吸水材料組成物および吸水性シート
【課題】塩化カルシウムの高い吸水能力を有効に利用した吸水性シートを提供すること。
【解決手段】シリカ微粒子を、塩化カルシウムを添加してあるとともに、溶媒が低分子アルコールを含有する水に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物。
【解決手段】シリカ微粒子を、塩化カルシウムを添加してあるとともに、溶媒が低分子アルコールを含有する水に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式除湿用の乾燥剤としてもちいることのできる吸水材料組成物および吸水材料組成物を用いた吸水性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
気体中の水分を吸収する乾燥剤としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、シリカゲル、ゼオライトなどがある。このうち塩化カルシウム等のアルカリ土類金属の塩化物はゼオライト等の物理的吸着型の乾燥物質より吸着容量が大きい反面、潮解性塩類であるため自らは吸着した水中に溶解する傾向がある。そこで、このような潮解性化合物を乾燥剤として利用するために、これをゼオライト等の多孔質鉱物や吸水性ポリマー等の保水剤に担持させて複合化し、吸着水を多孔質材料中に蓄積固定させたり(例えば特許文献1参照)、シリカゲル等の保水剤を均一に混合したりすることが考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2131494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような乾燥剤は、粒状物であるため、短期、小規模の利用には問題なくもちいられるものの、フィルタ等の定置式で長期にわたってもちいられる用途には不向きである。また、このような乾燥剤を樹脂組成物に混合してシート状に成型することも考えられているが、吸水容量が低下したり、フィルタとしての使用を想定したときに充分な通気性が得られず、実使用に耐えなかったりするという問題があった。
【0005】
そこで、例えば紙、織布や不織布等のシート材料に対して含浸保持させて、シート状の乾燥剤を成型することが考えられるが、上記従来の乾燥剤をシート材料に成型するのは困難で、潮解性の塩化カルシウムが吸着水に溶解、流出して徐々に散逸して除湿、乾燥性能が低下しやすいものにならざるを得ないという現状であった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、塩化カルシウムの高い吸水能力を有効に利用した吸水材料組成物および吸水性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
シリカ分散液は、非常に細かいシリカ微粒子を水に分散させた液状体で、シリカが水中に均一に分散したものである。この分散液自体は、ある程度シート材料に対する塗工性を有し、また、乾燥硬化するとシリカゲルとなるので、ある程度の吸水性能を発揮することが期待される。この分散液に塩化カルシウムを混合した状態で塗工すると、シリカゲルと塩化カルシウムとが渾然一体となって前記シート材料の表面に塗工され、塩化カルシウムの高い吸水性が発揮され、かつシリカゲルの高い保水性が発揮されるものと期待される。
【0008】
この吸水性組成物は、このままでは基材シートに対して十分伸ばすことが困難で、シート材料に塗工することが困難に思われる性状となっているが、本発明者は、鋭意研究の結果、この吸水性組成物の溶媒にさらにエタノールに代表される低分子アルコールを含有させておくと、吸水性組成物を容易に流動させることができ、かつ、吸水性組成物を薄く引き伸ばしたところ、シート材料に良好に塗工でき、良く付着していることを見出した。この吸水材料組成物は塩化カルシウムを均一に含むものであるから、これを塗工した吸水性シートは塩化カルシウムの吸水性を備えた層状に形成される。
【0009】
〔構成1〕
よって、上記目的を達成するための本発明の吸水材料組成物の製造方法の特徴構成は、
シリカ微粒子を溶媒に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物であって、前記溶媒に塩化カルシウムを添加してあるとともに、前記溶媒が低分子アルコールを含有する水とする点にある。
【0010】
〔作用効果〕
つまり、吸水材料組成物は、溶媒成分に低分子アルコールを含んでいるため、シリカ成分に作用した低分子アルコールが、シリカ微粒子同士のすべりを改善し流動性を高めるとともに、シート材料に対する親和性も高め、シート材料に対する塗工性を向上させることができたものと考えられる。この吸水材料組成物を、シート材料に層状に形成し、乾燥、硬化させると、吸水性シートが得られる。この吸水性シートについて、吸水性を調べたところ、充分な吸水性が確認でき、しかも、シリカゲルの高い保水性に基づき、吸着した水分による塩化カルシウムの流出がほとんど見られない高性能な吸水性シートとなっていることがわかった。
【0011】
すなわち、上述の知見に基づけば、上記構成により、塗工性高く吸水性シートを製造することができ、しかも得られた吸水性シートは、塩化カルシウムによる低湿度条件下での高い吸水性を発揮し、潮解性がないために取り扱い容易でかつ長寿命であるという優れた特徴をもつ。
【0012】
また、このようにして得られた吸水性シートは、乾燥したガスに接することにより、逆に吸着した水分を放出する性能を有し、可逆的に空中の水分を吸放出することができる。そのため、得られた吸水性シートは、デシカントローター等、調湿機能を要求される場所において高性能なフィルタ材としてもちいることができる。
【0013】
〔構成2〕
また、上述の構成において、
前記低分子アルコールが、エタノールであることが好ましい。
【0014】
〔作用効果〕
つまり、低分子アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられるが、この中でエタノールは、人体への悪影響が少なく、かつ、適度な揮発性、優れた流動性を有するので好ましい。適度な揮発性を有すると、塗工後に簡便に乾燥させて吸水性シートを得ることができる。また、優れた流動性を有すると、吸水材料組成物自体の流動性を高く維持することができるとともに、塗工作業性が向上する。
〔構成3〕
また、上述の構成において、
前記溶媒中における低分子アルコールの含有率が、8.3質量%以上16.7質量%以下であることが好ましい。
【0015】
〔作用効果〕
すなわち、後述の実験例より、低分子アルコールの含有率としては、8.3質量%以上とすることにより、均一に塗工する塗工性がきわめて高くなるので好ましい。尚、16.7質量%を超えて含有させたとしても、塗工性の向上はあまり見られなくなるとともに、得られる吸水性シートの吸水性能が低下し始めるので、上限は16.7質量%とすることが好ましい。
【0016】
〔構成4〕
また、上述の構成において、
前記シリカ微粒子が粒径20μm未満であることが好ましい。
【0017】
〔作用効果〕
上述の吸水材料組成物は、シリカ分散液を基に吸水材料組成物を得る分が、得られる吸水材料組成物の性状は、シリカの粒径、濃度に依存して変化し、塗工して得られる吸水性シートの物性も変化することがわかった。
【0018】
そこで、塗工性が高く、かつシート材料への密着性が高い吸水材料組成物を得るべく、これら条件を調整したところ、シリカ微粒子は20μm以下であれば、充分上記現象が発現することがわかった。尚、シリカ微粒子は、細かいほど分散しやすくなり好ましいものと考えられる。
【0019】
〔構成5〕
また、上述の構成において、
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上40質量%以下含有することが好ましい。
【0020】
〔作用効果〕
また、シリカ微粒子の分散濃度は、濃くなるとシリカ分散液の粘性が高くなるなど分散液状態での取り扱い性が低下するため、40質量%以下とすることが好ましい。また、濃度が低下しすぎるとシート材料に塗工する際に、一度の塗工作業でシート材料に対してシリカ微粒子が付着する量が少なく、目的とする性能を得るためには、重ね塗りが必要になり、やはり塗工性が低下するため、9質量%以上とすることが好ましい。
【0021】
〔構成6〕
また、前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0022】
〔作用効果〕
吸水材料組成物は、ある程度過剰の塩化カルシウムを加えても均一な組成となり、塩化カルシウム濃度についても種々調整することができる。ここで、塩化カルシウム濃度は3質量%以上添加しておけば、充分な吸水性を発揮させられ、15質量%以下としておくことで上述の潮解性に基づく塩化カルシウムの流出、散逸を防止することができるので好ましい。
【0023】
〔構成7〕
さらに、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有してなることが好ましい。
【0024】
〔作用効果〕
一般に前記シート材料に吸水材組成物を塗工すると、得られる吸水性シートの機械的強度(剛軟度)は、低下する傾向にある。そこで、吸水性シートに高い吸水性を付与すると同時に機械的強度を向上させることができればさらに好ましいことになる。
吸水材料組成物が酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有していると、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、シート材料に塗工された状態で、硬化して得られる吸水性シートの機械的強度を向上させる補強剤として機能する。尚、補強剤としては、種々公知の材料が候補として挙げられるが、いずれの材料をもちいた場合でも、補強剤が硬化する際に、補強剤がシリカ微粒子を取り込んだ形態で硬化することが予想され、吸水性能の低下が不可避であると考えられていたが、本発明者らの検討によると、上記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、前記吸水性シートの吸水性を損なうことなくシート材料を補強することができ、好適な補強剤としてもちいられることがわかった。
【0025】
〔構成8〕
前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0026】
〔作用効果〕
上記補強剤としての酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量は、少なすぎると充分な効果を発揮しない。そこで、本発明者らが種々の含有量で補強剤を含有させてある吸水材組成物に付き、含有量と剛軟度との関係を調べたところ、補強剤が多すぎると、逆にシート材料の機械的強度を損なう傾向にあることがわかった。すなわち、補強剤としての酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤添加量が10質量%程度で得られる吸水性シートの機械的強度は最大になり元のシート材料の機械的強度を超えるものの、5質量%を下回ると、元のシート材料の機械的強度を下回り、また、15〜20質量%程度で元のシート材料の程度まで機械的強度が低下することがわかった。そのため、前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下とすることにより、得られる吸水性シートの機械的強度を高く設定することができる。
【0027】
〔構成9〕
また、補強剤を含有する吸水材料組成物に関して言えば、前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上15質量%以下含有することが好ましい。
【0028】
〔作用効果〕
つまり、前記補強剤は、シリカ微粒子と相互作用して、上記機械的強度の向上を達成するものであるが、シリカ微粒子が多すぎると、前記補強剤がシリカ微粒子どうしを凝集させるのに消費される割合が増えて、有効に働かなくなるものと考えられるから、上限濃度として、15質量%以下含有することが好ましい。
【0029】
〔構成10〕
また、補強剤を含有する吸水材料組成物に関して言えば、前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0030】
〔作用効果〕
また、前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、塩化カルシウムにより、硬化が阻害される場合があるので、上限として8質量%以下としてあることが望ましい。
【0031】
〔構成11〕
さらに、上述の吸水材料組成物をシート材料に塗工してなる吸水性シートとしては、
パルプ紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に上記吸水材料組成物を含浸塗工してある点に特徴を有する。
【0032】
〔作用効果〕
このような吸水材料組成物をシート材料に塗工する場合、前記シート材料への前記吸水材料組成物付着性を高めようとすると、前記吸水材料組成物中のシリカ微粒子のそれぞれが前記シート材料に対して広い面積で付着することが望ましい。その点で、前記シート材料として、紙、織布あるいは不織布を選択すると、前記シリカ微粒子は、紙、織布あるいは不織布の繊維間に侵入しつつ、周囲の繊維に絡まって付着するため、広い面積で前記繊維に付着しつつ、そのシリカ微粒子同士が層状に凝集し易いために、強固にシート材料に付着させることができる。また、紙、織布、不織布のように通気性のシート材料であると、前記シリカ微粒子が構成する繊維間の奥にまで含浸したとしても、繊維間の通気性によりそのシリカ微粒子が雰囲気中から水分を吸着することができるようになり、塗工されたシリカ微粒子の有効表面積を大きくして、高い吸水性を発揮させるのに役立てられる。
【0033】
また、塩化カルシウムの含有量、粒径、シリカ微粒子の分散量を上述の範囲に設定しておくことにより、上述の吸水性シートは、高い吸水性と、潮解しにくさを併せ持ち、しかも製造容易であって、例えば、先述のシート製造方法によって簡便に製造可能な構成となる。
【0034】
〔構成12〕
また、前記シート材料が、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下であることが好ましい。
【0035】
〔作用効果〕
さらに、シート材料が、紙を主材とし、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下であると、上述の塩化カルシウム、シリカ微粒子が紙を構成する繊維間によく浸透して確実に保持され、全体として一体化した吸水性シートを形成するので、その吸水性シートを高性能なフィルタ材として用いることができる。さらに、この吸水性シートは、塩化カルシウム、シリカ微粒子が、紙を構成する繊維間に確実に保持され、強固に一体化しているから、その吸水性シートを折り曲げてプリーツ加工するなど、さらに種々の加工を行ったとしても、剥離、脱落がおきにくく、種々の用途に応用するのに適している。
【発明の効果】
【0036】
したがって、本発明によれば、デシカント空調等にもちいられるフィルタ材として、高い吸放湿性を発揮し、かつ、高い耐久性を発揮することができる高性能な吸水性シートを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】吸水性シートの除湿能力の評価方法を示す概念図である。
【図2】得られた吸水性シートA1の塗工性を示す写真である。
【図3】得られた吸水性シートA2の塗工性を示す写真である。
【図4】得られた吸水性シートA3の塗工性を示す写真である。
【図5】得られた吸水性シートA4の塗工性を示す写真である。
【図6】得られた吸水性シートA5の塗工性を示す写真である。
【図7】得られた吸水性シートA6の塗工性を示す写真である。
【図8】得られた吸水性シートB1の塗工性を示す写真である。
【図9】得られた吸水性シートB2の塗工性を示す写真である。
【図10】得られた吸水性シートB3の塗工性を示す写真である。
【図11】得られた吸水性シートB4の塗工性を示す写真である。
【図12】得られた吸水性シートB5の塗工性を示す写真である。
【図13】得られた吸水性シートB6の塗工性を示す写真である。
【図14】得られた吸水性シートC7の塗工性を示す写真である。
【図15】得られた吸水性シートC8の塗工性を示す写真である。
【図16】得られた吸水性シートC9の塗工性を示す写真である。
【図17】補強剤添加量と剛軟度の関係を示すグラフである。
【図18】補強剤添加量と除湿性能の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を示す。以下には、発明を明瞭に説明するために、具体的な数値、材料等を挙げて説明を行うが、本発明はこれらの構成に限られるものではない。
【0039】
本発明の吸水性シートは、シリカ微粒子を溶媒に分散させ、塩化カルシウムを含有させてあるシリカ分散液をシート材料に塗布して乾燥させて製造される。前記溶媒は、低分子アルコールとして例えばエタノールを含有する水をもちいる。
【0040】
前記吸水材料組成物は、紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に含浸塗工して乾燥後吸水性シートとしてもちいられる。
【0041】
以下に具体的な吸水性シートを製造する吸水材料組成物を具体例に基づき説明する。
【0042】
〔吸水材料組成物1〜6〕
下記シリカゲル1.5gおよび無水塩化カルシウム0.9gをエタノール含有水12g中に溶解分散してあるシリカ分散液を作成する。エタノール含有水は、表1に従ってエタノール含有率の異なるもの(溶媒1〜6)を種々作成してもちいてシリカ分散液からなる吸水材料組成物とした(吸水材料組成物1〜6)。
【0043】
シリカゲル:
型番;NIPGEL CY−200
製造元;東ソー・シリカゲル株式会社製
SiO2粒子径;2.9μm
【0044】
【表1】
【0045】
〔吸水材料組成物の含浸塗工A〕
この吸水材料組成物1〜6に、下記シート材料全体を約1秒浸漬し、迅速に引き上げ、前記吸水材料組成物1〜6を前記シート材料全体に含浸付着させる。
【0046】
次に、吸水材料組成物1〜6を含浸付着させたシート材料を、長辺方向に吊り下げ状態で大気乾燥する。乾燥されたシート材料は、吊り下げ方向両端を5mmずつ切断し、80mm角の試験片A1〜A6とした。
【0047】
シート材料:
型番;PHN−35−40G
製造元;王子特殊紙製
繊維材;ガラス繊維65質量%、パルプ35質量%
物性;坪量40.0g/m2、厚み200μm、密度0.20g/cm3
大きさ80×90mm
【0048】
〔吸水性シートの評価試験〕
上述の製造方法により製造した80mm角の形状の試験片を秤量し、前記シート材料に付着した吸水性組成物量を求めるとともに、前記試験片による除湿性能を、デシカントローターでの使用環境を再現する下記条件によって測定した。評価は、測定手法の概略を図1に示すように、環境1、2の2つの恒温恒湿槽に一定時間保持後、重量を測定するサイクルをくり返し、環境1の重量と環境2の重量との差分の10サイクル分もとめ、その差分の平均を除湿能力とし、吸水性を評価し、環境1における吸水性シートの表面状態から潮解性を評価した。その結果を表2に示す。また、得られた試験片の外観を図2〜7に示す。
【0049】
環境:
環境1: 30℃,80%RH(恒温恒湿槽)
環境2: 60℃,10%RH(恒温恒湿槽)
サイクル:
環境1に1分保持後、秤量。(重量1)
さらに、環境2に1分保持後、秤量。(重量2)
これを1サイクルとする。
【0050】
【表2】
【0051】
尚、表1中の標記は、以下の内容を示す。
性能評価(a.u.):上記サイクルを10回繰り返したとき、シート材料が環境1,2で吸放湿した水分の差分重量(PAS材料よりなる同型試験片比較値)
【0052】
図2,3に示す試料片A1,A2は、シート材料に付着した吸水性材料がまだらになっており、塗工性において他のものよりも性能が劣ることがわかる。本発明の吸水性シートA3〜A6は、いずれも高い除湿性能を示しているが、A5、A6を比較すると、エタノール含有率の高い溶媒6をもちいたシート材料A6は、溶媒5をもちいたシート材料A5に比べて、吸水性材料の付着量が減少するとともに、性能も低下していることが読み取れる。
【0053】
そのため、塗工性の観点から溶媒中のアルコール含有量は1/12=8.3質量%以上が好ましく、アルコール使用量対効果の面から2/12=16.7質量%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0054】
〔吸水シートのフィルタ加工〕
得られた吸水シートを折り曲げ加工、エンボス加工するなどして、立体的に成型し、フィルタ材料を作成したところ、前記シリカゲル微粒子はシート材料に良く含浸付着しており、剥離、崩壊等の不都合なく、精度良くフィルタ材料を製造することができた。
【0055】
〔分散液のバー塗工B〕
尚、吸水材料組成物の含浸塗工の項において、シート材料に前記分散液を含浸塗工するに、バーコーターをもちいて下記手順にて塗工することもできる。
【0056】
この吸水材料組成物を調整し、シート基材の上にのせ、バーコーターにて引き伸ばし、吸水材料組成物1〜6を含浸付着させる。そのシート材料を、長辺方向に吊り下げ状態で大気乾燥する。乾燥されたシート材料は、吊り下げ方向両端を5mmずつ切断し、80mm角の試験片B1〜B6とした。
【0057】
〔吸水性シートの評価試験〕
先の分散液の含浸塗工Aと同様に、得られた吸水シートの性能評価のための試験を行った。その結果を表3に示す。また、得られた試験片の外観を図8〜13に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すとおり、性能評価において、図8,9に示す試料片B1,B2は、吸水性材料が多島状に分散しており、明確な吸水性材料の輪郭が現れていないことから、シート材料に付着した吸水性材料が均一に引き伸ばされておらず、塗工性において他のものよりも性能が劣ることがわかる。本発明の吸水性シートA3〜A6は、いずれも高い除湿性能を示しているが、B5、B6を比較すると、エタノール含有率の高い溶媒6をもちいたシート材料B6は、溶媒5をもちいたシート材料B5に比べて、吸水性材料の付着量が減少するとともに、性能も低下していることが読み取れる。
【0060】
したがって、塗工方法によらず、塗工性の観点から溶媒中のアルコール含有量は1/12=8.3質量%以上が好ましく、アルコール使用量対効果の面から2/12=16.7質量%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0061】
〔吸水材料組成物7〜9〕
表4に示すように、吸水材料組成物4に、補強剤の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤として、A−QNJ(アイカ工業社製)を10質量%〜20質量%含有させて吸水材組成物を得た(吸水材料組成物7〜9)。この吸水性組成物を、「吸水材料組成物の含浸塗工A」と同様にして吸水性シートの試料片C7〜C9を得た。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示すように、性能評価において、充分高い性能を発揮しているとともに、図14〜16に示す吸水性シートの試料片C7〜C9は、いずれも吸水性材料が均一に塗布されていることがわかる。また、A4、とC7〜C9の比較で、前記吸水材組成物に補強剤の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有させてあれば、JIS L−1096に規定される剛軟度が向上し、得られる吸水性シートの強度が増していることもわかる。また、7〜9を比較すると、表4、図17、18より、5質量%以上15質量%以下の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有させることできわめて高い強度でかつ高い除湿性能が得られることがわかる。尚、図17,18において、太線は、補強剤を含有する吸水性シートの物性を示し、細線は、シート材料そのものの物性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の吸水性シートは、デシカント空調等にもちいられるフィルタ材、室内、倉庫内等の空間調湿剤(壁紙など)等として、高い吸放湿性を発揮し、かつ、高い耐久性を発揮することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式除湿用の乾燥剤としてもちいることのできる吸水材料組成物および吸水材料組成物を用いた吸水性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
気体中の水分を吸収する乾燥剤としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、シリカゲル、ゼオライトなどがある。このうち塩化カルシウム等のアルカリ土類金属の塩化物はゼオライト等の物理的吸着型の乾燥物質より吸着容量が大きい反面、潮解性塩類であるため自らは吸着した水中に溶解する傾向がある。そこで、このような潮解性化合物を乾燥剤として利用するために、これをゼオライト等の多孔質鉱物や吸水性ポリマー等の保水剤に担持させて複合化し、吸着水を多孔質材料中に蓄積固定させたり(例えば特許文献1参照)、シリカゲル等の保水剤を均一に混合したりすることが考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2131494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような乾燥剤は、粒状物であるため、短期、小規模の利用には問題なくもちいられるものの、フィルタ等の定置式で長期にわたってもちいられる用途には不向きである。また、このような乾燥剤を樹脂組成物に混合してシート状に成型することも考えられているが、吸水容量が低下したり、フィルタとしての使用を想定したときに充分な通気性が得られず、実使用に耐えなかったりするという問題があった。
【0005】
そこで、例えば紙、織布や不織布等のシート材料に対して含浸保持させて、シート状の乾燥剤を成型することが考えられるが、上記従来の乾燥剤をシート材料に成型するのは困難で、潮解性の塩化カルシウムが吸着水に溶解、流出して徐々に散逸して除湿、乾燥性能が低下しやすいものにならざるを得ないという現状であった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、塩化カルシウムの高い吸水能力を有効に利用した吸水材料組成物および吸水性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
シリカ分散液は、非常に細かいシリカ微粒子を水に分散させた液状体で、シリカが水中に均一に分散したものである。この分散液自体は、ある程度シート材料に対する塗工性を有し、また、乾燥硬化するとシリカゲルとなるので、ある程度の吸水性能を発揮することが期待される。この分散液に塩化カルシウムを混合した状態で塗工すると、シリカゲルと塩化カルシウムとが渾然一体となって前記シート材料の表面に塗工され、塩化カルシウムの高い吸水性が発揮され、かつシリカゲルの高い保水性が発揮されるものと期待される。
【0008】
この吸水性組成物は、このままでは基材シートに対して十分伸ばすことが困難で、シート材料に塗工することが困難に思われる性状となっているが、本発明者は、鋭意研究の結果、この吸水性組成物の溶媒にさらにエタノールに代表される低分子アルコールを含有させておくと、吸水性組成物を容易に流動させることができ、かつ、吸水性組成物を薄く引き伸ばしたところ、シート材料に良好に塗工でき、良く付着していることを見出した。この吸水材料組成物は塩化カルシウムを均一に含むものであるから、これを塗工した吸水性シートは塩化カルシウムの吸水性を備えた層状に形成される。
【0009】
〔構成1〕
よって、上記目的を達成するための本発明の吸水材料組成物の製造方法の特徴構成は、
シリカ微粒子を溶媒に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物であって、前記溶媒に塩化カルシウムを添加してあるとともに、前記溶媒が低分子アルコールを含有する水とする点にある。
【0010】
〔作用効果〕
つまり、吸水材料組成物は、溶媒成分に低分子アルコールを含んでいるため、シリカ成分に作用した低分子アルコールが、シリカ微粒子同士のすべりを改善し流動性を高めるとともに、シート材料に対する親和性も高め、シート材料に対する塗工性を向上させることができたものと考えられる。この吸水材料組成物を、シート材料に層状に形成し、乾燥、硬化させると、吸水性シートが得られる。この吸水性シートについて、吸水性を調べたところ、充分な吸水性が確認でき、しかも、シリカゲルの高い保水性に基づき、吸着した水分による塩化カルシウムの流出がほとんど見られない高性能な吸水性シートとなっていることがわかった。
【0011】
すなわち、上述の知見に基づけば、上記構成により、塗工性高く吸水性シートを製造することができ、しかも得られた吸水性シートは、塩化カルシウムによる低湿度条件下での高い吸水性を発揮し、潮解性がないために取り扱い容易でかつ長寿命であるという優れた特徴をもつ。
【0012】
また、このようにして得られた吸水性シートは、乾燥したガスに接することにより、逆に吸着した水分を放出する性能を有し、可逆的に空中の水分を吸放出することができる。そのため、得られた吸水性シートは、デシカントローター等、調湿機能を要求される場所において高性能なフィルタ材としてもちいることができる。
【0013】
〔構成2〕
また、上述の構成において、
前記低分子アルコールが、エタノールであることが好ましい。
【0014】
〔作用効果〕
つまり、低分子アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられるが、この中でエタノールは、人体への悪影響が少なく、かつ、適度な揮発性、優れた流動性を有するので好ましい。適度な揮発性を有すると、塗工後に簡便に乾燥させて吸水性シートを得ることができる。また、優れた流動性を有すると、吸水材料組成物自体の流動性を高く維持することができるとともに、塗工作業性が向上する。
〔構成3〕
また、上述の構成において、
前記溶媒中における低分子アルコールの含有率が、8.3質量%以上16.7質量%以下であることが好ましい。
【0015】
〔作用効果〕
すなわち、後述の実験例より、低分子アルコールの含有率としては、8.3質量%以上とすることにより、均一に塗工する塗工性がきわめて高くなるので好ましい。尚、16.7質量%を超えて含有させたとしても、塗工性の向上はあまり見られなくなるとともに、得られる吸水性シートの吸水性能が低下し始めるので、上限は16.7質量%とすることが好ましい。
【0016】
〔構成4〕
また、上述の構成において、
前記シリカ微粒子が粒径20μm未満であることが好ましい。
【0017】
〔作用効果〕
上述の吸水材料組成物は、シリカ分散液を基に吸水材料組成物を得る分が、得られる吸水材料組成物の性状は、シリカの粒径、濃度に依存して変化し、塗工して得られる吸水性シートの物性も変化することがわかった。
【0018】
そこで、塗工性が高く、かつシート材料への密着性が高い吸水材料組成物を得るべく、これら条件を調整したところ、シリカ微粒子は20μm以下であれば、充分上記現象が発現することがわかった。尚、シリカ微粒子は、細かいほど分散しやすくなり好ましいものと考えられる。
【0019】
〔構成5〕
また、上述の構成において、
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上40質量%以下含有することが好ましい。
【0020】
〔作用効果〕
また、シリカ微粒子の分散濃度は、濃くなるとシリカ分散液の粘性が高くなるなど分散液状態での取り扱い性が低下するため、40質量%以下とすることが好ましい。また、濃度が低下しすぎるとシート材料に塗工する際に、一度の塗工作業でシート材料に対してシリカ微粒子が付着する量が少なく、目的とする性能を得るためには、重ね塗りが必要になり、やはり塗工性が低下するため、9質量%以上とすることが好ましい。
【0021】
〔構成6〕
また、前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0022】
〔作用効果〕
吸水材料組成物は、ある程度過剰の塩化カルシウムを加えても均一な組成となり、塩化カルシウム濃度についても種々調整することができる。ここで、塩化カルシウム濃度は3質量%以上添加しておけば、充分な吸水性を発揮させられ、15質量%以下としておくことで上述の潮解性に基づく塩化カルシウムの流出、散逸を防止することができるので好ましい。
【0023】
〔構成7〕
さらに、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有してなることが好ましい。
【0024】
〔作用効果〕
一般に前記シート材料に吸水材組成物を塗工すると、得られる吸水性シートの機械的強度(剛軟度)は、低下する傾向にある。そこで、吸水性シートに高い吸水性を付与すると同時に機械的強度を向上させることができればさらに好ましいことになる。
吸水材料組成物が酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有していると、この酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、シート材料に塗工された状態で、硬化して得られる吸水性シートの機械的強度を向上させる補強剤として機能する。尚、補強剤としては、種々公知の材料が候補として挙げられるが、いずれの材料をもちいた場合でも、補強剤が硬化する際に、補強剤がシリカ微粒子を取り込んだ形態で硬化することが予想され、吸水性能の低下が不可避であると考えられていたが、本発明者らの検討によると、上記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、前記吸水性シートの吸水性を損なうことなくシート材料を補強することができ、好適な補強剤としてもちいられることがわかった。
【0025】
〔構成8〕
前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0026】
〔作用効果〕
上記補強剤としての酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量は、少なすぎると充分な効果を発揮しない。そこで、本発明者らが種々の含有量で補強剤を含有させてある吸水材組成物に付き、含有量と剛軟度との関係を調べたところ、補強剤が多すぎると、逆にシート材料の機械的強度を損なう傾向にあることがわかった。すなわち、補強剤としての酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤添加量が10質量%程度で得られる吸水性シートの機械的強度は最大になり元のシート材料の機械的強度を超えるものの、5質量%を下回ると、元のシート材料の機械的強度を下回り、また、15〜20質量%程度で元のシート材料の程度まで機械的強度が低下することがわかった。そのため、前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下とすることにより、得られる吸水性シートの機械的強度を高く設定することができる。
【0027】
〔構成9〕
また、補強剤を含有する吸水材料組成物に関して言えば、前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上15質量%以下含有することが好ましい。
【0028】
〔作用効果〕
つまり、前記補強剤は、シリカ微粒子と相互作用して、上記機械的強度の向上を達成するものであるが、シリカ微粒子が多すぎると、前記補強剤がシリカ微粒子どうしを凝集させるのに消費される割合が増えて、有効に働かなくなるものと考えられるから、上限濃度として、15質量%以下含有することが好ましい。
【0029】
〔構成10〕
また、補強剤を含有する吸水材料組成物に関して言えば、前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0030】
〔作用効果〕
また、前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤は、塩化カルシウムにより、硬化が阻害される場合があるので、上限として8質量%以下としてあることが望ましい。
【0031】
〔構成11〕
さらに、上述の吸水材料組成物をシート材料に塗工してなる吸水性シートとしては、
パルプ紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に上記吸水材料組成物を含浸塗工してある点に特徴を有する。
【0032】
〔作用効果〕
このような吸水材料組成物をシート材料に塗工する場合、前記シート材料への前記吸水材料組成物付着性を高めようとすると、前記吸水材料組成物中のシリカ微粒子のそれぞれが前記シート材料に対して広い面積で付着することが望ましい。その点で、前記シート材料として、紙、織布あるいは不織布を選択すると、前記シリカ微粒子は、紙、織布あるいは不織布の繊維間に侵入しつつ、周囲の繊維に絡まって付着するため、広い面積で前記繊維に付着しつつ、そのシリカ微粒子同士が層状に凝集し易いために、強固にシート材料に付着させることができる。また、紙、織布、不織布のように通気性のシート材料であると、前記シリカ微粒子が構成する繊維間の奥にまで含浸したとしても、繊維間の通気性によりそのシリカ微粒子が雰囲気中から水分を吸着することができるようになり、塗工されたシリカ微粒子の有効表面積を大きくして、高い吸水性を発揮させるのに役立てられる。
【0033】
また、塩化カルシウムの含有量、粒径、シリカ微粒子の分散量を上述の範囲に設定しておくことにより、上述の吸水性シートは、高い吸水性と、潮解しにくさを併せ持ち、しかも製造容易であって、例えば、先述のシート製造方法によって簡便に製造可能な構成となる。
【0034】
〔構成12〕
また、前記シート材料が、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下であることが好ましい。
【0035】
〔作用効果〕
さらに、シート材料が、紙を主材とし、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下であると、上述の塩化カルシウム、シリカ微粒子が紙を構成する繊維間によく浸透して確実に保持され、全体として一体化した吸水性シートを形成するので、その吸水性シートを高性能なフィルタ材として用いることができる。さらに、この吸水性シートは、塩化カルシウム、シリカ微粒子が、紙を構成する繊維間に確実に保持され、強固に一体化しているから、その吸水性シートを折り曲げてプリーツ加工するなど、さらに種々の加工を行ったとしても、剥離、脱落がおきにくく、種々の用途に応用するのに適している。
【発明の効果】
【0036】
したがって、本発明によれば、デシカント空調等にもちいられるフィルタ材として、高い吸放湿性を発揮し、かつ、高い耐久性を発揮することができる高性能な吸水性シートを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】吸水性シートの除湿能力の評価方法を示す概念図である。
【図2】得られた吸水性シートA1の塗工性を示す写真である。
【図3】得られた吸水性シートA2の塗工性を示す写真である。
【図4】得られた吸水性シートA3の塗工性を示す写真である。
【図5】得られた吸水性シートA4の塗工性を示す写真である。
【図6】得られた吸水性シートA5の塗工性を示す写真である。
【図7】得られた吸水性シートA6の塗工性を示す写真である。
【図8】得られた吸水性シートB1の塗工性を示す写真である。
【図9】得られた吸水性シートB2の塗工性を示す写真である。
【図10】得られた吸水性シートB3の塗工性を示す写真である。
【図11】得られた吸水性シートB4の塗工性を示す写真である。
【図12】得られた吸水性シートB5の塗工性を示す写真である。
【図13】得られた吸水性シートB6の塗工性を示す写真である。
【図14】得られた吸水性シートC7の塗工性を示す写真である。
【図15】得られた吸水性シートC8の塗工性を示す写真である。
【図16】得られた吸水性シートC9の塗工性を示す写真である。
【図17】補強剤添加量と剛軟度の関係を示すグラフである。
【図18】補強剤添加量と除湿性能の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を示す。以下には、発明を明瞭に説明するために、具体的な数値、材料等を挙げて説明を行うが、本発明はこれらの構成に限られるものではない。
【0039】
本発明の吸水性シートは、シリカ微粒子を溶媒に分散させ、塩化カルシウムを含有させてあるシリカ分散液をシート材料に塗布して乾燥させて製造される。前記溶媒は、低分子アルコールとして例えばエタノールを含有する水をもちいる。
【0040】
前記吸水材料組成物は、紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に含浸塗工して乾燥後吸水性シートとしてもちいられる。
【0041】
以下に具体的な吸水性シートを製造する吸水材料組成物を具体例に基づき説明する。
【0042】
〔吸水材料組成物1〜6〕
下記シリカゲル1.5gおよび無水塩化カルシウム0.9gをエタノール含有水12g中に溶解分散してあるシリカ分散液を作成する。エタノール含有水は、表1に従ってエタノール含有率の異なるもの(溶媒1〜6)を種々作成してもちいてシリカ分散液からなる吸水材料組成物とした(吸水材料組成物1〜6)。
【0043】
シリカゲル:
型番;NIPGEL CY−200
製造元;東ソー・シリカゲル株式会社製
SiO2粒子径;2.9μm
【0044】
【表1】
【0045】
〔吸水材料組成物の含浸塗工A〕
この吸水材料組成物1〜6に、下記シート材料全体を約1秒浸漬し、迅速に引き上げ、前記吸水材料組成物1〜6を前記シート材料全体に含浸付着させる。
【0046】
次に、吸水材料組成物1〜6を含浸付着させたシート材料を、長辺方向に吊り下げ状態で大気乾燥する。乾燥されたシート材料は、吊り下げ方向両端を5mmずつ切断し、80mm角の試験片A1〜A6とした。
【0047】
シート材料:
型番;PHN−35−40G
製造元;王子特殊紙製
繊維材;ガラス繊維65質量%、パルプ35質量%
物性;坪量40.0g/m2、厚み200μm、密度0.20g/cm3
大きさ80×90mm
【0048】
〔吸水性シートの評価試験〕
上述の製造方法により製造した80mm角の形状の試験片を秤量し、前記シート材料に付着した吸水性組成物量を求めるとともに、前記試験片による除湿性能を、デシカントローターでの使用環境を再現する下記条件によって測定した。評価は、測定手法の概略を図1に示すように、環境1、2の2つの恒温恒湿槽に一定時間保持後、重量を測定するサイクルをくり返し、環境1の重量と環境2の重量との差分の10サイクル分もとめ、その差分の平均を除湿能力とし、吸水性を評価し、環境1における吸水性シートの表面状態から潮解性を評価した。その結果を表2に示す。また、得られた試験片の外観を図2〜7に示す。
【0049】
環境:
環境1: 30℃,80%RH(恒温恒湿槽)
環境2: 60℃,10%RH(恒温恒湿槽)
サイクル:
環境1に1分保持後、秤量。(重量1)
さらに、環境2に1分保持後、秤量。(重量2)
これを1サイクルとする。
【0050】
【表2】
【0051】
尚、表1中の標記は、以下の内容を示す。
性能評価(a.u.):上記サイクルを10回繰り返したとき、シート材料が環境1,2で吸放湿した水分の差分重量(PAS材料よりなる同型試験片比較値)
【0052】
図2,3に示す試料片A1,A2は、シート材料に付着した吸水性材料がまだらになっており、塗工性において他のものよりも性能が劣ることがわかる。本発明の吸水性シートA3〜A6は、いずれも高い除湿性能を示しているが、A5、A6を比較すると、エタノール含有率の高い溶媒6をもちいたシート材料A6は、溶媒5をもちいたシート材料A5に比べて、吸水性材料の付着量が減少するとともに、性能も低下していることが読み取れる。
【0053】
そのため、塗工性の観点から溶媒中のアルコール含有量は1/12=8.3質量%以上が好ましく、アルコール使用量対効果の面から2/12=16.7質量%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0054】
〔吸水シートのフィルタ加工〕
得られた吸水シートを折り曲げ加工、エンボス加工するなどして、立体的に成型し、フィルタ材料を作成したところ、前記シリカゲル微粒子はシート材料に良く含浸付着しており、剥離、崩壊等の不都合なく、精度良くフィルタ材料を製造することができた。
【0055】
〔分散液のバー塗工B〕
尚、吸水材料組成物の含浸塗工の項において、シート材料に前記分散液を含浸塗工するに、バーコーターをもちいて下記手順にて塗工することもできる。
【0056】
この吸水材料組成物を調整し、シート基材の上にのせ、バーコーターにて引き伸ばし、吸水材料組成物1〜6を含浸付着させる。そのシート材料を、長辺方向に吊り下げ状態で大気乾燥する。乾燥されたシート材料は、吊り下げ方向両端を5mmずつ切断し、80mm角の試験片B1〜B6とした。
【0057】
〔吸水性シートの評価試験〕
先の分散液の含浸塗工Aと同様に、得られた吸水シートの性能評価のための試験を行った。その結果を表3に示す。また、得られた試験片の外観を図8〜13に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すとおり、性能評価において、図8,9に示す試料片B1,B2は、吸水性材料が多島状に分散しており、明確な吸水性材料の輪郭が現れていないことから、シート材料に付着した吸水性材料が均一に引き伸ばされておらず、塗工性において他のものよりも性能が劣ることがわかる。本発明の吸水性シートA3〜A6は、いずれも高い除湿性能を示しているが、B5、B6を比較すると、エタノール含有率の高い溶媒6をもちいたシート材料B6は、溶媒5をもちいたシート材料B5に比べて、吸水性材料の付着量が減少するとともに、性能も低下していることが読み取れる。
【0060】
したがって、塗工方法によらず、塗工性の観点から溶媒中のアルコール含有量は1/12=8.3質量%以上が好ましく、アルコール使用量対効果の面から2/12=16.7質量%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0061】
〔吸水材料組成物7〜9〕
表4に示すように、吸水材料組成物4に、補強剤の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤として、A−QNJ(アイカ工業社製)を10質量%〜20質量%含有させて吸水材組成物を得た(吸水材料組成物7〜9)。この吸水性組成物を、「吸水材料組成物の含浸塗工A」と同様にして吸水性シートの試料片C7〜C9を得た。
【0062】
【表4】
【0063】
表4に示すように、性能評価において、充分高い性能を発揮しているとともに、図14〜16に示す吸水性シートの試料片C7〜C9は、いずれも吸水性材料が均一に塗布されていることがわかる。また、A4、とC7〜C9の比較で、前記吸水材組成物に補強剤の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有させてあれば、JIS L−1096に規定される剛軟度が向上し、得られる吸水性シートの強度が増していることもわかる。また、7〜9を比較すると、表4、図17、18より、5質量%以上15質量%以下の酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有させることできわめて高い強度でかつ高い除湿性能が得られることがわかる。尚、図17,18において、太線は、補強剤を含有する吸水性シートの物性を示し、細線は、シート材料そのものの物性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の吸水性シートは、デシカント空調等にもちいられるフィルタ材、室内、倉庫内等の空間調湿剤(壁紙など)等として、高い吸放湿性を発揮し、かつ、高い耐久性を発揮することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ微粒子を溶媒に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物であって、前記溶媒に塩化カルシウムを添加してあるとともに、前記溶媒が低分子アルコールを含有する水である吸水材料組成物。
【請求項2】
前記低分子アルコールが、エタノールである請求項1に記載の吸水材料組成物。
【請求項3】
前記溶媒中における低分子アルコールの含有率が、8.3質量%以上16.7質量%以下である請求項1または2に記載の吸水材料組成物。
【請求項4】
前記シリカ微粒子が、粒径20μm未満である請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項5】
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上40質量%以下含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項6】
前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上15質量%以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項7】
酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有してなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項8】
前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下である請求項7に記載の吸水材料組成物。
【請求項9】
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9〜15質量%含有する請求項7または8に記載の吸水材料組成物。
【請求項10】
前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上8質量%以下である請求項7〜9のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の吸水材料組成物を、紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に含浸塗工してある吸水性シート。
【請求項12】
前記シート材料が、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下である請求項11に記載の吸水性シート。
【請求項1】
シリカ微粒子を溶媒に分散させてあるシリカ分散液を主成分とする吸水材料組成物であって、前記溶媒に塩化カルシウムを添加してあるとともに、前記溶媒が低分子アルコールを含有する水である吸水材料組成物。
【請求項2】
前記低分子アルコールが、エタノールである請求項1に記載の吸水材料組成物。
【請求項3】
前記溶媒中における低分子アルコールの含有率が、8.3質量%以上16.7質量%以下である請求項1または2に記載の吸水材料組成物。
【請求項4】
前記シリカ微粒子が、粒径20μm未満である請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項5】
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9質量%以上40質量%以下含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項6】
前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上15質量%以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項7】
酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤を含有してなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項8】
前記酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤の含有量が5質量%以上15質量%以下である請求項7に記載の吸水材料組成物。
【請求項9】
前記シリカ分散液がシリカ微粒子を9〜15質量%含有する請求項7または8に記載の吸水材料組成物。
【請求項10】
前記溶媒に対する前記塩化カルシウムの添加率が、3質量%以上8質量%以下である請求項7〜9のいずれか一項に記載の吸水材料組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の吸水材料組成物を、紙を主材としてガラス繊維を含有してなるシート材料に含浸塗工してある吸水性シート。
【請求項12】
前記シート材料が、秤量20g/m2以上50g/m2以下、厚さ100μm以上300μm以下、密度0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下である請求項11に記載の吸水性シート。
【図1】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−212674(P2011−212674A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58324(P2011−58324)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]