説明

吹き付け用セメントコンクリート材料及びそれを用いる吹き付け方法

【課題】短時間に高い剛性と高い強度を発揮する吹付け用コンクリート材料を提供する。
【解決手段】セメントに、セメント中の石膏以外の石膏、シリカフューム、クエン酸、炭酸カリウム及び減水剤を加えて混練したコンクリートに、カルシウムアルミネートと、アルカリ金属アルミン酸塩と、水酸化カルシウムとからなる急結剤を、前記セメント100質量部に対して5〜20質量部添加混合した吹き付け用コンクリート材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間に高い変形係数と高い強度発現を得ることができる吹き付け用セメントコンクリート材料と、それを吹き付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等において、露出した地山の崩落を防止するために、特公昭60−4149号公報(特許文献1)にあるように、急結剤をコンクリートに添加した急結性のセメントコンクリート材料を用いた吹き付け工法が行われている。
【0003】
従来、一般的に使用されてきたカルシウムアルミネートやアルミン酸アルカリ塩等を主成分とする急結剤を含有した吹き付け用セメントコンクリート材料は、急結剤を添加していないセメントコンクリートに比較して初期強度の立ち上がりが良好であり、従来のNATM工法における地山の崩落を防止するのに殆どの場合は充分な強度であり、かなり不安定な地山でも、吹き付け厚さの増加等で対処されている。
【0004】
また、特に掘削断面の大きい大断面トンネルの掘削においては、吹き付け厚みを大きくすると、経済性や作業効率の不利益が大きくなることから、特開昭50−16717号公報(特許文献2)に示されるように、石膏とカルシウムアルミネートをあらかじめ配合することで、吹き付け後の強度を高める方法が実施されている。
【0005】
【特許文献1】特公昭60−4149号公報
【特許文献2】特開昭50−16717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、トンネル掘削技術の進歩により、掘削速度を速くした高速掘進工法が用いられるようになってきた。従来の掘削速度であれば、地山のからの圧力が最大となる時期は1日後程度であったが、高速掘進工法を用いた場合、地山のからの大きな圧力が掘削後3時間〜12時間で加わる。
【0007】
しかしながら、従来の吹き付け用セメントコンクリート材料の強度発現速度では、上記のような高速掘進法を用いた場合に、地山から大きな圧力が発生する時間までに十分な剛性を発揮できないという問題がある。このため、より短時間で剛性の高い吹き付け用セメントコンクリート材料が望まれている。
【0008】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、短時間に高い剛性と高い強度を発揮する吹き付け用セメントコンクリート材料と、作業性の良いその吹き付け方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の材料で特定の配合のセメントコンクリートに、特定の成分で特定の配合の急結剤を特定量添加することで、短時間に高い強度発現性が得られる吹き付け用セメントコンクリート材料となることを確認すると共に、この吹き付け用セメントコンクリート材料を特定の練上り性状で吹き付けることで作業性良く吹き付けることができることを見出して本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、セメントと、このセメント100質量部に対して、8〜15質量部の、セメント中の石膏以外の石膏、1〜10質量部のシリカフューム、0.1〜3質量部の有機酸及び0.1〜3質量部のアルカリ金属炭酸塩とを含むセメントコンクリートに、
カルシウムアルミネートと、このカルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜50質量部のアルカリ金属アルミン酸塩及び1〜20質量部の水酸化カルシウムとからなる急結剤が、
前記セメント100質量部に対して5〜20質量部添加混合されていることを特徴とする吹き付け用セメントコンクリート材料を提供するものである。
【0011】
上記本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料は、セメントコンクリートが、セメント100質量部に対して0.1〜10質量部の減水剤を含むこと、
セメントコンクリートのセメント単位量が500〜700kg/m3であること、
吹き付け後3時間の圧縮強度が15N/mm2以上であること、
をその好ましい態様として含むものである。
【0012】
また、本発明は、セメントと、このセメント100質量部に対して、8〜15質量部の、セメント中の石膏以外の石膏、1〜10質量部のシリカフューム、0.1〜3質量部の有機酸及び0.1〜3質量部のアルカリ金属炭酸塩とを含むセメントコンクリートを、空気量が5〜15容積%、スランプが20cm以上の状態に練り上げ、
カルシウムアルミネートと、このカルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜50質量部のアルカリ金属アルミン酸塩及び1〜20質量部の水酸化カルシウムとからなる急結剤を、
前記練り上げ状態のセメントコンクリートに、前記セメント100質量部に対して5〜20質量部添加混合して吹き付けることを特徴とする吹き付け方法を提供するものでもある。
【0013】
上記本発明の吹き付け方法は、前記練り上げ状態のセメントコンクリートを圧送し、圧送途中のセメントコンクリートに急結剤を添加し、2m以下の混合区間で混合して吹き付けることをその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料によれば、吹き付け後3時間から12時間という短時間に、変形係数が3時間で15GPa以上、圧縮強度が15N/mm2以上という高い剛性と高い強度を得ることが可能である。
【0015】
また、本発明の吹き付け方法によれば、作業性の良い吹き付け作業が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料について説明する。尚、本明細書において、セメントコンクリートとは、セメントと水を主成分とする混合物、セメントと水と細骨材を主成分とする混合物(モルタル)及びセメントと水と細骨材と粗骨材を主成分とする混合物(コンクリート)のいずれをも含むものである。また、セメントコンクリートに急結剤を添加したものをセメントコンクリート材料、モルタルに急結剤を添加したものをモルタル材料、コンクリートに急結剤を添加したものをコンクリート材料という。
【0018】
本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料は、セメントコンクリートに急結剤を添加したもので、セメントコンクリートは、セメント、セメント中の石膏以外の石膏、シリカフューム、有機酸及びアルカリ金属炭酸塩を含むものである。
【0019】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュを混合した各種混合セメントが使用できる。これらの中では、強度発現性の面から、普通又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0020】
本発明で使用する石膏は、吹き付け硬化後のセメントコンクリート硬化物の高強度化を目的に、セメントに当初から含まれている石膏とは別に添加混合される。石膏としては、例えば無水石膏、半水石膏、2水石膏等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。これらの中では、強度発現性の点から無水石膏の使用が好ましい。石膏の粒度は、通常セメントに使用される程度、例えば、ブレーン値で3,000cm2/g程度でよいが、更に微粉末とすることが好ましい。石膏の使用量は、セメント100質量部に対して、8〜15質量部が好ましく、10〜12質量部がより好ましい。8質量部未満では強度発現性を高めることが難しく、15質量部を超えると長期的に膨張してセメントコンクリート硬化物が破壊されやすくなる。
【0021】
本発明で使用するシリカフュームは、強度発現性を高める目的で使用する。シリカフュームは、金属シリコンやフェロシリコンをアーク式電気炉で製造する際に発生する排ガス中のダストを集塵する際に得られる超微粒子である。シリカフュームの使用量は、セメント100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましい。1質量部未満では効果がなく、10質量部を超えるとセメントコンクリートの流動性が低下しやすくなる。
【0022】
本発明で使用する有機酸は、強度発現性を高めること、及び急結剤とセメントコンクリートとの混合性を向上させる目的で使用する。有機酸としては、例えばグルコン酸、酒石酸、クエン酸等の他、これらのナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられ、1種又は2種以上が使用可能である。有機酸の使用量は、セメント100質量部に対して、0.1〜3質量部が好ましく、0.5〜1.5質量部がより好ましい。0.1質量部未満では効果がなく、3質量部を超えて使用すると、凝結が遅延し、吹き付け用セメントコンクリート材料の付着性が悪化しやすくなる。
【0023】
本発明で使用するアルカリ金属炭酸塩は、初期の強度を向上させるものである。アルカリ炭酸塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。アルカリ金属炭酸塩の使用量は、セメント100質量部に対して、0.1〜3質量部が好ましく、0.2〜1質量部がより好ましい。0.1質量部未満では効果がなく、3質量部を超えて使用すると、セメントコンクリートのスランプ保持性が低下し、施工性が悪化しやすくなる。
【0024】
本発明におけるセメントコンクリートには、上記の材料の他、減水剤や、その他の混和材を加えることができる。
【0025】
減水剤は、セメントコンクリートの流動性を改善するために使用するものであり、液状、粉状のいずれも使用できる。減水剤の種類としては、アルキルアリルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリカルボンサン系高分子化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。減水剤の使用量は、固形分として、セメント100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましい。0.1質量部未満では効果がなく、10重量部を超えると強度発現性を阻害しやすくなる。
【0026】
本発明におけるセメントコンクリートは、上記各材料に骨材及び水を加え、混練することで得ることができる。
【0027】
本発明で使用するセメントコンクリートのセメント量は、500〜700kg/m3であることが好ましく、550〜650kg/m3がより好ましい。500kg/m3未満では、作業性が低下する恐れがあり、700kg/m3を超えると不経済となる。
【0028】
水の使用量は、セメントと石膏(外添される石膏)とシリカフュームと有機酸とアルカリ金属炭酸塩の合計100質量部に対して、20〜60質量部が好ましく、25〜50質量部がより好ましい。20質量部未満では、セメント、石膏、シリカフューム、急結剤等の材料が増加し、経済的でなく、またポンプ圧送性等の施工性が低下しやすくなり、60質量部を超えると強度発現性が低下し、所期の効果が得にくくなる。
【0029】
セメントコンクリートに使用される細骨材や粗骨材等の骨材は、吸水率が低く、骨材自体の強度が高いものが好ましいが、特に制限されるものではない。細骨材は、最大寸法5mm以下のものが好ましく、例えば川砂、山砂、及び石灰砂等が挙げられる。粗骨材としては、最大寸法15mm以下のものが好ましい。
【0030】
本発明で使用する急結剤は、カルシウムアルミネートを主成分とするものである。使用するカルシウムアルミネートとは、CaO原料やAl23原料等を混合したものをキルンで焼成したり、電気炉で溶融したりする等の熱処理をして得られるものをいい、初期にコンクリートの凝結を起こさせる急結成分である。カルシウムアルミネートの鉱物成分としては、CaOをC、Al23をAとすると、C3A、C127、CA、CA2等で示されるカルシウムアルミネート熱処理物を粉砕したもの等が挙げられる。更に、その他の成分として、SiO2を含有するアルミノ珪酸カルシウム、C127の1つのCaOをCaF2等のハロゲン化物で置き換えたC117・CaX2(Xはフッ素等のハロゲン)、SO3成分を含むC43・SO3、並びにナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属が一部固溶したカルシウムアルミネート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。
【0031】
これらの中では、反応活性の点でC127組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質カルシウムアルミネートが好ましい。カルシウムアルミネートの粒度は、急結性や強度発現性の点から、ブレーン値で3000cm2/g以上が好ましく、4000cm2/g以上がより好ましい。
【0032】
本発明では、急結剤として、カルシウムアルミネートに、アルカリ金属アルミン酸塩、水酸化カルシウムを添加したものを使用する。
【0033】
本発明で使用するアルカリ金属アルミン酸塩とは、初期凝結を促すものである。アルカリ金属アルミン酸塩としては、例えばアルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等が上げられ、これらの1種又は2種以上が使用可能である。アルカリ金属アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、2〜25質量部がより好ましい。1質量部未満では効果がなく、50質量部を超えると凝結性の低下や長期強度発現性を阻害しやすくなる。
【0034】
本発明で使用する水酸化カルシウムは、急結性能を補助するものである。水酸化カルシウムとしては、市販の消石灰や、カルシウムカーバイトからアセチレンを発生させる際に副生するカーバイト滓などが挙げられる。水酸化カルシウムの使用量は、カルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。1質量部未満では効果がなく、20質量部を超えると長期強度発現性を阻害しやすくなる。
【0035】
前記セメントコンクリートへの急結剤の添加量は、特に制限されるものではないが、セメントコンクリートに含まれるセメント100質量部に対して、5〜20質量部が好ましく、10〜15質量部がより好ましい。5質量部未満では、初期凝結を起すことは困難であり、20質量部を越える配管の閉塞が発生したり、粉塵が多く発生する等、施工性が低下しやすくなる。
【0036】
次に、本発明の吹き付け方法について説明する。
【0037】
本発明の吹き付け方法は、前記セメントコンクリートを特定の練り上げ状態としてから前記急結剤を添加混合し、これによって先に説明した本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料とし、この本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料を吹き付ける方法である。
【0038】
本発明の吹き付け方法で急結剤を添加混合するセメントコンクリートは、5〜15容積%の空気量となるように練り上げられているものである。空気量の調整は、ポンプ圧送性の向上と、急結剤との混合性向上の目的に行われるものである。空気量の調整には、市販の空気量調整剤が適用できる。空気量が5容積%未満では効果がなく、15容積%を超えて混入させると強度が低下する恐れがある。
【0039】
本発明の吹き付け方法で急結剤を添加混合するセメントコンクリートは、スランプが20cm以上に調整されているものである。このスランプの調整は、施工性、付着性等の向上を目的に行われるものである。スランプが20cm未満では、ポンプの圧送性の低下や、吹き付け時に材料が跳ね返るリバウンド量が増大しやすく、また急結剤との混合性不良による強度発現性の低下等の問題が発生しやすくなる。
【0040】
本発明において、セメントコンクリートの各材料の混合方法は、急結剤と混合する前に、セメントと、石膏と、シリカフュームと、有機酸と、アルカリ金属炭酸塩と、必要に応じて加えられる減水剤及びその他の混和材とを、水及び骨材と混合できる方法であれば特に制限はない。あらかじめセメントに規定量の石膏、シリカフューム、有機酸、アルカリ金属炭酸塩、並びに必要に応じて加えられる減水剤及びその他の混和材を混合しておく方法や、コンクリートを水及び骨材と混練りするときに別途これらを添加する方法等が挙げられる。
【0041】
本発明におけるセメントコンクリートの混練り方法は、特に限定されるものではなく、所定の配合で所定の練上り性状が得られる方法で良い。
【0042】
本発明の吹き付け方法は、一般に適用されている湿式吹き付け工法等により実施することができる。一例を説明すると、まず、セメント、石膏、シリカフューム、有機酸、アルカリ金属炭酸塩、減水剤、骨材、水をミキサーで混練りし、練り上がったセメントコンクリートをコンクリート圧送機で輸送配管内を圧送する。セメントコンクリート圧送の途中の吹き付けノズル手前において、例えばY字管等の混合管を介して急結剤を添加混合し、混合後直ちに地山に吹き付ける方法である。
【0043】
本発明の吹き付け方法において、急結剤とセメントコンクリートとの混合区間の距離は、圧送速度や配管径にもよるが、2m以内とすることが好ましい。混合区間とは、セメントコンクリートへの急結剤の添加位置から、両者が混合されて得られる本発明の吹き付け用セメントコンクリート材料の噴出位置までの区間である。混合区間の距離が2mを超えると、急結剤とセメントコンクリートとの反応により配管の閉塞を生じやすくなる。
【0044】
本発明の吹き付け方法で使用する吹き付け設備は、吹き付けが十分に行われ、急結剤とセメントコンクリートとの混合区間が2m以内であれば、その他は特に限定されるものではなく、従来から用いられる吹き付け装置、その他の設備をそのまま利用できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明する。
【0046】
実施例1及び比較例1
セメント/細骨材質量比=1/2、水/セメント質量比=3/10の配合で混練りしたモルタルに、下記に示す減水剤、石膏、シリカフューム、有機酸、アルカリ金属炭酸塩を表1に示される配合比で混合したモルタル及びこのモルタルに急結剤を添加したモルタル材料について、以下に示す各測定を行った。減水剤の使用量は、セメント100質量部に対して3質量部とした。また、急結剤の使用量は、セメント100質量部に対して12質量部とした。
【0047】
測定結果を表1に示す。
【0048】
[使用材料]
(1)セメント
早強ポルトランドセメント(ブレーン値3200cm2/g、比重3.16)
(2)細骨材
新潟県糸魚川産姫川水系砂(表乾密度=2.62)
(3)急結剤
カルシウムアルミネート:アルカリ金属アルミン酸塩:水酸化カルシウム(質量比)=100:6:3の混合品
(4)減水剤
市販品(商品名「FTN30」、ポリエチレングリコール系高分子化合物を主体とした液状減水剤)
(5)石膏
市販品(無水石膏)
(6)シリカフューム
市販品
(7)有機酸
市販品(クエン酸)
(8)アルカリ金属炭酸塩(表においては「炭酸アルカリ」と記す)
市販品(炭酸カリウム)
【0049】
尚、急結剤におけるカルシウムアルミネートは、C127組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質で、ブレーン値=5,900cm2/gのものを、またアルカリ金属アルミン酸塩と水酸化カルシウムとしては市販品を使用した。
【0050】
[評価方法]
(A)フロー値
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、モルタルの混練り直後と混練り後30分経過後のフロー値を測定した。
【0051】
(B)凝結時間
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、モルタルに急結剤を添加混合したモルタル材料の凝結時間を測定した。
【0052】
(C)圧縮強度
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準拠し、モルタルに急結剤を添加混合したモルタル材料の圧縮強度を、モルタルに急結剤を添加混合してから3時間後と28日後にそれぞれ測定した。
【0053】
尚、上記評価試験は全て20℃条件で実施した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、本発明による実施例では、流動性の発現及び保持性に優れ、急結性に優れ、且つ、良好な強度発現性が得られることが確認された。比較例として実施した実験No.1−6では材齢28日時点でひび割れが発生して強度が低下し、実験No.1−12では流動性の発現が悪く、実験No.1−22では流動性の保持が悪く、いずれも実用困難と判断された。
【0056】
実施例2及び比較例2
実施例1の実験No.1−3と同様なモルタルを用い、急結剤の配合及びモルタルへの添加量を変えて凝結時間と圧縮強度の測定を実施例1及び比較例1と同様に行った。また、減水剤の使用量も実施例1と同様にセメント100質量部に対して3質量部とした。
【0057】
測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果から、本発明による急結剤を用いることで、急結性に優れ、且つ、良好な強度発現性が得られることが確認される。比較例として実施した実験No.2−15については、3時間の強度は良好な値であったが、28日強度が低く、長期耐久性に劣ると考える。
【0060】
実施例3及び比較例3
水/セメント質量比=30%、細骨材/骨材(細骨材+粗骨材)容積比=6/10の配合で、セメント単位量を450kg/m3から700kg/m3まで変えてコンクリートを練り混ぜた。尚、セメント100質量部に対して、石膏を12質量部、シリカフュームを5質量部、有機酸を0.75質量部、アルカリ金属炭酸塩を0.25質量部加えて練り上げた。使用した材料は、粗骨材として新潟県糸魚川産6号砕石(最大寸法=15mm、表乾密度=2.64)を用いた他は実施例1及び比較例1と同様とした。
【0061】
得られたコンクリートを、コンクリートポンプ「シンテックMKW−25SMT」を使用して圧送し、圧送配管途中で設けたY字管の一方より、急結剤添加装置(電気化学工業社製「デンカナトムクリートPAC250V」)で空気搬送した急結剤を添加し、Y字管から2mの配管を通して吹き付け、以下に示す各測定を行った。
【0062】
尚、コンクリートの圧送速度は、10m3/hとした。また、急結剤は、カルシウムアルミネート:アルカリ金属アルミン酸塩:水酸化カルシウム=100:6:3(質量比)の混合品を用い、使用量はコンクリートのセメント100質量部に対して12質量部とした。
【0063】
[測定方法]
(a)配管内の閉塞の有無
吹き付け中、コンクリートポンプからノズル先端までのコンクリート圧送経路内での閉塞の有無を確認した。
【0064】
(b)リバウンド率
吹き付け用コンクリート材料を1m3吹き付けし、吹き付け終了後、付着せずに床面に敷いたビニールシートに落下した吹き付け用コンクリート材料の量を測定し、リバウンド率=(吹き付けの際に付着せずに落下した吹き付け用コンクリート材料の質量)/(吹き付けに使用した吹き付け用コンクリート材料の総質量)×100(%)の式から算出した。
【0065】
(c)圧縮強度
幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に吹き付け用コンクリート材料を吹き付け、得られた吹き付け用コンクリート材料の塊からコア採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果から明らかなように、本発明によるセメント量、空気量及びスランプに調整することで、施工性に優れ、短時間から高い強度発現性のある吹き付け用コンクリート材料が得られた。
【0068】
実験例4及び参考例1
急結剤添加後の混合区間の長さを変化させた以外は、実施例3の実験No.3−2と同様な材料、配合のコンクリートと急結剤を、Y字管から先の急結剤混合区間長を変えた他は実施例3及び比較例3と同様にして混合し、約10分間の吹き付けを行い、配管の閉塞状況を確認した。測定結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4から明らかな様に、コンクリートと急結剤の混合区間を2m以内にすることで、閉塞のない施工性に優れた吹き付けが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、このセメント100質量部に対して、8〜15質量部の、セメント中の石膏以外の石膏、1〜10質量部のシリカフューム、0.1〜3質量部の有機酸及び0.1〜3質量部のアルカリ金属炭酸塩とを含むセメントコンクリートに、
カルシウムアルミネートと、このカルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜50質量部のアルカリ金属アルミン酸塩及び1〜20質量部の水酸化カルシウムとからなる急結剤が、
前記セメント100質量部に対して5〜20質量部添加混合されていることを特徴とする吹き付け用セメントコンクリート材料。
【請求項2】
セメントコンクリートが、セメント100質量部に対して0.1〜10質量部の減水剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の吹き付け用セメントコンクリート材料。
【請求項3】
セメントコンクリートのセメント単位量が500〜700kg/m3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吹き付け用セメントコンクリート材料。
【請求項4】
吹付け後3時間の圧縮強度が15N/mm2以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吹き付け用セメントコンクリート材料。
【請求項5】
セメントと、このセメント100質量部に対して、8〜15質量部の、セメント中の石膏以外の石膏、1〜10質量部のシリカフューム、0.1〜3質量部の有機酸及び0.1〜3質量部のアルカリ金属炭酸塩とを含むセメントコンクリートを、空気量が5〜15容積%、スランプが20cm以上の状態に練り上げ、
カルシウムアルミネートと、このカルシウムアルミネート100質量部に対して、1〜50質量部のアルカリ金属アルミン酸塩及び1〜20質量部の水酸化カルシウムとからなる急結剤を、
前記練り上げ状態のセメントコンクリートに、前記セメント100質量部に対して5〜20質量部添加混合して吹き付けることを特徴とする吹き付け方法。
【請求項6】
前記練り上げ状態のセメントコンクリートを圧送し、圧送途中のセメントコンクリートに急結剤を添加し、2m以下の混合区間で混合して吹き付けることを特徴とする請求項5に記載の吹き付け方法。

【公開番号】特開2008−137817(P2008−137817A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322782(P2006−322782)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【Fターム(参考)】