説明

吸着ヒートポンプシステム及びコージェネレーションシステム

【課題】 ガスエンジン(又は燃料電池)による発電、温水の供給に加えて冷熱も供給可能な高効率のコージェネレーションシステムを提供する。
【解決手段】 ガスエンジン(又は燃料電池)5の温熱を冷熱に転換するとともに、例えば冷房運転時において、上水を貯湯タンク4に貯める前に、再生中の吸着器6と接続されている凝縮器2と、吸着中の吸着器3に通水する。こうすることで、再生中の吸着器6の吸着材に含まれる水分の脱離量を増加できるとともに、吸着中の吸着器3では、吸着によって発熱中の吸着材を冷却することで水分吸着量を増加させることができる。通水された水はいったん貯湯タンク4に貯溜され、この貯湯タンク4からガスエンジン(又は燃料電池)5へ通水する上水の流量を調整することで、得られる温水の温度を制御する。温水は再生中の吸着器に通水して吸着材から水分を脱離し、通水後の温水は貯湯タンク4に戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着ヒートポンプシステム、及び、ガスエンジン又は燃料電池と当該吸着ヒートポンプシステムを組み合わせたコージェネレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスエンジン又は燃料電池を用いたコージェネレーションシステムは、貯湯槽(貯湯タンク)とガスエンジン又は燃料電池のみから構成されており、発電と温水を供給するように構成されていた。燃料から得られるエネルギーとしては、発電量=20%〜30%、温水熱量=50%〜60%であり、総合効率として約85%程度が得られていた。
【0003】
しかしながら上記コージェネレーションシステムでは、夏期においては温水の利用量が大きく減少し、発電に貯湯槽に貯まる温水が消費されないことから、結果として発電量を落とすことで対処することが避けられなかった。このため、冬期ではコージェネレーションの効率を高めることができるが、夏期では発電量及び温水利用量が大きく低下し、通年で総合した実質的な熱効率はあまり高くなかった。
【0004】
そこで、夏期に余った温熱を有効利用するため、特許文献1は吸着ヒートポンプを利用して温熱を冷熱に転換するコージェネレーションシステムを開示している。この特許文献1では、吸着材としてポリアクリル酸ナトリウム架橋体を用いることで、吸着材の再生熱源が例えば65℃程度であっても吸着ヒートポンプとして成立し得るとしている。
【特許文献1】特開2004−14444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、効率よく冷熱を得るためには吸着材の再生熱源の温度として少なくとも60℃以上が必要となり、熱需要側が必要な冷熱量を確保するには多量の吸着材が必要になり、コスト、設置容積ともに大きなものとなってしまっていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、吸着器が吸着過程にあるときに上水を通水するとともに、吸着器が再生過程にあるときは当該吸着器に接続されている凝縮器に上水を通水するように構成されている、吸着ヒートポンプシステムが提供される。これにより、吸着器内の吸着材の吸着量スイング量(吸放湿率)が増加され、高効率の吸着ヒートポンプシステムが得られる。
【0008】
前記の吸着ヒートポンプシステムにおいては、吸着器に接続される蒸発器、及び、真空ポンプを更に備えることが好ましい。これにより、吸着ヒートポンプの具体的構成が実現される。
【0009】
また、前記の吸着ヒートポンプシステムにおいては、前記吸着器には少なくともシリカゲル又はゼオライトが吸着材として充填されていることが好ましい。この構成では、吸着材として一般的なものを利用することでコスト低減を図ることができる。
【0010】
前記の吸着ヒートポンプシステムにおいては、吸着中の吸着器に上水を通水することによって吸着性能を向上させることが好ましい。こうすることで、吸着ヒートポンプシステムの効率が大きく向上する。
【0011】
本発明の第2の観点によれば、発電のためのガスエンジン又は燃料電池を備えるとともに、当該ガスエンジン又は燃料電池から得られる温熱を冷熱に転換するための前述の吸着ヒートポンプシステムを備えたコージェネレーションシステムが提供される。これにより、高効率のコージェネレーションシステムを得ることができる。
【0012】
前記のコージェネレーションシステムにおいては、前記ガスエンジン又は燃料電池の排熱温度が40℃〜60℃の範囲であることが好ましい。即ち、本発明では吸着ヒートポンプシステムの吸着量スイング量が増加することによって、吸着器の再生熱源が低温であっても高効率が得られるため、排熱温度が上記のような低温領域であっても良好な効率が得られる。例えば、低温で駆動する固体高分子型燃料電池を熱源として用いた場合でも高効率が得られる。
【0013】
前記のコージェネレーションシステムにおいては、電気、温水とともに冷熱を同時供給可能に構成されていることが好ましい。この結果、温水利用量が低下する夏期でも、エネルギーを効率的に有効利用できる。
【0014】
前記のコージェネレーションシステムにおいては、吸着過程にある前記吸着器又は前記凝縮器に通水された後の上水を貯溜する貯湯タンクを更に備えることが好ましい。こうすることで、貯湯タンクがバッファタンクとしての機能を奏し、冷房や温水の利用状況に応じた制御を容易に行うことができる。
【0015】
前記のコージェネレーションシステムにおいては、吸着中の吸着器に通水して吸着熱を回収した上水を貯溜する貯湯タンクを備えることが好ましい。こうすることで、コージェネレーションシステム全体の熱効率が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る吸着ヒートポンプ及びコージェネレーションシステムの全体的な構成を示した模式図、図2は本実施形態の吸着ヒートポンプシステムの成績係数と再生熱源温度との相関を示すグラフ図である。
【0017】
図1には本発明のコージェネレーションシステムの一実施形態が示される。図1の構成では都市ガスを燃料とする家庭用のガスエンジン5と吸着ヒートポンプを組み合わせたコージェネレーションが実現されており、ガスエンジン5の発電効率は約20%程度である。
【0018】
吸着ヒートポンプは冷熱生成を行うシステムであって、2つの吸着器3・6、蒸発器1、凝縮器2、及び、系を真空に保つための図示しない真空ポンプにより構成される。2つの吸着器3・6のそれぞれにはシリカゲル及びゼオライト等の吸着材が充填される。また各吸着器3・6には、再生に必要な温熱を得るため、及び、吸着時に発生する吸着熱を除去するために、温水又は上水を通水することが可能な熱交換器が備えられている。本実施形態の吸着ヒートポンプは温排水のみで駆動可能であるが、上記熱交換器は、必要に応じて電力を使用するように構成しても良い。
【0019】
図1において、2つの吸着器3・6のうち一方は蒸発器1に接続するとともに(蒸発過程)、他方は凝縮器2に接続している(再生過程)。蒸発器1の容器内には吸着器3内の吸着材が吸着する水が充填されるとともに、間接型の熱交換器を設置している。そして、この熱交換器の伝熱管内と熱需要側の室内機7との間で、冷媒が循環するようになっている。冷媒としては、例えば、水、フロン、アルコール、液化二酸化炭素、アンモニアガス等を採用することが考えられる。蒸発器1では、蒸発器1内部に存在する水から水蒸気の形で吸着器3が水を吸着(吸湿)する際に発生する気化潜熱を利用して、室内機7へ冷熱を供給する。
【0020】
一方、コージェネレーションシステムは貯湯タンク4を備えており、この貯湯タンク4に貯溜した水をガスエンジン5に供給するようになっている。供給された水は、ガスエンジン5を冷却するとともにエンジンの排気ガスから熱を奪うことで水温50℃〜70℃の温水の状態となって、再生過程にある吸着器6へ流れる。この結果、当該吸着器6の内部に充填された吸着材は加熱されて放湿し再生する。なお、この過程で吸着材から脱離された水蒸気は凝縮器2に送られて凝縮される。温水は吸着器6で吸着材を加熱した後、40℃〜60℃程度の水温となって、再び貯湯タンク4へ戻される。
【0021】
なお、前記蒸発器1は凝縮器としての機能をも奏し得るように構成しており、また、前記凝縮器2は蒸発器としての機能をも奏し得るようになっている。また、室内機7は図示しない切換弁を介して蒸発器1及び凝縮器2に接続されている。また、ガスエンジン5から出た温水は図示しない切換弁を介して2つの吸着器3・6に接続される。この構成で、前記切換弁を切り換えると、符号1の蒸発器は凝縮器として作動するとともに、符号2の凝縮器は室内機7に接続されるとともに蒸発器として作動して、室内機7へ冷熱を供給することになる。即ち、吸着過程にあった符号3の吸着器にはエンジン5からの温水が供給されて再生過程に切り換えられ、再生過程にあった符号6の吸着器は吸着過程に切り換えられる。
【0022】
上記の切換弁の切換は所定時間毎に行われる。この結果、それぞれの吸着器3・6に蒸発過程と再生過程を交互に反復させながら、室内機7に対し冷熱を継続的に供給できるようになっている。
【0023】
以上の構成で、図1において例えば室内機7を冷房運転させる時には、上水を貯湯タンク4に貯める前に、再生過程の吸着器6に接続している凝縮器2と、吸着過程の吸着器3に通水する。これにより、再生過程の吸着器6では吸着材に含まれる水分の脱離量を増加するとともに、吸着過程の吸着器3では吸着材の吸着熱を低温の上水によって冷却することで水分吸着量を増加させることができる。即ち、吸着器3・6内の吸着材の水分吸着・脱離量(吸着量スイング量ないし吸放湿率)が増加され、高効率の吸着ヒートポンプシステムが実現されている。
【0024】
また、吸着中の吸着器3に上水を通水し、貯湯タンク4にその上水を溜めることによって、冷熱発生と同時に吸着熱を温水として回収することができ、コージェネレーションシステム全体の熱効率を高める効果も得られる。
【0025】
本実施形態では、吸着器3・6の吸着材としてシリカゲルやゼオライトが充填されており、これらの吸着材は低コストで入手できる一方、一般には低温度域における吸放湿率が小さいと言われている。しかしながら本実施形態では、再生過程の吸着器6に接続している凝縮器2及び吸着過程の吸着器3に通水することで吸放湿率が向上されて、低温度域(例えば、65℃付近)であっても良好な効率が得られる。
【0026】
なお、図1では符号3の吸着器が吸着過程にあり、符号6の吸着器が再生過程にある状態が示されているが、これが逆になったときは、上水は吸着過程の吸着器(符号6)、及び、蒸発器として作動する凝縮器(符号2)に、図略の経路を介して通水されることになる。この通水の切換は、上述の切換弁の切換と同期して行われる。
【0027】
上記の通水によって温度が上昇した上水は、貯湯タンク4にいったん貯められた後、上述のとおりガスエンジン5に供給される。なお、貯湯タンク4からガスエンジン5に通水する上水の流量を図略の流量調整弁などで調整することで、得られる温水の温度を制御できるようになっている。上記の構成により、吸着ヒートポンプの成績係数(有効利用エネルギー量/投入エネルギー量)を向上させるとともに、給湯を同時に行うことができる。
【0028】
また本実施形態では、電気、温水とともに冷熱を同時供給することができるので、冬期のみならず夏期においてもエネルギーを効率的に利用できる。更に本実施形態では、前記貯湯タンク4がバッファタンクとして機能することで、室内機7による冷房や図略の給湯器による温水の利用状況に応じた制御を容易に行うことができる。
【0029】
本実施形態のシステムは、燃料である都市ガスから得られるエネルギー量として、発電量は上述のとおり20%、温水熱量は65%、冷房熱量は33%であり、総合効率として約118%が得られた。貯湯タンクとガスエンジンのみから構成されているコージェネレーションシステムが前述のとおり総合効率85%であることからすると、本実施形態のコージェネレーションシステムは効率の相当な向上が得られていることが判る。
【0030】
本実施形態の吸着ヒートポンプシステムの成績係数の熱源温度との相関を図2に示す。なお、この図2には、従来の構成(吸着過程の吸着器3や凝縮器2に上水を通水しない構成)の成績係数も併せて示されている。この図2に示すように、熱源温度の全ての範囲にわたって本実施形態のシステムが良好な成績係数を示している。これは吸着材の量が少なくて済み、吸着器3・6をコンパクトにできることを意味する。また特に、熱源温度が40℃〜60℃での低温領域において、本実施形態のシステムが格段に優れた成績係数を示していることが判る。
【0031】
なお、吸着器3・6に吸着される吸着材としては、上記のシリカゲル、ゼオライトの他、活性炭、アルミナ等を使用することも可能である。また、図1の実施形態ではガスエンジンを用いたコージェネレーションシステムとなっているが、ガスエンジン5の代わりに例えば固体高分子型燃料電池を用いても良い。この固体高分子燃料電池は、例えば、都市ガス等の炭化水素を原料として水素を製造する改質器と組み合わせて用いれば良い。なお図2に示すように、本発明の吸着ヒートポンプシステムは熱源温度が低温であっても高効率が得られるので、低温で駆動する固体高分子型の燃料電池と組み合わせると特に好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸着ヒートポンプ及びコージェネレーションシステムの全体的な構成を示した模式図。
【図2】本実施形態の吸着ヒートポンプシステムの成績係数と再生熱源温度との相関を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0033】
1 蒸発器
2 凝縮器
3 吸着器(吸着過程)
4 貯湯タンク
5 ガスエンジン
6 吸着器(再生過程)
7 室内機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着器が吸着過程にあるときに上水を通水するとともに、吸着器が再生過程にあるときは当該吸着器に接続されている凝縮器に上水を通水するように構成されていることを特徴とする吸着ヒートポンプシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着ヒートポンプシステムであって、吸着器に接続される蒸発器、及び、真空ポンプを更に備えることを特徴とする吸着ヒートポンプシステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の吸着ヒートポンプシステムであって、前記吸着器には少なくともシリカゲル又はゼオライトが吸着材として充填されていることを特徴とする吸着ヒートポンプシステム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の吸着ヒートポンプシステムであって、吸着中の吸着器に上水を通水することによって吸着性能を向上させることを特徴とする吸着ヒートポンプシステム。
【請求項5】
発電のためのガスエンジン又は燃料電池を備えるとともに、当該ガスエンジン又は燃料電池から得られる温熱を冷熱に転換するための請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の吸着ヒートポンプシステムを備えたことを特徴とするコージェネレーションシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のコージェネレーションシステムであって、前記ガスエンジン又は燃料電池の排熱温度が40℃〜60℃の範囲であることを特徴とするコージェネレーションシステム。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のコージェネレーションシステムであって、発電のために固体高分子型燃料電池が用いられていることを特徴とするコージェネレーションシステム。
【請求項8】
請求項5から請求項7までの何れか一項に記載のコージェネレーションシステムであって、電気、温水とともに冷熱を同時供給可能に構成されていることを特徴とするコージェネレーションシステム。
【請求項9】
請求項5から請求項8までの何れか一項に記載のコージェネレーションシステムであって、吸着過程にある前記吸着器又は前記凝縮器に通水された後の上水を貯溜する貯湯タンクを更に備えることを特徴とするコージェネレーションシステム。
【請求項10】
請求項5から請求項9までの何れか一項に記載のコージェネレーションシステムであって、吸着中の吸着器に通水して吸着熱を回収した上水を貯溜する貯湯タンクを備えることを特徴とするコージェネレーションシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−29605(P2006−29605A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204502(P2004−204502)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】