説明

吸液性複合体及びその製造方法、吸液性物品並びにノズル

【課題】 吸液性ポリマーが吸液前後を通じて基材上に均一に分散されているとともに、吸液量が多く、吸液速度が速くて、適度なしなやかさを有する吸液性複合体、及び、該複合体を効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】 特定処理を施した繊維質基材に、吸液性ポリマーが結着している吸液性複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸液性複合体およびその製造方法に関するものである。本発明の吸液性複合体は、紙おむつや生理用品などの衛生材料、廃水などの吸収や保持に必要な工業資材、及び野菜などの鮮度保持剤や保水剤等の農業資材等に好適に使用することができる。また、本発明は吸液性複合体を用いた吸液性物品と、吸液性複合体の製造方法に用いるノズルにも関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、市販されている吸液性ポリマーは、殆どが粉末状である。これを生理用ナプキン、紙オムツ等の衛生材料に用いるには、ティッシュ、不織布、綿等の基材上に均一に分散させる必要がある。近年、吸液量を多くするために、吸液性ポリマーを多量に使用する傾向にあり、これに伴い、搬送時や使用時の振動等により、吸液性ポリマーが一部局所に集合する、吸液後に移動する等の問題が生じやすくなっている。これに対し、以下の各種吸液材が知られているが、更に、吸液性ポリマーの安定性が高く、吸液速度が大きいものが求められている。
【0003】
吸液性ポリマー内部に繊維を埋め込んだ吸液材が提案されている(特許文献1参照)。これは、水等で膨潤させた吸液性ポリマーに、繊維を混合又は混練することにより埋め込んだ後、乾燥させ、破砕することにより得られる。しかしながら、該吸液材は、膨潤する吸液性ポリマー内に膨潤しない繊維が埋め込まれているため、吸液量や吸液速度が低下する膨潤阻害が生じやすく、さらに吸液後に吸液材が反る、基材から吸液ゲルが外れる等の問題が起こりやすい。特に、吸液ゲルと繊維の混合、混練時に、ポリマー鎖が切れてしまい、本来の吸液性能が得られなくなる上、短繊維の一部が吸液性ポリマー中に完全に包埋されてしまい、繊維の有する導水性を発現せずに、膨潤阻害だけを起こしてしまうことがある。また、該吸液材は表面が角張っているために皮膚に刺激を与える可能性がある。さらに、吸液材を薄型化すべく加圧すると吸液性ポリマーが割れてその破片が吸液性物品から漏れる問題や、吸液性ポリマーと繊維との結合力が弱いために膨潤時に繊維と吸液ゲルとの間に隙間ができて吸液ゲルが繊維上を移動してしまう問題等を生じやすかった。
【0004】
繊維を吸液性ポリマーの表面に付着させた吸液材も提案されている(特許文献2参照)。これは、粒状の吸液性ポリマーに、溶融繊維を吹きつけて混合することにより得られる。しかしながら、溶融繊維は接着力が弱く、膨潤する吸液性ポリマーが膨潤しない基材に付着しているため、吸液後に吸液材が反る問題や、基材から吸液ゲルが50重量%以上も外れる問題等が生じやすい。
【0005】
水かき状の吸液性ポリマーが繊維質基材に結着した吸液材も提案されている。これは、吸液性ポリマーの原料を含んだ水溶液を、繊維質基材上に散布して、基材上で重合させることにより得られる(特許文献3参照)。該吸液材では、基材からの吸液性ポリマーの脱落は起こりにくいが、膨潤阻害が起こりやすく、吸水速度が遅い。
粒子状の吸液性ポリマーが繊維質基材上に結着した吸液材も提案されている。これは、吸液性ポリマーの原料を含んだ水溶液を、基材上に散布する途中で、液滴重合させることにより得られる(特許文献4参照)。該吸液材は、膨潤阻害が起こりにくくて、吸水速度が速いが、基材から吸液性ポリマーが脱落しやすい。
【0006】
更に、吸液性ポリマーの原料を含んだ水溶液を、起毛処理を施した繊維質基材上に散布して、基材上で重合させることにより、吸液性ポリマーを繊維質基材に結着させる方法も提案されている(特許文献5参照)。これは、吸液性ポリマーの原料を含んだ水溶液を、
起毛した繊維質基材上に、液滴状態で散布することにより、各液滴を不連続に基材上配置させて、これを重合することにより得られる。該方法で作製した吸液性複合体では、吸液性ポリマー粒子が繊維質基材に対して数珠状に担持されている。すなわち、吸液性ポリマーが塊ではなく、1個ずつ基材に固定されている。このため、繊維による膨潤阻害が生じて、吸液速度が100秒より大きくなりやすい。
【特許文献1】特公平8−19609号公報
【特許文献2】特開昭58−163438号公報
【特許文献3】特開昭60−149609号公報
【特許文献4】特開2000−328456号公報
【特許文献5】特開2004−91996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。具体的には、本発明は、吸液量が多く、吸液速度が速くて、適度なしなやかさを有するとともに、特に、吸液性ポリマーが吸液前後を通じて基材上に均一に分散されている吸液性複合体、及び、該複合体を効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した。この結果、特定処理を施した基材に特定形状の吸液性ポリマーが結着している吸液性複合体が、前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、起毛処理を施した繊維質基材上に略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーが結着していることを特徴とする吸液性複合体に存する。また、本発明は、繊維質基材上に、略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーが結着しており、且つ、吸水速度が1〜100秒であり、吸水後のゲル脱落率が60重量%以下であることを特徴とする吸液性複合体にも存する。なお、上記吸液性複合体の繊維質基材上に更に水かき状の吸液性ポリマーが結着しているものが特に好ましい。さらに、本発明は、前記吸液性複合体を用いた吸液性物品、特に衛生材料(中でも、おむつ)にも存する。
【0009】
そして、本発明は、吸液性ポリマーを与える重合性モノマーと重合開始剤を気相中で液滴重合し、これを前記重合性モノマーの重合率が40%以下の状態で、起毛処理を施した繊維質基材に接触させる工程を有することを特徴とする吸液性複合体の製造方法にも存する。さらに、吸液性ポリマーを与える重合性モノマーと重合開始剤とを気相中で液滴重合させ、且つ、該重合性モノマーの重合率が40%以下の状態で、起毛処理を施した繊維質基材に接触させることによる、吸液性複合体の製造方法に用いる重合反応用ノズルであり、ノズル口を構成する先端部の肉厚が10mm以下であることを特徴とする重合反応用ノズルにも存する。前記ノズルは、前記重合反応用ノズルの外壁面に液膜を形成する機構を備えていることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸液性複合体は、吸液性ポリマーが吸液前後を通じて基材上に均一に分散されている。また、本発明の吸液性複合体のうち、特に好ましいものは、更に、吸液量が多く、吸液速度が速く、適度なしなやかさを有する。このため、紙おむつや生理用品などの衛生材料、廃水の吸収保持用等の工業資材、及び野菜などの鮮度保持剤や保水剤等の農業資材等に好適に使用することができる。また、本発明の吸液性複合体の製造方法によれば、上記特徴を有する吸液性複合体を効率よく製造することができる。さらに、本発明のノズルを用いれば、さらに効率よく吸液性複合体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の吸液性複合体およびその製造方法等について、詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の吸液性複合体は、水かき状の吸液性ポリマー及び略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーが、起毛処理を施した繊維質基材上に結着していることを特徴とする。なお、上記吸液性複合体の繊維質基材上に水かき状の吸液性ポリマーが結着していても差し支えない。
【0012】
I.基材
(基材の効果)
本発明の吸液性複合体において、基材は、液拡散性と通液性の効果を奏するものが好ましい。液拡散性は、液を吸液性複合体の水平方向に迅速に拡散させ、吸液性ポリマーに満遍なく分配させる効果をいう。通液性は、液を吸液性複合体の垂直方向に迅速に通液させ、吸液性ポリマーに受け渡す効果をいう。一般的に、基材は、基材側から進入した液に対して、液拡散性と通液性の機能を競合的に行う。液拡散速度は、通常、基材の方が吸液性ポリマーより大きいため、液は、先ず、基材上を迅速に拡散して均一に広がり、その後、吸液性ポリマーに染み込んでいく。基材は、この一連の吸液過程の中で、吸液速度に影響するだけでなく、液が一部の吸液性ポリマーに偏在し、吸液性ポリマー全体の能力を生かしきれない「ままこ」と呼ばれる現象を防止する効果もある。
【0013】
(基材の種類)
本発明の吸液性複合体を構成する基材は、吸液性ポリマーを固定する役割を果たす。基材の表面状態は、吸液性ポリマーが結着しやすいように、適度に粗であることが好ましい。また、連続した隙間(空孔や空隙等)を有するものが、通水性、通液性、導水性、導液性等に優れていることから好ましい。これらの観点から、繊維の集合体である繊維質基材が良い。具体的には、板、シート、フィルム、各種形状の繊維質基材を用いることができる。吸液性ポリマーの結着により、形態維持性を高めること等が可能なことから、軟弱で疎な素材や平面にフィラメントを敷いただけの基材等も使用可能である。また、資源の有効利用の観点からは、例えば、成形していない繊維質基材のように、リサイクル処理しやすいものが好ましい。
【0014】
繊維質基材は、吸液性ポリマーと結着している繊維が、互いに絡み合って安定化しているため、押圧、振動時に、吸液性ポリマーが回転運動や並進運動するのを防ぐ。特に、吸液性ポリマーに一部が包埋されている繊維は、吸液後の吸液性ポリマーの固定性への寄与が大きい。また、繊維質基材は、特に、吸液により膨潤した吸液性ポリマー間に、適度な大きさの液体の流路を確保する効果も奏する。
【0015】
繊維質基材の材質は、例えば、植物繊維、動物繊維および鉱物繊維等の天然繊維;再生繊維、半合成繊維、合成繊維および鉱物繊維等の化学繊維等が挙げられる。このうち、衛生材料関係の用途には、皮膚に対する低刺激性、柔軟な感触等から、天然繊維が好ましい。また、均一性に優れている点では、化学繊維が好ましい。(「繊維便覧(原料編)」(繊維学会編、丸善、1968)、「繊維便覧(加工編)」(繊維学会編、丸善、1969)、「合成繊維」(祖父江寛、大日本図書、1977)を参照)。
【0016】
繊維質基材としては、吸液性ポリマーに対して化学的親和性を有するものが、吸液性ポリマーと結着しやすいことから好ましい。通常、吸液性ポリマーは親水性であるため、具体的には、パルプ、レ−ヨン、木綿、再生セルロ−ス等のセルロ−ス系繊維;ポリアミド
系;ポリビニルアルコール系等の導水性(水を吸液性ポリマーに誘引する性質)〜親水性であるものが好ましい。このうち、皮膚に対する刺激が少なく、柔軟な感触を有することから、セルロ−ス系繊維が好ましく、パルプが特に好ましい。パルプとして具体的に好ましいのは、砕木パルプ等の機械パルプ;セミケミカルパルプ、ケミカルグラウンドパルプ等の化学機械パルプ;亜硫酸パルプ、硫酸パルプ、ソーダパルプ、硝酸法パルプ、塩素法パルプ等の化学パルプ;製紙した紙を機械的破砕又は粉砕したもの、古紙の機械的破砕又は粉砕したもの等の古紙パルプ等が挙げられる。
【0017】
親水性の吸液性ポリマーと基材との親和性は、基材の水に対する接触角測定によって、評価可能である。水の基材表面上の接触角が小さいほど、吸液性ポリマーと基材間の親和性が高く、接着力も大きい。従って、水の基材表面上における接触角は、60°以下が好ましく、50°以下がより好ましく、40°以下が特に好ましい。なお、接触角は測定する基材の形状、表面の平滑度等に依存して異なる。本発明の吸液性複合体に用いる基材の接触角は、基材をフィルムやシートのような平滑面上においたときの、蒸留水に対する接触角であり、後述の装置を用いて測定する。
【0018】
親水性の基材は、疎水性の基材表面を親水性化したものでもよい。親水化処理は、例えば、アニオン系、カチオン系又はノニオン系の界面活性剤を用いて改質処理することにより、行うことができる。改質処理は、例えば、基材に直接スプレー又は塗布する、繊維又は不織布等の基材作製時から作成後のいずれかにおいて塗布する、繊維紡糸前にポリマー組成物に添加する、等の方法が挙げられる。
【0019】
一方、ポリエステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリアミド系、ポリビニルアルコ−ル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビリニデン系、ポリアクリロニトリル系、ポリ尿素系、ポリウレタン系、ポリフルオロエチレン系及びポリシアン化ビニリデン系等の疎水性の基材についても、基材上で水分を拡散させる効果が見込めることから、利用できる。親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてもよい。また、吸液により膨潤した吸液性ポリマー間に、適度な大きさの液体の流路を確保するには、一定の剛性を備えた基材を用いるのが好ましい。また、環境問題などを考慮すると、ポリ乳酸繊維、脂肪族ポリエステルのような生分解性のある合成繊維を用いることが好ましい。
【0020】
繊維質基材を構成する繊維は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。吸液性ポリマーが結着可能であれば、1本の繊維が2種類以上の材質からできていても良い。また、繊維の形状は、液体の拡散性、導水性を高めるために、中空やサイドバイサイド型等であっても良い。2種類以上の材質からできている繊維としては、「或る材質のコア繊維を、これとは異なる材質の熱可塑性シースが包み込んでいる熱可塑性繊維」等が挙げられる。本発明の吸液性複合体の基材に適した「繊維質シース/コア繊維」の具体例を揚げると、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリ酢酸エチル/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエステル、ポリエステル共重合体/ポリエステル等の2種類の材質からなるものが挙げられる。このうち、「ポリプロピレン又はポリエステル等の剛性の高いコアに、ポリエステル共重合体又はポリエチレン等の柔軟なシースでできた繊維」が、適度な剛性と柔らかな風合いを有することから好適である。
【0021】
繊維質基材には適度な剛性と柔らかな風合いが必要とされることから、繊維質基材を構成する繊維の径は、下限が0.1デシテックスであるの好ましく、1デシテックスであるのが更に好ましく、上限が500デシテックスであるのが好ましく、100デシテックスであるのがより好ましく、50デシテックスであるのが特に好ましく、30デシテックスであるのが最も好ましい。繊維径が上記上限以下であると、繊維の剛性が適度なため、吸液性ポリマーを包埋、接着しやすい。また、圧縮成型が容易で、繊維の絡み合いによるシート化、薄型化に好ましい。特に、生理用品等に用いる場合、ゴワゴワしたり、チクチク
したりすることが少なく、感触に優れる。一方得、繊維径が上記下限以上であると、前述の導水性や拡散性の点で好ましく、ままこができ難い。
【0022】
該繊維の繊維長は、風合いが良好で、成型、圧密が容易なことから、下限が50μmであるのが好ましく、100μmであるのがさらに好ましく、500であるのが特に好ましく、上限が100,000μmであるのが好ましく、50,000μmであるのが更に好ましく、30,000μmであるのが特に好ましい。吸液性ポリマーが結着粒子状である場合、結着粒子の平均粒径:繊維長は、好ましくは2:1〜1:1,000、より好ましくは1:1〜1:500、特に好ましくは1:2〜1:100である。繊維長は、1本の繊維に結着吸液性ポリマーの量に影響を及ぼし、長い方が繊維と吸液性ポリマーとの結着が強い。特に、繊維質基材のシート化には、長い方が、繊維の絡み合いが生じるため好ましい。一方、使用後にリサイクル処理を施したい場合には、短い方が開繊しやすいため好ましい。
【0023】
該繊維の形状は、直線状の他、波状、ループ状、コイル状、枝毛状、星状等の繊維同士が絡みあいやすい非直線状でもよい。
目付量は、液拡散性の点から、下限が5g/mが好ましく、10g/mが更に好ましく、20g/mが特に好ましく、上限が500g/mが好ましく、200g/mが好ましく、150g/mが特に好ましい。比容積は、吸液性ポリマーの定着性に優れることから、下限が3ml/gが好ましく、70ml/gが更に好ましく、100ml/gが特に好ましく、上限が500ml/gが好ましく、400ml/gが更に好ましく、300ml/gが特に好ましい。比容積は、1gあたりの基材の容積(ml)を表す。比容積は、繊維質基材の容積(ml)を、その重量で除して算出する。容積(ml)は、正方形の繊維質基材について、デジタル光学顕微鏡を用いて、繊維質基材の側面方向からの厚さ(cm)を測定し、面積にこの厚みを乗したものとする。
【0024】
好ましい繊維質基材としては、紙、フラッフパルプ、布及び不織布等の適度な表面状態を有しているものが挙げられる。フラッフパルプは、繊維が独立して羽毛状に絡み合ったパルプであり、嵩高く、柔らかく、吸液性が良好であるという特徴を有する。典型的には、例えば、ウェハウザー社製「NB-416」、「FR-416」等の開繊品が挙げられる。不織布は、エアレイド法、ウエットレイド法、水圧連行法、ステープル長の繊維カードボンド法、溶液紡糸法等の各種公知の方法によって製造されたものを用いることができる。不織布は、一般的に、比容積の大きな順に、エアスルー、エンボス、フラットと分類される。これらのうち、フラッフパルプおよびエアスルー不織布等のエアスルー型の繊維質基材が特に好ましい。
【0025】
通常、繊維は、絡み合って塊となる傾向があるが、本発明の吸液性複合体に用いる基材としての繊維は、ミクロ的に、均一に分散されているのが好ましい。見かけの繊維塊径は、20mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下が特に好ましい。また、1本、1本の繊維が独立しているのが最も好ましい。
繊維塊は、通常、開繊により、ほぐすことができる。「開繊」とは、解繊と繊維化の両概念を含む。解繊は、ナイロン等のシート状物を、短冊状や繊維状に裂くこと等が含まれる。また、繊維化には、原紙状のセルロースを切り裂いてパルプにすること等が含まれる。
【0026】
具体的には、綿紡式、梳毛式、紡毛式、麻紡式、絹紡式又は回転羽式粉砕機、ハンマー式粉砕機、パルプ解繊機等の開繊機を用いることができる。繊維を帯電させ、繊維間の静電反発を利用して、繊維1本ずつを均一分散させるフロック加工法も適用可能である(「繊維便覧(加工編)」(繊維学会編、丸善、1969、18頁参照)。起毛装置としては、山東エンジニアリング株式会社製のウェットサンダー装置、内外特殊エンジニアリング
株式会社製のビーバーエメリー装置、三菱重工業株式会社製のMCロール、丸一技研株式会社製のニードルプリッカー等を用いることができる(特開平5−186960号公報、特開2001−254261号公報、特開2001−254262号公報を参照)。
【0027】
(起毛処理)
本発明の吸液性複合体を構成する基材は、表面に起毛(立毛ともいう)処理を施した繊維質基材である。起毛処理は、繊維質基材の嵩密度を、処理前の半分〜2/3にするのが好ましい。起毛処理とは、繊維を基材表面に引き出す又は基材表面に繊維をつける等により、基材の表面を毛羽だった状態にする処理をいう。一般的には、基材に対して、加熱、研磨(エメリー起毛又はパフィング処理)、ブラッシング等により、繊維を表面に引き出す又は繊維を付ける処理を施す。繊維質基材繊維を引き出す処理としては、サンドペーパー(エメリーペーパー)等の研磨剤による研磨;バフ加工;金属、塩ビ等のプラスチック、豚毛等の各種ブラシ、針布(スウェード起毛)、ニードルパンチの針等によるブラッシング;針で繊維を引き出し、更に引き出した繊維を切断し、毛先を立たせる(ニードルプリッカー);水流ジェットをあてる;エアブローをあてる;静電気の引力あるいは反発力を利用する;表面に熱可塑性樹脂フィルムを溶融接着してから、これを剥がす;タフテッドカーペットを製造する方法の応用で、撚糸を用いて連続ループを表面に形成し、該ループをシェアリング等でカットする等が挙げられる。繊維を付ける処理としては、電気植毛等が挙げられる。これらの中で、低コストで適度な嵩密度にできることから、本発明の吸液性複合体を構成する基材に施す起毛処理としては、加熱起毛又はエメリー起毛(パフィング処理)が好ましく、繊維への損傷が少ないことから加熱起毛が更に好ましい。起毛処理は、1回だけ行っても、同一又は複数種の方法を複数回施しても良い。
【0028】
起毛処理は、一般的に、外観、風合い、つやの向上のために行う(「繊維便覧(加工編)」975頁(繊維学会編、丸善、1969)参照)。本発明の吸液性複合体を構成する基材に、起毛処理を施すと、通常、吸液速度が向上する。これは、起毛処理により、繊維質基材に結着する吸液性ポリマー同士の間隔が適度に保たれることによるものと推定される。
【0029】
不織布を例に、加熱起毛の好ましい条件について説明する。加熱温度は、不織布のベース繊維の軟化点付近、実用的には70〜160℃が好ましい。加熱時間は、加熱温度等に依存するが、通常、数秒〜180秒間である。更に好ましくは、80〜140℃で20〜60秒間の加熱を施すのがよい。加熱方法は、起毛できれば特に限定されず、例えば、加熱炉内を通過させる、熱風を吹付ける、赤外線ランプ等を照射する、水蒸気等の高温の気体を共存させるなどしても良い。
【0030】
エメリー起毛(パフィング処理)の場合、研磨剤の粒度は、#60〜#1000が好ましく、#100〜#500がより好ましい。
起毛装置としては、山東エンジニアリング株式会社製のウェットサンダー装置、内外特殊エンジニアリング株式会社製のビーバーエメリー装置、三菱重工株式会社製のMCロール等を用いることができる(特開平5−186960号公報、特開2001−254261号公報、特開2001−254262号公報等を参照)。
【0031】
また、更に起毛効果を高める方法として、繊維シートと高分子弾性体からなる複合シートに、バフ前またはバフ時に、ポリオルガノシリコン化合物を塗布する方法(特公昭55−32828号公報参照)、繊維質材料と弾性重合体から構成されてなるシートの弾性重合体の一部を溶解または膨潤後再固化して繊維根元を締め付けて起毛する方法(特開昭53−31887号公報参照)、極細収束繊維と高分子重合体からなるシートにロウやパラフィンを付着した状態で起毛処理を行う方法(特公昭47−44601号公報参照)、弾性ポリマーと非弾性ポリマーからなる繊維の混綿による絡合不織布の表面をバッフィング
や起毛処理する方法(特公平1−41742号公報及び特公平3−79478号公報参照)等が提案されている。
【0032】
II.吸液性ポリマー
本発明の吸液性複合体で用いる吸液性ポリマーは、水、尿、血液等の液体を、その使用目的に応じて吸液する役割を果たす。該吸液性ポリマーは、溶液重合、逆相懸濁重合の反応進行中のモノマー液を用いて合成することができ、このうち製造設備が簡便であり、モルフォロジー制御が容易であることから、液滴重合法で合成するのが好ましい。液滴重合法とは、重合性モノマーと重合開始剤とを接触させ、液滴状態で行う重合反応のことである。重合時には、重合反応を大幅に妨げなければ、重合性モノマー及び重合開始剤以外の成分を含んでいてもよい。以下、液滴重合法で吸液性ポリマーを合成する場合を例に、本発明の吸液性複合体に用いるのに好ましい吸液性ポリマーについて説明する。
【0033】
(重合性モノマー)
重合性モノマ−は、吸液性ポリマーを与えるものであれば、その種類は問わないが、重合開始温度が比較的低い(通常、70℃以下)レドックス系開始剤によって重合が開始されるものが好ましく、また、水溶性であるものが好ましい。このような重合性モノマーの代表例であって、本発明で使用するのに好ましいものは、脂肪族不飽和カルボン酸である。ここで、該カルボン酸は、イオン解離が容易であれば、塩であってもよい。以下、本明細書の脂肪族不飽和カルボン酸は、塩である場合も含めることとする。吸液性ポリマーが中性に近い方が皮膚、粘膜等人体への安全性が高い。このため、重合性モノマーは、酸と塩との混合物が好ましい。好ましいものの具体例を挙げると、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。この中で、吸液量が多くなることから、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0034】
重合性モノマ−が塩である場合、通常、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の水溶性の塩が用いられる。該塩の中和度は、目的に応じて適宜定められる。吸液性ポリマーの吸液量は、脂肪族不飽和カルボン酸モノマーの部分中和度が或る程度以上である方が高くなる傾向にある。従って、例えば、アクリル酸の場合、カルボキシル基の20〜90モル%がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩で中和されているものが好ましい。脂肪族不飽和カルボン酸モノマーの中和には、アルカリ金属の水酸化物、重炭酸塩等;水酸化アンモニウム等が使用可能である。これらのうち、得られた塩のイオン解離性が良好であり、高吸液量にできることから、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましい。
【0035】
重合性モノマーは、1種類でも、2種類以上でも構わない。重合性モノマーは、重合し
て吸液性ポリマーを与えるものを主成分とするものが好ましく、上述の脂肪族不飽和カルボン酸を主成分とするものが更に好ましい。ここで、「主成分」とは、脂肪族不飽和カルボン酸が重合性モノマーの全量に対して50モル%以上、好ましくは80モル%以上含まれることを意味する。上記脂肪族不飽和カルボン酸以外の重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコ−ル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト等の水溶性モノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸アルキルエステル類などの上記脂肪族不飽和カルボン酸と共重合可能な重合性モノマー等が挙げられる。ここで、アクリル酸アルキルエステル類等は、水溶性が高くないが、生成する吸液性ポリマーの性能を低下させない範囲の量で共重合させても差し支えない。なお、本明細書中の「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および「メタクリル」の両方を意味する。
重合性モノマーは、通常、水溶液の状態で用いる。水溶液濃度の下限は、重合後の吸液性ポリマーの吸液量が多くなることから、20重量%であるのが好ましく、25重量%で
あるのが更に好ましい。同上限は、重合反応液の取り扱いやすさの観点から、80重量%が好ましい。
【0036】
(重合開始剤)
本発明の吸液性複合体用の吸液性ポリマーの製造に用いられる重合開始剤は、上述の重合性モノマ−を吸液性ポリマーに重合できるものであれば、その種類は問わない。該重合性モノマーは、通常、水溶液として用いることから、重合開始剤は、水溶液の状態で用いるのが好ましい。重合反応は、逐次重合反応でも連鎖重合反応でもよい。用いるモノマーのラジカル重合性が高いことから、連鎖重合反応のラジカル重合反応が好ましい。従って、重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0037】
水溶性のラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物及びアゾ化合物等が挙げられる。過酸化物は、無機でも有機でもよく、具体的には、アンモニウム、アルカリ金属、カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t−ブチルパ−オキシドやアセチルパ−オキシド等が挙げられる。アゾ化合物としては、水溶性の2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド等が挙げられる。
【0038】
ラジカル重合は、重合開始剤の分解により開始される。重合開始剤の分解は、通常、熱分解である。熱分解には、重合開始剤の分解温度以上に昇温させた重合性モノマーに、加熱していない重合開始剤を接触させて重合を開始させる場合も含まれる。
重合開始剤は、1元系と2元系とに大別される。反応ノズルの目詰まりが起こりにくく、重合速度が速いことから、1元系よりも2元系の方が好ましい。2元系の重合開始剤の代表としては、レドックス系の重合開始剤が挙げられる。レドックス系の重合開始剤は、酸化剤と還元剤とを接触させることにより、ラジカル重合に有効な開始剤種を生成する系のことである(「高分子合成の化学」(大津隆行、化学同人、1979)66〜69頁参照)。
【0039】
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパ−オキシド、クメンハイドロパーオキシド等の過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;第二セリウム塩;過マンガン酸塩;亜塩素酸塩;次亜塩素酸塩等の無機塩等が挙げられる。この中でも、常温(以下、本明細書中での常温は、通常、15〜25℃である)で安定であることから、過酸化水素が好ましい。酸化剤の使用量は、重合性モノマーに対して、通常、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%である。
【0040】
還元剤は、前記酸化剤と相溶し、レドックス系を形成しうるものが好ましい。具体的には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム;酢酸コバルト;硫酸銅;硫酸第一鉄;L−アスコルビン酸;L−アスコルビン酸アルカリ金属塩等の水溶性還元剤等を挙げることができる。中でも、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸アルカリ金属塩等の常温で安定であるものが好ましい。還元剤の使用量は、重合性モノマーに対して、通常、0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜2重量%である。
【0041】
(架橋剤)
生成する吸液性ポリマーの吸液量を向上させるために、吸液性ポリマーを製造する重合反応では架橋剤を併用しても良い。架橋剤としては、上述の重合性モノマーと共重合可能なポリビニル化合物(多官能化合物)及びカルボン酸と反応し得る官能基を複数個有する水溶性の化合物、等が好適に使用される。該ポリビニル化合物としては、例えば、N,N
’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、多価アルコールポリ(メタ)アクリレ−ト類等が挙げられる。カルボン酸と反応し得る官能基を複数個有する水溶性の化合物としては、エチレングリコ−ルジグリシジルエ−テル、ポリエチレングリコ−ルジグリシジルエ−
テル等のポリグリシジルエ−テル等が挙げられる。この中で特に好ましいのは、水溶性であることから、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド及びポリエチレングリコ
ールジアクリレートである。架橋剤の使用量は、重合性モノマーの仕込み量に対して、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%である。なお、脂肪族不飽和カルボン酸、特にアクリル酸は、それ自身で自己架橋可能であるが、架橋剤の併用により、更に積極的に、架橋構造を形成させてもよい。
【0042】
(液滴重合法)
本発明の吸液性複合体で用いる吸液性ポリマーは、重合性モノマー水溶液とレドックス系重合開始剤から、液滴重合法で合成するのが好ましい。より好ましくは、レドックス系重合開始剤を構成する酸化剤又は還元剤のいずれか一方と重合性モノマ−を含む水溶液(第1液)と、該重合開始剤を構成する酸化剤又は還元剤の他方を含む水溶液(第2液)とを、気相中で接触させることにより重合を開始させる。ここで、重合性モノマーは、第2液中にも含まれていてもよい。第1液及び第2液の温度は、各々独立に、通常は常温〜60℃、好ましくは常温〜40℃である。
【0043】
具体的な手法としては、例えば、第1液及び第2液を各々ノズルから流出し、液柱状態で衝突させる方法等が挙げられる。各ノズルから流出する液の交差角度は、重合性モノマーの性状、流量比等に応じて、適宜選定する。一般的に、液の線速度が大きいほど、交差角度は小さくしてもよい。液をノズルから流出させるエネルギーの一部を混合に利用できるため、流出時の液同士の交差角度は、15度以上が好ましい。液柱状態となった液は、やがて分かれて液滴となり、更に、重合反応が進む。液滴の直径ddは、吸液性複合体を構成する吸液性ポリマー塊の平均径dp及びモノマー濃度(アクリル酸とアクリル酸ソーダの合計濃度)Cmから、以下の式に従い算出される。
【0044】
dd=dp/(Cm)1/3
液滴の直径は、下限が通常5μm、好ましくは50μm、上限が通常3,000μm、好ましくは1,000μmである。反応器内の液滴の空間密度は、反応場の空間容量、モノマー供給量及び液滴の落下速度から見積もられる。反応器内の液滴の空間密度は、基材と接触していない吸液性ポリマーや吸液性ポリマーと接触していない基材が少なくなり、吸液性複合体の相対的収率が向上するため、10〜10,000g/mが好ましい。
【0045】
液滴重合法には、重合反応に対して不活性な雰囲気が好ましい。具体的には、窒素、ヘリウム等の不活性気体;炭酸ガス、及び空気等が挙げられる。雰囲気中の湿度は、水蒸気のみの場合を含め、特に制限はない。重合性モノマー水溶液中の水分が重合前に蒸発し、重合性モノマーが析出し、重合速度を低下又は反応停止してしまわない範囲が好ましい。重合雰囲気の温度は、通常、室温〜150℃、好ましくは100℃以下である。雰囲気は、密閉系、開放系、フロー系のいずれでも良いが、液滴落下に伴い発生する随伴流を制御するには、フロー系が好ましい。フローの方向は、液柱及び液滴の進行方向に対して並流でも向流でも良い。重合性モノマ−の重合率を上げ、液滴の粘度を高めたい場合には、フローを向流(反重力方向)にして、液滴の気相中での滞留時間を長くするのが適している。
【0046】
(液滴重合反応用ノズルの構造)
本発明の吸液性複合体を製造するための重合反応ノズルは、前述の液滴重合法が行いやすいものがよい。具体的には、重合性ポリマーの両原料溶液を気相中に噴出させ、これを液滴として、衝突させて混合させることができるものであれば良く、特に制限はない。具体的には、例えば、図14に示すように互いに対向するノズルからなるノズルユニット(特許第3145156号公報参照)、スリット型ノズル(特開平11−49805号公報参照)、重合性ポリマーの両原料溶液の少なくとも一方を、空間的に広がる液膜状に噴出
させ、かつ、噴出時の液膜断面が曲線部を含むように噴出させるか、又は中空円になるように噴出させることが可能なノズル(特開2003−113203号公報を参照)、2重同芯渦巻噴射ノズル等が使用できる。このうち、重合性ポリマーの両原料溶液の少なくとも一方を空間的に広がる液膜状に噴出させるノズルが好ましく、2重同芯渦巻噴射ノズルが特に好ましい。
【0047】
2重同芯渦巻噴射ノズルの代表的構造について、以下に詳述する(図4参照)。図4(a)は上部導入管部分を示すものであり、図4(a)は横断面図、図4(b)は縦断面図、図4(c)は斜視図である。
2重同芯渦巻噴射ノズルは、通常、第1液噴出用の第1のノズル10と、第2液噴出用の第2のノズル20とが同芯円状に設けられている。第1のノズル10は、上部の大径の筒状部よりなる液導入部11、下部の小径の筒状部よりなる液噴出部13、及び、これらの筒状部の間に設けられた下方に向って縮径するテーパー部12とで構成される。液導入部11には、第1液を導入するための2本の導入管14A,14Bが、その筒状部の接線方向に相対向して設けられている。第2のノズル20も第1のノズル10と同様に、上部の大径の筒状部よりなる液導入部21、下部の小径の筒状部よりなる液噴出部23、及び、これらの筒状部の間に設けられた下方に向って縮径するテーパー部22とで構成され、液導入部21には、第2液を導入するための2本の導入管24A,24Bがその筒状部の接線方向に相対向して設けられている。第1液は、導入管14A,14B内を通り、液導入部11内に勢いよく導入される。第1液は、液導入部11から、遠心力と重力によって、テーパー部12の内壁をらせん状の軌跡を辿りながら流下して、液噴出部13に到達する。同様に、第2液は導入管24A,24B内を通り、液導入部21内に勢いよく導入され、液導入部21から、遠心力と重力によって、テーパー部22の内壁をらせん状の軌跡を辿りながら流下して、液噴出部23に到達する。液噴出部13,23に到達した第1液と第2液は、それぞれノズル口10A,20Aでノズル10,20の接線方向の速度成分を有する状態で噴出し、気相中で衝突し、合流して混合される。(図4(c)参照)。
【0048】
吸液性ポリマーの製造の際に用いるノズルは、ノズル口を構成する先端部の肉厚が薄い方が、ノズルの目詰まりが生じにくい点で好ましい。具体的には、該先端部の肉厚が10mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。ノズル口を構成する先端部の肉厚は、さらに好ましくは0.7mm以下であり、さらにより好ましくは0.5mm以下である。一方、0.1mm以下のように極めて薄い肉厚にするのは、精密加工を行ううえで非常に困難であるとともに、ノズル先端の強度が保てなくなる可能性があるので、適当ではない。
【0049】
ここで「ノズル口を構成する先端部の肉厚が10mm以下」とは、重合性モノマー液が噴出されるノズル口を構成する先端部端面(先端面)の厚みを意味し、先端部端面の外縁から内縁までの長さを測定することにより得られる。例えば、図13(a)に示すような断面を有するノズルであれば、先端部の肉厚は((φD−φd)/2)で表される(φDはノズル先端面におけるノズル外径、φdはノズル先端面におけるノズル内径(口径))。例えば、特許第3145156号公報に示される針状ノズルは、この計算式で先端部の肉厚を得ることができる。また、特開平11−49805号公報に示されるようなスリットノズルの場合も、同様の形状の断面を有するために、同じ計算式で先端部の肉厚を得ることができる(φDはノズル先端面におけるノズル外面の幅寸法であり、φdはノズル先端面におけるノズル液膜噴射幅寸法)。他の例として、図13(b)〜(e)に示すような断面を有する二重同芯渦巻噴射ノズルであれば、先端部の肉厚は((φD2−φd2)/2)で表される(φD2はノズル先端面における外側ノズルの外径、φd2は先端面における外側ノズルの内径)。特開2003−113203号公報に示されるノズルは、この計算式で先端部の肉厚を得ることができる。
【0050】
ノズル先端の肉厚寸法が上記の好ましい薄さのノズルを使用することにより、ノズル先端面に重合性モノマーの液滴が付着したとしても、噴流がその液滴に接触して随時洗い流すことが容易になる。また、重合反応槽内の雰囲気場に蒸気を充満させるような重合プロセスの場合には、若干量の水蒸気がノズル口の先端に結露して水滴となって付着することで、重合性モノマーの液滴がノズル先端に付着する場合があるが、この場合にも、モノマー濃度を希釈し重合の進行を防止させることになるため、ポリマーがメヤニ状に成長することを防止しやすい。このように自己洗浄作用が備わるため、重合性モノマーが重合を進行させてメヤニ状さらにはつらら状に成長することを防止することができる。また、噴射モノマー量の増加や、ノズル径の小径化にともなう微粒子飛散の激化、微粒子のノズル口への付着を緩和することが可能となり、噴霧ノズルの閉塞防止、安定運転、長時間運転に寄与することができる。
【0051】
吸液性ポリマーの製造の際に用いるノズルの輪郭形状は特に制限されないが、ノズル先端部に向かうに従って先細状となっていることが好ましい。例えば、図13(b)に断面図を示すように、輪郭線が外側に膨らむように滑らかな曲線を描きながら先細になって行くものであってもよいし、図13(d)に断面図を示すように、輪郭線が内側に凹むように滑らかな曲線を描きながら先細になって行くものであってもよい。また、図13(c)に断面図を示すように、輪郭線が直線状に先細になって行くテーパー部を有するものである。さらに、これらの形状を組み合わせてノズル表面の輪郭の曲率を段階的に変化させたものであってもよい。好ましいのは、テーパー部を有するノズルか、輪郭線がノズル内部に凹む曲面を有するノズルである。特に好ましいのは、ノズル輪郭線がノズル内部方向に凹んでいる断面形状を有するノズルである。ノズル輪郭形状をテーパー状にしたり、内部方向へ凹ませたりすることにより、ノズル口近傍の雰囲気空間を確保することができる。この結果、ノズル口からの噴流とノズル口周辺の雰囲気との摩擦や渦の発生が低減され、ノズル口から噴射される微粒子の舞い上がりを抑制することができ、結果としてノズル表面やノズル口近傍への重合性モノマーの付着を低減し、運転性を向上することができる。ノズル口周辺の空間を確保するためには、ノズル断面形状が先細になって行く部分の平均曲率半径をできるだけ大きくすることが好ましい。具体的には、3mm以上、より好ましくは10mm、さらに好ましくは20mm以上の曲率半径で始まり、滑らかにノズル本体の傾斜部分と接続させて、ノズル最外周へ導くことが設計上有利である。
【0052】
吸液性ポリマーの製造の際に用いるノズルが上記のようなテーパー部を有する場合、該テーパーの交差角度αは160°以下であることが好ましく、90°以下であることがより好ましく、60°以下であることが特に好ましい(図13(c)参照)。交差角度を調整することによって、ノズル表面に付着する重合性モノマー液を先端により流し落とし易くすることができる。先端に集まる液滴は噴射される重合性モノマーとともに空間内へ吹き飛ばされるので、ノズル長時間運転時のメヤニ発生やノズル閉塞をさせることなく、自己洗浄性を備えるノズルとすることができる。
【0053】
(液滴重合反応用ノズルの液膜)
吸液性ポリマーの製造を長時間続けて行うには、重合反応に用いるノズルの外壁面に液膜を形成するのが好ましい。一般的に、液滴重合法は、重合速度が速いため、重合生成物によるノズルの閉塞が起こり易い。ノズル口近傍のノズル外壁面に液膜ができると、これが保護液膜となり、重合性ポリマーの両原料溶液が衝突、混合する際に、衝突で弾き飛ばされて微細な液滴が生じても、これがノズル口周辺に付着する前に、洗い流すことができ、微細な液滴の重合によるノズルの閉塞が起こりにくくなる。このため、液膜を形成しておくと、反応を停止させてのノズルの清掃が不要になり、生産効率の点で好ましい。
【0054】
上記の液膜は、ノズル口に液を連続的又は断続的に流すことにより形成するのがよい。また、上記の液膜は、液をノズル外壁面、特にノズル口より上流側の壁面に向けて噴霧し
てもよいし、噴霧ノズルに保護液吐出用のスリット又は開孔を設け、このスリット又は開孔から重合用ノズル外壁面に保護液を流下させてもよい。ノズル閉塞防止用の液膜(以下ノズル閉塞防止用の液を「保護液」と称し、その液膜を「保護液膜」と称す場合がある)は、重合性ポリマーの両原料溶液が噴出されるノズル口より上流側で、ノズル口から噴出した液や重合進行中の液滴が飛来しない位置からノズル口までの間のノズル外壁面に形成するのがよい。なお、ノズル口に直接水などの液体をスプレーすると(米国特許第3,929,291号明細書参照)、スプレーされた液体が重合反応液の噴出、衝突、混合を不安定化させ、ノズル口部分で第1液と第2液との混合が起こって、却って、ノズル口の閉塞が助長されることがあるため、注意が必要である。
【0055】
上記のような液膜を形成しながら重合反応を進行させるためには、通常、ノズルの外壁面に液膜を形成する機構を備えている重合反応用ノズルを用いて反応を行う。例えば、2重同芯渦巻噴射ノズル(図4参照)の場合、図1に示す如く、噴霧ノズル1の保護液膜形成面近傍に保護液スプレーノズル2A,2Bを設け、このスプレーノズル2A,2Bから保護液を噴霧ノズル1の保護液膜形成面にスプレーすることにより、保護液膜3を形成する態様や、図2、3に示す如く、噴霧ノズル1の保護液膜形成面上部位置に保護液吐出用のスリット4又は開孔5を設け、このスリット4又は開孔5から保護液を吐出、流下させて保護液膜3を形成する態様等が挙げられる。なお、図2、3に示すように噴霧ノズル1から保護液を吐出させる場合、噴霧ノズル1の上部大径筒状部1Dは、例えば更に保護液用の室を最外周部分に設けた3重構造とすることができる。
【0056】
前述のように、保護液膜は、噴霧ノズルのノズル口から噴出した液や重合進行中の液滴が飛来しない距離からノズル口までのノズル外壁面に形成される。この保護液膜形成面は、例えば、図4に示す2重同芯渦巻噴射ノズルの場合、第2のノズル20の液噴出部23とその上部のテーパー部22であり、このテーパー部22の上部の液導入部21にはノズル口から噴出した液や重合進行中の液滴が飛来することは殆どないため、保護液膜はこの液噴出部23とその上部のテーパー部22に形成することが好ましい。従って、図1においては、噴霧ノズル1のノズル口1Aが形成された下部小径筒状部1Bとその上のテーパー部1Cに保護液膜3を形成し得るように、保護液スプレーノズル2A,2Bが設けられている。また、図2,3において、保護液吐出用スリット4、開孔5は噴霧ノズル1のテーパー部1Cと上部大径筒状部1Dとの境界部に設けられている。
【0057】
(保護液)
保護液としては、第1液,第2液及び重合により得られる重合物のうちのいずれか1以上と親和性の高いものが好ましく用いられる。例えば、第1液及び/又は第2液に含まれる重合性モノマーを溶解し得る溶媒を使用することができる。本発明において「親和性の高い」とは、相互の溶解度パラメータ(SP値)の差が小さいこれらの数値は、「Polymer Handbook 4th ed, (J. Brandrup, E. H. Immergut, and E. A. Grulke John Wiley & Sons. Inc. (1999) 」の第675頁以降に例示されている。更に、具体的なポリマーに対
する親和性の高い溶媒は、「Solvent」として、同文献の第497頁以降に例示されてい
る。
【0058】
このような溶媒としては、重合性モノマーが水溶性重合性の場合は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類等の親水性溶媒の1種又は2種以上を用いることができる。また、親油性重合性モノマーの場合は、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘプタンなどの飽和炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類等の親油性溶媒を用いることができる。更には、重合開始剤の添加されていない該重合性モノマーに対して親和性の高い重合性モノマーなどを用いることもできる。これらの溶媒は、1種類でも、2種以上を用いてもよい。これらの溶媒の内、吸液性ポリマーに用いる重合性モノマ
ーは、親水性であることが多いため、水、アルコール、ケトン等の親水性溶媒が好ましい。
【0059】
また、保護液としては、重合により得られる微粒状の重合生成物を溶解もしくは膨潤できる溶媒を用いることもできる。この溶媒としても上述の親水性溶媒や親油性溶媒等が使用できる。
保護液の流量及び保護液膜の膜厚は、重合性モノマー、重合微粒子がノズル口近傍に付着して滞留しない程度であればかまわないが、第1液及び第2液の噴出を妨害しない程度の流量、膜厚を選択する必要がある。例えば、図1〜3に示すような噴射ノズル1のノズル外壁面に保護液膜を形成する場合、用いる保護液や噴出させる第1液,第2液の組成、流量等によっても異なるが、保護液膜の膜厚は0.01〜2mmで、流量は保護液膜形成面1m当たり、10〜2000ml/min程度とすることが好ましい。
【0060】
(吸液性ポリマーの構造)
液滴重合法で合成した吸液性ポリマーは、通常、長径100〜50000μmの塊状になる。このうち、本発明の吸液性複合体で用いる吸液性ポリマーとしては、特に、塊の長径の下限が、好ましくは200μm、更に好ましくは300μm、同上限が好ましくは5000μm、更に好ましくは2000μmの塊状になっているものが良い。また、塊の厚みは、下限が50μmであることが好ましく、100μmであることがより好ましく、同上限が3000μmであることが好ましく、1000μmであることがより好ましい。上記上限以下は、基材との結合部が多く脱落しにくい点で好ましく、上記下限以上は、繊維による膨潤阻害の影響を受けにくい点で好ましい。吸液性ポリマーの形状は、通常、電子顕微鏡等で測定可能であり、ここで、長径は、電子顕微鏡等で測定した各吸液性ポリマーの塊の最長径を、厚みは、該長径に対する垂直方向で最も長い径を、各々いう。吸液性ポリマーの塊は、基材の一部を包埋又は接着することによって、基材に結着されている。この際、基材と吸液性ポリマーの塊は、1カ所接しているだけでもよいが、2カ所以上で接している方が、吸液性ポリマーが外れにくいため好ましい。また、吸液性ポリマーの塊は、基材と接しているより、基材の一部を包埋している方が、結合が強固であるため好ましい。吸液性ポリマーの塊が基材の一部を包埋している場合、該繊維は、吸液性ポリマーを貫通していてもよいし、貫通していなくてもよい。このような塊状の形状は、(1)略球状の吸液性粒子同士が結着した結着粒子状構造と(2)水かき状構造とに大別される。
【0061】
上記(1)の結着粒子状構造とは、略球状の吸液性ポリマー粒子同士が互いに結着している構造をいう。具体的には、下限は、通常3個、好ましくは5個、上限は、通常100個、好ましくは20個、更に好ましくは10個の吸液性ポリマー粒子が塊になっている。
結着粒子状の吸液性ポリマーを構成する各吸液性ポリマー粒子は、略球状をしている。略球状は、全体として球状の形状をしているものであり、しわ、突起、陥没等の細かい凹凸を表面に有していてもよい。また、内部に、細孔やクラック等の空隙を有していてもよい。具体的には、例えば、球型の他、卵型、ラグビーボール型、ピーナッツ型、亜鈴型等の形状も含まれる。
【0062】
該粒子の粒径の下限は、繊維への定着性の点から、10μmであることが好ましく、50μmであることが更に好ましく、100μmであることが特に好ましく、200μmであることが最も好ましい。該粒子の粒径の上限は、吸液速度の点から、2000μmであることが好ましく、1000μmであることが更に好ましく、800μmであることが特に好ましく、500μmであることが最も好ましい。粒径の測定は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて行う。
【0063】
結着粒子状の吸液性ポリマーの塊の形状やサイズは、長径が上述の好ましい範囲であれば、他は特に制限されないが、後述の水かき状構造に比べ、その長径の好ましい範囲は小
さめであり、厚みの好ましい範囲は大きめである。具体的には、長径は、下限が20μmであることが好ましく、100μmであることが更に好ましく、200μmであることが特に好ましく、300μmであることが最も好ましく、同上限が5000μmであることが好ましく、4000μmであることがより好ましく、3000μmであることが特に好ましい。また、厚みは、下限が50μmであることが好ましく、100μmであることがより好ましく、200μmであることが特に好ましく、同上限が3000μmであることが好ましく、2000μmであることがより好ましく、1000μmであることが特に好ましい。
【0064】
上記(2)の水かき状構造とは、吸液性ポリマーが、基材に対して粘着しているような構造をいう。イメージしやすいように敢えて具体例を挙げると、複数本の基材繊維が重なっている部分に、吸液性ポリマーが平たくくっ付いている構造などが挙げられる(後述の実施例の図5を参照)。
水かき状構造の吸液性ポリマーは、長径が上述の好ましい範囲であれば、どのような形態で基材上に存在していてもよい。具体的には、島状に分布していても、海状の連続層になっていても、この両者が混在した形態でも、これら以外の形態でもよい。通液性の点では、島状に分布しているのが好ましい。1つの島又は海等の形状やサイズは、長径が上述の好ましい範囲であれば、他は特に制限されないが、厚み(水かきも含めた最大長に対する垂直方向で最も長い径)は、下限が50μmであることが好ましく、80μmであることがより好ましく、100μmであることが特に好ましく、同上限が1000μmであることが好ましく、800μmであることがより好ましく、500μmであることが特に好ましい。また、島状の場合の1つの島の長径(水かきも含めた最大長)は、下限が200μmであることが好ましく、300μmであることがより好ましく、400μmであることが特に好ましく、同上限が50000μmであることが好ましく、30000μmであることがより好ましく、20000μmであることが特に好ましい。海状の場合の長径(水かきも含めた最大長)は、下限が、1000μmであるのが好ましく、2000μmであるのがより好ましく、上限が、20000μmであるのが好ましく、10000μmであるのがより好ましい。
【0065】
海状の連続層である場合、海の中に島状に開口部が存在していてもよい。この場合の孔径の下限は、通液性の点から、100μmであることが好ましく、200μmであることがより好ましく、300μmであることが特に好ましい。同上限は、割れにくいことから、5000μmであることが好ましく、3000μmであることがより好ましく、2000μmであることが特に好ましい。開孔率は、通液性の点から、下限が10面積%であることが好ましく、20面積%であることがより好ましく、30面積%であることが特に好ましく、同上限が80面積%であることが好ましく、70面積%であることがより好ましく、60面積%であることが特に好ましい。
【0066】
液滴重合法で合成した吸液性ポリマーは、上述の(1)及び(2)の構造を、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上含んでいる。重合反応で、吸液性ポリマーが基材に接触する時の重合率が高いと(1)の構造が多くなり、逆に、低いと(2)の構造が多くなる傾向にある。なお、吸液性ポリマーが未重合の状態で基材に接触すると、数珠状になりやすい。
【0067】
本発明の吸液性複合体で用いる基材は、後述の通り、繊維質基材が好ましい。繊維質基材に吸液性ポリマーが結着している場合、吸液性ポリマーの塊と吸液性ポリマーの塊の間の繊維長は、吸液性ポリマー同士の膨潤阻害が起こりにくいことから、500μm以上であることが好ましく、800μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが特に好ましい。また、同上限は、100000μm以下であることが好ましく、50000μm以下であることがより好ましく、30000μm以下であることが特に好
ましい。
【0068】
本発明の吸液性複合体における、吸液性ポリマーと基材との結着状態を、略球状の吸液性ポリマー粒子が3個結着している塊と繊維が結着している場合を例に、図18に図示して説明する。これは、以下の3つのパターンに大別される。その1つは、1つの基材について、その一部が吸液性ポリマー内に包埋され、一部が露出しているものである(以下、この基材を「部分包埋基材」と称す場合がある。図18(b)参照)。もう1つは、1つの基材について、その一部が吸液性ポリマーの表面に接着すると共に、一部が吸液性ポリマーに接着していないものである(以下、この基材を「表面接着基材」と称す場合がある。図18(c)参照)。そして最後は、部分包埋基材と表面接着基材の両方を有するものである(図18(a)参照)。
【0069】
本発明の吸液性複合体は、通常、少なくとも、上記3つの構造のいずれか1種を含むのが好ましい。本発明の吸液性複合体は、最後のパターンを含むことがより好ましく、最後のパターンのみで構成されていることが特に好ましい。即ち、本発明の吸液性複合体は、通常、部分包埋基材および/または表面接着基材を含む。但し、本発明の吸液性複合体は、吸液性ポリマーによって包埋も接着もされていない基材、吸液性ポリマー内に完全に包埋された基材、吸液性ポリマー表面に全てが接着している基材、等の部分包埋基材、表面接着繊維以外の繊維を含んでいても良い。部分包埋基材、表面接着基材以外の基材は、少ない方が好ましく、吸液性複合体中の全基材の30重量%以下であることが好ましい。
【0070】
本発明の吸液性複合体を構成する吸液性ポリマーが、(1)の結着粒子状と(2)の水かき状の構造が含んでいる場合、(1)の結着粒子状と(2)水かき状の比率は、特に制限されない。(1)と(2)の構造が混在する場合、(2)の水かき状が多いほど、ゲル脱落率、ポリマー脱落率が良好となり、(1)の結着粒子状が多いほど、吸液速度が良好となる傾向である。両者の好ましい割合は、通常、(2)の水かき状の吸液性ポリマー100重量部に対して、(1)の結着粒子状の吸液性ポリマーが1〜10000重量部であり、より好ましくは5〜2000重量部、特に好ましくは10〜1000重量部である。
【0071】
水かき状の吸液性ポリマーと結着粒子状の吸液性ポリマーが混在する場合、両者の位置関係は、特に制限されない。通液性、液拡散性に優れていることから、基材上に、(2)水かき状の吸液性ポリマーの層が形成された上に、(1)結着粒子状の吸液性ポリマーの層が形成されている態様が、特に好ましい。また、同じ理由で、基材上に、(2)水かき状の吸液性ポリマーの連続層が形成され、その開孔部に、(1)結着粒子状の吸液性ポリマーが形成されている態様も好ましい。
【0072】
吸液性ポリマー中の(1)及び(2)の構造の比率は、以下の方法より求められる。吸液性複合体を5cm×5cm角に切り出す。ステンレス製小膝状剪刀両鋭はさみ(FST
14063−09)を用いて、基材等を除去して、吸液性ポリマーを切り出す。デジタル光学顕微鏡(キーエンス社製VH−8000、倍率25〜150倍)を用いて、注意深く観察しながら、吸液性ポリマーをステンレス製骨剪刀反型はさみ(FST 14077−10)を用いて、(1)結着粒子状ポリマー、(2)水かき状ポリマー、その他の形状に切り分ける。各重量を測定し、(2)水かき状ポリマーに対する、(1)結着粒子状ポリマーの重量比を算出する。
【0073】
III.吸液性複合体の製造方法
(吸液性ポリマーと基材の結着)
本発明の吸液性複合体の製造方法は、特許請求の範囲に記載される条件を満たす吸液性複合体を製造し得る方法であれば、特に制限されない。本発明の吸液性複合体は、上述の好ましい方法で重合した吸液性ポリマーを用いると、効率良く作製できる。特に、重合性
モノマーとレドックス系重合開始剤とを含む液滴を基材に接触させて製造するのが好ましい。液滴が基材に接触する時の重合性モノマーの重合率は、基材が吸液性ポリマーに包埋又は接着される程度に低いと共に、液滴が粘着性を有する程度に高い必要がある。このため、下限は、好ましくは20%、更に好ましくは30%、特に好ましくは40%、最も好ましくは50%がよく、上限は、好ましくは95%、更に好ましくは80%、特に好ましくは60%、最も好ましくは55%が良い。基材接触時の重合性モノマーの重合率は、液滴の落下距離等により制御できる。
【0074】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、本発明の吸液性複合体の製造方法によって結着粒子状の吸液性ポリマーが製造される理由については、以下のように推測される。本発明の吸液性複合体の製造方法では、重合途上の液滴が基材に接触する。ここで、基材に微小な凸凹があるため、粘着性を有している液滴が、凝集して結着粒子状になる。また、液滴が凝集する際に、基材を巻き込むことにより、基材が粒子内に包埋又は粒子表面に接着され、基材が吸液性ポリマーと結着し、本発明の吸液性複合体が形成される。なお、結着粒子状の吸液性ポリマーは、重合途上の液滴が基材に接触する時に、重合率の低い状態(柔らかい状態)であると、基材が吸液性ポリマーに包埋されたものになりやすく、重合率の高い状態(硬い状態)であると、基材が吸液性ポリマーと接着したものになりやすいと推測される。
【0075】
また、上述の液滴重合では、更に、液滴が、重合性モノマーの重合率が低い状態で基材に接触する工程と重合率が高い状態で基材に接触する工程の両方を含んでいるのが、特に好ましい。前者の工程の重合率は、40%以下が好ましく、30%以下が更に好ましく、25%以下が特に好ましく、20%が最も好ましい。また、後者の工程の重合率は、40%以上であるのが好ましく、45%以上であるのが更に好ましく、50%以上であるのが特に好ましい。これは、重合性モノマーの重合率が低い状態で基材に接触する工程により、水かき状の吸液性ポリマーが形成され、重合性モノマーが重合率高い状態で基材に接触する工程により、略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーを形成されることによるものと推定される。これは、例えば、重合性モノマーの重合率の異なる重合塔に、基材を供給することによって得られる。具体的には、液滴供給用ノズルの高さ(液滴の落下距離)の異なる複数の重合塔に、複数の基材を供給する塔を設ける構造にしても良い。この2つの工程を含んだ吸液性複合体の製造方法としては、具体的には、以下の2つが好ましい。
【0076】
1つ目の製造方法は、重合性モノマーの重合率が低い状態で基材に接触させる工程と重合性モノマーの重合率が高い状態で基材に接触させる工程を、逐次行う方法である。この2つの工程が含まれていれば、どちらの工程を先に行っても良い。また、各工程を複数回行ってもよい。1つ目の工程と2つ目の工程の間の間隔は、環境温度等に依存して異なるが、一般的に、0.1秒〜1200秒が好ましく、0.5秒〜600秒が更に好ましく、1秒〜300秒が特に好ましい。主に、各工程の時間の長さによって、水かき状の吸液性ポリマーと結着粒子状の吸液性ポリマーの重量比を調整できる。
【0077】
2つ目の製造方法は、重合性モノマーの重合率が低い状態で基材に接触させる工程と重合性モノマーの重合率が高い状態で基材に接触させる工程を、同時に行うものである。2つの工程を同時に実施することにより、製造効率が良くなる。液滴の形成には、通常、ノズルを用いるが、各工程用のノズルは、液滴が落下する空間が互いに重なるように設置してもよいし、重ならないように設置してもよい。好ましいのは、空間が重なるように設置する方法である。各工程用のノズル間の距離は、中心線同士で、通常0.5cm〜100cm、好ましくは1cm〜50cm、より好ましくは2cm〜30cmとする。
また、部分包埋基材と表面接着基材の両方を生成するには、基材接触時の重合性モノマーの重合率の差が、10〜80%であるのが好ましく、10〜70%であるのがより好ま
しく、10〜60%であるのが最も好ましい。
【0078】
(乾燥処理)
上述の方法で得られる吸液性複合体には、通常、乾燥処理を施す。後述の残存モノマー処理を行う場合、乾燥処理は、残存モノマー処理後に行うのが好ましい。また、その他の付加的工程で、水や溶剤のような媒体及びスチーム等の蒸気を用いて、吸液性複合体を湿潤させる場合は、乾燥処理は、その後が好ましい。乾燥処理は、通常、含水率が10重量%以下になるまで乾燥させる。品質(吸液性ポリマーのポリマー鎖切断による不純物増加、及び水可溶分の増加等の劣化の起こりにくさ)及び乾燥効率(要する時間)の観点から、乾燥温度は100〜150℃の範囲内に設定することが好ましい。
【0079】
(その他の付加的工程)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、更に、残存モノマー処理;表面架橋処理;更なる機能を付与する処理;成型;熱融着処理;圧密処理;薄膜化処理;リサイクル処理等を施してもよい。
【0080】
(残存モノマー処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、残存モノマーを減少させる処理を施すのが好ましい。残存モノマーを減少させる処理は、通常、後述の成型や添加剤処理を施す場合は、その前に行う。残存モノマーを減少させる方法としては、1)残存モノマーの重合を進行させる、2)残存モノマーを他の誘導体に導く、3)残存モノマーを除去する等の方法が挙げられる。
【0081】
吸液性ポリマー中の残存モノマーの定量は、一般的に、吸液性ポリマー中の残存モノマーを水により抽出し、その濃度を測定する。濃度測定は、高速液体クロマトグラフィー(LC)又はガスクロマトグラフィー(GC)により行う。臭気、腐食が無く、有害性を示さないようにするのに適当な残存モノマー量は、用途によって異なるが、一般的に、非衛材の場合は、10000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましく、2000ppm以下が特に好ましい。おむつ等の衛材に関しては、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下が特に好ましく、300ppm以下が最も好ましい。
【0082】
1)の残存モノマーの重合を進行させる方法としては、例えば、加熱;重合促進剤との接触;紫外線、電子線、放射線等のエネルギー線の照射等の方法が挙げられる。
加熱による、残存モノマーを減少させる処理は、通常、吸液性複合体を100〜250℃に加熱することにより、残存モノマーを重合させるものである。
重合促進剤を使用する方法は、通常、吸液性複合体に、残存モノマーの重合を促進する物質を接触させてから加熱する。例えば、レドックス系重合開始剤を用いて重合したときに、酸化剤が残存している場合は還元剤を、逆に、還元剤が残存している場合は、酸化剤を接触させる。重合促進剤として用いる還元剤としては、先のレドックス系重合開始剤として用いる還元剤として挙げたものと同様なもの等を用いることができる。具体的には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸等が挙げられる。重合促進剤として用いる酸化剤としては、先のレドックス系重合開始剤として用いる酸化剤として挙げたものと同様なもの等を用いることができる。具体的には、過酸化水素、t−ブチルハイドロパ−オキシド、クメンハイドロパーオキシド等の過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;第二セリウム塩;過マンガン酸塩;亜塩素酸塩;次亜塩素酸塩等の無機塩等が挙げられる。これらの重合促進剤は、通常、0.5〜5重量%水溶液として、吸液性複合体に接触させる。重合促進剤の量は、乾燥させた吸液性ポリマーに対して、0.1〜2重量%が好ましい。重合促進剤は、吸液性ポリマーに重合促進剤を噴霧器でスプレーする、又は、吸液性ポリマーを重合促進剤溶液中に浸漬させるなどの方
法で、吸液性ポリマーに接触させる。重合促進剤処理の加熱条件は、例えば、L−アスコルビン酸(還元剤)の場合は、通常、100〜150℃で10〜30分間行う。加熱により、吸液性複合体中の含水率は低下するが、もし、更に含水率を下げたい場合は、更に、乾燥処理を施してもよい。
【0083】
紫外線、電子線、放射線等のエネルギー線を照射する方法は、照射装置に、特に制限はなく、任意の装置を用いることができる。例えば、吸液性複合体を静置させ、これに一定時間、エネルギー線を照射する装置でもよい。また、吸液性複合体をベルトコンベヤー等で連続的に移動させ、これにエネルギー線を照射する装置でもよい。照射強度、照射時間等の照射条件は、基材の種類、残存モノマー量等に応じて、適宜選択する。本発明の吸液性複合体の優れた効果を大幅に損なわなければ、照射条件は、特に制限されない。
【0084】
紫外線の照射装置としては、通常の紫外線ランプ等を用いてもよい。紫外線ランプの強度は、10〜200W/cmが好ましく、30〜120W/cmが更に好ましい。また、ランプ−複合体間隔が2〜30cmで、照射時間が0.1秒〜30分であるのが好ましい。照射時の温度は、室温でもよい。照射時の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下でも、空気中でもよい。照射時の圧力は、加圧下でも、常圧下でも、減圧(含む、真空)下でもよい。照射時の吸液性複合体中の含水率は、通常、残存モノマーの易動性、吸液性ポリマーの紫外線透過性が優れていることから、吸液性ポリマー1重量部に対して0.01〜40重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部とするのがよい。なお、吸液性ポリマーの含水率を、紫外線を照射するのに好ましい範囲にするには、事前に、上述の乾燥処理を施せばよい。
【0085】
放射線としては、加速電子やガンマー線等の高エネルギー放射線を用いる。一般的に、適度な吸液量と吸液速度を兼ね備えたものをなりやすいことから、照射線量は、0.01〜100Mrad、好ましくは0.1〜50Mradである。照射時の温度は、室温でもよい。照射時の雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下でもよいが、吸液量及び吸液速度に優れ、残存モノマー量を500ppm以下に低減しやすいことから、空気下が好ましい。照射時の圧力は、加圧下でも、常圧下でも、減圧(含む、真空)下でもよい。照射時の吸液性複合体中の含水率は、通常、残存モノマーの易動性、吸液性ポリマーの紫外線透過性が優れていることから、吸液性ポリマー1重量部に対して0.01〜40重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部とするのがよい。なお、吸液性ポリマーの含水率を、紫外線を照射するのに好ましい範囲にするには、事前に、上述の乾燥処理を施せばよい。
【0086】
2)の残存モノマーを他の誘導体へ導く方法としては、例えば、アミン、アンモニア等のアンモニア置換体類;亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩等の還元剤を、重合終了後の吸液性ポリマーに対して0.001〜5.0重量部加える方法等が挙げられる。
3)の残存モノマーを除去する方法としては、例えば、有機溶媒により、残存モノマーを抽出・留去する方法等が挙げられる。有機溶媒により抽出する方法は、通常、吸液性複合体を含水有機溶媒中に浸漬させて行う。含水有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン等の水溶性の有機溶媒と水を用いることができる。一般的に、含水有機溶媒中の含水率が高いほど、残存モノマーの除去能は高いが、高過ぎると、後続する乾燥工程でのエネルギー消費量も多くなるため、含水有機溶媒中の含水率は、10〜99重量%、特に30〜60重量%であるのが好ましい。吸液性複合体を含水有機溶媒に浸漬する時間は、通常5〜30分間である。吸液性複合体を含水有機溶媒に浸漬させる時は、吸液性複合体を揺動させるなど、残存モノマーの抽出を促進する手段を併用するのが好ましい。浸漬処理後は、通常、乾燥機にて乾燥する。
【0087】
また、残存モノマーを留去する方法としては、吸液性複合体を過熱水蒸気含有ガスで処
理する方法等がある。例えば、110℃の飽和水蒸気を、更に、120〜150℃に加熱して、吸液性複合体に接触させることにより、吸液性ポリマー中の残存モノマーを低減させることができる。この方法では、吸液性ポリマー中の水が水蒸気となって蒸発する際に、残存モノマーも気化して吸液性ポリマーから除去されていると考えられる。この方法によれば、残存モノマーの除去と製品の乾燥とを同時に行うことができる。
【0088】
(表面架橋処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、架橋剤を用いて、表面架橋処理を施すのが好ましい。一般的に、吸液性ポリマーの表面を架橋させると、吸液性ポリマーが吸液して膨潤するに際に、表面はその形状を維持でき、吸液性ポリマー同士が密着変形し、吸液流路を塞ぐ現象(ゲルブロッキング現象と呼ばれる)が起こりにくくなるため、吸液速度が向上するものと考えられる。吸液性ポリマーの架橋処理は、通常、粉末状の吸液性ポリマー粒子の表面に、架橋剤と水分とを接触させた後、これを加熱して行う。この処理により、表面で選択的に架橋構造が形成され、吸液時の膨潤阻害が低減されるために、吸液性ポリマーの形状が維持されやすくなると考えられる。
【0089】
表面架橋処理を施す場合は、吸液性複合体に架橋剤溶液を接触させた後、これを加熱等により架橋させる方法が簡便でよい。架橋剤としては、上述の重合時に併用しても良い架橋剤と同様のものが用いられる。架橋剤は、通常、吸液性複合体に対して、0.1〜1重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%用いる。吸液性複合体の表面が均一に処理されるよう、架橋剤は、0.1〜1重量%、特に0.2〜0.5重量%の水、エタノール、メタノールなどの溶液として用いるのが好ましい。具体的には、架橋剤溶液を噴霧器等でスプレーする、ロールブラシ等で塗布する等の方法で行うことができる。また、過剰量の架橋剤溶液を接触させた後、圧搾ロールで吸液性複合体が破損しないよう軽く圧搾する、風を吹き付けるなどして、余剰溶液を除去してもよい。架橋剤溶液は、通常、室温で吸液性複合体に接触させる。架橋反応の条件は、用いる架橋剤により適宜選択すればよいが、通常は、100℃以上の温度で10分間以上反応させる。
【0090】
(添加剤処理)
本発明の吸液性複合体は、添加剤処理により、各種機能を付与されたものであってもよい。付与される機能としては、吸液性ポリマー自体の性能又は品質の改良、及び、吸液性複合体を吸液性物品としたときに該物品の品質を高めること等が挙げられる。吸液性ポリマー自体の性能又は品質を改良する薬剤としては、酸化剤、還元剤、発泡剤、発砲助剤等が挙げられる。吸液性物品の品質を高める薬剤としては、吸液性ポリマーが体液と接触する際に安定であるようにする安定剤;体液による臭気及び腐敗臭等を緩和する抗菌剤、消臭剤、脱臭剤、芳香剤;吸液性複合体が皮膚に接触した際の安全性を高めるpH調整剤、皮膚を弱酸性に保つ薬剤、中和剤等を挙げることができる。
【0091】
これらの添加剤による処理は、吸液性複合体を製造する各工程で目的、作用機構に応じ、適宜施せばよい。発泡剤は、吸液性ポリマーの製造工程で用いるのが好ましく、具体的には、重合前〜重合途中で添加するのが好ましい。吸液性物品の品質を高める薬剤は、「吸液性複合体の製造工程」〜「吸液性物品の製造工程」で添加するのが好ましい。これらの添加剤は、吸液性複合体以外の吸液性物品を構成するものに用いてもよい。
【0092】
酸化剤及び還元剤は、吸液性複合体中に製造で用いた還元剤又は酸化剤が残存した場合に、これを分解除去する効果を奏する。酸化剤及び還元剤としては、各々、前述の酸化剤等及び前述の還元剤等を用いることができる。還元剤又は酸化剤が残存していると、これが熱や光で分解し、吸液性ポリマーの主鎖を切断し、水可溶分を増加させたり、分解物を生成して、着色、臭気の原因になる場合があるからである。
【0093】
発泡剤及び発泡助剤は、吸液性ポリマーを多孔化して、表面積を大きくすることにより、吸液性能を向上させる効果を奏する。発泡剤、発泡助剤としては、重炭酸ナトリウム、ニトロソ化合物、アゾ化合物、スルフォニル・ヒドラジド等の熱分解ガス発生化合物等が挙げられる(「ゴム・プラスチック配合薬品」(ラバーダイジェスト社、1989、259〜267頁参照)。
【0094】
安定剤は、排泄物(尿、糞便等)、体液(血液、経血、分泌液等)等による吸液性ポリマーの分解及び変質を防ぐ物質である。具体的には、吸液性ポリマー中に、安定剤を含有させる方法などが挙げられる。安定剤としては、含酸素還元性無機塩及び/又は有機酸化防止剤(特開昭63−118375号公報参照)、酸化剤(特開昭63−153060号公報参照)、酸化防止剤(特開昭63−127754号公報参照)、硫黄含有還元剤(特開昭63−272349号公報参照)、金属キレート剤(特開昭63−146964号公報参照)、ラジカル連鎖禁止剤(特開昭63−15266号公報参照)、ホスフィン酸基並びにホスホン酸基含有アミン化合物又はその塩(特開平1−275661号公報参照)、多価金属酸化物(特開昭64−29257号公報参照)、水溶性連鎖移動剤(重合時に共存させる)(特開平2−255804号公報及び特開平3−179008号公報参照)等が挙げられる。また、シュウ酸チタン酸カリウム、タンニン酸、酸化チタン、ホスフィン酸アミン(またはその塩)、ホスホン酸アミン(またはその塩)、金属キレート等を使用することもできる(特開平6−306202号公報、特開平7−53884号公報、特開平7−62252号公報、特開平7−113048号公報、特開平7−145326号公報、特開平7−145263号公報、特開平7−228788号公報及び特開平7−228790号公報参照)。これらのうち、特に、人尿、人血、経血に対する安定剤を、各々、「人尿安定剤」、「人血安定剤」、「経血安定剤」と呼ぶことがある。
【0095】
抗菌剤は、吸収した液による腐敗防止等の目的で用いる物質である。抗菌剤は、窒素化合物系、置換フェノール系、金属化合物系、界面活性剤の希土類塩系、銀系無機粉体等に大別される。窒素化合物系は、環式窒素化合物と非環式窒素化合物に大別される。抗菌剤については、殺菌・抗菌技術の新展開」17〜80頁(東レリサーチセンター(1994))、「抗菌・抗カビ剤の検査・評価法と製品設計」128〜344頁(エヌ・ティー・エス(1997))、特許第2760814号公報、特開昭39−179114号公報、特開昭56−31425号公報、特開昭57−25813号公報、特開昭59−189854号公報、特開昭59−105448号公報、特開昭60−158861号公報、特開昭61−181532号公報、特開昭63−135501号公報、特開昭63−139556号公報、特開昭63−156540号公報、特開昭64−5546号公報、特開昭64−5547号公報、特開平1−153748号公報、特開平1−221242号公報、特開平2−253847号公報、特開平3−59075号公報、特開平3−103254号公報、特開平3−221141号公報、特開平4−11948号公報、特開平4−92664号公報、特開平4−138165号公報、特開平4−266947号公報、特開平5−9344号公報、特開平5−68694号公報、特開平5−161671号公報、特開平5−179053号公報、特開平5−269164号公報及び特開平7−165981号公報等を参照することができる。
【0096】
環式窒素化合物は、主に、四級窒素化合物として用いられる。環式四級窒素化合物としては、アルキルピリジニウム塩、ピリチオン塩等が挙げられ、アルキルピリジニウム塩としては、ドデシルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド(CPC)、テトラデシル−4−エチルピリジニウムクロライド
及びテトラデシル−4−メチルピリジニウムクロライド等が挙げられ、ピリチオン塩としては、ピリチオン亜鉛等が挙げられる。
【0097】
非環式窒素化合物は、四級窒素化合物と多窒素化合物に大別される。四級窒素化合物と
しては、メチルベンズエトニウムクロライド、ベンズアルコニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド及びヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。非環式四級窒素化合物としては、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0098】
非環式多窒素化合物としては、グアニジン誘導体、ポリグアニド類等が挙げられる。ポリグアニド類としては、ビス−ビグアニド類が挙げられる(米国特許第2,684,924号、米国特許第2,990,425号公報、米国特許第2,830,006号公報及び米国特許第2,863,019号公報参照)。ビス−ビグアニド類は、炭酸から誘導されるイミドポリカルボンイミド酸−ジアミドのことをいう。これらのうち、1,6−ビス(4−クロロフェニル)ジグアニドヘキサンが好ましい。1,6−ビス(4−クロロフェニル)ジグアニドヘキサンは、クロロヘキシジン及びその水溶性塩である。1,6−ビス(4−クロロフェニル)ジグアニドヘキサンとしては、クロロヘキシジンの塩酸塩、酢酸塩及びグルコン酸塩が特に好ましい。
【0099】
非環式単窒素化合物としては、カルバニリド類等が挙げられる。カルバニリド類は、アニリン誘導体のフェニルカルバミン酸のことをいい、3,4,4’−トリクロロカルバニリド(TCC、トリクロカルバン)及び3−(トリフルオロメチル−4,4’−ジクロロカ
ルバニリド(IRGASAN)も含まれる。
抗菌剤として使われている置換フェノールとしては、5−クロロ−2−(2,4−ジクロロフェノキシ)フェノール(IRGASAN DP−300)等を挙げることができる。抗菌剤とし
て使われている金属化合物としては、黒鉛及びすずの塩等が挙げられ、塩化亜鉛、硫化亜鉛及び塩化すず等も含まれる。抗菌剤として使われている界面活性剤の希土類塩は、C10〜C18の直鎖のアルキルベンゼンスルホン酸塩のランタン塩などが使用可能である(欧州特許第10819号公開公報参照)。
【0100】
消臭剤、脱臭剤、芳香剤は、吸液による臭気の発生を防止又は緩和する効果を奏する。具体的には、消臭剤又は脱臭剤としては、鉄錯体、茶抽出成分、活性炭等が挙げられる。芳香剤としては、香料系(シトラール、シンナミックアルデヒド、ヘリオトピン、カンファ、ボルニルアセテート)木酢液、パラジクロルベンゼン、界面活性剤、高級アルコール、テルペン系化合物(リモネン、ピネン、カンファ、ボルネオール、ユカリプトール、オイゲノール)などが挙げられる(「新しい消臭・脱臭剤と技術と展望」(東レリサーチセンター(1994))、特開昭59−105448号公報、特開昭60−158861号公報、特開昭61−181532号公報、特開平1−153748号公報、特開平1−221242号公報、特開平1−265956号公報、特開平2−41155号公報、特開平2−253847号公報、特開平3−103254号公報、特開平5−269164号公報及び特開平5−277143号公報参照)。
pH調整剤、皮膚を弱酸性に保つ薬剤及び中和剤としては、天然果実酸(リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸等)、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(リン酸、炭酸等)等が挙げられる。
【0101】
(成型処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、更に成型処理を施すのが好ましい。これは、吸液性ポリマーの表面側と背面側の基材が、吸液性ポリマーの空隙や空孔を通じて接触、又は吸液する液の毛細管現象を誘起するのに十分な程度接近することによるものと考えられる。成型とは、用途に合わせて賦形するこという。成型には、例えば、ボウル、バット又は鞍のような形状に立体賦形すること、凹凸やギャザーをつけること、一定の模様やパターンに押圧し賦形することなどが含まれる。成形は、吸液性複合体を目的の形に賦形でれば、どのような方法で行っても構わないが、簡便であることから、圧縮成型が好ましい。圧縮成型する場合の圧力は、基材の降伏点を越えて、吸液性複合体が回復しない圧力で成
型するのがよい。具体的には、好ましくは5〜20MPa、特に7〜15MPaがよい。
【0102】
(熱融着処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、基材が熱可塑性である場合、これを融点又は軟化点以上、劣化温度未満(通常、この温度範囲を成型温度と称する)に加熱することにより、熱融着させてもよい。具体的には、例えば、吸液性ポリマーの両側に熱可塑性の基材を備えている場合などに、基材に対して、基材の成型温度で、加熱点状、線状、格子状等の任意の形状の型を加熱して押圧することにより、基材同士が部分的に固着した、擦り応力に強い複合体にすること等ができる。また、熱可塑性の基材について、吸液性ポリマーが結着している面と逆側の面に、更に別の熱可塑性の素材を熱融着させることにより、つけてもよい。
【0103】
(圧密処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法では、更に、圧密処理を施してもよい。圧密処理は、加圧により、吸液性複合体の密度を向上させるとともに、吸液速度を向上させる、吸液性ポリマーと基材との結着性を向上させる等の効果を奏する。吸液速度が向上する理由としては、吸液性ポリマーと基材又は基材同士の接触又は接近により、毛細管現象が誘起されるため等と考えられる。圧縮成型の加圧は、主に、賦形のために行う。一方、圧密処理の加圧は、主に、密度と性能向上のために行う。ここで、一回の加圧で、この両方(成型と圧密)を同時に実施してもよい。
【0104】
圧密処理で用いる装置としては、例えば、平板プレス機、ロールプレス機等のプレス機等を用いることができる。圧密処理時の圧力は、好ましくは、5〜20MPaが、特に好ましくは、7〜15MPaがよい。上記上限以下は、吸液性ポリマーが破損して、その破片が漏れたり、吸液時に、吸液性ポリマーが基材から外れたりしにくい点で好ましい。また、圧密処理時に、加熱してもよい。但し、基材同士が結着してネットワークを形成し、吸液性複合体の通液性、柔軟性が損なわれることのないよう、高すぎない方が好ましく、特に、基材の溶融点以下が好ましい。圧密処理時は、加湿により、表面親水性を高めてもよい。加湿は、通常、蒸気を用いて行う。
【0105】
(薄型化処理)
吸液性複合体を用いた吸液性物品を薄型にする場合、本発明の吸液性複合体を薄型化しておくことが好ましい。吸液性複合体の厚みは、0.2〜10mmであるのが好ましく、0.4〜2.5mmであるのがより好ましく、0.6〜1.5mmであるのが特に好ましい。この範囲に適している吸液性複合体の嵩密度としては、0.20〜1.10g/cmが好ましく、0.20〜0.85g/cmがより好ましい。また、吸液性ポリマーシートとしての嵩密度が0.20〜1.10g/cmであることが好ましく、0.30〜0.85g/cmであることがより好ましく、0.40〜0.85g/cmであることが特に好ましい。
【0106】
薄型化は、本発明の吸液性複合体の優れた性能を大幅に損なうことなく、薄型化できればどのような手法で行ってもよい。例えば、加圧処理等が挙げられる。
加圧処理は、平板プレス機、ロールプレス機等のプレス機等を用いて行うことができる。プレス時の圧力は、吸液性ポリマーが破損しない範囲内で選択する。吸液性ポリマーが破損すると、基材から離脱して吸収性複合体から漏れたり、膨潤時に吸液ゲルが基材から外れて、吸収性複合体の性能低下を招く可能性がある。
【0107】
一般的に、繊維質基材は、加圧により圧縮しても、加圧を止めると、圧縮前の厚さに戻りやすい。この性質は、圧縮回復性と呼ばれる。圧縮回復性の軽減には、加熱処理が有効である。また、親水性の繊維質基材の場合は、加湿処理も圧縮回復性の低減に有効である

加熱処理は、基材同士の結着によるネットワーク形成が起こりにくく、柔軟性及び風合いが良好なことから、基材の溶融点以下で行うのが好ましい。
【0108】
加湿処理は、例えば、吸液性複合体に霧吹きなどで水を噴霧する、蒸気として供給する等の方法で行う。加湿量は、吸収性複合体中の吸液性ポリマーの含有量等に応じて、適宜選択する。加湿量は、通常、1m当たり500g以下、好ましくは、1m当たり300g以下、より好ましくは1m当たり100g以下である。上記範囲内であると、吸液性ポリマーの軟化(潰れる)が起こりにくい、結着粒子の結着強度が強い、基材同士の結着によるネットワーク形成が起こりにくく、柔軟性及び風合いが良好である、加湿処理で増えた水分除去が容易である、等の理由で好ましい。水分を蒸気として供給する場合、蒸気圧力は、吸液性ポリマーへの浸透性及び吸液性ポリマーの膨潤が起こりにくいことから、10MPaより低い方が好ましく、1MPaより低い方が更に好ましい。蒸気供給速度は、吸液性複合体中の吸液性ポリマーの含有量、加湿処理時間等により、適宜選択する。蒸気供給速度は、吸液性複合体1m当たり、通常、300kg/hr以下、好ましくは100kg/hr以下、さらに好ましくは50kg/hr以下である。処理時間は、通常、1時間以下、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下である。
【0109】
本発明の吸液性複合体として、典型的な態様は、吸液性ポリマーが基材上に結着した二層構造である。本発明の吸液性複合体を吸液性物品に用いる場合は、通常、その吸液性ポリマー側に、更に他の素材を張り合わせる。圧縮成型、圧密処理又は薄型化処理を施す場合は、この張り合わせる素材とともに加圧すると、素材の定着性及び吸液性ポリマーの保護の面から好適である。吸液性複合体に基材を張り合わせない場合は、吸液性ポリマー保護のために、圧縮成型、圧密処理又は薄型化処理時に、吸液性ポリマーの表面に、マスキングシートを敷設し、後で取り除いてもよい。
【0110】
(リサイクル処理)
本発明の吸液性複合体の製造方法における各工程での端材、余剰材、用役等は、資源の有効利用および廃棄物の減量の観点から、リサイクル工程を設けて、これを再利用するのが好ましい。具体的には、製造過程での破材の他、汚れや規格外等による返品、及び使用済み品から吸液性ポリマーを回収するのが望ましい。吸液性ポリマーの回収については、例えば、衛生用品を振動処理することにより、吸液性ポリマー粉末を篩い分け、分級する方法等が知られている(特開2003−39023号公報参照)。
【0111】
本発明の吸液性複合体は、シート状に成型した吸液性複合体を前述の方法で開繊、篩い分けすることにより、吸液性ポリマーと基材を回収し、これを積層して、熱プレスでシート化することによって製造することもできる。この場合、吸液性複合体に、更に前述の自由繊維および/または粉体の吸液性ポリマー等を混合してからシート化しても良い。また、開繊された繊維を非成形繊維堆積塔から供給して、これに液滴重合法で吸液性ポリマーを結着させてもよい。更にこの方法は、製造過程での破材の他、汚れや規格外等による返品、及び使用済み品から回収した吸液性ポリマー等のリサイクルにも適用できる。
【0112】
IV.吸液性複合体
本発明の吸液性複合体は、吸液性ポリマーが、起毛処理を施した繊維質基材上に結着していることを特徴とする。
本発明者らは、起毛処理を施した基材を用いることにより、吸液性複合体の吸水後のゲル脱落率及び吸液速度が向上することを見出した。更に驚くべきことに、これらの起毛の効果は、起毛した基材に対して液滴重合を施し複合体とした後、加圧成型や圧密処理を施しても、その効果が損なわれない。
この効果の発現機構は、明らかではないが、基材表面の繊維の立体配座の特異性と重合
におけるモルフォロジー形成での異方性の相乗効果によるものと考えられる。基材表面の繊維の立体配座の特異性は、繊維質基材を起毛すると、繊維が基材平面に対して、垂直方向に伸張し、繊維の垂直に配向した成分が増加すると共に、繊維の比容積が増大し、基材表面が疎になることをいう。一方、重合法におけるモルフォロジー形成での異方性については、吸液性ポリマーが結着粒子状及び水かき状である場合について、結着粒子状の吸液性ポリマーと水かき状の吸液性ポリマーとに区別して、以下に説明する。
【0113】
本発明の結着粒子状の吸液性ポリマーは、通常、基材に対して垂直方向へ堆積したものが凝集している(図29(a))。これは、基材上についている重合途中の液滴が既にある場合、次に落下してきた重合途中の液滴は、基材より、先に基材上にある重合途中の液滴につきやすい。一般的に、基材の弾性及び形状が、跳ね返しや転がりを助長しやすいと、落下してきた液滴がバウンドする確率が高くなり、逆に、基材が粘着性を有していると、定着する確率が高くなると考えられる。結着粒子状の吸液性ポリマーとなる液滴は、粘着性と弾性とを有しているため、液滴同士が堆積方向、即ち、垂直方向に凝集していくと考えられる。起毛処理を行った基材を用いると、結着粒子状の吸液性ポリマー及び水かき状の吸液性ポリマーが、基材中に均一に分散し、基材の奥深くでも吸液性ポリマーが結着し、吸液性ポリマーの結着点が増加すると考えられる(図29(b))。一方、本発明の水かき状の吸液性ポリマーは、基材平面に対して、水平に広がっており、目付量が大きいほど、基材面を広く覆う(図20(a))。起毛処理を施した基材を用いると、起毛処理を施した繊維に沿って、水かき構造が形成される(図20(b))。
【0114】
どちらの構造の吸液性ポリマーの場合も、基材中に、吸液性ポリマーが均一に分散ししたことにより、基材―基材間、基材―吸液性ポリマー間、吸液性ポリマー吸液性ポリマー間の間隔が、毛細管現象が起こりすい状態になると考えられる。また、そもそも、毛細管現象に適した間隔は非常に小さいため、加圧処理、圧密処理を施しても、吸液速度を損なわなかったと考えられる。そして、基材の奥深くでも吸液性ポリマーが結着し、吸液性ポリマーの結着点が増加すること、及び、基材と吸液性ポリマーとの結着箇所が、起毛により比較的自由に移動できるため、衝撃応力や吸液後の応力を緩和しやすくなり、ポリマーの脱落率や吸液後のゲル脱落率が向上するものと考えられる。
【0115】
これらの効果は、本発明の重合法におけるモルフォロジー形成での異方性に由来するものであり、起毛により、このような優れた効果を奏することは、従来予想し得なかった。特に、これらの起毛の効果が、起毛した基材に対して液滴重合を施し複合体とした後、加圧成型や圧密処理を施し、比容積を減少させても、損なわれないことは、従来予想しえなかった。事実、粉末上の吸液性ポリマーを基材に散布、混和し、さらに加圧、圧密する手法に起毛処理を適用しても、吸液速度、吸液後ゲル脱落率、ゲル脱落率に顕著な効果は認められなかった。
【0116】
起毛を用いた吸液性複合体について記載した文献もある(特開2004−91996号公報および特開2004−149970号公報)。具体的には、「加熱により起毛させた繊維質基材上に、アクリル酸および/またはその塩を主成分とする単量体水溶液を霧状にして塗布し、前記単量体水溶液を微細粒子状で担持させた繊維質基材を得た後、該繊維質基材上の単量体を重合させる」とある。しかしながら、該文献では「独立分離した略球状の微細粒子として数珠状に担持」と明記している。これは、本発明の「基材上に、略球状の吸液性ポリマー粒子が2個以上凝集した凝集体状の吸液性ポリマー及び水かき状の吸液性ポリマーが、結着しているもの」とは複合体の構造そのものが異なる。なお、該文献2で行なっている重合法は事実上未反応の単量体水溶液を繊維質基材に塗布し、その後重合を行う。一方、本願は重合進行中のモノマー水溶液を繊維質基材に塗布する。両者のモノマー水溶液の粘度等、流動性等の粘弾性が異なるため、反応後のモルフォロジーも異なり、その結果モルフォロジーに由来する性能上の差異が生じたと考えられる。
【0117】
本発明の吸液性複合体における吸液性ポリマーの目付量は、後述の保水能測定時の乾燥重量として10〜1000g/mであることが好ましい。また、本発明の吸液性複合体における基材と吸液性ポリマーとの重量比(後述の保水能測定時の乾燥を行った後の重量比)は、保形安定性等の主に基材による効果と、吸液性等の主に吸液性ポリマーによる効果の両方が十分に得られる範囲が好ましい。具体的には、基材と吸液性ポリマーとの重量比は、1:1〜1:1,000,000であることが好ましく、1:2〜1:100,000であることがより好ましく、1:3〜1:10,000であることが更により好ましい。
【0118】
(吸液)
本発明の吸液性複合体による吸液は、基材側から行っても、吸液性ポリマー側から行ってもよい。本発明の吸液性複合体は、吸液する側が疎水性で、その反対側が親水性であることが好ましい。吸液側で液を拡散させ、これを素早く吸液性ポリマーに浸透させるには、基材の吸液性ポリマー側を親水性に、その反対側を疎水性にして、疎水側から吸液させるのが好ましい。基材には、毛細管現象により、その隙間に吸液性ポリマーよりも速く吸液、貯蔵しその後吸液性ポリマーに分配する作用があるものと考えられる。
【0119】
(吸液性複合体の構造)
本発明の吸液性複合体は、基材が吸液性ポリマーの片面にあっても、両面にあってもよい。吸液性ポリマーが接着性、付着性、吸湿性を有する場合、吸液性ポリマーの両面が基材により被覆されていると、巻き取りローラ等の接触部や摺動部等への付着が生じにくく、ライン操作性に優れる。また、基材が吸液性ポリマーの両面にある場合、
本発明の吸液性複合体は、吸液性ポリマー層および/又は基材が、各々複数層ある多層構造であってもよい。本発明の吸液性複合体が複数の基材を有する場合、各基材の材質、厚み等は、同一であっても異なっていてもよい。基材は、フラッフパルプおよび/又は不織布が好ましい。吸液性ポリマー層が複数層ある場合、各吸液性ポリマー層が基材と結着しているのが好ましい。また、吸液性ポリマー層の両面に基材がある場合、吸液性ポリマーはこの両側の基材と結着しているのが好ましい。
【0120】
両面に基材がある構造は、例えば、(1)既に片面が第1の基材に結着しているが、重合反応が終了していない状態の吸液性ポリマーの他方の面に、第2の基材を接触させて結着させる、(2)2つの液滴重合を並行して行い、基材と接触直後(基材に結着しているが、重合反応が終了していない状態)の吸液性ポリマーの表面同士を接触させる、(3)吸液性ポリマーに基材が結着した複合体の吸液性ポリマー側に基材を加熱、加圧するなどして結着させる、等の方法により作製可能である。これらの中では、剥離強度の点で(2)が好ましい。また、(1)あるいは(2)の場合、互いの吸液性ポリマーが異種であっても構わない。
基材に結着しているが、重合反応が終了していない状態の吸液性ポリマーを用いる方法の場合、重合直後の吸液性ポリマーが破損しない程度に加圧してもよく、具体的には、0.0001〜1MPaに加圧するのが好ましく、0.001〜0.1MPaに加圧するのが更に好ましい。基材に結着しているが、重合反応が終了していない状態の吸液性ポリマーを用いる方法は、重合反応が終了していない状態の吸液性ポリマーの粘着力を利用して、吸液性ポリマーを基材と粘着させ、更に重合の進行により結着させる。
【0121】
本発明の吸液性複合体の製造方法では、第2の基材に接触させるときの第1の基材上の重合性モノマーの重合率が、10〜80%であることが好ましく、15〜65%であることが更に好ましく、20〜60%であることが特に好ましく、25〜55%であることが最も好ましい。また、第2の基材に接触させるときの第1の基材上の重合性モノマーの含水率は、25〜80%であることが好ましく、30〜75%であることがより好ましく、
35〜70%であることが特に好ましく、40〜65%であることが最も好ましい。重合率や含水率をこれらの範囲内にするには、例えば、雰囲気が0〜40℃の条件下では、通常、液滴を滴下してから第2の基材を接触させるまでの時間が、60分以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましく、20分以内であることが特に好ましい。
【0122】
(吸液性複合体の厚み)
本発明の吸液性複合体の吸液速度は、これを構成する各層の種類、厚み、構造等に依存する。これらの要因のうち、特に、吸液性複合体の厚みの影響が大きい。通常、吸液性複合体の厚みは、各層間の密着性及び毛細管現象の起こりやすさの点では、薄い方が好ましい。一方、吸液性ポリマーの物理的拘束が弱い点では、厚い方が好ましい。具体的には、例えば、吸液性複合体の厚みの下限は、200μmが好ましく、400μmがより好ましく、600μmが最も好ましく、同上限は10000μmが好ましく、2500μmより好ましく、1500μmが最も好ましい。本発明の吸液性複合体を、このような適度な厚みにするためには、圧縮成型を施すのが好ましい。
【0123】
基材層の厚みは、0.1〜100mmが好ましい。また、吸液性ポリマー層の厚みは、下限が50μmであることが好ましく、100μmであることがより好ましく、200μmであることが特に好ましく、上限は3000μmであることが好ましく、2000μmであることがより好ましく、1000μmであることが特に好ましい。
【0124】
(吸水速度)
本発明の吸液性複合体の吸水速度は、通常1秒以上、好ましくは10秒以上、通常100秒以下、好ましくは70秒以下、更に好ましくは50秒以下、特に好ましくは30秒以下である。吸液性複合体としての好ましい吸水速度は、吸液性複合体の用途や吸液性物品とした場合の構成等に依存する。例えば、おむつの場合、基材と吸液性ポリマー以外の素材への液の拡散性、分配性等の点から、その吸液速度には適正な範囲がある。本発明の吸液性複合体は、特に、おむつ等の用途に用いる場合に好適な吸水速度を示す。いかなる理論にも拘泥するものではないが、好適な理由としては、薄型化を行う場合に、吸液性ポリマー側の基材とその反対側の基材が、吸液性ポリマーの空隙、空孔等を通じて接触するか、又は、吸収した液の毛細管現象を誘起するのに十分な程度接近しているため等と考えられる。
【0125】
吸水速度は、以下の要領で、常温常湿における吸液性複合体の吸水性能により評価する。なお、本発明における常湿とは、湿度30〜70%を意味する。吸水速度の測定に際しては、まず吸液性複合体を40cm×20cmの長方形に切断する。吸液性ポリマーの両側に基材等がある場合は、基材等の一方を剥がす。同サイズの平滑なステンレス板(厚さ3mm)上に、同サイズのフラッフパルプ(目付け量100g/m2)を乗せる。フラッ
フパルプ上に、吸液性複合体を吸液性ポリマー側を下にして乗せる。吸液性複合体の上に、同サイズの平滑なステンレス板(厚さ3mm)を乗せる。この積層体に、ステンレス板の上下から10MPaの荷重をかける。室温で5分間放置後、圧力を開放して、吸液性複合体を取り出す。得られた吸液性複合体の中央部を5cm×5cmの正方形に切り出し、これを直径10cmのガラス製シャーレ内に入れた純水25mlに浸漬させて、シャーレの底の一部が空気に露出するまでの時間(吸水速度/秒)を測定する。測定した時間を吸水速度(単位:秒)とする。
【0126】
(吸液量)
本発明の吸液性複合体の保水能を吸液量で評価するとき、本発明の吸液性複合体は保水能が25〜50%以下あるのが特に好ましい。
(加圧下吸液能)
本発明の吸液性複合体のうち、特に好ましいものは、後述する方法で測定される加圧下吸液能が20g/cm荷重で10〜35、50g/cm荷重で8〜20である。
(吸液性ポリマーの脱落率)
本発明の吸液性複合体のうち、特に好ましいものは、吸液性ポリマーの脱落率が30重量%以下である。本発明の吸液性複合体は、起毛処理によって、繊維が吸液性ポリマーに対してより深く、又はより長く包埋或いは接着しているためと考えられる。
【0127】
(吸液後のゲル脱落率)
本発明の吸液性複合体のうち、特に好ましいものは、ゲル脱落率が60重量%以下、また、最も好ましいものは20重量%以下である。従来の液滴重合法による吸液性ポリマーのゲル脱落率は、50重量%以上であった。本発明の吸液性複合体は、起毛処理によって、繊維が吸液性ポリマーに対してより深く、又はより長く包埋或いは接着しているためと考えられる。なお、起毛の効果は、吸液性ポリマーの脱落率より、吸液後のゲル脱落率で顕著に現れることが多い。膨潤した吸液性ポリマーの方が、膨潤していない吸液性ポリマーに比べ、僅かな接着状況の違いを敏感に脱落率に反映しているものと推定される。
【0128】
(吸液性複合体の剛軟性)
本発明の吸液性複合体のうち、特に好ましいものは、後述のハートループ法を用いて測定した剛軟性が4cm以下である。
(その他)
上記の吸液性複合体の厚み、吸液速度、吸液量、吸液性ポリマーの脱落率の評価は、乾燥状態で行う。乾燥は、吸液性複合体を構成している吸液性ポリマー及び基材が劣化しない条件で、実質的に恒量化するまで(吸液性複合体又は吸液性ポリマーの水分の減少量が5重量%以下なるまで)行う。乾燥条件は、吸液性ポリマー及び基材の目付け等に依存して異なる。典型的な乾燥条件としては、例えば、含水量が40重量%、目付量が300g/cm以下の吸液性ポリマーが、目付量が40g/cmのPET製不織布に結着している複合体の場合、120℃の温風乾燥機で30分間乾燥させる。
【0129】
V.吸液性物品
(吸液性物品の構造)
本発明の吸液性複合体は、様々な吸液性物品の材料として使用できる。本発明の吸液性複合体を用いた吸液性物品の構造は、必要な機能や用途に応じて適宜設定すればよい。典型的には、本発明の吸液性複合体と繊維の堆積層との積層構造などが挙げられる。また、本発明の吸液性複合体を、吸液性物品に常用されている材料(フラッフパルプ、ティッシュ、不織布、ポリオレフィンシートなど)と組合せて用いても良い。
【0130】
本発明の吸液性物品は、本発明の吸液性複合体のみで構成されているのが好ましい。しかしながら、用途に応じた必要性等に応じて、本発明の優れた効果を妨げなければ、本発明の吸液性複合体に、自由繊維および粉体の吸液性ポリマーを追加したものであっても構わない。
自由繊維は、吸液性ポリマーと結着していない繊維である。自由繊維の効果としては、例えば、柔軟性、ソフト感、導水性、通水性、水の拡散性、通気性等の向上等が見込まれる。また、繊維の種類等を適宜選択することにより、吸液性ポリマー層の開繊性を改善することもできる。自由繊維を用いる場合、具体的には、吸液性ポリマー層中に非成形繊維を自由繊維となるように混在させること等が考えられる。
【0131】
自由繊維を用いる場合、以上の諸観点から、適当な種類、長さ、直線性、径等の繊維を適宜選択する。自由繊維の材質は、部分包埋基材および表面接着基材として例示したもの等から、適宜選択すればよい。繊維長及び繊維の直線性等は、自由繊維が吸液性ポリマー層から漏れてしまわない程度の適度の易動性を有することが好ましい。また、リサイクル
処理の施しやすさの観点から、吸液性ポリマー層の開繊が容易であることが好ましい。繊維長としては、具体的には、好ましくは50〜100,000μm、より好ましくは100〜50,000μm、特に好ましくは500〜20,000μmである。繊維径は、導水性や拡散性等の自由繊維の使用効果が確保できる程度の太さが必要である。また、ブロッキングを防止できる程度であって、更に、吸液性複合体と混和させやすく、圧縮成型等による薄型化がしやすい程度の適度な剛性を有する太さが好ましい。特に、生理用品等の衛生用途に用いる場合は、ソフトな肌触りを有する太さが好ましい。繊維径としては、具体的には、0.1〜500デシテックスが好ましく、0.1〜100デシテックスがより好ましく、1〜50デシテックスが特に好ましく、1〜10デシテックスが最も好ましい。
【0132】
本発明の吸液性物品が自由繊維を含む場合、適度な嵩張さを有する程度まで自由繊維が含まれていてもよく、具体的には、自由繊維と吸液性複合体との重量比(後述の保水能測定時の乾燥を行った後の重量比)は、90:10〜0:100であることが好ましく、80:20〜0:100であることがより好ましく、50:50〜0:100であることが特に好ましい。
【0133】
特に、紙おむつや生理用ナプキンなどには、疎水性繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等)の不織布を用いて、体液などの拡散性を良くしてもよい。疎水性繊維には、フラッフパルプ、粉末の吸液性ポリマーなどを混合してもよい。
粉体の吸液性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸ソーダ架橋体、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及びそのケン化物の粉末などの各種市販品を使用できる。その吸液能力は、吸液性ポリマー1gに対する吸液量が5〜50gであるものが好ましく、10〜50gであるものが更に好ましく、20〜50gであるものが特に好ましい。粉末の吸液性ポリマーは、粉末も含めた吸液性ポリマー全体としての吸液後のゲル脱落率が5重量%以下になる範囲で混合するのが好ましい。粉末の吸液性ポリマーは、本発明の吸液性複合体及び吸液性物品を製造する各工程で混合することができる。例えば、重合前の基材に予め散布しておく、重合中に重合塔内に添加する、重合直後に添加する等が挙げられる。このうち、吸液性ポリマーとの接着性が良く、吸液性ポリマーの脱落率及び吸液後のゲル脱落率が良好になりやすいことから、粉末の吸液性ポリマーの添加は、吸液性ポリマーの乾燥前に行うのが好ましい。
【0134】
(おむつの構造)
おむつの典型的な構造について、図19を例に説明する。図19は、水不透過性シート(例えば、水不透過性ポリエチレンシート)91上に、ティッシュ92、吸液性複合体93、ティッシュ94、及び水透過性繊維質材料(例えば、水透過性ポリエステル製不織布)95を順次積層したものである。これに圧力をかけて各層を密着させた後、4辺を熱圧着させることにより、吸液性物品を製造することができる。このおむつでは、液体は、水透過性ポリエステル製不織布95側から浸入し、吸液性複合体93に吸収される。吸液性複合体93の上部に、ティッシュ94や水透過性ポリエステル製不織布95のような繊維質基材が配置されているため、液体が速やかに吸収しやすく、これに吸液後に圧力が加わっても、吸収された液体が放出されにくい。
【0135】
更に、図19で、吸液性物品にフラッフパルプのような嵩高性を有する素材を挿入することにより、肌ざわりを良くしてもよい。ここで用いる嵩高性を有する素材の目付量は80〜250g/mであることが好ましく、100〜220g/mであるのがより好ましい。嵩高性を有する素材は、吸液性複合体93と水不透過性ポリエチレンシート91などの基材間に設けるのが好ましいが、吸液性複合体93を上下から挟んでも構わない。上下から挟む場合は、下側の目付量が大きくなるようにするのが好ましい。
【0136】
VI.用途
本発明の吸液性複合体は、各種用途等に用いることができる。具体的には、例えば、子供用紙おむつ、大人用紙おむつ、失禁用パッド、生理用品などの衛生材料;廃水などの吸収や保持用のシート、止水材、シーリング材、建築用結露防止剤等の工業資材;土壌保水剤、育苗用保水シート、野菜等の鮮度保持剤、保水剤等の農園芸資材;加泥材、廃泥処理剤、低摩擦材料等の土木資材;滑材、空隙充填材等の建設資材;消火剤、耐火材等の保安資材;保冷剤、調湿材等の物流資材等に好適に使用できる。本発明の吸液性複合体の用途については、「高吸液性樹脂の技術と市場」(テクノマート、1981)「高吸液性ポリマー」(増田房義、共立出版、1987)、「機能性高分子ゲルの製造と応用」(入江正浩、シーエムシー、1987)、「高吸液性樹脂の開発動向とその用途展開」(大森英三、テクノフォーラム、1987)、「高吸液性ポリマーの新規用途開発」(シーエムシー、1993)工業材料(42巻4号、1994)「高分子ゲルの最新動向 」(柴山充弘
、梶原莞爾、シーエムシー、2004)、“Superabsorbent Polymers Science and Technology” (F. L. Bucholz & N. A. Peppas, American Chemical Society, 1993) 及び“Modern Superabsorbent Polymer Technology” (F. L. Bucholz & A. T. Graham, Wiley-VCH, 1998)を参照することができる。
【実施例】
【0137】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0138】
<実施例1>
(原料調製)
80重量%のアクリル酸水溶液1250gに、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液573g、水64g、架橋剤(N,N’−メチレンビスアクリルアミド)1.5g、及び30重量%の過酸化水素水溶液50gを加えて、溶液A1を調製した。溶液A1のモノマー濃度は、60重量%、中和度は50モル%であった。
【0139】
80重量%のアクリル酸水溶液1250gに、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液573g、水99g、架橋剤(N,N’−メチレンビスアクリルアミド)1.5g、及びL−アスコルビン酸15gを加え、溶液B1を調製した。溶液B1のモノマー濃度、中和度は溶液A1と同じであった。
【0140】
(基材)
繊維径6.7デシテックス(線径25μm)、平均繊維長25mm、アスペクト比1000、目付量40g/m2、比容積50ml/g、嵩密度0.02g/mlの直線状の繊
維からなるエアスルーポリエステル製不織布を25cm×50cmの長方形に切断した。これを、庫内温度100℃の通風乾燥機で2分間保持することにより起毛させ、ベルトコンベアによって0.05m/分の速度で水平移動するベルト上に乗せた。起毛後は、目付量40g/m2、比容積100ml/g、嵩密度0.01g/mlであった。ここで、目
付量は、基材を1辺10cmの正方形に切り取り、その重量(g)を面積で除して求めた。比容積は基材の容積を重量で除して求めた。基材の容積は、1辺10cmの正方形に切り取った基材の厚さ(cm)を、側面よりデジタル光学顕微鏡で測定し、1辺(10cm)の2乗に厚さを乗じて算出した。
【0141】
(重合反応)
溶液A1と溶液B1を、図14に示す構造のノズルユニットを用いて混合した。このノ
ズルユニットは、吸液性ポリマーの原料溶液の供給配管が2本あり、その各々に、5本の円柱状の噴出ノズルが1cm間隔(ノズル外周部同士の間隔)で設けられている。各ノズルの内径は、0.13mmである。対向するノズル同士の交差角度は30度で、ノズル先端の距離は4mmである。両溶液は、どちらも40℃に加温した状態で、ポンプにより流速5m/秒で流出させた。
【0142】
溶液A1と溶液B1は、対向する各ノズルの延長線上の交点付近で合流し、10mm液柱を形成した後、液滴となって、気相中(空気中、常圧、開放系、温度50℃)を落下した。液滴の直径は300μmで、液滴の空間密度は3g/mであった。液滴は、両溶液の合流点より2m下方で、水平移動する基材に接触した。基材の移動方向は、前記供給配管に直交する方向とした。基材接触時の液滴の含水率は40重量%であり、重合率は表1の通りであった。吸液性ポリマーの目付量は、乾燥させた吸液性ポリマー(後述の保水能測定時の乾燥重量)に対して、300g/m2であった。
【0143】
(表面架橋処理)
吸液性ポリマーが45℃に冷めた時点で、グリセリンポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:145)の0.5重量%水溶液を室温で噴霧した。噴霧量は、乾燥させた吸液性ポリマー(後述の保水能測定時の乾燥重量)に対して、500重量ppmとなるようにした。1分間後に、通気バンド乾燥機(130℃の空気が流通)に入れ、架橋反応させた。乾燥機に入れてから2分間後の吸液性ポリマーの含水率は、15重量%であった。更に、加熱を継続し、含水率が5重量%になった時点で加熱を止め徐冷した。乾燥機での加熱時間は、合計30分であった。
【0144】
<実施例2>
起毛処理時の通風乾燥機の庫内温度を110℃とし、目付量40g/m2での比容積を
80ml/g、嵩密度0.0125g/mlとした以外は、実施例1と同様の操作を行って吸液性複合体を製造した。
<実施例3>
起毛処理時の通風乾燥機の庫内温度を90℃とし、目付量40g/m2での比容積を7
0ml/g、嵩密度0.014g/mlとした以外は、実施例1と同様の操作を行って吸液性複合体を製造した。
【0145】
<実施例4>
起毛処理時に庫内温度が130℃の通風乾燥機で1分間保持することにより、目付量40g/m2での比容積を100ml/g、嵩密度0.001g/mlとした以外は、実施
例1と同様の操作を行って基材を作製した。このようにして、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを2枚用意し、吸液性ポリマー表面同士を張り合わせた。これを、テフロン(登録商標)コーティングされたステンレス板を用いて、加圧した。1つ目の基材とモノマーが接触してから2つ目の基材に接触させるまでの時間(敷設開始時間)は10秒、敷設時の温度は50℃、加えた圧力は0.005MPa、基材敷設直前の重合性ポリマーの重合率は50%、含水率は40%であった。得られた試料を、120℃で、30分間温風乾燥した後、室温に冷却し、吸液性複合体を製造した。この吸液性複合体の断面構造は、図15の通りであった。なお、後述する性能評価のうち、吸液速度以外の性能は本実施例の圧縮成型前に測定したものであり、吸液速度は本実施例の圧縮成型前の複合体を後述する測定法にしたがって圧縮成型して測定したものである。
【0146】
<比較例1>
実施例1と同じ25cm×50cmの長方形の基材を、起毛せずに、ベルトコンベアによって0.05m/分の速度で水平移動するベルト上に乗せた他は、実施例1と同じ原料溶液及びノズルユニットを用いて、実施例1と同様に重合反応と架橋反応を施し、吸液性
複合体を製造した。
【0147】
<比較例2>
(原料調製)
比較例1において架橋剤の使用量を各々0.75gとした以外は、溶液A1、B1と同
様の製法を実施して、各々溶液A2、B2を得た。また、比較例1において架橋剤の使用量を各々3.00gとした以外は、溶液A1、B1と同様の製法を実施して、各々溶液A3、B3を得た。溶液A2、A3、B2及びB3のモノマー濃度と中和度は、いずれも溶液A1、B1と同じであった。
【0148】
(重合反応)
溶液A1と溶液B1の代わりに、各々溶液A2と溶液B2を用いて、比較例1と同様にして重合反応を行った。このとき、比較例1と同じ基材と同じノズルユニットを用いた。但し、基材は、ベルトコンベアによって0.1m/分で水平移動するベルト上にのせた。また、重合時の液滴の直径は300μmで、液滴の空間密度は3g/mであった。基材接触時(液滴は、両溶液の合流点より2m下方で基材に接触した)の液滴の含水率は40重量%で、吸液性ポリマーの目付量は乾燥させた吸液性ポリマー(後述の保水能測定時の乾燥重量)に対して150g/m2で、重合率は表1の通りであった。
【0149】
ここで得られた前駆複合体を、直ちに、前記基材の代わりに、ベルトコンベアによって水平移動するベルト上に設置した。これを用いて、上記溶液A2と溶液B2の代わりに、各々、溶液A3と溶液B3を用いて、同じノズルユニットを用いて、重合反応を行った。但し、重合時の液滴の直径は300g/mで、液滴の空間密度は3g/mであった。また、基材接触時(液滴は、両溶液の合流点より2m下方で基材に接触した)の液滴の含水率は40重量%で、吸液性ポリマーの目付量は乾燥させた吸液性ポリマー(後述の保水能測定時の乾燥重量)に対して300g/m2で、重合率は表1の通りであった。
上記の一連の操作では、溶液A2と溶液B2の混合液滴を基材に落下させてから60秒後に、溶液A3と溶液B3の混合液滴が、その基材(前駆複合体)上に落下するようにした。また、その間、基材は50℃の環境中においた。
【0150】
(表面架橋処理)
比較例1と同様にして表面架橋処理を施して、吸液性複合体を製造した。表面架橋処理工程における乾燥機での加熱時間は合計30分とした。表面架橋処理後の吸液性複合体1m2に、吸液性ポリマーは300g付いていた。
【0151】
<比較例3>
比較例2と同じ原料溶液及び基材を用いて、ノズルを以下のように用いて重合反応を行い、比較例1と同様にして表面架橋処理を施すことにより吸液性複合体を製造した。図14に示すノズルユニットを2つ用意し、ユニット同士の中心軸間の距離を10cm離して同一平面上に並列設置した。一方のノズルユニット(第1ノズルユニット)を用いて溶液A2と溶液B2を混合し、同時に他方のノズルユニット(第2ノズルユニット)を用いて溶液A3と溶液B3を混合した。液滴は、両溶液の合流点より2m下方で、水平移動する基材に接触した。基材の移動方向は、各ノズルユニットの供給配管に直交する方向とし、第1ノズルユニット下に続けて第2ノズルユニット下を水平移動するようにした。なお、重合時の液滴の直径は300μmで、液滴の空間密度は6g/mであった。また、基材接触時の液滴の含水率は40重量%で、吸液性ポリマーの目付量は乾燥させた吸液性ポリマー(後述の保水能測定時の乾燥重量)に対して300g/m2で、重合率は表1の通り
であった。表面架橋処理工程における乾燥機での加熱時間は合計30分とした。表面架橋処理後の吸液性複合体1m2に、吸液性ポリマーは300g付いていた。
【0152】
<比較例4>
比較例1において、重合反応時の気相中の温度を50℃から40℃に変更した他は、比較例1と同じ操作を行って、表面架橋処理済みの吸液性複合体を製造した。
<比較例5>
比較例2において、基材を乗せたベルトの移動速度を、第一段目の重合反応で0.05m/分、第二段目の重合反応で0.15m/分に変更した他は、比較例2と同じ操作を行って、表面架橋処理済みの吸液性複合体を製造した。
<比較例6>
比較例3において、溶液A3と溶液B3の流速を各々10m/秒に変え、基材を乗せたベルトの移動速度を0.075m/分に変更した他は、比較例3同じ操作を行って吸液性複合体を製造した。
【0153】
<比較例7>
ベルトコンベアによって0.10m/分で水平移動するベルト上の基材(目付け量100g/mのフラッフパルプ)及び比較例1と同様の重合性ポリマー原料A1、B1を用いて、比較例1と同様に液滴重合反応を行うことにより、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させた。このようにして、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを2枚用意し、吸液性ポリマー表面同士を張り合わせた。これを、テフロン(登録商標)コーティングされたステンレス板を用いて、加圧した。1つ目の基材とモノマーが接触してから2つ目の基材に接触させるまでの時間(敷設開始時間)は10秒、敷設時の温度は50℃、加えた圧力は0.005MPa、基材敷設直前の重合性ポリマーの重合率は50%、含水率は40%であった。得られた試料を、120℃で、30分間温風乾燥した後、室温に冷却し、吸液性複合体を製造した。この吸液性複合体の断面構造は、図15の通りであった。なお、後述する性能評価のうち、吸液速度以外の性能は本実施例の圧縮成型前に測定したものであり、吸液速度は本実施例の圧縮成型前の複合体を後述する測定法にしたがって圧縮成型して測定したものである。
【0154】
<比較例8>
重合時の気相中の温度を50℃から40℃に変更した他は、比較例7と同じ操作を行って吸液性複合体を製造した。
<比較例9>
比較例7と同様にして、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを作製した。また、同様の方法によって、比較例1と同じ基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを別に作製した。この2枚について、吸液性ポリマー表面同士を張り合わせ、比較例7と同様にして加圧してから乾燥させて、吸液水性複合体を製造した。
【0155】
<比較例10>
比較例7と同様にして、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを3枚作製した。このうち2枚について、ポリマー表面同士を張り合わせた。その後、残り一枚のポリマー表面側をさらに張り合わせた。比較例7と同様にして加圧してから乾燥させて、吸液性複合体を製造した。得られた吸液性複合体の断面構造は、図16の通りであった。
【0156】
<比較例11>
比較例7と同様にして、基材の片面に吸液性ポリマーを接着させたものを2枚作製した。これを、一方のポリマー側と他方の基材側を張り合わせた。比較例7と同様にして加圧してから乾燥させて、吸液性複合体を製造した。この吸液性複合体の断面構造は、図17の通りであった。
<比較例12>
加圧時の圧力を0.1MPaとした以外は、比較例7と同様にして吸液性複合体を製造した。
【0157】
<比較例13>
基材として、比較例7のフラッフパルプの代わりに、ポリエステル製不織布(繊維径6.7デシテックス(線径25μm)、平均繊維長25mm、アスペクト比1000、目付量40g/m2、比容積50ml/g、嵩密度0.02g/ml)を用いた以外は、比較
例7と同じ操作を行って吸液性複合体を製造した。
【0158】
<実施例5>
(原料調製)
80重量%のアクリル酸水溶液125重量部に、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液57.3重量部、水6.4重量部、架橋剤としてN,N−メチレンビスアクリルアミド0.15重量部と更に酸化剤として30重量%の過酸化水素水溶液5.0重量部を加えて溶液A1を調製した。溶液A1のモノマー濃度は60重量%、中和度は50モル%であった。
【0159】
これとは別に80重量%のアクリル酸水溶液125重量部に、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液57.3重量部、水9.9重量部、架橋剤としてN,N−メチレンビスアクリルアミド0.15重量部と更に還元剤としてL−アスコルビン酸1.5重量部を加えて溶液B1を調製した。溶液B1のモノマー濃度は60重量%、中和度は50モル%であった。
【0160】
(基材)
繊維径6.7デシテックス(線径25μm)、平均繊維長25mm、アスペクト比1000、目付量40g/m2、比容積50ml/g、嵩密度0.02g/mlの直線状の繊
維からなるエアスルーポリエステル製不織布を25cm×50cmの長方形に切断した。これを、庫内温度100℃の通風乾燥機で2分間保持することにより起毛させたものを用いた。起毛後は、目付量40g/m2、比容積100ml/g、嵩密度0.01g/ml
であった。
【0161】
(重合反応)
図4(a)に示す横断面形状を有し、図13(c)に示す縦断面形状を有する2重同芯渦巻噴射ノズルを用いて、内側噴出口と外側噴出口にそれぞれモノマー溶液A1,B1を供給した。各溶液の液温は40℃とし、ポンプを用いて400ml/分の流量で噴出させた。2重同芯渦巻噴射ノズルの内側噴出口を構成するノズルの内径は1.0mm、外径は1.7mmであり、外側噴出口を構成するノズルの内径は2.5mm、外径は3.0mmであり、外側噴出口を構成するノズル先端部の肉厚は0.25mmであった。また、図13(c)に示すように2重同芯渦巻噴射ノズルは先端部の方向にテーパー状になっており、該テーパーの交差角は120°であった。なお、2重同芯渦巻噴射ノズルのテーパー部の外壁面には、図1に示すようにシリコンオイル保護液を噴霧して膜厚0.5mmの保護液膜を形成した。
【0162】
溶液A1及び溶液B1はノズルの出口付近で衝突、微粒化し、液滴となって重合を進行させながら気相中(空気中、温度50℃)を落下した。液滴の一部は気相中で衝突し凝集粒状体を形成し、ノズルの噴出口の先端より下方3mに設置した基材上に落下し、該基材上で重合を完了させた。110℃で1時間乾燥させて吸液性複合体を得た。
上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
【0163】
<実施例6>
実施例5において、2重同芯渦巻噴射ノズルの内側噴出口を構成するノズルの内径を0
.9mm、外側噴出口を構成するノズルの内径を2.8mm、外側噴出口を構成するノズル先端部の肉厚を0.1mmに変更し、さらにモノマー溶液A1,B1を500ml/分の流量で噴出させたこと以外は実施例5と同じ操作を行って吸液性複合体を得た。
上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
【0164】
<実施例7>
実施例5と同様に原料調整を行い、基材を準備した。
図4に示す2重同芯渦巻噴射ノズル(ただし、図2に示す如く、保護液吐出用スリットから保護液を吐出させた)を用い、第1のノズル10と第2のノズル20にそれぞれ実施例5のモノマー溶液A1,B1を供給して重合を行った。この渦巻噴射ノズルの第1のノズル10のノズル口10Aの内径は1.0mmで、第2のノズル20のノズル口20Aの内径は2.5mmである。各溶液の液温は40℃とし、ポンプを用いて第1のノズル10からは溶液Aを流量300ml/分、吐出圧0.5MPaで噴出させ、第2のノズル20からは、溶液Bを流量300ml/分、吐出圧0.2MPaで噴出させた。また、溶液A1
,B1の噴出と同時に保護液吐出用スリット4から保護液として水を連続的に吐出させて
、ノズルの下部小径筒状部とテーパー部のノズル外壁面に膜厚0.5mmの保護液膜を形成した。なお、保護液膜の厚みは、保護液供給量を保護液形成面積で除して求めた。このときの保護液供給量(吐出流量)は、ノズルの保護液膜形成面1m当たり500ml/分であり、保護液がスリットから流下して噴出口に到達しても、溶液A1,B1により形成される噴出液膜に乱れは見られなかった。
【0165】
溶液A5及び溶液B5はノズルの出口付近で衝突、微粒化し、液滴となって重合を進行させながら気相中(空気中、温度50℃)を落下した。液滴の一部は気相中で衝突し凝集粒状体を形成し、ノズルの噴出口の先端より下方3mに設置した実施例6と同様の基材上に落下し、該基材上で重合を完了させ、吸液性複合体を形成した。この吸液性複合体を110℃で1時間乾燥させた。
上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
【0166】
<比較例14>
実施例5と同じ25cm×50cmの長方形の基材を起毛せず用いた以外は実施例5と同様に重合反応を施し、吸液性複合体を製造した。
上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
【0167】
<比較例15>
実施例6と同じ25cm×50cmの長方形の基材を起毛せず用いた以外は実施例6と同様に重合反応を施し、吸液性複合体を製造した。上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
<比較例16>
実施例7と同じ25cm×50cmの長方形の基材を起毛せず用いた以外は実施例7と同様に重合反応を施し、吸液性複合体を製造した。上記条件で3時間連続運転した後に2重同芯渦巻噴射ノズルの先端部への粒子付着状況を確認したところ、粒子の付着は見られなかった。
【0168】
<比較例17>
アクリル酸ナトリウム70モル%、アクリル酸30モル%からなるモノマー水溶液(モノマー含有量は合計42重量%)に、架橋剤としてテトラエチレングリコールジアクリレ
ート(東亞合成株式会社製「アロニックスM−240」)をモノマー重量基準で0.05重量%添加した。このモノマー水溶液を20℃に冷却した。これに、窒素ガスを吹込み、溶存酸素濃度を1ppm以下に減少させた。これに、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニル−ケトンをモノマー質量基準で0.02質量%、熱重合開始剤として過硫酸ナトリウムをモノマー質量基準で0.15質量%添加した。
【0169】
ポリエチレン/ポリプロピレンからなるエアスルー不織布(比容積50cm/g、目付量40g/m)を、110℃で3分間オーブン中にて加熱した。不織布の比容積は、100cm/gになった。この不織布に、前記のモノマー水溶液を、スプレーノズルを用いて塗工した。塗布量は238g/mであった。窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプを用いて紫外線(紫外線光量は2500mJ/cm)を照射した。これを、130℃の空気が流通している通気バンド乾燥機に入れ、吸液性ポリマーの含水率が5重量%になった時点で加熱を止めて徐冷した。得られた吸液性複合体は、細かな粒子状の吸液性ポリマーが、いわゆる数珠つなぎ状になって繊維に付着しており、各粒子は相互に独立して存在していた。
得られた吸液性複合体には吸液性ポリマー粒子が100g/m付着していた。
【0170】
<比較例18>
モノマー水溶液の塗布量が714/mとなるように塗工した以外は比較例187と同じ操作を行った。得られた吸液性複合体は柔軟性が無く、吸液性ポリマーは殆どが水かき状構造で、いわゆる数珠つなぎ状の粒子は少なかった。吸液性複合体には吸液性ポリマーが300g/m付着していた。
<測定方法および評価方法>
上記の実施例および比較例に記載されるデータの測定方法と、上記の実施例および比較例で製造した吸液性複合体およびおむつの性能測定方法を以下に記載する。性能測定の結果は表1に示す。
(液滴重合における液滴の直径の測定)
液滴重合における液滴の直径ddを、吸液性複合体を構成する吸液性ポリマー塊の平均径dp及びモノマー濃度(アクリル酸とアクリル酸ソーダの合計濃度)Cmから、以下の式に従い算出した。
【0171】
dd=dp/(Cm)1/3
(基材の接触角測定)
基材の接触角は、協和界面科学株式会社製自動接触角計「CA−V型」を用いて測定した。まず、基材を溶媒に溶解又は分散させて1〜10重量%の溶液を調製した。溶液をシャーレに注ぎ、薄く広げた。次いで、乾燥空気を用いて室温で穏やかに溶媒を蒸発させ、十分に乾燥させた。得られたフィルムの蒸留水に対する接触角を常温で測定した。
(吸液性複合体の形状測定)
実施例と比較例1〜6の吸液性複合体を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その写真を、図5〜11に示す。これらの写真より、水かき状の吸液性ポリマーと略球状の吸液性粒子同士が結着した結着粒子状の吸液性ポリマーが基材上に結着している構造が確認された。
【0172】
吸液性複合体を5cm×5cm角の大きさに切り出した。断面をキーエンス社製のデジタル光学顕微鏡「VH−8000」を用いて撮影した。JIS l−1096に準拠して、以下の手順で、5枚の基材の厚み及び吸液性ポリマー層の厚みを測定し、平均値を求めた(図21参照)。 (a)レオメーター(FUDOH社製、型番:NRM−2003J)に、直径30mmのアダプター26を取り付けた。
(b)吸液性複合体28をサンプル台27にセットした。サンプル台27を2cm/minの速度で上昇させ、0.2psiの圧力がかかったところで停止させた。ノギスを用い
て、停止したときにおけるアダプター26の上面からサンプル台27の下面までの距離tを測定した。
(c) サンプル台27に、サンプルを乗せずに、サンプル台27を2cm/minの速度で上昇させ、0.2psiの圧力がかかったところで停止させた。ノギスを用いて、停止したときにおけるアダプター26の上面からサンプル台27の下面までの距離tを測定した。
(d)以下の式により、厚みを算出した。
【0173】
厚み(mm)=サンプルの測定値t(mm)−ブランク測定値t(mm)
(嵩密度の測定)
吸液性複合体を5cm×5cm角の大きさに切り出し、その重量を量り、以下の式からその嵩密度を求めた。サンプルは5枚測定し、その平均値とした。
【0174】
【数1】

【0175】
(吸液性ポリマーの形状測定)
吸液性複合体を5cm×5cm角の大きさに切り出した。ステンレス製小膝状剪刀両鋭はさみ(FST 14063−09)を用いて、基材を除去した。このはさみを用いて、デジタル光学顕微鏡(キーエンス社製VH−8000、倍率25〜150倍)を用いて注意深く観察しながら、吸液性ポリマーを結着粒子状ポリマーと水かき状ポリマーに切り分けた。各重量を測定し、水かき状ポリマーに対する結着粒子状ポリマーの重量比を算出した。
【0176】
SEM、デジタル光学顕微鏡及びダイヤルゲージを用いて、吸液性ポリマーの形状を測定した。
肉眼又は25〜175倍のデジタル光学顕微鏡を用いて結着粒子の塊の形状を観察し、ダイヤルゲージを用いて、その長径、厚み、塊を構成する粒子数及び塊間の繊維長を測定した。SEM又はデジタル光学顕微鏡を用いて、結着粒子状の吸液性ポリマー50個以上から無作為に選んだ10個の吸液性ポリマーの一次粒子の径を測定し、その平均値を求めた。
【0177】
デジタル光学顕微鏡を用いて、水かき状ポリマーを観察した。基材上に、水かき状ポリマーが点在している部分を「水かき状分散層」、水かき状ポリマーが連続し、その所々に開孔部が点在している部分を「水かき状連続層」と判定した。
水かき状の分散層50個以上から無作為に選んだ10個の厚みをダイヤルゲージで測定し、その平均値を水かき状分散層の厚みとした。また、水かき状の分散層の走査型電子顕微鏡写真で、50個以上から無作為に選んだ10個の短径の平均及び長径の平均を、各々、短径及び長径とした。
【0178】
水かき状の連続層50個以上から無作為に選んだ10個の厚みをダイヤルゲージで測定し、その平均値を水かき状連続層の厚みとした。また、水かき状連続層の走査型電子顕微鏡写真で、開孔部分50個以上から無作為に選んだ10個の短径の平均及び長径の平均を、各々、孔径の短径及び長径とした。開孔率は、水かき状連続層25cm2中における開
孔部総面積の百分率とした。
【0179】
(重合率の測定)
2種類の原料溶液の合流点から液滴の落下距離だけ下方における重合率を、以下の手順で求めた。
2種類の原料溶液の合流点から、液滴の落下距離だけ下方にて、メタノールの液面が位置するように150gのメタノールの入ったビーカーを設置した。反応液1gをメタノールに入れ、反応液1g当たりのモノマー量を液体クロマトグラフィーで測定した。また、メタノール液を、130℃で3時間減圧乾燥することにより、液中のポリマー重量を測定した。各重量から以下の式により重合率を計算した(Mpはポリマー重量、Mmはモノマー重量)。液体クロマトグラフィーは、島津製作所株式会社製のカラム「shim-packSCR-1001H」を内蔵した「LC-10AS/SPD-10A」を用いて測定した。
【0180】
【数2】

【0181】
(吸液製ポリマーの両側に基材があるものの重合率の測定)
吸液性複合体を5cm×5cm角の大きさに切り出した。これを150gのメタノールに常温で12時間浸漬させ、モノマー等を十分に流出させた。さらに、110℃で3時間ロータリーオイルポンプを用いて減圧乾燥させた後の重量をMcとした。該メタノール中のモノマー量を液体クロマトグラフィーで求め、その重量をMmとした。液体クロマトグラフィーは、島津製作所株式会社製のカラム「shim-packSCR-1001H」を内蔵した「LC-10AS/SPD-10A」を用いて測定した。
【0182】
一方、吸液性複合体に用いたのと同様な基材のみについて、同一処理を行った重量をMsとした。各重量から、以下の式により重合率を計算した。
【0183】
【数3】

【0184】
(含水率の測定)
2種類の原料溶液の合流点から液滴の落下距離だけ下方における含水率を、以下の手順で求めた。
吸液性複合体を7cm×7cm角の大きさに切り出した。これを、赤外線式水分計(株式会社ケット科学研究所製赤外線水分計「FD−100」(乾燥熱源:280W環状セラ
ミック溶射シーズヒーター))を用いて、110℃で30分間加熱した後、秤量した。吸
液性複合体の加熱前の重量をW1、加熱後の重量をW2とした。また、吸液性複合体に用いたものと同様な基材のみについて、同じ処理を行った後の重量をW0とした。各重量から、以下の式により含水率(%)を計算した。
【0185】
【数4】

【0186】
(保水能(CRC)の測定)
吸液性複合体を、110℃で30分間乾燥したときの重量変化が1%以下になるまで乾燥させた(これを、前述の乾燥させた吸液性ポリマーの重量とする)。その後、吸液性ポリマーの重量が1gとなるように切断した(ここでの吸液性複合体の重量をW1とした)
。これを250メッシュのナイロン袋(大きさ20cm×10cm)に入れ、袋ごと25℃の生理食塩水(0.9重量%)500〜1000ml中に、30分間浸漬した。ナイロン袋を引上げ、15分間懸垂して水切りした後、遠心分離機を用いて、90Gで90秒間脱水した(ここでのナイロン袋込みの重量W3とした)。
【0187】
一方、吸液性複合体に用いたものと同じ基材のみについて、同様の処理を行い、重量が1gとなるように切断した重量をW2、生理食塩水処理後のナイロン袋込みの重量をW4とした。各重量から、以下の式に従って保水能を算出した。なお、W1〜W4の単位は全てgである。
【0188】
【数5】

【0189】
(加圧下吸液能(AUL)の測定)
加圧下吸液能は、図22に示す装置を用いて、以下の手順に従って測定した。測定装置は、底面が金網(#100)で閉鎖されている金属円筒46(内径25.4mmφ)、この円筒の内径より若干小さい円柱状錘48、及び、シャーレ47からなる。
(a)20g/cm荷重(円柱状錘44として、100gの錘を用いた)
1)吸液性複合体を、110℃で30分間乾燥したときの重量変化が1%以下になるまで乾燥させた。これを打ち抜きポンチで打ち抜き、試料円盤45(25mmφ)とした。
【0190】
2)試料円盤45の重量Sd(g)及び金網付き円筒46の重量Td(g)を測定した。
3)シャーレ47(100mmφ)に、25℃の下記人工尿を25g入れた。
4)試料円盤45を円筒46に、基材側を下側にして入れた。
5)円柱状錘48と円筒46とが接触して、吸液による錘の上昇による摩擦が生じないようにしながら、円柱状錘48を試料円盤45上に乗せた。
【0191】
6)試料円盤45と円柱状錘48が入っている円筒46を、金網側を下側にして、シャーレ47に静かに浸した。
7)1時間静置して吸液させた。
8)円筒46をシャーレ47から静かに取り出した。
9)円筒46を濾紙(#424)上に静かに乗せ、円筒46に付着している水を拭き取った。
【0192】
10)円柱状錘48を取り除いた(円柱状錘48に付着していた吸液性ポリマーは、円筒46側に移した)。
11)円筒46の重量Tw(g)を計測した。
12)吸液後の試料円盤45の重量Sw(g)を下記式により求めた。
Sw=Tw−Td
13)吸液性複合体の代りに、吸液性複合体に用いたものと同種の基材のみを用いたものを、上記操作の試料円盤の代わりに用いて、その重量Nd(g)及び吸液後の円筒の重
量Mw(g)を測定し、吸液後の円盤の重量Nw(g)を下記式により求めた。
【0193】
Nw=Mw−Td
14)加圧下吸液能を下記式にしたがって算出した。
加圧下吸液能=(Sw−Nw)/(Sd−Nd)
なお、人工尿としては下記組成のものを用いた。
尿素 19.4g
塩化ナトリウム 8.0g
無水塩化カルシウム 0.6g
硫酸マグネシウム・7水和物 2.05g
純水 970.9g
(b)50g/cm荷重
円柱状錘14として、250gの錘を用いた以外は(a)と同様にして、加圧下吸液能を測定した。
【0194】
(吸液性ポリマーの脱落率の測定)
(a)吸液性複合体を10cm×10cm角の大きさに切り出した。その重量を測定し、吸液性複合体の構成(吸液性ポリマーの目付量)から、吸液性ポリマーの見込み重量を算出した。JIS Z8801で規定された標準網篩61(内枠の寸法が、内径150mm、深さ45mm、20メッシュ)の中央に、吸液性複合体60をテープ62で固定した(図23参照)。
(b)この吸液性複合体を固定した標準網篩を、ロータップ型震とう機65((株)東京篠原製作所社製、型番SS−S−228型、JIS Z8815準拠、図24参照)の最上段に固定した。
(c)震とう機65を、衝動数:165回/分、回転数:290回/分にセットして、60分間振とうさせた。吸液性複合体60から脱落した吸液性ポリマーの重量を測定し、下記式から脱落率を求めた。
【0195】
【数6】

【0196】
(吸液性複合体のゲル脱落率の測定)
吸液複合体に対して、擦るように作用する力が加わった時の吸液ゲルの脱落率を、以下の手順で測定した(図25参照)。
(a)平滑面51上に、吸液性複合体52を置いた。この上に、アクリル板55(100mm×100mm×10mmの直方体)を置いた。アクリル板55の中央部には、上方が開放された内径40mmの円筒53が乗っており、この円筒に囲まれた部分に、直径5mmの貫通孔54がほぼ等間隔となるように7個空いている。アクリル板55の質量は、この円筒53も含め、150gであった。
(b)円筒53内に、人工尿150mlを入れ、吸液性複合体に吸液させた。
(c)完全に吸水した後、30分間室温下放置した。
(d)吸液性複合体70の中心部を、一辺10cmの正方形に切り取り、その質量を測定した(図26参照)。
(e)20cm×20cmの大きさのアクリル板74の中心に、この切り取ったサンプル73を載せた。その上に、サンプル73と同じ大きさ(一辺10cmの正方形)の錘75(3kg)を、重なるように乗せた(図27参照)。
(f)アクリル板74に、サンプル73、錘75を乗せたものを、振とう機(井内盛栄堂社製、型番「MS−1」)に、振とう方向に対して、サンプルの切り口が垂直になる方向にセットし、振幅50mm、振動数80回/分で、30分間振とうさせた。
(g)錘を取り除き、サンプルから脱落した吸液ゲルの質量を測定した。以下の式を用いて、吸液性複合体のゲル脱落率を計算した。
【0197】
【数7】

【0198】
(吸液後のゲル脱落率の測定)
保水能の測定後の吸液性複合体から脱落した吸液性ポリマーゲルの重量及び脱落しなかった吸液性ポリマーゲルの重量を測定した。各重量から、以下の式でゲル脱落率を算出した。具体的には、保水能を測定後の吸液性複合体を、静かにナイロン袋から取り出した。この際、複合体より、袋内に残った吸液性ポリマーを脱落した吸液性ポリマーゲルとした。袋ごと重量測定した値から袋の重量を差し引いた値を、脱落した吸液性ポリマーゲルの重量Wa(単位g)とした。複合体より、脱落しなかった吸液性ポリマーを、脱落しなかった吸液性ポリマーゲルとした。複合体の重量を測定した値から基材の重量を差し引いた値を、脱落しなかった吸液性ポリマーゲルの重量Wb(単位g)とした。
【0199】
【数8】

【0200】
(吸液速度の測定)
吸液性複合体を40cm×20cmの長方形に切断した。同サイズの平滑なステンレス板(厚さ3mm)2枚の間に、同サイズのフラッフパルプ(ウェハウザー社製「NB-416」、目付量100g/m2)とその上に該吸液性複合体(吸液性ポリマー側を下にする)を
挟むように重ねた。この積層体に、ステンレス板の上下から10MPaの荷重をかけた。室温で5分間放置後、圧力を開放して、吸液性複合体を取り出した。得られた吸液性複合体の中央部を5cm×5cmの正方形に切り出し、これを直径10cmのガラス製シャーレ内に入れた純水25mlに浸漬させて、シャーレの底の一部が空気に露出するまでの時間(吸水速度/秒)を測定した。測定は常温常湿で行い、測定した時間を吸水速度(単位:秒)とした。
吸液性複合体の断面は図28のようになっていた。
【0201】
(吸液性複合体の剛軟性の測定)
吸液性複合体を2cm×25cmの長方形に切り出した。温度25℃、湿度50℃の状態で、一昼夜保管後、JIS L−1096(比較的柔らかい織物に使用されるハートループ法)に準拠して、以下の手順で剛軟性を測定した(図31参照)。なお、測定値が大きいほど、柔らかいことを意味する。
(a)水平棒のつかみ41に、サンプル片42をハートループ状に取り付け、サンプル片42の有効長が20cmとなるようにした。
(b)1分間経過したら、水平棒の頂部とループの最下点との距離L(cm)を測定した。サンプルを5枚測定し、その平均値を求めて剛軟性とした。
なお、実施例1の吸液性複合体の剛軟性については、サンプルが破損したため、測定できなかった。
【0202】
(吸液性複合体の開繊性の測定)
吸液性複合体の重量K1(単位g)を測定した。吸液性複合体を強制開繊して篩い分け機にかけた(図32(a),(b)参照)。開繊機151は、外径5cm、長さ20cmのアクリル製の円筒151A,151Bの表面に、太さ1mm、長さ1cmのステンレス製ピン152が5mm間隔で設けられたものである。円筒151Aは、回転数500rpmで、円筒151Bは、回転数900rpmで、各々同方向に回転している。篩い分け機153は、内径9cmのアクリル型円筒154内に、外径8cmの撹拌羽根155、及び、直径9cmの10メッシュの金網156を有する。アクリル型円筒154の下部の配出管部157に、直径5cmの100メッシュの金網158が設けられ、−60mmHOの減圧で篩い分けした(図32(b)参照)。100メッシュ金網上に残った残渣の重量K2(単位g)を測定し、下記式に従って吸液性複合体の開繊性を評価した。
【0203】
【数9】

【0204】
(吸液性複合体の復元率の測定)
吸液性複合体を5cm×5cmの正方形に切断し、同サイズの型枠の中に入れた。吸液性複合体の上下から1MPaの圧力を10分間かけて圧縮した。加圧した状態で、温度25℃、湿度50%の条件下で30日間保管した。前記厚み測定法より、圧縮直後及び同30日後の厚みを測定し、下記式によって復元率を算出した。サンプルは5枚測定し、その平均値を求めた。
【0205】
【数10】

【0206】
(吸液性複合体の剥離試験)
吸液性複合体を5cm×5cmの正方形に切断した。手指により、試料の外側の一方の基材と、他方の基材をつまみ、これをゆっくり剥離させた。剥離状態を目視で観察した。(基材層が2層以上ある場合の吸水剥離試験)
(1)吸液性複合体を5cm×5cmの大きさに切り出した。
(2)直径10cmmのガラス製シャーレに純水10mlを入れた。
(3)吸液性複合体を、シャーレ内の純水に10分間浸漬させ、吸液性複合体とした。
(4)一方の手指で吸液性複合体の外側の基材をつまみ、他方の手指で他方の吸液性複合体の別の外側の基材をつまみ、ゆっくり剥離させた。
(5)剥離状態を目視で観察した。
【0207】
(おむつの人工尿の吸液速度と放水量の測定)
実施例19と実施例23のおむつを、40cm×10cmの長方形に切断した。人工尿の吸収速度および放出量を、吸液性複合体のゲル脱落率の測定と、同じ測定装置を用いて
、以下の手順で測定した(図25参照)
(a)平滑面51上に、おむつ52を置いた。この上に、アクリル板55(100mm×100mm×10mmの直方体)を置いた。アクリル板55の中央部には、上方が開放された内径40mmの円筒53が乗っており、この円筒に囲まれた部分に、直径5mmの貫通孔54がほぼ等間隔となるように7個空いている。アクリル板55の質量は、この円筒53も含め、150gであった。
(b)更にこの上に、中央部に直径45mmの孔56Aが空いている、直径100mmの金属製円板56(質量1250g)を、円筒53に挿通して載せた。
(c)円筒53に人工尿25mlを入れ、おむつに吸液させた。
(d)吸収されるまでの時間をストップウオッチで測定し、吸液速度(秒)とした。
(e)10分後に、金属製円板56及び円筒付きアクリル板55を取り除いた。おむつ52の上にアクリル板65があった位置に、濾紙(東洋濾紙社製品「ADVANTEC No.424」、100×100mm)を20枚重ねて載せた。更に、その濾紙上に、底面積(10cm×10cmの正方形)の4kgの錘を載せた。5分後に錘を取り除き、濾紙の重量を測定して、濾紙に吸収された人工尿の量を測定して放水量(g)とした。
(f)上記(a)〜(e)の操作を、更に2回ずつ繰り返し、その平均値を求めた。
【0208】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明の吸液性複合体は、吸液性ポリマーが吸液前後を通して繊維に均一に固定化されている。また、本発明の吸液性複合体のうち特に好ましいものは、吸液速度が大きくて、適度なしなやかさを有している。更に、本発明の吸液性複合体の製造方法によれば、そのような特徴を有する吸液性複合体を効率よく製造することができる。特に本発明の吸液性複合体は、接着性、付着性、吸湿性のある吸液性ポリマーが基材により被覆されているた
めに、巻き取りローラー等、接触、摺動部分への付着が避けられ、ライン操作性が優れている。
【0210】
したがって、本発明の吸液性複合体は、紙おむつや生理用品などの衛生材料、廃水などの吸収や保持に必要な工業資材、野菜などの鮮度保持剤や保水剤等の農業資材の製造に好適に使用することができる。また、本発明の吸液性複合体の製造方法は、工業的な製造システムを用いて実施することが可能であり、大量生産にも向いている。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】本発明の重合方法及び重合装置の実施の形態を示す噴霧ノズルの正面図である。
【図2】本発明の重合方法及び重合装置の他の実施の形態を示す噴霧ノズルの正面図である。
【図3】本発明の重合方法及び重合装置の別の実施の形態を示す噴霧ノズルの正面図である。
【図4】本発明に好適な2重同芯渦巻噴射ノズルを示す図であって、(a)図は上部導入管部分の横断面図、(b)図は縦断面図、(c)図は斜視図である。
【図5】比較例1の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】比較例2の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】比較例3の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】比較例4の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】比較例5の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図10】比較例6の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図11】実施例1の吸液性複合体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図12】剛軟性の測定装置を示す斜視図(a)とサンプル取付け状態を示す図(b)である。
【図13】ノズル口を構成する先端部の肉厚の計算法を示す断面図である。
【図14】実施例および比較例で用いたノズルユニットの斜視図である。
【図15】実施例4及び比較例7の吸液性複合体の層構成を示す断面図である。
【図16】比較例10の吸液性複合体の層構成を示す断面図である。
【図17】比較例11の吸液性複合体の層構成を示す断面図である。
【図18】吸液性ポリマーと繊維の結着状態を分類した概略説明図である。
【図19】吸液性物品の構成を示す横断面図である。
【図20】基材に水かき状の吸液性ポリマーが結着した状態を示す概略説明図である。
【図21】厚み測定具を示す断面図である。
【図22】加圧下吸水能の測定装置を示す概略図である。
【図23】吸液性ポリマー脱落率を測定する際のサンプルの位置関係を示す図である。
【図24】ロータップ型震とう機を示す斜視図である。
【図25】ゲル脱落率及び吸液性物品の吸収速度と放水量の測定装置の断面図である。
【図26】サンプルの切り出し部分を示す上面図である。
【図27】ゲル脱落率測定における振とう時の状態を示す断面図である。
【図28】圧縮成型後の吸液性複合体の断面概略図である。
【図29】基材に結着粒子状の吸液性ポリマーが結着した状態を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0212】
1 噴霧ノズル
2A,2B 保護液スプレーノズル
3 保護液膜
4 保護液吐出用スリット
5 保護液吐出用開孔
10 第1のノズル
10A ノズル口
11 液導入部
12 テーパー部
13 液噴出部
14A,14B 導入管
20 第2のノズル
20A ノズル口
21 液導入部
22 テーパー部
23 液噴出部
24A,24B 導入管
26 アダプター
27 サンプル台
28 サンプル
31A,31B,31C 吸液性複合体
32A 部分包埋繊維
32B 表面接着繊維
33 吸液性ポリマー粒子
41 つかみ
42 サンプル片
45 測定用試料円盤
46 金網付き円筒
47 シャーレ
48 錘
51 平滑面
52 吸液性複合体又はおむつ
53 円筒
54 貫通孔
55 アクリル板
56 円板
60 吸液性複合体
61 標準網篩
62 テープ
65 ロータップ型震とう機
70 吸液性複合体
71 中心
72 切り取り線
73 サンプル
74 アクリル板
75 錘
81 基材
82 吸液性ポリマー
83 フラッフパルプ
90 吸液性物品
91 水不透過性シート
92 ティッシュ
93 吸液性複合体
94 ティッシュ
95 水透過性繊維質材料
101,101A,101B 非成形繊維堆積塔
102,102A,102B 重合塔
103,103A,103B 表面処理剤噴霧機
104 乾燥塔
108 プレスローラ
109 巻き取り機
121 水不透過性シート
122 ティッシュ
124 吸液性複合体
125 ティッシュ
126 水透過性繊維質材料
151 開繊機
152 ピン
153 篩い分け機
154 円筒
155 撹拌羽根
156 金網
157 配出管部
158 金網
201 吸引器
S 繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起毛処理を施した繊維質基材上に、略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーが結着していることを特徴とする吸液性複合体。
【請求項2】
起毛処理を施した繊維質基材上に、水かき状の吸液性ポリマー及び略球状の吸液性ポリマーが2個以上結着している結着粒子状の吸液性ポリマーが結着していることを特徴とする吸液性複合体。
【請求項3】
吸水速度が1〜100秒であり、吸水後のゲル脱落率が60重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吸液性複合体。
【請求項4】
前記略球状の吸液性ポリマーの粒径が20〜5000μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸液性複合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸液性複合体を用いた吸液性物品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸液性複合体を用いた衛生材料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の吸液性複合体を用いたおむつ。
【請求項8】
吸液性ポリマーを与える重合性モノマーと重合開始剤を気相中で液滴重合し、これを前記重合性モノマーの重合率が40%以下の状態で、起毛処理を施した繊維質基材に接触させる工程を有することを特徴とする吸液性複合体の製造方法。
【請求項9】
吸液性ポリマーを与える重合性モノマーと重合開始剤を気相中で液滴重合し、これを前記重合性モノマーの重合率が40%以下の状態で起毛処理を施した繊維質基材に接触させる工程と、前記重合性モノマーの重合率が40%超の状態で起毛処理を施した繊維質基材に接触させる工程とを有することを特徴とする請求項9に記載の吸液性複合体の製造方法。
【請求項10】
吸液性ポリマーを与える重合性モノマーと重合開始剤とを気相中で液滴重合させ、且つ、該重合性モノマーの重合率が40%以下の状態で、起毛処理を施した繊維質基材に接触させることによる、吸液性複合体の製造方法に用いる重合反応用ノズルであり、ノズル口を構成する先端部の肉厚が10mm以下であることを特徴とする重合反応用ノズル。
【請求項11】
前記重合反応用ノズルの外壁面に液膜を形成する機構を備えていることを特徴とする請求項10に記載の重合反応用ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2007−197873(P2007−197873A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19850(P2006−19850)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】