説明

吸着脱硫剤の製造方法、炭化水素油の脱硫方法及び燃料電池システム

【課題】家庭用など定置式燃料電池システムにおける炭化水素油用の脱硫剤として好適で、比表面積が高く、尚且つ、均一なメソ孔を有し、高い吸着脱硫性能を有する脱硫剤の製造方法を提供する。
【解決手段】比表面積が300〜1,000m2/gで、尚且つ、平均細孔径が30〜100Åであるメソポーラスシリカに、酸化金属を担持、及び/又は、酸処理することにより修飾して酸点を形成することを特徴とする炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油用の吸着脱硫剤の製造方法、該方法で製造された吸着脱硫剤を用いた炭化水素油の脱硫方法、並びに燃料電池システムに関し、特には、表面を修飾したメソポーラスシリカから成る吸着脱硫剤の製造方法、更には、該吸着脱硫剤を用いた炭化水素油の脱硫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスであるCO2ガスや、NOx等の自動車排出ガスの排出量を削減する観点から、燃料油中に含まれる硫黄分の一層の低減が、社会から強く望まれている。我が国では既に、軽油は2007年から、ガソリンは2008年から硫黄分が10質量ppm以下に規制されている。一方、昨今の燃料電池の技術革新には目を見張るものがある。水素源を石油系燃料に求めた場合、燃料油中に含まれる硫黄分をppbレベルまで低減しなければ、燃料電池の改質器及び電極部の触媒が硫黄分により被毒され、燃料電池システムの機能が低下し、所望する寿命が得られない。このような背景から、超低硫黄分の石油系燃料油を得る脱硫技術が盛んに研究されている。
【0003】
従来の水素化脱硫方法で除去が難しい難脱硫化合物の大部分は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類である。灯油の場合、特にチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するチオフェン類及びベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上であることが多い。一方で、簡単な操作で、容易に効率的に脱硫できる方法が求められており、例えば、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としないで、かつ室温から150℃程度までの比較的低い温度下で、ジベンゾチオフェン類を効率的に除去できる脱硫剤が熱望されている。
【0004】
これに対して、特定の細孔構造を有する活性炭、特に繊維状活性炭は、軽油や灯油に含まれるジベンゾチオフェン類に対して高い除去性能を有することが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、繊維状活性炭は、綿状であるため充填密度を高くできず、それ故、単位容積当たりの吸着性能が高くなく、また、製造工程が複雑で製造コストが極めて高く経済的ではないという課題が存在する。
【0005】
また、籾殻等の安価なバイオマスを原料とし、メソ孔が多くてジベンゾチオフェン類の吸着脱硫性能が高い活性炭系脱硫剤も報告されている(特許文献2及び3参照)。しかしながら、活性炭系脱硫剤は、ジベンゾチオフェン類の濃度が低い場合には吸着脱硫性能は高くなく、また、チオフェン類やベンゾチオフェン類の吸着脱硫性能は低いという課題が存在する。
【0006】
また、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の硫黄化合物を含む炭化水素油と、或いは、さらに芳香族炭化水素を含む炭化水素油と、固体酸及び/又は遷移金属酸化物が担持された活性炭とを接触させて脱硫する炭化水素油の脱硫方法(特許文献4参照)も報告されている。しかしながら、一般に固体酸は、炭化水素油の吸着脱硫に好ましい細孔分布を有していないという課題が存在する。また、フォージャサイト型等のゼオライトは、窒素吸着法により測定した比表面積が300〜600m2/g程度と大きいが、結晶細孔の入口が約7Åと小さいので、アルキル基が多いチオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類は、結晶細孔内への進入が困難であり、結晶細孔内部はこれら硫黄化合物の吸着サイトとして有効に活用されない。一方、硫酸根アルミナ等の固体超強酸は、或る程度は細孔構造を制御できるが、硫黄化合物の進入に適した均一なメソ孔を有し、尚且つ、吸着サイトとなるミクロ孔に由来する高い比表面積を得るまでには至っていなかった。
【0007】
また、メソポーラスシリカに、塩化銅(CuCl)を導入した吸着脱硫剤も研究されている(非特許文献1)。しかしながら、分子が小さくて吸着除去し易いチオフェンに対しても、Cuの導入効果は限定的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2003/097771号
【特許文献2】特開2007−284337号公報
【特許文献3】特開2009−072712号公報
【特許文献4】国際公開第2005/073348号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】W.Dai, Y.Zhou, S.Li, W.Li, W.Su, Y.Sun, L.Zhou; Ind.Eng.Chem.Res.,45(23),7892−7896(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、家庭用など定置式燃料電池システムにおける炭化水素油用の脱硫剤として好適で、比表面積が高く、尚且つ、均一なメソ孔を有し、高い吸着脱硫性能を有する脱硫剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、均一なメソ孔を有するものの酸点の無いメソポーラスシリカに、酸化金属を担持、及び/又は、酸処理することにより修飾して酸点を形成することにより、炭化水素油に含まれるアルキル基が多いチオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類の吸着除去が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 比表面積が300〜1,000m2/gで、尚且つ、平均細孔径が30〜100Åであるメソポーラスシリカに、酸化金属を担持、及び/又は、酸処理することにより修飾して酸点を形成することを特徴とする炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
(2) 前記酸化金属が、アルミナ又はジルコニアであることを特徴とする上記(1)に記載の炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
(3) 前記酸処理が、硫酸含浸後、750〜1,000℃で焼成することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
(4) チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法で製造した炭化水素油用吸着脱硫剤と接触させて脱硫することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
(5) 100℃以下の温度で、前記炭化水素油を前記吸着脱硫剤と接触させることを特徴とする上記(4)に記載の炭化水素油の脱硫方法。
(6) 上記(4)又は(5)に記載の方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、前記脱硫手段で脱硫した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭化水素油用の吸着脱硫剤の製造方法によれば、比表面積が高く、尚且つ、均一なメソ孔を有する吸着脱硫剤を得ることができる。また、かかる吸着脱硫剤により、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を、常温から100℃程度までの低い温度で、効率良く脱硫することができる。また、燃料電池の原燃料である灯油などの炭化水素油の脱硫に用いることで、燃料電池の起動やメンテナンスが比較的容易となり、また、燃料電池のシステムを簡略化できるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔メソポーラスシリカ〕
本発明に用いるメソポーラスシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ)を材質として、均一で規則的な直径20〜500Åのメソ孔を持つ物質のことである。なお、メソポーラスシリカの細孔壁はアモルファス状のシリカで形成されているために、メソポーラスシリカは固体酸性を持たない。
【0015】
メソポーラスシリカの調製においては、一般的には界面活性剤ミセルを鋳型(構造指向剤)とし、そのミセルの周りをシリカ成分で被覆することにより規則的なシリカ骨格を形成し、さらに焼成することで内部の界面活性剤が除去されてシリカ骨格のみが残り、規則的なメソ孔が形成される。ここで、界面活性剤の種類を変更することで、様々な種類が合成されており、MCMシリーズやSBAシリーズ等が知られている。
【0016】
SBAシリーズは、自己組織的化するブロック共重合ポリマーを鋳型として合成され、細孔直径50〜100Å程度と比較的大きなサイズに制御が可能である。さらに、20Å以下のマイクロ孔を有することから比表面積が大きい。代表的にはSBA−15があり、500〜1,000m2/g程度の比表面積と40〜80Å程度のメソ孔を有する。その製造方法は文献(例えば、D.Zhao, J.Feng, Q.Huo, N.Melosh, G.H.Fredrickson, B.F.Chmelka and G.D.Stucky; Science, 279, 548−552(1998)、 D.Zhao, Q.Huo, J.Feng, B.F.Chmelka and G.D.Stucky; J. Am. Chem. Soc., 120, 6024−6036(1998))に記載されている。
【0017】
なお、通常、比表面積Sa[m2/g]、全細孔容積Va[ml/g]は、窒素吸着法により測定される。窒素吸着法は簡便で、一般に用いられており、様々な文献に解説されている。かかる文献としては、例えば、鷲尾一裕:島津評論、48 (1)、35−49 (1991)、ASTM (American Society for Testing and Materials) Standard Test Method D 4365-95などが挙げられる。尚、平均細孔径D[Å]は、次の式(1):
D=4×Va/Sa×104 ・・・ (1)
により求められる。
【0018】
本発明に用いるメソポーラスシリカは、比表面積が300〜1,000m2/gで、尚且つ、平均細孔径が30〜100Åであり、比表面積は450〜650m/gが好ましく、平均細孔径は45〜60Åが好ましい。原料として用いるメソポーラスシリカの比表面積が300m2/gより小さいと、製造される吸着脱硫剤は、硫黄化合物の吸着サイトが少なく、高い脱硫性能が得られない。一方、原料として用いるメソポーラスシリカの比表面積が1,000m2/gより大きいと、製造される吸着脱硫剤は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物が進入できないような、極めて径の小さい細孔が多く、これらの硫黄化合物の吸着脱硫剤としての性能は高くない。また、原料として用いるメソポーラスシリカの平均細孔径が30Åよりも小さいと、製造される吸着脱硫剤は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物の拡散が阻害され、硫黄化合物の濃度が高い場合には細孔が閉塞してしまい、活用されない吸着サイトが生じてしまう。一方、原料として用いるメソポーラスシリカの平均細孔径が80Åより大きいと、細孔壁から20Å程度の距離までしか硫黄化合物は吸着しないことから、製造される吸着脱硫剤は、細孔内に無駄な空間が多くなり、効率的ではない。
【0019】
〔固体表面への酸性質付与〕
上記メソポーラスシリカの細孔壁はアモルファス状のシリカで形成されているために、固体表面は酸性質を持たない。従って、炭化水素油に含まれるチオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類の吸着力は極めて弱い。これに対して、本発明者は、これらの硫黄化合物の吸着力を高めるために、細孔壁の表面を修飾して酸性質を付与することが有効であることを見出した。ここで、酸性質を付与する修飾方法としては、(1)アルミナやジルコニア等の固体酸性質を有する酸化金属を担持する方法、及び/又は、(2)硫酸等の酸により処理した後に焼成することで、水酸基を形成させる方法が有効である。
酸性質を付与できたかどうかは、酸強度(H)を測定することで確認できる。酸強度(H)とは、触媒表面の酸点が塩基にプロトンを与える能力あるいは塩基から電子対を受け取る能力で定義され、pKa値で表わされるものであり、既知の指示薬法あるいは気体塩基吸着法等の方法で測定することができる。例えば、pKa値が既知の酸塩基変換指示薬を用いて、固体酸触媒の酸強度を、直接、測定することができる。ニュートラルレッド(H値:+6.8)、4−(フェニルアゾ)−1−ナフチルアミン(PANA)(H値:+4.0)、p-ジメチルアミノアゾベンゼン(バターイエロー)(H値:+3.3)、4−(フェニルアゾ)ジフェニルアミン(4−PADPA)(H値:+1.5)、ジシンナミリデンアセトン(H値:−3.0)、ベンジリデンアセトフェノン (カルコン) (H値:−5.6)、アントラキノン(H値:−8.2)、p−ニトロトルエン(H値:−10.5)、2,4−ジニトロトルエン(H値:−12.8)等の乾燥シクロヘキサン、ベンゼンあるいは塩化スルフリル溶液に触媒を浸漬し、触媒表面上の指示薬の酸性色への変色が認められたら、酸性色に変色するpKa値と同じかそれ以下の値である。
【0020】
〔酸化金属の担持〕
金属成分を含む含浸液をメソポーラスシリカに含浸し、焼成することによりメソポーラスシリカに酸化金属を担持することができる。金属の種類としては、固体酸性質を付与することができるアルミニウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムが好ましく、特にアルミニウムとジルコニウムは、金属塩の種類が多く安価であることからより好ましい。
【0021】
含浸液には金属塩類の水溶液を用いることができるが、金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、有機酸塩類等、水溶性塩類であればどのような塩類でも使用することができる。なお、残留成分の影響が少ないことから、特には硝酸塩の水溶液が好ましい。
【0022】
含浸後の焼成温度は、金属塩が分解して酸化金属となる温度以上であるが、通常400〜600℃の範囲が好ましい。400℃未満の温度では、金属成分の分解が不十分となる場合がある。一方、600℃より高い温度では、比表面積の低下が顕著となる。
【0023】
酸化金属の担持量は、細孔を閉塞しない量であれば良いが、5〜50質量%、特には10〜40質量%の範囲が好ましい。5質量%未満の担持量では、露出したシリカ表面が多く残存してしまい、酸性質付与の効果が十分ではない。一方、50質量%より多い担持量では、細孔を閉塞してしまい、硫黄化合物の拡散を阻害する場合がある。
【0024】
〔酸処理〕
酸処理は、酸の水溶液を含浸し、焼成すればよい。なお、酸処理の前に150〜500℃程度で乾燥すると、より均一に酸処理できるので特に好ましい。また、酸処理時の水溶液の温度は0〜80℃が好ましく、更に好ましくは5〜35℃である。
【0025】
酸の種類としては、硫酸、硝酸、塩酸、有機酸等、どのような酸でも使用することができる。残留成分の影響が少ないことから、硫酸や硝酸が好ましい。また、酸化金属担持後に硫酸根を形成することができるので、硫酸が特に好ましい。
【0026】
酸の濃度は、任意の濃度を使用することができるが、0.5〜8N(規定)、特には1〜4Nの範囲が好ましい。0.5N未満の濃度では、酸処理の効果が少なく、一方、8Nより高い濃度では、アモルファスシリカ細孔壁へのダメージが大きくなる。
【0027】
酸の含浸量は、メソポーラスシリカや酸化金属担持メソポーラスシリカの吸水率を測定し、吸水率の1〜5倍、好ましくは1.5〜3倍の体積とすると、均一に酸処理できることから好ましい。
【0028】
含浸後、3〜48時間、好ましくは12〜24時間熟成する。3時間未満の短い時間では、酸処理の進行が不十分となる場合があり、一方、48時間より長い時間では、アモルファスシリカ細孔壁へのダメージが大きくなる。上記熟成時の水溶液の温度は、酸処理時と同じで、0〜80℃が好ましく、更に好ましくは5〜35℃である。
【0029】
熟成後、110〜150℃程度で乾燥すると、焼成時の急激な水蒸発のダメージが少なくなり、より好ましい。
【0030】
酸を含浸した後の焼成温度は、酸が分解する温度以上が必要であるが、特には750〜1,000℃の範囲が好ましい。750℃未満の温度では、酸点の形成が不十分である上に、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物が進入できないような、極めて径の小さい細孔が多く残存してしまう。一方、1,000℃より高い温度では、比表面積の低下が顕著となる。
【0031】
本発明の酸化金属担持、及び/又は、酸処理することにより修飾して酸点を形成させたメソポーラスシリカ系吸着脱硫剤の比表面積は、300〜900m2/g、特には350〜700m2/gの範囲が好ましい。比表面積が300m2/gより小さいと、硫黄化合物の吸着サイトが少なく、高い脱硫性能が得られない。一方、比表面積が900m2/gより大きいと、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物が進入できないような、極めて径の小さい細孔が多く、これらの硫黄化合物の吸着脱硫剤としての性能は高くない。また、メソポーラスシリカ系吸着脱硫剤の平均細孔径は、30〜80Å、特には40〜70Åの範囲が好ましい。平均細孔径が30Åよりも小さいと、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、或いは、ジベンゾチオフェン類といった比較的大きな分子の硫黄化合物の拡散が阻害され、硫黄化合物の濃度が高い場合には細孔が閉塞してしまい、活用されない吸着サイトが生じてしまう。一方、平均細孔径が80Åより大きいと、細孔壁から20Å程度の距離までしか硫黄化合物は吸着しないことから、細孔内に無駄な空間が多くなり、効率的ではない。また、メソポーラスシリカ系吸着脱硫剤の細孔容積は、0.3〜1.1ml/gの範囲が好ましい。細孔容積が0.3ml/gよりも小さいと、比表面積が高く、尚且つ、平均細孔径が大きい吸着脱硫剤が得られない。一方、細孔容積が1.1ml/gよりも大きいと、吸着脱硫剤の嵩密度が小さく、単位体積当たりの吸着脱硫性能が低くなってしまう。
【0032】
〔炭化水素油の脱硫方法〕
本発明の炭化水素油の脱硫方法では、本発明の方法で製造したメソポーラスシリカ系吸着脱硫剤と炭化水素油とを接触させることにより、該炭化水素油に含有される硫黄化合物を吸着除去する。なお、他の種類の吸着脱硫剤と組み合わせても良い。
【0033】
接触させる条件としては、圧力は、常圧〜1.0MPaGが好ましく、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.03MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr-1が好ましく、0.01〜10hr-1がより好ましい。見掛けの線速度は、1×10-7〜1×10-1m/秒、更には5×10-7〜1×10-2m/秒、特には1×10-6〜1×10-3m/秒が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体が吸着剤の充填層を通過する移動速度が速くなり、液相が吸着層出口に到達するまでに吸着質が除去しきれず、除去されない吸着質を含有したまま炭化水素油が出口から流出されてしまうといった問題が生じ易くなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、吸着剤層の断面積が相対的に大きくなることから、炭化水素油の分散状態が不良となり、吸着剤層の流れ方向と直角な断面を通過する炭化水素油の流速(流量)にムラが生じ易く、吸着剤層の断面において吸着した吸着質に分布(ムラ)が生じ易いため、吸着剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。
【0034】
吸着脱硫を行う温度(即ち、吸着吸着剤と炭化水素油とを接触させる温度)は、100℃以下が好ましく、−30〜100℃の範囲が更に好ましく、特には0〜80℃の範囲が好ましい。−30℃よりも低温では、吸着される物質(吸着質)の炭化水素油中の拡散速度が著しく小さく、吸着されるまでに長時間を要する。また、炭化水素油の粘性が高くなるために、脱硫器内での圧力損失が大きくなり、脱硫器の入口圧力を高くする必要がある。一般的に、吸着脱硫を行う温度は0℃以上が特に好ましい。一方、温度が100℃よりも高いと、ジベンゾチオフェン類の吸着は物理吸着であるために、平衡時の吸着量が著しく減少する。なお、温度は高いほど、吸着速度は向上するが、平衡時のジベンゾチオフェン類の吸着量が少なくなるので、80℃以下が特に好ましい。
【0035】
また、燃料電池などの水素源として炭化水素油を用いる場合、炭化水素に含まれる硫黄は、水素製造過程で改質触媒の触媒毒であるから厳しく除去する必要がある。これに対して、本発明の方法で製造した吸着脱硫剤は、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減することができる。したがって、本発明の方法で製造した吸着脱硫剤を用いれば、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。
【0036】
〔炭化水素油〕
本発明の方法で製造した吸着脱硫剤が適用対象とする炭化水素油は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油である。該炭化水素油として、具体的には、灯油、軽油などが挙げられ、特には高度に(深度に)脱硫する必要のある燃料電池用の灯油が挙げられる。
【0037】
これらの硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。
【0038】
灯油は、炭素数12〜16程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.79〜0.85g/cm3、沸点範囲150〜320℃程度の炭化水素油である。灯油は、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族も0〜5容量%程度含む。一般的には、灯火用及び暖房用・ちゅう(厨)房用燃料として日本工業規格JIS K2203に規定される1号灯油が対象となる。該1号灯油は、品質として、引火点40℃以上、95%留出温度270℃以下、硫黄分0.008質量%以下、煙点23mm以上(寒候用のものは21mm以上)、銅板腐食(50℃、3時間)1以下、色(セーボルト)+25以上と、規定されている。なお、灯油は、通常、硫黄分を数質量ppmから80質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから10質量ppm程度含む。
【0039】
軽油は、炭素数16〜20程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.82〜0.88g/cm3、沸点範囲140〜390℃程度の炭化水素油である。軽油は、パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素も10〜30容量%程度含み、多環芳香族も1〜10容量%程度含む。なお、軽油は、硫黄分を数質量ppmから100質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから数10質量ppm程度含む。
【0040】
チオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五員環又は六員環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環がベンゼン環と縮合していない硫黄化合物及びその誘導体であり、複素環同士が縮合した化合物も含む。チオフェンは、チオフランとも呼ばれ、分子式C44Sで表わせる、分子量84.1の硫黄化合物である。その他の代表的なチオフェン類としては、メチルチオフェン(チオトレン、分子式C56S、分子量98.2)、チオピラン(ペンチオフェン、分子式C56S、分子量98.2)、チオフテン(分子式C642、分子量140)、テトラフェニルチオフェン(チオネサル、分子式C2020S、分子量388)、ジチエニルメタン(分子式C982、分子量180)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0041】
ベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五員環又は六員環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が1個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ベンゾチオフェンは、チオナフテン、チオクマロンとも呼ばれ、分子式C86Sで表わせる、分子量134の硫黄化合物である。その他の代表的なベンゾチオフェン類としては、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェン、トリメチルベンゾチオフェン、テトラメチルベンゾチオフェン、ペンタメチルベンゾチオフェン、ヘキサメチルベンゾチオフェン、メチルエチルベンゾチオフェン、ジメチルエチルベンゾチオフェン、トリメチルエチルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルベンゾチオフェン、メチルジエチルベンゾチオフェン、ジメチルジエチルベンゾチオフェン、トリメチルジエチルベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルベンゾチオフェン、メチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルベンゾチオフェンなどのアルキルベンゾチオフェン、チアクロメン(ベンゾチア−γ−ピラン、分子式C98S、分子量148)、ジチアナフタリン(分子式C862、分子量166)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0042】
ジベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五員環又は六員環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が2個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ジベンゾチオフェンは、ジフェニレンスルフィド、ビフェニレンスルフィド、硫化ジフェニレンとも呼ばれ、分子式C128Sで表わせる、分子量184の硫黄化合物である。4−メチルジベンゾチオフェンや4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは、水素化脱硫における難脱硫化合物として良く知られている。その他の代表的なジベンゾチオフェン類としては、トリメチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジベンゾチオフェン、オクタメチルジベンゾチオフェン、メチルエチルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルエチルジベンゾチオフェン、メチルジエチルジベンゾチオフェン、ジメチルジエチルジベンゾチオフェン、トリメチルジエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジエチルジベンゾチオフェン、メチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルプロピルジベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルプロピルジベンゾチオフェンなどのアルキルジベンゾチオフェン、チアントレン(ジフェニレンジスルフィド、分子式C1282、分子量216)、チオキサンテン(ジベンゾチオピラン、ジフェニルメタンスルフィド、分子式C1310S、分子量198)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0043】
〔燃料電池システム〕
本発明の燃料電池システムは、上述した方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、脱硫手段で脱硫した炭化水素油を燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする。ここで、脱硫手段としては、公知の脱硫器を用いることができ、例えば、脱硫器に上述した吸着脱硫剤を充填し、炭化水素油を流通させることで、炭化水素油を脱硫する。なお、本発明の燃料電池システムは、該脱硫手段及び燃料電池の他に、通常、脱硫された炭化水素油を改質して水素を含む改質ガスを生成させる改質手段を具え、該改質ガスを用いて燃料電池で発電を行う。ここで、改質手段には、通常、公知の改質触媒が充填される。
【0044】
上述のように、燃料電池の原燃料(水素源)として炭化水素油を用いる場合、炭化水素油に含まれる硫黄は、水素製造過程において改質触媒の触媒毒となるが、上述した本発明の脱硫方法は、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減できるので、該方法に従う脱硫手段を、燃料電池システムに組み込むことにより、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。従って、本発明の燃料電池システムは、灯油又は軽油をオンボード改質燃料として燃料電池自動車に使用する場合に、特に好適に適用できる。なお、本発明の燃料電池システムは、定置式であっても良いし、可動式(例えば、燃料電池自動車など)であってもよい。また、本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池で使用する水素を発生させるための原燃料である炭化水素油としては、灯油や軽油などが好ましく、灯油が特に好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
〔SBA−15の合成〕
メソポーラスシリカであるSBA−15は、Zhaoらの文献に記載の方法に従い合成した。両親媒性のトリブロック・コポリマー[ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)、エチレンオキサイド(EO):プロピレンオキサイド(PO):エチレンオキサイド(EO)=20:70:20、平均分子量5,800]Pluronic P−123(Aldrich社製)を、構造指向剤として使用した。また、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を、シリカ源として使用した。コポリマー、TEOS、塩化水素及び水の質量比を、4.0:8.5:4.1:54.5とした。コポリマーを塩酸(塩化水素及び水)に溶解し、4時間撹拌した。次いで、溶液を撹拌しながら、TEOSを添加し、温度を40℃まで上昇させた。40℃で24時間熟成させた後に、内容物をポリプロピレン容器へ移し、空気雰囲気下、100℃で24時間加熱し、シリカを重合させた。さらに、沈殿した固体を濾過、水洗し、100℃で一晩乾燥した。最後に、空気雰囲気下、500℃で6時間焼成した。なお、得られたSBA−15(メソポーラスシリカ)は、比表面積が900m2/gで、平均細孔径が51Åであった。
【0047】
〔アルミナ担持SBA−15の調製〕
100質量部のSBA−15に対して、44質量部のAl(NO33・9H2O(99.9%、和光純薬工業社製)をイオン交換水に溶解し、60℃で撹拌しながらSBA−15に含浸担持した。500℃で6時間焼成し、SBA−15に対してアルミナを12質量%担持したメソポーラスシリカ系脱硫剤Aを得た。
【0048】
〔硫酸処理SBA−15の調製〕
SBA−15を、予め、空気流通下、400℃で1時間乾燥した。1.1gのSBA−15に対して、7.0ml(吸水率3.0ml/gの2.3倍)の2N(1mol/L)硫酸水溶液を20℃で含浸し、20℃で16時間熟成した。空気雰囲気下、130℃で16時間乾燥後、空気流通下、900℃で1時間焼成し、メソポーラスシリカ系脱硫剤Bを得た。
【0049】
〔硫酸根アルミナ担持SBA−15の調製〕
2.0gのメソポーラスシリカ系脱硫剤A(アルミナ担持メソポーラスシリカ)に対して、12.6ml(吸水率3.0ml/gの2.1倍)の2N(1mol/L)硫酸水溶液を20℃で含浸し、20℃で16時間熟成した。空気雰囲気下、130℃で16時間乾燥後、空気流通下、900℃で1時間焼成し、硫酸根アルミナを担持したメソポーラスシリカ系脱硫剤Cを得た。
【0050】
〔酸強度の測定〕
指示薬法により酸強度を測定した。溶媒としてベンゼンを使用し、p-ジメチルアミノアゾベンゼン(H値:+3.3、指示薬A)、ジシンナミリデンアセトン(H値、−3.0、指示薬B)、アントラキノン(H値:−8.2、指示薬C)及びp-ニトロトルエン(H値、−10.5、指示薬D)を溶解した。試料を、3.5mLスクリュー管瓶に0.05gずつ量り取り、150℃の乾燥機にて21時間乾燥した。乾燥機から取り出したスクリュー管瓶にすばやく指示薬を加えた。指示薬を加えたスクリュー管瓶に蓋をして、よく振とうしてから、色の変化を観察した。結果を表1に示す。尚、変化が無かった場合を×、変化が有った場合を○とした。酸強度は、メソポーラスシリカ系脱硫剤A>メソポーラスシリカ系脱硫剤C>メソポーラスシリカ系脱硫剤B>SAB−15の順に高かった。
【0051】
【表1】

【0052】
〔浸せき式脱硫実験〕
400℃で乾燥したSAB−15(比較例1)、メソポーラスシリカ系脱硫剤A(実施例1)、メソポーラスシリカ系脱硫剤B(実施例2)、及び、メソポーラスシリカ系脱硫剤C(実施例3)を用い、灯油への浸せき式脱硫実験を実施した。
【0053】
それぞれの脱硫剤に対する灯油の質量比率(液固比)を30、120及び240として、灯油中に脱硫剤を浸せきし、10℃にて10日間以上静置して十分に吸着平衡状態とさせた後、灯油を取り出し、その硫黄分を燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。浸せき前後の灯油の硫黄分の値から、次の式(2):
脱硫率[%]=100×(S1−S2)/S1 ・・・ (2)
により吸着除去した硫黄分の割合を脱硫率[%]として算出した。式中、S1及びS2は、それぞれ浸せき前及び浸せき後の灯油の硫黄分を示す。
【0054】
灯油(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲158.0〜271.5℃、5%留出点170.5℃、10%留出点175.5℃、20%留出点183.0℃、30%留出点190.0℃、40%留出点197.5℃、50%留出点206.0℃、60%留出点215.0℃、70%留出点224.0℃、80%留出点234.0℃、90%留出点248.0℃、95%留出点259.5℃、97%留出点269.0℃、密度(15℃)0.7940g/ml、芳香族分16.9容量%、飽和分83.1容量%、硫黄分6.2質量ppm、軽質硫黄化合物(チオフェンよりも軽質の硫黄化合物)に由来する硫黄分1質量ppb、チオフェン類及びベンゾチオフェン類(チオフェン及びチオフェンよりも重質であり4−メチルジベンゾチオフェン(分子量198)よりも軽質の硫黄化合物)に由来する硫黄分5.0質量ppm、ジベンゾチオフェン類(4−メチルジベンゾチオフェン及び4−メチルジベンゾチオフェンよりも重質の硫黄化合物、分子量198以上の重質硫黄化合物)に由来する硫黄分1.2質量ppm、窒素分1質量ppm以下のものを使用した。
【0055】
浸せき式脱硫実験の結果について、全硫黄分の脱硫率及び重質硫黄化合物の脱硫率を表1に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表1より、本発明の方法で製造したメソポーラスシリカ系脱硫剤は、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類を含有する灯油に対して、比較例よりも高い脱硫率が得られることが分かる。
【0058】
〔試験方法〕
なお、上記で特に説明をしていない、脱硫剤、灯油の物性等の測定は、次の試験方法に準じて行った。
・蒸留性状:JIS K2254に準拠して測定した。
・密度(15℃):JIS K2249に準拠して測定した。
・炭化水素の成分組成(芳香族分、飽和分、オレフィン分):JPI-5S-49-97に準拠して測定した。
・硫黄分(全硫黄分):燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。
・硫黄化合物タイプ分析(チオフェンより軽質な留分中の硫黄分、チオフェン類及びベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類):GC−ICP−MSで分析した。
・窒素分:JIS K2609に記載の微量電量滴定法に準拠して測定した。
・アルミナ含有量:試料をアルカリ融解したものを酸性溶液中に溶解し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置)で分析した。
・比表面積:窒素吸着法により測定し、BET(Brunouer-Emmett-Teller)法により算出した。
・細孔容積:窒素吸着法により測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が300〜1,000m2/gで、尚且つ、平均細孔径が30〜100Åであるメソポーラスシリカに、酸化金属を担持、及び/又は、酸処理することにより修飾して酸点を形成することを特徴とする炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
【請求項2】
前記酸化金属が、アルミナ又はジルコニアであることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
【請求項3】
前記酸処理が、硫酸含浸後、750〜1,000℃で焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素油用吸着脱硫剤の製造方法。
【請求項4】
チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類からなる群から選択される少なくとも一種の硫黄化合物を含む炭化水素油を、請求項1〜3のいずれかに記載の方法で製造した炭化水素油用吸着脱硫剤と接触させて脱硫することを特徴とする炭化水素油の脱硫方法。
【請求項5】
100℃以下の温度で、前記炭化水素油を前記吸着脱硫剤と接触させることを特徴とする請求項4に記載の炭化水素油の脱硫方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法により炭化水素油を脱硫する脱硫手段と、燃料電池とを具え、前記脱硫手段で脱硫した炭化水素油を前記燃料電池の原燃料として使用することを特徴とする燃料電池システム。

【公開番号】特開2011−190369(P2011−190369A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58290(P2010−58290)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】