説明

吸着式冷凍装置

【課題】 吸着式冷凍装置の小型化と、冷媒脱離時の冷却性能改善とを図る。
【解決手段】 密閉容器5内の上部に、冷却されることにより第1冷媒を吸着し、加熱されることにより第1冷媒を脱離する吸着材6aを備える吸着部6が構成され、下部に、吸着に伴って第1冷媒を蒸発させ、脱離に伴って第1冷媒を凝縮する蒸発部兼凝縮部7が構成される。冷媒吸着モードでは、吸着部6での第1冷媒の吸着に伴って蒸発部兼凝縮部7にて第1冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で、冷媒循環通路15を流れる第2冷媒を冷却する。冷媒脱離モードでは、冷媒循環回路15に冷却器13を組み込み、第2冷媒を外気により冷却する。第2冷媒は、熱交換器17を介して冷却対象物(エアコン冷媒)を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着材を用いる吸着式冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着式冷凍装置は、冷媒蒸気(水蒸気)を吸着・脱離可能な吸着材が配置されて冷媒蒸気の吸着・脱離が行われる吸着器と、冷媒液の蒸発により冷熱を得る蒸発器と、冷媒蒸気を冷却し凝縮させる凝縮器とを備え、これらがそれぞれ配管、バルブ等により接続されている。冷媒は蒸発器→吸着器→凝縮器→蒸発器と循環し、吸着材は冷却により冷媒蒸気を吸着し、加熱により冷媒蒸気を脱離する。吸着時の冷媒蒸気吸着量Xaと脱離時の冷媒蒸気吸着量Xdとの差である吸着量差ΔX(=Xa−Xd)が冷熱出力源となるため、Xa>Xdである必要がある。冷媒蒸気吸着量は、吸着材の温度に対応した冷媒蒸気の飽和圧力と蒸発器及び凝縮器の冷媒蒸気の圧力との比により決定されるため、Pa:吸着時の冷媒蒸気飽和圧力、Pb:脱離時の冷媒蒸気飽和圧力、Pe:蒸発圧力、Pc:凝縮圧力とすると、Pe/Pa>Pc/Pbである。吸着式冷凍装置において冷熱を得る場合、Pa>Peであり、一般的に吸着材の冷却源と凝縮器の冷却源は同一であるため、Pa≒Pcである。(冷却源は一般的に外気や冷却水である。)すなわち、Pb>Pa、Pc>Peであり、この飽和圧力に対応する温度で書き直すと、Tb>Ta、Tc>Teの関係がある。この関係の中で、冷熱出力はTbが高いほど、Ta、Tcが低いほど、Teが高いほど大きくなる。(Pe/Paが大およびPc/Pbが小)また、吸着材は吸着と脱離を繰り返すため、吸着容器を2組配し、交互に切り替えることで連続して蒸発器で冷媒の蒸発が行われるようにしている。(特許文献1参照)
【0003】
また、作動流体の相変化を利用して高温から低温へ熱輸送を行うループ型ヒートパイプは、発熱体からの熱を受け取って、液冷媒(水)を蒸発させる蒸発部と、冷媒蒸気を冷却し凝縮させる凝縮部と、蒸発部から凝縮部を経由して再び蒸発部に戻る冷媒の移動路がループ状に形成されている。凝縮部から蒸発部への冷媒の液還流は、一般には、重力の作用を利用する方法(熱サイフォン式)や毛細管力を利用する方法(ウィック式)によって行われている。すなわち、Pc≒Pe(Tc≒Te)であり、冷熱を得ることはできないが、放熱することはできる。(特許文献2参照)
【0004】
更に、上述の通り吸着式冷凍装置において、連続して蒸発器で冷媒の蒸発を行うためには2組の吸着器が必要となり、吸着式冷凍装置の体格が大型となる問題を解決するために、1組の吸着器のみとし、代わりに蓄冷材を設け、吸着材の冷媒吸着時に対象の冷却を行うと同時に蓄冷材に蓄冷し、吸着材の冷媒脱離時には蓄冷材の冷熱を利用して対象の冷却を行うものが知られている。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−223411号公報
【特許文献2】特開2000−002084号公報
【特許文献3】特開平11−037597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の吸着式冷凍装置は、連続して冷熱を得るためには2組の吸着器が必要となり、大型化する。
また、特許文献2に記載のループ型ヒートパイプは、放熱することはできるが、冷熱を得ることはできない。
また、特許文献3に記載の吸着式冷凍装置は、1組の吸着器で、吸着材の冷媒脱離時の冷却性能を改善することができるものの、代わりに蓄冷材が必要となり、小型化が不十分である。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑み、1組の吸着器で小型化を図ると共に、吸着材の冷媒脱離時の冷却性能を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、第1発明に係る吸着式冷凍装置は、
冷却されることにより第1冷媒を吸着し、加熱されることにより第1冷媒を脱離する吸着材を備える吸着部と、
前記吸着材が第1冷媒を吸着する冷媒吸着モードにて、吸着に伴って第1冷媒を蒸発させる蒸発部と、
前記吸着材が第1冷媒を脱離する冷媒脱離モードにて、脱離した第1冷媒を凝縮させて前記蒸発部へ戻す凝縮部と、
第2冷媒が前記蒸発部と熱交換可能に流通し、第2冷媒により冷却対象物の冷却を行う冷媒循環回路と、
前記冷媒脱離モードにて前記冷媒循環回路に組み込まれて、前記第2冷媒を外気により冷却する冷却器と、
を含んで構成され、
前記冷媒吸着モードでは、前記吸着部での第1冷媒の吸着に伴って前記蒸発部にて第1冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で第2冷媒を冷却し、前記冷媒脱離モードでは、前記冷却器により第2冷媒を冷却することで、第2冷媒により冷却対象物の冷却を行うことを特徴とする。
【0009】
また、第2発明に係る吸着式冷凍装置は、
冷却されることにより冷媒を吸着し、加熱されることにより冷媒を脱離する吸着材を備える吸着器と、
前記吸着材が冷媒を吸着する冷媒吸着モードにて、前記吸着器の冷媒入口に第1通路により接続されて冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器より高位に配置され、前記吸着材が冷媒を脱離する冷媒脱離モードにて、前記吸着器の冷媒出口に第2通路により接続されて脱離した冷媒を凝縮させ、第3通路により前記蒸発器へ戻す凝縮器と、
前記冷媒脱離モードにて前記吸着器をバイパスして前記蒸発器と前記凝縮器とをつなぐバイパス通路と、
を含んで構成され、
前記冷媒吸着モードでは、前記吸着器での冷媒の吸着に伴って前記蒸発器にて冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行い、
前記冷媒脱離モードでは、前記蒸発器と、前記凝縮器と、これらをつなぐ前記バイパス通路及び前記第3通路とで構成されるループ型ヒートパイプにより、前記蒸発器にて冷媒を蒸発させ、このときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、大型の蓄冷材を設ける必要がなくなり、小型化できる一方、外気により冷却する冷却器を用いることで、冷媒脱離モードにおいても冷却対象物を冷却することが可能となり、冷却性能を改善することができる。
【0011】
第2発明によれば、大型の蓄冷材を設ける必要がなくなり、小型化できる一方、簡単なバイパス通路を設けるだけで、冷媒脱離モードにおいても冷却対象物を冷却することが可能となり、冷却性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態を示す吸着式冷凍装置の回路図
【図2】冷媒吸着モードの説明図
【図3】脱離準備モードの説明図
【図4】冷媒脱離モードの説明図
【図5】図1の装置と接続されるエアコン冷凍装置の回路図
【図6】第1実施形態の変形態様1を示す吸着式冷凍装置の回路図
【図7】第1実施形態の変形態様2を示す吸着式冷凍装置の回路図
【図8】本発明の第2実施形態を示す車両用空調装置の回路図
【図9】冷媒吸着モードの説明図
【図10】脱離準備モードの説明図
【図11】熱サイフォンモードの説明図
【図12】冷媒脱離モードの説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ここで説明する吸着式冷凍装置は、車両に搭載されて、冷却対象物の冷却に用いられる。より具体的には、車両用エアコンの一部として、エアコン冷媒の過冷却に用いられ、エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)の冷房能力を吸着式冷凍装置を併用して向上させる。
【0014】
図1は本発明の第1実施形態を示す吸着式冷凍装置の回路図である。
エンジン1は、車両の走行駆動源をなす内燃機関である。エンジン1の冷却系2は、ウォータポンプ3を用いて、エンジン1とラジエータ4との間でエンジン冷却水を循環させる。ラジエータ4は、冷却ファン4aを備え、エンジン1を冷却して高温となったエンジン冷却水を外気との熱交換により冷却してエンジン1に戻す。
【0015】
吸着式冷凍装置は、冷却されることにより第1冷媒を吸着し、加熱されることにより第1冷媒を脱離する吸着材を備える吸着部と、吸着部での吸着に伴って第1冷媒を蒸発させる蒸発部と、吸着部での脱離に伴って脱離した第1冷媒を凝縮させて蒸発部へ戻す凝縮部とを含んで構成されるが、本実施形態では、1つの密閉容器5内の上部に吸着部6が構成され、その下部に蒸発部と凝縮部とを兼ねる蒸発部兼凝縮部7が構成される。
【0016】
密閉容器5内には、真空下で第1冷媒(吸着冷媒)としての水(蒸気)が封入されている。
【0017】
吸着部6は、密閉容器5内の上側空間に吸着材6aを配置して構成され、吸着材6aとしては、シリカゲル、ゼオライト等の水吸着材が用いられる。
【0018】
吸着材6aは、これが配置された雰囲気の相対湿度が高くなるほど、吸着可能な冷媒量(吸着容量)が増大する性質を有している。
このため、吸着材6aを冷却すると、吸着材6aの表面近傍の相対湿度が上昇して吸着容量が増加するので、その増加分、冷媒を吸着する。その一方、吸着材6aを加熱すると、吸着材6aの表面近傍の相対湿度が低下して吸着容量が減少するので、その減少分、吸着していた冷媒を脱離放出する。従って、吸着材6aは、冷却されることにより冷媒を吸着し、加熱されることにより冷媒を脱離する。尚、吸着材6aは、蒸気冷媒を吸着する際に冷媒の凝縮熱相当の吸着熱を発生する。
【0019】
吸着部6には、吸着材6aの冷却・加熱のため、これと熱的に接するように、冷却・加熱用パイプ8が貫通しており、この冷却・加熱用パイプ8に後述のように低温の第2冷媒又は高温のエンジン冷却水を流通させることで、吸着材6aを冷却・加熱可能としてある。
【0020】
吸着材6aの冷却・加熱のため、吸着部6の冷却・加熱用パイプ8は、三方切替弁9、10を介し、冷却回路11又は加熱回路14と選択的に接続される。尚、便宜上、冷却回路11には第2冷媒が流れ、加熱回路14にはエンジン冷却水が流れるものとして説明するが、これらの回路はつながっており、第2冷媒はエンジン冷却水の一部である。また、第2冷媒は、吸着部6の冷却の他、後述するように、蒸発部兼凝縮部7から冷熱を回収し冷却対象物を冷却するために用いられる。
【0021】
冷却回路11は、第2冷媒を循環させるポンプ12と、第2冷媒を冷却する冷却器13との直列回路である。冷却器13は、冷却ファン13aを備え、外気との熱交換により第2冷媒を冷却するラジエータである。
【0022】
加熱回路14は、エンジン冷却系2の一部であり、エンジン1の冷却水出口からウォータポンプ3により圧送される高温のエンジン冷却水の一部をラジエータ4をバイパスさせて分流する。
【0023】
三方切替弁9、10の一位置では、吸着部6の冷却・加熱用パイプ8に冷却回路11が接続される。すなわち、冷却・加熱用パイプ8の一端に、冷却器13の出口側配管が三方切替弁9を介して接続され、冷却・加熱用パイプ8の他端が、三方切替弁10を介して冷却器13の入口側(ポンプ12の吸込側)に接続される。
【0024】
三方切替弁9、10の他位置では、吸着部6の冷却・加熱用パイプ8に加熱回路14が接続される。すなわち、冷却・加熱用パイプ8の一端に、エンジン1の冷却水出口側(ウォータポンプ3の吐出側)からの分岐配管が三方切替弁9を介して接続され、冷却・加熱用パイプ8の他端が、三方切替弁10を介してエンジン1の冷却水入口側に接続される。
【0025】
蒸発部兼凝縮部7は、密閉容器5内の下側空間(吸着部6の下方)に液冷媒の貯留空間として形成されており、吸着部6での第1冷媒の吸着時には、蒸発部として機能し、吸着に伴って、第1冷媒を蒸発させて吸着部6に供給する。その一方、吸着部6での第1冷媒の脱離時には、凝縮部として機能し、脱離した第1冷媒を凝縮液化させる。
【0026】
蒸発部兼凝縮部7には、第1冷媒の蒸発に伴う冷熱を取出すため、冷媒循環回路15の一部をなす熱交換通路(冷熱回収通路)16が貫通している。熱交換通路16を流れる冷媒は、前述の第2冷媒であり、蒸発部兼凝縮部7での第1冷媒の蒸発時に、冷却される。
【0027】
冷媒循環回路15は、第2冷媒を循環させる回路であって、吸着部6での冷媒吸着時に冷熱を回収する蒸発部兼凝縮部7との熱交換通路16と、熱交換通路16の出口側(下流側)に接続されて第2冷媒により冷却対象物を冷却する熱交換器17とを含んで構成され、更に、吸着部6での冷媒脱離時に機能して第2冷媒を冷却する前記冷却器(ラジエータ)13を含んで構成される。
【0028】
冷媒循環回路15は、また、熱交換器17の出口側から、ポンプ19及び逆止弁20を経て、熱交換通路16の入口側に流れる第1還流通路18と、熱交換器17の出口側から、開閉弁22を介して冷却回路11(ポンプ12及び冷却器13)へ流れ、冷却回路11から開閉弁23を介して熱交換通路16の入口側に流れる第2還流通路21とを備えている。
【0029】
熱交換器17は、第2冷媒が流通する熱交換通路17aと、冷却対象物であるエアコン冷媒(第3冷媒)が流通する熱交換通路17bとを熱交換可能に備えている。熱交換通路17bは、エアコン冷凍回路の一部をなしている。
【0030】
次に作用を説明する。
吸着式冷凍装置は、冷媒吸着モードと冷媒脱離モードとを周期的に繰り返し、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時には、脱離準備モードを経由する。
【0031】
図2、図3、図4は、冷媒吸着モード、脱離準備モード、冷媒脱離モードの順で、各状態での冷媒の流れを併記した図であり、弁、ポンプ、ファン等について、開弁状態又は作動状態のものは白抜きで示し、閉弁状態又は非作動状態のものは黒塗りで示している。
【0032】
〔冷媒吸着モード:図2〕
冷媒吸着モードの場合は、吸着部6の冷却のため、冷却回路11のポンプ12及び冷却ファン13aをオンにすると共に、三方切替弁9、10を冷却回路11選択側に切り替える。尚、車速が上がり、冷却器(ラジエータ)13にて第2冷媒を冷却するのに十分な風量(走行風)を得ることができる場合には、冷却ファン13aを停止させて、消費電力を低減することができる。また、吸着式冷凍により冷却対象物を冷却するため、第1還流通路18のポンプ19をオンにする一方、第2還流通路21の開閉弁22、23を閉じる。
【0033】
これにより、ポンプ12→冷却器(ラジエータ)13→三方切替弁9→吸着部6の冷却・加熱用パイプ8→三方切替弁10→ポンプ12という第2冷媒の循環流が形成され、吸着部6の加熱・冷却パイプ8には低温の第2冷媒が流れる。この結果、吸着部6の吸着材6aが冷却され、密閉容器5内で吸着材6aに第1冷媒が吸着され、これに伴って蒸発部兼凝縮部7にて第1冷媒が蒸発する。
【0034】
その一方、ポンプ19→逆止弁20→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→熱交換器17(熱交換通路17a)→ポンプ19という第2冷媒の循環流が形成され、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16を流れる第2冷媒は、第1冷媒の蒸発による冷熱を回収して、冷却される。そして、冷熱を回収した第2冷媒は、熱交換器17にて熱交換通路17aを流れる際に、熱交換通路17bを流れるエアコン冷媒(冷却対象物)を冷却する。
【0035】
〔脱離準備モード:図3〕
脱離準備モードは、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時に、所定期間実行される。具体的には、冷媒脱離モードへの切換指令後、蒸発部兼凝縮部7での第1冷媒の温度と第2冷媒の温度とを比較し、第1冷媒の温度<第2冷媒の温度の間、脱離準備モードを実行し、第1冷媒の温度>第2冷媒の温度となった時点で、脱離準備モードを終了し、冷媒脱離モードへ移行する。尚、第1冷媒の温度と第2冷媒の温度との比較に替えて、蒸発部温度と冷却器温度とを比較し、蒸発部温度<冷却器温度の間、脱離準備モードを実行し、蒸発部温度>冷却器温度となった時点で、脱離準備モードを終了し、冷媒脱離モードに移行するようにしてもよい。
【0036】
脱離準備モードの場合は、吸着部6の加熱のため、冷却回路11のポンプ12及び冷却ファン13aをオフにする一方、三方切替弁9、10を加熱回路14選択側に切り替える。また、蒸発部兼凝縮部7での水の顕熱により冷却対象物を冷却するため、引き続き、第1還流通路18のポンプ19をオン状態に維持し、第2還流通路21の開閉弁22、23を閉弁状態に維持する。
【0037】
これにより、エンジン1側のウォータポンプ3→三方切替弁9→吸着部6の冷却・加熱用パイプ8→三方切替弁10→エンジン1内の冷却水通路→ウォータポンプ3というエンジン冷却水(第2冷媒)の循環流が形成され、吸着部6の加熱・冷却パイプ8には高温のエンジン冷却水が流れる。この結果、吸着部6の吸着材6aが加熱され、密閉容器5内で吸着材6aからの第1冷媒の脱離が開始される。また、これに伴って蒸発部兼凝縮部7にて脱離した第1冷媒の凝縮が開始される。
【0038】
その一方、ポンプ19→逆止弁20→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→熱交換器17(熱交換通路17a)→ポンプ19という第2冷媒の循環流は維持される。従って、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16を流れる第2冷媒は、蒸発器兼凝縮部7の第1冷媒(水)の顕熱で冷却される。そして、この第2冷媒は、熱交換器17にて熱交換通路17aを流れる際に、熱交換通路17bを流れるエアコン冷媒(冷却対象物)を冷却する。
【0039】
〔冷媒脱離モード:図4〕
冷媒脱離モードの場合は、引き続き、吸着部6の加熱のため、三方切替弁9、10を加熱回路14選択状態に維持する。そして、冷却器13により冷却対象物を冷却するため、第1還流通路18のポンプ19をオフにする一方、冷却回路11のポンプ12及び冷却ファン13aをオンにし、第2還流通路21の開閉弁22、23を開く。
【0040】
これにより、エンジン1側のウォータポンプ3→三方切替弁9→吸着部6の冷却・加熱用パイプ8→三方切替弁10→エンジン1内の冷却水通路→ウォータポンプ3というエンジン冷却水(第2冷媒)の循環流は維持される。従って、吸着部6の加熱・冷却パイプ8には高温のエンジン冷却水が流れる。この結果、吸着部6の吸着材6aが加熱され、密閉容器5内で吸着材6aから第1冷媒が脱離し、これに伴って蒸発部兼凝縮部7にて脱離した第1冷媒が凝縮する。
【0041】
その一方、ポンプ12→冷却器(ラジエータ)13→開閉弁23→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→熱交換器17(熱交換通路17a)→開閉弁22→ポンプ12という第2冷媒の循環流が形成される。従って、冷却器13にて第2冷媒が冷却され、冷却された第2冷媒は、蒸発部兼凝縮部7を経て、熱交換器17(熱交換通路17a)に流れる。これにより、冷却器13にて、第2冷媒を介し、熱交換通路17bを流れるエアコン冷媒(冷却対象物)を冷却することができる。
【0042】
尚、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換指令は、吸着材6aの冷媒吸着完了を検知して行い、冷媒脱離モードから冷媒吸着モードへの切換指令は、吸着材6aの冷媒脱離完了を検知して行うのが望ましい。すなわち、モードの切換えは、吸着材6aの冷媒吸着状態(吸着量)に関連するパラメータに基づいて行うのが望ましい。但し、実験的に求めた切換周期に基づいて、所定時間毎に切換えるようにしてもよい。冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時の脱離準備モードについても同様で、予め定めた時間、実行するようにしてもよい。
【0043】
次に図1の吸着式冷凍装置と接続されるエアコン冷凍装置について説明する。
図5は図1の吸着式冷凍装置と接続されて車両用空調装置を構成するエアコン冷凍装置の回路図である。
【0044】
エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)は、回路内を循環する冷媒の蒸発作用により、室内に吹出す空気を冷却するもので、圧縮機51、エアコン凝縮器52、減圧手段をなす膨張弁53、エアコン蒸発器54を含んで構成される。
【0045】
圧縮機51は、エンジン1により図示しない電磁クラッチを介して駆動され、低圧低温気体の冷媒を圧縮して、高圧高温気体の冷媒を得る。エアコン凝縮器52は、冷却ファンを用い、圧縮機51からの高圧高温気体の冷媒を室外空気で凝縮点まで冷却して、高圧常温液体の冷媒に還元する。膨張弁53は、エアコン凝縮器52からの高圧常温液体の冷媒を急激に減圧膨張させて、低圧低温液体(霧状)の冷媒を得る。エアコン蒸発器54は、室内空気の循環路(吸込口と吹出口との間)に配置され、膨張弁53からの低圧低温液体の冷媒を周囲から熱を奪いながら蒸発させる。これにより、室内空気(室内に吹出す空気)を冷却する。
【0046】
ここで、エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)におけるエアコン凝縮器52の後段(凝縮器52と膨張弁53との間)に、図1に示した熱交換器17が過冷却熱交換器として配置されている。
【0047】
上記のように配置されることで、蒸気圧縮式冷凍装置のエアコン凝縮器52側の冷媒が、凝縮器52単体の場合に比べて更に冷却されることで、エアコン蒸発器54の入口冷媒のエンタルピ及び乾き度を下げることができるので、冷房能力を向上させることができる。延いては、圧縮機51の吐出流量を減少させることができるので、圧縮機51の消費動力、つまりエンジン1の負荷が低下し、蒸気圧縮式冷凍装置にて必要とする動力を削減することができるので、車両燃費を向上させることができる。
【0048】
本実施形態によれば、冷媒吸着モードでは、吸着部6での第1冷媒の吸着に伴って蒸発部(蒸発部兼凝縮部)7にて第1冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で第2冷媒を冷却し、冷媒脱離モードでは、冷却器13により第2冷媒を冷却(空冷)することで、第2冷媒による冷却対象物の冷却性能を向上させることができ、同時に小型化を達成することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時に、吸着材6aの冷却から加熱への切換えより所定期間遅らせて、冷媒循環回路15に冷却器13を組み込み、当該所定期間は、蒸発部(蒸発部兼凝縮部)7の第1冷媒の顕熱で第2冷媒を冷却することにより、切換直後の第1冷媒の顕熱を有効利用して、冷却性能を改善することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、吸着部、蒸発部及び凝縮部は、1つの密閉容器5内に構成されることにより、より詳しくは、吸着部6は、密閉容器5内の上部に構成され、蒸発部及び凝縮部は、密閉容器5内の下部に蒸発部兼凝縮部7として構成されることにより、より一層の小型化を図ることができ、また真空系の構築も簡素化でき、容易となる。
【0051】
また、本実施形態によれば、冷却器13は、冷却ファン13a付きのラジエータであることにより、汎用品の追加で済み、簡素化できる。
また、本実施形態によれば、冷却器13は、冷媒吸着モードでは吸着材6aの冷却に用いることにより、すなわち共用とすることにより、無駄を排除できる。吸着材6aの加熱は、熱源としてエンジン冷却水を用いることで省エネとなる。
【0052】
また、本実施形態によれば、エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)は、圧縮機51、エアコン凝縮器52、減圧手段(膨張弁53)、及びエアコン蒸発器54を含んで構成され、エアコン冷媒の過冷却用の熱交換器17は、蒸気圧縮式冷凍装置のエアコン凝縮器52の後段に配置されることにより、効率良く、エアコン冷媒を冷却して冷房性能を向上させることができる。
【0053】
次に第1実施形態の変形態様について説明する。
図6は第1実施形態の変形態様1を示す吸着式冷凍装置の回路図である。図1と異なる点は、冷媒循環回路15において、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と、熱交換器17(熱交換通路17a)の位置を入れ替えている。すなわち、吸着部6での冷媒吸着時に第2冷媒に冷熱を回収する蒸発部兼凝縮部7との熱交換通路16の入口側(上流側)に、第2冷媒により冷却対象物を冷却する熱交換器17を配置している。
【0054】
冷媒吸着モード及び脱離準備モードの場合は、第1還流通路18のポンプ19がオン、第2還流通路21の開閉弁22、23が閉であるため、冷媒循環回路15では、ポンプ19→逆止弁20→熱交換器17(熱交換通路17a)→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→ポンプ19という第2冷媒の循環流が形成される。よって、同様の作用効果が得られる。
【0055】
冷媒脱離モードの場合は、第1還流通路18のポンプ19がオフ、第2還流通路21の開閉弁22、23が開であるため、冷媒循環回路15では、ポンプ12→冷却器(ラジエータ)13→開閉弁23→熱交換器17(熱交換通路17a)→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→開閉弁22→ポンプ12という第2冷媒の循環流が形成され、冷却対象物の冷却が蒸発部兼凝縮部7での凝縮熱の冷却に優先される。よって、同様の作用効果が得られる。
【0056】
図7は第1実施形態の変形態様2を示す吸着式冷凍装置の回路図である。本変形態様では、冷媒吸着モード及び脱離準備モードでは、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と熱交換器17(熱交換通路17a)とに第2冷媒が直列に流れ、冷媒脱離モードでは、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と熱交換器17(熱交換通路17a)とに第2冷媒が並列に流れるように構成している。
【0057】
冷媒吸着モード及び脱離準備モードの場合は、第1還流通路18のポンプ19がオン、第2還流通路21の開閉弁22、23が閉であるため、冷媒循環回路15では、ポンプ19→熱交換器17(熱交換通路17a)→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16→ポンプ19という第2冷媒の循環流が形成される。よって、同様の作用効果が得られる。
【0058】
冷媒脱離モードの場合は、第1還流通路18のポンプ19がオフ、第2還流通路21の開閉弁22、23が開であるため、冷媒循環回路15では、ポンプ12→冷却器(ラジエータ)13→開閉弁23→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と、逆止弁20を介して熱交換器17(熱交換通路17a)との並列回路→開閉弁22→ポンプ12という第2冷媒の循環流が形成される。よって、同様の作用効果が得られる。
【0059】
尚、冷媒脱離モードの場合に、第1還流通路18のポンプ19をオンとしてもよい。この場合、第2還流通路21の開閉弁22、23が開であるため、冷媒循環回路15では、ポンプ12→冷却器(ラジエータ)13→開閉弁23→蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と、ポンプ19を介して熱交換器17(熱交換通路17a)との並列回路→開閉弁22→ポンプ12という第2冷媒の循環流が形成される。ここにおいて、ポンプ19の回転数を調整することにより、蒸発部兼凝縮部7の熱交換通路16と熱交換器17(熱交換通路17a)とを流れる第2冷媒の流量比率を自由に設定することができる。
【0060】
次に本発明の第2実施形態について説明する。
図8は本発明の第2実施形態を示す車両用空調装置(吸着式冷凍装置を併用したエアコン冷凍装置)の回路図である。
エンジン1及びその冷却系2(ウォータポンプ3、ラジエータ4)については、図1と同様であり、説明を省略する。
【0061】
エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)は、回路内を循環する冷媒の蒸発作用により、室内に吹出す空気を冷却するもので、図5と同様、圧縮機51、エアコン凝縮器52、減圧手段をなす膨張弁53、エアコン蒸発器54を含んで構成される。これらの構成要素については、図5で説明した通りであり、説明を省略する。
【0062】
ここで、エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)におけるエアコン凝縮器52の後段(凝縮器52と膨張弁53との間)に、吸着式冷凍装置を構成する後述の蒸発器32が過冷却熱交換器として配置されている。
【0063】
吸着式冷凍装置は、冷却されることにより冷媒(吸着冷媒)を吸着し、加熱されることにより冷媒を脱離する吸着材31aを備える吸着器31と、吸着器31での吸着に伴って冷媒を蒸発させる蒸発器32と、吸着器31での脱離に伴って脱離した冷媒を凝縮させて蒸発器32へ戻す凝縮器33とを含んで構成される。
【0064】
吸着器31、蒸発器32及び凝縮器33は、配管及びバルブを介して接続され、第1冷媒は、蒸発器32→吸着器31→凝縮器33→蒸発器32と循環可能である。詳しくは、蒸発器32の出口がバルブ34aを有する第1通路34により吸着器31の入口に接続され、吸着器31の出口がバルブ35aを有する第2通路35により凝縮器33の入口に接続され、凝縮器33の出口がバルブ36aを有する第3通路36により蒸発器32の入口に接続されている。そして、これらの回路内には真空下で冷媒(吸着冷媒)としての水(蒸気)が封入されている。
【0065】
吸着器31は、その内部に吸着材31aを収容しており、吸着材31aとしては、シリカゲル、ゼオライト等の水吸着材が用いられる。
【0066】
吸着材31aは、これが収容された雰囲気の相対湿度が高くなるほど、吸着可能な冷媒量(吸着容量)が増大する性質を有している。
このため、吸着材31aを冷却すると、吸着材31aの表面近傍の相対湿度が上昇して吸着容量が増加するので、その増加分、冷媒を吸着する。その一方、吸着材31aを加熱すると、吸着材31aの表面近傍の相対湿度が低下して吸着容量が減少するので、その減少分、吸着していた冷媒を脱離放出する。従って、吸着材31aは、冷却されることにより冷媒を吸着し、加熱されることにより冷媒を脱離する。尚、吸着材31aは、蒸気冷媒を吸着する際に冷媒の凝縮熱相当の吸着熱を発生する。
【0067】
吸着器31の内部には、吸着材31aの加熱のため、これと熱的に接するように、加熱用パイプ37が貫通しており、この加熱用パイプ37に高温のエンジン冷却水を流通させることで、吸着材31aを加熱可能としてある。
【0068】
具体的には、吸着器31の加熱用パイプ37の一端(入口部)に、エンジン1の冷却水出口下流でラジエータ4上流からの分岐配管(高温冷却水取出し配管)38をバルブ38aを介して接続してある。そして、吸着器31の加熱用パイプ37の他端(出口部)に、エンジン冷却系2(エンジン1の冷却水入口側)へ戻るリターン配管39を接続してある。
【0069】
その一方、吸着器31の外面(外壁部)には、吸着材31aの冷却(空冷)のため、放熱フィン40が設けられており、冷却ファン41の併用で、吸着材31aを冷却可能としてある。
尚、吸着器31の冷却ファン41と、凝縮器33の冷却ファン33aは、後述の作用の説明から明らかになるように、同時に作動することはないので、共通にし、ダクトを設け、ダンパで吸着器31側と凝縮器33側に流れを切り替えるようにしてもよい。
【0070】
蒸発器32は、その内部に冷媒としての水が貯留されるようになっており、吸着器31での冷媒の吸着に伴って冷媒を蒸発させて、吸着器31に供給する。そして、蒸発器32の内部には、熱交換通路42が貫通しており、この熱交換通路42はエアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)におけるエアコン凝縮器52と膨張弁53との間のエアコン冷媒の通路をなしている。従って、蒸発器32は、エアコン冷凍装置における過冷却熱交換器として設けられている。
【0071】
凝縮器33は、吸着器31にて吸着材31aから脱離放出された蒸気冷媒を冷却して凝縮液化するものであり、冷却ファン33aを有している。尚、凝縮器33は、蒸発器32より高位に配置されている。
【0072】
更に本実施形態での特徴的構成として、蒸発器32の出口と凝縮器33の入口とを吸着器31をバイパスしてつなぐバイパス通路43が設けられ、このバイパス通路43にはバルブ43aが介装されている。従って、低位の蒸発器32と、高位の凝縮器33と、これらをつなぐ2本の通路(バルブ43aを有するバイパス通路43と、バルブ36aを有する第3通路36)とにより、ループ型ヒートパイプ回路を構成可能としている。
【0073】
次に作用を説明する。
吸着式冷凍装置は、冷媒吸着モードと冷媒脱離モードとを周期的に繰り返し、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時には、脱離準備モードと熱サイフォンモードとを経由する。
【0074】
図9、図10、図11、図12は、冷媒吸着モード、脱離準備モード、熱サイフォンモード、冷媒脱離モードの順で、各状態での冷媒の流れを併記した図であり、バルブ、ファン等について、開弁状態又は作動状態のものは白抜きで示し、閉弁状態又は非作動状態のものは黒塗りで示している。
【0075】
〔冷媒吸着モード:図9〕
冷媒吸着モードの場合は、吸着器31の冷却のため、高温冷却水取出し配管38のバルブ38aを閉じ、冷却ファン41をオンにする。尚、車速が上がり、十分な風量(走行風)を得ることができる場合には、冷却ファン41を停止させて、消費電力を低減することができる(後述する冷却ファン33aについても同様)。また、吸着器31での吸着のため、第1通路34の第1バルブ34aを開き、第2通路35のバルブ35a、第3通路36のバルブ36a、及びバイパス通路43のバルブ43aを閉じる。また、凝縮器33の冷却ファン33aはオフにする。
【0076】
高温冷却水取出し配管38のバルブ38aが閉じることで、吸着器12の加熱用パイプ37への高温冷却水の流通が停止され、冷却ファン41による送風で、吸着器31したがって吸着材31aが冷却される。
【0077】
吸着材31aの空冷により、相対湿度が増加して、吸着容量が増大するため、吸着器31内の蒸気が吸着材31aに吸着される。これにより、吸着器31内の圧力が低下し、この圧力低下は第1通路34のバルブ34aを介して蒸発器32に伝えられる。蒸発器32内の圧力低下により、蒸発器32内に貯留されていた水が蒸発し、蒸気は吸着器31内に移動して吸着材31aに吸着される。尚、吸着材31aでの吸着に伴って吸着熱が発生するが、その熱発生分も含めて冷却ファン41により冷却される。
【0078】
従って、このときの蒸発器32内での蒸発作用により、熱交換通路42内を流れるエアコン冷媒(冷却対象物)から熱を奪って、エアコン冷媒を冷却することができる。
【0079】
エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)のエアコン凝縮器52側の冷媒が、凝縮器単体の場合に比べて更に冷却されることで、エアコン蒸発器54の入口冷媒のエンタルピ及び乾き度を下げることができるので、冷房能力を向上させることができる。延いては、圧縮機51の吐出流量を減少させることができるので、圧縮機51の消費動力、つまりエンジン1の負荷が低下し、エアコン冷凍装置にて必要とする動力を削減することができるので、車両燃費を向上させることができる。
【0080】
〔脱離準備モード:図10〕
脱離準備モードは、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時に、第1段階として、所定期間実行される。具体的には、冷媒脱離モードへの切換指令後、蒸発器32の温度と凝縮器33の温度とを比較し、蒸発器温度<凝縮器温度の間、脱離準備モードを実行し、蒸発器温度>凝縮器温度となった時点で、脱離準備モードを終了し、次の熱サイフォンモードへ移行する。
【0081】
脱離準備モードの場合は、吸着器31の加熱のため、高温冷却水取出し配管38のバルブ38aを開き、冷却ファン41をオフにする。また、蒸発を停止させるため、第1通路34のバルブ34aを閉じる。
【0082】
高温冷却水取出し配管38のバルブ38aの開弁により、エンジン1の冷却水出口からの高温冷却水が吸着器31の加熱用パイプ37に流入し、ここで吸着材31aを加熱した後、エンジン冷却系2に戻る。このようにして、吸着器31の吸着材31aが加熱され、脱離の準備が整えられる。
【0083】
すなわち、吸着剤31aの加熱により、相対湿度が低下して、吸着容量が減少するため、吸着剤31aに吸着されていた蒸気の脱離が開始され、吸着器31内の圧力は次第に上昇する。
【0084】
このとき、蒸発器32内での蒸発は停止されるが、蒸発器32内の熱交換通路42を流れるエアコン冷媒は、蒸発器32内の冷媒(水)の顕熱で冷却される。これにより、このときもエアコン冷凍装置の冷房能力を改善することができる。
【0085】
〔熱サイフォンモード:図11〕
熱サイフォンモードは、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時に、第2段階として、所定期間実行される。すなわち、脱離準備モードの終了後(蒸発器温度>凝縮器温度となった後)、吸着器31の圧力と凝縮器33の圧力とを比較し、吸着器圧力<凝縮器圧力の間、熱サイフォンモードを実行し、吸着器圧力>凝縮器圧力となった時点で、熱サイフォンモードを終了し、冷媒脱離モードへ移行する。
【0086】
尚、脱離準備モードの終了後(蒸発器温度>凝縮器温度となった後)、吸着器31の温度を監視し、吸着器温度<所定温度の間、熱サイフォンモードを実行し、吸着器温度>所定温度となった時点で、熱サイフォンモードを終了し、冷媒脱離モードへ移行するようにしてもよい。
【0087】
熱サイフォンモードの場合は、図10の状態から、バイパス通路43のバルブ43aと第3通路36のバルブ36aとを開くと共に、凝縮器33の冷却ファン33aを作動させる。
【0088】
これにより、低位の蒸発器32と高位の凝縮器33とが2本の通路(バルブ43aを有するバイパス通路43と、バルブ36aを有する第3通路36)によりつながり、ループ型ヒートパイプ回路が構成される。このため、蒸発器32内にて冷媒(水)が蒸発し、蒸気はバイパス通路43を通って、凝縮器33に至り、ここで冷却ファン33aの送風を受けて冷却されることで、凝縮液化し、第3通路36を通って蒸発器32に戻る。
【0089】
従って、このときの蒸発器32内での蒸発作用により、熱交換通路42内を流れるエアコン冷媒(冷却対象物)から熱を奪って、エアコン冷媒を冷却することができる。これにより、このときもエアコン冷凍装置の冷房能力を改善することができる。
【0090】
〔冷媒脱離モード:図12〕
冷媒脱離モードの場合は、図11の状態から、第2通路35のバルブ35aを開く。
これにより、高温冷却水による加熱によって吸着器31内で吸着材31aから脱離を開始していた冷媒が、吸着器31と凝縮器33との圧力差で押出され、第2通路35を通って、凝縮部33へ移動し、凝縮器33にて冷却されて水に戻り、最終的には蒸発器32に流入する。
【0091】
従って、このときは、吸着器31の吸着材31aからの冷媒の脱離(次の吸着のための準備)と、熱サイフォンとが同時になされ、熱サイフォンによる蒸発器32内での蒸発作用により、熱交換通路42内を流れるエアコン冷媒(冷却対象物)から熱を奪って、エアコン冷媒を冷却することができる。これにより、このときもエアコン冷凍装置の冷房能力を改善することができる。
【0092】
尚、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換指令は、吸着材31aの冷媒吸着完了を検知して行い、冷媒脱離モードから冷媒吸着モードへの切換指令は、吸着材31aの冷媒脱離完了を検知して行うのが望ましい。すなわち、モードの切換えは、吸着材31aの冷媒吸着状態(吸着量)に関連するパラメータ、特に、吸着器31内の圧力に基づいて行うのが望ましい。但し、圧力以外の温度、湿度などのパラメータを用いてもよいし、実験的に求めた切換周期に基づいて、所定時間毎に切換えるようにしてもよい。冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時の脱離準備モード及び熱サイフォンモードについても同様で、それぞれ予め定めた時間、実行するようにしてもよい。
【0093】
本実施形態によれば、冷媒吸着モードでは、吸着器31での冷媒の吸着に伴って蒸発器32にて冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行い、冷媒脱離モードでは、蒸発器32と、凝縮器33と、これらをつなぐバイパス通路34及び第3通路36とで構成されるループ型ヒートパイプにより、蒸発器32にて冷媒を蒸発させ、このときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行うことにより、バイパス通路34(及びバルブ34a)を追加するだけで、冷却性能を改善することができ、同時に小型化を達成することができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、冷媒吸着モードから冷媒脱離モードへの切換時に、吸着材31aの冷却から加熱への切換えより所定期間遅らせて、ループ型ヒートパイプを構成し、当該所定期間は、蒸発器32の冷媒の顕熱で冷却対象物の冷却を行うことにより、切換直後の冷媒の顕熱を有効利用して、冷却性能を改善することができる。
【0095】
また、本実施形態によれば、吸着材31aの冷却は外気により行い、吸着材31aの加熱はエンジン冷却水により行うことにより、次のような効果が得られる。エンジン負荷が大きい場合は吸着用の低温冷却水が得ることが難しいが、吸着材31aの冷却は空冷とすることで、エンジン負荷の影響を受けることなく、安定した吸着性能を確保できる。その一方、吸着材31aの加熱は熱容量の大きいエンジン冷却水を利用することで、十分な脱離性能を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態によれば、吸着器31は、吸着材収容空間の内部に高温のエンジン冷却水が流通可能な加熱パイプ37が配設され、吸着材収容空間の外壁部に空冷用の放熱フィン40が設けられる構成としたことにより、エンジン冷却水による加熱と外気による冷却とを効率的に行うことができる。
【0097】
但し、吸着材31aの加熱は、エンジン冷却水以外の、エンジン廃熱、例えば排気熱を用いるようにしてもよいし、更には、エンジン以外の、車両用駆動源の廃熱、例えば、燃料電池車や電気自動車の車輪駆動用モータやモータ駆動用インバータ、燃料電池車の燃料電池等から発生する廃熱を用いるようにしてもよい。
【0098】
また、本実施形態によれば、エアコン冷凍装置(蒸気圧縮式冷凍装置)は、圧縮機51、エアコン凝縮器52、減圧手段(膨張弁53)、及びエアコン蒸発器54を含んで構成され、吸着式冷凍装置の蒸発器32は、蒸気圧縮式冷凍装置のエアコン凝縮器52の後段に配置されることにより、効率良く、エアコン冷媒を冷却して冷房性能を向上させることができる。
【0099】
尚、以上説明した図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0100】
1 エンジン
2 エンジン冷却系
3 ウォータポンプ
4 ラジエータ
4a 冷却ファン
5 密閉容器
6 吸着部
6a 吸着材
7 蒸発部兼凝縮部
8 冷却・加熱用パイプ
9、10 三方切替弁
11 冷却回路
12 ポンプ
13 冷却器(ラジエータ)
13a 冷却ファン
14 加熱回路
15 冷媒循環回路
16 熱交換通路(冷熱回収通路)
17 熱交換器
17a、17b 熱交換通路
18 第1還流通路
19 ポンプ
20 逆止弁
21 第2還流通路
22、23 開閉弁
31 吸着器
31a 吸着材
32 蒸発器
33 凝縮器
33a 冷却ファン
34、35、36 第1〜第3通路
34a、35a、36a バルブ
37 加熱用パイプ
38 高温冷却水取出し配管
38a バルブ
39 リターン配管
40 冷却フィン
41 冷却ファン
42 熱交換通路
43 バイパス通路
43a バルブ
51 圧縮機
52 エアコン凝縮器
53 膨張弁
54 エアコン蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却されることにより第1冷媒を吸着し、加熱されることにより第1冷媒を脱離する吸着材を備える吸着部と、
前記吸着材が第1冷媒を吸着する冷媒吸着モードにて、吸着に伴って第1冷媒を蒸発させる蒸発部と、
前記吸着材が第1冷媒を脱離する冷媒脱離モードにて、脱離した第1冷媒を凝縮させて前記蒸発部へ戻す凝縮部と、
第2冷媒が前記蒸発部と熱交換可能に流通し、第2冷媒により冷却対象物の冷却を行う冷媒循環回路と、
前記冷媒脱離モードにて前記冷媒循環回路に組み込まれて、前記第2冷媒を外気により冷却する冷却器と、
を含んで構成され、
前記冷媒吸着モードでは、前記吸着部での第1冷媒の吸着に伴って前記蒸発部にて第1冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で第2冷媒を冷却し、前記冷媒脱離モードでは、前記冷却器により第2冷媒を冷却することで、第2冷媒により冷却対象物の冷却を行うことを特徴とする吸着式冷凍装置。
【請求項2】
前記冷媒吸着モードから前記冷媒脱離モードへの切換時に、前記吸着材の冷却から加熱への切換えより所定期間遅らせて、前記冷媒循環回路に前記冷却器を組み込み、当該所定期間は、前記蒸発部の第1冷媒の顕熱で第2冷媒を冷却することを特徴とする請求項1記載の吸着式冷凍装置。
【請求項3】
前記所定期間は、第1冷媒温度>第2冷媒温度となるまでの期間である請求項2記載の吸着式冷凍装置。
【請求項4】
前記吸着部、前記蒸発部及び前記凝縮部は、1つの密閉容器内に構成されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項5】
前記吸着部は、前記密閉容器内の上部に構成され、前記蒸発部及び前記凝縮部は、前記密閉容器内の下部に蒸発部兼凝縮部として構成されることを特徴とする請求項4記載の吸着式冷凍装置。
【請求項6】
前記冷却器は、冷却ファン付きのラジエータであることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項7】
前記冷却器は、前記冷媒吸着モードでは前記吸着材の冷却に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項8】
前記吸着材の加熱は、車両用駆動源の廃熱を熱源として行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項9】
冷却されることにより冷媒を吸着し、加熱されることにより冷媒を脱離する吸着材を備える吸着器と、
前記吸着材が冷媒を吸着する冷媒吸着モードにて、前記吸着器の冷媒入口に第1通路により接続されて冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器より高位に配置され、前記吸着材が冷媒を脱離する冷媒脱離モードにて、前記吸着器の冷媒出口に第2通路により接続されて脱離した冷媒を凝縮させ、第3通路により前記蒸発器へ戻す凝縮器と、
前記冷媒脱離モードにて前記吸着器をバイパスして前記蒸発器と前記凝縮器とをつなぐバイパス通路と、
を含んで構成され、
前記冷媒吸着モードでは、前記吸着器での冷媒の吸着に伴って前記蒸発器にて冷媒が蒸発するときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行い、
前記冷媒脱離モードでは、前記蒸発器と、前記凝縮器と、これらをつなぐ前記バイパス通路及び前記第3通路とで構成されるループ型ヒートパイプにより、前記蒸発器にて冷媒を蒸発させ、このときに発生する冷熱で冷却対象物の冷却を行うことを特徴とする吸着式冷凍装置。
【請求項10】
前記冷媒吸着モードから前記冷媒脱離モードへの切換時に、前記吸着材の冷却から加熱への切換えより所定期間遅らせて、前記ループ型ヒートパイプを構成し、当該所定期間は、前記蒸発器の冷媒の顕熱で冷却対象物の冷却を行うことを特徴とする請求項9記載の吸着式冷凍装置。
【請求項11】
前記所定期間は、蒸発器温度>凝縮器温度となるまでの期間である請求項10記載の吸着式冷凍装置。
【請求項12】
前記吸着材の冷却は外気により行い、前記吸着材の加熱は車両用駆動源の廃熱を熱源として行うことを特徴とする請求項9〜請求項11のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項13】
前記車両用駆動源の廃熱は、エンジン冷却水であることを特徴とする請求項8又は請求項12記載の吸着式冷凍装置。
【請求項14】
前記冷却対象物は、車両用エアコンの冷媒であることを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1つに記載の吸着式冷凍装置。
【請求項15】
前記車両用エアコンは、圧縮機、凝縮器、減圧手段、及び蒸発器を含んで構成される蒸気圧縮式冷凍装置であり、
前記冷却対象物は、前記蒸気圧縮式冷凍装置の凝縮器とその後段の減圧手段との間のエアコン冷媒であることを特徴とする請求項14記載の吸着式冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−96586(P2013−96586A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236734(P2011−236734)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】