説明

吸音構造体の製造方法および吸音構造体

【課題】低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性を有する吸音構造体を簡単な工程で製造することができる吸音構造体の製造方法および該製造方法により得られた吸音構造体を提供する。
【解決手段】繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり単繊維径(D)が10〜1000nm、かつ該単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が100〜2000の範囲内である短繊維Aを液体に分散させて分散体とした後、該分散体をスプレー方式で繊維構造体に噴霧することにより不織布層を形成することにより吸音構造体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌や住宅あるいは道路などの騒音低減用として好適に利用することができる吸音構造体の製造方法および該製造方法により得られた吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌や住宅あるいは高速道路などの吸音、遮音材として、ガラスウール、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維、さらには高融点熱可塑性繊維と低融点熱可塑性繊維を用いたもの(例えば、特許文献1参照)など各種繊維を用いた吸音材が多数提案されている。
【0003】
かかる吸音材に要求される特性としては、吸音性、軽量性、形態安定性などがあげられる。特に吸音性においては、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性が求められている。
そして、かかる吸音材の吸音性を高める方法としては、従来、繊維径を細くしたり、目付けを大きくするなどの方法が採用されてきた。
【0004】
しかるに、単に繊維径を細くするだけでは、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性は十分には得られず、形態安定性も損なわれるという問題があった。他方、単に目付けを大きくするだけでは、軽量性が損なわれるという問題があった。
【0005】
このため、特許文献2では、不織布を繊維構造体に積層しかつ前記不織布を音源側に配した吸音構造体が提案されている。しかしながら、該吸音構造体では、製造方法の点においてまだ改善の余地があることが判明した。
【0006】
【特許文献1】特開平7−3599号公報
【特許文献2】特開2004−145180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、軽量性と形態安定性を損なわず、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性を有する吸音構造体を簡単な工程で製造することができる吸音構造体の製造方法および該製造方法により得られた吸音構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が10〜1000nmでありかつ特定の長さを有する極細短繊維を液体に分散させて分散体とした後、該分散体をスプレー方式で繊維構造体に噴霧することにより、軽量性と形態安定性を損なわず、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性を有する吸音構造体が簡単な工程で製造できることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「繊維構造体と該繊維構造体に積層された不織布層とで構成される吸音構造体の製造方法であって、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり単繊維径(D)が10〜1000nm、かつ該単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が100〜2000の範囲内である短繊維Aを液体に分散させて分散体とした後、該分散体をスプレー方式で繊維構造体に噴霧することにより前記不織布層を形成することを特徴とする吸音構造体の製造方法。」が提供される。
【0010】
その際、前記短繊維Aが、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなりかつその島径が10〜1000nmである島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解しやすいポリマーからなる海成分とを有する海島型複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去することにより、前記海島型複合繊維を、単繊維径Dが10〜1000nmのマルチフィラメントとした後、該マルチフィラメントを、単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが100〜2000の範囲内となるようカットした短繊維であることが好ましい。また、前記短繊維Aがポリエステル繊維であることが好ましい。また、前記分散体において、前記短繊維Aが分散体の全重量に対して0.001〜5重量%含まれることが好ましい。また、前記繊維構造体が、ポリエステル系繊維からなる主体繊維と、熱融着成分と繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり少なくとも前記熱融着成分が繊維表面に露出している熱接着性複合短繊維とから構成されていることが好ましい。また、前記繊維構造体において、繊維構造体を構成する繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列していることが好ましい。また、前記繊維構造体の厚さが5〜50mmの範囲内であることが好ましい。また、前記繊維構造体を構成する繊維の単繊維繊度が0.9〜20dtexの範囲内であることが好ましい。また、前記繊維構造体の密度が0.005〜0.10g/cmの範囲内であることが好ましい。また、前記の液体が水であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された吸音構造体が提供される。かかる吸音構造体において、不織布層の目付けが1〜15g/mの範囲内であることが好ましい。また、前記不織布層が音源側に配されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軽量性と形態安定性を損なわず、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性を有する吸音構造体を簡単な工程で製造することができる吸音構造体の製造方法および該製造方法により得られた吸音構造体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明で用いる短繊維A(以下、「ナノファイバー」ということもある。)はその単繊維径(すなわち、単繊維の直径)(D)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)であることが肝要である。かかる単繊維径を単糸繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が1000nmを超える場合には、不織布に対する繊維の構成本数が少なくなるため地合いが悪くなり、また、短繊維Aがスプレーノズルにつまりやすくなるため好ましくない。逆に、該単繊維径が10nm未満の場合には、繊径の均一なものを製造することが難しいため好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0014】
また、前記短繊維Aにおいて、単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が100〜2000(好ましくは500〜1500)の範囲内であることが肝要である。該比(L/D)が100未満の場合、繊維と繊維との絡みが弱く、ウエブ形成後乾燥工程までの搬送等において脱落等が発生し工程性が不安定となり好ましくない。逆に、該比(L/D)が2000を越える場合、短繊維Aの水分散性が不十分になる可能性が高くなり、また、短繊維Aがスプレーノズルにつまりやすくなるため好ましくない。
【0015】
前記短繊維Aの繊維種類は限定されないが、ポリエステルからなるポリエステル繊維が好ましい。かかるポリエステルはジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステルには、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいてもよい。該第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。かかるポリエステルとしては、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。また、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルであってもよい。該ポリエステルポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0016】
また、前記短繊維Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。例えばまず、下記のような海島型複合繊維用の海成分ポリマーと島成分ポリマーを用意する。
【0017】
まず、海成分を形成するアルカリ水溶液易溶解性ポリマーの、島成分を形成する繊維形成性熱可塑性ポリマーに対する溶解速度比が200以上(好ましくは300〜3000)であると、島分離性が良好となり好ましい。溶解速度が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や島成分自体の溶剤侵食につながり、均一な繊維径の極細繊維が得ることができないおそれがある。
【0018】
海成分を形成する易溶解性ポリマーとしては、特に繊維形成性の良いポリエステル類、脂肪族ポリアミド類、ポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィン類を好ましい例としてあげることができる。更に具体例を挙げれば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリアルキレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。これ以外にも、ナイロン6やナイロン66等の脂肪族ポリアミドに対するギ酸、ポリスチレンに対するトリクロロエチレン等やポリエチレン(特に高圧法低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレン)に対する熱トルエンやキシレン等の炭化水素系溶剤、ポリビニルアルコールやエチレン変性ビニルアルコール系ポリマーに対する熱水を例として挙げることができる。
【0019】
ポリエステル系ポリマーの中でも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。また、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性や紡糸安定性の面で問題が生じる可能性がある。また、共重合量が10重量%以上になると、溶融粘度低下作用があるので、好ましくない。
【0020】
一方、島成分を形成する難溶解性ポリマーとしては、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリオレフィン類などが好適な例として挙げられる。具体的には、機械的強度や耐熱性を要求される用途では、ポリエステル類では、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5−スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。また、ポリアミド類では、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が好ましい。一方、ポリオレフィン類は酸やアルカリ等に侵され難いことや、比較的低い融点のために極細繊維として取り出した後のバインダー成分として使える等の特徴があり、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、無水マレイン酸などのビニルモノマーのエチレン共重合体等を好ましい例としてあげることができる。さらに島成分は丸断面に限らず、異型断面であってもよい。特にポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸共重合率が20モル%以下のポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の脂芳族ポリエステル類、あるいは、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族ポリアミド類が、高い融点による耐熱性や力学的特性を備えているので、特許文献2に記載されているようなポリビニルアルコール/ポリアクリロニトリル混合紡糸繊維からなる極細フィブリル化繊維に比べ、耐熱性や強度を要求される用途へ適用でき、好ましい。
【0021】
なお、海成分を形成するポリマーおよび島成分を形成するポリマーについて、製糸性および抽出後の極細短繊維の物性に影響を及ぼさない範囲で、必要に応じて、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、フッ素樹脂等の離型改良剤、等の各種添加剤を含んでいても差しつかえない。
【0022】
前記の海島型複合繊維において、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0023】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0024】
次に島数は、100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。また、その海島複合重量比率(海:島)は、20:80〜80:20の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が80%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方20%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0025】
さらに、前記の海島型複合繊維において、島径(Xd)と島間の海の厚み(S)が以下の関係式を満たすことが好ましい。ここで、S/Xd値が0.5より大である場合には、高速紡糸性が悪くなる、また延伸倍率を上げることができないので、海島繊維の延伸糸物性そして海溶解後の極細繊維強度が低くなるおそれがある。逆に、S/Xd値が0.001より小である場合には島同士が膠着する可能性がある。
0.001≦S/Xd≦0.5
【0026】
溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば、中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。好ましく用いられる紡糸口金例は特開2007−107160号公報の図1および図2であるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお図1は、中空ピンを海成分樹脂貯め部分に吐出してそれを合流圧縮する方式であり、図2は、中空ピンのかわりに微細孔方式で島を形成する方法である。吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、所定の引き取り速度に設定した回転ローラーあるいはエジェクターにより引き取られ、未延伸糸を得る。この引き取り速度は特に限定されないが、200m/分〜5000m/分であることが望ましい。200m/分以下では生産性が悪い。また、5000m/分以上では紡糸安定性が悪い。
【0027】
得られた未延伸糸は、海成分を抽出後に得られる超極細繊維の用途・目的に応じて、そのままカット工程あるいはその後の抽出工程に供してもよいし、目的とする強度・伸度・熱収縮特性に合わせるために、延伸工程や熱処理工程を経由して、カット工程あるいはその後の抽出工程に供することができる。延伸工程は紡糸と延伸を別ステップで行う別延方式でもよいし、一工程内で紡糸後直ちに延伸を行う直延方式を用いてもかまわない。
【0028】
次いで、かかる海島型複合繊維にアルカリ減量加工を施す。ここで、前記海島型複合繊維に予めアルカリ減量加工を施すことにより、単繊維径Dが10〜1000nmの繊維とした後に、所定の長さにカットすることが好ましい。海島型複合繊維を短くカットした後にアルカリ減量加工を施してもよいが、アルカリ減量時の攪拌により繊維同士の絡みが生じて分散性が悪化するという問題や、アルカリ減量加工時に生じる微小な繊維収縮により繊維長のバラツキや収縮による繊維同士の絡みのため分散性が悪化するという問題が発生するおそれがある。
【0029】
投入するトウ(海島型複合繊維の束)の総繊度としては、10万〜500万dtex(より好ましくは50万〜200万dtex)の範囲内であることが好ましい。該総繊度が10万dtex未満では、アルカリ減量加工としては安定しているものの、生産性が悪くなるおそれがある。逆に、該総繊度が500万dtexを越えると、繊維が収束しすぎるため、繊維とアルカリ液との接触が不十分となり、海成分を十分に溶解できないおそれがある。
【0030】
また、アルカリ減量加工を施す際の海島型複合繊維(トウ)の長さについては、10〜5000m(より好ましくは30〜2000m)の範囲内であることが好ましい。該長さが10m未満では、連続的なアルカリ減量処理を施すには短すぎ、前後ロスが多くなって、その結果、収率が下がるおそれがあり好ましくない。逆に、該長さが5000mを越えると、繊度を大きくするための工程の作業性が悪くなり、部分的なゆるみ等を生じやすくなって、品質のバラツキの要因となるおそれがある。
【0031】
また、繊維とアルカリ液の比率(浴比)は0.1〜5%である事が好ましく、さらには0.4〜3%である事が好ましい。0.1%未満では繊維とアルカリ液の接触は多いものの、排水等の工程性が困難となるおそれがある。一方、5%以上では繊維量が多過ぎるため、アルカリ減量加工時に繊維同士の絡み合いが発生するおそれがある。なお、浴比は下記式にて定義する。
浴比(%)=(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)
【0032】
また、アルカリ減量加工の処理時間は5〜60分である事が好ましく、さらには10〜30分である事が好ましい。5分未満ではアルカリ減量が不十分となるおそれがある。一方、60分以上では島成分までも減量されるおそれがある。
また、アルカリ減量加工において、アルカリ濃度は2%〜10%である事が好ましい。2%未満では、アルカリ不足となり、減量速度が極めて遅くなるおそれがある。一方、10%を越えるとアルカリ減量が進みすぎ、島部分まで減量されるおそれがある。
【0033】
特に、下記式で定義するアルカリ減量係数は20〜400である事が好ましく、さらには40〜200である事が好ましい。20未満ではアルカリ減量が不十分となり、目的とした超極細繊維(島成分)を取り出す事ができないおそれがある。400を超える場合、海成分だけでなく、島成分まで減量が進むおそれがある。
アルカリ減量定数K=B×C÷A
ただし、A:浴比(繊維質量(gr)/アルカリ水溶液質量(gr)×100)、B:処理時間(分)、C:アルカリ濃度(%)である。
【0034】
また、アルカリ減量加工において、下記式で定義するアルカリ液温度定数が0.4〜0.8である事が好ましい。0.4未満ではアルカリ液の温度が低く、減量速度が上がり難い為、所定の減量率を確保し、島部分を取り出す事が困難となるおそれがある。一方、0.8を超える場合、島成分のガラス転移点付近となり、海成分だけでなく、島成分に関しても減量が開始されるおそれがある。
アルカリ液温度定数=(アルカリ液温度−Tga)/(Tgb−Tga)
ただし、Tga:前記アルカリ水溶液易溶解性ポリマーのガラス転移点、Tgb: 前記繊維形成性熱可塑性ポリマーのガラス転移点:である。
【0035】
アルカリ減量の方法としては、前記のようなトウ(海島型複合繊維の集合体)を連続的にアルカリ液に投入し、所定の条件、時間で処理した後に、酢酸、シュウ酸などの有機酸を使用して中和、希釈を進め最終的に脱水する方法などがあげられる。
【0036】
次いで、カット工程に持ち込む。その際、繊維の水分率を繊維重量対比20〜200%(より好ましくは30〜100%)の範囲内とすることが好ましい。該水分率が20%未満では、海島型複合繊維の海成分を溶解して得られたマルチフィラメント同士が密着しすぎ、カット性が悪くなるおそれがある。逆に、該水分率が200%を越えると、マルチフィラメントをカット工程に送る際に水分がしみだし、水分率の安定化がはかれず、結果としてカット性に斑を生じるおそれがある。
【0037】
また、繊維の分散性を高めるために分散剤(例えば、高松油脂(株)製の型式YM−81)を繊維表面に、繊維重量に対して0.1〜5.0重量%付着させることが好ましい。この工程は、アルカリ減量後かつカット前でもよいし、最終カット後に行ってもよいが、アルカリ減量後かつカット前に行うと、繊維全体に均一に付着させることができ好ましい。
【0038】
次に、かかる複合繊維を、島径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が100〜2000の範囲内となるようにカットすることにより短繊維Aを得る。なお、前記のカットは、マルチフィラメントを数十本〜数百万本単位に束ねたトウにしてギロチンカッターやロータリーカッターなどでカットすることが好ましい。
【0039】
次に、前記短繊維Aを水などの液体に分散させて分散体を得る。その際、該分散体において、前記短繊維Aが分散体の全重量に対して0.001〜5重量%(より好ましくは0.05〜1重量%)含まれることが好ましい。前記短繊維Aの重量比率が0.001重量%未満の場合、ウエブを形成する際に多くの水などの液体を含んだ状態で噴霧するためその液体によってウエブ乱れが発生し地合いが不良になるおそれがある。逆に、前記短繊維Aの重量比率が5重量%よりも大きい場合、分散体の粘性が高くなりすぎてスプレーノズルへの詰まりが発生するおそれがある。
【0040】
また、前記の分散体に前記短繊維A以外の他の繊維を、重量比(前記短繊維A:他の繊維)で60:40〜100:0の範囲内となるよう混合してもよい。その際、かかる他の繊維としては、単繊維径(D)が1000nmより大で10μm以下、かつ該単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が500〜1500の範囲内の短繊維が好ましい。他の繊維において、単繊維径(D)が10μよりも大きいと繊維径が大きすぎるためスプレーノズルへの詰まりが発生するおそれがある。また、該他の繊維において、比(L/D)が500未満では粉状態に近づくため、繊維と繊維との絡みが弱く、ウエブ形成後乾燥工程までの搬送等において脱落等が発生し工程性が不安定となるおそれがある。逆に、比(L/D)が1500を越えると分散体(スラリー)を攪拌する際に核となり欠点形成の可能性が高くなるおそれがある。また、かかる他の繊維の種類は、前記のポリエステルからなるポリエステル繊維が好ましい。
なお、前記の分散体には、増粘剤、分散剤、消泡剤といった助剤を添加してもなんらさしつかえない。
【0041】
次に、前記分散体をスプレー方式で繊維構造体に噴霧することにより繊維構造体に不織布層を形成し、常法により乾燥(例えば、熱風乾燥)する。その際、用いるスプレー噴霧装置としては特に限定されないが、生産性等の観点から、噴霧直前に圧縮空気と混合させて噴霧する2次流体のタイプ(例えば、(株)いけうち製の型式BIMV111015)が好ましい。また、噴霧ノズルの形状についても特に制限はないが、均一なウエブを形成する上でスリット型ノズルよりも丸型ノズルのほうが好ましい。
【0042】
前記繊維構造体としては、ポリエステル系繊維からなる主体繊維と、熱融着成分と繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり少なくとも前記熱融着成分が繊維表面に露出している熱接着性複合短繊維とから構成されている繊維構造体が好ましい。
【0043】
ここで、主体繊維として使用するポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリピバロラクトン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ステレオコンプレックスポリ乳酸(PLA)などのポリマーからなる短繊維、前記ポリマーの共重合体からなる短繊維、さらには、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、天然繊維、炭素繊維ないしそれら短繊維の混綿体、または上記ポリマー成分のうちの2種類以上からなる複合短繊維等を挙げることができる。これらの短繊維のうちリサイクル性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからなる短繊維が特に好ましい。
【0044】
また、前記の主体繊維には捲縮が付与されていることが好ましい。この場合の、捲縮付与方法としては、熱収縮率の異なるポリマーをサイドバイサイド型に張り合わせた複合繊維を用いてスパイラル状捲縮を付与、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与、捲縮数が3〜40個/2.54cm(好ましくは7〜15個/2.54cm)となるように通常の押し込みクリンパー方式による機械捲縮を付与など、種々の方法を用いればよいが、嵩高性、製造コスト等の面から機械捲縮を付与するのが最適である。
【0045】
ここで、前記主体繊維において、単繊維径が6〜200μmの範囲内であることが好ましい。該単繊維径が6μmよりも小さいとカード等での製造が難しくなるおそれがある。逆に該単繊維径200μmよりも大きいと充分な吸音性が得られないおそれがある。主体繊維の繊度としては、0.9〜20dtex(より好ましくは2.2〜6.6dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0046】
前記主体繊維の単繊維横断面形状は、通常の丸断面でもよいし、三角、四角、扁平などの異型断面であってもよい。なお、単繊維横断面形状が異型の場合、前記単繊維径は外径寸法を測定するものとする。
【0047】
また、前記主体繊維の繊維長としては30〜100mmの範囲内であることが好ましい。該繊維長が30mmよりも小さいと充分な剛性が得られないおそれがある。逆に該繊維長が100mmよりも大きいと工程安定性が損われるおそれがある。
【0048】
次に、熱接着性複合短繊維の熱融着成分は、上記の主体繊維を構成するポリマー成分より、40℃以上低い融点を有することが必要である。この温度が40℃未満では接着が不十分となる上、腰のない取り扱いにくい繊維構造体となり、本発明の目的が達せられない。
【0049】
ここで、熱融着成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマー及びその共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコ−ル系ポリマー等を挙げることができ、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。
【0050】
これらのポリマーのうちで、特に好ましいのはポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、またはポリ−ε−カプロラクタムあるいはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合の有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ビスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールを挙げることができる。
【0051】
また、ポリエステル系エラストマーとしては熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0052】
特に、接着性や温度特性、強度の面からすればポリブチレン系テレフタレートをハード成分とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。むろん、この酸成分の一部(通常30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていても良く、同様にグリコール成分の一部(通常30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されていても良い。また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分はブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってよい。
【0053】
共重合ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
また、ポリオレフィンポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0054】
上記の熱融着成分の中でも、共重合ポリエステル系ポリマーが特に好ましい。なお、上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色剤、その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0055】
熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の相手側成分としては前記のような非弾性のポリエステルが好まして例示される。その際、熱融着成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱融着成分と非弾性ポリエステルが、複合比率で30/70〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、特に限定されないが、熱融着成分と非弾性ポリエステルとが、サイドバイサイド、芯鞘型であるのが好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性複合短繊維では、非弾性ポリエステルが芯部となり、熱可塑性エラストマーが鞘部となるが、この芯部は同心円状、若しくは、偏心状にあってもよい。
【0056】
かかる熱接着性複合短繊維において、単繊維径としては10〜50μmの範囲内であることが好ましい。かかる熱接着性複合短繊維は、繊維長が3〜100mm(より好ましくは30〜100mm)に裁断されていることが好ましい。熱接着性複合短繊維の繊度としては、0.9〜20dtex(より好ましくは2.2〜6.6dtex)の範囲内であることが好ましい。
【0057】
上記主体繊維と上記熱接着性複合短繊維を混綿させ、加熱処理することにより、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点及び該熱接着性複合短繊維と該主体繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が形成される。
【0058】
この際、主体繊維と熱接着複合短繊維との重量比率は90/10〜30/70である必要がある。熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より少ない場合は、固着点が極端に少なくなり、繊維構造体の腰がなく、成型性が不良となる。一方、熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より多い場合は、接着点が多くなり過ぎ、熱処理工程での取扱い性、成型性などが低下する。
【0059】
さらに、前記の繊維構造体においては、前記熱接着性複合短繊維と前記主体繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列していると、前記の水分散体を繊維構造体にスプレー方式で噴霧した際に水が抜け易く好ましい。ここで、「厚さ方向に配列している」とは、繊維構造体の厚さ方向に対して平行に配列されている繊維の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維の総本数を(A)とするとき、B/Aが1.5以上であることである。
【0060】
このような繊維構造体を製造する方法には特に限定はなく、従来公知の方法を任意に採用すれば良いが、例えば主体繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿し、ローラーカードにより均一なウエブとして紡出した後、特開2008−68799号公報の図1に示すような熱処理機を用いて、ウエブをアコーディオン状に折りたたみながら加熱処理し、熱融着による固着点を形成させる方法などが好ましく例示される。例えば特表2002−516932号公報に示された装置(市販のものでは、例えばStruto社製Struto設備など)などを使用するとよい。
【0061】
かくして得られる繊維構造体において、繊維構造体の厚さが5mm以上(好ましくは5〜50mm、特に好ましくは8〜20mm)であることが好ましい。該厚さが5mmよりも小さいと十分な吸音性が得られないおそれがある。
【0062】
また、該繊維構造体の平均密度が0.005〜0.10g/cm(より好ましくは0.008〜0.02g/cm)の範囲内にあることが好ましい。該密度が0.005g/cmよりも小さいと輸送の際にヘタリを生じるため取扱いが難しくなるおそれがある。逆に、該密度が0.10g/cmよりも大きいと、繊維構造体が板状となり、その後の成型が困難になるだけでなく、音が反射するようになり、吸音材として使用できなくなるおそれがある。さらには、重量増加となり軽量性が損われるおそれがある。
【0063】
かくして得られた吸音構造体は、前記の繊維構造体と該繊維構造体に積層された不織布層で構成される。
ここで、前記の不織布層において、前記の短繊維Aが不織布層の重量に対して75重量%以上含まれていることが好ましい。不織布層に含まれる短繊維Aの含有量が75重量%未満では、十分な吸音性能が得られないおそれがある。
【0064】
また、前記不織布層の目付けとして1〜15g/m(より好ましくは3〜12g/m)の範囲内であることが好ましい。該目付けが1g/m未満では、十分な吸音性能が得られないおそれがある。逆に該目付けが15g/mよりも大きいと、そのスラリー濃度から、繊維構造体或いは繊維構造体形成前のウェブに大量の水などの液体を持ち込む事で、嵩性ダウンにより所定の構造をコントロールすることが難しくするだけでなく、水分を蒸発させる為のエネルギーが増大し、生産性が低下するおそれもある。さらには、吸音構造体の軽量性が損われるおそれもある。
【0065】
かかる吸音構造体において、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音性を有する。特に前記不織布層が音源側に配されている場合は、特に優れた吸音性が得られる。
なお、かかる吸音構造体には、染色加工、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。また、本発明の目的が損われない範囲であれば、不織布、織編物等の各種シート状物を貼り合わせることも問題ない。
【実施例】
【0066】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)溶融粘度
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
(2)島径との測定
透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、測定した。TEMの機械によっては測長機能を活用して測定し、また無いTEMについては、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。ただし、繊維径は、繊維断面における長径と短径の平均値(n数=20)を用いた。
(3)繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、海成分溶解除去前の短繊維Aを基盤上に寝かせた状態とし、20〜500倍で測定した。SEMの測長機能を活用して測定した。
(4)厚み
JISL1096に準じて厚み(mm)を測定した。なお、n数5でその平均値を算出した。
(5)密度
JISL1097に準じて密度(g/cm)を測定した。なお、n数5でその平均値を算出した。
(6)吸音特性
JISA1405に基づき、管内法による建築材料の垂直入射吸音率を1/3オクターブ中心周波数1000Hz、2000Hzで測定した。なお、n数5でその平均値を算出した。なお、不織布層が音源側に位置するよう配して測定をおこなった。
【0067】
[実施例1]
(繊維構造体の作製)
単繊維繊度2.2dtex、繊維長51mmの、延伸されたポリエチレンテレフタレート短繊維(主体繊維)と、ポリエチレンテレフタレート(融点256℃)を芯部に配し、テレフタル酸とイソフタル酸とを60/40(モル%)で混合した酸成分と、エチレングリコールとジエチレングリコールとを85/15(モル%)で混合したジオール成分とからなる共重合ポリエチレンテレフタレート(軟化点110℃)を鞘部に配し、鞘/芯の重量比で50/50になるように常法により紡糸して得られた芯鞘型熱接着性複合短繊維(単糸繊度4.4dtex、繊維長51mm)とを70/30の重量比率で混綿した後、ローラーカードにより均一なウエブを得た。次いで、該ウエブを、熱風循環式乾燥機を用いて160℃、10分間熱処理することにより繊維構造体(目付け150g/m、厚み10mm、密度0.015g/cm)を得た。
【0068】
(不織布層の積層)
島成分に285℃での溶融粘度が120Pa・secのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が135Pa・secである平均分子量4000のポリエチレングリコールを4重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島=10:90の重量比率で島数400の口金を用いて紡糸し、紡糸速度1500m/minで引き取った。アルカリ減量速度差は1000倍であった。これを3.9倍に延伸し、短繊維Aの前駆体繊維である海島型複合繊維を得た。この繊維を束ねて、50万dtexにした後、4%NaOH水溶液で75℃にて、浸漬時間15分になるように速度を調整し、10%減量することにより、海島型複合繊維の海成分を溶解除去した。これを、回転式カッターを用いて、1000μmにカットして、繊維径と繊維長が均一である短繊維Aを得た(単繊維径750nm、繊維長1mm、L/D=1333)。この短繊維Aを水中に投入し(スラリー濃度0.1%)、少量の抄紙助剤(分散剤:高松油脂(株)、YM−81、消泡剤:GE東芝シリコーン、TSA−730)を少量添加し、撹拌する事で、均一なスラリーを得る事が出来た。このスラリーをスプレーノズル(株)いけうち製、型式:BIMV11015より前記繊維構造体の上に均一に噴霧(空気圧:3kg/cm、液圧:2.0kg/cm、積層量:5g/m)した後に熱風乾燥することで、吸音特性の優れた吸音構造体を得た。得られた吸音構造体の物性を表1に示す。
【0069】
[実施例2]
実施例1において、短繊維Aの付着量を変更(10g/m)した以外は同様の方法で高性能吸音構造体を得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
実施例1で用いたスラリーについて、同様の短繊維Aと、ポリエチレンテレフタレートからなる抄紙用短繊維(帝人ファイバー株式会社、商標:テピルス、銘柄:TM04PN SD0.1dt×3mm、繊維径3.5μm、繊維長3mm、L/D=857)を重量比で80/20で混合した以外は同様の方法で高性能吸音構造体を得た。評価結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
実施例1の繊維構造体のみ(短繊維Aのスプレー加工を実施しない)の吸音構造体を得た。評価結果を表1に示す。
【0072】
[実施例4]
実施例1において、短繊維Aの付着量を変更(20g/m)した以外は同様の方法で吸音構造体を得た。評価結果を表1に示す。
【0073】
[実施例5]
実施例3において、スラリーを構成する繊維の比率を80/20から60/40に変更した以外は同様の方法で吸音構造体を得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1で使用した短繊維Aの繊維長を3mmした短カットナノファイバー(単繊維径750nm、繊維長3mm、L/D=4000)にする以外は同様の方法で不織布を得た。繊維長が長くなる(アスペクト比が大きくなる)ことで、スプレーノズルからの排出性が悪く、途中でノズル詰まりを起こした為、実験を終了した。
【0075】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、軽量性と形態安定性を損なわず、低周波から高周波にかけて広くかつ良好な吸音特性を有する吸音構造体を簡単な工程で製造することができる吸音構造体の製造方法および該製造方法により得られた吸音構造体が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体と該繊維構造体に積層された不織布層とで構成される吸音構造体の製造方法であって、
繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり単繊維径(D)が10〜1000nm、かつ該単繊維径(D)に対する繊維長(L)の比(L/D)が100〜2000の範囲内である短繊維Aを液体に分散させて分散体とした後、該分散体をスプレー方式で繊維構造体に噴霧することにより前記不織布層を形成することを特徴とする吸音構造体の製造方法。
【請求項2】
前記短繊維Aが、繊維形成性熱可塑性ポリマーからなりかつその島径が10〜1000nmである島成分と、前記の繊維形成性熱可塑性ポリマーよりもアルカリ水溶液に対して溶解しやすいポリマーからなる海成分とを有する海島型複合繊維にアルカリ減量加工を施し、前記海成分を溶解除去することにより、前記海島型複合繊維を、単繊維径Dが10〜1000nmのマルチフィラメントとした後、該マルチフィラメントを、単繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが100〜2000の範囲内となるようカットした短繊維である、請求項1に記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項3】
前記短繊維Aがポリエステル繊維である、請求項1または請求項2に記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項4】
前記分散体において、前記短繊維Aが分散体の全重量に対して0.001〜5重量%含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項5】
前記繊維構造体が、ポリエステル系繊維からなる主体繊維と、熱融着成分と繊維形成性熱可塑性ポリマーからなり少なくとも前記熱融着成分が繊維表面に露出している熱接着性複合短繊維とから構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項6】
前記繊維構造体において、繊維構造体を構成する繊維が繊維構造体の厚さ方向に配列している、請求項1〜5のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項7】
前記繊維構造体の厚さが5〜50mmの範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項8】
前記繊維構造体を構成する繊維の単繊維繊度が0.9〜20dtexの範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項9】
前記繊維構造体の密度が0.005〜0.10g/cmの範囲内である、請求項1〜8のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項10】
前記の液体が水である、請求項1〜9のいずれかに記載の吸音構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載された製造方法により製造された吸音構造体。
【請求項12】
不織布層の目付けが1〜15g/mの範囲内である、請求項11に記載の吸音構造体。
【請求項13】
前記不織布層が音源側に配されてなる、請求項11または請求項12に記載の吸音構造体。

【公開番号】特開2010−102236(P2010−102236A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275531(P2008−275531)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】