説明

吸音システム及びその作製方法

【課題】通気性素材の背後に空気層を配置してなる吸音システムにおいて、システム設置空間における寸法制約が有る場合にも、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさの空気層を確保できるようにする。
【解決手段】吸音システム10は、通気性を有する表皮層12と、表皮層12に隣接する第1の背後空気層14と、第1の背後空気層14に隣接する有孔基材16と、有孔基材16を介して第1の背後空気層14に連通する第2の背後空気層18と、第2の背後空気層18に隣接する反射層26とを備える。第1の背後空気層14が、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさを有さない場合であっても、第1の背後空気層14が有孔基材16の貫通孔20を通して第2の背後空気層18に連通しているから、第1の背後空気層14の寸法を増加させること無く、第2の背後空気層18の存在により、所望の吸音性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音システムに関する。本発明はまた、吸音システムの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質の吸音材の背後に空気層を配置することにより、吸音材の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を制御できることは知られている。また、貫通孔を有する板(すなわち穴あき板)の背後に所定容積の空気層を設けてなるヘルムホルツ型の吸音構造が周知である。
【0003】
例えば特許文献1は、通気度の異なる少なくとも2層から構成される積層体と、背後の空気層とから構成される吸音構造体であって、ヘルムホルツ型吸音形態を有する板状有孔板に繊維集合体を応用してなる吸音構造体を開示する。特許文献1には、「本発明に係る積層体の総厚は0.5〜20mmの範囲にする必要がある。積層体の総厚が0.5mm未満になると、積層体の全体が板状になり、吸音性能が殆どなくなる。逆に、20mmを超えると、ヘルムホルツ型吸音機構から多孔質型吸音機構に移行していき、目的とする低周波領域の吸音性能の確保が困難となる。」、「背後空気層の平均厚さは0〜40mmの範囲であることが必要である。これは自動車部品のスペース的要件から派生した数字であり、40mmを超える厚さになるとレイアウト的に車上にスペースを確保することが困難になる。背後空気層は大きいほど効果があるが、仮に0mmとしても積層体自体が厚みを有するので、ある程度の吸音効果が得られる。」と記載されている。
【0004】
また特許文献2は、吸音性能を有する自動車用内装部品であって、車体パネルの室内面側に背後空気層を介して取り付けられる基材と、製品表面側に位置する表皮と、基材と表皮との間に配置され、表皮の板振動吸音機能のバネとして作用する低密度不織布とを備えた自動車用内装部品を開示する。特許文献2には、「ルーフパネル20と基材11との間に背後空気層30が設けられているため、基材11の板振動(膜振動)により、特に、低周波数域の騒音レベルを低減できる吸音性能を備えている。」、「基材のもつ吸音性能に加えて、表皮の板振動による吸音効果と、低密度不織布による多孔質吸音効果が相乗的に作用するため、低周波数域から高周波数域の広い周波数域における騒音レベルを有効に吸音処理することができ」と記載されている。また基材の材料として、「PPO(ポリフェニレンオキシド)樹脂シート、段ボール等、適度の保形性を備え、通気性がない素材」及び「ウレタン、レジンフェルト等、吸音性を有する素材」が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−30274号公報
【特許文献2】特開2002−127836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸音材等の通気性素材の背後に空気層を配置してなる吸音構造を、乗物や建築物に設置する際に、設置空間における寸法制約により、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさの空気層を、吸音構造に設けることが困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、通気性素材の背後に空気層を配置してなる吸音システムにおいて、システム設置空間における寸法制約が有る場合にも、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさの空気層を確保できる吸音システムを提供する。
【0008】
本発明はまた、通気性素材の背後に空気層を配置してなる吸音システムの作製方法において、システム設置空間における寸法制約が有る場合にも、所望の吸音率周波数特性を得るために必要とされる大きさの空気層を確保できる吸音システム作製方法を提供する。
【0009】
一態様では、通気性を有する表皮層と、表皮層に隣接する第1の背後空気層と、貫通孔を有する有孔基材であって、第1の背後空気層に隣接する有孔基材と、有孔基材の貫通孔を通して第1の背後空気層に連通する第2の背後空気層と、を具備する吸音システムが提供される。
【0010】
他の態様では、吸音システムの作製方法であって、通気性を有する表皮層と表皮層に隣接する第1の背後空気層とを備える吸音部材を用意し、貫通孔を有する有孔基材であって、貫通孔が第2の背後空気層に空気流通可能に接続されている有孔基材を用意し、吸音部材を有孔基材に取り付けて、有孔基材の貫通孔を通して第1の背後空気層と第2の背後空気層とを互いに連通させる、吸音システム作製方法が提供される。
【0011】
さらに他の態様では、吸音システムの作製方法であって、通気性を有する表皮層を用意し、第1の背後空気層を用意し、貫通孔を有する有孔基材であって、該貫通孔が第2の背後空気層に空気流通可能に接続されている有孔基材を用意し、前記第1の背後空気層を前記有孔基材に取り付けるとともに前記表皮層を前記第1の背後空気層に取り付けて、前記有孔基材の前記貫通孔を通して前記第1の背後空気層と前記第2の背後空気層とを互いに連通させる、吸音システム作製方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る吸音システムによれば、第1の背後空気層が、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさを有さない場合であっても、第1の背後空気層が有孔基材の貫通孔を通して第2の背後空気層に連通しているから、第1の背後空気層の寸法を増加させること無く、第2の背後空気層の存在により、所望の吸音性能を得ることができる。したがって、乗物や建築物に吸音システムを設置する際に、システム設置空間における寸法制約が有る場合にも、寸法制約の範囲内で、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさの空気層(第1及び第2の背後空気層)を確保した状態で吸音システムを設置することができ、以て、システム設置空間の音響特性を改善できる。
【0013】
本発明の他の態様に係る吸音システム作製方法によれば、乗物や建築物に吸音システムを設置する際に、乗物や建築物に元々備わっている構造部分のうち、貫通孔を有する有孔基材と貫通孔に空気流通可能に接続されている第2の背後空気層とを含む構造部分を利用して、そのような構造部分に、別途用意した吸音部材(すなわち表皮層及び第1の背後空気層)を取り付けることで、吸音システムを設置できる。このとき、第1の背後空気層が、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさを有さない場合であっても、第2の背後空気層を追加することでそのような大きさが確保されるのであれば、第1の背後空気層が有孔基材の貫通孔を通して第2の背後空気層に連通しているから、第1の背後空気層の寸法を増加させること無く、乗物や建築物に元々備わっている第2の背後空気層の存在により、所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による吸音システムを模式図的に示す断面図である。
【図2】図1の吸音システムを模式図的に示す斜視図である。
【図3】図1の吸音システムを作製するための本発明の一実施形態による吸音システム作製方法を示す図である。
【図4】変形例による吸音システムを模式図的に示す断面図である。
【図5】他の変形例による吸音システムを模式図的に示す断面図である。
【図6】さらに他の変形例による吸音システムを模式図的に示す断面図である。
【図7】図6の吸音システムが有する表皮層の外観を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1及び図2は、本発明の一実施形態による吸音システム10を示す。吸音システム10は、乗物や建築物の内装や外装に設置できるものであるが、本発明の吸音システムの用途は限定されない。
【0016】
吸音システム10は、通気性を有する表皮層12と、表皮層12に隣接する第1の背後空気層14と、第1の背後空気層14に隣接する有孔基材16と、有孔基材16を介して第1の背後空気層14に連通する第2の背後空気層18とを備える。
【0017】
表皮層12は、吸音システム10の最外層として、吸音システム10の外部環境と第1の背後空気層14との間で吸音対象の音を伝播させるものであり、布帛、通気性樹脂フィルム、連続気泡体等の、それ自体に通気性を有する材料から形成される。表皮層12を、単体で吸音性能を有する多孔質材料から形成したり、複数の異なる素材の複合体としたりすることもできる。図示実施形態では、表皮層12は、所定厚みのシート状部材として構成されており、吸音対象の音が入射する外面12aと、その反対側の内面12bとを有している。なお、表皮層12の素材、目付、形状、寸法等は、特に限定されないが、吸音システム10を乗物や建築物の内装や外装に設置する場合には、表皮層12の少なくとも外面12aが、所望の意匠性や風合いを有することが好ましい。この観点で、表皮層12は例えば、国際公開第2009/017908号に記載される多孔質表面材料(例としてポリウレタン系の不織布)を、少なくとも外面12a側に有することができる。
【0018】
第1の背後空気層14は、表皮層12の背後に設けられて、表皮層12との協働により所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を発揮するものであり、主として空気から形成される。第1の背後空気層14を、表皮層12と有孔基材16との間に介在して表皮層12を支持する支持体として機能させることもできる。この場合、第1の背後空気層14は、スポンジ等の連続気泡体や、ハニカム構造等の、空気を略一様に含んだ状態で表皮層12を支持可能な種々の構成を有することができる。図示実施形態では、第1の背後空気層14は、所定厚みの連続気泡体として構成されており、表皮層12の内面12bに当接される第1面14aと、その反対側の第2面14bとを有している。この構成では、表皮層12の内面12bと第1の背後空気層の第1面14aとを、例えば、接着剤、粘着剤等を用いた接着や、超音波、誘導加熱等を用いた融着や、熱圧着等の、公知の固着法により、互いに固定することができる。また、表皮層12と第1の背後空気層14とを、予め一体に成形することもできる。なお、第1の背後空気層14の形状、寸法等は、特に限定されない。
【0019】
有孔基材16は、第1の背後空気層14の背後に設けられて、第1の背後空気層14と第2の背後空気層18との間に介在するものであり、金属、プラスチック、木、紙等の種々の材料から形成される。有孔基材16には、第1の背後空気層14と第2の背後空気層18とを互いに空気流通可能に連通する1つ以上の貫通孔20が形成される。有孔基材16は、少なくとも自己形状を保持した状態で表皮層12及び第1の背後空気層14を支持可能な剛性を有することができる。図示実施形態では、有孔基材16は、所定厚みの剛性板として構成されており、第1の背後空気層14の第2面14bに当接される第1面16aと、その反対側の第2面16bとを有している。この構成では、第1の背後空気層14の第2面14bと有孔基材16の第1面16aとを、例えば、接着剤、粘着剤等を用いた接着や、超音波、誘導加熱等を用いた融着や、熱圧着等の、公知の固着法により、互いに固定することができる。また図示実施形態では、有孔基材16は、所望容積の第2の背後空気層18を画定する立体形状を有しており、貫通孔20を設けた平板状の基部22と、第2面16b側で基部22に一体又は別体に連結される1つ以上の柱状又は壁状の延長部24とを備えている。なお、有孔基材16の素材、形状、寸法等、及び貫通孔20の形状、寸法、配置、開口率等は、特に限定されない。
【0020】
第2の背後空気層18は、第1の背後空気層14に連通した状態で有孔基材16の背後に設けられて、表皮層12及び第1の背後空気層14との協働により所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を発揮するものであり、主として空気から形成される。第2の背後空気層18を、有孔基材16を支持する支持体として機能させることもできる。その場合、第2の背後空気層18は、樹脂発泡体等の連続気泡体や、ハニカム構造等の、空気を略一様に含んだ状態で有孔基材16を支持可能な種々の構成を有することができる。図示実施形態では、第2の背後空気層18は、有孔基材16の基部22及び延長部24の寸法によって決まる厚み及び容積を有するチャンバ(室)に収容された空気として構成されている。この構成では、第2の背後空気層18を形成するチャンバは、密閉空間であってもよいし、吸音性能に有意な影響を及ぼさない程度に開放されていてもよい。なお、第2の背後空気層18の形状、寸法等は、特に限定されない。
【0021】
吸音システム10は、第2の背後空気層18に隣接する反射層26をさらに備える。反射層26は、有孔基材16の貫通孔20に実質的に対向する位置に設けられて、貫通孔20を通して第2の反射空気層18に入射した音を貫通孔20に向けて反射するものであり、金属、プラスチック、木、紙等の、音を反射可能な種々の材料から形成される。反射層26は、有孔基材16と協働して、所望容積の第2の背後空気層18を画定する。図示実施形態では、反射層26は、所定厚みの剛性板として構成されており、有孔基材16の延長部24の末端面24aに当接される第1面(反射面)26aと、その反対側の第2面26bとを有している。この構成では、有孔基材16の延長部24の末端面24aと反射層26の第1面26aとを、例えば、接着剤、粘着剤等を用いた接着や、超音波、誘導加熱等を用いた融着や、熱圧着等の、公知の固着法により、互いに固定することができる。また、有孔基材16と反射層26とを、予め一体に成形することもできる。なお、反射層26の素材、形状、寸法等は、特に限定されない。さらに、ヘルムホルツ型(共鳴型)の吸音機能を必要としない場合は、反射層26を省略することもできる。
【0022】
上記構成を有する吸音システム10は、図3に示す本発明の一実施形態による吸音システム作製方法によって作製できる。
この方法では、まず、通気性を有する表皮層12と表皮層12に隣接する第1の背後空気層14とを備える吸音部材28を用意する(図3(a))。他方、貫通孔20を有する有孔基材16であって、貫通孔20が第2の背後空気層18に空気流通可能に接続されている有孔基材16を用意する(図3(b))。次に、第1の背後空気層14の第2面14bを有孔基材16の第1面16aに対向させて、吸音部材28を有孔基材16に取り付け、第1の背後空気層14の第2面14bと有孔基材16の第1面16aとを接着や融着等により互いに固定する(図3(c))。それにより、有孔基材16の貫通孔20を介して、第1の背後空気層14と第2の背後空気層18とを互いに連通させる。
【0023】
さらに、第2の背後空気層18に隣接させて反射層26を配置し、有孔基材16の延長部24の末端面24aと反射層26の第1面26aとを接着や融着等により互いに固定する(図3(d))。この作業は、吸音部材28を有孔基材16に取り付ける前、取り付けると同時、又は取り付けた後に実施できる。このようにして、吸音システム10が作製される。
【0024】
上記した吸音システム作製方法において、第1の背後空気層14が、支持体として機能する空気以外の要素を含む構成(例えば連続気泡体)では、吸音部材28を用意する代りに、表皮層12と第1の背後空気層14とを別々に用意し、第1の背後空気層14を有孔基材16に取り付けるとともに表皮層12を第1の背後空気層14に取り付けるようにすることもできる。また、有孔基材16に後工程で反射層26を取り付ける代りに、反射層26を予め一体的に備えている有孔基材16(図3(e))を用いることもできる。また、有孔基材16を用意する際に、予め設けられている貫通孔20に追加して新たな貫通孔20を後加工で形成したり、貫通孔20を有さない無孔基材16´(図3(f))をまず用意して、後加工で所望の貫通孔20を形成することにより有孔基材16を用意したりすることもできる。
【0025】
上記構成を有する吸音システム10及びその作製方法によれば、乗物や建築物に吸音システム10を設置する際に、乗物や建築物に元々備わっている構造部分のうち、貫通孔20を有する有孔基材16と貫通孔20に空気流通可能に接続されている第2の背後空気層18とを含む構造部分を利用して、そのような構造部分に、別途用意した吸音部材28(すなわち表皮層12及び第1の背後空気層14)を取り付けることで、吸音システム10を設置できる。このとき、第1の背後空気層14が、所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を得るために必要とされる大きさ(厚み又は容積)を有さない場合であっても、第2の背後空気層18を追加することでそのような大きさ(厚み又は容積)が確保されるのであれば、第1の背後空気層14が有孔基材16の貫通孔20を通して第2の背後空気層18に連通しているから、第1の背後空気層14(したがって吸音部材28)の寸法を増加させること無く、乗物や建築物に元々備わっている第2の背後空気層18の存在により、所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を得ることができる。なお、概説すると、第2の背後空気層18の大きさが増加するに従い、吸音システム10の吸音率周波数特性におけるピーク吸音率が低周波域に移動する。
【0026】
このように、吸音システム10及びその作製方法によれば、システム設置空間における寸法制約が有る場合にも、寸法制約の範囲内で、所望の吸音性能を得るために必要とされる大きさの空気層を確保できる。したがって、通気性素材の背後に空気層を配置してなる従来の吸音構造では、空気層を拡張することが設置空間における寸法制約により困難なために設置できなかった場所であっても、吸音システム10を、所望の吸音性能を発揮可能な状態で設置することができ、以て、そのような設置場所の周囲空間の音響特性を改善できる。
【0027】
吸音システム10を好適に設置できる場所としては、例えば自動車の内装(天井、インストルメントパネル、ピラーパネル、ドアトリム、コンソールボックス等)が挙げられる。この場合、内装部品の任意の板状部分を有孔基材16として利用でき、当該板状部分の背後の空間を第2の背後空気層18として利用でき、当該板状部分に元々備わっている補強リブを有孔基材16の柱状又は壁状の延長部24として利用できる。また、当該板状部分に空間を介して対向する部材(内装部品や車体パネルの一部)を反射層26として利用できる。なお、第2の背後空気層18として利用できる空間の前面の板状部分が貫通孔20を有さない場合や貫通孔20の開口率が不足する場合は、吸音部材28(すなわち表皮層12及び第1の背後空気層14)を当該板状部分に取り付ける前に、当該板状部分に所望構成(形状、寸法、配置、開口率等)の貫通孔20を加工して形成することができる。
【0028】
吸音システム10において、第2の背後空気層18は、所望の吸音性能(特に吸音率周波数特性)を得るために必要とされる第1の背後空気層16の大きさ(厚み又は容積)の不足分を補填できることを条件として、有孔基材16の貫通孔20に隣接して配置されていなくてもよい。例えば、図4に変形例(吸音システム101)として示すように、有孔基材16と反射層26との間に画定される第2の背後空気層18が、有孔基材16の貫通孔20から側方にずれた位置に配置される構成とすることができる。吸音システム101では、有孔基材16の全ての貫通孔20に満遍無く空気が行き渡るように、有孔基材16と第2の背後空気層18との間に、貫通孔20と第2の背後空気層18とを空気流通可能に互いに接続する空気通路30が設けられている。
【0029】
また、図5に他の変形例(吸音システム102)として示すように、第2の背後空気層18が有孔基材16から離隔した位置に配置される構成とすることもできる。吸音システム102では、有孔基材16と反射層26とから形成されるチャンバから離れた位置に、第2の背後空気層18を収容する第2のチャンバを形成するケーシング32が設けられ、反射層26とケーシング32とが連結管34によって互いに連結されている。そして、反射層26に形成した空気孔36とケーシング32に形成した空気孔38とが、連結管34の管路40によって互いに接続されて空気通路を構成し、この空気通路が有孔基材16と第2の背後空気層18との間の空気通路30に接続されている。図4及び図5のいずれの構成によっても、第2の背後空気層18が有効に作用して、図1の吸音システム10と同等の効果が奏される。
【0030】
吸音システム10において、表皮層12は、所望の形状及び寸法を有する第1の背後空気層14を表皮層12と有孔基材16との間に画定する立体形状を有することができる。例えば、図6にさらに他の変形例(吸音システム103)として示すように、表皮層12は、頂部42と側部44とを有する椀状の形状を有することができる。吸音システム103では、表皮層12と有孔基材16とから形成されるチャンバに、第1の背後空気層14として空気が収容されている。この構成では、例えば図7に示すように、表皮層12に、要求される意匠性等に応じて、頂部42と側部44とを有する隆起部分46を1つ(図7(a))又は複数(図7(b))設けることもできる。このように、吸音システム10においては、第2の背後空気層18が存在することにより、第1の背後空気層14を比較的自由に設計できるので、意匠性等の要求に応じることが容易になる。
【0031】
上記した吸音システム10の効果を明確にするべく、吸音性能に関する以下の実験を行った。
図1及び図5に示す吸音システム10、102を、以下の構成で作製した。
表皮層12・・・(A)ポリウレタン不織布(面密度400g/m、厚み0.98mm)
第1の背後空気層14・・・(B)連続気泡ポリウレタンフォーム(面密度68g/m2、厚み5mm:ブリジストン化成品東京株式会社(東京都)製のFDW)
(C)空気(厚み5mm)
有孔基材16・・・(D)パンチングテフロン板(厚み1mm、開口度変更)
(E)穴開き真鍮板(厚み1mm、開口度20.3%)
第2の背後空気層18・・・(F)空気(厚み変更)
連結管34・・・(G)銅管(厚み0.6mm、長さ6mm、内径9mm)
【0032】
上記材料を用いて、第1の背後空気層14の材料、有孔基材16の材料及び開口度、並びに第2の背後空気層18の厚みを変更し、吸音システム10、102の実施例及び比較例を下記内容で作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
上記した実施例及び比較例の吸音性能(吸音率周波数特性)を、ISO10534−2、JIS1405−2に準拠した垂直入射吸音率測定システム(日東紡音響エンジニアリング株式会社(東京都)製のインピーダンスチューブWinZacMTX)を使用して、250(400)〜5000Hzでの垂直入射吸音率(1/3オクターブ平均)で測定した。測定結果は、下記の通りである。
【0035】
実施例1、2及び比較例1、2
実施例1、2では、有孔基材16の開口度が増加するに従い、吸音性能が向上した。これは、表皮層12及び第1の背後空気層14による共鳴吸音性に加えて、第2の背後空気層18による共鳴吸音性が発現していることを示すものである。なお、有孔基材16の開口度が約10%以上であれば、比較例1、2(開口度100%)に匹敵する吸音性能を得ることができた。また、第2の背後空気層18の厚みを増やすことで、低周波音域での吸音性能が改善された。比較例1、2(開口度0%)では、表皮層12及び第1の背後空気層14による共鳴吸音性に加えて、表皮層12、第1の背後空気層14及び有孔基材16の総体での膜振動による吸音性が低周波音域に発現するが、吸音効果としては極めて低いものであった。
【0036】
実施例3、4及び比較例3、4
実施例3、4では、実施例1、2と同様の測定結果が得られた。これは、第2の背後空気層18が有孔基材16から離れた位置に有っても、連結管34による適切な接続が成されていれば、第2の背後空気層18による効果が得られることを示すものである。なお、実施例3、4の有孔基材16は、実施例1、2の有孔基材16よりも重量が大きいので、実施例1、2と同等の吸音性能を得るためには、有孔基材16の開口度をさらに増加させる必要があることが推測できた。比較例3、4(第2の背後空気層18無し)では、主として表皮層12及び第1の背後空気層14による共鳴吸音性のみが発現していた。
【符号の説明】
【0037】
10、101、102、103 吸音システム
12 表皮層
14 第1の背後空気層
16 有孔基材
18 第2の背後空気層
20 貫通孔
24 延長部
26 反射層
28 吸音部材
30 空気通路
34 連結管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有する表皮層と、
前記表皮層に隣接する第1の背後空気層と、
貫通孔を有する有孔基材であって、前記第1の背後空気層に隣接する有孔基材と、
前記有孔基材の前記貫通孔を通して前記第1の背後空気層に連通する第2の背後空気層と、
を具備する吸音システム。
【請求項2】
前記有孔基材が、自己形状を保持して前記表皮層及び前記第1の背後空気層を支持可能な剛性を有する、請求項1に記載の吸音システム。
【請求項3】
前記表皮層が、前記第1の背後空気層を画定する立体形状を有する、請求項1又は2に記載の吸音システム。
【請求項4】
前記有孔基材が、前記第2の背後空気層を画定する立体形状を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸音システム。
【請求項5】
前記有孔基材と前記第2の背後空気層との間に設けられ、前記貫通孔と前記第2の背後空気層とを互いに接続する空気通路をさらに具備する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸音システム。
【請求項6】
前記第2の背後空気層に隣接する反射層をさらに具備する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸音システム。
【請求項7】
吸音システムの作製方法であって、
通気性を有する表皮層と該表皮層に隣接する第1の背後空気層とを備える吸音部材を用意し、
貫通孔を有する有孔基材であって、該貫通孔が第2の背後空気層に空気流通可能に接続されている有孔基材を用意し、
前記吸音部材を前記有孔基材に取り付けて、前記有孔基材の前記貫通孔を通して前記第1の背後空気層と前記第2の背後空気層とを互いに連通させる、
吸音システム作製方法。
【請求項8】
吸音システムの作製方法であって、
通気性を有する表皮層を用意し、
第1の背後空気層を用意し、
貫通孔を有する有孔基材であって、該貫通孔が第2の背後空気層に空気流通可能に接続されている有孔基材を用意し、
前記第1の背後空気層を前記有孔基材に取り付けるとともに前記表皮層を前記第1の背後空気層に取り付けて、前記有孔基材の前記貫通孔を通して前記第1の背後空気層と前記第2の背後空気層とを互いに連通させる、
吸音システム作製方法。
【請求項9】
前記第2の背後空気層に隣接させて反射層を配置する、請求項7又は8に記載の吸音システム作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−13912(P2012−13912A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149734(P2010−149734)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】