説明

吸着性シリコーン樹脂組成物及びその製造方法

【課題】
優れた吸着性能を吸着開始初期から長期にわたって発現可能であり、しかも銀の利用効率が高い経済性に優れた吸着性樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】
シリコーン樹脂中に脂肪酸銀が分散していることを特徴とする吸着性シリコーン樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着性シリコーン樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、硫黄化合物の吸着性に顕著に優れた吸着性シリコーン樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する為、発電効率が高く、且つ環境保全の観点からも有利であることが知られている。この種の燃料電池の負極活物質には水素が利用される。この水素は、通常はメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、あるいはこれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等の燃料ガスから水蒸気改質法により得られている。即ち、かかる燃料ガスは、Ni系、或いはRu系等の触媒の存在下で水蒸気を添加することで、水素を主成分とするガスに改質される。
一方、都市ガスやLPガス等の燃料ガス中には漏洩保安を目的とする付臭剤として、サルファイド類やチオフェン類、あるいはメルカプタン類などの硫黄化合物が含まれている。具体的には、サルファイド類としてジメチルサルファイド(以下DMSと表記)やエチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド、チオフェン類としてテトラヒドロチオフェン、メルカプタン類としてターシャリーブチルメルカプタン(以下TBMと表記)やイソプロピルメルカプタンやノルマルプロピルメルカプタンやターシャリーアミルメルカプタンやターシャリーヘプチルメルカプタンやメチルメルカプタンやエチルメルカプタンなどであり、特に汎用に添加される付臭剤はTBM、DMSである。
しかしながら上述の水蒸気改質法で用いられる触媒は、これらの硫黄化合物により被毒し、触媒活性を著しく低下させることが知られている。そのため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、水蒸気改質反応に付される前に、燃料ガスから予め除去しておく必要がある。
【0003】
かかる硫黄化合物の除去方法として、水添脱硫法や吸着剤による方法が知られている。
水添脱硫法では、ニッケル系触媒(特許文献1)や銅−亜鉛系触媒(特許文献2)、或いはニッケル−亜鉛系触媒(特許文献3)等の触媒の存在下、硫黄化合物を硫化水素に分解させ、分解生成物である硫化水素を酸化亜鉛、酸化鉄等の脱硫剤に吸着させて脱硫する。一方、吸着剤による方法は、活性炭、金属酸化物、あるいはゼオライト等(特許文献4)を主成分とする吸着剤に燃料ガスを通過させることにより、硫黄化合物を吸着させて除去する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−188405号公報
【特許文献2】特開平2−302302号公報
【特許文献3】特開2001−62297号公報
【特許文献4】特開平10−273473号公報
【特許文献5】特許第4026700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した特許文献1〜3に記載された水添脱硫法は、水素を主成分とする燃料ガスを原燃料ガスに適宜な混合比で混合する必要があり、且つ脱硫は150〜400℃程度の温度条件下で行う必要があり、更には酸化亜鉛や酸化鉄を用いて硫化水素を除去する必要があり、脱硫操作は非常に複雑である。その為、水添脱硫法は確実な方法とされているが、小型装置への適用は困難である。
一方、硫黄化合物を吸着除去する吸着剤による方法は、水素等の添加操作や温度調節を必要とせず、より簡易な脱硫方法であるといえる。しかしながら、従来のゼオライト等を用いた脱硫剤は、水分子等、硫黄化合物以外の物質に対しても吸着作用を示す。燃料ガス中には、その製造過程あるいは供給過程において、微量の水分が含まれる。その為、かかる吸着剤はガス中の水分の影響を受け、硫黄化合物の吸着能力が大幅に低下してしまう問題がある。かかる問題に対して、疎水性の強いY型ゼオライトを銀イオン交換してなる吸着剤が、X型ゼオライト等のより汎用なゼオライトに比して、水分が含まれていても、硫黄化合物を有効に吸着可能であることが開示されている(特許文献5)。
しかしながら、Y型ゼオライトはイオン交換能が低い為、硫黄化合物の吸着に特に有効である銀イオンを、その構造に十分に取り込むことが出来ないという問題がある。さらにY型ゼオライトは他種のゼオライトと比較すれば、疎水性は高いものの、水分子の吸着を十分に抑制できるには至らない。故に硫黄化合物の吸着能力低下の問題を本質的に解決することは困難である。
更に、吸着剤がこれに吸着された硫黄化合物で飽和してしまうとガス中の硫黄化合物を除去することができなくなるので、再生や交換が必要である。即ち、脱硫剤の必要量や交換頻度は、各種環境要因や吸着剤の吸着能力の大小により大きく左右される。従って高効率で吸着容量が大きく、且つ水分等の外部要因により性能低下の生じない、硫黄化合物吸着剤が求められている。
【0006】
従って本発明の目的は、燃料ガス等に含まれる硫黄化合物を、各種環境要因による影響を受けることなく、且つ高効率に硫黄化合物を吸着除去することを可能にする硫黄化合物吸着剤を提供することである。
本発明の他の目的は、燃料電池に用いられる燃料ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着することができ、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として好適に使用可能な硫黄化合物吸着剤を提供することである。
本発明の更に他の目的は、燃料電池システムに用いられる燃料ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着可能な硫黄化合物の吸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の現状を鑑み、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として好適に使用可能な材料を模索した結果、脂肪酸銀をシリコーン樹脂中に分散させた樹脂組成物が水分等の影響を受けることなく、燃料ガス中の硫黄化合物を選択的に高効率に吸着可能であることを見出した。
即ち、本発明によれば、シリコーン樹脂中に脂肪酸銀が分散していることを特徴とする吸着性シリコーン樹脂組成物が提供される。
本発明のシリコーン樹脂組成物においては、
1.脂肪酸銀が、炭素数6乃至20の脂肪酸銀であること、
2.脂肪酸が、モノカルボン酸であること、
3.脂肪酸銀の平均粒径が1乃至100μmであること、
4.シリコーン樹脂組成物が平均粒径0.1mm乃至1cmの粒状に成形されてなること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、上記吸着性シリコーン樹脂組成物からなる硫黄化合物の吸着剤が提供される。
本発明によれば更に、脂肪酸銀、シリコーン樹脂を混合し、シリコーン樹脂の硬化温度以上、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱することにより、シリコーン樹脂中に脂肪酸銀を分散させてなることを特徴とする吸着性シリコーン樹脂組成物の製造方法が提供される。
本発明によれば更に、上記吸着性シリコーン樹脂組成物から成る硫黄化合物吸着剤を脱硫材として充填して成る脱硫器内に、硫黄化合物を含有する気体を流通させることを特徴とする硫黄化合物の吸着方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明で用いる脂肪酸銀は、硫黄化合物に対して優れた吸着性を有している。一方、シリコーンは高い気体透過性を有する樹脂である。このシリコーン樹脂をマトリクスとして、該脂肪酸銀を均一に分散させることで、後述の通り、脂肪酸銀を単独で使用するよりも更に効率的に硫黄化合物を吸着させることが可能となる。
特に、燃料電池システムの脱硫器の脱硫材として使用する場合、従来の脱硫剤に比べて優れた脱硫性能を示すことから、脱硫器の小型化や交換頻度の低減が可能となる。
更に水分による影響をほとんど受けない為、燃料ガスに含まれる水分により脱硫性能が低下する問題を有効に防止できる。
更に高価な貴金属である銀の利用効率が従来の銀イオン交換ゼオライトに比べて高く経済性にも優れている。即ち脱硫量(mol)/使用Ag量(mol)×100で表わされる銀の利用効率が、銀イオン交換ゼオライトが4%程度であるのに対して、本発明の吸着剤は20%以上である。このことから本発明の吸着剤は銀を有効に利用した、経済性にも優れ脱硫剤として、燃料電池システムの脱硫器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例における試験装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(脂肪酸銀)
本発明の硫黄化合物吸着剤に用いる脂肪酸銀としては、炭素数3〜30の脂肪酸の銀塩を用いることができ、脂肪酸は、モノカルボン酸であることが特に好ましく、飽和、不飽和のいずれであってもよいが、炭素数6〜20、特に8〜18の直鎖飽和脂肪酸の銀塩が生成、入手が容易であると共に、硫黄化合物の吸着性の点から好適に使用できる。
このようなモノカルボン酸銀としては、例えば、プロパン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の銀塩を挙げることができ、特にデカン酸銀、ラウリン酸銀、ミリスチン酸銀、オクタン酸銀、ステアリン酸銀を好適に用いることができる。
【0012】
本発明において、脂肪酸銀の一次粒子径は、特に限定されないが、燃料ガスとの接触機会を増大させる為には、後述する方法で測定した平均粒径が100μm以下であることが好ましい。かかる意味において平均粒径の下限は特に制限されないが、脂肪酸銀の生産性の観点からは1μm程度である。
尚、脂肪酸銀は、一種類のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせで使用することもできる。
これら脂肪酸銀を、シリコーン樹脂と混合し、成形することにより、硫黄化合物の吸着能力に特に優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
(シリコーン樹脂)
本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物に用いるシリコーン樹脂としては、従来公知のシリコーン樹脂を広く用いることができ、これに限定されないが、下記一般式(1)〜(4)で表される単位及びこれらの混合物から選ばれる化学的に結合されたシロキサン単位(式中、R〜Rはそれぞれ飽和又は不飽和一価炭化水素基、水素原子、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリール基、ビニル基又はアリル基から選ばれた基を表わし、これらは同一でも相違してもよい)から成るオルガノポリシロキサンの重合体又は共重合体を例示することができる。
【0014】


−Si−O− ・・・(1)


【0015】


−O−Si−O− ・・・(2)


【0016】


−O−Si−O− ・・・(3)



【0017】



−O−Si−O− ・・・(4)



【0018】
シリコーン樹脂の架橋硬化は、従来公知の硬化触媒を公知の処方で配合することによって行うことができるが、三官能性や四官能性のシロキサン単位を用いることによっても行うことができる。
また、本発明においては、上述したシリコーン樹脂のみならず、これらのシリコーン樹脂に有機基を付与した変性シリコーン樹脂を用いることもでき、かかる変性シリコーン樹脂としては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、脂肪酸エステル変性等の変性シリコーン樹脂を挙げることができる。
本発明においては、(CHSiO05,(CHSiO,(CH)SiO1.5,(CSiO等をシロキサン単位とする従来公知のシリコーン樹脂を好適に使用することができる。
またシリコーン樹脂の重量平均分子量は、500乃至50000の範囲にあることが好ましい。
【0019】
(樹脂組成物)
本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物は、上述した脂肪酸銀及びシリコーン樹脂から成り、脂肪酸銀の含有率が5〜90wt%の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも脂肪酸銀が少ない場合には、満足する硫黄化合物吸着性能を得ることができず、一方上記範囲よりも多い場合には脂肪酸銀が凝集し、均一分散が困難になるおそれがあると共に、成形性が損なわれるおそれがある。
また本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物は、上述した脂肪酸銀を、上述したシリコーン樹脂中に混合し、シリコーン樹脂の硬化温度以上、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱し、シリコーン樹脂を硬化させることにより、シリコーン樹脂中に脂肪酸銀が分散して成る樹脂組成物を得ることができる。
脂肪酸銀を配合すべきシリコーン樹脂が、高粘度の液状又は固体の場合には、トルエンキシレン等の有機溶剤で希釈して成形することもできる。
またシリコーン樹脂の硬化条件は、用いるシリコーン樹脂の種類や硬化触媒によって異なるが、一般的には20℃乃至60℃の温度で、1乃至48時間の範囲内で選択することができる。
【0020】
尚、脂肪酸銀の熱分解開始温度は、脂肪酸部分が金属部分から脱離あるいは分解し始める温度である。熱分解開始温度はJIS K 7120により、脂肪酸銀の質量を計測し、熱重量測定装置を用いて不活性雰囲気下で昇温した際の重量変化を測定する熱重量測定(TG)を行い、測定により得られた熱重量曲線(TG曲線)から分解開始温度が算出される。試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線とTG曲線における屈曲点間の勾配が最大になるような接線とが交わる点の温度を開始温度とする。
【0021】
シリコーン樹脂への脂肪酸銀の分散方法は特に限定されず、公知の混練・分散技術を適用可能である。例えば、二本ロール、三本ロール、ニーダー、各種押出機、ディゾルバー、ビーズミル、湿式高圧微粒化装置等が適用される。硫黄化合物との接触機会を確保する上では、脂肪酸銀の分散粒子径は小さい方が、より有効であることから、特にビーズミル、三本ロール等が好適に使用できる。
脂肪酸銀混練後のシリコーン樹脂組成物を、従来公知の手法、一般的には所望の形状の金型に注入、硬化させることで本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物が得られる。
本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物は、前述した通り、硫黄化合物の吸着性能に優れていることから、吸着剤、特に脱硫材として好適に使用することができ、この場合、平均粒径0.1mm乃至1cmの粒状に成形することが特に好適である。
本発明においては、脂肪酸銀とシリコーン樹脂との混練に際して、二酸化マンガン、活性炭、ゼオライト等の既存の吸着剤や、或いは酸化チタン、シリカ、酸化鉄、ガラス等の無機物をフィラーとして共配合しても良い。
【0022】
また本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物が有する優れた吸着性能を確保しつつ、より経済性の高い吸着剤とするために、ポリオレフィンやリプロ材等の安価な熱可塑性樹脂から成るペレットや、或いはシリカビーズ等を芯材とし、その表面に本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物を被覆した2層構造のペレット状或いは粒状に成形することができる。
このような2層構成のペレットとしては、この方法に限定されないが、押出機から押出された熱可塑性樹脂のストランド表面に、本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物をコーティングした後、これをカットすることにより容易に製造することができるし、また予め粒状に成型された芯材表面に本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物をコーティングしても勿論よい。
この場合本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物から成る層は、1乃至1000μmの厚みを有することが、充分な吸着性能を発揮する上で好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
《実施例1》 (ステアリン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
ステアリン酸ナトリウム0.26mol(=78.3g)を90℃の脱イオン水3000gに溶解させてA液を、硝酸銀0.26mol(=43.4g)を脱イオン水600gにmol比が等量になる様に溶解させてB液を調整した。次に、A液を撹拌しながら、B液をA液に投入した。投入後15分撹拌し、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。得られたステアリン酸銀を熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて乾燥した。
こうして得られたステアリン酸銀と2液縮合硬化型シリコーン樹脂(信越シリコーン製、KE−108)とを、ステアリン酸銀/シリコーン樹脂の重量比が75/25となるよう混合した。このステアリン酸銀/シリコーン樹脂分散液を用いて、フーバー式マーラーによりシリコーン樹脂中にステアリン酸銀を微分散させた後、硬化剤(CAT−108)を用いて、空気雰囲気下、30℃、常圧で1日硬化させた。硬化したステアリン酸銀/シリコーン樹脂分散液をミキサー粉砕することでステアリン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0025】
《実施例2》 (ミリスチン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
ステアリン酸ナトリウムをミリスチン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ミリスチン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0026】
《実施例3》 (ミリスチン酸銀含有シリコーン樹脂組成物(高湿暴露品)の調製)
該シリコーン樹脂組成物の硫黄化合物吸着性能に及ぼす水分の影響を調査する為に、実施例2のミリスチン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置したサンプルを調製した。
【0027】
《実施例4》 (ラウリン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
ステアリン酸ナトリウムをラウリン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ラウリン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0028】
《実施例5》 (ラウリン酸銀含有シリコーン樹脂組成物(高湿暴露品)の調製)
実施例3と同条件で実施例4のラウリン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を高湿暴露したサンプルを調製した。
【0029】
《実施例6》 (デカン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
ステアリン酸ナトリウムをデカン酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、デカン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0030】
《実施例7》 (デカン酸銀含有シリコーン樹脂組成物(高湿暴露品)の調製)
実施例3と同条件で実施例6のデカン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を高湿暴露したサンプルを調製した。
【0031】
《実施例8》 (オクタン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
オクタン酸0.40mol(=57.4g)を60℃の脱イオン水2000gに溶解させてC液を、水酸化ナトリウム0.40mol(=15.9g)を脱イオン水1000gに溶解させてD液を調整した。次に、C液を撹拌しながら、D液をC液に投入しE液を得た。さらに、硝酸銀0.40mol(=67.7g)を水600gに溶解した液をE液に投入した。投入後15分撹拌し、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。以降は実施例1と同様の操作を行い、オクタン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0032】
《実施例9》(オクタン酸銀含有シリコーン樹脂組成物(高湿暴露品)の調製)
実施例3と同条件で実施例8のオクタン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を高湿暴露したサンプルを調製した。
【0033】
《実施例10》 (ヘキサン酸銀含有シリコーン樹脂組成物の調製)
オクタン酸をヘキサン酸に変更した以外は、実施例8と同様の操作を行い、ヘキサン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂を得た。
【0034】
《比較例1》 (シリコーン樹脂の調製)
2液縮合硬化型シリコーン樹脂(信越シリコーン製、KE−108)と硬化剤(CAT−108)を混合して、空気雰囲気下、30℃、常圧で1日硬化させた。硬化したシリコーン樹脂をミキサー粉砕することで脂肪酸銀を含まないシリコーン樹脂を得た。
【0035】
《比較例2》 (ラウリン酸銀造粒体の調製)
ラウリン酸ナトリウム0.33mol(=72.4g)を90℃の脱イオン水3000gに溶解させてA液を、硝酸銀0.33mol(=55.3g)を脱イオン水600gにmol比が等量になる様に溶解させてB液を調整した。次に、A液を撹拌しながら、B液をA液に投入した。投入後15分撹拌し、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。洗浄後の固体に少量のエタノールを混ぜ、湿式押出造粒機(ダルトン製、MG−55)を用いて、0.7mmの円柱形に造粒した後、熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて乾燥して、円柱形のラウリン酸銀からなるペレットを得た。
【0036】
《比較例3》 Na−Yゼオライト(乾燥)
Y型ゼオライトには日本化学工業製のNA−01Y〔SiO:Al比(モル比)=5.7〕を熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて100℃で12時間乾燥したものを用いた。尚、乾燥後のY型ゼオライトは、後述のTBM吸着試験に供する直前まで、防湿保管を行なった。以降、比較例3のゼオライトをNa−Yゼオライト(乾燥)と表記する。
【0037】
《比較例4》 Na−Yゼオライト(水和)
比較例3で得たNa−Yゼオライト(乾燥)を再水和させることを目的に、温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置し、比較例3に供するNa−Yゼオライト(水和)を得た。
【0038】
《比較例5》 Ag−Yゼオライト(乾燥)
硝酸銀22.9gを脱イオン水2000gに溶解して、硝酸銀の水溶液を調整した。これに日本化学工業製のY型ゼオライト(NA−01Y)を30g加えて懸濁させた。懸濁液を室温で24時間攪拌した後、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。得られた白色固体を熱風乾燥機(タバイエスペック社製)にて乾燥してAg−Yゼオライト(乾燥)を得た。
【0039】
《比較例6》 Ag−Yゼオライト(水和)
比較例5で得たAg−Yゼオライト(乾燥)を再水和させることを目的に、温度25℃、湿度80%の条件で12時間静置し、比較例5に供するAg−Yゼオライト(水和)を得た。
【0040】
(TBM吸着試験)
図1に示す試験装置を用いて、硫黄化合物の吸着試験を実施した。試験条件は以下のとおりとした。
脱硫部として充填管(内径8mm)に、各サンプル0.3ccを充填した。試験ガスには、都市ガス〔13A:メタン≒87.8%(容量%、以下同じ)、エタン≒5.9%、プロパン≒4.6%、n−ブタン≒0.8%、i−ブタン≒0.8%〕を用いて、下記の条件で吸着試験を実施した。
硫黄化合物濃度:TBM=1.5ppm(容量ppm)
都市ガス流量:1L/min(水分量:約1000ppm)
温度:25℃
圧力:1atm
尚、本試験は、実施例、比較例を含めて全て同一装置、同一条件で行った。
【0041】
上記試験条件で、脱硫部下部から都市ガスを流通させ、脱硫部上部から排出される都市ガスを経時的にガス検知管(ガステック社製 70L)を用いてサンプリングし濃度を求めた。
TBMの吸着量は、脱硫部から排出される都市ガス内のTBM濃度が0.2ppm算出された時点までの全TBM吸着量として算出したものである。
更に、各TBMの吸着量から、銀の利用効率を求めた。銀の利用効率は下記式(5)により全TBM吸着量の分子量を各サンプルに含まれる銀の分子量で割り百分率で表した値をAgの利用効率とした。
Agの利用効率(%)=脱硫量(mol)/サンプル中のAg量(mol)×100 ・・・(5)
【0042】
表1に、上記サンプルとして使用した吸着性シリコーン樹脂とゼオライトのTBM吸着量、及び、TBM吸着量から算出した銀の利用効率を示す。
尚、表中の脂肪酸炭素数の欄において、「×」と記載されているものは、サンプルに脂肪酸が含まれていないという意味であり、Agの利用効率の欄で、「―」と記載されているものはサンプル内にAgが含まれていないという意味である。
【0043】
【表1】

【0044】
本発明の範囲内に属しない比較例1のシリコーン樹脂は、実質的にTBMを吸着しないのに対し、実施例1〜10の吸着性シリコーン樹脂は好適にTBMを吸着した。特に炭素数8のオクタン酸銀、炭素数10のデカン酸銀、炭素数12のラウリン酸銀、炭素数14のミリスチン酸銀は高いTBM吸着能力を発現した。銀の利用効率が示す通り、吸着剤中の銀イオンが効率的にTBMを吸着した結果であると推認される。また、ラウリン酸銀含有吸着性シリコーン樹脂とラウリン酸銀の造粒体(実施例4と比較例2)を比較した場合、シリコーン樹脂にラウリン銀を微分散させた方が、より高いTBMの吸着能力を発現した。
更に、特筆すべきは、比較例3〜5に示した通り、従来の吸着剤であるゼオライトは水和することで、TBM吸着能力が著しく低下してしまうのに対し、本発明の吸着性シリコーン樹脂(実施例3、5、7、9)は高湿暴露の影響を受けず、安定したTBM吸着能力を示した。燃料ガス中には事実上、水が含まれていることを勘案すると、水分の影響を受けずにTBMを除去できることは、実用上非常に有利である。
従って、本発明の硫黄化合物吸着剤は、硫黄化合物を含有する気体から硫黄化合物を効率よく除去することが可能であり、燃料電池の脱硫器に好適に使用することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物は、気体透過性に優れたシリコーン樹脂中に、硫黄化合物の吸着性に優れた脂肪酸銀が分散されているため、効率よく長期にわたって硫黄化合物を吸着することができると共に、銀の利用効率が20%以上と高く、経済性にも優れており、硫黄化合物の吸着剤、特に燃料電池の脱硫器に好適に使用することができ、燃料ガス中の付臭剤である硫黄化合物を効率よく吸着することができる。
また燃料ガス以外にも、エアゾール缶に用いられるプロペラントを都市ガスから調製する際にも利用することができ、都市ガス中の硫黄化合物を効率よく吸着して硫黄臭のないプロペラントを調製することが可能となる。
本発明の吸着性シリコーン樹脂組成物により吸着可能な硫黄化合物としては、これに限定されないが、ジメチルサルファイド,エチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド等のサルファイド類、テトラヒドロチオフェン等のチオフェン類、ターシャリーブチルメルカプタン,イソプロピルメルカプタン,ノルマルプロピルメルカプタン,ターシャリーアミルメルカプタン,ターシャリーヘプチルメルカプタン,メチルメルカプタンやエチルメルカプタン等のメルカプタン類を挙げることができ、これらは付臭剤として、燃料ガス中に含有されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂中に脂肪酸銀が分散していることを特徴とする吸着性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸銀が、炭素数6乃至20の脂肪酸銀である請求項1記載の吸着性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸が、モノカルボン酸である請求項1又は2記載の吸着性シリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸銀の平均粒径が1乃至100μmである請求項1乃至3の何れかに記載の吸着性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記シリコーン樹脂組成物が平均粒径0.1mm乃至1cmの粒状に成形されてなる請求項1乃至4の何れかに記載の吸着性シリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の吸着性シリコーン樹脂組成物からなる硫黄化合物の吸着剤。
【請求項7】
脂肪酸銀、シリコーン樹脂を混合し、シリコーン樹脂の硬化温度以上、脂肪酸銀の熱分解開始温度未満の温度で加熱することにより、シリコーン樹脂中に脂肪酸銀を分散させてなることを特徴とする吸着性シリコーン樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れかに記載の吸着性シリコーン樹脂組成物から成る硫黄化合物吸着剤を脱硫材として充填して成る脱硫器内に、硫黄化合物を含有する気体を流通させることを特徴とする硫黄化合物の吸着方法。
【請求項9】
前記脱硫器が燃料電池用の脱硫器である請求項8記載の吸着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−46699(P2012−46699A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192515(P2010−192515)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】