説明

吸湿能力を有する樹脂成型体およびこれを用いた乾燥容器

【課題】本発明の課題は、安価な材料を用いて、未開封の状態では長期の保存安定性を有し、開封後は、外部からの水蒸気がきっかけとなって、適度な吸湿瞬発性を発揮すると共に十分な吸湿能力を持続する樹脂組成物成型体を提案するものである。
【解決手段】ベース樹脂中に、水分を吸収して体積が増加する乾燥剤を分散した樹脂組成物を成形してなる、吸湿能力を有する樹脂成型体であって、前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂および直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主たる成分とし、曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下であり、前記乾燥剤は、重量の80%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が5μm以上100μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に35%以上75%以下含むことを特徴とする吸湿能力を有する樹脂成型体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿性を有する樹脂成型体に関し、特に長期間に亘って水分を吸収する能力を保持しうる樹脂成型体ならびにこれを用いた乾燥容器に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの医薬品や一部の食品や医療材料などのように、保存に当って空気中の水分の影響を排除することが望ましい物品を収納するための容器や、これに用いられる吸湿性を有する樹脂材料が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、乾燥剤と熱可塑性樹脂をブレンドした樹脂組成物を加熱成形したインサートが記載されている。この成形物は、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミドから選択される熱可塑性樹脂をベースとして、これに分子篩、シリカゲル、クレー、塩化亜鉛から選択される乾燥剤を40%〜75%含有する樹脂組成物を加熱成形したものである。
【0004】
特許文献2に記載された乾燥剤含有合成樹脂成型体は、合成樹脂ベース中に酸化カルシウムとモレキュラーシーブ(分子篩)とが分散混入していることを特徴とする乾燥剤含有合成樹脂成型体である。
【0005】
特許文献3に記載された瞬発性乾燥剤含有樹脂成型体は、合成樹脂ベース中にモレキュラーシーブと酸化カルシウムと高分子吸収体とが混合分散していることを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成型体である。
【0006】
特許文献4に記載された瞬発性の高い乾燥剤含有樹脂成型体は、射出成形された合成樹脂成型体中に、乾燥剤として酸化カルシウムと高分子吸収体とが混合分散していることを特徴とする瞬発性の高い乾燥剤含有樹脂成型体である。
【0007】
特許文献5に記載された瞬発性と持続性とをもつ乾燥剤含有樹脂成型体は、射出成形又は押出成形された合成樹脂成型体中に、乾燥剤としてモレキュラーシーブと、吸水膨張して合成樹脂成型体に微細なクラックを発現する高分子吸収体とが混合分散していることを特徴とする瞬発性と持続性とをもつ乾燥剤含有樹脂成型体である。
【0008】
特許文献6に記載された瞬発性と持続性を有する乾燥剤含有樹脂成型体は、射出成形又は押出成形された合成樹脂成型体中に、乾燥剤として、吸水速度の速いモレキュラーシーブと、吸水膨張して合成樹脂成型体に微細なクラックを発現しトータル吸水能力が高い酸化カルシウムとを混合分散していることを特徴とする瞬発性と持続性を有する乾燥剤含有樹脂成型体である。
【0009】
特許文献7に記載された瞬発性乾燥剤含有樹脂成型体は、射出成形又は押出成形された合成樹脂成型体中に、乾燥剤として、吸水膨張して合成樹脂成型体に微細なクラックを発現して含水ゼリー状経路を形成する高分子吸収体と、吸水膨張して合成樹脂成型体に微細なクラックを発現する酸化カルシウムとを混合分散していることを特徴とする瞬発性乾燥剤含有樹脂成型体である
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2002-516917号公報
【特許文献2】特開2006-348126号公報
【特許文献3】特開2007-99886号公報
【特許文献4】特開2007-138090号公報
【特許文献5】特開2007-211039号公報
【特許文献6】特開2007-291258号公報
【特許文献7】特開2007-289881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来乾燥剤として使用されているそれぞれの材料の特性を調べてみると、酸化カルシウムは、価格も安く、トータルの吸湿能力は高いものの、単に樹脂と混合すると瞬発性に欠け、だらだらと吸湿能力の低い状態が続くという欠点があった。一方モレキュラーシーブ(分子篩)は、瞬発性を有し、吸湿の立ち上がりは速いが持続性に欠け、また高価な材料である。また高分子吸収体は、吸水能力は高いものの、吸湿性に関しては低湿度において吸湿能力が低い。またシリカゲルやクレーは、モレキュラーシーブと同様の吸湿機構を有し、主として物理吸着によるものであり、水分を吸収してもその体積が変化しないため、ベース樹脂に隙間が生じ難く、このため成型体内部の乾燥剤が有効に働かない。また温度によっては、一旦吸湿した水分を放出する性質がある。
【0012】
これらの乾燥剤を組み合わせた従来の上記樹脂成型体を、例えば医薬品の容器に応用した場合、実際の使用状況において不都合が生じることが分かった。すなわちこれらの容器に収納された医薬品は、未開封の状態において比較的長期間(2年程度)保存され、一旦開封されると比較的短期間(6ヶ月程度)に使用される。内容物である医薬品は、未開封の状態では殆ど水蒸気に曝されることはないが、一旦開封されると頻繁に蓋が開閉されるため、多量の水蒸気に暴露されることになる。
【0013】
瞬発性の高い乾燥剤含有樹脂成型体を用いた場合、未開封の保存期間中に盛んに吸湿してしまい、肝心の開封後に能力を使い果たしてしまっているという状況が生じる。逆に単なる持続性の乾燥剤含有樹脂成型体を用いた場合、開封後の著しい水蒸気暴露に対して、追従しきれず乾燥能力不足を生じるという問題がある。
【0014】
本発明の解決しようとする課題は、安価な材料を用いて、未開封の状態では長期の保存安定性を有し、開封後は、外部からの水蒸気がきっかけとなって、適度な吸湿瞬発性を発揮すると共に十分な吸湿能力を持続する樹脂組成物成型体を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ベース樹脂中に、水分を吸収して体積が増加する乾燥剤を分散した樹脂組成物を成形してなる、吸湿能力を有する樹脂成型体であって、前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂および直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主たる成分とし、曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下であり、前記乾燥剤は、重量の80%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が5μm以上100μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に35%以上75%以下含むことを特徴とする吸湿能力を有する樹脂成型体である。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、前記ベース樹脂の曲げ弾性率が、95MPa以上190MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿能力を有する樹脂成型体である。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、前記乾燥剤が、重量の90%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が15μm以上50μm以下の粒子からなり、前記樹脂組
成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に40%以上60%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿能力を有する樹脂成型体である。
【0018】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成型体を内容器または乾燥部材として内部に具備したことを特徴とする乾燥容器である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体は、曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下の範囲にあるベース樹脂に、水分を吸収して体積が増加する乾燥剤を分散した樹脂組成物を成形してなる樹脂成型体であり、乾燥剤として安価な酸化カルシウムまたは塩化カルシウムを使用し、さらにこの乾燥剤の添加量と粒径を特定の範囲のものとすることにより、吸湿に伴う乾燥剤粒子の体積増加によりベース樹脂に微細なクラックを形成させ、さらにこのクラックの発生を樹脂成型体の内部にまで連続的に進行させることにより長期間に亘って高い乾燥能力を持続させることに成功したものである。
【0020】
この時の乾燥剤の配合条件としては、重量の80%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が5μm以上100μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に35%以上75%以下含むものである。
【0021】
本発明に係る樹脂成型体は、ベース樹脂中に分散された乾燥剤のうち、まず成型体の表面付近に存在する乾燥剤粒子が吸湿してその体積を増すことにより、ベース樹脂に微細なクラックを生じさせ、このクラックを経由して外気中の水蒸気が成型体内部に取り込まれるようになる。すなわち外部の環境が低湿度であるうちは、成型体内部の乾燥剤粒子は殆ど反応せず、従って長期保存安定性が優れている。
【0022】
樹脂成型体の外部環境が高湿度になると、表面付近の乾燥剤粒子が吸湿して体積を増し、この時生じる微細クラックによって、成型体内部の乾燥剤が働き出し、微細クラックは連鎖反応的に成型体内部まで及んでいく。このため、一旦外気に触れると、これがきっかけとなって高い乾燥能力を発揮するようになるのである。
【0023】
ベース樹脂の曲げ弾性率が、95MPa以上190MPa以下である場合には、微細なクラックの発生および進行と樹脂成型体全体の強度のバランスが良好なものとなる。
【0024】
また前記乾燥剤が、重量の90%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が15μm以上50μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に40%以上60%以下含むものである場合には、乾燥能力と持続性において最も好ましい結果を与える。
【0025】
また、上記の樹脂成型体を内容器または乾燥部材として内部に具備した乾燥容器は、開封前の保存性が良く、開封後も容器内部を低湿度に保持する能力が高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり、未吸湿の状態を示す。
【図2】図2は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり表面が吸湿を開始した状態を示したものである。
【図3】図3は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり吸湿が内部にまで及んで行く状態を示したものである。
【図4】図4は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり吸湿が内部にまで及んだ状態を示したものである。
【図5】図5は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を用いた医薬品容器の一例を示した断面模式図であり、未開封の状態を示したものである。
【図6】図6は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を用いた医薬品容器の一例を示した断面模式図であり、開封後の状態を示したものである。
【図7】図7は、実施例1に示した本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を用いた乾燥容器の断面模式図である。
【図8】図8(1)は、図7に示した乾燥容器の吸湿性を有する内筒の断面模式図であり、図8(2)は、平面図である。
【図9】図9は、実施例1において、樹脂成型体の吸水量と容器内の相対湿度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面に従って、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体について詳細に説明する。図1は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり、未吸湿の状態を示したものである。また図2〜4は、吸湿が樹脂成型体の内部に進行する様子を示した断面説明図である。
【0028】
本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体は、ベース樹脂2中に、水分を吸収して体積が増加する乾燥剤粒子3を分散した樹脂組成物を成形してなる。ベース樹脂2は、低密度ポリエチレン樹脂および直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主たる成分とし、曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下であることが必要である。
【0029】
ベース樹脂2の一方の主成分である低密度ポリエチレン樹脂(以下LDPEと略す)は、乾燥剤粒子3が膨張した際に膨らみながら形状を保持する役割を持ち、もう一方の主成分である直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(以下LLDPEと略す)は、発生した微細なクラック4をその延長上に伸ばし、微細なクラック4の経路を長く延伸させる効果を発揮する。従ってLLDPEの添加は必須である。
【0030】
乾燥剤としては、重量の80%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が5μm以上100μm以下の粒子3からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に35%以上75%以下含むことを必要とする。
【0031】
下記反応式のように、酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムとなり体積が膨張する。また塩化カルシウムは、無水物が水と反応して一水和物、二水和物、四水和物、六水和物となり同様に体積が膨張する。塩化カルシウムの場合は、無水物か二水和物を乾燥剤として利用できる。
【化1】

【0032】
乾燥剤の粒子3が吸湿して膨張することにより、周囲のベース樹脂2に微細なクラック4を生じる。この微細なクラック4を経由して外部の水蒸気が成型体の内部にまで到達するため、吸湿が連続的に進行する。
【0033】
この時、ベース樹脂2が強靱すぎると、乾燥剤の膨張する力より勝るため、クラックが発生しない。また逆に柔らかすぎると乾燥剤の膨張を吸収してしまい、やはりクラックが発生しない。
【0034】
ベース樹脂の曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下であれば、適度に微細なクラックを発生させることが可能となる。ベース樹脂の曲げ弾性率は、95MPa以上190MPa以下であることが最も望ましい。
【0035】
ベース樹脂としては、LDPE、LLDPEの他、LDPEにエチレンプロピレンゴム(EPR)を添加することもできる。また通常のLLDPEの替わりにメタロセン触媒によるLLDPEを使用することもできる。LDPEの代わりにメタロセン触媒による軟質のポリプロピレン樹脂を用いることは、LLDPEとの相溶性の問題で好ましくない。
【0036】
一方乾燥剤については、乾燥剤の粒径を細かくして微粉末とした場合は、ベース樹脂にクラックを発生させるだけの応力を生じることができない。逆に粒径が大きすぎるとベース樹脂との分散性が悪くなり、成形適性において問題が生じたり、凝集して塊状になり吸湿性が低下する。
【0037】
乾燥剤の粒径については、5μm以上100μm以下の粒子が、乾燥剤全体の重量の80%以上であることが必要である。乾燥剤の粒径は、15μm以上50μm以下であることがより望ましく、この範囲の粒径のものが乾燥剤全体の重量の90%以上であることがより望ましい。
【0038】
乾燥剤の添加量については、樹脂組成物を100%とした場合の重量比で35%以上75%以下が適当である。35%未満ではクラックの発生が不十分で吸湿能力が発揮されない。また75%を超えるような場合には成型体が脆くなり、成型体全体が割れたり、破片が生じたり、微少な粉や粒が発生したりして実用上問題となる可能性がある。
【0039】
乾燥剤の添加量としては、樹脂組成物を100%とした場合の重量比で40%以上60%以下であることがより望ましい。
【0040】
図1〜4は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体の内部構造を示した断面説明図であり、図1は、未吸湿の状態を、また図2は、表面が吸湿を開始した状態を、図3は、吸湿が内部にまで及んで行く状態を、図4は、吸湿が内部にまで及んだ状態をそれぞれ示したものである。
【0041】
図2に示したように、水蒸気を含んだ雰囲気中に曝された樹脂成型体1は、最外表面付近に存在する乾燥剤粒子が吸湿を開始する。吸湿に伴って乾燥剤粒子は膨張するため乾燥剤粒子の周辺のベース樹脂2に微細なクラック4が発生する。
【0042】
図3に示したように微細なクラック4は、徐々に内部にまで進行し、水蒸気はこのクラックを経由して内部の乾燥剤粒子に到達し、クラックが到達した乾燥剤粒子が吸湿を開始する。
【0043】
この吸湿過程が進行すると、図4に示したようにクラックが内部全域まで到達し、全ての乾燥剤粒子が完全に吸湿すると吸湿過程が終了する。
【0044】
本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を成形する方法としては、予め必要材料を混練してペレット化しておき、このペレットを射出成形機や押出成形機にかけて所望の成形
品を成形することができる。通常本発明に係る樹脂成型体を単独で使用することは意味がなく、防湿性の容器の内貼りや挿入部品として使用される場合が多い。
【0045】
図5は、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を用いた医薬品容器の一例を示した断面模式図であり、未開封の状態を示したものである。また図6は、開封後の状態を示したものである。
【0046】
図5の例では、乾燥容器10は、防湿性の外筒11の内部に本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体である吸湿性を有する内筒12を挿入した容器本体に蓋13を螺合した構造となっている。蓋13には、密封性を高めるためのインナーリング16が設けられている。未開封の状態では、容器の内部には水蒸気の侵入15はないため、容器の内部は乾燥しており、この状態が保たれる。図6のように、乾燥容器10が開封されると、蓋13を開閉する度に、外気に伴って水蒸気の侵入15が生じる。吸湿性を有する内筒12に接触した水蒸気は、前述のようにまず最外表面付近にある乾燥剤粒子に吸湿され、次いで順次内部の乾燥剤粒子に吸湿される。
【0047】
このため、一旦開封しても、蓋が閉じられると容器内部の空間に残された空気中の水分は、吸湿性を有する内筒12に吸湿除去される。このような用途では、開封してから内容物を使い切るまでに相当の期間が経過する場合が想定されるが、吸湿性を有する内筒12が吸湿能力を持続するので、内容物が変質する怖れがない。
【0048】
防湿性の外筒11としては、金属製やガラス製の容器の他、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂等の比較的水蒸気透過性の小さいプラスチック容器が適している。アルミニウム箔や、金属酸化物を蒸着したガスバリアフィルム等の水蒸気透過性の小さい素材を組み合わせたバリア性の容器を用いることも好ましい結果を与える。
【実施例1】
【0049】
LDPEとLLDPEとを1:1の比率で混合したベース樹脂中に、粒径を下記のように調整した酸化カルシウムを45%含有するように混合、分散した樹脂組成物を調製し、射出成形法によって、図8(1)、(2)に示したような形状の、吸湿性を有する内筒12に相当する樹脂成形体を作成した。樹脂成型体の寸法は、上端の外径が約27mm、高さが約43mmであり、重量は約11gである。従って、この樹脂成型体中には、酸化カルシウムが約5g含まれていることになる。なおベース樹脂の曲げ弾性率は、150MPaであった。
【0050】
(酸化カルシウムの粒径)
粒径が10μm以下の微粒と、粒径が60μm以上の粗粒を除去し、粒径が15μm以上50μm以下の粒子が重量の95%を占めるものとなるようにした。
【0051】
ポリプロピレン樹脂を用いて、射出成形法により、図7に示したような形状の防湿性の外筒11に相当する外容器を作成した。外容器にはヒンジで連結した蓋13が一体に成形されており、この蓋13により、容器を密封することができる。外容器の寸法は、上端外径が約30mm、高さは約43mmである。
この外容器に前記樹脂成型体を挿入した。樹脂成型体の側壁の外周には微細なV字状の通気溝を設け、底面には貫通孔17を設けたため、挿入は円滑に行うことができた。
【0052】
容器の蓋を20℃、65%RHの環境において1分間開いた状態で保持した後、蓋を閉めて、容器内の相対湿度が10%RH未満になるまでに要する時間を2個のサンプルについて測定した。この結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
このように、蓋を閉じてから7時間後には、容器内の相対湿度が10%未満に到達することが分かった。次に、容器内の相対湿度を10%以下に保持しうる容器の保存期間と吸水量の関係を調べた。図9は、樹脂成型体の吸水量と容器内の相対湿度の関係を示したグラフである。この結果から吸水量423mgまでは、容器内の相対湿度を10%未満に保持し得ることが分かった。
【0055】
次に、この容器の保存性を推定するため、40℃、90%RHの雰囲気中と20℃、65%RHの雰囲気中において、1日の透過水分量を調べ、この値から容器内部を10%RH未満に保持できる日数を推定した。この結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
このように、本発明に係る吸湿能力を有する樹脂成型体を用いた実施例1の乾燥容器は、過酷な環境で約1年、通常の環境で約2年の湿度保持能力を有するものと推定される。なお、吸湿性を有する内筒が完全に吸湿すると、体積が増加するため、防湿性の外筒との嵌め合い寸法の関係によっては、外筒の蓋の開閉に支障が生じるようにすることができる。このようにすると、外筒の蓋の開閉の具合によって内筒の吸湿度合いを推定することができるので、誤って吸湿済みの容器を使ってしまうといったトラブルを未然に防止することも可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・成型体
2・・・ベース樹脂
3・・・乾燥剤粒子
4・・・微細なクラック
5・・・吸湿した乾燥剤粒子
10・・・乾燥容器
11・・・防湿性の外筒
12・・・吸湿性を有する内筒
13・・・蓋
14・・・内容物
15・・・水蒸気の侵入
16・・・インナーリング
17・・・貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂中に、水分を吸収して体積が増加する乾燥剤を分散した樹脂組成物を成形してなる、吸湿能力を有する樹脂成型体であって、前記ベース樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂および直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主たる成分とし、曲げ弾性率が80MPa以上240MPa以下であり、前記乾燥剤は、重量の80%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が5μm以上100μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に35%以上75%以下含むことを特徴とする吸湿能力を有する樹脂成型体。
【請求項2】
前記ベース樹脂の曲げ弾性率は、95MPa以上190MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸湿能力を有する樹脂成型体。
【請求項3】
前記乾燥剤は、重量の90%以上が、酸化カルシウムまたは塩化カルシウムの、粒径が15μm以上50μm以下の粒子からなり、前記樹脂組成物は、該乾燥剤を樹脂組成物中に40%以上60%以下含むことを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿能力を有する樹脂成型体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成型体を内容器または乾燥部材として内部に具備したことを特徴とする乾燥容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−17353(P2012−17353A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153720(P2010−153720)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】