説明

吸水性生地及びこれを用いた衣類

【課題】圧力がかからなくても瞬時に液体の水分は吸収され、大気側の表面層に拡散・移動し、多量発汗時にも快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供する。
【解決手段】本発明の吸水性生地(5,6)は、表面層(1)と裏面層(4)を含む複層の編物または織物からなり、表面層(1)は親水性糸で構成され、裏面層(4)は疎水性糸(2)と親水性糸(3a,3b)が混在して構成され、生地の裏面(4)から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層(1)に拡散する。この吸水性生地は、肌に直接接触する衣類に縫製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に多量発汗時に快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
暑い季節や運動時には多量の発汗をする。多量の発汗により皮膚面が濡れると、べたつき感や濡れ感といった不快感ばかりでなく、体熱放散が促進され、皮膚温を低下させ、体温調節上も好ましくない。登山においては生命維持にもかかわる重要問題となる。このため、皮膚面に液体のままの汗を残留させることなく、速やかに肌着などに吸収し放散させることにより快適性を維持することが求められている。
【0003】
従来、編物の一方の表面に露出する糸を撥水性とし、他方の表面に露出する糸を吸水性にした衣料の提案がある(特許文献1)。また、二重編物の表面層の糸をスリットが設けられた異型断面のポリエステル繊維とし、裏面(肌面)をポリオレフィン仮撚加工糸で構成した丸編地が提案されている(特許文献2)。また本発明者らは、2種類のポリエステル繊維の捲縮率と繊度を変化させ、裏面(肌面)に凹凸をつけてべたつき感を抑えた編地を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−31440号公報
【特許文献2】特開2005−68602号公報
【特許文献3】特許第4068528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の編物は、防水透湿性を有するもので、気体の汗は透過するが、多量の発汗時には液体の汗を透過も移動もしないという問題がある。また、特許文献2〜3に記載の編物は、圧力がかからないと肌面の繊維に吸水されず、通常の着用時の圧力では吸水せず、べたつき感が残るという問題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、圧力がかからなくても瞬時に液体の水分は吸収され、大気側の表面層に拡散・移動し、多量発汗時にも快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の吸水性生地は、表面層と裏面層を含む複層の編物または織物からなる吸水性生地であって、前記表面層は親水性糸で構成され、前記裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成され、前記生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して前記表面層に拡散することを特徴とする。
【0008】
本発明の衣類は、前記の吸水性生地を、肌に直接接触する衣類に縫製したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸水性生地は、生地の裏面(肌面)から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に移動し拡散する性質を有することにより、通常の着用状態において多量発汗しても肌面にはべたつき感も濡れ感も冷感もなく、快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは本発明の一実施例における吸水性生地の断面模式図、図1Bは同、別の実施例における吸水性生地の断面模式図である。
【図2】図2は本発明の一実施例における吸水性生地の編立組織図である。
【図3】図3Aは本発明の一実施例における吸水性生地に水滴を滴下したときの斜視図、図3B及び図3Cは同、水滴が瞬時に表面層に移行・拡散する様子を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸水性生地は表面層と裏面層を含む複層の編物または織物で構成される。具体的には、編物の場合は両面編(二重編、スムース編、インターロック編、ダブルリブともいう。)があり、織物の場合は二重織がある。この吸水性生地の表面層(大気面)は親水性糸で構成され、裏面層(肌面)は疎水性糸と親水性糸が混在して構成される。この構成により、生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層に拡散する。本発明において「瞬時」とは、5秒以内を言う。
【0012】
表面層の親水性糸及び裏面層の親水性糸は、特に限定されないが、ナイロン糸、アセテート糸、エチレンビニルアルコール糸、親水化処理したポリエステル糸及び親水化処理したアクリル糸からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの糸を構成する繊維は水分率が低く、乾きやすいからである。乾きやすい糸を使用することにより、大量の液体汗を瞬時に生地内に吸収し、表面層に拡散し、大気側で乾燥することができる。それゆえ、肌側の繊維はさらに乾いた良好な状態を保つことができる。各繊維の水分率は下記表1のとおりである。水分率の低い繊維は一般的に速乾性も高い。したがって、水分率の低い繊維を使用して、表面のみ親水化した繊維を使用するのが好ましい。
【0013】


【表1】

(備考1)公定水分率は商取引の際の基準となる水分率のことである。
(備考2)標準状態の水分率とは、次の式で計算される。
水分率=[(W−W0)/W0]×100
W:標準状態(20℃、RH65%)における質量
0:20℃、絶乾状態における質量
【0014】
前記表面層の親水性糸及び裏面層の親水性糸は、親水化処理したポリエステル糸が好ましく、親水化処理したポリエステル仮撚捲縮糸がさらに好ましい。仮撚捲縮糸はウーリー糸ともいう。ポリエステル糸は公定水分率が低く(0.4%)、繊維内には保水せず、乾きやすいうえ、腰があり、汗に濡れても型崩れしにくく、しっかりした繊維である。また、ポリエステル仮撚捲縮糸を使用すると、嵩高となり、表面積が増加し、吸水効果を好適な状態に保つことができる。ここで親水化処理とは、(1)糸又は生地にした状態で繊維表面に親水性物質を固着させる、(2)繊維表面に親水性物質をグラフト重合させる処理などを言う。
【0015】
糸又は生地の親水化処理は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、生地を染色加工工程における染色と同時の浴中で親水加工した後、又は、染色後、親水性物質が入った浴槽に生地を浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;糸条をチーズ形状に巻き返し親水性物質で浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;親水性物質の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に親水性物質の付与設備を設け、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法などがある。
【0016】
前記親水性物質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維の親水化処理に用いる場合は、ポリエステル系繊維と親和性のある吸水剤であるポリエチレングリコール、テレフタル酸及びポリエチレングリコールをブロック重合して得られるブロック共重合体などを用いることができる。
【0017】
表面層の親水性糸と裏面層の親水性糸とをいずれも仮撚捲縮糸としてもよい。このようにすると、嵩高となり、表面積が増加し、吸水効果を好適な状態に保つことができる。また、前記裏面層の疎水性糸は、捲縮率が0〜15%であることが好ましい。また、前記裏面層において、親水性糸の捲縮率が、疎水性糸の捲縮率より高いことが好ましく、5%以上高いことがより好ましい。
【0018】
裏面層の疎水性糸は、特に限定されないが、ポリプロピレン糸、ポリエステル撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの繊維は公定水分率が低く吸水しないからである。中でも、ポリプロピレン糸が好ましい。ポリプロピレン糸は公定水分率がもっとも低く(0%)、吸水しないからである。ポリプロピレン糸以外の糸については、撥水加工するのが好ましい。
【0019】
撥水加工は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、糸条をチーズ形状に巻き返し撥水加工剤へ浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;撥水加工剤の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に撥水加工剤の付与設備を設け、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法などがある。
【0020】
前記撥水加工剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤など、通常の合成繊維の撥水剤として使用されるものを用いればよく、特に限定されない。中でも、耐久性の観点から、フッ素系撥水剤が好ましく、ペルフルオロアルキル基含有アクリル共重合体を含むフッ素系撥水剤がより好ましい。また、耐久性の観点から、前記撥水剤に、アミノプラスト樹脂、多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂、エチレンカーボネートなどを併用添加してもよい。
【0021】
裏面層の疎水性糸としてポリプロピレン糸を使用し、裏面層の親水性糸と表面層の親水性糸にポリエステル糸を使用する場合、ポリエステル糸はカチオン可染タイプとするのが好ましい。カチオン可染タイプのポリエステル糸を使用すると染色温度を下げることができ、ポリプロピレン糸を傷めないからである。通常のポリエステル糸を使用すると、分散染料を用いて120〜130℃の染色が必要であるが、カチオン可染タイプのポリエステル糸を使用すると、染色温度は通常のポリエステル糸の温度より20〜30℃下げることができる。
【0022】
前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合が、A:B=1:6〜6:1であることが好ましく、A:B=1:5〜5:1であることがさらに好ましい。この範囲であれば吸水性を高く保てる。また、裏面層の疎水性糸の繊度を1としたとき、親水性糸の繊度が0を超えて1以下であることが好ましく、0.3〜1であることがより好ましい。この範囲であれば同様に吸水性を高く保てる。
【0023】
裏面層の親水性糸の張力は、疎水性糸の張力より高いことが好ましく、5〜10%高いことがより好ましい。張力はニッティング時のテンションによって制御でき、親水性糸のテンションを疎水性糸のテンションより高くすることにより、親水性糸の張力を疎水性糸の張力より高くし、親水性糸のループ長を疎水性糸のループ長より短くすることが好ましく、親水性糸のテンションを疎水性糸のテンションより5〜10%高くすることにより、親水性糸の張力を疎水性糸の張力より5〜10%高くし、親水性糸のループ長を疎水性糸のループ長より5〜10%短くすることがより好ましい。張力またはテンションが前記の範囲であれば、べたつき軽減効果がさらに向上する。
【0024】
本発明の吸水性生地は、肌に直接接触する衣類に縫製することができる。この衣類としては、スポーツウエア、肌着、下着、手袋、ソックスなどに好適である。
【0025】
次に図面を用いて説明する。図1Aは本発明の一実施例における吸水性生地5の断面模式図である。吸水性生地5は表面層1と裏面層4で構成され、表面層1は親水性糸で構成され、裏面層4は疎水性糸2と親水性糸3aが混在して構成される。この生地5は裏面4から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して表面層1に拡散する。図1Bは同、別の実施例における吸水性生地6の断面模式図であり、この生地6は親水性糸3bが疎水性糸2より細いことを除いて同様な構造となっている。図2は本発明の一実施例における吸水性生地の編立組織図である。この編立組織図は両面編(二重編、スムース編、インターロック編、ダブルリブともいう。)の組織図である。直線は針の動きを示し、ループ曲線は表と裏の編糸を示している。
【0026】
図3Aは本発明の一実施例における吸水性生地に水滴を滴下したときの斜視図である。吸水性生地5の裏面層(肌面)4にビュレット7の水8を静かに落として水滴9とした状態を示している。図3B及び図3Cは同、水滴が瞬時に表面層に移行・拡散する様子を示す断面模式図である。すなわち、水滴9は裏面層4(肌面)の親水性糸を伝わって瞬時に表面層1(大気面)に移動して拡散する。10は水拡散部である。その結果、裏面層4(肌面)には常に水分は残らないので、べたつき感はなく、濡れ感も冷感もなく、快適な吸水性生地及びこれを用いた衣類を提供できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
以下において使用される撥水加工されたポリエステルマルチフィラメント糸及び撥水繊維糸であるポリプロピレン糸は、生地の親水化処理時に親水化されない。また、以下において、特に指定がない場合、糸の捲縮率は0%である。
【0029】
(実施例1)
(1)表面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)を使用した。この糸は、裏面層の親水性糸となる糸としても使用した。
(2)裏面層の糸として、フッ素系撥水剤で撥水加工したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、1:1の本数割合で混在するようにした。
(3)編立
前記糸を用いて、図2に示す編物組織図のように両面編物に編みたてた。編み機は福原精機製作所製のセミジャガードを使用し、ゲージ数28/インチとした。なお、裏面層における撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸とポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のニッティングテンションは同様であった。
(4)後処理
得られた両面編生地を、親水化剤としてポリエステル系吸汗剤を3%o.w.f(生地重量あたりの親水化剤の使用量)添加した処理液(130℃)に60分間浸漬し、親水化処理した。その後乾燥し、テンターで所定の幅出しをし、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは140g/m2、ウエールは40/インチ、コースは48/インチであった。
【0030】
(実施例2)
裏面層において、フッ素系撥水剤で撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、1:5の本数割合で混在するようにした以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは139g/m2、ウエールは41/インチ、コースは46/インチであった。
【0031】
(実施例3)
裏面層において、フッ素系撥水剤で撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、5:1の本数割合で混在するようにした以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは140g/m2、ウエールは41/インチ、コースは48/インチであった。
【0032】
(実施例4)
裏面層において、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:5%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:10%)とを、1:1の本数割合で混在するようにした以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。なお、撥水性繊維糸であるポリプロピレン仮撚捲縮糸の配合量は、糸全体量に対して20重量%であった。得られた吸水性生地の目付けは130g/m2、ウエールは35/インチ、コースは41/インチであった。
【0033】
(実施例5)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:10%)を用いた以外は、実施例4と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは135g/m2、ウエールは38/インチ、コースは45/インチであった。
【0034】
(実施例6)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:15%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(、トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:10%)を用いた以外は、実施例4と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは133g/m2、ウエールは38/インチ、コースは42/インチであった。
【0035】
(実施例7)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:0%)を用いた以外は、実施例4と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは132g/m2、ウエールは37/インチ、コースは41/インチであった。
【0036】
(実施例8)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:33dtex、構成本数:12本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:110dtex、構成本数:48本、捲縮率:10%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。なお、疎水性糸であるポリプロピレン仮撚捲縮糸の配合量は、糸全体量に対して30重量%であった。得られた吸水性生地の目付けは136g/m2、ウエールは38/インチ、コースは46/インチであった。
【0037】
(実施例9)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、フッ素系撥水剤で撥水加工されたポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:110dtex、構成本数:48本、捲縮率:20%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。得られた吸水性生地の目付けは133g/m2、ウエールは38/インチ、コースは42/インチであった。
【0038】
(実施例10)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:56dtex、構成本数:24本、捲縮率:10%)を用いた以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。なお、疎水性糸であるポリプロピレン仮撚捲縮糸の配合量は、糸全体量に対して16重量%であった。得られた吸水性生地の目付けは135g/m2、ウエールは39/インチ、コースは
46/インチであった。
【0039】
(実施例11)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:10%)を用い、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のニッティングテンションをポリプロピレン仮撚捲縮糸より5%低くし、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のループ長をポリプロピレン仮撚捲縮糸より5%長くした以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。なお、撥水性繊維糸であるポリプロピレン仮撚捲縮糸の配合量は、糸全体量に対して20重量%であった。得られた吸水性生地の目付けは138g/m2、ウエールは40/インチ、コースは46/インチであった。
【0040】
(実施例12)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリプロピレン仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:10%)を用い、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のニッティングテンションをポリプロピレン仮撚捲縮糸より5%高くし、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸のループ長をポリプロピレン仮撚捲縮糸より5%短くした以外は、実施例1と同様にして、吸水性生地を得た。なお、撥水性繊維糸であるポリプロピレン仮撚捲縮糸の配合量は、糸全体量に対して20重量%であった。得られた吸水性生地の目付けは139g/m2、ウエールは40/インチ、コースは47/インチであった。
【0041】
(実施例13)
裏面層の糸として、フッ素系撥水剤で撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、1:6の本数割合で混在するようにした以外は、実施例1と同様にして、生地を得た。得られた生地の目付けは141g/m2、ウエールは40/インチ、コースは49/インチであった。
【0042】
(実施例14)
裏面層の糸として、フッ素系撥水剤で撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)と、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)とを、6:1の本数割合で混在するようにした以外は、実施例1と同様にして、生地を得た。得られた生地の目付けは140g/m2、ウエールは39/インチ、コースは49/インチであった。
【0043】
(比較例1)
裏面層の糸として、ポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、生地を得た。得られた生地の目付けは142g/m2、ウエールは42/インチ、コースは49/インチであった。
【0044】
(比較例2)
裏面層の糸として、フッ素系撥水剤で撥水処理したポリエステルマルチフィラメント仮撚捲縮糸(トータル繊度:84dtex、構成本数:36本、捲縮率:20%)のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、生地を得た。得られた生地の目付けは140g/m2、ウエールは41/インチ、コースは49/インチであった。
【0045】
実施例及び比較例の生地の液体水分吸収性(吸水性)及び密着性を以下のように測定し、その結果を下記表2に示した。また、生地をランニングシャツに縫製し、以下のように着用感を評価し、その結果を下記表2に示した。なお、下記表2には、裏面層における親水性糸と疎水性糸の本数割合、繊度比、捲縮率の差、張力の差も併せて示した。
【0046】
(液体水分吸収性)
JIS L 1907に準じて、滴下法で液体水分吸収性を測定した。具体的には、図3A−Bに示すように、ビュレット(JIS R 3505活栓付き)を使用して生地の裏面から水滴を1滴(約0.04ml)滴下し、生地の裏面の表面から水滴がなくなるまでの時間を測定した。
【0047】
上記の液体水分吸収性の測定結果に基づいて、生地の吸水性を以下のような4段階で評価した。
A:1S以内であり、吸水性が非常に優れる。
B:1Sを超えて3S以内であり、吸水性が優れる。
C:3Sを超えて5秒以内であり、吸水性を有する。
D:5Sを超えても水分を吸水せず、吸水性を有しない。
【0048】
(密着性)
この測定はべたつき感をデータで表わすために行った。生地の裏面の表面に水分滴下後に圧縮し、引き離す際の垂直方向の摩擦抵抗力を測定した。使用機器はKES(Kawabata's Evaluation System)簡易圧縮計(カトーテック社製)を使用し、圧縮面の直径を3.6cmにし、圧縮速度は0.2cm/sにし、荷重50gfの条件下で測定した。水分滴下量0.1〜1.0mlの範囲で測定し、表2には、水分滴下量が0.5ml及び1mlの場合の結果を示した。
【0049】
上記で測定した水分低下量が1.0mlの場合の摩擦抵抗力により、べたつき感を以下のような4段階で評価し、その結果を下記表2に示した。
A:0〜5gfであり、べたつき感がまったくない。
B:5gfを超えて10gf以下であり、べたつき感がない。
C:10gfを超えて30gf未満であり、べたつき感が若干ある。
D:30gf以上であり、べたつき感がある。
【0050】
(着用試験)
生地をランニングシャツに縫製し、8名の被験者に着てもらい、気温30℃、相対湿度70%の気象条件下、時速10kmの速度で60分間ジョギングをしてもらい、以下のような5段階の基準で着用感を評価した。
A:非常に優れる。
B:優れる。
C:普通。
D:悪い。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の実施例1〜3、実施例13及び実施例14のデータから、裏面層の疎水性糸と親水性糸の混在割合が、本数割合で、1:5〜5:1の範囲である場合、より吸水性に優れ、べたつき感も良好であり、着用感にも優れることが分かる。また、実施例1及び実施例4〜7のデータから、裏面層の親水性糸の捲縮率が疎水性糸の捲縮率より高い、好ましくは5%以上高い場合、よりべたつき感が良好であり、着用感にも優れることが分かる。また、実施例1、実施例11及び実施例12のデータから、裏面層の親水性糸の張力が疎水性糸の張力より高い、好ましくは5%以上高くし、ループ長を短くした場合、より吸水性に優れ、べたつき感も良好であり、着用感にも優れることが分かる。また、実施例1と実施例9のデータ、及び実施例5、実施例8と実施例9のデータから、裏面層の親水性糸の繊度が疎水性糸の繊度より小さく、好ましくは繊度比が、0を超え1以下である場合、よりべたつき感が良好であり、着用感にも優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の吸水性生地は、肌に直接接触する衣類に好適であり、例えばスポーツウエア、肌着、下着、手袋、ソックスなどに好適である。
【符号の説明】
【0054】
1 表面層
2 疎水性糸
3a,3b 親水性糸
4 裏面層
5,6 吸水性生地
7 ビュレット
8 水
9 水滴
10 水拡散部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層と裏面層を含む複層の編物または織物からなる吸水性生地であって、
前記表面層は親水性糸で構成され、
前記裏面層は疎水性糸と親水性糸が混在して構成され、
前記生地の裏面から水滴を滴下したときに瞬時に吸水して前記表面層に拡散することを特徴とする吸水性生地。
【請求項2】
前記裏面層の疎水性糸は、捲縮率が0〜15%である請求項1に記載の吸水性生地。
【請求項3】
前記表面層の親水性糸及び前記裏面層の親水性糸が、ナイロン糸、アセテート糸、エチレンビニルアルコール糸、親水化処理したポリエステル糸及び親水化処理したアクリル糸からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の吸水性生地。
【請求項4】
前記表面層の親水性糸及び前記裏面層の親水性糸が、親水化処理した仮撚捲縮糸である請求項1又は3に記載の吸水性生地。
【請求項5】
前記裏面層の疎水性糸が、ポリプロピレン糸、ポリエステル撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2に記載の吸水性生地。
【請求項6】
前記裏面層において、前記疎水性糸の本数をAとし、前記親水性糸の本数をBとした場合、前記疎水性糸と前記親水性糸の混在割合が、A:B=1:5〜5:1である請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸水性生地。
【請求項7】
前記裏面層において、前記疎水性糸の繊度を1としたとき、前記親水性糸の繊度が0を超え1以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸水性生地。
【請求項8】
前記裏面層において、前記親水性糸の捲縮率が、前記疎水性糸の捲縮率より5%以上高い請求項1〜7のいずれか1項に記載の吸水性生地。
【請求項9】
前記裏面層において、前記親水性糸のループ長が、前記疎水性糸のループ長より短い請求項1〜8のいずれか1項に記載の吸水性生地。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の吸水性生地を、肌に直接接触する衣類に縫製したことを特徴とする衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−256495(P2011−256495A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132953(P2010−132953)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】