説明

吸水速乾織編物

【課題】水分を素早く吸収してべたつき感を軽減させるとともに、吸収した水分を素早く乾燥させる機能、すなわち吸水速乾性を有した織編物およびそれを用いた繊維製品を提供する。
【解決手段】衣料用として使用される吸水速乾織編物であって、化学繊維からなる織編物の肌側となる面に、多角形が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるようにして繰り返されるパターンで、撥水剤が付着しており、さらに撥水剤が付着していない部分が吸水性を有している吸水速乾織編物である。前記パターンを構成する多角形が、三角形であること、さらに、前記パターンを構成する三角形が、正三角形または二等辺三角形であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料に使用する織編物であって、吸水速乾性を有し、汗によるべたつき感を軽減する織編物、および該織編物を使用した繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、汗で濡れた衣料が肌に与えるべたつき感を軽減するため、布帛に撥水処理を行うことが提案されている。
例えば特許文献1には、織編物の片面全体に撥水処理を施し、他面には全く撥水性を有していないかまたは撥水度を弱めた撥水処理を施すことが開示されている。
しかし、肌と接する織編物全体を撥水処理した構成では、汗が残留した場合、かえって汗を吸収しにくくなり、べたつき感は解消され難かった。
【0003】
また、例えば特許文献2には、織編物の少なくとも一面に、少なくとも多角形が角部で連続する部分を有するパターンで撥水剤が付着していることにより、べたつき感を軽減した織編物が開示されている。
しかし、特許文献2に開示されているパターンでは、撥水剤が付着している部分同士が少なくとも一部で連続しているため、撥水剤が付着していない部分が、前記パターンによって付着している撥水剤により区切られることになる。そのため、撥水剤が付着していない部分のある一箇所において吸水できる水分量には限界があった。また、吸水した水は反対側の面に拡散するしかないため、一箇所で大量の水を吸水した場合には拡散速度が著しく低下し、十分な速乾性を得ることはできなかった。
【0004】
【特許文献1】特開昭56−144272号公報
【特許文献2】特開2005−336633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水分を素早く吸収してべたつき感を軽減させるとともに、吸収した水分を素早く乾燥させる機能、すなわち吸水速乾性を有した織編物およびそれを用いた繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、衣料用織編物の肌側となる面に、特定のパターンで撥水剤を付着させ、さらに撥水剤が付着していない部分に吸水性を与えることにより、優れた吸水速乾性を有し、べたつき感を軽減させることができることを見出し、これに基づいて本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明は、衣料用として使用される吸水速乾織編物であって、化学繊維からなる織編物の肌側となる面に、多角形が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるようにして繰り返されるパターンで、撥水剤が付着しており、さらに撥水剤が付着していない部分が吸水性を有していることを特徴とする、吸水速乾織編物である。
【0008】
前記パターンを構成する多角形が、三角形であることが好ましい。
【0009】
さらには、前記パターンを構成する三角形が、正三角形または二等辺三角形であることが好ましい。
【0010】
また、前記パターンを構成する正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが、3〜12mmであることが好ましい。
【0011】
さらに、前記パターンを構成する正三角形または二等辺三角形同士が有する間隔は、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが3mm以上7mm未満の場合には0.3mm以上0.8mm未満であり、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが7〜12mmの場合には0.8〜2.0mmであることが好ましい。
【0012】
また、前記織編物の厚みが0.30〜1.50mmであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記吸水速乾織編物を用いてなるスポーツ衣料繊維製品である。
【0014】
また、本発明は、前記吸水速乾織編物を用いてなるインナー衣料繊維製品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水分を素早く吸収してべたつき感を軽減させるとともに、吸収した水分を素早く乾燥させる機能、すなわち吸水速乾性を有した織編物およびそれを用いた繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の吸水速乾織編物は、化学繊維からなる衣料用織編物の肌側となる面に、特定のパターンで撥水剤が付着しており、さらに撥水剤が付着していない部分が吸水性を有していることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる前記パターンとしては、図1〜5に示すように、多角形が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるようにして繰り返されるパターンであることが求められる。
撥水剤をこのように配置すると、撥水剤が付着していない部分が連続しているために、撥水剤が付着していない部分で吸収した水分を広範囲に拡散させることができ、さらに反対側の面に素早く拡散させることができる。
さらに、撥水剤が付着していない部分は吸水性を有しているため、素早く水分を吸収することができる。
これにより、本発明の吸水速乾織編物は優れた吸水性とともに優れた速乾性を得ることができる。
【0019】
さらに、上記パターンのなかでも特に、図1〜4に示すような、三角形の形状をした撥水剤付着部分1が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるように配置された繰り返しパターンであることが好ましい。
撥水剤付着部分1を三角形にすることにより、撥水剤が付着していない部分が、一箇所の交差点からより多くの方向に伸びる構成となるため、撥水剤が付着していない部分で吸収した水分が、より放射線状に広がりやすくなり、水分をより広範囲に拡散させることができる。
なお、図5のように、例えば六角形が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるように配置された繰り返しパターンの場合は、撥水剤が付着していない部分は、一箇所の交差点から3方向に伸びる構造となり、図1〜4に示すような撥水剤付着部分1が三角形であるパターンと比べると、一箇所の交差点から伸びる方向が少なくなる。
【0020】
また、上記パターンを構成する三角形が、図1に示すような正三角形、または図2に示すような二等辺三角形であることが、撥水剤が付着していない部分が、一箇所の交差点から、より均等に各方向に伸びる点で好ましい。
なお、図4に示すようなパターンの場合、ある箇所では、撥水剤が付着していない部分が8方向に伸びているものの、別の箇所では4方向に伸びる構成となっており、図1や図2に示すようなパターンに比べ、吸水性などに部分的ばらつきが生じるおそれがある。
【0021】
前記パターンを構成する多角形が正三角形または二等辺三角形の場合、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さは、3〜12mmであることが好ましく、さらに好ましくは4〜7mmである。正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが3mm未満であると、撥水剤付着部分の面積が、撥水剤が付着していない部分の面積よりも相対的に小さくなり、べたつき感を与えるおそれがある。また、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが12mmを超えると、撥水剤付着部分の面積が、撥水剤が付着していない部分の面積よりも相対的に大きくなり、吸水性が著しく低下するおそれがある。
【0022】
さらに、前記パターンを構成する正三角形または二等辺三角形同士が有する間隔は、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが3mm以上7mm未満の場合には0.3mm以上0.8mm未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.4〜0.6mmである。正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが3mm以上7mm未満の場合に、間隔が0.3mm未満であると、十分な吸水性が得られないおそれがある。また、間隔が0.8mm以上であると、べたつき感を与えるおそれがある。
同様に、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが7〜12mmの場合には、0.8〜2.0mmであることが好ましく、さらに好ましくは1.0〜1.5mmである。
このように、本発明は、撥水剤付着部分と撥水剤が付着していない部分とのバランスが重要であり、上記条件を満たすことにより、優れた吸水性および速乾性を有することができ、べたつき感を与えない織編物を提供することが可能となる。
【0023】
前記撥水剤としては、フッ素系、シリコーン系、ワックス系などの撥水剤を使用することが好ましい。
また、前記撥水剤は水系および溶剤系のいずれでもよく、特に限定するものではないが、なかでも水系の撥水剤が環境配慮の点で好ましい。
【0024】
また、前記撥水剤は、バインダー樹脂とともに織編物に付着させることが、撥水剤の洗濯耐久性を高める点で好ましい。
ここで、使用されるバインダー樹脂としては、撥水性を大きく阻害しないものが好ましく、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
また、前記バインダー樹脂は、水系および溶剤系のいずれでもよく、使用する撥水剤に合わせて適宜選定すればよい。
【0025】
前記バインダー樹脂は、撥水剤と混合して使用されるが、このときの撥水剤とバインダー樹脂との混合割合は使用するバインダー樹脂により異なり、洗濯耐久性および風合いを考慮しながら適宜設定すればよい。
【0026】
前記撥水剤には、バインダー樹脂のほか、撥水耐久性の向上などを目的として、架橋剤などの添加物を加えても構わない。
【0027】
前記撥水剤を織編物に付着させる方法としては、グラビアロール法、ロータリースクリーン法、インクジェット法などが挙げられる。なかでも、ロータリースクリーン法が、撥水剤を付着させる面積、形状、パターン間隔などの設定が容易であり、撥水剤を連続的にかつ精度良く付着させることができるため好ましい。
【0028】
また、前記撥水剤を織編物に付着させる場合、撥水剤が付着する部分の織編物を構成している単糸繊維の表面が撥水剤によって均一に被覆されることが好ましい。そうすることにより、撥水耐久性が向上し、織編物の風合いが損なわれることもない。
【0029】
なお、前記方法により撥水剤を織編物に付着させる場合には、撥水剤が織編物の反対側まで浸透しないように、撥水剤を付着させるときの粘度、付着させる際にスキージ等によって織編物にかかる圧力、捺染等の速度などを適宜調整する必要がある。
また、織編物の厚み方向に対する撥水剤の浸透はできるだけ小さいほうが好ましいが、撥水剤を付着させた面からの浸透厚みが、織編物の厚みの1/2以下であることが好ましい。
撥水剤の浸透厚みは、撥水剤を付着させた織編物を、染料(反応染料または直接染料)を含む水溶液に1時間ほど浸漬させ、風乾させた後、織編物の断面をマイクロスコープにて観察し、染料による染色がされていない部分の厚みを測定することで求めることができる。
【0030】
前記撥水剤の付着量については、特に限定するものではなく、適宜選定すればよい。ただし、織編物に撥水性を付与することができる範囲で、かつ織編物の風合いを損なわない量であることが好ましいため、撥水性を付与することができる範囲においてできるだけ少量であることが好ましい。
【0031】
本発明の吸水速乾織編物は、織編物の肌側となる面において、撥水剤が付着していない部分は、吸水性を有していることが求められる。
【0032】
本発明において求められる吸水性としては、撥水剤が付着していない部分の吸水速度が5秒未満であることが好ましく、さらに好ましくは1秒未満である。
吸水速度が5秒以上であると、べたつき感を強く与えるおそれがある。
なお、本明細書における吸水速度とは、実施例で後述するJIS L1907 滴下法の吸水速度に関する試験方法に準拠し測定したものである。
【0033】
前記吸水性を得るために、本発明に使用される織編物は、撥水剤を付着させる前の段階で、少なくとも織編物の肌側となる面に吸水性を具備させることが好ましい。
前記吸水性は、繊維素材、糸条または織編物に吸水加工剤を付与することによって得ることができる。なお、吸水加工剤の付与方法については、特に限定するものではなく、公知の付与方法を適宜用いればよい。
【0034】
ここで使用される吸水加工剤としては、公知の吸水加工剤を使用することができ特に限定するものではないが、なかでも親水性を有するポリエステル系樹脂からなる吸水加工剤が好ましく使用される。
【0035】
また、本発明の吸水速乾織編物には、そのほかに、紫外線カット性や抗菌性、防臭性等の各種機能を付与するための加工剤を併用しても構わない。
【0036】
前記織編物としては、織物としては、例えば;平織、綾織、朱子織等の三原組織;変化組織;経二重織、緯二重織等の片二重組織;たてビロードなどが挙げられる。
また、編物としては、経編物、緯編物のいずれでもよく、経編物としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編などが挙げられる。また緯編物としては、天竺、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編などが挙げられる。
また、織編物を構成する層数は特に限定するものではなく、単層構造であっても2層以上の多層構造であってもよい。
【0037】
本発明で使用される織編物は、厚みが0.30〜1.50mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.50〜1.20mmである。織編物の厚みが0.30mm未満であると、十分な吸水性が得られず、べたつき感を軽減することができないおそれがある。また、1.50mmを超えると、織編物内の水分が蒸発し難くなり、速乾性が得られないおそれがある。
なお、本明細書における織編物の厚みの測定は、織物の場合は、JIS L1096−1998,6.5の厚さ測定法に準拠し、編物の場合は、JIS L1018−1998,6.5の厚さ測定法に準拠し測定した。
【0038】
前記織編物の密度としては、例えば織物の場合は、経糸、緯糸ともに50〜250本/2.54cmであることが好ましい。また編物の場合は、ウェル数が30〜50ウェル/2.54cm、コース数が40〜70コース/2.54cmであることが好ましい。織編物の密度が上記範囲よりも小さいと、十分な吸水性が得られないおそれがある。また、織編物の密度が上記範囲を超えると、製織性または製編性の点で好ましくない。
【0039】
前記織編物を構成する糸条としては、一般のスポーツ衣料またはインナー衣料に使用される糸条であれば特に限定するものではない。また、異型断面糸等の特殊糸であっても構わない。
【0040】
また、前記糸条を構成する化学繊維としては;ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;またはこれらを混用した繊維が挙げられる。なかでも、ポリエステル繊維が、汎用性、加工性およびコストの面で好ましく用いられる。
【0041】
また、前記ポリエステル繊維には、必要に応じて艶消し剤(二酸化チタン等)、微細孔形成剤(スルホン酸金属塩等)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン等)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩等)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール等)、抗菌剤、その他の無機粒子などを添加してもよく、これらを2種以上組み合わせて添加しても構わない。
【0042】
本発明の吸水速乾織編物は、衣料用途に使用されることが好ましい。本発明の吸水速乾織編物を用いたスポーツ衣料繊維製品およびインナー衣料繊維製品は吸水速乾性に優れ、着用者に与える汗によるべたつき感を、十分に軽減することができる。
なお、前記スポーツ衣料繊維製品およびインナー衣料繊維製品は、本発明の吸水速乾織編物を使用したものであればよく、製造方法および衣料繊維製品の形態は、特に限定するものではない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。なお、実施例における各測定方法および評価方法は、下記条件および手順に基づき行った。
【0044】
[吸水性試験]
各試験片の撥水剤付着面において、JIS L1907 滴下法の吸水速度に関する試験方法に準拠し、水平状態の試験片にビュレットにより滴下された水滴1滴が吸収されるまでの時間(吸水速度)を測定した。
また、測定した吸水速度から、吸水性を、下記基準に基づき評価した。

○:吸水速度が1秒未満
△:吸水速度が1秒以上、5秒未満
×:吸水速度が5秒以上、または吸水されない
【0045】
[速乾性試験1:屋外での衣料着用を想定した速乾性評価]
室温を20℃に設定した恒温室内で、上皿天秤に水1gを滴下した。
次いで、縦10cm×横10cmの大きさに裁断した試験片を用意し、先ほど滴下した水の上に試験片の肌側にあたる面を下側にして置いた後、試験片の重量(A)を測定した。
その後、試験片の上面に、60Wのレフランプを試験片からの高さ20cmの位置より15分間照射した。
その後、試験片の重量(B)を測定し、下記式により、水分蒸発量を求めた。

水分蒸発量[g]=試験片重量(A)[g]−試験片重量(B)[g]

また、測定した水分蒸発量から、速乾性を、下記基準に基づき評価した。

○:水分蒸発量が0.30g以上
△:水分蒸発量が0.20g以上、0.30g未満
×:水分蒸発量が0.20g未満
【0046】
[速乾性試験2:屋内での衣料着用を想定した速乾性評価]
室温を20℃に設定した恒温室内で、32℃に保たれた恒温板を水平状態で配置し、その上に水1gを滴下した。
次いで、縦10cm×横10cmの大きさに裁断した試験片を用意し、先ほど滴下した水の上に試験片の肌側にあたる面を下側にして置き、さらにポリテトラフルオロエチレン樹脂板(縦10cm×横10cm×厚み5mm)により試験片を上から押さえつけて、試験片に水を98%以上移行させた。その後、水を移行させた試験片の重量(C)を測定した。
そのまま10分間放置した後、試験片の重量(D)を測定し、下記式により、水分蒸発量を求めた。

水分蒸発量[g]=試験片重量(C)[g]−試験片重量(D)[g]

また、測定した水分蒸発量から、速乾性を、下記基準に基づき評価した。

○:水分蒸発量が0.50g以上
△:水分蒸発量が0.30g以上、0.50g未満
×:水分蒸発量が0.30g未満
【0047】
[べたつき感評価]
水平状態のアクリル板に水滴1mlを滴下した。
次いで、滴下した水滴の上に、縦5cm×横5cmの大きさに裁断した試験片を、肌側にあたる面を下側にして置いた。
そのまま30秒間放置した後、水平状態のアクリル板を徐々に傾斜させていき、試験片が滑り落ちたときのアクリル板の傾斜角度を測定した。
また、測定した傾斜角度から、べたつき感を下記基準に基づき評価した。

○:傾斜角度が20°未満
△:傾斜角度が20°以上、26°未満
×:傾斜角度が26°以上、または試験片が滑り落ちない

なお、水滴を滴下しない条件で傾斜角度を測定した場合は、どの試験片も10°前後で滑り落ちた。
【0048】
[実施例1]
表面がハニカム構造となる天竺丸編物を、28Gの丸編機により編み立てた。このとき、肌側となる面を形成する糸条に84dtex/36フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用い、反対側の面を形成する糸条に84dtex/72フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用いた。
得られた編物の密度は、ウェル数が42ウェル/2.54cm、コース数が42コース/2.54cmであった。
【0049】
次いで、前記編物を常法により精練処理した後、通常の染色加工を130℃で30分間行う際に、染色加工液に吸水加工剤(高松油脂株式会社製、SR−1000)を5%owfとなる量だけ添加し、その後、乾燥、セットを行うことにより、染色加工処理がなされ、かつ吸水性を具備した編物を得た。
このときの編物厚みは0.88mmであった。
【0050】
次いで、前記編物の肌側にあたる面に対し、下記処方からなる撥水剤を、グラビアロール法により付着させた。

<撥水剤の処方>
フッ素系撥水剤(水系)
(旭硝子株式会社製、アサヒガードAG7000) 8.0重量%
アクリル系バインダー樹脂(大和化学工業株式会社製、ファイコートSE)
1.0重量%
カルボジイミド系架橋剤(日華化学株式会社製、NKアシストCI) 0.1重量%
水 残量

このとき、撥水付着部分が図1に示すような正三角形の繰り返しパターン(正三角形の一辺の長さが5mm、かつ、正三角形同士の間隔が0.5mm)となるようにし、撥水剤の付着量が20g/m(乾燥重量)となるようにした。
このとき、編物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.29mmであった。
その後、120℃で1.5分間乾燥させた後、170℃で30秒間キュアリング処理を行い、実施例1の編物を得た。
実施例1に対する各結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
使用する編物に、肌側となる面を形成する糸条に84dtex/72フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用い、反対側の面を形成する糸条に84dtex/36フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用いた、表面がハニカム構造となる天竺丸編物(編物厚みが0.88mm)を使用した。
このとき得られた編物の密度は、ウェル数が42ウェル/2.54cm、コース数が42コース/2.54cmであった。
次いで、実施例1と同様にして撥水剤を付着させ、実施例2の編物を得た。
なお、このときの編物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.25mmであった。
実施例2に対する各結果を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
実施例1で使用した編物に代わり、肌側となる面を形成する糸条に150dtex/72フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用い、反対側の面を形成する糸条に150dtex/96フィラメントのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸を用いた二重平織物(織物厚みが0.70mm)を使用した。
このとき得られた織物の密度は、経糸が75本/2.54cm、緯糸が68本/2.54cmであった。
次いで、実施例1と同様にして撥水剤を付着させ、実施例3の織物を得た。
なお、このときの織物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.13mmであった。
実施例3に対する各結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
撥水剤を付着させるときのパターンを、図6に示すようなパターン、すなわち撥水剤付着部分1の幅が1mmであり、かつ撥水剤が付着していない部分2が一辺2mmの正方形状である格子状パターンとし、撥水剤の付着量が8g/m(乾燥重量)となるようにした以外は、全て実施例1と同様にして、比較例1の編物を得た。
なお、このときの編物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.25mmであった。
比較例1に対する各結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
撥水剤を付着させるときのパターンを、図7に示すようなパターン、すなわち撥水剤付着部分1および撥水剤が付着していない部分2がそれぞれ一辺0.5mmの正方形を形成しているパターンに変更し、撥水剤の付着量が12g/m(乾燥重量)となるようにした以外は、全て実施例1と同様にして、比較例2の編物を得た。
なお、このときの編物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.25mmであった。
比較例2に対する各結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
実施例1で用いた編物に対してグラビアロール法により撥水剤を付着させる際、120メッシュの格子柄ロールを用いて、撥水剤の付着量が10g/m(乾燥重量)となるように、肌側にあたる面の全面に付着させた以外は、全て実施例1と同様にして、比較例3の編物を得た。
なお、このときの編物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.11mmであった。
比較例3に対する各結果を表1に示す。
【0056】
[比較例4]
実施例3で用いたのと同様の織物を用い、撥水剤を付着させるときのパターンを、図7に示すようなパターン、すなわち撥水剤付着部分1および撥水剤が付着していない部分2がそれぞれ一辺0.5mmの正方形を形成しているパターンに変更し、撥水剤の付着量が12g/m(乾燥重量)となるようにした以外は、全て実施例3と同様にして、比較例4の織物を得た。
なお、このときの織物に対する撥水剤の浸透厚みは、0.13mmであった。
比較例4に対する各結果を表1に示す。
【0057】
[評価]
実施例1〜3の織物または編物は、いずれも吸水性および速乾性に優れ、べたつき感の評価も良好であった。
一方、比較例1の編物は、べたつき感の評価において傾斜角度が28°になるまで滑り落ちず、衣料として使用した場合、着用者に汗によるべたつき感を与えるものであった。
また、比較例2〜4の織物または編物は、撥水剤が付着している面に、十分な吸水性を得ることができなかた。また、べたつき感の評価においても、アクリル板に滴下した水滴によって編物とアクリル板が密着したために滑り落ちず、衣料として使用した場合、着用者に汗によるべたつき感を与えるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の吸水速乾織編物における、撥水剤を付着させるときのパターンの一例を示す模式図。(撥水剤付着部分が正三角形)
【図2】本発明の吸水速乾織編物における、撥水剤を付着させるときのパターンの、別の一例を示す模式図。(撥水剤付着部分が二等辺三角形)
【図3】本発明の吸水速乾織編物における、撥水剤を付着させるときのパターンの、別の一例を示す模式図。(撥水剤付着部分が直角三角形)
【図4】本発明の吸水速乾織編物における、撥水剤を付着させるときのパターンの、別の一例を示す模式図。(撥水剤付着部分が直角三角形)
【図5】本発明の吸水速乾織編物における、撥水剤を付着させるときのパターンの、別の一例を示す模式図。(撥水剤付着部分が正六角形)
【図6】本明細書中の比較例1において、撥水剤を付着させるときのパターンを示す模式図。
【図7】本明細書中の比較例2および比較例4において、撥水剤を付着させるときのパターンを示す模式図。
【符号の説明】
【0059】
1 撥水剤付着部分(黒色部分)
2 撥水剤が付着していない部分(白色部分)
【0060】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣料用として使用される吸水速乾織編物であって、化学繊維からなる織編物の肌側となる面に、多角形が、辺同士が間隔を空けて隣合わさるようにして繰り返されるパターンで、撥水剤が付着しており、さらに撥水剤が付着していない部分が吸水性を有することを特徴とする吸水速乾織編物。
【請求項2】
前記パターンを構成する多角形が、三角形であることを特徴とする、請求項1に記載の吸水速乾織編物。
【請求項3】
前記パターンを構成する三角形が、正三角形または二等辺三角形であることを特徴とする、請求項2に記載の吸水速乾織編物。
【請求項4】
前記パターンを構成する正三角形または二等辺三角形の一辺の長さが、3〜12mmである、請求項3に記載の吸水速乾織編物。
【請求項5】
前記パターンを構成する正三角形または二等辺三角形同士が有する間隔が、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが3mm以上7mm未満の場合には0.3mm以上0.8mm未満であり、正三角形または二等辺三角形のいずれか一辺の長さが7〜12mmの場合には0.8〜2.0mmである、請求項4に記載の吸水速乾織編物。
【請求項6】
前記織編物の厚みが0.30〜1.50mmである、請求項1〜5のいずれかに記載の吸水速乾織編物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の吸水速乾織編物を用いてなる、スポーツ衣料繊維製品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の吸水速乾織編物を用いてなる、インナー衣料繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144283(P2010−144283A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322487(P2008−322487)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】