説明

吸脱着槽

【課題】 低温の廃熱を利用可能とし、安価かつコンパクトな高性能の吸脱着槽を提供する。
【解決手段】
外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部と、水蒸気導入部に設けられた1本又は複数本の吸脱着管とを備え、吸脱着管を内管と外管とからなる2重管構造とし、内管を、水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤である外部分と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する熱交換器である内部分とから構成し、外管を、水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段とした吸脱着槽とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸脱着剤の吸脱着熱を利用した吸脱着槽に関し、例えば、分散電源(燃料電池、マイクロガスタービン、ガスエンジン等)や工場(焼却炉等)、温泉や家庭(風呂等の温排水、排ガス)などから排出される30℃〜100℃程度の比較的低温の廃熱を有効に利用して、冷熱源および温熱源として機能する吸脱着槽である。また、例えば、夜間電力を利用した圧縮式ヒートポンプを適用することも可能な、吸脱着槽に関する。
【背景技術】
【0002】
平成9年に京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)での地球温暖化ガス排出規制の国際取決め、平成11年の改正省エネルギー法の施行や原油価格の高騰などから、我が国の省資源や省エネルギーに対する社会的要請は非常に強い現状にある。
【0003】
政策的にも、電力やガス等のエネルギー供給に対する様々な規制緩和策、環境負荷の小さな再生可能エネルギーや排熱等の未利用エネルギーの利用促進、更には在来エネルギー利用の高効率化に対する補助制度の整備など、新たなエネルギーシステムの構築や提案が推進されている。
【0004】
特に、次世代エネルギーシステム革命の中核的存在であるマイクロガスタービンや燃料電池を用いた小型分散型コジェネレーション(熱電併給)システムの開発では、これらから排出される低レベル熱エネルギーの効果的な利用方法の開発が重要な課題となっている。
【0005】
従来の低温廃熱回収技術としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭を用いた吸脱着ヒートポンプシステムが挙げられる。本システムは、シリカゲル等の水蒸気吸脱着能力を有する物質による吸脱着反応を利用し、詳細なシステム構成としては、大きく、吸脱着工程を行う吸脱着槽と、脱着した水(潜熱媒体)を貯留する蓄熱槽との2つのゾーンから構成される。
【0006】
この2つのゾーン間は、ガス配管により減圧(真空)状態で連結されており、該配管内を水蒸気(潜熱媒体)が移動することにより蓄熱、採熱が行われる。吸脱着槽には、シリカゲル等から吸着媒体を脱着するための加熱装置(熱交換器またはヒータ)が設置されるとともに、吸着工程において発生する吸着熱を回収する熱交換器が設置されている。また、蓄熱槽には、脱着工程において吸脱着槽から移動してきた水分を凝縮させる凝縮器、および吸着工程において媒体が蒸発する際に発生する冷熱を採取する採熱用熱交換器が設置されている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−313903号公報
【特許文献2】特開平9−131516号公報
【特許文献3】特開昭59−179112号公報
【特許文献4】特開昭59−147605号公報
【特許文献5】特開昭59−109203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
<潜熱蓄熱システムの課題>
民生部門および産業部門においては、省エネルギーを志向してコジェネレーションや分散電源(熱電併給)への移行が進んでいる。しかしながら、このような状況でも省エネルギーのための課題は、100℃以下の低エネルギーの廃熱が有効に利用されていないことである。
【0009】
将来を見越すと、熱電総合熱効率の観点から省エネルギー効果が大きく期待される固体高分子型燃料電池(PEFC)、マイクロガスタービン、マイクロガスエンジンといった小型分散電源が民生部門(家庭用(1〜5kW)、業務用(10〜数10kW))においても飛躍的に普及していくと考えられる。
【0010】
このような分散電源において、廃熱は給湯や蒸気といった形で利用されることが前提として組み込まれているが、電力負荷が高い場合などには熱電の需要バランスから熱が余剰となり未利用のまま排出されることになり、実質的には総合効率を低下させ、省エネルギーに寄与しないことが懸念される。
【0011】
このように、低エネルギー廃熱の有効利用に対する強いニーズは民生部門あるいは産業部門において依然として顕在する。しかしながら、低エネルギーの廃熱を高効率に回収する熱システムが構築できていないことが現状の技術上の課題となっている。
【0012】
潜熱蓄熱システムの導入・普及が遅れている原因としては、潜熱蓄熱システムがアクティブな省エネルギー技術であるにも関わらず、コンパクト、安価、高密度高性能、更には使い勝手の良い吸脱着槽、蓄熱槽およびこれらを統合した潜熱蓄熱システムの開発に対する創造的な研究開発が行われなかったことに起因する。
【0013】
<潜熱蓄熱システム、特に吸脱着槽の課題>
すなわち、上述した従来の吸脱着ヒートポンプシステムでは、利用可能な廃熱の温度レベルは150℃程度であり、これ以下の温度レベルではシステムの効率が大幅に低下するといった課題がある。これは、吸脱着物質(シリカゲル、ゼオライト、活性炭等)の性能に由来する。また、吸脱着物質の質量比吸着能力が低いため、システムの肥大化を招来している。
【0014】
また、吸着工程において、蓄熱槽から移動してきた水蒸気が槽内に充填された吸脱着物質に吸着する際に、水蒸気が吸脱着物質に均一に拡散しづらいため、充填された吸脱着物質を有効に利用できていないという課題がある。
【0015】
<潜熱蓄熱システム、特に蓄熱槽の課題>
また、蓄熱槽に貯留する潜熱媒体である水の蓄冷密度が低いため、大量の水を用意する必要があり、蓄熱槽の肥大化を招いていた。更に、潜熱媒体に含まれる水分以外の成分が蓄熱槽から漏洩して収脱着槽に混入することにより、収脱着剤の性能が低下するというおそれがあった。
【0016】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、低温の廃熱、例えば100℃以下の廃熱(低温蒸気やドレン等の未利用の廃熱等)を利用可能とし、安価かつコンパクトな高性能の吸脱着槽を提供することを目的とする。また、これにより、省資源・省エネルギーや環境の保全に貢献するとともに、世界的傾向として今後、加速的に普及が予測される分散電源等から排出される低レベル熱エネルギーの有効利用に資することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
<吸脱着槽>
上記課題を解決する本発明に係る吸脱着槽は、
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段と、前記外部からの水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段とを有することを特徴とする吸脱着槽である。
【0018】
従来のシリカゲルやゼオライト等の吸脱着剤を用いても、水蒸気透過手段を適用することにより、水蒸気が吸脱着物質に均一に拡散しづらいため充填された吸脱着物質を有効に利用できていないという課題を解決することができる。
【0019】
また、外部からの水蒸気を吸脱着槽内の吸脱着剤へ直接に供給するのではなく、一度水分(潜熱媒体)を凝縮させると共に水のみを透過・蒸発させる水蒸気透過手段を介して供給することにより、吸脱着剤への略均一な水分拡散を可能とする。また、これにより、吸脱着槽内の物資移動抵抗を大幅に低減する。
【0020】
また、上記吸脱着槽において、
前記吸脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記吸脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記吸脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする吸脱着槽である。
【0021】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部と、当該水蒸気導入部に設けられた1本又は複数本の吸脱着管とを有し、
当該吸脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記内管は、水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤により構成される外部分と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される内部分とからなり、
前記外管は、前記水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする吸脱着槽である。
【0022】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
前記外部からの熱が流通する部分と、当該熱が流通する部分に設けられた1本又は複数本の吸脱着管とを有し、
当該吸脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記外管は、水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤により構成される内部分と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される外部分とからなり、
前記内管は、管内が前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部であり、当該水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする吸脱着槽である。
【0023】
また、上記吸脱着槽において、
前記吸脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記吸脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記吸脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする吸脱着槽である。
【0024】
<潜熱蓄熱システム、潜熱蓄熱方法及び収脱着槽>
なお、上記吸脱着槽を、下記潜熱蓄熱システム又は潜熱蓄熱方法に適用すれば効果的である。
【0025】
収脱着槽と蓄熱槽とを有する潜熱蓄熱システムであって、
前記収脱着槽は、水の収着及び脱着を行う収脱着剤と、当該収着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段と、前記蓄熱槽からの水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記収脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段とを有し、
前記蓄熱槽は、水を含有し、当該水が蒸発及び凝縮する蓄冷剤と、当該蒸発の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段と、前記収脱着剤からの水蒸気を凝縮させて前記蓄冷剤に循環すると共に当該凝縮の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段とを有する
ことを特徴とする潜熱蓄熱システム。
【0026】
従来のシリカゲルやゼオライトに比べて、低温での作動が可能であり、蓄熱量が大きい有機系の収脱着剤を採用することにより、収着・脱着温度が約30℃〜100℃にわたる極めて低温度領域での作動を可能とすると共に、質量比または体積比収脱着能力を向上させる。
【0027】
また、上記潜熱蓄熱システムにおいて、
前記蓄熱槽は、前記蓄冷剤から水のみを透過・蒸発させる水蒸気透過手段を有することを特徴とする潜熱蓄熱システム。
【0028】
更に、蓄熱槽内に水蒸気透過手段を適用することにより、水分のみを蓄熱槽から収脱着槽へ移動させて、蓄冷剤に含まれる水分以外の成分が蓄熱槽内から漏洩することを防止すると共に、水の蒸発潜熱を有効に蓄冷剤に伝達することを可能にする。
【0029】
また、上記潜熱蓄熱システムにおいて、
前記収脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記収脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記収脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記蓄熱槽へ移動することを特徴とする潜熱蓄熱システム。
【0030】
また、上記潜熱蓄熱システムにおいて、
前記蓄冷剤は、エマルジョンを含有することを特徴とする潜熱蓄熱システム。
【0031】
水を含有する蓄冷剤に、更にエマルジョン(例えば、マイクロカプセル)を混入することにより、エマルジョンの固−液相変化を利用して蓄冷剤の蓄熱密度を向上させる。エマルジョンとしては、低温凝固型のエマルジョンを利用することが好ましい。
【0032】
<潜熱蓄熱方法>
収脱着槽と蓄熱槽とを利用して、収着工程及び脱着工程を行う潜熱蓄熱方法であって、
前記収着工程は、前記蓄熱槽内の水を含有する蓄冷剤から水を蒸発させて、当該蒸発の際の熱を外部の熱と交換すると共に、前記蓄熱槽からの水蒸気を水蒸気透過手段により凝縮させた後に透過・蒸発させることにより前記収脱着槽内の収脱着剤へ略均一に収着させて、当該収着の際の熱を外部の熱と交換することを特徴とする潜熱蓄熱方法。
【0033】
また、上記潜熱蓄熱方法において、
前記脱着工程は、前記収脱着槽内の収脱着剤から水を脱着させて、当該脱着の際の熱を外部の熱と交換すると共に、前記収脱着槽内からの水蒸気を凝縮させて、前記蓄熱槽内の蓄冷剤に循環すると共に当該凝縮の際の熱を外部の熱と交換することを特徴とする潜熱蓄熱方法。
【0034】
また、上記潜熱蓄熱方法において、
前記収着工程における前記蓄冷剤からの水の蒸発の際に、水蒸気透過手段により水のみを透過・蒸発させることを特徴とする潜熱蓄熱方法。
【0035】
また、上記潜熱蓄熱方法において、
前記収脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記収脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記収脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記蓄熱槽へ移動することを特徴とする潜熱蓄熱方法。
【0036】
また、上記潜熱蓄熱方法において、
前記蓄冷剤は、エマルジョンを含有することを特徴とする潜熱蓄熱方法。
【0037】
<収脱着槽>
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う収脱着槽であって、
水の収着及び脱着を行う収脱着剤と、当該収着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段と、前記外部からの水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記収脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段とを有することを特徴とする収脱着槽。
【0038】
また、上記収脱着槽において、
前記収脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記収脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記収脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする収脱着槽。
【0039】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う収脱着槽であって、
前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部と、当該水蒸気導入部に設けられた1本又は複数本の収脱着管とを有し、
当該収脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記内管は、水の収着及び脱着を行う収脱着剤により構成される外部分と、当該収着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される内部分とからなり、
前記外管は、前記水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記収脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする収脱着槽。
【0040】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う収脱着槽であって、
前記外部からの熱が流通する部分と、当該熱が流通する部分に設けられた1本又は複数本の収脱着管とを有し、
当該収脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記外管は、水の収着及び脱着を行う収脱着剤により構成される内部分と、当該収着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される外部分とからなり、
前記内管は、管内が前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部であり、当該水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記収脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする収脱着槽。
【0041】
また、上記収脱着槽において、
前記収脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記収脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記収脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする収脱着槽。
【0042】
<蓄熱槽>
なお、上記吸脱着槽と、下記蓄熱槽とを併用すれば効果的である。
【0043】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う蓄熱槽であって、
水を含有し、当該水が蒸発及び凝縮する蓄冷剤と、当該蓄冷剤から水のみを前記外部へ透過・蒸発させる水蒸気透過手段と、当該蒸発の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段と、前記外部からの水蒸気を凝縮させて前記蓄冷剤に循環すると共に当該凝縮の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段とを有する
ことを特徴とする蓄熱槽。
【0044】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う蓄熱槽であって、
当該蓄熱槽の内部に貯留され、水を含有し、当該水が蒸発及び凝縮する蓄冷剤と、
当該蓄冷剤に浸漬され、当該蒸発の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段と、
前記蓄熱槽の内部における前記蓄冷剤が貯留されていない空間に配置され、前記外部からの水蒸気を凝縮させて前記蓄冷剤に循環すると共に当該凝縮の際の熱を外部の熱と交換する熱交換手段と、
前記蓄冷剤に浸漬された1本又は複数本の水蒸気透過管とを有し、
前記水蒸気透過管は、管の外部が前記蓄冷剤に臨むと共に管の内部が前記外部へ連通し、前記管の外部の蓄冷剤から水のみを前記管の内部へ透過・蒸発させる水蒸気透過手段であることを特徴とする蓄熱槽。
【0045】
上記蓄熱槽において、
前記蓄冷剤は、エマルジョンを含有することを特徴とする蓄熱槽。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る吸脱着槽によれば、
(1)吸脱着槽内に水分(潜熱媒体)のみを透過する水蒸気透過手段を設置することにより、吸脱着剤へ略均一に水分拡散を行うことができる。この結果、吸脱着剤の体積利用効率を向上させることができる。
【0047】
(2)なお、本発明に係る吸脱着槽で利用する「吸脱着剤」の代わりに「収脱着剤」を適用することにより、収着・脱着温度が約30℃〜100℃という極めて低温度領域での作動が可能である。この結果、分散電源(燃料電池等)、工場廃熱(焼却炉等)、家庭廃熱(温排水等)、温泉等の低レベル廃熱の有効利用が可能となる。
【0048】
また、上記低温度領域は、今後普及が期待される固体高分子型燃料電池等の廃熱温度レベルと合致しており、ヒートポンプ駆動用の熱源または蓄熱源として利用することにより、空調用の冷房・暖房、乾燥あるいは夜間の蓄熱槽として熱利用が可能となる。
【0049】
また、業務用や産業用においても、従来、利用価値のほとんどなかった100℃程度の低温蒸気や低温度ドレンあるいは低温排ガスを熱プロセス熱源として、幅広く利用することが可能となる。
【0050】
(3)なお、本発明に係る吸脱着槽と併用する蓄熱槽の蓄冷剤に、エマルジョン(例えば、マイクロカプセル)を混入することにより、蓄熱密度を向上させることができる。この結果、蓄熱槽のスケールダウンが可能となる。
【0051】
(4)なお、本発明に係る吸脱着槽と併用する蓄熱槽において、水蒸気透過手段を蓄熱槽内に配置することにより、潜熱媒体として蓄熱槽から吸脱着槽へ水分のみ移動させることができ、蓄冷剤に含まれる水分以外の成分が蓄熱槽内から漏洩することを防止すると共に、水の蒸発潜熱を有効に蓄冷剤に受け渡すことができる。この結果、蓄熱槽のスケールダウンが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
<潜熱蓄熱システム・潜熱蓄熱方法>
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は、本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの概略構成図である。
【0053】
図1に示すように、本実施形態に係る潜熱蓄熱システム10は、収脱着槽11と、蓄熱槽18と、両槽11,18を連結する水蒸気配管26と、水蒸気の流路を制御する選択バルブ27a,27bとから構成される。
【0054】
収脱着槽11は、その内部に充填され、水蒸気を収着及び脱着する収脱着剤12と、収脱着剤12の熱とシステム10の外部からの熱との熱交換を行う熱交換器14と、蓄熱槽18からの水蒸気を収脱着槽11内部へ供給する空間である水蒸気導入部15と、収脱着剤12に接し、収脱着剤12から発生する水蒸気を蓄熱槽18へ供給する空間である蒸発部16と、水蒸気導入部15と蒸発部16との間に設けられる水蒸気透過手段13とからなる。
【0055】
水蒸気透過手段13は、水蒸気導入部15側の水蒸気透過膜部13bと、蒸発部16側の基材部13aとからなり、水蒸気透過膜部13bは、厚さ5〜10μm程度のシリカ製の薄膜であり、基材部13aは、厚さ1mm程度のセラミック製の基材である。
【0056】
収脱着剤とは、ポリマー骨格に吸湿および放湿性機能を付与したポリマー微粒子であり、従来のシリカゲルに代表される「吸脱着剤」と比較して2〜3倍の吸放湿率を有する。また、繰り返しの吸放湿操作に対して、従来の吸脱着剤では破砕・粉末化が起こってしまうのに対して、収脱着剤では破砕せず、繰り返し特性に優れる。
【0057】
選択バルブ27aの制御により、水蒸気配管26は水蒸気導入部15又は蒸発部16と接続されるようになっており、下記詳細に説明するように、収着工程では蓄熱槽18から水蒸気配管26を流通してきた水蒸気が水蒸気導入部15に流通するようになり、脱着工程では収脱着剤12から蒸発部16へ脱着・蒸発した水蒸気が蓄熱槽18へ向かって水蒸気配管26を流通するようになる。
【0058】
蓄熱槽18は、その内部に貯留され、水と凝固点降下剤(不凍液)とエマルジョンとからなる蓄冷剤19と、蓄冷剤19の熱とシステム10の外部からの熱との熱交換を行う熱交換器21と、蓄冷剤19のうち水分のみを蒸発・透過させる水蒸気透過手段20と、透過した水蒸気を収脱着槽11へ供給する空間である蒸発部23と、蓄熱槽18内部における蓄冷剤19が貯留されていない空間に設置され、収脱着槽11からの水蒸気の潜熱とシステム10の外部からの熱との熱交換を行うと共に、当該水蒸気を凝縮して蓄冷剤19へ循環する熱交換器22と、該凝縮させる空間である凝縮部24とからなる。
【0059】
水蒸気透過手段20は、蓄冷剤19側の水蒸気透過膜部20bと、蒸発部23側の基材部20aとからなり、水蒸気透過膜部20bは、厚さ5〜10μm程度のシリカ製の薄膜であり、基材部20aは、厚さ1mm程度のセラミック製の基材である。
【0060】
蓄冷剤19を構成する凝固点降下剤(不凍液)は、下記詳細に説明する収着工程(蓄冷剤19からの水分の蒸発)における蓄冷剤19の凍結を防止するためのものであり、エマルジョンは、その固−液相変化を利用して蓄冷剤19の蓄熱密度を向上させるためのものである。
【0061】
選択バルブ27bの制御により、水蒸気配管26は蒸発部23又は凝縮部24と接続されるようになっており、下記詳細に説明するように、収着工程では蓄冷剤19から蒸発部23へ蒸発した水蒸気が収脱着槽11へ向かって水蒸気配管26を流通するようになり、脱着工程では収脱着槽11から水蒸気配管26を流通してきた水蒸気が凝縮部24に流通するようになる。
【0062】
<本システム及び方法における収着工程>
図2は、本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムにおける収着工程を説明する図である。収着工程の際には、選択バルブ27aは水蒸気導入部15側に開かれ、選択バルブ27bは、蒸発部23側に開かれる。
【0063】
真空ポンプ30により、蒸発部23、水蒸気配管26、水蒸気導入部15及び蒸発部16からなる系内を負圧状態(30torr程度)とすることにより、水蒸気透過手段20を介して蓄冷剤19における水分のみを蒸発部23に蒸発・透過させる(水分のみの選択蒸発1)。
【0064】
発生した水蒸気は、選択バルブ27bにより制御されて水蒸気配管26を収脱着槽11に向かって流通(配管を流れる水蒸気2)して、選択バルブ27aにより制御されて水蒸気導入部15に流入する。
【0065】
水蒸気導入部15に流入した水蒸気は、水蒸気透過手段13における水蒸気透過膜部13bの表面に均一に凝縮(均一凝縮3)した後、水蒸気透過手段13を透過する際に、再び蒸発して水蒸気(蒸発4)となり、蒸発部16に流入する。この結果、蒸発部16において、収脱着剤12の表面に対して斑のない水蒸気供給が可能となっている。
【0066】
水蒸気配管26から水蒸気透過手段13を介さずに蒸発部16に直接、水蒸気を導入した場合には、蒸発部への導入口付近の収脱着剤に多く水蒸気が供給される一方、導入口から離れた収脱着剤には水蒸気が供給されづらくなるというおそれが生じる。
【0067】
これに対して、本実施形態のように、水蒸気透過手段13を介して蒸発部16へ導入することにより、均一凝縮3及び再蒸発4を経て斑なく水蒸気を拡散・供給することが可能となっている。また、この作用により、充填された収脱着剤12の水分拡散抵抗を減少させることが可能である。
【0068】
なお、水蒸気透過手段13における、水蒸気の凝縮3と再蒸発4の際に発生する熱の収支は、水蒸気透過手段13において完結する。
【0069】
最終的に、収脱着剤12に対して均一に供給された水蒸気は、収脱着剤12に均一に収着する(均一収着5)。
【0070】
上述する収着工程において、蓄冷剤19における水分が水蒸気透過手段20を介して蒸発部23に蒸発・透過(水分のみの選択蒸発1)する際に、水分の蒸発潜熱を蓄冷剤19中に浸漬させた熱交換器21にて回収し、冷熱源として利用する。すなわち、外部からの媒体V1は、蒸発潜熱により冷却され、比較的低温の熱交換器通過後の媒体V2となって利用される。
【0071】
また、収脱着剤12に対して均一に供給された水蒸気が収脱着剤12に収着(均一収着5)する際に、収脱着剤12から発生する収着熱を収脱着剤12に接触させた熱交換器14にて回収し、温熱源として利用する。すなわち、外部からの媒体V3は、収着熱により加熱され、比較的高温の熱交換器通過後の媒体V4となって利用される。
【0072】
<本システム及び方法における脱着工程>
図3は、本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムにおける脱着工程を説明する図である。脱着工程の際には、選択バルブ27aは蒸発部16側に開かれ、選択バルブ27bは、凝縮部24側に開かれる。
【0073】
真空ポンプ30により、蒸発部16、水蒸気配管26及び凝縮部24からなる系内を負圧状態(30torr程度)とすると共に、収脱着剤12に接触させた熱交換器14により収脱着剤12を加熱することにより、収脱着剤12に収着している水分を脱着・蒸発させる(脱着・蒸発6)。
【0074】
脱着・蒸発により発生した水蒸気は、選択バルブ27aにより制御されて水蒸気配管26を蓄熱槽18に向かって流通(配管を流れる水蒸気7)して、選択バルブ27bにより制御されて凝縮部24に流入する。
【0075】
最終的に、凝縮部24に流入した水蒸気は、蓄熱槽18内部における蓄冷剤19が貯留されていない空間に設置された熱交換器22により冷却・凝縮(冷却・凝縮8)されて、水分として蓄冷剤19に回収される。
【0076】
上述する脱着工程においては、水分の脱着・蒸発潜熱を収脱着剤12に接触させた熱交換器14にて供給し、熱交換器14により収脱着剤12を加熱して収脱着剤12に収着している水分を脱着・蒸発(脱着・蒸発6)させる。すなわち、熱交換器14を通過する外部からの媒体V5は、脱着・蒸発潜熱により冷却され、比較的低温の熱交換器通過後の媒体V6となって排出される。これにより、未利用熱エネルギーの回収が行えることとなる。
【0077】
また、凝縮部24に流入した水蒸気を熱交換器22により冷却・凝縮(冷却・凝縮8)する際に、凝縮熱を熱交換器22にて回収し、温熱源として利用する。すなわち、外部からの媒体V7は、凝縮熱により加熱され、比較的高温の熱交換器通過後の媒体V8となって利用される。
【0078】
以上の収着工程、脱着工程からなる基本サイクルにおいて、収脱着特性に優れた収脱着剤12と蓄冷剤19から水分のみを透過する水蒸気透過手段13,20を併用することにより、高効率、コンパクトな潜熱蓄熱システム10とすることができる。
【0079】
また、水蒸気透過手段20を設けることにより、凝固点降下剤(不凍液)やエマルジョンが水蒸気配管26内に入り込むことを防止することができると共に、水蒸気透過手段13を設けることにより、蓄冷剤19に含まれる凝固点降下剤(不凍液)やエマルジョンが収脱着剤12に混入されることを防止できる。
【0080】
<収脱着槽の具体的構造の一例>
図4は、本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの収脱着槽の部分概略外観図(a)と、A方向矢視断面における収着工程を説明する図(b)と、A方向矢視断面における脱着工程を説明する図(c)である。
【0081】
本実施形態に係る収脱着槽11は、図4に示すように、水蒸気導入部15の空間に収脱着管11’が複数本(図4には1本の収脱着管を示す。)配置されてなる。収脱着管11’は、外管と内管とからなる2重管構造であり、外管の外側が水蒸気導入部15、内管の内側が熱交換器14の媒体流路となっており、外管と内管との間に蒸発部16の空間が形成されている。
【0082】
外管は、外管の内部分を構成する基材部13aと、外管の外部分を構成する水蒸気透過膜部13bとからなる水蒸気透過手段13であり、内管は、内管の内部分を構成する熱交換器14と、内管の外部分を構成する収脱着剤12とからなる。
【0083】
本実施形態に係る収脱着槽11における収着工程は、図2を用いて説明したとおりであるが、図4(b)に示す収脱着管の断面構造図を用いて更に説明する。
【0084】
収脱着管11’を収容する空間である水蒸気導入部15に導入された水蒸気は、外管である水蒸気透過手段13における水蒸気透過膜部13bの表面に均一に凝縮(均一凝縮3)した後、水蒸気透過手段13を透過する際に、再び蒸発して水蒸気(蒸発4)となり、蒸発部16に均一に流入する。
【0085】
蒸発部16に流入した水蒸気は、内管の外部分を構成する収脱着剤12に対して均一に供給されて、収脱着剤12に均一に収着する(均一収着5)。この際に、収脱着剤12から発生する収着熱を、収脱着剤12に接触し、内管の内部分を構成する熱交換器14にて回収し、温熱源として利用する。すなわち、外部からの媒体V3は、熱交換器14の媒体流路を通過することによって、収着熱により加熱され、比較的高温の熱交換器通過後の媒体V4となって利用される。
【0086】
本実施形態に係る収脱着槽11における脱着工程は、図3を用いて説明したとおりであるが、図4(c)に示す収脱着管の断面構造図を用いて更に説明する。
【0087】
蒸発部16等の系内を負圧状態(30torr程度)とすると共に、内管の内部を構成する熱交換器14により内管の外部を構成する収脱着剤12を加熱することにより、収脱着剤12に収着している水分を脱着・蒸発させる(脱着・蒸発6)。これにより、温熱源として利用する廃熱の有効利用(回収)が行える。すなわち、外部からの媒体V5は、熱交換器14の媒体流路を通過することによって、脱着・蒸発潜熱により冷却され、比較的低温の熱交換器通過後の媒体V6となって利用される。
【0088】
<蓄熱槽の具体的構造の一例>
図5は、本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの蓄熱槽の部分概略外観図(a)と、B方向矢視断面における収着工程を説明する図(b)である。
【0089】
本実施形態に係る蓄熱槽18は、図5に示すように、蓄冷剤19に水蒸気透過手段である水蒸気透過管18’が複数本(図5には1本の水蒸気透過管を示す。)、更に熱交換器21が配置され、蓄熱槽18内部における蓄冷剤19が貯留されていない空間に熱交換器22(図示せず。)が配置されてなる。
【0090】
水蒸気透過管18’は、単管構造であり、管の外側が蓄冷剤19、管の内側が蒸発部23となっており、管の内部分を構成する基材部20aと、管の外部分を構成する水蒸気透過膜部20bとからなる。
【0091】
本実施形態に係る蓄熱槽18における収着工程は、図2を用いて説明したとおりであるが、図5(b)に示す水蒸気透過管の断面構造図を用いて更に説明する。
【0092】
蒸発部23等の系内を負圧状態(30torr程度)とすることにより、水蒸気透過管18’を介して蓄冷剤19における水分のみを蒸発部23に蒸発・透過させる(水分のみの選択蒸発1)。この際に、水分の蒸発潜熱を蓄冷剤19中に浸漬させた熱交換器21にて回収し、冷熱源として利用する。
【0093】
すなわち、水分の蒸発により蓄冷剤19が冷却され、当該冷却熱は熱交換器21へ伝達(水分蒸発による冷熱の発生と移動9)し、外部からの媒体V1は、熱交換器21の媒体流路を通過することによって、蒸発潜熱により冷却され、比較的低温の熱交換器通過後の媒体V2となって利用される。
【0094】
<本実施形態に係る潜熱蓄熱システム及び潜熱蓄熱方法の奏する効果>
分散電源等の低レベルの廃熱を回収・利用するには、100℃以下で作動するコンパクトな潜熱蓄熱システムが必要である。従来、100℃を超える作動領域で稼動するシステムとしては、シリカゲル等の「吸脱着剤」を用いた潜熱蓄熱システムの研究開発が、給湯、暖房、冷房又は乾燥利用を目指して盛んに行われてきた。しかしながら、蓄熱密度が低く蓄熱槽の小型化が不十分であったり、吸脱着の繰り返しにより吸脱着剤が劣化、破損したりするおそれがあり、なかなか普及しなかった。
【0095】
本実施形態では、蓄熱剤として、「吸脱着剤」の代わりに有機系の「収脱着剤」を採用することにより、システムの小型化および蓄熱剤の耐久性の向上させることができる。すなわち、有機系の収脱着剤の質量比吸放湿量は、従来のシリカゲル等に比べて2〜3倍と大きいことから、従来の蓄熱システムに比べて大幅な小型化が可能となる。
【0096】
また、収脱着剤の作動温度(収脱着温度)が約30℃〜100℃と低いことより、一般家庭から産業用の小中型の分散型コジェネレーションシステムの熱カスケード最終段として適用することが可能となる。その用途として、冷・暖房、夜間蓄熱、給湯、乾燥、除湿など幅広い分野への普及が可能である。
【0097】
さらに、水蒸気透過手段を適用することにより、収脱着剤への媒体供給の均一化、熱および媒体の移動速度の高速化が可能となり、充填した収脱着剤の体積利用率が向上し、さらなる小型化が可能である。例えば、シリカゲルを利用した蓄熱システムと比較して、約50%の縮小が期待される。
【0098】
<潜熱蓄熱システム及び潜熱蓄熱方法における熱・物質移動速度向上の必要性>
潜熱蓄熱システム利用において、如何に迅速に熱および物質の出し入れができるかは重要事項であり、これは複雑な熱と物質移動現象の連成問題となる。収脱着剤の収着−脱着現象における潜熱移動速度の高速化は、収脱着剤を充填層として利用する場合、熱伝導率および物質拡散の抵抗が大きくなるため、システムが大型化する問題がある。
【0099】
この問題を解決するために、水蒸気透過手段を収脱着槽に導入し、熱および物質移動速度の高速化および均一分散化を可能とする。この結果、収着工程では、拡散抵抗の低下と比表面積の増大により、収脱着剤への時間あたりの水分収着量を増加させることが可能となる。また、脱着工程では、廃熱源の熱を収脱着剤へ迅速に伝えることにより、脱着時間の短縮とコンパクト化が可能となる。このような迅速な熱と物質の移動により、従来の圧縮式ヒートポンプシステムと同等以上の熱授受速度の高速化が可能となる。
【0100】
<潜熱蓄熱密度の増加および劣化防止>
本実施形態に係る潜熱蓄熱システムの作動媒体には水が用いられる。蓄熱回収時の熱移動速度を向上させるため、蓄熱槽内の水は凝固点降下剤(不凍液)の添加により過冷却状態の液相を維持する。このため、蓄熱密度を増大させるためには、水凝固点近傍が凝固点となるエマルジョンを含有させて、蓄熱密度の向上を図る。
【0101】
本実施形態に係る潜熱蓄熱システムの作動環境は、作動媒体としての純粋な水蒸気(単一成分)かつ真空雰囲気である。そのため、作動媒体中に水分以外の成分が混入すると収脱着剤の劣化や凝縮熱伝達に悪影響を及ぼす。そこで水分のみを透過する水蒸気透過手段を用いることにより、蓄熱密度の劣化を防止することができる。
【0102】
<本実施形態に係る潜熱蓄熱システム及び潜熱蓄熱方法の用途>
本実施形態に係る収脱着剤と水蒸気透過手段を利用した潜熱蓄熱システムは、収脱着剤の収着・脱着温度が約30℃〜100℃にわたる低温度領域であり、これまで利用できずに廃棄されていた廃熱を利用できることが大きな利点である。民生および産業分野における当該低温度領域の未利用廃熱利用の潜在的なニーズは十分にあり、例えば以下のような用途が考えられる。
【0103】
すなわち、例えば、今後、普及が進む小型分散電源(固体高分子燃料電池等)とのカスケード利用として、民生向けの住宅、ビル、病院などの空調(冷暖房、除湿)、夜間蓄熱、給湯等が挙げられる。また、産業用としては工場、事務所などの空調、冷凍、乾燥、プロセスヘの廃熱のフィードバックが挙げられる。さらに、地域冷暖房用コジェネの廃熱を利用した大型空調設備としての用途も期待できる。
【0104】
なお、上述する実施形態においては、「収脱着剤」を用いた「収脱着槽」を利用した潜熱蓄熱システムについて説明したが、「収脱着剤」を用いた「収脱着槽」の代わりに「吸脱着剤」を用いた「吸脱着槽」を適用してもよい。この場合にも、従来システムと比較して、水蒸気透過手段を適用すること等による顕著な効果を得ることができる。なお、吸着工程及び脱着工程における水蒸気の流れや熱移動などは、収着工程及び脱着工程と同様に説明することができる。
【0105】
なお、上述する実施形態においては、収脱着管(吸脱着管)11’を、図4に示すように、導入部15の空間に、水蒸気透過手段13である外管と熱交換器14と収脱着剤12の内管とからなる収脱着管(吸脱着管)11’を、水蒸気導入部15の空間に、複数本配置して構成したが、外管の機能と内管の機能を逆転させると共に、内管の内部を水蒸気導入部とし、外管の外部を外部からの熱の流通部としてもよい。
【0106】
すなわち、外部からの熱が流通する部分に1本又は複数本の収脱着管(吸脱着管)を設け、収脱着管(吸脱着管)は、水の収脱着を行う収脱着剤(吸脱着剤)により構成される内部分と当該収脱着の際の熱を外部の熱と交換する熱交換器により構成される外部分とからなる外管と、管内を外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部として、当該水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて収脱着剤(吸脱着剤)へ略均一に供給する水蒸気透過手段である内管とからなる2重管構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムにおける収着工程を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムにおける脱着工程を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの収脱着槽の部分概略外観図(a)と、A方向矢視断面における収着工程を説明する図(b)と、A方向矢視断面における脱着工程を説明する図(c)である。
【図5】本発明の実施形態に係る潜熱蓄熱システムの蓄熱槽の部分概略外観図(a)と、B方向矢視断面における収着工程を説明する図(b)である。
【符号の説明】
【0108】
1 水分のみの選択蒸発
2 配管を流れる水蒸気
3 均一凝縮
4 蒸発
5 均一収着

6 脱着・蒸発
7 配管を流れる水蒸気
8 凝縮
9 水分蒸発による冷熱の発生と移動

V1,V3,V5,V7 外部からの媒体
V2,V4,V6,V8 熱交換器通過後の媒体

10 潜熱蓄熱システム
11 収脱着槽
11’ 収脱着管
12 収脱着剤
13 水蒸気透過手段
13a 基材部
13b 水蒸気透過膜部
14 熱交換器
15 水蒸気導入部
16 蒸発部

18 蓄熱槽
18’ 水蒸気透過管
19 蓄冷剤
20 水蒸気透過手段
20a 基材部
20b 水蒸気透過膜部
21 熱交換器
22 熱交換器
23 蒸発部
24 凝縮部

26 水蒸気配管
27a 選択バルブ
27b 選択バルブ
30 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段と、前記外部からの水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段とを有することを特徴とする吸脱着槽。
【請求項2】
請求項1に記載する吸脱着槽において、
前記吸脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記吸脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記吸脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする吸脱着槽。
【請求項3】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部と、当該水蒸気導入部に設けられた1本又は複数本の吸脱着管とを有し、
当該吸脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記内管は、水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤により構成される外部分と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される内部分とからなり、
前記外管は、前記水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする吸脱着槽。
【請求項4】
外部と水蒸気を授受して、内部に設けられた熱交換手段により外部の熱と熱交換を行う吸脱着槽であって、
前記外部からの熱が流通する部分と、当該熱が流通する部分に設けられた1本又は複数本の吸脱着管とを有し、
当該吸脱着管は、内管と外管とからなる2重管構造であり、
前記外管は、水の吸着及び脱着を行う吸脱着剤により構成される内部分と、当該吸着又は脱着の際の熱を外部の熱と交換する前記熱交換手段により構成される外部分とからなり、
前記内管は、管内が前記外部からの水蒸気を導入する水蒸気導入部であり、当該水蒸気導入部に導入された水蒸気を凝縮させた後に透過・蒸発させて前記吸脱着剤へ略均一に供給する水蒸気透過手段であることを特徴とする吸脱着槽。
【請求項5】
請求項3又は4に記載する吸脱着槽において、
前記吸脱着剤と前記水蒸気透過手段との間に空間を有し、
前記水蒸気透過手段を透過・蒸発した水蒸気は、当該空間を介して、前記吸脱着剤へ略均一に供給されると共に、前記吸脱着剤から脱着する水は、当該空間から前記外部へ移動することを特徴とする吸脱着槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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