説明

呼吸器疾患の治療のためのインターフェロン−λ療法

本発明は、IL-29およびIL-28a/bとしても知られている1種以上のインターフェロン-λ(IFN-λ)の、ウイルスが誘導する呼吸器疾患、特に例えば、ウイルス感染、最も一般的にはライノウイルス感染から生ずる喘息の増悪を改善または予防するための使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインターフェロン-λ(IFN-λ)の医学的用途に関する。より具体的には、本発明は、例えば、ウイルスによって誘導される呼吸器疾患の増悪、特に例えば、ウイルス(ライノウイルス(RV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、およびインフルエンザウイルスなどのウイルス)によって誘導される喘息の増悪の治療のためのIFN-λの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の双方の急性増悪の大多数は、呼吸器系ウイルスの感染によって引き起こされるものである。呼吸器系ウイルス感染は成人と小児の双方の喘息の増悪の主たる誘因である。これは、小児の喘息発作の約80%(非特許文献1)、成人の喘息発作の75%(非特許文献2)に関与している。ウイルス感染は喘息の罹患率および死亡率の大きな原因となっている(非特許文献3)。本発明は喘息患者の気管支上皮細胞内および気管支肺胞洗浄細胞内でのウイルス感染に応答するインターフェロン産生の研究に由来するものである。
【0003】
I型インターフェロンは、13種のIFN-αのサブタイプ、ならびにIFN-β、IFN-κ、IFN-τ、およびIFN-ωからなる、密接に関連した糖タンパク質のファミリーである。様々なヒトIFN-αのサブタイプが、ヒトcDNAライブラリーの分析、および刺激されたリンパ芽球様細胞が産生したIFNのタンパク質の分析によって同定されている。それらの不均一性の理由については依然として不明である。初期の研究では全てのサブタイプが同一の受容体と結合することが示されており、このことから、これらのサブタイプは全て同一の応答を誘起するはずであると推測されていた。その後、精製したサブタイプと組換え型のサブタイプの双方の比較研究で、抗ウイルス性、抗増殖性、および免疫調節性応答のスペクトルが明らかとなった。
【0004】
I型IFNと異なる受容体と結合し、I型IFNと大きく異なる機能を有する1種のII型インターフェロンであるIFN-γが存在する。
【0005】
I型インターフェロンは、呼吸器系ウイルス感染に対する先天的な免疫応答の非常に重要なコンポーネントである。その防御方法は、まずインターフェロン-βが放出され、次いでそれが、I型インターフェロン受容体を介して仲介されるカスケードにおいて、さらにインターフェロン-βおよび各種のインターフェロン-αの放出を刺激する。
【0006】
インターフェロン-λは3種類の密接に関連したタンパク質で、より最近になって発見されたものである(非特許文献4、5)。インターフェロン-λ1はIL-29としても知られており、インターフェロン-λ2およびλ3はIL-28a/bとして知られている。これらのインターフェロンはI型やII型インターフェロンの受容体とは全く異なる第3の受容体と結合する。そのためこれらのインターフェロンは現在ではIII型インターフェロンと称されている。これらのインターフェロンはin vitroでの細胞研究で抗ウイルス活性を有することが示されている(例えば、Zymogenetics Inc.の特許文献1を参照)。しかし、ヒトにおける呼吸器系ウイルスの自然感染のいずれかに対する防御に有用であることは、依然として確認されていない。
【0007】
これと関連して、IFN-β-serが既に抗ウイルス活性を有すると報告されていたにもかかわらず、感冒の予防に関する試験では効果がないと証明されていることは注目に値する(非特許文献6)。これは、ライノウイルス感染に応答してIFN-βを産生する正常細胞の先天的な能力によるものであろう。同様に、抗ウイルス活性を示すIFN-λを用いたin vitro研究から、そのインターフェロンの型がin vivoでの呼吸器系ウイルス自然感染に対して何らかの治療的価値を有すると推定することは可能ではない。
【0008】
興味深いことに、ライノウイルス感染に応答するヒト喘息患者の気管支上皮細胞によるインターフェロン産生の研究で最初に示されたことは、そのような細胞は、ライノウイルスに感染した健康な対照者から得た気管支上皮細胞と比較して、初期のアポトーシスに対する耐性の観察およびウイルス粒子産生の増加に合わせて、不十分なI型インターフェロン応答を有することである。さらに、培養液中で、RVに感染した喘息患者の気管支上皮細胞へIFN-βが供給されると、感染性ウイルス粒子産生の顕著な低減を起こすことが判明した。これらの結果は、ライノウイルスが誘導する喘息の増悪の治療において、IFN-βの新たな治療上の有用性を提案することの基礎となった(非特許文献7)。
【0009】
さらに別の結果から、COPD(慢性気管支炎や肺気腫を含む一連の病状を包含する)のRVによって誘導される増悪の治療についても同様に、IFN-βの使用の予測が示唆されている。COPDは進行性の気道疾患で肺機能が徐々に失われることを特徴とする。COPDの症状としては、慢性的な咳、痰の喀出、および息切れが挙げられる。喫煙はCOPDの最も一般的な原因である。
【0010】
現在では、IFN-λポリペプチドがライノウイルス(最も一般的)および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を含む呼吸器系ウイルスの感染によってヒトの細胞中で強く誘導されることが判明している。実施例4および図23から26は、気管支上皮細胞内でのそのような誘導を説明したものである。さらに、インターフェロン-λはIFN-βを誘導し、IFN-βはまたIFN-λを誘導する。
【0011】
喘息患者と正常なボランティアから得られた気管支上皮細胞および気管支肺胞洗浄細胞を分析することによって、現在では、喘息患者の気管支上皮細胞はさらに、ライノウイルスで感染した際に、IFN-λ遺伝子の発現およびタンパク質の産生も不十分であることが示されている。このような知見は、本発明の前には知られていなかったかまたは考えられていなかったことであり、IFN-λポリペプチドの1種以上の投与もまた、ウイルスが誘導する喘息の増悪の治療に有効な治療法を構成するという提案に導く。
【0012】
さらに、IFN-λポリペプチドがCOPDなどの他の呼吸器疾患のウイルス誘導型増悪の治療に同じように有益であり得ることが示唆される。本発明者らは「呼吸器疾患」に、喘息およびCOPDに加えて、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎、気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺炎、好酸球増加症候群、および寄生虫性肺疾患を含めている。
【特許文献1】WO 2004/037995
【非特許文献1】Johnstonら, BMJ (1995) 310, 1225-1229
【非特許文献2】Warkら, Eur. Resp. J. (2002) 19, 68-75
【非特許文献3】Campbellら, BMJ (1997), 1012
【非特許文献4】Kotenko, S. V. ら, Nature Immunology 2003;Vol 4,69-77
【非特許文献5】Sheppard, P.ら, Nature Immunology 2003;Vol 4,63-88
【非特許文献6】Sperberら, J. Infect. Dis.(1989) 160, 700-705
【非特許文献7】Warkら, J. Exp. Med. (2005年3月21日)201, 937-947
【発明の開示】
【0013】
本発明の要旨
1態様においては、本発明は呼吸器疾患のウイルス誘導型増悪の状態にあるかまたはその危険性のある患者の治療方法を提供し、該方法はそのような患者に対して治療上有効な量の1種以上のIFN-λポリペプチドを、好ましくは気道に送達することによって、投与することを含んでなる。上述の通り、そのような治療は、ウイルスが誘導する喘息の増悪、最も一般的にはRVが誘導する喘息の増悪の軽減もしくは予防であるが、それのみならず例えば、RSVやインフルエンザウイルスによる増悪をも軽減もしくは予防することは、特に興味深い。1種以上のIFN-λポリペプチドの投与はポリペプチドとして直接的に、または1種以上のポリヌクレオチドからの発現を介して行うことができる。
【0014】
本発明はさらに、
(a)1種以上のIFN-λポリペプチド、または、
(b)標的とする気管支上皮細胞中で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種のもしくは複数種のポリヌクレオチド、
から選択された作用物質の、ウイルスが誘導する呼吸器疾患の増悪を治療するための投与用の医薬品(好ましくは該医薬品の気道への送達、例えばエアロゾルネブライザーの使用によって送達される)の製造における使用を提供する。治療を受ける個体はどのような動物であってもよいが、好ましくはその治療を受ける個体はヒト、例えば、好ましくは喘息に罹患しているヒトである。
【0015】
別の態様においては、本発明はまた、医薬組成物を具備する器具を提供し、該医薬組成物は、(i)1種以上のIFN-λポリペプチド、または(ii)上述のような1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種以上のポリヌクレオチドである治療薬剤を含んでなり、該器具は該組成物の気道への送達に適したものである。このような組成物は、呼吸器疾患を治療するために用いられる追加の治療薬剤を同時投与、別個の投与、または連続投与のために補充することができる。追加する治療薬剤は単一の組成物となるように製剤化することができ、または別々の組成物中で提供することができる。そのような投与レジメンに適した製品は本発明のさらに別の態様を構成する。
【0016】
好ましい実施形態として、ウイルスが誘導する喘息の増悪の治療のための製剤が提供され、該製剤は気道への同時、別個、もしくは連続的投与のために、(a)少なくとも1種のIFN-λポリペプチド、または標的の気管支上皮細胞中で少なくとも1種のIFN-λポリペプチドを発現させることのできるポリヌクレオチド、および(b)吸入コルチコステロイドを含んでなる。
【0017】
本明細書に報告している研究の結果として、IFN-λポリペプチドが、ウイルスによる増悪とは無関係に、喘息などのアレルギー性疾患に関して利益を有し得ることがさらに前提とされる。一般的に、アレルギー疾患の罹患率が増加するにつれて喘息の罹患率が増加することは十分に確立されている。この罹患率の増加が感染症の欠如に関連していることが示唆されており、若年期に感染症への暴露の程度の高いと、後年の喘息およびアレルギーの発症危険性が非常に低い。IFN-λおよびIFN-βは双方とも、感染の防御的役割を模倣することによって、予防的治療として用いることができるものと推定される。
【0018】
喘息、鼻炎、湿疹、食物アレルギーおよびアナフィラキシーを含むアレルギー性疾患は、それ自体がI型インターフェロン応答の障害の結果であるTH1免疫応答の障害と関連すると考えられており、いずれも若年期の感染症への暴露が不十分であったことの結果であると考えられている。本明細書に示したデータは、IFN-λを若年期に投与すると、感染症による防御効果を模倣し、I型インターフェロンとTH1免疫応答を促進し、TH2によって駆動されるアレルギー疾患の発症を予防できることを示唆している。この予防的療法は若年期に行うことができるが、IFN-λはアレルギー疾患を治療/治癒させるために、言い替えればTH2によって駆動される感作およびアレルゲンに対する免疫応答を逆行させるために、若年期よりあとに投与してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明の詳細な説明
しかし、上述のとおり、本明細書で示すIFN-λポリペプチドの好ましい使用は、特にヒトにおける、ウイルスによって誘導される喘息の増悪を軽減または予防するためのものである。そのようなウイルスによって誘導される増悪は最も一般的にはRV感染の結果である。しかしながら、本発明はRSV感染やインフルエンザ感染を含むその他のウイルス感染による喘息の増悪にも同じように適用することができる。
【0020】
ある患者が呼吸器疾患に罹患しているか否かを診断する方法は当業界ではよく知られている。例えば、喘息の診断のためのガイドラインは、Global Initiative for Asthme (GINA)により「Pocket guide for asthma prevention and management)」というタイトルの出版物の一部として提供されており、これはwww.ginasthma.comから入手することができる。同様に、COPDの診断のためのガイドラインは、Global Initiative for Obstructive Lung Disease(GOLD)により「Pocket guide to COPD diagnosis, management and prevention:a guide for health care professionals」というタイトルの出版物の一部として提供されており、これはwww.goldcopd.comから入手することができる。これらの文書の双方からの関連部分の抜粋は、後記の実施例で提供する。
【0021】
本発明の方法は1種のIFN-λポリペプチドを投与することを含んでなるものとすることができ、または、患者にIFN-λ1とIFN-λ2の混合物、またはIFN-λ1とIFN-λ3の混合物、またはIFN-λ2とIFN-λ3の混合物、またはIFN-λ1、IFN-λ2、およびIFN-λ3の混合物を投与することができる。
【0022】
「IFN-λポリペプチド」との記載はGenBank登録番号Q8IU54、Q8IZJ0、Q8IZI9で開示されているポリペプチドを含んでおり、それらは下記のとおりである:
【化1】

【化2】

【化3】

【0023】
「IFN-λポリペプチド」との記載には完全長の天然のIFN-λポリペプチドもしくはその断片、またはその誘導体のいずれかが含まれている。
【0024】
IFN-λポリペプチドの「断片」もしくは「変異体」とは、本発明の方法での治療薬剤として有用なものとなる、IFN-λポリペプチドと実質的に同等以上の生物学的活性を有するものである。このような変異体および断片は、通常、少なくとも5個の連続したアミノ酸からなる少なくとも1つの領域であって、該ポリペプチドの最も相同な5個以上の連続したアミノ酸からなる領域と少なくとも90%の相同性を有する前記領域を含む。断片とはポリペプチド全体の100%未満のものを言う。
【0025】
IFN-λポリペプチドの「断片」もしくは「変異体」の生物学的活性は、例えば、下記の実施例1に記載のとおり、気管支上皮細胞におけるRV感染に対するそのようなポリペプチドの抗ウイルス活性を測定することによって知ることができる。「実質的に同等以上」とは、IFN-λポリペプチドの「断片」もしくは「変異体」がIFN-λポリペプチドの生物学的活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、もしくはそれ以上を有している場合を含む。
【0026】
当業者であれば、IFN-λポリペプチドを既知のポリペプチド改変技術で改変することができることは理解されよう。そのような技術としては、Stevensに交付された米国特許第4,302,386号(1981年11月24日)中に開示される技術を含み、これは本明細書中に参照により組み入れる。そのような改変によって、生物学的活性を治療薬剤として有用なものとなるように増強することができる。例えば、少数のアミノ酸残基を変化させることができる。望ましくない配列は、当業界でよく知られている技術によって除去することができる。例えば、それらの配列は、トリプシンもしくはパパイン、または関連するタンパク分解酵素などの酵素を用いて限定的タンパク消化を行うことによって除去することができる。
【0027】
従って、本発明の方法で用いられるIFN-λポリペプチドとしては、合成のポリペプチドもしくは本来のポリペプチドの断片を含む、改変型ポリペプチドが含まれる。
【0028】
IFN-λポリペプチドは多数の異なる供給源から調製することができる。例えば、組換えIFN-λポリペプチドを、任意にタンパク質タグを含む形で、多数の異なる発現系(原核細胞、真核細胞の双方)を用いて細胞中で発現させ、単離することができる。組換えIFN-λポリペプチドは上清中に分泌させることができ、その後その上清から組換えポリペプチドを精製することができる。
【0029】
組換えポリペプチドを発現させ、細胞から精製することのできる方法は当業界ではよく知られており、当業者ならば行いうる慣用的な処理である。そのような方法は例えば、Sambrookら, Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2001 第3版中に開示され、提供されている。
【0030】
一般的には、所望のIFN-λポリペプチドをコードするDNAは適切な微生物宿主細胞中で発現される。従って、IFN-λポリペプチドをコードしているDNAを、本明細書中の教示を考慮して適切に改変された既知の技術に従って用いて、発現ベクターを構築することができ、次いでIFN-λポリペプチドの発現と産生のために該ベクターは適切な宿主細胞の形質転換に用いられる。そのような技術としては、Rutterらに交付された米国特許第4,440,859号(1984年4月3日)、Weissmanに交付された米国特許第4,530,901号(1985年7月23日)、Crowlに交付された米国特許第4,582,800号(1986年4月15日)、Markらに交付された米国特許第4,677,063号(1987年6月30日)、Goeddelに交付された米国特許第4,678,751号(1987年7月7日)、Itakuraらに交付された米国特許第4,704,362号(1987年11月3日)、Murrayに交付された米国特許第4,710,463号(1987年12月1日)、Toole, Jr.らに交付された米国特許第4,757,006号(1988年7月12日)、Goeddelらに交付された米国特許第4,766,075号(1988年8月23日)、およびStalkerに交付された米国特許第4,810,648号(1989年3月7日)中に開示されているものが挙げられ、それらの全てを本明細書中に参照により組み入れる。
【0031】
IFN-λポリペプチドをコードするDNAは、適切な宿主中に導入するために、多種多様な他のDNA配列と連結させることができる。連結されるDNAは、宿主の性質、該宿主へのDNAの導入様式、およびエピソーム維持または組み込みのいずれを所望するのかによって左右される。
【0032】
通常、DNAは、プラスミドなどの発現ベクター中に、適切な配向と、発現のための正しいリーディングフレームで挿入される。必要に応じて、DNAは、所望の宿主によって認識される適切な転写および翻訳制御ヌクレオチド配列と連結することができるが、そのような制御は通常は発現ベクター内で利用可能である。このように、DNAインサートを適切なプロモーターと機能しうる形で連結することができる。細菌のプロモーターとしては大腸菌(E.coli)のlacIおよびlacZプロモーター、T3およびT7プロモーター、gptプロモーター、ファージλ PRおよびPLプロモーター、phoAプロモーター、ならびにtrpプロモーターが挙げられる。真核細胞のプロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーター、およびレトロウイルスのLTRのプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターは当業者には既知であろう。発現構築物は望ましくは転写の開始および停止のための部位、ならびに、転写される領域中に翻訳のためのリボソーム結合部位をさらに含んでいる(Hastingsら, 国際特許番号WO98/16643, 1998年4月23日公開)。
【0033】
次いで、ベクターは標準的な技法を用いて宿主中に導入される。通常は、ベクターによって全ての宿主細胞が形質転換されることになるわけではないので、形質転換された宿主細胞を選別する必要がある。選別技術の1つは、必要とされる制御エレメントを全て含んでいる発現ベクター中に、形質転換された細胞で選択可能な形質をコードするDNA配列マーカーを組み入れることである。そのようなマーカーとしては、ジヒドロ葉酸還元酵素、真核細胞培養用のG418もしくはネオマイシン耐性、大腸菌(E.coli)および他の細菌の培養用のテトラサイクリン、カナマイシン、もしくはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。選択マーカーは、宿主中で栄養要求性を補うものであることもできる。あるいは、そのような選択可能な形質のための遺伝子を、所望の宿主細胞を同時形質転換するために使用される別のベクターに入れておくことができる。
【0034】
IFN-λポリペプチドをコードするDNAによって形質転換された宿主細胞は、次いで、インターフェロンポリペプチドが発現されるのに十分な時間、適切な条件下で培養されるが、そのような条件は本明細書に開示されている教示を考慮に入れて当業者であれば既知のものである。
【0035】
多数の微生物発現系が知られており、そのような系としては以下を用いる系が挙げられる:例えば、組換えバクテリオファージ、プラスミド、もしくはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えば、大腸菌(E.coli)および枯草菌(B.subtilis));例えば、酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えば、Saccaromyces cerevisiae);例えばウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で形質転換された昆虫細胞系。
【0036】
ベクターには、原核細胞のレプリコン、例えばColE1 oriなどを原核生物中での増殖のために含めることができる。また、ベクターには、該ベクターで形質転換される細菌宿主細胞、例えば大腸菌(E.coli)などにおいて遺伝子の発現(転写)を指令することのできる原核生物プロモーターなどの適当なプロモーターや、通常はプロモーター配列に近接し、生じる転写産物の一部を形成し、かつクローニングした遺伝子転写産物の翻訳を開始させることができる、翻訳開始配列(通常はプロモーター配列に近接する)、例えばShine-Delgarnoコンセンサスリボソーム結合配列を含めることができる。
【0037】
プロモーターとは、RNAポリメラーゼを結合させ、転写を引き起こすDNA配列によって形成される発現制御エレメントである。例示的な細菌宿主と適合しうるプロモーター配列は、典型的には、プラスミドベクター中に本発明のDNAセグメントの挿入のために都合のよい制限部位を含む形で提供される。
【0038】
代表的な原核細胞ベクタープラスミドとしては:Biorad Laboratories(Richmond, CA, USA)から入手しうるpUC18、pUC19、pBR322、およびpBR329;Pharmacia(Piscataway, NJ, USA)から入手しうるpTrc99A、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、およびpRIT5;Stratagene Cloning Systems(La Jolla, CA 92037, USA)から入手しうるpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46Aがある。好ましい原核細胞ベクタープラスミドとしてはpET26b(Novagen, Nottingham, UK)が挙げられる。
【0039】
有用な酵母プラスミドベクターはpRS403-406およびpRS413-416であり、それらは一般的にはStratagene Cloning Systems(La Jolla, CA 92037, USA)から入手しうる。プラスミドpRS403、pRS404、pRS405、およびpRS406は酵母組み込みプラスミド(YIp)であり、酵母選択マーカーHIS3、TRP1、LEU2、およびURA3が組み込まれている。プラスミドpRS413-416は酵母セントロメアプラスミド(YCp)である。
【0040】
コード配列と、例えば、適切な転写もしくは翻訳制御配列を含む発現ベクターの構築には、当業者によく知られた方法を用いることができる。そのような方法の1つはホモポリマー末端を介する連結を含む。ホモポリマーポリdA(またはポリdC)末端を、末端デオキシヌクレオチド転移酵素によって、クローニングされることとなるDNA断片上の暴露されている3' OH基に付加する。その結果、この断片は、線状化されたプラスミドベクターの末端に付加されたポリdT(またはポリdG)末端とアニールすることができる。アニーリング後に残ったギャップはDNAポリメラーゼで埋めることができ、遊離末端はDNAリガーゼによって結合される。
【0041】
別の方法は、付着末端を介する連結を含む。適切な制限酵素の作用によって、DNA断片とベクター上に相補的な付着末端を作製することができる。これらの末端は相補的塩基対形成によって急速にアニーリングし、残存するニックはDNAリガーゼの作用によって閉じることができる。
【0042】
別の方法は、リンカーやアダプターと呼ばれる合成分子を用いる。平滑末端を有するDNA断片は、突出している3'末端を除去し、凹型3'末端を埋めるバクテリオファージT4 DNAポリメラーゼまたは大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIで作製することができる。合成リンカーは規定の制限酵素の認識配列を含んでいる平滑末端化した二本鎖DNAの小片であるが、該リンカーはT4 DNAリガーゼによって平滑末端化DNA断片と連結させることができる。その後、これらを適切な制限酵素で消化して付着末端を作製し、相補的な末端を有する発現ベクターに連結させる。アダプターも、連結のために使用される1つの平滑末端を含むが、予め形成された1つの付着末端を保持する化学的に合成されたDNA断片である。
【0043】
種々の制限エンドヌクレアーゼ部位を含んでいる合成リンカーは、International Biotechnologies Inc., New Haven, CN, USAを含む多数の供給元から市販されている。
【0044】
IFN-λポリペプチドをコードするDNAを改変するための望ましい手法は、Saikiら(1988)Science 249, 487-491に開示されているポリメラーゼ連鎖反応を用いることである。この方法では、酵素的に増幅されることとなるDNAに、自身が増幅されたDNAに組み込まれることとなる2種類の特異的プライマーがフランキングする。この特異的プライマーには当業界で公知の方法を用いて発現ベクター中にクローニングするために使用することができる制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含ませることができる。
【0045】
従って、上記で概説した方法は、IFN-λポリペプチドの調製用の微生物発現系を作製するために用いることができる。
【0046】
微生物発現系からは多数の異なるよく知られた方法を用いてIFN-λポリペプチドを回収することができ、そのような方法としては、硫酸アンモニウム沈殿もしくはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンもしくは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、色素リガンドクロマトグラフィー、および逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が挙げられる。
【0047】
そのような方法には、微生物の宿主細胞を溶解するステップを含めることができる(発現系がIFN-λポリペプチドをその細胞から分泌させるよう指令するものでない場合)。
【0048】
あるいは、IFN-λポリペプチドは、Luら(1981)J. Org. Chem. 46, 3433およびその中の参考文献に開示されているFmoc-ポリアミド様式の固相ペプチド合成によって合成することができる。9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基によって一時的にN-アミノ基が保護される。この塩基が非常に不安定な保護基の反復的開裂は、N,N-ジメチルホルムアミド中の20%ピペリジンを用いて行う。側鎖の官能基はそれらのブチルエーテル(セリン、トレオニン、およびチロシンの場合)、ブチルエステル(グルタミン酸およびアスパラギン酸の場合)、ブチルオキシカルボニル誘導体(リジンおよびヒスチジンの場合)、トリチル誘導体(システインの場合)、および4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル誘導体(アルギニンの場合)として保護することができる。グルタミンまたはアスパラギンがC末端の残基の場合には、4,4'-ジメトキシベンズヒドリル基を側鎖のアミド官能基の保護のために用いる。固相支持体は、ジメチルアクリルアミド(バックボーンのモノマー)、ビスアクリロイルエチレンジアミン(架橋剤)、およびアクリロイルサルコシンメチルエステル(官能化剤)の3種類のモノマーから構成されているポリジメチル-アクリルアミドポリマーをベースとしたものである。使用されるペプチド-樹脂の間を切断しうる連結剤は、酸に不安定な4-ヒドロキシメチル-フェノキシ酢酸誘導体である。アミノ酸の誘導体は、アスパラギンとグルタミンを除いて全て、それらのあらかじめ形成させておいた無水の対称性の誘導体として添加するが、これらはN,N-ジシクロヘキシル-カルボジイミド/1-ヒドロキシベンゾトリアゾールによって仲介されるカップリング処理を反転させて用いて添加する。全てのカップリングおよび脱保護反応は、ニンヒドリン、トリニトロベンゼンスルホン酸、またはイソチン試験を用いてモニターする。合成の完了時に、50%のスカベンジャーミックスを含有する95%トリフルオロ酢酸で処理することによって、ペプチドは側鎖保護基の除去と共に樹脂支持体から切断される。一般的に用いられるスカベンジャーはエタンジチオール、フェノール、アニソール、および水であるが、合成されるペプチドの構成アミノ酸に応じて正しく選択される。トリフルオロ酢酸は真空中
で蒸発させることによって除去され、その後ジエチルエーテルを用いて粉砕して粗ペプチドが得られる。存在するスカベンジャーは全て、水相の凍結乾燥でスカベンジャー不含の粗ペプチドをもたらす単純な抽出処理によって除去される。ペプチド合成のための試薬は大部分はCalbiochem-Novabiochem(UK) Ltd, Nottingham, NG7 2QJ, UKから入手することができる。精製は、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および(主として)逆相高速液体クロマトグラフィーなどの技術のいずれか1つ、または組み合わせで行うことができる。ペプチドの分析は、薄層クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、酸加水分解後のアミノ酸分析、および高速原子衝撃(FAB)質量分析によって行うことができる。
【0049】
上述のとおり、1種以上のIFN-λポリペプチドは直接的に、または1種以上のポリヌクレオチドの発現を介して、投与することができる。そのようなポリヌクレオチドは好ましくは気管支上皮内でIFN-λの発現を指令することのできるベクターの形態である。そのような発現ベクターは従来から遺伝子治療用と考えられているどのようなタイプのものであってもよい。そのようなベクターは、裸のDNAとして投与されるか、もしくは1個以上のカチオン性両親媒性、例えば1個以上のカチオン性の脂質と複合体化させた例えばDNA/リポソームの形態の、プラスミド発現ベクターとすることができる。あるいは、ウイルスベクターを用いてもよい。ヒト肺の気道内での治療タンパク質を発現するためのベクターは、これまでに報告されている。例えば、公開国際特許 WO 01/91800(Isis innovation Limited)は、ヒトユビキチンCプロモーターを含んでいるそのような目的のための発現ベクターを記載している。気管支上皮内での導入遺伝子発現の指令に用いるための発現ベクターの例もChowら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1997)94, 14695-14700に記載されている。
【0050】
IFN-λポリペプチドは1種以上の許容される担体とともに製剤化して治療用途の医薬組成物を提供することができる。この担体は、化合物と適合しうるという意味で「許容しうる」ものでなければならず、そのレシピエントに有害なものであってはならない。そのような担体については製薬業界ではよく知られている。本発明によるウイルスが誘導する呼吸器疾患の増悪の治療目的には、IFN-λポリペプチドが気道投与用に製剤化されることが特に好ましい。
【0051】
そのような投与のためには、IFN-λポリペプチドがエアロゾルスプレーの形態で、適切な圧縮不活性ガス(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA 134A3)もしくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA3)などのヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、またはその他の適切なガス)を用いて、加圧した容器、ポンプ、スプレー、もしくはネブライザーから送達されることが好都合である。加圧エアロゾルの場合、投与ユニットは、計りとられた量を送達するためのバルブを備えることによって定めることができる。加圧容器、ポンプ、スプレー、もしくはネブライザーには、活性化合物の溶液もしくは懸濁液を、例えば、エタノールおよび圧縮不活性ガスの混合物を溶剤として用いて、含有させることができ、そのような液にはさらに滑沢剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンなどを含ませることができる。また、そのような製剤を超音波噴霧技術を用いて送達することもできる。
【0052】
上述のとおり、本発明の別の態様においては、治療薬剤を含んでなる医薬組成物を具備する器具が提供され、該治療薬剤は、(i)1種以上のIFN-λポリペプチド、または(ii)上述の、1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種以上のポリヌクレオチドであり、該器具は該組成物の気道への送達に適したものである。そのような組成物は、同時、別個、もしくは連続的な投与のために、呼吸器疾患の治療のために使用される追加の治療薬剤で補充することができる。従って、追加の治療薬剤は、単一の組成物となるように製剤化することができ、または別個の組成物として提供することができる。そのような投与レジメンに適した製品は本発明のさらに別の態様をなす。
【0053】
既に上述したとおり、ウイルスが誘導する喘息の増悪を治療するための製品は、同時、別個、もしくは連続的な投与のための、(a)少なくとも1種のIFN-λポリペプチドまたは標的の気管支上皮細胞中で少なくとも1種のIFN-λポリペプチドを発現させることのできるポリヌクレオチド、および(b)吸入コルチコステロイド、例えばフルチカゾン、ベクロメタゾン、およびブデソニドなどを含んでなる。そのような製品は気道へのエアロゾルとしての送達に適する単一の医薬組成物の形態とすることができる。
【0054】
エアロゾルを用いた場合の合計1日投与量は患者によって異なり、1日に1回の投与で、もしくは分割投与で行いうることは理解されよう。
【0055】
本発明の方法で投与されるIFN-λポリペプチドはポリペプチドの薬物動態学的性質もしくは免疫原的性質を改善するために誘導体化することができる。例えば、IFN-λポリペプチドは、IFN-λポリペプチドの安定性を増加させるために、PEG化および/もしくはアルブミンやその他の物質とコンジュゲート化することができる。
【0056】
PEG化は当業者にはよく知られた方法であり、ポリペプチドもしくは擬似ペプチド化合物は、1個以上のポリエチレングリコール(PEG)分子が共有結合で1個以上のアミノ酸もしくはその誘導体の側鎖に付着するように改変される。PEG化はMASC技術(molecule altering structural chemistry techniques)の最も重要なものの1つである。他のMASC技術を用いることができる。そのような技術は分子の薬力学的性質を改善する、例えば分子のin vivoでの半減期を延長させることができる。PEGタンパク質コンジュゲートは、まず最初に、本発明のタンパク質もしくは擬似ペプチド化合物と反応し、結合するようにPEG部分を活性化することによって形成させる。PEG部分はその分子量と立体構造が非常に様々であり、初期のPEG部分(単官能PEG;mPEG)は直鎖状で分子量は12kDa以下であり、後期のPEG部分は分子量がより増加する。最近のPEG技術の革新であるPEG2は、30kDa(もしくはそれ未満)のmPEGを、さらに反応してはるかに大きな分子量の直鎖状mPEGと同様の挙動を示す分枝した構造を形成するリジンアミノ酸と結合させること(PEG化は他のアミノ酸へのPEGの付加へも拡げうるものではあるが)を含む(Kozlowskiら, (2001), Biodrugs 15, 419-429)。PEG分子を共有結合で本発明のポリペプチドまたは擬似ペプチド化合物に付着させるために用いることができる方法はさらにRobertsら, (2002) Adv. Drug Rev. 54, 459-476、Bhadraら, (2002) Pharmazie 57, 5-29、Kozlowskiら, (2001) J. Control Release 72, 217-224、およびVeronese(2001) Biomaterials 22, 405-417およびそれらの論文中で参照されている参考文献中に記載されている。
【0057】
薬物動態および/もしくは安定性を改善するために、さらにもしくは代替として、天然のIFN-λポリペプチドの天然のアミノ酸残基を非天然のアミノ酸残基と置き換えることを選択することができる。
【0058】
インターフェロンや成長モルモンなどの治療用タンパク質は、それらの天然の状態もしくは組換えで製造された場合には、特に水溶液中で製剤化されるとき、短い保管寿命を示す不安定な分子となることがある。投与用に製剤化した場合のこれらの分子の不安定性は、該分子を保存期間中は常に凍結乾燥して冷所保存しなければならない可能性があり、それによって該分子の輸送および/または保存の困難性に影響する。保管の問題は、医薬品製剤を病院の環境外で保管し、投与しなければならない場合には特に深刻である。多くのタンパク質およびペプチド薬剤では、容器との結合によるタンパク質の欠損を低減もしくは防止するためにアルブミンなどの他のタンパク質を高濃度で添加することも必要となっている。このことはインターフェロンなどのタンパク質に関しては大きな懸念である。
【0059】
担体分子としてのアルブミンの役割およびその不活性性は、in vivoでのポリペプチドの担体およびトランスポーターとしての使用に望ましい性質である。アルブミンと治療用タンパク質との融合は、アルブミンをコードするDNA、もしくはその断片を治療用タンパク質をコードするDNAと結合させるような遺伝子操作によって行うことができる。次いで、融合ポリペプチドを発現するように適切なプラスミド上に配置させた融合ヌクレオチド配列を用いて適切な宿主を形質転換もしくはトランスフェクトする。発現はin vitroで例えば原核細胞もしくは真核細胞から、またはin vivoで、例えばトランスジェニック生物からもたらすことができる。
【0060】
本発明は予防目的もしくは治療目的で行うことができる。呼吸器系ウイルス感染の発症には季節的に危険な時期があると考えられる。このように、冬にはライノウイルス感染が多く、インフルエンザとRSVの流行が冬であることは明らかである。喘息もしくはCOPDに罹患しているヒトは、明確な臨床症状の出ている感冒のヒトと接触するとウイルスによる増悪の症状を発症することが考えられる。このような場合に、1種以上のIFN-λポリペプチドを、そのような接触後にウイルスによる呼吸器疾患の増悪を予防、または少なくとも低減させるために、本発明に従って投与することができる。
【0061】
本発明は、気管支上皮内でのIFN-λ産生の低下に関連する、ウイルスによって誘導される呼吸器疾患の増悪を引き起こす任意のウイルス感染に対して、またはそのような増悪を予防するために、適用可能であることは理解されよう。ウイルス感染は例えば、ライノウイルス、RSV、もしくはインフルエンザウイルスのいずれかによる感染でありうる。ウイルス感染は別の呼吸器系ウイルスによっても生じうる。しかし、本発明は、ライノウイルスが誘導する呼吸器疾患の増悪、特にライノウイルスが誘導する喘息の増悪の治療または予防での使用が特に好ましい。
【0062】
上述のとおり、現在では、インターフェロン-λは、ウイルス感染に対するその役割とは別に、喘息などのアレルギー疾患の予防に有益でありうることがさらに示唆されている。本発明者らの得たデータでは、若年期にインターフェロン-λの投与を受けると、感染症による防御効果を模倣し、TH1免疫応答を促進し、そしてTH2によって駆動されるアレルギー感作とアレルギー性疾患の発症を防止することが示唆されている。この予防的療法は若年期に行いうるが、インターフェロン-λは熟年期以降であってもアレルギー疾患の治療/治癒のために、言い替えればTH2によって駆動される、アレルゲンに対する感作および免疫応答を逆行させるために、投与することができる。
【0063】
「アレルギー疾患」とは、ヘルパーTリンパ球-2(Th-2)型の免疫応答に関連する症状である。アレルギー反応においては、高いIgEレベルが生じ、Th-2免疫応答がTh-1応答より優勢となり、その結果、炎症反応がもたらされる。
【0064】
「アレルギー疾患」としては、アレルギー感作、アレルギー性鼻炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー、皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気道疾患、好酸球増加症候群、接触皮膚炎、および好酸球性の気道炎症および気道過敏を特徴とする呼吸器疾患、例えばアレルギー性喘息、内因性喘息、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎、気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺炎、好酸球増加症候群、および寄生虫性肺疾患が挙げられる。本発明のこの態様の1実施形態においては、アレルギー性疾患はアレルギー感作、アレルギー性鼻炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー、皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、好酸球増加症候群、または接触皮膚炎である。
【0065】
本発明のこの態様の別の実施形態では、呼吸器疾患は喘息(アレルギー性または内因性)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎、気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺炎、好酸球増加症候群、および寄生虫性肺疾患である。好ましくは呼吸器疾患は喘息および/もしくはCOPDである。
【0066】
本発明の別の態様は、アレルギー性疾患の予防または治療のための医薬品の製造におけるIFN-λポリペプチドの使用である。
【0067】
好ましくは、アレルギー性疾患はアレルギー感作、喘息、アレルギー性鼻炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー、アレルギー性鼻炎、湿疹、食物アレルギー、アナフィラキシー、皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性気道疾患、好酸球増加症候群、接触皮膚炎、および好酸球性の気道炎症および気道の過敏を特徴とする呼吸器疾患、例えばアレルギー性喘息、内因性喘息、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、好酸球性肺炎、アレルギー性気管支炎、気管支拡張症、職業性喘息、気道過敏症症候群、間質性肺炎、好酸球増加症候群、および寄生虫性肺疾患である。
【0068】
本発明は下記の、非限定的な実施例と図とを参照することによって説明される。
【実施例】
【0069】
実施例1:ライノウイルスは気管支上皮細胞でIFN-λを誘導する
目的:RVがin vitroでIFN-λを誘導するか否か、およびIFN-λが気管支上皮細胞中でRV感染に対する抗ウイルス活性を誘導するか否かを調べること。
【0070】
方法の概略:ヒト気管支上皮細胞株BEAS2BにRVを感染させた。TaqMan(登録商標)PCRを用いてIFN-λ mRNAの発現を同定し、バイオアッセイは対応するタンパク質産生について行った。BEAS2B細胞はRVを感染させる前に様々な量のIFN-λ1で24時間処理した。抗ウイルス作用を調べるために、細胞溶解物中のウイルスRNAについてのTaqMan PCR、およびBEAS2B上清のウイルス滴定を行った。
【0071】
結果:IFN-λ1、IFN-λ2、およびIFN-λ3のmRNAは、感染の4時間後には増加し(p<0.05)、そのピークは8時間後であった(p<0.001)。この増加は感染の24時間後の時点でRV-16に対して用量反応的であった(p<0.001)。RV-9およびRV-1Bでの感染では、応答は血清型および受容体に非依存的であった。RV-16をUVで不活化するとアップレギュレーションを完全に阻害したが、これはウイルスの複製が活発に行われていることが必要であることを示している。ELISAアッセイでは、感染24時間後のBEAS2Bの上清で、IFN-λタンパク質の存在が検出された。最後に、細胞溶解物中のウイルスRNAについてのTaqMan(登録商標)PCR(p<0.001)およびウイルス滴定(p<0.001)の双方で、RV16感染に対してのIFN-λ1の用量依存的抗ウイルス作用が認められた。
【0072】
結論:この研究では、気管支上皮細胞株のRV感染がIFN-λの産生をもたらし、これらのタンパク質はRVに対する抗ウイルス応答において重要な役割を果たす可能性が立証された。
【0073】
実施例2:喘息の増悪におけるウイルス感染:インターフェロン-λの役割
目的:RV16がIFN-λを誘導するか否か、およびこの産生が喘息患者のライノウイルス感染に対する感受性の増加に関連するか否かを調べること。
【0074】
方法:ヒト気管支上皮細胞株BEAS2B、ならびに喘息患者(6例)および正常人(5例)から得られた気管支初代細胞にRV16を感染させた。IFN-λ mRNA発現についてはTaqMan(登録商標)PCRを用いた。BEAS2B細胞をRV16に感染させる前にIFN-λ1で処理した。細胞溶解物中のウイルスRNAについてのTaqMan(登録商標)PCR、およびBEAS2Bの上清のウイルス滴定の双方を行い、抗ウイルス作用を調べた。また、初代細胞の細胞溶解物中のウイルスRNAについてのTaqMan(登録商標)PCRは、RV16感染性が喘息患者から得た初代細胞と正常人から得た初代細胞との間で異なるか否かを調べるために用いた。
【0075】
喘息患者におけるライノウイルス感染に対する感受性の増加におけるIFNλ。結果:IFN-λ mRNAはBEAS2B細胞および初代細胞の双方で増加し、これは感染後8時間でピークに達した。BEAS2B細胞では、ウイルスRNAについてのTaqMan(登録商標)PCRおよびウイルス滴定の双方ともに、RV16感染に対するIFN-λ1の用量依存的な抗ウイルス作用を示した。初代気管支上皮細胞では正常な対照と比較してRV16感染後のIFN-λの量は有意に低かった(p<0.05)。それとは逆にRVの複製は喘息患者から得た気管支上皮細胞ではより高かった(p<0.05)。
【0076】
結論:気管支上皮細胞にRV16が感染するとIFN-λの産生をもたらす。この産生は喘息患者では不十分であるため、喘息患者でライノウイルス感染に対する感受性が増加する要因の1つである可能性がある。
【0077】
その他の材料と方法
初代気管支上皮細胞の採取
被験者は全員非喫煙者であり、この試験前の4週間に増悪もしくは気道感染は見られなかった。アレルギー皮膚試験は一般的な空気アレルゲンのパネルを用い、膨疹反応が陰性対照と比較して3mm超大きかった場合には、陽性とみなした。肺機能はスパイロメトリーで評価し、気管支の過敏反応性はヒスタミンチャレンジで評価した。喘息は、気管支の過敏反応性(PC20 ヒスタミン<8mg/mLで定義される)の病歴と徴候のあるアトピー患者で診断され、GINAガイドライン(National Heart, Lung and Blood Institute, 1995, Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 96-369)に従ってカテゴリー分けした。健康な対照者はこれまでに肺疾患の病歴がなく、肺機能が正常で、気管支の過敏反応性の徴候はなく、かつアトピーでないものとした。本研究はサザンプトン大学病院倫理委員会(Southampton University Hospital Ethics Committee)の承認を得たものである。被験者の全員から書面によるインフォームドコンセントを得ている。
【0078】
気管支上皮細胞の組織培養
初代BECは、気管支のブラッシング(>95%上皮細胞)(標準的なガイドライン(Hurd, S.Z., 1991, J. Allergy Clin. Immunol. 88:808-814))に従って光ファイバー気管支鏡検査で得た)から増殖させた。正常人のドナーと喘息患者のドナーから単離された円柱細胞と基底細胞の比率には有意差は認められなかった。細胞培養および特徴の検討は以前に報告されていたとおりに行った(Bucchieri, F., J. Lordon, A. Richter, D. Buchanan, R. Djukanovic, S.T. Holgate とD.E. Davis, 2001 Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 27:179-185;Lordan, J.L., F. Bucchieri, A. Richiter, A. Konstantinidis, J.W. Holloway, M. Thornber, S.M. Puddicombe, D. Buchanan, S.J.Wilson, R.Djukanovicら, 2002 J. Immunol. 169:407-414)。培養細胞は全てサイトケラチン陽性で、基底細胞の表現型を示していたが、これはもとのブラッシングを行ったドナーのタイプにかかわらずサイトケラチン13の発現が根拠となっている。初代培養は新たにブラッシングして得たBECを、ホルモンで補充した、50U/mlペニシリンと50μg/mlストレプトマイシンとを含む気管支上皮細胞増殖培地中に蒔くことによって確立した。第2代の継代の時点で、細胞を12ウェルのトレイ上に蒔き、80%コンフルエントとなるまで培養した後(Bucchieriら, 上述の文献)、RV16に暴露した。
【0079】
RVの作製と滴定
既に報告されているとおりにRV16ストックを作製し(Papi, A.とS.L.Johnston, 1999 J. Biol. Chem. 274:9707-9720)、感染したOhio HeLa細胞の培養物から滴定した。細胞は感染の多重度を2として感染させた。感染の確認およびウイルス産生の定量はHeLa滴定アッセイ(Papi, A.とS.L.Johnston, 上述の文献)、および逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-qPCR)で、下記のとおり行った。陰性対照として細胞を培地のみおよびUVで不活化したRV16で処理した(Papi, A.とS.L.Johnston, 上述の文献)。
【0080】
RT-qPCRとELISA
IFN-λ mRNAとRV16ウイルスRNA(vRNA)遺伝子発現のRT-qPCR分析を、TRIzol(Life Technologies)を用いてBECから抽出したDNase処理RNAについて行った。総RNA(1μg)をトリ骨髄芽球症ウイルストランスクリプターゼ(Promega)、ならびにIFN-λ mRNAおよび18S rRNA分析ではランダムヘキサマー、RV16 vRNAについてはオリゴ(dT)15を用いて逆転写した。リアルタイム検出は次のPCRプロトコールを用いてiCyclerIQ 検出システムを使用した:95℃15秒間、60℃1分間、および72℃15秒間を42サイクル。IFN-λシグナルは18S rRNAで標準化し、ΔΔCT法を用いて相対的定量を行った。感染の8時間後に比較を行った。RV16の定量は5' UTRに位置させて行ったTaqManアッセイを標準曲線法と組み合わせて用いて行った。標準曲線は、PCR 2.1 TOPO(Invitrogen)中にクローニングしたRV16 5' NTR cDNAの10倍段階希釈を用いて作成した。RV検出の相対値は最初の細胞数に標準化することによって計算した。プローブ:FAM/TAMRA 6-FAMTGAGTCCTCCGGCCCCTGAATG、フォワードプライマー(RVTM-1) 5'-GTGAAGAGCCSCRTGTGCT-3'、リバースプライマー(RVTM-2) 5'-GCTSCAGGG-TTAAGGTTAGCC-3'。
【0081】
統計学的分析
データが正規分布していた場合には、平均とSDを用い、群間の差はStudentのt検定を用いて分析し、正規分布していなかった場合には、データはノンパラメトリックな等価手法を用いて分析し、中央値とIQRを用いて要約し、多重比較はまずKruskal-Wallis検定で分析し、次いで有意差が見られる場合には、個々の検定により分析した。相関はSpearman検定で分析した。p値が0.05未満のものを有意とみなした。
【0082】
喘息とCOPDの診断
(i)COPDの診断
下記の情報は「Pocket guide to COPD diagnosis, managemrnt and prevention:a guide for health care professionals」と題された出版物からとったものであり、これはwww.goldcopd.comから入手できる。
【0083】
COPDの診断は、特徴的な症状があり、かつこの疾患についての危険因子、特に喫煙に暴露された履歴のある全ての個体で考慮すべきである。
【0084】
COPDの診断を考慮するための重要な指標
・慢性的な咳:断続的もしくは毎日見られる。一日中見られることも多い。夜間のみのことはまれである。
【0085】
・慢性的な痰の喀出:どのようなパターンの慢性的な痰の喀出もCOPDを示している可能性がある。
【0086】
・急性気管支炎:反復的に起こる。
【0087】
・呼吸困難で次の状態であること:進行性(長期増悪)。持続性(毎日起こる)。運動時に増悪。呼吸器感染の間に増悪。
【0088】
・危険因子への暴露歴:喫煙(よく知られた地方製品を含む)。職業環境の粉塵および化学物質。家庭での調理と暖房燃料からの煙。
【0089】
診断はスパイロメトリーで確認すべきである。スパイロメトリーが利用できない場合には、COPDの診断は利用しうる全てのツール用いて行うべきである。臨床症状と徴候(異常な息切れおよび努力呼気時間の増加)は診断の助けとなりうる。ピークフローが低値であることはCOPDでは一貫して見られるが、他の肺疾患でも生じ、また能力不足でも生じうるので、特異性に乏しい。COPDの診断の精度を改善するために、標準化されたスパイロメトリーを行いうるように努力すべきである。
【0090】
スパイロメトリーを行うにあたっては、
・強制肺活量(FVC)、および
・1秒間努力呼気容量(FEV1)
を測定し、FEV1/FVC比を計算する。スパイロメトリーの結果は、そのヒトの性別、年齢、および身長についての適切な正常値を用いて予測される%として表現される。
【0091】
COPD患者は典型的にはFEV1とFEV1/FVCの双方の減少を示す。スパイロメトリー異常の程度は通常はCOPDの重症度を反映する。しかし、各患者について個別化した管理戦略を立てる際には、症状とスパイロメトリーの双方を考慮すべきである。
【0092】
重症度によるCOPDの分類
ステージ0:COPDの危険性−慢性的な咳と痰の喀出;肺機能はまだ正常である。
【0093】
ステージI:軽度のCOPD−軽度の気流の制限(FEV1/FVC<70%だがFEV1≧80%予測)、および通常は、必ずそうであるとは言えないが、慢性的な咳と痰の喀出。
【0094】
・このステージでは、個体は自身の肺機能が異常であることに気がついていないこともある。
【0095】
ステージII:中度のCOPD−気流の制限は増悪し(50%≦FEV1<80%予測)、通常は症状が進行し、典型的には運動によって息切れが起こる。
【0096】
ステージIII:重度のCOPD−気流の制限はさらに悪化し(30%≦FEV1<50%予測)、息切れは増加し、増悪を繰り返して患者の生活の質に影響を与える。
【0097】
・患者の生活の質と予後に影響を与えるような症状の増悪は、特にFEV1<50%予測の患者で認められる。
【0098】
ステージIV:非常に重度のCOPD−重篤な気流の制限(FEV1<30%予測)、またはFEV1<50%予測+慢性的な呼吸不全。これらの合併症がある場合には、FEV1が>30%予測であっても非常に重度のCOPD(ステージIV)である可能性がある。
【0099】
・このステージでは、生活の質にかなりはっきりと影響し、症状の増悪は生命を脅かすものとなりうる。
【0100】
鑑別診断
主たる鑑別診断は喘息である。一部の慢性の喘息患者では、現在の画像検査技術と生理学的試験技術ではCOPDと明確に区別することができない。これらの患者で、現在の取り扱いは喘息患者のものと類似している。他の可能な診断については通常はCOPDと区別することはより容易である。
【0101】
下記は多数の様々な疾患を区別するために用いることのできる示唆的特徴を列記している。これらの特徴はそれぞれの疾患の特徴である傾向はあるが、全ての症例がそうであるわけではない。例えば、喫煙経験のない人でもCOPDを発症しうる(特に発展途上国では、他の危険因子が喫煙より重要なこともありうる);喘息は成人や、老人ですら発症しうる。
【0102】
COPDの鑑別診断
COPD: 中年期に発症する。症状はゆっくりと進行する。
【0103】
喫煙歴が長い。
【0104】
運動時に呼吸困難がある。
【0105】
大部分は不可逆性の気流制限。
【0106】

喘息: 若年層に発症(小児期が多い)。
【0107】
症状は日々異なる。
【0108】
症状は夜間/早朝に起こる。
【0109】
アレルギー、鼻炎、および/もしくは湿疹もある。
【0110】
喘息の家族歴がある。
【0111】
大部分は不可逆性の気流制限。
【0112】

うっ血性心不全: 聴診で基部の捻髪音
胸部X腺では拡張した心臓、肺浮腫が認められる。
【0113】
肺機能検査では肺気量制限(volume restriction)が認められるが、気流制限は認められない。
【0114】

気管支拡張症: 多量の膿痰。
【0115】
一般的には細菌感染に関連する。
【0116】
聴診で水泡/クラビング(clubbing)
胸部X腺/CTで気管支拡張、気管支壁肥厚が認められる。
【0117】

結核: 全年齢層で発症。
【0118】
胸部X腺では肺浸潤、または結節性病変が認められる。
【0119】
微生物学検査で確認される。
【0120】
結核の高い局所的な有病率。
【0121】
(ii)喘息の診断
下記の情報は「Pocket guide for asthma prevention and management」と題された出版物からとったものであり、これはwww.ginasthma.comから入手できる。
【0122】
喘息は症状に基づいて診断することができることが多い。しかし、肺機能の測定、特に肺機能異常の可逆性の測定を行えば、診断の確実性が大いに向上する。
【0123】
これは喘息か?
次の徴候または症状のいずれかがあれば喘息を考慮する。
【0124】
・喘鳴-息を吐くときの高ピッチの笛声音、特に小児に見られる(胸部検査が正常であっても喘息は排除できない)
・次の病歴のいずれか:
咳、特に夜間に増悪
反復性の喘鳴
反復性の呼吸困難
反復性の胸部圧迫感
(注記:湿疹、枯草熱、または喘息もしくはアトピー性疾患の家族歴は喘息に関連することが多い。)
・症状が夜間に起こるかまたは増悪し、患者が目覚める。
【0125】
・症状は次のものがあると起こるかまたは増悪する:
柔毛を持った動物
運動
エアロゾル化学物質
花粉
気温の変化
呼吸器の(ウイルス)感染
イエダニ

薬剤(アスピリン、β-ブロッカー)
強い感情的表現
・可逆的および可変性の気流制限−スパイロメーター(FEV1およびFVC)または最大呼気流量(PEF)計を用いて測定される。ピークフローメーターを用いる場合には、次の場合に喘息を考慮する:
−PEFは即効型β2-アゴニストの吸入の15から20分後に15%超増加する、または
−気管支拡張剤を服用している患者では朝の起床時の測定から12時間後の測定ではPEFの値が20%超変化する(気管支拡張剤を服用していない患者では10%超)、または
−6分間の持続的ランニングまたは運動後ではPEFは15%超減少する。
【0126】
ピークフローメーター:使用と技術
・肺機能測定は気流制限を評価し、喘息の経過を診断及びモニターする助けとなる。
【0127】
・気流制限のレベルを評価するために、2つの方法が用いられている。ピークフローメーターは最大呼気流量(PEF)を測定し、スパイロメーターは1秒間努力呼気容量(FEV1)と、それに付随する努力肺活量(FVC)を測定する。全ての肺機能測定の正確性は患者の努力と正しい技術に依存している。
【0128】
・数種類のピークフローメーターとスパイロメーターが入手可能であり、その使用技術は全て類似している。ピークフローメーターの使い方:
−立ち上がり、マーカーの動きを制限することなくピークフローメーターを掴む。マーカーが目盛りの一番下にあることを確認する。
【0129】
−深く息を吸い、ピークフローメーターを口に当て、マウスピースのまわりの唇を閉じ、できる限り強くかつ早く息を吐き出す。舌をマウスピース内に置かないこと。
【0130】
−結果を記録する。マーカーをゼロに戻す。
【0131】
−さらに2回繰り返す。3回の読み出しのうち最も高いものを選ぶ。
【0132】
・2から3週間、毎日PEFをモニタリングすることは、これが利用可能である際には、診断と治療とを確立するために有用である。2から3週間の間に患者が予測PEFの80%を達成できないならば(予測値は全てのピークフローメーターに付属している)、患者の自己最高値を、例えば経口グルココルチコステロイドを用いることによって測定する必要があるかもしれない。
【0133】
・症状を観察しつつ長期間のPEFモニタリングを行うことは、患者の治療に対する応答を評価するために有用である。PEFモニタリングは症状が生じる前に増悪の初期徴候を検出する助けともなりうる。
【0134】
注記:入手しうるピークフローメーターの例、および吸入器とスペーサーの使用のための説明についてはwww.ginasthma.orgで見ることができる。
【0135】
下記の事項を含む診断の診断上の課題
・初発症状が反復性もしくは持続性の咳であるかまたは呼吸器感染を伴う喘鳴のある年少の小児では、気管支炎か肺炎(急性呼吸器感染−ARIを含む)であると誤診されることが多く、そのため抗生物質や鎮咳剤で効果的でない治療を受けることとなる。喘息薬物治療による治療は有益でかつ診断ともなりうる。
【0136】
・呼吸器のウイルス感染を伴う喘鳴を示す多数の幼児と年少の小児は、小児期を通じて持続する喘息を発症しないかもしれない。しかしこれらの患者は喘鳴発作のための喘息薬物治療の利益を享受し得る。どの小児が持続性の喘息となるのか予測する確かな方法はないが、アレルギー、アレルギーまたは喘息の家族歴、および周産期に受動喫煙やアレルゲンに暴露されたことは、喘息の持続により強く関わっている。
【0137】
・患者の感冒が繰り返し「胸部に至る」かまたは完治に11日以上かかる場合、または患者が喘息薬物療法を受けると改善する場合には、喘息を考慮すべきである。
【0138】
・喫煙者と高齢の患者は慢性閉塞性肺疾患(COPD)に罹患することが多く、その症状は喘息と類似している。しかし、これらの患者は喘息を有し、治療の利益を享受し得る。喘息治療後にPEFの改善があれば喘息の診断となる。
【0139】
・作業場所で化学物質またはアレルゲンを吸入する状態に曝されている作業者は喘息を発症する可能性があり、慢性気管支炎または慢性閉塞性肺疾患と誤診される可能性がある。早期発見(仕事場および家庭でのPEF測定)、さらに暴露されることを厳重に避けること、ならびに早期治療が必須である。
【0140】
・喘息発作は診断が困難なことがある。例えば、急性の息切れ、胸部圧迫感、および喘鳴は、クループ、気管支炎、心臓発作、および声帯機能不全によっても起こりうる。スパイロメトリーを用いて、気管支拡張剤での症状の逆行性を確かめ、発作歴を評価すること(例えば、一般的に喘息を増悪させるようなことへの暴露と発作とが関連していたか否か)は診断の助けとなる。胸部X腺は感染、大きな気道の病変、うっ血性心不全、または異物の吸入を除外する助けとなる。
【0141】
実施例3:呼吸器のウイルス感染後の上皮細胞およびPBMC中でのインターフェロン-α、インターフェロン-β、およびインターフェロン-λの発現
この研究では、BEAS-2B、ヒト気管支上皮細胞(HEBC)、およびPBMC(マクロファージのモデルとして)などの様々な細胞のタイプの、呼吸器系ウイルス感染の際に様々なI型およびIII型インターフェロンを発現し、産生する可能性を調べた。プライマーとプローブのセットは様々なI型とIII型インターフェロンの定量的PCR用として設計されたものであった。BEAS-2B細胞中ではIFN-α mRNA発現の誘導は0時点から8時間まで検出し、IL-29 mRNAの誘導は0時点から8時間まで検出し(ピークは24時間目)、IFN-βの誘導は0時点から24時間まで検出した。ELISAでも、IL-29とIFN-βタンパク質の産生は24時間まで観察した。HEBCではIFNα mRNA発現の誘導は0時点から8時間まで検出し、IL-29 mRNAの誘導は0時点から24時間まで検出した。PBMCではIFNα、IL-29、およびIFNβのmRNA発現の誘導は0時点から8時間まで立証された。さらにELISAでもIFN-α、IFN-β、およびIL-29タンパク質の誘導が示された。
【0142】
ライノウイルスに関しての追加情報
ライノウイルスは小さなRNAウイルスである。ライノウイルスはピコルナウイルス科に属している。100を超えるライノウイルスの血清型が同定されている。ライノウイルスは、結合する受容体のタイプによって2群に分けられている。全てのRV血清型の約90%を占める主要な群はICAM-1分子を用い、全てのRV血清型の約10%を占める少数の群は低密度リポタンパク質受容体を用いる(N.G. Papadopoulos, S.L.Johnston:「Rhinovirus. Principles and practice of clinical virology」第5版, 2004, 361-377)。
【0143】
最近の研究では、喘息の個体は自然に起こるライノウイルス(RV)感染に正常人よりもかかりやすく、下部呼吸管症状およびPEFの変化が正常人よりも重症でより長期にわたることを示している(Corneら, Lancet (2002) 359, 831-834)。従って、重要な疑問は、喘息患者では正常人と比較してRV感染の間に下気道でどのような相異が生じ、喘息の増悪をもたらすのか、という点である。
【0144】
喘息患者ではRVはより重症な下気道症状を誘導するが、これはより高濃度の炎症細胞を伴うことが示されている:BAL RV感染におけるリンパ球、NK細胞、好酸球、および好中球は気管支上皮における炎症反応(IL-6、IL-8、RANTES、IL-16、およびICAM-1のアップレギュレーション)を誘導する(N.G.Papadopoulos, P.J.Bates, P.G.Bardinら, J. Infect. Dis., 181 (2000), pp.1875-1884;S.L.Johnston, A.Papi, P.J.Bates, J.G.Mastronarde, M.M.MonickとG.W.Hunninghake, J. Immunol. 160 (1998), pp6172-6181)。RVにex vivoで暴露させた喘息患者のPBMCは、正常人と比較して1型サイトカインレベルの低下と2型サイトカインレベルの増加を示した(Papadopoulosら, Thorax 57 (2002))。
【0145】
さらに、既に述べたとおり、ex vivoでRVに暴露させた喘息患者由来の初代気管支上皮細胞では正常細胞と比較してIFN-βのレベルが減少していることが最近になって観察された(Warkら, J. Exp. Med. (21st March 2005) 201, 937-947)。
【0146】
またこれも上述したとおり、IFN-α、IFN-βなどのI型インターフェロン、およびより最近になって発見されたIII型インターフェロン(IFN-λ)は、ウイルスに対する先天性の免疫応答において不可欠な役割を果たしている。これらのインターフェロンはIFNによって誘導可能な、抗ウイルス作用を有する多数の遺伝子を誘導し、最近明らかになったとおり、ウイルスに感染した細胞のアポトーシスを誘導する(Takaoka, A., Hirakawa, S., Yanai, H.ら, Nature 2003;424(6948):516-523)。
【0147】
ライノウイルス感染の小動物のモデルはないので、ライノウイルスに感染する適切な細胞培養を用いることは非常に重要である。ライノウイルスは下気道の気管支上皮細胞に感染し、複製することが知られている(N.G.Papadopoulosら, J. Med. Virol. 58(1999), pp.100-104)。上皮細胞中でのI型およびIII型インターフェロンの誘導についてはあまりよく知られていないので、この研究では、初代気管支上皮細胞、BEAS-2B、およびPBMC(マクロファージのモデルとして)などの様々な細胞タイプが、呼吸器の様々なウイルス感染に際してどのように様々なI型およびIII型インターフェロンを発現し、産生するのか示すことを試みた。
【0148】
材料と方法
ヒト気管支上皮細胞組織培養
ヒト気管支上皮細胞(HBEC)はCambrex, USAから購入した。初代培養は、気管支上皮細胞を、ホルモンで補充した、2mL BPE、0.5ml インスリン、HC 0.5ml、GA-1000 0.5ml、レチノイン酸 0.5ml、トランスフェリン0.5ml、トリヨードサイロニン 0.5ml、エピネフリン 0.5ml、hEGF 0.5ml(Cambrex, USA)を含む気管支上皮増殖培地(BEBM;Cambrex, USA)中に蒔いて確立した。1代目の継代時に細胞を12ウェルのトレイ上に蒔き、80%コンフルエントとなるまで培養した後(Bucchieriら, Asthmatic bronchil epithelium is more susceptible to oxidant-induced apoptosis, Amk. J. Respir. Cell Mol. Biol. 27, 179)、RV-16、RV-1B、およびインフルエンザウイルスに暴露した。
【0149】
細胞とウイルスの培養
ヒト気管支上皮細胞株BEAS-2Bを10% FCS(Invitrogen)で補充したRPMI-1640で培養した。RVの血清型16および1BはHeLa細胞中で増殖させ、既に報告されているとおりに調製した(PapiとJohnston(1999)「Rhinovirus infection induces expression of its own receptor intercellular adhesion molecule-1(ISAM-1) via increased NF-κB-mediated transcription」 J. Biol. Chem. 274, 9707-9720)。ウイルスはHeLa細胞で滴定してTCID50/mlを確認した(JohnstonとTyrell(1995), Rhinoviruses, p.253-263, 「In Diagnostic procedures for viral, rickettsial and chlamydial infections」, LennetteとSchmidt編, American Public Health Association, Washington, D.C.)。RVの同定は全てHeLa細胞での滴定と血清型特異的抗体を用いた中和試験とで確認した。UVでの不活化は既に報告されているとおりに行い(Johnstonら, (1998) 「Low grade rhinovirus infection induces a prolonged release of IL-8 in pulmonary epithelium」 J. Immunol. 160, 6172-6181)、RVストックを30kDa膜(Millipore)を10000gで5分間通過させることによってろ過済のウイルスを作製した。
【0150】
RVによる細胞の感染
BEAS-2B細胞を12ウェルの組織培養プレート(Nalge Nunc)中で24時間培養した後、さらに24時間、2% FCS RPMI培地中に置いた。細胞をRVに、室温で振盪しながら1時間かけて感染させた後、ウイルスを除去し、1mlの2%FCS RPMI培地で置き換えた。細胞の上清とRNA溶解物を指定された時間に回収した。上清および融解物を試験するまで−80℃で保管した。
【0151】
PBMC分離とライノウイルス16感染
PBMCを全血から密度勾配遠心分離(Sigma)を用いて分離した。4x106個の細胞/2mlをライノウイルス16に1時間暴露した。暴露時間の終了時に細胞を洗浄し培地を交換した。
【0152】
RNAの抽出、逆転写、およびTaqMan(登録商標)リアルタイムPCR
RNAはRNeasy法を、任意の汚染性DNAのDNase I消化を含め、製造者(Qiagen)の使用説明書に従って用いて細胞から抽出した。cDNAはOmniscript RTと成分とを製造者(Qiagen)の説明のとおりに用いて合成した。
【0153】
プライマーはInvitrogenから購入し、プローブはQiagenから購入した。インターフェロン-α、IL-29、およびIFNΒ mRNAのTaqMan(登録商標)分析は、18s rRNAに関して標準化した。インターフェロン-αの1、6、および13型の検出には、IFN-α.1のプライマーセットとプローブとを用いた(IFNα.1フォワード-5'-CAG AGT CAC CCA TCT CAG CA-3'、IFNα.1リバース-5'-CAC CAC CAG GAC CAT CAG TA-3'、ならびに5'-FAM-TAMRA標識プローブ-5'-ATC TGC AAT ATC TAC GAT GGC CTC gCC-3')。インターフェロン-αの2、4、5、8、10、14、17、21型の検出には、IFNα.2のプライマーセットとプローブとを用いた(IFNα.2フォワード-5'-CTG GCA CAA ATG GGA AGA AT-3'、IFNα.2リバース-5'-CTT GAG CCT TCT GGA ACT GG-3'、ならびに5'-FAM-TAMRA標識プローブ-5'-TTT CTC CTG CCT GAA GGA CAG ACA Tga-3')。IL-29の検出には、フォワードプライマー-5'-GGA CGC CTT GGA AGA GTC ACT-3'、リバースプライマー-5'-AGA AGC CTC AGG TCC CAA TTC-3'、ならびに5'-FAM-TAMRA標識プローブ-5'-AGT TGC AGC TCT CCT GTC TTC CCC G-3'を用いた。インターフェロン-βの検出には、フォワードプライマー-5'-CGC CGC ATT GAC CAT CTA-3'、リバースプライマー-5'-GAC ATT AGC CAG GAG GTT CTC A-3'、ならびに5'-FAM-TAMRA標識プローブ-5'-TCA GAC AAG ATT CAT CTA GCA CTG GCT GGA-3'を用いた。18sについては、各反応に18STM.1(CGC CGC TAG AGG TGA AAT TCT)、18STM.2(CAT TCT TGG CAA ATG CTT TCG)、5'-FAM-TAMRA 標識プローブ(5'-ACC GGC GCA AGA CGG ACC AGA)、および1xQuantitect Probe PCR Master Mix (Qiagen)中に1/100に希釈した2μlのcDNAを入れた。これらの反応はABI7000 Automated TaqMan(Applied Biosystems)を用いて分析した。増幅サイクルは50℃2分間、94℃10分間、ならびに40サイクルの94℃15秒間、60℃15秒間からなる。
【0154】
IFN-α、IL-29、およびIFN-βの放出を評価するための酵素結合イムノソルベントアッセイ
収集して−80℃で保管していた未処理の及び感染した細胞培養物由来の上清中のインターフェロン-α、インターフェロン-β、およびIL-29のタンパク質を、市販の抗体と標準のペアを製造者の使用説明書に従って用いてELISAで定量した。Amersham BiosciencesのHigh Sensitivity Interferon-α Human Biotrak ELISA Systemをインターフェロン-α用に使用した。Human Interferon−β ELISAキットはFujirebio Inc.から購入した。測定は全て製造者の使用説明書に従って行った。報告されているアッセイの検出限界はインターフェロン-αについては0.63 pg/ml、インターフェロン-βについては2.5 IU/ml、IL-29については0.01であった。
【0155】
IFN-λについての定量的ELISA
ELISA 96ウェルプレート(Nunc Maxisorp)を検出用抗体でコーティングし(PBSで1μg/mlの濃度に希釈したモノクローナル抗ヒトIL-29/IFN-λ1抗体(R&D SystemカタログNo.MAB15981)を1ウェルあたり100μl)、室温で一晩放置した。翌朝、プレートを0.1%のTween 20を含むPBS中で2回洗った後、1ウェルあたり220μlの2% BSA溶液を用いて室温でブロックした。2時間後にプレートを2回洗い、ウェルに100μLの希釈していないサンプルおよび100μLの標準サンプルを添加した。サンプルと標準は双方とも2回試験した。標準は、R&D Systemから入手した組換えヒトIL-29/IFN-λ1を用いて希釈バッファー(1% BSAおよび0.1% Tween 20を含むPBS)中に、3ng/mlから約10 pg/mlまでのものを準備した。同じウェルに陰性対照として100μlの希釈バッファーを添加した。2時間後にプレートを2回洗い、100μlの2次抗体を添加した(R&D systemのカタログNo.AF1598の抗ヒトIL-29/IFN-λ1抗体をPBS中で再構成し、希釈バッファーで1μg/mlに希釈した)。製造者の使用説明書によれば、これらの抗体のIFN-λ2およびIFN-λ3との交差反応性はモノクローナル抗体で5%、ポリクローナル抗体で25%である。2時間後にプレートを洗い、希釈バッファーで1/5000に希釈したビオチン化抗体(Autogen BioclearカタログNo.ABN022B)100μlを各ウェルに2時間で添加した。プレートを2回洗い、希釈バッファーで1/5000に希釈したストレプトアビジン-HRPコンジュゲート100μlを各ウェルに15分間で添加した。プレートを3回洗い、100μLのTMB基質溶液を添加し、反応を1.8 MのH2SO4溶液50μLを用いて停止させた。
【0156】
統計学的解析
データは平均±SEMで示している。全データは一要因ANOVAとBonferroniの多重比較(post hoc)検定を用いて分析した。p<0.05の場合にデータに有意差があるものとした。
【0157】
結果
BEAS-2B細胞中でのI型およびIII型インターフェロンmRNA発現の時間経過
RV16によるBEAS-2B細胞の経時的な感染の間、I型およびIII型インターフェロンの発現をTaqMan PCRで調べた。様々なインターフェロン-αのサブタイプの検出には、2ペアのTaqMan PCRプライマーおよびプローブを選択した。第1のプライマーとプローブのセットはサブタイプ1、6、および13を検出し、第2のプライマーとプローブのセットはサブタイプ4、5、8、10、14、17、21を検出する。IL-29(IFN-λ)とインターフェロン-βの検出用のプライマーとプローブのセットも設計した。図23aはIFNα.1で検出されるI型インターフェロンの発現を示すが、ライノウイルス16によるこれらのI型インターフェロンmRNAの有意な誘導は示していない。IFNα.2を用いると、培地と比較して統計学的に有意なI型インターフェロン発現の増加が0時間の時点と比較して8時間目に生じていた。0、4、および24時間の時点では、誘導は認められなかった。IL-29 mRNAの発現も8時間目の時点で統計学的に有意な増加し、24時間目にはさらに高い誘導が検出された(p<0.05、図23b)。インターフェロン-βmRNAの発現はライノウイルス16によって24時間目の時点のみで誘導された(p<0.05)。培地に対して1000倍の誘導が検出された。この結果は全て、0時間の時点から統計学的に有意(p<0.05)であった。
【0158】
RVに感染したBEAS-2B細胞中のインターフェロン-α、インターフェロン-β、およびIL-29タンパク質の検出
BEAS-2B細胞ではライノウイルス16に感染している間、インターフェロン-αタンパク質の有意な誘導は検出されなかった。約0.3〜0.5 pg/mlの痕跡量のIFN-αタンパク質がELISAで検出されたにすぎない(ELISAの検出範囲は0.63〜20pg/ml)。IFN-βタンパク質産生の誘導は24時間目に観察された(図23c)。IFN-βタンパク質産生のレベルはライノウイルス16に感染させたBEAS-2B細胞では感染していない細胞と比較して統計的に有意に増加した(p<0.05)。ライノウイルス16に感染させたBEAS-2B細胞では、高レベルのIL-29タンパク質を24時間目に産生していた(p<0.05)(図23d)。
【0159】
ライノウイルス16感染の間の初代気管支上皮細胞中でのI型およびIII型インターフェロンmRNA発現の時間経過
ライノウイルス16に感染している間のIFN-α、IFN-β、およびIL-29のmRNA発現を0、4、8および24時間の時間経過時点で評価した。IFNα.1プライマーペアで検出されたインターフェロン-αは全ての時点で発現されていたが、ライノウイルス16によるアップレギュレーションは全く見られなかった。IFNα.2を用いると、4時間目では誘導が見られず、8時間目では培地に対して10000倍強い統計学的に有意な誘導が認められ(p<0.05)、これは24時間目でも高値のままであった(図24a)。IL-29 mRNAでは、4時間目および8時間目でわずかな誘導が見られ、ピークは24時間目で培地に対して1000000倍の誘導が見られた(p<0.05)。インターフェロン-βは、0、4、および8時間の時点では誘導は認められなかったが、8時間目および24時間目ではライノウイルス16によって誘導され、これは培地よりも100000倍強い誘導であった(図24b)。
【0160】
ライノウイルス1B感染の間のヒト気管支上皮細胞中でのI型およびIII型インターフェロンmRNA発現の時間経過
さらに、ライノウイルス1Bに感染している間のインターフェロン-α、インターフェロン-β、およびIL-29のmRNA発現を、0、4、8および24時間の時間経過時点で観察した。IFNα.1プライマーペアで検出されるインターフェロン-αは全ての時点で発現されたが、ライノウイルス1Bでの誘導は見られなかった。第2のプライマーペアであるIFNα.2によって検出されるインターフェロン-αのmRNAは、0時間および4時間目の時点ではライノウイルス1Bにより誘導されなかったが、8時間目および24時間目の時点ではピークであった(培地に対して10000倍の誘導)。これらの結果は、統計学的に有意であった(p<0.05)(図25a)。IL-29 mRNAは0および4時間でライノウイルス1Bによって誘導されなかった。しかし、8時間目ではいくらかの誘導が見られ(培地に対して1000倍の誘導)、24時間目では非常に高いレベルの誘導が検出された(培地に対して1000000倍の誘導)(p<0.05)。インターフェロン-βについては4時間目では誘導は観察されず、8時間目では培地に対して100倍の誘導が見られ(統計的に有意でない)、ピークは24時間目であった(培地に対して100000倍の誘導)(p<0.05)(図25b)。
【0161】
インフルエンザウイルス感染の間のヒト気管支上皮細胞中でのI型およびIII型インターフェロンmRNA発現の時間経過
インフルエンザウイルスに感染している間のIFN-α、IFN-β、およびIL-29のmRNA発現を、0、4、8および24時間の時間経過時点で観察した。IFNα.1プライマーペアで検出されるインターフェロン-αは全ての時点で発現されていたが、インフルエンザウイルスによる誘導は見られなかった。IFNα.2によって検出されるインターフェロン-αは0時間および4時間目ではアップレギュレートされていなかった。8時間目でわずか10倍の誘導が観察され、24時間目では100倍の誘導であった(図26a)。IL-29はインフルエンザウイルスによって4時間および8時間の時点で誘導され(培地に対して1000倍の誘導)、これは24時間の時点でピークとなった(培地に対して1000000倍の誘導)。IFN-β mRNAの誘導は4時間および8時間の時点では認められなかった。しかし、8時間目に100倍の誘導が検出され、24時間目でピークとなった(培地に対して105倍の誘導)(図26b)。
【0162】
HBEC細胞中でのインターフェロン-α、インターフェロン-β、およびIL-29タンパク質の検出
ライノウイルス16、1B、およびインフルエンザウイルスに感染させたHBEC細胞中では、インターフェロン-α、インターフェロン-β、およびIL-29の産生は検出されなかった。
【0163】
考察
前述のとおり、第1のプライマーペアによって検出されるインターフェロン-α型(1、6、および13型)の発現は、使用した全ての呼吸器系ウイルスにより、いずれの上皮細胞培養物(BEAS-2BおよびHEBC)でも検出された。しかし、興味深いことに、これらのインターフェロン型のアップレギュレーションは見られなかった。従って、おそらくは、これらのインターフェロン-α型は上皮細胞培養中で構成的に発現されており、用いた呼吸器系ウイルスによって誘導されたものではない。また、ELISAのデータによれば、これらのインターフェロン-α型はいずれも上皮細胞株によって産生されない。
【0164】
第2のプライマーペアによるインターフェロン-α(2、4、5、8、10、14、17、21型)の検出レベルは全く異なっている。上皮細胞株で感染後8時間目に誘導されることが最も多い。このプライマーペアはインターフェロン-α4型を検出するが、それがこの誘導の理由であろう。しかし、タンパク質は上皮細胞で産生されないという筋書きは同じである。
【0165】
また、HBECにおいて、第2のプライマーペアによって検出されるインターフェロン-αの誘導のレベルが、細胞をライノウイルス16および1Bで感染させた場合よりも細胞をインフルエンザウイルスで感染させた場合の方が低いことも興味深い。このことは、インフルエンザウイルスが上皮細胞におけるインターフェロン-αの誘導をダウンレギュレートすることを示している。
【0166】
従って、インターフェロン-αは呼吸器系ウイルスの感染後、発現され、誘導されるが、上皮細胞内では産生されない。
【0167】
この研究では、用いた呼吸器系ウイルスによるインターフェロン-βの誘導はIFNα.2インターフェロン-αの誘導よりも遅かった。
【0168】
興味深いことに、種々の上皮細胞株においてインターフェロン-βの産生は異なっている。BEAS-2B細胞中では、インターフェロン-βはライノウイルス感染に対して24時間目では産生されるが、HBEC中ではライノウイルス16、ライノウイルス1B、およびインフルエンザウイルスのいずれの感染後でもインターフェロン-βは産生されない。
【0169】
IL-29 mRNAはいずれの上皮細胞株でも8時間目および24時間目に誘導されている。
【0170】
上皮細胞では、IFNα.1型のインターフェロン-αのmRNAは発現されるが、誘導も産生もされない。IFNα.2型のインターフェロン-α(インターフェロン-α4を含む)のmRNAは調査した上皮細胞中で様々なライノウイルスによって誘導されるが、インターフェロン-αは上皮細胞株によって産生されない。
【0171】
このように、上皮細胞ではI型およびIII型インターフェロンの動態に差異が見られる。BEAS-2B細胞ではライノウイルス16感染の間、インターフェロン-αは8時間目には発現され、その後低下する。一方、インターフェロン-βは24時間の時点でのみピークとなる。BEAS-2B細胞内でのIL-29 mRNAは8時間の時点で上昇し始め、24時間の時点ではさらに高値となる。
【0172】
ライノウイルス16に感染したHBEC中ではインターフェロン-αは8時間目までにアップレギュレートされ、24時間の時点まで同じ状態を保つ。インターフェロン-βはIL-29と同様に24時間目までにアップレギュレートされる。
【0173】
ライノウイルス1Bに感染したHBECは、I型およびIII型のインターフェロンの発現に関しては同じ動態である。これらは同じ時点でアップレギュレートされ、これはライノウイルスによるアップレギュレーションの動態がライノウイルスのタイプによって変わるものではないことを示しており、おそらくはI型とIII型が同じ誘導経路を有していることを示している。
【0174】
インフルエンザウイルスによるI型およびIII型インターフェロンの誘導のレベルはライノウイルスの場合と比較すると低いが、ほぼ同じ動態を示す:インターフェロン-αも8および24時間目には上昇し、インターフェロン-βとIL-29は24時間目の時点でピークを示す。これもライノウイルス感染で得られたデータと変わらない。
【0175】
UV−データ
上皮細胞内でインターフェロン-αが発現されることは既に示されている。さらに、インターフェロン-αのいくつかは種々の呼吸器系ウイルスによって誘導される。しかし今回調べた呼吸器上皮細胞培養のいずれにおいても、インターフェロン-αは産生されなかった。インターフェロン-αは、抗ウイルス性を有する何百ものインターフェロン誘導性遺伝子を誘導するので、極めて重要な抗ウイルス因子である。一部の上皮細胞株は特定の条件と刺激下でインターフェロン-αを産生することができるが、呼吸器上皮はインターフェロン-αを産生することができないか、または呼吸器系ウイルスは呼吸器上皮におけるインターフェロン-α産生の強力な誘導因子ではないと思われる。また、呼吸器系ウイルス感染の間の最も重要なインターフェロン-αの誘導因子は形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells)(Cella, M., D.Jarrossay, F.Faccetti, O.Alebardi, H. Nakajima, A. Lanzavecchia、とM.Colonna, 1999「Plasmacytoid monocytes migrte to inflamed lymph nodes and produce large amounts of type I interferon」 Nat. Med. 5:919-923)およびマクロファージと考えられる。
【0176】
興味深いことに、インターフェロン-βはBEAS-2Bなどのいくつかの上皮細胞株では誘導され、産生される。
【0177】
同じことがIL-29でも観察されたが、このIII型インターフェロンの誘導は、I型インターフェロンの誘導よりも早期で、より高いレベルで、またより持続性であった。
【0178】
実施例4:追加の実験処理
本発明者らは下記に、本明細書に提示したデータを得るために使用した追加の実験処理を示す。
【0179】
実験設計および技術の概略
RV16血清陰性の喘息患者と正常人被験者で実験的にRV16感染を誘導した。ベースライン、感染急性期、および回復期(6週間)の、血液、鼻、痰、および気管支肺胞のサンプリングを行って、ベースラインでの状態、疾病の急性段階、および持続の程度を調べた。17例の正常でアトピー性でない成人、および11例のアトピー性で軽度の喘息のある成人を募集した。臨床状態およびアトピーの状態はアンケート、皮膚プリック試験、血清IgE値、およびヒスタミンPC20を含む肺機能検査によって規定した。喘息患者群はヒスタミンPC20<8 mg/ml、正常群は>8 mg/mlであることを要した。吸入/経口ステロイドを摂取している個体は除外した。被験者はこの研究開始前6週間に一般的な感冒の症状を示していなかった。サンプルは以前の研究で開発された確立されたプロトコールに従って採取した。サンプルとしては、血液、鼻洗浄物(NL)、気管支肺胞洗浄物(BAL)を含んだ。ベースラインのサンプルは感染の2週間前に採取した。0日目に接種した後、ボランティアは3日目、4日目、および7日目(感冒症状のピーク時)に往診し、さらにサンプル採取と肺機能検査を受けた。また、ボランティアは0日目(接種前)から8日目まで毎日、そして11日目に、ウイルスロードを測定するためのNL採取を受けた。6週間目に第3セットのサンプリングと肺機能検査を行った。
【0180】
RV16による実験的感染
実験的ウイルス感染のためのプロトコールはこれまでの研究で報告されている(Bardinら, (1996) Duropean Respitatory Journal 9. 2250-2255;Fraenkelら, (1995) Am. J. Respir. & Crit. Care Med., 15,879-886;Bardinら, (1994) Clin.Exp.Allergy 24, 457-464)。RV接種原の調製と安全性試験の詳細は公表されている(Bardinら(1996), 上述の文献)。実験的感染は0日目に10000 TCID50のRV16を用いて、Devillbiss 286アトマイザーを備えた鼻腔にスプレーによって誘導した。500μl(2500 TCID50)の2アリコートを、各鼻孔に噴霧した。接種は診察日の最後に、特別な診察室で行った。この試験の間にRV以外の感染の危険性を最小限とするために、被験者は呼吸器感染のある人との接触を避けた。感染はRVについてHeLa細胞中でNLを培養するか、または血清学的に陽性であることによって確認した。RNAはNLおよびBALの細胞ペレットから抽出し、RVについてPCRで分析した。ウイルスRNAの定量にはTaqMan PCRを用いた。RVの別の血清型のものを含む別の呼吸器系ウイルスの同時感染は、他のウイルスについてのPCR、およびRV特異的抗血清を用いて培養ライノウイルスの中和を行うことによって除外した。
【0181】
RV16感染のウイルス学的確認の基準
実験的RV16感染が成功したか否かは、次のウイルス学的試験のうちの少なくとも1つで確認した:上気道サンプル(鼻洗浄物)および/もしくは下気道サンプル(喀痰、気管支肺胞洗浄物を含む)からRVについて陽性標準またはTaqMan RT-PCR;接種6週間後のRV16に対する血清中和抗体の少なくとも4倍の上昇(ベースラインで血清陰性であった本研究の被験者の場合には少なくとも1:4の力価で十分であるとみなした);鼻洗浄物から得たRVのHeLa細胞中での陽性培養物(滴定アッセイで測定するとき十分な濃度が得られるようにウイルスの継代を反復した後、モルモット特異的RV16抗血清による中和によってHeLa細胞単層に対する明らかなRV細胞変性効果を有する)。標準的なピコルナウイルスRT-PCRを、TaqMan RT-PCRで調べたウイルスロードがピークとなった日に採取した鼻洗浄物について行った。次いで制限酵素による分析を行ってRVがピコルナウイルス陽性のものであってエンテロウイルスではないことを確認した。同様に、TaqManの結果に基づいてピーク日の鼻洗浄物を用いてウイルス培養を行った。
【0182】
臨床データの収集
被験者は、初期スクリーニング段階の間およびベースラインから感冒と胸部症状のスコアを毎日記録した。すなわち、前記記録は、ベールラインの気管支鏡検査の2週間前から開始して回復期まで、すなわち実験的RV16感染の6週後に行った回復期気管支鏡検査後に終了した。症状のスコアに加えて、被験者は服用のタイミング及び量(必要な吸入気管支拡張剤)を記録した。肺機能は2つの方法で評価した。第1に、被験者は家庭でポータブルのハンドヘルドスパイロメーターを用いて1日2回、朝起床直後に及び夜寝る直前にスパイロメトリーを行った。第2に、ヒスタミンPC20試験を用い、スクリーニング時、ベースライン時、接種後6日目、および回復期の気管支過剰反応性を調べた。
【0183】
症状スコア/薬剤使用/スパイロメトリーの記録のための日記カード
アンケートによる症状の評価は、感染の前の2週間、感染中、および感染後6週間行った。感冒スコアは以前の一般的な感冒研究に基づいたものである(Jacksonら (1958), Arch. Int. Med. 1-1:267-278)。症状(くしゃみ、頭痛、倦怠感、悪寒、鼻汁、鼻閉塞、喉の痛み、咳、発熱)は0-3にグレード化した。臨床上の感冒を6日間にわたる最小累積スコア14(>20=重症の感冒)+感冒または鼻漏の主観的印象によって規定した。胸部でスコアをつけた症状は次のものが挙げられる:起床時の咳、起床時のくしゃみ、日中の咳;日中のくしゃみ;日中の息切れ;夜間の咳、くしゃみ、もしくは息切れ。
【0184】
臨床症状スコアの分析
臨床データの分析を容易にするために、実験的感染のプロトコールを別個のステージに分けた。個々の症状および全体感冒もしくは胸部スコアに関する毎日スコアの計算に加えて、2週間スコアを計算して、症状に及ぼすRV感染の影響を統計学的に分析できるようにした。2週間ステージを調べることとしたが、これはRV接種後過剰症が2週間まで続いたからである。ベースライン前、すなわちスクリーニングステージは、ベースラインステージの開始までの2週間とし、回復期前ステージは回復期気管支鏡検査の直前の2週間とした。これらの2つのステージのいずれも気管支鏡検査を含まなかった。ベースラインステージ、感染急性ステージ、および回復期ステージは全てそれらの2週間のブロックの第4日目に気管支鏡検査を行った。症状に及ぼすRV16感染の影響を調べるために、毎日および2週間の過剰症スコアを、実施中の気管支鏡検査(それ自体が感冒や胸部症状及び肺機能の一時的な変化をもたらし得る)の影響を補正するために、感染急性ステージの対応する日数からベースラインステージの間に得たスコアを差し引くことによって計算した。
【0185】
肺機能検査
肺機能検査はBTS/ARTPガイドライン(著者不明 「Guidelines for the measurement of respiratory function. Recommendations of British Thoracic Society and the Association of Resperatory Techniciants and Physiologists」 Respiratory Medicine 88:165-194)に従って行った。被験者は家庭でポータブルスパイロメーターであるmicroDL(MicroMedical)を朝晩使用した。データはSpidaソフトウェアを用いて分析した。肺機能試験室で、および気管支拡張剤の可逆性、痰の誘発、およびヒスタミンチャレンジのために、被験者はVitalograph Dry Wedge Bellows Spirometerを用いた。実験的感染の間に2群の変化の比較を容易にするために、まず始めにスクリーニングステージの間に得られた平均値からのFEV1の変化の%を、RV16接種後の数日で各被験者について計算し、第2に、この値を、気管支鏡検査後に対応するベースライン日数で見られた変化に対して補正した。
【0186】
ヒスタミンチャレンジ
ヒスタミンチャレンジはERSガイドライン(Sterkら(1993), Airway responsiveness. Standardized challenge testing with pharmacological, physical and sensitizing stimuli in adult. Report Working Party Standardization of Lung Function Tests, European Commnity for Steel and Coal. Official Statement of the European Respiratory Society, [総説] European Respiratory Journal-Supplement 16:53-83)に従って、2分間安静換気法(tidal breathing method)を用いて行った。気管支過剰反応性は、ベースライン、感染後6日目、および6週間目に評価した。
【0187】
皮膚プリック試験
アトピーは次のような一般的な空気アレルゲンに対しての皮膚プリック試験で決定した:草の花粉、イエダニ、ネコの鱗屑、イヌの毛、アスペルギルス・フミガタス(aspergillus fumigatus)、クラドスポリウム・ヘルバレム(cladosporium herbarum)、アルテルナリア・アルテルナータ(alternaria alternata)、シラカンバ、樹木3種、イラクサの花粉。陽性ヒスタミン/陰性希釈対照を含めた。陽性の反応が1件(陰性対照より3 mm超大きい腫れ)あった場合にはアトピーとした。
【0188】
鼻洗浄物
NLは、HeLa細胞培養物に対する影響によって感染を確認するために、RVウイルスロードについての標準およびTaqMan RT-PCRのために行った。2.5mlの滅菌生理食塩水を柔らかいプラスチックピペットを用いて各鼻腔に注いだ。洗浄物は滅菌済のペトリ皿中に採取し、ホモゲナイズした後、−80℃で保管するために等分した。
【0189】
末梢血分析
50mlの血液をヘパリン化チューブに採取し、PBSで1:1に希釈した後、リンホプレップ上に層化した。2500rpmで30分間遠心した後、単核細胞を1本のポリプロピレンチューブに移し、RPMI-1640(10% FCS添加)中で洗った。血球計による計数と生存度の評価のために、細胞懸濁液を0.1%のトリパンブルー中に1:10で希釈した。細胞を適切な培地中に、その後の実験で必要とされる細胞密度で再懸濁した。
【0190】
血清の分離
10mlの血液を平らなバキュテナー中に採取し、37℃で4時間おいて凝血させた後、2000rpmで15分間遠心した。後にRV16中和抗体の存在を分析するため、血清を−80℃での保管用に等分した。
【0191】
気管支鏡検査
気管支鏡検査はBTSガイドライン(British Thoracic Society Bronchoscopy Guidelines Committee, 2001, British Thoracic Society guidelines on diagnostic flexible bronchoscopy Thorax 56:i1-i21)に従って、St. Marys Hospitalの内視鏡ユニットで行った。被験者は別の医師または看護師がモニターした。FEV1を気管支鏡検査の前後に記録した。Keymed P100気管支鏡を、有窓鉗子(Keymed FB-19C-1)および3mmの有鞘ブラシ(Keymed BC-16C)とともに用いた。BALは滅菌生理食塩水(室温)を右中葉気管支中に8x30mlのアリコートで滴下して10秒間滞留させ、80%の回収を目標とした。ベースラインおよび6週間の時点でBALを内側右中葉区から採取し、4日目は以前のBALの影響を最小限とするために外側中葉区から採取した。BALは1本のプラスチックチェンバーに収集し、実験室までの輸送のために直ちに氷上のポリプロピレンチューブに移した。
【0192】
血清中のRV16測定
血清中のRV16測定は、スクリーニング時、ベースライン時、0日目、および感染後6週間目に、96ウェルプレート中でHeLa細胞単層を用いたRV16に対する中和抗体についてのマイクロ中和試験(microneutralisation test)によって行った。血清(50μL)の2倍希釈を1:2から1:128まで作製した。100 TCID50を含有する希釈ストックウイルス50μlを添加し、プレートを室温で1時間振盪させた。100μlの新たに剥ぎ取ったHeLa細胞2 x 105個/mlを添加し、プレートを37℃でインキュベートした。血清(細胞+血清、1:2希釈)、細胞(細胞、無血清、無ウイルス)、およびウイルス(細胞、無血清、ストックウイルス)対照を試験に含めた。細胞変性作用(CPE)は2〜3日後に読み出した。抗体価は、ウイルスCPEを完全に中和する最大血清希釈度によって規定した。セロコンバージョンは、抗体陰性の被験者において、1:4以上のRV16中和抗体の回復期力価と定義した。
【0193】
臨床サンプルからのウイルス培養
鼻洗浄物中のRVの存在は培養で調べた。最初に37℃で培養し、陰性であった場合は33℃で繰り返し培養した。ウイルスの培養は、T25フラスコ中でサンプルを抗生物質含有の少量の培地に添加し、セミコンフルエントのHeLa細胞を補充し、室温で1時間振盪し、次いでさらに培地を添加し、CPEを観察することによって行った。CPEが見られない場合には、5日目に細胞を2サイクルの凍結/融解によって溶解し、澄明化した上清を新鮮なHeLa細胞に添加した。5代継代後にもCPEが見られなかった場合には、ウイルスは存在しなかったものと見なした。培養したウイルスのRV16としての確認は、RV16特異的血清(ATCC−力価1:600)を用いたマイクロ中和を含んだ。培養上清中のRV力価は滴定アッセイによって推定した。次いで96ウェルのプレート中で、100 TCID50のウイルスを含んでいる希釈上清50μlを、1:20〜1:1280の特異的RV16抗血清の2倍段階希釈を含む、等量の培地に添加した。このアッセイは、陽性対照(ストックRV16)および細胞(ウイルスなし)を含めた。
【0194】
保存した臨床サンプルからのRNAの抽出とランダムヘキサマープライマーを用いた逆転写
RNAはサンプルからQIAamp ウイルスRNAミニキット(Qiagen)を用いて抽出し、逆転写はomniscript RTキット(Qiagen)とランダムヘキサマープライマーとを製造者の使用説明書のとおりに用いて行った。
【0195】
ピコルナウイルスの標準PCR
RV RT-PCRはランダムヘキサマープライマーを用いたRTによって作製したcDNAから行った。PCRは、公表されている方法で(Johnstonら(1993), Journal of Clinical Microbiology, 31:111-117)、OL26/OL27プライマーペアを用い、Perkin Elmer 9600 GeneAmp PCRシステムを用いて行った。作製された380bpのピコルナウイルス特異的アンプリコンを2% アガロースゲル上で電気泳動した後、エチジウムブロマイド染色で可視化し、ポラロイドカメラで撮影した。RVアンプリコンは、Bg1 Iを用いた制限消化によってエンテロウイルスのアンプリコンと区別した(Papadopoulosら(1999), Journal of Virological Methods 80:179-185)。
【0196】
追加の呼吸器系ウイルスのPCR
RV以外の呼吸器系ウイルスの存在は、マイコプラズマ(Mycoplasma)、およびクラミジア・ニューモニアエ(Chlamydia pneumoniae)、アデノウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザ AH1/AH3/B、パラインフルエンザ1-3、コロナウイルス229EおよびOC43についてのPCRによって排除した。これらのPCRのためのcDNAはランダムヘキサマーRTによって作製した。これらの追加のPCRのためのプロトコールは既に報告されている(Seemungalら(2001), American Journal of Respiratory & Critical Care Medicine, 164:1618-1623)。
【0197】
ピコルナウイルスのTaqMan RT-PCR
サンプリング後に未処理のまま−80℃に保管していたNLおよびBAL中のピコルナウイルスを検出するためにTaqMan RT-PCRを用いた。RNAはサンプルからQIAamp ウイルスRNAミニキット(Qiagen)を用いて抽出し、逆転写はomniscript RTキット(Qiagen)とランダムヘキサマープライマーとを製造者の使用説明書のとおりに用いて行った。PCRは、AmplitaqGold DNA ポリメラーゼ、ピコルナウイルス特異的プライマーペア(フォワード オリゴ5'-GTG AAG AGC CSC RTG TGC T-3'、リバース オリゴ5'-GCT SCA GGG TTA AGG TTA GCC-3')、およびFAM/TAMRA 標識ピコルナウイルスプローブ(FAM-TGA GTC CTC CGG CCC CTG AAT G-TAMRA)を用い、PE Biosystems ABI Prism 7700 配列検出システムを用いて行った。
【0198】
マスターミックスは、Qiagen quantitect プローブミックス、フォワードプライマー(50 mM)、リバースプライマー(300 nM)、プローブ(100 nM)およびRNase阻害剤から構成された。23μlのPCRマスターミックスを、96ウェルTaqManプレートの各チューブ中の2μl cDNAに添加した。熱サイクルと蛍光PCR産物の検出は、PE Biosystems ABI Prism 7700 配列検出システムを用いて行った。用いた熱サイクルの条件は次のとおりであった:50℃2分間、95℃10分間、次いで95℃15秒間/55℃20秒間/72℃40秒間の45サイクル。TaqMan RT-PCR法は、Viropharmaの共同研究者らによって最適化された(Pavearら(1999), Antimicrobial Agents & Chemotherapy, 43:2109-2115)。蛍光のデータは各サイクルについて集め、蛍光が閾値以上に上昇したサイクル数(Ct)を決定した。陰性抽出液(水)、陰性PCR(鋳型のみ)、および陽性抽出液(RV16ストック)を含めた。標準曲線は、108から100コピー/2μlまで10倍段階希釈したRVプラスミドを2μl含有するTaqMan プレートチューブを含めることによって作成した。PCR後に各プラスミドは1コピーのdsDNAを作る。結果は、標準曲線を参照し、RNAおよびcDNAへの処理における固有の希釈係数とdsDNAプラスミドの各コピーによって産生される「二重蛍光」とを考慮に入れることにより、NLおよびBALのコピー数/mLに関して、サンプルごとに表した。
【0199】
統計解析
症状スコア、肺機能、PC20値、ウイルスロード、サイトカインおよびケモカイン濃度、ならびに白血球数について被験者内で比較し、ベースラインと急性感冒との間で生じた差異、および回復期までの変化の持続を調べた。被験者内の差異はWilcoxon検定を用いて解析した。正常群と喘息患者群との間の差異については、研究の各ステージでMann-Whitney検定を用いて解析した。臨床的な疾病の重症度、ウイルスロード、白血球数、およびサイトカイン/ケモカイン濃度の間の相関をSpearmanの順位相関を用いて調べて、喘息において応答の変化を調節するこれらの因子の可能な因果関係を調べた。
【0200】
BALのex vivo培養
実験的感染前にベースラインで行った気管支鏡検査で得たBAL細胞は、ポリプロピレンチューブ中で48時間ex vivo培養した後、サイトカイン産生用の上清およびRNA用の細胞を回収した。培養条件は次のとおりであった:培地のみ、培地+RV16 5MOI、培地+RV16 濾過対照、培地+LPS 0.1μg/ml、培地+PHA 1μg/ml、培地+アレルゲン 5000 ISQ。採取の際には、細胞を簡単にボルテックスした後、1500rpmで10分間遠心分離した。上清を等分し、ELISAによるその後の分析のために-80℃で保存した。1mlのトリゾールを添加して細胞を溶解した後、その後のRT-PCRによる分析のために−80℃で保存した。
【0201】
実施例5:IFN-λタンパク質レベルと感染の臨床的指標との相関
IFN-λタンパク質レベルと呼吸器感染の臨床的指標との間の相関をさらに調べた。データは図22に示している。用いた方法は上述の実施例4で概説している。
【0202】
図22はライノウイルスによりex vivoで刺激された気管支肺胞細胞上清中のIFN-λレベルを示している。
【0203】
図22(a)は、ex vivoでRVによって刺激された、正常人および喘息患者由来の気管支肺胞細胞の上清中のIFN-λタンパク質の量を示している。このデータから、喘息患者から単離した細胞は、非喘息被験者から単離した細胞よりもはるかに低い量のIFN-λタンパク質しか産生しないことは明らかである。従って、喘息患者から得られた気管支肺胞細胞は、RVに感染した際に、正常な被験者由来の気管支肺胞細胞ほど多くのIFNλタンパク質を産生しない。
【0204】
図22(b)は、RVに感染した患者でのIFN-λタンパク質のレベルと、in vivoでライノウイルスに感染した患者の2週間後の「感冒スコア」との関連性を示したものである。「感冒スコア」は、実施例5の中で述べたとおり、呼吸器系ウイルス感染の重症度の臨床的尺度である。IFN-λタンパク質レベルがより低い患者では、IFN-λタンパク質がより多い患者よりも「感冒スコア」が高いことは明らかである。従って、データは、IFN-λタンパク質のレベルと呼吸器系ウイルス感染の臨床的指標の重症度との間の相関を示している。このことから、IFN-λタンパク質は呼吸器疾患の治療に使用することができる。
【0205】
図22(c)は、RVに感染した患者での肺の能力(FEV1値を用いて測定)とIFN-λタンパク質のレベルとの間の関連性を示している。患者でのFEV1値の低減とIFN-λタンパク質のレベルの間に相関があることは明らかである。従って、ベースラインでのIFN-λ産生がより低い患者では、2週間後のライノウイルスによる感染の際に気道の閉塞がより重症となり、そのためIFN-λは喘息の増悪の程度を低減するために用いることができる。
【0206】
図22(d)は、ライノウイルスによるin vivo感染の間に採取されたBAL細胞中のRV16 RNAの量(従って下気道のウイルスロード)が、in vivo感染の2週間前のベースラインの時点で採取されたBAL細胞中でのIFN-λタンパク質産生と相関したことを示している。また、RV16 RNAレベルとIFN-λタンパク質のレベルとの間には相関が見られる。すなわち、IFN-λタンパク質が多くなるとRV16 RNAはより少ない。従って、IFN-λは下気道でウイルスロードを減少させ、それによってウイルスが誘導する喘息の増悪を予防/改善することができる。
【0207】
図22に示したデータはλの産生とウイルスロード、肺機能、およびその他の予後の臨床的指標との間の相関を示したものである。このデータは、ウイルスが誘導する増悪に対する防御におけるIFN-λの重要な生物学的役割を明確に示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】図1は、ヒト気管支上皮細胞株BEAS2BにおいてライノウイルスとRSVは双方ともインターフェロン-λのmRNAの発現を強く誘導することを示す。
【図2】図2は、ヒト気管支上皮細胞株BEAS2BにおいてライノウイルスとRSVは双方ともインターフェロン-λのmRNAの発現を強く誘導することを示す。図1と同じデータ。
【図3】図3は、IFNλ-1およびIFNλ-2/3のライノウイルス誘導が用量反応性であることを示す用量反応を示す。
【図4】図4は、ライノウイルスの主要な群及び少数の群の複数の血清型がIFN-λを誘導することを示す。UVで不活化されたウイルスでは誘導は認められないので、この誘導は複製に依存している。
【図5】図5は、IFN-λは健康なボランティア由来の末梢血単核細胞から、ライノウイルス感染に応答して誘導され、その誘導のピークは8時間後であったが、24時間後でも依然として顕著であることを示す。
【図6】図6は、IFN-λがヒトマクロファージからライノウイルスおよびRSVによって誘導されることを示す。
【図7】図7は、ライノウイルス感染によるSTAT1の活性化に伴う生物活性を示す。この実験ではライノウイルスに感染したBEAS2B細胞から得た上清を、組換えλ受容体を発現しているレポーター細胞株に接種し、STAT1の活性化はゲルシフトアッセイで評価した。ウイルスを感染させた気管支上皮細胞から得た上清ではSTAT1活性化の誘導が明確に認められたが、対照の細胞では認められなかった。
【図8】図8は、IFN-λ1は用量反応様式で抗ウイルス活性を有しており、BEAS-2B細胞中でのライノウイルス16のウイルスRNAの発現を低下させ、また、HeLa細胞滴定アッセイで測定するとき、BEAS-2B細胞の上清中へのウイルスの放出を低下させることを示す。ウイルスRNAのコピー数は定量的PCRで測定した。
【図9】図9は、HeLa細胞滴定アッセイにおける抗ウイルス活性は、ウイルスが誘導する細胞変性作用がIFN-λ1によって阻害され、その程度はインターフェロン-βで観察されたのと同程度であることを示す。
【図10】図10は、IFN-λ1はBEAS2B細胞内で自身を誘導し、またIFN-λ2、-λ3とインターフェロン-βをも誘導することを示す。同様に、インターフェロン-βは自身を誘導するとともにIFN-λ1およびIFN-λ2、-λ3を誘導する。従って、I型とIII型のインターフェロンサブタイプ間には正のフィードバックが存在する。
【図11】図11は、IFN-λは自身で炎症前サイトカインを用量反応様式で誘導し、ライノウイルス16の発現に応答する炎症前サイトカインの誘導を、これも用量反応様式で顕著に増強することを示す。これらの性質はBEAS2B細胞中で観察され、このことはIFN-λの増強反応が、他の炎症細胞をウイルスに感染した上皮に供給する傾向があることを示唆している。右側のパネルはインターフェロン-βについての同様の結果を示す。
【図12】図12は、BEAS2B細胞にRSVが感染するとIFN-λタンパク質の上清への放出の増加がもたらされ、それは時間依存的な様式で、24時間後にピークとなることを示す。
【図13】図13は、BEAS2B細胞のライノウイルス感染も、BEAS2B細胞の上清中へのIFN-λタンパク質の放出を用量反応様式で誘導することを示す。
【図14】図14は、ライノウイルスの複数のサブタイプのものがBEAS2B細胞の上清中へのIFN-λタンパク質の放出をもたらすことを示す。ここでも主要な血清型と少数の血清型の双方とも、複製依存的様式である。
【図15】図15は、健康なドナーから得た末梢血単核細胞をライノウイルスに感染させると、上清中へのIFN-λタンパク質の分泌の増加が時間依存的様式でもたらされることを示す。
【図16】図16は、ヒトマクロファージのライノウイルス感染およびRSV感染は双方とも、IFN-λの上清への放出をもたらすことを示す。
【図17】図17は、喘息のドナーおよび健康なドナー由来の初代気管支上皮細胞が、喘息患者の上皮細胞でのウイルスの複製は正常な上皮細胞と比較して有意に増加していることを示す図である。ウイルスRNAのコピー数の相異は定量的PCRで評価した。喘息患者の上皮細胞は正常な上皮細胞より1 log超多い量のウイルスRNAロードを産生した。
【図18】図18は、健康人と喘息患者から得た上皮細胞中で、ライノウイルス感染に応答してIFN-λ mRNA発現が誘導されることを示す。しかし、正常細胞と比較すると喘息患者の細胞ではIFN-λの誘導は不十分である。IFN-λ mRNAの発現は定量的PCRで定量した。IFN-λの誘導は複製依存的である。正常人のボランティアでは、喘息患者よりも1 log超多い量のIFN-λ mRNAを産生した。
【図19】図19は、IFN-λタンパク質は正常および喘息患者の気管支上皮細胞中で、ライノウイルス感染によって誘導されることを示す。正常な上皮細胞によって産生されるレベルはここでも喘息患者の上皮細胞によって産生される量よりも多かった。
【図20】図20は、初代ヒト気管支上皮細胞におけるIFN-λ mRNA発現がウイルスロードと強く関連していることを示す。IFN-λの発現が多くなるにつれてウイルスの複製が起こる程度は低くなる。このデータはIFN-λが初代ヒト気管支上皮細胞における抗ウイルス活性に関連することを示している。
【図21】図21は、気管支肺胞洗浄細胞ペレットのライノウイルス感染およびLPS刺激の双方に応答するIFN-λの産生が、喘息患者の細胞では正常人と比べて欠如していることを示す。通常、気管支肺胞洗浄細胞の80%超がマクロファージである。このデータは、喘息患者では、上皮細胞からの以前のデータと同様に、マクロファージからのIFN-λ産生も欠如していることを示している。
【図22】図22は、ex vivoでライノウイルスで刺激された気管支肺胞細胞上清からのIFN-λ産生を示す。気管支肺胞洗浄細胞ペレットのライノウイルス感染に応答するIFN-λ産生は、臨床上の感冒の重症度、肺機能低下の重症度、およびin vivoでライノウイルスに実験的に感染させた喘息患者および正常人におけるウイルスロードと強く関連している。これらの実験では、in vitroでのライノウイルス感染に応答した気管支肺胞洗浄細胞ペレットからのIFN-λ産生をベースラインで測定し、次いで2週間後に被験者をライノウイルスに感染させた。このin vivo感染の間、感冒症状、肺機能低下、および下気道のウイルスロードは全て、臨床症状の重症度をモニターするために評価した。ベースラインでのIFN-λ産生は、このin vivo感染の間、感冒の重症度、肺機能の低下によって測定した喘息の増悪の程度、および気管支肺胞洗浄細胞のウイルスロードと強く関連していた。これらのデータはIFN-λ産生がin vivoでの呼吸器系ウイルス感染の間の臨床症状の重症度の主要な決定因子であることを明確に示し、また、IFN-λの投与が、喘息患者における呼吸器系ウイルス感染の間の、症状、ウイルスロード、および肺機能低下の程度を低減させるはずであることを示している。
【図23】図23は、BEAS2B細胞でのライノウイルス16感染に応答するI型およびIII型インターフェロンの誘導の時間経過を示す。(a)種々のインターフェロン-αのサブタイプのmRNA発現をTaqMan PCRで調べた。様々なインターフェロン-αサブタイプの検出のためにTaqMan PCRプライマーとプローブを2組選択した。第1のプライマーとプローブのセットはサブタイプ1、6、および13を検出し、第2のプライマーとプローブのセットはサブタイプ4、5、8、10、14、17、21を検出する。I型インターフェロンの発現は第1のプライマーのペア−IFNΑ.1によって検出したが、ライノウイルス16によるこれらのI型のインターフェロンのmRNA発現の誘導は有意ではなかった。第2のプライマーペア−IFNΑ.2を用いると、培地と比較してI型インターフェロンのmRNA発現の統計学的に有意な増加が認められたが、それが認められたのは感染後8時間目だけであった(p<0.001)。(b)同じ実験でIL-29とインターフェロン-βのmRNAの発現をTaqMan PCRで調べた。ライノウイルス16によるIL-29 mRNA発現の誘導は8時間目の時点で統計学的に有意に増加し、24時間目ではさらに高い誘導が検出された(p<0.001)。IFN-β mRNAの発現もライノウイルス16によって24時間目で誘導された(p<0.001)。従って、IFN-λ mRNAの産生はIFN-βよりも早期に起こり、IFN-αよりも持続性があり、IFN-αやβの産生のいずれよりも強く誘導された。(c)同じ実験でインターフェロン-βの産生をELISAで測定した。ライノウイルス16を感染させたBEAS2B細胞中で、24時間目ではインターフェロン-βタンパク質の統計学的に有意な誘導が検出された(p<0.01)。(d)同じ実験でIL-29の産生をELISAで測定した。ライノウイルス16を感染させたBEAS2B細胞中で、24時間目ではIL-29タンパク質の統計学的に有意な誘導が検出された(p<0.001)。このようにmRNAデータと同様に、IFN-λタンパク質の産生はIFN-βの産生より5倍超多かった。IFN-αタンパク質はこれらの実験では検出されなかった。
【図24】図24は、ライノウイルス16感染に応答する初代ヒト気管支上皮細胞中でのIFN産生の時間経過を示す。(a)種々のインターフェロン-αのタイプのmRNA発現を、ヒト気管支上皮細胞において、ライノウイルス感染の0、4、8、および24時間の経過時点でTaqMan PCRで評価した。IFNΑ.1プライマーペアで検出されるインターフェロン-αはライノウイルス16では誘導されなかったが、IFNΑ.2プライマーペアで検出されるインターフェロン-αは、培地と比較して8時間目に有意に誘導されたが(p<0.01)、24時間目では統計学的に有意な誘導は認められなかった。(b)同じ実験で、ライノウイルス16に感染させたヒト気管支上皮細胞におけるIL-29とインターフェロン-βのmRNAの発現をTaqMan PCRで調べた。IL-29 mRNAの発現は24時間目で有意に誘導された(p<0.001)。インターフェロン-βはどの時点においても有意な誘導が認められなかった。
【図25】図25は、ライノウイルス1B感染に応答するヒト気管支上皮細胞中でのIFN産生の時間経過を示す。IFN-α、IFN-β、およびIL-29のmRNA発現を、ライノウイルス1B感染の0、4、8、および24時間の経過時点でTaqMan PCRで評価した。(a)IFNΑ.1プライマーペアで検出されるインターフェロン-αは、ライノウイルス16では誘導されなかった。第2のプライマーペアであるIFNΑ.2で検出されるインターフェロン-αのmRNAは、ライノウイルス1Bによって8時間目および24時間目に誘導された(p<0.05)。(b)IL-29では非常に高レベルの誘導(IFNΑ.2プライマーペアで検出されるものよりも2 log高い)が24時間目に検出された(p<0.001)。インターフェロン-β mRNAの誘導も24時間目に検出されたが(p<0.01)、この誘導はIL-29で認められたものよりも1 log低かった。
【図26】図26は、インフルエンザウイルス感染に応答するヒト気管支上皮細胞中でのIFN産生の時間経過を示す。(a)種々のインターフェロン-αのタイプのmRNA発現を、ヒト気管支上皮細胞において、インフルエンザウイルス感染の0、4、8、および24時間の経過時点でTaqMan PCRで評価した。IFNα.1プライマーペアで検出されるインターフェロン-αとIFNα.2プライマーペアで検出されるインターフェロン-αの双方ともに、どの時点においてもインフルエンザウイルスによる有意な誘導は認められなかった。(b)同じ実験で、インフルエンザウイルスを感染させたヒト気管支上皮細胞におけるIL-29およびインターフェロン-βのmRNA発現をTaqMan PCRで調べた。IL-29はインフルエンザウイルスによって感染の8時間後の時点で有意に誘導され(p<0.001)、24時間後にはさらに増加していた。インターフェロン-β mRNAの誘導は、8時間後および24時間後に増加が観察されはしたものの、どの時点でも有意ではなかった。IL-29 mRNA発現はどの時点でもIFN-αおよびIFN-βのmRNA発現より高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスによって誘導される呼吸器疾患の増悪を治療するために投与される医薬品の製造における、
(a)1種以上のインターフェロン-λ(IFN-λ)ポリペプチド、または
(b)標的とする気管支上皮細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種又は複数種のポリヌクレオチド
から選択される作用物質の使用。
【請求項2】
前記呼吸器疾患が喘息である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ウイルスが誘導する増悪が、ライノウイルス、RSV、およびインフルエンザウイルスからなる群から選択されたウイルスの感染によって生ずるものである、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
IFN-λ1、IFN-λ2、およびIFN-λ3からなる群から選択された1種以上のIFN-λポリペプチドを使用する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
1種以上のIFN-λポリペプチドの投与が1種以上のポリヌクレオチドの発現を介するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記1種以上のIFN-λポリペプチドまたは前記1種以上のポリヌクレオチドの投与が気道への送達によるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
治療薬剤を含んでなる医薬組成物を具備する器具であって、該治療薬剤は、(i)1種以上のIFN-λポリペプチド、または(ii)標的とする気管支上皮細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種以上のポリヌクレオチドであり、該器具は該組成物の気道への送達に適したものである、前記器具。
【請求項8】
(i)1種以上のIFN-λポリペプチド、もしくは(ii)標的とする気管支上皮細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種以上のポリヌクレオチドである第1の治療薬剤および追加の治療薬剤の同時、個別、もしくは連続投与のための製品。
【請求項9】
前記追加の治療薬剤が吸入コルチコステロイドである、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
ウイルスが誘導する呼吸器疾患が増悪した、もしくは増悪する危険性のある患者を治療する方法であって、
(a)1種以上のIFN-λポリペプチド、または
(b)標的とする気管支上皮細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種又は複数種のポリヌクレオチド
から選択される作用物質の治療上有効量を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項11】
アレルギー疾患を有しているか、もしくは発症する危険性のある患者に投与するための医薬品の製造における、
(a)1種以上のIFN-λポリペプチド、または
(b)標的細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種又は複数種のポリヌクレオチド
から選択される作用物質の使用。
【請求項12】
アレルギー疾患を有しているか、もしくは発症する危険性のある患者を治療する方法であって、
(a)1種以上のIFN-λポリペプチド、または
(b)標的細胞内で1種以上のIFN-λポリペプチドを発現させることのできる1種又は複数種のポリヌクレオチド
から選択される作用物質の治療上有効量を前記患者に投与することを含む、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公表番号】特表2009−514794(P2009−514794A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529702(P2008−529702)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050281
【国際公開番号】WO2007/029041
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポラロイド
【出願人】(508072383)インペリアル イノベーションズ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】