説明

周期分極反転光導波路

【課題】導波路内の光の伝播の方向に対して傾斜している分極反転光学領域を有する、非線形光学結晶材料を備える周期分極反転光導波路が提供される。
【解決手段】傾斜している分極反転光学領域から反射された光は、光導波路の中へ戻って効率的に結合することがなく、このことにより、導波路に結合された半導体レーザ光源への背面反射の低減が助長される。背面反射が低減すると、半導体レーザ光源の安定稼働が助長される。傾斜している分極反転領域を有する周期分極反転光導波路を製造する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路に関し、具体的には非線形の光周波数変換用の周期分極反転(periodically poled)光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
光周波数変換の非線形の光学的現象は、近赤外線波長範囲で動作する、廉価で、効率的、かつ高信頼のレーザ・ダイオードに基づく、準単色で可視光源およびUV光源をもたらすのに用いることができる。これらの可視/UV光源では、レーザ・ダイオードによって発せられた光が、レーザ・ダイオードの赤外線放射を可視光またはUV光に変換する非線形光学素子を通って導かれる。
【0003】
非線形光学結晶の中に形成される周期分極反転導波路は、非線形光学素子として周波数変換に漸増的に使用されている。図1を参照すると、非線形光学結晶11の中に、コア15を有する導波路10が形成される。非線形光学結晶11の周期的に配置されたエリアすなわち領域12は、「分極反転されている」、すなわち、これらのエリアの結晶構造の方向が反転されている。結晶構造の方向は、例えば領域12に局所的な強い電界を与えることにより反転され得る。分極反転周期は、基本周波数と称されるレーザ周波数の光と信号周波数または出力周波数と称される変換された周波数の光の、位相整合を助長するように選択される。
【0004】
基本周波数の光および変換された周波数の光は、高度な集中を保ったまま導波路の長い距離を移動することができる。その結果、周期分極反転導波路は、適度な、例えば約200mWの光パワーの持続波(cw)の赤外光に対してさえ、適切な(50%以上の)変換をもたらすのに十分高い変換効率を有することができる。さらに、以前に使用された非線形バルク光学結晶の重大な不利益であった光学的不整合に対する感度が、周期分極反転結晶導波路ではかなり低下する。
【0005】
しかし、元来、周期分極反転導波路の優れた光誘導特性に関連して、重大な難点がある。周期的反転分極が、いくつかの波長でレーザ光源の方へ戻る光を反射する光学的導波路の回折格子を形成して、誘導反射波を形成し、これがレーザ光源を不安定にする。例えば、図2を参照すると、図1の分極反転導波路10の代表的反射スペクトルは、約977nm、985nm、および989nmにおけるピークを含んでいる。
【0006】
理論上、導波路10の屈折率は、反転分極によって変化しないはずである。しかし、分極反転領域12の境界14における不可避の結晶不良および結晶転移により、何らかの屈折率変化がもたらされる。さらに、図1の導波路10のラインA−Aに沿って得られた側断面図である図3に示されるように、周期的反転分極によって導波路10の上部表面にしわが寄ることがある。反転分極でもたらされるしわの高さは、3〜4マイクロメートルの導波路深さで10ナノメートルに達することがある。導波路10の長さにわたって、屈折率変化、しわ、および他の周期的動揺が、数十パーセントに達する背面反射をもたらすことがあり、これは、反射感応性のレーザ・ダイオードを不安定化するのに十二分なものである。
【0007】
周期分極反転導波路からレーザへの背面反射の問題は既知である。Gollierの米国特許第7,492,507号に、背面反射が低減された波長変換デバイスが開示されている。図4を参照すると、周波数2倍化光源40は、レーザ・ダイオード41、光カプラ42、および分極反転導波路43を含んでいる。結晶軸の方向は導波路43内の矢印で示されている。作動中、レーザ・ダイオード41が光44を発し、この光は、光カプラ42によって導波路43上に合焦される。導波路43は、2次高調波発生(SHG)として知られている非線形光学効果によってレーザ光44の光周波数を2倍にし、周波数が2倍になった放射が、45で示されるように、周期分極反転導波路43を出る。導波路43は、幅がランダムに変化する領域を備える分極反転した導波路である。この領域の幅は、理想的な分極反転周期λIプラスまたはマイナス混乱値(disruption value)によって定義される。導波路43は、「通常の」領域46、「広い」領域47、および「狭い」領域48を含む。「広い」領域47および「狭い」領域48により、反射光のコヒーレンスが低下し、したがって背面反射光の光パワーが低下する。
【0008】
Gollierらの米国特許第7,414,778号に、領域の周期が、反射光の波長をレーザ波長から引き離すように変わり、したがって背面反射光の光パワーが低下する類似の波長変換デバイスが開示されている。
【0009】
Langらの米国特許第7,177,340号には、周期分極反転結晶からレーザへ戻る光の反射を抑制するように、周期分極反転導波路の前に光アイソレータが挿入されている、可調整レーザ源が説明されている。
【0010】
分極反転導波路において背面反射された光の量を低減するための従来技術の手法は、かなりの挿入損失を有する分離した光アイソレータ、または光学的変換効率がかなり低下する分極反転周期の変更のどちらかが必要とされる。さらなる光学的損失の導入または光学的変換効率の低下は、出力される光パワーの低下および/または従来技術の光源のウォール・プラグ(wall plug)効率の低下をもたらすので、望ましくない。
【0011】
本発明の目標は、実質的に光学的変換効率を損なうことなく、基本周波数での光の反射を抑制した、周期分極反転導波路を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7,492,507号
【特許文献2】米国特許第7,414,778号
【特許文献3】米国特許第7,177,340号
【発明の概要】
【0013】
本発明によれば、非線形光学結晶材料を備える周期分極反転光導波路が提供され、光導波路の分極反転領域は、そこに伝播する光の背面反射を低減するために、光導波路の光学軸に対して傾斜している。好ましい実施形態では、傾斜角は5度と20度の間にある。換言すれば、分極反転領域と導波路の光学軸または光の伝播方向との間の角度は、垂直から5度から20度だけ離れている。プレーナ導波路の製造を容易にするために、傾斜方向が導波路の面内にあるのが好ましい。傾斜している分極反転領域によって反射される光は、事実上、導波路へ戻って結合することがなく、その結果、分極反転領域による背面反射の総量がかなり低減する。
【0014】
本発明の別の態様によれば、半導体レーザと、半導体レーザに結合された傾斜している領域を有する光導波路とを備えることにより、作動中、レーザ・ダイオードの放射周波数が、光導波路によって、放射周波数と異なる出力周波数に変換される光源がさらに提供される。
【0015】
本発明の別の態様によれば、光学結晶の上または中に形成された光導波路を分極反転させる方法がさらに提供され、この方法は、
(a)第1の軸に沿って離隔された傾斜している平行なフィンガ(fingers)の配列を有する分極反転電極を設けるステップと、
(b)この分極反転電極を光導波路の外面に与えるステップと、
(c)分極反転電極にエネルギーを与えて、光導波路の中に、傾斜している分極反転領域の配列を形成するステップとを含む。
【0016】
次に、例示的実施形態を図面とともに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術の周期分極反転導波路の上面図である。
【図2】図1の導波路の代表的な反射スペクトルの図である。
【図3】分極反転プロセスで生成された導波路の上部表面のしわを示す図1の導波路の側断面図である。
【図4】低減された背面反射を有する従来技術の波長変換デバイスの図である。
【図5】図5Aは本発明の周期分極反転導波路の上面図である。図5Bは図5Aの導波路のラインB−Bに沿って得られた断面の端面図である。
【図6】図6Aは本発明の分極反転装置の上面図である。図6Bは本発明の分極反転方法の流れ図である。
【図7】図5Aおよび図5Bの周期分極反転導波路を使用する光源の図である。
【図8】分極反転した導波路プロトタイプの前面のマイクロ写真である。
【図9A】傾斜のない屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図9B】傾斜のない屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図9C】傾斜のない屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図10A】傾斜した屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図10B】傾斜した屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図10C】傾斜した屈折率のステップを有する導波路内の光伝播のシミュレーションの結果である。
【図11】傾斜のない屈折率のステップを有する導波路内を伝播する光の、反射スペクトルおよび伝達スペクトルのグラフである
【図12】傾斜した屈折率のステップを有する分極反転導波路内を伝播する光の、反射スペクトルおよび伝達スペクトルのグラフである
【発明を実施するための形態】
【0018】
本教示が様々な実施形態および実例とともに説明されるが、本教示は、そのような実施形態に限定されるようには意図されていない。それどころか、当業者には理解されるように、本教示は、様々な代替形態、変更形態および等価物を包含する。
【0019】
図5Aおよび図5Bを参照すると、周期分極反転プレーナ導波路50は、LiNbOの基板51上に形成された結晶MgO:LiNbOの導波路を理想的に備える。導波路50は、導波路50の光学軸59に対して、非ゼロ角度αだけ傾斜している分極反転領域52の配列を含む。換言すれば、分極反転領域52は、光学軸59に対して垂直から角度αだけ離れている。傾斜の方向は導波路50の面内にあり、すなわち、分極反転領域52は、図5Aに対して垂直な軸および導波路50の面に関して角度αだけ傾斜される。具体的には図5Bを参照すると、導波路50は、トレンチ54によって囲まれたコア53を含むリッジ導波路である。2つの酸化物クラッド層55が、MgO:LiNbO導波路50の上部および底部に配置されている。導波路50は、薄い接着層56によってLiNb基板51に固定されている。
【0020】
作動中、図5Aに示されるように、基本周波数の光57が導波路のコア53に入る。周波数変換された光58、例えば周波数が2倍になった光が、導波路50のもう一方の側で光導波路のコア53を出る。領域52が光学軸59に対して角度αだけ傾斜しているので、境界領域での反射は光学軸59に対して角度2αで生じ、このため、反射光が導波路のコア53へ戻って結合することはない。
【0021】
本発明は、図5Aおよび図5Bに示されるように基板上に形成されたリッジ導波路、基板の中に形成された埋設導波路、非プレーナ導波路、非リッジ導波路などを含む様々なタイプの導波路とともに働くことができる。一般に、非線形の光周波数変換に使用されるあらゆる分極反転結晶導波路が、本発明による傾斜した領域から利益を得ることができる。導波路の非線形光学結晶材料には、LiNb、LiTa、KTPまたは他の任意の適切な非線形光学材料が含まれ得る。
【0022】
分極反転領域52の傾斜角がより大きければ、背面反射の抑制がより優れたものになるが、周波数変換効率は低下する可能性がある。5度から20度の範囲が、穏当な変換効率の低下で有益な背面反射抑制をもたらすことが判明している。周波数変換の効率低下を無視し得る程度である一方で、背面反射が都合よく抑制される好ましい範囲は、6度から12度である。分極反転領域52の長さは、一般に2マイクロメートルと7マイクロメートルの間にある。この領域の長さは、導波路50の光学軸59の方向に測定される。
【0023】
図5Aで、領域52の傾斜の方向は、導波路50の面内に、すなわち図5Aの面内にあるが、本発明は、傾斜の方向が導波路50の面に対して垂直である場合または導波路50の面に対して他の角度を形成する場合にも機能することになる。さらに、本発明は、他の導波路タイプ、例えば結晶基板51上に、または同基板の中に形成された導波路とともに機能する。結晶基板51の光学軸(図示せず)は、一般に導波路50の光学軸53に対して所定の関係に配向され、例えば、結晶基板51の光学軸は、導波路50の光学軸53に対して平行であり得る。
【0024】
いま図6Aおよび図6Bを参照すると、本発明の分極反転装置60の実施形態は、上部分極反転電極61および底部分極反転電極62を含む。上部分極反転電極61は、軸64に沿って離隔された傾斜している平行なフィンガの配列63を含む。分極反転導波路50を作製するために、ステップ67で、上部分極反転電極61と底部分極反転電極62の間に、非分極反転(unpoled)導波路65を配置する。ステップ68で、上部分極反転電極61を、フィンガ63と光導波路の光学軸の間の角度が垂直から8度から20度だけ離れるように、光導波路の上部表面63に付ける。次いで、ステップ69で、分極反転電極61と62の間に高電圧66をかけることによりエネルギーを与える。導波路65の損傷を防止するために、上部分極反転電極61と底部分極反転電極62の間に電気的スパークが形成しないように注意する。
【0025】
図7に移って、光源70は、半導体レーザ71と、光ファイバ72によって半導体レーザ71に結合されている周期分極反転光導波路50とを含む。周期分極反転導波路50からの背面反射が少ないので、半導体レーザ71と周期分極反転光導波路50の間に光アイソレータを配置する必要性はない。半導体レーザ71は、好ましくは、エルビウム添加光ファイバを励起するのに適切な近赤外線波長範囲で動作する通信用レーザ・ダイオードである。このようなダイオード・レーザは良好に開発されており、かなりの高信頼性を有する。
【0026】
図7の実施形態では、周期分極反転光導波路50は、2次高調波の発生用に最適化される。周波数が2倍になった出力73は、可視波長の範囲内、例えば緑青色の範囲内にある。一例として、レーザ・ダイオード71が976nmで動作するとき、周波数が2倍になった出力73の波長は488nmである。もちろん、他のレーザ発振する波長を使用することができる。周期分極反転導波路50の材料、導波路の寸法、および分極反転周期は、すべてレーザ・ダイオードおよび出力ビームの仕様に従って選択される。このような選択は、十分に当業者の知識の範囲内にある。
【0027】
非線形周波数変換には、2次高調波発生(SHG)と、3次高調波発生(THG)と、一般に任意の光学パラメータ式発振器(OPO)に使用される和/差の周波数発生とが含まれ得る。別の実例として、976nmの赤外線半導体レーザを前述の傾斜した領域を有するTHGの分極反転導波路に結合することにより、325nmのUV単色光の光源を構築することができる。レーザ71の放射を周期分極反転導波路50に結合するのにレンズベースの自由空間結合器を利用することができるが、ファイバ結合にすると、位置合わせの敏感さが低減され、光源70の安定性および信頼性が改善されるので好ましい。
【0028】
図8を参照すると、976nmから488nmまでの2次高調波を発生するための周期分極反転導波路50のプロトタイプのフロント・エンドが、顕微鏡によって撮影されている。導波路のコア53の幅は4.5マイクロメートルである。トレンチ81の深さは2.1マイクロメートルである。周期分極反転導波路50の厚さは約3.6マイクロメートルであり、幅は4.5マイクロメートルである。導波路50は、両側が酸化物層55で不動態化される。図8では、図8の解像度が限られているために、エポキシ層56が、底部酸化物層55と合着している。エポキシ層56が、導波路50を基板51に固定する。
【0029】
周期分極反転導波路50の光学性能を、2次元時間領域差分法(FDTD)の光学シミュレーションを用いて確認した。比較のために、傾斜のない分極反転領域を有する従来技術の周期分極反転導波路と、傾斜のある分極反転領域を有する類似の周期分極反転導波路の両方に対して光学シミュレーションを実行した。シミュレートされた導波路は、導波路の分極反転領域を表す、大きさが0.5の単一屈折率のステップを含むものであった。傾斜のない領域の導波路に関して、屈折率のステップは導波路に対して垂直であった。傾斜した領域の導波路に関して、屈折率のステップは8度ずつ傾斜させた。シミュレートされた導波路は、どちらも幅4.5マイクロメートルであって、波長976nmにおいて屈折率2.14を有するものであった。クラッドの屈折率は1.0とした。
【0030】
最初に、傾斜のない屈折率のステップのシミュレーションを説明する。図9Aを参照すると、導波路90は、コア90Aおよびクラッド90Bを有する。導波路のコア90Aは、約−11.3マイクロメートルのX座標において(前述のように大きさ0.5の)屈折率のステップ91を有する。大きさ0.5の屈折率の反対方向のステップも、図9Aの導波路90内でX=−8.7マイクロメートルにおいて導波路のコア90Aに付加された(図9Aには示されていない)。シミュレーションは、1つの光源92ならびにX=−9.5マイクロメートルに配置された「伝達」モニタ93およびX=−14.5マイクロメートルに配置された「反射」モニタ94を含むものであった。シミュレーションを簡単にするために、シミュレートされた光源92が、導波路のコア90A内に配置される。光源92は、屈折率のステップ91に向けて、左から右に伝播する平面波を発する。平面波のリッジおよび谷は95で示されている。グレイ・スケールのバー80は、平面波のリッジおよび谷95の電界(E)のy成分の大きさを表す。
【0031】
図9Bに移って、伝達モニタ94によって検出された光パワーの時間依存性が示されている。図9Bで、光パワーは線形の単位でプロットされている。これは光源92のパワーに対して正規化されている。横目盛は「cT」の単位であり、すなわち光源92をオンにしたときからの時間に真空中の光速を掛けたものである。例えば、「10マイクロメートル」は、光が真空中で10マイクロメートル進むのにかかる時間に相当する。伝送波は、cT=−9.5マイクロメートルに配置された伝達モニタ93に、8.5マイクロメートルで到達し始める。実線96は全体の伝達光パワーのレベルを示し、灰色のライン97は誘導伝達光パワーのレベルを示す。誘導伝達パワー97は、伝達された電界Eと導波路90の誘導伝播モードの重なり積分を計算することにより得られる。
【0032】
次に図9Cを参照すると、伝達モニタ93によって検出された光パワーの時間依存性および反射モニタ94によって検出された光パワーの時間依存性が、dB単位で共通の対数グラフに示されている。図9Bと同様に、実線96は全体の伝達光パワーのレベルを示し、灰色のライン97は誘導伝達光パワーのレベルを示す。実線98は全体の反射パワーを示し、灰色のライン99は誘導反射パワーを示す。誘導反射パワー99は、反射された電界Eと導波路90の反対方向の誘導伝播モードの重なり積分を計算することにより得られる。8マイクロメートル未満のcTにおける伝達パワーのレベル96から反射パワーのレベル99へのよれは、シミュレーションのアーチファクトである。4マイクロメートルと8マイクロメートル間のcTで、全体の伝達パワーのレベル96は約−18dBであり、誘導伝達パワーのレベル97は約−40dBである。4マイクロメートルと9マイクロメートル間のcTで、全体の反射パワーのレベル98は約−22dBであり、誘導反射パワーのレベル99は約−41dBである。これらのパワーのレベルは、数値シミュレーションのフロア・ノイズのレベルを表す。約8.5マイクロメートルのcTでは、全体の伝達パワーのレベル96および誘導伝達パワーのレベル97は、図9Bの直線状のパワーレベル1.0および0.8に対応して、それぞれ0dBおよび約−1dBのレベルになる。約11.5マイクロメートルのcTでは、全体の反射パワーのレベル98および誘導反射パワーのレベル99は、それぞれ−18dBおよび−22dBのレベルになる。これらの値は、屈折の境界91からのフレネル反射の大きさとうまく相関する。
【0033】
図10Aから図10Cに、傾斜した屈折率のステップのシミュレーション結果が示されている。特に図10Aを参照すると、屈折率のステップ101が光の伝播方向に対して8度傾斜しているコア90Aを有する導波路100が示されている。反対方向に傾斜した大きさ0.5の屈折率のステップ(図10Aには示されていない)も、図10Aの導波路100内でX=−8.7マイクロメートルにおいて導波路のコア90Aに付加された。シミュレーションの設定の残りは、図9Aのものと同一である。
【0034】
図10Bに移って、傾斜した屈折率のステップ101を有する導波路100において、実線106は全体の伝達光パワーを示し、灰色のライン107は誘導伝達光パワーを示す。誘導伝達パワー107は、伝達された電界Eと導波路100の誘導伝播モードの重なり積分を計算することにより得られる。傾斜した屈折率のステップ101が、伝播させる電磁波と導波路100のわずかな角度の不整合を引き起こすので、誘導伝達パワー107は、図9Bの誘導伝達パワー97より小さい。
【0035】
次に図10Cを参照すると、伝達モニタ94によって検出された光パワーの時間依存性および反射モニタ95によって検出された光パワーの時間依存性が、dB単位で共通の対数グラフに示されている。傾斜した屈折率のステップ101を有する導波路100において、実線106は全体の伝達光パワーを示し、灰色のライン107は誘導伝達光パワーを示す。実線108および灰色のライン109は、それぞれ、導波路100の傾斜した屈折率のステップ101から反射された光波の、全体の反射パワーおよび誘導反射パワーを示す。再び、誘導反射パワー109は、反射された電界Eと導波路100の反対方向の誘導伝播モードの重なり積分を計算することにより得られる。4マイクロメートルと9マイクロメートルの間のcTで、光パワーのレベル106から109は、図9Cの対応する光パワーのレベル96から99とほとんど同一である。約8.5マイクロメートルのcTでは、図10Cの全体の伝達パワーのレベル106および誘導伝達パワーのレベル107は、図9Bの直線状のパワーレベル1.0および0.7に対応して、それぞれ0dBおよび約−1.5dBのレベルになる。約11.5マイクロメートルのcTでは、全体の反射パワーのレベル108および誘導反射パワーのレベル109は、それぞれ−17.7dBおよび−37dBのレベルになる。直線状の屈折率のステップ91を有する導波路90に対して、対応する誘導反射光パワーのレベルが−22dBになることに留意されたい。
【0036】
図9Cで、誘導反射光パワー109は、誘導反射光パワー99より約15dB小さい。したがって、屈折率のステップ101を8度だけ傾斜させると、誘導反射光パワーが15dB低下する。したがって、図9A〜図9Cのシミュレーションおよび図10A〜図10Cのシミュレーションは、導波路50の傾斜している分極反転領域が、15dB程度の背面反射の抑制をもたらすことを示している。
【0037】
屈折率のステップ101の4度と25度の間の傾斜角αで、類似の計算が実行された。誘導背面反射は、少なくとも5度の傾斜角αで効果的に抑制されると判定された。非線形変換効率の低下は、領域52の傾斜角α次第ということになる。一般に、傾斜角αがより大きいと変換効率が低下することになり、このため、兼ね合いの傾斜角αを見いだす必要がある。傾斜角αが20度を超えるとSHGのための光学的変換効率の低下が25%超となり、一方、傾斜角αが8度であると、光学的変換効率の低下はわずか10%以下であると推定された。本発明では、光導波路50の分極反転の周期性が保たれているので、変換効率の低下は穏当なものである。一般に、傾斜角αが5度と20度の間であれば実用になると判明しており、6度と12度の間の範囲が好ましい。したがって、図6Aの電極61の平行なフィンガ63の傾斜角は、好ましくは5度と20度の間に、最も好ましくは6度と12度の間に選択されている。
【0038】
図9Aの導波路90および図10Aの導波路100の、定常状態の光パワー分布のシミュレーションが実行された。このシミュレーションに用いられた構造は、図9Aおよび図10Aのものと同一である。パワー・モニタ93および94で観測された光場の時間領域データに対して、高速フーリエ変換(FFT)が実行された。光源の波長は、0.8マイクロメートルから1.2マイクロメートルまで変化された。
【0039】
図11に移って、直線状の導波路領域の場合についてシミュレートされた反射光パワーおよび伝達光パワーのスペクトルのグラフが対数目盛で示されている。全体の伝達光パワーの波長依存性を表すライン116、誘導伝達光パワーを表すライン117、全体の反射光パワーを表すライン118、および誘導反射光パワーを表すライン119は、それぞれ入力パワー値に対して正規化されている。4つのスペクトル116、117、118、および119のすべてに見られるピーク構造は、2つの直線状の屈折率のステップの間で観察されたエタロンのような効果からもたらされるものである。誘導反射光パワーのスペクトル119のピークは、入力光パワー値を−3dBから−6dB下回っている。
【0040】
次に図12を参照すると、傾斜した導波路領域の場合についてシミュレートされた反射光パワーおよび伝達光パワーのスペクトルのグラフが対数目盛で示されている。全体の伝達光パワーの波長依存性を表すライン126、誘導伝達光パワーを表すライン127、全体の反射光パワーを表すライン128、および誘導反射光パワーを表すライン129は、それぞれ入力パワー値に対して正規化されている。誘導反射光パワーのスペクトル129のピークは、入力光パワー値を−19dBから−22dB下回っている。したがって、8度傾斜した領域で反射されて導波路100へ戻る誘導光が、約16dB少ない。
【0041】
戻って図7を参照すると、レーザ・ダイオード71へ戻る反射光が15〜16dB低減することにより、レーザ・ダイオード71の安定性がかなり改善し、したがって、光源70の出力光信号73のパワーの安定性が改善する。
【0042】
前述の、本発明の1つまたは複数の実施形態の説明は、具体例および説明のために提示されている。この説明は、網羅的であったり、本発明を開示された明確な形態に限定したりするようには意図されていない。上記の教示の観点から、多数の変更形態および変形形態が可能である。本発明の範囲は、この詳細な説明によってではなく、本明細書に添付されている特許請求の範囲によって限定されるように意図されている。
【符号の説明】
【0043】
50 導波路
52 分極反転領域
53 コア
54 トレンチ
57 基本周波数の光
58 周波数変換された光
59 光学軸
60 分極反転装置
61 分極反転電極
62 分極反転電極
63 フィンガの配列
64 軸
65 導波路
66 高電圧
70 光源
71 半導体レーザ
72 光ファイバ
73 出力
80 グレイ・スケールのバー
81 トレンチ
90 導波路
90A コア
90B クラッド
91 屈折率のステップ
92 光源
93 伝達モニタ
94 反射モニタ
95 平面波のリッジおよび谷
96 全体の伝達光パワー
97 誘導伝達光パワー
98 全体の反射パワー
99 誘導反射パワー
100 導波路
101 傾斜した屈折率のステップ
106 全体の伝達光パワー
107 誘導伝達光パワー
108 全体の反射パワー
109 誘導反射パワー
116 全体の伝達光パワーの波長依存性
117 誘導伝達光パワー
118 全体の反射光パワー
119 誘導反射光パワー
126 全体の伝達光パワーの波長依存性
127 誘導伝達光パワー
128 全体の反射光パワー
129 誘導反射光パワー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学結晶材料を備える周期分極反転光導波路であって、前記光導波路の分極反転領域が、そこに伝播する光の背面反射を低減するために、前記光導波路の光学軸に対して傾斜している光導波路。
【請求項2】
前記分極反転領域と前記光学軸の間の角度が、5度から20度だけ垂直から離れている請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記分極反転領域と前記光学軸の間の前記角度が、6度から12度だけ垂直から離れている請求項2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記光導波路がプレーナ導波路であり、前記傾斜の方向が前記光導波路の面内にある請求項1に記載の光導波路。
【請求項5】
前記分極反転領域の長さが、2マイクロメートルと7マイクロメートルの間にある請求項1に記載の光導波路。
【請求項6】
前記非線形光学結晶材料が、MgO:LiNbO、LiNbO、LiTaO、およびKTPから成る群から選択される請求項1に記載の光導波路。
【請求項7】
前記光導波路が、前記光導波路の前記光学軸に対して平行な光学軸を有する結晶基板の上または中に配置される請求項1に記載の光導波路。
【請求項8】
リッジ導波路タイプの請求項1に記載の光導波路。
【請求項9】
半導体レーザおよびこれに結合された請求項1に記載の光導波路を備えることにより、作動中、前記半導体レーザの放射周波数が、前記光導波路によって前記放射周波数と異なる出力周波数に変換される光源。
【請求項10】
前記出力周波数が、前記レーザの放射周波数の2倍である請求項9に記載の光源。
【請求項11】
前記半導体レーザを前記光導波路に結合するための長さの光ファイバをさらに備える請求項9に記載の光源。
【請求項12】
光学結晶の上または中に形成された光導波路を分極反転する方法であって、
(a)第1の軸に沿って離隔された傾斜している平行なフィンガの配列を有する分極反転電極を設けるステップと、
(b)前記分極反転電極を前記光導波路の外面に付けるステップと、
(c)前記分極反転電極にエネルギーを与えて、前記光導波路の中に、傾斜している分極反転領域の配列を形成するステップとを含む方法。
【請求項13】
ステップ(b)で、前記フィンガと前記光導波路の光学軸の間の角度が、5度から20度だけ垂直から離れている請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(b)で、前記角度が6度から12度の間である請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−118528(P2012−118528A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−258524(P2011−258524)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(502151820)ジェイディーエス ユニフェイズ コーポレーション (90)
【氏名又は名称原語表記】JDS Uniphase Corporation
【住所又は居所原語表記】430 N. McCarthy Boulevard, Milpitas, California, 95035, USA
【Fターム(参考)】