説明

吸着材料および吸着材料の製造方法

【課題】親水性高分子処理することにより、サイトカイン吸着能の低下を抑制しつつ血液適合性の高いサイトカイン吸着材料を提供することにある。
【解決手段】吸着材料を親水性高分子と処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が親水化処理されたサイトカイン吸着材料に関する。本発明のサイトカイン吸着材料は、医療用具に好適に用いることができる。また、生体成分分離膜、バイオ実験関連器具、バイオリアクター、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)、タンパクチップ、DNAチップ、バイオセンサー、あるいは、分析機器部品などにも好適に用いることができる。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
生体の炎症反応を惹起する物質として、インターロイキンをはじめとする炎症性サイトカインなどの蛋白質がある。サイトカインの炎症惹起作用は様々な病態形成に関与している。具体的な疾患として膠原病、アレルギー疾患、インシュリン依存性糖尿病、劇性肝炎、川崎病、ネフローゼ症候群、動脈硬化症などが挙げられる。したがって、血液などの体液から炎症性サイトカインを除去することが望まれている。
【0003】
体液から物質を除去する方法としては、人工腎臓に代表される体外循環など生体外へ体液を取り出し目的物質を透析や吸着や濾過の原理により除去した後に生体内に体液を戻す血液浄化器を用いるのが一般的である。このとき血液と接触する材料の生体適合性が重要であり、血小板等の血液成分の付着、及びこれに起因する血栓の形成は避けがたい問題である。特に膜による濾過や透析の原理による血液浄化器の場合、血液成分の付着が直接膜の性能低下につながるため重要な問題である。このような血液適合性の問題に対して、基材表面の親水化処理が有効であることが知られている。血液浄化用分離膜の素材としては、例えば、ポリスルホン系ポリマーが用いられているが、血液適合性を付与するために、製膜原液の段階でポリビニルピロリドンなどの親水性高分子が混合されている。このような方法で、ある程度の血液適合性は得られているが、十分ではなかった。
【0004】
基材表面の血液適合性を上げるために、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドンなどの親水性高分子溶液と接触させ、分離膜に親水性高分子を物理吸着させる方法が、特許文献1に開示されている。しかし、この方法では、親水性高分子は表面に吸着しているだけなので、血液と接触した際に、親水性高分子が血中に溶出してくる可能性が考えられる。また、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドンなどの親水性高分子溶液と接触させ、放射線架橋により不溶化した親水性高分子被膜層を膜表面に形成する方法が、特許文献2に開示されている。この方法によれば、親水性高分子の溶出は抑制されるものの、不溶化された親水性高分子は、血液が接触した際に、血小板を活性化するため、血液適合性は、かえって悪化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−118472号公報
【特許文献2】特開平6−238139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、親水性高分子処理した、血液適合性の高いサイトカイン吸着材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、吸着材料を親水性高分子で処理することにより、サイトカイン吸着能の低下を抑制しつつ血液適合性の高いサイトカイン吸着材料を得る方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、下記の構成によって達成される。
(1) 基材を親水性高分子処理したサイトカイン吸着材料。
(2) 基材を親水性高分子水溶液と接触させて放射線照射することによって得られうる上記(1)記載の吸着材料。
(3) ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である上記(1)または(2)に記載の吸着材料。
(4) 放射線照射後のサイトカイン吸着量が、照射前のサイトカイン吸着量の90%以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の吸着材料
(5) 該サイトカインの吸着量が0.1ng/cm以上である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の吸着材料。
(6) 該サイトカインがインターロイキン−6であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の吸着材料。
(7) 該親水性高分子がポリアルキレングリコールまたはポリビニルピロリドンである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着材料。
(8) 該親水性高分子がポリアルキレングリコールであり、かつ、該ポリアルキレングリコールが150〜3000mg/mの割合で基材表面に存在する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着材料。
(9) 該親水性高分子が生体由来高分子である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の吸着材料。
(10) 該基材が高分子材料であることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の吸着材料。
(11) 該基材が疎水性高分子材料からなる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の吸着材料。
(12) 該疎水性高分子材料がポリメタクリル酸メチルである上記(1)〜(11)のいずれかに記載の吸着材料。
(13) 該基材が、医療用基材である上記(1)〜(12)のいずれかに記載の吸着材料。
(14) 上記(1)記載の吸着材料を用いた分離膜。
(15) 該分離膜が、中空糸膜である上記(14)記載の分離膜。
(16) 該中空糸膜の内表面に親水性高分子が結合している上記(15)記載の分離膜。
(17) 該中空糸膜の膜内部にも親水性高分子が結合している上記(16)記載の分離膜。
(18) 上記(15)記載の分離膜を用いた生体成分分離膜。
(19) 上記(1)記載の吸着材料を複数含むシステム。
(20) 異なる素材からなる複数の吸着材料を含む上記(19)記載のシステム。
(21) ポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムであって、少なくともポート部、分離膜および回路が吸着材料である上記(20)記載のシステム。
(22) 基材を親水性高分子を含む水溶液と接触下、放射線照射する吸着材料の製造方法。
(23) 該親水性高分子を含む水溶液に基材を浸漬させることにより、該基材と該水溶液を接触させる上記(22)記載の吸着材料の製造方法。
(24) 放射線照射後の材料のサイトカイン吸着量が、放射線照射前の材料のサイトカイン吸着量の90%以上である上記(22)に記載の吸着材料の製造方法。
(25) 該サイトカインがインターロイキン−6である上記(24)に記載の吸着材料の製造方法。
(26) 該基材が疎水性高分子からなる上記(22)に記載の吸着材料の製造方法。
(27) 該基材が分離膜である上記(22)に記載の吸着材料の製造方法。
(28) 該分離膜が中空糸膜である上記(27)に記載の吸着材料の製造方法。
(29) 中空糸膜の内側に親水性高分子を含む水溶液を充填することによって、該中空糸膜と該水溶液を接触させる上記(28)に記載の吸着材料の製造方法。
(30) 該中空糸膜の外側にも前記水溶液を接触させる上記(29)に記載の吸着材料の製造方法。
(31) 該水溶液を、分離膜を通して濾過することによって、該分離膜と該水溶液を接触させる上記(27)に記載の吸着材料の製造方法。
(32) 複数の基材を含むシステムを親水性高分子を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法。
(33) 異なる素材からなる複数の基材を含むシステムを親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射する上記(32)に記載のシステムの製造方法。
(34) ポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムであって、該分離膜システムを親水性高分子を含む水溶液と接触させた状態で、該分離膜システム全体に放射線照射する上記(32)に記載のシステムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のサイトカイン吸着材料は、親水性高分子処理により吸着材料の親水性が向上しており、サイトカインの吸着を維持しつつ、血小板や血液凝固関連蛋白質の付着を抑制することができる。特に高い血液適合性を有するので、医療用基材として好適に用いることができる。例えば、血液浄化用モジュール、人工血管、カテーテル、血液バッグ、手術用補助器具などにおいて好適に用いることができる。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の人工腎臓モジュールシステムの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、基材を親水性高分子水溶液と接触させることにより、親水性高分子が基材表面に存在するサイトカイン吸着材料を得る。サイトカイン吸着材料の血液適合性は、血液と接触する部分の表面状態に依存し、一般的には、表面の親水性が高いほど、また、表面に固定化された親水性高分子の運動性が高いほど、高くなる。運動性の高い親水性高分子は、その分子運動によって、血液凝固関連タンパク質や血小板を排除していると考えられている。
【0011】
しかし、基材表面に親水化処理を行うと、血小板や凝固関連蛋白質の基材への付着が抑制されると同時に、インターロイキン−6(以下、IL−6という)などの吸着対象物質の基材に対する吸着も抑制されてしまうことが懸念される。本発明の吸着材料は、サイトカインの吸着を維持しつつ、高い血液適合性を得ることができる。具体的には、改質基材のサイトカイン吸着量を、処理前の基材のサイトカイン吸着量の90%以上に保ったまま、高い血液適合性を有する改質基材を得ることができる。本発明の改質基材は、IL−6吸着量が0.1ng/cm以上であることが好ましい。この範囲にあることにより、改質基材は、サイトカイン吸着カラムに好適に適用できる。
【0012】
本発明のサイトカイン吸着材料は、ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である。血小板付着量は、サイトカイン吸着材料と血液を1時間接触させた場合に、サイトカイン吸着材料の表面に付着した血小板の数を、サイトカイン吸着材料の表面積4.3×10μmあたりの数として求めた値である。詳細な測定方法は後述する。ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μmを越えると、血液適合性が不十分になる。
【0013】
本発明のサイトカイン吸着材料は、高い血液適合性を有するので、医療用基材として好適に用いることができる。本発明で用いられる医療用基材は、血液浄化用モジュール、人工血管、カテーテル、血液バッグ、手術用補助器具などにおいて用いられるものを含む。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに適する。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓や外毒素吸着カラムなどがある。また、人工腎臓用モジュールとしては、コイル型、平板型、中空糸膜型があるが、処理効率などの点から、中空糸膜型が好ましい。
【0014】
本発明において、基材とは親水性を付与させたい材料のことを指す。基材は特に限定されるものではないが、高分子材料からなることが好ましい。高分子材料としては、親水性高分子、疎水性高分子のいずれも用いられる。高分子材料の具体例としては、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ沸化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、これらの共重合体でも良い。さらに炭素繊維やコンポジット材料も基材として適用できる。基材の形状としては、繊維、フィルム、樹脂、分離膜などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
医療用基材として用いる場合は、基材として、例えば、ポリ塩化ビニル、セルロース系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマー、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ沸化ビニリデンなどが好ましい。この中でも特にポリメチルメタクリレート系ポリマーはサイトカインの吸着性能に優れているため、好適に用いられる。
【0016】
本発明における親水性高分子処理とは、コーティング、化学反応や放射線照射によるグラフトなどにより親水性高分子を基材の少なくとも一部に導入することを指す。
【0017】
本発明において、親水性高分子とは高分子の主鎖もしくは側鎖に親水性の官能基を含む高分子のことを指す。25℃の水に対する溶解度が好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上の親水性高分子が本技術に適用しやすい。具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどやこれらと他のモノマーとの共重合体や、グラフト重合体などが挙げられる。中でもポリアルキレングリコールは様々な分子量のものが市販されており、かつ生体適合性に優れているので好適に用いることができる。
また、ポリアルキレングリコールの基材表面量が少ないと十分な抗血栓性が得られないので、基材表面のポリアルキレングリコール量は150mg/m以上であることが好ましく、200mg/m以上であることがさらに好ましい。逆にポリアルキレングリコールの基材表面量が多いとサイトカインの吸着能が低下するので、基材表面のポリアルキレングリコール量は3000mg/m以下であることが好ましい。
【0018】
親水性高分子として、タンパク質などの生体由来の高分子を用いることも好ましい。基材に生体由来高分子が固定化されることにより、生体由来高分子の機能を基材に付与することができる。生体由来高分子の例としては、デキストランやデキストラン硫酸等の糖鎖構造を有する高分子、ペプチド、蛋白質、脂質、あるいはリポポリサッカライド等の複合物などが挙げられる。
【0019】
親水性高分子の分子量が小さすぎると、分子運動における分子鎖の可動領域が小さく親水性が十分に得られないので、親水性高分子の分子量は200以上が好ましく、500以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。逆に分子量が大きすぎると分子鎖どうしの絡み合いや、放射線照射時における分子間の架橋反応が進行してしまい分子鎖の可動領域が小さくなるので、親水性高分子の分子量は200万以下が好ましく、150万以下がより好ましく、100万以下がさらに好ましい。
【0020】
放射線はα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。また、人工腎臓などの医療用具は滅菌することが必要であり、近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。すなわち、本発明の方法を医療用基材に用いると、基材の滅菌と改質が同時に達成できるので、好ましい。特に人工腎臓は、分離膜が水を抱液した状態である、いわゆるウェットタイプが主流となっているため、この水を親水性高分子溶液を含む水溶液に変えるだけで、本発明の方法が簡便に使用できるため、好ましい。
基材の滅菌と改質を同時に行う場合は、20kGy以上の吸収線量で放射線の照射を行うことが好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには20kGy以上の吸収線量が効果的なためである。しかしながら、吸収線量が20kGy以上であると、親水性高分子の3次元架橋や崩壊などが起きるため、血液適合性が低下する。
【0021】
本発明の吸着材料は、分離膜として好適に用いられる。分離膜としては、平膜、中空糸膜などが挙げられる。中空糸膜は、人工腎臓、血漿成分分離膜など、生体成分分離膜として、好適に用いられる。また、例えば人工腎臓として用いる場合、血液を中空糸膜の内表面から外表面に向けて流し、濾過、透析などを行うことから、中空糸膜の内表面に親水性高分子が結合していることが好ましい。さらには、中空糸膜の膜内部にも親水性高分子が結合されていることが、生体適合性の点で最も好ましい。さらに、膜の外側にも水溶液を接触させておくことが好ましい。
【0022】
本発明においては、基材を親水性高分子を含む水溶液と接触した後、放射線照射することにより吸着材料を製造することができる。接触させる方法としては、親水性高分子を含む水溶液に基材を浸漬させる方法が好ましい。分離膜を通して濾過することによって、分離膜と水溶液とを接触させることも好ましい方法である。
【0023】
また、複数の基材を含むシステムを親水性高分子を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射することにより、複数の基材を一度に改質することもできる。特に、該複数の基材が、それぞれ異なる素材からなる場合は、効果が大きい。これまでの改質方法では、基材に対する依存性が大きいので、異なる素材からなる複数の基材を同時に改質することは困難であるのに対する本発明の特徴である。
【0024】
複数の基材から構成されているシステムとは、少なくともポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムなどである。例えば、人工腎臓、外毒素吸着カラムなどの血液浄化用モジュールは、カテーテル、血液回路、チャンバー、モジュールの入口および出口のポート部、分離膜など異なる素材からなる複数の基材から構成されている。本発明ではこれらの全てもしくは一部を同時に改質することが可能である。一例としては、人工腎臓システムの場合は、中空糸膜モジュールに、モジュールの入口および出口のポート部および血液回路を接続し、血液回路から親水性高分子水溶液を通液して、システム全体に充填した状態で放射線照射を行えばよい。
【0025】
血液浄化用モジュールの製造方法としては、その用途により、種々の方法があるが、大まかな工程としては、血液浄化用の分離膜の製造工程と、その分離膜をモジュールに組み込むという工程にわけることができる。
【0026】
人工腎臓に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法についての一例を示す。人工腎臓に内蔵される中空糸膜の製造方法としては、つぎのような方法がある。すなわち、ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンを良溶媒または良溶媒を含む混合溶媒に溶解させたものを原液とする。ポリマー濃度は、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい。ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンの重量比率は、20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい。良溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい。該原液を二重環状口金の外側の管から吐出し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。二重環状口金の内側の管からは、中空部を形成するための注入液もしくは気体を吐出する。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過/拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過/拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としては、プロセス適性から、原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、45〜80重量%、さらには60〜75重量%の水溶液が好適に用いられる。
【0027】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0028】
このようにして得られた中空糸膜モジュールを用いた人工腎臓システムの基本構造の一例を図1に示す。円筒状のプラスチックケース7に中空糸膜5の束が挿入されており、中空糸の両端部を樹脂10で封止されている。ケース7には透析液の導入口8および導出口9が設けられており、中空糸膜5の外部には透析液、生食、濾過水等が流れるようになっている。ケース7の端部にはそれぞれ入口側ポート部1および出口側ポート部2が設けられている。血液6は入口側ポート部1に設けた血液導入口3より導入され、漏斗状のポート部1によって、中空糸膜5の内部に導かれる。中空糸膜5によってろ過された血液6は、出口側ポート部2によって集合させられ、血液導出口4より排出される。血液導入口3および血液導出口4には、血液回路11が接続される。
【実施例】
【0029】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
1.基材の作成方法
(中空糸膜モジュール1の作成)
iso(アイソタクティック)-ポリメチルメタクリレート5重量部およびsyn(シンジオタクティック)-ポリメチルメタクリレート20重量部をジメチルスルホキシド75重量部に加え、加熱溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液をオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出し、空気中を200mm通過した後、水100%の凝固浴中に導き中空糸を得た。この際、内部注入気体として乾燥窒素を内側の管より吐出した。得られた中空糸の内径は0.2mm、膜厚は0.03mmであった。得られた中空糸を10000本用いて、有効膜面積1.6mの中空糸膜モジュール1を作成した。
2.用いた測定方法
(1)ポリエチレングリコールの固定化密度の測定
放射線照射後の中空糸を、基材表面積1mあたり1lの37℃の蒸留水に1時間浸漬し、蒸留水中に溶出するポリエチレングリコール量が1mg以下になるまで蒸留水を交換しながら洗浄し、基材に固定化されていないポリエチレングリコールを取り除いた。洗浄した基材を50℃、0.5Torrにて10時間乾燥した。乾燥した基材10〜100mgを試験管に取り、無水酢酸とパラトルエンスルホン酸の混合溶液2mlを添加し、120度で約1時間アセチル化した。冷却後2mlの純水で器壁を洗い落とした後、20%炭酸水素ナトリウムで中和した。中和した溶液をトリクロロメタン5mlで抽出し、抽出物をガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)で分析した。GC分析条件を以下に示す。予め作成した検量線を用いて、基材に固定化しているポリエチレングリコール量を求めた。
(GC分析条件)
装置:Shimazu GC-9A
カラム:Supelcowax-10 60m×0.75mmI.D.
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:FID (H2 inlet:0.7kg/cm2, Air inlet:0.6kg/cm2, Temp.:200°C)
カラム温度:80°C 5min hold-(20min)-200°C 5min hold
インジェクター温度:200°C
(2)中空糸膜のヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。中空糸内表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、中空糸膜を貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。人間の静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間振盪させた。その後、中空糸膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。このフィルムを走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を中空糸膜表面に形成させて、試料とした。この中空糸膜の内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×10μm)の付着血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる10視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×10μm)とした。中空糸の長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすいためである。
(3)IL−6吸着試験
中空糸膜モジュール1に用いたのと同じ中空糸分離膜を30本束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約10cmであった。該ミニモジュールの血液入口と透析液出口をシリコーンチューブで繋ぎ、血液出口から蒸留水100mlを10ml/minの流速で流し、中空糸およびモジュール内部を洗浄した後、PBS(日水製薬社製ダルベッコPBS(−))水溶液を充填し、透析液入口、出口をキャップした。
【0030】
ヒト血漿10mlに、IL−6を添加し、1ng/ml濃度に調整した(液1とする)。透析液入口と透析液出口をキャップし、血液側入口と血液側出口をシリコーンチューブでつなぎ、液1を1ml/minの流速で37℃、4時間灌流させた。灌流前後のIL−6を定量し、IL−6の減少量から基材への吸着量を算出した。
(実施例1)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側を、それぞれ40℃の超純水5000mlで洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂社製マクロゴール(登録商標)6000)0.075重量%を含む水溶液で血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数0.56(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.209ng/cmの人工腎臓用モジュールが得られた。
(実施例2)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂製マクロゴール(登録商標)6000)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数0.43(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.180ng/cmであった。
(実施例3)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数0.99(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.163ng/cmであった。
(比較例1)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂製マクロゴール(登録商標)6000)0.010重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数3.23(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.032ng/cmであった。
(比較例2)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(ナカライテスク製ポリエチレングリコール#200)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数48.59(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.282ng/cmであった。
(比較例3)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(SCIENTIFIC POLYMERS PRODUCTS, INC.製、 Mw900,000)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該混合液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数0.56(個/4.3×10μm)、IL−6吸着量0.053ng/cmであった。
(比較例4)
前記の中空糸膜モジュール1の血液側、透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、モジュール内を超純水で充填し、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、血小板付着試験、IL−6吸着試験を行った。その結果、表1に示された通り、血小板付着数100(個/4.3×10μm)以上、IL−6吸着量0.162ng/cmであった。
【0031】
【表1】

【符号の説明】
【0032】
1:入口側ポート部1
2:出口側ポート部2
3:血液導入口
4:血液導出口
5:中空糸膜
6:血液6
7:プラスチックケース
8:透析液の導入口
9:透析液の導出口
10:樹脂
11:血液回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を親水性高分子処理したサイトカイン吸着材料。
【請求項2】
基材を親水性高分子水溶液と接触させて放射線照射することによって得られうる請求項1記載の吸着材料。
【請求項3】
ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である請求項1または2に記載の吸着材料。
【請求項4】
放射線照射後のサイトカイン吸着量が、照射前のサイトカイン吸着量の90%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吸着材料
【請求項5】
該サイトカインの吸着量が0.1ng/cm以上である請求項1〜4のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項6】
該サイトカインがインターロイキン−6であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項7】
該親水性高分子がポリアルキレングリコールまたはポリビニルピロリドンである請求項1〜6のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項8】
該親水性高分子がポリアルキレングリコールであり、かつ、該ポリアルキレングリコールが150〜3000mg/mの割合で基材表面に存在する請求項1〜6のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項9】
該親水性高分子が生体由来高分子である請求項1〜6のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項10】
該基材が高分子材料であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項11】
該基材が疎水性高分子材料からなる請求項1〜10のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項12】
該疎水性高分子材料がポリメタクリル酸メチルである請求項1〜11のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項13】
該基材が、医療用基材である請求項1〜12のいずれかに記載の吸着材料。
【請求項14】
請求項1記載の吸着材料を用いた分離膜。
【請求項15】
該分離膜が、中空糸膜である請求項14記載の分離膜。
【請求項16】
該中空糸膜の内表面に親水性高分子が結合している請求項15記載の分離膜。
【請求項17】
該中空糸膜の膜内部にも親水性高分子が結合している請求項16記載の分離膜。
【請求項18】
請求項15記載の分離膜を用いた生体成分分離膜。
【請求項19】
請求項1記載の吸着材料を複数含むシステム。
【請求項20】
異なる素材からなる複数の吸着材料を含む請求項19記載のシステム。
【請求項21】
ポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムであって、少なくともポート部、分離膜および回路が吸着材料である請求項20記載のシステム。
【請求項22】
基材を親水性高分子を含む水溶液と接触下、放射線照射する吸着材料の製造方法。
【請求項23】
該親水性高分子を含む水溶液に基材を浸漬させることにより、該基材と該水溶液を接触させる請求項22に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項24】
放射線照射後の材料のサイトカイン吸着量が、放射線照射前の材料のサイトカイン吸着量の90%以上である請求項22に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項25】
該サイトカインがインターロイキン−6である請求項24に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項26】
該基材が疎水性高分子からなる請求項22に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項27】
該基材が分離膜である請求項22に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項28】
該分離膜が中空糸膜である請求項27に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項29】
中空糸膜の内側に親水性高分子を含む水溶液を充填することによって、該中空糸膜と該水溶液を接触させる請求項28に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項30】
該中空糸膜の外側にも前記水溶液を接触させる請求項29に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項31】
該水溶液を、分離膜を通して濾過することによって、該分離膜と該水溶液を接触させる請求項27に記載の吸着材料の製造方法。
【請求項32】
複数の基材を含むシステムを親水性高分子を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法。
【請求項33】
異なる素材からなる複数の基材を含むシステムを親水性高分子を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射する請求項32に記載のシステムの製造方法。
【請求項34】
ポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムであって、該分離膜システムを親水性高分子を含む水溶液と接触させた状態で、該分離膜システム全体に放射線照射する請求項32記載のシステムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183384(P2011−183384A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81619(P2011−81619)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2003−208175(P2003−208175)の分割
【原出願日】平成15年8月21日(2003.8.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】