説明

呼吸ガスをコンディショニングするためのシステムおよび方法

【課題】呼吸ガスをコンディショニングするためのシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】呼吸ガスコンディショニングシステム(100)には、吸気枝管(IB)、呼気枝管(EB)、低デッドスペース熱湿度交換器(HME)(50)、および枝管(IB、EB)を患者(PZ)に接続するためのコネクター(70)が含まれる。このシステム(100)の特徴は、HME(50)がベンチレーター(60)の近くに位置していること、および水リザーバー(RS)がHME(50)よりも上流側に位置していて、患者(PZ)による呼気ガスが呼気枝管(EB)内を通過しているときにそれを増湿させる点にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸ガスをコンディショニングするためのシステムおよび方法に関する。
【0002】
そのシステムおよび方法は、集中治療において使用して、人工呼吸において挿管で呼吸確保された患者によって吸気されるガスに適切な湿度/温度を与えることを目的としている。
【0003】
本発明を使用すれば、(これらに限定される訳ではないが)麻酔科および集中治療室(ICU:Intensive Care Unit)において特に有利となりうるが、それに関しては単に例示の形で以下において説明する。
【背景技術】
【0004】
現在のところ、集中治療室での人工呼吸において挿管で呼吸確保された患者の気道は、その患者が集中治療の状態にどの程度時間を置かれる予定かに依存するが、主として二つの方法を用いて加熱、加湿されている。
【0005】
熱湿度交換器(HME:Heat and Moisture Exchange)を採用した第一の受動的コンディショニング(passive conditioning)システムは、その患者が集中治療にほぼ72時間未満の間とどめられるであろうという場合に使用される。
【0006】
公知のように、HMEは、患者の呼気したガスからの湿分と熱分を保持することによって運転され、その保持された湿分および熱分のほとんどを、その次の吸気段階で患者に対して与える。
【0007】
この種の器具は、28〜31℃の間の範囲の温度で28〜33mg/Lの絶対湿分レベルを患者に供給し、ほぼ72時間の処置の間、正常な呼吸生理機能が保持されることが保証されている。
【0008】
通常それらの器具の運転は、24時間は安定に維持されるが、その後になると流動抵抗の増大が原因で患者が呼吸困難(呼吸仕事量、WOBの増大)となる可能性があり、そのために、24時間毎にその器具を交換するのが正しいとされている。
【0009】
第二の呼吸ガスのコンディショニングシステムは、積極的加湿(active humidification)に基づくものである。
【0010】
現在最も市場に出回っている器具では、40mg/L以上の絶対湿分と35〜39℃の間の温度とを患者に与えるような加熱加湿ガスを提供し、かつ凝結を回避するための呼気導管の温度制御を行うことによってメンテナンスの手間がほとんど不要である。
【0011】
しかしながら、HMEを組み合わせて運転する、中程度に積極的な器具は、吸気ガスに数mgの水蒸気を補償することによって患者への熱分および湿分供給の増加を与え、それによって、器具の(72時間を超える)長時間運転を可能としている。
【0012】
HMEシステムには以下のような利点がある:
・積極的器具よりもメンテナンスの手間がかからない。
・72時間にわたって正しい呼吸生理機能を充分に維持する。
・使用が容易である。
HMEシステムには以下のようなことを起こす可能性がある:
・ほとんどの場合加湿が「不十分(poor)」である。
・呼吸器回路内部でのデッドスペースが増える。
・起こりうる熱交換要素の閉塞(凝結物の蓄積)のために、いずれ流動抵抗が増大する。
【0013】
積極的加湿器システムには以下のような利点がある:
・受動的器具に比較してより高い湿分が供給できる。
・受動的器具に比較して運転時間が長い。
積極的加湿器システムには以下のようなことを起こす可能性がある:
・加湿器の設定が正しくないと、過加湿となる可能性がある。
・使い捨てのカートリッジまたはカン回路および滅菌水のコストが高い。
・受動的器具の場合よりもモニタリングを頻繁に必要とする。
・呼気側での凝結物の蓄積のために、ベンチレーターの湿分の影響を受けやすい流量センサーを通常以上に頻繁に交換しなければならず、そのために運転コストが増大する。
・滅菌水の消費量が大きい。
【0014】
増湿(moisture−enrich)HME器具には以下のような利点がある:
・受動的器具に比較してより高い湿分が供給できる。
・積極的器具よりは滅菌水の消費量が少ない。
増湿HME器具には以下のようなことを起こす可能性がある:
・HMEの嵩と重量が増加するので、患者に近接させるのには望ましくない。
上述のタイプの各種のシステムは、(特許文献1)(デューパー(DHUPER)ら)に記載がある。
【0015】
上述の文献における一つの実施形態では、該文献の図4〜6を参照した記述で、患者から離れた位置で、複数の温度制御された導管で結合されたHMEを用いている。
【0016】
もう一つの実施形態では、該文献の図1〜3に見られるように、その器具の中に薬物を注入するための器具を採用している。あるいは、アトマイザーを使用してもよい。
【0017】
特許文献1に記載のシステムは機能はするが、患者によって吸気されるガスの湿分レベルの正確な制御に関しては、信頼がおけないことが判明した。
【0018】
【特許文献1】国際公開第2006/127257号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、患者に適切な湿分の供給を確保することである。公知のように、この分野においては、ガスの基本的なパラメーターは、湿分(すなわち、ガスの単位体積あたりの水蒸気量)および温度である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明による呼吸ガスコンディショニングシステムの主たる特徴は、(ベンチレーターの近くに位置させ、かつシステム中にほとんどデッドスペースが存在しないようにしたことを特徴とする)受動的HMEの運転と、(可能であれば加熱された)1個または複数の水リザーバーと2本の温度制御された導管を含む積極的加熱増湿器具の運転とを組み合わせた点にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
例として添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を非限定的に説明する。
【0022】
添付の図面に見られるように、本発明によるシステム100には、
3本の温度制御された導管10、20、30(1本は吸気枝管IBのため、2本は呼気枝管EBのための導管である)と、
補充口を有し、小量の水を含むことを特徴とし、そして、呼気枝管EBの途中に位置している、場合により電気抵抗器(図示せず)によって加熱された水を含む水リザーバーRSと、
吸気流れF1と呼気流れF2を厳密に分離していることを特徴とし、ベンチレーター60の近くに位置し、吸気と呼気の流れを分離させながらも、その二つの間での熱分および湿分の交換を適切に維持し、その回路の中のデッドスペースを増大させることがない、熱湿度交換器(HME)50と、
患者PZの近くに位置し、患者PZを吸気枝管IBおよび呼気枝管EBに接続し、吸気枝管IB上に温度センサー80のためのソケットを有するY字形コネクター70と、
温度センサー90のためのソケットを有し、HME50と呼気枝管EBを接続させるための直管状コネクターRDと、
3本の温度制御された導管10、20、30のためのサーモスタット(図示せず)が含まれる。本明細書において「サーモスタット」という用語では、温度制御された導管10、20、30および温度センサー80、90に電気的に接続されて、患者PZへのまたは患者PZからのガス流れの温度を制御する電子的中央調節ユニット(図示せず)を意味することが意図されている。
【0023】
システム100は以下のようにして運転される。
【0024】
患者PZからガスはおよそ32℃で呼気され、それが温度制御された呼気枝管EBの中を流れる間に、より高い温度に加熱され、そのためにリザーバーRS内部の水の表面上を流れることで湿分がさらに増加される。
【0025】
次いでそのガスがさらに加熱され、それが(ベンチレーター60の近くの)HME50に到達する時間までの間に、加熱および加湿されるが、その熱分および湿分の勾配が、HME50そのものに対する熱分および湿分の放出を助ける。
【0026】
高性能のHME50が使用されたと仮定すると、交換器によって充分な熱分および湿分が保持されて、ベンチレーター60には比較的乾燥したガスが供給され、呼気配管上での凝結ウェル(condensation well)が不要となる。
【0027】
したがって、このことにより、ベンチレーター60の一部を構成する湿分の影響を受けやすい流量センサー(図示せず)に関するすべての問題が解消される。
【0028】
次の吸気段階において、ベンチレーター60からHME50の中を流れる乾燥ガスに熱分および湿分が供給され、温度制御された吸気枝管IBを介して患者PZに供給されるが、その枝管はガスの温度を維持して、ガス中の湿分が凝結することを防止している。
【0029】
言い換えると、患者PZへのガス供給の中の熱分および湿分の量は、吸気枝管IBおよび呼気枝管EBを流れるガスの温度を調整することによって調節されている。
【0030】
回路に組み込まれた温度センサー80、90により、患者PZへのガス供給の温度を測定することによって、温度制御された導管10、20、30の温度を、患者PZの必要に合わせて、サーモスタット(図示せず)により調節することが可能である。
【0031】
さらに詳しくは、温度制御された導管20を加熱することで、患者PZによって呼気さ
れたガスを加熱して、水リザーバーRSからより多くの湿分を集めることができるが、それに対して、温度制御された導管30中のガスを加熱することで、そのガスの温度および湿分レベルを維持し、さらにHME50の交換器要素(図示せず)へ熱分および湿分を効果的に移行をさせるのに充分な勾配を呼気枝管EBとHME50との間に作り出す。それによって、その交換器要素は、ベンチレーター60から入ってくるガスよりもはるかに高い熱分および湿分含量を有し、熱分および湿分が患者PZへの吸気流れ(F1)に移行され、そのような吸気流れ(F1)の条件が、温度制御された導管10による吸気枝管IBの中で維持される。
【0032】
本発明による呼吸ガスコンディショニングシステムの主たる利点は以下のとおりである。
【0033】
従来からの積極的加湿器に比較してエネルギー消費量が少なく、実際のところ、エネルギーは、温度制御された導管を加熱するため、および場合により水リザーバーをわずかに加熱するためにだけに使用されている。
【0034】
従来からの積極的加湿器に比較して水の消費量が少なく、実際のところ、このシステムは、患者の呼気による湿分の損失を補償するのに必要な量の湿分のみを供給する。
【0035】
日常的な点検はほとんど必要なく、そのために、受動的および積極的器具のいずれと比較してもシステムメインテナンスが低減される。
【0036】
従来からのシステムにおける水トラップが不要であり、HMEが高性能であるために、呼気側のガスは充分に乾燥していて、凝結物ウェルが不要となり、単に消費量を補償するための湿分含量を較正することによって、過剰な湿分が形成されることを防止し、そのために、吸気枝管の途中における凝結物ウェルの必要性がなくなる。
【0037】
従来からのHMEに比較してシステムを長時間運転できる。
【0038】
患者の吸気ガスを充分に加熱、加湿でき、増湿システムによって添加される湿分の量が、実際のところ、HMEの湿分損失を補償するので、必要とされる湿分レベルが患者に供給される。
【0039】
患者の安全性が改良され、使用されるのが低電力であり、かつ添加される湿分が小量であるために、熱傷および過剰湿分から患者が保護される。
【0040】
HMEによって吸気流れおよび呼気流れが完全に分離されるので、その回路で一方向弁を使用する必要がなくなる。
【0041】
患者の近くに置く回路がより軽量となり、他の加湿器の場合とは異なって、HMEを患者とは離れたベンチレーターの近くに位置させ、水が充満してくる水トラップが不要となるために、患者にかかる回路の重量がさらに低減される。
【0042】
このシステムはさらに、新生児に使用するのにも理想的であるが、その理由は、導管の温度制御を単に向上させるだけで、小量のガス流れであっても、加湿および加熱することが極めてフレキシブルかつ効果的に実施できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるシステム100を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 導管
20 導管
30 導管
50 HME(熱湿度交換器)
60 ベンチレーター
70 Y字形コネクター
80 温度センサー
90 温度センサー
100 システム
EB 呼気枝管
F1 吸気流れ
F2 呼気流れ
IB 吸気枝管
PZ 患者
RD 直管状コネクター
RS 水リザーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気枝管(IB)および呼気枝管(EB)と、
熱湿度交換器(HME)(50)と、
前記枝管(IB、EB)を患者(PZ)と接続させるためのコネクター(70)と
を含む、呼吸ガスコンディショニングシステム(100)であって、
前記HME(50)がベンチレーター(60)の近くに位置し、そして
水リザーバー(RS)が前記HME(50)よりも上流側に位置していて、患者(PZ)によって呼気されたガスを、それが前記呼気枝管(EB)中を流れている間に増湿させることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記水リザーバー(RS)が、第一の温度制御された導管(20)に対して下流側、そして第二の温度制御された導管(30)に対して上流側に接続される、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項3】
前記水リザーバー(RS)が所定の量の水を含み、前記第一の温度制御された導管(20)から前記第二の温度制御された導管(30)へと流れる呼気ガスがその表面を流れる、請求項2に記載のシステム(100)。
【請求項4】
前記水リザーバー(RS)中の水が、電気抵抗器によって加熱される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシステム(100)。
【請求項5】
前記システム全体を温度制御するための電子機器を含む、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項6】
呼吸ガスをコンディショニングする方法であって、以下の工程:
湿分飽和されたガスが患者によって呼気され、それが温度制御された呼気枝管中を流れている間に、加熱されてより高い温度となって、そのためにリザーバー内部の水の表面上を流れている内に湿分が増加される工程と、
前記呼気ガスを再加熱し、それによって、それがベンチレーション手段の近くに位置する熱湿度交換器(HME)に到達する時間までに加熱および加湿され、HME中においてその熱分および湿分の勾配が、温度制御された吸気枝管を介して患者によって吸気されるガスに熱分および湿分を放出するのに役立つ工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記湿分飽和されたガスが、30〜35℃の温度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
次の吸気段階において、前記ベンチレーション手段から前記HMEを通過して流れる乾燥ガスが湿分および熱分を加えられ、前記ガス中の湿分が凝結することを防止するように前記ガスの温度が維持されている、前記温度制御された吸気枝管を介して前記患者に供給される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記患者へのガス供給中の熱分および湿分の量が、前記吸気枝管(IB)および呼気枝管(EB)中を流れるガスの温度を調整することによって調節される、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記回路中のガスの温度を測定することによって、前記温度制御された導管の温度を、前記患者の必要に合わせてサーモスタットにより調節することが可能である、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−72603(P2009−72603A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243698(P2008−243698)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(507253897)コヴィディエン アクチエンゲゼルシャフト (11)