説明

吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法

【課題】急結剤を併用しなくても厚付けが可能であり、より優れた初期ひび割れ抵抗性が付与できる、吹付け材料および吹付け工法を提供する。
【解決手段】セメントと、ポゾラン微粉末と、高分子増粘剤及び/又はホルマイト系鉱物と、骨材の砂と、軽量骨材と、膨張材と、収縮低減剤と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤と、溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有する吹付け材料であり、
セメント100質量部に対して骨材の砂100〜260質量部、前記砂100質量部に対してかさ密度0.7g/cm以下の軽量骨材を2〜15質量部含有する前記の吹付け材料である。高分子増粘剤がヒドロキシエチルメチルセルロースであり、結晶性シリカの含有率が1質量%以下のホルマイト鉱物であり、収縮低減剤が粉末状ポリオキシアルキレン誘導体であることが好ましい。前記吹付け材料を1層あたりの吹付け厚さを90mm以上とする吹付け工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木及び建築分野におけるコンクリート構造物を補修・補強するための吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化、凍結融解、及び化学的腐食等の作用により劣化が進行すると、表面にひび割れや浮き等が発生する。また、繰返し載荷による疲労や火害を受けることでもひび割れや爆裂等によるコンクリート片のはく落が発生する。その対策として、劣化した部分を打音検査等で確認し、電動ピック、エアピック、ウォータージェット等により取り除き、新たに補修部材で充填し補修する工事が行われている。
このような補修工事では、修復断面積が広い場合は吹付け工法が多く適用される。吹付けによる施工方法は、一般的に、練り混ぜたモルタルをポンプで圧送し、圧縮空気と混合し、モルタルを吹き飛ばして施工する方法であり、システムが機械化されているので施工スピードが速く、補修断面への付着性に優れ、鉄筋裏側への密実な充填も可能という利点がある。
【0003】
吹付け工法においては、モルタルとしては、JIS A 6203に規定されたポリマーエマルジョンを含有するポリマーセメントモルタルが使われる場合が多い。
ポリマーエマルジョンを混和することにより、耐久性を向上させたり、付着力を向上させたり、粉塵やリバウンドを低減させたりする効果を付与できるが、ポリマーエマルジョンは高価な材料であり吹付けモルタルとして高価である。また、ポリマーエマルジョンを混和した吹付け材料の1層あたりの吹付け厚みは、天井面に吹き付けた場合50mm未満であり、それ以上厚みを増すとダレや剥がれが発生したりする。
一方、吹付け厚みを増すため、ポリマーセメントモルタルにセメントの硬化を促進する急結剤を添加する吹付け方法があり、50mm以上の厚付けが可能である。安定した厚付け性を確保するためには急結剤の添加が必須であり、急結剤を使用しないで安定した厚付け性を確保することは困難である。
また、ポリマーエマルジョンを含有しないセメントモルタルに急結剤を混入する技術も知られており、50mm以上の厚付けが可能であるが、トンネル等の一次覆工、地山崩落防止、のり面保護等の用途に限られている。また、補修材料の長期的な耐久性能は求められていないのが実情である。
【0004】
ポリマーエマルジョンを含まなくてもホルマイト系鉱物やモンモリロナイト系鉱物を配合することで急結剤を併用しなくても、吹付け材料としてダレやリバウンドを少なくできる技術も知られている。
例えば、セメント:砂:フライアッシュまたはスラグ微粉末=1:2.7:0.1〜4.0:1.0であるモルタルに対して、ホルマイト系鉱物の解砕物が対セメント重量比で0.5〜5.0%で含有され、さらに減水剤が対セメント重量比で0.5〜5.0%で含有する吹付け材料(特許文献1参照)。
また、水硬性セメント100重量部に対して細骨材100〜400重量部およびモンモリロナイト鉱物0.01〜10重量部とを含有する吹付け材料(特許文献2参照)。
さらに、従来工法の場合、1回あたりの塗り厚さは壁面で20〜40mm、天井面で10〜20mm程度であり多層塗りをしなければならないので、これを改善した補修用セメント組成物(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平06−264449号公報
【特許文献2】特開平08−217514号公報
【特許文献3】特開2002−201058号公報
【0005】
一方、吹付けモルタルのような補修部材に用いられる材料はひび割れが入りにくいものが多いが、環境状況、施工方法、外力等様々な要因でひび割れが入る場合もある。
特に環境条件が要因でのひび割れでは、温度、通風、湿度の影響で水分逸散速度が増大し、硬化する前あるいは硬化初期に発生する初期ひび割れが問題となる場合がある。特に、屋外での施工や適切な養生が行えない場所で注意が必要である。初期ひび割れを低減する方法としては、散水養生、シート養生等で水分逸散を抑制する方法もあるが、これら養生対策ができない場合は、エマルジョン系の被膜養生剤を散布したり、材料自体に初期ひび割れ抵抗性を持たせる必要があり、材料自体に初期ひび割れ抵抗性を持たせる方法として、短繊維を混入する方法がある(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】浜田敏裕、末森寿志、斎藤忠、平居孝之、ビニロン短繊維によるコンクリートのプラスチック収縮ひび割れ抑制に関する実験的研究、コンクリート工学年次論文集、Vol.22、No.2、pp.319−324、2000
【0006】
短繊維を混入することで、ひび割れ発生時に作用する応力を分散しひび割れを低減する効果が期待できると考えられる。繊維径としては50μm以下で材料中にできるだけ多く混入させた方がひび割れ低減効果としては高い。短繊維の種類には、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等の有機繊維や、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維が一般的に知られている。有機繊維はドライモルタルに混合する場合分散性が悪く、たくさん添加するとファイバーボール等ができ均一な混合ができない場合があり、鋼繊維は繊維径を50μ以下にすることが難しく、炭素繊維は非常に高価な材料であり、ガラス繊維は耐アルカリや耐酸性に劣るといった課題がある。
ロックウールは、例えば、安山岩、玄武岩、スラグ等を原料にキューポラや電気炉で1500〜1600℃の高温で溶かし、炉から流し遠心力や圧縮空気、高圧蒸気で吹き飛ばし繊維状とした人造鉱物繊維の一種であり、安価ではあるが、形態が綿状や粒状のものであるため、ドライモルタルへの均一混合ができないといった課題があり、人造鉱物繊維をドライの水硬性材料へ混合する場合は吹き飛ばしてウール状にしたものではなく、紡糸して繊維化したものが好ましい。例えば、石炭灰を数千度の高温で溶融紡糸して繊維化したフライアッシュファイバーで強化したセメント複合材料が知られている(特許文献4、5参照)。また、玄武岩を1500〜1600℃で溶融紡糸し繊維化する製造方法が知られている(特許文献6参照)。
【特許文献4】特開平06−340461号公報
【特許文献5】特開平06−340462号公報
【特許文献6】特表平09−500080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、吹付け工法に補修モルタルとして、通常使用されている前記のポリマーセメントモルタルでは、一回の吹付け厚さは40mm以下であり、修復深さが深ければ吹付けたモルタルがある程度硬くなってから数回に分割して吹き付けて断面を修復しなければならなかった。特に90mm以上の吹付け厚さを確保するためには急結剤を併用する必要があった。
さらに、ポリマーエマルジョンは高価な材料であり、補修モルタル自体のコストも高くなる等の課題があった。また、ポリマーエマルジョンを含まず急結剤を併用する場合は、耐久性能が一般コンクリートに比べ劣るという課題があった。
また、急結剤を併用しない場合、ホルマイト系鉱物やモンモリロナイト系鉱物を配合することでダレやリバウンドが減り厚付け性は良好になるが、補修材料としての耐久性能や、天井面でも安定して90mm以上厚付けできる性能を持つ材料がなかった。
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の材料を組み合わせることにより、急結剤を併用しなくても1回の吹き付けで90mm以上の厚付けが可能であり、さらに、特定の繊維を配合することにより、ドライモルタルと混合した時の均一混合性に優れ、より優れた初期ひび割れ抵抗性が付与できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために、次のような構成をとるものである。
(1)セメントと、ポゾラン微粉末と、高分子増粘剤及び/又はホルマイト系鉱物と、骨材の砂と、軽量骨材と、膨張材と、収縮低減剤と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤と、溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有する吹付け材料。
(2)セメント100質量部に対して骨材の砂100〜260質量部、前記砂100質量部に対してかさ密度0.7g/cm以下の軽量骨材を2〜15質量部含有する(1)の吹付け材料。
(3)高分子増粘剤がヒドロキシエチルメチルセルロースである(1)または(2)の吹付け材料。
(4)結晶性シリカの含有率が1質量%以下のホルマイト鉱物を使用することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの吹付け材料。
(5)収縮低減剤が粉末状ポリオキシアルキレン誘導体であり、その一般式がX{O(AO)nR}mで示され、Xが2〜8個の水酸基を有する化合物の残基、AOが炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Rが水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、又は炭素数2〜18のアシル基、nが30〜1000、mが2〜8で、前記オキシアルキレン基の60モル%以上がオキシエチレン基である(1)〜(4)のいずれかの吹付け材料。
(6)(1)〜(5)のいずれかの吹付け材料を用いて1層あたりの吹付け厚さを90mm以上とする吹付け工法。
(7)(1)〜(5)のいずれかの吹付け材料を用いて補修したコンクリート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、1回の吹付けで厚付けが可能となり施工時間の短縮化ができる。また、特定の繊維を配合することによりドライモルタルと混合した時の均一混合性に優れ、より優れた初期ひび割れ抵抗性が付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではないが、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、及びJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、アルミナセメントから選ばれる1種又は2種以上などが挙げられる。
【0013】
本発明で使用するポゾラン微粉末とは、チクソトロピック性の付与や硬化組織の緻密性を改善するもので、例えば、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、転炉スラグ等のスラグ類、シリカフューム、フライアッシュ、その他、火山灰に代表される天然ポゾラン活性物質が挙げられる。さらに、塩化物イオン浸透抵抗性の向上効果を考慮すると高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ、これらの混合物の使用が好ましい。
ポゾラン微粉末の粒度は、特に限定されるものではないが、3000cm/g以上が好ましい。
【0014】
ポゾラン微粉末の使用量は、セメント100質量部に対して3〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。3質量部未満では、チクソトロピック性の付与が不十分であり、20質量部を超えるとチクソトロピック性が高すぎ流動性を確保することが難しくなる。
【0015】
本発明で使用する高分子増粘剤とは、モルタルの粘度を調整するものであり、特に限定されるものではないが、一般に水溶性高分子物質と呼ばれているもので、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、及びポリエチレンオキサイド等が挙げられ、モルタルが跳ね返ったり、脱落したりするのを防止したり、圧送時のモルタルの滑りを良くするために使用される。
中でもヒドロキシエチルメチルセルロースが好ましい。ヒドロキシエチルメチルセルロース中のヒドロキシエトキシル基含有量は4〜20%で、この粉末を2%水溶液となるように熱水に混合後、分散した後、攪拌しながら冷却し30℃において光の透光度が45%以上のものが好ましい。このセルロース誘導体は、低温から高温領域の幅広い温度領域においてアルカリ中での溶解性に優れるため粘性付与効果にばらつきがないのが特徴であり、ホルマイト系鉱物と併用した場合、温度に左右されにくい安定的なチクソトロピック性を得ることができる。これに、他の水溶性高分子物質と呼ばれているもので、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、及びポリエチレンオキサイド等を併用することも可能である。
【0016】
高分子増粘剤の使用量は、通常、セメント100質量部に対して0.02〜0.5質量部であり、0.05〜0.3質量部がより好ましい。0.02質量部未満ではモルタルの跳ね返りを低減することが充分でなく、0.5質量部を超えるとその効果の向上が期待できない場合がある。
【0017】
本発明で使用するホルマイト系鉱物とは、繊維状の無機鉱物でありチクソトロピック性を付与するものである。例えば、含水マグネシウムアルミニウムシリケートのアタパルジャイトやパリゴルスカイト、含水マグネシウムシリケートのセピオライトが挙げられる。中でも流動性を阻害しにくい点でアタパルジャイトの使用が好ましい。
ホルマイト系鉱物の平均長さは、1〜3ミクロンのものが適度なチクソトロピック性を与える点で好ましい。また、結晶性シリカの含有率が1%以下のホルマイト鉱物を使用することが安全性の点で好ましい。
【0018】
ホルマイト系鉱物の使用量は、セメント100質量部に対して0.02〜5質量部が好ましく、0.06〜3質量部がより好ましい。0.02質量部未満では、チクソトロピック性付与が不十分であり、5質量部を超えると流動性を阻害する場合がある。
【0019】
本発明で使用する骨材の砂とは、かさ密度0.7g/mを超えるものであり、通常、川、山、及び海から産出する天然骨材、並びにこれらの2種以上を併用した混合骨材等が使用できる。
骨材は施工する現場で混合してもよいが、予めセメントと混合しておく場合は、骨材を乾燥させた乾燥骨材を使用すればよい。
【0020】
骨材の使用量は、セメント100質量部に対して50〜260質量部が好ましい。50質量部未満では吹き付けたときにダレが多くなる場合があり、260質量部を超えると跳ね返りが多くなる場合がある。
【0021】
本発明で使用する軽量骨材とは、かさ密度0.7g/cm以下のものであり、吹き付けた直後のダレを防止するためにモルタル密度を低減する目的で使用する。
軽量骨材の種類としては、特に限定されるものではないが、火力発電所から発生するフライアッシュバルーン、シラスバルーン、黒曜石等の天然材料を原料とし焼成した発泡体、廃ガラス等のリサイクル材料を原料とし焼成したものが挙げられ、かさ密度0.7g/cm以下のものであれば使用できる。
【0022】
軽量骨材の使用量は、砂100質量部に対して2〜15質量部が好ましく、4〜10質量部がより好ましい。2質量部未満では、モルタル密度を十分に低減することができず、15質量部を超えると流動性に悪影響を与える場合がある。
【0023】
本発明で使用する膨張材とは、モルタルの乾燥による硬化収縮を低減するために使用されるもので、特に限定されるものではないが、アウイン系、カルシウムアルミノフェライト系、石灰系等のものが挙げられる。
【0024】
膨張材の使用量は、通常、セメント100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましい。1.0質量部未満では硬化収縮を抑制する効果が十分でなく、10質量部を超えて配合してもその効果の向上が少ない。
【0025】
本発明で使用する収縮低減剤とは、特に限定されるものではないが、ポリオキシアルキレン誘導体が好ましく、その一般式がX{O(AO)nR}mで示され、Xは2〜8個の水酸基を有する化合物の残基、AOは炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Rは水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、又は炭素数2〜18のアシル基、nは30〜1000、mは2〜8であり、オキシアルキレン基の60モル%以上はオキシエチレン基であるポリオキシアルキレン誘導体からなるものである。
nの値が30未満であると融点が低くなり粉体で使用することが難しくなり、nの値が1000を超えると粘度が高くなり製造が難しくなる。
オキシエチレン基が60モル%未満であると融点が低くなり粉体で使用することが難しくなり、セメント溶液中での溶解性が悪くなる。
【0026】
一般式X{O(AO)nR}mにおいて、Xは2〜8個の水酸基を有する化合物の残基であるが、水酸基を2〜8個有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、スチレングリコール、炭素数8〜18のアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルバイド、ソルビトールとグリセリンの縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール類、あるいはそれらの部分エーテル化物、又はエステル化物、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グリコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュークロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等の糖類、あるいはそれらの部分エーテル化物又はエステル化物等が挙げられる。
【0027】
一般式X{O(AO)nR}mにおいて、AOで示される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、炭素数6〜18のα−オレフィンオキシド等に由来するもので、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基、炭素数6〜18のオキシアルキレン基等があり、2種以上が付加しているときは、ブロック状付加でもランダム状付加でもよい。
【0028】
上記一般式において、Rで示される炭素数1〜18の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、アリル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、イソセチル基、オクタデシル基、イソステアリル基、オレイル基、ベンジル基、クレジル基、ブチルフェニル基、ジブチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、ドデシルフェニル基、スチレン化フェニル基等が挙げられる。
【0029】
また、同じくRで示される炭素数2〜18のアシル基としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸,パルミチン酸、イソパルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸等に由来するアシル基が挙げられる。
【0030】
収縮低減剤の使用量は、セメント100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましい。1質量部未満では十分な収縮低減効果が得られず、10質量部を超えると強度発現が阻害される場合がある。
【0031】
本発明で使用する流動化剤とは、特に限定されるものではないが、メラミン系、ナフタレン系、リグニン系、ポリカルボン酸系のものが挙げられ、モルタルの流動性の調整に使用される。
【0032】
流動化剤の使用量は、セメント100質量部に対して0.02〜0.5質量部が好ましく、0.06〜0.3質量部がより好ましい。0.02質量部未満では、流動性を改善する効果が発揮されない場合があり、0.5質量部を超えると、流動性が良すぎ吹付けたときにダレや跳ね返りが多くなる場合がある。
本発明の流動化剤の混合方法は、特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめセメントに、又はセメントや水に分散しておくことが好ましい。
【0033】
本発明で使用する空気連行剤とは、練り混ぜたモルタルを軽くして圧送抵抗を低減したり、混入されるエントレインドエアの効果により凍結融解抵抗性をより向上する目的で使用する。
空気連行剤の種類としては、特に限定されるものではなく、市販されているものが使用できる。例えば、ヴィンソル等の脂肪酸石鹸類、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート等の高級アルコール硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシアルキルフェニルエーテル等のエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンオレェート等のエステルエーテル類、ベタイン類、イミダゾリンベタイン類等が挙げられる。
【0034】
空気連行剤の使用量は、セメント100質量部に対して0.0005〜0.05質量部が好ましく、0.001〜0.02質量部がより好ましい。0.0005質量部未満では、空気の混入効果が小さく、0.05質量部を超えると空気混入が多くなりすぎ強度発現性に悪影響を与える場合がある。
【0035】
本発明で使用する凝結促進剤とは、モルタルの凝結を促進させるものであり、練り混ぜてモルタルを圧送するのに支障のない程度に凝結を促進させるものである。
凝結促進剤の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウムの炭酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、水酸化物、ギ酸塩、酢酸塩等が挙げられる。これらの中で、モルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与えにくい点でリチウム、ナトリウム、カリウムのケイ酸塩やギ酸塩の使用が好ましい。
凝結促進剤の添加によりモルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与えても、有機酸やリン酸塩等の凝結遅延剤を併用することで改善できるのであれば凝結遅延剤と併用して使用してもよい。
【0036】
凝結促進剤の使用量は、セメント100質量部に対して0.1〜1質量部が好ましく、0.2〜0.8質量部がより好ましい。0.1質量部未満では、凝結を促進させる効果が十分に発揮できず、1.0質量部を超える、モルタルの練り混ぜや圧送に悪影響を与える場合がある。
【0037】
本発明で使用する溶融紡糸した玄武岩繊維とは、天然の玄武岩を原料とし、高温で溶融紡糸した非晶質の人造鉱物繊維である。その特徴として、有機繊維に比べ耐熱性に優れ、ガラス繊維やロックウールに比べ耐薬品性に優れ、密度が2.8g/cm3程度であることから、ドライモルタルと同程度であり、均一混合性に優れるという特徴がある。
溶融紡糸した玄武岩繊維の繊維径は、2〜50μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。2μmより小さいと、安定的に製造することが困難であり、50μmを超えると初期ひび割れ低減効果が低下する場合がある。
溶融紡糸した玄武岩繊維の繊維長は、2〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。2mmより小さいと初期ひび割れ低減効果が小さく、15mmを超えるとドライモルタルに混合したときの分散性が悪くなる場合がある。
溶融紡糸した玄武岩繊維は、繊維が単独にほぐれた単繊維状態(繊維径としては0.1mm以上となる)ではなく、サイジング剤等で繊維径50μm以下の単繊維を束状にした収束状態のものを使用することが好ましい。適度に接着力のある収束状にすることで、ドライモルタルと混合した時に簡単にほぐれて均一な混合が可能となる。
【0038】
溶融紡糸した玄武岩繊維の使用量は、セメント100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜5質量部がより好ましい。0.1質量未満では,初期ひび割れ低減効果が期待できず、10質量部を越えると均一な混合ができなくなる場合がある。
また、本発明では、性能に影響を与えない範囲内で、各種有機繊維、炭素繊維、鋼繊維等の溶融紡糸した玄武岩繊維以外の繊維と併用して使用することも可能である。
【0039】
本発明では、必要に応じ、消泡剤、撥水剤、抗菌剤等の各種セメント混和剤を併用することが可能である。
【0040】
本発明の吹付け材料と混合する水量は、モルタルのポンプ圧送性、吹付け性、及び硬化物性を考慮し、通常、骨材とプレミックスされたモルタル100質量部に対して10〜22質量部が好ましく、12〜19質量部がより好ましい。10質量部未満ではモルタルのポンプ圧送できる流動性を確保することが難しく、22質量部を超えると強度発現性が低下する場合がある。10〜22質量部の範囲であれば、流動化剤を併用することでポンプ圧送に適する適度な流動性に調整することができる。
【0041】
本発明の吹付け材料の施工方法は、吹付け材料と水とを混合し、練り混ぜたモルタルをポンプで圧送し、圧送途中で圧縮空気を合流して吹き付ける方法であれば、吹付けシステムや方法は特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
セメント100質量部に対して骨材の砂180質量部、前記砂100質量部に対して軽量骨材を6質量部、さらに、セメント100質量部に対して、膨張材5質量部、収縮低減剤3質量部、流動化剤0.1質量部、空気連行剤0.005質量部、凝結促進剤0.5質量部、ポゾラン微粉末8質量部、高分子増粘剤0.05質量部、溶融紡糸した玄武岩繊維を表1に示す量加えた配合の吹付け材料を、ドライ混合した時の繊維の分散性を評価した。なお、ポゾラン微粉末は骨材置換して使用した。また、比較のためにビニロン繊維についても同様に行った。結果を表1に併記する。
【0043】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
骨材:新潟県青海産石灰砂乾燥品、かさ密度1.62g/cm、最大粒径1.2mm
軽量骨材:中国産フライアッシュバルーン、かさ密度0.42g/cm、最大粒子径0.8mm
膨張材:カルシウムサルホアルミネート系膨張材、市販品
収縮低減剤:ポリオキシアルキレン誘導体、HO−(CHCHO)189−H、市販品
流動化剤:メチロールメラミン系流動化剤、市販品
空気連行剤:ポリオキシエチレンアルキルサルフェート系空気連行剤、市販品
凝結促進剤:ケイ酸ナトリウム、市販品
ポゾラン微粉末:高炉水砕スラグ、ブレーン比表面積7500cm/g、市販品
高分子増粘剤:ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエトキシ基含有量6%、30℃の透光度55%、市販品
溶融紡糸した玄武岩繊維:繊維径10μm、繊維長6mm、収束タイプ、市販品
ビニロン繊維:繊維径26μm、繊維長6mm、収束タイプ、市販品
【0044】
(試験方法)
繊維の分散性:容量50リットルの傾胴ミキサーにセメント各繊維を配合した吹付け材料30kgを入れ15分間攪拌した。得られたドライ混合物を1m2の正方形容器に移し、同じ面積になるように9分割した。各分割した部分から500gサンプリングし2.5mmの篩でドライ混合物を篩い、篩に残った繊維の質量を計測し、平均値と標準偏差から変動係数を算出し分散性を評価した。
外観:正方形容器に移したときに目視観察し、ファイバーボール(繊維が分散せず絡み合った状態)等の有無を確認した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、本発明の吹付け材料は、繊維の使用量が多くても均一に分散されていることが分かる。
【実施例2】
【0047】
実施例1で使用した各繊維を表2に示す量加え、実施例1と同様にドライモルタルを調製した。このドライモルタル100質量部に対して水を16.5質量部となるように加えパン型ミキサーで練り混ぜてセメントモルタルとし、これをスクイズポンプで圧送し、吐出ノズル手前で圧縮空気を合流させて横30cm×縦30cm×厚さ6cmのコンクリート平板に厚み1cmとなるように吹付けた。吹付け完了した試験体は、湿度60%、温度5℃で、送風機で風速1〜3mの風をあてた状態で1日後のひび割れ状況を確認した。結果を表2に併記する。
【0048】
(試験方法)
ひび割れ状況:発生したひび割れに沿って全ひび割れ長さを計測した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から、本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に依れば、ひび割れ抵抗性に優れるモルタルが得られることが分かる。
【実施例3】
【0051】
セメント100質量部に対して溶融紡糸した玄武岩繊維0.3質量部、さらに、セメント100質量部に対してポゾラン微粉末、ホルマイト系鉱物、及び高分子増粘剤を表3に示す量を加えこと以外は実施例1と同様にドライモルタルを調製した。このドライモルタル100質量部に対して水を16.5質量部となるように加えパン型ミキサーで練り混ぜてセメントモルタルとし、これをスクイズポンプで圧送し、吐出ノズル手前で圧縮空気を合流させて吹き付けてリバウンド率、厚付け性を測定した。結果を表3に併記する。
【0052】
(使用材料)
ホルマイト系鉱物:アタパルジャイト、結晶性シリカ含有率1%未満、市販品
【0053】
(試験方法)
流動性:JIS R 5201に規定されているフロー試験を実施した。
リバウンド率:天井面に設置したコンクリート製プレキャスト板に2分間吹き付けたときに落下した材料と吹付けに使用した全モルタル量との百分率。
厚付け性:縦400mm×横600mm×厚さ60mmのコンクリート製U形側溝ふたに厚み90mmとなるように吹き付けたときの厚付け性を評価した。吹き付けて24時間後の落下や浮きの有無を確認した。落下や浮きがなければ○とした。
【0054】
【表3】

【0055】
表3から、本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法に依れば、リバウンド率が低く、厚付け性に優れるモルタルが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、1回の吹付けで厚付けが可能となり施工時間の短縮化ができる。また、特定の繊維を配合することによりドライモルタルと混合した時の均一混合性に優れ、より優れた初期ひび割れ抵抗性が付与できる。そのため、土木、建築分野での補修工事に幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、ポゾラン微粉末と、高分子増粘剤及び/又はホルマイト系鉱物と、骨材の砂と、軽量骨材と、膨張材と、収縮低減剤と、流動化剤及び/又は空気連行剤と、凝結促進剤と、溶融紡糸した玄武岩繊維とを含有する吹付け材料。
【請求項2】
セメント100質量部に対して骨材の砂100〜260質量部、前記砂100質量部に対してかさ密度0.7g/cm以下の軽量骨材を2〜15質量部含有する請求項1に記載の吹付け材料。
【請求項3】
高分子増粘剤がヒドロキシエチルメチルセルロースである請求項1または2に記載の吹付け材料。
【請求項4】
結晶性シリカの含有率が1質量%以下のホルマイト鉱物を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の吹付け材料。
【請求項5】
収縮低減剤が粉末状ポリオキシアルキレン誘導体であり、その一般式がX{O(AO)nR}mで示され、Xが2〜8個の水酸基を有する化合物の残基、AOが炭素数2〜18のオキシアルキレン基、Rが水素原子、炭素数1〜18の炭化水素基、又は炭素数2〜18のアシル基、nが30〜1000、mが2〜8で、前記オキシアルキレン基の60モル%以上がオキシエチレン基である請求項1〜4のいずれかに記載の吹付け材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の吹付け材料を用いて1層あたりの吹付け厚さを90mm以上とする吹付け工法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の吹付け材料を用いて補修したコンクリート。

【公開番号】特開2008−50212(P2008−50212A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228578(P2006−228578)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】