説明

吸湿シート

【課題】狭い空間に嵩張らずに設置できる、高い吸湿性を有する吸湿シートを提供することである。
【解決手段】本発明の吸湿シート10は、透湿性シート11、この透湿性シート11の表面に形成した乾燥剤層12、及びこの乾燥剤層12の表面に形成した粘着剤層13から構成される。乾燥剤層12は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成される。乾燥剤として、水分と不可逆的な化学反応を起こし、またバインダー樹脂の溶液中で安定し、しかも安価に入手できるものが好ましく、好適に、酸化カルシウムからなる粒子が使用される。透湿性シート11として、水分を透過するが炭酸ガスを透過し難いシートを使用することが好ましく、好適に、セロハンシートが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器やその部品(有機EL素子、半導体デバイスなど)、楽器(ピアノなど)、医薬品(錠剤など)、食料品(乾麺、塩など)、衣類、靴など、湿気によりその機能や効能、風味や風合いなどが劣化する物品の吸湿や防湿に適した吸湿材、特にシート状の吸湿材(これを“吸湿シート”という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密機器やその部品、医薬品、食料品、楽器などの物品の吸湿や防湿に、シリカゲルやゼオライトなどの乾燥剤を通気性シートからなる袋に入れた吸湿材が使用されている(特許文献1、2を参照)。例えば、合成繊維からなる二枚の通気性シートを重ねて形成した袋に乾燥剤を封入したものがある。このような吸湿材では、乾燥剤が袋内に投入されているだけなので、投入した乾燥剤のほぼ全量が防湿や吸湿に寄与し得るが、吸湿材の姿勢を変えると、乾燥剤が移動して片寄り、吸湿材の形状、特に厚さを一定にできず、嵩張るだけでなく、このような吸湿材を狭い空間内に配置して、この空間の防湿や吸湿をすることが困難である。
【0003】
また、物品を吸湿(又は防湿)するために、物品を収容するための容器の内面に乾燥剤を配置した吸湿材がある(特許文献3、4、5を参照)。例えば、有機ELディスプレイでは、有機分子が酸素や水分(湿気)と反応して劣化し、ディスプレイの寿命が短くなるため、ガラス基板上にITO等の透明電極層と有機EL発光層と対向電極層とを順次積層した有機EL積層体を封止する封止キャップの低部内面に乾燥剤を配置している。この乾燥剤として、20μm〜200μmの無水硫酸カルシウムなどの粒子が使用され、乾燥剤は、深さ約0.4mmの封止キャップの低部内面に形成した粘着剤層に粘着保持され、厚さ20μm〜200μmの合成繊維製の通気性シートで被覆される。しかし、粒子状の乾燥剤を粘着させる際、余分な乾燥剤は単に振り落とされるだけなので、この振り落とされた乾燥剤が封止キャップの内面に付着したままの状態で、この封止キャップで有機EL積層体を封止すると、封止キャップに付着している乾燥剤が脱落して浮遊し、有機EL積層体に付着して、有機EL積層体が汚染される。
【0004】
さらに、物品を収容するための袋や包装紙に乾燥剤を練り込んだ吸湿材がある(特許文献6を参照)。例えば、乾燥剤を練り込んだ熱可塑性樹脂からなるシート材がある。このようなシート材では、その厚さを60μm〜200μmにできるが、熱可塑性樹脂に練り込まれる乾燥剤の量を多くすると、袋が脆くなるので、多量の乾燥剤を練り込むことができず、高い吸湿性が得られない。また、シート材の表面部分に位置する乾燥剤のみが防湿や吸湿に寄与するだけなので、高い吸湿性が得られない。
【特許文献1】特開2000−188367号公報
【特許文献2】特開2000−202011号公報
【特許文献3】特開2001−185349号公報
【特許文献4】特開2001−23507号公報
【特許文献5】特開平10−34791号公報
【特許文献6】特開平10−272168号公報
【非特許文献1】有機ELディスプレイ、ナノエレクトロニクス、今後の課題と展望、http//www.nanoelectronics.jp/kaitai/oel/7.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、狭い空間に嵩張らずに設置でき、乾燥剤を脱落させることのない、高い吸湿性を有する吸湿シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の吸湿シートは、透湿性シート、この透湿性シートの表面に形成した乾燥剤層、及びこの乾燥剤層の表面に形成した粘着剤層から構成される。
【0007】
乾燥剤層は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成され、乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が使用される。また、透湿性シートとして、水分に対する透過性(水分を透過する)を有するシートが使用され、この水分を透過するシートとして、セロハンシート、アセテートシート、又はナイロンシートが使用される。好ましくは、透湿性シートとして、水分に対する透過性を有し且つ炭酸ガスに対し難透過性(炭酸ガスを透過し難い)を有するシートが使用され、このシートとして、好適に、セロハンシートが使用される。
【0008】
本発明の吸湿シートは、その粘着剤層を物品や物品の包装物に粘着させることによって物品を防湿するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明が以上のように構成されるので、吸湿材を狭い空間に嵩張らずに設置でき、乾燥剤を脱落させることがない。また、薄いシート状のものでありながら、高い吸湿力を長時間発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に示すように、本発明の吸湿シート10は、透湿性シート11、この透湿性シート11の表面に形成した乾燥剤層12、及びこの乾燥剤層12の表面に形成した粘着剤層13から構成される。
【0011】
乾燥剤層12は、乾燥剤、及びこの乾燥剤を固定するバインダー樹脂から構成される。バインダー樹脂として、ポリエステル系、ポリウレタン系などのバインダー樹脂が使用される。
【0012】
乾燥剤として、水分と不可逆的な化学反応を起こし、またバインダー樹脂の溶液中で安定し、しかも安価に入手できるものが好ましく、好適に、酸化カルシウムからなる粒子が使用される。酸化カルシウムからなる粒子の平均粒径は、0.1μm〜50μmの範囲にある。
【0013】
透湿性シートとして、水分に対する透過性を有するシートが使用され、この水分を透過するシートとして、厚さ10μm〜100μmの範囲にあるセロハンシート、アセテートシート、又はナイロンシートが使用される。
【0014】
酸化カルシウムは、水と反応して水酸化カルシウムとなるが、炭酸ガスの存在下でさらに反応して炭酸カルシウムとなって水を放出し、その乾燥力(吸湿力)が損なわれる。このことから、好ましくは、透湿性シート11として、水分に対する透過性を有し且つ炭酸ガスに対し難透過性を有するシートが使用され、このシートとして、好適に、厚さ10μm〜100μmの範囲にあるセロハンシートが使用される。これは、下記の表1に示すように、セロハンシートは、アセテートシート及びナイロンシートと比較して、酸素透過率が最も低いため、炭酸ガスに対しても最も透過し難い性質を有すると考えられるからである。
【表1】

【0015】
<実施例> 実施例の吸湿シートを製造した。酸化カルシウム(90重量部)と、30wt%ポリウレタン系樹脂溶液(72重量部)と、メチルエチルケトン(9重量部)と、アノン(1重量部)とをポットミルに投入し、分散(48時間)した。分散後、これに75wt%イソシアネート(3重量部)を加えて塗料を製造し、この塗料をセロハンシート(厚さ20μm)(水分を透過するが炭酸ガスを透過し難い)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、セロハンシートの表面に乾燥剤層を形成した。塗料は、塗料乾燥後の乾燥剤層の厚さが80μmとなるようにセロハンシートの表面に塗布した。
【0016】
次に、剥離シートの表面にアクリル系の粘着剤を塗布し、これを乾燥させて剥離シートの表面に厚さ20μmの粘着剤層を形成し、この粘着剤層の表面を乾燥剤層の表面に貼り付けて(すなわち、ラミネートして)、剥離シート付きの実施例の吸湿シートを製造した(粘着剤層を除いた部分の厚さは100μmであった)。
【0017】
<比較例> 比較例の吸湿シートを製造した。上記実施例の塗料と同じ塗料を厚さ24μmのポリエチレンテレフタレート(PET)シート(ベースシートとして使用される)の表面にコンマコーターを使用して塗布し、乾燥させて、ポリエステルシートの表面に乾燥剤層を形成した。塗料は、塗料乾燥後の乾燥剤層の厚さが80μmとなるようにポリエステルシートの表面に塗布した。
【0018】
次に、剥離シートの表面にアクリル系の粘着剤を塗布し、これを乾燥させて剥離シートの表面に厚さ20μmの粘着剤層を形成し、この粘着剤層の表面をPETシートの裏面に貼り付けて(すなわち、ラミネートして)、剥離シート付きの比較例の吸湿シートを製造した(粘着剤層を除いた部分の厚さは104μmであった)。
【0019】
<比較試験> 実施例と比較例のそれぞれの剥離シート付きの吸湿シートを6cm×6cmの大きさの試験片にカットし、それぞれの剥離シートを剥がし、それぞれの試験片をシャーレに入れ、80%相対湿度の恒温恒湿槽内に放置して、これら試験片の吸湿率を比較した。
【0020】
<試験結果> 実施例と比較例の吸湿シートの試験片のそれぞれの時系列的な重量変化と吸湿率を下記の表2に示す。ここで、吸湿率は、下記の式1を用いて計算した。
【0021】
【数1】

【0022】
【表2】

【0023】
実施例と比較例の吸湿シートの構成上の相違点について、実施例の吸湿シートでは、乾燥剤層は、水分を透過するが炭酸ガスを透過し難いセロハンシートでカバーされている。これに対し、比較例の吸湿シートでは、乾燥剤層が直接外気に晒されている。
【0024】
理論的に、乾燥剤として使用されている酸化カルシウムの水分に対する吸湿率は約32%である。この吸湿率の理論値に基づいて、表2の比較試験結果を分析すると、実施例の吸湿シートも比較例のものも、乾燥剤層の酸化カルシウムは水分を吸収する。しかし、比較例の吸湿シートでは、実施例のものと比較して、その乾燥剤層の酸化カルシウムが外気の炭酸ガスと多量に接触する。このため、比較例の吸湿シートでは、乾燥剤層の酸化カルシウムは、水分を吸収するだけでなく、実施例のものと比較して、外気中の炭酸ガスとより多量に反応して炭酸カルシウムとなり、この際により多量の水を放出する。この結果、上記の表2に示すように、比較例の吸湿シートの吸湿率が、実施例のものよりも高くなっているのである。すなわち、実施例の吸湿シートのほうが、比較例のものと比較して、炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなる酸化カルシウムの量が少なく(すなわち、乾燥剤として機能する酸化カルシウムの量が多い)、このことから、乾燥剤として使用される酸化カルシウムの高い吸湿力を長時間、比較的安定して発揮できる。
【0025】
また、実施例の吸湿シートでは、乾燥剤層がセロハンシート(透湿性シート)でカバーされているので、乾燥剤層のエッジ部分がやや波状に変形しただけで、乾燥剤の脱落はみられなかった。しかし、比較例の吸湿シートでは、乾燥剤の脱落がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の吸湿シートの断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10・・・吸湿シート
11・・・透湿性シート
12・・・乾燥剤層
13・・・粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿シートであって、
透湿性シート、
この透湿性シートの表面に形成した乾燥剤層、及び
この乾燥剤層の表面に形成した粘着剤層、
から成る吸湿シート。
【請求項2】
請求項1の吸湿シートであって、
前記乾燥剤層が、
乾燥剤、及び
この乾燥剤を固定するバインダー樹脂、
から成り、
前記乾燥剤として、酸化カルシウムからなる粒子が使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項3】
請求項1の吸湿シートであって、
前記透湿性シートとして、水分に対する透過性を有するシートが使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項4】
請求項3の吸湿シートであって、
前記シートとして、セロハンシート、アセテートシート、又はナイロンシートが使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項5】
請求項1の吸湿シートであって、
前記透湿性シートとして、水分に対する透過性を有し且つ炭酸ガスに対し難透過性を有するシートが使用される、
ところの吸湿シート。
【請求項6】
請求項5の吸湿シートであって、
前記シートとして、セロハンシートが使用される
ところの吸湿シート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−326838(P2006−326838A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148876(P2005−148876)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(390037165)日本ミクロコーティング株式会社 (79)
【Fターム(参考)】