劣化可溶分量>
内径65mm/高さ90mm(容量250cc)のポリプロピレン製容器に、0.005質量%L−アスコルビン酸入り生理食塩水(0.9質量%生理食塩水999.95gにL−アスコルビン酸0.05gを溶解して作製)200.0gを量り取り、その中に後述する実施例および比較例で得られた吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)1.0gを入れた。上記ポリプロピレン製容器を内蓋と外蓋とで密栓し、37℃の恒温機 (SIBATA THERMOTEC SI-450 INCUBATOR) の中に入れ16時間放置した。尚、L−アスコルビン酸は尿に含有している吸水性樹脂の劣化物質である。
【0179】
放置後、上記ポリプロピレン製容器を取り出し、スターラーチップ(磁気攪拌子)(直径8mm、長さ35mm)を用いて600rpmの回転数で1時間攪拌を行い、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)中の可溶分を抽出した。この抽出液を濾紙(ADVANTEC東洋株式会社、品名:JIS P 3801 No.2、厚さ:0.26mm、保留粒子径5μm)を用いて濾過し、得られた濾液の50.0gを量り取り、測定溶液とした。
【0180】
はじめに0.005質量%L−アスコルビン酸入り生理食塩水だけを、0.1NのNaOH水溶液でpH10まで滴定を行い、その後、0.1NのHCl水溶液でpH2.7まで滴定して空滴定量([bNaOH]ml、[bHCl]ml)を得た。
【0181】
同様の滴定操作を測定溶液についても行うことにより、滴定量([NaOH]ml、[HCl]ml)を求めた。
【0182】
例えば、既知量のアクリル酸とそのナトリウム塩からなる吸水性樹脂の場合、そのモノマーの平均分子量と上記操作により得られた滴定量をもとに、吸水性樹脂中の可溶分量を下式により算出することができる。未知量の場合は滴定により求めた中和率を用いてモノマーの平均分子量を算出した。
【0183】
劣化可溶分量(質量%)=0.1×(モノマーの平均分子量)×184.3×100×([HCl]−[bHCl])/1000/1.0/50.0
中和率(mol%)=[1−([NaOH]−[bNaOH])/([HCl]−[bHCl])]×100
尚、モノマーの平均分子量は下記式より算出することができる。
モノマーの平均分子量=中和率(mol%)/100×アクリル酸ナトリウムの分子量(94.05)+(100−中和率(mol%))/100×アクリル酸の分子量(72.06)
<可溶分>
上記劣化可溶分量の測定において、0.005質量%L−アスコルビン酸入り生理食塩水を、生理食塩水に替えたこと以外は、劣化可溶分量の測定と同様の操作を行い、可溶分を求めた。
【0184】
<劣化通液速度>
内径65mm/高さ90mm(容量250cc)のポリプロピレン製容器に、0.005質量%L−アスコルビン酸入り生理食塩水(0.9質量%生理食塩水999.95gにL−アスコルビン酸0.05gを溶解して作製)200.0gを量り取り、その中に後述する実施例および比較例で得られた吸水性樹脂組成物1.0gを入れた。上記ポリプロピレン製容器を内蓋と外蓋とで密栓し、37℃の恒温機 (SIBATA THERMOTEC SI-450 INCUBATOR) の中に入れ16時間放置した。
【0185】
放置後、上記ポリプロピレン製容器を取り出し、図1に示す装置を用いて劣化通液速度測定を行った。図1に示すように、劣化通液速度測定用の装置は、一方の開口部に100メッシュ金網(150μm)4が張られた円筒状のアクリル製セル(内径60mm/高さ50mm)1と、支え台6と、支え台6の上に設置された20メッシュ金網(850μm)5とから構成されている。アクリル製セル1は、アクリル製セル1の100メッシュ金網4が20メッシュ金網5と接するように20メッシュ金網5の上に設置される。
【0186】
上記恒温機から取り出したポリプロピレン製容器から、吸水性樹脂組成物3をアクリル製セル1の中に全量入れ、吸水性樹脂組成物3のゲル上面から液が無くなるまで水切りを行った(ゲル上面が平らになるようにする)。水切り後、吸水性樹脂組成物3の上にガラスフィルター2を設置し、1分間静置させた。静置後、100mLビーカーに量りとった0.9質量%生理食塩水7(100g)を、アクリル製セル1の中に流し、上記0.9質量%生理食塩水7を流し始めてからガラスフィルター2の上面から液が無くなるまでの時間を測定し、その時間を劣化通液速度(秒)とした。
【0187】
<無加圧下吸収倍率(CRC)>
後述する実施例および比較例で得られた吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)W(g)(約0.20g)を不織布製の袋(60mm×85mm、材質はEDANA ERT 441.1−99に準拠)に均一に入れシールして、25±2℃に調温した0.90質量%生理食塩水中に浸漬した。30分後に袋を引き上げ、遠心分離機(株式会社コクサン製、型式H−122小型遠心分離機)を用いて250G(250×9.81m/s)で3分間水切りを行った後、袋の質量W2(g)を測定した。また、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)を用いないで同様の操作を行い、そのときの質量W1(g)を測定した。そして、上記質量W、W1、W2から、次式に従って、CRC(g/g)を算出した。
【0188】
CRC(g/g)={(質量W2(g)−質量W1(g))/W(g)}−1
<加圧下吸収倍率(AAP)>
内径60mmのプラスチック製支持円筒の底に、ステンレス製400メッシュの金網(目開き38μm)を融着させ、該網上に吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)W(g)(約0.90g)を均一に散布し、その上に、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)に対して4.83kPa(約0.7psiに相当)の荷重を均一に加えることができるよう調整された、外径が60mmよりわずかに小さく支持円筒との隙間が生じず、かつ上下の動きが妨げられないピストンと荷重とをこの順に載置した。この際、荷重を載せる前に、荷重以外の測定装置一式の質量W3(g)(支持円筒と吸水性樹脂組成物(又は吸水性樹脂)とピストンの質量)を測定した。
【0189】
直径150mmのペトリ皿の内側に直径90mm、厚さ5mmのガラスフィルター(株式会社相互理化学硝子製作所製、細孔直径100〜120μm)を置き、0.90質量%生理食塩水を上記ガラスフィルターの上面と同じレベルになるように加えた。その上に、直径90mmの濾紙(トーヨー濾紙社製、ADVANTEC;No.2、JIS P 3801)を1枚載せ、表面が全て濡れるようにし、かつ過剰の液を除いた。
【0190】
上記測定装置一式を上記湿った濾紙上に載せ、液を荷重下で吸収させた。この際、液面がガラスフィルターの上面より低下した場合には液を追加して、液面レベルを一定に保った。1時間後、測定装置一式を持ち上げ、荷重を取り除いた質量W4(g)(支持円筒と膨潤した吸水性樹脂組成物(又は吸水性樹脂)とピストンの質量)を再測定した。そして、これら質量W、W3、W4から、次式に従ってAAP(g/g)を算出した。
【0191】
AAP(g/g)=(質量W4(g)−質量W3(g))/W(g)
<質量平均粒子径(D50)および対数標準偏差(σζ)>
吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)を目開き850μm、710μm、600μm、500μm、300μm、150μm、45μmなどのJIS標準ふるいで篩い分けし、残留百分率Rを対数確率紙にプロットした。これにより、R=50質量%に相当する粒径を質量平均粒子径(D50)として読み取った。また、対数標準偏差(σζ)は下記の式で表され、σζの値が小さいほど粒度分布が狭いことを意味する。
【0192】
σζ=0.5×ln(X2/X1)
(X1はR=84.1%、X2はR=15.9%のときにおけるそれぞれの粒径)
質量平均粒子径(D50)および対数標準偏差(σζ)を測定する際の分級方法は、吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)10.0gを、室温(20〜25℃)、湿度50%RHの条件下で、目開き850μm、710μm、600μm、500μm、300μm、150μm、45μmのJIS標準ふるい(THE IIDA TESTING SIEVE:径8cm)に仕込み、振動分級器(IIDA SIEVE SHAKER、TYPE:ES−65型、SER.No.0501)により、5分間分級させることによって行った。なお、上記ふるいは、原則として上記種類のものを使用するが、ふるいの種類は、吸水性樹脂の粒度によって適宜追加すればよい。
【0193】
<生理食塩水流れ誘導性(SFC)>
SFCは吸水性樹脂の膨潤時の液透過性を示す値である。SFCの値が大きいほど高い液透過性を有することを示している。
【0194】
特表平9−509591の生理食塩水流れ誘導性(SFC)試験に準じて行った。
【0195】
SFC試験で使用する装置について、図2を用いて以下に説明する。
【0196】
図2に示す装置は、タンク31にガラス管32が挿入されており、ガラス管32の下端は、0.69質量%生理食塩水33をセル39中の膨潤したゲル37の底部から、5cmの高さに維持できるように配置している。タンク31中の0.69質量%生理食塩水33は、コック35付きL字管34を通じてセル39へ供給される。セル39の下には、通過した液を補集する容器48が配置されており、容器48は上皿天秤49の上に設置されている。セル39の内径は6cmであり、下部の底面にはNo.400ステンレス製金網(目開き38μm)38が設置されている。ピストン46の下部には液が通過するのに十分な穴47があり、底部には吸水性樹脂組成物(または吸水性樹脂)あるいはその膨潤ゲルが穴47へ入り込まないように透過性の良いガラスフィルター45が取り付けられている。セル39は、セル39を乗せるための台の上に置かれ、セル39と接する台の面には、液の透過を妨げないステンレス製の金網36が設置されている。
【0197】
図2に示す装置を用い、容器40に均一に入れた吸水性樹脂(0.900g)を人工尿中で2.07kPa(約0.3psi)の加圧下、60分間膨潤させ、ゲル37のゲル層の高さを記録し、次に2.07kPa(約0.3psi)の加圧下、0.69質量%生理食塩水33を、一定の静水圧でタンク31から膨潤したゲル層を通液させた。このSFC試験は室温(25℃±2℃)で行った。コンピューターと上皿天秤49とを用い、時間の関数として20秒間隔でゲル層を通過する液体量を10分間記録した。膨潤したゲル37(主に粒子間)を通過する流速Fs(T)は増加重量(g)を増加時間(s)で割ることによりg/sの単位で決定した。一定の静水圧と安定した流速とが得られた時間をTsとし、TsとTsから10分後との間に得たデータのみを流速計算に使用して、その流速を使用してFs(T=0)の値、つまりゲル層を通る最初の流速を計算する。Fs(T=0)はFs(T)対時間の最小2乗法の結果をT=0に外挿することにより計算した。なお、SFC値の単位は(10−7・cm・s・g−1)である。
【0198】
SFC=(Fs(t=0)×L0)/(ρ×A×ΔP)=(Fs(t=0)×L0)/139506
ここで、
Fs(t=0):g/sで表した流速
L0:cmで表したゲル層の高さ
ρ:NaCl溶液の密度(1.003g/cm
A:セル41中のゲル層上側の面積(28.27cm
ΔP:ゲル層にかかる静水圧(4920dyne/cm
なお、SFC試験で使用する人工尿は、塩化カルシウムの2水和物0.25g、塩化カリウム2.0g、塩化マグネシウムの6水和物0.50g、硫酸ナトリウム2.0g、りん酸2水素アンモニウム0.85g、りん酸水素2アンモニウム0.15g、および、純水994.25gを加えたものを用いた。
【0199】
<吸水性樹脂に含まれる多価金属成分の定量方法>
(i)プラズマ発光分光分析
260mlの容量のポリプロピレン製ビーカーに吸水性樹脂組成物1.0gを量り取り、生理食塩水(0.9質量%NaCl水溶液)190.0gおよび2Nの塩酸10.0gを加え、スターラーチップ(磁気攪拌子)(直径8mm、長さ35mm)を用いて600rpmの回転数で、室温下30分間攪拌した。攪拌後、上澄み液をクロマトディスク(GLクロマトディスク25A、ジーエルサイエンス株式会社)でろ過し、ろ液をプラズマ発光分光分析(堀場製作所製、ULTIMA)で分析することにより多価金属成分濃度を求めた。なお、検量線は既知量の多価金属成分を含む生理食塩水により作製した。尚、上記分析では、生理食塩水中の成分を考慮したベースライン補正を行った。求められた多価金属成分濃度より、吸水性樹脂組成物中の多価金属成分濃度を下記式により求めた。
【0200】
吸水性樹脂組成物中の多価金属成分濃度(質量%)=(溶液中の多価金属成分濃度(質量%))×200
上記吸水性樹脂組成物中の多価金属成分濃度(質量%)から下記式によって、吸水性樹脂に対する多価金属成分濃度を求めた。
【0201】
吸水性樹脂に対する多価金属成分濃度(質量%)=吸水性樹脂組成物中の多価金属濃度(質量%)/吸水性樹脂組成物中の吸水性樹脂(質量%)×100
(ii)多価金属成分抽出率測定方法
多価金属成分抽出率は、吸水性樹脂中での多価金属の存在状態、つまり、水に対して難溶な状態の塩を形成して存在するか、あるいは易溶な塩を形成して存在するかを示す。例えば、吸水性樹脂に硫酸アルミニウムを添加した場合では、硫酸アルミニウムが吸水性樹脂の表面を架橋した状態で存在するのか、あるいは硫酸アルミニウム単独で存在するのかの違いを示すものである。具体的には、吸水性樹脂組成物中に添加した全硫酸アルミニウム中の硫酸アルミニウムで存在する割合のことである。以下に、多価金属成分抽出率の測定方法について説明する。
【0202】
1.0質量%8−キノリノール(和光純薬工業株式会社より入手)のメタノール溶液95gと純水5gとを混合し溶液Aを、またメタノール95gと純水5gとを混合し溶液Bを調製した。
【0203】
260mlポリプロピレン製容器にスターラーチップ(磁気攪拌子)(直径8mm、長さ35mm)を入れ、吸水性樹脂組成物を5g、溶液Aを25g量り取った。容器を密閉し、マグネティックスターラーを用いて室温下、600rpmの回転数で20時間攪拌した。その上澄み液をポリプロピレン製シリンジで5mL吸い取り、クロマトディスク(GLクロマトディスク25A、ジーエルサイエンス株式会社)を、溶液を測り取ったシリンジに取り付け、ろ過した。そのろ液の一部をプラスチック製の1cmセル(アズワン株式会社より購入:ディスポセル、品番2−478−03、型番1939)に移し、分光光度計(日立レシオビーム分光光度計U−1100型)を用いて、多価金属成分と8−キノリノールとの錯体形成に由来する特定の波長の吸光度を測定した。上記特定の波長としては、例えば、多価金属成分がアルミニウムの場合、380nmであった。以下、便宜上、特定の波長を、多価金属成分がアルミニウムの場合として説明する。尚、ろ液の380nmの吸光度が分光光度計の測定限界を超えた場合は、吸光度が分光光度計の測定可能範囲に入るようにろ液を溶液Bで希釈した。
【0204】
また、多価金属成分が100質量%抽出された時の吸光度は、多価金属成分が100質量%抽出された時と同量の多価金属成分が存在するように多価金属化合物を溶液Aに溶解させた溶液について、380nmの吸光度を測定することにより求めた (吸水性樹脂組成物中の多価金属成分濃度は別途上記記載のプラズマ発光分光分析の方法で求めた)。
【0205】
多価金属成分の抽出率は以下の式によって求めることができる。
【0206】
多価金属成分の抽出率(質量%)=((ろ液の380nmの吸光度)−(溶液Aの380nmの吸光度))/((多価金属成分が100質量%抽出された時の380nmの吸光度)−(溶液Aの380nmの吸光度))×100
<メトキシフェノール含有量、フルフラール含有量>
ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、GC−7A型)とデータ処理装置((株)島津製作所製、C−R6A型)を使用し、以下の条件にて標準試料を用いて定量分析を行うことにより、単量体(アクリル酸)中の、メトキシフェノール含有量、並びにフルフラール含有量を求めた。
【0207】
検出器:FID
カラム恒温槽温度:200℃
試料導入部温度:250℃
カラム:強極性キャピラリーカラム(長さ:30cm、内径0.5mm、膜厚1.5μm)
尚、アクリル酸とアクリル酸ナトリウムの組成物の場合は、アクリル酸換算で上記メトキシフェノール含有量、並びにフルフラール含有量を求めた。
【0208】
(参考例1)
市販のアクリル酸(和光純薬社製、試薬特級、p−メトキシフェノール200ppm含有)を蒸留して精製したアクリル酸と、市販の水酸化ナトリウム(和光純薬社製、試薬特級)により調製した、71.3モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウムの水溶液5500質量部(単量体濃度38質量%)(アクリル酸中のp−メトキシフェノール含有量:100ppm、アクリル酸中のフルフラール含有量:0.5ppm)に、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)4.0質量部を溶解し反応液とした。次に、この反応液を窒素ガス雰囲気下で30分間脱気した。次いで、シグマ型羽根を2本有する内容積10Lのジャケット付きステンレス製双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器の中に、上記反応液を入れ、反応液を30℃に保ちながら反応器の中を窒素ガス置換した。
【0209】
続いて、反応液を撹拌しながら、過硫酸ナトリウム2.8g及びL−アスコルビン酸0.01gを水溶液で添加したところ、約1分後に重合が開始した。そして、開始温度30℃、30〜90℃の温度範囲で重合を行い、重合開始60分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出した。得られた含水ゲル状架橋重合体は、直径が約1〜2mmに細分化されていた。この細分化された含水ゲル状重合体を300μm金網上に広げ、150℃で90分間熱風乾燥した。次いで、乾燥物を、振動ミルを用いて粉砕し、さらに850μm金網で分級により粒度調整することにより、不定形破砕状の吸水性樹脂粉末を得た。
【0210】
得られた吸水性樹脂粉末100質量部に、プロピレングリコール0.5質量部、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.03質量部、1,4−ブタンジオール0.3質量部、及び水3質量部とからなる有機表面架橋剤を混合した。上記の混合物を200℃で40分間加熱処理することにより吸水性樹脂を得た。
【0211】
得られた吸水性樹脂の無加圧吸収倍率(CRC)は30g/gであり、加圧下吸収倍率(AAP)は25.8g/gであり、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は35×10−7・cm・s・g−1であった。また、質量平均粒子径(D50)は420μmであり、対数標準偏差(σζ)は0.42であり、150〜850μmの粒子の割合は96.9%以上であった。
【0212】
上記吸水性樹脂の着色度は、L値が90.2、a値が−0.37、b値が5.5であった。また、劣化可溶分は25.1%であった。
【0213】
(参考例2)
50%硫酸アルミニウム水溶液(朝日化学工業株式会社製、Feカチオン含有量10ppm)1.0質量部、プロピレングリコール0.025質量部、60%乳酸ナトリウム水溶液0.167質量部を混合し、調製液(a)を作製した。
【0214】
上記調製液(a)1.192質量部に、10%硫酸第一鉄水溶液をそれぞれ0.0027質量部、0.027質量部、0.14質量部、0.27質量部、0.54質量部、1.4質量部、2.7質量部添加したものを作製し、それぞれ混合溶液(b−1)〜(b−7)とした。
【0215】
さらに、46質量%ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム水溶液(キレストPC−45、中部キレスト株式会社製)を、上記混合溶液(b−1)〜(b−7)中にそれぞれ、0.0007質量部、0.007質量部、0.033質量部、0.066質量部、0.131質量部、0.328質量部、0.656質量部添加したものを、それぞれ混合溶液(c−1)〜(c−7)とした。ここで、混合溶液(c−1)〜(c−7)それぞれにおけるジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムのモル量は、Feカチオン(硫酸第一鉄)のモル量の0.37倍に相当する。
【0216】
(参考例3)
参考例1において71.3モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム水溶液5500質量部にポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)6.0質量部を溶解し、反応液とすること以外は、参考例1と同様に操作を行い吸水性樹脂を得た。
【0217】
得られた吸水性樹脂の無加圧吸収倍率(CRC)は27g/gであり、加圧下吸収倍率(AAP)は25g/gであり、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は60×10−7・cm・s・g−1であった。また、質量平均粒子径(D50)は430μmであり、対数標準偏差(σζ)は0.41であり、150〜850μmの粒子の割合は97.1%以上であった。上記吸水性樹脂の着色度は、L値が91.0、a値が−0.35、b値が5.4であった。また、劣化可溶分は20.1%であった。
【0218】
(実施例1)
参考例1で得られた吸水性樹脂100質量部に対して、調製溶液(a)1.192質量部を添加し、混合した。上記混合物をチャック付ビニール袋に入れ、60℃の乾燥機中で硬化を1時間行った。硬化後、20メッシュ(850μm)の篩いを通すことで、吸水性樹脂組成物(D−1)を得た。得られた吸水性樹脂組成物の無加圧下吸収倍率(CRC)は30g/gであり、加圧下吸収倍率(AAP)は24.2g/gであり、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は60×10−7・cm・s・g−1であった。また、質量平均粒子径(D50)は420μmであり、対数標準偏差(σζ)は0.42であり、150〜850μmの粒子の割合は96.9%であった。吸水性樹脂組成物(D−1)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0219】
(実施例2、3)
実施例1において、添加した調製溶液(a)1.192質量部をそれぞれ混合溶液(b−1)1.195質量部、混合溶液(b−2)1.219質量部に変更したこと以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−2)、(D−3)を得た。得られた吸水性樹脂組成物(D−2)、(D−3)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−2)、(D−3)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0220】
(実施例4〜8)
実施例1において、添加した調製溶液(a)1.192質量部をそれぞれ混合溶液(c−1)1.195質量部、(c−2)1.226質量部、(c−3)1.361質量部、(c−4)1.529質量部、(c−5)1.866質量部に変更したこと以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−4)〜(D−8)を得た。得られた吸水性樹脂組成物(D−4)〜(D−8)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−4)〜(D−8)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0221】
(比較例1〜5)
実施例1において、添加した調製溶液(a)1.192質量部をそれぞれ混合溶液(b−3)1.332質量部、(b−4)1.462質量部、(b−5)1.732質量部、(b−6)2.592質量部、(b−7)3.892質量部に変更したこと以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−9)〜(D−13)を得た。得られた吸水性樹脂組成物(D−9)〜(D−13)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−9)〜(D−13)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0222】
(比較例6、7)
実施例1において、添加した調製溶液(a)1.192質量部をそれぞれ混合溶液(c−6)2.877質量部、(c−7)4.563質量部に変更したこと以外は同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−14)、(D−15)を得た。得られた吸水性樹脂組成物(D−14)、(D−15)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−14)、(D−15)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度を測定の測定結果を表1に示す。
【0223】
(実施例9)
気相接触酸化により得られた、市販のアクリル酸(和光純薬社製、試薬特級、p−メトキシフェノール200ppm含有)を、無堰多孔板50段を有する、高沸点不純物分離塔の塔底に供給して、還流比を1として蒸留を行った。更に、蒸留後のアクリル酸を同じ条件で再蒸留した。次いで、再蒸留後のアクリル酸にp−メトキシフェノールを添加し、精製アクリル酸を得た。精製アクリル酸中のp−メトキシフェノール量はアクリル酸に対して90ppmであり、フルフラール量は検出限界(1ppm)以下であった。精製アクリル酸を、参考例1のアクリル酸の替わりに用い、中和を行い、参考例1と同様の操作を行い、吸水性樹脂を得た。更に、実施例1と同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−16)を得た。
【0224】
得られた吸水性樹脂組成物(D−16)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−16)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0225】
(比較例8)
精製アクリル酸の替わりに、市販のアクリル酸(和光純薬社製、試薬特級、p−メトキシフェノール200ppm含有)をそのままアクリル酸として用いたこと以外は実施例9と同様の操作を行い、吸水性樹脂を得た。そして、比較例7と同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−17)を得た。
【0226】
得られた吸水性樹脂組成物(D−17)の無加圧下吸収倍率(CRC)、加圧下吸収倍率(AAP)、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。また、質量平均粒子径(D50)、対数標準偏差(σζ)、150〜850μmの粒子の割合も吸水性樹脂組成物(D−1)と同じ値であった。吸水性樹脂組成物(D−17)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。また、50℃、90%RHで30日間放置後の吸水性樹脂組成物(D−17)の着色度は、L値が53.2、a値が6.6、b値が16.1であった。
【0227】
(比較例9)
容量2Lのポリエチレン容器に、下記の逆相懸濁重合で得られた吸水性樹脂100質量部、亜硫酸ナトリウムA(大東化学工業(株)製、商品名:無水亜硫酸ソーダ・食品添加物用、鉄含有量:1.4ppm)2質量部を仕込み、クロスロータリーミキサー(自転速度30rpm、公転速度30rpm)で1時間混合し、吸水性樹脂組成物(D−18)を得た。吸水性樹脂組成物(D−18)中の鉄含有量は0.3ppmであった。
【0228】
<逆相懸濁重合での吸水性樹脂の製造例>
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素ガス導入管を備えた、容量1000mLの5つ口円筒型丸底フラスコに、n−ヘプタン500mLを加え、界面活性剤としてHLBが3.0のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学(株)社製、商品名:S−370)0.92gを添加して分散させ、界面活性剤を溶解させた。
【0229】
上記5つ口円筒型丸底フラスコとは別に、容量500mLの三角フラスコに、80質量%アクリル酸水溶液92g(使用するアクリル酸は、上述した、市販のアクリル酸(和光純薬社製、試薬特級、p−メトキシフェノール200ppm含有))を仕込んだ。外部から冷却を行いながら、この三角フラスコに30質量%水酸化ナトリウム水溶液102.2gを滴下し、アクリル酸の75モル%が中和された、アクリル酸の部分中和物を調製した。更に、水50.2g、重合開始剤として過硫酸カリウム0.11g、及び架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル9.2mgを上記アクリル酸の部分中和物に添加し、1段目重合用の不飽和単量体水溶液を調製した。
【0230】
上記1段目重合用の不飽和単量体水溶液の全量を、上記5つ口円筒型丸底フラスコの内容物を攪拌しながら、上記5つ口円筒型丸底フラスコの中に加えて、分散させ、系内を窒素ガスで十分に置換した後、50℃まで昇温し、浴温を70℃に保持して、重合反応を1時間行った後、室温まで冷却することにより、重合スラリー液を得た。
【0231】
更に別の容量500mLの三角フラスコに、80質量%アクリル酸水溶液119.1g(使用するアクリル酸は、上述した、市販のアクリル酸(和光純薬社製、試薬特級、p−メトキシフェノール200ppm含有))を加え、冷却しながら30質量%水酸化ナトリウム水溶液132.2gを滴下し、アクリル酸の75モル%を中和した。そして、水27.4g、過硫酸カリウム0.14g及びエチレングリコールジグリシジルエーテル35.7mgを添加し、2段目重合用の不飽和単量体水溶液を調製し、氷水浴で冷却させた。
【0232】
上記2段目重合用の不飽和単量体水溶液の全量を、上記重合スラリー液に添加した後、再び系内を窒素ガスで十分に置換した後、浴温を70℃に保持して、2段目の重合反応を2時間行った。重合反応終了後、n−ヘプタンに分散した含水ゲル状物から、n−ヘプタンとの共沸蒸留により水を系外に除去した。得られたゲル状物に、2質量%エチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液8.44gを添加し、更に水及びn−ヘプタンを蒸留により除去することにより乾燥を行い、吸水性樹脂215.5gを得、比較例1に従って、比較組成物(D−18)を得た。
【0233】
(実施例10)
混合溶液(b−4)に含まれる、ジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウムを、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム塩に変更したこと以外は、実施例4と同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−4’)を得た。吸水性樹脂組成物(D−4’)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0234】
(実施例11)
参考例1で得られた吸水性樹脂100質量部に対して、調製溶液(a)1.192質量部を添加混合する替わりに、参考例3で得られた吸水性樹脂100質量部に対して、調製溶液(a)1.788質量部を添加し混合すること以外は実施例1と同様の操作を行い、吸水性樹脂組成物(D−19)を得た。
【0235】
得られた吸水性樹脂組成物の無加圧吸収倍率(CRC)は27g/gであり、加圧下吸収倍率(AAP)は24g/gであり、生理食塩水流れ誘導性(SFC)は100×10−7・cm・s・g−1であった。また、質量平均粒子径(D50)は420μmであり、対数標準偏差(σζ)は0.42であり、150〜850μmの粒子の割合は96.1%以上であった。吸水性樹脂組成物(D−19)の着色度、劣化可溶分、劣化通液速度の測定結果を表1に示す。
【0236】
【表1】

【0237】
※1 吸水性樹脂組成物中の吸水性樹脂に対する濃度
※2 吸水性樹脂組成物中のアルミニウムカチオンに対する濃度
表1に示すように、実施例1〜3の吸水性樹脂組成物は、比較例1〜5の吸水性樹脂組成物とは異なり、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50000ppm以下であるため、劣化可溶分が少なく、劣化通液速度が速い。また、着色度のL値が大きく、吸水性樹脂組成物の着色が少ない。特に、実施例1ではFeカチオンの含有量が吸水性樹脂に対して0.1ppmであり、実施例2では1ppmであり、上記効果が大きい。
【0238】
また、キレート剤を含有している実施例4〜9の吸水性樹脂組成物は、比較例6、7の吸水性樹脂組成物とは異なり、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して500000ppm以下であるため、劣化可溶分が少なく、劣化通液速度が速い。また、着色度のL値が大きく、吸水性樹脂組成物の着色が少ない。
【0239】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0240】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求事項の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用の可能性】
【0241】
本発明に係る吸水性樹脂組成物は、以上のように、経時変化等による通液性の低下が少なく、着色が少ない。このため、使い捨ておむつなどの吸収体に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】吸水性樹脂組成物の劣化通液速度の測定装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】吸水性樹脂組成物の生理食塩水流れ誘導性(SFC)の測定装置の概略構成を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、
Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して5.00質量%以下であることを特徴とする吸水性樹脂組成物。
【請求項2】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物であって、
Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量が吸水性樹脂に対して1ppm以下であることを特徴とする吸水性樹脂組成物。
【請求項3】
Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して1〜3000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項4】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物であって、
Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50質量%以下であることを特徴とする吸水性樹脂組成物。
【請求項5】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物であって、
Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量が吸水性樹脂に対して1ppm以下であることを特徴とする吸水性樹脂組成物。
【請求項6】
Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して200〜5000ppmであることを特徴とする請求項5に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項7】
上記多価金属カチオンが表面に含有した粒子形状を有しており、
さらに、上記金属カチオンとは別の表面架橋剤によって表面架橋させたものであることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項8】
上記多価金属カチオンがアルミニウムカチオンであることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項9】
劣化通液速度が0より遅く、40秒以下であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項10】
劣化可溶分が0〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項11】
着色度のL値が90.0以上であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項12】
粒子形状を有しており、質量平均粒子径が250〜600μmで、且つ粒子径が150〜850μmの範囲にある粒子が全体の90〜100質量%であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項13】
上記酸基含有不飽和単量体におけるメトキシフェノール類の含有量が10〜180ppmであることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物。
【請求項14】
アクリル酸および/またはその塩を主成分とする酸基含有不飽和単量体を重合して架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を形成する工程と、
上記吸水性樹脂に多価金属カチオンを、上記吸水性樹脂に対して0.001〜5質量%添加する工程とを含む吸水性樹脂組成物の製造方法であって、
上記多価金属カチオンは、Feカチオンを除く多価金属カチオンに対するFeカチオンの含有量が0.50質量%以下であることを特徴とする吸水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
さらに、上記多価金属カチオンを添加する工程とは別に、上記多価金属カチオン以外の表面架橋剤により上記吸水性樹脂を表面架橋する工程を含み、
上記多価金属カチオンを添加する工程を、上記吸水性樹脂を表面架橋する工程中、または上記吸水性樹脂を表面架橋する工程後に行うことを特徴とする請求項14に記載の吸水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
さらに、上記吸水性樹脂にキレート剤を添加する工程を含み、
キレート剤を添加する工程を、吸水性樹脂を形成する工程中、または吸水性樹脂を形成する工程後に行うことを特徴とする請求項14または15に記載の吸水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
吸水性樹脂を形成する上記工程における酸基含有不飽和単量体中に含まれるメトキシフェノール類の含有量を10〜180ppmに調製する工程を更に含むことを特徴とする請求項14〜16の何れか1項に記載の吸水性樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンを含む吸水性樹脂組成物を含み、
紙おむつ、生理用ナプキンまたは失禁パットから選ばれる少なくとも1つの吸収性物品であって、
上記吸水性樹脂組成物は、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して5.00質量%以下であることを特徴とする吸収性物品。
【請求項19】
酸基含有不飽和単量体を重合して得られる架橋構造を有するポリカルボン酸系吸水性樹脂を主成分とし、多価金属カチオンとキレート剤とを含む吸水性樹脂組成物を含み、
紙おむつ、生理用ナプキンまたは失禁パットから選ばれる少なくとも1つの吸収性物品であって、
上記吸水性樹脂組成物は、Feカチオンを除く多価金属カチオンの含有量が上記吸水性樹脂に対して0.001〜1質量%であり、かつ、Feカチオンの含有量がFeカチオンを除く上記多価金属カチオンに対して50質量%以下であることを特徴とする吸収性物品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−520834(P2009−520834A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513520(P2007−513520)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【国際出願番号】PCT/JP2006/325691
【国際公開番号】WO2007/072969
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】