説明

吸脱着用シート

【課題】基材シートに吸着剤をバインダーで添着してなる吸脱着用シートにおいて、吸着/脱着過程の熱変化を加えても、吸着剤の吸脱着性能を阻害せず、耐摩耗性にも優れた吸脱着用シートを提供することにある。
【解決手段】基材シートに吸着剤をバインダーで添着してなる吸脱着用シートにおいて、バインダーとしてポリエーテル型ポリウレタン樹脂を用いることを特徴とする吸脱着用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着と脱離が可能な吸脱着用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
吸着剤の吸着能及び脱着能を利用して、有機ガス(VOC)、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物(NO)等のガス除去システム、熱交換又は熱移動システム、調湿(除湿又は加湿)システム等が開発されている。これら各種システムで使用される吸着素子は、紙、布帛、フィルム、多孔質フィルム、金属箔、金属板等の基材シートに吸着剤がバインダーで添着されてなる吸脱着用シート、有機繊維と吸着剤とを含有するスラリーから湿式抄造法で作製したウェブからなる吸脱着用シート等を使用して製造することができる。
【0003】
基材シートに吸着剤がバインダーで添着されてなる吸脱着用シートは、吸着剤をバインダーと共に媒体である水に分散した塗工液を基剤シートに塗工することで製造される。吸着剤としては、高吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系吸着剤、シリカゲル、セピオライト、ゼオライト、ベントナイト、アタパルジャイト、珪藻土、活性炭、多孔質金属酸化物、水酸化アルミニウム、非晶質アルミノケイ酸塩等の無機系吸着剤が用いられる。また、バインダーとしては、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル・スチレン共重合樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、スチレン・アクリロニトリル・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合樹脂、酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合樹脂、ポリウレタン樹脂等の非水溶性高分子がよく用いられる。
【0004】
しかしながら、非水溶性高分子は、吸脱着用シート状物の吸着/脱離過程における熱変化サイクルに繰り返し暴露されることにより、非水溶性高分子が変性し、吸着性能が低下することや摩耗することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−95964号公報
【特許文献2】特開2005−286460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、基材シートに吸着剤をバインダーで添着してなる吸脱着用シートにおいて、吸着/脱着過程の熱変化を加えても、吸着剤の吸着性能を阻害せず、耐摩耗性にも優れた吸脱着用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、バインダーとしてポリエーテル型ポリウレタン樹脂を用いることで解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸着/脱離過程における熱変化サイクルに対して、繰り返し耐久性を必要とする吸脱着用シートにおいて、吸着/脱着過程の熱変化を、例えば500回加えても、吸着剤の吸着性能低下率が低く、耐摩耗性も高い品質を保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、基材シートに吸着剤をバインダーで添着してなる吸脱着用シートにおいて、バインダーとしてポリエーテル型ポリウレタン樹脂を用いることを特徴とする吸脱着用シートである。
【0010】
本発明に用いる添着用のバインダーは、ジオール成分がポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体などの二官能ポリエーテルとジイソシアネートを反応させて作られるポリエーテル型ポリウレタン樹脂である。
【0011】
本発明に用いる吸着剤としては、珪素、チタン、アルミニウム、タンタル、バナジウム、ジルコニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム等から選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を含有してなり、その形態としては、多数の細孔を有する粒状体、一次粒子径が数nmの単独粒子が複数凝集してなる複合粒子、管状体、繊維状物の凝集体等が挙げられる。より具体的には、非晶質アルミニウム珪酸塩、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、繊維状又は管状のアルミニウム珪酸塩、繊維状又は管状の酸化チタン、珪藻土等を挙げることができる。さらに、高吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系吸着剤を使用することもできる。
【0012】
本発明に用いる基材シートとしては、紙、多孔質フィルム、織布、乾式不織布、湿式不織布、編物等の多孔質基材、金属箔、発泡金属シート、フィルム、金属板状物等の無孔質基材があり、これらの基材を、単独、或いは貼り合わせ等によって積層複合化して用いてもよい。
【0013】
吸着剤の添着量は、基材シートに対して25〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。25質量%未満になると、吸着量が十分でない場合があり、80質量%を超えると、吸着効率の低下やシート強度が低下する場合がある。
【0014】
バインダーの使用量は、吸着剤に対して5〜45質量%であり、より好ましくは10〜35質量%である。5質量%未満になると、吸着剤がシートから脱落する場合があり、45質量%を超えると吸着特性が低下する場合や、塗工液の分散性が低下する場合がある。
【0015】
本発明の吸脱着用シートを作製する方法としては、基材シートに、吸着剤とポリエーテル型ポリウレタン樹脂を混合してなる塗工液を、含浸又は塗工により担持させる方法等が挙げられる。
【0016】
塗工液としては、吸着剤を含有する分散液に、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂を主成分とするエマルジョンを混合し使用する。塗工には、ディップコーター、サイズプレス、ゲートロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、コンマコーター、バーコーター、グラビアコーター、キスコーター等の含浸又は塗工装置を使用することができる。
【0017】
本発明の吸脱着用シートはそのままで使用してもよいし、プリーツ加工、コルゲート加工、積層加工、ロールコア加工、ドーナツ加工等の2次加工を施して使用してもよい。また、基材シートにこれらの加工を施した後に、吸着剤をバインダーで添着させてもよい。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例によって、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
<基材シートの作製>
基材シートとして、湿式抄造法により、ポリエチレンテレフタレート繊維(商品名:テピルス(登録商標)、帝人ファイバー(株)製、0.1dtex×3mm)57質量%、ポリエステル熱融着性芯鞘繊維(商品名:メルティ(登録商標)、ユニチカ(株)製、1.1dtex×3mm)43質量%からなる坪量50g/mの不織布を作製した。
【0020】
<吸着剤の添着>
吸着剤である非晶質アルミニウム珪酸塩を水に20質量%添加し、よく撹拌混合させ、ホモジナイザーにて2000rpm、20分間ホモジナイズして粒子の分散性を上げ、吸着剤分散液を得た。この吸着剤分散液に、吸着剤/ポリエーテル型ポリウレタン樹脂質量(固形分)比率が75/25になるように、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドラン(登録商標)WLS202)を添加し、よく混合して吸着剤塗工液を作製した。
【0021】
なお、非晶質アルミニウム珪酸塩は以下の方法で調製した。Si濃度が383mmol/Lになるように、純水で希釈したオルトケイ酸ナトリウム水溶液400mlを調製した。また、これとは別に、塩化アルミニウムを純水に溶解させ、Al濃度が450mmol/Lの水溶液400mlを調製した。次に、塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を混合し、マグネティックスターラーで撹拌した。このときのSi/Al比は0.85であった。さらに、この混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液18mlを滴下し、pHを7とした。この溶液から遠心分離により前駆体を回収し、4Lの純水中に分散させた。室温下で1時間撹拌した後、4Lの密閉容器に移し替え、恒温槽にて98℃で2日間加熱を行った。冷却後、遠心分離により3回洗浄後、60℃で乾燥を行い、非晶質アルミニウム珪酸塩を得た。透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で非晶質アルミニウム珪酸塩を観察したところ、一次粒子径は2〜5nmの粒子からなる粒子径2〜40nmの複合粒子が0.1〜100μmの凝集構造体を構成していて、該凝集構造体に2〜20nmの細孔があった。
【0022】
得られた吸着剤塗工液を用いて、乾燥質量で50g/mになるように含浸塗工し、吸着用シートを得た。
【0023】
実施例2
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにA型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルA)を使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0024】
実施例3
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにB型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルB)を使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0025】
実施例4
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにメソポーラスシリカを使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0026】
実施例5
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりに繊維状酸化チタンを使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。なお、繊維状酸化チタンは以下の方法で調製した。ゾルゲル法によって得られたアナターゼ酸化チタン粒子に、20mol/kg濃度の水酸化カリウム水溶液を加え、温度120℃で24時間加熱して得られたスラリー状物を繰り返し水洗し、さらに酢酸で中和し、再度充分に水洗して余剰のイオン成分を除去した後、遠心分離器によって、濃度20質量%の網状に凝集した繊維状酸化チタン分散液を得た。これの一部を乾燥させて粉末を取り出し、BET法による比表面積を測定したところ、350m/gであった。
【0027】
比較例1
バインダーとして、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドラン(登録商標)WLS202)の代わりにポリエステル型ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドラン(登録商標)CP7050)を使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0028】
比較例2
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにA型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルA)を使用した以外は、比較例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0029】
比較例3
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにB型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルB)を使用した以外は、比較例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0030】
比較例4
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにメソポーラスシリカを使用した以外は、比較例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0031】
比較例5
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりに繊維状酸化チタンを使用した以外は、比較例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0032】
比較例6
バインダーとして、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドラン(登録商標)WLS202)の代わりに、アクリル樹脂(日本エヌエスシー(株)製、商品名:ヨドゾール(登録商標)AD81B)を使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0033】
比較例7
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにA型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルA)を使用した以外は、比較例6と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0034】
比較例8
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにB型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルB)を使用した以外は、比較例6と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0035】
比較例9
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにメソポーラスシリカを使用した以外は、比較例6と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0036】
比較例10
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりに繊維状酸化チタンを使用した以外は、比較例6と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0037】
比較例11
バインダーとして、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂(DIC(株)製、商品名:ハイドラン(登録商標)WLS202)の代わりにエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(中央理化工業(株)製、商品名:リカボンド(登録商標)BEF9857)を使用した以外は、実施例1と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0038】
比較例12
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにA型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルA)を使用した以外は、比較例11と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0039】
比較例13
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにB型シリカゲル(豊田化工(株)製、商品名シリカゲルB)を使用した以外は、比較例11と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0040】
比較例14
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりにメソポーラスシリカを使用した以外は、比較例11と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0041】
比較例15
吸着剤として、非晶質アルミニウム珪酸塩の代わりに繊維状酸化チタンを使用した以外は、比較例11と同様にして、吸脱着用シートを得た。
【0042】
実施例及び比較例で得られた吸脱着用シートに対して下記の評価を行い、吸着性能と摩耗性の評価結果を表1に示した。
【0043】
<熱サイクル試験>
吸脱着用シートへの熱サイクル処理は下記のとおり行った。
【0044】
サイズ20cm×15cmに調整した実施例及び比較例の吸脱着用シートを小型冷熱衝撃装置TSE−1(ESPEC社製)に設置し、加温80℃/冷温−5℃、暴露時間各5分ずつ、500サイクルの条件で熱サイクル処理を実施した。
【0045】
<吸着性能評価>
吸脱着用シートの吸着性能評価は下記のとおり行った。
【0046】
サイズ20cm×15cmに調整した実施例及び比較例の吸脱着用シートについて、熱サイクル処理及び熱サイクル未処理の2種類をそれぞれ用意した。あらかじめ測定サンプルは温度90℃に加温した乾燥機で2時間乾燥し、そのときの質量Wを記録した。温度25℃、相対湿度80%RHに調整した環境試験庫に乾燥後の測定サンプルを設置し、120秒経過後の質量Wを記録した。吸着量Aは下記の式により求めた。
【0047】
吸着量:A(%)=(W−W)/W×100
【0048】
熱サイクル未処理シートの吸着量をA(%)とし、熱サイクル処理シートの吸着量をA(%)として、熱サイクル処理後の吸着性能低下率Cは下記の式により求めた。
吸着性能低下率C(%)=A/A×100
【0049】
実施例及び比較例の吸着性能低下率は、下記の式により求めた。
○:吸着性能低下率3%未満
△:吸着性能低下率3%以上5%未満
×:吸着性能低下率5%以上
【0050】
<摩耗性>
摩耗強度は、2cm幅の木綿製黒色布で熱サイクル試験後の吸脱着用シートを擦り、黒色布への吸脱着用シートの転写状態を観察し、以下のように判定した。
×:黒色布への転写あり
○:黒色布への転写無し
【0051】
【表1】

【0052】
バインダーとしてポリウレタン樹脂を用いた実施例1〜5及び比較例1〜5の吸脱着用シートは、熱サイクル前後における吸着性能が、吸着剤によらず、すべて5%未満に収まっている。特に、実施例1〜5においては吸着性能低下率が3%未満であって、性能低下が殆ど見られなかった。比較例6〜10のアクリル樹脂及び比較例11〜15のエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を用いた吸脱着用シートは、すべて熱処理後に吸着性能が大幅に低下していた。
【0053】
また、吸着性能低下率が5%未満であったポリウレタン樹脂を使用した吸脱着用シートのうち、熱サイクル試験後のシートの摩耗性については、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂を使用した実施例1〜5では黒色布への転写が見られなかったのに対し、比較例1〜5は転写が見られた。
【0054】
なお、吸着性能低下率が5%以上であった比較例6〜15については、摩耗性試験は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の吸脱着用シートは、包装材料、除湿シート、内装材料、フィルター、調湿素子、熱交換素子等に使用することができ、例えば、ビル空調気化式加湿用素子、燃料電池用加湿用素子、除湿器用除湿素子、自動販売機等の吸水蒸散素子、冷却用吸水蒸散素子、デシカント空調の除湿ローター素子、全熱交換素子、有機ガス(VOC)、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物(NO)等のガス除去システム、熱交換又は熱移動システム、調湿(除湿又は加湿)システム等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートに吸着剤をバインダーで添着してなる吸脱着用シートにおいて、バインダーとしてポリエーテル型ポリウレタン樹脂を用いることを特徴とする吸脱着用シート。

【公開番号】特開2013−107028(P2013−107028A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252438(P2011−252438)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】