説明

吸油性組成物、その製造方法、及び吸油性組成物の使用方法。

【課題】本発明では、油の吸着性及び保持能に優れた吸油性組成物と、その吸油性組成物の製造方法、及び吸油性組成物の利用方法を提供することを目的とする。
【解決手段】澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液を乾燥面に吹き付け液滴状態で乾燥し、剥離することにより得られる、中空球状物を含有する吸油性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、油吸着性又は油保持能を有し、油の粉末化を容易に行わせることができる吸油性組成物、吸油性組成物の製造法、および吸油性組成物の利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸油性組成物は、多孔質フィルム、又はそれに由来する粒形状の物質が一般的であり、かかる吸油性組成物は、油性物質を吸着後、各種の溶媒に混入されると、保持した油性物質を放出する性質を持っている。特に、吸油性組成物を水に混入することによって、一旦吸着された油性物質が吸油性組成物から容易に放出される。このように、一旦油性物質を吸着又は抱き込んだ後、水などの溶媒中で吸着した油性物質を放出する性質をもった吸油性組成物は、その利用範囲が大きく、各方面からその産業的な利用が検討されている。
【0003】
上記のような、吸油性組成物の原料成分として、澱粉由来の物質が注目されている。加工が容易であり、油吸着後に焼却しても環境への害がないので、その応用範囲が広いためである。従来は、澱粉分解物又は還元澱粉分解物の水溶液をドラムドライヤーのロールスリット(ドラム)間に流し込み、これを沸騰及び乾燥することで多孔質フィルムを作製し、次いでこの多孔質フィルムを粉砕し粉末化することによって、油吸着性及び保持能を持つ吸油性組成物を得ていた(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、斯くして調製される吸油性組成物は、水に投下したとき、溶解性が高く、油性物質の放出がスムーズであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53−23305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述するように、従来は、澱粉分解物の溶液をドラムドライヤーのロールスリット間で沸騰乾燥し、沸騰乾燥によって得られた多孔質フィルムなどの乾燥物を粉砕することによって、吸油性組成物を製造していた。
【0007】
しかし、斯くして製造される吸油性組成物は、油の吸着性及び保持能が十分でなく、さらに改善する必要があった。また、油の吸着性、保持能に優れた吸油性組成物、及び、簡略化された工程を含む製造方法が求められていた。
【0008】
そこで本発明では、油の吸着性及び保持能に優れた吸油性組成物と、その吸油性組成物の製造方法、及び吸油性組成物の利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を繰り返した結果、澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも一種を含む溶液を液滴状に乾燥面に吹き付け乾燥し、剥離することにより得られる中空球状物及びその破損物を含有する組成物が、上記従来の方法で得られる吸油性組成物よりも油の吸着性及び保持能力に優れていることを見出し、また当該組成物は、従来よりも簡略化された製造工程およびそれにより大量生産が可能な製造工程を含む方法によって製造されることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
(I)吸油性組成物
項1 澱粉分解物及び還元澱粉分解物を含む溶液を液滴状に乾燥し、剥離することにより得られる中空球状物を含有する吸油性組成物。
項2 中空球状物及びその破損物を含有する項1に記載の吸油性組成物。
項3 嵩比重が6cm/g以上である、項1又は2に記載の吸油性組成物。
(II)吸油性組成物の製造方法
項4 澱粉分解物及び還元澱粉分解物を含む溶液を乾燥させて、得られる吸油性組成物の製造方法であり、前記溶液を乾燥面に吹き付け液滴状態で乾燥する工程、前記工程で得られる乾燥物を剥離する工程を含む吸油性組成物の製造方法。例えば、スクレパーナイフなどにより液滴から形成される形状を残しつつ剥離する。
項5 前記溶液に含まれる澱粉分解物及び還元澱粉分解物の濃度が10〜60重量%であること、を特徴とする項4に記載の吸油性組成物の製造方法。
項6 前記乾燥面の温度が100℃〜200℃であること、を特徴とする項4又は5に記載の吸油性組成物の製造方法。
項7 前記溶液を流体ノズルによって噴霧すること、を特徴とする項4〜6のいずれかに記載の吸油性組成物の製造方法。
項8 前記流体ノズルが1流体ノズル又は2流体ノズルであること、を特徴とする項7に記載の吸油性組成物の製造方法。
(III)吸油性組成物を用いて油を吸着する方法
項9 項1〜3のいずれかに記載の吸油性組成物、又は項4〜8のいずれかに記載の吸油性組成物の製造方法によって得られる吸油性組成物を油脂系物に接触させる工程を含む、油を吸着する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸油性組成物は、油の吸着性及び保持能に優れている。このため、従来の方法で製造される吸油性組成物(特許文献1)よりも効率よく、より多くの油を吸着、保持することができる。また、油吸着後の粉末を焼却しても、環境への影響は少ない。また原料成分が澱粉分解質または還元澱粉分解質であるので、本発明の吸油性組成物は生体に適用することもできる。つまり本発明の吸油性組成物を含む食品、医薬品、化粧品、洗剤製品、被服等は、油吸着能を有するものとなる。
【0011】
また、本発明の製造方法によると、製造工程で多孔質フィルム等の中間生産物が生成されないので、製造工程が簡略化され、製造される吸油性組成物の管理が容易になる。本発明の製造方法によれば、製造工程において、澱粉分解物または還元澱粉分解物を含む溶液を噴霧することによって得られる液滴を乾燥し、剥離することにより製造させるので、吸油性組成物を製造するまでに要する時間が短くなり、生産効率が高くなる。そして、澱粉分解物及び還元澱粉分解物を含む溶液が高温に曝される時間が短くなるので、熱に敏感な澱粉分解物及び還元澱粉分解物成分が変性する可能性も減る。更に、本発明の実施に必要とされる設備は、従来よりも簡単で小規模な設備にすることが可能である。よって、設備管理、設備の維持費、設備の清掃が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の電子顕微鏡による拡大写真
【図2】実施例1の吸油性組成物1粒についての電子顕微鏡による拡大写真
【図3】比較例1の電子顕微鏡による写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
(澱粉)
本発明の吸油性組成物は、澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液を用いて調製される。ここでいう澱粉には、例えば、タピオカでん粉、サゴでん粉、馬鈴薯でん粉、小麦でん粉、米でん粉、甘藷でん粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ等の天然でん粉;それらの加工でん粉(アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)などの各種でん粉が含まれる。
(澱粉分解物)
ここでいう澱粉分解物は、上記の澱粉を酸分解、アルカリ分解、酵素分解、または焙焼処理等、これらを1種または2種以上を任意に組み合わせることにより加水分解したものをいう。当該澱粉分解物は、1種の加水分解物を含むものであっても、また複数の加水分解物を組み合わせて含有するものであってもよい。
(還元澱粉分解物)
また、ここでいう還元澱粉分解物は、上記の澱粉分解物を還元し糖アルコール化したものをいう。当該還元澱粉分解物は、1種の還元澱粉分解物を含むものであっても、また複数の還元澱粉分解物を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0014】
(DE)
本発明で使用する澱粉分解物は、DE1〜DE20のものが好ましい。より好ましくは、DE6〜DE16、更に好ましくは、DE9〜12のものである。ここで言うDEとはDextrose Equivalentの略であり、澱粉分解物の分解度(糖化率)の指標となる値である。下式に示すように、試料中の還元糖をぶどう糖として表し、固形分に対する百分率として表される。
【0015】
本発明における「DE」とは、「〔(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)〕×100」の式で表される値で、ウイルシュテッターシューデル法による分析値である。DEの最大値は100であり、澱粉を加水分解して得られた固形分の全てがぶどう糖であることを意味する。つまり、澱粉を完全に分解するとき、ぶどう糖100%となるため、DEは100となる。DEが小さくなるほど、分解の程度が低いことを意味する。
【0016】
DEの値が1未満のとき溶液粘度が増大し、DEが20を超えるときは吸湿性が高くなり、乾燥させることが困難となる。また、上記DEは、澱粉分解物の粘度に関係し、DEが大きくなるに従って澱粉分解物の粘度が低下する傾向がある。
【0017】
(溶液)
当該溶液は、上記の澱粉分解物及び還元澱粉分解物から選択される少なくとも1種を溶媒に可溶化させて得られるものである。ここで溶媒としては、特に制限されないが、例えば水、含水アルコール、などを用いることができる。好ましくは水である。かかる溶媒に溶解した溶液中の澱粉分解物及び還元澱粉分解物から選択される少なくとも1種の濃度は、制限はされないが、総量で10重量%〜60重量%であることが好ましい。より好ましくは20重量%〜55重量%、更に好ましくは30重量%〜50重量%である。尚、DEが低い澱粉分解物の溶液は粘度が高くなる傾向がある。そのため、DEが低い澱粉分解物を用いる場合、溶液の粘度が高くなりすぎないように溶液の濃度を低くすることが好ましい。例えば、DEが6以下の場合、溶液濃度を50重量%未満にする。尚、溶液中には他の成分が含まれていてもよい。例えばグリセロール、酸化デンプン、エチレングリコール、高分子多糖類、香料、色素、塩基、無機及び有機酸、高感度甘味料、アミノ酸や蛋白分解物を含有する調味料などがある。
【0018】
(噴霧)
本発明の吸油性組成物は、上記の溶液を噴霧することによって得られる液滴を乾燥させることによって製造される。溶液の噴霧に際して、流体ノズルを使用してもよい。
【0019】
ここでいう流体ノズルは、特にその形態を限定しない。例えば、1流体ノズル、又は2流体ノズルを用いることができる。流体ノズルが1流体ノズルのとき、その形状はフラットタイプ、フルコーンタイプ、ホローコーンタイプ、及び繊細ミストタイプなどがある。2流体ノズルの形状は連続噴霧タイプ、自動ガンタイプなどがある。スプレーノズルの材質は、特に制限されないが、例えばSUS、しんちゅう、セラミックス、各種の樹脂、プラスチックなどがある。
【0020】
液滴は、その大きさ、及び形状を特に限定しない。例えば、流体ノズルが1流体ノズルであるとき、液滴の粒径はスプレーノズルの形状、溶液の粘度、流量、液圧により決定される。一方、流体ノズルが2流体ノズルであるとき、液滴の粒径はスプレーノズルの形状、溶液の粘度、流量及び噴霧用エアー圧により決定される。例えば、噴霧用エアー圧が高くなるにしたがい、得られる液滴の粒径は小さくなる。また、溶液の流量が大きくなるにしたがい、液滴の粒径は大きくなる。
【0021】
噴霧塗布に使用するノズル形状は、1流体、2流体共にフラットタイプが好ましい。塗布量は、0.01g/cmから0.1g/cmが好ましい。
2流体ノズル使用時の噴霧エアー圧は、0.01mhPaから0.5mhPaが好ましい。
【0022】
(乾燥)
上記液滴を乾燥する方法としては、このとき、噴霧により液滴が乾燥面に形成される。乾燥面は、液滴を乾燥させることができる面であればよいが、好ましくは保温または加温可能である面であり、例えば金属性のプレート、ドラムドライヤーのドラム面などが含まれる。金属性のプレートは、その素材、形状、大きさは特に限定しない。ドラムドライヤーは、特にその形態を限定しないが、例えば、シングルドライヤー、ダブルドライヤー、ツインドライヤーなどを使用することもできる。ドラムドライヤーを使用する場合、ドラムドライヤーの運転条件は、特に限定されない。吸油性組成物の製造に使用される原料や得られる吸油性組成物の嵩比重などの特性に応じて、乾燥温度、回転数を適宜調整することができる。
【0023】
液滴を乾燥面上で乾燥する場合の乾燥面の温度としては、通常100〜200℃、好ましくは120℃〜200℃が良い。より好ましくは150℃〜180℃である。乾燥させる時間は、乾燥が終了するまでの時間を適宜設定することができるが、4秒〜10秒が好ましい。
【0024】
乾燥させる液滴の量(乾燥面への溶液の噴霧量)が多いと、液滴どうしが接触し良好な乾燥物が得られない。一方、乾燥させる液滴の量(乾燥面への溶液の噴霧量)が少ないと、生産性が低下して、製造コストの増大を招く。そこで、溶液の噴霧量を調節することによって、乾燥させる液滴の量が一定になるように制御することが好ましい。
【0025】
(吸油性組成物)
本発明の吸油性組成物は、前述するように澱粉分解物または還元澱粉分解物を溶解した溶液を液滴状態で乾燥し、剥離することにより調製されるため、その中には中空球状の形状を有するものが含まれる。また、中空球状の形状を有するもの以外にも、それが破砕された形状を有するもの、及び澱粉分解物または還元澱粉分解物を溶解した溶液が乾燥して形成される細片も含まれる。これは、澱粉分解物または還元澱粉分解物を含む溶液を噴霧するとき、液滴が乾燥して中空球状物及びその破砕物となるだけでなく、しぶきなどが乾燥して細片となるからである。電子顕微鏡による観察及び粒度分布測定装置での分析から、吸油性組成物の平均粒径は、120μm以上が好ましい。より好ましくは、140μm以上、最も好ましくは、220μm以上である。吸油性組成物の平均粒径が120μm未満である場合、体積が小さくなり、油の吸着能力が低くなる。一方、吸油性組成物の平均粒径が大きいほど吸油量の増加が見込めるが、概ね2000μm以下が好ましい。そして、概ね3000μmを超えるものは、使用の際に難を生じる。また、液滴状に乾燥面に塗布された状態で、溶液の粘度によって液滴状態を維持したまま沸騰させることで、溶液中から水蒸気が噴出して液滴状の内部が多孔質に形成される。上記の吸油組成物は、多孔性である。
【0026】
(嵩比重)
上記の吸油性組成物は、その製造方法に基づいて上記特有の形状を有することを特徴とするが、さらに好ましくは6cm3/g以上の嵩比重を備えることを特徴とする。好ましくは6.8cm3/g以上、より好ましくは7.5cm3/g以上である。嵩比重の上限は特に制限されないが、通常15cm3/g以下を挙げることができる。
【0027】
ここで言う、嵩比重は、以下の方法により算出することができる。得られた吸油性組成物10g当量を充分乾燥したメスシリンダーに静かに投入しそのメスシリンダーの目盛からその体積(ml)を測定する。これを10回繰り返して、測定された体積から平均体積A(ml)を算出して、次の数式から嵩比重を算出することができる。
【0028】
【数1】

【0029】
(油)
本発明の吸油性組成物は、油と接触することによって油を吸着し(油吸着能)、また油を保持することができる(油保持能)。ここでいう油には、植物性油、動物性油、鉱物油、及び原油などの各種油の他;油脂、油性ビタミン、高感度甘味料、色素、香料などのアルコール抽出物、アルコール等の溶媒等により動物又は植物及びその関連物質から抽出された油性物質も含まれる。
【0030】
植物性油は、例えば、ショートニング、マーガリン、サラダ油、オレンジ油、大豆レシチン、香料、香油、香辛油等の油脂類、サフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、綿実油、ヤシ油、米糠油、ゴマ油、ヒマシ油、亜麻仁油、オリーブ油、桐油、椿油、落花生油、カポック油、カカオ油、木蝋、ヒマワリ油、コーン油などの植物性油脂の単独、又はそれらの組み合わせである。
【0031】
本発明の吸油性組成物は、概ね、常温条件で、例えばサラダ油を100gあたり190ml以上、好ましくは200ml以上吸油する能力を有することが望ましい。また、オレンジ油の場合、100gあたり200ml以上、好ましくは250ml以上吸油する能力を有することが望ましい。さらに大豆レシチンの場合、100gあたり125ml以上、好ましくは155ml以上吸油する能力を有することが望ましい。
【0032】
動物性油は、バター、マーガリン、白絞油、ラード、ヘッド、イワシ油、ニシン油、イカ油、サンマ油などの魚油、肝油、鯨油、牛脂、牛酪脂、馬油、豚脂、羊脂などの動物性油脂の単独またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
鉱物油としては、各種潤滑油、例えばスピンドル油、冷凍機油、ダイナモ油、タービン油、マシン油、船用内燃機関潤滑油、ガソリンエンジン潤滑油、ディーゼルエンジン潤滑油、シリンダー油、マリンエンジン油、ギヤー油、切削油、絶縁油、自動変速機油、圧縮機油、油圧作動油、圧延油等が挙げられる。
【0034】
その他の油として、原油、重油、軽油、揮発油、各種廃油等を挙げることができる。例えば、水産加工場、畜産加工場、金属圧延工場、金属の加工工場等から排出される廃油等がその対象となる。
【0035】
(吸油時の使用方法)
本発明の吸油性組成物の使用方法としては、油脂系物を乳化することなく物理的吸着により粉末化出来るために、加熱処理を行わないために、油脂成分の熱変性がない。また、乳化せずに粉末化出来るために油脂系物本来の機能を損なわない。但し、本発明の吸油性組成物の用途及び使用方法は上述したものに限られず、その他様々な使用方法が可能である。本発明の吸油性組成物の使用方法は、吸油組成物を油脂系物に接触させる工程を含む。本発明の吸油性組成物を油脂系物に接触させる方法は、例えば、油と本願発明の吸油性組成物を混合させること、本願発明の吸油性組成物を油表面に撒くこと、本願発明の吸油性組成物が充填したカラムに油を添加することなどが含まれ、特に接触の操作を限定しない。
(油放出時の使用方法)
本発明の吸油性組成物は、油の吸着後、各種溶媒に混ぜることによって、一旦吸着した油を放出することができる。ここで溶媒としては、特に制限されないが、例えば水、湯、清涼飲料、酒類、茶飲料、炭酸飲料、スープ等の飲用系食品や、ミンチ、パン種、餅生地などの水分を持った食品、酸、アルカリ溶液、粘土、セラミック原料などの水分を持った物質全般に用いることができる。本発明の吸油性組成物の使用方法としては、例えば、ラードを加熱し、液状にした状態に、吸油性組成物を均一に混合して粉末化したものを、粉末ラーメンスープの素に添加しておくことにより、ラードとスープの素を別包装にせずにすむ。また、粉末ラーメンスープの素と混合包装した粉末化ラードは、調理時に湯に投入することにより油を吸着した吸油性組成物が溶解しラーメンスープ液面にラードを浮かすことができる本発明の吸油性組成物は、油の吸着後、各種溶媒に混ぜることによって、一旦吸着した油を放出することができる。
【0036】
以下に実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(溶液濃度―嵩比重)
澱粉分解物(松谷化学工業株式会社製)(DE12)を、水に溶解させて、澱粉分解物の水溶液を作成した。このとき、澱粉分解物の濃度を、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%及び60重量%とした。
【0038】
斯くして調製した澱粉分解物を含む各水溶液を、スプレーイングシステム社製の2流体ノズル(SUE15−SS)によって、ダブルドラムドライヤー(蒸気内圧:0.6MhPa/cm3)のドラム面に、塗付量0.025g/cm2で塗布した。そして、ドラム表面温度155℃、環境温度29℃、湿度60%で乾燥させ、20メッシュ篩別した。次いで各種濃度の澱粉分解物水溶液から調製した吸油性組成物(試料1〜6)の嵩比重(cm3/g)を測定した。測定結果を下記表1に示す。尚、上記塗布量(g/cm)は、ダブルドラムドライヤーの時間当たりの回転数×ドラムの外周×ドラムの塗布幅にて面積を算出することで、時間当たりの塗布溶液量で1平方センチ当たりの塗布量として求めた。
【0039】
【表1】

【0040】
澱粉分解物水溶液の濃度が10重量%のとき、得られた吸油性組成物(試料1)の嵩比重は6.0cm3/gになった。10重量%から50重量%まで、吸油性組成物(試料1〜5)の嵩比重は、澱粉分解物水溶液の濃度に依存して上昇した。そして、50重量%のとき、得られる吸油性組成物(試料5)の嵩比重は11.0cm3/gであった。
【0041】
(比較例1)
澱粉分解物(松谷化学工業株式会社製)(DE12)を、水に溶解させて、50重量%濃度の澱粉分解物水溶液を作成した。この澱粉分解物水溶液をダブルドラムドライヤー(蒸気内圧:0.6MhPa/cm3、回転数17秒/1回転、ロールスリット0.1mm)のドラム面に溶液の状態のまま塗布して、ドラム表面温度155℃、環境温度29℃、湿度60%で乾燥させ、20メッシュ篩別した。このとき得られた乾燥物を比較例1とした。この比較例1の嵩比重は10.1cm3/gであり、実施例1において同濃度(50重量%濃度)の澱粉分解物水溶液から調製した吸油性組成物の嵩比重(11cm3/g)よりも小さかった。このことから、原料として用いる溶液が同じであるとき、本発明の方法によって調製される乾燥物は従来技術によって調製される乾燥物よりも嵩比重が大きくなる傾向があることが認められた。
【0042】
(実験例1)
<形状の違いを電子顕微鏡にて観察>
実施例1の試料5(溶液濃度50重量%由来)と比較例1について、乾燥物の形状を電子顕微鏡によって観察した。図1及び図2に示されるように、実施例1(試料5)は、中空球状、及びそれが破砕された形状を含んでいた。一方、比較例1には、中空球状及びそれが破砕された形状のものは含まれておらず、細片形状のものが多く含まれていた(図3)。実施例1と比較例1は、ともに多孔質性であった。
【0043】
(実験例2)
<粒径を粒子・粒度分布測定装置にて測定>
実施例1の各試料の平均粒径は、各試料をエタノールに懸濁し、日機装株式会社製、レーザー解析・散乱式・粒子・粒度分布測定装置(MT−3300−II)により測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(実験例3)
<物理的耐久性の実験>
従来技術の吸油性組成物は、物理的耐久性に優れたものであった。そこで、本発明の吸油性組成物が有する物理的耐久性を従来技術によるものと比較するために、実施例1の試料5(溶液濃度50重量%由来)と比較例1について、物理的攪拌シェアに対する粒子耐久性を調べた。例えば、充填された状態の試料から空気を吸引するとき、吸引力が各粒子に掛かり、この吸引力に対して耐久性のある粒子は、その形状及び大きさを維持することができる。したがって、吸引前と後の試料の嵩比重を測定し、吸引前の嵩比重に対する吸引後の嵩比重の率を、吸引後の嵩比重の残存率として算出するとき、各試料の嵩比重の残存率を物理的攪拌シェアに対する粒子耐久性を示す指標として比較することができる。その結果、各試料の吸引力に対する耐久性、つまり、物理的耐久性を比較検討することが可能になる。そこで、実際に1kg当量の各試料を容器(又は、メスリンダー)に投入し、ダイゾン社製、品名:DC26掃除機を用い、吸引力弱にて吸引を2回行い、吸引前と吸引後の嵩比重を測定した。この操作を4回繰り返し、吸引前後の嵩比重の差から嵩比重の残存率の平均値を算出した。各試料の吸引後の嵩比重の残存率を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
その結果、実施例1試料5及び比較例1の嵩比重の残存率は、1回目、2回目ともほぼ差がなかった。本発明の実施例1試料5の吸油性組成物の物理的耐久性が、従来方法で作成された比較例1と同程度に高いものであることが示された。
【0048】
(実験例4)
<吸油性と抱き込み能の比較>
実施例1(試料2、3及び5)と比較例1について、吸油性と抱き込み能の比較をするために、吸油後の各試料の性状及びろ紙に挟んだ際の油のにじみを観察した。具体的には、10gの各試料をビーカーにとり、13gのサラダ油(日清オイリオグループ株式会社製、商品名日清サラダ油)をゆっくり滴下しながら攪拌する(室温)。吸油した状態の各試料について、その性状と、ミルクろ紙(ADVANTEC社製、商品名MILK SEDIMENT DISK)の間に挟み、そのまま20分間放置し、ミルクろ紙への油のにじみを観察した。結果は、表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示された吸油後の各試料の性状の観察結果から、実施例1の試料5(嵩比重11.0cm3/g)は、比較例1(嵩比重10.1cm3/g)と同様に、粉状を維持しており吸油飽和状態に至っていないと思われる。しかし、実施例1の試料2(嵩比重7.5cm3/g)及び試料3(嵩比重8.0cm3/g)は、粉状を維持しておらず、すでに飽和状態であることが確認された。つまり、嵩比重が高くなるにしたがって吸油能が高くなることが示唆された。
次に、ろ紙のにじみの観察結果から、実施例1の試料5(嵩比重11.0cm3/g)、及び試料3(嵩比重8.0cm3/g)の吸油性組成物が油を最も吸収していることが確認された。実施例1の試料2(嵩比重7.5cm3/g)はろ紙に油のにじみがわずかに観察されたが、比較例1(嵩比重10.1cm3/g)よりも、油のにじみが少なかった。つまり、いずれの実施例1の試料であっても、従来の方法で製造される吸油性組成物よりも吸油後の抱きこみ能が高いことが確認された。これは、吸油性組成物自体の形状の違いによるものと考えられる。そして、試料2が試料3よりも油のにじみが大きいことから、形状の違いがない場合、嵩比重が高くなるに従い吸油後の抱きこみ能が高くなると考えられる。
【0051】
(実験例5)
<吸油量の測定>
乾燥物の吸油機能を比較するために、JIS K 5101法を応用して、実施例1と比較例1について、サラダ油(日清オイリオグループ株式会社製、日清サラダ油)、オレンジオイル(山桂産業株式会社製、商品名ORANGE OIL)、及び大豆レシチン(ADM社製、商品名 SOY LECITHIN)の吸油量を測定した。すなわち試料1〜5gを測定板上の中央部に取り、油脂をビューレットから1回に4、5滴ずつ、徐々に試料中央に滴下し、その都度全体をへらで十分に練り合わせる。滴下及び練り合わせを繰り返し、全体が硬いパテ状の塊になったら1滴ごとに練り合わせて、最後の1滴で、へらを用いてらせん状に巻くことのできる状態になったときを終点とする。ただし、らせん状に巻くことが出来ない場合は、1滴で急速に柔らかくなる直前を終点とする。そして、最終的に滴下した全油脂量を吸油量とした(表5)。表5は、各試料100gあたりの各油脂の吸油量を示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5に示すように、サラダ油、オレンジ油、大豆レシチンのいずれについても、実施例1の試料2、3、5は、比較例に比べ吸油性が優れていることを示している。
【0054】
(実施例2)
(DE―嵩比重)
原料として使用する澱粉分解物のDEの違いによる吸油性組成物の嵩比重を比較するために、DEの異なる澱粉分解物(DE6、9、12、16)(松谷化学工業株式会社製)を水に溶解させて澱粉分解物水溶液(澱粉分解物濃度が30、40、50重量%)を調製した。また、澱粉分解物と還元澱粉分解物の違いによる嵩比重を比較するために、DE16相当の還元澱粉分解物(松谷化学工業株式会社製)を水に溶解させて還元澱粉分解物水溶液(還元澱粉分解物濃度が30、40、50重量%)を調製した。次に、それぞれの水溶液をスプレーイングシステム社製2流体ノズル(SUE15−SS)によって、ダブルドラムドライヤー(蒸気内圧:0.6MhPa/cm3、塗付量0.015g/cm2)のドラム面に噴霧塗布して、ドラム表面温度155℃、環境温度29℃、湿度60%で乾燥させ、20メッシュ篩別し、得られた吸油性組成物の嵩比重を測定した(表6)。
【0055】
【表6】

【0056】
その結果、いずれの場合も、嵩比重が、6ml/g以上のものが得られ、DE(澱粉の分解度)の低い澱粉分解物のとき、嵩比重の高い乾燥物が得られた。原因としては、DEが低いほど溶液の粘度が高く、液滴状に噴霧した際の保形性に優れることから嵩比重の高いものが得られると考察される。DE6の澱粉分解物で50重量%の溶液濃度に調整した場合、粘度が高すぎてスプレー塗付出来なかった。生産効率を考えると、DE12の澱粉分解物の場合50重量%の溶液濃度が好ましい。
【0057】
(実施例3)
(澱粉と澱粉分解物の割合)
澱粉と澱粉分解物を含む混合物を溶質とした溶液の液滴を乾燥させたとき、溶質となる澱粉分解物の比率と吸油性組成物の嵩比重の関係を調べた。酸化デンプン(松谷化学工業株式会社製)と澱粉分解物(DE12)の重量比率が1:0、1:1、1:2、1:3の割合で混合した固形分について、固形分の濃度が30重量%、40重量%、50重量%になるように溶液を調製した。調整されたそれぞれの溶液をスプレーイングシステム社製2流体ノズル(SUE15−SS)によって、ダブルドラムドライヤー(蒸気内圧:0.6MhPa/cm3、塗付量0.015g/cm2)のドラム面に噴霧して、ドラム表面温度155℃、環境温度29℃、湿度60%で乾燥させ、20メッシュ篩別した。得られた吸油性組成物の嵩比重を測定した。その結果を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
溶質が澱粉分解物を含まないとき、得られた吸油性組成物の嵩比重は低かった。酸化デンプン:澱粉分解物の重量比率が1:3のとき、得られた吸油性組成物の嵩比重は、澱粉分解物を含まないときに比べて高くなった。酸化デンプン:澱粉分解物の重量比率が1:3の溶液(溶質濃度50重量%)のとき、吸油性組成物の嵩比重が最も高い値(7.5cm3/g)であった。つまり、溶質に含まれる澱粉分解物が多くなるにしたがって、得られた吸油性組成物の嵩比重も高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上記得られる本願発明の吸油性組成物は、油吸着性に優れており、油の保持能も高い。また、天然成分由来なので吸油後の処理も簡単である。よって、例えば、製菓、製パン、冷菓、還元乳、冷凍食品、人工肉等の各種食品工業分野及び、医薬分、化粧品など医薬分野で極めて有効であることは勿論のこと、工業及び農業分野でも、有効に用い得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液を乾燥面に吹き付け液滴状態で乾燥し、剥離することにより得られる、中空球状物を含有する吸油性組成物。
【請求項2】
中空球状物及びその破損物を含有する請求項1に記載の吸油性組成物。
【請求項3】
嵩比重が6cm3/g以上である、請求項1又は2に記載の吸油性組成物。
【請求項4】
澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも1種を含む溶液を乾燥させて得られる吸油性組成物の製造方法であり、
(a)前記溶液を乾燥面に吹き付け液滴状態で乾燥する工程、
(b)上記工程で得られる乾燥物を剥離する工程
を含む吸油性組成物の製造方法。
【請求項5】
前記溶液に含まれる澱粉分解物及び還元澱粉分解物からなる群から選択される少なくとも1種の濃度が総量で10〜60重量%であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥面の温度が100℃〜200℃であることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶液を流体ノズルによって噴霧することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記流体ノズルが1流体ノズル又は2流体ノズルであることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の吸油性組成物、又は請求項4〜8のいずれかに記載の吸油性組成物の製造方法によって得られる吸油性組成物を油脂系物に接触させる工程を含む、油を吸着する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−96226(P2012−96226A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221256(P2011−221256)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】