説明

吹き付けによる壁の構築方法

【課題】壁鉄筋の配筋後、複数回のモルタルの吹き付けにより壁を構築する方法において、モルタルの吹き付けが終了した後のモルタルの沈降による空隙の発生を回避し、沈降が発生した場合の後詰めを可能にする。
【解決手段】壁1を構築すべき開口部2において壁1の厚さ方向の一部に開口部2を閉塞する堰板6を配置した状態で、堰板6の壁1構築側に縦筋7aと横筋7bを有する壁鉄筋7を配筋すると共に、壁鉄筋7を挟んだ堰板6の反対側に、少なくとも二方向の線材8a、8bが交差して配列し、線材8a、8a(8b、8b)間の間隔が壁鉄筋7の縦筋7a、7aと横筋7b、7bの間隔より小さく、構築すべき壁1の堰板になり得る網部材8を堰板6に平行に配置した後、高さ方向に複数段に区分された壁1の構築領域に、区分された区間単位でモルタル9の吹き付けと養生を繰り返して壁1を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁鉄筋の配筋後、複数回のモルタルの吹き付けにより耐震壁等の壁を構築する吹き付けによる壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存の構造物内の柱と梁からなるフレームに囲まれた開口部に間仕切り壁、耐震壁等の新たな壁を構築するか、既存壁に重ねて躯体を増し打ちし、新たな壁に仕上げる場合に、モルタルの吹き付け方法を利用する場合、吹き付けられたモルタルが壁鉄筋に付着した状態を維持し、垂れが生じないようにする上では、モルタルからなる壁をその厚さ方向に複数層に分割し、複数回に分割してモルタルを吹き付けることが行われる(特許文献1、2参照)。
【0003】
モルタルは圧縮空気を利用したスプレーガン先端のノズルからの噴射により吹き付け対象となる堰板、または壁鉄筋に対して吹き付けられることによりそのまま付着し、時間の経過と共に硬化するから、モルタルは壁の厚さ方向に積層化しながら成長することにより壁体を形成することになる。
【0004】
吹き付け方法に使用されるモルタルは噴射による吹き付け作業性の面より調整(調合)される水/粉体比の関係から、吹き付け厚さが10mm程度以下であれば、堰板、あるいは壁鉄筋への吹き付け後の付着状態を維持でき、付着状態から剥落することはない程度の粘性を持っている。このため、1回(1層)当たり、6〜10mm程度の厚さで吹き付けられ、この厚さの層を形成する吹き付け作業を数回、壁厚方向に繰り返すことにより厚さ30mm程度の壁までは構築される(特許文献1参照)。
【0005】
このように吹き付け方法で使用されるモルタルが硬化前に自らの粘性で付着状態を維持できる上記厚さ(層厚)の制限より、モルタルの吹き付け方法の適用対象は従来、壁厚が数10mm程度の間仕切り壁に限られ、100mmを超える厚さの耐震壁(耐力壁)の構築には適していない。
【0006】
硬化したモルタルからなる躯体(構造体)の内部に補強筋(壁鉄筋)が配筋される、例えば100mmを超える厚さの耐震壁(耐力壁)では、付着状態を維持できる1回当たりの吹き付け厚さ(層厚)の制限から、吹き付け回数が多くなり、工期が長期化するため、吹き付けによる構築方法は合理的な方法とは言えず、耐震壁に採用されることはない。1回当たりの吹き付け厚さを大きくしようとすれば、吹き付けられた量分のモルタルの質量(自重)の負担をモルタル自体の粘性が維持できなくなり、剥落を起こし易くなるため、壁を構築することができない。
【0007】
耐震壁の内部に配筋される壁鉄筋の縦筋と横筋の各間隔(ピッチ)は150〜200mm程度あり、縦筋と横筋とで囲まれる方形状の開口面積とモルタルの表面張力の関係から、吹き付けられたモルタルが厚さを持った状態で各方向の鉄筋に付着した状態を維持しにくいため、壁鉄筋の間隔がモルタルの崩落防止には役立たないことも関係する。
【0008】
以上の事情から、吹き付けられたモルタルが付着する対象である壁鉄筋が壁の面内方向に平行に配置されることもあって、モルタルの積層化による成長の方向が壁の厚さ方向と同一であるため、モルタルの吹き付けによる壁の構築は厚さ方向に複数層に区分されたモルタルの吹き付け領域毎に吹き付け作業を分割する方法によって行われている。
【0009】
モルタル中に短繊維を混入させることで、モルタルの流動性を低下させ、壁鉄筋への付着のし易さを確保し、吹き付け後の垂れを防止する方法もあるが(特許文献3参照)、吹き付けの区分は特許文献1、2と同じく壁厚方向に分割されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−49329号公報(請求項3、段落0008、0018〜0020、図1)
【特許文献2】特開平10−152927号公報(段落0003〜0004、0012〜0014、図2、図4、図5)
【特許文献3】特開2000−336945号公報(請求項1、段落0020〜0021、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のようにモルタルの吹き付け作業区間を壁厚方向に区分する方法では、1層単位で開口部の下端から上端にまで吹き付けが行われ、この層毎の吹き付け作業を壁厚分の複数層分実施することにより壁の施工が終了する。この関係で、一度の施工区分が壁の全面(全高)に亘るため、先に吹き付けが終了したモルタルが硬化前に次第に沈降(降下)し、吹き付け層の頂部と開口部の上端(構造体の下端)との間に空隙が生ずることがある。特に一度の施工区分の高さが壁の全高に亘ることで、鉛直方向の収縮が起こり易く、区分された層毎に各層の頂部が不均等に沈降することで、施工が終了した壁の頂部に不陸を生じ易い。
【0012】
また一度の施工区分で開口部の最下部から最上部まで吹き付けが行われることで、モルタルの吹き付け側の最終層の吹き付けが完了したときに、その最終層の上端と開口部の下端との間が閉塞されていれば、最終層より奧側(堰板側)の層に不均衡な沈降が生じていた場合に、沈降の発生区間を確認することも、沈降による空隙にモルタルを後詰めし、補修をすることもできない状況になる。
【0013】
このように壁の厚さ方向にモルタルの吹き付け作業区間を区分する方法では、壁頂部における沈降発生の結果、構築された壁と既存躯体との一体性が損なわれ、この間の応力伝達が十分に行われない欠陥部となり易い等、沈降発生時の処理が困難になる問題を抱えることもあり、モルタルの吹き付けによる壁の構築方法は100mm前後程度の壁厚の壁に限定され、例えば300mm程度の壁厚の壁には適用がされていない。
【0014】
更に、一度のモルタル吹き付け区間である壁厚方向の各層単位でモルタルの吹き付け終了位置に壁鉄筋等のモルタルの付着対象が存在していない限り、吹き付け直後に重力による垂れを生じようとするため、各層単位で壁鉄筋、もしくはモルタル付着のための網状の面材を配筋するか、吹き付けの度にコテによる押さえ等の垂れ(ダレ)防止対策が必要になるため、工期の長期化が避けられない。
【0015】
本発明は上記背景より、モルタルの吹き付けが終了した後のモルタルの沈降による空隙の発生を回避し、沈降が発生した場合の後詰めが可能で、壁厚の大きい壁への適用と短工期化も可能にする吹き付けによる壁の構築方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明の吹き付けによる壁の構築方法は、
壁を構築すべき開口部において前記壁の厚さ方向の一部に前記開口部を閉塞する堰板を配置した状態で、この堰板の前記壁構築側に縦筋と横筋を有する壁鉄筋を配筋すると共に、この壁鉄筋を挟んだ前記堰板の反対側に、少なくとも二方向の線材が交差して配列し、各方向の線材間の間隔が前記壁鉄筋の縦筋と横筋の間隔より小さく、前記構築すべき壁の堰板になり得る網部材を前記堰板に平行に配置した後、
前記堰板と前記網部材とで挟まれた前記壁の構築領域を高さ方向に複数段に区分し、この区分された区間単位で、前記開口部の下層側から上層側へ向け、前記堰板と前記網部材に挟まれた空間にモルタルを吹き付け、前記区間単位の一段分の吹き付けが終了する毎に一定の養生時間を確保した後に、その上段に前記区間単位でモルタルを吹き付け、一定の養生時間を確保する作業を前記複数段分、繰り返して前記壁を構築することを構成要件とする。
【0017】
壁鉄筋が「縦筋と横筋を有する」とは、壁鉄筋は縦筋と横筋の二方向の鉄筋から構成される場合と、この二方向の鉄筋に加え、壁内部に生ずる斜張力に対する抵抗要素になる斜め筋が配筋される場合、あるいは縦筋と横筋からなる格子状鉄筋が壁厚方向に2段に配置される場合に、その2段の格子状鉄筋を互いに連結する鉄筋等が配筋される場合があることを意味する。
【0018】
開口部2に構築すべき壁1の厚さ方向の一部に配置され、開口部2を閉塞する「堰板6」は図7−(a)、(c)に示すように壁1の厚さ方向片側に配置される場合と、図7−(b)に示すように厚さ方向の中間部に配置される場合がある。堰板6が壁1の厚さ方向片側に配置される場合、モルタル9は図7−(a)、(c)に示すように壁1の厚さ方向中間部側へ吹き付けられ、堰板6が壁1の厚さ方向中間部に配置される場合には、モルタル9は図7−(b)に示すように堰板6の両面側に吹き付けられる。堰板6が壁1の厚さ方向片側に配置される場合には、図7−(a)、(b)に示すように開口部2を構成する例えば梁4の幅の範囲内に配置される場合と、(c)に示すように梁4幅の範囲外に配置される場合がある。
【0019】
いずれの場合も、網部材8は後述のように壁鉄筋7と共に堰板6と対になって吹き付けられたモルタル9を堰き止める役目を果たすため、壁1になるモルタル9の吹き付け層を挟んで堰板6に対向する側に配置される。図7−(a)、(c)の場合、網部材8は堰板6の片側である他方側に配置され、(b)の場合は堰板6の両側位置に配置される。
【0020】
「堰板6」は開口部2に対し、後から新規に壁1を構築する場合に仮設で配置される場合の他、構造物が既存構造物である場合のように、図8−(a)、(b)に示すように開口部2の厚さ方向(面外方向)片側に間仕切り壁等の壁が存在している場合の既存壁である(既存壁が堰板を兼ねる)場合もある。開口部2は隣接する柱と上下の梁(基礎を含む)からなる場合、または柱と上下のスラブからなる場合の他、隣接する壁と上下の梁、もしくはスラブからなる場合等がある。
【0021】
既存壁が堰板を兼ね、そのまま残される場合、既存壁は図8−(a)、(b)に示すように新たに付加される、壁鉄筋7とモルタル9からなる躯体と一体化するか否かに拘らず、基本的に完成する壁1の一部として耐力と剛性を発揮する。図8−(a)は躯体との一体性を確保する場合、(b)は一体性を確保しない場合を示している。
【0022】
堰板が「開口部を閉塞する」とは、堰板に対して吹き付けられるモルタルを堰き止める堰板として開口部を閉塞することの意味であり、堰板自身に孔や開口等が全くない趣旨ではない。従って堰板は実質的に堰板としての機能を果たせばよいため、盲板である場合とメッシュ状の有孔板である場合があり、壁の構築後に脱型させられる場合と、壁の一部(捨て型枠)として取り込まれる場合がある。壁はその構築対象(開口部の部位)に応じ、間仕切り壁、耐震壁(耐力壁)の他、袖壁、垂れ壁、腰壁等を含む。
【0023】
網部材の「少なくとも二方向の線材が交差する」とは、「二方向の線材」で言えば、水平方向と鉛直方向の二方向に格子状に交差すること、あるいは水平方向と鉛直方向の少なくともいずれかの方向に傾斜した二方向に交差することを言う。「少なくとも」であるから、線材は三方向以上に交差することもある。二方向の線材の交差状態に応じ、二方向の線材が形成する網目(開口)の形状が決まり、二方向の線材が直交等、交差するだけの場合の網目は四角形状であり、三方向目の線材が付加されれば、網目は三角形状、あるいは台形状、六角形状等になる。
【0024】
「線材間の間隔が壁鉄筋の縦筋と横筋の間隔より小さい」とは、壁鉄筋を構成する縦筋間の間隔(ピッチ)と横筋間の間隔(ピッチ)より、隣接する線材間の間隔(ピッチ)が小さいことであり、例えば一般的な壁鉄筋の縦筋間と横筋間の間隔(ピッチ)が150〜200mmであるのに対し、網部材の線材間の間隔(ピッチ)が50〜75mm程度であることを言う。線材間の50〜75mm程度の間隔(ピッチ)は溶接金網(ワイヤーメッシュ)の間隔程度であるから、網部材としては溶接金網の使用が想定されるが、網部材の形態と材料、並びに線材間の間隔(ピッチ)が問われることはない。
【0025】
「線材間の間隔が壁鉄筋の縦筋と横筋の間隔より小さい」ことは「網部材の網目が壁鉄筋の網目より細かいこと」である。このことは詳しく言えば、壁鉄筋にはモルタル吹き付け時の付着効果と併せ、縦筋と横筋の間隔(網目)を抜けてモルタルが堰板と網部材との間の空間内に自由に広がることが期待されるのに対し、網部材の線材には吹き付け時にモルタルが付着し、線材が形成する網目を覆うことの効果が期待される程度に、網目の細かさを有することを述べている。更には、吹き付け時にモルタルが粘性により線材に付着し、表面張力により線材が形成する網目を覆うことができる機能を発揮し得る程度の網目の細かさを有することを述べている。
【0026】
網部材を構成する線材の太さ(径)は大きい(太い)程、1本当たりの表面積が大きいため、モルタルの付着上、並びに付着による垂れ防止上は、線材の太さは大きい方が有利であると言える。但し、線材の太さが大きくなれば、線材間の間隔(ピッチ)に対する、網目である開口の面積の割合が小さくなり、それだけ一定の間隔(ピッチ)の網部材に対し、後述のようにスプレーガン先端のノズルを網部材の内側(網部材に関して堰板側)へ差し込みにくくなるため、線材の太さはノズル差し込みによる吹き付け作業性とモルタルの付着効果との兼ね合いで決められる。線材の太さが大きい程、モルタルの付着効果が高いことは以下のように壁鉄筋にも当て嵌まる。
【0027】
壁の内部に配筋される壁鉄筋を構成する縦筋と横筋は上記した網部材を構成する線材より太く、特に異形鉄筋である場合には表面積が丸鋼より大きいこともあり、モルタルの付着効果(付着量)は網部材の線材より圧倒的に大きい。壁鉄筋を構成する縦筋と横筋の各間隔(ピッチ)は前記のように網部材の各方向の線材間の間隔(ピッチ)より大きく、隣接する縦筋と横筋とで区画される開口の面積も網部材の開口の面積より大きいが、鉄筋(縦筋と横筋)自体の表面積の大きさに起因するモルタルの付着効果の高さから、壁鉄筋は網部材と同様に、吹き付けられたモルタルの堰き止め効果も発揮する。
【0028】
この縦筋と横筋自体の付着効果から、壁の厚さ方向に関してモルタルの吹き付け側(網部材側)に配筋される壁鉄筋はそれより堰板側へ向けて吹き付けたモルタルの網部材側への漏れ出しを抑制する(堰き止める)働きをするため、壁厚方向にモルタルの吹き付け側で網部材と重なるように、あるいは網部材に接近した状態で組(対)になって配置されることで、吹き付けられたモルタルは吹き付け側において壁鉄筋と網部材によって二重に堰き止められることになる。
【0029】
よって網部材は単独で、網部材側へ流れ出そうとするモルタルを堰き止める訳ではなく、網部材と組になる壁鉄筋が堰き止めきれなかった分を堰き止めればよいため、モルタルを堰き止めようとするときに受けるモルタルからの圧力は壁鉄筋が組にならない場合より小さくて済み、それだけモルタルは吹き付け側(網部材側)で堰き止められ易くなっている。網部材がモルタルから受ける圧力とモルタルの量との関係は後述する。
【0030】
吹き付けられたモルタルが壁鉄筋と網部材によって二重に堰き止められることで、モルタルの吹き付け側である網部材側には、網部材に対向する側に配置されている堰板と同様の、モルタルの堰き止めのための格別な堰板を配置する必要がない。また従来、必要とされていたモルタル硬化前の、コテによる押さえ等の作業も不要になり、これらの垂れ防止対策が不要になる分、従来方法より工期の短縮化が図られる。
【0031】
なお、本発明では構築すべき壁の厚さが大きい場合には、図6に示すようにモルタルの吹き付け区間が壁厚方向に複数層に区分されることもあるが、壁厚の大きさに応じ、壁厚方向に複数段に配筋される壁鉄筋の配筋位置に対応して吹き付け区間が区分されることで、各区間(各層)における壁鉄筋がモルタル付着のためにも利用されるため、モルタルの垂れ防止の目的だけのための壁鉄筋や面材を付加する必要性は生じない。
【0032】
堰板6と網部材8との間に吹き付けられ、両者間に充填されながら壁鉄筋7と網部材8に堰き止められようとするモルタル9の内、壁鉄筋7、もしくは網部材8に付着しきれなかった分は壁鉄筋7、もしくは網部材8から垂れ出し、表面側へ流れ出よう(落下しよう)とする。このとき、図1に示すように壁鉄筋7の横筋7bが縦筋7aより網部材8側(壁1の表面側)に位置していれば(請求項3)、水平方向を向く横筋7bへのモルタルの付着効果により、縦筋7aが網部材8側に位置している場合よりモルタル9の落下を阻止することが期待される。
【0033】
モルタル9は網部材8の表面側から、あるいは後述の請求項2では特に網部材8の網目より網部材8の背面側(堰板6側)に入り込んだ位置から堰板6側へ向かって吹き付けられるが、堰板6側ではモルタル9の流動が堰き止められているため、モルタル9は図11−(a)、(b)に示すように壁1の面内方向と壁厚方向の網部材8側へ流れ出そうとする。
【0034】
このとき、モルタル9は堰き止められる堰板6側から壁鉄筋7と網部材8に付着していくが、壁鉄筋7の内側(堰板6側)の面、あるいは網部材8の内側(堰板6側)の面に付着したモルタル9が壁厚方向の外側(吹き付け側)に漏れ出し、壁鉄筋7、または網部材8の線材8a、8bを越えようとするときに、例えば水平方向を向いた線材8bから自重で鉛直下方へ垂れ出そうとすることが想定される。
【0035】
ここで、図1に示すように水平方向を向く横筋7bが鉛直方向を向く縦筋7aに対して相対的に前記堰板6と網部材8間の領域の外側(壁1の表面側)に位置していれば、二方向の縦筋7aと横筋7bが形成する開口(網目)から垂れ出そうとするモルタル9が水平方向を向く横筋7bに付着しようとするため、この水平方向の横筋7bが付着力により垂れ出そうとするモルタル9の落下を阻止することに寄与することになる。流動性を有しているモルタル9の、水平方向を向く横筋7bへの付着維持効果が重力の影響を受け易い鉛直方向を向く縦筋7aへの付着維持効果より高いことに基づく。
【0036】
従って水平方向を向く横筋7bが縦筋7aに対して壁1の外側(堰板6の反対側)に配置された状態で、堰板6側に位置する縦筋7aに溶接、結束等により一体化している壁鉄筋7を使用する場合には、横筋7bが開口(網目)から垂れ出そうとするモルタル9をその直前で阻止する働きをするため、壁厚方向の縦筋7aに対する横筋7bの位置が意味を持つことになる。
【0037】
モルタル9の横筋7bへの付着維持効果が縦筋7aへの付着維持効果より高いことは、網部材8を構成する少なくとも二方向に配置される線材8a、8bにも言える。すなわち、図1に示すように網部材8が例えば水平方向と鉛直方向を向いた二方向の線材8a、8bから構成されている場合に、水平方向を向く線材8bが鉛直方向を向く線材8aに対して相対的に前記領域の外側(壁1の表面側)に位置していれば、二方向の線材8a、8bが形成する開口(網目)から垂れ出そうとするモルタル9が水平方向を向く線材8bに付着しようとするため、この水平方向の線材8bが付着力により垂れ出そうとするモルタル9の落下を阻止することが期待される。
【0038】
よって壁鉄筋7の横筋7bが縦筋7aより網部材8側に位置する場合に、水平方向を向く線材8bが鉛直方向を向く線材8aより壁1の表面側に位置すれば、網部材8の水平方向を向いた線材8bが壁1の外側に位置することと併せ、二重に吹き付け側へのモルタル9の垂れ防止効果を得ることができ、モルタル9の垂れ抑制効果が一層、向上する。
【0039】
請求項1において網部材が「構築すべき壁の堰板になり得る」とは、堰板と網部材に挟まれた領域(空間)に向けて吹き付けられたモルタルが網部材の二方向以上の線材で囲まれる最小単位の四角形、あるいは三角形等の網目(開口)から実質的に漏れ出しを生じず、網部材に堰き止められた状態を維持する機能を網部材が発揮できることを言う。液状の状態にあるモルタルは網部材の網目内において粘性による表面張力を発揮し、網目を塞ぎ得る網目の大きさの範囲で、表面張力により線材に付着した状態を維持しようとするため、結果として網部材に堰板のように堰き止められ、保持される。
【0040】
モルタルが線材に付着した状態を維持できることは、基本的にはモルタル自体の水/粉体比で決まる粘性と、二方向の線材間の間隔(ピッチ)、すなわち二方向の線材が形成する網目(開口)の大きさとの関係で決まり、モルタルが網部材に堰き止められている状態を維持する上では、線材間の間隔(ピッチ)、あるいは網目(開口)が小さく、また線材の太さが大きい方がよい。
【0041】
但し、線材の間隔や網目が小さ過ぎれば、前記のようにモルタルを吹き付けるスプレーガン先端のノズルを堰板と網部材に挟まれた領域(空間)の外側から、網部材の内側(網部材に関して堰板側)へ差し込もうとする場合に、線材間、あるいは開口にノズルを差し込むことと、ノズルの傾斜角度を自由に変化させることが難しくなり、吹き付け作業性に支障が生ずることがあり得る。この関係から、網目(開口)の大きさ(線材間の間隔)はモルタルの粘性とノズルの位置を含めた吹き付け作業性との兼ね合いで決められる。
【0042】
モルタルは高さ方向に複数段に区分された壁の構築領域に対し、区分された区間単位で開口部の下層側から順次、上層側へ向け、圧縮空気により加圧された状態で吹き付けられることで、堰板と網部材との間に充填されていく。モルタルは複数段に区分された区間単位での吹き付けにより下層側から上層側へ盛り上がっていくが、吹き付け時にはスプレーガンの方向である吹き付けの方向より、堰板と網部材に挟まれた空間に壁の厚さ方向に成長(膨出)していくため、壁の厚さ方向にも広がっていく。
【0043】
流動性を有するモルタルは壁の厚さ方向に広がろうとしながらも、網部材側では粘性により前記のように壁鉄筋と網部材の線材に付着し、堰き止められようとする。吹き付けられたモルタルは最終的には、すなわちモルタルが硬化を始めようとするときには、モルタルは自らの粘性に応じ、一施工区間における壁の厚さ方向への幅に対する高さの比率はある一定範囲の大きさで留まるよう、平衡しようとする。
【0044】
モルタル9は図1、図2に示すように壁1の全厚に亘って吹き付けられる場合と、図6に示すように壁1の全厚の内、少なくとも一部の層厚分だけ吹き付けられる場合がある。図1、図2の場合の一施工区間は壁厚方向には堰板6と網部材8間距離の幅を持ち、高さ方向には前記区分された区間(1段分)の高さを持った領域になる。図6のように吹き付け区間を壁厚方向に複数層(2層以上)に区分した場合には、この区分された層単位で、壁1の高さ方向に複数段に区分されるため、一施工区間は壁1の厚さ方向には1層分の幅を持ち、高さ方向には1段分の高さを持った領域になる。
【0045】
一施工区間が壁厚方向にも区分される場合には、図6に示すように壁厚方向の各層単位で、モルタル9の吹き付け側に網部材8が配置されるため、壁厚方向に区分される層間の境界に網部材8が配置され、壁厚方向に隣接する層は網部材8で仕切られることになる。
【0046】
硬化を開始する前の流動性を帯びているモルタル9は水平方向、すなわち壁1の厚さ方向(壁厚方向)及び面内方向に広がろうとする。このとき、壁厚方向両側の内、堰板6側では図11−(a)に示すように堰板6に完全に堰き止められ、網部材8側においても付着効果と表面張力により壁鉄筋7と網部材8の網目を塞いだ状態を維持できる限りで壁鉄筋7と網部材8に堰き止められる。
【0047】
図11−(a)、(b)に示すように塊状態にある、流動性を有しているモルタル9はその塊を形成している分量に応じた質量(壁厚×吹き付け高さ(吹き付け量)×比重)と粘性に関係(比例)する圧力Pを壁厚方向に堰板6と網部材8に作用させる。壁1の面内方向にはモルタル9の流動に拘束がなく、圧力Pを及ぼす相手がないから、モルタル9は自由に流動しようとする。堰板6と網部材8は塊状態にあるモルタル9に対して反力P’、P”(<P’)を及ぼすが、網部材8からの反力P”が生じている状態は、網部材8が堰板としての機能を果たしていることでもある。
【0048】
モルタル9は壁厚方向に圧力P’、P” を受けることで、直交する方向の壁1の面内方向に流動し、ある程度の領域に広がったところで平衡する。この平衡状態で吹き付けられた分量に応じたモルタル9の吹き付け高さが決まると考えられる。従ってこの壁厚、吹き付け量(体積)、モルタル9の粘性等の条件に応じて定まる吹き付け高さを目安として、上記した複数段に区分された1区間である1回当たりの吹き付け区間(1段分)の高さに設定し、この設定高さを越えない程度にモルタル9の吹き付け(注入)量を制限すれば、網部材8からの垂れ(漏れ出し)を確実に防止することが可能になる。
【0049】
以上のような理由から、吹き付けによるモルタルの壁鉄筋への付着により1回当たりの作業領域を数〜10数mmの厚さを持つ鉛直方向の面状に区画し、吹き付け層を壁厚方向に積層化させる従来の壁の構築方法と異なり、構築すべき壁1の厚さの範囲で吹き付け後のモルタル9を壁厚方向に広がらせ、吹き付け(充填)区間を高さ方向に制限する方法は流動性を有するモルタル9を下層側から上層側へかけて密実に充填させる上では極めて有効な手法であると言える。
【0050】
モルタル9をその粘性と表面張力により壁鉄筋7と網部材8に付着させ、堰き止めた状態で、モルタル9が壁の1面内方向に拡散し、ある程度の広がりを持って平衡することで、吹き付け方法による壁1の構築方法でありながらも、網部材8からの垂れを抑制することが可能である。
【0051】
モルタル9は図5に示すように壁1の高さ方向に複数に区分された区間(A〜D)単位で吹き付けられ、一区間への吹き付け作業終了毎に、一定の養生期間が確保されることで、養生期間中に各層単位で沈降すべきモルタル9が沈降し、完結するため、各層内への沈降不足による空隙の発生が回避される。その上で、高さ方向に区分された複数の区間(A〜D)のモルタル9は下層側の区間から上層側へ向けて堆積していくため、高さ方向に隣接する区間間での空隙の発生も回避される。
【0052】
高さ方向に区分された各層間での空隙の発生が回避されることで、モルタル9の吹き付け領域に隣接して既存壁等、既存躯体が存在する場合にも既存躯体との一体性が確保されるため、モルタル9の吹き付け部分の躯体と既存躯体との間での応力伝達も確保される。従ってモルタルの吹き付け作業区間を壁の厚さ方向に区分する従来方法のように、吹き付け後のモルタルの沈降による、既存壁等の既存躯体との一体性が喪失する事態が発生することがなく、モルタル吹き付け部分と既存躯体との間での応力伝達が不十分になることもない。
【0053】
モルタル9は図1に示すように圧縮空気により加圧された状態でノズル10aから噴射されることで、堰板6に対向し、壁鉄筋7を挟んで堰板6の反対側に配置される網部材8の表面側(外側)から吹き付けられる場合でも、堰板6と網部材8との間の領域(空間)に注入され、充填されていこうとするため、モルタル9は必ずしも堰板6と網部材8とで挟まれた壁1の内側の領域から噴射される必要はない。但し、壁1の内側の領域から直接、モルタル9が噴射されれば(請求項2)、モルタル9が壁1の内部側から厚さ方向外側へ広がり、網部材8の堰板6側の面(内側面)に到達することで、網部材8への付着状態を維持し易くなるため、網部材8の外側の面から吹き付けられる場合との対比では、網部材8からの垂れを抑制する効果が向上することになる。
【0054】
「直接、噴射される」ことは、壁1に関して網部材8の外側の表面ではなく、壁1内部側である網部材8の背面側の空間に向けて直接、モルタル9が吹き付けられることを意味する。「モルタルが堰板と網部材に挟まれた領域(空間)の内側から直接、吹き付けられること(請求項2)」は、モルタル9の吹き付けを行うスプレーガン10のノズル10aが堰板6と網部材8に挟まれた領域まで差し込まれた状態、あるいはそれに近い(接近した)状態でモルタル9の吹き付けが行われることを意味する。
【0055】
ノズル10aから噴射されるモルタル9の吐出位置が網部材8に関して壁1側にあれば、「ノズルが堰板と網部材に挟まれた領域まで差し込まれた状態」に相当する。請求項2では壁1の内側の領域からモルタル9の吹き付け(注入)が行われることで、吹き付けられたモルタル9は堰板6と網部材8の互いに対向する面側へ広がりながら、上方へ向かって堰板6と網部材8との間に充填されていく。
【0056】
この場合、モルタル9は網部材8(壁)の外側ではなく、内側である堰板6側の面から付着していこうとするため、堰板6と網部材8の外側へ溢れ出していく状態にはなりにくくなる。網部材8に関して壁1側から吹き付けられたモルタル9が壁1側から網部材8に付着していくときのモルタル9と網部材8はそれぞれ、図11−(a)に示すように恰も空気膜構造の膜材(膜屋根)と膜材の屋外側への膨出を阻止するケーブルとの関係に近く、モルタル9の流出側に存在する網部材8がモルタル9に流出側から接触することで、結果としてモルタル9の網部材8外部への流出が阻止されることになる。この意味で、網部材8は開口(孔)を有する、盲板とは異なる板でありながらも、モルタル9の粘性の程度に応じては堰板6と同等の作用を果たし得ることになる。
【0057】
例えばスプレーガン10のノズル10aが堰板6と網部材8との間の領域の外側に配置された状態で、特に網部材8から距離を置いた位置から壁1内部へ向けてモルタル9の吹き付けが行われる場合、一部のモルタル9は直接、堰板6と網部材8との間の領域にまで到達すると考えられるが、多くのモルタル9は網部材8の外側の面から網部材8に付着し、厚さ方向には網部材8の外側へ向かって成長していこうとするため、網部材8の内側へ回り込もうとはしにくい。従って網部材8に関して堰板6の反対側(網部材8の外側)の位置に、厚さ方向に成長しようとするモルタル9を堰き止める何らかの板がなければ、モルタル9は網部材8への付着状態を維持できず、網部材8の表面側(外側)へ垂れ(漏れ)出そうとする可能性がある。
【0058】
これに対し、請求項2ではモルタル9が堰板6と網部材8との間の領域の内側に向けて直接、吹き付けられることで、壁1内の領域の内側から充填されていくため、網部材8に対してその内側から付着し、厚さ方向には堰板6側へ向かって成長しようとする。従って網部材8の外側から吹き付けられる場合との対比では、網部材8に関して堰板6の反対側(網部材8の外側)への垂れ出しが生じにくい状態を得ることが可能になる。
【0059】
加えて網部材の目(開口)が壁鉄筋の目(ピッチ)より細かいことで、モルタルは網部材の外側へ垂れ出そうとする傾向より網部材に付着して留まろうとする傾向が強まる。網部材として使用可能な例えば溶接金網の場合には、線材間の間隔(ピッチ)は50mm前後程度であるから、請求項2ではモルタルが網部材に対しては内側から付着することと併せ、網部材の内側に留まり易い状態に置かれ、網部材はモルタルに対しては堰板の機能を発揮し得ることになる。
【0060】
堰板6と網部材8との間の領域には壁1の補強筋である、縦筋7aと横筋7bからなる壁鉄筋7が配筋されるが、前記のように一般的には、縦筋7a、7a間の間隔(ピッチ)と横筋7b、7b間の間隔(ピッチ)は150mm前後程度であるため、壁鉄筋7に付着したモルタル9は壁鉄筋7においては、前記のように壁鉄筋7に付着した状態を維持できるものの、縦筋7aと横筋7bとで囲まれた開口を閉塞するだけの表面張力を発揮する余地がない。
【0061】
従って堰板6と網部材8とで挟まれた領域では、壁鉄筋7は吹き付けられたモルタル9を付着させた状態に保ちながらも、堰き止めるには至らないため、図11−(a)に示すように堰板6と網部材8との間の領域に充填されたモルタル9は堰板6と網部材8との間に隔てられた距離だけ水平方向に広がろうとし、吹き付けられたモルタル9の面が鉛直面をなした状態で壁1の厚さ方向に積層化するようには成長しない。堰板6と網部材8との間で水平方向に広がろうとするモルタ9ルは堰板6側では堰板6に堰き止められ、網部材8側ではピッチとモルタルの付着の向きから堰板6と同様の機能を発揮し得る網部材8に堰き止められることになる。
【0062】
堰板6と網部材8との間の空間(領域)に充填されたモルタル9は壁厚方向と壁1の面内方向には広がろうとするものの、前記のように壁厚方向両側に位置する堰板6と網部材8に堰き止められることで、堰き止められた時点以降は高さ方向に盛り上がろう(充填されていこう)とする。更に流動性を持っているモルタル9が網部材8の外側へ垂れ(漏れ)出そうとする傾向と高さ方向に充填される傾向とが平衡する量までは高さ方向に向けて充填されていこうとする。この結果、モルタル9は高さ方向に区分された、例えば柱3と梁4からなる開口部2(壁)の全高の内、区分単位で、開口部2の下層側から上層側へ向けて充填されていくことになる。
【0063】
モルタルが一施工区間単位で開口部の下層側から上層側へ向けて充填されていくことで、堰板と網部材との間の空間に高さ方向に盛り上がった状態で充填されたモルタルは時間の経過と共に、沈降していこうとする。しかしながら、請求項1、2では高さ方向に区分された区間毎にモルタルが充填される度に、一定の養生期間が確保されることで、モルタルが硬化するまでに沈降があるとしても、沈降によってモルタルは鉛直下方へ圧密されていくため、少なくとも隣接する区間間での沈降による空隙の発生は回避される。
【0064】
加えて請求項1、2ではモルタルの吹き付け(充填)は沈降が完了した後に、その上に隣接する区間に対して行われるため、沈降による空隙は常に吹き付けが終了した直後の層の上に集約されていくことになる。従って仮に沈降による空隙の発生が生ずるとしても、最終的な空隙は最終区間である最上層の天端とその上に存在する開口部の梁等との間に集約されている。
【0065】
そこで、この集約された空隙に対し、図2−(b)に示すように最終仕上げのためのモルタル91の吹き付け(注入)を行えば(請求項4)、発生があった場合の空隙を完全に埋めることができるため、空隙発生の問題を解消することが可能である。
【0066】
請求項4では図2−(a)、(b)に示すように複数段に区分された壁1の構築領域(A〜D)の内、最上層の構築領域Dとその上側の構造体(梁4、もしくはスラブ5等)の下面との間に仕上げ用空隙9aを残し、この仕上げ用空隙9aに後から仕上げモルタル91を吹き付けて壁1を完成させることが行われる。最終的に壁1の構築領域の最上層Dと上側の構造体4、5との間に形成された仕上げ用空隙9aに仕上げモルタル91の吹き付けが行われることで、最上層Dまでに充填されたモルタル9が硬化に伴って沈降することがあっても、沈降分を仕上げモルタル91によって補充することが可能であり、最終的に空隙の発生を回避することが可能になる。
【0067】
請求項4において特に最上層の構築領域Dとその上の構造体4、5の下面との間に形成される仕上げ用空隙9aが壁1の鉛直断面で見たとき、堰板6側の高さが小さく、モルタル9の吹き付け側である網部材8側の高さが大きい断面形状であれば(請求項5)、モルタル9の吹き付け側から充填状況を目視で確認しながら、モルタル9(仕上げモルタル91)を充填することが可能である。加えて、仕上げ用空隙9aがスプレーガン10のハンドルとノズル10aが納まる断面形状であるため、吹き付け側の奧側(堰板6側)まで密実に充填することが可能である。
【発明の効果】
【0068】
堰板と網部材とで挟まれた壁の構築領域を高さ方向に複数段に区分し、この区分された区間単位で、開口部の下層側から上層側へ向け、壁の構築領域にモルタルを吹き付け、吹き付け終了毎に養生時間を確保する作業を繰り返すため、モルタルをその粘性と表面張力により網部材の線材に付着させ、堰き止めた状態で、壁厚に対するモルタルの吹き付け量(体積)、モルタルの粘性等の条件に応じて定まる吹き付け高さを確保し、壁厚方向の幅に対する高さの比率を一定範囲の大きさに維持することができる。
【0069】
吹き付けたモルタルを網部材の線材に付着させ、堰き止めた状態で、壁厚方向の幅に対する高さの比率が一定範囲の大きさで平衡させることができることで、吹き付け方法による壁の構築方法でありながらも、網部材からの垂れを抑制することができる。
【0070】
またモルタルは壁の高さ方向に複数に区分された区間単位で吹き付けられ、一区間への吹き付け作業終了毎に、一定の養生期間が確保されることで、各層単位でモルタルが沈降しながら、下層側の区間から上層へ向けて堆積していくため、沈降による空隙の発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】開口部に新規に壁を構築する場合に、構築すべき壁の片側に堰板を配置し、その壁側に壁鉄筋と網部材を配置した状態で、高さ方向に区分された区間の最下段にモルタルを吹き付けている様子を示した縦断面図である。
【図2】(a)は図1の場合において最上段(第4段目)の区間にまでモルタルの吹き付けが終了し、その上の構造体との間に仕上げ用空隙を残したときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)で残された仕上げ用空隙に最終仕上げのモルタルを吹き付けたときの様子を示した縦断面図である。
【図3】(a)は図1の場合のモルタルの吹き付けをする前の配筋状態を示した縦断面図、(b)は(a)の壁厚方向の網部材側から見たときの立面図である。
【図4】(a)は構築すべき壁の片側に既存の壁が存在する場合に、その既存壁を堰板として利用し、既存壁の壁厚を増す場合の配筋状態を示した縦断面図、(b)は(a)の壁厚方向の網部材側から見たときの立面図である。
【図5】(a)〜(e)は図2に示す例の施工手順を示した縦断面図である。
【図6】(a)〜(e)は図2に示す例においてモルタルの吹き付けを壁厚方向に2層に区分した場合の施工手順を示した縦断面図である。
【図7】(a)〜(c)は開口部に対し、壁を新規に構築する場合の壁の構成例を示した縦断面図である。
【図8】(a)〜(b)は開口部に存在する既存壁の片面に壁を増し打ちする場合の壁の構成例を示した縦断面図である。
【図9】水/粉体比を相違させた配合のモルタルをモールドに詰めたときの、水/粉体比と強度との関係を示したグラフである。
【図10】水/粉体比を相違させた配合のモルタルをコア抜きしたときの、水/粉体比と強度との関係を示したグラフである。
【図11】(a)は堰板と網部材間に吹き付けられ、流動性を有しているモルタルが塊状態にあるときに堰板と網部材に作用させる圧力と反力の関係を示した水平断面図、(b)は(a)の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0073】
図1は二方向を構造体で囲まれた、壁1を構築すべき開口部2において壁1の厚さ方向の一部に開口部2を閉塞する堰板6を配置した状態で、堰板6の壁1構築側に縦筋7aと横筋7bを有する壁鉄筋7を配筋すると共に、壁鉄筋7を挟んだ堰板6の反対側に網部材8を堰板6に平行に配置した後、高さ方向に複数段に区分された壁1の構築領域に、区分された区間単位でモルタル9の吹き付けと養生を繰り返して壁1を構築する方法の要領を示した縦断面を示す。
【0074】
開口部2は例えば水平方向に隣接する柱3、3、または柱3と壁、及び上下階の梁4、4、もしくはスラブ5、5等の構造体に二方向から囲まれている、あるいは囲まれる領域を指し、壁1の構築対象が既存構造物の場合には図8に示すように開口部2に既存の壁が存在している場合と、図7に示すように存在していない場合がある。開口部2に既存壁が存在している場合、その既存壁は撤去されない限り、モルタル9を受け止めるための堰板6を兼ね、壁鉄筋7及びモルタル9と共に壁1を構成する。
【0075】
開口部2に既存壁が存在していないか、既存壁が撤去される場合と、新設で構造物が構築される場合には、開口部2の片側、もしくは中間部に堰板6が配置されるが、この堰板6が繰り返して転用される仮設用の板である場合には、堰板6はモルタル9の吹き付け後に回収されるため、壁鉄筋7とモルタル9から壁1が構成される。図4、図8に示すように開口部2に存在している既存壁が残される場合には、既存壁は堰板6として利用されるため、既存壁も壁1の構成要素になる。
【0076】
同じく堰板6が仮設用でなく、例えば図7−(b)、(c)に示すように壁1内に完全に埋設(埋め殺し)される場合や、プレキャストコンクリート版である場合のように捨て型枠として利用される場合にも、堰板6は壁1の構成要素になる。また網部材8として例えば溶接金網が使用される場合には、溶接金網はモルタル9中に埋め込まれることで、引張力に対する抵抗要素になり、壁鉄筋7と同様の機能を持ち得るため、網部材8も壁1の構成要素になる。
【0077】
図2に示すように高さ方向に複数段に区分された壁1の構築領域の区間(A〜D)単位では、モルタル9は開口部2の下層側から上層側へ向け、堰板6と網部材8に挟まれた空間に吹き付けられる。図2−(a)では壁1の構築領域を区間A〜Dに4分割しているが、分割数は任意である。壁1の構築領域である区間A〜D単位の一段分の吹き付けが終了する毎に、一定の養生時間が確保された後、その上段に区間単位でモルタル6の吹き付けと、一定の養生時間確保の作業が複数段分、繰り返されることにより壁1が構築される。モルタル6はスプレーガン10が網部材8側から堰板6側を向いた状態で吹き付けられるため、主に壁1の厚さ方向に吹き付けられるが、吹き付け中にはスプレーガン10の先端は上下、左右に揺動させられる。
【0078】
図面では図1〜図3に示すように既存の構造物内の既存壁が不在の開口部2に新規に壁1を構築するか、図4に示すように開口部2に存在している既存壁の構造体(躯体)を増し打ちすることにより新たな壁1を構築(改修)する場合の例を示している。本発明は新設の構造物内で壁1を新規に構築する場合にも図1〜図3と同様の要領で実施(施工)される。
【0079】
網部材8は少なくとも二方向の線材8a、8bが交差して配列し、互いに溶接、融着、接着等により連結されることにより構成され、前記した堰板6と対になって構築すべき壁1の堰板としての機能を果たし得るよう、各方向の線材8a、8a(8b、8b)間の間隔は壁鉄筋7の縦筋7aと横筋7bの間隔より小さく、二方向の線材8a、8bが形成する網目(開口面積)は壁鉄筋7の網目(開口面積)より細かい。図面では二方向の線材8a、8bをそれぞれ壁鉄筋7の縦筋7aと横筋7bと平行に配置しているが、線材8a、8bの方向は問われない。図面では水平方向と鉛直方向の線材をそれぞれ8a、8bで表示している。
【0080】
「網部材8の網目が壁鉄筋7の網目より細かいこと」の程度は、モルタル9が縦筋7aと横筋7bの間隔を抜けて堰板6と網部材8との間の空間内に自由に広がることが期待される壁鉄筋7に対し、モルタル9が粘性により線材8a、8bに付着し、表面張力により線材8a、8bが形成する網目を覆う機能が発揮される程度の細かさである。
【0081】
堰板6の形態、材料は一切、問われず、壁1の構築側から吹き付けられたモルタル9を水分も含めて完全に堰き止める盲板状の板の他、網状(メッシュ状)の板も使用される。これに対し、網部材8にはその表面側からモルタル9の吹き付けが行われることから、網部材8の背面側(堰板6側)にまでモルタル9が入り込めるよう、盲板でない網状の板が使用される。更には吹き付けを行うスプレーガン10のノズル10aが網部材8の背面側に入り込めるような目の粗さを持つ網状部材が使用される。
【0082】
図面では網部材8の網目からノズル10aを差し込んだ状態で、ノズル10aの水平及び鉛直に対する角度の調整を許容する大きさの開口を有する、30〜75mm程度のピッチを有する溶接金網を使用している。網部材8は例えば必要な位置で壁鉄筋7等に結束される等によりモルタル9が付着した状態で自立し、構築すべき壁1の外側へはらみ出しを生じないだけの剛性を持っていれば、材質は問われず、基本的には目の粗さ(ピッチの大きさ)も問われない。
【0083】
図1は構築すべき壁1の片面側に堰板6を配置し、壁1の内部である堰板6の網部材8側に壁鉄筋7、7を壁1の厚さ方向に2段に配置し、その壁1に関して外側に網部材8を配置した状態で、堰板6と網部材8との間の空間にモルタル9を吹き付ける場合の状況を示している。モルタル9は図1に矢印で示すようにノズル10aの先端側を水平に対して数度〜数10度程度、下向きに傾斜させた状態で、あるいは水平軸回りに揺動させながら、吹き付けられる。スプレーガン10は上記のように開口2部の下層側から上層側へ向けて移動させられるが、同一レベルでは壁1の面内水平方向に移動させられる。
【0084】
モルタル9は現場で調合され、混練された状態で貯留させられているミキサーから搬送ポンプを経緯し、ホースを通じてスプレーガン10まで搬送される。スプレーガン10にはエアコンプレッサーから圧縮空気が送られ、スプレーガン10まで到達したモルタル9は圧縮空気の圧力でノズル10aから噴射させられる。
【0085】
図1では開口部2を構成する構造体(躯体)である少なくとも上下のスラブ5、5と壁1との一体性を確保するために、スラブ5、5から壁1の構築側へアンカー11を突設している。アンカー11は開口部2を構成する水平方向両側の柱3、3から突設されることもある。アンカー11は既存の構造物に対しては例えばあと施工アンカーの要領で構造体(躯体)中に埋設され、新規の構造物に対しては構造体(躯体)の構築時に壁1との間に跨って設置されるが、アンカー11自体の形態は問われず、アンカー11にはアンカーボルト、スタッド、ジベル、コッター等が使用される。
【0086】
図1、図3、図4では壁1の上端部と下端部に、吹き付けられたモルタル9が壁鉄筋7に付着した状態を維持したまま、壁鉄筋7が引張力を負担するときのモルタル9の割裂破壊を防止するための、例えばスパイラル状の割裂防止筋12を配筋している様子を示している。堰板6と網部材8とは、図3−(a)、(b)に示すように両者間の間隔を保持する、フォームタイが一体化した(連結された)セパレータ13によって連結されることもある。
【0087】
図面ではまた、図1等に示すように壁鉄筋7の横筋7bを縦筋7aの網部材8側に配置し、網部材8の水平方向を向く線材8bを、鉛直方向を向く線材8aに関してモルタル9の吹き付け側に配置することにより、吹き付けられたモルタル9が縦筋7aと横筋7bからなる開口、並びに少なくとも二方向の線材8a、8bからなる開口から吹き付け側へ垂れ出そうとするときに、水平方向を向いた横筋7b、または線材8bに付着により堰き止める効果を期待している。
【0088】
図2−(a)、(b)は図1に示す堰板6と2段の壁鉄筋7、7、及び網部材8の配置状態でのモルタル9の複数段分の吹き付けと、その後に行われる最上層(最上段)とその直上の構造体(梁5、スラブ5等)との間への最終充填用、及び壁1の吹き付け側表面に対する仕上げのための仕上げモルタル91吹き付けの要領を示す。図2では壁1の高さ方向の施工区間(構築領域)をA〜Dに4分割し、その最上区間(最上段)Dの上に最終充填(後詰め)用区間としての仕上げ用空隙9aを形成しているが、施工区間の分割数は壁1の厚さと高さに応じて決められるため、任意である。
【0089】
図2−(a)に示すように複数段に区分された区間の最上層(最上段)Dへのモルタル9は、先行して吹き付けられている各段(区間)A〜Cにおけるモルタル9の沈降とそれによる圧密の終了を待って沈降分を後から充填できるよう、最上層の構築領域(最上区間)Dとその上側の構造体(梁5、スラブ5等)の下面との間に仕上げ用空隙9aを残すように吹き付けられる。
【0090】
壁1の垂直断面上(図2−(a))、仕上げ用空隙9aはモルタル9の吹き付け側からの追加の吹き付け(充填)が空隙の奥まで行えるだけの、すなわちノズル10aの差し込みが可能な開口を有していれば、断面形状は問われないが、図2−(a)に示すように壁1の鉛直断面で見たときに、堰板6側の高さが小さく、網部材8側の高さが大きい断面形状であれば、ノズル10aを含めたスプレーガン10の立面形状に倣う形状であるため、仕上げ用空隙9aの奥まで密実に充填することができる利点がある。
【0091】
図3−(a)、(b)は図2−(a)に示す要領で壁1を構築する場合の縦断面と立面の関係を示す。図3−(a)中、モルタル9の吹き付け側(図中、右側)の破線は構築される壁1の表面の位置を示し、(b)はそのモルタル9吹き付け側の立面を示している。ここでは、堰板6と網部材8とを連結するフォームタイ付きのセパレータ13を利用して壁厚方向に並列する壁鉄筋7、7と網部材8を堰板6に保持させている。
【0092】
図4−(a)、(b)は開口部2に既存の壁が存在している場合に、この既存壁を堰板6として利用し、既存壁の片側に躯体(モルタル9)を増し打ちすることにより新たな壁1を構築する場合の既存壁(堰板6)と壁鉄筋7及び網部材8との関係を示している。図4では堰板6が既存壁である点で図3の例と相違するが、2段の壁鉄筋7、7が壁厚方向に並列し、そのモルタル9吹き付け側に網部材8が配置されることは図3の例と変わりはない。
【0093】
只、既存壁はモルタル9の吹き付け時には開口部2回りの構造体に既に固定(定着)されていることから、完成する壁1の厚さが図3の例と同等程度である場合に、図4−(a)と図3−(a)の対比から、躯体の増し打ち分に相当するモルタル9の吹き付け厚さは図3の例より小さくなる。従って壁1の全厚を新規に構築する場合のように開口部2回りの構造体へ壁1を定着させるためのアンカー11を多数、配置する必要がないため、図3−(a)では壁厚方向には2段のアンカー11、11を配置しているのに対し、図4−(a)では壁厚方向には1段のアンカー11で済ませている。
【0094】
図4では図3の例よりモルタル9の吹き付け厚さが小さいことで、並列する壁鉄筋7、7間の距離が図3の例より小さくなるため、壁鉄筋7を構成する縦筋7aと横筋7bの径は図3の例より小さくて済む。図4ではまた、堰板6が既存壁であることから、アンカー11を既存壁に対し、壁厚方向に向けて打ち込むことで、アンカー11を図3の例におけるセパレータ13として利用している。
【0095】
図5−(a)〜(e)は高さ方向に区分される施工区間A〜Dの壁厚方向の幅を壁1の全厚分に設定し、各施工区間を壁1の全厚に亘る幅でモルタル9の吹き付けを行う場合の施工手順例を示す。この場合、前記した仕上げモルタル91の吹き付け(E)を除き、高さ方向に区分された施工区間数分の施工(吹き付け)回数で壁1を完成させることができる。
【0096】
これに対し、図6−(a)〜(e)は壁1の厚さ方向に2層以上に区分し、各施工区間を壁1の全厚の内の一部の厚さ分の幅でモルタル9の吹き付けを行う場合の施工手順例を示す。この場合、高さ方向に区分された施工区間A、B(C、D)数分の施工(吹き付け)を壁厚に区分された層数分、繰り返すことにより壁1を完成させることになる。図6では壁厚方向のモルタル9の層厚を図5の例の半分程度にしていることに伴い、高さ方向の一施工区間当たりの吹き付け高さを図5の例の2倍程度に設定し、壁1全体でのモルタル9の吹き付け数を図5の例と同じ4回に設定している。
【0097】
図5と図6のいずれの例においても、高さ方向に分割された区間の内、最上層の区間(図5のD、図6のB、D)の吹き付け時には、その最上層のモルタル9の沈降によって生ずる空隙を後から埋めることができるよう、その上側の構造体である梁4やスラブ5の下面との間に仕上げ用空隙9aを残すようにモルタル9の吹き付けが行われる(図5−(d)、図6−(b)、(d))。施工区間を壁厚方向にも複数層に区分する図6の場合には、各層単位で、最上層の区間(B、D)へのモルタル9の吹き付け時に仕上げ用空隙9aが確保される。
【0098】
仕上げ用空隙9aには図5−(e)、図6−(d)、(e)に示すように後からEで示す仕上げモルタル91が吹き付けられることにより壁1が完成する。仕上げ用空隙9aは前記のように堰板6と網部材8に挟まれた空間(領域)の内側へスプレーガン10のノズル10aの先端を差し込むか、接近させることができるよう、ハンドルを含めたプレーガン10の形状に対応し、壁1の鉛直断面で見たとき、堰板6側の高さが小さく、網部材8側の高さが大きい断面形状の、三角形状、あるいは台形状に確保される。
【0099】
一施工区間を図5のように壁1の全厚分に設定するか、図6のように壁1の全厚の内の一部の厚さ分に設定するかは、基本的には構築すべき壁1の厚さで決まり、その他、調合されたモルタル9の粘性(水/粉体比)と網部材8の目(開口面積)の大きさによっても変動する。
【0100】
壁1の厚さは間仕切り壁か耐震壁か等の壁の種類の他、耐震壁が既存壁の補強で形成されるか、新設で構築されるか、あるいは耐震壁である場合の水平力の負担の程度等、機能の違い等によっても相違し、数10〜数100mm程度の範囲で設定される。目安としては、数10〜300mm程度の範囲では一施工区間を壁1の全厚分に設定することが可能であり、300mm程度を超える厚さの場合に、一施工区間が壁厚方向に複数層に分割されることが望ましい。
【0101】
図9、図10はモルタル9の吹き付けにより完成する壁1が耐震壁として利用される場合に、耐震壁に適した範囲で調合したモルタル9の水/粉体比と圧縮強度の関係を示す。壁鉄筋7とモルタル9からなる壁1が耐震壁になる場合、あるいはモルタル9が既存壁の耐震補強用に増し打ちされる場合のモルタル9の吹き付け施工に適した流動性(粘性)は、水/粉体比が12.0から14.0%が最適で、このときのモルタルの4週圧縮強度は、日本建築学会の鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説に示されるコンクリート強度の下限値である18N/mm以上を確保している。
【0102】
図9は水/粉体比を相違させた配合のモルタル9をモールドに詰めたときの、水/粉体比と強度との関係を、図10は水/粉体比を相違させた配合のモルタル9を堰板6に対して吹き付けた後にコア抜きしたときの、水/粉体比と強度との関係を示している。モールド供試体とコア抜きのいずれの場合も水/粉体比が14.0%程度以下の範囲にあれば、日本建築学会の鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説に示されるコンクリート強度の下限値である18N/mm以上を満たすことが分かる。またスプレーガン10を用いた吹き付け作業性と流動性を有しているときの網部材8への付着性、並びに付着状態で二方向以上の線材8a、8bからなる開口を閉塞できる表面張力の発揮の面を考慮すれば、水/粉体比が12.0〜14.0%程度の範囲で調合されたモルタル9の使用が適切であると考えられる。なお、モルタル9中には硬化前のモルタル9の流動性を低下させ、硬化後の引張強度を増す目的で、短繊維を混入させることもある。
【0103】
図5は図1〜図3に示す例の施工手順を示している。モルタル9の吹き付けに先立ち、壁厚方向の片側、もしくは中間部等、開口部2の一部に堰板6を配置して周辺の構造体に固定し、堰板6の片側に壁鉄筋7と網部材8を配置し、それぞれを安定させることが行われる。壁鉄筋7と網部材8の安定性(自立性)は例えば前記のように堰板6との間にフォームタイ付きセパレータ13を架設し、セパレータ13に接続することにより確保される。このとき、壁1と周囲の構造体との一体性を確保するためのアンカー11を構造体中に埋設することも行われる。網部材8の安定性はまた、セパレータ13に加え、あるいはセパレータ13に代え、壁鉄筋7への結束等によっても確保される。
【0104】
壁鉄筋7と網部材8の配置後、分割された区間(A〜D)単位で、開口部2の下層側(下方側)から上層側(上方側)へ向けてモルタル9の吹き付けが行われる。モルタル9は壁1の面内水平方向にスプレーガン10を移動させ、壁1の幅方向(面内水平方向)両端間を往復させながら、上方へ移動させることにより上方へ向けて堰板6と網部材8とで挟まれた一施工区間内に注入されていく。
【0105】
モルタル9の吹き付けは網部材8への付着状態を維持し易くし、網部材8からの垂れを抑制する上では、堰板6と網部材8に挟まれた空間(領域)の内側へスプレーガン10のノズル10aの先端を差し込むか、接近させ、堰板6と網部材8間の空間へ向けて直接、行われることが適切である。モルタル9が堰板6と網部材8との間の空間(領域)の内側に向けて直接、吹き付けられることで、壁1の厚さ方向には内側から外側へ向かって充填され、網部材8に対してその内側から付着し、成長しようとするため、網部材8に関して堰板6の反対側(網部材8の外側)への垂れ出しが生じにくい状態を得ることができる。
【0106】
各施工区間におけるモルタル9の吹き付けは壁厚方向には網部材8の表面からの垂れ出しを防止する意味で、図5−(a)〜(d)に示すように網部材8の少なくとも二方向の線材8a、8bからなる開口をモルタル9が閉塞し、開口の表面にモルタル9が粘性と表面張力により付着した状態を維持できる程度の位置で止められる。結果的に、各施工区間でのモルタル9の吹き付け終了時には網部材8の表面の凹凸が吹き付けられたモルタル9表面から浮き出した状態にある。
【0107】
モルタル9の吹き付けが完全に網部材8を覆わない程度で止められることには、図5−(e)に示すように最上層区間Dとその上の構造体との間への仕上げモルタル91充填のための仕上げ吹き付けEをするための意味もある。網部材8の表面に、線材8a、8bからなる網部材8の表面の凹凸形状に対応したモルタル9の凹凸が浮き出した状態にあることには、網部材8表面への仕上げモルタル91の付着効果を高める意味がある。
【0108】
一施工区間を壁1の全厚分に設定する図5の場合、(a)〜(c)に各施工区間(A〜D)へのモルタル9の吹き付けが終了する度に、一定の養生時間を確保しながら、最上層の施工区間Dまでモルタル9の吹き付けが行われ、(d)に示すように最上層区間Dでは、上記のように仕上げ用空隙9aを残してモルタル9の吹き付けが終了させられる。その後、一定の養生時間が確保された後に、壁1の全高に亘って下層側から上層側へ向け、網部材8の表面、及び仕上げ用空隙9aに対して仕上げモルタル91の吹き付けが行われる。仕上げモルタル91の吹き付けが終了することにより壁1の構築が終了する。
【0109】
一施工区間を壁1の全厚の内の一部の厚さ分に設定する図6の場合は、一施工区間は開口部2の高さ方向と壁1の厚さ方向に分割されるため、図5の例における一施工区間が壁1の厚さ方向にも複数層に分割された領域になる。この場合、(b)、(d)に示すように厚さ方向に分割された各層単位で、モルタル9の吹き付け側である表面側に網部材8が配置され、各層単位での最上層の区間B、Dでは、上記のように仕上げ用空隙9aを残してモルタル9の吹き付けが終了させられる。
【0110】
図7−(a)〜(c)は開口部2に新たに壁1を構築する場合の壁1の形成方法例を示す。(a)は図1等の例と同じく、開口部2の壁厚方向片側に堰板6を配置し、その他方側の表面側からモルタル9を吹き付けて壁1を完成させた場合、(b)は開口部2の壁厚方向中間部に堰板6を配置し、その両面側からモルタル9を吹き付けて壁1を完成させた場合である。(b)の場合、モルタル9は堰板6の片面にのみモルタル9を吹き付けて壁1を完成させることもある。(b)では堰板6は壁1の内部に埋め込まれるため、壁1の一部になる。
【0111】
図7−(a)の例では、堰板6は壁1の一部(捨て型枠)として壁1の一部に取り込まれることも、繰り返して使用(転用)されるために撤去されることもあるが、堰板6を壁1の一部として積極的に使用するために、堰板6にプレキャストコンクリート版が使用される場合もある。その場合のプレキャストコンクリート版の片面にはモルタル9との付着による一体性確保のために、例えば鉄筋等の一部が突出させられる。
【0112】
図7−(c)は堰板6を開口部2の外側、すなわち梁4の幅の範囲外である梁4の側面に突き当てる状態で配置し、その開口部2側の面にモルタル9を吹き付けて壁1を構築する場合の例を示している。堰板6の壁1構築側の面は図示するように梁4幅の範囲内に納まる場合と範囲外に位置する場合もある。
【0113】
図8−(a)、(b)は既存の壁を堰板6として利用する場合の壁1の形成方法例を示す。(a)、(b)共、堰板6としての既存壁の片側に壁鉄筋7と網部材8を配置した上で、モルタル9を吹き付けることで、形式的に既存壁の壁厚を増し、既存壁を補強することになる。この場合、(a)に示すように既存壁とモルタル9との間の接触面を付着させれば堰板6としての既存壁とモルタル9は一体となった壁(合成壁)1として挙動することになり、(b)に示すように両接触面を付着させずにおけば、既存壁とモルタル9は独立して挙動し、独立して水平力に抵抗することになる。
【0114】
図8−(a)のように既存壁を含め、堰板6とモルタル9との間の接触面を付着させることは、例えば堰板6のモルタル9側の表面に何らかの凹凸面を形成するか、表面からモルタル9側へ突出する鉄筋等、突起を形成することにより確保される。図8−(b)のように既存壁を含め、堰板6とモルタル9との間の付着を切る(付着させない)ことは、堰板6のモルタル9側の面にグリース等の絶縁材を塗布しておくことにより得られる。
【符号の説明】
【0115】
1……壁、2……開口部、3……柱、4……梁、5……スラブ、
6……堰板、
7……壁鉄筋、7a……縦筋、7b……横筋、
8……網部材、8a……線材、8b……線材、
9……モルタル、91……仕上げモルタル、9a……仕上げ用空隙、
10……スプレーガン、10a……ノズル、
11……アンカー、12……割裂防止筋、
13……セパレータ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁を構築すべき開口部において前記壁の厚さ方向の一部に前記開口部を閉塞する堰板を配置した状態で、この堰板の前記壁構築側に縦筋と横筋を有する壁鉄筋を配筋すると共に、この壁鉄筋を挟んだ前記堰板の反対側に、少なくとも二方向の線材が交差して配列し、各方向の線材間の間隔が前記壁鉄筋の縦筋と横筋の間隔より小さく、前記構築すべき壁の堰板になり得る網部材を前記堰板に平行に配置した後、
前記堰板と前記網部材とで挟まれた前記壁の構築領域を高さ方向に複数段に区分し、この区分された区間単位で、前記開口部の下層側から上層側へ向け、前記堰板と前記網部材に挟まれた空間にモルタルを吹き付け、前記区間単位の一段分の吹き付けが終了する毎に一定の養生時間を確保した後に、その上段に前記区間単位でモルタルを吹き付け、一定の養生時間を確保する作業を前記複数段分、繰り返して前記壁を構築することを特徴とする吹き付けによる壁の構築方法。
【請求項2】
前記堰板と前記網部材に挟まれた空間の内側から直接、前記モルタルを吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の吹き付けによる壁の構築方法。
【請求項3】
前記壁鉄筋の前記横筋は前記縦筋より前記網部材側に位置していることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の吹き付けによる壁の構築方法。
【請求項4】
前記複数段に区分された前記壁の構築領域の内、最上層の構築領域とその上側の構造体の下面との間に仕上げ用空隙を残し、この仕上げ用空隙に後からモルタルを吹き付けて前記壁を完成させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の吹き付けによる壁の構築方法。
【請求項5】
前記仕上げ用空隙は壁の鉛直断面で見たとき、前記堰板側の高さが小さく、前記網部材側の高さが大きい断面形状であることを特徴とする請求項4に記載の吹き付けによる壁の構築方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−177229(P2012−177229A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39503(P2011−39503)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フォームタイ
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】