説明

呼吸器疾患の治療方法

本発明は、不適切な補体活性化に関連する疾患の治療、特に呼吸器疾患の治療における、補体タンパク質C5に結合する剤の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不適切な補体活性化に関連する疾患の治療、特に呼吸器疾患の治療における補体タンパク質C5に結合する剤の使用に関する。
【0002】
明細書本文において言及され、本明細書の最後にリストで示す全ての文献を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【背景技術】
【0003】
補体系は、異物の侵入に対する身体の自然防御機構の重要な一部分であり、炎症プロセスにも関係するものである。血清中及び細胞表面の30を越えるタンパク質は、補体系の機能及び調節に関係している。有益なプロセスと病的なプロセスの双方に関連する可能性を有する補体系の約35の公知成分と同様、補体系自体が、血管形成、血小板活性化、糖代謝及び精子形成と同様に多様な機能を有する少なくとも85種の生物学的経路と相互作用することが最近明らかになってきた[1]。
【0004】
補体系は、異種抗原の存在下で活性化される。3種の活性化経路:(1)IgM及びIgGの複合体によって、或いは炭水化物の認識によって活性化される古典経路;(2)非自己の表面(特定の調節分子を欠く)によって、並びに細菌内毒素によって活性化される代替経路;及び(3)病原体の表面上のマンノース残基へのマンナン結合レクチン(MBL)の結合によって活性化されるレクチン経路、が存在する。この3種の経路には、急性炎症メディエーター(C3a及びC5a)の放出並びに細胞膜傷害複合体(MAC)の形成の原因となる、細胞表面上の類似のC3コンベルターゼ及びC5コンベルターゼの形成による補体活性化の発生の原因となるイベントの平行したカスケードがある。古典経路及び代替経路に関係する平行したカスケードについては、図1に示す。
【0005】
補体は、望ましくない局所的組織破壊につながる一定の状況の下で不適切に活性化する可能性がある。急性膵炎、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、喘息、成人呼吸窮迫症候群、火傷、クローン病、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、虚血再潅流障害、多系統臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、虚血性発作、心筋梗塞、乾癬、関節リウマチ、敗血症性ショック、全身性エリテマトーデス、卒中発作、血管漏出症候群、移植拒絶、並びに心肺バイパス手術における不適切な免疫応答等の、多種多様な疾患及び障害において、不適切な補体活性化が役割を果たすことは、明らかにされてきた。このように、長年の間、補体系の不適切な活性化は治療的介入の標的となってきており、異なる補体カスケードを標的とする補体阻害剤が、治療に用いるために数多く開発中である。
【0006】
虚血性発作及び心筋梗塞において、身体は、脳又は心臓の死んだ組織を異物と認識し補体を活性化するが、これは更なる局部損傷をもたらしてしまう。同様に、心肺バイパス手術において身体は機械のプラスチック表面を異物と認識し補体を活性化させ血管障害を招く可能性がある。自己免疫疾患では、身体は誤って自分自身を異物と認識し補体を活性化して局部組織の損傷をもたらす(例えば、関節リウマチにおける関節破壊や重症筋無力症における筋力低下)。
【0007】
幾つかの実験的気管支喘息モデルが示唆するところによると、C5とその活性化された成分が気道の炎症や気管支収縮の亢進に関与している。各種補体阻害剤を用いた研究において、げっ歯類における気道過敏性の亢進や気道の炎症が顕著に軽減された[2,3,4]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
COPDは一般名であって、慢性気管支炎や肺気腫という臨床状態を含み、慢性気管支炎又は肺気腫、或いはその両者によって狭窄した気道の状態を表すために用いられる。COPDに罹患するのは主に四十歳を超えた人々であって、多くの場合、原因は喫煙である。症状としてはしつこい咳、息切れ、ぜい鳴等が挙げられ、それらの結果呼吸が困難になっていく。
【0009】
喘息は、慢性的な気道の炎症、気道閉塞、及び種々の刺激に対する気道過敏性の合併を特徴とする。これは主として、肺の炎症や気道の過敏性をもたらす、アレルゲン特異性CD4+ T細胞、Th2サイトカイン及びアレルゲン特異性IgEが介在する適応免疫反応によって仲介されると考えられている。
【0010】
COPDは気道に恒久的な損傷を与えてしまう。狭窄した気道は「固定化」されるので症状は慢性化する。気道を広げる治療は限られている。喘息では気道に炎症が生じ、そのため気道の筋肉が収斂する。その結果気道は狭窄してしまう。症状は良くなったり悪くなったりし、重症度も時によって変わる。炎症を軽減し気道を広げる治療は通常うまく行く。現在、喘息とCOPDの治療は、ベータ拮抗剤(サルブタモールやテルブタリン等)や抗コリン作動剤(イプラトロピウムやオキシトロピウム等)をはじめとする気管支拡張剤;及びステロイド(ベクロメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン等)を様々に組合わせて行われている。しかし、更に改善された治療法があれば有益であろう。
【0011】
COPDや喘息等の呼吸器疾患に対する現行の治療を改善する剤が強く要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って本発明は、呼吸器疾患を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供するものである。
【0013】
本発明はまた、呼吸器疾患を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用を提供するものである。
【0014】
本発明における呼吸器疾患は、喘息(重度のものやステロイド抵抗性喘息を含む)、COPD、免疫複合体肺胞炎(有機粉塵、カビ、風媒アレルゲン、無機粉塵、化学薬品等への曝露によって引起されるものを含む)を包含する。これらの病態の例としては、農夫肺、ハト(乃至その他のトリ)愛好者肺、納屋熱、製粉工肺、金属加工者肺、加湿器熱、珪肺、塵肺症、アスベスト肺、綿工場熱、ベリリウム中毒症、中皮腫が挙げられるがこれらに限定されるものではない。全身性の或いは吸入性の薬物や化学薬剤である次のような剤(ブレオマイシン、マイトマイシン、ペニシリン、スルフォンアミド、セファロスポリン、アスピリン、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)、タルトラジン、ACE阻害剤、ヨウ素含有造影剤、非選択性β遮断剤、スキサメトニウム、ヘキサメトニウム、チオペントン、アミオダロン、ニトロフラントイン、パラコート、酸素、細胞障害性剤、テトラサイクリン、フェニトイン、カルバマゼピン、クロルプロパミド、ヒドララジン、プロカインアミド、イソニアジド、p−アミノサリチル酸等、但しこれらに限定されない)への曝露によって引起される喘息、鼻炎、肺胞炎、びまん性線維性肺疾患。物理的肺損傷(挫滅損傷、煙や熱いガスの吸入、爆発傷、放射線障害、吸引性肺炎、リポイド肺炎等、但しこれらに限定されない)。臓器移植(心臓移植、肺移植、骨髄移植等、但しこれらに限定されない)に伴う肺損傷。原因不明の繊維形成性肺胞炎。アレルギー性肉芽腫症(チャーグ−ストラウス症候群)、ウェーゲナー肉芽腫症。
【0015】
閉鎖性気管支梢炎。間質肺線維症。嚢胞性繊維症。自己免疫及び結合組織疾患の呼吸器症状(リウマチ疾患、全身性紅斑性狼瘡、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発筋炎、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、キャプラン症候群等、但しこれらに限定されない)。ヒスチオサイトーシスX。好酸球増多性肺浸潤(PIE)症(単純性肺好酸球増加症、遷延性肺好酸球増加症、喘息性気管支肺好酸球増加症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス腫、侵襲性アスペルギルス症、熱帯性肺好酸球増加症、過好酸球増加症候群、寄生虫の体内侵入等、但しこれらに限定されない)。リンパ管平滑筋腫(LAM)。
【0016】
好ましくは、前記呼吸器疾患はCOPD或いは喘息である。
【0017】
前記剤は、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防ぐ作用をすることが好ましい。
【0018】
補体C5タンパク質は、本明細書においてはC5とも称し、C5コンベルターゼ酵素(それ自身C3aから生成される)、即ち代替経路の比較的早期の産物によって分解される(図1)。この分解産物としては、アナフィラトキシンC5a、並びに細胞膜傷害複合体(MAC)としても知られる溶解性複合体C5b−9が挙げられる。C5aは、好中球遊走能及び好酸球遊走能、好中球活性化、毛細血管透過性増加並びに好中球アポトーシスの阻害を含む多くの病理的炎症過程に関係する高反応性ペプチドである[5]。
【0019】
MACは、関節リウマチ[6,7]、増殖性糸球体腎炎[8]、特発性膜性腎症[9]、タンパク尿[10]、急性軸索損傷後の脱髄[11]等の他の重要な病理過程と関連しており、異種移植後の急性移植片拒絶の原因ともなる[12]。
【0020】
C5aは、補体関連の障害の分野において特段の関心の的になってきた[13]。C5aは多くの疾病と関連していることが周知であるが、ヒトにおけるその欠乏の影響は限定されているように思われる。C5a受容体又はC5a受容体を結合及び阻害するモノクローナル抗体及び低分子は、各種の自己免疫疾患を治療するために開発されてきた。しかし、これらの分子によってMACの放出は阻止されない。
【0021】
対照的に、本発明の第1のアスペクトに係るC5に結合する剤の投与によって、C5aペプチド及びMACの生成は阻害される。驚くべきことに、C5a及びMACの阻害は、呼吸器疾患に関連する臨床症状を軽減させることが判明した。更に、C5が補体の古典経路及び代替経路の後期の産物であるため、C5の阻害が、カスケードにおける比較的早期の産物を標的とする際の随伴感染のリスクと関連している可能性は低い[14]。
【0022】
C5に結合する剤の能力は、本技術分野で知られている標準的インビトロアッセイ、例えば標識C5を含むゲル上でタンパク質を培養した後にウエスタンブロット法を行うことによって測定することができる。好ましくは、C5に結合する本発明の剤のIC50は0.2mg/mL未満であり、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.04mg/mL未満、好ましくは0.03mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施態様においては、C5に結合する剤は抗C5モノクローナル抗体ではない。
【0024】
好ましくは、C5に結合する剤は、吸血性節足動物に由来する。「吸血性節足動物」という用語には、昆虫、マダニ、シラミ、ノミ及びコダニ等、それぞれに適合した宿主から血粉を取る全ての節足動物が包含される。好ましくは、前記剤はマダニに由来し、好ましくはマダニのカズキダニ(Ornithodoros moubata)に由来する。
【0025】
本発明の一実施態様においては、C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含むタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物である。C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸から構成されるタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物であることができる。
【0026】
別の一実施態様においては、本発明の本実施態様で用いられるタンパク質は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるか、又はその機能的等価物とすることができる。図2に示すタンパク質の配列の最初の18アミノ酸は、C5に対する結合活性には必要ないシグナル配列を形成することから、例えば組換えタンパク質産生の効率性のために、任意的にこれを省くことができる。
【0027】
図2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質は、本明細書においてEV576タンパク質とも称されるが、マダニのOrnithodoros moubataの唾液腺から単離された。EV576は、リポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであり、補体活性化を阻害することが明らかにされた最初のリポカリンファミリーのメンバーである。EV576タンパク質はC5に結合することによりC5コンベルターゼによるC5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止し、C5aペプチド及びMACの双方の作用を阻害することにより、補体代替経路、補体古典経路及び補体レクチン経路を阻害する。本明細書で用いられる「EV576タンパク質」という用語は、シグナル配列の有無に拘わらず図2に示される配列を意味する。
【0028】
EV576タンパク質、及び補体の活性化を阻害するこのタンパク質の能力については文献[20]に開示されており、そこではEV576タンパク質は、「OmCIタンパク質」と呼ばれた。EV576タンパク質が呼吸器疾患の治療及び予防に驚くほど効果的であることが、このたび明らかになった。本明細書に提示するデータは、OVA喘息モデルにおける急性喘息の緩和にEV576が強力な効力を有することを示している。EV576は試験した全ての用量において気道の過敏性をバックグラウンド・レベルにまで低減させ肺への細胞浸潤を軽減している。このように、EV576は、呼吸器疾患の治療・予防に関してヒトの有力な治療剤となりうる。
【0029】
呼吸器疾患の治療におけるEV576の驚くべき有効性は、C5の結合、それによるC5a及びMACの生成の阻害によってEV576が作用するという事実に起因すると考えられる。
【0030】
本発明の更なる実施態様によれば、前記剤は、EV576タンパク質をコードする核酸分子又はその機能的等価物であってよい。例えば、遺伝子治療を用いて、インビボとエクスビボのいずれにおいても被験体内の関連細胞によるEV576タンパク質の体内産生を生じさせることができる。他の一法は、治療遺伝子が血流内又は筋組織内に直接注射された「裸の(naked)DNA」を投与することである。
【0031】
そのような核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることが好ましい。このヌクレオチド配列は、図2のEV576タンパク質をシグナル配列なしにコードする。図2のヌクレオチド配列の最初の54塩基は、補体阻害活性に必要ないシグ」ナル配列をコードする。核酸分子はまた、シグナル配列を有するタンパク質をコードする、図2の核酸配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることができる。
【0032】
EV576タンパク質はラット、マウス及びヒトの血清中においてC5と結合してC5コンベルターゼによる分解を防止し、そのIC50は約0.02mg/mLであることが示されている。C5に対する結合能を有するEV576タンパク質の機能的等価物としてはIC50が0.2mg/mL未満であるものが好ましく、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL未満、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【0033】
一観点において、本明細書で用いられる「機能的等価物」という用語は、C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止する能力を有するEV576タンパク質のホモログ及び断片を示す。「機能的等価物」という用語はまた、EV576タンパク質と構造的に同等である分子又はEV576タンパク質と同等若しくは同一の3次構造、特にC5と結合するEV576タンパク質の1箇所以上の活性部位の環境において同等若しくは同一の構造、を含む合成分子等の分子を意味する。
【0034】
「ホモログ」という用語には、図2において明示的に特定されるEV576配列のパラログ及びオーソログという意味が包含されるものとするが、例えばその配列としては、リピケファルス-アッペンジクラトス(Rhipicephalus appendiculatus)、クリイロコイタマダニ(R.sanguineus)、R.bursa、アメリカアムブリオマ(A.americanum)、A.cajennense、ヘブライキララマダニ(A.hebraeum)、オウシマダニ(Boophilus microplus)、ウシマダニ(B.annulatus)、B.decoloratus、アミメカクマダニ(Dermacentor reticulatus)、アンダーソン・カクマダニ(D.andersoni)、D.marginatus、アメリカイヌカクマダニ(D.variabilis)、Haemaphysalis inermisHa.leachii、点状ダニ(Ha.punctata)Hyalomma anatolicum anatolicumHy.dromedariiHy.marginatum marginatumIxodes ricinus、シュルツェマダニ(I.persulcatus)、I.scapularisI.hexagonus、ペルシャダニ(Argas persicus)、ハトヒラタダニ(A.reflexus)、Ornithodoros erraticusO.moubata moubataO.m.porcinus及びO.savignyi等の他のマダニ種からのEV576タンパク質配列が挙げられる。また、「ホモログ」という用語には、イエカ属(Culex)、ハマダラカ属(Anopheles)及びヤブカ属(Aedes)等の蚊種、特にCulex quinquefasciatus、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)及びAnopheles gambiaeCtenocephalides felis(ネコノミ)等のノミ種;ウマバエ;チョウバエ;ブユ;ツェツェバエ;シラミ;コダニ;ヒル;及び扁虫からの同等のEV576タンパク質配列も包含されるものとする。ネイティブEV576タンパク質は、18kDa付近の別の3形態のO.moubataの中に存在すると考えられ、「ホモログ」という用語には、EV576のこれらの他の形態が包含されるものとする。
【0035】
図2に示すEV576配列のホモログの同定方法は当業者に明らかである。例えば、ホモログは、公的及び民間のどちらの配列データベースによっても、そのホモロジー検索によって同定することができる。公的に利用可能なデータベースを使用するのが便利である。但し、特に民間の或いは商業的に利用可能なデータベースが公的なデータベースにないデータを含む場合、民間の或いは商業的に利用可能なデータベースも同様に有用である。一次データベースは、一次ヌクレオチド又はアミノ酸の配列データが蓄積される場所であり、公的に又は商業的に利用可能となっている。公的に利用可能な一次データベースの例としては、GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、EMBLデータベース(http://www.ebi.ac.uk/)、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、SWISS−PROTタンパク質データベース(http://expasy.hcuge.ch/)、PIR(http://pir.georgetown.edu/)、TrEMBL(http://www.ebi.ac.uk/)、TIGRデータベース(http://www.tigr.org/tdb/index.htmlを参照すること)、NRL−3Dデータベース(http://www.nbrfa.georgetown.edu)、Protein Data Base(http://www.rcsb.org/pdb)、NRDBデータベース(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/pub/nrdb/README)、OWLデータベース(http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/dbbrowser/OWL/)等が挙げられ、並びに二次データベースとしては、PROSITE(http://expasy.hcuge.ch/sprot/prosite.html)、PRINTS(http://iupab.leeds.ac.uk/bmb5dp/prints.html)、Profiles(http://ulrec3.unil.ch/software/PFSCAN#form.html)、Pfam(http://www.sanger.ac.uk/software/pfam)、Identify(http://dna.stanford.edu/identify/)及びBlocks(http://www.blocks.fhcrc.org)データベース等が挙げられる。商業的に利用可能なデータベース又は民間のデータベースの例としては、PathoGenome(ゲノム・セラピューティックス社)及びPathoSeq(かつてはインサイト・ファーマシューティカルズ社のもの)等が挙げられる。
【0036】
一般に、2種のポリペプチド間(好ましくは、活性部位等の特定領域上)の同一性が30%を超える場合、これは機能的等価性を示唆していると判断され、従って2種のタンパク質が相同的であることが示唆される。好ましくは、ホモログであるタンパク質は、図2に示すEV576タンパク質配列との配列同一性の程度が60%を超えるものである。より好ましいホモログは、図2に示すEV576タンパク質配列との同一性の程度が、それぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%を超えるものである。本明細書においては、パーセントによる同一性とは、NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が指定しているデフォルトパラメータを用いるBLASTバージョン2.1.3を用いて測定されるものである[Blosum62マトリックス;ギャップ・オープン・ペナルティ=11及びギャップ・エクステンション・ペナルティ=1]。
【0037】
図2に示すEV576タンパク質配列のホモログとしては、例えば1、2、3、4、5、7、10以上の多くのアミノ酸の野生型配列からアミノ酸が置換、挿入又は欠失した変異体が挙げられるが、これは、これら変異体がC5に結合する能力を有する場合に限る。従って、変異体としては、有害な方法でタンパク質の機能又は活性に影響を与えることのない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質が挙げられる。この用語はまた、天然の生物学的変異体(例えばEV576タンパク質が由来する種の範囲内の対立遺伝子変異体又は地理的変異体)を含むものとする。C5に結合する能力が改善した変異体は、タンパク質配列内の特異的残基の計画的な又は誘導された変異によって設計することもできる。
【0038】
EV576タンパク質の断片、並びにEV576タンパク質のホモログの断片は、もしその断片がC5に結合する能力を有しているならば、「機能的等価物」の用語に包含される。断片としては、150未満のアミノ酸、125未満のアミノ酸、100未満のアミノ酸、75未満のアミノ酸、50未満のアミノ酸、或いは更に25以下のアミノ酸であるEV576タンパク質配列に由来するポリペプチドを挙げることができるが、それは、これらの断片が補体C5と結合する能力を有している場合に限る。
【0039】
このような断片としては、上述のように、図2において本明細書で明示的に同定されているO.moubataのEV576タンパク質の断片だけでなく、このタンパク質のホモログの断片も挙げられる。ホモログのこのような断片は、一般に図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性が60%を超えるものである。但し、より好ましくは、ホモログの断片は、図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性の程度がそれぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%超を示すものである。勿論、改善された断片は、野生型配列の計画的な変異又は断片化の後、適切な活性アッセイによって合理的に設計することができる。断片はEV576と比べて、C5に対する親和性が同等以上である場合やC5に対するIC50が同等以上である場合がある。
【0040】
本発明に従って用いられる機能的等価物は融合タンパク質であってよく、それは、例えば異種タンパク質配列のためのコード配列にEV576タンパク質をフレーム単位でコードするポリヌクレオチドのクローン化によって得られる。「異種」という用語は、本明細書において用いられる場合、EV576タンパク質又はその機能的等価物以外の全てのポリペプチドを示すものとする。N末端かC末端のいずれかの可溶性融合タンパク質に含まれ得る異種配列の例としては:膜結合型タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、エクスポート配列、或いは親和性クロマトグラフィーによる精製を可能にする配列等が挙げられる。これらの配列は、それらに融合するタンパク質の特異的生物活性を大きく低下させることなく追加特性を付与するために融合タンパク質に共通に含まれることから、発現プラスミド内のこれらの異種の配列の多くは、商業的に入手可能である[15]。このような追加特性の例としては、体液内でより長く続く半減期、細胞外局所化、或いはヒスチジン又はHAタグ等のタグによって可能となるより簡単な精製方法等が挙げられる。
【0041】
EV576タンパク質及びその機能的等価物は、宿主細胞における発現によってリコンビナント形態で調製することができる。このような発現方法は、当業者によく知られており、文献[16]や[17]に詳述されている。EV576タンパク質及びその機能的等価物のリコンビナント形態物は、好ましくは非グリコシル化される。
【0042】
本発明のタンパク質及び断片は、タンパク質化学の従来方法を用いて調製することもできる。例えばタンパク質断片は、化学合成によって調製することができる。融合タンパク質の生成方法は、本技術分野において標準的なものであり当業者によく知られている。例えば、一般的な分子生物学的、微生物学的組換えDNA技術及び免疫学的技法の多くは、文献[16]や[18]に見ることができる。
【0043】
本発明の方法又は使用においてC5に結合する剤が投与される被験体は、好ましくは哺乳類、好ましくはヒトである。また、C5に結合する剤が投与される被験体は、全身性自己免疫及び結合組織疾患(例えばリウマチ関節炎、全身性紅斑性狼瘡、結節性多発性動脈炎、全身性硬化症)等の、呼吸器疾患に関連する更なる疾患も患っていてよい。
【0044】
前記剤は治療的又は予防的に有効な量で投与される。「治療的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を治療又は改善するために必要な剤の量をいう。本明細書において用いられる「予防的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を予防するために必要な剤の量をいう。
【0045】
好ましくは、前記剤の投与量は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な量である。好ましくは、提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の少なくとも2倍である。提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の2.5倍、3倍、又は4倍とすることができる。好ましくは、前記投与量は、0.0001mg/kg(薬物の質量対患者の質量)〜20mg/kg、好ましくは0.001mg/kg〜10mg/kg、より好ましくは0.2mg/kg〜2mg/kgである。
【0046】
必要な投与頻度は、関係する剤の半減期によって決まる。前記剤がEV576タンパク質又はその機能的等価物である場合、その投与は、連続点滴やボーラス投与、或いは1日1回、1日2回、或いは2、3、4日に1回、更には5、6、7、10、15又は20日以上毎に1回行うことができる。
【0047】
正確な用量及び投与頻度は、投与時の患者の状態によって決めてもよい。用量を決定する際に考慮し得る要素としては、患者の疾病状態の重症度、患者の健康状態、年齢、体重、性別、食事、投与期間及び投与頻度、薬物の併用、反応感度、及び治療に対する患者の忍容性又は反応が挙げられる。正確な量は、ルーチン試験で決定することができるが、最終的には臨床医に判断する責任がある。
【0048】
前記剤は、医薬的に許容しうる担体の一部として一般的に投与されるものである。本明細書において用いられる用語「医薬的に許容しうる担体」は、担体自体が毒性影響を誘起することがなく且つ医薬組成物が投与を受ける個体に有害な抗体の産生の原因となることがない限り、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、不活性ウイルス粒子、その他の剤を包含する。医薬的に許容しうる担体には更に、水や生理的食塩水、グリセロール、エタノール等の液体、湿潤剤や乳化剤、pH緩衝物質等の補助物質等を含有させることができる。よって、投与経路に応じて用いられる医薬担体は様々である。医薬組成物は担体によって、患者による摂取を助ける錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤に調製することができる。医薬的に許容しうる担体については、文献[19]に詳細な考察を見ることができる。
【0049】
前記剤は、公知のいずれの投与経路によっても送達することができる。前記剤は、経鼻的に或いは吸入によって送達することができ、その際、例えば計量吸入器やネブライザ、乾燥粉吸入器、経鼻吸入器を用いることができる。前記剤は非経口経路(例えば皮下、腹腔内、静脈内又は筋肉内における注射、又は組織の間質腔への送達)によって送達することができる。また、前記組成物は病変部に投与することもできる。その他の投与形態としては、経口及び肺内投与、坐薬、経皮性又は経皮的塗布、針、ハイポスプレー等を挙げることができる。
【0050】
C5に結合する前記剤は単独で投与するか、又は呼吸器疾患患者の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。例えば前記剤は、コルチコステロイド、免疫抑制剤、細胞障害性薬剤、抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等)、ヒスタミンとセロトニン結合分子、ケモカインとサイトカイン拮抗剤、抗菌剤、抗菌剤、駆虫剤の点滴と組み合わせて、或いは血液透析や血漿分離交換法等の処置と組み合わせて投与することができる。各薬物治療を組み合わせることにより、疾患の治療に対する相加効果又は相乗効果を得ることが出来る。
【0051】
従って本発明は、治療において使用するための次の(i)及び(ii)、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)コルチコステロイド、免疫抑制剤、細胞障害性薬剤、抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等)、ヒスタミンとセロトニン結合分子、ケモカインとサイトカイン拮抗剤、抗菌剤、駆虫剤の一種以上、を提供するものである。
【0052】
本発明はまた、呼吸器疾患を治療するための医薬の製造における(i)及び(ii)の使用、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)コルチコステロイド、免疫抑制剤、細胞障害性薬剤、抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等)、ヒスタミンとセロトニン結合分子、ケモカインとサイトカイン拮抗剤、抗菌剤、駆虫剤の一種以上、の使用を提供するものである。
【0053】
C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に、又は別々に投与することができる。例えば、C5に結合する前記剤は他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0054】
従って本発明は、被験体における呼吸器疾患を治療するための医薬の製造におけるC5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物の使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、コルチコステロイド、免疫抑制剤、細胞障害性薬剤、抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等)、ヒスタミンとセロトニン結合分子、ケモカインとサイトカイン拮抗剤、抗菌剤、駆虫剤の内の一種以上による治療を予め受けているものである。
【0055】
本発明はまた、被験体における呼吸器疾患を治療するための医薬の製造における、コルチコステロイド、免疫抑制剤、細胞障害性薬剤、抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等)、ヒスタミンとセロトニン結合分子、ケモカインとサイトカイン拮抗剤、抗菌剤、駆虫剤の内の一種以上の使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物による治療を予め受けているものである。
【0056】
C5に結合する前記剤は、呼吸器疾患が関連する他の疾患の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に又は別々に投与することができる。例えばC5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0057】
次に、実施例によって本発明の各アスペクト及び実施態様をより詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく細部を変更することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】補体活性化の古典経路及び代替経路の概略図。酵素成分はダークグレーで示し、アナフィラトキシンは星形で囲んで示す。
【図2】EV576の一次配列。シグナル配列に下線を施す。システイン残基を太字で示す。ヌクレオチド番号とアミノ酸番号を右側に示す。
【図3A】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。A)陰イオン交換クロマトグラフィー。
【図3B】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。B)フラクションの古典的溶血アッセイ。
【図3C】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。C)還元型SDS−PAGE。
【図3D】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。D)RP−HPLC。
【図4A】EV576の作用機序。A)C3a産生に影響なし。
【図4B】EV576の作用機序。B)C5a産生の防止。
【図4C】EV576の作用機序。C)C5と直接結合。
【図5A】組換えEV576。A)組換えEV576(rEV576)によって、補体はネイティブEV576と同程度に効果的に阻害される。
【図5B】組換えEV576。B)EV576の構造。
【図6A】喘息の急性モデルにおけるrEV576の効果。A)メタコリン処置後のPenHレベル(マウス)。
【図6B】喘息の急性モデルにおけるrEV576の効果。B)PenH誘導後の気管支肺胞洗浄液(BAL)からの分画細胞計数。
【図7A】肺免疫複合体モデルにおけるrEV576の効果。A)免疫複合体肺胞炎において、rEV576は血管透過を低減させる。
【図7B】肺免疫複合体モデルにおけるrEV576の効果。B)免疫複合体肺胞炎において、rEV576は気管支肺胞洗浄液(BAL)及び肺からの好中球の動員を阻害する。
【図7C】肺免疫複合体モデルにおけるrEV576の効果。C)肺組織切片は、免疫複合体肺胞炎によって肺組織に誘導された好中球動員をrEV576が阻止することを示している。
【実施例】
【0059】
1.作用機序及び阻害濃度
文献[20]に開示されているように、EV576は、ヒメダニ類のOrthinodoros moubataの唾液腺抽出物を用いて、古典的溶血アッセイ(図3)により補体阻害活性があることが判明した唾液腺抽出物フラクションをSDS−PAGE及びRP−HPLCに付すことにより精製した。
【0060】
EV576は、ヒトとモルモットの両方の古典的経路及び代替経路を阻害する。EV576は、C3aの産生速度には影響を及ぼさないが(図4A)C5からC5aへの分解を防止する(図4B)。
【0061】
補体の古典経路と代替経路を阻害するEV576の能力は、補体C5(C5aとC5b−9の前駆体)に分子が結合することによりもたらされる。EV576は、IC50約0.02mg/mLでC5に直接結合する(図4C)。各種血清因子が演じる正確な結合機構と副次的役割(あるとすれば)は研究中である。
【0062】
グリコシル化部位が除去された組換えEV576(rEV576)(除去されていない場合は酵母発現系においてグリコシル化される)は、非グリコシル化ネイティブタンパク質と同程度の活性を有する(図5A)。
【0063】
EV576はその構造からリポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであることが確認され、モウバチン(O.moubata由来の血小板凝集阻害剤)との同一性は46%である(図5B)。リポカリンはヒメダニ類のタンパク質の巨大な群であり、その機能については稀な例外を除いて不明である。
【0064】
2.喘息マウスモデルに対するEV576の効果
OVA感作マウスと誘発(チャレンジ)マウスにおいて、3種の異なる濃度のrEV576に対する応答を、ブデソニド処置及び非感作/非攻撃誘発コントロールと比較した。
【0065】
雌性Balb/cマウス(5〜8週齢)を下表に示すようにグループ分けした。
【0066】
【表1】

【0067】
0日目と14日目に、B〜F群のマウスに対し、10μgOVAの200μL明礬中懸濁液を腹腔内注射してOVA感作した。次いで18日目〜23日目まで、全マウスに毎日20分間、5%OVA(蒸留水中)のエアロゾル曝露することで攻撃惹起させた。また、21日目〜24日目まで、C〜F群のマウスにはOVAチャレンジの1時間前にrEV576をエアロゾル投与する処置を行った。実験の終り(24日目)に、メタコリン・チャレンジ試験として、濃度(PBS中)を3.125mg/mLから50mg/mLまで段階的に増加させたメタコリンに全マウスを曝露した。気管支肺胞洗浄(BAL)液を集めサイトスピン調製物とし、浸潤炎症細胞の分析を行った。
【0068】
気道の過敏性評価にはpenHを利用した(http://www.buxco.com/Response%20Standard.pdf参照)。Penhのアルゴリズムは全身プレチスモグラフ法による実験から得られ、呼息相前半部の平均振幅を呼息相後半部の平均振幅と比較し、呼息相のピーク振幅を吸息相のピーク振幅と比較する。
【0069】
PenHの応答は、OVA/明礬で感作した後にOVAエアロゾルに曝露することで気道の過敏性がもたらされることを明確に示している。これはpenH値が、A群と比べB群でより高い値に上昇していることからわかる。ブデソニド処置(F群)はpenHの応答を顕著に低減させ、平均値は非感作エアロゾル・チャレンジマウス(A群)の値より下回った。同様に、rEV576での処置はpenH値をバックグラウンドまで、或いはバックグラウンドより多少低いレベルにまで低下させた。最低用量のrEV576でもpenHを十分に低下させた(図6A)。
【0070】
気管支肺胞洗浄液(BAL)への肺細胞浸潤についても評価した。予想通り、感作によってBAL中の細胞数顕著な上昇がもたらされ、その中の主要な細胞型は好酸球であった。感作した動物とエアロゾル・チャレンジされただけの動物を比べると、感作した動物のBAL中の好中球とリンパ球の数にも多少の上昇が見られた。ブデソニド処置は、未処置群(B)と比べてBAL中の好酸球、好中球、リンパ球の数を減少させた。好酸球数の減少は同様の実験で見られた数より小さかった。rEV576での処置は、少なくともブデソニドと同様に好酸球、好中球の浸潤を軽減させたが、全ての試験用量で未処置マウスに比べ明らかな好酸球数において明確な差があった。処置群は全てBAL中の単球数の僅かな上昇を伴った。単球数は少ないので、これらの差は有意ではないように考えられる(正式な統計処理は行っていない)(図6B)。
【0071】
rEV576は、OVAモデルにおいて急性喘息を緩和する効力を有する。rEV576はその全ての試験用量で気道の過敏性をバックグラウンドまで低下させ、肺への細胞浸潤を低減できた。肺好酸球数に及ぼす影響はpenHに及ぼす影響よりかなり少なく、これは、rEV576の効果が気道反応性の基礎をなす細胞プロセスの制御能力とは少なくとも部分的に独立したものであることを示唆している。
【0072】
2.肺における、免疫複合体で誘起される肺胞炎に対するEV576の効果
免疫複合体で誘導された肺胞炎に対するrEV576の効果を調べるため、C57/BL6雄性マウス(約8週齢;体重約25g)にエバンズ・ブルー(EB)を0.3%含有する300μgのOvaを0、50、或いは250μgのrEV576と共に腹腔内投与した。その直後、各マウスに150μgの抗Ova抗体を鼻腔内適用した。抗体投与の4時間後にマウスを犠牲にし、肺を等張液で灌流し、BALを行って肺を切除してMPOを測定した。BAL中の細胞をカウントし、Diff−Quickで分染した[21]。実験は2回行った(各回とも4匹からなる群を使用)。
【0073】
血管漏洩、気管支肺胞洗浄液(BAL)への好中球の動員、肺ミエロペロキシダーゼ(MPO)活性、及び組織切片の炎症について調べた。
【0074】
陽性コントロールとしてp38MAPK阻害剤を用いた。この剤のLPS誘起血管漏洩阻害については文献[21]に記載されている。p38MAPK阻害剤は、免疫複合体で誘起される肺胞炎の進展と好中球の動員を、鼻腔内投与の場合は完璧に、また経静脈投与の場合は部分的に防止した。
【0075】
rEV576は免疫複合体肺胞炎における血管漏洩を低減させる
免疫複合体の生成とその局所的堆積は急性炎症反応を誘起する。血管漏洩は、気管支肺胞空間(BAL)に漏出したエバンズ・ブルーを測定することによって決定した。BALは遠心操作によって細胞から抽出し、吸収の測定にはELISAプレート・リーダーを用いた(OD610nmで測定)。
【0076】
rEV576の経静脈投与(50μg、250μg)は、免疫複合体で誘起される、BAL液への毛管漏洩を防止した。MAPK阻害剤は、50μgで同様に有効であった(図7a)。
【0077】
rEV576は、免疫複合体肺胞炎においてBAL及び肺の好中球動員を阻止する
BALへの、免疫複合体で誘起された好中球動員は、rEV576の50μg投与(p<0.05、n=4)及び250μg投与(経静脈ルート)で阻害された。MAPK阻害剤は、50μgで顕著な効果を示さなかった(データは示さず)。
【0078】
肺組織におけるミエロペロキシダーゼ・アッセイ(MPO)の活性を、レフォート(Lefort)ら[22]の記載に従って評価した。即ち、凍結した肺を1mLの氷冷PBS中、ポリトロン・ミキサーで30秒間ホモジナイズした。エクストラクトを遠心(10000×g、10分、4℃)し、上清を捨てた。沈澱物を1mLのPBS−HTAB−EDTA(0.5%のHTAB即ちヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドと1mM EDTAを含有するPBS)中に再懸濁させ、30秒間ホモジナイズし遠心した。上清(100μL)を、2mLのハンクス平衡塩溶液(HBSS、w/Ca2+とMg2+)、200μLのPBS−HTAB−EDTA、100μLのo−ジアニシジン(1.25mg/mL−H2O)、100μLのH22と共に試験管に入れた。攪拌下、37℃で15分間インキュベート後、氷上に移し100μLのNaN3を添加することで反応を停止した。MPO活性を460nmでの吸収によって定量した。
【0079】
肺への好中球の動員を肺組織ホモジネート中のMPO測定値によって評価したところ、免疫複合体反応に際して静脈投与されたEV576(50μg、250μg)によって用量依存的に阻止された。MAPK阻害剤は、50μgで同様に有効であった(図7B)。
【0080】
肺組織検査
肺組織における、免疫複合体誘起の好中球動員を、肺組織切片によって更に検査した。気管支肺胞洗浄後、肺を切除(抗−Ovaの投与4時間後)し、4%の緩衝ホルムアルデヒドで固定化してH&Eによる標準顕微鏡分析を行った。気管支周囲の浸潤を、2名の独立した観察者が半定量的なスコア(0〜3)で評価した。
【0081】
静脈投与されたrEV576(50μg)とMAPK阻害剤とは、肺の好中球動員、出血、浮腫を防止した(図7C)。
【0082】
このデータは、静脈投与されたrEV576が、免疫複合体肺損傷によって誘起された、肺組織及びBALへの毛細管漏出、好中球動員及び出血に対して有効な阻害剤であることを示している。
【0083】
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[22] Lefort, J., et. al., J Immunol, 1998. pages 161-474.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器疾患を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法。
【請求項2】
呼吸器疾患を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用。
【請求項3】
前記剤は、補体C5がC5コンベルターゼによって補体C5aと補体C5b−9とに分解されるのを防ぐ作用をする、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記剤はIC500.2mg/mL未満でC5に結合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記剤は吸血性節足動物に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項6】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項8】
前記剤は、請求項6又は7に記載のタンパク質をコードする核酸分子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項9】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項8に記載の方法又は使用。
【請求項10】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項9に記載の方法又は使用。
【請求項11】
前記被験体は哺乳類であり、好ましくはヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項12】
前記剤は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な用量で投与される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項13】
C5に結合する剤は、呼吸器疾患の治療のための他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項14】
前記他の薬物は、ベクロメタゾン、ブデソニド、フルチカゾン等のステロイド;サルブタモールやテルブタリン等のベータ拮抗剤;イプラトロピウムやオキシトロピウム等の抗コリン作動剤;免疫抑制剤;細胞障害性薬剤;抗アレルギー剤(抗ヒスタミン等);ヒスタミンとセロトニン結合分子;ケモカインとサイトカイン拮抗剤;抗菌剤;及び抗菌剤からなる群から選択される一種以上である、請求項13に記載の使用方法。
【請求項15】
C5に結合する前記剤は、他の一種以上の薬物と同時に、順次的に又は別々に投与される、請求項13又は請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
前記呼吸器疾患は、喘息(重度のものやステロイド抵抗性喘息を含む)、COPD、免疫複合体肺胞炎(有機粉塵、カビ、風媒アレルゲン、無機粉塵、化学薬品等への曝露によって引起されるものを含む);これらの病態の例として、限定されるものではない:農夫肺、ハト(乃至その他のトリ)愛好者肺、納屋熱、製粉工肺、金属加工者肺、加湿器熱、珪肺、塵肺症、アスベスト肺、綿工場熱、ベリリウム中毒症、中皮腫;全身性の或いは吸入性の薬物や化学薬剤である次のような剤、但し限定されるものではない:ブレオマイシン、マイトマイシン、ペニシリン、スルフォンアミド、セファロスポリン、アスピリン、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)、タルトラジン、ACE阻害剤、ヨウ素含有造影剤、非選択性β遮断剤、スキサメトニウム、ヘキサメトニウム、チオペントン、アミオダロン、ニトロフラントイン、パラコート、酸素、細胞障害性剤、テトラサイクリン、フェニトイン、カルバマゼピン、クロルプロパミド、ヒドララジン、プロカインアミド、イソニアジド、p−アミノサリチル酸への曝露によって引起される喘息、鼻炎、肺胞炎、びまん性線維性肺疾患;次のような物理的肺損傷、但しこれらに限定されるものではない:挫滅損傷、煙や熱いガスの吸入、爆発傷、放射線障害、吸引性肺炎、リポイド肺炎;次のような臓器移植、但しこれらに限定されるものではない:心臓移植、肺移植、骨髄移植、に伴う肺損傷;原因不明の繊維形成性肺胞炎;アレルギー性肉芽腫症(チャーグ−ストラウス症候群);ウェーゲナー肉芽腫症;閉鎖性気管支梢炎;間質肺線維症;嚢胞性繊維症;自己免疫及び結合組織疾患の次のような呼吸器症状、但しこれらに限定されるものではない:リウマチ疾患、全身性紅斑性狼瘡、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発筋炎、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、キャプラン症候群;グッドパスチュア症候群;肺胞蛋白症;突発性肺血鉄症;ヒスチオサイトーシスX;次のような好酸球増多性肺浸潤(PIE)症、但しこれらに限定されない:単純性肺好酸球増加症、遷延性肺好酸球増加症、喘息性気管支肺好酸球増加症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス腫、侵襲性アスペルギルス症、熱帯性肺好酸球増加症、過好酸球増加症候群、寄生虫の体内侵入;及びリンパ管平滑筋腫(LAM)からなる群から選択される疾患である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項17】
前記呼吸器疾患は喘息とCOPDからなる群から選択される疾患である、請求項16に記載の方法又は使用。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2010−502687(P2010−502687A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527208(P2009−527208)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003404
【国際公開番号】WO2008/029169
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(509064657)ヴァーレイ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】