説明

周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法

【課題】昼間と夜間との電離層の状態の違いを考慮してより正確な推定を可能とする周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法を提供する。
【解決手段】複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定装置32であって、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部34と、夜間に観測された衛星信号の観測値と総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する夜間観測データ処理部36と、昼間に観測された衛星信号の観測値と総電子数モデル値と第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する昼間観測データ処理部37とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星から放送される複数の異なる周波数信号による通過経路の電離層総電子数を推定するための周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星ナビゲーションシステム「Galileo」やGPS(Global Positioning System)、QZSS(Quasi Zenith Satellites System;準天頂衛星システム)等の衛星から送信される信号は、地球上の観測点の測位を行うのに利用される。その際、位置のわかっている衛星から観測点までの距離を求めるにあたって、電波の伝搬速度及び要した時間は、重要な要素となる。しかしながら、衛星から地上に向けて送信される電波信号は、電離層を通過する際に伝搬遅延量を生じ、測位誤差に大きな影響を与える。したがって、電離層伝搬遅延量を正確に求めることは、高精度な測位を行うにあたって必要不可欠なものである。
【0003】
従来から、電離層遅延量を正確に求めるために、様々な手法が提案されている。例えば特許文献1には、正確な電離層遅延量を計算するために必要な周波数間バイアスを算出する周波数間バイアス算出装置及び方法が記載されている。周波数間バイアスは、周波数間での電気的な経路差によるものであり、受信機、衛星等のハードウェアごとに異なる。正確な電離層遅延量を計算するためには、周波数間バイアスを除去することが必要である。
【0004】
特許文献1に記載された周波数間バイアス算出装置は、GPS衛星から複数のGPS受信機までの第一の周波数による各第一の擬似距離と第二の周波数による各第二の擬似距離とを、当該複数のGPS受信機から入力するデータ収集部と、このデータ収集部から入力した複数の第一及び第二の擬似距離を所定の演算式に代入して第一及び第二の周波数による周波数間バイアスを算出する周波数間バイアス算出部と、この周波数間バイアス算出部で算出された周波数間バイアスをGPS受信機へ出力するデータ出力部とを備える。この周波数間バイアス算出装置によれば、簡単な構成で周波数間バイアスをユーザに提供することができる。また、大量の演算を周波数間バイアス算出装置側で行うことにより、GPS受信機側すなわちユーザ側の負担を軽減できる。
【0005】
電離層伝搬遅延量は、伝搬する信号の周波数に依存している。そのため、衛星からの複数の周波数信号を受信することにより、信号の通過経路における総電子数(TEC:Total Electron Content)を得ることができる。
【0006】
また、非特許文献1や非特許文献2には、電離層における電子密度モデル関数であるIRI(International Reference Ionosphere)モデルが記載されており、モデル関数を用いて計算によりTECを求めることもできる。さらに非特許文献3には、電離層伝搬遅延量の演算方法が記載されている。
【0007】
また、非特許文献4には、ウェイトを用いた薄皮モデルを使用して電離層の真値を推定し、さらに真値に対してGPS衛星とGPS受信機のバイアスを推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−23144号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Dieter Bilitza,et,al.,:“International Reference Ionosphere 1990”,November,1990.
【非特許文献2】Dieter Bilitza:“International Reference Ionosphere 2000”,Radio.Science,Vol.36,Number2,PP261−275,March/April,2001
【非特許文献3】IS−GPS−200D
【非特許文献4】大塚雄一、その他:“GEONETを用いたTEC絶対値の推定方法”,ARS−REPORT NO.03−03−C233,2003年3月
【非特許文献5】Klobuchar:“Ionospheric Effects on GPS”GPS Theory and Application,Vol1,1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
衛星のバイアス及び受信機のバイアスを未知数とする方程式は、1観測地点・観測時刻に対して衛星数と同数存在するのに対して、未知数は、衛星数+1個(各衛星のバイアス及び受信機のバイアス)存在するので、連立方程式により単純に解を求めることはできない。
【0011】
ところが、衛星からの複数の周波数信号を受信して信号の通過経路におけるTECを求める際には、衛星・受信機固有のバイアスが追加されてしまうため、衛星及び受信機のバイアスを求めることは必要不可欠である。
【0012】
ここで、一般的に電離層における電子密度の状態は、夜間と昼間とで異なる。夜間においては太陽光線が届かないために、電離層における電子数は、昼間よりも減少する。すなわち夜間における電離層は、太陽光線による電子の生成プロセスが存在しないので、電離層の状態が昼間に比較して安定しており、電子数の推定も行いやすいという特徴を有する。一方、昼間における電離層は、太陽の活動状態が影響しやすく、日によって電子密度の状態が変動するために電子数の推定に誤差が生じやすい。しかしながら、非特許文献4に記載された方法は、夜間のデータと昼間のデータを一括して扱っているため、昼間のデータに対する誤差分が推定結果に含まれていると考えられる。
【0013】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、昼間と夜間との電離層の状態の違いを考慮してより正確な推定を可能とする周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る周波数間バイアス推定装置は、上記課題を解決するために、複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定装置であって、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部と、前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する夜間観測データ処理部と、前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値と前記夜間観測データ処理部により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、前記衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する昼間観測データ処理部とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る周波数間バイアス推定方法は、上記課題を解決するために、複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定方法であって、電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出ステップと、前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出ステップにより算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する夜間観測データ処理ステップと、前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出ステップにより算出された総電子数モデル値と前記夜間観測データ処理ステップにより推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、前記衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する昼間観測データ処理ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昼間と夜間との電離層の状態の違いを考慮してより正確な推定を可能とする周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置及び測位システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置の詳細なブロック図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置の動作を示すフローチャート図である。
【図4】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置内の夜間観測データ処理部の動作を示すフローチャート図である。
【図5】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置内のモデル値算出部による総電子数モデル値算出の対象ポイントと衛星・受信位置との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例1の形態の周波数間バイアス推定装置内の昼間観測データ処理部の動作を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施例1の周波数間バイアス推定装置32及び測位システムの構成を示すブロック図である。この周波数間バイアス推定装置32は、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される衛星信号を受信する1以上の衛星信号受信機24を有し且つ衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する。
【0020】
まず、本実施の形態の構成を説明する。本実施例の周波数間バイアス推定装置32及び測位システムは、図1に示すように、測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、衛星信号処理系20、電離層TEC・バイアス推定処理系30、及びインターネットデータ処理系40で構成されている。測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10c、及び衛星信号処理系20は、本発明の測位システムに対応する。なお、インターネットデータ処理系40も含めて測位システムとすることも可能であるが、インターネットデータ処理系40は、必ずしも必須のものではなく、付加的なものである。また、衛星信号処理系20、電離層TEC・バイアス推定処理系30、及びインターネットデータ処理系40は、お互いに通信回線50で接続されている。
【0021】
測位衛星10a、測位衛星10b、測位衛星10cは、GPS、Galileo、準天頂衛星(QZSS)等の航法衛星であり、複数の周波数の衛星信号を送信する。
【0022】
衛星信号処理系20は、アンテナ22、衛星信号受信機24、及び衛星信号処理装置26から構成される。衛星信号受信機24は、本発明の受信機に対応し、複数の測位衛星(測位衛星10a、10b、10c)から送信される複数の周波数の衛星信号をアンテナ22を介して受信する。また、衛星信号処理装置26は、衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る。
【0023】
電離層TEC・バイアス推定処理系30は、周波数間バイアス推定装置32を有し、受信した信号に基づき衛星位置、信号通過経路の電離層総電子数(TEC)、周波数間バイアス等を算出する。受信したデータ・処理結果は、データサーバ系へLAN経由で伝送され保存される。
【0024】
インターネットデータ処理系40は、ルータ42、GEONET収集データ処理装置44、及び外部インターネット網46で構成されている。ルータ42は、スイッチングハブでもよい。インターネットデータ処理系40は、公開されている電離層関連の情報や国土地理院が公開しているGPS観測データ(GEONETデータ)や国際的に観測結果を公開しているIGS(International GPS Service for Geodynamics)データ等をインターネット経由で収集する装置である。インターネットデータ処理系40により収集された結果は、電離層TEC・バイアス推定処理系30で処理される。ルータ42は、セキュリティを考慮して設けられ、ファイアウォールとする。
【0025】
図2は、本発明の実施例1の周波数間バイアス推定装置32の詳細なブロック図である。図2に示すように、周波数間バイアス推定装置32は、モデル値算出部34と周波数間バイアス推定部35とにより構成される。また、周波数間バイアス推定部35は、夜間観測データ処理部36、昼間観測データ処理部37、及び総合推定部38で構成されている。
【0026】
モデル値算出部34は、上述したようなIRIモデルやGallagherモデル等の電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出する。ただし、IRIモデルは地上1000kmまで有効なものであるため、本実施例のモデル値算出部34は、IRIモデルを使用する場合にはスプライン関数等を使用してGPS衛星等の測位衛星が存在する地上2万kmまで1000kmから延長したモデルを使用するものとする。
【0027】
周波数間バイアス推定部35は、通信回線を通じて得た観測データとモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値に基づき周波数間バイアスを算出する。
【0028】
夜間観測データ処理部36は、1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された衛星信号の観測値とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する。ここで、ローカル時間(SLT)とは、協定世界時(UTC:Universal Time,Coordinated)に基づき、受信機が設置された地点の経度λに応じて時刻を計算したものであり、以下に示す式により求められる。
【数1】

【0029】
夜間観測データ処理部36は、例えば(2)式の条件を満たす場合に夜間であると判断することができる。
【0030】
0≦SLT[h]≦5,20≦SLT[h]≦24 …(2)
ただし、(2)式に示す5時や20時等の条件は、パラメータで設定変更できる値であり、例えばユーザが受信機が設置された地域や季節等に応じて変更することができる。
【0031】
昼間観測データ処理部37は、1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された衛星信号の観測値とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値と夜間観測データ処理部36により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する。なお、「昼間」とは、夜間観測データ処理部36が夜間とみなす時間帯以外の時間帯((2)式の条件を満たさない時間帯)を指すものとする。また、本明細書においては、受信機依存周波数間バイアスを受信機バイアスと記載する場合がある。同様に、衛星依存周波数間バイアスを衛星バイアスと記載する場合がある。
【0032】
総合推定部38は、昼間観測データ処理部37により推定された第1衛星依存周波数間バイアスの値を複数の日数にわたって収集し、平均値と中央値との少なくとも1つをとることにより最終的な値となる第2衛星依存周波数間バイアスを推定する。
【0033】
また、総合推定部38は、推定した第2衛星依存周波数間バイアスと夜間観測データ処理部36により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて最終的な値となる第2受信機依存周波数間バイアスを推定する。
【0034】
なお、総合推定部38は、複数の日数にわたって収集したデータに基づいて、より正確に周波数間バイアスを推定するための構成であるため、必ずしも必須の構成ではなく、夜間観測データ処理部36と昼間観測データ処理部37の構成のみで暫定的な周波数間バイアスを推定することは可能である。しかしながら、総合推定部38を備えることにより、日ごとに変化する電離層の影響を少なくし、より正確に周波数間バイアスを推定して電離層伝搬遅延量の算出や測位の際に役立てることができる。
【0035】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図3は、本実施例の周波数間バイアス推定装置32の動作を示すフローチャート図である。本実施例の周波数間バイアス推定装置32は、処理方法を3つの段階に分けており、夜間の衛星による受信機依存周波数間バイアスの推定処理(ステップS1)と、昼間の衛星による衛星依存周波数間バイアスの推定処理(ステップS2)と、総合周波数間バイアスの推定処理(ステップS3以降)とを順次行う。
【0036】
まず、周波数間バイアス推定装置32は、夜間の衛星による受信機依存周波数間バイアスの推定処理(ステップS1)を行う。ステップS1において、夜間観測データ処理部36は、1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された衛星信号の観測値とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する。ここで、本実施例の夜間観測データ処理部36は、モデル値算出部34がIRIモデルをベースにして算出した総電子数モデル値を真値として使用するものとする。また、夜間観測データ処理部36は、上述したようにローカル時間に基づいて、夜間に衛星信号を受信可能な測位衛星(本実施例においてGPS衛星)を抽出する。
【0037】
図4は、本実施例の周波数間バイアス推定装置32内の周波数間バイアス推定部35における夜間観測データ処理部36の動作を示すフローチャート図である。また、図5は、本実施例の周波数間バイアス推定装置32内のモデル値算出部34による総電子数モデル値算出の対象ポイントと衛星・受信位置との関係を示す図である。
【0038】
モデル値算出部34は、上述したようにスプライン関数を使用して修正したIRIモデルで総電子数モデル値を算出する(モデル値算出ステップ)。その際の算出対象ポイントは、図5に示すように、衛星と受信機とを結ぶ経路と地上h(350km〜400km)の上空とが交差した場所であり、薄皮モデルの貫通点(ピアースポイント)と呼ばれている。モデル値算出部34は、算出した総電子数モデル値を周波数間バイアス推定部35に出力する。周波数間バイアス推定部35内の夜間観測データ処理部36等の構成は、電離層モデル値を計算に使用する際に、モデル値算出部34が算出した値を利用している。
【0039】
本実施例の周波数間バイアス推定装置32は、ピアースポイントiにおいて、地表から衛星高度まで垂直方向に電離層モデル値(総電子数モデル値)を加算した値(TECmodel:総電子数)を真値とみなす。電離層モデルTECmodelと衛星のTECとを比較するためには、衛星のTECの斜め方向の成分を垂直方向に補正する必要がある。斜め方向の成分を垂直方向に補正する式は、以下のように表される。
【数2】

【0040】
図5に示すように、Rは地球半径を示し、θは受信位置の衛星仰角を示す。この補正は、モデル値算出部34により行われても夜間観測データ処理部36により行われてもよいが、本実施例においてはモデル値算出部34により行われるものとする。
【0041】
一方GPS観測値は、遅延時間による距離(擬似距離)と位相距離とがあり、以下のように表される。ただし、衛星信号は、衛星から放送される2周波の信号(GPS衛星の場合、L1周波数(1575.42MHz)とL2周波数(1227.60MHz)の信号)である。
【数3】

【0042】
ここで、ρは、擬似距離を示す。また、Φは、位相距離を示す。rは、受信機から衛星までの幾何学的距離(真の距離)を示す。cは光速である。また、δtは、受信機時刻誤差を示し、δtは、衛星時刻誤差を示す。なお、本実施例において、右下の添え字は基本的に地上(受信機等)に関連する項を示し、右上の添え字は基本的に上空(衛星等)に関連する項を示す。δtu、L1orL2 biasは、受信機固有のL1あるいはL2周波数遅延量(受信機周波数依存ハードウェア依存バイアス)を示し、δtL1orL2 biasは、衛星固有のL1あるいはL2周波数遅延量(衛星周波数依存ハードウェア依存バイアス)を示す。さらに、Iは、電離層伝搬遅延量を示し、Tは、対流圏伝搬遅延量を示し、λL1orL2は、L1あるいはL2周波数波長を示す。Nambは、整数不確定値を示し、εは、観測誤差を示す。したがって、NL1orL2 ambは、L1あるいはL2周波数整数不確定値である。また、εL1orL2は、L1あるいはL2周波数の誤差である。
【0043】
夜間観測データ処理部36は、以下に示す式により2つの周波数の観測値の差をとる。
【数4】

【0044】
ここで、fは周波数である。また、λは波長を示す。Δbiasは、周波数間バイアスを示す。TECTrueは、電波の通過経路に存在する電子総数の真値を示す。夜間観測データ処理部36は、この(7)式と(8)式とを使用して、ある衛星uで連続して観測できたk番目の観測値を以下に示す(9)式のように補正する。
【数5】

【0045】
ここで、Mは連続して観測できた観測値の数を示し、TECは衛星電波(衛星信号)の伝搬経路上にある電子総数を示す。Ik,uは、衛星電波(衛星信号)の伝搬経路上にある電子総数に起因する伝搬遅延量を示す。夜間観測データ処理部36は、GPS観測値にGPS衛星から放送される群遅延量(TGD)から計算した衛星の周波数間伝搬遅延量差を次式により求める。
【数6】

【0046】
次に、夜間観測データ処理部36は、(10)式で計算した値を(9)式に代入し、暫定的な衛星バイアス補正量を計算して衛星バイアス補正を行う(図4のステップS11)。
【数7】

【0047】
ここで、εs,biasは、(10)式を使用したバイアス推定値の誤差を表す。次に、夜間観測データ処理部36は、夜間から深夜にかけて収集した(9)式の衛星データのうち最小となるデータを検出し、さらに、この期間の観測可能な衛星全ての中で最小となるデータを検出する(図4のステップS12)。
【0048】
次に、夜間観測データ処理部36は、検出した最小となる衛星の時刻と貫通点から、電離層モデルによるTECを計算し、暫定的な受信機バイアス推定値初期値を決定する(図4のステップS13)。
【数8】

【0049】
このとき、この初期値には、電離層モデル値と観測電離層値との誤差ε、受信機バイアス推定誤差εu,bias、衛星バイアス推定誤差εs,biasが含まれている。夜間・深夜の観測データであるため、誤差εは、小さい値であると考えられる。
【0050】
次に、夜間観測データ処理部36は、この受信機バイアス推定初期値Biniを(9)式に代入し、夜間・深夜に観測できた全衛星に対し受信機バイアス補正を実施する(図4のステップS14)。また、夜間観測データ処理部36は、この補正を対象受信機全てに対して行う(図4のステップS15)。各衛星の貫通点の位置や仰角は、時刻と衛星毎に異なる。そこで、夜間観測データ処理部36は、各時刻と衛星毎に、貫通点における電離層モデルによるTECを計算し、(12)式と同様な差分を実施する。その際に、夜間観測データ処理部36は、(3),(4)式による斜め補正を実施し、電離層モデル値と差をとる。
【数9】

【0051】
ここで、夜間観測データ処理部36は、(13)式により計算された値を、衛星バイアス補正量の暫定値δBini,u,kとする(図4のステップS16)。
【数10】

【0052】
全衛星に共通なバイアス値は、受信機から生ずるものと考えられる。したがって、夜間観測データ処理部36は、受信機バイアス推定値の補正項を計算する(図4のステップS17)。
【数11】

【0053】
夜間観測データ処理部36は、ここで決定した受信機uの補正量とδBini,u,k衛星補正量とを使用し、(11)式に代入して再度(11)〜(16)式の計算を実施する。最終的に(17)式の値が所定のしきい値に収束したか否かを判断し(図4のステップS18)、収束した場合に繰り返し計算処理を終了する。
【数12】

【0054】
ここで、Bu,oldは、前回の計算結果であり、最新の計算結果との差の2乗和を計算する。最終的に得られた値は、本発明の第1受信機依存周波数間バイアスに対応する。
【0055】
以上の動作(図3のステップS1、図4のステップS11〜S18)により、夜間観測データ処理部36は、第1受信機依存周波数間バイアスを推定し、推定結果を昼間観測データ処理部37に出力する。このステップS1における夜間観測データ処理部36の動作は、本発明の夜間観測データ処理ステップに対応する。
【0056】
次に、周波数間バイアス推定装置32は、昼間の衛星による衛星依存周波数間バイアスの推定処理(図3のステップS2)。ステップS2において、昼間観測データ処理部37は、1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された衛星信号の観測値とモデル値算出部34により算出された総電子数モデル値と夜間観測データ処理部36により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する。
【0057】
図6は、本実施例の周波数間バイアス推定装置32内の周波数間バイアス推定部35における昼間観測データ処理部37の動作を示すフローチャート図である。夜間観測データ処理部36が夜間・深夜のデータを使用して、受信機バイアス暫定値(第1受信機依存周波数間バイアス)と衛星バイアス暫定値を計算したので、昼間観測データ処理部37は、この値をもとに、昼間に観測できる暫定衛星バイアス補正値を修正する(ステップS21)。
【0058】
昼間の場合、電離層の活動が活発で、真値として電離層モデル値を使用することが難しい。そのため、昼間観測データ処理部37は、ステップS1で求めた受信機バイアス(第1受信機依存周波数間バイアス)Bと、(10)式に示される放送された衛星の周波数間伝搬遅延量差を使用し、周波数間遅延量を補正した値を使用し、受信機直上の電離層による伝搬遅延量差を推定する(ステップS22)。
【数13】

【0059】
暫定値δBiniは、夜間・深夜に可視できた衛星且つ、昼間にも可視可能な衛星の場合に補正が行える。昼間の任意の時刻における受信機直上の電離層による伝搬遅延量差は、以下に示す式により求めることができる。
【数14】

【0060】
ここで、du,kは、図5に示すような衛星sと受信機uとによりできる高さhにおける弧長を示す。また、Elu,kは、受信機uで衛星sを観測した際の仰角を表す。さらに、Mは、サンプルkを取得した時刻に同時に観測可能な衛星の数を表す。昼間観測データ処理部37は、(21)式に示すように、弧長du,kや仰角Elu,kにより、(19)式で加算する数を制限することもできる。(21)式の右辺はしきい値である。
【0061】
次に、昼間観測データ処理部37は、各衛星sの貫通点の垂直方向伝搬遅延量差を計算する。
【数15】

【0062】
昼間観測データ処理部37は、衛星sの放送された衛星の周波数伝搬遅延量差に対する補正量を次式のように決定する(ステップS23)。
【数16】

【0063】
昼間観測データ処理部37は、決定された衛星sの補正量を使用し、(18)式に代入して再度(18)式〜(23)式までの計算を実施し、(24)式に示すしきい値に衛星バイアス補正量が収束したか否かを判断する(ステップS24)。
【数17】

【0064】
ここで、δBini,k,oldは、前回の計算結果である。昼間観測データ処理部37は、最新の計算結果との差の2乗和を計算する。また、Mは、計算の対象となる衛星の数を表している。昼間観測データ処理部37は、(24)式の値が所定のしきい値に収束した場合に繰り返し計算処理を終了する。最終的に得られた値は、本発明の衛星依存周波数間バイアス補正量に対応する。
【0065】
昼間観測データ処理部37は、算出した衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する。衛星sのバイアスの代表値として、夜間・深夜の場合には(11)式あるいは(14)式、昼間の場合には(18)式あるいは(23)式の値を使用して推定した衛星バイアス値Bini,k,oldが最小になる時刻kを選択することもできる。
【数18】

【0066】
昼間観測データ処理部37は、このときの衛星sの衛星バイアス値の代表値をBとする。
【0067】
以上の動作(図3のステップS2、図6のステップS21〜S24)により、昼間観測データ処理部37は、衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、第1衛星依存周波数間バイアスを推定する。このステップS2における昼間観測データ処理部37の動作は、本発明の昼間観測データ処理ステップに対応する。
【0068】
周波数間バイアス推定装置32は、夜間観測データ処理部36と昼間観測データ処理部37との動作により、受信機バイアス推定結果と衛星バイアス推定結果を所定の日数(例えば数日間)にわたり収集する(ステップS3)。このように複数の日数にわたって推定結果を収集し、後述する総合推定部38により最終的な推定結果を算出することで、より正確な推定を行うことができる。
【0069】
さらに、周波数間バイアス推定装置32は、広い範囲に配置した複数の受信機に対しても同様な受信機バイアス推定結果と衛星バイアス推定結果とを所定の日数にわたって収集する(ステップS4)。
【0070】
次に周波数間バイアス推定装置32は、収集した推定結果を使用して、総合的な受信機バイアス・衛星バイアス推定を実施する。最初に、総合推定部38は、衛星バイアスの推定を行う(ステップS5)。具体的には、総合推定部38は、昼間観測データ処理部37により推定された第1衛星依存周波数間バイアスの値を複数の日数にわたって収集し、平均値と中央値との少なくとも1つをとることにより最終的な値となる第2衛星依存周波数間バイアスを推定する。
【0071】
平均値をとる場合には、総合推定部38は、各衛星で、数日間の衛星バイアス結果(第1衛星依存周波数間バイアス)の平均と標準偏差を求め、平均値を衛星のバイアス(第2衛星依存周波数間バイアス)とする。また、総合推定部38は、中央値付近から抽出したデータから推定誤差とする標準偏差を計算する。
【数19】

【0072】
ここで、Nは受信機の数を表し、Mは計算した日数を表す。
【0073】
中央値をとる場合には、総合推定部38は、各衛星で、数日間の衛星バイアス結果(第1衛星依存周波数間バイアス)を最小値から順に並べて中央値を求め、衛星のバイアス(第2衛星依存周波数間バイアス)とする。また、総合推定部38は、中央値付近から抽出したデータから推定誤差とする標準偏差を計算する。
【0074】
次に、総合推定部38は、衛星バイアスの補正に伴う最終的な受信機の補正を行い、受信機バイアスの推定を行う(ステップS6)。具体的には、総合推定部38は、推定した第2衛星依存周波数間バイアスと夜間観測データ処理部36により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて最終的な値となる第2受信機依存周波数間バイアスを推定する。
【数20】

【0075】
(27)式において、右辺括弧内のBは第1受信機依存周波数間バイアスであり、左辺のBは第2受信機依存周波数間バイアスである。総合推定部38は、対象受信機全てについて、第2受信機依存周波数間バイアスを求める(ステップS7)。
【0076】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法によれば、昼間と夜間との電離層の状態の違いを考慮してより正確な周波数間バイアスの推定を行うことができる。
【0077】
すなわち、本発明の周波数間バイアス推定装置32は、夜間観測データ処理部36が電離層の状態が安定している夜間の観測データのみを使用して第1受信機依存周波数間バイアスを推定しているので、より正確な推定を行うことができる。また、昼間観測データ処理部37は、第1受信機依存周波数間バイアスの値を使用して衛星依存周波数間バイアス補正量を算出しているので、従来のように夜間のデータと昼間のデータを一括して扱う場合に比して正確であり、第1衛星依存周波数間バイアスもこれに伴って正確な値であることが期待できる。
【0078】
さらに、総合推定部38を備えることにより、複数の日数にわたって収集した受信機バイアスと衛星バイアスの推定結果から、より正確な第2衛星依存周波数間バイアス及び第2受信機依存周波数間バイアスを推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る周波数間バイアス推定装置及び周波数間バイアス推定方法は、衛星から放送される複数の異なる周波数信号による通過経路の電離層総電子数を推定するための周波数間バイアス推定装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
10a、10b、10c 測位衛星
20 衛星信号処理系
22 アンテナ
24 衛星信号受信機
26 衛星信号処理装置
30 電離層TEC・バイアス推定処理系
32 周波数間バイアス推定装置
34 モデル値算出部
35 周波数間バイアス推定部
36 夜間観測データ処理部
37 昼間観測データ処理部
38 総合推定部
40 インターネットデータ処理系
42 ルータ
44 GEONET収集データ処理装置
46 外部インターネット網
50 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定装置であって、
電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出部と、
前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する夜間観測データ処理部と、
前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出部により算出された総電子数モデル値と前記夜間観測データ処理部により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、前記衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する昼間観測データ処理部と、
を備えることを特徴とする周波数間バイアス推定装置。
【請求項2】
前記昼間観測データ処理部により推定された第1衛星依存周波数間バイアスの値を複数の日数にわたって収集し、平均値と中央値との少なくとも1つをとることにより第2衛星依存周波数間バイアスを推定する総合推定部を備えること特徴とする請求項1記載の周波数間バイアス推定装置。
【請求項3】
前記総合推定部は、推定した第2衛星依存周波数間バイアスと前記夜間観測データ処理部により推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて第2受信機依存周波数間バイアスを推定することを特徴とする請求項2記載の周波数間バイアス推定装置。
【請求項4】
複数の測位衛星から送信される衛星信号を受信する1以上の受信機を有し、前記衛星信号に含まれる測位情報を用いて位置情報を得る測位システムを利用する周波数間バイアス推定方法であって、
電離層電子密度モデル関数に基づき総電子数モデル値を算出するモデル値算出ステップと、
前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする夜間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出ステップにより算出された総電子数モデル値とに基づいて第1受信機依存周波数間バイアスを推定する夜間観測データ処理ステップと、
前記1以上の受信機の各々が設置された地点のローカル時間を基準とする昼間に観測された前記衛星信号の観測値と前記モデル値算出ステップにより算出された総電子数モデル値と前記夜間観測データ処理ステップにより推定された第1受信機依存周波数間バイアスとに基づいて衛星依存周波数間バイアス補正量を算出するとともに、前記衛星依存周波数間バイアス補正量に基づいて第1衛星依存周波数間バイアスを推定する昼間観測データ処理ステップと、
を備えることを特徴とする周波数間バイアス推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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