説明

吹付けアスベストの除去方法

【課題】吹付けアスベストを効率良く除去する方法を提供する。
【解決手段】ノズルヘッダー23の周囲に高温高圧の蒸気4が逃げないように取り付けたフード1を吹付アスベストに当てがい、ノズルヘッダーから噴出するアスベスト除去剤3の噴霧体をノズル2より吹付アスベストに所定の時間噴霧した後、ヘラ等でアスベストを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建屋の内面に吹付施工されたアスベストを効率良く除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建屋の内面に吹付施工されたアスベスト(以下、吹付けアスベストという)を除去するには、大変困難な作業を伴う。アスベスト繊維が、建屋を構成しているコンクリートの小さな凹凸表面と強力に密着しているため、ブラシ等で機械的に除去しようとしても、なかなか除去することはできない。
【0003】
また、機械的に除去すると、アスベストの短い繊維が空気中に飛散し、作業員が吸込んで健康を害したり、アスベストの剥離、解体作業の周辺の人々にも被害を与えるおそれがあった。さらに、作業員は、アスベスト繊維が外部へ飛散しないようにする防止用のプラスチックカーテン内で防塵服を着ての作業となり、肉体的負担が大きく、継続して作業を続けることは極めて困難であった。
【0004】
このような状況において、吹付けアスベストを剥離、解体する工法として、種々の除去方法が試みられてきた。代表的なものとして、JPIシステム工法が知られている。この工法は、除去の際発生するアスベストの粉塵飛散を防止するため、湿潤剤を吹付けてアスベストを湿潤状態にしてから、アスベスト含有物を機械的に除去する方法である。しかしながら、単にアスベストを湿潤状態にしても、簡単に剥離することはできず、腕力による機械的な除去作業が長時間必要であるという問題があった。
【0005】
外国では、加圧流体を吹付けアスベストに吹付けて、アスベストを除去する工法(特許文献1)、アスベストへの加圧蒸気の吹付け及び吸引による工法(特許文献2)等が試みられているが、これらの工法でも、アスベストを容易に剥離することは困難である。
【0006】
また、国内においても、アスベストにドライアイスを吹付けて除去する工法が提案されている(特許文献3)。しかして、この工法では、アスベスト繊維が微粉化されて粉塵量は多く発生するものの、剥離されるアスベスト量は少なく、作業時における騒音がひどく(105dB)、実際に現場で使用するには不向きである。
【特許文献1】米国特許第5016314号明細書
【特許文献2】米国特許第4872920号明細書
【特許文献3】特開2004−305904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、吹付けアスベストを効率良く除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、種々検討した結果、吹付けアスベストに、アスベスト除去剤を噴霧体としてフード付きノズルにより適用した後に除去すれば、吹付けアスベストを効率良く除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、吹付けアスベストに、アスベスト除去剤を噴霧体としてフード付きノズルにより適用した後、当該吹付けアスベストを除去することを特徴とする吹付けアスベストの除去方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アスベストの飛散を抑制し、短時間で、吹付けアスベストを効率良く除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いるアスベスト除去剤としては、特に制限されず、従来、アスベストの除去に用いられているものを使用できるほか、酸解離定数(pKa)が6.4未満の酸の水溶液を好適に用いることができる。pKaが6.4未満の酸は、吹付けアスベストを緻密化している炭酸カルシウムを溶解して空隙を拡張する作用を有する。具体的には、硝酸、塩酸、フッ酸等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。硝酸又は塩酸が炭酸カルシウムと反応して生成する硝酸カルシウム又は塩化カルシウムは、水に対する溶解度が高いため、また、フッ酸が炭酸カルシウムと反応して生成するフッ化カルシウムは微小粒子としてコロイド状で分散して存在するため、空隙を埋めることがないので好ましい。これらのうち、硝酸カルシウムの溶解度は、138g/水100g(20℃)と極めて高いため、特に硝酸が好ましい。
これらの酸は、0.1〜35質量%の水溶液として用いるのが、炭酸カルシウムの溶解能及び取扱い性の点から好ましい。
【0012】
本発明においては、前記のようなアスベスト除去剤を、噴霧体としてフード付きノズルにより、吹付けアスベストに適用して湿潤させた後、当該吹付けアスベストを除去する。
アスベスト除去剤は、高温高圧の蒸気と混合した噴霧体として適用することもでき、さらに、その後、高温高圧の蒸気を適用することにより、アスベスト除去剤を吹付けアスベスト内により浸透しやすくすることができる。
【0013】
フード付きノズルとしては、高温高圧の蒸気と、アスベスト除去剤を混合するノズルヘッダー部、混合噴霧体を均一に噴霧するノズル、更に、噴霧体の外部拡散を防止するフード、ドレン抜き等から構成されているものを使用することができる。
【0014】
フード付きノズルとしては、例えば、図1に示すものを用いることができ、このようなフード付きノズルは、吹付けアスベストにあてがい、アスベスト除去剤と蒸気の混合噴霧体をノズル先端から所定量注入させて用いることができる。その際、フードが、外部への噴霧体の拡散防止機能を発揮する。
【0015】
また、フード付きノズルとして、図2に示すような、フード付きマルチ注入ノズルを用いることもできる。このようなフード付きマルチ注入ノズルは、ノズルの先端を吹付けアスベストに挿入し、チャンバー内にあるアスベスト除去剤と蒸気の混合噴霧体をノズル先端から所定量注入することにより使用される。その際、チャンバーの外側にあるフードが、ノズル挿入深さ(アスベストの厚さ)に応じてバネ機構により上下に移動できるため、外部への混合噴霧体の拡散防止に機能するものである。
【0016】
図3は、本発明において、アスベスト除去剤を高温高圧の蒸気と混合し、噴霧体としてノズルから吹出す際の構成を示したものである。図3のノズルヘッダー23へは、電気ボイラーで生成された高温・高圧の蒸気がスチーム耐圧ホース21内を通って圧送され、また、アスベスト除去剤供給ポンプ20からは、アスベスト除去剤液がテフロン(登録商標)チューブ22内を圧送され、ここで混合される。
電気ボイラーとしては、特に制限されないが、ヒータに通電してから高圧蒸気が使用できるまでの立ち上がり時間の短いものが好ましく、下部管内の熱対流を回避して、加熱管内のみに熱供給が効率的に送られるような構造のもので、蒸気の発生効率が95%以上の電熱式ボイラーが好ましい(例えば、特許第2548969号)。
【0017】
図4は、ノズルヘッダー23にフード1を付けた状態の吹付け器を、作業員が天井の吹付けアスベストにあてがって、混合噴霧体を吹付けアスベストに吹付けているところである。図4の25は、ノズルヘッダー23を保持するための保持具であり、作業をし易くするためのものである。保持具の構成は、適宜の手段により、長さを調整できるものであればよい。図4では、ノズルヘッダーへ接続されるスチーム耐圧ホース及びアスベスト除去剤を圧送するテフロン(登録商標)チューブは、割愛されている。
【0018】
吹付けアスベストの剥離、除去作業は、以下のようにして行うことができる。
ノズルヘッダー23の周囲に高温高圧の蒸気が逃げないように取付けたフード1を、吹付けアスベストにあてがい、ノズルヘッダー23から噴出する噴霧体をアスベストに噴霧しながら、所定の時間(数分)、押しつける。その後、次の箇所にノズルヘッダー23のフード1をあてがい、同様の作業を繰返す。2〜3m間の吹付けアスベストに同様の作業を繰返した後、ヘラ等で機械的にアスベストを除去する。
【0019】
ノズルヘッダー23のノズルは、1個だけでなく、複数ノズルにすることもできる。図5は、ノズルが4個の場合において、噴霧体が噴出される側のノズル口(+で表示)4個の設置状態を示したものである。点線の円は、ノズル口から噴出される高温高圧の噴霧体の範囲を示したものであり、フード1内に偏りなく噴射されることが分かる。
【0020】
複数の作業員が、複数のノズルヘッダーを使用する場合には、同一の電気ボイラーからのスチーム耐圧ホース21に分岐を設けておけばよい。この場合、各ヘッダー23へ、個別のアスベスト除去剤供給ポンプを配備すれば、作業がし易くなる。
【0021】
本発明においては、吹出しノズルから噴霧される噴霧体が、高圧蒸気状である場合には、特に、建屋内面に吹付施工されて梁等に強固にこびり付いているアスベストでも、吹出しノズルの尖端をアスベストに近づけるだけで、アスベスト除去剤を簡単に含浸、湿潤させることができる。除去されない部分が残った場合には、高温高圧蒸気を繰返して吹付ければよい。
【0022】
建屋内面の窪んだ狭い箇所等、従来の機械的な除去方法では除去できなかった場所でも、アスベスト除去剤を噴霧体、特に高温高圧の噴霧体にすれば、容易に適用することができる。また、このような除去しにくい場所でも、湿潤状態の後に高温高圧蒸気を吹付ければ、当該蒸気が容易に入り込めるので、吹付けアスベストを簡単に除去することができる。
【0023】
アスベスト除去剤の使用量は、吹付けアスベストの厚み10mmに対し、0.01〜8kg/m2、特に0.1〜5kg/m2であるのが、アスベストを十分に湿潤できるので好ましい。
また、噴霧時間は、吹付けアスベストの厚さ、蒸気量、フード付きノズルの大きさの関係で決める。
【0024】
アスベスト除去剤を適用後、40分以内、特に30分以内、更に15分以内にアスベストの除去作業を開始するのが、湿潤状態が維持されているので好ましい。除去作業は、例えばケレン作業用のスクレイパー等を用いて行うことができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0026】
実施例1(模擬試験体による実施)
模擬試験体として、天井、壁を模擬したラムダ材(600×1500×26)に、ロックウールを25mm吹付け、試験体を作成した。ノズルヘッダー部は、フード(500×500×40mm)付きで、ノズルの数は4個である。電気ボイラーとしては、最高使用圧力が1MPaのものを使用した。
【0027】
本発明の除去方法と、従来技術としてJPIシステム工法を比較した。JPIシステム工法においては、湿潤剤として、プロテクターシーラント(ニチアス社製)を、1.1kg/m2使用した。
本発明方法においては、アスベスト除去剤として、5質量%硝酸水溶液を使用した。塗布量はJPIシステム工法と同量、およびその55%とし、アスベスト除去剤濃度は、この5質量%硝酸水溶液に高温高圧の蒸気を加えて、硝酸濃度が1.25質量%となるように調整した。また、蒸気圧は、0.5MPaとした。
【0028】
また、アスベスト除去剤適用後、アスベストを除去する方法としては、JPIシステム工法と同様、人力(スクレパー)により、アスベストを除去した。
結果を図6〜図8に示した。
【0029】
図の縦軸は、いずれもロックウールの除去時間を示し、横軸は、図6ではアスベスト除去剤の濃度、図7ではフード1をロックウールにあてがった際の1回当りの噴霧時間、図8ではアスベスト除去剤適用後、機械的に除去するまでの放置時間をそれぞれ示す。
また、図6〜図8において、○は天井部、□は壁部を示し、それらの数字は、実験番号を示す。JPIシステム工法による除去では、天井部で183秒、壁部で120秒の値を示した。
【0030】
図6においては、JPIシステム工法より、本発明の方が、除去時間が短く、その割合は、天井部では79〜32%、壁部では88〜80%と短くなっていた。また、本発明のうちでも、アスベスト除去剤の濃度が25%よりも、15%の方が、除去時間が短かった。
【0031】
図7のフード1をロックウールにあてがった際の1回当りのアスベスト除去剤の噴霧時間では、天井部及び壁部とも、JPIシステム工法より本発明の方が、除去時間が短かった。特に、噴霧時間が60秒である実験番号3及び4では、除去時間が短く、天井部では約40%、壁部では約60%に短縮された。
【0032】
また、図8は、放置時間の観点から上記結果を整理したもので、放置時間が短くても除去時間は短くなった。特に、放置時間が40分という長時間でも、JPIシステム工法より本発明の方が、除去時間が短かったことを示している。
【0033】
実施例2
実際にアスベストが吹付けられている現場における除去試験を行った。吹付けられているアスベストの厚さは、天井部が3cm、壁部が1cmであり、素地はコンクリートである。
本発明方法では、以下の条件で行った。なお、JPIシステム工法は、前記模擬試験体の場合と同様の条件で行った。除去時間の結果を表1に示す。
【0034】
・フード付ノズル:フード(500×500×40mm)、ノズル4本。
・アスベスト除去剤:5質量%硝酸水溶液。
・アスベスト除去剤濃度:1.25質量%。
・蒸気量:313cc/min(蒸気圧0.5MPa)。
・アスベスト除去剤量:187.8cc/min。
・ノズルフード1回当りの噴霧時間:20秒(アスベスト1cm当り)。
・放置時間:15分。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果より、天井部及び壁部のいずれにおいても、本発明方法によれば、短時間で吹付けアスベストを除去ないし剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】フード付きノズルの一例を示す図である。
【図2】フード付きマルチ注入ノズルの一例を示す図である。
【図3】アスベスト除去剤を高温高圧の蒸気と混合し、噴霧体としてノズルから吹出す際の構成の一例を示す図である。
【図4】フード1を付けた状態の吹付け器を、作業員が天井部の吹付けアスベストにあてがって、噴霧体を吹付けている図である。
【図5】噴霧体が噴出される側のノズル口4個の設置状態の一例を示す図である。
【図6】実施例において、アスベスト除去剤濃度による除去時間の違いを示す図である。
【図7】実施例において、噴霧時間による除去時間の違いを示す図である。
【図8】実施例において、放置時間による除去時間の違いを示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 フード
2 ノズル
3 アスベスト除去剤
4 蒸気
5 チャンバー
6 把手
7 バネ
11 上部管寄
12 下部管寄
13 加熱管
14 電気ヒータ
15 給水ポンプ
16 給水自動装置
17 圧力制御装置
18 開放タンク
19 軟水器
20 アスベスト除去剤供給ポンプ
21 耐圧ホース
22 テフロン(登録商標)チューブ
23 ノズルヘッダー
24 吹付けアスベスト
25 保持具
26 薬液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付けアスベストに、アスベスト除去剤を噴霧体としてフード付きノズルにより適用した後、当該吹付けアスベストを除去することを特徴とする吹付けアスベストの除去方法。
【請求項2】
アスベスト除去剤を、高温高圧の蒸気と混合した噴霧体として適用する請求項1記載の吹付けアスベストの除去方法。
【請求項3】
アスベスト除去剤が、酸解離定数(pKa)が6.4未満の酸を含むものである請求項1又は2記載の吹付けアスベストの除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−38409(P2008−38409A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212265(P2006−212265)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】