説明

周辺部網膜の疾患の治療のためのゼアキサンチンの使用

ゼアキサンチンは、周辺部網膜の疾患の治療または予防のため、ならびに/あるいは周辺視力の改善のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ゼアキサンチンの新規の使用に関する。より詳細には、本発明は、哺乳動物における周辺部網膜の変性およびジストロフィーと関連する疾患の治療または予防におけるゼアキサンチンの使用に関する。このような疾患としては、一般的には遺伝性または非遺伝性網膜色素変性症の全形態、ならびに夜盲症(遺伝性、またはビタミンA依存性)、白点眼底、白点状網膜炎、ボスニア病(Bothnia disease)、レーバー先天性黒内障、シュタルガルト病、黄色斑眼底、杆体−錐体ジストロフィー、レフサム病、バルデー−ビードル(ローレンス−ムーン)症候群、ベスト病、コロイデレミア、脳回転状萎縮アッシャー症候群(Gyrate−atrophy Usher syndrome)、バッテン病(Batton disease)(若年性神経セロイドリポフスチノーシスとしても公知)、ビエッティ結晶状角膜網膜ジストロフィー(Bietti crystalline corneoretinal dystrophy);ヴァーグナー硝子体網膜変性(Wagner vitreoretinal degeneration)、スティックラー症候群 未熟児網膜症(ROP)、糖尿病性網膜症、即ち、DIDMOAD症候群(尿崩症、真性糖尿病、眼萎縮および難聴)としても公知のウォルフラム症候群 無β−リポ蛋白血症が挙げられる。ゼアキサンチンはまた、色視症、赤視症、および日光性網膜症(solar rethinopathies)と関連する症状を治療または緩和するために使用され得る。さらに、ゼアキサンチンはまた、老化の間の周辺部網膜の機能不全および変性を予防しそして遅らせるために使用され得る。本発明によれば、ゼアキサンチンは、さらに、周辺視力の改善のために使用され得る。
【0002】
網膜色素変性症(RP)は、網膜に影響を与える遺伝性眼疾患の群に与えられる名称である。RPは、網膜において光受容細胞の変性を引き起こす。光受容細胞は、光を捉えそして処理し、見るのを助ける。これらの細胞が変性しそして死滅するにつれて、患者は、進行性の失明を経験する。異なるタイプの光受容細胞が存在する。即ち、杆体細胞および錐体細胞である。杆体細胞は、網膜の外周に沿って集中されている。杆体細胞は、周辺または側面の視野へ入ってくる像を見るのを助ける。それらはまた、暗くそして薄暗い環境において見るのを助ける。錐体細胞は、網膜の中心である黄斑に集中されており、そして視野の中心における細かな視覚詳細を見るのを可能にする。錐体細胞はまた、色を感知するのを可能にする。また、杆体および錐体は、光を電気インパルスへ変換するのを担う細胞であり、電気インパルスは、脳へ伝達され、ここで、「視覚」が実際に生じる。
【0003】
RPの全形態の最も一般的な特徴は、杆体および錐体の徐々の変性である。RPの大抵の形態は、先ず、杆体細胞の変性を引き起こす。杆体−錐体ジストロフィーと呼ばれることもある、RPのこれらの形態は、通常、夜盲から始まり、何故ならば、RPを有する患者は、暗くそして薄暗い環境に十分に適応できないからである。該疾患が進行しそしてより多くの杆体細胞が変性するにつれて、患者は、周辺視力を失う。RPを有する患者は、しばしば、非常に遠い周辺部における小さな島の視覚を伴う、中間周辺部における環状の失明を経験する。他の人は、まるでストローを介して世界を見るかのような、「トンネル視」の感覚を報告している。徴候および症状は、しばしば、先ず、小児期に現れるが、重篤な視覚問題は、通常、成人期初期まで発症しない。RPを有する多くの患者は、生涯にわたってわずかな中心視力を保持する。主要な危険因子は、RPの家族歴である。該疾患は、米国において4,000人に約1人を侵している。
【0004】
周辺部網膜変性の遺伝性形態に加えて、光受容体は、老化の間に、あるいは網膜への減少した血流と関連する疾患において、即ち、糖尿病性網膜症において生じるように、網膜への不十分な影響供給の際に、それらの最適な機能を徐々に失い得る。また、他の代謝性疾患(無β−リポ蛋白血症、レチノイドの視サイクルの機能不全、またはパラグラフ1に列挙される他のもの)において、または準最適食事(suboptimal diets)(ビタミンA欠乏)の際に、光受容体の減少した供給が生じ、これは、長い期間をかけて該細胞に損傷を与え、そして低下された視力につながり得る。
【0005】
したがって、一態様において、本発明は、周辺部網膜の疾患、特に、網膜色素変性症の全形態の治療または予防における哺乳動物におけるゼアキサンチンの使用に関する。さらに好ましい態様において、本発明は、哺乳動物における代謝性疾患、栄養のアンバランスおよび老化と関連する周辺部光受容体機能不全を予防するかまたは遅らせるためのゼアキサンチンの使用に関する。本発明のさらなる態様において、ゼアキサンチンは、周辺視力の改善のために使用される。
【0006】
さらに別の態様において、本発明は、周辺部網膜の疾患、特に、網膜色素変性症の治療または予防用の組成物の製造におけるゼアキサンチンの使用に関する。本発明のさらなる態様において、ゼアキサンチンは、周辺視力の改善用の組成物の製造において使用される。
【0007】
用語「周辺視力」は、視覚のダイレクトラインの外側の物体および動きを見る能力を意味する。周辺視力は、網膜の黄斑(中心)の大幅に外側に配置された神経細胞である杆体の働きである。杆体はまた、夜間視力および低照度視力を担うが、中心視力とは対照的に色に対して鈍感である。周辺視力が改善される場合、これは、人が、例えば、側面から接近している物体をはるかにより早くそしてより迅速に捕らえることができ、そしてより速い反応(即ち、脅威に対する)を可能にすることを意味する。これは、激しい交通量において運転、または移動/歩行する間、関連性を有する。それはまた、特定のスポーツ、即ち、サッカー、バスケットボールにおいて、即ち、物体が側面から接近し得そして即時の反応が必要であるときはいつでも、関連性を有する。周辺視力は、視力検査または視野検査によってより正確に評価され得る。視力検査は、20フィートで眺められるスネレン視力検査表を読むように患者に頼むことによって行われる。しかし、部屋の長さは20フィートである必要はなく、何故ならば、像を跳ね返すために鏡を使用することによって、20フィートでの視覚化がシミュレートされるからである。20フィートで約1インチの高さの文字を解読することができる個人は、20/20視力を有すると言われる。これは、「正常な」視力と考えられる。個人が20/40視力を有する場合、彼または彼女は、20/20視力を有する個人が物体が40フィートにある場合にそれを可視化するのと同一の解像度でそれを可視化するためには、物体が20フィートにあるように要求する。大抵の状況において、視力は、運転免許試験に合格するには、少なくとも片目において、所定の位置での最善の矯正を伴って、20/40またはそれより良くなければならない。視野検査は、コンピュータ化された視野分析器を使用して行われる。この装置は、閾値検査を使用して視野を体系的にプロットし、これは、任意の位置における網膜感度の測定を可能にする。次いで、眼科医が結果を解釈する。
【0008】
用語「組成物」は、本明細書中で使用される場合、人体への投与に好適である任意の組成物、例えば、薬学的調製物、食品または飲料を意味する。
【0009】
上述の適用用の本発明に従う薬学的調製物は、経口投与について従来から用いられている任意の形態、例えば、固体形態、例えば、発泡錠を含む錠剤、または軟もしくは硬カプセル剤、あるいは液体形態、例えば、液剤もしくは懸濁剤、好ましくは油性懸濁剤であり得る。有効成分に加えて、薬学的調製物は、従来の薬学的担体材料、添加剤およびアジュバントを含有し得、これらとしては、水、ゼラチン、植物ガム、糖類、植物油、ポリアルキレングリコール、矯味矯臭剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等が挙げられる。前記薬物は、制御(遅延)放出製剤の形態であってもよい。本発明の目的のために、着色料ならびに上述されるような任意の成分が、食品または飲料、例えば、ベーカリーアイテム、例えば、ケーキおよびクッキー、レモネードおよびフルーツジュース中に混合されていてもよい。
【0010】
固体薬学的調製物において、ゼアキサンチンは、好適には、1投与単位当たり、約0.1mg〜約500mg、好ましくは約1mg〜約100mg、特には約6mg〜約12mgの量で存在する。液体製剤において、上述の成分は、好適には、組成物の総重量を基準にして、約0.1〜約5重量%の量で存在する。
【0011】
本発明の目的のために、ゼアキサンチンの好適な1日投与量は、例えば、体重1kg当たり0.001mg〜体重1kg当たり約20mgの範囲内である。より好ましいのは、体重1kg当たり約0.01〜約10mgの1日投与量であり、そして特に好ましいのは、1日体重1kg当たり約0.1〜1.0mgである。
【0012】
本発明の組成物は、視機能を改善するためのさらなる有効成分、例えば、カルテノイド、例えば、ルテイン、メソゼアキサンチン、アスタキサンチン、またはそれらのエステル、あるいはカンタキサンチン、あるいはビタミンA活性を有する化合物、あるいはその前駆体、例えば、レチノールおよびそのエステル、例えば、パルミチン酸レチニル;α−およびβ−カロテン、β−クリプトキサンチン、およびリコペンをさらに含有し得る。本発明の組成物中に存在し得る視機能を改善するためのさらなる有効成分は、ビタミンE、ビタミンC、亜鉛または無機セレン塩、例えば、セレノホスフェート、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、またはセレノアミノ酸、例えば、L−セレノメチオニン、またはセレン化酵母(selenized yeast)、例えば、セレンを含有するかまたはセレンに富むビール酵母またはパン酵母(サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae))、約20〜30のアントシアノサイドを含有するビルベリー抽出物、あるいはそれらの混合物である。
【0013】
ルテイン、メソゼアキサンチン、アスタキサンチン、β−クリプトキサンチンまたはそれらのエステル、あるいはカンタキサンチンは、1投与単位当たり、約0.1mg〜約500mg、好ましくは約1mg〜約100mgの量で存在し得る。液体製剤において、上述の成分は、好適には、組成物の総重量を基準にして、約0.1〜約5重量%の量で存在する。ビタミンEが存在する場合、その量は、好適には、固体製剤中においては1投与単位当たり約10〜約1000mgであり、そして液体製剤中においては約0.1〜約500mgである。液体製剤中において、ビタミンEは、本発明に従う製剤の他の親油性成分についての担体として役立ち得、そして組成物の総重量を基準にして99.9〜50重量%を構成し得る。ビタミンCが存在する場合、その量は、好適には、1投与単位当たり約10〜約1000mgである。ビタミンA活性を有する化合物またはその前駆体は、1投与単位当たり約100〜約10000国際単位のビタミンA活性を提供する量で存在し得る。亜鉛は、1投与単位当たり1〜100mg(元素亜鉛に基づく)の量で存在し得る。セレンは、1投与単位当たり10〜200μg(元素セレンに基づく)の量で存在し得る。ビルベリー抽出物は、1投与単位当たり50〜150mg(通常、20〜30%のアントシアノサイドを含有)の量で使用され得る。
【0014】
本発明の目的についてのゼアキサンチンの有用性は、2つの処置群へと無作為に選んだ46人の被験者で行われた6〜12ヶ月の期間での試験の結果から理解され得る:ゼアキサンチン、20mg/日(n=23)、およびプラシーボ(n=23)。この試験の間の黄斑色素密度(MPD)を、異色フリッカー測光法(heterochromatic flicker photometry)(HCFP)を使用し、中心および偏心(5°=リファレンス)位置での輝度を独立して測定することによって、月1回、モニタリングした。次いで、網膜中心での輝度からリファレンス(=偏心)位置での輝度を差し引くことによって、MPDを算出する。
【0015】
結果:
この群における中心および偏心リファレンス位置での輝度は、両方とも、平行してそして6〜12ヶ月の間に約8%だけ同程度に上昇した。これらの平行増加という結果は、色素密度は中心的にだけでなく偏心的にも実際に増加したが、使用した技術は全MPD増加を算出し得ないということであった。これは、ゼアキサンチンの補給の間、ルテインの補給の間よりも広い網膜領域にわたってMPDが増加したことを意味する。したがって、補給前偏心リファレンス輝度が、全てのその後の測定ポイントでの実際の中心輝度からMPDを算出するために使用された場合、約11%の増加が算出されたであろう。
【0016】
結論:
ゼアキサンチンの補給の間のMPDの蓄積は、網膜の中心の黄斑領域に限定されず、偏心網膜領域へも広がり、そして網膜の遠い周辺領域へ到達さえし得る。したがって、ゼアキサンチンは、網膜色素変性症および関連疾患等の網膜の周辺部に生じる疾患のリスク軽減についての役割を果たす。さらに、ゼアキサンチンは、したがって、網膜周辺部における唯一の光受容体種である杆体光受容体の保護のために重要と見なされ得る。
【0017】
本発明を下記の実施例によってさらに説明する。
【0018】
実施例1
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
ゼアキサンチン 10mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg
【0019】
実施例2
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
成分 1カプセル剤当たりの量
ゼアキサンチン 6mg
ビタミンE(α−d,l−トコフェロール) 200mg
ビタミンC 500mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg
【0020】
実施例3
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
成分 カプセル剤当たりの量
ゼアキサンチン 12mg
ビタミンE(α−d,l−トコフェロール) 200mg
ビタミンC 500mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg
【0021】
実施例4
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
成分 1カプセル剤当たりの量
ゼアキサンチン 6mg
β−カロテン 6mg
ビタミンE(α−d,l−トコフェロール) 200mg
ビタミンC 500mg
亜鉛(オロチン酸塩として) 7.5mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg
【0022】
実施例5
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
成分 1カプセル剤当たりの量
ゼアキサンチン 6mg
ビタミンE(α−d,l−トコフェロール) 200mg
ビタミンC 500mg
ビタミンA 1000国際単位
亜鉛(オロチン酸塩として) 7.5mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg
【0023】
実施例6
下記の成分を含む軟ゼラチンカプセル剤が調製され得る:
成分 1カプセル剤当たりの量
ゼアキサンチン 6mg
β−カロテン 6mg
ビタミンE(α−d,l−トコフェロール) 200mg
ビタミンC 500mg
ビタミンA 1000国際単位
亜鉛(オロチン酸塩として) 7.5mg
レシチン 50mg
大豆油 200mg

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺部網膜の疾患の治療または予防用ならびに/あるいは周辺視力の改善用の組成物の製造におけるゼアキサンチンの使用。
【請求項2】
前記組成物が周辺視力の改善用である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物が網膜色素変性症の治療または予防用である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物が薬学的組成物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬学的組成物が、経口適用用であり、そして1投与単位当たり約0.1mg〜約500mgのゼアキサンチンの量を含有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記組成物が食品または飲料である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
周辺部網膜の疾患を治療または予防するならびに/あるいは周辺視力を改善する方法であって、このような治療が必要であるヒトへ有効量のゼアキサンチンを投与することを含む、方法。
【請求項8】
周辺視力の改善のための、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が網膜色素変性症である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ゼアキサンチンの1日投与量が、体重1kg当たり0.001mg〜体重1kg当たり約20mg、好ましくは体重1kg当たり約0.01〜約10mg、そして最も好ましくは1日体重1kg当たり約0.1〜1.0mgの範囲内である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−530044(P2008−530044A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554499(P2007−554499)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001128
【国際公開番号】WO2006/084687
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】