説明

吸湿発熱カーペット

【課題】本発明は、柔らかなタッチ感の好まれるカーペットにおいて、人がカーペットの表面に触れた時に、穏やかな暖かさを得られ、洗濯耐久性があるカーペットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、吸湿発熱剤として羽毛ケラチン蛋白質を、パイル糸の繊維にバインダーにより固着させることによって、洗濯耐久性があり、暖かな触感のあるカーペットをが得られることを見出し本発明に到達した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿発熱効果のあるカーペットであり、人がカーペットの表面に触れたときに穏やかなほんのりとした暖かさを感じるようにしたカーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本でのカーペットの使用方法は、欧米と違って、カーペットの上に座ったり、横になったりして使用することが多い。したがって、カーペットを手で触ったときの感触は、カーペット購入時の重要な要素となっている。特に最近では、柔らかく、毛足の長いファーのようなタッチ感の得られるようなものが好まれている。また一方では、省エネの観点からも、他の床材に比べ、断熱性、保温性に優れるカーペットが見直され、さらに機能性の付与されたカーペットが求められている。
【0003】
特許文献1において出願人は、ポリカルボン酸系化合物のカルボキシル基の一部が金属塩化された吸湿発熱剤を架橋剤でカーペットのパイルに固着させることにより吸湿発熱効果のあるカーペットを開示している。
【0004】
特許文献2には、メチロール系樹脂加工剤により、親水性のポリマーを強固に結合させることで吸湿発熱性を付与したセルロース繊維が開示されている。
【0005】
しかしながら、汎用繊維であるポリエステル繊維を多く使用するカーペットに対しては、洗濯耐久性のある吸湿発熱効果として満足いくものではなかった。
【特許文献1】特開2009-263804号公報
【特許文献2】特開2002-348780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、人がカーペットの表面に触れた時に、穏やかな暖かさを得られ、洗濯耐久性があるカーペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、吸湿発熱剤として羽毛ケラチン蛋白質を、パイル糸の繊維にバインダーにより固着させることによって、洗濯耐久性があり、暖かな触感のあるカーペットが得られることを見出し本発明に到達した。前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1]パイル糸と基布からなる表皮層と、バッキング層とを含むカーペットにおいて、羽毛ケラチン蛋白質が前記パイル糸にバインダーにより固着されていることに特徴のある吸湿発熱カーペット。
【0009】
[2] 前記羽毛ケラチン蛋白質を構成する疎水性アミノ酸の含有率が40%〜60%である前項1に記載の吸湿発熱カーペット。
【0010】
[3] 前記羽毛ケラチン蛋白質が0.5〜30.0g/m固着している前項1または2に記載の吸湿発熱カーペット。
【発明の効果】
【0011】
[1]の発明では、パイル糸と基布からなる表皮層と、バッキング層とを含むカーペットにおいて、羽毛ケラチン蛋白質が固着されているため、人がカーペット表面のパイル糸に触れたとき、パイル糸に付着した羽毛ケラチン蛋白質が、人の皮膚からの水分を吸着し、2〜5℃発熱上昇するので、穏やかな暖かさを感じることができる。また、バインダーで羽毛ケラチン蛋白質が固着されているため、洗濯耐久性を付与でき、実用の洗濯に耐えうるものとすることができる。
【0012】
[2]の発明では、前記羽毛ケラチン蛋白質を構成する疎水性アミノ酸の含有率が40%〜60%であり、水への溶解性が低いため、より洗濯耐久性を高めることができる。
【0013】
[3]の発明では、前記羽毛ケラチン蛋白質が0.5〜30.0g/mカーペットに固着しているので、人の皮膚が触れたときより効果的に人が吸湿発熱による暖かさを感じることができるとともに、前記羽毛ケラチン蛋白質の固着によってカーペットの風合いを損うことなく、柔らかな風合いを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次にこの発明に係る吸湿発熱カーペットの一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態の吸湿発熱カーペット1は、パイル糸2と基布3からなる表皮層4と、バッキング層5を含み、パイル糸2の糸表面に羽毛ケラチン蛋白質(図示せず)が付着されている。(図1参照)また、図1では、バッキング層5の保護やクッション性を付与するために不織布からなるセカンド基布6を積層している。
【0015】
羽毛ケラチン蛋白質は、羽毛から抽出されたケラチン蛋白質であればよく、微粉砕化されたケラチン原料を加水分解して抽出する方法が一般的に取られるが、この限りではない。加水分解されたケラチンは、可溶性のケラチンと不溶性のケラチンに分離されるが、それらは、どちらも吸湿発熱剤として用いることが可能である。羽毛ケラチン蛋白質の疎水性アミノ酸の含有率は40%〜60%であれば、十分な吸湿発熱性を有し、かつ水への溶解性が低いため、高い洗濯耐久性を有する。好ましくは、45%〜50%である。
【0016】
バインダー樹脂としては、パイル糸2と基布3の表面に羽毛ケラチン蛋白質を強固に固着することが出来れば良いが、一般的には例えばウレタン樹脂、自己架橋アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、シリコン樹脂、グリオキザール樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ブタジエン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル−シリコン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、イソブチレン無水マレイン酸共重合体樹脂、エチレン−スチレン−アクリレート−メタアクリレート共重合体樹脂等を挙げることができる。
【0017】
羽毛ケラチン蛋白質及びバインダーをパイル糸に付着させる方法は特に限定されず、浸漬法による方法、スプレーによる方法が挙げられる。
【0018】
熱処理の方法は特に限定はされず、乾熱処理、常圧蒸気による加熱、170℃程度の高圧蒸気による加熱処理を挙げることができる。
【0019】
羽毛ケラチン蛋白質のパイル糸に対する付着量は、0.5〜30.0g/mが好適である。羽毛ケラチン蛋白質のパイル糸に対する付着量が0.5g/mを下回ると、吸湿発熱による効果が少なく、また、30.0g/m超えても付着量の増加に見合う効果は得られないし、カーペットの風合いが硬くなり好ましくない。
【0020】
バインダー樹脂のパイル糸に対する付着量に、特に制限はないが、0.5〜20.0g/mが好適である。バインダーの付着量が0.5g/mを下回るとカーペットへの固着が弱くなり、洗濯耐久性が損われる恐れがあり、また、20.0g/mを超えるとカーペットの風合いが硬くなり好ましくない。
【0021】
羽毛ケラチン蛋白質の分子量は、特に限定されるものではないが、さらに高度の耐久性を得るためには、分子量5000以上のものが好ましく、特に8000〜15000のものが耐久性のある固着及び加工後の風合いの面から好適である。
【0022】
対象となるカーペットの繊維類にも特に限定はないが、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリプロピレンのような合成繊維、レーヨンのような半合成繊維、綿、絹、羊毛、麻のような天然繊維を挙げることができる。パイルの形態としてもカットパイルであっても、ル−プパイルであってもよいが、カットパイルのほうが温感は感じやすい。パイル糸2の目付についても、特に限定されるものではなく、カーペットの形態をなすものであればよい。
【0023】
また、基布3としても、特に限定されるものではなく、ポリエステル繊維やポリプロピレン繊維、麻、綿等の天然繊維からなる織、編基布、不織布等通常使用される基布でよい。
【0024】
次に、バッキング層5としては、パイル糸2と基布3とを固定できる樹脂組成物やゴム組成物であれば特に限定されず、例えば樹脂組成物の樹脂成分としてはアクリル系、ウレタン系、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の樹脂が挙げられる。ゴム組成物のゴム成分としてはSBR(スチレン−ブタジエン)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、MBR(メチルメタクリレート−ブタジエンゴム)あるいは天然ゴム等が挙げられる。また、充填剤として炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、フライアッシュ等を添加してバッキング層として使用するのが一般的である。
【0025】
また、図1に示すようにバッキング層5の下側にクッション性能とバッキング層の保護性能を付与すべく、不織布からなるセカンド基布6を設けてもよい。セカンド基布6としては、特に限定されず、ニ−ドルパンチ不織布、スパンボンド不織布等を例示できる。セカンド基布6の目付は50〜1000g/m、その厚さを0.5〜15mm、構成繊維の繊度を0.1〜30デシテックスの範囲に設定するのが好ましい。セカンド基布6の目付が、50g/m未満ではカ−ペットとしての機能や品位の劣ったものとなり、好ましくない。1000g/mを超えると徒にコスト増大となるだけで好ましくない。素材としては、パイル糸、基布と同様に特に限定されない。また、セカンド基布6の最下部表面に、樹脂組成物やゴム組成物で滑り止め層を形成してもよい。
【実施例】
【0026】
次に、この発明の実施例として使用したカーペットの材質、構造、加工方法、洗濯方法、吸湿発熱性能測定試験および判定方法は次の通りである。
【0027】
<使用材料>
基布・・・・目付100g/mポリプロピレンテープヤーン織布(14×13)
パイル糸・・・ポリエステル繊維からなるパイル糸をカット状にタフティング機(1/8G)で基布に植え込む(パイル長7.0mm、目付け730g/m
バッキング層・・・・SBRラテックス(充填剤としての炭酸カルシウム)
セカンド基布・・・・5デシテックスのポリエステル繊維からなるニードルパンチ不織布(目付300g/m、厚さ6mm)
羽毛ケラチン蛋白質・・・・羽毛抽出ケラチン
バインダー・・・・・エタナーラPUD(大和化学工業製)(固形分50%)
【0028】
<洗濯方法>
下記の条件で一定回数(10回)洗濯を行い、吸湿発熱性の洗濯耐久性試験に供した。
洗濯条件:家庭洗濯に準じたJIS L0217 103法によった。
【0029】
<吸湿発熱性能測定試験>
温度上昇測定・・・・乾燥温度120℃で30分行った後、デシケーターにいれ、20℃で放冷し1時間後20℃、湿度90%の環境下でサーモグラフによって測定し最大の値を温度上昇値とした。2℃より大きいものを合格とした。
官能評価・・・・・・吸湿発熱剤を固着していないカーペット(比較例1)を手で触れた感触を基準に、温かいと感じるかどうかを一対比較法で評価し、被験者数を10人とし、80%以上の人が温かいと感じたものを合格とした(気温20℃、湿度30%の室内にて評価)。
【0030】
<実施例1>
水100重量部に羽毛ケラチン蛋白質(疎水性アミノ酸比率45.8%)2重量部を分散させておいてから、バインダー4重量部を分散した水溶液をスプレーにてカーペット表面に250g/m塗布し、120℃、10分間乾燥処理をして、カーペット上にバインダー樹脂5g/mおよび羽毛ケラチンを5g/m固着したカーペットを得た。温度上昇測定試験では、4.5℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人全員が温かいと感じていた。また洗濯10回後でも4.3℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人全員が温かいと感じていた。
【0031】
<実施例2>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質を構成する疎水性アミノ酸比率が35.0%のものを用いた以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、4.8℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人全員が温かいと感じていた。また洗濯10回後でも2.9℃上昇し、比較例1との官能評価においては9人が温かいと感じていた。
【0032】
<実施例3>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質0.1重量部を分散させ、0.2g/m2を固着させた以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、2.8℃上昇し、比較例1との官能評価においては8人が温かいと感じていた。また洗濯10回後でも2.5℃上昇し、比較例1との官能評価においては8人が温かいと感じていた。
【0033】
<実施例4>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質25重量部を分散させ、50g/m2を固着させた以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、5.5℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人が温かいと感じていた。しかし、風合いが硬かった。また洗濯10回後でも5.2℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人が温かいと感じていた。
【0034】
<比較例1>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質を用いなかった以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、1℃であった。また洗濯10回後でも1℃の上昇であった。また、官能評価においての基準となるカーペットとした。
【0035】
<比較例2>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質2重量部の変わりにポリアクリル酸ナトリウム2重量部を用いた以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、4.0℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人全員が温かいと感じていた。また洗濯10回後では1.2℃上昇し、比較例1との官能評価においては2人しか温かいと感じなかった。
【0036】
<比較例3>
実施例1において、羽毛ケラチン蛋白質2重量部の変わりに羊毛ケラチン蛋白質(疎水性アミノ酸比率30.8%)2重量部を用いた以外は実施例1と同様にしてカーペットを得た。温度上昇測定試験では、4.8℃上昇し、比較例1との官能評価においては10人全員が温かいと感じていた。また洗濯10回後では1.8℃上昇し、比較例1との官能評価においては4人しか温かいと感じなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
上述のように、羽毛ケラチン蛋白質をバインダーでパイル表面に固着したカーペットは、洗濯後でも未加工と比較して明らかに吸湿発熱効果があるカーペットとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の一実施形態に係る吸湿発熱カーペットを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1・・・吸湿発熱カーペット
2・・・パイル糸
3・・・基布
4・・・表皮層
5・・・バッキング層
6・・・セカンド基布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイル糸と基布からなる表皮層と、バッキング層とを含むカーペットにおいて、羽毛ケラチン蛋白質が前記パイル糸にバインダーにより固着されていることに特徴のある吸湿発熱カーペット。
【請求項2】
前記羽毛ケラチン蛋白質を構成する疎水性アミノ酸の含有率が40%〜60%である請求項1に記載の吸湿発熱カーペット。
【請求項3】
前記羽毛ケラチン蛋白質が0.5〜30.0g/m固着している請求項1または2に記載の吸湿発熱カーペット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−115485(P2012−115485A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267955(P2010−267955)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】