説明

吸水膨張性不織布およびその製造方法

【課題】 管継ぎ手や目地部などの止水部材として使用することができるような吸水膨張性不織布であって、淡水に対しても海水に対しても充分な吸水膨張性を発揮すると共に、吸水膨張性樹脂が不織布から脱落しにくい吸水膨張性不織布を提供する。
【解決手段】 止水構造に使用される吸水膨張性不織布であって、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布の所定の部位に、架橋体でない海水膨張性樹脂を塗布または含浸して一体化し、海水膨張部を形成したことを特徴とする吸水膨張性不織布とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止水テープや止水パッキングなどに使用される、水分を吸収して膨張する吸水膨張性不織布に関する。特に海水のようなイオン濃度の高い水においても吸水および膨張作用を発揮する、海水を止水する用途に使用可能な吸水膨張性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された電線やケーブルを保護するためのケーブル保護管のような管を相互に接続する管継ぎ手部分には、確実かつ充分な防水機能・止水機能が求められている。このような部位に用いられる止水部材として、吸水膨張性樹脂の繊維を利用した不織布状の止水部材が知られており、そのような吸水膨張性樹脂繊維としては、例えば、ランシール(登録商標 東洋紡績株式会社製品)やベルオアシス(登録商標 カネボウ合繊株式会社製品)などの製品が市販されている。
【0003】
しかしながら、これら吸水膨張性樹脂繊維は、ポリアクリル酸ナトリウム塩を主成分とした樹脂繊維であり、純水やイオン濃度の低い水(以下淡水と記載する)には、充分な吸水膨張性を発揮して止水効果を発揮するものであるが、海水などのイオン濃度の高い水(以下単に海水と記載する)に対しては、イオンの存在によって、樹脂の吸水膨張性が阻害されるものであった(以下、これら吸水膨張性樹脂繊維を淡水膨張性樹脂繊維と記載する)。従って、これらの止水部材を海水の浸入が予想される地域において管継ぎ手に使用することは困難であり、淡水に対しても海水に対しても確実かつ充分な防水機能・止水機能を発揮できる止水部材が求められていた。
【0004】
また、これら吸水膨張性樹脂繊維に使用される樹脂は基本的に樹脂架橋体であり、加熱により軟化することはあっても溶融しないため、不織布に一体化させる際の加工性が悪かった。
【0005】
一方、淡水だけでなく海水に対しても充分な止水効果を発揮できる止水部材としては、特許文献1に示されたようなものがある。特許文献1には、海水吸水性樹脂粉末と純水吸水性樹脂粉末を混合した吸水性樹脂粉末と、有機バインダー、及び有機溶剤からなる吸水性組成物を、合成繊維の織布又は不織布からなる基材に塗布乾燥させ、テープ状に裁断して止水テープを製造することが開示されている。
【特許文献1】特開平11−167049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの止水テープにおいては吸水膨張性樹脂粉末をバインダーなどにより不織布に担持させる構成であったために、テープの取り扱い時にも吸水膨張樹脂が膨張した際にも、吸水膨張性樹脂が不織布から脱落しやすいという問題があった。脱落を防止するためには、バインダーの量を増やすなどする必要があるが、バインダーの量が多いと、吸水膨張性樹脂の吸水および膨張が阻害され、止水に必要な膨張速度が得られなくなるという問題があった。
【0007】
また、これらの止水テープは、吸水膨張性樹脂粉末をバインダーによって担持させるため、テープが柔軟性を失い硬くなってしまうために、止水テープを管継ぎ手部材などに一体化する作業は容易ではなかった。
【0008】
本発明は、淡水に対しても海水に対しても充分な吸水膨張性を発揮すると共に、吸水膨張性樹脂が不織布から脱落しにくい吸水膨張性不織布を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、管継ぎ手などの止水部分に取り付けがしやすい吸水膨張性不織布を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願において、吸水膨張性樹脂とは、水分を吸収して膨張する樹脂組成物を言う。また、海水膨張性樹脂とは、海水のようにイオン濃度の高い水であっても吸水膨張性を失わない吸水膨張性樹脂をいい、例えば塩分濃度3%の人工海水に対する膨張倍率が20倍程度であるものを言う。また、吸水膨張性樹脂であって、海水膨張性樹脂でないものを淡水膨張性樹脂と言う。淡水膨張性樹脂は、イオン濃度の低い淡水に対しては充分な膨張倍率(例えば150倍)を有する一方、イオン濃度が高い水に対しては膨張倍率が低い。一方、海水膨張性樹脂は、イオン濃度の高低にあまり左右されずに、淡水でも海水でもほぼ一定の膨張倍率を持つという特徴がある。以下、海水膨張性、淡水膨張性という語句も同様の意味で使用する。
【0011】
本発明の発明者は、鋭意検討の結果、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布に、架橋体でない海水膨張性樹脂を、特定のパターンで塗布含浸して、海水膨張部を設けることによって、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、止水構造に使用される吸水膨張性不織布であって、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布の所定の部位に、架橋体でない海水膨張性樹脂を塗布または含浸して一体化し、海水膨張部を形成したことを特徴とする吸水膨張性不織布である。
【0013】
海水膨張部が不織布の面方向にわたって少なくとも1方向に連続するように設けられていることが好ましい(請求項2)。また、海水膨張部において、不織布の厚さ方向の全体にわたって海水膨張性樹脂が塗布または含浸され一体化されていることが好ましい(請求項3)。また、海水膨張性樹脂は熱可塑性であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
また、本発明は、海水膨張性樹脂を溶媒に溶解させて液状とし、淡水膨張性樹脂を含む不織布に塗布または含浸して海水膨張部を形成することを特徴とする、請求項1記載の吸水膨張性不織布の製造方法である(請求項5)。海水膨張性樹脂を加熱溶融させて液状として塗布・含浸することもできる(請求項6)。
【0015】
また、本発明は、請求項2記載の吸水膨張性不織布を円筒状に成形してなる止水部材であって、海水膨張部が、円筒の周方向にわたって閉曲線を形成するように設けられていることを特徴とする止水部材である(請求項7)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、淡水膨張性を有する不織布の所定の部位に海水膨張性樹脂が一体化された海水膨張部となるようにしたので、淡水や海水の浸入に対し、それぞれに対応した膨張部位が速やかに吸水膨張し、止水部材として使用した際に、海水に対しても淡水に対しても充分な止水効果が得られる。また、架橋体でない海水膨張性樹脂を不織布に塗布または含浸して一体化しているので、施工時などの取り扱い時や浸水に対し吸水・膨張した際に海水膨張性樹脂が不織布から脱落しにくいという効果が得られる。
【0017】
また、海水膨張部が不織布の面方向にわたって少なくとも1方向に連続するようにした場合には、海水に対する止水性を高めることができる。また、海水膨張部において不織布の厚さ方向全体にわたって海水膨張性樹脂が塗布または含浸して一体化されている場合にも、海水に対する止水性を高めることができる。
【0018】
また、本発明に使用される海水膨張性樹脂として熱可塑性のものを使用した場合には、本発明の吸水膨張性不織布を加熱することによって、海水膨張性熱可塑性樹脂を軟化・溶融させることができるので、管継ぎ手に一体化するなどといった、止水部材としての成形加工を容易にすることができる。
【0019】
また、請求項5または請求項6の製造方法によれば、所定のパターンを有する本発明の吸水膨張性不織布を、高い製造効率で得ることができる。
【0020】
また、請求項7の止水部材によれば、管継ぎ手部分などにおいて、海水を確実に止水することができる止水部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。本発明の吸水膨張性不織布は、淡水膨張性樹脂の繊維または粒子または粉体を含む淡水膨張性を有する不織布に、架橋体でない海水膨張性樹脂を、図1に示すように、縞状に含浸させて一体化してなるものであり、海水膨張性樹脂を含浸させた海水膨張部1,1と、それ以外の部分である淡水膨張部2,2が、不織布の面方向にわたって縞状に形成されている。淡水膨張性を有する不織布としては、前述したベルオアシスやランシールなどの淡水膨張性樹脂繊維を天然繊維や合成樹脂繊維と混紡してなる不織布や、淡水膨張性樹脂の粒子や粉体をバインダーなどによって不織布基材繊維表面や基材繊維間や不織布表面に担持させた不織布を使用することができる。
【0022】
海水膨張部1,1においては、含浸された海水膨張性樹脂が、不織布を構成する繊維や淡水膨張性樹脂の繊維や粒子・粉体を包み込んでその微細な構造をコーティングするようになっている。海水膨張部1,1の好ましい実施の形態としては、不織布の厚さ方向全体にわたって、海水膨張性樹脂が含浸されていることが好ましく、このようにすれば、海水膨張部1,1において、海水の浸入に際しその厚さ方向において吸水・膨張が不十分な部分が生じてその部分が通水層となってしまうことを防止でき、止水材としての性能を高めることができる。
【0023】
本発明に使用される海水膨張性樹脂は、架橋体でない吸水膨張性樹脂であり、特に海水に対して充分な吸水膨張性を有する樹脂からなる。本発明の吸水膨張不織布が海水に対して有効な止水効果を発揮できるようにするためには、海水膨張部1,1に含浸される海水膨張性樹脂が海水に対する充分な吸水膨張性を有している必要があり、本発明に使用する海水膨張性熱可塑性樹脂は、純水970gに塩化ナトリウム30gを溶解させた塩分濃度3%の人工海水に対して、吸水倍率が20倍以上であることが望ましく、40倍以上であることが更に望ましい。なお、吸水倍率とは、所定量の吸水膨張性樹脂の吸水前と吸水後の重量を測定し、その比を計算して求めた重量変化の倍率である。
【0024】
また、海水膨張性樹脂が架橋体でないことによって、海水膨張性樹脂を溶剤に溶解したり、加熱溶融したりして液状とすることが可能となり、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布へ塗布・含浸することによって、不織布を構成する繊維や淡水膨張性樹脂の繊維や粒子・粉体を包み込んで、その微細な構造を海水膨張性樹脂がコーティングするように一体化することができる。
【0025】
本発明に使用可能な架橋体ではない海水膨張性樹脂として、例えば、特にアルケンオキサイド変性物を主成分として含むものが例示でき、この樹脂は海水のような比較的イオン濃度の高い水であっても、溶液中のイオンよりも水分を選択的に吸収して、吸水膨張性を発揮できるという特徴がある。この海水膨張性樹脂は、一般的な淡水膨張性樹脂と比べると、淡水に対する吸水膨張速度では劣るものの、淡水でも海水でも同様な吸水膨張性能を示すという特徴がある。架橋体でない海水膨張性樹脂としては、アクアコーク(登録商標 住友精化株式会社製品)を例示することができる。
【0026】
海水膨張部1,1は、特に海水に対して良好な吸水膨張性を有する海水膨張性樹脂によって不織布の微細な構造がコーティングされたようになっているので、海水膨張性樹脂の表面積が大きく、海水の浸入に際し、海水膨張性樹脂部分が速やかに吸水・膨張する。一方、淡水膨張部2,2においては海水膨張性樹脂が含浸されていないので、淡水の浸入に際し、比較的吸水膨張倍率の高い淡水膨張性樹脂が速やかに吸水・膨張することができる。従って、淡水膨張性樹脂に対して吸水膨張速度が劣るような海水膨張性樹脂を用いても、淡水膨張部においては、海水膨張性樹脂が淡水膨張性樹脂への吸水を妨げることがないので、淡水膨張樹脂の吸水膨張速度や膨張倍率を充分に確保できる。
【0027】
また、本発明の吸水膨張不織布においては、淡水膨張性樹脂を含む不織布の微細な構造に海水膨張性樹脂がコーティングされているので、不織布の取り扱い時に海水膨張性樹脂が不織布から脱落してしまうことが最小限に抑えられる。更に、海水膨張性樹脂がコーティングされて不織布と一体になっているので、吸水時においても、海水膨張性樹脂がばらばらになって不織布から脱落することが防止できる。
【0028】
また、本発明では、海水膨張性樹脂を含浸させることにより比較的硬くなった海水膨張部1と、比較的柔軟な淡水膨張部2とが不織布の面方向にわたって所定のパターンで混在するようになっているので、不織布全体としては、その柔軟性を失いにくく、管や管継ぎ手などの形状になじませて貼り付けることが容易となる。
【0029】
さらに、本発明に使用する海水膨張性樹脂は熱可塑性を有し、加熱することにより、淡水膨張性樹脂を含む不織布の基材繊維の溶融温度よりも低い温度で、軟化、溶融する性質を有する海水膨張性熱可塑性樹脂であることが望ましい。使用する海水膨張性樹脂が熱可塑性の樹脂である場合には、熱を加えることにより海水膨張性樹脂を軟化または溶融させることができる。従って、海水膨張性樹脂をコーティングすることによって原材料不織布の持つ柔軟性が失われ硬くなってしまうことがあろうとも、本発明の吸水膨張性不織布であれば、オーブンなどで暖めることによって吸水膨張性不織布の柔軟性を回復させ、じゃばら管の端部の外表面や、じゃばら管用管継ぎ手の接続部内面などの複雑な立体形状にも、なじませながら貼り付けることが可能となる。貼り付けは接着剤や両面テープなどによって行うことができる。その後不織布を冷却すれば、複雑な立体形状にもうまくなじんで成形一体化された止水部材を得ることができる。
【0030】
海水膨張部1,1と淡水膨張部2,2が不織布の面方向にわたって展開・混在するパターンは、図1に示した縞状に限定されるものでなく、以下に示すようなパターンとしても良い。図2(a)は水玉模様状のパターンで含浸させた例であり、水玉状(小円状)に淡水膨張部2,2を残すように、海水膨張性樹脂を含浸させて海水膨張部1としている。図3(a)は格子状のパターンで含浸させた例であり、矩形状に淡水膨張部2,2を残すように、海水膨張性樹脂を格子状に含浸させて海水膨張部1としている。図4(a)は亀甲状のパターンで含浸させた例であり、略6角形状に淡水膨張部2,2を残すように、海水膨張性樹脂を亀甲状に含浸させて海水膨張部1としている。
【0031】
図1、図2(a)、図3(a)、図4(a)に示したパターンによれば、吸水膨張不織布の面方向にわたって、図1の例では縞の方向(1方向)に、図2(a)〜図4(a)の例では複数の方向にわたって、海水膨張部1が連続するように設けられているので、後述するように、止水テープなどに加工して使用した際に、特に海水の浸入に対する止水効果を高めることができる。
【0032】
海水膨張部1,1と淡水膨張部2,2のパターンは反転させてもよい。図2(b)は水玉模様状のパターンで含浸させた例であり、水玉状(小円状)に海水膨張性樹脂を含浸させて海水膨張部1,1として、残りの部分を淡水膨張部2としている。図3(b)は格子状のパターンで含浸させた例であり、矩形状に海水膨張性樹脂を含浸させて海水膨張部1,1とし、残りの格子状の部分を淡水膨張部2としている。図4(b)は亀甲状のパターンで含浸させた例であり、略6角形状に海水膨張性樹脂を含浸させて海水膨張部1,1とし、残りの亀甲状の部分を淡水膨張部2としている。
【0033】
図1、図2(b)、図3(b)、図4(b)に示したパターンによれば、吸水膨張不織布の面方向にわたって、図1の例では縞の方向(1方向)に、図2(b)〜図4(b)の例では複数の方向にわたって、淡水膨張部2が連続して設けられているので、後述するように、止水テープなどに加工して使用した際に、特に淡水の浸入に対する止水効果を高めることができる。
【0034】
次に、本発明の吸水膨張性不織布の製造方法を説明する。淡水膨張性樹脂の繊維または粒子または粉体を含み淡水膨張性を有する不織布に対して、トルエン、アルコール類、アルデヒド類などの溶剤に海水膨張性熱可塑性樹脂を溶解させた樹脂溶液を、海水膨張部1,1としたい部位に塗布・含浸させる。含浸量は含浸溶液の濃度や量などによって調整することができる。また、溶剤には5〜10%程度の水を添加しても良い。含浸後の不織布から溶剤成分を揮発させ、乾燥させることによって、淡水膨張性樹脂を含む不織布の有する微細な構造に海水膨張性樹脂をコーティングした海水膨張部1,1を有する吸水膨張性不織布を得ることができる。
【0035】
本実施形態のように、海水膨張性熱可塑性樹脂を溶剤によって溶解して樹脂溶液とした場合には、淡水膨張性樹脂を含む不織布が比較的融点の低い基材繊維やバインダーを使用したものであっても、その不織布基材繊維や不織布構造を傷めることなく海水膨張性樹脂を含浸させた海水膨張部1,1を製造できる。また、海水膨張性熱可塑性樹脂を溶剤によって溶解して樹脂溶液とした場合には、吸水膨張不織布の厚さ方向全体にわたって樹脂溶液を含浸させることが容易にでき、海水膨張性熱可塑性樹脂を厚さ方向全体にわたってコーティングすることが容易にできる。
【0036】
塗布・含浸の方法は、海水膨張性樹脂の溶液を不織布の所定位置に塗布含浸できるものであれば、はけ塗りの他、ロールコータやディスペンサなどの装置によって塗布することができ、スクリーン印刷などの方法により行うこともできる。これらの塗布・含浸方法によれば、所定のパターンで海水膨張部と淡水膨張部とが混在する本発明の吸水膨張性不織布を高い効率で生産できる。
【0037】
また、使用する海水膨張性樹脂が熱可塑性である場合には、加熱溶融して液状とすることも可能であり、溶融状態とした海水膨張性樹脂を淡水膨張性を有する不織布に所定のパターンで塗布・含浸させることによっても、本発明の吸水膨張性不織布を得ることができる。その場合には、淡水膨張性樹脂を含む不織布として、海水膨張性熱可塑性樹脂の融点よりも、比較的高い融点を有する基材繊維やバインダーを使用したものを使用することが望ましい。
【0038】
次に、本発明の吸水膨張性不織布の使用方法について説明する。本発明の吸水膨張性不織布は、例えば所定の幅のテープ状に裁断して止水テープとすることができる。このような止水テープは、管または管継ぎ手部材の止水が必要な部位に巻きつけたり、管や管継ぎ手部材に成形一体化したりして、止水構造部材として使用することができる。止水テープが使用された継ぎ手部分へ淡水や海水が浸入すると、本発明の吸水膨張性不織布からなる止水テープが吸水膨張して、管と管継ぎ手の間の隙間を封止し、淡水や海水に対する止水効果を得ることができる。また、このような止水テープは、管や管継ぎ手に限らず、ブロックとブロックの隙間や、板と板の隙間のような、目地状の隙間に詰め込んで止水するような用途にも使用できる。
【0039】
止水テープは、図1の吸水膨張性不織布であれば、縞の伸びる方向がテープの長手方向となるようにするのが望ましい。このようにすれば、管等に止水テープを巻きつけた際に、海水膨張部1,1や淡水膨張部2,2がそれぞれリング状に閉じた形状となり、海水や淡水に対する止水効果が高まる。
【0040】
図2(a)、図3(a)、図4(a)に示したパターンであれば、テープの長手方向にわたって海水膨張部1が連続するようにパターンの大きさやテープの幅などを調整することが望ましく、そのようにすることにより、管等に止水テープを巻きつけた際に、海水膨張部1,1がリング状に閉じた形状を形成することが可能となり、特に海水に対する止水効果を高めることができる。
【0041】
一方、図2(b)、図3(b)、図4(b)に示したパターンであれば、テープの長手方向にわたって淡水膨張部2が連続するようにパターンの大きさやテープの幅などを調整することが望ましく、そのようにすることにより、管等に止水テープを巻きつけた際に、淡水膨張部2がリング状に閉じた形状を形成することが可能となり、特に淡水に対する止水効果を高めることができる。
【0042】
また、前述した止水テープを丸めて、図5に示したような円筒状の止水部材3とすることもできる。止水部材3は、図1に示した本発明の吸水膨張性不織布を短冊状にカットして、両端部が重なり合うように円筒状に丸めて、海水膨張部1,1、淡水膨張部2,2がそれぞれ円筒の周方向にわたってリング状をなし周方向にわたって閉じた閉曲線を形成すると共に、形成される円筒の軸線の方向に沿って海水膨張部1と淡水膨張部2とが交互に並んだ状態として、重ね合わせた両端部を接着することによって製造される。
【0043】
前記止水部材3を製造する際には、海水膨張性樹脂が熱可塑性であることが特に望ましい。海水膨張性樹脂が熱可塑性であると、熱をかけることによって吸水膨張不織布が柔軟になるので、丸めやすい。また、丸めた状態のまま冷ませば、その形状を保つことができる。重ね合わせられた両端部の接着は、接着剤や両面テープによって行ってもよいが、海水膨張性樹脂が熱可塑性である場合には、重ね合せ部を海水膨張性熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱プレスすることにより、熱可塑性の海水膨張性樹脂が溶けて、両端の海水膨張部を互いに融着することができる。
このような円筒状の止水部材3は、管と管継ぎ手との間の隙間に挿入し、管継ぎ手の外部から金属バンドで締める等して止水部材として使用することができる。
【0044】
また、図6に示したような管継ぎ手部材9を製造することもできる。管継ぎ手部材9はじゃばら管(図示せず)と円筒状管(図示せず)を接続するものであり、弾性を有するゴム材料によって、挿入部4,4およびストッパ部7を一体に成形した継ぎ手本体に、本発明の吸水膨張性不織布5,6を挿入部内面に沿って一体化し、挿入部外周に締め付けバンド10,10を備えてなるものである。
【0045】
管継ぎ手部材9の製造工程においては、以下のようにして吸水膨張不織布5,6を一体化する。あらかじめゴム材料により成形された継ぎ手本体の接続部4,4に対し、淡水膨張性樹脂を含む不織布を短冊状にカットして円筒状に丸め、接続部4,4内周面に沿わせて配置する。その状態で、加熱溶融させた海水膨張性樹脂を、不織布内面に複数のリング状をなすようにディスペンサによって塗布するとともに、接続部4,4の内周面に不織布をなじませる。塗布された海水膨張性樹脂は、不織布内部に吸込まれて冷却され、不織布の微細な構造をコーティングするように一体化されると共に、不織布のコシを高めて、不織布を接続部の内周面に固定する働きをする。以上のプロセスによって、本発明の吸水膨張性不織布が一体化された管継ぎ手部材を製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明する。淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布として、淡水膨張性樹脂繊維であるランシール(登録商標 東洋紡績株式会社製品)とポリエステル繊維を7:3の混合比率で混紡した不織布(目付け300g/平方メートル)を使用した。
海水膨張性熱可塑性樹脂として、アクアコーク(登録商標 住友精化株式会社製品)を使用した。アクアコークをイソプロピルアルコール(IPA)にて溶解し、樹脂溶液とした。
【0047】
淡水膨張性樹脂を含む不織布に、樹脂溶液を幅15mm間隔15mmの縞状にはけによって塗布し、不織布に含浸させた後、イソプロピルアルコールを揮発させた。海水膨張性樹脂は淡水膨張性樹脂を含む不織布の微細な構造にコーティングされた状態となり、図1に示すような本発明の吸水膨張性不織布が得られた。海水膨張部1におけるアクアコークの塗布量は100g/平方メートルとなるようにした。
【0048】
(比較例1)
上記淡水膨張性樹脂を含む不織布をそのまま、比較例1の吸水膨張性不織布として使用した。
【0049】
(比較例2)
上記淡水膨張性樹脂を含む不織布に、アクアコークの粉末をバインダー(製品名:セルニー、日本曹達株式会社製品)と混合した組成物を塗布・乾燥させて、アクアコークの粉末を担持させ、比較例2の吸水膨張性不織布を得た。
【0050】
実施例は、海水膨張性熱可塑性樹脂がコーティングされることによって、不織布のコシが強くなり、比較例1に対して不織布の保形性が向上した。
【0051】
また、曲率半径5mmの曲げ型に、実施例、比較例1、比較例2の吸水膨張不織布を押し付けて90度に折り曲げる曲げ性評価を行った。実施例、比較例1のいずれの吸水膨張性不織布からも、吸水膨張性樹脂の脱落は認められなかった。一方、比較例2の吸水膨張性不織布からは、特に折り曲げた部分から、吸水膨張樹脂の脱落が見られた。
【0052】
また、実施例の吸水膨張不織布を60℃にオーブンにて加熱したところ、吸水膨張不織布は軟化してしなやかな状態となり、曲率半径5mmの曲げ型にもきわめて容易になじませることができ、さらに、そのまま自然冷却することによって、曲げた形状に固まって、曲げ型と一致した形状を保持できた。一方、比較例1の吸水膨張性不織布においては、曲げ型になじませるところまでは本発明実施例と同様であったが、自然冷却しても保形性が向上することはなかった。比較例2の吸水膨張性不織布は、60℃に加熱しても、あまりしなやかな状態とはならず、曲げ型の形状へのなじみが悪く、海水膨張性樹脂粉末の脱落もあまり改善されなかった。
【0053】
(止水性)
図7に模式的に示すような評価装置を用いて止水性の評価を行った。評価装置は、2つの水槽13,14の底部分が、止水流路15で互いに連通された構造をしている。止水通路15は、幅50mm、高さ1mmの長方形断面をしている。この止水通路に、幅50mm、長さ30mmの短冊状にカットした評価サンプルXを両面テープで設置した後に、一方の水槽13に水(海水又は淡水)を注ぎいれ、水を加えた水槽13側から0.1MPaの加圧を行い、反対側の水槽14側に漏れ出してくる水や押し出されてくる吸水膨張樹脂を観察することによって、止水性の評価を行った。
【0054】
淡水を水槽13に注ぎ込んで加圧した場合には、実施例、比較例1、比較例2共に反対側への漏水は観察されず、いずれも充分な止水性を発揮した。しかし、比較例2においては、膨張した吸水膨張性樹脂粉末の一部が水圧により水槽14側に押し出されてきているのが観察された。
【0055】
海水を水槽13に注ぎ込んで加圧した場合には、実施例1、比較例2では、反対側への漏水は観察されず、いずれも充分な止水性を発揮した。しかし、比較例1においては、止水できず、水槽14側に海水が流入してしまった。また、比較例2においては、膨張した吸水膨張性樹脂粉末の一部が水圧により水槽14側に押し出されてきているのが観察された。試験後に水槽13の水を抜いて、評価サンプルを一旦乾燥した後に再び止水性の評価を行ったところ、実施例では反対側への漏水は観察されず、再び充分な止水性を発揮したものの、比較例2においては、吸水膨張性樹脂が水槽14側に押し出され、漏水が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、淡水に対しても海水に対しても充分な吸水膨張性を発揮すると共に、吸水膨張性樹脂が不織布から脱落しにくい吸水膨張性不織布を提供できる。この吸水膨張性不織布は、管継ぎ手や目地部などの止水部材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の吸水膨張不織布を示す図である。
【図2】本発明の吸水膨張不織布における海水膨張部と淡水膨張部の他のパターンを示す図である。
【図3】本発明の吸水膨張不織布における海水膨張部と淡水膨張部の他のパターンを示す図である。
【図4】本発明の吸水膨張不織布における海水膨張部と淡水膨張部の他のパターンを示す図である。
【図5】本発明の吸水膨張不織布の止水部材を示す斜視図である。
【図6】本発明の吸水膨張不織布を備える管継ぎ手を示す部分断面図である。
【図7】止水性能評価装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 海水膨張部
2 淡水膨張部
3 止水部材
4、4 接続部
5、6 吸水膨張性不織布
7 ストッパ部
9 管継ぎ手
10 締め付けバンド
13、14 水槽
15 止水通路
X 評価サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
止水構造に使用される吸水膨張性不織布であって、
淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布の所定の部位に、架橋体でない海水膨張性樹脂を塗布または含浸して一体化し、海水膨張部を形成したことを特徴とする吸水膨張性不織布。
【請求項2】
海水膨張部が不織布の面方向にわたって少なくとも1方向に連続するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の吸水膨張性不織布。
【請求項3】
海水膨張部において、不織布の厚さ方向の全体にわたって海水膨張性樹脂が塗布または含浸され一体化されてなることを特徴とする請求項1記載の吸水膨張性不織布。
【請求項4】
海水膨張性樹脂が熱可塑性であることを特徴とする請求項1記載の吸水膨張性不織布。
【請求項5】
海水膨張性樹脂を溶媒に溶解させて液状とし、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布の所定位置に塗布または含浸して海水膨張部を形成することを特徴とする、請求項1記載の吸水膨張性不織布の製造方法。
【請求項6】
海水膨張性樹脂を加熱溶融させて液状とし、淡水膨張性樹脂を含み淡水膨張性を有する不織布の所定位置に塗布または含浸して海水膨張部を形成することを特徴とする、請求項1記載の吸水膨張性不織布の製造方法。
【請求項7】
請求項2記載の吸水膨張性不織布を円筒状に成形してなる止水部材であって、
海水膨張部が、円筒の周方向にわたって閉曲線を形成するように設けられていることを特徴とする止水部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−19294(P2009−19294A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181588(P2007−181588)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】