周波数掃引の直線性が改善された周波数変調持続波(FMCW)レーダ
周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器42を備えた周波数変調持続波(FMCW)レーダが記述されている。弁別器52は、周波数掃引信号の一部を受け取り、基準差周波数信号を生成している。弁別器52は、レーザダイオード72を備えることができる光遅延手段と、光ファイバ74と、差周波数信号が得られる時間変位周波数掃引信号を生成するための検出器76とを備えている。また、レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成し、かつ、ターゲット差周波数信号を生成するトランシーバ50が記述されている。アナログ−ディジタル変換器80は、基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングしている。また、空港の滑走路上の異物デブリスの検出および周辺警戒などの様々なアプリケーションにおけるレーダの使用が記述されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数変調持続波(FMCW)レーダに関し、詳細には周波数掃引の直線性が改善されたFMCWレーダ装置およびこのような装置を動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダシステムについては良く知られており、長年にわたって広範囲に使用されている。このようなシステムでは、送信無線周波数(RF)信号の周波数を系統的に変化させることによってターゲットまでのレンジが測定される。通常、レーダは、送信周波数が時間と共に直線的に変化するようになされており、たとえば三角周波数掃引または鋸歯周波数掃引が実施されている。この周波数掃引により、事実上、送信信号に「タイムスタンプ」が瞬時瞬時に刻印され、送信信号とターゲットから戻る信号(すなわち反射信号または受信信号)との間の周波数の差を使用して、ターゲットレンジの度量法が提供される。また、FMCWレーダによって提供されるレンジ情報の精度は、周波数掃引の直線性によって決まることは当業者には良く知られている。したがって当業者により、長年にわたって、FMCWレーダシステムの周波数掃引の直線性を改善するための多くの技法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
典型的なFMCWレーダでは、電圧制御発振器(VCO)を使用して、電圧の変化が対応する周波数変化に変換されている。品質の高い直線電圧変化(たとえば三角波形または鋸波形)を生成することは大したことではないが、VCOによる対応する周波数変化への変換は、しばしば、FMCWレーダのレンジ分解能を著しく低下させる重大な非直線性の原因になっている。本質的に直線であるVCOを製造するための試行がなされている。たとえば、米国California州Freemont在所のMicro Lambda Wireless社は、YIG発振器を製造しており、直線性が最大0.1%の微同調コイルが製造されている。しかしながら、通常、このようなデバイスは、提供する帯域幅が狭く、また、現在のところ、どちらかと言えば高価である。
【0004】
また、VCOに印加される電圧同調信号を修正し、あるいは予めひずませることにより、VCO応答特性のあらゆる非直線性を補償することが知られている。アナログ先行ひずませ(pre−distortion)により、直線性が約2%ないし5%の波形を生成することができるが、この技法は、温度効果およびエージングの影響を受け易い。VCO同調信号のディジタル先行ひずませも知られており、ルックアップテーブルを作成するための、VCOの周波数同調特性の測定が含まれている。ルックアップテーブルを使用することにより、VCOに印加される同調信号を修正し、あらゆるVCO非直線性を補償することができる。これらの技法は、直線性を約1%を超える優れたレベルまで改善することができるため、ある程度成功した低コストFMCWレーダアプリケーションにはディジタル先行ひずませ技法が使用されている。しかしながら、VCOを変調する望ましくないディジタル雑音を回避するためには、この技法には慎重な設計が必要である。
【0005】
現在、高性能FMCWレーダを提供するために最も広く使用されている技法は、閉ループフィードバックである。閉ループフィードバック技法は、様々な方法で実施されているが、それらはすべて、基準信号と混合すると「うなり」周波数を生成する人工ターゲットの生成に基づいている。完璧に直線化されたFMCWレーダの場合、固定レンジターゲットによって一定の「うなり」周波数が生成される。したがって、実用的なFMCWレーダの場合、「うなり」周波数が望ましい一定の周波数値から変動すると、VCOを微同調して一定の「うなり」周波数を維持するための誤差信号を生成することができる。このフィードバック技法は、レーダの最終RF周波数で実施することができ、あるいはダウン変換されたもっと低い周波数で実施することができる。直線性が0.05%より良好な波形が立証されているが、システムを極めて良好に設計しない限り、この技法には、不安定になる傾向があり、その帯域幅は、通常、約600MHzに制限されている。また、VCOが直接変調されるため、結果として生じる送信信号の位相雑音信号が妥協を余儀なくされることがある。M Nalezinski、M Vossiek、P Heide(Siemens AG、Munich)らの論文「Novel 24 GHz FMCW Front End with 2.45GHz SAW Reference Path for High−Precision Distance Measurements」(IEEE MTT−S International Microwave Symposium、Prague、1997年6月)に、このようなフィードバックループ構造の一例が示されている。
【0006】
また、それより以前に、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書に、戻り信号を非直線方式でサンプリングすることによって非直線周波数掃引の影響を抑制する方法が記載されている。詳細には、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書には、人工固定レンジターゲットを使用して、サンプリングパルスの流れを得ることができる「うなり」周波数を生成する方法が記述されている。このようなサンプリングパルス間の間隔は、完璧な直線周波数掃引の場合に一定にすることができるが、周波数掃引が非直線である場合は変化することがある。サンプルアンドホールド回路を使用して戻り信号(すなわち実ターゲットによって戻される信号)をサンプリングすることにより、送信信号の周波数掃引のあらゆる非直線性が補償される。しかしながら、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書に記載されているシステムが適しているのは短いレンジの動作のみであり、提供される感度は限られている。当業者がこのような構造をFMCWシステムに使用するのを控え、その努力を上で説明した先行ひずませおよび閉ループフィードバック構造に集中させたのは、そのためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダは、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器と、レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備えており、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
したがって、周波数掃引信号、たとえば周波数が変化する鋸歯信号または三角信号を生成するための周波数掃引発生器を有するFMCWレーダが提供される。レーダは、さらに、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、受け取った周波数掃引信号の一部から、レーダによる送信のためのFMCW信号を生成するようになされたトランシーバを備えている。また、トランシーバは、レーダによって送信される周波数掃引信号(送信信号)と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻される信号(エコー信号)とを混合することによってターゲット差周波数信号を生成するようになされている。
【0009】
レーダは、さらに、人工ターゲットからのエコー信号に対応すると見なすことができる時間変位周波数掃引信号と周波数掃引信号の一部を混合することによって基準差周波数信号を生成する弁別器を備えている。トランシーバによって生成されるターゲット差周波数信号は、基準差周波数信号の周波数に応答して動的に変化するサンプリングレートでADCによってサンプリングされる。つまり、基準差周波数信号を使用して、ターゲット差周波数信号をサンプリングするADCがクロックされる。この構造により、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号のあらゆる非直線性が補償され、ADCは、1つまたは複数のターゲットレンジに直接関連する周波数成分を有するディジタル化信号を出力する。
【0010】
英国特許第2083966号明細書に記載されているシステムとは異なり、本発明によるレーダ装置は、周波数掃引信号の一部から時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えた弁別器を備えている。光遅延手段は、少なくとも1つの光ファイバ遅延線路を備えていることが好ましく、それにより、物理的にコンパクトで、かつ、頑丈な光学構造が提供される。使用に際しては、光遅延手段により、好ましくは少なくとも1つのレーザダイオードを使用して、電気周波数掃引信号の一部が対応する強度変調光信号に変換される。光信号は、電気信号に再変換される前に、光路すなわち一定の長さの光ファイバなどの導波路に沿って通過する。光遅延手段は、光信号を電気信号に再変換するための少なくとも1つの光検出器を備えていることが好ましい。したがって、光検出器によって出力される電気信号(すなわち時間変位周波数掃引信号)は、周波数掃引発生器によって出力される周波数掃引信号に対して遅延されている(つまり時間変位されている)。次に、時間変位周波数掃引信号が非遅延周波数掃引信号の一部と混合され、基準差周波数信号が生成される。
【0011】
本発明による光遅延手段を備えたレーダには多くの利点がある。たとえば、光遅延手段は、低損失の光ファイバを長い距離(たとえば数十メートルまたは数百メートル、さらには数キロメートル)にわたって備えることができる。そのため、認められるほどの信号損失を何ら伴うことなく長い遅延を時間変位周波数掃引信号に付与することができ、延いては長い最大動作レンジを有するレーダ装置を提供することができる。さらに、光ファイバをベースとする遅延手段は、極めて低いレベルの分散を提供し、また、広範囲にわたる温度に対して安定した導波路特性を有しており、時間によって著しく変化することはない。そのため、レーダの動作環境の変化あるいは装置の経年変化によって導入される望ましくない予測不可能な遅延継続期間の変化が防止される。
【0012】
本発明によるレーダ装置、詳細には電気遅延手段に代わって光遅延手段を備えたことにより、英国特許第2083966号明細書に記載されている、損失の大きいマイクロ波遅延線路を使用して時間変位周波数掃引信号を生成しているデバイスに優る、重要で、かつ、全く予想外の利点が提供されることを再度強調しておかなければならない。また、本発明によるレーダには開ループ制御機構が使用されており、したがって上で説明した従来技術による閉ループフィードバック技法より本質的に安定しており、かつ、頑丈である。そのため、FMCWレーダの設計では空前絶後の広範囲のRF帯域幅にわたって直線性が達成されるFMCWレーダが得られる。
【0013】
有利には、光遅延手段は、周波数掃引信号に関する複数の異なる時間変位のうちの任意の1つを有する時間変位周波数掃引信号を生成するようになされている。つまり、光遅延手段は、時間変位周波数掃引信号に付与される遅延の継続期間を必要に応じて選択することができるようになされている。
【0014】
都合のよいことには、光遅延手段は、マルチタップ光ファイバ遅延線路を備えている。光遅延手段は、このマルチタップ光ファイバ遅延線路と光スイッチング技法および/または電気スイッチング技法を組み合わせて使用して、時間変位周波数掃引信号に付与される遅延を変更するように構成することができる。
【0015】
たとえば、単一のレーザダイオードを使用して変調光信号をマルチタップ光ファイバに結合することができる。電気スイッチングの場合、電気光検出器を複数の光タップポイントの各々または少なくとも一部に提供することができる。次に、電気セレクタスイッチを使用して、所望の電気光検出器のみの電気出力を導いて周波数掃引信号と混合し、それにより基準差周波数信号を生成することができる。別法としては、レーザダイオードを複数の光タップポイントの各々または少なくとも一部に提供し、かつ、提供されている、放射を受け取ることができる単一の検出器を光ファイバに結合することも可能である。次に、周波数掃引信号を適切なレーザダイオードへ経路指定するか、あるいは必要なレーザダイオードのみに電力を供給することにより、検出器が受け取る信号に付与される遅延を決定することができる。
【0016】
光スイッチングの場合、周波数掃引信号によってレーザダイオードの出力強度が変調される。次に、変調されたレーザ光がマルチタップ光ファイバに結合され、複数のタップポイントの各々または少なくとも一部の出力が光セレクタスイッチに供給される。次に、必要な遅延を付与する光信号が光セレクタスイッチによって電気光検出器へ経路指定され、そこで電気信号に変換され、引き続いて周波数掃引信号と混合される。この場合も、代替構造として、光セレクタスイッチを使用してレーザ出力を複数のマルチタップポイントのうちの任意の1つに経路指定し、かつ、電気光検出器をファイバに沿った単一のタップポイントに光結合することも可能である。上で指摘したように、電気スイッチングと光スイッチングを組み合わせることも可能である。
【0017】
有利には、光遅延手段は、長さが異なる複数の光ファイバを備えている。この場合、光ファイバの各々は、電気スイッチングを使用して必要な遅延を選択することができるよう、電気光検出器および電気光検出器と結合したレーザダイオードを有することができる。別法としては、第1の光スイッチを介してレーザの光出力を選択されたファイバに経路指定し、第2の光スイッチを介してそのファイバの出力を電気光検出器に光経路指定することも可能である。マルチタップ光ファイバに関連して上で説明した方法と類似した方法で、電気スイッチングと光スイッチングを組み合わせることも可能である。
【0018】
以上から、当業者には、本発明による光遅延手段を構成して、時間変位周波数掃引信号と周波数掃引信号の間に複数の異なる遅延を付与することができる様々な方法が可能であろう。また、当業者には、適切なスイッチング構造を実施するべく使用することができる、電気通信システムに使用されているような様々な光学コンポーネントおよび電気コンポーネントに気がつかれよう。
【0019】
複数の遅延のうちの任意の1つを時間変位周波数掃引信号に付与することができる光遅延手段を備えることにより、英国特許第2083966号明細書に記載されている従来技術による固定遅延システムに優る多くの利点が得られる。たとえば、使用中、必要に応じてレーダの最大レンジを容易に変更することができる。つまり、使用中、必要に応じてレーダの最大レンジ(レーダのレンジ分解能とは相反する関係である)を増減することができる。必要に応じて、また、必要が生じた場合にデバイスのレンジを適合させる能力により、様々なロケーションでの使用および/または多くの異なるアプリケーションに容易に適合させることができるより柔軟性に富んだレーダシステムが提供される。光遅延手段によって付与される遅延を変更することにより、場合によっては最適性能を維持するために他のレーダパラメータの変更が余儀なくされ、たとえば、場合によっては周波数掃引の帯域幅および/または周波数掃引の継続期間を変更しなければならないことに留意されたい。以下、遅延、周波数掃引帯域幅および掃引継続期間の間の関係について、より詳細に説明する。
【0020】
有利には、光遅延手段によって付与される遅延は、最大必要レーダ射程におけるターゲットまでの送信信号の飛行時間の倍数と等価になるように選択される。
【0021】
以下でより詳細に説明するように、周波数掃引信号の周波数変化が非直線である場合、基準差周波数信号は、周波数掃引信号の非直線性に関連する方法で周波数が変化する正弦波からなっていてもよい。有利には、弁別器によって生成される基準差周波数信号を、基準差周波数信号の周波数に関連する間隔で分離された一連のタイミングパルスに変換するためのアナライザが提供されており、これらのタイミングパルスを使用してADCがクロックされる。アナライザは、ゼロ交差検出器を備えていることが好ましい。その場合、基準差周波数信号の電圧がゼロを交差する毎にクロックパルスが生成される。以下で言及するように、ゼロ交差検出器は、信号がゼロを交差する毎に、または正の方向あるいは負の方向からゼロを交差した場合にのみ、タイミングパルスを生成するように構成することができる。また、アナライザは、ゼロ交差検出器に印加される信号の周波数を2倍にするための周波数2倍器を備えることも可能である。上で説明したタイプのアナライザを提供する代わりに、正弦波によって直接クロックすることができるADCを使用することも可能であることに留意されたい。
【0022】
周波数掃引発生器は、有利には、鋸波周波数掃引信号および三角波周波数掃引信号のうちの任意の1つを出力するように構成することができる。都合のよいことには、周波数掃引発生器は電圧制御発振器を備えている。VCOには正確な同調特性が不要であるため、たとえば移動電気通信産業で使用されているタイプなどのように、極めて低コストにすることができる。
【0023】
周波数掃引発生器は、予めディジタルひずみを含んだ同調信号を電圧制御発振器に出力するための電圧信号発生器を備えていることが好ましい。この方法によれば、VCOの直線性を改善することができる。本発明によるレーダは、あらゆる単調周波数掃引信号の非直線性を補償することができるが、電圧制御発振器は、とりわけレーダがアンチエイリアスフィルタをさらに備えている場合、直線性が10%より良好な周波数掃引信号を出力することが好ましい。このようなアンチエイリアスフィルタを備えることにより、ナイキスト周波数より高いすべての周波数を遮断することによってレーダの性能が改善されるが、周波数掃引信号の直線性が約10%より高い場合、最大レンジ付近における信号検出感度の損失を招くことがある。
【0024】
本明細書においては、「直線性」という用語は、直線からの周波数勾配の百分率偏差を意味している。これは、最小変化および最大変化を表す「±x%」値で表現することができ、あるいは単純に平均偏差「x%」で表現することができる。したがって百分率直線性の値が小さいほど、直線性が優れた信号であることを意味しており(ゼロは完璧な直線である)、一方、百分率直線性の値が大きいほど、直線性に乏しい信号であることを意味している。この方法による直線性の記述は、当業者に広く使用されている。
【0025】
有利には、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号は、第1の周波数帯内の周波数範囲を有しており、レーダによって送信される信号は、第2の周波数帯内の周波数範囲を有している。第1の周波数帯に含まれている周波数は、第2の周波数帯に含まれている周波数より低い。トランシーバは、都合のよいことには、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするための周波数アップコンバータを備えている。周波数アップコンバータは、安定局部発振器(STALO)を備えていることが好ましい。STALOの位相雑音は、周波数掃引発生器のVCOの位相雑音と同程度であることが理想的である。
【0026】
したがって、本発明は、レーダによって最終的に送信される周波数よりはるかに低い周波数で周波数掃引発生器が動作する、いわゆるアップ変換アーキテクチャを使用して実施されることが好ましい。たとえば、周波数掃引発生器は、UHF帯(たとえば数百MHzないし数GHz)で動作させることができ、一方、レーダは、10GHzから100GHzを超える範囲の周波数を有する信号を送信する。低周波数帯で生成される周波数掃引信号は、適切なアップコンバータによってレーダ送信周波数帯までアップ変換される。また、遠隔ターゲットからレーダに戻る信号は、明らかに送信信号の周波数帯と同じ周波数帯内であるが、送信信号および受信信号がホモダイン混合されると、それらは、ベースバンド周波数でターゲット差周波数信号を生成することに留意されたい。したがってこのアーキテクチャにより、周波数掃引発生器、弁別器、ADC等をより低いUHF帯の周波数で動作させることができる。これにより、レーダのコストと複雑性の両方が低減され、本質的により良好な位相雑音性能が得られる。したがって、英国特許第2083966号明細書に記載されているような、周波数掃引が最終レーダ動作周波数で直接生成される設計と比較すると、レーダの感度が改善される。
【0027】
このタイプのアップ変換アーキテクチャの他の利点は、ほとんどの直線化回路(つまり周波数掃引発生器、弁別器、ADC)が、レーダ送信周波数に無関係であることである。したがって、STALOなどのトランシーバコンポーネントは、必要なレーダ出力周波数が生成されるように選択しなければならないことは明らかであるが、同じ直線化回路を異なるアプリケーションに異なるRF周波数で使用することができる。したがって、94.5GHzで動作する滑走路デブリス監視レーダ、35GHzで動作する周辺警戒レーダ、24GHzで送信するレベル測定レーダ、17GHzで動作する鳥検出レーダ、または9GHzで動作する航行レーダに直線化回路を使用することができる。
【0028】
したがって、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数を有する基準差周波数信号を生成するための弁別器と、レーダによって送信される信号を周波数掃引信号の一部から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数を有するターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備え、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号が第1の周波数帯内の周波数範囲を有し、レーダによって送信される信号が第2の周波数帯内の周波数を有し、第1の周波数帯の中心周波数が第2の周波数帯の中心周波数より低い、周波数変調持続波(FMCW)レーダを提供することができる。
【0029】
このようなレーダの場合、トランシーバは、有利には、周波数掃引信号の一部を受け取るように構成することができ、また、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするためのアップコンバータを備えることができる。さらに、周波数アップコンバータは、都合のよいことには、安定局部発振器(STALO)を備えることができる。有利には、弁別器は、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えている。
【0030】
レーダは、さらに、アンテナを備えることができる。アンテナは、個別の送信アンテナエレメントおよび受信アンテナエレメントを備えることができることが好ましい。つまり、バイスタティックアンテナアレイを提供することができる。代替としてモノスタティックアンテナを使用することも可能である。
【0031】
レーダは、9GHzないし150GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされていることが好ましく、70〜80GHzまたは90〜100GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされていることがより好ましい。レーダは、都合のよいことには、約77GHzまたは94.5GHzの周波数を有する信号を送信するように構成することができる。これらの周波数は、大気吸収窓の範囲内であるため、有利である。
【0032】
商用レーダシステムは、すべて、国際電気通信連合(ITU)によって管理されている国際周波数割当ての範囲内でもある周波数で動作するようになされていることが好ましい。英国では、周波数割当ては、通信調整法人団体であるOFCOMによって管理されている。したがって、76〜81GHz、92〜95GHzまたは95〜100GHzの範囲内の周波数を有する信号を送信するレーダが提供されることが好都合である。
【0033】
約40GHzを超える周波数では、通常、マイクロ波導波路を使用して信号を導く必要がある。したがってレーダは、都合のよいことには、40GHzより高い周波数を有する信号を送信するようになされている。本発明によるアップコンバータ態様によれば、このようなレーダを実施するために必要なマイクロ波回路の量が少なくなり、延いてはこのようなシステムを提供するコストが低減される。
【0034】
有利には、光遅延手段は、100mを超える、500mを超える、1kmを超える、2kmを超える、5kmを超える、10kmを超える、20kmを超える、または40kmを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えている。光導波路の物理的な長さは、通常、遅延を模擬することが意図されている等価自由空間光路長より短くすることができることに留意されたい。つまり、光ファイバコアの実効屈折率は、自由空間の屈折率より大きくすべきであると思われる。したがって、光導波路の物理的な長さは、レーダエネルギーが特定の自由空間光路長を通過するために要する時間と等価の遅延時間が生成されるように選択される。
【0035】
したがって、光遅延手段を使用することにより、数百メートル、さらには数十キロメートルの自由空間光路長と等価の遅延を生成することができることが分かる。これは、長い同軸ケーブルから形成された電子遅延線路を備えた従来技術による技法とは対照的である。このような構造に使用することができる同軸ケーブルの長さは、高レベルのRF損失および構造のせん断物理サイズにより、通常、約50mに制限されている。また、同軸ケーブル解決法は、温度によって周波数分散が変化する問題を抱えている。英国特許第2083966号明細書に記載されているような従来技術によるデバイスは、位相固定ループ等を使用して、同軸ケーブル遅延線路で達成することができる遅延の延長を試行しているが、それは、単にシステムの性能を低下させているにすぎない。したがって、本発明により、従来可能であった遅延よりはるかに長い遅延を有する遅延周波数掃引信号を生成することができることが分かる。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、地表の物体を検出するための装置は、本発明の第1の態様によるレーダを備えている。物体は異物デブリス(FOD)であることが好ましく、また、地表は空港の滑走路であることが好ましい。
【0037】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様によるレーダを備えた周辺警戒装置が提供される。
【0038】
本発明の第4の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダのための周波数直線化モジュールは、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器とを備えており、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴としている。
【0039】
直線化モジュールは、本発明の第1の態様によるレーダに使用されることが好ましい。詳細には、周波数直線化モジュールは、FMCWレーダの直線性応答を改善するべく既存のFMCWレーダに適合させることができる。
【0040】
有利には、直線化モジュールは、閉ループフィードバックFMCWレーダの一部として使用することができる。たとえば、弁別器によって生成される基準差周波数信号は、フィードバックコントローラに供給することができる。この場合、フィードバックコントローラは、掃引期間の間、基準差周波数信号のあらゆる周波数変化に応答して周波数掃引発生器のVCOに印加される電圧同調信号の特性を動的に変更するように構成することができる。つまり、フィードバックコントローラは、基準差周波数信号の周波数を一定に維持するべく電圧同調信号を変更することができる。閉ループフィードバックレーダは、最終送信周波数で周波数掃引信号を生成する周波数掃引発生器を備えることができ、あるいは閉ループフィードバックレーダは、都合のよいことには、上で説明したタイプのアップ変換アーキテクチャを使用して構築することができる。
【0041】
本発明の第5の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダを動作させる方法には、(i)周波数掃引信号を生成するステップと、(ii)周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するステップと、(iii)レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成するステップと、(iv)レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するステップと、(v)アナログ−ディジタル変換器(ADC)を使用してターゲット差周波数信号をサンプリングするステップであって、ADCサンプリングレートが基準差周波数信号の周波数から得られるステップが含まれており、基準差周波数信号を生成するステップ(ii)で使用される時間変位周波数掃引信号が、光遅延手段を使用して生成されることを特徴としている。
【0042】
都合のよいことには、この方法には、さらに、地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップが含まれている。有利には、地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップは、空港の滑走路の異物デブリス(FOD)を検出するためにレーダを使用するステップである。別法または追加として、この方法は、さらに、周囲のフェンスなどの画定領域の周辺を監視するためにレーダを使用するステップを含むことができる。
【0043】
以下、本発明について、単なる実施例にすぎないが、添付の図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図1aおよび図1bを参照すると、周波数が直線的に掃引されるFMCWレーダの基礎をなす原理が示されている。図1aは、時間を関数としたFMCWレーダの受信信号の振幅(ダウン変換後の振幅)を示したものであり、一方、図1bは、時間を関数としたレーダ出力の周波数変化を示したものである。
【0045】
図2a〜図2cは、FMCWレーダを使用してレンジ情報を決定する方法を示したものである。図2aの線2は、レーダの送信信号の鋸歯周波数変化を示しており、線4は、レーダから第1の距離d1におけるターゲットから戻る信号の周波数の時間による変化を示している。線6は、レーダから第2の距離d2における第2のターゲットから戻る信号の周波数の時間による変化を示している。この場合、d2におけるターゲットのレーダからの距離は、d1におけるターゲットのレーダからの距離の約2倍である。
【0046】
線4は、線2からΔt1だけ時間がシフト(つまり遅延)しており、また、線6は、線2からΔt2だけ時間がシフトしていることが分かる。この時間シフトは、エコー信号が当該ターゲットまで移動し、かつ、戻ってくるまでの間に要する時間で決まり、したがってターゲットまでのレンジを表している。この理論例では、時間による周波数の変化は、測定窓8の範囲内では完璧に直線である。したがって、d1におけるターゲットからのエコーは、全測定窓8の範囲内で送信信号から周波数Δf1だけその周波数がシフトしていることが分かる。同様に、d2におけるターゲットからのエコーは、送信信号から周波数Δf2だけその周波数がシフトしている。
【0047】
FMCWレーダの場合、レーダが受信するエコー信号と送信信号が混合される。この混合により、送信信号の周波数と受信信号の周波数の差に等しい周波数の差信号すなわちうなり信号(つまり多くの周波数成分を含んだ信号)が生成される。図2bは、送信信号とd1におけるターゲットから戻る信号を混合することによって生成される周波数成分14、および送信信号とd2におけるターゲットから戻る信号を混合することによって生成される周波数成分16を示したものである。高速フーリエ変換(FFT)技法により、図2cに示すように、測定窓8内の時間に対するこれらの混合信号の周波数解析が提供され、かつ、周波数を関数としたレーダエコー強度が提供される。観察される周波数シフト(つまりターゲットうなり周波数fb)は、
【数1】
で表現されるターゲットのレンジ(R)に関連している。cは光の速度、ΔFは周波数帯域幅(すなわち最高周波数−最低周波数)、ΔTは掃引継続期間である。直線周波数掃引の勾配(すなわちΔF/ΔT)は既知であり、したがって、測定したうなり周波数から、1つまたは複数のターゲットまでのレンジを計算することができる。
【0048】
上で指摘したように、実際のレーダシステムでは真の直線周波数掃引を得ることは困難である。次に図3a〜図3bを参照すると、レーダによって得られるレンジ情報の精度が非直線掃引周波数を使用することによって著しく低下することが分かる。詳細には、図3aは、非直線周波数掃引信号を有する送信信号(曲線30)を示したものである。エコー信号(曲線32)は、送信信号(曲線30)から一定の遅延Δt3だけ時間がシフトしているが、これらの2つの信号の周波数の差は、時間に対して一定ではない。これは、周波数の差(つまり送信信号と受信信号のうなり周波数)を時間の関数として示す図3bから分かる。したがって周波数掃引の非直線性によってレンジ測定に大きな誤差が導入され、直線周波数掃引を有するレーダが提供されることが望ましい理由が分かる。
【0049】
次に図4を参照すると、本発明によるFMCWレーダ40が示されている。
【0050】
レーダ40は、UHF周波数の鋸歯周波数掃引信号を出力するための周波数掃引発生器42を備えている。周波数掃引発生器42は、同調信号発生器46から電圧制御信号を受け取るようになされた電圧制御発振器(VCO)44を備えている。
【0051】
VCO44は、位相雑音が極めて小さい電圧制御発振器(VCO)である。多くの製造者から低コストで適切なVCOを商用的に入手することができ、VCOは移動電気通信アプリケーションなどに広く使用されている。VCO44は、単調同調特性を有しているが、VCOの同調直線性は重要ではない。同調信号発生器46は、同調信号をディジタル的に生成しており、ディジタル量子化雑音を除去するためのフィルタ(図示せず)を備えている。そのため、VCO同調信号のディジタル先行ひずませが可能であり、それにより直線性が10%より良好な周波数掃引をVCOに出力させることができる。周波数波形は、本質的に鋸歯であることが好ましく、12.5cmのレンジ分解能に対応する少なくとも1500MHzの帯域幅を容易に達成することができる。
【0052】
ディジタル同調信号発生器46が記述されているが、別法として、単純なアナログ積分器回路によってVCO同調信号を生成することも可能であることは当業者には認識されよう。同様に、交番直線波形(たとえば三角波形等)を生成するように周波数掃引発生器を構成することも可能である。
【0053】
周波数掃引発生器42の出力は、分割器48に引き渡される。分割器48によって信号が2つに分割され、したがって分割された信号は、レーダトランシーバ50と遅延線路弁別器52の両方に供給される。
【0054】
レーダトランシーバ50は、ホモダインアーキテクチャを有している。レーダトランシーバ50は、安定局部発振器(STALO)54および分割器48から受け取る低周波数信号を所望のRF周波数(通常は約94.5GHz)にアップ変換する第1の周波数混合器56を備えている。RF周波数信号からより低い側波帯を除去するための側波帯除去フィルタ59が提供されている。別法として、より高い側波帯をRF信号から除去することも可能であることに留意されたい。次に、RF信号(この場合、より高い側波帯のみが含まれている)がRF電力増幅器58によって増幅され、サーキュレータ60を介してアンテナ62に引き渡される。この技法の場合、キーとなる構成要素は、位相雑音が小さいことが好ましいSTALO54である。
【0055】
アンテナ62が受け取るエコー信号は、サーキュレータ60を介して低雑音増幅器64に引き渡される。低雑音増幅器64によって出力される増幅されたエコー信号は、次に、同位相直角(In−phase Quadrature)(IQ)周波数混合器66を使用して、RF信号出力の一部と混合される。つまり、1つまたは複数のターゲットからのレーダエコーは、送信中の信号のサンプルとのIQ周波数混合によって直接ベースバンドに変換される。ベースバンドエコー信号は、次に、アナログ−ディジタル変換器(ADC)80に引き渡される前に、増幅器84およびアンチエイリアスフィルタ86を備えた条件付け回路82に引き渡される。アンチエイリアスフィルタ86は、所定のレベルより高い周波数を有する信号のあらゆる周波数成分を除去するようになされている。アンチエイリアスフィルタ86は、通常、ナイキスト周波数より高い周波数を有するすべての信号を除去するようになされている。
【0056】
レーダは、同じアンテナを使用して送信および受信する単一アンテナシステム(つまりモノスタティック構造)、あるいは個別のアンテナを使用して送信および受信する二重アンテナシステム(つまりバイスタティック構造)のいずれかとして構成することができることに留意されたい。分かり易くするために図4にはモノスタティックアンテナ構造が示されているが、送信機位相雑音が受信機から最適分離される利点を有しているため、バイスタティック構造であることが好ましい。
【0057】
上で概説したように、分割器48は、同じく、周波数ランプ発生器42の出力の一部を遅延線路弁別器52に出力している。遅延線路弁別器52は、もう1つの分割器68、もう1つの周波数混合器70、レーザ源72、光ファイバ遅延線路74および光検出器76を備えている。
【0058】
遅延線路弁別器52のもう1つの分割器68は、受け取ったVCO信号を2つの経路に分割している。第1の経路は、信号をもう1つの周波数混合器70の局部発振器ポートに直接引き渡している。第2の経路は、VCO信号をレーザ源72に引き渡している。レーザ源の出力は、受け取ったVCO信号によって強度が変調されており、光検出器76によって電気信号に再変換される前に、光ファイバ遅延線路74に沿って通過する。光検出器76によって生成された電気信号は、次に、周波数混合器70のRF入力ポートに引き渡される。以下でより詳細に説明するように、光ファイバ遅延線路74の長さは、レーダの最大インスツルメンテッドレンジにおけるターゲットによって生成されることになる遅延と等価の遅延を付与するように選択されるか、あるいはその長さの2倍である。光ファイバ遅延線路74によって付与される遅延は、たとえば位相固定ループを使用して、引き続いて電子的に延長することができることに留意されたい。
【0059】
レーザ源72は、分布帰還型(DFB)レーザまたは分布ブラッグ反射型(DBR)レーザなどの固体半導体レーザである。VCO信号を使用してレーザダイオード電流サプライが変調され、延いてはレーザ出力の強度が変調される。現在、最大約18GHzのレートで強度を変調することができるレーザダイオードを商用的に入手することができ、最大70GHzのレートで変調することができるレーザダイオードが報告されている。また、これらの変調レートで動作させることができる光検出器76も、多くのソースから商用的に入手することができる。光分散効果を最小化するためには、光ファイバ遅延線路74は、単一モード光ファイバから形成されることが好ましい。
【0060】
したがって、本発明により、光搬送波を電気信号で変調し、かつ、光ファイバ遅延線路の中を通過させ、次に、光信号を再度電気信号に復調することによって適切な長さの遅延が提供されることが分かる。光ファイバ遅延線路を使用することにより、事実上、損失を伴うことなく、数十キロメートルと等価の実質的な期間にわたって数ギガヘルツの広い帯域幅を遅延させることができる。また、光ファイバ遅延線路は、RF同軸線路を制限している要因の1つである周波数分散が極めて小さく、とりわけ広範囲にわたる温度変化に対する周波数分散が小さい。また、切換え可能光遅延線路またはマルチタップ光遅延線路により、切換え可能な最大インスツルメンテッドレンジを有するレーダを製造することができることに留意されたい。
【0061】
したがって、光ファイバ遅延線路を使用することにより、同軸遅延線路を使用する場合に存在するレンジ制限が除去される。また、表面弾性波(SAW)遅延線路を使用したシステムとは異なり、遅延の長さと最大達成可能帯域幅の間のトレードオフは存在しない。
【0062】
遅延線路弁別器52によって出力される信号は、選択可能周波数2倍器77を介してゼロ交差検出器78に供給される。光ファイバ遅延線路74の長さがレーダの最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しくなるようになされているか、あるいは光ファイバ遅延線路74の長さがレーダの最大インスツルメンテッドレンジに等しくなるようになされている場合はそのレンジの半分に等しくなるようになされている場合、遅延線路弁別器52によって出力される信号は、最大インスツルメンテッドレンジにおけるターゲットからのエコーと等価であることに留意されたい。また、以下でより詳細に説明するように、遅延線路弁別器52によって出力される信号の周波数は、周波数掃引の間、VCO周波数スロープの変化に従って変化させることができる。
【0063】
ゼロ交差検出器78は、遅延線路弁別器52によって出力される信号の電圧がゼロを交差する毎にクロックパルスを生成するようになされている。これらのクロックパルスを使用して、実ターゲットからのレーダエコーをサンプリングするために使用されるアナログ−ディジタル変換器(ADC)80のサンプリング時間が画定される。ゼロ交差検出器78は、遅延線路弁別器52の出力をハードリミッティングするか、あるいは比較器を使用してADCクロック信号を生成するかのいずれかによって実施することができる。別法としては、ADC80が正弦波クロックを受け取るタイプのADCである場合、遅延線路弁別器52の出力は、ADC80に必要なレベルまで単純に増幅することができる。この方法によれば、周波数掃引発生器42(詳細にはVCO44)の非直線の影響が補償されていることになり、ほぼ完全な周波数直線性が達成される。また、この場合も、ADCの非直線サンプリングのため、しばしばADCと結合したスプリアス周波数スパーが曖昧になり、効果的に除去される。
【0064】
ADC80のディジタル出力は、戻りレーダ信号の周波数成分を抽出するディジタル信号プロセッサ88に供給される。これらの周波数成分は、直線化技法により、レンジに直接関連している。
【0065】
エコー信号をサンプリングする間隔を非直線サンプリングを使用して動的に変更し、それにより周波数掃引発生器の非直線性を補償する基本概念については、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書により詳細に記載されている。しかしながら、図4に示す装置を使用してこの技法が動作する仕方について、図5a〜eを参照して簡単に要約しておく。
【0066】
図5aを参照すると、周波数掃引信号と人工ターゲットによって生成される遅延周波数掃引信号(すなわち検出器76によって出力される信号)の間の周波数差(Δf)が示されている。光ファイバ遅延線路74によって導入される遅延は固定であるが、周波数掃引の非直線性は、掃引期間の間、周波数掃引信号と遅延周波数掃引信号の間の周波数差(Δf)の変化をもたらしていることが分かる。これは、図3a〜図3bを参照して説明した効果と同じ効果である。
【0067】
2つの信号を混合することにより、これらの2つの信号の周波数の差に等しい周波数を有する信号が生成されることは良く知られている。したがって周波数掃引信号と遅延周波数掃引信号を混合することにより、その結果として、図5bに示す方法で時間と共に変化する周波数を有する「うなり」信号が生成される。したがって図5bに示すタイプの信号は、高度に非直線性の周波数掃引信号を受け取ることによって遅延線路弁別器52によって生成することができる。
【0068】
ゼロ交差検出器78は、図5bに示す信号を受け取り、受け取った信号から図5cに示すクロックパルスを生成する。この場合、遅延線路の長さが最大インスツルメンテッドレンジに等しく、かつ、周波数2倍器77が起動しているため、弁別器によって出力される周波数が2倍になる。ゼロ交差検出器は、負および正のゼロ交差の両方でクロックパルスを生成するようになされており、したがってサンプリングレートはナイキスト基準を満足する。つまり、サンプリングされる信号の最高周波数成分の周波数の2倍の周波数でサンプリングが生じる。遅延が最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しく、かつ、周波数2倍器77が起動している場合、正または負のゼロ交差のみが必要である。しかしながら、遅延が最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しい場合、周波数2倍器77を非起動状態にし(つまりバイパスし)、かつ、負および正のゼロ交差の両方でクロックパルスを生成するようにゼロ交差検出器を使用することが好ましい。これらのクロックパルスによって、ADC80がベースバンドエコー信号をサンプリングする時間に間に合うポイントが決定される。図5a〜eのダッシュ線S1ないしS29は、これらのポイントを示したものである。
【0069】
図5dは、条件付け回路82からADC80に供給することができるベースバンドエコー信号を示したものである。上で説明したように、図5dに示すベースバンドエコー信号は、エコーレーダ信号と送信中の信号の一部を混合することによって生成される。エコー信号は、図5bに示す人工ターゲット信号と類似した方法で時間と共に変化する周波数を有していることが分かる。したがって、この場合も、周波数掃引の非直線性によって、掃引期間の間、エコー信号と送信信号の周波数の差が変化する。図5dに示す波形が、ゼロ交差検出器78によって生成される時間間隔S1ないしS29でADC80によってサンプリングされる。
【0070】
図5eは、固定サンプリング期間を仮定して再プロットされた図5dのサンプル波形を示したものである。つまり、信号は、実時間の関数としてではなく、ゼロ交差検出器78によって決定されるサンプリング時間sの関数としてプロットされている。このプロセスによって周波数応答の非直線性が除去され、一定の周波数を有する信号がDSP88に引き渡されることが分かる。そのため、この信号から、容易に、かつ、疑いの余地なくレンジを得ることができる。図5dに示すベースバンドエコー信号は、単一レンジにおけるターゲットからのレーダエコーを有していることに留意されたい。実際には、多くの異なるレンジ成分が存在しており、ADC80によって出力される、結果として得られる直線化信号から、DSP88によってそれらの各々を分解することができる。
【0071】
上で言及したように、本発明による装置の利点は、弁別器が多数の切換え可能光遅延線路および/またはマルチタップ光遅延線路を備えることができることである。そのため、光ファイバ遅延線路によって付与される遅延を使用中に変更することができるレーダを提供することができる。しかしながら、付与された遅延を変更することは、レーダの性能パラメータおよびシステム設定にも影響することに留意されたい。したがって、周波数掃引信号に付与された遅延を変更する場合、場合によっては、レーダの所望の用途に応じて、レーダの他の特性を変更しなければならない。
【0072】
一例として、次の式(2)ないし(5)を使用して、レーダの様々な特性を定義することができる。Rmaxは最大レーダインスツルメンテッドレンジであり、遅延線路長はRmaxまたは2Rmaxである。ΔFは掃引帯域幅、ΔTは掃引の継続期間である。
【0073】
レンジ分解能(ΔR)は、
【数2】
で表すことができる。
【0074】
必要なFFT長に関連する時間サンプルの数(N)は、
【数3】
で与えられる。
【0075】
サンプリングレート(S)は、
【数4】
で表現することができる。
【0076】
アンチエイリアスフィルタ遮断周波数(Ffilter)は、
【数5】
である。
【0077】
表1は、遅延線路長を半分にし(つまり2RmaxからRmaxにし)、また、周波数掃引または掃引継続期間を半分にした場合の、レーダ分解能、必要なFFT長、必要なサンプリングレート、必要なアンチエイリアスフィルタ遮断および最大レンジに対する影響を式(2)ないし(5)に基づいて示したものである。
【表1】
【0078】
複雑な相互関係によって様々なレーダ構成および性能基準が左右されること、また、本発明によるレーダシステムは、多くの異なる方法で構成することができることが分かる。
【0079】
表2は、マルチタップ光遅延線路を使用して、4つの異なるレンジを切り換えることができるレーダを実施する方法の一例を示したものである。レーダの掃引時間は3.2768msに固定され、FFT長は16kポイントに固定されている。また、サンプリング周波数は5Mspsに固定され、アンチエイリアスフィルタ遮断は2.5MHzに固定されている。上で指摘したように、遅延線路長は容易に変更することができ、また、周波数掃引は、周波数掃引発生器42のVCO44に印加される電圧同調信号を再プログラミングすることによって容易に変更が可能である。また、クロック係数(つまりゼロ交差検出器78がサイクル毎に1回ゼロ交差をクロックするか、あるいはサイクル毎に2回ゼロ交差をクロックするかどうか)は、周波数2倍器77を起動/非起動することによって変更することができる。したがって、周波数掃引、光遅延線路長およびクロック係数を変更することにより、約0.5km、1km、2kmまたは4kmの最大レンジで動作させることができるレーダが提供されることが分かる。したがって、使用中に容易に変更することができるレンジを有するレーダが提供される。
【表2】
【0080】
上で説明したFMCWレーダは、多くのアプリケーションに使用することができるが、このFMCWレーダは、高分解能レーダデータを必要とするアプリケーションにとりわけ適している。空港の滑走路上のデブリス検出、周辺警戒、雲レーダ、車両衝突回避、測量およびレベル測定などはその一例である。本発明によるレーダシステムの様々な代替潜在アプリケーションについては、当業者には理解されよう。
【0081】
本発明によるレーダシステムは、空港における異物デブリス(FOD)の検出にとりわけ適していることが分かっている。FODには、不適切な位置に見出される、その位置に存在することによって装置を損傷し、もしくは航空機または空港職員を傷つける可能性のあるあらゆる物体が含まれている。これらのFODの結果として生じる損傷は、年間40億ドルの損失を航空宇宙産業にもたらしていると見積られている。滑走路上の16インチの金属条片が引き金となった一連の出来事である、2000年7月のフランス航空のコンコルドの悲劇いらい、全天候性で、かつ、空港運営の中断が最小限で臨機にFODを検出し、かつ、除去するための技法の改善に対する関心が著しく高まっている。現在、典型的には4時間毎に、滑走路の長さに沿った運転により、人手によって検査が実行されている。目視性、人的エラー、および暗闇におけるこの技法の非有効性により、その有効性は限られている。
【0082】
FOD検出専用のレーダを設計するためのキーは、FODの検出を維持しつつ、滑走路クラッタからのエコーを最小化することにある。これは、(i)方位ビーム幅を最小化し、(ii)極めて高いレンジ分解能を使用し、(iii)レーダを最適グレージング角で設置し、かつ、(iv)直角偏光を受け取ることによって達成される。本明細書において説明されている、94.5GHzの中心周波数で動作するタイプのFMCWレーダは、必要なレンジ分解能を達成しており、また、他のあらゆる基準に合致することができる。
【0083】
本発明によるレーダは、右回り円(RHC)偏波放射を送信し、左回り円(LHC)偏波放射とRHC偏波放射の両方を受信することを立証している。受信ダイバーシティは、FODを検出する確率が改善され、かつ、雨中での能力が提供されるように選択されている。レーダは、360°の方位を回転可能に取り付けられており、通常、3°/sで回転している。この回転速度は低速であり、ドウェル毎の十分な「ヒット」を可能にしているが、理想的には、離陸または着陸毎の更新を提供するためには十分に高速でなければならない。
【0084】
レーダの設置は重要であり、空港の地形および滑走路表面の特性に大いに依存している。滑走路の表面は、傾斜していてもあるいは中高になっていてもよく、また、排水のための要求事項に応じて溝を施すことも可能である。滑走路の表面に対する理想的なグレージング角は、滑走路表面の検出を正に開始するポイントにレーダが位置する角度である。
【0085】
本発明に従って製造されたFMCWレーダは、表3に示す特性を有することが分かっている。レーダは、分解能が0.25mの8192個のレンジセルを備えており、2048mの最大表示レンジが得られる。600MHzの掃引帯域幅と相俟った0.01%未満の周波数掃引直線性により、極めて多数のレンジセルが得られる。本発明は、さらに広範囲の掃引帯域幅を達成することができ、たとえば最大4GHzの帯域幅が容易に達成されることに留意されたい。
【0086】
レーダの性能は、複数の空港ロケーションで評価された。通常、レーダは、滑走路の表面から5mの高さに、滑走路に最も近い部分から200m離れた位置に配置される。異なる配向で滑走路に置かれた既知の反射器およびFODの実アイテムに対する広範囲にわたる実験が実行された。
【表3】
【0087】
図6を参照すると、1000m先の滑走路表面に2mの間隔を隔てて配置された4つの物体の検出が示されている。アイテムは、左から右へ向かって、(i)真正面から見たM12ボルト(参照数表示102で示されている)、(ii)コンコルドが墜落する原因になった金属条片と類似した金属条片(参照数表示104で示されている)、(iii)横になったガラス瓶(参照数表示106で示されている)、および(iv)横になった小さいプラスチック瓶(参照数表示108で示されている)である。もっと大きいターゲット(参照数表示110で示されている)は人間である。
【0088】
図7aを参照すると、周囲のフェンス内に3つのアースマウンドを備えた300m×400mの領域が示されている。路面トラックが明確に見て取れ、切り取られた草の方向を含む草地の輪郭が見える。アースマウンドおよび他の物体による陰もはっきりと見えている。図7bは、周囲のフェンスを大写しにした35m×55mを示したものである。3m間隔のフェンスポストを明確に区別することができる。
【0089】
したがって、本発明によるFMCWレーダは、空港の滑走路上の極めて微小な異物およびデブリス(FOD)の検出にとりわけ適していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1a】時間を関数としたFMCWレーダのダウン変換後の受信時間領域信号の強度を示すグラフである。
【図1b】時間を関数とした典型的なFMCWレーダの出力信号の周波数を示すグラフである。
【図2a】FMCWレーダの送信および受信周波数信号を示すグラフである。
【図2b】受信信号の異なる周波数成分を示すグラフである。
【図2c】信号の分解周波数成分を示すグラフである。
【図3a】FMCWレーダの出力に対する非直線周波数掃引の影響を示すグラフである。
【図3b】FMCWレーダの出力に対する非直線周波数掃引の影響を示すグラフである。
【図4】本発明によるFMCWレーダを示すブロック図である。
【図5a】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5b】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5c】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5d】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5e】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図6】空港の滑走路上の物体を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【図7a】空港の滑走路の周囲を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【図7b】空港の滑走路の周囲を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数変調持続波(FMCW)レーダに関し、詳細には周波数掃引の直線性が改善されたFMCWレーダ装置およびこのような装置を動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダシステムについては良く知られており、長年にわたって広範囲に使用されている。このようなシステムでは、送信無線周波数(RF)信号の周波数を系統的に変化させることによってターゲットまでのレンジが測定される。通常、レーダは、送信周波数が時間と共に直線的に変化するようになされており、たとえば三角周波数掃引または鋸歯周波数掃引が実施されている。この周波数掃引により、事実上、送信信号に「タイムスタンプ」が瞬時瞬時に刻印され、送信信号とターゲットから戻る信号(すなわち反射信号または受信信号)との間の周波数の差を使用して、ターゲットレンジの度量法が提供される。また、FMCWレーダによって提供されるレンジ情報の精度は、周波数掃引の直線性によって決まることは当業者には良く知られている。したがって当業者により、長年にわたって、FMCWレーダシステムの周波数掃引の直線性を改善するための多くの技法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
典型的なFMCWレーダでは、電圧制御発振器(VCO)を使用して、電圧の変化が対応する周波数変化に変換されている。品質の高い直線電圧変化(たとえば三角波形または鋸波形)を生成することは大したことではないが、VCOによる対応する周波数変化への変換は、しばしば、FMCWレーダのレンジ分解能を著しく低下させる重大な非直線性の原因になっている。本質的に直線であるVCOを製造するための試行がなされている。たとえば、米国California州Freemont在所のMicro Lambda Wireless社は、YIG発振器を製造しており、直線性が最大0.1%の微同調コイルが製造されている。しかしながら、通常、このようなデバイスは、提供する帯域幅が狭く、また、現在のところ、どちらかと言えば高価である。
【0004】
また、VCOに印加される電圧同調信号を修正し、あるいは予めひずませることにより、VCO応答特性のあらゆる非直線性を補償することが知られている。アナログ先行ひずませ(pre−distortion)により、直線性が約2%ないし5%の波形を生成することができるが、この技法は、温度効果およびエージングの影響を受け易い。VCO同調信号のディジタル先行ひずませも知られており、ルックアップテーブルを作成するための、VCOの周波数同調特性の測定が含まれている。ルックアップテーブルを使用することにより、VCOに印加される同調信号を修正し、あらゆるVCO非直線性を補償することができる。これらの技法は、直線性を約1%を超える優れたレベルまで改善することができるため、ある程度成功した低コストFMCWレーダアプリケーションにはディジタル先行ひずませ技法が使用されている。しかしながら、VCOを変調する望ましくないディジタル雑音を回避するためには、この技法には慎重な設計が必要である。
【0005】
現在、高性能FMCWレーダを提供するために最も広く使用されている技法は、閉ループフィードバックである。閉ループフィードバック技法は、様々な方法で実施されているが、それらはすべて、基準信号と混合すると「うなり」周波数を生成する人工ターゲットの生成に基づいている。完璧に直線化されたFMCWレーダの場合、固定レンジターゲットによって一定の「うなり」周波数が生成される。したがって、実用的なFMCWレーダの場合、「うなり」周波数が望ましい一定の周波数値から変動すると、VCOを微同調して一定の「うなり」周波数を維持するための誤差信号を生成することができる。このフィードバック技法は、レーダの最終RF周波数で実施することができ、あるいはダウン変換されたもっと低い周波数で実施することができる。直線性が0.05%より良好な波形が立証されているが、システムを極めて良好に設計しない限り、この技法には、不安定になる傾向があり、その帯域幅は、通常、約600MHzに制限されている。また、VCOが直接変調されるため、結果として生じる送信信号の位相雑音信号が妥協を余儀なくされることがある。M Nalezinski、M Vossiek、P Heide(Siemens AG、Munich)らの論文「Novel 24 GHz FMCW Front End with 2.45GHz SAW Reference Path for High−Precision Distance Measurements」(IEEE MTT−S International Microwave Symposium、Prague、1997年6月)に、このようなフィードバックループ構造の一例が示されている。
【0006】
また、それより以前に、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書に、戻り信号を非直線方式でサンプリングすることによって非直線周波数掃引の影響を抑制する方法が記載されている。詳細には、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書には、人工固定レンジターゲットを使用して、サンプリングパルスの流れを得ることができる「うなり」周波数を生成する方法が記述されている。このようなサンプリングパルス間の間隔は、完璧な直線周波数掃引の場合に一定にすることができるが、周波数掃引が非直線である場合は変化することがある。サンプルアンドホールド回路を使用して戻り信号(すなわち実ターゲットによって戻される信号)をサンプリングすることにより、送信信号の周波数掃引のあらゆる非直線性が補償される。しかしながら、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書に記載されているシステムが適しているのは短いレンジの動作のみであり、提供される感度は限られている。当業者がこのような構造をFMCWシステムに使用するのを控え、その努力を上で説明した先行ひずませおよび閉ループフィードバック構造に集中させたのは、そのためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダは、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器と、レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備えており、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
したがって、周波数掃引信号、たとえば周波数が変化する鋸歯信号または三角信号を生成するための周波数掃引発生器を有するFMCWレーダが提供される。レーダは、さらに、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、受け取った周波数掃引信号の一部から、レーダによる送信のためのFMCW信号を生成するようになされたトランシーバを備えている。また、トランシーバは、レーダによって送信される周波数掃引信号(送信信号)と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻される信号(エコー信号)とを混合することによってターゲット差周波数信号を生成するようになされている。
【0009】
レーダは、さらに、人工ターゲットからのエコー信号に対応すると見なすことができる時間変位周波数掃引信号と周波数掃引信号の一部を混合することによって基準差周波数信号を生成する弁別器を備えている。トランシーバによって生成されるターゲット差周波数信号は、基準差周波数信号の周波数に応答して動的に変化するサンプリングレートでADCによってサンプリングされる。つまり、基準差周波数信号を使用して、ターゲット差周波数信号をサンプリングするADCがクロックされる。この構造により、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号のあらゆる非直線性が補償され、ADCは、1つまたは複数のターゲットレンジに直接関連する周波数成分を有するディジタル化信号を出力する。
【0010】
英国特許第2083966号明細書に記載されているシステムとは異なり、本発明によるレーダ装置は、周波数掃引信号の一部から時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えた弁別器を備えている。光遅延手段は、少なくとも1つの光ファイバ遅延線路を備えていることが好ましく、それにより、物理的にコンパクトで、かつ、頑丈な光学構造が提供される。使用に際しては、光遅延手段により、好ましくは少なくとも1つのレーザダイオードを使用して、電気周波数掃引信号の一部が対応する強度変調光信号に変換される。光信号は、電気信号に再変換される前に、光路すなわち一定の長さの光ファイバなどの導波路に沿って通過する。光遅延手段は、光信号を電気信号に再変換するための少なくとも1つの光検出器を備えていることが好ましい。したがって、光検出器によって出力される電気信号(すなわち時間変位周波数掃引信号)は、周波数掃引発生器によって出力される周波数掃引信号に対して遅延されている(つまり時間変位されている)。次に、時間変位周波数掃引信号が非遅延周波数掃引信号の一部と混合され、基準差周波数信号が生成される。
【0011】
本発明による光遅延手段を備えたレーダには多くの利点がある。たとえば、光遅延手段は、低損失の光ファイバを長い距離(たとえば数十メートルまたは数百メートル、さらには数キロメートル)にわたって備えることができる。そのため、認められるほどの信号損失を何ら伴うことなく長い遅延を時間変位周波数掃引信号に付与することができ、延いては長い最大動作レンジを有するレーダ装置を提供することができる。さらに、光ファイバをベースとする遅延手段は、極めて低いレベルの分散を提供し、また、広範囲にわたる温度に対して安定した導波路特性を有しており、時間によって著しく変化することはない。そのため、レーダの動作環境の変化あるいは装置の経年変化によって導入される望ましくない予測不可能な遅延継続期間の変化が防止される。
【0012】
本発明によるレーダ装置、詳細には電気遅延手段に代わって光遅延手段を備えたことにより、英国特許第2083966号明細書に記載されている、損失の大きいマイクロ波遅延線路を使用して時間変位周波数掃引信号を生成しているデバイスに優る、重要で、かつ、全く予想外の利点が提供されることを再度強調しておかなければならない。また、本発明によるレーダには開ループ制御機構が使用されており、したがって上で説明した従来技術による閉ループフィードバック技法より本質的に安定しており、かつ、頑丈である。そのため、FMCWレーダの設計では空前絶後の広範囲のRF帯域幅にわたって直線性が達成されるFMCWレーダが得られる。
【0013】
有利には、光遅延手段は、周波数掃引信号に関する複数の異なる時間変位のうちの任意の1つを有する時間変位周波数掃引信号を生成するようになされている。つまり、光遅延手段は、時間変位周波数掃引信号に付与される遅延の継続期間を必要に応じて選択することができるようになされている。
【0014】
都合のよいことには、光遅延手段は、マルチタップ光ファイバ遅延線路を備えている。光遅延手段は、このマルチタップ光ファイバ遅延線路と光スイッチング技法および/または電気スイッチング技法を組み合わせて使用して、時間変位周波数掃引信号に付与される遅延を変更するように構成することができる。
【0015】
たとえば、単一のレーザダイオードを使用して変調光信号をマルチタップ光ファイバに結合することができる。電気スイッチングの場合、電気光検出器を複数の光タップポイントの各々または少なくとも一部に提供することができる。次に、電気セレクタスイッチを使用して、所望の電気光検出器のみの電気出力を導いて周波数掃引信号と混合し、それにより基準差周波数信号を生成することができる。別法としては、レーザダイオードを複数の光タップポイントの各々または少なくとも一部に提供し、かつ、提供されている、放射を受け取ることができる単一の検出器を光ファイバに結合することも可能である。次に、周波数掃引信号を適切なレーザダイオードへ経路指定するか、あるいは必要なレーザダイオードのみに電力を供給することにより、検出器が受け取る信号に付与される遅延を決定することができる。
【0016】
光スイッチングの場合、周波数掃引信号によってレーザダイオードの出力強度が変調される。次に、変調されたレーザ光がマルチタップ光ファイバに結合され、複数のタップポイントの各々または少なくとも一部の出力が光セレクタスイッチに供給される。次に、必要な遅延を付与する光信号が光セレクタスイッチによって電気光検出器へ経路指定され、そこで電気信号に変換され、引き続いて周波数掃引信号と混合される。この場合も、代替構造として、光セレクタスイッチを使用してレーザ出力を複数のマルチタップポイントのうちの任意の1つに経路指定し、かつ、電気光検出器をファイバに沿った単一のタップポイントに光結合することも可能である。上で指摘したように、電気スイッチングと光スイッチングを組み合わせることも可能である。
【0017】
有利には、光遅延手段は、長さが異なる複数の光ファイバを備えている。この場合、光ファイバの各々は、電気スイッチングを使用して必要な遅延を選択することができるよう、電気光検出器および電気光検出器と結合したレーザダイオードを有することができる。別法としては、第1の光スイッチを介してレーザの光出力を選択されたファイバに経路指定し、第2の光スイッチを介してそのファイバの出力を電気光検出器に光経路指定することも可能である。マルチタップ光ファイバに関連して上で説明した方法と類似した方法で、電気スイッチングと光スイッチングを組み合わせることも可能である。
【0018】
以上から、当業者には、本発明による光遅延手段を構成して、時間変位周波数掃引信号と周波数掃引信号の間に複数の異なる遅延を付与することができる様々な方法が可能であろう。また、当業者には、適切なスイッチング構造を実施するべく使用することができる、電気通信システムに使用されているような様々な光学コンポーネントおよび電気コンポーネントに気がつかれよう。
【0019】
複数の遅延のうちの任意の1つを時間変位周波数掃引信号に付与することができる光遅延手段を備えることにより、英国特許第2083966号明細書に記載されている従来技術による固定遅延システムに優る多くの利点が得られる。たとえば、使用中、必要に応じてレーダの最大レンジを容易に変更することができる。つまり、使用中、必要に応じてレーダの最大レンジ(レーダのレンジ分解能とは相反する関係である)を増減することができる。必要に応じて、また、必要が生じた場合にデバイスのレンジを適合させる能力により、様々なロケーションでの使用および/または多くの異なるアプリケーションに容易に適合させることができるより柔軟性に富んだレーダシステムが提供される。光遅延手段によって付与される遅延を変更することにより、場合によっては最適性能を維持するために他のレーダパラメータの変更が余儀なくされ、たとえば、場合によっては周波数掃引の帯域幅および/または周波数掃引の継続期間を変更しなければならないことに留意されたい。以下、遅延、周波数掃引帯域幅および掃引継続期間の間の関係について、より詳細に説明する。
【0020】
有利には、光遅延手段によって付与される遅延は、最大必要レーダ射程におけるターゲットまでの送信信号の飛行時間の倍数と等価になるように選択される。
【0021】
以下でより詳細に説明するように、周波数掃引信号の周波数変化が非直線である場合、基準差周波数信号は、周波数掃引信号の非直線性に関連する方法で周波数が変化する正弦波からなっていてもよい。有利には、弁別器によって生成される基準差周波数信号を、基準差周波数信号の周波数に関連する間隔で分離された一連のタイミングパルスに変換するためのアナライザが提供されており、これらのタイミングパルスを使用してADCがクロックされる。アナライザは、ゼロ交差検出器を備えていることが好ましい。その場合、基準差周波数信号の電圧がゼロを交差する毎にクロックパルスが生成される。以下で言及するように、ゼロ交差検出器は、信号がゼロを交差する毎に、または正の方向あるいは負の方向からゼロを交差した場合にのみ、タイミングパルスを生成するように構成することができる。また、アナライザは、ゼロ交差検出器に印加される信号の周波数を2倍にするための周波数2倍器を備えることも可能である。上で説明したタイプのアナライザを提供する代わりに、正弦波によって直接クロックすることができるADCを使用することも可能であることに留意されたい。
【0022】
周波数掃引発生器は、有利には、鋸波周波数掃引信号および三角波周波数掃引信号のうちの任意の1つを出力するように構成することができる。都合のよいことには、周波数掃引発生器は電圧制御発振器を備えている。VCOには正確な同調特性が不要であるため、たとえば移動電気通信産業で使用されているタイプなどのように、極めて低コストにすることができる。
【0023】
周波数掃引発生器は、予めディジタルひずみを含んだ同調信号を電圧制御発振器に出力するための電圧信号発生器を備えていることが好ましい。この方法によれば、VCOの直線性を改善することができる。本発明によるレーダは、あらゆる単調周波数掃引信号の非直線性を補償することができるが、電圧制御発振器は、とりわけレーダがアンチエイリアスフィルタをさらに備えている場合、直線性が10%より良好な周波数掃引信号を出力することが好ましい。このようなアンチエイリアスフィルタを備えることにより、ナイキスト周波数より高いすべての周波数を遮断することによってレーダの性能が改善されるが、周波数掃引信号の直線性が約10%より高い場合、最大レンジ付近における信号検出感度の損失を招くことがある。
【0024】
本明細書においては、「直線性」という用語は、直線からの周波数勾配の百分率偏差を意味している。これは、最小変化および最大変化を表す「±x%」値で表現することができ、あるいは単純に平均偏差「x%」で表現することができる。したがって百分率直線性の値が小さいほど、直線性が優れた信号であることを意味しており(ゼロは完璧な直線である)、一方、百分率直線性の値が大きいほど、直線性に乏しい信号であることを意味している。この方法による直線性の記述は、当業者に広く使用されている。
【0025】
有利には、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号は、第1の周波数帯内の周波数範囲を有しており、レーダによって送信される信号は、第2の周波数帯内の周波数範囲を有している。第1の周波数帯に含まれている周波数は、第2の周波数帯に含まれている周波数より低い。トランシーバは、都合のよいことには、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするための周波数アップコンバータを備えている。周波数アップコンバータは、安定局部発振器(STALO)を備えていることが好ましい。STALOの位相雑音は、周波数掃引発生器のVCOの位相雑音と同程度であることが理想的である。
【0026】
したがって、本発明は、レーダによって最終的に送信される周波数よりはるかに低い周波数で周波数掃引発生器が動作する、いわゆるアップ変換アーキテクチャを使用して実施されることが好ましい。たとえば、周波数掃引発生器は、UHF帯(たとえば数百MHzないし数GHz)で動作させることができ、一方、レーダは、10GHzから100GHzを超える範囲の周波数を有する信号を送信する。低周波数帯で生成される周波数掃引信号は、適切なアップコンバータによってレーダ送信周波数帯までアップ変換される。また、遠隔ターゲットからレーダに戻る信号は、明らかに送信信号の周波数帯と同じ周波数帯内であるが、送信信号および受信信号がホモダイン混合されると、それらは、ベースバンド周波数でターゲット差周波数信号を生成することに留意されたい。したがってこのアーキテクチャにより、周波数掃引発生器、弁別器、ADC等をより低いUHF帯の周波数で動作させることができる。これにより、レーダのコストと複雑性の両方が低減され、本質的により良好な位相雑音性能が得られる。したがって、英国特許第2083966号明細書に記載されているような、周波数掃引が最終レーダ動作周波数で直接生成される設計と比較すると、レーダの感度が改善される。
【0027】
このタイプのアップ変換アーキテクチャの他の利点は、ほとんどの直線化回路(つまり周波数掃引発生器、弁別器、ADC)が、レーダ送信周波数に無関係であることである。したがって、STALOなどのトランシーバコンポーネントは、必要なレーダ出力周波数が生成されるように選択しなければならないことは明らかであるが、同じ直線化回路を異なるアプリケーションに異なるRF周波数で使用することができる。したがって、94.5GHzで動作する滑走路デブリス監視レーダ、35GHzで動作する周辺警戒レーダ、24GHzで送信するレベル測定レーダ、17GHzで動作する鳥検出レーダ、または9GHzで動作する航行レーダに直線化回路を使用することができる。
【0028】
したがって、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数を有する基準差周波数信号を生成するための弁別器と、レーダによって送信される信号を周波数掃引信号の一部から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数を有するターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備え、周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号が第1の周波数帯内の周波数範囲を有し、レーダによって送信される信号が第2の周波数帯内の周波数を有し、第1の周波数帯の中心周波数が第2の周波数帯の中心周波数より低い、周波数変調持続波(FMCW)レーダを提供することができる。
【0029】
このようなレーダの場合、トランシーバは、有利には、周波数掃引信号の一部を受け取るように構成することができ、また、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするためのアップコンバータを備えることができる。さらに、周波数アップコンバータは、都合のよいことには、安定局部発振器(STALO)を備えることができる。有利には、弁別器は、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えている。
【0030】
レーダは、さらに、アンテナを備えることができる。アンテナは、個別の送信アンテナエレメントおよび受信アンテナエレメントを備えることができることが好ましい。つまり、バイスタティックアンテナアレイを提供することができる。代替としてモノスタティックアンテナを使用することも可能である。
【0031】
レーダは、9GHzないし150GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされていることが好ましく、70〜80GHzまたは90〜100GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされていることがより好ましい。レーダは、都合のよいことには、約77GHzまたは94.5GHzの周波数を有する信号を送信するように構成することができる。これらの周波数は、大気吸収窓の範囲内であるため、有利である。
【0032】
商用レーダシステムは、すべて、国際電気通信連合(ITU)によって管理されている国際周波数割当ての範囲内でもある周波数で動作するようになされていることが好ましい。英国では、周波数割当ては、通信調整法人団体であるOFCOMによって管理されている。したがって、76〜81GHz、92〜95GHzまたは95〜100GHzの範囲内の周波数を有する信号を送信するレーダが提供されることが好都合である。
【0033】
約40GHzを超える周波数では、通常、マイクロ波導波路を使用して信号を導く必要がある。したがってレーダは、都合のよいことには、40GHzより高い周波数を有する信号を送信するようになされている。本発明によるアップコンバータ態様によれば、このようなレーダを実施するために必要なマイクロ波回路の量が少なくなり、延いてはこのようなシステムを提供するコストが低減される。
【0034】
有利には、光遅延手段は、100mを超える、500mを超える、1kmを超える、2kmを超える、5kmを超える、10kmを超える、20kmを超える、または40kmを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えている。光導波路の物理的な長さは、通常、遅延を模擬することが意図されている等価自由空間光路長より短くすることができることに留意されたい。つまり、光ファイバコアの実効屈折率は、自由空間の屈折率より大きくすべきであると思われる。したがって、光導波路の物理的な長さは、レーダエネルギーが特定の自由空間光路長を通過するために要する時間と等価の遅延時間が生成されるように選択される。
【0035】
したがって、光遅延手段を使用することにより、数百メートル、さらには数十キロメートルの自由空間光路長と等価の遅延を生成することができることが分かる。これは、長い同軸ケーブルから形成された電子遅延線路を備えた従来技術による技法とは対照的である。このような構造に使用することができる同軸ケーブルの長さは、高レベルのRF損失および構造のせん断物理サイズにより、通常、約50mに制限されている。また、同軸ケーブル解決法は、温度によって周波数分散が変化する問題を抱えている。英国特許第2083966号明細書に記載されているような従来技術によるデバイスは、位相固定ループ等を使用して、同軸ケーブル遅延線路で達成することができる遅延の延長を試行しているが、それは、単にシステムの性能を低下させているにすぎない。したがって、本発明により、従来可能であった遅延よりはるかに長い遅延を有する遅延周波数掃引信号を生成することができることが分かる。
【0036】
本発明の第2の態様によれば、地表の物体を検出するための装置は、本発明の第1の態様によるレーダを備えている。物体は異物デブリス(FOD)であることが好ましく、また、地表は空港の滑走路であることが好ましい。
【0037】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様によるレーダを備えた周辺警戒装置が提供される。
【0038】
本発明の第4の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダのための周波数直線化モジュールは、周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器とを備えており、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴としている。
【0039】
直線化モジュールは、本発明の第1の態様によるレーダに使用されることが好ましい。詳細には、周波数直線化モジュールは、FMCWレーダの直線性応答を改善するべく既存のFMCWレーダに適合させることができる。
【0040】
有利には、直線化モジュールは、閉ループフィードバックFMCWレーダの一部として使用することができる。たとえば、弁別器によって生成される基準差周波数信号は、フィードバックコントローラに供給することができる。この場合、フィードバックコントローラは、掃引期間の間、基準差周波数信号のあらゆる周波数変化に応答して周波数掃引発生器のVCOに印加される電圧同調信号の特性を動的に変更するように構成することができる。つまり、フィードバックコントローラは、基準差周波数信号の周波数を一定に維持するべく電圧同調信号を変更することができる。閉ループフィードバックレーダは、最終送信周波数で周波数掃引信号を生成する周波数掃引発生器を備えることができ、あるいは閉ループフィードバックレーダは、都合のよいことには、上で説明したタイプのアップ変換アーキテクチャを使用して構築することができる。
【0041】
本発明の第5の態様によれば、周波数変調持続波(FMCW)レーダを動作させる方法には、(i)周波数掃引信号を生成するステップと、(ii)周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するステップと、(iii)レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成するステップと、(iv)レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するステップと、(v)アナログ−ディジタル変換器(ADC)を使用してターゲット差周波数信号をサンプリングするステップであって、ADCサンプリングレートが基準差周波数信号の周波数から得られるステップが含まれており、基準差周波数信号を生成するステップ(ii)で使用される時間変位周波数掃引信号が、光遅延手段を使用して生成されることを特徴としている。
【0042】
都合のよいことには、この方法には、さらに、地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップが含まれている。有利には、地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップは、空港の滑走路の異物デブリス(FOD)を検出するためにレーダを使用するステップである。別法または追加として、この方法は、さらに、周囲のフェンスなどの画定領域の周辺を監視するためにレーダを使用するステップを含むことができる。
【0043】
以下、本発明について、単なる実施例にすぎないが、添付の図面を参照して説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図1aおよび図1bを参照すると、周波数が直線的に掃引されるFMCWレーダの基礎をなす原理が示されている。図1aは、時間を関数としたFMCWレーダの受信信号の振幅(ダウン変換後の振幅)を示したものであり、一方、図1bは、時間を関数としたレーダ出力の周波数変化を示したものである。
【0045】
図2a〜図2cは、FMCWレーダを使用してレンジ情報を決定する方法を示したものである。図2aの線2は、レーダの送信信号の鋸歯周波数変化を示しており、線4は、レーダから第1の距離d1におけるターゲットから戻る信号の周波数の時間による変化を示している。線6は、レーダから第2の距離d2における第2のターゲットから戻る信号の周波数の時間による変化を示している。この場合、d2におけるターゲットのレーダからの距離は、d1におけるターゲットのレーダからの距離の約2倍である。
【0046】
線4は、線2からΔt1だけ時間がシフト(つまり遅延)しており、また、線6は、線2からΔt2だけ時間がシフトしていることが分かる。この時間シフトは、エコー信号が当該ターゲットまで移動し、かつ、戻ってくるまでの間に要する時間で決まり、したがってターゲットまでのレンジを表している。この理論例では、時間による周波数の変化は、測定窓8の範囲内では完璧に直線である。したがって、d1におけるターゲットからのエコーは、全測定窓8の範囲内で送信信号から周波数Δf1だけその周波数がシフトしていることが分かる。同様に、d2におけるターゲットからのエコーは、送信信号から周波数Δf2だけその周波数がシフトしている。
【0047】
FMCWレーダの場合、レーダが受信するエコー信号と送信信号が混合される。この混合により、送信信号の周波数と受信信号の周波数の差に等しい周波数の差信号すなわちうなり信号(つまり多くの周波数成分を含んだ信号)が生成される。図2bは、送信信号とd1におけるターゲットから戻る信号を混合することによって生成される周波数成分14、および送信信号とd2におけるターゲットから戻る信号を混合することによって生成される周波数成分16を示したものである。高速フーリエ変換(FFT)技法により、図2cに示すように、測定窓8内の時間に対するこれらの混合信号の周波数解析が提供され、かつ、周波数を関数としたレーダエコー強度が提供される。観察される周波数シフト(つまりターゲットうなり周波数fb)は、
【数1】
で表現されるターゲットのレンジ(R)に関連している。cは光の速度、ΔFは周波数帯域幅(すなわち最高周波数−最低周波数)、ΔTは掃引継続期間である。直線周波数掃引の勾配(すなわちΔF/ΔT)は既知であり、したがって、測定したうなり周波数から、1つまたは複数のターゲットまでのレンジを計算することができる。
【0048】
上で指摘したように、実際のレーダシステムでは真の直線周波数掃引を得ることは困難である。次に図3a〜図3bを参照すると、レーダによって得られるレンジ情報の精度が非直線掃引周波数を使用することによって著しく低下することが分かる。詳細には、図3aは、非直線周波数掃引信号を有する送信信号(曲線30)を示したものである。エコー信号(曲線32)は、送信信号(曲線30)から一定の遅延Δt3だけ時間がシフトしているが、これらの2つの信号の周波数の差は、時間に対して一定ではない。これは、周波数の差(つまり送信信号と受信信号のうなり周波数)を時間の関数として示す図3bから分かる。したがって周波数掃引の非直線性によってレンジ測定に大きな誤差が導入され、直線周波数掃引を有するレーダが提供されることが望ましい理由が分かる。
【0049】
次に図4を参照すると、本発明によるFMCWレーダ40が示されている。
【0050】
レーダ40は、UHF周波数の鋸歯周波数掃引信号を出力するための周波数掃引発生器42を備えている。周波数掃引発生器42は、同調信号発生器46から電圧制御信号を受け取るようになされた電圧制御発振器(VCO)44を備えている。
【0051】
VCO44は、位相雑音が極めて小さい電圧制御発振器(VCO)である。多くの製造者から低コストで適切なVCOを商用的に入手することができ、VCOは移動電気通信アプリケーションなどに広く使用されている。VCO44は、単調同調特性を有しているが、VCOの同調直線性は重要ではない。同調信号発生器46は、同調信号をディジタル的に生成しており、ディジタル量子化雑音を除去するためのフィルタ(図示せず)を備えている。そのため、VCO同調信号のディジタル先行ひずませが可能であり、それにより直線性が10%より良好な周波数掃引をVCOに出力させることができる。周波数波形は、本質的に鋸歯であることが好ましく、12.5cmのレンジ分解能に対応する少なくとも1500MHzの帯域幅を容易に達成することができる。
【0052】
ディジタル同調信号発生器46が記述されているが、別法として、単純なアナログ積分器回路によってVCO同調信号を生成することも可能であることは当業者には認識されよう。同様に、交番直線波形(たとえば三角波形等)を生成するように周波数掃引発生器を構成することも可能である。
【0053】
周波数掃引発生器42の出力は、分割器48に引き渡される。分割器48によって信号が2つに分割され、したがって分割された信号は、レーダトランシーバ50と遅延線路弁別器52の両方に供給される。
【0054】
レーダトランシーバ50は、ホモダインアーキテクチャを有している。レーダトランシーバ50は、安定局部発振器(STALO)54および分割器48から受け取る低周波数信号を所望のRF周波数(通常は約94.5GHz)にアップ変換する第1の周波数混合器56を備えている。RF周波数信号からより低い側波帯を除去するための側波帯除去フィルタ59が提供されている。別法として、より高い側波帯をRF信号から除去することも可能であることに留意されたい。次に、RF信号(この場合、より高い側波帯のみが含まれている)がRF電力増幅器58によって増幅され、サーキュレータ60を介してアンテナ62に引き渡される。この技法の場合、キーとなる構成要素は、位相雑音が小さいことが好ましいSTALO54である。
【0055】
アンテナ62が受け取るエコー信号は、サーキュレータ60を介して低雑音増幅器64に引き渡される。低雑音増幅器64によって出力される増幅されたエコー信号は、次に、同位相直角(In−phase Quadrature)(IQ)周波数混合器66を使用して、RF信号出力の一部と混合される。つまり、1つまたは複数のターゲットからのレーダエコーは、送信中の信号のサンプルとのIQ周波数混合によって直接ベースバンドに変換される。ベースバンドエコー信号は、次に、アナログ−ディジタル変換器(ADC)80に引き渡される前に、増幅器84およびアンチエイリアスフィルタ86を備えた条件付け回路82に引き渡される。アンチエイリアスフィルタ86は、所定のレベルより高い周波数を有する信号のあらゆる周波数成分を除去するようになされている。アンチエイリアスフィルタ86は、通常、ナイキスト周波数より高い周波数を有するすべての信号を除去するようになされている。
【0056】
レーダは、同じアンテナを使用して送信および受信する単一アンテナシステム(つまりモノスタティック構造)、あるいは個別のアンテナを使用して送信および受信する二重アンテナシステム(つまりバイスタティック構造)のいずれかとして構成することができることに留意されたい。分かり易くするために図4にはモノスタティックアンテナ構造が示されているが、送信機位相雑音が受信機から最適分離される利点を有しているため、バイスタティック構造であることが好ましい。
【0057】
上で概説したように、分割器48は、同じく、周波数ランプ発生器42の出力の一部を遅延線路弁別器52に出力している。遅延線路弁別器52は、もう1つの分割器68、もう1つの周波数混合器70、レーザ源72、光ファイバ遅延線路74および光検出器76を備えている。
【0058】
遅延線路弁別器52のもう1つの分割器68は、受け取ったVCO信号を2つの経路に分割している。第1の経路は、信号をもう1つの周波数混合器70の局部発振器ポートに直接引き渡している。第2の経路は、VCO信号をレーザ源72に引き渡している。レーザ源の出力は、受け取ったVCO信号によって強度が変調されており、光検出器76によって電気信号に再変換される前に、光ファイバ遅延線路74に沿って通過する。光検出器76によって生成された電気信号は、次に、周波数混合器70のRF入力ポートに引き渡される。以下でより詳細に説明するように、光ファイバ遅延線路74の長さは、レーダの最大インスツルメンテッドレンジにおけるターゲットによって生成されることになる遅延と等価の遅延を付与するように選択されるか、あるいはその長さの2倍である。光ファイバ遅延線路74によって付与される遅延は、たとえば位相固定ループを使用して、引き続いて電子的に延長することができることに留意されたい。
【0059】
レーザ源72は、分布帰還型(DFB)レーザまたは分布ブラッグ反射型(DBR)レーザなどの固体半導体レーザである。VCO信号を使用してレーザダイオード電流サプライが変調され、延いてはレーザ出力の強度が変調される。現在、最大約18GHzのレートで強度を変調することができるレーザダイオードを商用的に入手することができ、最大70GHzのレートで変調することができるレーザダイオードが報告されている。また、これらの変調レートで動作させることができる光検出器76も、多くのソースから商用的に入手することができる。光分散効果を最小化するためには、光ファイバ遅延線路74は、単一モード光ファイバから形成されることが好ましい。
【0060】
したがって、本発明により、光搬送波を電気信号で変調し、かつ、光ファイバ遅延線路の中を通過させ、次に、光信号を再度電気信号に復調することによって適切な長さの遅延が提供されることが分かる。光ファイバ遅延線路を使用することにより、事実上、損失を伴うことなく、数十キロメートルと等価の実質的な期間にわたって数ギガヘルツの広い帯域幅を遅延させることができる。また、光ファイバ遅延線路は、RF同軸線路を制限している要因の1つである周波数分散が極めて小さく、とりわけ広範囲にわたる温度変化に対する周波数分散が小さい。また、切換え可能光遅延線路またはマルチタップ光遅延線路により、切換え可能な最大インスツルメンテッドレンジを有するレーダを製造することができることに留意されたい。
【0061】
したがって、光ファイバ遅延線路を使用することにより、同軸遅延線路を使用する場合に存在するレンジ制限が除去される。また、表面弾性波(SAW)遅延線路を使用したシステムとは異なり、遅延の長さと最大達成可能帯域幅の間のトレードオフは存在しない。
【0062】
遅延線路弁別器52によって出力される信号は、選択可能周波数2倍器77を介してゼロ交差検出器78に供給される。光ファイバ遅延線路74の長さがレーダの最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しくなるようになされているか、あるいは光ファイバ遅延線路74の長さがレーダの最大インスツルメンテッドレンジに等しくなるようになされている場合はそのレンジの半分に等しくなるようになされている場合、遅延線路弁別器52によって出力される信号は、最大インスツルメンテッドレンジにおけるターゲットからのエコーと等価であることに留意されたい。また、以下でより詳細に説明するように、遅延線路弁別器52によって出力される信号の周波数は、周波数掃引の間、VCO周波数スロープの変化に従って変化させることができる。
【0063】
ゼロ交差検出器78は、遅延線路弁別器52によって出力される信号の電圧がゼロを交差する毎にクロックパルスを生成するようになされている。これらのクロックパルスを使用して、実ターゲットからのレーダエコーをサンプリングするために使用されるアナログ−ディジタル変換器(ADC)80のサンプリング時間が画定される。ゼロ交差検出器78は、遅延線路弁別器52の出力をハードリミッティングするか、あるいは比較器を使用してADCクロック信号を生成するかのいずれかによって実施することができる。別法としては、ADC80が正弦波クロックを受け取るタイプのADCである場合、遅延線路弁別器52の出力は、ADC80に必要なレベルまで単純に増幅することができる。この方法によれば、周波数掃引発生器42(詳細にはVCO44)の非直線の影響が補償されていることになり、ほぼ完全な周波数直線性が達成される。また、この場合も、ADCの非直線サンプリングのため、しばしばADCと結合したスプリアス周波数スパーが曖昧になり、効果的に除去される。
【0064】
ADC80のディジタル出力は、戻りレーダ信号の周波数成分を抽出するディジタル信号プロセッサ88に供給される。これらの周波数成分は、直線化技法により、レンジに直接関連している。
【0065】
エコー信号をサンプリングする間隔を非直線サンプリングを使用して動的に変更し、それにより周波数掃引発生器の非直線性を補償する基本概念については、英国特許第2083966号明細書および英国特許第1589047号明細書により詳細に記載されている。しかしながら、図4に示す装置を使用してこの技法が動作する仕方について、図5a〜eを参照して簡単に要約しておく。
【0066】
図5aを参照すると、周波数掃引信号と人工ターゲットによって生成される遅延周波数掃引信号(すなわち検出器76によって出力される信号)の間の周波数差(Δf)が示されている。光ファイバ遅延線路74によって導入される遅延は固定であるが、周波数掃引の非直線性は、掃引期間の間、周波数掃引信号と遅延周波数掃引信号の間の周波数差(Δf)の変化をもたらしていることが分かる。これは、図3a〜図3bを参照して説明した効果と同じ効果である。
【0067】
2つの信号を混合することにより、これらの2つの信号の周波数の差に等しい周波数を有する信号が生成されることは良く知られている。したがって周波数掃引信号と遅延周波数掃引信号を混合することにより、その結果として、図5bに示す方法で時間と共に変化する周波数を有する「うなり」信号が生成される。したがって図5bに示すタイプの信号は、高度に非直線性の周波数掃引信号を受け取ることによって遅延線路弁別器52によって生成することができる。
【0068】
ゼロ交差検出器78は、図5bに示す信号を受け取り、受け取った信号から図5cに示すクロックパルスを生成する。この場合、遅延線路の長さが最大インスツルメンテッドレンジに等しく、かつ、周波数2倍器77が起動しているため、弁別器によって出力される周波数が2倍になる。ゼロ交差検出器は、負および正のゼロ交差の両方でクロックパルスを生成するようになされており、したがってサンプリングレートはナイキスト基準を満足する。つまり、サンプリングされる信号の最高周波数成分の周波数の2倍の周波数でサンプリングが生じる。遅延が最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しく、かつ、周波数2倍器77が起動している場合、正または負のゼロ交差のみが必要である。しかしながら、遅延が最大インスツルメンテッドレンジの2倍に等しい場合、周波数2倍器77を非起動状態にし(つまりバイパスし)、かつ、負および正のゼロ交差の両方でクロックパルスを生成するようにゼロ交差検出器を使用することが好ましい。これらのクロックパルスによって、ADC80がベースバンドエコー信号をサンプリングする時間に間に合うポイントが決定される。図5a〜eのダッシュ線S1ないしS29は、これらのポイントを示したものである。
【0069】
図5dは、条件付け回路82からADC80に供給することができるベースバンドエコー信号を示したものである。上で説明したように、図5dに示すベースバンドエコー信号は、エコーレーダ信号と送信中の信号の一部を混合することによって生成される。エコー信号は、図5bに示す人工ターゲット信号と類似した方法で時間と共に変化する周波数を有していることが分かる。したがって、この場合も、周波数掃引の非直線性によって、掃引期間の間、エコー信号と送信信号の周波数の差が変化する。図5dに示す波形が、ゼロ交差検出器78によって生成される時間間隔S1ないしS29でADC80によってサンプリングされる。
【0070】
図5eは、固定サンプリング期間を仮定して再プロットされた図5dのサンプル波形を示したものである。つまり、信号は、実時間の関数としてではなく、ゼロ交差検出器78によって決定されるサンプリング時間sの関数としてプロットされている。このプロセスによって周波数応答の非直線性が除去され、一定の周波数を有する信号がDSP88に引き渡されることが分かる。そのため、この信号から、容易に、かつ、疑いの余地なくレンジを得ることができる。図5dに示すベースバンドエコー信号は、単一レンジにおけるターゲットからのレーダエコーを有していることに留意されたい。実際には、多くの異なるレンジ成分が存在しており、ADC80によって出力される、結果として得られる直線化信号から、DSP88によってそれらの各々を分解することができる。
【0071】
上で言及したように、本発明による装置の利点は、弁別器が多数の切換え可能光遅延線路および/またはマルチタップ光遅延線路を備えることができることである。そのため、光ファイバ遅延線路によって付与される遅延を使用中に変更することができるレーダを提供することができる。しかしながら、付与された遅延を変更することは、レーダの性能パラメータおよびシステム設定にも影響することに留意されたい。したがって、周波数掃引信号に付与された遅延を変更する場合、場合によっては、レーダの所望の用途に応じて、レーダの他の特性を変更しなければならない。
【0072】
一例として、次の式(2)ないし(5)を使用して、レーダの様々な特性を定義することができる。Rmaxは最大レーダインスツルメンテッドレンジであり、遅延線路長はRmaxまたは2Rmaxである。ΔFは掃引帯域幅、ΔTは掃引の継続期間である。
【0073】
レンジ分解能(ΔR)は、
【数2】
で表すことができる。
【0074】
必要なFFT長に関連する時間サンプルの数(N)は、
【数3】
で与えられる。
【0075】
サンプリングレート(S)は、
【数4】
で表現することができる。
【0076】
アンチエイリアスフィルタ遮断周波数(Ffilter)は、
【数5】
である。
【0077】
表1は、遅延線路長を半分にし(つまり2RmaxからRmaxにし)、また、周波数掃引または掃引継続期間を半分にした場合の、レーダ分解能、必要なFFT長、必要なサンプリングレート、必要なアンチエイリアスフィルタ遮断および最大レンジに対する影響を式(2)ないし(5)に基づいて示したものである。
【表1】
【0078】
複雑な相互関係によって様々なレーダ構成および性能基準が左右されること、また、本発明によるレーダシステムは、多くの異なる方法で構成することができることが分かる。
【0079】
表2は、マルチタップ光遅延線路を使用して、4つの異なるレンジを切り換えることができるレーダを実施する方法の一例を示したものである。レーダの掃引時間は3.2768msに固定され、FFT長は16kポイントに固定されている。また、サンプリング周波数は5Mspsに固定され、アンチエイリアスフィルタ遮断は2.5MHzに固定されている。上で指摘したように、遅延線路長は容易に変更することができ、また、周波数掃引は、周波数掃引発生器42のVCO44に印加される電圧同調信号を再プログラミングすることによって容易に変更が可能である。また、クロック係数(つまりゼロ交差検出器78がサイクル毎に1回ゼロ交差をクロックするか、あるいはサイクル毎に2回ゼロ交差をクロックするかどうか)は、周波数2倍器77を起動/非起動することによって変更することができる。したがって、周波数掃引、光遅延線路長およびクロック係数を変更することにより、約0.5km、1km、2kmまたは4kmの最大レンジで動作させることができるレーダが提供されることが分かる。したがって、使用中に容易に変更することができるレンジを有するレーダが提供される。
【表2】
【0080】
上で説明したFMCWレーダは、多くのアプリケーションに使用することができるが、このFMCWレーダは、高分解能レーダデータを必要とするアプリケーションにとりわけ適している。空港の滑走路上のデブリス検出、周辺警戒、雲レーダ、車両衝突回避、測量およびレベル測定などはその一例である。本発明によるレーダシステムの様々な代替潜在アプリケーションについては、当業者には理解されよう。
【0081】
本発明によるレーダシステムは、空港における異物デブリス(FOD)の検出にとりわけ適していることが分かっている。FODには、不適切な位置に見出される、その位置に存在することによって装置を損傷し、もしくは航空機または空港職員を傷つける可能性のあるあらゆる物体が含まれている。これらのFODの結果として生じる損傷は、年間40億ドルの損失を航空宇宙産業にもたらしていると見積られている。滑走路上の16インチの金属条片が引き金となった一連の出来事である、2000年7月のフランス航空のコンコルドの悲劇いらい、全天候性で、かつ、空港運営の中断が最小限で臨機にFODを検出し、かつ、除去するための技法の改善に対する関心が著しく高まっている。現在、典型的には4時間毎に、滑走路の長さに沿った運転により、人手によって検査が実行されている。目視性、人的エラー、および暗闇におけるこの技法の非有効性により、その有効性は限られている。
【0082】
FOD検出専用のレーダを設計するためのキーは、FODの検出を維持しつつ、滑走路クラッタからのエコーを最小化することにある。これは、(i)方位ビーム幅を最小化し、(ii)極めて高いレンジ分解能を使用し、(iii)レーダを最適グレージング角で設置し、かつ、(iv)直角偏光を受け取ることによって達成される。本明細書において説明されている、94.5GHzの中心周波数で動作するタイプのFMCWレーダは、必要なレンジ分解能を達成しており、また、他のあらゆる基準に合致することができる。
【0083】
本発明によるレーダは、右回り円(RHC)偏波放射を送信し、左回り円(LHC)偏波放射とRHC偏波放射の両方を受信することを立証している。受信ダイバーシティは、FODを検出する確率が改善され、かつ、雨中での能力が提供されるように選択されている。レーダは、360°の方位を回転可能に取り付けられており、通常、3°/sで回転している。この回転速度は低速であり、ドウェル毎の十分な「ヒット」を可能にしているが、理想的には、離陸または着陸毎の更新を提供するためには十分に高速でなければならない。
【0084】
レーダの設置は重要であり、空港の地形および滑走路表面の特性に大いに依存している。滑走路の表面は、傾斜していてもあるいは中高になっていてもよく、また、排水のための要求事項に応じて溝を施すことも可能である。滑走路の表面に対する理想的なグレージング角は、滑走路表面の検出を正に開始するポイントにレーダが位置する角度である。
【0085】
本発明に従って製造されたFMCWレーダは、表3に示す特性を有することが分かっている。レーダは、分解能が0.25mの8192個のレンジセルを備えており、2048mの最大表示レンジが得られる。600MHzの掃引帯域幅と相俟った0.01%未満の周波数掃引直線性により、極めて多数のレンジセルが得られる。本発明は、さらに広範囲の掃引帯域幅を達成することができ、たとえば最大4GHzの帯域幅が容易に達成されることに留意されたい。
【0086】
レーダの性能は、複数の空港ロケーションで評価された。通常、レーダは、滑走路の表面から5mの高さに、滑走路に最も近い部分から200m離れた位置に配置される。異なる配向で滑走路に置かれた既知の反射器およびFODの実アイテムに対する広範囲にわたる実験が実行された。
【表3】
【0087】
図6を参照すると、1000m先の滑走路表面に2mの間隔を隔てて配置された4つの物体の検出が示されている。アイテムは、左から右へ向かって、(i)真正面から見たM12ボルト(参照数表示102で示されている)、(ii)コンコルドが墜落する原因になった金属条片と類似した金属条片(参照数表示104で示されている)、(iii)横になったガラス瓶(参照数表示106で示されている)、および(iv)横になった小さいプラスチック瓶(参照数表示108で示されている)である。もっと大きいターゲット(参照数表示110で示されている)は人間である。
【0088】
図7aを参照すると、周囲のフェンス内に3つのアースマウンドを備えた300m×400mの領域が示されている。路面トラックが明確に見て取れ、切り取られた草の方向を含む草地の輪郭が見える。アースマウンドおよび他の物体による陰もはっきりと見えている。図7bは、周囲のフェンスを大写しにした35m×55mを示したものである。3m間隔のフェンスポストを明確に区別することができる。
【0089】
したがって、本発明によるFMCWレーダは、空港の滑走路上の極めて微小な異物およびデブリス(FOD)の検出にとりわけ適していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1a】時間を関数としたFMCWレーダのダウン変換後の受信時間領域信号の強度を示すグラフである。
【図1b】時間を関数とした典型的なFMCWレーダの出力信号の周波数を示すグラフである。
【図2a】FMCWレーダの送信および受信周波数信号を示すグラフである。
【図2b】受信信号の異なる周波数成分を示すグラフである。
【図2c】信号の分解周波数成分を示すグラフである。
【図3a】FMCWレーダの出力に対する非直線周波数掃引の影響を示すグラフである。
【図3b】FMCWレーダの出力に対する非直線周波数掃引の影響を示すグラフである。
【図4】本発明によるFMCWレーダを示すブロック図である。
【図5a】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5b】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5c】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5d】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図5e】図4に示すレーダ装置の動作原理を示すグラフである。
【図6】空港の滑走路上の物体を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【図7a】空港の滑走路の周囲を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【図7b】空港の滑走路の周囲を画像化するために使用した場合の本発明によるレーダの出力を示す画像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、
周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器と、
レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、
基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備えた周波数変調持続波(FMCW)レーダであって、
弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴とする、レーダ。
【請求項2】
光遅延手段が少なくとも1つの光ファイバ遅延線路を備えた、請求項1に記載のレーダ。
【請求項3】
光遅延手段が少なくとも1つのレーザダイオードを備えた、請求項1から2のいずれかに記載のレーダ。
【請求項4】
光遅延手段が少なくとも1つの光検出器を備えた、請求項1から3のいずれかに記載のレーダ。
【請求項5】
光遅延手段が、周波数掃引信号に対する複数の異なる時間変位のうちの任意の1つを有する時間変位周波数掃引信号を生成するようになされた、請求項1から4のいずれかに記載のレーダ。
【請求項6】
光遅延手段がマルチタップ光ファイバ遅延線路を備えた、請求項5に記載のレーダ。
【請求項7】
光遅延手段が長さが異なる複数の光ファイバを備えた、請求項5または6に記載のレーダ。
【請求項8】
光遅延手段によって付与される遅延が、最大必要レーダ射程におけるターゲットに送信される信号の飛行時間の倍数に等しくなるように選択される、請求項1から7のいずれかに記載のレーダ。
【請求項9】
弁別器によって生成される基準差周波数信号を、基準差周波数信号の周波数に関連する間隔で分離された一連のタイミングパルスに変換するためのアナライザが提供され、これらのタイミングパルスを使用してADCがクロックされる、請求項1から8のいずれかに記載のレーダ。
【請求項10】
アナライザがゼロ交差検出器を備えた、請求項9に記載のレーダ。
【請求項11】
周波数掃引発生器が、鋸波周波数掃引信号および三角波周波数掃引信号のうちの任意の1つを出力するようになされた、請求項1から10のいずれかに記載のレーダ。
【請求項12】
周波数掃引発生器が電圧制御発振器を備えた、請求項1から11のいずれかに記載のレーダ。
【請求項13】
周波数掃引発生器が、予めディジタルひずみを含んだ同調信号を電圧制御発振器に出力するための電圧信号発生器を備えた、請求項12に記載のレーダ。
【請求項14】
電圧制御発振器が、直線性が10%より良好な周波数掃引信号を生成する、請求項12から13のいずれか一項に記載のレーダ。
【請求項15】
周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号が第1の周波数帯内の周波数範囲を有し、レーダによって送信される信号が第2の周波数帯内の周波数範囲を有し、第1の周波数帯に含まれている周波数が第2の周波数帯に含まれている周波数より低い、請求項1から14のいずれかに記載のレーダ。
【請求項16】
トランシーバが、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするための周波数アップコンバータを備えた、請求項15に記載のレーダ。
【請求項17】
周波数アップコンバータが安定局部発振器(STALO)を備えた、請求項16に記載のレーダ。
【請求項18】
アンテナをさらに備えた、請求項1から17のいずれかに記載のレーダ。
【請求項19】
アンテナが個別の送信アンテナエレメントおよび受信アンテナエレメントである、請求項18に記載のレーダ。
【請求項20】
9GHzないし150GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされた、請求項1から19のいずれかに記載のレーダ。
【請求項21】
70〜80GHzおよび90〜100GHzの周波数帯のうちの少なくともいずれか一方の周波数帯内の周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項20に記載のレーダ。
【請求項22】
77GHzおよび94.5GHzのうちの少なくともいずれか一方の周波数に近い周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項20に記載のレーダ。
【請求項23】
40GHzを超える周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項1から19のいずれか一項に記載のレーダ。
【請求項24】
光遅延手段が、100メートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項1から23のいずれかに記載のレーダ。
【請求項25】
光遅延手段が、500メートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項24に記載のレーダ。
【請求項26】
光遅延手段が、1キロメートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項25に記載のレーダ。
【請求項27】
請求項1から26のいずれかに記載のレーダを備えた、地表の物体を検出するための装置。
【請求項28】
物体が異物デブリス(FOD)であり、地表が空港の滑走路である、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
請求項1から26のいずれか一項に記載のレーダを備えた、周辺警戒装置。
【請求項30】
周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数を有する基準差周波数信号を生成するための弁別器とを備えた周波数変調持続波(FMCW)レーダのための周波数直線化モジュールであって、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴とする、モジュール。
【請求項31】
(i)周波数掃引信号を生成するステップと、
(ii)周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するステップと、
(iii)レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成するステップと、
(iv)レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するステップと、
(v)アナログ−ディジタル変換器(ADC)を使用してターゲット差周波数信号をサンプリングするステップであって、ADCサンプリングレートが基準差周波数信号の周波数から得られるステップと
を含む周波数変調持続波(FMCW)レーダを動作させる方法であって、
基準差周波数信号を生成するステップ(ii)で使用される時間変位周波数掃引信号が、光遅延手段を使用して生成されることを特徴とする、方法。
【請求項32】
地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップが、空港の滑走路上の異物デブリス(FOD)を検出するためにレーダを使用するステップである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
画定領域の周辺を監視するためにレーダを使用するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
図4および5aから5eを参照して実質的に本明細書において説明されている、レーダ装置。
【請求項1】
周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、
周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するための弁別器と、
レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成し、かつ、レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するためのトランシーバと、
基準差周波数信号の周波数から得られるレートでターゲット差周波数信号をサンプリングするためのアナログ−ディジタル変換器(ADC)とを備えた周波数変調持続波(FMCW)レーダであって、
弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴とする、レーダ。
【請求項2】
光遅延手段が少なくとも1つの光ファイバ遅延線路を備えた、請求項1に記載のレーダ。
【請求項3】
光遅延手段が少なくとも1つのレーザダイオードを備えた、請求項1から2のいずれかに記載のレーダ。
【請求項4】
光遅延手段が少なくとも1つの光検出器を備えた、請求項1から3のいずれかに記載のレーダ。
【請求項5】
光遅延手段が、周波数掃引信号に対する複数の異なる時間変位のうちの任意の1つを有する時間変位周波数掃引信号を生成するようになされた、請求項1から4のいずれかに記載のレーダ。
【請求項6】
光遅延手段がマルチタップ光ファイバ遅延線路を備えた、請求項5に記載のレーダ。
【請求項7】
光遅延手段が長さが異なる複数の光ファイバを備えた、請求項5または6に記載のレーダ。
【請求項8】
光遅延手段によって付与される遅延が、最大必要レーダ射程におけるターゲットに送信される信号の飛行時間の倍数に等しくなるように選択される、請求項1から7のいずれかに記載のレーダ。
【請求項9】
弁別器によって生成される基準差周波数信号を、基準差周波数信号の周波数に関連する間隔で分離された一連のタイミングパルスに変換するためのアナライザが提供され、これらのタイミングパルスを使用してADCがクロックされる、請求項1から8のいずれかに記載のレーダ。
【請求項10】
アナライザがゼロ交差検出器を備えた、請求項9に記載のレーダ。
【請求項11】
周波数掃引発生器が、鋸波周波数掃引信号および三角波周波数掃引信号のうちの任意の1つを出力するようになされた、請求項1から10のいずれかに記載のレーダ。
【請求項12】
周波数掃引発生器が電圧制御発振器を備えた、請求項1から11のいずれかに記載のレーダ。
【請求項13】
周波数掃引発生器が、予めディジタルひずみを含んだ同調信号を電圧制御発振器に出力するための電圧信号発生器を備えた、請求項12に記載のレーダ。
【請求項14】
電圧制御発振器が、直線性が10%より良好な周波数掃引信号を生成する、請求項12から13のいずれか一項に記載のレーダ。
【請求項15】
周波数掃引発生器によって生成される周波数掃引信号が第1の周波数帯内の周波数範囲を有し、レーダによって送信される信号が第2の周波数帯内の周波数範囲を有し、第1の周波数帯に含まれている周波数が第2の周波数帯に含まれている周波数より低い、請求項1から14のいずれかに記載のレーダ。
【請求項16】
トランシーバが、周波数掃引信号の周波数をレーダによって送信される信号の周波数まで高くするための周波数アップコンバータを備えた、請求項15に記載のレーダ。
【請求項17】
周波数アップコンバータが安定局部発振器(STALO)を備えた、請求項16に記載のレーダ。
【請求項18】
アンテナをさらに備えた、請求項1から17のいずれかに記載のレーダ。
【請求項19】
アンテナが個別の送信アンテナエレメントおよび受信アンテナエレメントである、請求項18に記載のレーダ。
【請求項20】
9GHzないし150GHzの周波数帯内の信号を送信するようになされた、請求項1から19のいずれかに記載のレーダ。
【請求項21】
70〜80GHzおよび90〜100GHzの周波数帯のうちの少なくともいずれか一方の周波数帯内の周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項20に記載のレーダ。
【請求項22】
77GHzおよび94.5GHzのうちの少なくともいずれか一方の周波数に近い周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項20に記載のレーダ。
【請求項23】
40GHzを超える周波数を有する信号を送信するようになされた、請求項1から19のいずれか一項に記載のレーダ。
【請求項24】
光遅延手段が、100メートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項1から23のいずれかに記載のレーダ。
【請求項25】
光遅延手段が、500メートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項24に記載のレーダ。
【請求項26】
光遅延手段が、1キロメートルを超える自由空間光路長によって付与される遅延と等価の遅延を生成する光導波路を備えた、請求項25に記載のレーダ。
【請求項27】
請求項1から26のいずれかに記載のレーダを備えた、地表の物体を検出するための装置。
【請求項28】
物体が異物デブリス(FOD)であり、地表が空港の滑走路である、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
請求項1から26のいずれか一項に記載のレーダを備えた、周辺警戒装置。
【請求項30】
周波数掃引信号を生成するための周波数掃引発生器と、周波数掃引信号の一部を受け取り、かつ、周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数を有する基準差周波数信号を生成するための弁別器とを備えた周波数変調持続波(FMCW)レーダのための周波数直線化モジュールであって、弁別器が、時間変位周波数掃引信号を生成するための光遅延手段を備えたことを特徴とする、モジュール。
【請求項31】
(i)周波数掃引信号を生成するステップと、
(ii)周波数掃引信号の周波数と周波数掃引信号から得られる時間変位周波数掃引信号の周波数との差に等しい周波数の基準差周波数信号を生成するステップと、
(iii)レーダによって送信される信号を周波数掃引信号から生成するステップと、
(iv)レーダによって送信される信号の周波数と、1つまたは複数の遠隔ターゲットからレーダに戻る信号の周波数との差に等しい周波数のターゲット差周波数信号を生成するステップと、
(v)アナログ−ディジタル変換器(ADC)を使用してターゲット差周波数信号をサンプリングするステップであって、ADCサンプリングレートが基準差周波数信号の周波数から得られるステップと
を含む周波数変調持続波(FMCW)レーダを動作させる方法であって、
基準差周波数信号を生成するステップ(ii)で使用される時間変位周波数掃引信号が、光遅延手段を使用して生成されることを特徴とする、方法。
【請求項32】
地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
地表の物体を検出するためにレーダを使用するステップが、空港の滑走路上の異物デブリス(FOD)を検出するためにレーダを使用するステップである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
画定領域の周辺を監視するためにレーダを使用するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
図4および5aから5eを参照して実質的に本明細書において説明されている、レーダ装置。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【公表番号】特表2008−514910(P2008−514910A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532948(P2007−532948)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003609
【国際公開番号】WO2006/035199
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003609
【国際公開番号】WO2006/035199
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(501352882)キネテイツク・リミテツド (93)
【Fターム(参考)】
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