説明

吸水性発泡成形品の製造方法

【課題】吸水孔の穿設された樹脂発泡シートの成形性向上を図ること。
【解決手段】連続気泡層を有する樹脂発泡シートの少なくとも一面側から、前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を穿設する吸水孔形成工程を実施した後に、該樹脂発泡シートを2次発泡させて熱成形する吸水性発泡成形品の製造方法であって、前記樹脂発泡シートの2次発泡を前記吸水孔形成工程に連続して実施することを特徴とする吸水性発泡成形品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性発泡成形品の製造方法に関し、より詳しくは、連続気泡層を有する樹脂発泡シートの少なくとも一面側から、前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を穿設する吸水孔形成工程を実施した後に、該樹脂発泡シートを2次発泡させて熱成形を実施する吸水性発泡成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂が用いられてなる樹脂発泡シートや、さらに表面に樹脂フィルムがラミネートされた樹脂発泡シート(以下「フィルム積層発泡シート」ともいう)が食品トレーなどの発泡成形品を製造するための原材料として採用されている。
この種の発泡成形品の製造においては、発泡押出しによって作製された帯状の樹脂発泡シートをロール状に巻き取った原反ロールや、前記樹脂発泡シートに樹脂フィルムが積層されてなる帯状のフィルム積層発泡シートをロール状に巻き取った原反ロールが用いられている。
そして、この種の発泡成形品は、一回の熱成形に必要な長さずつ前記原反ロールからシート成形機にフィルム積層発泡シートなどの原材料を順次供給して前記シート成形機でフィルム積層発泡シートに1又は複数の製品形状を形成させた後に、トムソン刃型などで製品形状の外縁部に沿って切断してフィルム積層発泡シートから発泡成形品を取り出すような連続的な製造がなされている。
【0003】
前記発泡成形品には、強度やクッション性、或いは、熱成形時の成形性に優れることなどが求められることから一般的にはその原材料となる樹脂発泡シートを形成させるのに際しては連続気泡が形成されないような工夫が施されているが、近年、連続気泡層を吸水に利用することが行われており、例えば、連続気泡層を有する樹脂発泡シートの表面に樹脂フィルムがラミネートされたフィルム積層発泡シートに前記樹脂フィルム側から該樹脂フィルムを貫通して前記連続気泡層に至る複数の孔を穿設し、この孔を、前記樹脂フィルムに付着した水を前記連続気泡層に吸収させるための吸水孔として利用することが行われている(下記特許文献1参照)。
【0004】
このフィルム積層発泡シートや、樹脂フィルムがラミネートされていない単なる樹脂発泡シートは、樹脂発泡シートが押出されて原反ロールとして巻き取る際や、原反ロールから所定長さのロールを切り分けるべく巻き換えを行う際に、樹脂発泡シートの移動経路において吸水孔を穿設する工程(吸水孔形成工程)が実施されている。
この吸水孔形成工程は、通常、複数の針状刃の鋭利な刃先を表面に突出させた孔明けローラーを前記移動経路に配置して実施されており、例えば、フィルム積層発泡シートの移動に伴わせる形で前記孔明けローラーをフィルム積層発泡シート上において回転させて前記複数の刃をフィルム積層発泡シートに次々と侵入させるような連続的な手法で前記吸水孔が形成されたりしている。
そして、このようなフィルム積層発泡シートは、前記のような連続的な成形方法によって蓋付容器の蓋体などに成形加工されている。
このようなフィルム積層発泡シートを含め、吸水孔の形成された樹脂発泡シートを熱成形して吸水性発泡成形品を作製する場合には、良好なる成形性を示すことが求められている。
しかし、これまで吸水孔の穿設された樹脂発泡シートの成形性については十分な検討がなされておらず、その対策も確立されてはいない。
そのようなことから、従来、吸水性発泡成形品の製造時における樹脂発泡シートの成形性を十分に向上させることが困難な状況となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3127439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、吸水孔の穿設された樹脂発泡シートの成形性向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明者らは、吸水孔を穿設した後には、樹脂発泡シートに残存する発泡剤の散逸が激しくなって、急速に成形性を低下させることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するための吸水性発泡成形品の製造方法に係る本発明は、連続気泡層を有する樹脂発泡シートの少なくとも一面側から、前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を穿設する吸水孔形成工程を実施した後に、該樹脂発泡シートを2次発泡させて熱成形する吸水性発泡成形品の製造方法であって、前記樹脂発泡シートの2次発泡を前記吸水孔形成工程に連続して実施することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
従来、樹脂発泡シートを原反ロールとして巻き取る際や、原反ロールを切り分けて切り分けロールを作製する際において吸水孔が穿設されていたところ、本発明においては、樹脂発泡シートを2次発泡させる工程の前において前記吸水孔を穿設し、そして、連続して前記2次発泡を実施する。
したがって、発泡剤が十分残存している状況下において熱成形が実施されるため従来に比べて樹脂発泡シートの成形性を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】樹脂発泡シートに吸水孔を形成させるための孔明け治具の一部品(刃付円板)を示す正面図及び側面図。
【図2】樹脂発泡シートに吸水孔を形成させるための孔明け治具(孔明けローラー)を示す正面図。
【図3】フィルム積層発泡シートに吸水孔を形成させる様子を示した概略図。
【図4】実施例1において穿設された吸水孔の正面図及び断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本実施形態に係る吸水性発泡成形品の製造方法について説明する。
なお、ここでは、樹脂発泡シートとしてフィルム積層発泡シートを用い、吸水性発泡成形品として食品包装容器用の蓋体を製造する事例を示しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0012】
まず、この蓋体の形成材料として使用するフィルム積層発泡シートについて説明する。
本実施形態の吸水性発泡成形品の製造方法においては、連続気泡層の形成された一般的な樹脂発泡シートに樹脂フィルムがラミネートされたフィルム積層発泡シートを用いることができる。
このフィルム積層発泡シートを構成する樹脂発泡シートとしては、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を主成分とした樹脂組成物を発泡押出しさせてなるポリオレフィン系樹脂発泡シートや、スチレン単独重合体や、スチレンに共重合させることができるモノマーとスチレンとの共重合体などのポリスチレン系樹脂を主成分とした樹脂組成物を発泡押出しさせてなるポリスチレン系樹脂発泡シートが挙げられる。
【0013】
なお、本実施形態においてフィルム積層発泡シートの形成材料として使用する樹脂発泡シートは、その内部構造についても、従来の連続気泡発泡シートと同様のものを採用することができ、例えば、樹脂組成物を単一の押出機で溶融混練して該押出機に接続されたサーキュラーダイから発泡押出しさせることによって得られるタイプのものを挙げることができる。
このような方法によって得られる樹脂発泡シートは、通常、独立気泡率が高く気泡径の細かな表面スキン層などと呼ばれる層が表面に形成され、この表面スキン層の内側に、該表面スキン層よりも気泡径が大きく隣接する気泡の間の気泡膜に破れが生じて連通状態をなった連続気泡を多数有する(連続気泡率の高い)連続気泡層が備えられている。
すなわち、“表面スキン層/連続気泡層/表面スキン層”の3層構成を有し、前記連続気泡層を吸水(保水)のための層として利用することができるものである。
【0014】
また、前記樹脂組成物を押出機で溶融混練するとともに別の押出機を用いて独立気泡を形成させやすいコンディションで前記樹脂組成物とは異なる樹脂組成物を溶融混練し、これらの溶融混練物を合流させた後でサーキュラーダイから共押出しさせることによって得られる“表面スキン層/連続気泡層/独立気泡層”の3層構成を有する樹脂発泡シートも採用が可能である。
【0015】
なお、前者の発泡シートの方が製造プロセスが単純であり、フィルム積層発泡シートを製造容易なものとすることができる反面、後者の発泡シートの方が、フィルム積層発泡シートの厚みや強度などの調整を図ることが容易である。
また、後者の発泡シートは、独立気泡層の2次発泡性を利用してフィルム積層発泡シートの成形性向上を図ることができる点においても優れているといえる。
【0016】
この連続気泡層とともに独立気泡層を有する樹脂発泡シートを用いてフィルム積層発泡シートを形成させるには、前記独立気泡層の側に樹脂フィルムをラミネートして、こちら側に吸水孔を形成させてもよいが、通常、前記表面スキン層の側に樹脂フィルムをラミネートして表面スキン層側に吸水孔を形成させる。
これは、上記のようにして作製される独立気泡層は、通常、表面スキン層よりも厚みが厚くなるために連続気泡層までの経路長を勘案すると表面スキン層の側に吸水孔を設ける方が吸水性の点において有利となりやすく、しかも、独立気泡層を貫通する形で吸水孔を穿設するとその2次発泡性が損なわれるおそれを有するためである。
このような点においても、フィルム積層発泡シートは、樹脂フィルムの側から順に“樹脂フィルム/表面スキン層/連続気泡層/独立気泡層”となる構成とすることが好ましい。
【0017】
この独立気泡層と連続気泡層とを有する樹脂発泡シートにおいて、前記連続気泡層側を構成させるための樹脂組成物としては、例えば、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などと呼ばれるスチレン単独重合体と、スチレンと共役ジエンとの共重合体の水素添加物と、ポリオレフィン系樹脂との混合物に発泡のための成分を加えたものが挙げられる。
【0018】
スチレンと共役ジエンとの共重合体の水素添加物としては、スチレンと共役ジエンとのブロックもしくはランダム共重合体の水素添加物が好ましい。
特に、JIS K 7215記載のデュロメータタイプA硬度(HDA)の値が30〜90のものが好ましい。
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−エチルブタジエンなどの炭素数4〜10の共役ジエンが挙げられ、好ましいスチレン−共役ジエン共重合体の水素添加物としては、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物である。
これら共重合体の完全飽和型構造は、例えばスチレン−エチレン・ブチレン共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体などである。
これらの共重合体はそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合してもよい。
【0019】
また、前記ポリオレフィン系樹脂は、発泡の際に気泡膜に破泡を生じさせて連続気泡を形成させやすくする成分であり、該ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂などが採用可能である。
【0020】
ポリスチレン樹脂と、スチレンと共役ジエンとの共重合体の水素添加物と、ポリオレフィン系樹脂との割合は、通常、その全量を100質量%とした場合に、ポリスチレン樹脂が50〜94質量%、スチレンと共役ジエンとの共重合体の水素添加物が5〜49質量%、ポリオレフィン系樹脂が1〜10質量%の範囲から選択される。
【0021】
また、前記発泡のための成分としては、タルク、マイカ、モンモリロナイトなどの無機フィラー、フッ素樹脂などの有機微粒子などといった気泡調整剤と、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、ペンタンなどの炭化水素、窒素、二酸化炭素などの不活性ガスなどといった発泡剤とを組み合わせて使用することができる。
また、気泡調整剤として用いることの可能なアゾジカルボンアミドなどの分解型の発泡剤を、単独、又は、前記発泡剤と組み合わせて用いることができる。
前記発泡剤としては、樹脂発泡シートの製造時(1次発泡時)および2次発泡時における発泡性を考慮すると、イソブタンとノルマルブタンを50:50〜80:20の割合で混合した混合ブタンが好ましい。
【0022】
一方で、独立気泡層を構成させる樹脂組成物としては、GPPSに前記のような発泡成分を配合したものが挙げられる。
なお、樹脂発泡シートに対して、後段の2次発泡工程、並びに、熱成形工程において良好なる成形性を発揮させ得るように独立気泡層には、当該樹脂発泡シートの製造直後において1〜5質量%の量の発泡剤を含有させておくことが好ましい。
【0023】
この連続気泡層とともに独立気泡層を有する樹脂発泡シートを用いてフィルム積層発泡シートを形成させるには、前記独立気泡層の側に樹脂フィルムをラミネートして、こちら側に吸水孔を形成させてもよいが、通常、前記表面スキン層の側に樹脂フィルムがラミネートされてこの表面スキン層側に吸水孔が形成される。
これは、上記のようにして作製される独立気泡層は、通常、表面スキン層よりも厚みが厚くなるために連続気泡層までの経路長を勘案すると表面スキン層の側に吸水孔を設ける方が吸水性の点において有利となりやすく、しかも、独立気泡層を貫通する形で吸水孔を穿設するとその2次発泡性が損なわれるおそれを有するためである。
このような点においても、フィルム積層発泡シートは、樹脂フィルムの側から順に“樹脂フィルム/表面スキン層/連続気泡層/独立気泡層”となる構成とすることが好ましい。
【0024】
なお、本実施形態においてフィルム積層発泡シートを構成させるための樹脂発泡シートとしては、2次発泡前における全体の厚みが、通常、1.5mm〜3.5mmのものを採用することができ、その内、連続気泡層が、0.5mm〜1.5mmの厚みを占めるものを採用することができる。
また、前記独立気泡層は、通常、1mm〜3mmの厚みとされる。
また、ASTM D2856−87に基づいて測定することができる連続気泡層の連続気泡率としては、通常、60%〜90%であり、前記独立気泡層の連続気泡率は、通常、0%〜30%である。
【0025】
このような樹脂発泡シートに積層される樹脂フィルムとしては、特に限定がされるものではないが、通常、その厚みは、10μm〜100μmとされる。
また、樹脂フィルムは、その材質も特に限定がされるものではないが、リサイクルなどの観点から、樹脂発泡シートと同じ種類の樹脂が用いられることが好ましい。
例えば、前記樹脂発泡シートとしては、食品包装用容器などにおいて広く用いられており、安価で強度に優れる点においてポリスチレン系樹脂発泡シートが好ましく採用されうるものであるが、その場合には、樹脂フィルムとしてもポリスチレン系樹脂フィルムを採用することが好ましい。
このポリスチレン系樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとの組み合わせは、これらを直接ヒートラミネートすることが可能である点においても好適なものであるといえる。
ただし、要すれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートにポリプロピレン樹脂フィルムをドライラミネートしたものや、接着剤を介してポリエチレンテレフタレートフィルムをラミネートしたフィルム積層発泡シートも製造する吸水性発泡成形品に求められる特性に応じて適宜採用が可能なものである。
【0026】
なお、後述するように、本実施形態においては、前記フィルム積層発泡シートを2次発泡させる際に当該フィルム積層発泡シートに機械的な引っ張りを加えて樹脂フィルムに張力を発生させて吸水孔の開口部を拡大させるような操作を行うものであるが、2次発泡における加熱収縮を生じさせうる樹脂フィルムを採用することで前記吸水孔の開口部を拡大させるのに際してより顕著な効果を期待することができる。
したがって、前記樹脂フィルムとしては、一軸延伸、或いは、二軸延伸された延伸フィルムを採用することが好ましい。
【0027】
また、本実施形態においては、前記フィルム積層発泡シートを食品包装容器用の蓋体の原材料として用いることから前記樹脂フィルムとしては、防曇処理が施されたものが好ましい。
この防曇処理については、樹脂フィルムの素材自体に界面活性剤などを分散させて樹脂フィルムの水に対する濡れ性を改善させる方法や、界面活性剤など含んだ防曇処理剤を樹脂フィルムの表面に塗布して防曇被膜を形成させる方法など、従来採用されている方法を採用することができる。
【0028】
なかでも、非イオン性界面活性剤組成物80〜99質量%とポリビニルアルコール20〜1質量%との混合組成物からなる防曇処理剤によって防曇処理が施されたポリスチレン系樹脂フィルムが好ましく、該ポリスチレン系樹脂フィルムは、前記防曇処理が施された表面と水との接触角が1〜15度であることが好ましい。
また、前記防曇処理剤には、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)が12〜18で、0.1質量%水溶液の25℃での表面張力が30〜39mN/mである非イオン性界面活性剤(A成分)と、0.1質量%水溶液の25℃での表面張力が40〜60mN/mである非イオン性界面活性剤(B成分)とを前記A成分と前記B成分とが、30:70〜95:5(A成分:B成分)となる割合で含有させることが好ましい。
【0029】
なお、「HLB値」とは日本語訳として「親水親油バランス」などと呼ばれたりしているものであり界面活性剤の水と油〔水に不溶性の有機化合物〕への親和性の程度を表す値である。
その具体的な指標としては、下記の通りである。
界面活性剤は、そのHLB値が1〜3程度では水にほとんど分散せず、消泡剤などに使用される。
HLB値が3〜6程度では一部が水に分散し、w/o型エマルジョンの乳化剤として使用される。
HLB値が6〜8程度ではよく混合することによって水に分散して乳濁液となり、w/o型エマルジョンの乳化剤、湿潤剤として使用される。
HLB値が8〜10程度では水に安定に分散して乳濁液となり、湿潤剤やo/w型エマルジョンの乳化剤として使用される。
HLB値が10〜13程度では水に半透明に溶解し、o/w型エマルジョンの乳化剤として使用される。
HLB値が13〜16程度では水に透明に溶解し、o/w型エマルジョンの乳化剤、洗浄剤として使用される。
HLB値が16〜19程度では水に透明に溶解し、可溶化剤として使用される。
【0030】
このような防曇処理剤によって防曇処理が施された樹脂フィルムを用いることによって蓋体の内側に結露水が付着しても、それが容易に濡れ広がって滴下が防止されるとともに前記結露水が吸水孔と接する機会も拡大され、良好なる吸水性が発揮されることになる。
【0031】
なお、本実施形態においては、食品包装容器用の蓋体を例示しているために樹脂発泡シートとしての好適な態様としてフィルム積層発泡シートを採用する事例について述べているが、上記樹脂フィルムは本発明において必須のものではなく、樹脂フィルムなどが設けられていない単なる樹脂発泡シートで吸水性発泡成形品を形成させることも可能である。
【0032】
本実施形態に係る吸水性発泡成形体の製造方法においては、前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を樹脂発泡シートに穿設する吸水孔形成工程と、該吸水孔の形成された樹脂発泡シートを2次発泡させる2次発泡工程と、該2次発泡工程後の樹脂発泡シートを熱成形する熱成形工程とを実施する。
以下に、連続気泡層とともに独立気泡層を有するポリスチレン系樹脂発泡シートと、防曇処理が施された延伸ポリスチレン系樹脂フィルムとを積層したフィルム積層発泡シートによって食品包装容器用の蓋体を形成させる場合の各工程について説明する。
【0033】
(吸水孔形成工程)
前記蓋体を形成させるために、まず、フィルム積層発泡シートに前記樹脂フィルム側から該樹脂フィルムを貫通して前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を穿設する吸水孔形成工程を実施する。
該吸水孔形成工程は、前記吸水孔を穿設するための複数の刃を供えた孔明け治具を用いるなどして実施することができる。
【0034】
この孔明け治具について図を参照しつつ説明する。
図1は、外周部に複数の刃1xを有する刃付円板1の正面図及び側面図であり、図2は、この刃付円板1と該刃付円板1よりも小径な円板状のスペーサー2とを交互に並べてその中心部に回転軸3を貫通させてなる孔明けローラー(孔明け治具)を示す図である。
前記刃付円板1は、その外周部において、径方向に角張った凹凸が周方向に連続して形成されており、この凸部を吸水孔形成のための刃1xとして利用するものである。
【0035】
この凸部(刃1x)は、側面視における形状は三角形となるように径外方に向けて先鋭な状態となっているが、図1(a)に示されているように、その厚みについては、根元部分から先端部分にかけて一定である。
すなわち、刃付円板1の外周に設けられている複数の刃1xは、刃厚一定の三角刃であり先端部の稜線1aの長さを谷1bの長さと一致させている。
該刃付円板1は、その中心部に前記回転軸3を挿通させるための円形の中心孔10が設けられており、該中心孔10を画定している内周縁部の一部を矩形に切り欠く形で前記回転軸3に固定させるためのキー溝11が形成されている。
前記刃1xの先端部分の刃厚は、形成させる吸水孔の大きさなどにもよるが、0.5mm〜2mmであることが好ましく、0.75mm〜1.5mmであることが特に好ましい。
【0036】
なお、図には示していないが、前記スペーサー2にも、この刃付円板1と同様に回転軸3の太さ(直径)に相当する大きさの中心孔とキー溝とが形成されている。
一方で、回転軸3は、前記刃付円板1並びに前記スペーサー2のキー溝とともに矩形のキー孔を形成させ得るように、その長さ方向に沿ってキー溝が設けられている。
そして、前記孔明けローラーは、回転軸3に交互にセットした刃付円板1とスペーサー2とが前記キー孔にキー4が差し込まれて固定されており、前記回転軸3を軸周りに回転させることによって刃付円板1を前記回転軸3周りに回転させうるように構成されている。
【0037】
本実施形態に係る前記吸水孔形成工程は、例えば、帯状のフィルム積層発泡シートに対して吸水孔を穿設する場合であれば、フィルム積層発泡シートの長さ方向に前記回転軸3を直交させるようにして配置し、さらに該孔明けローラーに平行して前記孔明けローラーと略同サイズで外周面が平坦なローラーを配し、該ローラーの外周面と前記孔明けローラーの刃先との間に僅かな間隙を設けて、このローラー間をフィルム積層発泡シートを通過させることによって実施することができる。
すなわち、前記間隙を独立気泡層の層厚み程度に設定して、樹脂フィルム側が孔明けローラー側となるようにしてフィルム積層発泡シートをこれらのローラー間を通過させることにより樹脂フィルムを貫通して連続気泡層に至る吸水孔を帯状のフィルム積層発泡シートに連続的に形成させることができ、効率よく吸水孔形成工程を実施させることができる。
【0038】
また、このような方法によらず、平坦なステージ上に刃先との間に僅かな間隙が形成されるようにして前記孔明けローラーを配して、このステージと前記孔明けローラーとの間をフィルム積層発泡シートを移動させるような方法でも同様に効率よく吸水孔を形成させることができる。
【0039】
このとき前記刃1xが、前記のような刃厚(0.5〜2.0mm)を有していることによって吸水に有利な吸水孔を形成させることができる。
このことを図3を参照しつつ説明する。
図3(a)は、上から順に、樹脂フィルム21、表面スキン層22、連続気泡層23、及び、独立気泡層24の積層構造を有するフィルム積層発泡シート20を長手方向(樹脂発泡シートの押出(MD)方向)に移動させつつ前記孔明けローラーを回転させて前記樹脂フィルム21に刃1xを侵入させて吸水孔30を穿設する様子を示した概略側面図と要部拡大概略斜視図であり、図3(b)は、穿設された吸水孔30をフィルム積層発泡シート20の上面側から見た平面図である。
【0040】
まず、刃付円板1の回転によって刃1xの先端部(稜線1b)がフィルム積層発泡シート20の表面に接して樹脂フィルム21に斜めに方向(孔明けローラーの回転方向。図3正面視左下方向。)に力を加えることで樹脂フィルム21に亀裂を生じさせる(図3(a)左)。
その後、刃付円板1の回転が進むと、樹脂フィルム21が完全に破れ、刃1xの先端の稜線1aに沿った方向(樹脂発泡シートの幅(TD)方向)に裂けるとともに当該刃1xが、ある程度の刃厚を有することで、侵入した刃1xの両エッジe1,e2によって稜線1a方向と直交する方向(MD方向)に樹脂フィルム21が裂けて、アルファベット大文字の“H”のような形状に樹脂フィルム21が裂けて吸水孔30が形成されることになる。
【0041】
このように交差する裂け目が樹脂フィルム21に形成されることが、この吸水孔30を後段の2次発泡工程において拡大させるのに重要な要素となる。
例えば、MD方向に沿った裂け目だけを形成させると、樹脂フィルム21にTD方向に張力を加えると裂け目の幅が広がって、開口部が大きく拡大することになるが、MD方向に張力を加えた場合には開口部を広げる効果があまり発揮されないおそれを有する。
一方で、本実施形態においては、TD方向とMD方向とに裂け目が形成されることから、いずれの方向に張力を加えた場合でも、いずれかの裂け目が大きく広がって吸水孔の開口部を拡大させることができる。
【0042】
しかも、本実施形態においては、刃先が先鋭でなく、ある程度の刃厚を有した刃1xで吸水孔を穿設することから、樹脂フィルム21の一部を引きちぎるようにして樹脂フィルム21を刃先が貫通し、樹脂フィルム21を切断した断片21aを吸水孔の底部に突入させた状態とすることができる。
したがって、刃1xの侵入によって内側に曲がった樹脂フィルム21が真っ直ぐな状態に復元されたとしても、少なくとも、この断片21aの分だけ開口部が確保されることになる。
【0043】
このような、交差する裂け目の形成と、樹脂フィルム21の一部を切断する効果については、必ずしも、前記孔明けローラーによってのみ発揮されるものではなく、前記刃付円板1の外周に設けられているような三角形の板刃(三角刃)を板状基板の一面側に所定の間隔を設けて立設させた孔明け板を前記孔明けローラーに代わる孔明け治具として用い、フィルム積層発泡シートに、この孔明け板で順次吸水孔を穿設するようにしても発揮されるものである。
なお、このようにして形成させる吸水孔は、樹脂フィルムを貫通して連続気泡層に到達するように形成させることが重要であり、好ましくは、連続気泡層の全厚みにわたって貫通させることが好ましい。
【0044】
なお、従来、このような孔明けのための刃としては、多角錐状や円錐状といった先鋭なものが用いられているが、先鋭な刃を用いることでより深い吸水孔を確実に開けることが出来る反面、先鋭な刃によって吸水孔を穿設すると樹脂フィルムに単に裂け目が形成されるのみで刃が抜き去られた後に樹脂フィルムが孔明け前の状態に戻って十分な開口面積が確保できないおそれを有する。
そして、本実施形態においては、後段において説明するように、2次発泡工程においてこの吸水孔の開口部を広げる操作が行われることから従来の先鋭な刃を用いて吸水孔形成工程を実施しても吸水性発泡成形品を吸水性に優れたものとすることができるものの、刃が抜き去られた後に樹脂フィルムが孔明け前の状態に復元してしまうことを防止することができる点においては、前記刃付円板1の三角刃のように最先端まである程度の厚みを有する刃を用いることが好ましい。
【0045】
また、最先端にある程度の面積が確保された刃を用いても前記刃付円板1を用いる場合と同様に、樹脂フィルム21の一部を切断する効果を期待することができ、例えば、先端直径0.5mm〜2mmの円錐台形状、或いは、これと同程度の先端面積(円相当面積)を有する多角錐台形状を有する刃を用いることで樹脂フィルムの復元が抑制され、より吸水性に優れた吸水性発泡成形体を作製させ得る。
なお、このような効果は、前記樹脂フィルムとして、引裂きが生じやすい延伸フィルムが利用されていることによってより顕著に発揮されるものである。
【0046】
このようにして形成される吸水孔の開口部の面積(大きさ)は、0.5mm2/個〜2mm2/個の範囲であることが好ましい。
開口部が0.5mm2/個未満では、この開口部を2次発泡工程において拡大させる際に樹脂フィルムに加えるべき張力が大きくなりすぎるおそれを有し、場合によっては、開口部が狭すぎて、蒸気や水の吸収性が不十分となるおそれがある。
一方、開口部が2mm2/個を超える大きさにしても、それ以上に蒸気や水の吸収性を向上させることが難しく、過度に開口部を大きくさせた場合には、吸水性発泡成形品の強度を低下させるおそれがある。
【0047】
なお、この吸水孔形成工程においてフィルム積層発泡シートに穿設する吸水孔の数などに関しては、その用途に応じて適宜選択すればよいが、一般的な食品包装容器用の蓋体における吸水孔の数は、その開口面積が蓋内面の表面積の1〜30%の割合となるように吸水孔を穿設することが好ましい。
【0048】
(2次発泡工程)
上記のような吸水孔形成工程を実施した後は、連続して2次発泡工程を実施する。
具体的には、吸水孔の穿設されたフィルム積層発泡シートを、上下に加熱用ヒーターを配した加熱装置に導入し前記ヒーター間で所定時間保持して2次発泡させる工程を実施する。
該2次発泡工程では、吸水性の良好なる蓋体を作製する上において、例えば、帯状のフィルム積層発泡シートであれば、その幅方向両端部をクランプして加熱装置に導入し、且つ、前記クランプを離間させる方向(TD方向)にフィルム積層発泡シートを引っ張って樹脂フィルムにテンションを加え、前記吸水孔の開口部を拡張させることが好ましい。
また、要すれば、フィルム積層発泡シートの長手(MD)方向にテンションを加えて吸水孔の開口部を拡張させてもよい。
このとき、フィルム積層発泡シートの厚みや大きさ、材質などにもよるが、通常、2次発泡工程に導入される前の幅(長さ)に対して、加熱装置内におけるフィルム積層発泡シートの幅(長さ)の伸長割合(〔2次発泡後の幅(長さ)−2次発泡前の幅(長さ)〕/2次発泡前の幅(長さ)×100%)が、0.5%以上、好ましくは1.0%以上となるように幅方向への引っ張りを実施することが好ましい。
このことによって吸水孔の開口部の大きさが2次発泡前に比べて拡大されることから吸水性の向上を期待することができる。
なお、過度に引っ張りを行うとクランプ外れなどを引き起こすおそれを有することから加熱装置内におけるフィルム積層発泡シートの幅方向への伸長割合は5.0%以下とすることが好ましい。
【0049】
この2次発泡工程におけるその他の条件、例えば、加熱温度や時間については、フィルム積層発泡シートの厚みや大きさ、材質、などによって適宜決定することができる。
さらには、2次発泡工程における加熱温度や時間については、フィルム積層発泡シートにおける発泡剤の残存量からも適宜決定することができる。
【0050】
なお、従来の吸水性発泡成形品の製造方法においては、帯状のフィルム積層発泡シートをその原材料とする場合には、当該フィルム積層発泡シートを製造し、原反ロールとして巻き取る過程などにおいて前記吸水孔を形成させる工程が実施されていたが、本実施形態においては、フィルム積層発泡シートに対する吸水孔形成工程に連続して当該2次発泡工程を実施する。
【0051】
これは、例えば、フィルム積層発泡シートを構成する樹脂発泡シートとして、ポリスチレン系樹脂発泡シートを採用するような場合においては、ノルマルブタンとイソブタンとの混合ブタンを発泡剤として用いて押出し時の発泡性(一次発泡性)を良好なものとしつつ、得られるポリスチレン系樹脂発泡シートにある程度の期間ブタンが残存するようにして長期にわたって良好な2次発泡性を付与することができるが、従来のように予め吸水孔を穿設させていたのでは、外部とのガス交換が盛んに行われ、例えば、連続気泡層の背面側に独立気泡層を形成させていたとしてもこの独立気泡層に残存する発泡剤が連続気泡層及び吸水孔を通じて散逸されやすいためである。
【0052】
すなわち、吸水性発泡成形品の熱成形性を良好なるものとするために吸水孔形成工程に連続して当該2次発泡工程を実施する必要がある。
この具体的な方法としては、原反ロールから加熱装置にいたる間、すなわち、前記加熱装置の手前に前記孔明けローラーを配し、帯状の樹脂発泡シートを前記加熱装置に順次供給するともともに該樹脂発泡シートの移動に応じて前記孔明けローラーを回転させて、該孔明けローラーの前記刃を樹脂発泡シートに侵入させて前記吸水孔形成工程と前記2次発泡とを連続して実施させる方法が挙げられる。
この場合、吸水孔が穿設された後に、2次発泡工程に導入されるまでの時間は、加熱装置と孔明けローラーとの間の距離とラインスピード(熱成形のショットタイム)などによって変化するが、通常、1時間を超えるような時間を要したのでは、連続して吸水孔形成工程と2次発泡工程とが実施されているとは言えないような状況になる。
したがって、吸水孔の穿設後には、1時間以内に2次発泡させることが好ましく、30分以内に2次発泡させることが好ましい。
【0053】
(熱成形工程)
前記2次発泡工程に続けて実施する熱成形工程は、所謂シート成形機を用いて実施することができ、真空成形、圧空成形、真空・圧空成形、プレス成形などの成形方法で所望の形状をフィルム積層発泡シートに形成させる方法を採用することができる。
本実施形態に係る吸水性発泡成形品として、食品包装容器用の蓋体を形成させるに際しては、食品から発する水分によって結露を生じやすい蓋体の内側に前記吸水孔が来るように熱成形を実施することが好ましい。
【0054】
なお、この熱成形によって製品形状の形成されたフィルム積層発泡シートから、吸水性発泡成形品を取り出す方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、トムソン型による打ち抜き方法や、ニクロムカット方法を採用することができる。
このようにして得られる吸水性発泡成形品には、フィルム積層発泡シートに当初穿設させた吸水孔よりも大きく開口された状態で吸水孔が備えられていることから、優れた吸水性を発揮するものである。
また、本実施形態においては、前記吸水孔形成工程に連続して前記2次発泡工程が実施されているために、樹脂発泡シート中の発泡剤の散逸が抑制され、前記2次発泡工程において良好なる2次発泡性が示されるとともに熱成形においても良好なる成形性が発揮されることになる。
以上のように本実施形態における吸水性発泡成形品の製造方法は、蓋体のような吸水性発泡成形品の製造において良好なる成形性が発揮されるものである。
【0055】
なお、本実施形態においては、食品包装容器用の蓋体を例示していることから防曇処理を施した樹脂フィルムが積層された樹脂発泡シートを例示しているが、本発明においては、樹脂発泡シートをフィルム積層発泡シートに限定するものではなく、樹脂フィルム等の積層されていない、単なる樹脂発泡シートのみからなるものに対して、吸水孔形成工程と2次発泡工程とを連続的に実施する場合も本発明が意図する範囲のものである。
【実施例】
【0056】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<吸水評価>
試料となる蓋体を被せる容器本体としてポリスチレン系発泡シート製の縦205mm、横108mm、高さ45mmの略矩形状容器を用意した。
この容器本体に炊き立ての米飯を260g入れて、予め質量:M0(g)を測定した蓋体を直ちに被せた。
30分放置後、蓋体内側の水滴の付着状況を目視で確認し、付着している水ごと蓋体の質量:M1(g)を測定した。
次に、付着している水分を拭き取った後、蓋体の質量:M2(g)を測定した。

(A)蓋体への付着水分量(g)=M1−M0
(B)蓋体吸水量(g)=M2−M0
【0058】
<実施例1>
連続気泡層(及び表面スキン層)の形成用に、ポリスチレン樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名「XC−515」、メルトマスフローレイト:1.3g/10分)78.9質量%、スチレンと共役ジエンとの共重合体の水素添加物(旭化成社製、商品名「SS9000」)15.8質量%、高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、商品名「HJ565W」、密度:0.968g/cm3、メルトマスフローレイト:5.0g/10分)5.3質量%を含む混合樹脂組成物100質量部に対し、界面活性剤として商品名「エレストマスターS−520」(花王社製のアルキルスルホン酸系界面活性剤20質量%含有ポリスチレン樹脂マスターバッチ)を10質量部、気泡調整剤としてタルク0.6質量部を混合した混合原料を、内径115mmの第一押出機と、内径150mmの第二押出機が連結されたタンデム押出機の第一押出機のホッパーに供給した。
押出機のシリンダー温度は最高220℃とし、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン=70/30)を前記混合樹脂組成物100質量部に対する割合が3.5質量部となるように圧入、混練して、第二押出機にて発泡性溶融混合物を冷却し、樹脂温度を161℃に調整して、150kg/hの押出量で合流金型に流入した。
【0059】
一方、連続気泡層の形成用として、ポリスチレン樹脂(東洋スチレン社製 「HRM−12」、メルトマスフローレイト:5.5g/10分)100質量部に対し、気泡調整剤としてタルク 0.7質量部を混合した混合物を、内径115mmの単軸押出機のホッパーに供給し、押出機のシリンダー温度は最高230℃とし、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン=70/30)を前記ポリスチレン樹脂100質量部に対する割合が4.0質量部となるように圧入、混練し、その後冷却して、溶融混合物の樹脂温度を154℃に調整して、100kg/hの押出量で合流金型に流入した。
合流金型で合流された樹脂は、口径175mmの環状金型に注入され、厚み0.45mmのスリットより円筒形状に押出され、口径670mmの冷却用マンドレルに沿わせて引き取り、マンドレル後部に取り付けた2枚のカッターで円筒状の発泡体を切開して上下2枚の樹脂発泡シートを得た。
なお、このとき、スリットから出た直後の発泡体の内および外にエアーを吹付けて発泡体表面を冷却した。
【0060】
なお、表面スキン層と連続気泡層との合計部分における連続気泡率は72%で、厚みは、1.9mm、密度は0.063g/cm3であった。
また、独立気泡層における連続気泡率は9.9%、厚みは0.9mm、密度は0.089g/cm3であった。
【0061】
このポリスチレン系樹脂発泡シートに旭化成社製の二軸延伸ポリスチレン系樹脂フィルム(商品名「OPSフィルムGMグレード(MBCタイプ)」、厚み25μm)を熱ロール温度175℃、引取りスピード10m/minにて熱ラミネートした。
このフィルム積層発泡シートに対して、図1に示すような形状を有し、外径(刃先までの径)127mm、刃数50、刃角(側面視における頂点角度)60度、刃厚一定(1.0mm)の刃を用い、樹脂フィルム表面からの侵入深さが1.5mmとなるように設定して縦8mm、横16mmの間隔で吸水孔を穿設した(吸水孔形成工程)。
ただし、フィルム積層発泡シートが厚み方向に弾性変形するために、必ずしも、刃先の侵入深さは1.5mmとはならなかった。

そして、吸水孔を穿設した直後に、このフィルム積層発泡シートを、2次発泡後の幅が2次発泡前に比べて約2%広幅となるようTD方向に張力を加えつつ2次発泡させた(2次発泡工程)。
その後、熱成形して縦205mm、横108mm、高さ2.4mmの略矩形状の食品包装容器用の蓋体を製造した(熱成形工程)。
成形後の吸水孔の開口面積は、1.44mm2であり、2次発泡前よりも拡大されていた。
また、蓋体の内側表面積に占める吸水孔の開口部の割合は1.2%であった。
さらに、先の吸水評価の結果は、
(A)蓋への付着水分量が1.08g、
(B)蓋吸水量が0.67g
となった。
【0062】
<実施例2>
刃角60度に代えて90度の刃を用いたこと、刃先の侵入深さの設定値を1.5mmに代えて1.6mmにしたこと以外は、実施例1と同様に吸水孔形成工程を実施し、蓋体を作製した。(2次発泡工程、熱成形工程も実施例1に同じ)
成形後の吸水孔の開口面積は1.58mm2であり、2次発泡前よりも拡大されていた。
また、蓋体の内側表面積に占める吸水孔の開口部の割合は、1.8%であった。
さらに、先の吸水評価の結果は、
(A)蓋への付着水分量が1.14g、
(B)蓋吸水量が0.91g
となった。
【0063】
<実施例3>
根元直径1.2mmの先鋭な針状の刃を用いたこと以外は、実施例1と同様に吸水孔形成工程を実施し、蓋体を作製した。
成形後の吸水孔の開口面積は、2次発泡前よりも拡大されていたが、蓋体の内側表面積に占める吸水孔の開口部の割合は、上記実施例2よりも僅かに劣り、1.4%であった。
さらに、先の吸水評価の結果は、
(A)蓋への付着水分量が3.55g、
(B)蓋吸水量が0.34g
となった。
【0064】
前記実施例1の吸水孔穿設工程後の吸水孔ならびに2次発泡後の吸水孔を、正面から見た様子と断面の様子を図4に示す。
このように吸水孔穿設工程後に比べて2次発泡後の吸水孔は、樹脂フィルムが真っ直ぐな状態に復元しているにも関わらず、大きく開口していることがわかる。
また、図4からも、樹脂フィルムの一部が切断されて吸水孔の底部に侵入された状態になっていることもわかる。
【0065】
前記の全ての実施例においては、発泡不足など見られず、良好なる製品(蓋体)を得ることができた。
また、上記のように内部への吸水性が蓋体に備えられていることが確認できた。
なお、実施例1、2では、蓋吸水量(B)の値が付着水分量(A)の半分以上の値を示し、蓋体の内部に多くの水分が吸収されていることが確認できた。
一方で、実施例3では、開口部の割合が、実施例1よりも大きいにも関わらず付着水分量(A)の約1割程度の蓋吸水量(B)となっていた。
これは、実施例3では、樹脂フィルム表面における開口面積をある程度確保したものの、針状の刃を用いたために刃厚一定の板状刃を用いた実施例1、2の場合に比べて吸水孔が深さ方向に急速に縮径したためであると考えられる。
このことからも先端部にある程度の厚みを有する刃や、ある程度の先端面積を有する円錐台形状のような刃を用いる方が、より一層吸水性向上に効果的であることがわかる。
【符号の説明】
【0066】
1:刃付円板
1x:刃
20:フィルム積層発泡シート
21:樹脂フィルム
23:連続気泡層
30:吸水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡層を有する樹脂発泡シートの少なくとも一面側から、前記連続気泡層に至る複数の吸水孔を穿設する吸水孔形成工程を実施した後に、該樹脂発泡シートを2次発泡させて熱成形する吸水性発泡成形品の製造方法であって、
前記樹脂発泡シートの2次発泡を前記吸水孔形成工程に連続して実施することを特徴とする吸水性発泡成形品の製造方法。
【請求項2】
前記吸水孔を穿設するための複数の刃を外周部に備えた孔明けローラーを前記2次発泡のための加熱装置の手前に配し、帯状の樹脂発泡シートを前記加熱装置に順次供給するともともに該樹脂発泡シートの移動に応じて前記孔明けローラーを回転させて、該孔明けローラーの前記刃を樹脂発泡シートに侵入させて前記吸水孔形成工程と前記2次発泡とを連続して実施する請求項1記載の吸水性発泡成形品の製造方法。
【請求項3】
前記刃が、先端部の刃厚が0.5mm〜2.0mmの三角刃である請求項2記載の吸水性発泡成形品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂発泡シートが一面側に樹脂フィルムが積層されたフィルム積層発泡シートであり、前記吸水性発泡成形品として食品包装容器用の蓋体を製造すべく、前記樹脂フィルムの表面に防曇処理が施されているフィルム積層発泡シートを用いて前記樹脂フィルム側が内側となるように前記熱成形を実施する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸水性発泡成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30509(P2012−30509A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172496(P2010−172496)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(592222444)株式会社積水化成品栃木 (11)
【Fターム(参考)】