説明

吸水易剥離性フィルム、及びこれを用いた壁紙またはラベル

【課題】裏打ち材を必要とせずに接着剤を介して被着体へ容易に適用することができ、これらの被着体から剥離した後に被着体表面に凹凸を残さずに再貼り付けが容易な状態を提供でき、かつ剥離したフィルムをマテリアルリサイクル可能な状態で容易に回収できることを特徴とする吸水易剥離性フィルムを提供すること。
【解決手段】結晶性ポリプロピレン樹脂及び該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂のブレンド物30〜60重量%と、表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末40〜70重量%とを含む、少なくとも1軸方向に延伸された吸水易剥離層(B)[ここでは結晶性ポリプロピレン樹脂100重量部に対し該非相溶性の熱可塑性樹脂が105〜300重量部の割合でブレンドされている]を熱可塑性樹脂を含む基層(A)に積層した構造を含むことを特徴とする吸水易剥離性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を介して、建築材に接着可能な壁紙、若しくはガラス製または樹脂製のボトルに接着可能なラベルとして有用な吸水易剥離性フィルムに関する。特に、天然紙の裏打ち材を必要とせずに直接接着剤を介して建築材などへの貼り付け施工及びボトルなどへの貼着が容易で、かつ建築材及びボトルからフィルムを剥がす際には被着体側に均一面状に吸水易剥離層が残るため、剥離後の被着体は表面に大きな凹凸を残すことがなく、且つ同表面は液体を吸収可能な状態となるために再貼り付けが容易である。またフィルム自体もリサイクル可能な状態で容易に剥離することができ、廃棄物の減量化に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、建築装飾材としての壁紙やビンまたは樹脂ボトル等の容器のラベルの基材として、ポリオレフィンを用いたフィルムや塩化ビニル(PVC)樹脂を主成分とするカレンダー成形フィルムが多く用いられている。通常、これらの樹脂フィルム単体では接着剤を吸収しにくいため、接着側に吸水性樹脂層を積層したり(例えば特許文献1)、もしくは他素材の裏打ち加工を行っている。
【0003】
これらの吸水層の積層を施したフィルムは溶剤系または水系接着剤で被着体に貼り付けることが可能である。しかしこれらの吸水層を積層したものは、被着体から剥がす際に被着体側に材破した吸水層が部分的に残る、もしくは被着体側を材破してしまうことから、剥離面が均一とはならず、この被着体側に壁紙及びラベルを再貼り付けすると下地の凹凸が表面に浮き出てしまい、外観が悪化するために再貼り付けができないという問題があった。
また、壁紙及びラベルの貼り替え時に剥がしたフィルムをマテリアルとしてそのままリサイクルすることができなくなるという問題がある。剥がしたフィルムをリサイクルするためには、フィルムと接着剤を分離する、もしくはフィルムと裏打ち材を分離しなければならないが、通常これらは強固に結合しているため実施は困難である。
【0004】
このため、いずれの様態の壁紙やラベルも、リサイクルする時には樹脂素材以外のものが混入しこれらが熱分解を起こして異物を発生したり、樹脂の流動特性が大きく変動したりすることから、品質上大きな問題となり、マテリアルリサイクル自体を困難にさせている。
【0005】
これらの問題を解決するために、樹脂素材と裏打ち材を分離しうるように工夫された壁紙及びラベルが提案されている。例えば、PVC樹脂層に裏打ち材として水溶性高分子と塩化ビニル系或いは酢酸ビニル系の合成樹脂を含むバインダーを主成分とする塗被層を設けた壁紙であって、温水またはアルカリ性水溶液に浸漬、撹拌することによってPVCと裏打ち材を分離できるようにしたもの(例えば特許文献2)や、裏打ち材と発泡ゲル化したPVC基材との中間にPETフィルムやPPフィルム等を積層したもの(例えば特許文献3)が提案されている。しかしながら、これらの手法は薬品を用いた裏打ち材の分離工程が増えるために、リサイクルに要するコストの上昇やリサイクルされた樹脂素材の品質低下などの問題があり、実用化には至っていない。このため、依然として剥がされた壁紙及びラベルのほとんどは埋め立て、または焼却などで処分されており、樹脂素材としてリサイクルされていないのが現状である。これは昨今の市場要求に反するものである。
【0006】
裏打ち材を用いなくても接着剤を介して壁やボードなどの被着体へ貼付することができるものとして、熱可塑性樹脂、無機微細粉末及び/または有機フィラーを含有する印刷可能な表面層(A)の裏面に、親水性熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂、表面処理された無機微細粉末を含有する裏面層(B)を積層してなり、裏面層(B)の剥離強度が10〜200g/cmであることを特徴とする易剥離性多層樹脂延伸フィルムが提案されている(特許文献4)。この文献には、裏面層(B)に、結晶性ポリプロピレン樹脂を10〜30重量%、親水性樹脂を2〜10重量%、熱可塑性エラストマーを13〜25重量%、表面を親水化処理された無機微細粉末を45〜65重量%含む層を基層に積層した態様が具体的に記載されている。これらの態様は、確かに裏打ち材を用いなくても接着剤を介して被着体へ貼付することができる点で好ましいものであるが、被着体から剥離した際に、裏面層(B)における破壊伝播が不安定な為、被着体表面に凹凸が残って再貼り付けに支障をきたしたり、場合によっては裏面層(B)の破壊伝播が表面層に達したりすることがあって、なお改良が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−347658号公報
【特許文献2】特開平6−173200号公報
【特許文献3】特開平11−293600号公報
【特許文献4】特開2002−200707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの従来技術の問題点を解決することを課題とした。すなわち、本発明は、裏打ち材を必要とせずに、接着剤を介して、壁やボード等の建築材への優れた施工性もしくはビンやボトルへの優れた適用性を有し、これらの被着体から剥離した際に、被着体表面に凹凸を残すことはなく再貼り付けが容易で、かつ剥離した壁紙及びラベルはマテリアルリサイクル可能な状態で容易に回収できる、吸水易剥離性フィルムを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これらの課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、特定の層構成を有する積層樹脂フィルムを形成することによって所期の特性を有する吸水易剥離性フィルムを提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、基層(A)と吸水易剥離層(B)の積層樹脂フィルムを含む吸水易剥離性フィルムであって、該基層(A)が熱可塑性樹脂を含み、該吸水易剥離層(B)が、結晶性ポリプロピレン樹脂及び該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂のブレンド物30〜60重量%と、表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末40〜70重量%とを含み、該ブレンド物において、結晶性ポリプロピレン樹脂100重量部に対し該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂が105〜300重量部の割合でブレンドされており、且つ、該吸水易剥離層(B)が少なくとも1軸方向に延伸されていることを特徴とする吸水易剥離性フィルムに関するものである(図1参照)。
【0010】
該結晶性ポリプロピレン樹脂は、その結晶化度が65%以上であることが好ましい。
該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、スチレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エチレン−環状オレフィン共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0011】
該表面処理剤は、水溶性アニオン系界面活性剤、水溶性カチオン系界面活性剤、及び水溶性非イオン系界面活性剤からなる群より選択される表面処理剤であることが好ましい。
該吸水易剥離層(B)が、更に無機微細粉末の分散剤を、表面処理した無機微細粉末100重量部に対し0.5〜30重量部含むことが好ましく、 該分散剤は、マレイン酸変性ポリオレフィン及びシラノール変性ポリプロピレンの少なくとも一方であることが好ましい。
該吸水易剥離層(B)は、表面を親水化処理していない無機微細粉末および有機微細粉末の少なくとも一方を0.1〜30重量%更に含んでいても良い。
【0012】
該吸水易剥離層(B)は「Japan TAPPI No.51−2000」により測定される蒸留水の転移量が1〜20ml/m2であることが好ましい。該吸水易剥離性フィルムは吸水易剥離層(B)側に水系接着剤を施すことで被着体に貼着可能である。
また、該積層樹脂フィルムの該被着体への貼着後において、被着体から積層樹脂フィルムを剥離する際の剥離強度が、50〜180gf/18mmであることが好ましい。被着体から積層樹脂フィルムを剥離する機構は、吸水易剥離層(B)内の凝集破壊により進行する。結果として被着体表面には吸水易剥離層(B)の一部が残留することで、この残留物により、フィルム剥離後の被着体表面も液体を吸収することができる。
また、基層(A)は多層構造であっても良い。
【0013】
該吸水易剥離性フィルムには必要に応じて隠蔽層(C)を設けても良い。該隠蔽層(C)は、吸水易剥離層(B)側表面への黒色印刷または灰色印刷、基層(A)への隠蔽顔料添加、もしくは基層(A)間への黒色印刷の挿入などの手法により形成されたものが好ましい。
該基層(A)側の表面には種々の印刷手法に対応するため、更にコート層(D)を積層しても良い。
本発明は、上記吸水易剥離性フィルムの吸水易剥離層(B)側に水系接着剤を施すことにより、壁紙やラベルとして用いることができ、これらの様態のものも含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吸水易剥離性フィルムは、裏打ち材を必要とせずに、接着剤を介して、建築材や容器などの被着体へ容易に貼着することができる。また、これらの被着体から剥離した際に、被着体表面に凹凸を残すことがないため、さらにその上から再貼り付けを容易に行うことができる。さらに、被着体から剥離したフィルム(壁紙やラベル)はマテリアルリサイクル可能な状態で容易に回収できるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の吸水易剥離性フィルムの層構成を示す断面図である。
【図2】実施例の吸水易剥離性フィルムの層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の吸水易剥離性フィルムついて、更に詳細に説明する。本発明の積層フィルムは上述したように、基層(A)及び吸水易剥離層(B)より構成されてなり、必要により水系接着剤、溶剤系接着剤、粘着剤を設けても良く、更に離型紙やその他の積層フィルムを設けても良い。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
[基層A]
基層(A)は熱可塑性樹脂を含み、それ自体の強度が後述の吸水易剥離層(B)の強度よりも高く、(A)層を持って引き剥がしたときに、それ自体内は破断をしない強度を有するものである。基層(A)は透明であっても、半透明であっても、不透明であっても良い。
基層(A)に用いる熱可塑性樹脂の種類は特に制限されない。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂の中では、加工性に優れるポリオレフィン系樹脂、官能基含有ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂のより具体的な例としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチル−1−ペンテン、環状オレフィンなどのオレフィン類の単独重合体、及び、これらオレフィン類2種類以上からなる共重合体が挙げられる。
【0018】
官能基含有ポリオレフィン系樹脂のより具体的な例としては、前記オレフィン類と共重合可能な官能基含有モノマーとの共重合体があげられる。かかる官能基含有モノマーとしては、スチレン、αメチルスチレンなどのスチレン類、酢酸ビニル、ビニルアルコール、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸エステル類((メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを指す)、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類が特に代表的なものである。これら官能基含有モノマーの中から必要に応じ1種類もしくは2種類以上を適宜選択し重合したものを用いることができる。更にこれらポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂を必要によりグラフト変性して使用することも可能である。
【0019】
グラフト変性には公知の手法がもちいることができる。具体的な例としては、不飽和カルボン酸またはその誘導体によるグラフト変性を挙げることができる。該不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。また上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等も使用可能である。具体的には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等を挙げることができる。グラフト変性物はグラフトモノマーをポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂に対して一般に0.005〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%グラフト変性したものが好ましい。
【0020】
基層(A)の熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂の中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用してもよい。更にこれらポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂の中でも、プロピレン系樹脂が、耐薬品性、コストの面などから好ましい。プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体でありアイソタクティックないしはシンジオタクティック及び種々の程度の立体規則性を示すポリプロピレン、プロピレンを主成分とし、これと、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のαオレフィンとを共重合させた共重合体を主成分として使用することが望ましい。この共重合体は、2元系でも3元系以上でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。プロピレン系樹脂には、プロピレン単独重合体よりも融点が低い樹脂を2〜25重量%配合して使用することが好ましい。そのような融点が低い樹脂として、高密度ないしは低密度のポリエチレンを例示することができる。
【0021】
基層(A)には、熱可塑性樹脂以外に、必要に応じて無機微細粉末、有機フィラー、熱安定剤(酸化防止剤)、光安定剤、分散剤、滑剤などを添加することができる。無機微細粉末を添加する場合は、平均粒径が通常0.01〜15μm、好ましくは0.1〜5μmのものを使用する。具体的には、炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、珪藻土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバーなどを使用することができる。
【0022】
有機フィラーを添加する場合は、主成分である熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂を選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂フィルムがポリオレフィン系樹脂フィルムである場合には、有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6、ナイロン−6,6、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の重合体であって、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)ないしはガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有し、かつ非相溶のものを使用することができる。
【0023】
熱安定剤を添加する場合は、通常0.001〜1重量%の範囲内で添加する。具体的には、立体障害フェノール系、リン系、アミン系等の安定剤などを使用することができる。光安定剤を使用する場合は、通常0.001〜1重量%の範囲内で使用する。具体的には、立体障害アミンやベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系の光安定剤などを使用することができる。分散剤や滑剤は、例えば無機微細粉末を分散させる目的で使用する。使用量は通常0.01〜4重量%の範囲内にする。具体的には、シランカップリング剤、オレイン酸やステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸ないしはそれらの塩等使用することができる。
【0024】
基層(A)の肉厚は通常30〜500μm、好ましくは70〜300μmの範囲である。30μm未満では壁紙等として被着体に貼り付ける際に、貼り皺が発生しやすくきれいに被着体に貼れないため実用上使用が困難である。又、500μmを越えてしまうと吸水易剥離性フィルムの腰が高くなり、加工、印刷適性が低下する。
基層(A)は、2層構造、3層以上の多層構造のものであってもよい。基層(A)の多層化により筆記性、印刷適性、耐擦過性、2次加工適性等の様々な機能の付加が可能となる。
【0025】
基層(A)を多層構造にする場合は、後述の吸水易剥離層(B)に接する層である(A1)層の無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方の含有量は吸水易剥離層(B)よりも5重量%以上、好ましくは10重量%以上少ないことが望ましい。(A1)層の無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方の含有量が吸水易剥離層(B)に対して、5重量%以上低いことによって吸水易剥離層(B)と(A1)層のボイド率に差ができ、吸水易剥離層(B)のみに破壊伝播することができる。具体的には、(A1)層は熱可塑性樹脂を35〜100重量%、好ましくは40〜100重量%、無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を0〜65重量%、好ましくは0〜60重量%を含む。
この多層構造の延伸軸数は、例えば2層構造の場合は、表面層/(A1)層として、無延伸/1軸、無延伸/2軸、1軸/1軸、1軸/2軸、2軸/1軸、2軸/2軸、を例示できる。
【0026】
[吸水易剥離層(B)]
本発明に於ける吸水易剥離層(B)は、液体の吸収が可能であることから特に水系の接着剤を適用可能であり、同接着剤を介して被着体での接着を可能とすると同時に、基層(A)よりも脆性で強度が弱い層であり、同層(B)の破壊により接着剤を含まない様態でフィルムを容易に剥離することができる。また同層(B)は従来公知の吸水層と比べて均一面状に剥離することができることから、被着体表面に同層(B)に由来する粗大な凹凸を残すことはなく、同被着体は再度別のフィルムを貼り付けても外観を損ねることはない。
本発明に於ける吸水易剥離層(B)の液体の吸収は、表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末を配合し、同層(B)を延伸した際にこれを核として多数の表面開口や内部空孔が形成されることに因る。
【0027】
また本発明のフィルムの剥離は、吸水易剥離層(B)の破壊(凝集破壊)により行われる。本発明では、同層(B)の破壊をより円滑にするため、樹脂材料として相互に非相溶の少なくとも2種の樹脂を配合し、相分離した状態のまま延伸することで、上記空孔の界面のみならず、これら樹脂間の界面でも剥離が起こり、同層(B)は均一面状に剥離することが可能になった。
本発明の吸水易剥離層(B)は結晶性ポリプロピレン樹脂及び該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂のブレンド物を30〜60重量%、好ましくは35〜50重量%、表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末40〜70重量%、好ましくは50〜65重量%を含み、該吸水易剥離層(B)が少なくとも1軸方向に延伸されていることを特徴とする。吸水易剥離層(B)中の無機微細粉末の含有量が40重量%未満では、充分な剥離性が得られない。逆に70重量%を越えては成形安定性が損なわれる。
【0028】
該ブレンド物において、結晶性ポリプロピレン樹脂100重量部に対し該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂は105〜300重量部、好ましくは120〜285重量部、より好ましくは140〜270重量部の割合でブレンドされている。該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、スチレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エチレン−環状オレフィン共重合樹脂、ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは2種以上混合して用いることもできる。これらの中でも、耐薬品性や生産コスト等の観点より、ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。非相溶性の熱可塑性樹脂の存在により、延伸フィルム作製時に結晶性ポリプロピレン樹脂とポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂間で界面剥離が生じ剥離性を向上させている。ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂が105重量部未満、または300重量部を超える場合は十分な剥離性が得られない。
【0029】
本発明において結晶性ポリプロピレン樹脂とは上記のプロピレン系樹脂であって、その結晶化度が65%以上であることが好ましく、66%以上であることが更に好ましく、67〜80%であることが特に好ましいものである。結晶化度が65%以上であれば、結晶性ポリプロピレン樹脂の非晶部と熱可塑性樹脂の相溶が進みにくくて所期の界面剥離の効果が得られやすくなり、剥離に要する応力(剥離強度)を適度に小さくすることができる。また、結晶化度が80%以下であれば、商業的に入手することが容易である。
本発明において結晶性ポリプロピレン樹脂における結晶化度は、同樹脂サンプルを105℃に設定したオーブン中で90分間アニール処理を施した後、温度23℃の条件下で、密度勾配管法または水中置換法(両者は換算式により相互に補正可能)により求めた結晶性ポリプロピレン樹脂の密度から、下記式(1)を用いて算出した。
【数1】

(上記式(1)中、ρSは結晶性ポリプロピレン樹脂の密度であり、ρCは論理的に求められたポリプロピレン樹脂の結晶部の密度(0.938g/cm3)であり、ρAは論理的に求められたポリプロピレン樹脂の非晶部の密度(0.852g/cm3)である。)
そのため上記の結晶化度を達成するためには、吸水易剥離層(B)に用いる結晶性ポリプロピレン樹脂の密度が0.906g/cm3以上であることが好ましく、0.907g/cm3以上であることがより好ましく、0.908g/cm3以上であることが特に好ましい。
本発明において「非相溶」とは、結晶性ポリプロピレン樹脂と、非相溶性の熱可塑性樹脂のブレンド物を電子顕微鏡で観察した場合、海島構造のモルフォロジーを有しており、その構造の寸法が0.3〜10μmであることを指す。
【0030】
表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末において、該無機微細粉末として、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、珪藻土、酸化珪素などの無機微細粉末、無機微細粉末の核の周囲にアルミニウム酸化物ないしは水酸化物を有する複合無機微細粉末、中空ガラスビーズ等を例示することができる。中でも重質炭酸カルシウム、焼成クレイ、珪藻土は、安価で延伸時に多くの空孔を形成させることができるために好ましい。該表面処理剤としては、平均分子量が1,000〜15,000の、水溶性アニオン系界面活性剤、水溶性カチオン系界面活性剤、及び水溶性非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0031】
かかる界面活性剤の具体例として、例えば水溶性アニオン系界面活性剤としては、炭素数4〜40の範囲の炭化水素基を有するスルホン酸塩、炭素数4〜40の範囲の炭化水素基を有するリン酸エステル塩、炭素数4〜40の範囲の高級アルコールのリン酸モノまたはジエステルの塩、炭素数4〜40の範囲の炭化水素基を有するアルキルベタインやアルキルスルホベタインなどが挙げられる。例えば水溶性カチオン系界面活性剤としては、ジアリルアミン塩、炭素数1〜4の範囲のアルキルジアリルアミン塩及びジアルキルジアリルアミン塩、すなわちメチルジアリルアミン塩やエチルジアリルアミン塩、ジメチルジアリルアミン塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム、アクリロイルオキシエチルトリメリルアンモニウム、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムやアクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムのクライド、ブロマイド、メトサルフェート、またはエトサルフェート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートやN,N−ジメチルアミノエチルアクリレートをエピクロロヒドリン、グリシドール、グリシシジルトリメチルアンモニウムクロライドなどのエポキシ化合物でアルキル化して得られる4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、好ましくはジアリルアミン塩、メチルジアリルアミン塩及びジメチルジアリルアミン塩である。例えば水溶性非イオン系界面活性剤としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロドリン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステルが挙げられる。これらの中でも好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミドである。
【0032】
また本発明の吸水易剥離層(B)には、上記の表面を親水化処理された無機微細粉末に加えて、異なる種類の無機微細粉末や有機微細粉末を組み合わせて配合するものであっても良い。具体的に吸水易剥離層(B)は更に、表面を親水化処理されていない無機微細粉末および有機微細粉末の少なくとも一方を0.1〜30重量%含むものであっても良い。組み合わせて配合する場合は、吸水易剥離層(B)に用いる微細粉末を100重量%としたとき、表面が親水化処理されている無機微細粉末は50〜99.9重量%とし、表面が親水化処理されていない無機微細粉末および有機微細粉末の少なくとも一方は0.1〜50重量%とすることが好ましく、表面が親水化処理されている無機微細粉末を55〜80重量%、表面が親水化処理されていない無機微細粉末および有機微細粉末の少なくとも一方を20〜45重量%とすることがより好ましい。
ここで「表面を親水化処理していない無機微細粉末」とは、上記表面処理剤により意図して親水化処理を施していない無機微細粉末を指し、通常の粉砕、分級、沈降等のプロセスを経て得られた無機微細粉末を指す。例えば親水化処理された炭酸カルシウム微細粉末と、通常の重質炭酸カルシウム微細粉末とを混合すれば吸水易剥離層(B)からの溶出物量を調整することができ、例えば親水化処理された炭酸カルシウム微細粉末と、有機微細粉末とを組み合わせれば吸水性を調整することができる。このように異なる種類の微細粉末を配合する場合であっても、微細粉末の総量が70重量%を超える場合は吸水易剥離性フィルムの延伸成形性が悪化し成形安定性が損なわれるため好ましくない。
【0033】
また本発明の吸水易剥離層(B)は、無機微細粉末を均一に微分散するために、分散剤を含むことが好ましい。
無機微細粉末の分散剤として、例えば酸変性ポリオレフィン、シラノール変性ポリオレフィンなどを例示することができる。
本発明においては、特にマレイン酸変性ポリオレフィン及びシラノール変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。
該酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸をランダム共重合もしくはグラフト共重合した無水酸基含有ポリオレフィン、あるいはメタクリル酸、アクリル酸などの不飽和カルボン酸をランダム共重合もしくはグラフト共重合したカルボン酸基含有ポリオレフィン、グリシジルメタクリレートをランダム共重合もしくはグラフト共重合したエポキシ基含有ポリオレフィンなどが挙げられる。具体例としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン、アクリル酸変性ポリプロピレン、エチレン・メタクリル酸ランダム共重合体、エチレン・グリシジルメタクリレートランダム共重合体、エチレン・グリシジルメタクリレートグラフト共重合体、グリシジルメタクリレート変性ポリプロピレンなどが挙げられ、なかでも特に好ましくは無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び無水マレイン酸変性ポリエチレンである。
【0034】
無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び無水マレイン酸変性ポリエチレンの具体例としては、三菱化学(株)製のモディックAP、商品名「P513V」や商品名「M513」や商品名「P928」、三洋化成工業(株)製、商品名「Umex1001」や商品名「Umex1010」や商品名「Umex2000」、三井・デュポンケミカル(株)製のHPR、商品名「VR101」が挙げられる。
酸変性ポリオレフィンの酸変性率は、0.01〜20%が好ましく、0.05〜15%がより好ましい。酸変性率が0.01%以上であれば、表面処理した無機微細粉末の樹脂ブレンド物中への分散効果が十分に得られやすい。酸変性率が20%以下であれば、酸変性ポリオレフィンの軟化点が低くなりすぎることがないため熱可塑性樹脂とのコンパウンドが比較的容易である。
【0035】
吸水易剥離層(B)へ分散剤を配合する場合の分散剤の含有量は、表面処理した無機微細粉末100重量部に対して、通常0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。分散剤の含有量が0.5重量部以上であれば、表面処理した無機微細粉末が十分に分散するため、所望の表面開口率が得られやすく、液体吸収容積を改善しやすい。また、30重量部以下であれば、延伸性が良好で成形時における延伸切れを抑えることができる。
【0036】
吸水易剥離層(B)の肉厚は好ましくは1〜30μm、より好ましくは1.5〜15μmの範囲である。1μm以上であれば、十分な剥離性と液体吸収容積が得られやすくなる傾向がある。また30μmを越えても剥離する際の剥離強度には問題はないが、30μm以下であれば剥離位置が安定して剥離面が均一になりやすいため、壁紙及びラベルを再貼り付けする際に凹凸が表面に浮き出しにくい傾向がある。吸水易剥離層(B)は少なくとも1軸方向に延伸されている延伸樹脂フィルム層である。延伸成形により表面開口や内部空孔を形成し、樹脂の配向により均一に剥離しやすい層(B)を得ると同時に、厚みが薄く、均一性の取れた吸水易剥離層(B)を得る事が可能となる。
【0037】
また、吸水易剥離層の表面開口率は7%以上であることが好ましく、10%〜40%であることがより好ましい。表面開口率が7%以上であれば十分な液体吸収性が得られやすい傾向がある。
【0038】
本明細書における「表面開口率」は、吸水易剥離層(B)側の面を電子顕微鏡で観察したときの観察領域中に空孔が占める面積割合を示す。具体的には、積層樹脂フィルム試料より任意の一部を切り取り、観察試料台に貼り付け、その観察面に金ないしは金−パラジウム等を蒸着して電子顕微鏡(例えば日立製作所(株)製の走査型顕微鏡S−2400)を使用して観察しやすい任意の倍率(例えば500倍〜3000倍に拡大)にて表面の空孔を観察することにより求めることができる。さらに観察した領域を写真等に撮影し、空孔をトレーシングフィルムにトレースして塗りつぶした図を画像解析装置(ニレコ(株)製:型式ルーゼックスIID)で画像処理し、空孔の面積率を吸水易剥離層(B)表面の開口率とすることができる。
【0039】
[フィルムの製造]
基層(A)及び吸水易剥離層(B)は積層後に少なくとも1軸方向に延伸することが好ましい。本発明の吸水易剥離層(B)は強度が低く、肉厚が薄い為、吸水易剥離層(B)単層での延伸成形は極めて困難である。基層(A)と吸水易剥離層(B)を積層後延伸することにより、吸水易剥離層(B)の延伸が容易となる。従って基層(A)は吸水易剥離層(B)を延伸するための担持体としても有用である。
かかる積層方法についても公知の種々の方法が使用できるが、具体例としては、フィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス方式と、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等がある。又、多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0040】
延伸には、公知の種々の方法を使用することができる。延伸の温度は、基層(A)に主に用いる熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の熱可塑性樹脂に好適な公知の温度範囲内で行うことができる。具体的には、基層(A)の熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)の場合は100〜166℃、高密度ポリエチレン(融点121〜136℃)の場合は70〜135℃であり融点より1〜70℃低い温度である。延伸の具体的な方法としては、ロール群の周速差を利用したロール間延伸、テンターオーブンを利用したクリップ延伸などを挙げることができる。ロール間延伸によれば、最外層である吸水易剥離層(B)に含まれる表面処理剤がロール上に付着し堆積する危険性があるので、テンター延伸で成形することが好ましい。
【0041】
延伸倍率は特に限定されるものではなく、本発明の壁紙及びラベルの使用目的と、用いる樹脂の特性を考慮して決定する。延伸軸数が一軸である場合、延伸倍率は通常は2〜11倍であり、好ましくは3〜10倍の範囲内で延伸する。なかでも延伸倍率は4〜7倍がより好ましい。テンターオーブンを利用したクリップ延伸の場合は4〜11倍で延伸することが好ましい。延伸軸数が二軸である場合の面積倍率としては、通常は2〜80倍であり、好ましくは3〜60倍、より好ましくは4〜50倍である。面積倍率が2倍未満ではフィルムの表面に所定の開口率が得られず十分な吸水性も得られずその表面に被着体との密着性の良好な接着剤層を設けることが困難になる傾向がある。また80倍を超えると延伸切れや粗大な穴あきが多くなる傾向がある。
【0042】
延伸後の積層樹脂フィルムには熱処理を行うのが好ましい。熱処理の温度は、延伸温度から延伸温度より30℃高い温度の範囲内を選択することが好ましい。熱処理を行うことにより、延伸方向の熱収縮率が低減し、製品保管時の巻き締まりや、熱及び溶断シール時の収縮による波打ち等が少なくなる。熱処理の方法はロールまたは熱オーブンで行うのが一般的であるが、これらを組み合わせてもよい。これらの処理は延伸したフィルムを緊張下に保持した状態において熱処理するのがより高い処理効果が得られるので好ましい。
【0043】
また、熱処理後には表面にコロナ放電処理やプラズマ処理などの酸化処理を施すのが好ましい。酸化処理を施すことにより表面の濡れ性がより向上し、水系接着剤層を設ける際には水系接着剤の溶媒吸収速度が向上し吸水易剥離層(B)表面の開口部に接着剤成分がより早く、より多く入り込む利点があるため望ましい。さらには、吸水易剥離層(B)と水系接着剤との接着性が向上する利点もある。
【0044】
前記の方法により製造される吸水易剥離層(B)の液体吸収容積は1〜20ml/m2であるのが好ましい。これは表面処理した無機微細粉末の配合量及び延伸倍率に影響される吸水易剥離層(B)の内部の空孔率、ならびに吸水易剥離層(B)の肉厚により調整することができる。液体吸収容積が1ml/m2未満の場合は接着剤を介して積層樹脂フィルムを被着体に貼り付けた際に接着剤が乾燥せず、本発明の所期の性能を発揮しない。本明細書において「液体吸収容積」とは、JAPAN TAPPI No.51:2000に準拠するブリストー液体吸収性試験により測定されるものであって、熊谷理機工業(株)製ブリストー試験機II型を使用して無加圧の状態でイオン交換水に赤色の水性インキを20:1に配合した混合物を20μl滴下して、50msにおける液体の転移量を求めた。
【0045】
吸水易剥離層(B)の剥離強度は50〜180gf/18mmの範囲であることが好ましく、剥離が吸水易剥離層(B)内の凝集破壊により均一面状に進行することが好ましい。同剥離強度は被着体に貼り付けた後にフィルムを剥がす際に要する強度を示すものであるが、剥離自体は接着剤の浸透が無い吸水易剥離層(B)部分の破壊で進行するため、本発明では擬似的に吸水易剥離層(B)に粘着テープを貼り付け、これを剥がす際に要した強度で測定をし、これに置き換えている。
剥離強度が50gf/18mm未満の場合は、被着体に貼り付けた際に外部からの衝撃により剥がれやすく、剥離強度が180gf/18mmを超える場合は、接着剤の種類にもよるが接着剤の強度を上回ってしまう、もしくは被着体に貼り付けた際に被着体の表面強度を上回ってしまい、吸水易剥離層(B)内で凝集破壊が発生しない。本明細書において「剥離強度」とは、吸水易剥離層(B)面に粘着テープ(ニチバン(株)製セロハンテープ、商品名「セロテープ」、銘柄名「CT−18」)を貼着し、長さ100mmに切り取り、引張試験機((株)島津制作所製、商品名「AUTOGRAPH」)を使用し、引張速度300mm/分にて、180゜の角度で基層(A)と粘着テープとの剥離を吸水易剥離層(B)にて発生させ、剥離が安定している時の応力をロードセルにより測定し、横方向と縦方向の平均値から求めた。
【0046】
[隠蔽層(C)]
本発明の吸水易剥離性フィルムは、壁紙等として用いる際に、下地が透けて見えないように不透明であることが好ましい。吸水易剥離性フィルムを不透明化するために、吸水易剥離性フィルムは隠蔽層(C)を有することが好ましい。
本発明の隠蔽層(C)の具体例としては、吸水易剥離層(B)表面への黒色印刷または灰色印刷などの有色印刷が挙げられる。これらは容易に吸水易剥離性フィルムに適用できるものであるが、後述の接着剤の適用を阻害しない程度に行うことが好ましい。
【0047】
該隠蔽層(C)の別の具体例としては、基層(A)の不透明度を向上させるものが挙げられる。例えば基層(A)の原料配合へ隠蔽性の強い顔料、例えば酸化チタン粉末、アルミニウム粉末、カーボンブラック等を添加して不透明度の底上げを図る手法や、基層(A)を多層構造としてその層間に黒色印刷を挿入する手法が挙げられる。層間に黒色印刷を挿入する手法は、これを構成する層の一方または両方の表面に予め黒色印刷を施し、接着剤を用いたドライラミネート等の手法で黒色印刷を挟み込むようにこれらを積層すればよい。
【0048】
[吸水易剥離性フィルムの適用]
本発明の吸水易剥離性フィルムは基層(A)の多層化により筆記性、印刷適性、耐擦過性、2次加工適性等の様々な機能の付加が可能となる。特に、本発明品は壁紙や容器のラベルとして使用されるため、特に印刷適性は必要とされる。フィルムへの印刷適性の付与はコート層の積層など従来公知の手法を用いることができる。印刷としてはグラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、電子写真印刷などの手法を用いて、ラベル上に絵柄、バーコード、製造元、販売会社名、キャラクター、商品名、使用方法などの意匠や情報を付与することができる。
【0049】
本発明の吸水易剥離性フィルムを壁紙として用いる場合は、該フィルムを長尺の巻き取り(ロール)形態として用いることが好ましく、印刷の様態としてはグラビア印刷、フレキソ印刷、またはプロッターによるインクジェット印刷などが好ましい。
本発明の吸水易剥離性フィルムをラベルとして用いる場合は、より高精細な印刷を施せることが好ましく、印刷の様態としてはオフセット印刷などが好ましい。
本発明の吸水易剥離性フィルムにインクジェット印刷などの手法で印刷を施す場合は、印刷面となる基層(A)側の表面に色材を固定化するために、印刷手法に合わせたコート層(D)を設けることが好ましい。
【0050】
[コート層(D)]
本発明の吸水易剥離性フィルムに好適なコート層(D)は、特に水性インクジェット、溶剤型インクジェット、UVインクジェット、ラテックス型インクジェット等を含むインクジェット印刷に適用できるものであり、具体的に水性インクジェットにはシリカを添加したポリビニルアルコール等、UVインクジェットにはシリカを添加したポリエーテルウレタン等を含むコート層(D)等が好ましい。
【0051】
本発明の吸水易剥離性フィルムは、その裏面(吸水易剥離層(B)側)に直接接着剤を塗工して、木質壁材、石膏ボード、各種複合材料(樹脂化粧板、木質合板等)や鉄板、アルミニウム板、ガラス、陶器、樹脂からなる被着体に適し、直接貼り合わせて使用することができる。このため、本発明の吸水易剥離性フィルムを壁紙及びラベル等に使用する場合、裏打ち材(天然紙等)を裏面に裏打ち加工する必要はない。このため、壁紙及びラベル等として施工した本発明の吸水易剥離性フィルムを被着体からはがしてリサイクルする際には、裏打ち材(天然紙等)がリサイクル原料に混入せず、均一面状の剥離により接着剤は全て被着体側に残り、同フィルム側には残留しないため、材料のリサイクルが可能となる。
【0052】
本発明の吸水易剥離性フィルムを貼り合わせるために使用する接着剤は、特に制限されずタンパク質系接着剤、含水炭素系接着剤、合成樹脂系接着剤、溶剤系接着剤などを使用することができる。ここで、タンパク質系接着剤、含水炭素系接着剤、合成樹脂系接着剤のように水を媒質として用いる接着剤を水系接着剤と総称する。接着剤は、水系、溶剤系のいずれであってもよいが、作業性、安全性(溶剤飛散による中毒、火災など)の観点から水系接着剤を使用するのが好ましい。
【0053】
水系接着剤とは水に対して溶解または、膨潤する特性を有するものであり、例えば、タンパク質系接着剤としてゼラチン、膠、カゼイン等を挙げることができる。含水炭素系接着剤としては、澱粉及びその誘導体、セルロース誘導体としてヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ビスコース等が挙げられる。その他アラビヤゴム、トラガントゴム等も挙げられる。
【0054】
合成樹脂系接着剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。その他、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアミド、水溶性ポリウレタン、ポリアクリル酸系樹脂やその塩等が挙げられる。更には酢酸ビニル、アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、塩化ビニル等の乳化重合等で得られるエマルジョンを用いた接着剤も挙げられる。
【0055】
なかでも、本発明の吸水易剥離性フィルムを被着体への貼り合わせに用いる水系接着剤として、施工性、接着性などから澱粉及びその誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、酢酸ビニル、ポリビニルアミドが好ましく、澱粉及びその誘導体がより好ましく用いられる。
【0056】
本発明の吸水易剥離性フィルムを壁面もしくはボトル等からはがした後には、吸水性能を有する吸水易剥離層(B)が壁面もしくはボトル等に残る。別の吸水易剥離性フィルムの吸水易剥離層(B)に直接水系接着剤を塗工して、壁面もしくはボトル等に残っている吸水易剥離層(B)の上から貼り付け施工を行えば、十分な接着性が得られる。すなわち、被着体に対して新たな壁紙もしくはラベルを適用する場合、以前の壁紙もしくはラベルを剥がした後に、壁面もしくはボトル等に残った吸水易剥離層(B)を剥がしてから作業する必要はなく、壁面もしくはボトル等に残った吸水易剥離層(B)を利用して繰り返し貼り付けを行うことが可能である。
被着体である壁面もしくはボトル等には本発明の吸水易剥離性フィルムの接着・剥離のサイクルにより都度、接着剤と吸水易剥離層(B)が残留し蓄積してゆくが、同層(B)は薄く均一面状に剥離するために不均一な凹凸は発生せず、外観悪化は殆ど発生しない。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例で採用している材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
[実施例1〜19、比較例1〜7]
以下の手順に従って積層樹脂フィルム(実施例1〜19、比較例1〜7)を製造した。表1に使用した材料の詳細を記載した。表中の「MFR」はメルトフローレートを意味する。表2および表3に各積層樹脂フィルムの製造にあたって使用した材料の種類と量(重量%)、延伸条件、全厚と[B]層の厚み、[C]層の有無を記載した。表2および表3に記載される材料の番号は、表1に記載される材料の番号に対応している。
【0059】
実施例1〜18、比較例1〜5において、表2または表3に記載の配合物[A1]を250℃に設定された押出機で溶融混練してダイスを介してシート状に押出成形し、冷却装置にて70℃まで冷却して単層の無延伸シートを得た。この無延伸シートを145℃に加熱した後、縦方向にロール間で5倍に延伸し、縦一軸延伸フィルムを得た。次いで表2または表3に記載の配合物[A2]を250℃に設定された押出機で溶融混練してダイスを介してシート状に押出し、前記縦一軸延伸フィルムの一方の面に積層し、また表2または表3に記載の配合物[B]を250℃に設定された別の押出機で溶融混練してダイスを介してシート状に押出し、前記縦一軸延伸フィルムのもう一方の面に積層した。積層物を158℃に加熱してテンター延伸機を用いて横方向に9倍延伸し、1軸延伸/2軸延伸/1軸延伸された3層構造の積層樹脂フィルムを得た(図2参照)。
特に実施例9は、実施例2で得た積層樹脂フィルムの[B]層側の表面に、グラビアインキ(商品名:XS−756、DICグラフィックス(株)製)及びグラビア印刷機を用いて灰色印刷を施して、隠蔽層(C)を設けた積層樹脂フィルムを得た。
【0060】
実施例19において、表3に記載の配合物[A2]、配合物[A1]および配合物[B]を250℃に設定された3台の押出機でそれぞれ溶融混練してフィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイスを介してダイス内で積層し、これをシート状に共押出成形し、冷却装置にて70℃まで冷却して3層構造の無延伸シートを得た。この無延伸シートを145℃に加熱した後、縦方向にロール間で5倍に延伸し、次いで158℃に加熱してテンター延伸機を用いて横方向に9倍延伸し、2軸延伸/2軸延伸/2軸延伸された3層構造の積層樹脂フィルムを得た(図2参照)。
比較例6において、表3に記載の配合物[A1]と配合物[B]を250℃に設定された2台の押出機でそれぞれ溶融混練してフィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイスを介してダイス内で積層し、これをシート状に共押出成形し、冷却装置にて70℃まで冷却して2層構造の無延伸シートを得た。この無延伸シートを145℃に加熱した後、縦方向にロール間で5倍に延伸し、縦一軸延伸フィルムを得た。次いで表3に記載の配合物[A2]を250℃に設定された押出機で溶融混練してダイスを介してシート状に押出し、前記縦一軸延伸フィルムの[A1]側に積層した。積層物を158℃に加熱してテンター延伸機を用いて横方向に9倍延伸し、1軸延伸/2軸延伸/2軸延伸された3層構造の積層樹脂フィルムを得た(図2参照)。
実施例2の積層樹脂フィルムを得る際、押出機の樹脂吐出量を変更しながら、縦一軸延伸フィルムの両面に配合物[A2]および配合物[B]を積層して得た積層物を、比較例7の積層樹脂フィルムとした。
【0061】
[実施例20]
上記実施例2により得た積層樹脂フィルムの[A2]層側の表面に、グラビアコーターを用いて次の組成を有する塗工液を固形分量で約2.0g/m2となるように塗工し、乾燥させて水性インクジェット印刷に好適なコート層(D)を形成した。
《塗工液組成》
合成シリカ粉末 100重量部
(商品名「ミズカシルP−78D」、平均粒径8μm、水澤化学工業(株)製)
ポリビニルアルコール 30重量部
(商品名「クラレポバール PVA−117」、クラレ(株)製)
ポリアミドポリアミンのエピクロルヒドリン付加物 10重量部
(商品名「WS4082」、星光PMC(株)製)
ポリアクリル酸ソーダ 5重量部
(試薬、和光純薬工業(株)製)
水 1600重量部
【0062】
[実施例21]
上記実施例2により得た積層樹脂フィルムの[A2]層側の表面に金属箔を転写蒸着し、同金属箔面上にグラビアコーターを用いてポリアミドポリアミン樹脂を含む塗工液(商品名「トパーズ17液」、東洋インキ製造(株)製)を固形分量で約0.5g/m2となるように塗工し、乾燥させて湿式電子写真方式の印刷機(例えば商品名「Indigo WS4000」、ヒューレット・パッカード社製)による印刷に好適なコート層(D)を形成した。
【0063】
なお、製造したいずれの積層樹脂フィルムにおいても、[A1]層と[A2]層の厚みの比は、1:24であった。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
[試験例]
実施例、比較例において製造した各積層樹脂フィルムについて、印刷特性、不透明度、液体吸収容積、剥離強度、石膏ボードに対する剥離性、ビンに対する接着性・剥離性、隠蔽性、再貼付け施工性、リサイクル適性を評価した。各試験の詳細は以下に示す通りである。
【0068】
[印刷適性]
[A2]側表面にグラビア印刷された各積層樹脂フィルムのインキ表面に粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」、銘柄名「CT−18」)を貼り付け、指で十分に押しつけた後、粘着テープの未貼着部分と積層樹脂フィルムとがなす角度を90度に保ちながら未貼着部分を引っ張ることにより約1000mm/secの速度で手で粘着テープを引き剥がし、インキの取られ方を下記の基準により評価し、以下の4段階で評価した。
◎: 全くインキが剥がれない
○: フィルムの材料部分の破壊に伴い一部のインキが剥がれるが、実用上問題ない
△: 剥離するときに抵抗はあるが、インキの殆どが剥がれ、実用上問題がある
X: インキ全量が剥がれ、剥離するときの抵抗もなく、実用上使用できない
【0069】
[不透明度]
JIS−P−8149に準拠し、各積層樹脂フィルム背面([B]側)に黒色及び白色標準板を当てて測定した光の反射率の比(単一シート視感反射率/固有視感反射率)を百分率で示した値として求めた。
【0070】
[液体吸収容積]
JAPAN TAPPI No.51:2000に準拠するブリストー液体吸収性試験により測定した。具体的には、熊谷理機工業(株)製ブリストー試験機II型を使用して無加圧の状態でイオン交換水に赤色の水性インキを20:1に配合した混合物を20μl滴下して、50msにおける液体の転移量を求めた。
【0071】
[剥離強度]
各積層樹脂フィルムを、恒温室(温度20℃、相対湿度65%)に12時間保管した後、吸水易剥離層(B)面に粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」、銘柄名「CT−18」)を貼着し、これを長さ100mmに切り取り、(株)島津制作所製の引張試験機(商品名「AUTOGRAPH」)を使用し、引張速度300mm/分にて、180゜の角度で基層(A)と粘着テープとを剥離させ、安定している時の応力をロードセルにより測定した。この測定は、各積層樹脂フィルムの横方向と縦方向についてそれぞれ行い、これらの平均値をもって剥離強度とした。粘着テープは18mm幅のものを使用した。
【0072】
[石膏ボードに対する剥離性]
各積層樹脂フィルムを10cm×10cmの正方形に切り取り、吸水易剥離層(B)側に澱粉を主成分とした水系接着剤(ヤヨイ化学工業(株)製、商品名「ルーアマイルド」とヤヨイ化学工業(株)製、商品名「プラゾール100S」と水をそれぞれ5:1:4で混合したもの)を自動壁紙糊付機(極東産機(株)製)で固形分量が8g/m2となるように塗工し、石膏ボード(吉野石膏(株)製、商品名「タイガーボード」)の上に貼着させた。これを常温にて一週間保管した後、下記の(1)剥離開始性と(2)剥離伝播性を評価した。
【0073】
(1) 剥離開始性
各積層樹脂フィルムの4辺の内1辺を爪で剥がすことにより端から1cmだけ石膏ボードから剥がした後、剥がした辺を手で持ち、石膏ボードより引き剥がし、吸水易剥離層(B)の凝集破壊による剥離が開始するまでの状態をその距離から観察し、以下の4段階で評価した。なお、石膏ボードから手で引き剥がす際は、石膏ボード表面と基層(A)の剥離部分のなす角度を約135°に維持しながら、積層樹脂フィルムの剥離部分を引っ張ることにより引き剥がした。
◎: 吸水易剥離層(B)の剥離がすぐに(1mm未満で)開始する
○: 吸水易剥離層(B)の剥離が開始するまでに1〜2mm要する
△: 吸水易剥離層(B)の剥離が開始するまでに3〜9mm要する
×: 吸水易剥離層(B)の剥離が開始するまでに10mm以上要する
【0074】
(2) 剥離伝播性
各積層樹脂フィルムの4辺の内1辺に粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名「セロテープ」、銘柄名「CT−18」)を辺の全長にわたって辺に沿って貼り、手で持ち易い状態にし、石膏ボード表面と基層(A)の剥離部分のなす角度を約135°に維持しながら、基層(A)の剥離部分を引っ張ることにより基層(A)を石膏ボードより引き剥がした。このときの吸水易剥離層(B)の剥離伝播状態と剥離力を、以下の4段階で評価した。
◎: 剥離力が軽く、全面綺麗に剥離が伝播する
○: 剥離力はやや重いが、全面綺麗に剥離が伝播する
△: 剥離力が非常に重いが、全面綺麗に剥離が伝播する
×: 剥離が全面に伝播できずに途中で切れてしまう
【0075】
[ビンに対する接着性・剥離性]
各積層樹脂フィルムを5cm×5cmの正方形に切り取り、吸水易剥離層(B)側に市販の水系性接着剤((株)T&K TOKA製、商品名「フジアットAL−8L」)を自動糊付機(TY精機製)で固形分量が8g/m2となるように塗工し、ガラスビンに貼着させた。常温にて一週間保管した後、(1)ビンへの接着性、(2)剥離開始性、(3)剥離伝播性を評価した。
【0076】
(1) ビンへの接着性
各積層樹脂フィルムの4辺の内1辺を爪で剥がすことにより端から1cmだけビンから剥がした後、剥がした辺を手で持ち、ビンより引き剥がし、吸水易剥離層(B)の剥離が開始するまでの状態を観察し、以下の3段階で評価した。なお、ビンから手で引き剥がす際は、ビン表面と積層樹脂フィルムの剥離部分のなす角度を約135°に維持しながら、積層樹脂フィルムの剥離部分を引っ張ることにより引き剥がした。
○: 剥離する際に基材が易剥離もしくは材破する
△: ラベルの端のみが易剥離もしくは材破する
×: 接着剤が乾燥せずにビンに接着しない
(2)剥離開始性と(3)剥離伝播性については、前述の石膏ボードに対する試験((1)剥離開始性と(2)剥離伝播性)と同様の方法、判断基準で評価した。
【0077】
[隠蔽性]
官製ハガキに文字サイズ10ポイントのアルファベット26文字を印字して、各積層樹脂フィルムの吸水易剥離層(B)側に澱粉を主成分とした水系接着剤(ヤヨイ化学工業(株)製、商品名「ルーアマイルド」とヤヨイ化学工業(株)製、商品名「プラゾール100S」と水を5:1:4で混合したもの)を固形分量が8g/m2となるように塗工し、ハガキの上に貼り付けた。各積層樹脂フィルムを透して見える文字の隠蔽性を目視にて判断し、以下の4段階で評価した。
◎: 文字があることが全く判らず良好
○: 文字は全く読み取れずやや良好
△: 文字の一部が読み取れやや不良
×: 文字の全てが読み取れ不良
【0078】
[再貼付け施工性]
各積層樹脂フィルムの吸水易剥離層(B)側(裏打ち紙のある場合は裏打ち紙面)に澱粉を主成分とした水系接着剤(ヤヨイ化学工業(株)製、商品名「ルーアマイルド」とヤヨイ化学工業(株)製、商品名「プラゾール100S」と水を5:1:4で混合したもの)を自動壁紙糊付機(極東産機(株)社製)で固形分量が8g/m2となるように塗工し、石膏ボード(吉野石膏(株)製、商品名「タイガーボード」)の上に貼着させた。常温にて1週間保管した後に、前記石膏ボードに対する剥離開始性試験と同様の方法で各積層樹脂フィルムを石膏ボードから剥がした。次いで剥がされた各積層樹脂フィルムの剥離面に同じの水系接着剤を自動壁紙糊付機(極東産機(株)社製)で固形分量が8g/m2となるように塗工し、何も貼られていない石膏ボードの上に再貼着させ、その外観を評価した。またこれを常温にて1週間保管した後に各積層樹脂フィルムの4辺の内1辺を再び爪で剥がすことにより端から1cmだけ石膏ボードから剥がした後、剥がした辺を手で持ち、石膏ボードより引き剥がし、吸水易剥離層(B)の剥離面の状態を観察し、以下の3段階で評価した。なお、石膏ボードから手で引き剥がす際は、石膏ボード表面と積層樹脂フィルムの剥離部分のなす角度を約135°に維持しながら、積層樹脂フィルムの剥離部分を引っ張ることにより引き剥がした。
○: 再貼着後の積層樹脂フィルムに凹凸の外観不良は見られず、剥離時はフィル
ムの吸水易剥離層(B)部分から再度均一に剥離する
△: 再貼着後の積層樹脂フィルムに凹凸の外観不良が見られ、且つ再接着面から
の吸水易剥離層(B)の剥離は不均一であり、実用上問題がある
X: 再貼着後の積層樹脂フィルムに凹凸の外観不良が見られ、且つ再接着面から
の剥離はフィルム側と被着体側と両方から起こるため非常に不均一であり、
実用上使用できない
【0079】
[リサイクル適性]
上記[壁紙の接着性]評価にて施工された各壁紙を、前記石膏ボードに対する剥離開始性試験と同様の方法で1ヶ月後に壁面から剥がし、剥がした壁紙を粉砕機にかけてチップ状にした後、これを225℃に設定され、100メッシュのスクリーンパックを装備した2軸押出機にて再溶融混練及び押出しを行った。このときのスクリーンパックの詰まりや発煙、変色などの状態から再溶融押出し(樹脂再生)が可能か否かを判定した。スクリーンパックの詰まりや発煙、変色が無く、再溶融押出し(樹脂再生)が可能である状態を「良好」と判定した。
【0080】
以上の評価項目の試験結果をまとめて表4に示す。
【0081】
【表4】

【0082】
特開2002−200707号公報の実施例に記載される易剥離性多層樹脂延伸フィルムを再現して、上記と同様の試験を実施する。本発明の実施例1〜19の再貼付け施工性とリサイクル適性は明らかに特開2002−200707号公報の実施例よりも優れており、その他の評価結果は同等である。
【符号の説明】
【0083】
A 基層
B 吸水易剥離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層(A)と吸水易剥離層(B)の積層樹脂フィルムを含む吸水易剥離性フィルムであって、
該基層(A)が熱可塑性樹脂を含み、
該吸水易剥離層(B)が、結晶性ポリプロピレン樹脂及び該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂のブレンド物30〜60重量%と、表面処理剤により表面を親水化処理された無機微細粉末40〜70重量%とを含み、
該ブレンド物において、結晶性ポリプロピレン樹脂100重量部に対し該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂が105〜300重量部の割合でブレンドされており、且つ、
該吸水易剥離層(B)が少なくとも1軸方向に延伸されていることを特徴とする吸水易剥離性フィルム。
【請求項2】
該結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶化度が65%以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項3】
該結晶性ポリプロピレン樹脂に非相溶性の熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、スチレン系樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エチレン−環状オレフィン共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項4】
該表面処理剤が、水溶性アニオン系界面活性剤、水溶性カチオン系界面活性剤、及び水溶性非イオン系界面活性剤からなる群より選択される表面処理剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項5】
該吸水易剥離層(B)が、更に無機微細粉末の分散剤を、表面処理した無機微細粉末100重量部に対し0.5〜30重量部含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項6】
該分散剤が、マレイン酸変性ポリオレフィン及びシラノール変性ポリプロピレンの少なくとも一方であることを特徴とする請求項5に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項7】
該吸水易剥離層(B)が、表面を親水化処理していない無機微細粉末および有機微細粉末の少なくとも一方を0.1〜30重量%更に含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項8】
該吸水易剥離層(B)の「Japan TAPPI No.51−2000により測定される液体吸収容積が1〜20ml/m2であることを特徴する請求項1〜7の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項9】
該積層樹脂フィルムの吸水易剥離層(B)側に水系接着剤層を有することを特徴する請求項1〜8の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項10】
該積層樹脂フィルムの被着体への貼着後において、該被着体から積層樹脂フィルムを剥離する際の剥離強度が、50〜180gf/18mmであることを特徴とする請求項9に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項11】
被着体から積層樹脂フィルムを剥離する際に、剥離が吸水易剥離層(B)内の凝集破壊により進行することを特徴とする請求項10に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項12】
被着体から積層樹脂フィルムを剥離した後に、被着体表面には吸水易剥離層(B)の一部が残留し、この残留物が液体を吸収することを特徴とする請求項10または11に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項13】
該基層(A)が多層構造であることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項14】
更に隠蔽層(C)を有することを特徴とする請求項1〜13の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項15】
該隠蔽層(C)が、吸水易剥離層(B)側表面への黒色印刷または灰色印刷、基層(A)への隠蔽顔料添加、基層(A)間への黒色印刷挿入からなる群より選択される少なくとも一つの手法からなることを特徴とする請求項14に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項16】
基層(A)側表面上に更にコート層(D)を有することを特徴とする請求項1〜15の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルム。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルムの吸水易剥離層(B)側に水系接着剤を施した壁紙。
【請求項18】
請求項1〜16の何れか一項に記載の吸水易剥離性フィルムの吸水易剥離層(B)側に水系接着剤を施したラベル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214005(P2012−214005A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145651(P2011−145651)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000122313)株式会社ユポ・コーポレーション (73)
【Fターム(参考)】