説明

吹き付け深堀壁及びその製造方法

【課題】接着強度が高く、軽くて厚塗りが可能であり、地震にも強く、高層建築物にも適用でき、かつ深堀の凹凸模様が可能な吹き付け深堀壁及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、建造物の壁面に、厚塗りと凹凸模様を形成した吹き付け深堀壁であって、樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルを混合した下塗り層1と、骨材を含むか又は含まない樹脂又は合成ゴムディスバージョンを含む中塗り層2と、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り層3が、この順番に吹き付け塗装により形成されており、前記下塗り層1は厚塗りと深堀の凹凸模様を有し、前記中塗り層2は下塗り層の表面を円滑化し、前記上塗り層3は親水性防汚膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹き付け塗装により形成された深堀(深絞り)壁及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の壁面等の表面は、美観や本体保護上等の観点から、天然石、金属の薄い板、タイル等の貼り付け、疑似天然石模様の形成、セメントモルタル塗り、ダイキャスト(Die Cast)壁の貼り付けを行う等によって施工されている。これらの壁のうち、高級感のある壁としては、天然石の壁、金属ダイキャスト壁がある。天然石は、鏡面仕上げ、細かい凹凸のバーナー仕上げ、大きな凹凸の斫(はつ)り出し壁に類別されて使用されている。これらの天然石はいずれもある程度の厚さが必要であり、重量も重く、建築物の低層階で使用されるが高層階では使用できない。ダイキャスト壁は主としてアルミニウム等の軽金属を溶融して所定の型に流し込み鋳造したり、高圧鋳造して得られる。このダイキャスト壁も重量が重く、建築物の高層階での使用は困難である。
【0003】
本発明者は、長年にわたり吹き付け塗装を検討してきた。例えば、圧縮空気を利用し、スプレーガン等から吹き付け材を噴射させることによって塗装する方法(特許文献1)は、吹き付け塗装による人造模擬石の基本発明であり、適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材の異なる色のもの複数種を1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、この複数種の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口から同時に吹き付けることによって、非混合多色状に塗布する提案である。特許文献2は、溶融金属のキャスト成型に似た模様を吹き付け塗装により実現しようとするもので、塗装材料として粒状発泡体を混合することを提案している。特許文献3は、トップコートの提案であり、長期間耐久性のある非汚染仕上げを提案している。
【0004】
本発明に関連する特許文献として、特許文献4〜5は、低比重塗材の提案がある。
【0005】
しかし、ダイキャスト壁又は御影石の斫り出し壁に代表される深堀壁は、単なる表面凹凸模様だけで実現することはできず、厚塗りと深堀の凹凸模様を形成することが必要であり、吹き付け塗装の従来技術では実現することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−9587号公報
【特許文献2】特開平9−3359号公報
【特許文献3】特開2009−264011号公報
【特許文献4】特開平3−21671号公報
【特許文献5】特開2006−118248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、接着強度が高く、軽くて厚塗りが可能であり、地震にも強く、高層建築物にも適用でき、かつ深堀の凹凸模様が可能な吹き付け深堀壁及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建造物の壁面に、厚塗りと凹凸模様を形成した吹き付け深堀壁であって、
(1)樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムを含むポリマーセメントモルタルを混合した下塗り層と、
(2)骨材を含むか又は含まない樹脂又は合成ゴムを含む中塗り層と、
(3)シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り層
が、この順番に形成されており、
前記下塗り層は厚塗りと深堀の凹凸模様を有し、
前記中塗り層は下塗り層の表面を円滑化し、
前記上塗り層は親水性防汚膜であることを特徴とする。
【0009】
本発明の吹き付け深堀壁の製造方法は、
(1)樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルを混合した下塗り塗装材を、吹き付け塗装により、厚塗りかつ深堀の凹凸模様に形成し、乾燥後、
(2)骨材を含むか又は含まない樹脂又は合成ゴムディスバージョンを含む中塗り塗装材を塗装し、乾燥後、
(3)シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り材を塗装し、乾燥することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルを混合した下塗り材を下塗り層とすることにより、接着強度が高く、軽くて厚塗りが可能であり、地震にも強く、高層建築物にも適用でき、かつ深堀の凹凸模様が可能となる。すなわち、樹脂発泡粒子を使用することにより、下塗り材の比重を軽くし、厚塗りしても塗装材が液ダレすることがない状態に保ち、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルを使用することにより、接着強度が高く、軽くて厚塗りが可能であり、地震にも強く、高層建築物にも適用でき、かつ深堀の凹凸模様が可能となるという相乗効果を発揮する。また、樹脂発泡粒子と合成ゴムディスバージョンとは相性が良く、接着性も良好で、地震にも強く、樹脂発泡粒子が脱落することもない。さらに、樹脂発泡粒子を加えることにより塗膜全体の重量を軽くでき、高層建築物にも好適な深堀壁を形成できる。
【0011】
さらに中塗り材による中塗り層は、下塗り層表面の大きな凹凸を埋めて滑らかな表面にする作用効果がある。また、上塗り材による上塗り層は、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含むことにより、中塗り層とシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となり、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。そのうえ、シロキサン結合により塗膜面は親水性となり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、メンテナンスが不要で耐久性の高い深堀壁が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1A-Cは本発明の一実施例の吹き付け塗装により塗装した塗装壁の断面図であり、図1Aは下塗り層を塗装した状態、図1Bは中塗り層を塗装した状態、図1Cは上塗り層を塗装した状態を示す。
【図2】図2は本発明の一実施例の上塗り塗装材を吹き付け塗装している工程の断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施例で使用する下塗り層の吹き付け塗装に使用する塗装ガンの斜視図である。
【図4】図4は本発明の一実施例で使用する御影石の斫り出し壁を形成するための塗装ガンの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、厚塗りとは乾燥後の最大厚さで6mm以上であり、凹凸模様及び深堀壁とは凹凸の差が3mm以上のことをいう。前記深堀壁は深絞り壁ともいい、様々なものがあるが、ダイキャスト壁又は御影石の斫(はつ)り出し壁などの深い模様を呈する吹き付け塗装壁が好ましい。また本発明において、下塗り層は吹付塗装により形成するが、中塗り層及び上塗り層は吹付塗装でも良いし、ローラー塗装又はこて塗り塗装でも良い。
【0014】
(1)下塗り層の吹き付け塗装
下塗り材は、樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルと、必要な場合調整水を加えて混合し作成する。例えば合成ゴムディスバージョン液18kgに対して、モルタルパウダー75kgを加え(ポリマーセメントモルタル合計93kg)、さらに保水剤(例えばメチルセルロース)164gと、樹脂発泡粒子を45リットル加えて混合する。下塗り材は、乾燥後の比重が0.9〜1.2g/cm3程度が好ましい。これにより、吹付塗装により厚塗りしても塗装材が液ダレすることがない状態になる。また、比重が軽いことから、塗膜全体の重量を軽くでき、高層建築物にも好適な深堀壁を形成できる。
【0015】
下塗り層の吹き付け塗装に使用する塗装ガンは、従来から知られている図3に示すリシンガンなどを使用できる。このリシンガン20は、塗料を入れるホッパー部21と、吹付ガン部22と、吹付口23と、エアー管24と、エアーストッパー25で構成され、ホッパー部21に入れた塗料を吹付口23から壁に向かって吹き付け塗装する。ホッパー部21の頂部直径230mm、全体の高さ350mm、吹付口23口径は16〜25mmである。
【0016】
吹き付け塗装面の表面は大きな凹凸部を含むので、塗装した後乾燥し、そのままの状態で中塗り層を吹き付け塗装してもよいし、表面研磨または研削した後に中塗り層を吹き付け塗装してもよい。表面研磨する場合は、5〜20%程度研磨する。
【0017】
前記合成ゴムは、付加重合系のゴムが好ましい。この中でもジエン系のゴムが好ましい。ジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブタジエン−アクリロニトリルゴム(NBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリクロロプレンゴム(CR)がある。さらに好ましくは、カチオン性スチレン-ブタジエンゴム(SBR)ディスバージョンである。合成ゴムディスバージョンを使用すると、接着強度が高く、厚塗りが可能であり、かつ深堀の凹凸模様が可能となるという相乗効果を発揮する。また、樹脂発泡粒子と合成ゴムディスバージョンとは相性が良く、接着性も良好で、地震にも強く、樹脂発泡粒子が脱落することもない。
【0018】
前記下塗り層は、最大厚さが5〜20mm、かつ凹凸の差も5〜20mmの厚さに吹き付けられていることが好ましい。前記の範囲であれば、深堀(深絞り)として見栄えのある美装壁が形成できる。
【0019】
樹脂発泡粒子は、ポリスチレン樹脂発泡粒子、ポリウレタン樹脂発泡粒子、ポリエチレン樹脂発泡粒子、塩化ビニリデンバルーン、フェノールバルーンなどを使用できる。とくに嵩比重0.03〜0.15g/cm3程度のポリスチレン樹脂発泡粒子が好ましい。平均粒子径は0.1〜2mm程度が好ましい。平均粒子は篩い分け法により測定する。
【0020】
(2)中塗り層の吹付塗装
中塗り層は下塗り層の大きな凹凸を埋めて表面を円滑な面に修正するため、及び必要な場合は骨材発色させるために形成する。中塗り層は骨材を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。斫り出し壁の場合には骨材を使用し、ダイキャスト壁の場合には使用しなくても良い。前記において骨材とは、自然石、自然石に顔料を加えて焼き付けた焼付け骨材、セラミック、レンガ、陶磁器、鋼滓等を粉砕し、平均粒子径0.1〜5mm程度に篩分けして整えた粒子をいう。骨材は、例えばダイキャスト壁の場合は、骨材として細かい砂を使用するのが好ましい。御影石の斫り出し壁の場合は、骨材が複数色(例えば3色)の塗材であり、前記複数色の塗材が非混合多色状に同時吹きされているのが好ましい。御影石の斫り出し壁に使用する骨材は、自然石粒子、セラミックス粒子、自然石粒子やセラミックス粒子の表面に着色顔料を付着させて焼き付けた着色骨材などが好ましく、骨材は比較的大粒であっても良い。無機粉体を含んでも良く、例えばシリカ、タルク、クレイなどの自然界に存在する鉱物粉体であり、前記骨材よりは細かい平均粒子に篩分けして調製する。塗布材には、その他増粘剤、pH調整剤、消泡剤、造膜助剤、水及び/又は溶剤を加えてもよい。中塗り層は、樹脂又は合成ゴムディスバージョンを含む塗材を吹付塗装又はローラー塗り又はコテ塗りして形成する。
【0021】
中塗り層の塗材に使用するマトリックス成分は、樹脂及び合成ゴムディスバージョンから選ばれる少なくとも一つを配合したプレミックスモルタルが好ましい。合成ゴムディスバージョンは前記下塗り層の塗材で説明したものと同じものを使用できる。樹脂は、カチオン性アクリル粉末ポリマー、アクリルゴム、アクリル樹脂エマルションなどを使用できる。
【0022】
中塗り層の塗材に使用するマトリックス成分と骨材との配合比は、マトリックス成分100質量部に対して、骨材が1100〜1200質量部の範囲が好ましく、必要に応じて水を13〜50質量部加えて混合する。
【0023】
中塗り層の塗材を吹付塗装するための塗装ガンは、ダイキャスト壁の場合は図3に示す塗装ガンを使用できる。御影石の斫り出し壁の場合は、図4に示す3頭ガンを使用できる。図4は本発明の一実施例における吹き付け塗装方法で使用した3頭式スプレーガンを示す斜視図である。この3頭式スプレーガン30には、3つのタンク31、32、33が設けられており、タンク上部の全体は矩形(直方体形状)である。各タンク31、32、33に色の異なる吹き付け材37、38、39をそれぞれ別々に収容する。また、タンク31、32、33の下部はテーパー状に細くなっており、一番下の部分にそれぞれ別個に噴射ノズル34、35、36が設けられている。タンク31、32、33内の吹き付け材37、38、39は、圧縮空気によって噴射ノズル34、35、36からそれぞれ弾(たま)状に噴出させる。噴射ノズル34、35、36の口径はそれぞれ12mm、10mm、6mmであり、第1の吹き付け材(例えば白色)37、第2の吹き付け材(例えば灰色)38、第3の吹き付け材(例えば黒色)39の吐出量比は5:4:1である。この3頭式スプレーガン30には、取っ手40,41がノズルの横に付いており、この取っ手40,41には、圧縮空気を高圧状態(2.0気圧)から低圧状態(1.0気圧)に(及び低圧状態から高圧状態に)切り替えるための切り替えスイッチ(図示せず)が設けられている。この3頭式スプレーガンは、多色塗材を別々のタンクから別々に圧縮空気と共に弾となって塗布することができ、塗装面は非混合多色状に塗布され、天然石調に形成される。この塗装面の表面は凹凸部を含むので、塗装した後乾燥し、そのままの状態で上塗り層を塗装してもよいし、表面研磨または研削した後に上塗り層を塗装してもよい。表面研磨する場合は、5〜20%程度研磨する。
【0024】
御影石の斫り出し壁の場合、中塗り層は骨材発色している。骨材発色とは、塗材に混合した骨材粒子が表面に存在し、外観の色調が骨材によって表現されている状態を言う。骨材発色はペンキなどの塗料とは異なり、骨材粒子の色がそのまま表現されているので、長期間安定した色が持続でき、耐色性が良好である。中塗り層の厚さは0.5〜6mm程度が好ましく、さらに好ましくは1〜5mmである。ダイキャスト壁の中塗り層には顔料を加えても良い。上塗り層の金属色顔料の色調と相俟って、例えば赤銅色などの色を発色する。中塗り層の厚さは0.5〜6mm程度が好ましく、さらに好ましくは1〜5mmである。
【0025】
(3)上塗り層
上塗り層はシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む親水性防汚膜である。前記した下塗り層と中塗り層(以下併せて「基材層」ともいう。)の表面に、上塗り層としてシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む親水性防汚膜をスプレー塗装により形成する。上塗り層は1層でも良いし、何層か積層しても良い。光沢があってもよい場合は、艶消し剤を加えない上塗り層を1層とする。光沢を抑える場合は、何層か積層する。何層か積層する場合は、まず、艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む第1上塗りコーティング剤を塗装するのが好ましい。この塗料を塗布すると、塗料の一部は基材層に浸入するが、浸入しても塗料組成及び塗膜組成の均一性は保たれ、耐久性の高いコーティング膜となる。加えて、第1上塗りコーティング層は基材層とシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高いコーティング層となる。上塗り層の各1層あたりの乾燥膜厚は20〜400μmが好ましく、さらに好ましくは50〜300μmである。上塗り剤溶液の単位面積当たりの吹付塗装量でいうと、各1層あたり20〜200g/m2が好ましく、さらに好ましくは50〜200g/m2である。塗料に艶消し剤を含むと、塗料の一部が基材層に浸入する際に、艶消し剤はコーティング層に残されてしまい、艶消し剤の濃度が高い部分が生じ、長期間経過したときに剥離しやすくなる。
【0026】
第1上塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む第2上塗りコーティング層を形成するのが好ましい。これにより、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材が得られる。その結果、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性のある非汚染仕上げ面が得られる。
【0027】
本発明においては、第1上塗りコーティング層の上に、第2上塗りコーティング層より相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む中間上塗りコーティング層をさらに形成するのも好ましい。これにより、各上塗り層は、互いにシロキサン結合により化学結合した塗膜が得られる。これにより、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材が得られる。その結果、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性のある非汚染仕上げ面が得られる。
【0028】
以下において、第1上塗りコーティング層を「クリヤー」、中間上塗りコーティング層を「半艶」、第2上塗りコーティング層を「艶消し」という場合がある。クリヤーはコーティング剤に艶消し剤を含まず、半艶はコーティング剤100重量部に艶消し剤を0を越え6重量部以下を含み、艶消しはコーティング剤100重量部に艶消し剤を6重量部を越え10重量%以下を含むのが好ましい。
【0029】
本発明で使用するシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体は、好適には下記化学式1で示されるモノマーを必須成分として重合して得られる、アルコキシシリル基含有ビニル重合体である。
【0030】
【化1】

【0031】
ただし、R1は水素原子、メチル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R3は炭素数1〜3のアルキル基、aは0〜2の整数、mは1〜10の整数を示す。
【0032】
一例として挙げると、下記のモノマーを挙げることができるが、これらに限定されない。
(1)CH2=CHCOO(CH23Si(OCH33
(2)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OCH33
(3)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OCH32
(4)CH2=CHCOO(CH23Si(OC253
(5)CH2=CHCOO(CH23Si(CH3)(OC252
(6)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OC253
(7)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OC252
【0033】
前記モノマーは1種でも良いし、2種以上を混合して使用できる。また前記モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいは他のビニルモノマーおよびアミド系モノマーを用いることができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系モノマーが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0034】
これらのモノマーをラジカル重合させると、ビニル基が壊裂して重合し、これが主鎖を形成し、本発明に好適なアルコキシシリル基含有のビニル重合体を得ることができる。この重合体の好ましい数平均分子量は3000〜100000である。
【0035】
本発明に好適なビニル重合体は側鎖にアルコキシシリル基を有するため、触媒により常温(室温)でも反応が進む。すなわち、脱アルコール反応により、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−、Siは4価であるが2価を省略。以下も同様。)が形成される。あるいはアルコキシシリル基は加水分解され、シラノール基(−SiOH基)となり、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−)が形成される。このシロキサン結合により架橋構造となる。このことから本発明では「シロキサン架橋型」という。また、こうして形成された塗膜は親水性であり、雨水により表面に付着した汚れは落ちやすい。
【0036】
中間上塗り及び/又は第2上塗りコーティング剤に含まれる艶消し剤は、平均粒子径1〜20μmの範囲の無機粉体であるのが好ましい。前記平均粒子径は市販の粒度分布計で測定できる。例えば、堀場製作所レーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所レーザ回折粒度測定器(SALD2100)などを用いて測定することができる。艶消し剤は、例えばシリカ、タルク、クレイ、アルミナ、酸化チタンなどの無機粉体から選択できる。
【0037】
前記第1上塗り、中間上塗り、第2上塗りコーティング剤には、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体とともに、触媒、溶剤、その他の添加剤を加えることもできる。触媒としては酸、塩基、有機金属が使用できる。この中でも有機錫が好ましく、ジオクチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケ−トとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジステアレ−ト、ジブチル錫ジアセチルアセトナ−ト、ジブチル錫ビス(エチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(ブチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(オレイルマレ−ト)、スタナスオクトエ−ト、ステアリン酸錫、ジ−n−ブチル錫ラルレ−トオキサイドがある。また、分子内にS原子有する錫化合物としては、ジブチル錫ビスイソノニル−3―メルカプトプロピオネ−ト、ジオクチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、オクチルブチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−トなどが挙げられる。触媒は単独でもよく、また、2種類以上併用してもよい。有機錫を使用する場合、触媒の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体成分100重量部に対して0.01重量部以上1重量部以下が好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上0.2重量部以下である。
【0038】
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類等が挙げられる。これらの溶剤のうち特に好ましい溶剤としては、安全性の観点から、キシレンである。溶剤は、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体成分100重量部に対して50重量部以上200重量部以下、好ましくは70重量部以上150重量部以下、より好ましくは80重量部以上120重量部以下である。
【0039】
添加剤としては、シリコーンオイル等の消泡剤、ヒンダードフェノール等の紫外線吸収剤、光安定剤、アマイドワックス等のタレ防止剤、レベリング剤等を加えてもよい。
【0040】
ダイキャスト壁を塗装する場合は、中塗り層又は上塗り層に金属色を発色する顔料を含むことが好ましい。金属色を発色する顔料は、前記第1上塗りコーティング剤(クリアー)の中に加えるのが好ましい。金属色を発色する顔料は、例えばメルク(Merck)社製の下記のような顔料(いずれも商品名)がある。
(1)シルバー〜ホワイト色
Biflair, Iriodin100, Iriodin103, Iriodin111, Iriodin119, Iriodin120, Iriodin123, Iriodin153, Iriodin163, Iriodin 183, Iriodin6103, Miraval5311, Miraval5411, Miraval5511
(2)ゴールド色
Iriodin201, Iriodin249, Iriodin300, Iriodin302, Iriodin303, Iriodin305, Iriodin306, Iriodin323, Iriodin325, Iriodin326, Iriodin351, Iriodin355, Iriodin383, Iriodin5320, Iriodin5420, Iriodin7205
(3)レッド〜銅色
Iriodin500, Iriodin502, Iriodin504, Iriodin520, Iriodin522, Iriodin524, Iriodin530 Iriodin532, Iriodin534, Iriodin4505, Iriodin7217, Colorstream F10-00, Miraval5321, Miraval5421
(4)バイオレット色
Iriodin211, Iriodin223, Iriodin259, Iriodin7215, Iriodin7219, Colorstream T10-01, Colorstream T10-06, Miraval5422, Miraval5423
(5)ブルー〜グリーン色
Iriodin221, Iriodin231, Iriodin299, Iriodin7225, Iriodin7235, Colorstream T10-02, Colorstream T10-03, Colorstream T10-04, Colorstream T10-05, Miraval5325, Miraval5424, Miraval5425, Miraval5426
【0041】
(4)下地
建造物の下地としては、メタルラス、ワイヤラス、ラスシートなどのラス下地と、コンクリート、レンガ、ALCパネル、PCパネルなどの躯体下地に大別される。本発明はどのように下地にも適用できる。本発明の下塗り材は、下地との接着強力が高く、とくに付着性向上処理を必要とせず、下地に直接下塗り材を塗装できる。近年はタイル貼り壁面の劣化によるタイルの剥離が問題になっているが、タイル貼り壁面が下地の場合は、ネットを貼り付け、アンカーボルトで固定し、前記ネットの上に本発明の下塗り材で使用する合成ゴムディスバージョンを塗装し、この上に下塗り塗装材を塗装するのが好ましい。
【0042】
次に図面を用いて説明する、図1Aは本発明の一実施例の下塗り塗装材を吹き付け塗装により塗装した断面図である。下地壁10の表面に、下塗り層1が部分的に厚塗りでかつ深堀の凹凸模様に形成されている。図1Aは下塗り層1が部分的に厚塗りの例を示しているが、全体を厚塗りして深堀の凹凸模様に形成してもよい。
【0043】
図1Bは本発明の一実施例の中塗り塗装材を吹き付け塗装により塗装した断面図である。下塗り層1の上に中塗り層2が下塗り層1を覆う状態で吹付塗装されている。斫り出し壁の場合には、中塗り層2には骨材粒子が混合されており、塗装壁の色調を表わす機能を持っている。ダイキャスト壁の場合は骨材粒子は加えない。
【0044】
図1Cは本発明の一実施例の上塗り塗装材を吹き付け塗装により塗装した断面図である。中塗り層2の上に、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り材を吹き付け塗装し、乾燥して上塗り層3が形成されている。乾燥は外気にさらしておく自然乾燥で十分である。
【0045】
図2は本発明の一実施例の上塗り塗装材を吹き付け塗装している工程の断面図である。スプレーガン4から上塗り材5を吹き付け塗装している工程を示す。
【実施例】
【0046】
以下実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(各特性の測定試験方法)
(1)サンシャインウェザーメーターによる促進試験
試験機:スガ試験機社製、型番“WE−SUN−HC−DC”
光源:1灯式・セリウム入り有芯カーボンを上下各4本組み合わせ
光線波長:280〜400nm
放射照度:フィルター付き255±45W/m2、フィルターなし285±50W/m2
光フィルター:耐熱性光学ガラス板使用・8枚1組、255nm以下の短波長成分をカット、355nmまでの成分を10〜50%透過
放出電力:50V、60A(3000W)
雰囲気温度:63±3℃
シャワー:120分中18分間降雨先降り運転
スプレー水量:2100±100ml/min(pH6.0〜8.0、水温16±5℃)
試料枚数:70×150mm、76枚
運転サイクル:60Hr
(2)ひび割れ有無
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
(3)変色
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
(4)意匠性
目視観察により判断した。
【0048】
(実施例1)
実施例1は御影石の斫り出し壁の例を示す。
【0049】
1.下塗り層
コンクリートの躯体下地に下塗り層を直接吹付塗装した。下塗り材として、下記の材料を使用した。
(1)オバナヤ・セメンテックス社製商品名"セメンテックスCMS−1"(カチオンSBR系ポリマーセメントモルタル)のA材(マトリックス樹脂液)18kg、B材(無機パウダー、モルタルエースMS−1)75kg、A材+B材合計93kg
(2)粒子径0.4〜0.9mm(平均粒子径6.5mm、篩い分けにより測定)、嵩比重0.1g/cm3、発泡倍率10倍のポリスチレン発泡粒子を43.5リットル
(3)保水剤(メチルセルロース、松本油脂製薬株式会社製商品名“マーポローズ”)675g
(4)調整水を11.25kg
以上を容器に入れて混合して調整した。比重は約1であった。この下塗り材を図3に示す口径が18mmのリシンガンに入れて壁表面に吹付塗装により大玉状に塗装した。吹付塗装後、外気で乾燥した。表面研磨はしなかった。得られた下塗り層は、図1Aの断面図に示すような形状で、最大厚さが15mm、かつ凹凸の差も15mmの厚さであった。単位面積当たりの塗布量は、乾燥重量で2〜3kg/m2であった。得られた下塗り層を鉄製ハンマーで強く叩いても破壊することは無く、弾性もあり、強い地震にも耐えられることがわかった。
【0050】
2.中塗り層
吹き付け材としては、次の成分に調合したものを用いた。
(1)骨材 61.60重量部
(2)アクリルエマルジョン(固形分50%) 25.20重量部
(3)増粘剤(ヒドロキシメチルセルロース) 11.35重量部
(4)pH調整剤(アンモニア水) 0.17重量部
(5)消泡剤(アルコール系) 0.03重量部
(6)造膜助剤(アルコール系) 0.39重量部
(7)水 1.26重量部
作業性や貯蔵の便のために増粘剤、pH調整剤、消泡剤、造膜助剤等が混入されている。ここで、造膜助剤とは、エマルジョンの透明造膜の温度を下げるためのものである。骨材としては、白色骨材は寒水石等の自然石を粉砕したもの、黒色は黒曜石等の自然石を粉砕したもの、灰色は寒水石を粉砕したものと黒曜石を粉砕したものを別々に混合して使用した。すなわち、黒色、灰色、白色の3色の塗装材を準備した。骨材の粒度分布は、建築物用壁装材の模様の表現によって自由に選択することができるが、その強度や美観から、次の表1に示す粒度分布のものを採用した。表1において、メッシュとは1インチ(25.4mm)あたりの篩目の数をいう。なお、骨材の色は目的により様々のものを使用でき、骨材も焼付け骨材、セラミックスなどさまざまなものを使用できる。
【0051】
【表1】

【0052】
以上の吹付材を図4に示す3頭ガンで吹付塗装した。中塗り層は下塗り層の大きな凹凸を埋めて滑らかな表面となっていた。得られた中塗り層は、図1Bの断面図に示すような形状で、厚さがほぼ2〜3mmであった。単位面積当たりの塗布量は、乾燥重量で3〜6kg/m2であった。この中塗り層はサンドペーパーを使用して表面を約10%研磨した。
【0053】
3.上塗り層
(1)第1上塗り材
第1上塗り材として、下記のコーティング剤(クリヤー液)と硬化剤を混合しスプレー塗布した。
A.クリヤー液(基剤)
エトキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 43重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 45重量部
基剤 計93重量部
B.硬化剤
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 1重量部(有機錫は0.1重量部)
溶剤(キシレン) 6重量部
硬化剤 計7重量部
AとBの合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
(2)中間塗りコーティング剤(半艶)
A.半艶消しクリヤー液(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 41重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 42重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)5重量部
基剤 計93重量部
B.硬化剤
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
AとBの合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)2回塗り
(3)上塗りコーティング剤(艶消し)
A.艶消しクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 40重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 41重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)7重量部
基剤 計93重量部
B.硬化剤
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
AとBの合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
【0054】
得られた美装仕上げの御影石の斫り出し壁面材をサンシャインウェザーメーターによる促進試験で8000時間後(40年に相当)でも変色、ひび割れ、クラックはなく、耐久性のあることが確認できた。この壁は、黒色、灰色、白色の3色が玉状に分散した御影石調であり、天然石に近似した模様を形成していた。吹付塗装壁全体の最大厚さは20mm、かつ凹凸の差は20mmであった。
【0055】
(実施例2)
実施例2はダイキャスト壁の例を示す。
【0056】
1.下塗り層
実施例1の下塗り層と同一とした。ただし、単位面積当たりの塗布量は、乾燥重量で2.8〜3.8kg/m2とし、最大厚さが14mm、かつ凹凸の差も14mmの厚さであった。単位面積当た。得られた下塗り層を鉄製ハンマーで強く叩いても破壊することは無く、弾性もあり、強い地震にも耐えられることがわかった。
【0057】
2.中塗り層
中塗り材として、下記のものを使用した。
(1)ハマキャスト社製商品名“ハマフレックス・S”(アクリルゴム系外壁用塗膜防水材:骨材は含まない。)100kgと水4〜6kgを混合して、ウールローラーを用いて乾燥重量で0.8〜1.2kg/m2で塗装し、乾燥した。この工程により、下塗り層の大きな凹凸は埋められて滑らかな表面となっていた。
(2−1)次いで、良好な表面の仕上げを行うための更なる表面の平滑と均一な発色を確保するための下地材サーフェーサーとして、鈴鹿塗料社製商品名“スズカプラサフ”(主材100kgと水5〜15kgを混合して調整したもの)をカップガンを用いて乾燥重量で0.6〜1.2kg/m2で吹き付け塗装し、乾燥した。
(2−2)下色付けとして、神東塗料社製商品名“NYポリン”(アクリルウレタン塗料:シルバー色)を使用し、カップガンを用いて2回吹付し、乾燥重量で0.2〜0.3kg/m2で塗装した。この中塗り層2の外観は波模様であった。
【0058】
3.上塗り層
第1上塗りコーティング剤(クリヤー、主材14kg+硬化剤1kg)の中に、メルク社製商品名“Iriodin103”を1kg混合してカップガンを用いて吹付塗装し、乾燥させた。この吹付を2回行い、塗装量は乾燥重量で計0.2kg/m2とした。その上に第2上塗り材(艶消し)を1回塗布した。塗装量は乾燥重量で0.1kg/m2とした。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で7000時間(35年に相当)までは、変色、ひび割れ、クラックはなく、耐久性のあることが確認できた。このキャスト壁は、シルバー〜ホワイト色の金属色の単色であり、外観は深堀のキャスト模様に近似した波模様を形成していた。吹付塗装壁全体の最大厚さは15mm、かつ凹凸の差は13mmであった。
【0059】
(比較例1)
実施例1において、下塗り材のオバナヤ・セメンテックス社製商品名"セメンテックスCMS−2"(カチオンSBR系ポリマーセメントモルタル)のA材(マトリックス樹脂液)に代えて、アクリルエマルジョンを同量使用した以外は実施例1と同様にスプレー塗装した。得られた塗装物は、液ダレを起こし、修復作業が必要であった。また、実施例1と同様にハンマーで叩いたところ、弾性はなく、塗装面は破壊して剥離した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の深堀壁は、低層建築物から高層建築物まで適用でき、とくに樹脂発泡粒子を加えることにより塗膜全体の重量を軽くでき、地震にも強く高層建築物にも好適なものである。
【符号の説明】
【0061】
1 下塗り層
2 中塗り層
3 上塗り層
4 スプレーガン
5 上塗り塗材
10 下地壁
20 リシンガン
21 ホッパー部
22 吹付ガン部
23 吹付口
24 エアー管
25 エアーストッパー
30 3頭式スプレーガン
31,32,33 タンク
34,35,36 噴射ノズル
37,38,39 吹き付け材
40,41 取っ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の壁面に、厚塗りと凹凸模様を形成した吹き付け深堀壁であって、
(1)樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムを含むポリマーセメントモルタルを混合した下塗り層と、
(2)骨材を含むか又は含まない樹脂又は合成ゴムを含む中塗り層と、
(3)シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り層
が、この順番に形成されており、
前記下塗り層は厚塗りと深堀の凹凸模様を有し、
前記中塗り層は下塗り層の表面を円滑化し、
前記上塗り層は親水性防汚膜であることを特徴とする吹き付け深堀壁。
【請求項2】
前記合成ゴムが、カチオン性スチレン−ブタジエンゴム(SBR)ディスバージョンである請求項1に記載の吹き付け深堀壁。
【請求項3】
前記下塗り層は、下塗り材のポリマーセメントモルタル100kgに対して、樹脂発泡粒子が5〜50リットルの範囲混合されている請求項1又は2に記載の吹き付け深堀壁。
【請求項4】
前記下塗り層は、最大厚さが5〜20mm、かつ凹凸の差も5〜20mmの厚さに吹き付けられている請求項1〜3のいずれかに記載の吹き付け深堀壁。
【請求項5】
前記深堀壁は、ダイキャスト壁又は御影石の斫り出し壁の模様を呈する請求項1〜4のいずれか1項に記載の吹き付け深堀壁。
【請求項6】
前記ダイキャスト壁は、骨材を含まず、中塗り層及び/又は上塗り層に金属色を発色する顔料を含む請求項5に記載の吹き付け深堀壁。
【請求項7】
前記御影石の斫り出し壁は、中塗り層の骨材が複数色の塗材であり、前記複数色の塗材が非混合多色状に同時吹きされている請求項5に記載の吹き付け深堀壁。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の吹き付け深堀壁の製造方法であって、
(1)樹脂発泡粒子と、モルタルに合成ゴムディスバージョンを加えたポリマーセメントモルタルを混合した下塗り塗装材を、吹き付け塗装により、厚塗りでかつ深堀の凹凸模様に形成し、乾燥後、
(2)骨材を含むか又は含まない樹脂又は合成ゴムディスバージョンを含む中塗り塗装材を塗装し、乾燥後、
(3)シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗り材を塗装し、乾燥することを特徴とする吹き付け深堀壁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−231589(P2011−231589A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105518(P2010−105518)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(310007553)株式会社ハマキャスト (7)
【Fターム(参考)】