味覚センサ
【課題】人工甘味料を含む物質の苦みを正確に把握することができるようにする。
【解決手段】高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてBBPAを1000μl用いたときに、脂質の2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果から明らかなように、可塑剤BBPA1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が60mgのものが最適と思われる。
【解決手段】高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてBBPAを1000μl用いたときに、脂質の2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果から明らかなように、可塑剤BBPA1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が60mgのものが最適と思われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材と、脂質と、可塑剤とを所定の割合で混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、特に、医薬品のように人工甘味料を混合して薬物そのものの苦みを緩和しているような場合であっても、その人工甘味料に影響されずに苦みだけを高感度に且つ選択的に検出できるようにするための技術である。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料等の味を、人の官能検査にたよらずに検査するための技術として、高分子材と脂質と可塑剤とを所定の割合で混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の物質に感応して膜電位が変化する味覚センサ(味センサ、脂質膜センサ等とも言われている)を用いることが知られている。
【0003】
味の検査のうち、特に医薬品の場合にはその苦さによる苦痛で服用率が低下するため、人工甘味料を加えてその苦さを緩和しているが、薬の場合人による官能検査はできないため、上記のような味覚センサを用いてその苦さを把握することが要求されている。
【0004】
一方、前記した従来の味覚センサには、脂質として苦みに対して選択的な応答を示すものが知られている(例えば、特許文献1)が、これまで開示されてきた味覚センサでは、脂質として第4級アンモニウム塩(例えばTOMA)やリン酸ジノマルデシル(2C10)等が用いられ、可塑剤として、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル等を用いており、渋みや苦み等に対して選択的な応答性が認められている。
【0005】
なお、この測定は、CPA(Change of membrane
Potential caused by Adsorption)測定と呼ばれるものであり、センサを基準液に浸けたときの膜電位と、そのセンサを被測定液に一定時間浸けてからさらに基準液に戻したときの膜電位との差分値(これをCPA値という)を、被測定液の応答値とするものである。なお、被測定液に浸けてから基準液と同等の液で軽く洗浄してから基準液に戻して膜電位を測る場合もある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−107339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように苦みに対して選択性を有するこれまで味覚センサの場合、医薬品によく用いられる人工甘味料(例えばアスパルテーム等)に対する応答が非常に高く、その影響により薬の苦みを正確に把握できないという問題が新たにわかった。
【0008】
例えば、高分子材としてポリ塩化ビニル、脂質としてリン酸ジノマルデシル、可塑剤としてDOPPを所定の割合で混合して、苦みに選択応答性をもたせた従来の味覚センサでは、苦みサンプル(塩酸キニーネ溶液)に対する応答だけでなく、甘味サンプル(アスパルテーム溶液)に対する応答の方が高くでてしまい、上記したように、人工甘味料を含む物質の苦みを正確に把握することが困難であった。
【0009】
本発明は、この問題を解決し、人工甘味料を含む物質の苦みを正確に把握することができる味覚センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてBBPAまたはBEHSのいずれか1000μlに対し、前記脂質が10〜80mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてPTEHまたはTBACまたはDIDDのいずれか1000μlに対し、前記脂質が20〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてDISG1000μlに対し、前記脂質が10〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質60mgに対して、前記可塑剤としてBBPAまたはPTEHのいずれかが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質70mgに対して、前記可塑剤としてBEHSが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質120mgに対して、前記可塑剤としてTBACが800〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質50〜150mgの範囲に対し、前記可塑剤としてBBPAとTBACがそれぞれ100〜3000μlの範囲で且つ少なくとも一方が100μlを越える割合で含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明の味覚センサは、高分子材がポリ塩化ビニル(PVC)、脂質がリン酸ジノマルデシルの2C10の場合で、可塑剤を、BBPA、BEHS、PTEH、TBAC、DIDD、DISGのいずれか、あるいはBBPAとTBACの両方を含むものとし、それを特定の割合で混合したことで、苦み物質を、人工甘味料を含む他の味物質に対して選択的に且つ高感度に応答するセンサ膜を実現することができ、従来の可塑剤を用いた味覚センサのように人工甘味料の影響を大きく受けることなく、医薬品等の苦みの検査を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した味覚センサ15を用いた検査システム10の構成を示している。
【0019】
この検査システムは、基準液、サンプル液あるいは洗浄液等を入れるための容器11、参照電極12、味覚センサ15、参照電極12の電位を基準とする味覚センサ15の膜電位を検出するための電圧検出器20、電圧検出器20の出力をディジタル値に変換するA/D変換器22、A/D変換器22の出力に対する演算等の処理を行う演算装置23、演算装置23の処理結果を出力する出力装置24によって構成されている。
【0020】
ここで、参照電極12の表面は、塩化カリウム100mMを寒天で固化した緩衝層13で覆われており、リード線12aによって電圧検出器20に接続されている。
【0021】
また、味覚センサ15は、アクリル等の基材16の表面にセンサ膜17が固定され、各センサ膜17の反対面には、参照電極12の緩衝層13と同一の緩衝層18を介して電極19が設けられており、電極19がリード線15aによって電圧検出器20に接続されている。
【0022】
ここで、センサ膜17は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)、脂質としてリン酸ジノマルデシルの2C10(正式名称 Phosphoric acid Di-N-decyl)が用いられており、それに後述する可塑剤とを所定の割合で混合したものを、THF(テトラヒドロフラン)10mlに溶解し、これを平底の容器(例えば85mmφのシャーレ)内で3日間室温による自然乾燥し、THFを揮散させることによって得られた厚さ200μmのものを使用しており、液体に浸けたときに、その液体中の物質に応答して膜電位が変化する特性を有している。
【0023】
本願発明者らは、センサ膜17を構成する脂質のリン酸ジノマルデシルの2C10の量、可塑剤の種類および量に応じて、苦味を呈する物質に対する応答が、人工甘味料を含めた他の味物質に比べて極めて高い選択応答性を有することを見出した。
【0024】
即ち、種々の実験により、苦みに対して高い感度と選択性をもつ味覚センサは、高分子材がポリ塩化ビニル(PVC)、脂質が2C10の場合において、可塑剤として、アジピン酸エステルのBBPA、セシバン酸エステルのBEHS、リン酸トリエステルのPTEH、クエン酸エステルのTBAC、ドデカン酸エステルのDIDD、グルタル酸エステルのDISG、前記BBPAとTBACとの混合物のいずれかが好適であることを見出した。なお、上記各可塑剤は略称であり、図2にそれらの正式名称および組成式を示す。
【0025】
以下にその実験の結果を示すが、実験に用いた基準液、サンプル液は以下の通りである。各味のサンプル液は標準的な味の強さの濃度となっている。また、測定結果は前記したCPAの測定結果である。
【0026】
1.基準液:30mM KCl+0.3mM 酒石酸
2.塩味サンプル液:300mM KCl+0.3mM 酒石酸
3.酸味サンプル液:3mM 酒石酸+30mM KCl
4.旨味サンプル液:10mM MSG+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
5.苦みサンプル液:0.1mM 塩酸キニーネ+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
6.苦みサンプル液:0.01vol% イソα酸+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
7.渋みサンプル液:0.05% タンニン酸+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
8.甘味サンプル液:0.15% サッカリンNa+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
9.甘味サンプル液:1% アスパルテーム+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
10.甘味サンプル液:0.15% アセスルファムK+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
ただし、vol%は体積濃度、その他の%濃度は重量濃度である。
【0027】
(可塑剤としてBBPAを用いた実施例)
図3は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてBBPAを1000μl用いたときに、脂質の2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0028】
この結果から明らかなように、高分子材のポリ塩化ビニル800mg、可塑剤BBPA1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が60mgのものが最適と思われる。
【0029】
そこで、脂質2C10の量を60mgに固定して、可塑剤BBPAの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図4に示す。
【0030】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、前記脂質2C1060mgに対し、可塑剤BBPAが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0031】
(可塑剤としてBEHSを用いた実施例)
図5は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤BEHS1000μlを用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0032】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤BEHS1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が70mgのものが最適と思われる。
【0033】
そこで、脂質2C10を70mgに固定して、可塑剤BEHSの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図6に示す。
【0034】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C1070mgに対し、可塑剤BEHSが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0035】
(可塑剤としてPTEHを用いた実施例)
図7は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤PTEH1000μlを用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0036】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤PTEH1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C1060mgのものが最適と思われる。
【0037】
そこで、脂質2C10の量を60mgに固定して、可塑剤PTEHの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図8に示す。
【0038】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C1060mgに対し、可塑剤PTEHが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0039】
(可塑剤としてTBACを用いた実施例)
図9は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤TBACを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0040】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤TBAC1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が120mgのものが最適と思われる。
【0041】
そこで、脂質2C10の量を120mgに固定して、可塑剤TBACの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図10に示す。
【0042】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C10120mgに対し、可塑剤TBACが800〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0043】
上記測定結果は、塩基性薬物の代表として塩酸キニーネを用いたものであるが、上記した各実施例の味覚センサは、苦みを呈する他の塩基性薬物に対しても人工甘味料を含む他の味物質に対して高い選択性と感度とを有していることが認められている。
【0044】
例えば、塩酸キニーネの他に、塩酸セチリジン、塩酸ヒドロキシジン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸アゼラスチン、塩酸エペリゾン、塩酸チクロピジン、塩酸ベルベリンの各苦み物質に対する測定を上記実施例の味覚センサで行った結果、脂質2C1060mgに対し、可塑剤BBPA1000μlの割合の味覚センサでは、その全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0045】
また、脂質2C1070mgに対し、可塑剤BEHS1000μlの割合の味覚センサ、および脂質2C1070mgに対し、可塑剤PTEH1000μlの割合の味覚センサについても、上記全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0046】
さらに、脂質2C10120mgに対し、可塑剤TBAC1000μlの割合の味覚センサの場合でも、塩酸セチリジンを除く全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0047】
(可塑剤としてDIDDを用いた実施例)
図11は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてDIDDを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0048】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤DIDD1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で官能検査との相関の高いものを調べた結果、脂質2C10が30mgのものが、図12のように、官能検査に最も近い(相関係数0.84)ことが判明した。
【0049】
(可塑剤としてDISGを用いた実施例)
図13は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてDISGを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0050】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤DISG1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で官能検査との相関の高いものを調べた結果、前記DIDDと同様に脂質2C10が30mgのものが、図14のように、官能検査に最も近い(相関係数0.84)ことが判明した。
【0051】
(可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた実施例)
図15は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、脂質2C10が50〜150mgの範囲に対し、可塑剤としてBBPAを100〜3000μlの範囲、TBACを100〜3000μlの範囲で含む味覚センサの塩酸キニーネのサンプル液に対する測定結果を示すものであり、図15の(a)は脂質2C10が50mg、図15の(b)は脂質2C10が90mg、図15の(c)は脂質2C10が150mgの場合の測定結果を示すグラフである。また、図16は、その測定結果を数値で表すものである。
【0052】
これらの図から、両可塑剤がともに100μlの場合を除いて、従来の可塑剤としてDOPPを用いた味覚センサに対して高い感度を有していることがわかり、少なくとも50〜150mgの範囲で有効と推測される。また、これらの可塑剤を用いた味覚センサはいずれも人工甘味料に対する感度も低いので、その可塑剤を混合して得られた味覚センサも人工甘味料の影響を受けることなく苦みに対して高い感度と選択性をもって応答している。
【0053】
また、官能検査との相関性も広い混合割合の範囲において高いことが確認されている。例えば、脂質2C10が90mg、可塑剤BBPA100μl、TBAC3000μlで混合して得られた味覚センサは、図17に示すように、官能検査に対して相関係数0.88という高い相関性を示している。
【0054】
また、脂質2C10が150mg、可塑剤としてBBPA1500μl、TBAC3000μlで混合して得られた味覚センサも、図18に示すように、官能検査に対して相関係数0.93という極めて高い相関性を示している。
【0055】
以上の実験結果から判断して、苦み物質に対して、人工甘味料を含む他の味物質の影響をほとんど受けない高感度で高選択性を有する味覚センサの好適な可塑剤の種類と、脂質との混合割合の一覧をまとめると、図19のようになり、このいずれかの組成で形成された味覚センサを用いることで、特に、塩基性薬物の苦みを人工甘味料により緩和している医薬品に対する苦みの検査を、人工甘味料の影響を受けることなく正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の味覚センサを用いた検査システムの概略構成図
【図2】味覚センサに用いる可塑剤の組成式
【図3】可塑剤としてBBPAを用いた味覚センサの特性図
【図4】可塑剤としてBBPAを用いた味覚センサの特性図
【図5】可塑剤としてBEHSを用いた味覚センサの特性図
【図6】可塑剤としてBEHSを用いた味覚センサの特性図
【図7】可塑剤としてPTEHを用いた味覚センサの特性図
【図8】可塑剤としてPTEHを用いた味覚センサの特性図
【図9】可塑剤としてTBACを用いた味覚センサの特性図
【図10】可塑剤としてTBACを用いた味覚センサの特性図
【図11】可塑剤としてDIDDを用いた味覚センサの特性図
【図12】可塑剤としてDIDDを用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図13】可塑剤としてDISGを用いた味覚センサの特性図
【図14】可塑剤としてDISGを用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図15】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの特性図
【図16】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの測定値の一覧を示す図
【図17】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図18】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図19】人工甘味料の影響を受けないで苦みに選択的に且つ高感度に応答する好適な味覚センサの可塑剤の種類と脂質との割合の一覧を示す図
【符号の説明】
【0057】
10……検査システム、11……容器、12……参照電極、15……味覚センサ、17……センサ膜、20……電圧検出器20、22……A/D変換器、23……演算装置、24……出力装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材と、脂質と、可塑剤とを所定の割合で混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、特に、医薬品のように人工甘味料を混合して薬物そのものの苦みを緩和しているような場合であっても、その人工甘味料に影響されずに苦みだけを高感度に且つ選択的に検出できるようにするための技術である。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料等の味を、人の官能検査にたよらずに検査するための技術として、高分子材と脂質と可塑剤とを所定の割合で混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の物質に感応して膜電位が変化する味覚センサ(味センサ、脂質膜センサ等とも言われている)を用いることが知られている。
【0003】
味の検査のうち、特に医薬品の場合にはその苦さによる苦痛で服用率が低下するため、人工甘味料を加えてその苦さを緩和しているが、薬の場合人による官能検査はできないため、上記のような味覚センサを用いてその苦さを把握することが要求されている。
【0004】
一方、前記した従来の味覚センサには、脂質として苦みに対して選択的な応答を示すものが知られている(例えば、特許文献1)が、これまで開示されてきた味覚センサでは、脂質として第4級アンモニウム塩(例えばTOMA)やリン酸ジノマルデシル(2C10)等が用いられ、可塑剤として、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル等を用いており、渋みや苦み等に対して選択的な応答性が認められている。
【0005】
なお、この測定は、CPA(Change of membrane
Potential caused by Adsorption)測定と呼ばれるものであり、センサを基準液に浸けたときの膜電位と、そのセンサを被測定液に一定時間浸けてからさらに基準液に戻したときの膜電位との差分値(これをCPA値という)を、被測定液の応答値とするものである。なお、被測定液に浸けてから基準液と同等の液で軽く洗浄してから基準液に戻して膜電位を測る場合もある。
【0006】
【特許文献1】特開2002−107339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように苦みに対して選択性を有するこれまで味覚センサの場合、医薬品によく用いられる人工甘味料(例えばアスパルテーム等)に対する応答が非常に高く、その影響により薬の苦みを正確に把握できないという問題が新たにわかった。
【0008】
例えば、高分子材としてポリ塩化ビニル、脂質としてリン酸ジノマルデシル、可塑剤としてDOPPを所定の割合で混合して、苦みに選択応答性をもたせた従来の味覚センサでは、苦みサンプル(塩酸キニーネ溶液)に対する応答だけでなく、甘味サンプル(アスパルテーム溶液)に対する応答の方が高くでてしまい、上記したように、人工甘味料を含む物質の苦みを正確に把握することが困難であった。
【0009】
本発明は、この問題を解決し、人工甘味料を含む物質の苦みを正確に把握することができる味覚センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてBBPAまたはBEHSのいずれか1000μlに対し、前記脂質が10〜80mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてPTEHまたはTBACまたはDIDDのいずれか1000μlに対し、前記脂質が20〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてDISG1000μlに対し、前記脂質が10〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質60mgに対して、前記可塑剤としてBBPAまたはPTEHのいずれかが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質70mgに対して、前記可塑剤としてBEHSが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質120mgに対して、前記可塑剤としてTBACが800〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7の味覚センサは、
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質50〜150mgの範囲に対し、前記可塑剤としてBBPAとTBACがそれぞれ100〜3000μlの範囲で且つ少なくとも一方が100μlを越える割合で含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明の味覚センサは、高分子材がポリ塩化ビニル(PVC)、脂質がリン酸ジノマルデシルの2C10の場合で、可塑剤を、BBPA、BEHS、PTEH、TBAC、DIDD、DISGのいずれか、あるいはBBPAとTBACの両方を含むものとし、それを特定の割合で混合したことで、苦み物質を、人工甘味料を含む他の味物質に対して選択的に且つ高感度に応答するセンサ膜を実現することができ、従来の可塑剤を用いた味覚センサのように人工甘味料の影響を大きく受けることなく、医薬品等の苦みの検査を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した味覚センサ15を用いた検査システム10の構成を示している。
【0019】
この検査システムは、基準液、サンプル液あるいは洗浄液等を入れるための容器11、参照電極12、味覚センサ15、参照電極12の電位を基準とする味覚センサ15の膜電位を検出するための電圧検出器20、電圧検出器20の出力をディジタル値に変換するA/D変換器22、A/D変換器22の出力に対する演算等の処理を行う演算装置23、演算装置23の処理結果を出力する出力装置24によって構成されている。
【0020】
ここで、参照電極12の表面は、塩化カリウム100mMを寒天で固化した緩衝層13で覆われており、リード線12aによって電圧検出器20に接続されている。
【0021】
また、味覚センサ15は、アクリル等の基材16の表面にセンサ膜17が固定され、各センサ膜17の反対面には、参照電極12の緩衝層13と同一の緩衝層18を介して電極19が設けられており、電極19がリード線15aによって電圧検出器20に接続されている。
【0022】
ここで、センサ膜17は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)、脂質としてリン酸ジノマルデシルの2C10(正式名称 Phosphoric acid Di-N-decyl)が用いられており、それに後述する可塑剤とを所定の割合で混合したものを、THF(テトラヒドロフラン)10mlに溶解し、これを平底の容器(例えば85mmφのシャーレ)内で3日間室温による自然乾燥し、THFを揮散させることによって得られた厚さ200μmのものを使用しており、液体に浸けたときに、その液体中の物質に応答して膜電位が変化する特性を有している。
【0023】
本願発明者らは、センサ膜17を構成する脂質のリン酸ジノマルデシルの2C10の量、可塑剤の種類および量に応じて、苦味を呈する物質に対する応答が、人工甘味料を含めた他の味物質に比べて極めて高い選択応答性を有することを見出した。
【0024】
即ち、種々の実験により、苦みに対して高い感度と選択性をもつ味覚センサは、高分子材がポリ塩化ビニル(PVC)、脂質が2C10の場合において、可塑剤として、アジピン酸エステルのBBPA、セシバン酸エステルのBEHS、リン酸トリエステルのPTEH、クエン酸エステルのTBAC、ドデカン酸エステルのDIDD、グルタル酸エステルのDISG、前記BBPAとTBACとの混合物のいずれかが好適であることを見出した。なお、上記各可塑剤は略称であり、図2にそれらの正式名称および組成式を示す。
【0025】
以下にその実験の結果を示すが、実験に用いた基準液、サンプル液は以下の通りである。各味のサンプル液は標準的な味の強さの濃度となっている。また、測定結果は前記したCPAの測定結果である。
【0026】
1.基準液:30mM KCl+0.3mM 酒石酸
2.塩味サンプル液:300mM KCl+0.3mM 酒石酸
3.酸味サンプル液:3mM 酒石酸+30mM KCl
4.旨味サンプル液:10mM MSG+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
5.苦みサンプル液:0.1mM 塩酸キニーネ+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
6.苦みサンプル液:0.01vol% イソα酸+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
7.渋みサンプル液:0.05% タンニン酸+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
8.甘味サンプル液:0.15% サッカリンNa+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
9.甘味サンプル液:1% アスパルテーム+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
10.甘味サンプル液:0.15% アセスルファムK+30mM KCl+0.3mM 酒石酸
ただし、vol%は体積濃度、その他の%濃度は重量濃度である。
【0027】
(可塑剤としてBBPAを用いた実施例)
図3は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてBBPAを1000μl用いたときに、脂質の2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0028】
この結果から明らかなように、高分子材のポリ塩化ビニル800mg、可塑剤BBPA1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が60mgのものが最適と思われる。
【0029】
そこで、脂質2C10の量を60mgに固定して、可塑剤BBPAの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図4に示す。
【0030】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、前記脂質2C1060mgに対し、可塑剤BBPAが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0031】
(可塑剤としてBEHSを用いた実施例)
図5は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤BEHS1000μlを用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0032】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤BEHS1000μlに対し、脂質2C10が10〜80mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が70mgのものが最適と思われる。
【0033】
そこで、脂質2C10を70mgに固定して、可塑剤BEHSの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図6に示す。
【0034】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C1070mgに対し、可塑剤BEHSが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0035】
(可塑剤としてPTEHを用いた実施例)
図7は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤PTEH1000μlを用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0036】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤PTEH1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C1060mgのものが最適と思われる。
【0037】
そこで、脂質2C10の量を60mgに固定して、可塑剤PTEHの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図8に示す。
【0038】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C1060mgに対し、可塑剤PTEHが400〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0039】
(可塑剤としてTBACを用いた実施例)
図9は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤TBACを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0040】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤TBAC1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で耐久性、感度などを考慮すると、脂質2C10が120mgのものが最適と思われる。
【0041】
そこで、脂質2C10の量を120mgに固定して、可塑剤TBACの量を変化させた味覚センサによる測定結果を図10に示す。
【0042】
この図から、ポリ塩化ビニル800mg、脂質2C10120mgに対し、可塑剤TBACが800〜2000μlの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。
【0043】
上記測定結果は、塩基性薬物の代表として塩酸キニーネを用いたものであるが、上記した各実施例の味覚センサは、苦みを呈する他の塩基性薬物に対しても人工甘味料を含む他の味物質に対して高い選択性と感度とを有していることが認められている。
【0044】
例えば、塩酸キニーネの他に、塩酸セチリジン、塩酸ヒドロキシジン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸アゼラスチン、塩酸エペリゾン、塩酸チクロピジン、塩酸ベルベリンの各苦み物質に対する測定を上記実施例の味覚センサで行った結果、脂質2C1060mgに対し、可塑剤BBPA1000μlの割合の味覚センサでは、その全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0045】
また、脂質2C1070mgに対し、可塑剤BEHS1000μlの割合の味覚センサ、および脂質2C1070mgに対し、可塑剤PTEH1000μlの割合の味覚センサについても、上記全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0046】
さらに、脂質2C10120mgに対し、可塑剤TBAC1000μlの割合の味覚センサの場合でも、塩酸セチリジンを除く全ての苦み物質に対する感度が可塑剤としてDOPPを用いた従来のセンサより格段に高いことを確認している。
【0047】
(可塑剤としてDIDDを用いた実施例)
図11は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてDIDDを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0048】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤DIDD1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で官能検査との相関の高いものを調べた結果、脂質2C10が30mgのものが、図12のように、官能検査に最も近い(相関係数0.84)ことが判明した。
【0049】
(可塑剤としてDISGを用いた実施例)
図13は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、可塑剤としてDISGを1000μl用い、脂質2C10の量を変化させたときの味覚センサの各サンプル液に対する測定結果である。
【0050】
この結果から明らかなように、ポリ塩化ビニル800mg、可塑剤DISG1000μlに対し、脂質2C10が20〜120mgの割合で含まれている味覚センサは、苦み(塩酸キニーネ)に対する感度が、人工甘味料を含む他の味物質に対して格段に高いことがわかる。さらにこの範囲内で官能検査との相関の高いものを調べた結果、前記DIDDと同様に脂質2C10が30mgのものが、図14のように、官能検査に最も近い(相関係数0.84)ことが判明した。
【0051】
(可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた実施例)
図15は、高分子材としてPVC(ポリ塩化ビニル)800mg、脂質2C10が50〜150mgの範囲に対し、可塑剤としてBBPAを100〜3000μlの範囲、TBACを100〜3000μlの範囲で含む味覚センサの塩酸キニーネのサンプル液に対する測定結果を示すものであり、図15の(a)は脂質2C10が50mg、図15の(b)は脂質2C10が90mg、図15の(c)は脂質2C10が150mgの場合の測定結果を示すグラフである。また、図16は、その測定結果を数値で表すものである。
【0052】
これらの図から、両可塑剤がともに100μlの場合を除いて、従来の可塑剤としてDOPPを用いた味覚センサに対して高い感度を有していることがわかり、少なくとも50〜150mgの範囲で有効と推測される。また、これらの可塑剤を用いた味覚センサはいずれも人工甘味料に対する感度も低いので、その可塑剤を混合して得られた味覚センサも人工甘味料の影響を受けることなく苦みに対して高い感度と選択性をもって応答している。
【0053】
また、官能検査との相関性も広い混合割合の範囲において高いことが確認されている。例えば、脂質2C10が90mg、可塑剤BBPA100μl、TBAC3000μlで混合して得られた味覚センサは、図17に示すように、官能検査に対して相関係数0.88という高い相関性を示している。
【0054】
また、脂質2C10が150mg、可塑剤としてBBPA1500μl、TBAC3000μlで混合して得られた味覚センサも、図18に示すように、官能検査に対して相関係数0.93という極めて高い相関性を示している。
【0055】
以上の実験結果から判断して、苦み物質に対して、人工甘味料を含む他の味物質の影響をほとんど受けない高感度で高選択性を有する味覚センサの好適な可塑剤の種類と、脂質との混合割合の一覧をまとめると、図19のようになり、このいずれかの組成で形成された味覚センサを用いることで、特に、塩基性薬物の苦みを人工甘味料により緩和している医薬品に対する苦みの検査を、人工甘味料の影響を受けることなく正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の味覚センサを用いた検査システムの概略構成図
【図2】味覚センサに用いる可塑剤の組成式
【図3】可塑剤としてBBPAを用いた味覚センサの特性図
【図4】可塑剤としてBBPAを用いた味覚センサの特性図
【図5】可塑剤としてBEHSを用いた味覚センサの特性図
【図6】可塑剤としてBEHSを用いた味覚センサの特性図
【図7】可塑剤としてPTEHを用いた味覚センサの特性図
【図8】可塑剤としてPTEHを用いた味覚センサの特性図
【図9】可塑剤としてTBACを用いた味覚センサの特性図
【図10】可塑剤としてTBACを用いた味覚センサの特性図
【図11】可塑剤としてDIDDを用いた味覚センサの特性図
【図12】可塑剤としてDIDDを用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図13】可塑剤としてDISGを用いた味覚センサの特性図
【図14】可塑剤としてDISGを用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図15】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの特性図
【図16】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの測定値の一覧を示す図
【図17】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図18】可塑剤としてBBPAとTBACの両方を用いた味覚センサの官能検査との相関性を示す図
【図19】人工甘味料の影響を受けないで苦みに選択的に且つ高感度に応答する好適な味覚センサの可塑剤の種類と脂質との割合の一覧を示す図
【符号の説明】
【0057】
10……検査システム、11……容器、12……参照電極、15……味覚センサ、17……センサ膜、20……電圧検出器20、22……A/D変換器、23……演算装置、24……出力装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてBBPAまたはBEHSのいずれか1000μlに対し、前記脂質が10〜80mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項2】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてPTEHまたはTBACまたはDIDDのいずれか1000μlに対し、前記脂質が20〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項3】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてDISG1000μlに対し、前記脂質が10〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質60mgに対して、前記可塑剤としてBBPAまたはPTEHのいずれかが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質70mgに対して、前記可塑剤としてBEHSが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項6】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質120mgに対して、前記可塑剤としてTBACが800〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質50〜150mgの範囲に対し、前記可塑剤としてBBPAとTBACがそれぞれ100〜3000μlの範囲で且つ少なくとも一方が100μlを越える割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項1】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてBBPAまたはBEHSのいずれか1000μlに対し、前記脂質が10〜80mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項2】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてPTEHまたはTBACまたはDIDDのいずれか1000μlに対し、前記脂質が20〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項3】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記可塑剤としてDISG1000μlに対し、前記脂質が10〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質60mgに対して、前記可塑剤としてBBPAまたはPTEHのいずれかが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項5】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質70mgに対して、前記可塑剤としてBEHSが400〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項6】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質120mgに対して、前記可塑剤としてTBACが800〜2000μlの割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル(PVC)からなる高分子材と、リン酸ジノマルデシルの2C10からなる脂質と、可塑剤とを混合して形成したセンサ膜を有し、被測定液中の呈味物質に感応して膜電位が変化する味覚センサにおいて、
前記高分子材800mg、前記脂質50〜150mgの範囲に対し、前記可塑剤としてBBPAとTBACがそれぞれ100〜3000μlの範囲で且つ少なくとも一方が100μlを越える割合で含まれていることを特徴とする味覚センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−107344(P2010−107344A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279366(P2008−279366)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
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