説明

吸水拡散性ポリエステル布帛

【課題】 吸水性と拡散性に優れ、かつ、その耐久性がよく、さらにソフトな風合いも有する吸水拡散性ポリエステル布帛を提供する。
【解決手段】 芯鞘構造を有する複合捲縮糸を主成分として形成されたポエステル布帛であって、前記複合捲縮糸の芯部がW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸、鞘部が単糸断面の縦横比率1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で形成されている吸水拡散性ポリエステル布帛。鞘部を形成する扁平ポリエステルマルチフイラメント糸の単糸繊度は2.2dtex以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性と拡散性に優れ、かつソフトな風合いを有する吸水拡散性ポリエステル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、天然繊維に比較して強度や形態安定性に優れているが、吸水性に劣るという欠点がある。
【0003】
そこで、ポリエステル繊維の吸水性を向上させるために吸水ポリマーやプラズマ加工を利用する方法や、繊維の断面を異形にして毛細管現象を利用する方法などが提案されている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開昭54−131045号公報
【特許文献2】特開昭52−148218号公報
【特許文献3】特開昭53−106848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、吸水ポリマーやプラズマ加工を利用する方法は、耐久性のある吸水性を付与し難い上、利用できる布帛の形態に制約がある。また、繊維の断面を異形にする方法では、ソフトな風合いが得られず、天然繊維と比較して着心地が劣るという欠点があった。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決し、吸水性と拡散性に優れ、かつ、その耐久性が良好で、さらにソフトな風合いも有する吸水拡散性ポリエステル布帛を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸が芯部と鞘部を形成した複合捲縮糸で布帛を構成すればよいことを知見して本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の構成を有するものである。
(1)芯鞘構造を有する複合捲縮糸を主成分として形成されたポリエステル布帛であって、前記複合捲縮糸の芯部がW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸、鞘部が単糸断面の縦横比率1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で形成されていることを特徴とする吸水拡散性ポリエステル布帛。
(2)鞘部を形成する扁平ポリエステルマルチフイラメント糸の単糸繊度が2.2dtex以下であることを特徴とする上記(1)記載の吸水拡散性ポリエステル布帛。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸水拡散性ポリエステル布帛は、芯部にW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸が配された複合捲縮糸で形成されており、その断面形状と捲縮とにより隣接する単フイラメント間に空隙が生じるため、毛細管現象による優れた吸水性と拡散性を有しており、その耐久性も優れている。
【0009】
また、複合捲縮糸の鞘部には、単糸断面の縦横比率が1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸、好ましくは単糸繊度が2.2dtex以下の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸が配されているので、優れた吸水性と拡散性に加えてソフトな風合いを有する布帛である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の吸水拡散性ポリエステル布帛は、芯鞘構造を有する複合捲縮糸を主成分として形成されている。複合捲縮糸の芯部は、W型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸で形成されており、単糸繊度が12.0dtex以下、特に0.1〜4.0dtexであると毛細管現象による吸水性と拡散性が向上するので好ましい。単糸繊度が12dtexを超えると、芯部が鞘部の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で被覆され難くなり、布帛にしてもソフトな風合いが得られない場合がある。
【0012】
また、複合捲縮糸の鞘部は、単糸断面の縦横比率が1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で形成されている。縦横比率が上記範囲にあると、水分が鞘部に配された糸によって形成された間隙をぬって、芯部に配された糸によって形成された間隙へ移行しやすいので好ましい。
【0013】
そして、扁平ポリエステルマルチフイラメント糸の単糸繊度は2.2dtex以下、特に0.1〜2.0dtexが好ましく、単糸繊度が2.2dtexを超えると、布帛にしても嵩高でソフトな風合いが得られない場合がある。
【0014】
上記した複合捲縮糸は芯鞘構造を有するものであるが、芯部のマルチフイラメント糸と鞘部のマルチフイラメント糸は明瞭に分離している必要はなく、混繊されていてもよいが、複合捲縮糸表面の60%以上、特に65%以上は扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で形成されていることが好ましく、この割合が60%未満になると、布帛にしてもソフトな風合いが得られない場合がある。
【0015】
また、前記複合捲縮糸の芯部を形成するW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸と、鞘部を形成する扁平ポリエステルマルチフイラメント糸との質量比率は特に限定されるものではないが、布帛に優れた吸水性、拡散性とソフトな風合いを兼備させるためには質量比で芯部/鞘部=30/70〜70/30が好ましい。
【0016】
本発明の吸水拡散性ポリエステル布帛は、上記した複合捲縮糸を主成分として形成されているが、目的とする吸水性と拡散性と風合い応じて上記複合捲縮糸を50〜100質量%の範囲で用いればよく、上記複合捲縮糸のみで形成するのが特に好ましい。
【0017】
また、布帛の形態としては、織物、編物のいずれでもよい。そして、組織については、特に限定されない。
【0018】
上記したように、本発明の吸水拡散性ポリエステル布帛は、芯部にW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸が配された複合捲縮糸で形成されており、その断面形状と捲縮により隣接する単フイラメント間に空隙が生じるため、毛細管現象による優れた吸水性と拡散性を有しており、その耐久性も優れている。
【0019】
また、W型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸は断面形状の影響で剛性が高く風合いが硬くなりやすいが、複合捲縮糸の鞘部には、単糸断面の縦横比率が1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸、好ましくは単糸繊度が2.2dtex以下の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸が配されているので、優れた吸水性と拡散性に加えてソフトな風合いを有する布帛となる。
【0020】
本発明において、複合捲縮糸の芯部と鞘部を形成するポリエステルマルチフイラメント糸のポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のホモポリマー及びこれらを主体として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸等のジカルボン酸成分や他のグリコール成分との共重合体や、上記した各種ポリエステルの混合物が好ましく用いられる。
【0021】
次に、本発明の吸水拡散性ポリエステル布帛の製造法について説明する。
【0022】
まず、交絡糸を製造するため芯部形成用のW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸と、鞘部形成用の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸とを用意する。この場合、両マルチフイラメント糸としては、延伸糸、高配向未延伸糸の何れであってもよいが、延伸糸を用いると後述の仮撚加工を施しても断面形状が変形し難いので好ましい。交絡糸の製造方法としては、例えば、芯部形成用の糸より扁平ポリエステルマルチフイラメント糸を10〜30%のオーバーフィード状態で供給して空気交絡処理を行えばよい。
【0023】
フィード差が10%未満になると、複合捲縮糸が芯鞘構造を呈し難くなるので好ましくない。一方、30%を超えると、鞘部に配された扁平ポリエステルマルチフイラメント糸が交絡糸の表面からループとなって飛び出し、このループを形成する糸が後述の仮撚加工において切断することがあり好ましくない。
【0024】
次いで、得られた交絡糸に仮撚加工を施し、芯鞘構造の複合捲縮糸を得る。そして、得られた複合捲縮糸を用い、常法により製編織及び仕上げ加工を施して目的とする吸水拡散性ポリエステル布帛を得ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各特性は、次の方法により測定した。
・ 吸水性
JIS1096の滴下法により測定した。
・ 拡散性
JIS1096のバイレック法により測定した。
(3)風合い
繊維技術者10名による感触での官能検査で「良好」、「硬い」の2段階評価を行った。
(実施例1)
通常の紡糸工程で、167dtex/48fのフルダルW型断面PET延伸糸と、単糸断面の縦横比率が1:5、110dtex/48fのフルダル扁平PET延伸糸を得た。
【0026】
次いで、扁平PET延伸糸をW型断面PET延伸糸より20%のオーバーフィードで供給して空気交絡処理を行い、得られた交絡糸に仮撚数1700T/M、仮撚ヒータ温度210℃、オーバーフィード率2.0%で仮撚加工を施し、芯鞘構造を有する307dtex/96fの複合捲縮糸を得た。
【0027】
次に、得られた複合捲縮糸を用い、経糸密度74本/2.54cm、緯糸密度53本/2.54cmで平織物を製織し、常法により仕上げ加工を施して本発明のポリエステル布帛を得た。
(比較例1)
167dtex/48fのフルダルW型断面PET延伸糸を167dtex/48fのフルダル丸断面PET延伸糸に代え、かつ110dtex/48fのフルダル扁平PET延伸糸を110dtex/48fのフルダル丸断面PET延伸糸に代える以外は実施例1と同様にして、ポリエステル布帛を得た。
(比較例2)
110dtex/48fのフルダル扁平PET延伸糸を110dtex/48fのフルダルW型断面PET延伸糸に代える以外は実施例1と同様にして、ポリエステル布帛を得た。
【0028】
実施例1と比較例1、2で得られたポリエステル織物の評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1で得られたポリエステル織物は、優れた吸水性と拡散性に加えてソフトな風合いを有する布帛であった。
【0030】
一方、単糸が丸断面の複合捲縮糸を用いた比較例1の織物は、風合いこそ良好であったが、吸水性と拡散性が悪く、また、単糸がW型断面の複合捲縮糸を用いた比較例2の織物は、吸水性と拡散性は良好であったが、風合いが硬いものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘構造を有する複合捲縮糸を主成分として形成されたポリエステル布帛であって、前記複合捲縮糸の芯部がW型又は十字型の単糸断面を有するポリエステルマルチフイラメント糸、鞘部が単糸断面の縦横比率1:3〜1:8の扁平ポリエステルマルチフイラメント糸で形成されていることを特徴とする吸水拡散性ポリエステル布帛。
【請求項2】
鞘部を形成する扁平ポリエステルマルチフイラメント糸の単糸繊度が2.2dtex以下であることを特徴とする請求項1記載の吸水拡散性ポリエステル布帛。


【公開番号】特開2006−104630(P2006−104630A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296204(P2004−296204)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】