説明

吸着分解材料、及び吸着分解材料の製造方法

【課題】揮発性有機化合物(VOC)等の有害ガスを効率的に吸着除去し得る材料及び分解に際しては、光触媒の活性をさらに向上させ、優れたガス分解能を実現し得る吸着分解材料の製造方法を提供する。
【解決手段】吸着分解材料は、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、かつ、酸化タングステンからなる光触媒と、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなるケイ素酸化物を主成分とする多孔質体とが複合され、比表面積が、300m/g以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着分解材料、及び吸着分解材料の製造方法に関し、より詳細には、大気中等に含まれる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の吸着分解性能に優れた吸着分解材料、及び吸着分解材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光吸収により励起される励起電子が持つ還元力や正孔が持つ酸化力を利用して、有機物を分解するものであり、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)等の有害ガスの分解除去に有効である。近年、多孔質体と光触媒とを複合させた吸着分解材料を用いて、多孔質体により吸着された有毒ガスを、光触媒により分解除去する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、TiO、SiO、Al、及び少なくとも1種類以上のアルカリ土類金属の酸化物を含んで構成された光触媒用組成物が開示されている。そして、この光触媒用組成物から光触媒活性を有する多孔質結晶化ガラスを得ている。
【0003】
また、特許文献2〜4には、シリケート骨格中のSi原子が多価金属で置換されている多孔質シリカ金属複合体粒子が開示されている。そして、多価金属が、触媒能発現の活性サイトとなり酸化触媒、還元触媒あるいはそれらの触媒担体として、光触媒等を含め種々の用途に使用されることが記載されている。
【0004】
また、特許文献5には、光触媒作用を有する微粉末が分散されたシリカ湿潤ゲルを一方向凍結ゲル法により成形した多孔質ハニカム構造体が開示されている。この多孔質ハニカム構造体は、空気清浄機のフィルタに用いられる。
【0005】
また、特許文献6〜10には、ゾル−ゲル法により、多孔質体に光触媒を複合させた吸着分解材料が開示されている。
【0006】
特許文献6には、細孔容積、比表面積、光触媒成分の含有量、及び粒子表面から所定深さまでの光触媒成分の含有量が規定された、光触媒成分含有多孔質体が開示されている。
【0007】
また、特許文献7には、ゾル−ゲル法により作製される湿潤ゲルを乾燥させた多孔質の構造体について、空隙率が80%以上とした触媒体が開示されている。これにより、ワンパスでの分解効率が大きな触媒体を実現している。
【0008】
また、特許文献8には、メソ多孔質テンプレート粒子の細孔内に生じた金属酸化物結晶の平均粒子径、及び加熱焼成後の結晶子変化率が規定されたメソ多孔質金属酸化物材料が開示されている。これにより、焼成時の結晶成長の抑制、及びメソ構造崩壊の抑制を図っている。
【0009】
また、特許文献9には、X線回折法において検出される結晶ピークが規定された、酸化タングステンからなる可視光応答型光触媒が開示されている。そして、この可視光応答型光触媒と多孔質無機酸化物とを含有する可視光応答型光触媒が開示されている。
【0010】
特許文献10には、多孔質材料にアルカリ土類金属の酸化物が散在しており、この酸化物の表面に光触媒が付着しているNOxガス吸着分解剤が開示されている。特許文献10では、多孔質材料にアルカリ土類金属の酸化物を散在させることにより、多孔質材料の比表面積の増大させて、NOxの効率的な吸着分解を図っている。
【0011】
また、非特許文献1には、可視光応答型光触媒として、酸化タングステンに助触媒としての白金が担持された複合型光触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−142606号公報(2008年 6月26日公開)
【特許文献2】特開2006−151799号公報(2006年 6月15日公開)
【特許文献3】特開2006−151798号公報(2006年 6月15日公開)
【特許文献4】特開2007−112948号公報(2007年 5月10日公開)
【特許文献5】特開2007−289863号公報(2007年11月 8日公開)
【特許文献6】特開2004−283691号公報(2004年10月14日公開)
【特許文献7】特開2005−169298号公報(2005年 6月30日公開)
【特許文献8】特開2007− 1826号公報(2007年 1月11日公開)
【特許文献9】特開2007− 98293号公報(2007年 4月19日公開)
【特許文献10】特開2007−244974号公報(2007年 9月27日公開)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「酸化タングステンをベースとした新規高活性可視光応答型光触媒」,安部 竜,機能材料,2008年12月号,Vol.28 No.12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献6〜10に開示された従来技術では、吸着分解材料における、吸着能または分解能の何れかを向上させることに終止している。それゆえ、ガス吸着能またはガス分解能の何れかが律速となり、優れた吸着分解能を発揮できないという問題がある。すなわち、光触媒の触媒活性を向上させても、この触媒活性に見合った多孔質体のガス吸着能がないとき、結果として、吸着分解材料のガス吸着分解能は、低下してしまうという問題がある。
【0015】
また、例えば非特許文献1に記載のような、助触媒が担持された光触媒の活性は、助触媒の担持状態(粒径、量、分散度)に大きく左右され、特に、光触媒に担持される助触媒の量に影響する。非特許文献1に記載のような光触媒を多孔質体に複合させたとしても、助触媒の担持量は変化せず、光触媒の触媒活性以上に触媒活性を向上させることができないという問題がある。吸着分解材料のガス分解能は、多孔質体に複合された光触媒の活性のみに依存し、さらなるガス分解能の向上を実現することができないという問題がある。
【0016】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、揮発性有機化合物(VOC)等の有害ガスを効率的に吸着分解するとともに、分解に際しては、光触媒の活性をさらに向上させ、優れたガス分解能を実現し得る吸着分解材料、及び吸着分解材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、助触媒が担持された酸化タングステンからなる光触媒と多孔質体とを複合した吸着分解材料について、鋭意検討した結果、多孔質体内部に上記助触媒と同じ金属元素を有する助触媒を配置させ、さらに比表面積を一定値以上にすることにより、VOCの吸着分解機能が飛躍的に向上したことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の吸着分解材料は、上記の課題を解決するために、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、かつ、酸化タングステンからなる光触媒と、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなるケイ素酸化物を主成分とする多孔質体とが複合され、比表面積が、300m/g以上であることを特徴としている。
【0019】
上記第1の助触媒は、白金、パラジウム、酸化銅(II)からなる群から選ばれる材料からなることが好ましい。
【0020】
本発明の吸着分解材料では、上記光触媒の粒径は、0.1μm〜1mmであることが好ましい。
【0021】
本発明の吸着分解材料では、上記第1の助触媒の粒径は、上記光触媒の粒径の1/10以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の吸着分解材料では、上記第2の助触媒は、上記第1の助触媒よりも小さい粒径になっていることが好ましい。
【0023】
本発明の吸着分解材料では、上記多孔質体に対する上記第2の助触媒の量は、0.001〜1重量%であることが好ましい。
【0024】
本発明の吸着分解材料では、上記多孔質体には、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の酸化物が含まれていることが好ましい。
【0025】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、上記の課題を解決するために、ゲル体の吸着分解材料を製造する吸着分解材料の製造方法において、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持された酸化タングステンからなる光触媒を作製する光触媒作製工程と、シリカゾルに上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を分散させた後、上記第1の助触媒が担持された光触媒を複合させる複合工程とを含むことを特徴としている。
【0026】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、上記複合工程によって複合されたゾルを、ゾル−ゲル法によりゲル化し、ゲル体を得るゲル化工程と、上記ゲル体を乾燥焼成する乾燥焼成工程とを含むことが好ましい。
【0027】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、上記乾燥焼成工程では、上記ゲル体をスプレードライにより乾燥することが好ましい。
【0028】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、上記複合工程では、上記シリカゾル中に、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の炭酸塩及び水酸化物の両方、又は該金属の炭酸塩若しくは水酸化物の何れか一方、又は第3アミンを添加することが好ましい。
【0029】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、上記複合工程では、シリカゾルに、上記第2の助触媒をイオンの状態で分散させることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の吸着分解材料は、以上のように、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、かつ、酸化タングステンからなる光触媒と、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなるケイ素酸化物を主成分とする多孔質体とが複合された吸着分解材料であって、比表面積が、300m/g以上である構成である。
【0031】
本発明の吸着分解材料の製造方法は、以上のように、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持された酸化タングステンからなる光触媒を作製する光触媒作製工程と、シリカゾルに上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を分散させた後、上記第1の助触媒が担持された光触媒を複合させる複合工程とを含む構成である。
【0032】
それゆえ、揮発性有機化合物(VOC)等の有害ガスを効率的に吸着分解するとともに、分解に際しては、光触媒の活性をさらに向上させ、優れたガス分解能を実現し得る吸着分解材料を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の助触媒が白金(Pt)である場合における、光触媒の有機物分解機構を示す説明図である。
【図2】ゾル−ゲル法の反応機構を示す説明図である。
【図3】実施例1及び比較例1〜3の各サンプルにおける吸着分解能を示し、(a)は、ホルムアルデヒド濃度の経時的変化を示すグラフであり、(b)は、炭酸ガス濃度の増加量の経時的変化を示すグラフである。
【図4】実施例2〜5及び比較例4、5の各サンプルにおけるホルムアルデヒド濃度減少量、及び炭酸ガス増加量を示すグラフである。
【図5】吸着分解材料における比表面積とガス吸着分解効果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の吸着分解材料、及び吸着分解材料の製造方法に関する実施の一形態について説明すれば以下のとおりである。
【0035】
(A)吸着分解材料
本実施形態の吸着分解材料は、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、かつ酸化タングステンからなる光触媒と、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなるケイ素酸化物を主成分とする多孔質体とが複合された吸着分解材料であって、比表面積が、300m/g以上であるというものである。
【0036】
酸化タングステン(WO)からなる光触媒は、その表面に貴金属または金属酸化物等の助触媒が担持されることで、光触媒の機能が良好になることが知られている。本発明の吸着分解材料は、上記光触媒とケイ酸酸化物を主成分とする多孔質体とが複合した構造になっている。多孔質体は、VOC等の有毒ガスを吸着し、その内部に保持する機能を有する。そして、多孔質体に吸着した有毒ガスは、上記光触媒により分解される。
【0037】
第1の助触媒は、光触媒に担持されており、該光触媒によるガス分解機能を促進する機能を有する。本発明の吸着分解材料では、多孔質体にも、第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒が含まれている。さらに、比表面積が、300m/g以上である。これにより、ガス吸着性能が向上するとともに、光触媒によるガス分解機能が飛躍的に向上する。
【0038】
以下に、光触媒と、多孔質体とについて、具体的に説明する。
【0039】
(1)光触媒
本実施形態における光触媒は、酸化タングステンからなり、第1の助触媒が担持されている。ここでいう「助触媒」とは、光触媒の表面に担持されることでその光触媒の活性を向上させる材料のことを意味する。酸化タングステンは、可視光照射下で光触媒活性を示し、第1の助触媒として貴金属または金属酸化物が担持されることで、可視光下において高効率で有機物を分解する。図1は、第1の助触媒が白金(Pt)である場合における、光触媒の有機物分解機構を示す説明図である。
【0040】
同図に示されるように、酸化タングステンからなる光触媒は、光吸収によって、励起電子(e)と正孔(h)とが生成される。そして、励起電子(e)と正孔(h)とがそれぞれ、酸素分子及び有機物と反応することで、有機物の酸化分解が進行する。励起電子は、酸素分子との反応に消費されない場合には、正孔と再結合してともに消失する。その結果、有機物の酸化分解は、ほとんど進行しない。
【0041】
光触媒に白金が担持されていない場合、光触媒上には励起電子が集まる活性点が存在しない。このため、励起電子による酸素の2電子還元反応(2電子還元で過酸化水素が生成する反応)が起きる確率が低く、結果として、光触媒の活性が低くなる。一方、第1の助触媒として白金が担持されている場合、酸化タングステンから白金へ励起電子が移動し蓄積されることにより、酸素の2電子還元反応が効率よく進行し、励起電子が消費される。その結果、正孔(h)が残りやすくなり、この正孔(h)によって、高効率な有機物の酸化分解が進行する。
【0042】
すなわち、酸化タングステンからなる光触媒に担持された第1の助触媒は、光吸収により生成された励起電子を集める機能を有する。このような第1の助触媒は、光吸収により生成された励起電子を集める機能を有する材料であれば、特に限定されない。特に、本実施形態において、第1の助触媒は、上述の白金に加え、パラジウム(Pd)、酸化銅(II)(CuO)からなる群から選ばれる材料からなることが好ましい。
【0043】
また、光触媒の粒径は、0.1μm〜1mmになっていることが好ましい。光触媒の粒径が1mmよりも大きい場合、多孔質体内の単位空間に含まれる光触媒の数が少なくなり、その結果、分解に寄与する表面積が小さくなるため、好ましくない。一方、光触媒の粒径が0.1μmよりも小さい場合、結晶性が悪くなり、分解効率が悪くなるため、好ましくない。
【0044】
また、第1の助触媒の粒径は、光触媒の粒径の1/10以下になっていることが好ましい。第1の助触媒の粒径が、光触媒の粒径の1/10よりも大きい場合、第1の助触媒が光触媒の受光を妨げるため、好ましくない。光触媒の受光を良好にするために、第1の助触媒は、光触媒の表面積に対する面積被覆率が低く、かつ、粒子数が多いことが好ましい。
【0045】
また、本実施形態において、光触媒上への第1の助触媒への担持には、光触媒の光還元力を利用した光析出法が用いられる。すなわち、光触媒の粉末を、第1の助触媒の前駆体を含む水溶液中に懸濁させ、この懸濁液に光触媒を励起する光を照射する。これにより、第1の助触媒の前駆体は、光触媒に生成した励起電子により還元され、金属微粒子として光触媒上に析出する。なお、第1の助触媒として白金を用いた場合、上記前駆体としては、例えば塩化白金酸(HPtCl)、ジニトロジアミノ白金が挙げられる。また、第1の助触媒としてパラジウムを用いた場合、上記前駆体としては、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナートが挙げられる。また、第1の助触媒として酸化銅(II)を用いた場合、上記前駆体としては、例えば、酢酸銅(II)、塩化銅が挙げられる。
(2)多孔質体
本実施形態における多孔質体は、ケイ素酸化物を主成分とし、上述した第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒が含まれている。すなわち、多孔質体を構成する、ケイ素酸化物からなる3次元網目骨格に、第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒が散在した構造になっている。
【0046】
この多孔質体は、ゾル−ゲル法により得られる。ここで、まず、ゾル−ゲル法について、図2に基づいて説明する。
【0047】
ゾル−ゲル法では、図2に示すように、まず、アルコキシシランからなるゾルに水を添加すると加水分解する。次いで、ゾル−ゲル法触媒の働きによって、生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。OR基として記載された例えばエトキシ基等のアルコキシ基が水酸基となる。また、触媒の働きにより、エポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。加水分解されたアルコキシド同士の重縮合反応が進行する。この反応は、常温で進行し、ゾルからなる溶液は調製中に粘度が増加してゲル体となる。
【0048】
本実施形態では、アルコキシシランからなるゾル(シリカゾル)中に、ゲル化触媒を添加することにより、多孔質ゲルを得ている。上記ゲル化触媒としては、例えばマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の酸化物、または第3アミンが挙げられる。
【0049】
上記のゲル化触媒が添加されることにより、多孔質体の比表面積を向上させることができる。また、マンガン等の金属酸化物よりも第3アミンをゲル化触媒として添加したほうが、多孔質体の比表面積が向上する。それゆえ、多孔質体には、ゲル化触媒として、第3アミンが含まれていることが特に好ましい。
【0050】
また、シリカゾルに第2の助触媒を分散させることにより、光触媒の活性を向上させている。多孔質ゲルに対する第2の助触媒の量は、0.001〜1重量%であることが好ましい。後述の実施例に示すように、多孔質体ゲルに対する第2の助触媒の量が0.001重量%よりも低い場合、吸着分解材料のガス吸着分解能が急激に低下し、好ましくない。また、多孔質体ゲルに対する第2の助触媒の量が1重量%よりも高い場合、吸着分解材料のガス吸着分解効果は若干低下し、かつ多孔質体の透明度が低下することにより、光触媒の受光効率が低下するため、好ましくない。
【0051】
また、本実施形態では、シリカゾルに、第2の助触媒を、イオンの状態で添加することが好ましい。「イオンの状態で添加する」とは、第2の助触媒が貴金属である場合、該貴金属の塩として添加することを意味する。第2の助触媒が金属酸化物である場合、金属の塩として添加した後に、多孔質体の焼成により酸化物とすることを意味する。このように、第2の助触媒をイオンの状態で添加することにより、シリカゾル中に満遍なく第2の助触媒が分散し、得られた多孔質体ゲルは、第2の助触媒が均一に散在したものになる。
【0052】
本実施形態において、イオンの状態で添加するために使用される第2の助触媒の形態としては、例えば、塩化白金酸、塩化パラジウム水溶液、酢酸銅水溶液等が挙げられる。
【0053】
(B)本実施形態における吸着分解材料の製造方法
本実施形態における吸着分解材料は、シリカゾルに、第2の助触媒としての貴金属または金属酸化物を分散させた後、第1の助触媒が担持された光触媒を複合させることにより得られる。
【0054】
すなわち、本実施形態における吸着分解材料の製造方法は、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持された酸化タングステンからなる光触媒を作製する光触媒作製工程と、シリカゾルに上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を分散させた後、上記第1の助触媒が担持された光触媒を複合させる複合工程とを含む。
【0055】
すなわち、第2の助触媒として第1の助触媒と同じ金属元素を有する貴金属または金属酸化物が分散したシリカゾルと第1の助触媒が担持された光触媒とを混合する。そして、光触媒を混合したシリカゾルを上記ゾル−ゲル法によりゲル化し、吸着分解材料となるゲル体を得る。次いで、このゲル体を乾燥、焼成することにより、吸着分解材料を製造する。
【0056】
本実施形態では、シリカゾル中に、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の炭酸塩及び水酸化物の両方、又は該金属の炭酸塩若しくは水酸化物の何れか一方を添加することが好ましい。これにより、得られた吸着分解材料の比表面積を向上させることが可能になる。なお、上記の金属の炭酸塩又は水酸化物は、ゲル体を乾燥・焼成したとき、金属酸化物になる。すなわち、得られる吸着分解材料は、多孔質体に、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の酸化物が含まれているものになる。
【0057】
また、本実施形態では、シリカゾル中にゲル化触媒として第3アミンを添加し、急激にシリカゾルのpHを7以上まで上昇させることによりゲル化させることが好ましい。これにより、得られた吸着分解材料の比表面積を向上させることが可能になる。そして、比表面積の向上によりガス吸着能が上昇することで、光触媒周囲のガス量が多くなって該ガスとの接触頻度が高まり、分解効率が良くなる。
【0058】
また、本実施形態では、上記ゲル体をスプレードライにより乾燥することが好ましい。これにより、ゲル体が急激に乾燥し、得られた吸着分解材料の比表面積を向上させることが可能になる。
【0059】
以上の製造方法により得られた吸着分解材料は、多孔質体を構成する3次元網目骨格に第2の助触媒が散在するとともに、第1の助触媒が担持された光触媒が上記3次元網目骨格の網目部分に収容された構造になる。すなわち、多孔質体に複合された光触媒は、その表面に担持された第1の助触媒に加え、3次元網目骨格に散在した第2の助触媒にも接触する。さらに換言すると、本実施形態の吸着分解材料は、例えば、第1の触媒が担持された光触媒を第2の助触媒を含む多孔質体が包み込む形で分散した構成になっている。
【0060】
白金等の助触媒が担持された光触媒の活性は、助触媒の担持(接触)状態によって大きく影響する。従来の第2の助触媒を用いない実施形態では、第1の助触媒のみの効果に頼るため、多孔質体に吸着されたガスの一部は光触媒の効果が及ばず、効果を得られなかった。本実施形態の吸着分解材料では第2の助触媒を用いるため、光触媒と第1の助触媒とにより発生するエレクトロンが多孔質体内にも効果を及ぼす。それゆえ、本実施形態の吸着分解材料は、ガス分解能に優れたものになっていると考えられる。
【0061】
光触媒は、その表面に吸着されたガスのみ光分解する。光触媒は、吸着能が低いので、光触媒だけでは分解能が上がらない。また、比表面積が大きいシリカ多孔質体は、ガス吸着能が高い。しかしながら、分解能はない。光触媒の表面を吸着能の高いシリカで覆うことにより、光触媒の表面のガス濃度を上げることができる。ここで、光触媒と吸着能の高いシリカ多孔質体とを複合化してもあまり分解能は上がらない。本実施形態では、シリカ多孔質体に第二触媒を微量入れることにより、光分解能は大幅改善される。原因はよくわからないが、それぞれの触媒単独使用時には大きな分解効果が得られないことから、第一触媒が捕獲したエレクトロンが近接する第二触媒の作用で光触媒表面近傍を動きやすくなり、光触媒−多孔質体界面の吸着ガスの分解効率が高くなるためと予想される。
【0062】
また、本実施形態の吸着分解材料は、比表面積が、300m/g以上である。後述の実施例に示すように、比表面積が300m/gよりも小さい場合、吸着分解材料は、ガス吸着能が低く、優れた吸着分解能を発揮できない。このため、吸着分解材料のガス吸着分解能が小さくなるので好ましくない。
【0063】
以上のように、本実施形態の吸着分解材料は、貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、酸化タングステンからなる光触媒と、ケイ素酸化物を主成分とし、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなる多孔質体とが複合された吸着分解材料であって、比表面積が、300m/g以上である。これにより、吸着性能が高く、かつ、光触媒によるガス分解機能が飛躍的に向上した吸着分解材料を実現することができる。
【0064】
また、本実施形態の吸着分解材料は、このようにガス吸着分解能に優れているので、例えば、例えば、トルエン(CCH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、アセトアルデヒド(CHCHO)、その他の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等の有害ガスを多数吸着分解させることができる。
【0065】
尚、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0066】
本発明の吸着分解材料のガス分解効果について、確認を行うために実験を行った。
【0067】
実験においては、ガス吸着分解能の把握として揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の一種であるホルムアルデヒド(HCHO)濃度の低減効果についての確認を行った。ホルムアルデヒド(HCHO)濃度の低減効果は、ホルムアルデヒド濃度変化、及びホルムアルデヒドの分解により生成される炭酸ガスの濃度変化を指標とした。
【0068】
具体的には、100ppmのホルムアルデヒドを封入した容器内に、表1における実施例1及び比較例1〜3の各サンプル(粉砕粉)を0.5g入れ、ホルムアルデヒド濃度の経時的変化を確認した。なお、この実験では、第1の助触媒として白金を使用し、光触媒として酸化タングステンを用いた。そして、多孔質体として、ケイ素酸化物及び酸化マグネシウムを含むものを使用した。また、第2の助触媒としての白金を使用した。また、実験環境としては、容器の容量として、5Lのものを使用した。吸着分解材料のガス吸着分解能は、蛍光灯で1000ルクス照射下で放置した際の、ホルムアルデヒドおよび炭酸ガスの濃度変化により評価した。
【0069】
【表1】

【0070】
試験体は、表1に示す、第2の助触媒として白金を10重量%含有する多孔質体と第1の助触媒としての白金が担持された酸化タングステン粒子とが複合した吸着分解材料(多孔質体(+Pt) /酸化タングステン(Pt))を実施例1とした。また、白金を含有しない多孔質体と、白金が担持された酸化タングステン粒子とが複合した吸着分解材料(多孔質体/酸化タングステン(Pt))を比較例1とした。また、白金が担持された酸化タングステン粒子のみを含む吸着分解材料(酸化タングステン(Pt))を比較例2とした。また、第2の助触媒として白金を10重量%含有する多孔質体のみを含む吸着分解材料(多孔質体(+Pt) )を比較例3とした。なお、実施例1、及び比較例1,3の各サンプルの比表面積は、600m/gである。また、比較例2サンプルの比表面積は、50m/gである。
【0071】
実験の結果を、図3に示す。図3(a)は、実施例1及び比較例1〜3の各サンプルにおけるホルムアルデヒド濃度の経時的変化を示すグラフである。また、図3(b)は、実施例1及び比較例1〜3の各サンプルにおける炭酸ガス濃度の増加量の経時的変化を示すグラフである。
【0072】
図3(a)に示されるように、実施例1及び比較例1〜3の各サンプルについて、ホルムアルデヒド濃度低減効果を確認することができる。また、図3(b)に示されるように、炭酸ガス濃度の増加効果は、実施例1及び比較例1〜3のサンプル間で顕著な差が生じた。実施例1のサンプルは、第2の助触媒を含有する多孔質体と、第1の助触媒が担持された光触媒とが複合されている。このため、効率よくホルムアルデヒドを吸着分解していることが分かる。一方、比較例1のサンプルは、多孔質体に第2の助触媒を含有しない。このため、ホルムアルデヒドの分解により生成される炭酸ガスの増加量が、実施例1のサンプルより低くなっている(図3(b)参照)。それゆえ、比較例1のサンプルは、ホルムアルデヒドの分解効率が悪く、多孔質体による吸着後、分解されていない状態で残っている気体が多いことが分かる。また、比較例2のサンプルは、ホルムアルデヒドを一定の割合で吸着分解しているが、ホルムアルデヒドの分解速度が実施例1よりも遅いことが分かる(図3(b)参照)。また、比較例3のサンプルは、多孔質体の吸着により、一定量までホルムアルデヒド濃度を減少させる。その一方で、光触媒を含有しないため、ホルムアルデヒドが分解されない。このため、ホルムアルデヒドの吸着量が一定量以上に増えると、吸着分解効果を失った。
【0073】
以上のことから、実施例1及び比較例1〜3のサンプルの中でも、実施例1のサンプルが最もホルムアルデヒドの吸着分解効果が顕著であることがわかる。
【0074】
次に、吸着分解材料のガス分解効果と多孔質体に対する第2の助触媒の量との関係について、実験を行った。
【0075】
この実験においては、100ppmのホルムアルデヒドを封入した容器内に、表2における実施例2〜5及び比較例4、5の各サンプル(粉砕粉)を0.5g入れ、蛍光灯で1000ルクス照射下で1時間放置後のホルムアルデヒド濃度の低減効果を確認した。なお、この実験で使用される実施例2〜5及び比較例4、5の各サンプルの材料及び組成は、多孔質体に対する第2の助触媒の量が異なる以外、実施例1のサンプルと同様である。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、多孔質体に対する第2の助触媒の量が、1重量%、0.10重量%、0.01重量%、0.001重量%であるサンプルをそれぞれ、実施例2〜5とした。また、多孔質体に対する第2の助触媒の量が0重量%である(すなわち、第2の助触媒を含有しない)サンプルを比較例4とした。また、多孔質体に対する第2の助触媒の量が10重量%であるサンプルを比較例5とした。
【0078】
実験の結果を、図4に示す。図4は、実施例2〜5及び比較例4、5の各サンプルにおけるホルムアルデヒド濃度減少量、及び炭酸ガス増加量を示すグラフである。
【0079】
同図に示されるように、第2の助触媒を含有しない比較例4のサンプルは、ホルムアルデヒド濃度減少量、及び炭酸ガス増加量が共に低くなっていることが分かる。また、比較例5のサンプルは、吸着分解能が若干低下していることが分かる。一方、実施例5のサンプルは、第2の助触媒を含有しない比較例4のサンプルと比較して、格段に、ホルムアルデヒドのガス濃度減少量が高くなっている。そして、実施例2〜4の各サンプルは、実施例5のサンプルと同等のホルムアルデヒドのガス濃度減少量及び炭酸ガス濃度増加量になっていることが分かる。このことは、多孔質体ゲルに対する第2の助触媒の量が0.001重量%よりも低い場合、吸着分解材料のガス吸着分解能が急激に低下することを意味する。そして、多孔質体ゲルに対する第2の助触媒の量を0.001〜1重量%にすることにより、優れたガス吸着分解能を実現できることが分かる。
【0080】
次に、吸着分解材料における比表面積とガス分解効果との関係について、実験を行った。なお、表3に示すように、この実験で使用されるサンプルの材料及び組成は、多孔質体がケイ素酸化物を主成分とする(酸化マグネシウムを含まない)こと、及び比表面積が異なる以外、実施例1のサンプルと同様である。
【0081】
【表3】

【0082】
また、この実験では、シリカゾルのpHを調整することにより、得られる吸着分解材料の比表面積を50〜700m/gまで変化させたサンプル(粉砕粉)を用いた。そして、各サンプル0.5gを、100ppmのホルムアルデヒドを封入した容器内に入れ、30分放置後のホルムアルデヒド濃度の低減効果、及び炭酸ガス濃度の増加効果を確認した。実験の結果を、図5に示す。図5は、吸着分解材料における比表面積とガス吸着分解効果との関係を示すグラフである。
【0083】
同図に示されるように、比表面積が大きくなるに従い、ホルムアルデヒドのガス濃度減少量及び炭酸ガス濃度増加量が大きくなることが分かる。そして、比表面積が300m/gになったとき、ガス濃度減少量及び炭酸ガス濃度増加量が略100%に達することが分かる。そして、比表面積が300m/gよりも大きい場合、ガス濃度減少率がそれほど増加せず、100%に近づき、吸着分解性能が安定していることが分かる。このことは、比表面積が300m/gよりも小さい場合、吸着分解材料は、ガス吸着能が低くなり、優れたガス吸着分解能を発揮できないことを意味する。すなわち、吸着分解材料のガス吸着に最適な比表面積は、300m/g以上であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の吸着分解材料は、付着性、吸着性能、分解性能の優れたものである。したがって、揮発性有機化合物(VOC)等の有害ガスを除去するフィルタ等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持され、かつ、酸化タングステンからなる光触媒と、上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を含有してなるケイ素酸化物を主成分とする多孔質体とが複合され、
比表面積が、300m/g以上であることを特徴とする吸着分解材料。
【請求項2】
上記第1の助触媒は、白金、パラジウム、酸化銅(II)からなる群から選ばれる材料からなることを特徴とする請求項1に記載の吸着分解材料。
【請求項3】
上記光触媒の粒径は、0.1μm〜1mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の吸着分解材料。
【請求項4】
上記第1の助触媒の粒径は、上記光触媒の粒径の1/10以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の吸着分解材料。
【請求項5】
上記第2の助触媒は、上記第1の助触媒よりも小さい粒径になっていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の吸着分解材料。
【請求項6】
上記多孔質体に対する上記第2の助触媒の量は、0.001〜1重量%であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の吸着分解材料。
【請求項7】
上記多孔質体には、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の酸化物が含まれていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の吸着分解材料。
【請求項8】
ゲル体の吸着分解材料を製造する吸着分解材料の製造方法において、
貴金属または金属酸化物からなる第1の助触媒が担持された酸化タングステンからなる光触媒を作製する光触媒作製工程と、
シリカゾルに上記第1の助触媒と同じ金属元素を有する第2の助触媒を分散させた後、上記第1の助触媒が担持された光触媒を複合させる複合工程とを含むことを特徴とする吸着分解材料の製造方法。
【請求項9】
上記複合工程によって複合されたゾルを、ゾル−ゲル法によりゲル化し、ゲル体を得るゲル化工程と、
上記ゲル体を乾燥焼成する乾燥焼成工程とを含むことを特徴とする請求項8に記載の吸着分解材料の製造方法。
【請求項10】
上記乾燥焼成工程では、上記ゲル体をスプレードライにより乾燥することを特徴とする請求項9に記載の吸着分解材料の製造方法。
【請求項11】
上記複合工程では、上記シリカゾル中に、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガンからなる群から選ばれる金属の炭酸塩及び水酸化物の両方、又は該金属の炭酸塩若しくは水酸化物の何れか一方、又は第3アミンを添加することを特徴とする請求項8〜10の何れか1項に記載の吸着分解材料の製造方法。
【請求項12】
上記複合工程では、シリカゾルに、上記第2の助触媒をイオンの状態で分散させることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載の吸着分解材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−72961(P2011−72961A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229599(P2009−229599)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390026147)東英産業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】