説明

周波数を選択するためのシステム及び方法

無線送信機は、配置されている受信機の周波数特性及びクロック高調波に基づいて動作周波数を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は共存している無線装置に関連し、特にそのような装置を同時に適切に動作させる方式に関連する。
【背景技術】
【0002】
通信において、コロケーション(collocation)とは2つの物体が接近して位置している物理的な配置をいう。例えばコロケーションは2つの無線装置の間で生じる。コロケーションによるマルチ無線プラットフォーム(collocated multiple-radio platform)において、異種の無線装置からの隣接的又は周期的なチャネル干渉が問題となりつつある。ある無線機から送信された信号はコロケーション無線機(collocated radio)に漏れ込み、その受信機のパフォーマンスを劣化させてしまう。劣化が生じてしまう対象物は本願において被干渉局(victim)と言及され、例えば、被干渉無線機、被干渉送信機又は被干渉受信機等と言及される。典型的な共存する送信機から受信機への干渉の影響は、受信機のチャネル周波数に混入する送信機ノイズと、共存する送信機による受信機ブロッキング(receiver blocking)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007-47669号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
送信機ノイズは、送信機における位相/LO(局部発振器)ノイズ及び不完全なフィルタリングに起因する帯域外放射(out of band:OOB)によるものである。送信機ノイズはカラーノイズ(colored noise)、白色ノイズ又はスパーズ(spurs)の形式をとる。受信機ブロッキングにはいくつもの要因があり、例えば、受信機の圧縮処理、受信機及び送信機の漏れ信号同士の相互変調(cross modulation)、受信機におけるアナログディジタル(A/D)変換器の限られたダイナミックレンジ、レシプロカルミキシング等である。
【0005】
クロック信号は典型的にはディジタル方形波パルスとして特徴付けられ、大きなスペクトルエネルギを有する急峻なエッジを有する。このスペクトルエネルギは、クロック信号周波数の整数倍の周波数で高調波周波数成分(高調波又はハーモニクスと言及する)を生成する。ハーモニクスはクロック信号を搬送するラインから生じ、そのラインは論理回路を相互接続する。ハーモニクスは、ある無線機の送信信号と共に混変調(inter-modulate)し、他の無線機の周波数帯域における干渉を生じさせてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施例によるシステムは、
Fから始まり帯域幅がBである所定の周波数で動作する受信機と、
クロック周波数f0で動作する帯域幅b0の内部クロックを有し、所定の周波数範囲内で動作する送受信機と、
前記所定の範囲内から前記送受信機の動作周波数の範囲を選択する周波数選択エンジンと
を有し、前記周波数選択エンジンは、
{x<F+f0},{F+B+(k-1)f0<x<F+kf0, (k>1)}又は
{F+B-kf0<x<F-b0-(k-1)f0, (k>1)},{F+B-f0<x}
の何れかの数式を用いて複数の動作周波数の範囲を選択する、システムである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】2つのコロケート装置及び周波数選択エンジンを有する一実施例によるシステムのブロック図。
【図2】図1の周波数選択エンジンで実行される一実施例による動作例を示すフローチャート。
【図3】一実施例におけるブルートゥース信号スペクトルを示す図。
【図4】いくつかの混変調送信スパーズ及び帯域外放射を伴う一実施例におけるブルートゥース信号スペクトルを示すグラフ。
【図5】一実施例において2444及び2448MHzを送信するブルートゥース送信機と共に共存するWiMAX送信機の10MHzスペクトルを示す図。
【図6】一実施例によるチャネル選択の影響を示すブルートゥース送信機のノイズ及びWiMAX中心周波数(2508MHz)におけるノイズフロアを示す図。
【図7】周波数選択エンジンによって3つのスペクトル部分が除去されている一実施例によるブルートゥース信号スペクトルを示すグラフ。
【図8A】共存するブルートゥース送信機及びWiMAX受信機が干渉することなく動作を行わせる周波数選択エンジンが実行する一実施例による動作例を示すフローチャート。
【図8B】共存するブルートゥース送信機及びWiMAX受信機が干渉することなく動作を行わせる周波数選択エンジンが実行する一実施例による動作例を示すフローチャート。
【図9】一実施例により周波数選択エンジンを動作させている様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願により開示される発明の様々な実施形態及び利点は添付図面を参照しながら以下の詳細な説明を理解することで明らかになる。図中、同様な参照番号は特に断りのない限り同様な部分を指す。
【0009】
本願において説明される実施例によれば、送信機の混変調スパーズ(inert-modulation spur)による問題に対処する新規な方法が開示される。この新規な方法を用いることで、クロックハーモニクス及び共存する被干渉受信機の周波数特性に基づいて、無線送信機は動作周波数を選択することができる。一実施例において、ブルートゥース無線送信機は、クロックハーモニクス及びWiMAX受信機の周波数特性に基づいて動作周波数を選択する。マイクロ波アクセスに関する世界標準方式(WiMAX)は、現在、IEEE(電気電子技術者協会)802.16に関する一連の標準仕様によって規定されている。
【0010】
一実施例によるブルートゥース無線送信機20及び共存するWiMAX受信機40を含むシステム100が図1に示されている。ブルートゥース無線送信機20はハーモニクスを生成するクロック30を含む。(ブルートゥース無線送信機20は送信機及び受信機として動作するが、簡明化のためここでは受信機と言及する)。周波数選択エンジン(frequency selection engine:FSE)200はクロック30の周波数及び帯域幅に加えて、受信機40の周波数及び帯域幅を用いて送信機20の動作周波数を決定する。周波数選択エンジン200の動作の詳細は後述する図2及び図8のフローチャートに示されている。周波数選択エンジン200はソフトウェア、ハードウェア又はソフトウェア及びハードウェアの組み合わせにより実現されてもよい。FSE200がシステム100においてどのように動作するかを説明する前に、いくつかの背景技術を説明する。周波数選択エンジン200又は周波数選択方法は、与干渉送信機(aggressor transmitter)が十分に広い範囲内で動作周波数を動的に変更することができるシステムに相応しく、送信機は、共存する被干渉受信機の受信周波数においてスパーズ(spurs)が落ち込んでいる周波数を避けることができる。他のタイプの与干渉送信機も存在するが、周波数ホッピング拡散スペクトル(FHSS)送信を特徴付ける送信機は、周波数選択方法200に相応しい候補である。FHSSは、送信機及び受信機の双方にとって既知の疑似ランダムシーケンスを用いて、多数の周波数チャネルの中でチャネルを切り替えながら、無線信号を送信する方法である。ブルートゥース送信機はFHSS方式を使用している。図1において、ブルートゥース無線送信機20は与干渉送信機であり、WiMAX無線受信機40は共存する被干渉受信機である。同様に、固定された動作周波数の送信機のようなFHSSを行わない送信機は、その送信機が広範囲に及ぶ選択可能な周波数/チャネルを有する限り、FSE200の適切な候補である。
【0011】
xが無線送信機の動作周波数を指定し、k次のクロックハーモニクスに関し、fk及びbkが最低の周波数及び帯域幅をそれぞれ指定するものとする。通常、fkはkf0に等しく、f0はクロック信号の周波数であり、b0はクロックハーモニクスの帯域幅である。周波数選択エンジン200は、クロックハーモニクスが同一の帯域幅を有するものと仮定している。それらの帯域幅が異なる場合、一実施例において、b0は全てのハーモニクスの最大値に設定される。
【0012】
これらの仮定から、k={1,2,...}に関し、2次の混変調の周波数範囲は次のように得られる:
[x+kf0,x+kf0+b0]&[x-kf0-b0,x-kf0] (1)
被干渉受信機の最低周波数がFであり、帯域幅がBであり、信号の範囲がF及びF+Bの範囲であった場合、共存する送信機は、クロックハーモニクスに起因する2次の混変調干渉を完全に避けるために、以下の範囲でしか動作すべきでない:
受信機周波数が送信機周波数より低い場合:
{x<F+f0},{F+B+(k-1)f0<x<F+kf0, (k>1)} (2a)
受信機周波数が送信機周波数より高い場合:
{F+B-kf0<x<F-b0-(k-1)f0, (k>1)},{F+B-f0<x} (2b)
一実施例において、周波数選択エンジン200は、図2のフローチャートに示されているように、ブルートゥース無線送信機20(図1)の動作周波数を選択する際に数式(2a)又は(2b)(まとめて「数式2」と言及する場合がある)を適切に使用する。先ず、周波数選択エンジン200は、ブルートゥース無線送信機20のクロックハーモニクスの周波数特性(f0及びb0)を取得する(ブロック202)。FSE200は与干渉受信機(目下の例の場合、WiMAX受信機40)の周波数特性(F及びB)も取得する(ブロック204)。ブロック202及び204の処理の順序は逆でもよい。これらの情報から、FSE200は数式2を用いて、x、ブルートゥース無線送信機20の動作周波数の範囲を計算し(ブロック206)、共存する受信機が過剰な干渉なしに動作できるようにする。
【0013】
例えば、図1のブルートゥース無線送信機20が32MHzの内部クロック30を有し、共存するWiMAX受信機40が2508MHzで動作するとする。WiMAXは10MHzのスペクトルにわたって動作するので、動作範囲は2503及び2513(2508±5)であり、F=2503(WiMAX装置の最低動作周波数)となる。更に、f0=32、b0=1及びB=10である。数式2bにおいて、xを求めると、ブルートゥース無線送信機20は、数式2bを満たしかつWiMAX無線受信機40との干渉を避けるために、2402-2406MHz(k=4)、2417-2438MHz(k=3)又は2449-2470MHz(k=2)の間で動作するように決定される。(k=4の場合、数式2bは2385-2406MHzの動作範囲をもたらすが、ブルートゥース送信機20の動作範囲は2402-2480MHzなので、動作範囲の低周波側が制限される)。図2において、FSE200はブルートゥース送信機20に適切な動作周波数の範囲を提供し、装置がWiMAX受信機40と共存できるようにする。
【0014】
別の例として、図1のブルートゥース無線送信機20が32MHzの内部クロック30を有し、共存するWiMAX受信機40が2350MHzで動作するとする。WiMAXは10MHzのスペクトルにわたって動作するので、動作範囲は2345及び2355(2350±5)であり、F=2345(WiMAX装置の最低動作周波数)となる。更に、f0=32、b0=1及びB=10である。数式2aにおいて、xを求めると、ブルートゥース無線送信機20は、数式2aを満たしかつWiMAX無線受信機40との干渉を避けるために、2402-2409MHz(この場合も動作範囲はブルートゥース送信機の動作周波数によって制限される)、2420-2441MHz又は2452-2473MHzの間で動作するように決定される。数式2aも数式2bも利用可能な周波数の範囲を求めるために使用される。これらの数式の内の一方は送信機の動作範囲外の周波数範囲を選定するかもしれない。その場合、その代わりに他方の数式が使用される。
【0015】
ブルートゥース及びWiMAX無線送信機が共存する事例研究において、送信信号に伴うクロックリーケージ混変調は送信機スパーズ(transmission spurs)を招き、送信機スパーズは送信周波数の両側で生じるおそれがある。これらのスパーズの送信電力は、ノイズフロアよりも十分に大きいが、それでも規制条件によって課されるスペクトルマスクよりも低い。チップ/基板の設計者は送信機スパーズを除去するために余分な労力及び費用をかけたがらない。なぜなら複合的な無線処理は、通常、設計の考察対象外だからである。
【0016】
図3は、現在利用可能なよく普及しているブルートゥースチップによるブルートゥース送信スペクトル50を示す。ブルートゥースチップは2460MHzの固定された周波数で送信を行っている(周波数ホッピング機能はオフにされている)。ブルートゥースチップは32MHzの内部クロックを有する。
【0017】
図3に示す区間又はスパン50は400MHz分のデータを含み、グラフの中の縦線各々は40MHzの変化分を表す。ブルートゥース無線機の送信周波数(F1)及び内部の狭帯域低周波クロック(F2)は共に結合され、(F1-2F2)、(F1-F2)、(F1+F2)、(F1+2F2)におけるいくつもの送信スパーズを形成し、これらは混変調周波数成分(inter-modulation frequency components)と言及され、これらのスパーズは32MHzずつ離れている。2460MHzの信号は32MHzのブルートゥースクロックと混合される。図中のマーキング(Marker)はスパーズの位置を示し、各スパーズの周波数(X_Axis)及び振幅(Amplitude)はグラフ50の下側に示されている。
【0018】
図3に示す画面50はブルートゥース装置の性質を表している。低コストの設計によるブルートゥース送信機は安価なミキサ及び/又は安価なフロントエンドモジュールを有するかもしれない。ブルートゥース送信機20の動作周波数と自身のクロック30との混変調又は内部変調は、図3に示すスパーズを引き起こすおそれがある。
【0019】
ブルートゥース無線送信機は、典型的には、チャネル干渉の克服を支援するように周波数ホッピングを行っている。無線機は、(例えば、DM1、DM3、DH1、DH3のような)ある選択された変調方式を用いて1つのパケットにつき一度に1つの周波数(1MHz帯域幅)を使用する。そして、ブルートゥース無線機は、受信機にとって既知の事前に合意している周波数ホッピングパターンに基づいて、次のパケットに対して別の周波数に移る(ホッピングする)。利用可能なホッピングチャネルは2402MHzから2480MHzまでの間にあり、合計79個のチャネルがある。
【0020】
混変調が存在する場合、各送信機は図3に示すものと同様なスパーズパターンを有する。その結果、ある時間期間にわたるメインの送信周波数(F1)及び全ての混変調スパーズ(F1±kF2)の双方は、互いに重複する一群の送信パターンをもたらす。
【0021】
図4は送信スパーズを表す別のグラフ60を示す。グラフ60は周波数(x軸)に対する振幅(y軸)の関係を示す。ブルートゥース無線送信機20は、2402MHzから始まり2480MHzで終了する79チャネルの内の何れかにより送信を行う。最初の送信スパーズは2434MHz(原出願の図面では桃色)、2番目のスパーズは2466MHz(原出願の図面では黄色)、3番目のスパーズは2498MHz(原出願の図面では青色)、4番目のスパーズは2530MHz(原出願の図面では紫色)及び5番目のスパーズは2562MHz(原出願の図面では茶色)に生じている。スパーズをもたらす方形波と同様に、送信スパーズの各々は79(1MHz)チャネルの幅を有する。表1は図4に示す内容の詳細を示す。
【0022】
表1:ブルートゥース送信とスパーズ
【0023】
【表1】

図4には帯域外放射も示されている。帯域外(OOB)放射及び混変調(スパーズ)はいずれもノイズフロアを上昇させる。OOB送信は、送信周波数から離れるにつれて徐々に平坦になる。ある地点(個の例では約2497MHz)において、混変調スパーズが支配的になり、帯域外放射が混変調エネルギレベル未満になる。
【0024】
図5は、2444MHzのブルートゥース送信機が存在する場合における2508±5MHz(WiMAX受信機40の動作周波数)での10MHzスペクトルキャプチャを示す。送信信号は、-71dBm(混変調)、-85dBm(帯域外)及び-96dBm(熱雑音)に生じている。原出願の図面における青色の曲線は、2444MHzで動作するブルートゥース無線送信機20を伴う場合の5msワンショットキャプチャを示す(この周波数は、WiMAX受信機の動作周波数である2508MHzから64MHz隔たっている)。5msの間に、ブルートゥース送信機及び受信機は交互に動作し、各々はブルートゥーススロット1つ分(625μs)の間動作する。混変調スパーズは送信期間の間でのみ生じ、ブルートゥース送信機がアクティブでない場合、ノイズフロアは-96dBmになる。
【0025】
原出願の図面における黄色の曲線は、2444MHzで動作するブルートゥース無線送信機を伴う場合の最大ホールド曲線(maximum hold curve)である。2508MHzにおいて9MHzにわたって-71.39dBmの混変調スパーズが生じており、ノイズフロアは-85dBmであり、送信機の帯域外放射レベルが支配的である。原出願の図面におけるピンク色の曲線は、2448MHzで動作するブルートゥース無線送信機を伴う場合の最大ホールド曲線である(2448MHzは上記の2444MHzから右側に4MHzずれている)。スパーズも4MHz右側の2512MHzにシフトし、スパーズが混変調に起因することを示す。
【0026】
図6は、ブルートゥースが実際の音声アプリケーションを使用している際における「ゼロスパン最大ホールド(zero span maximum hold)」モードでの2508MHz付近の別のグラフを示し、実質的には2508MHzにおける平坦なノイズフロアを示す。ブルートゥース送信機が2402-2421MHzの間でホッピングすると(図4に示す79チャネルの内、左端の20チャネル)、原出願の図面において青色の曲線が得られる。ブルートゥース送信機は何れかの動作周波数と結合する32MHzの内部クロックを有するので、ノイズフロアは-70dBmに上昇する。
【0027】
ブルートゥース送信機が2402-2422MHzの範囲内でホッピングするが、2508MHzから96MHz隔たっている2412MHzを除く場合、原出願の図面における黄色の曲線が得られる。すなわち、同じ20個のチャネルを選定した後に、2508MHz(WiMAX動作周波数)から32チャネルの倍数だけ隔たっているもの(すなわち、2412MHz)は、選定されたチャネルの中から除外される。そして、別のチャネルがレンジの後に付加され(2422MHz)、全部で20個の利用可能なチャネルが残るようにする。
【0028】
図6は、問題となる周波数(2412MHz)を単に置換(交換、スワッピング)することで、ノイズフロアをほぼ14dB低減できることを示す(-70dB → -84dB)。原出願の図6におけるピンク色の曲線はブルートゥース送信機が動作していない場合を示し、これは熱雑音レベルを示す。図6は、2508MHzのWiMAX周波数において、左端20MHzのブルートゥース送信機の帯域外放射は熱雑音レベルよりも約8dB大きいこと、及び混変調スパーズは熱雑音レベルよりも約23dB大きいことを示す。
【0029】
一般的なWiMAX加入者局(サブスクライバ)は、受信信号強度指標(RSSI)が-80dBm以下の信号を受信する。適切な(正規の範囲にある)信号対雑音比を得るには、ノイズフロアを過剰に高くしてはならない。設計の制約に起因して、特にウルトラ方式の移動装置(ultra mobile device)の場合、ブルートゥース送信機/WiMAXのアンテナアイソレーションを25dBより大きくすることはしばしば困難である。ブルートゥース送信機の混変調スパーズを避けることにより、ノイズフロアは通常の送信機の帯域外レベルまで低減できることを、図6は示している。この例によりノイズフロアを15dB改善できることは、ブルートゥース送信機とWiMAXアンテナとの物理的な距離を何デシベルも減少させることと等価である。
【0030】
ブルートゥースは79個のチャネルの中で選択的に周波数をホッピングさせる自由度又は機能を有し、ブルートゥースの標準仕様は、僅か20個のチャネルを最低限必要とすることを規定している。これは、ブルートゥース装置がそのパフォーマンスを犠牲にすることなく僅か20チャネルで動作可能であることを意味する。しかしながら、ブルートゥースは、高いビットエラーレートがチャネルで生じていることを検出するまで(適応周波数ホッピング(AFH)の場合)、或いはブルートゥース送信機-WiMAXの共存するプロトコルで具体的に要求されるまで、そのチャネルの選択を見合わせない(チャネルを変更しない)。AFH及びブルートゥース-WiFiの共存しているプロトコルはチャネル内干渉を改善するように意図されている(ブルートゥース及びWiFiは同じ産業科学医療用(Industry Scientific and Medical:ISM)バンドで動作するので、それらは互いに干渉する)。これらによる動作は、ブルートゥースとWiMAXとの干渉のような混変調に起因する送信機スパーズに対処するものではない。FSE200は、チャネル外の干渉に対処するように設計されている。WiMAXからブルートゥース又はブルートゥースからWiMAXへの上記の干渉の状況はチャネル外干渉の状況(out-of-channel interference situations)であり(一方が2.4GHzのスペクトルで動作し、他方が2.5又は2.3GHzのスペクトルで動作している)、「高いビットエラーレート」によっては検出されず(特に、ブルートゥースチャネルでは検出されず)、既存のブルートゥース-WiFi共存プロトコルによっても検出されない。
【0031】
一実施例において、周波数選択エンジン200はブルートゥースのチャネルホッピング機能を活用し、ブルートゥースの動作チャネルから一部の周波数を除去する。これを行うと、混変調スパーズがWiMAX動作チャネルに影響しなくなる。20チャネルの周波数の中から1つのチャネルを除去することが、いかに顕著な効果をもたらすかを、図6は示している。帯域外送信に起因するWiMAX動作周波数に近い周波数をやみくもに(blindly)除去するのではなく、FSE200は混変調チャネルを賢明に(intelligently)除去する。図6に関して説明したように、FSE200は、(WiMAX動作周波数から)遠く離れてはいるがWiMAX動作周波数に近いものと干渉するおそれがあるチャネルを安全のために置換してもよい。2つの共存する装置に対する周波数間隔を広げる従来の方法は使用されず、その代わりに、FSE200は良好な結果をもたらすようにチャネルを合理的又は賢明に除去する。
【0032】
図2に示すアルゴリズム(又は後述する図8A及び8Bに示す簡易なアルゴリズム)を用いて、FSE200は、WiMAX無線機及びブルートゥースのクロック信号の周波数特性に基づいて、ブルートゥース無線機に相応しい動作チャネルを選択し、物理的には同じ装置内に併存しているのでそれらの周波数特性は容易に取得できる。そのような情報を取得する及びブルートゥース無線機の動作を制御するための実際のハードウェアアーキテクチャ及び手段については本願の対象外である。
【0033】
2508MHzで動作する10MHzWiMAX無線受信機の上記の例に関し、図4は、WiMAX受信機のチャネルがブルートゥース無線送信機の第1(ピンク色)、第2(黄色)及び第3(青色)の混変調スパーズと重なっていることを示す。WiMAXチャネルスパーズを完全に除去するために、一実施例では、図7及び8に示すように、ブルートゥース送信機は79チャネルのうち3つの異なる周波数群(周波数チャンク)を除去する。
【0034】
図7は、79チャネルのブルートゥース通信スペクトルの内の異なる3つの部分をFES200がどのように除去しているかを視覚的に示すグラフ90である。図8A及び8BはFSE200が実行するフローチャートを示す。図1のブルートゥース送信機20及びWiMAX受信機40に関し、図2及び図8A又は8Bによる処理は同じ結果をもたらす。しかしながら、図8A及び8Bは、図3-6に関して説明した状況において、利用可能なブルートゥース周波数を分割する2つの簡易な方法を提示する。
【0035】
図8Aにおける最初の2つの処理は図2に示すものと実質的に同じである。周波数選択エンジン200はブルートゥース送信機のクロック30の周波数f0(ブロック202A)及びWiMAX受信機40の開始周波数(ブロック204A)を取得する。(ブルートゥースクロックの帯域幅b0は1MHzであり、WiMAXの帯域幅Bは10MHzである)。これらにより、FSE200は、y1、y2及びy3を求める3つの計算:y1=F+3f0(ブロック206A)、y2=F+2f0(ブロック208A)及びy3=F+1f0(ブロック210A)を実行する。これらの処理は上記の数式2aにおける計算の近似に近い。同様に、図8Bの場合、周波数選択エンジン200はブルートゥース送信機のクロック30の周波数f0(ブロック202B)及びWiMAX受信機40の開始周波数(ブロック204B)を取得する。(ブルートゥースクロックの帯域幅b0は1MHzであり、WiMAXの帯域幅Bは10MHzである)。これらにより、FSE200は、y1、y2及びy3を求める3つの計算:y1=F-3f0(ブロック206B)、y2=F-2f0(ブロック208B)及びy3=F-1f0(ブロック210B)を実行する。これらの処理は上記の数式2bにおける計算の近似に近い。
【0036】
図7に示されているように、79チャネルのブルートゥース通信スペクトルの内、それぞれ10MHzの3つの部分は、ブルートゥース送信機には利用不可能なものとして除去されている。表2は79チャネルのブルートゥーススペクトルを示し、3つの部分がブルートゥース送信機20には利用できないものとして示されている。
【0037】
表2:FSE200による処理がなされた後のブルートゥーススペクトル
【0038】
【表2】

図7及び表2に示されているように、ブルートゥース送信機20は、3つの10MHzを除外しているが、選択可能な49個のチャネルを有する。従ってブルートゥース送信機20は制限無く使用できる。図7に示されているように、79チャネルの送信スペクトルにおける「欠落部分又はホール(holes)」は送信スパーズにおいても反復され、周波数2503MHz-2513MHzにおいてもスパーズが生じていない。したがってWiMAX受信機40は混変調ノイズなしに10MHzのスペクトルを使用できる。排除されるチャネルの帯域幅は10MHzであり、これは10MHzであるWiMAXの帯域幅Bに起因する。しかしながら数式2は他の被干渉受信機の帯域幅にも合うように一般化されてもよい。例えば場合によってはWiMAXは5MHzの帯域幅で動作し、この場合、結果が若干異なることになる。しかしながら、共存する受信機と共に動作するのに有効な送信機帯域幅を算出する際に数式2が使用されてもよい。
【0039】
図9はブルートゥース送信機がハンズフリー機能を動作させている場合における2508±50MHz付近の実際のスペクトルキャプチャを示す。図7に示されているように、ブルートゥース送信機は79個の利用チャネルの内30チャネルを除去して構築されている。その結果、図9の曲線(原出願の図面では黄色の曲線)に示されているように、FSE200は2508MHz付近の送信機混変調スパーズを除去し、ノイズフロアを帯域外放射レベル(原出願の図面では赤色の線)に至るほど10dBも減少させている。原出願の図面におけるピンク色の線は、ブルートゥース送信機が送信を行っていない場合における熱雑音レベルを示す基準線(ベースライン)である。
【0040】
FSE200はクロックのハーモニクスに起因する送信機の混変調スパーズを除去する簡易な方法を提供する。本方法は、共存する無線送信機のノイズフロアを送信機の帯域外放射レベルまで減少させることで、干渉に対する受信機の感度を改善する。既存の媒体アクセス制御(MAC)を用いた方法と比較して、FSE200は無線機同士の分離(アイソレーション)条件を緩和し、真の協同を達成する。
【0041】
FSE200は新規な処理を行い、動作周波数又はチャネルは、共存する他の受信機及びローカルクロックの周波数特性に従って明示的に制御され、送信機スパーズをスペクトルの外に移し、混変調の影響を最小化する。同一のプラットフォームにおける共存する他の受信機(例えば、WiMAX)の帯域幅及び動作周波数に関する送信機混変調スパーズが変わった場合、その変化(抵触する状況)が検出される。
【0042】
以上、本願は限られた数の実施形態に関連して説明されてきたが、当業者は多数の修正例及び変形例を認めるであろう。添付の特許請求の範囲はそのような変形例及び修正例の全てが本発明の精神及び目的の範囲内に包含されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fから始まり帯域幅がBである所定の周波数で動作する受信機と、
クロック周波数f0で動作する帯域幅b0の内部クロックを有し、所定の周波数範囲内で動作する送受信機と、
前記所定の範囲内から前記送受信機の動作周波数の範囲を選択する周波数選択エンジンと
を有し、前記周波数選択エンジンは、
{x<F+f0},{F+B+(k-1)f0<x<F+kf0, (k>1)}又は
{F+B-kf0<x<F-b0-(k-1)f0, (k>1)},{F+B-f0<x}
の何れかの数式を用いて複数の動作周波数の範囲を選択する、システム。
【請求項2】
前記送受信機における受信部は、混変調に起因する前記送受信機による送信スパーズの影響を受けない、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記送受信機がWiMAX受信部を含む、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記Bが10MHzである、請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記WiMAX受信部が2503MHz及び2513MHzの間で動作する、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記送受信機が1MHzの帯域幅で動作するブルートゥース装置である、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記ブルートゥース装置である前記送受信機が周波数ホッピングを行う、請求項6記載のシステム。
【請求項8】
前記所定の周波数範囲が2402MHz及び2480MHzの間にある、請求項6記載のシステム。
【請求項9】
受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得するステップと、
複数のチャネル通信スペクトルの中で一度に1つのチャネルを使用する周波数ホッピングを行う拡散スペクトル無線送信機のクロック周波数を取得するステップと、
前記所望の動作周波数に対して前記クロック周波数を加算又は減算し、第1の周波数を求めるステップと、
前記所望の動作周波数に対して前記クロック周波数の2倍を加算又は減算し、第2の周波数を求めるステップと、
前記所望の動作周波数に対して前記クロック周波数の3倍を加算又は減算し、第3の周波数を求めるステップと、
前記第1の周波数から該第1の周波数に前記帯域幅を加えた周波数まで、前記第2の周波数から該第2の周波数に前記帯域幅を加えた周波数まで、及び前記第3の周波数から該第3の周波数に前記帯域幅を加えた周波数までの範囲内で動作しないように、前記拡散スペクトル無線送信機をプログラミングするステップと
を有する方法。
【請求項10】
受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得する前記ステップにおいて、干渉を被る受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得する前記ステップにおいて、WiMAX受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
WiMAX受信機の帯域幅及び所望の動作周波数を取得する前記ステップにおいて、2508MHzの所望の動作周波数及び10MHzの帯域幅を取得する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
周波数ホッピングを行う拡散スペクトル無線送信機のクロック周波数を取得する前記ステップにおいて、ブルートゥース無線送信機のクロック周波数を取得する、請求項9記載の方法。
【請求項14】
Fから始まり帯域幅がBである所定の周波数で動作する被干渉受信機と、
クロック周波数f0で動作する内部クロックを有し、所定の周波数範囲内で動作する送受信機と、
前記所定の範囲内から前記送受信機の動作周波数の範囲を選択する周波数選択エンジンと
を有し、前記周波数選択エンジンは、
F±f0からF±f0+Bである第1の動作周波数範囲を選択し、
F±2f0からF±2f0+Bである第2の動作周波数範囲を選択し、
F±3f0からF±3f0+Bである第3の動作周波数範囲を選択し、
前記被干渉受信機は、混変調に起因する前記送受信機による送信スパーズの影響を受けない、システム。
【請求項15】
前記与干渉受信機がWiMAX受信機である、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記WiMAX受信機が2503MHz及び2513MHzの間で動作する、請求項15記載のシステム。
【請求項17】
前記送受信機は、固定された広帯域の動作周波数で動作する装置である、請求項14記載のシステム。
【請求項18】
前記送受信機が周波数ホッピングを行う、請求項14記載のシステム。
【請求項19】
前記送受信機がブルートゥース送受信機である、請求項14記載のシステム。
【請求項20】
前記第1、第2及び第3の動作周波数範囲が前記送受信機の動作周波数範囲に合わせられている、請求項14記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−530455(P2012−530455A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516091(P2012−516091)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/034034
【国際公開番号】WO2010/147712
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(593096712)インテル コーポレイション (931)
【Fターム(参考)】