説明

呼吸器疾患の治療

本発明は、呼吸器疾患、詳細には、病原体感染によって引き起こされる呼吸器疾患および浮腫の治療に関する。詳細には、本発明は、呼吸器疾患を治療するための経口投与可能な医薬組成物、およびこのような治療の方法に関する。本発明は、特に、インフルエンザウイルス株などによる、ウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に関する。本発明はまた、呼吸器疾患だけでなく様々な疾患において現れる炎症性疼痛を治療するための鎮痛組成物および方法に及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器疾患、詳細には、病原体感染によって引き起こされる呼吸器疾患および浮腫の治療に関する。詳細には、本発明は、呼吸器疾患を治療するための経口投与可能な医薬組成物、およびこのような治療の方法に関する。本発明は、特に、既存のウイルスだけでなく、インフルエンザの大流行を引き起こす可能性のある既存のウイルスから突然変異した将来の派生ウイルス株をも包含するインフルエンザウイルス株などによる、ウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に関する。本発明はまた、呼吸器疾患だけでなく様々な疾患において現れる炎症性疼痛を治療するための鎮痛組成物および方法に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
呼吸器疾患は、呼吸器系の疾患に使用される用語であり、肺、胸腔、気管支、気管などの上下気道の疾患、ならびに呼吸に関わる神経および筋肉の疾患を含む。呼吸器疾患は、感冒のような軽度であって一定の経過をたどるものでありえ、しばしば治療を必要とせずに治まる。しかし、呼吸器疾患はまた、細菌性肺炎またはウイルス性肺炎のような生命にかかわるものでありえ、幼児、高齢者、肺に既往症を有する人々、および免疫機能の低下している人々など、微生物感染の影響をより受けやすい人々には、特別な看護と更なる治療が必要であり得る。
【0003】
呼吸器疾患の治療は、治療されている特定の疾患、疾患の重症度、および患者に左右される。ワクチン接種は、抗生物質の使用と同様に、特定の呼吸器疾患を予防し得る。しかし、ウイルス感染症および真菌感染症の拡大、ならびにヒト細菌性病原体における抗菌薬耐性の出現は、世界的に深刻化している問題である。更に、抗菌薬の導入以来、耐性の出現は、特にE. coliおよびStaphylococcus spp.などの重要な病原体にますます広まっている。結果として、このような微生物についての効果的な治療および呼吸器疾患の管理は、より大きな課題になっている。
【0004】
疾患に対する防御はすべての動物の生存にとって重要であり、この目的のために用いられる機構は動物の免疫系である。免疫系は非常に複雑であり、2つの主要な部分、(i)先天性免疫および(ii)適応免疫から成る。先天性免疫系は、非特異的に、侵入微生物による感染から宿主を防御する細胞および機構を含む。先天性免疫系に関与する白血球は、特に、マクロファージ、好中球、および樹状細胞などの食細胞を含む。先天性免疫系は、病原体が宿主に侵入する前に完全に機能し得る。
【0005】
一方、適応免疫系は、病原体が宿主に侵入した後にのみ開始され、その時点でその病原体に特異的な防御を発現させる。適応免疫系の細胞はリンパ球と呼ばれ、その2つの主要な種類はB細胞およびT細胞である。B細胞は、血漿およびリンパ液中を循環する中和抗体の産生に関与し、液性免疫反応の一部を形成する。T細胞は、液性免疫反応と細胞性免疫との両方において機能する。活性化T細胞またはエフェクターT細胞といういくつかのサブセットがあり、それらは細胞傷害性T細胞(CD8+)、ならびに1型ヘルパーT細胞(Th1)および2型ヘルパーT細胞(Th2)として知られる2つの主要な種類がある「ヘルパー」T細胞(CD4+)を含む。
【0006】
Th1細胞は細胞性適応免疫反応を促進し、それはマクロファージの活性化を伴い、抗原に応答して、IFNγ、TNF-αおよびIL-12などの様々なサイトカインの放出を促進する。これらのサイトカインは、適応免疫反応および先天性免疫反応において他の細胞の機能に影響を及ぼし、微生物の破壊を引き起こす。通常、Th1反応は、宿主細胞の内部に存在するウイルスおよび細菌などの細胞内病原体に対してより効果的である。しかしながら、Th2反応は、IL-4の放出を特徴とし、それはB細胞の活性化を引き起こして中和抗体を産生し、液性免疫を誘導する。Th2反応は、宿主細胞の外部にある寄生生物および毒素などの細胞外病原体に対してより効果的である。従って、液性反応および細胞性反応は、侵入病原体に対して全く異なる機構を提供する。
【0007】
本発明は、呼吸器の疾患を治療するための新規組成物の開発に関する。本発明は、特に、インフルエンザのような急性ウイルス感染症を含む広範なウイルス感染症の治療、詳細には、それによって引き起こされる呼吸器疾患および浮腫の治療のための新規治療法の開発に関する。
【0008】
それぞれの新しいウイルスに対するワクチンの必要性にもかかわらず、ワクチン接種を受けずに季節性インフルエンザ(annual flu)に感染した大部分の個体は、それでもなお新規ウイルスに対するある程度の免疫防御を有するであろう。これは、新規ウイルスを生じさせる突然変異が比較的小さく、それ故に個体の既存の抗体反応がまだ新規ウイルスに対するある程度の防御を提供することができるためである。この既存の抗体反応は、対象者がインフルエンザ感染の結果として重症化するかまたは死亡する可能性の低下に重要な役割を担うことが見いだされている。個体の既存の抗体反応が、新規インフルエンザウイルス株を中和する能力が非常に小さいかまたは新規インフルエンザウイルス株を中和する能力を持たない場合、個体がこの新規株に対して示す自然細胞性免疫反応が、抗体反応より優勢になり、重度の肺病変または死にさえもつながる制御されない炎症反応を発現し得る。これは、細胞性免疫反応およびその関連サイトカインの調節において抗体が担う役割によるものである。
【0009】
サイトカインは、多くの異なる細胞型、ある種の免疫細胞およびある種の非免疫細胞によって産生され、それらはウイルス感染との戦いに携わる免疫細胞の種類および増殖率を決定する。中和抗体反応がない場合、細胞性免疫反応の種類およびレベル、ならびにその結果として生じるサイトカイン環境の両方が変化し、著しく増加する。この細胞性反応およびサイトカイン反応の増加は、個体に重度の肺機能障害(例えば肺水腫)の発症を引き起こし、最も重症な場合には死に至り得る。
【0010】
いくつかのサイトカインはこの問題の誘発に関与することが知られている。TNF-α、IL-12およびIFN-γは、作用していると考えられる最も重要なサイトカインのうちの3つである。BaumgarthおよびKelso(J. Virol., 1996, 70, 4411-4418)は、Th1サイトカイン、IFN-γの中和が、感染後の肺組織への細胞浸潤の程度の有意な減少を引き起こし得ることを報告し、IFN-γが、炎症を起こした肺における白血球輸送量の増加を調節する機構に関与しうることを示唆した。彼らはまた、IFN-γが、気道における局所的な細胞性反応、ならびにインフルエンザウイルス感染に対する全身的な液性反応に影響を及ぼすと仮定した。
【0011】
この研究に続いて、本発明者らは、IFN-γ、およびTNF-αなどの他のサイトカインの抑制が可能であるかどうか、もしそうであれば、それがインフルエンザの治療において有用でありうるかどうかの決定を試みた。本発明者らの以前の実験において、本発明者らは、in vitro試験を用いて、それらが急性ウイルス感染を反映するような方法で刺激された末梢血単核細胞(PBMC)において、特定の化合物がIFN-γおよびTNF-αの濃度を減少させるために効果的に使用され得ることを実証した。本発明者らはまた、in vivoマウス試験を用いて、これらの同じ化合物がインフルエンザ攻撃マウスにおいて体重および生存率の増加をもたらすことを実証した。本発明者らは、このため、IFN-γおよびTNF-αの濃度の減少とマウス試験において見られた生存率の増加との間に直接的な関連があると仮定した。
【0012】
従って、これらの以前の発見に基づき、本発明者らは次に、in vivoマウス試験を用いて、事前にインフルエンザウイルスで攻撃されたマウスに対するイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬の効果を研究することを決定した。イブプロフェンは、最初はマウスの腹腔内(I.P.)に投与され、図1および2に示されるように、本発明者らは、対照マウスと比較した際、試験マウスにおいて体重減少率と生存率のいずれにおいても何も良い効果が現れないことを観察した。本発明者らは、そのため、親油性の製薬上許容されうるベヒクルと組み合わせてイブプロフェンを再調製し、それをその後試験マウスに経口投与した。
【0013】
図3および4に示されるように、意外にも、本発明者らは、腹腔内投与されたイブプロフェンとは対照的に、油性製剤中にて経口投与されたイブプロフェンが、対照マウスと比較して、体重減少率と生存率との両方に対して良い効果をもたらすことを観察した。本発明者らはまた、親油性ベヒクルの使用が、肺におけるイブプロフェンの生物学的利用能の増加をもたらし、インフルエンザ攻撃マウスに対してその効果を発揮できることを示した。本発明者らは、本発明者らの最新の発見がイブプロフェンだけに限定されず、親油性の製剤ベヒクルが呼吸器疾患の治療用の任意の非ステロイド性抗炎症薬の経口送達を改善するために使用されうると考える。
【発明の概要】
【0014】
従って、本発明の第一の態様では、経口投与のための医薬組成物が提供され、その組成物は、治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含み、その組成物は呼吸器疾患の治療に用いられる。
【0015】
第二の態様では、呼吸器疾患を予防、治療および/または改善する方法が提供され、その方法は、このような治療を必要としている対象に、治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含有する医薬組成物を経口投与することを含む。
【0016】
第三の態様では、対象の肺における非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の生物学的利用能を増加させるための、経口投与可能な医薬組成物中での、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、in vivoでのマウス攻撃の結果(%体重減少を測定した)を示すグラフであり、マウスを最初にH1N1ウイルスに感染させ、その後、攻撃後3日目に動物に10μl DMSO中335.6 μg/動物の用量(20mg/kg/日;すなわち最大標準用量としてのヒト1日あたり1200 mgに相当する)でイブプロフェンを腹腔内注射した。対照マウスには腹腔内に薬物ベヒクルのみ、すなわち10μl DMSOを与えた。体重減少率を6日間にわたって測定した。
【図2】図2は、図1と関連して記載されるin vivoでのマウス攻撃におけるマウスの生存率を示すグラフである。3日目に、インフルエンザ攻撃マウスにイブプロフェンを単回投与量として腹腔内注射し、生存率を測定した。イブプロフェンは、対照マウスには与えられず、IPベヒクル(10μl DMSO)だけが与えられた。
【図3】図3は、in vivoでのマウス攻撃の結果(%体重減少を測定した)を示すグラフであり、マウスをH1N1ウイルスに感染させ、その後、攻撃後3日目に動物に、脂質ベヒクル中335.6 μg/動物の用量でイブプロフェンを経口投与、すなわち、100μlの10%エタノール、90%菜種油中のイブプロフェン(本明細書ではBC1054として知られる)を強制経口投与した。対照マウスには経口薬物ベヒクル、すなわち100μlの10%エタノール、90%菜種油だけを強制経口投与した。体重減少率を6日間にわたって測定した。
【図4】図4は、図3と関連して記載されるin vivoでのマウス攻撃におけるマウスの生存率を示すグラフである。3日目に、マウスにイブプロフェンを単回投与量として経口投与し、生存率を測定した。イブプロフェンは、対照マウスには与えられなかった。
【図5】図5は、ラットにおける胃の炎症を示す表である。ベヒクルおよび試験化合物(第1〜7群)は、それぞれ絶食ラットに経口投与(PO)された。各群には5匹の動物が含まれた。第1群は、イブプロフェンを含まない1%カルボキシメチルセルロース(CMC)ベヒクル10mL/kgで処理され;第2群は、BC1054のベヒクルのみ(すなわち10%エタノール、90%菜種油、イブプロフェンを含まない)1OmL/kgで処理され;第3群は、150mg/kgアスピリンで処理され;第4群は、1% CMCに溶解された1OOmg/kgのイブプロフェンで処理され;第5群は、10%エタノール、90%菜種油に溶解された1OOmg/kgのイブプロフェン(すなわちBC1054)で処理され;第6群は、1% CMC中2OOmg/kgのイブプロフェンで処理され;第7群は、10%エタノール、90%菜種油に溶解された2OOmg/kgのイブプロフェン(すなわちBC1054)で処理された。動物を投与4時間後に屠殺し、胃粘膜病変のスコアを記録した。アスピリン処理群(150 mg/kg PO、100%と設定)と比較して50パーセント以上(≧50%)のスコアを、胃の炎症について陽性と見なし、括弧内に示した。
【図6】図6は、BC1054で処理された試験マウス(左側のバー)および通常の(すなわち脂質ベヒクル中にない)イブプロフェンで処理された対照マウスの肺において見られる、イブプロフェンの相対濃度を比較した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
意外にも、腹腔内投与とは対照的に、イブプロフェンが親油性製剤中で経口投与される場合、マウスでのインフルエンザ誘発性の呼吸器虚脱の治療において非常に効果的であることが示される。本発明者らはいかなる説にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、この意外な観察に対する1つの説明は、イブプロフェンなどのNSAIDsの親油性のためであり得るものであり、このことにより、高い脂質含量(例えば、少なくとも30%(w/w)脂質)を有する油性製剤中で送達される場合、それらがリンパ系を通じて体循環に速やかに吸収されることをもたらすと考える。薬物/脂質製剤を飲んだ際、脂質は胆汁酸塩を含む胆汁と胃で混合され、腸によって吸収されるミセルを形成し、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、およびタンパク質、ならびにNSAIDから成る大きなリポタンパク質粒子であるカイロミクロンに変換される。
【0019】
結果として生じた油/薬物カイロミクロンはその後、近接した消化管によってリンパ系に吸収されうる。NSAIDを含むこれらのカイロミクロンは、消化管リンパ系を通じて中心静脈血管系に輸送され、その後速やかに心臓に輸送され、心臓によってNSAIDに富む静脈血が肺に送り出されると考えられる。その結果、薬物は酸素化された血液中、高濃度で直接肺に送達され、治療部位でのその生物学的利用能を増加させる。本発明者らは、NSAID(例えば、イブプロフェン)のリンパ系吸収が、直接肺に薬物を分布させる受動的なシステムとして機能し、肺を高濃度の薬物に暴露しうるものであり、これが呼吸器疾患の治療の際の重要な利点であると考える。本発明者らは、腹腔内製剤、または脂質を含まないかもしくは低レベルの脂質しか含まない一般的な経口製剤を用いた場合には、この送達機構が起こらず、代わりに肝臓に制御される静脈吸収によって肝門静脈を通じて吸収され、比較的ゆっくり体循環中に薬物を放出すると考える。
【0020】
従って、本発明者らは、第一の態様の組成物に使用される製剤ベヒクル中の高濃度の脂質が、実施例に記載されるように、マウスでのインフルエンザ誘発性の呼吸器虚脱アッセイにおける経口投与されたイブプロフェンの有効性の理由でありうると考える。図6において説得力をもって示されるように、本発明の組成物を投与されたマウスの肺でのイブプロフェンの濃度は、対照マウス(すなわち通常のイブプロフェンを経口投与された動物)の肺でのイブプロフェンの濃度より約8倍高かった。これは、全く予想外であったが、本発明の組成物が意外にも肺におけるNSAIDの生物学的利用能の著しい増加をもたらす明白な証拠である。
【0021】
従って、脂質成分を含有するベヒクルは、対象の肺におけるNSAIDまたはその誘導体の濃度を、腹腔内投与によってか、もしくは(実施例2で用いられるような)脂質を含まないベヒクルを用いた経口投与によって達成されるであろう濃度と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、または少なくとも800%増加させることを可能にしうる。
【0022】
製剤ベヒクルは、少なくとも約10%、20%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または少なくとも約99%(w/w)の脂質を含有しうる。ベヒクルは、約35%〜99%(w/w)の脂質、または約45%〜99%(w/w)の脂質、または約50%〜99%(w/w)の脂質、または約60%〜98%(w/w)の脂質、または約70%〜97%(w/w)の脂質、または約80%〜96%(w/w)の脂質、または約85%〜95%(w/w)の脂質、または約85%〜95%(w/w)の脂質、または約88%〜94%(w/w)の脂質、または約89%〜93%(w/w)の脂質を含有しうる。
【0023】
製剤ベヒクルは、以下からなる群:すなわち、油または油性液体;脂肪;脂肪酸(例えば、オレイン酸、ステアリン酸、もしくはパルミチン酸など)、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、グリセリド(モノ-、ジ-、もしくはトリグリセリド);リン脂質;グリコールエステル;ショ糖エステル;ワックス;グリセロールオレアート誘導体;中鎖脂肪酸トリグリセリド;またはそれらの混合物より選択される脂質成分を含有しうる。トリグリセリドはグリセロールおよび3個の脂肪酸から生じるエステルであり、植物油および動物性脂肪の主成分である。
【0024】
「油」という用語は、標準的な室温で液体である油脂を指し、水に混ざらずベトベトした感触を有する任意の物質に対して使用され得る。「脂肪」という用語は、標準的な室温で固体である油脂を指し得る。従って、「脂質」という用語は、液体または固体の油脂、ならびに他の関連物質を指し得る。
【0025】
製剤ベヒクル中の脂質成分として使用されうる適切な油は、天然油または植物油でありうる。適切な天然油の例は、亜麻仁油;ダイズ油;ヤシ油;トリアセチン;オレイン酸エチル;水素添加天然油;またはそれらの混合物からなる群より選択されうる。適切な植物油の例は、菜種油;オリーブ油;ラッカセイ油(peanut oil);ダイズ油;トウモロコシ油;紅花油;ラッカセイ油(arachis oil);ヒマワリ油;キャノーラ油;クルミ油;アーモンド油;アボカド油;ヒマシ油;ヤシ油;トウモロコシ油;綿実油;米ぬか油;ゴマ油;および精製パーム油;またはそれらの混合物からなる群より選択されうる。これらの油はそれぞれ、当業者によく知られている多数の供給源から市販されている。
【0026】
製剤ベヒクルの脂質成分は、8〜24炭素原子、10〜22炭素原子、14〜20炭素原子、または16〜20炭素原子を含む脂肪酸を含有しうる。脂質は、飽和でもよく、または例えば、1つ、2つ、3つ、もしくはそれ以上の二重結合を有する不飽和でもよい。脂質は、ミリスチン酸(C 14:0);パルミチン酸(C 16:0);パルミトレイン酸(C 16:1);ステアリン酸(C 18:0);オレイン酸(C 18:1);リノール酸(C 18:2);リノレン酸(C 18:3)、およびアラキジン酸(C 20:0);またはそれらの混合物からなる群より選択される脂肪酸を含有しうる。括弧内に示された最初の数字は脂肪酸の炭素原子の数に相当し、第二の数字は二重結合の数(すなわち、不飽和数)に相当することが理解されるであろう。
【0027】
油の融点は、主に飽和/不飽和度によって決定される。オレイン酸(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH)、リノール酸(CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6COOH)、およびリノレン酸(CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6COOH)の融点は、それぞれ約16℃、-5℃および-11℃である。従って、脂質の融点は、約-20℃〜20℃、または約-15℃〜16℃でありうる。
【0028】
1つの実施形態では、製剤ベヒクルの脂質成分は、オリーブ油を含有しうる。しかし、好ましい実施形態では、脂質は、菜種油または亜麻仁油を含有しうる。菜種油はBrassica napusから得られ、オメガ-6脂肪酸とオメガ-3脂肪酸との両方を約2:1の比率で含有する。亜麻油(flax seed oil)としても知られる亜麻仁油(Linseed oil)は、亜麻(Linum usitatissimum, Linaceae)の乾燥完熟種子から得られる、透明から帯黄色の油である。その油は、常温圧搾によって得られ、その後溶媒抽出が行われることもある。亜麻仁油は、それらの脂肪酸成分が異なる様々なトリグリセリドの混合物である。亜麻仁油では、構成脂肪酸は、以下の種類:すなわち、(i)飽和脂肪酸パルミチン酸(約7%)およびステアリン酸(3.4〜4.6%);(ii)一価不飽和オレイン酸(18.5〜22.6%);(iii)二価不飽和リノール酸(14.2〜17%);ならびに(iv)三価不飽和オメガ-3脂肪酸α-リノレン酸(51.9〜55.2%)である。亜麻仁油はまた、オメガ-6脂肪酸にも富んでいる。亜麻仁油に見られる代表的なトリグリセリドの構造は、化学式Iによって表され得る。
【化1】

【0029】
このように、製剤ベヒクルの脂質成分は、オメガ3脂肪酸および/またはオメガ6脂肪酸を含有しうる。オメガ-3脂肪酸は、共通してn-3位、すなわち脂肪酸のメチル末端から3番目の結合に最後の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸群であり、化学式IIによって表され得る。
【化2】

【0030】
一方、オメガ-6脂肪酸は、共通してn-6位、すなわちカルボキシル基の反対側の末端から数えて6番目の結合に最後の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸群であり、化学式IIIによって表され得る。
【化3】

【0031】
オメガ-3脂肪酸およびオメガ-6脂肪酸はリノレン酸の誘導体であり、主な違いは二重結合の数と正確な位置である。従って、オメガ-3およびオメガ-6は、実質的にリノレン酸と同じ融点を有するであろう。
【0032】
ベヒクルは、約90%、80%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%未満、または約1%(w/w)未満のアルコールを含有しうる。ベヒクルは、約1%〜90%のアルコール(w/w)、または約1%〜70%(w/w)のアルコール、または約1%〜60%(w/w)のアルコール、または約1%〜50%(w/w)のアルコール、または約2%〜40%(w/w)のアルコール、または約4%〜30%(w/w)のアルコール、または約6%〜20%(w/w)のアルコール、または約8%〜15%(w/w)のアルコールを含有しうる。アルコールは脂肪族アルコールでありうる。アルコールは、C1-20アルコール、C1-15アルコール、C1-10アルコール、C1-5アルコール、またはC2-4アルコールでありうる。アルコールは、エタノール、プロパノール、またはブタノールでありうる。1つの好ましい実施形態では、アルコールはエタノールである。
【0033】
1つの実施形態では、ベヒクルは、約60%〜95%(w/w)の油および約5%〜40%(w/w)のアルコールを含有しうる。別の実施形態では、ベヒクルは約80%〜95%(w/w)の脂質および約5%〜20%(w/w)のアルコールを含有しうる。例えば、ベヒクルは約80%〜95%(w/w)のオリーブ油、菜種油、または亜麻仁油、および約5%〜20%(w/w)のエタノールを含有しうる。別の実施形態では、ベヒクルは約88%〜92%(w/w)の脂質、および約8%〜12%(w/w)のアルコールを含有しうる。例えば、ベヒクルは約88%〜92%(w/w)のオリーブ油、菜種油、または亜麻仁油、および約8%〜12%(w/w)のエタノールを含有しうる。別の実施形態では、ベヒクルは約90%(w/w)の脂質、および約10%(w/w)のアルコールを含有しうる。例えば、ベヒクルは約90%(w/w)のオリーブ油、菜種油、または亜麻仁油、および約10%(w/w)のエタノールを含有しうる。
【0034】
本発明者らは、水がNSAIDの不安定性を増加させる傾向を有すると考える。従って、好ましい実施形態では、ベヒクルは実質的に無水である。都合のよいことに、ベヒクルの実施形態における水の欠如は、組成物中のNSAIDの安定性が損なわれず、その結果、製品の改善をもたらすことを意味する。
【0035】
しかし、いくつかの実施形態では、ベヒクルは任意選択で水を含有しうる。ベヒクルは、約70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%未満、または約1%(w/w)未満の水を含有しうる。ベヒクルは、約1%〜70%(w/w)の水、または約1%〜60%(w/w)の水、または約1%〜50%(w/w)の水、または約2%〜40%(w/w)の水、または約4%〜30%(w/w)の水、または約6%〜20%(w/w)の水、または約8%〜15%(w/w)の水を含有しうる。
【0036】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、プロピオン酸誘導体、酢酸誘導体、エノール酸誘導体、フェナム酸誘導体、または選択的もしくは非選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤でありうる。NSAIDはプロフェンでありうる。
【0037】
適切なプロピオン酸系NSAID誘導体の例は、イブプロフェン;ナプロキセン;フェノプロフェン;ケトプロフェン;フルルビプロフェン;またはオキサプロジンを含みうる。適切な酢酸系NSAID誘導体の例は、アセクロフェナク;アセメタシン;アクタリット;アルクロフェナク(Alcofenac);アンフェナク;クロメタシン;ジクロフェナク;エトドラク;フェルビナク;フェンクロフェナク;インドメタシン;ケトロラク;メチアジン酸;モフェゾラク;ナプロキセン;オキサメタシン;スリンダク;またはゾメピラクを含みうる。適切なエノール酸系NSAID誘導体の例は、ピロキシカム;メロキシカム;テノキシカム;ドロキシカム;ロルノキシカム;またはイソキシカムを含みうる。フェナム酸系NSAID誘導体の例は、メフェナム酸;メクロフェナム酸;フルフェナム酸;またはトルフェナム酸を含みうる。
【0038】
NSAIDがシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤である実施形態では、それはシクロオキシゲナーゼ1(COX 1)阻害剤、またはシクロオキシゲナーゼ2(COX 2)阻害剤のいずれかでありうる。適切なCOX阻害剤の例は、セレコキシブ;エトリコキシブ;ルミラコキシブ;メロキシカム;ロフェコキシブ;またはバルデコキシブを含みうる。
【0039】
非ステロイド性抗炎症薬は、以下からなる群より選択されうる。すなわち、アルミノプロフェン;ベノキサプロフェン;デクスケトプロフェン;フルルビプロフェン;イブプロフェン;インドプロフェン;ケトプロフェン;ロキソプロフェン;プラノプロフェン;プロチジン酸;スプロフェン;アセクロフェナク;アセメタシン;アクタリット;アルクロフェナク;アンフェナク;クロメタシン;ジクロフェナク;エトドラク;フェルビナク;フェンクロフェナク;インドメタシン;ケトロラク;メチアジン酸;モフェゾラク;ナプロキセン;オキサメタシン;スリンダク;ゾメピラク;セレコキシブ;エトリコキシブ;ルミラコキシブ;メロキシカム;ロフェコキシブ;バルデコキシブ;アロキシピリン;アミノフェナゾン;アントラフェニン(Antraphenine);アスピリン;アザプロパゾン;ベノリラート;ベンジダミン;ブチブフェン;クロルテノキサジン(Chlorthenoxacin);サリチル酸コリン;ジフルニサル;エモルファゾン;エピリゾール;フェクロブゾン;フェンブフェン;グラフェニン;サリチル酸ヒドロキシエチル;ラクチルフェネチジン(Lactyl phenetidin);メフェナム酸;メタミゾール;モフェブタゾン;ナブメトン;ニフェナゾン;ニフルム酸;フェナセチン;ピペブゾン;プロピフェナゾン;プロカゾン;サリチルアミド;サルサラート;チアラミド;チノリジン;およびトルフェナム酸。
【0040】
好ましい非ステロイド性抗炎症薬は、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、プラノプロフェン、プロチジン酸、またはスプロフェンでありうる。好ましくは、NSAIDはイブプロフェンである。
【0041】
非ステロイド性抗炎症薬は、製薬上許容されうる塩、溶媒和物、または塩の溶媒和物、例えば、塩酸塩の形態で使用されうる。
【0042】
本明細書に記載されるNSAIDは、ラセミ化合物として、またはR-もしくはS-エナンチオマーを含む個々のエナンチオマーとして提供されうる。従って、NSAIDは、R-イブプロフェンもしくはS-イブプロフェン、またはそれらの組合せを含みうる。
【0043】
医薬組成物は、劇症呼吸器疾患を治療するために使用されうる。組成物は、浮腫、すなわち肺での液体貯留を治療するために使用されうる。浮腫は、肺循環から液体を除去するための心臓の障害によって引き起こされ(心原性肺水腫と呼ばれる)、または肺実質への直接的損傷から生じうる(非心原性肺水腫と呼ばれる)。
【0044】
実施例に記載され、図3および4に示されるように、本発明者らは、in vivoマウスモデルにおいて、イブプロフェンが、油中に製剤化された場合、ウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の症状を予防、治療または改善するために使用されうることを実証した。従って、本発明者らは、イブプロフェンが急性および慢性ウイルス感染症の治療に使用され得ることを本発明者らが最初に実証したと考える。
【0045】
一般的な病原体誘発性呼吸器疾患または急性呼吸困難は、院内感染性肺炎および市中肺炎である。肺炎は、咳、胸痛、発熱、および肺水腫による呼吸困難を特徴とする。これらの症状は、肺炎を引き起こす病原体にかかわらずすべての肺炎患者において起こり、病原体は細菌(例えばStreptococcus pneumonia)、ウイルス(例えばインフルエンザウイルス)および真菌(例えばHistoplasma capsulatum)であり得る。肺炎を引き起こす病原体にかかわらず症状は同じであり、刺激にかかわらず、炎症過程は、過度の炎症反応を引き起こし、致死的な可能性のある肺水腫を生じる。実施例に記載されるインフルエンザ感染(すなわちウイルス性病原体)に伴う呼吸器疾患の動物モデルでは、評価項目は、肺水腫に関連した評価項目(すなわち感染後の生存率)を測定するように設計される。インフルエンザアッセイにおける、感染後の生存率に対する本発明の組成物の効果は、ウイルスであれ、細菌であれ、または真菌であれ、任意の種類の病原体によって引き起こされる肺水腫における効果の可能性を裏付ける。
【0046】
従って、本発明者らは、細菌、真菌、またはウイルスなどの任意の微生物感染または病原性感染(例えば急性ウイルス感染)によって引き起こされ、ある場合(例えば、インフルエンザ感染)には死に至り得る呼吸器疾患(すなわち浮腫)に対抗するために、本明細書に記載される組成物が使用されうると考える。組成物は、(微生物感染に伴う呼吸器疾患の進行を妨げるための)予防薬として使用されてもよく、または、組成物は、微生物感染に伴う既存の呼吸器疾患を治療するために使用されてもよい。
【0047】
呼吸器疾患を引き起こしうる、本発明の組成物によって治療されうる微生物の例は、呼吸器疾患を引き起こし得る、細菌、ウイルス、真菌、または原生動物、ならびに他の病原体および寄生生物を含みうる。これらの病原体は、上気道もしくは下気道疾患、または閉塞性もしくは拘束性肺疾患を引き起こすことができ、その各々が治療されうる。最も一般的な上気道感染症は感冒であり、それは治療されうる。加えて、副鼻腔炎、扁桃炎、中耳炎、咽頭炎、および喉頭炎などの上気道の特定の器官の感染症もまた、上気道感染症と考えられ、それらは本明細書に記載される組成物によって治療されうる。
【0048】
最も一般的な下気道感染症は肺炎であり、それは本明細書に記載される組成物によって治療されうる。肺炎は通常、細菌、特にStreptococcus pneumoniaeによって引き起こされる。しかし、結核もまた肺炎の重要な原因である。ウイルスおよび真菌などの他の病原体もまた、肺炎、例えば、重症急性呼吸窮迫、急性呼吸窮迫症候群、およびニューモシスチス肺炎を引き起こし得る。従って、本発明の組成物は、呼吸窮迫症候群(RDS)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、または急性肺損傷(ALI)を治療するために使用されうる。更に化合物は、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、および細気管支炎などの、同時病原体感染による疾患を治療するために使用されうる。
【0049】
本発明の医薬組成物は、細菌感染によって引き起こされる呼吸器疾患の予防、治療および/または改善のために有用でありうる。感染を引き起こす細菌は、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌でありうる。組成物が有効である呼吸器疾患を引き起こしうる細菌の例は、Streptococcus spp.、Staphylococcus spp.、Haemophilus spp.、Klebsiella spp.、Escherichia spp.、Pseudomonas spp.、Moraxella spp.、Coxiella spp.、Chlamydophila spp.、Mycoplasma spp.、Legionella spp.、およびChlamydia spp.からなるリストより選択されうる。本発明の組成物が有効である呼吸器疾患を引き起こしうる細菌の種は、Streptococcus pneumoniae、Staphylococcus aureus、Haemophilus influenzae、Klebsiella pneumoniae、Escherichia coli、Pseudomonas aeroginosa、Moraxella catarrhalis、Coxiella burnettie、Chlamydophila pneumoniae、Mycoplasma pneumoniae、Legionella pneumophila、およびChlamydia trachomatisからなるリストより選択されうる。
【0050】
組成物はまた、真菌感染によって引き起こされる呼吸器疾患の予防、治療および/または改善のために有用でありうる。組成物が有効である呼吸器疾患を引き起こしうる真菌の例は、Histoplasma spp.、Blastomyces spp.、Coccidioides spp.、Cryptococcus spp.、Pneumocystis spp.、およびAspergillus spp.からなる群より選択されうる。組成物が有効である呼吸器疾患を引き起こしうる真菌の種は、Histoplasma capsulatum、Blastomyces、Coccidioides immitis、Cryptococcus neoformans、Pneumocystis jiroveci、Aspergillus flavus、Aspergillus fumigatus、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus parasiticus、およびAspergillus terreusからなる群より選択されうる。
【0051】
本発明の組成物は、ウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の予防、治療および/または改善のために特に有用でありうる。本発明者らは、本発明の組成物が、様々な急性または慢性ウイルス感染症、およびそれによって生じうる呼吸器疾患の治療に使用されうると考える。組成物は、(ウイルス感染症の進行を妨げるための)予防薬として使用されてもよく、または既存のウイルス感染症を治療するために使用されてもよい。1つの実施形態では、組成物は、慢性であってもよいが好ましくは急性のウイルス感染症である、ウイルス感染症を治療するために使用されうる。
【0052】
ウイルスは、エンベロープウイルスでありうる。ウイルスは、RNAウイルスまたはレトロウイルスでありうる。例えば、治療されうるウイルス感染症は、パラミクソウイルス感染症またはオルトミクソウイルス感染症でありうる。感染症を引き起こすウイルスは、ポックスウイルス、イリドウイルス、トガウイルス(thogavirus)、またはトロウイルスでありうる。感染症を引き起こすウイルスは、フィロウイルス、アレナウイルス、ブニヤウイルス、またはラブドウイルスでありうる。ウイルスは、ヘパドナウイルス、コロナウイルス、またはフラビウイルスでありうることが想定される。詳細には、呼吸器合併症に関連している下記のウイルス感染が治療されうる。すなわち、呼吸器合胞体ウイルス、ヒトボカウイルス、ヒトパルボウイルスB19、単純ヘルペスウイルス1型、水痘ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルス71、ハンタウイルス、SARSウイルス、SARS関連コロナウイルス、シンノンブレウイルス、呼吸器レオウイルス、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、またはアデノウイルスである。
【0053】
本発明は、本明細書に記載される任意のウイルスの派生物による感染症の治療にまで及ぶ。「ウイルスの派生物」という用語は、既存のウイルス株から突然変異したウイルスの株を指し得る。
【0054】
ウイルスは、A型インフルエンザウイルス;B型インフルエンザウイルス;C型インフルエンザウイルス;イサウイルス、およびトゴトウイルス、または上述のウイルスの任意の派生物からなるウイルス属の群より選択されうる。A〜C型インフルエンザウイルスは、鳥類(すなわちトリインフルエンザ)、ヒト、および他の哺乳動物を含む脊椎動物においてインフルエンザを引き起こすウイルスを包含する。A型インフルエンザウイルスは、すべてのインフルエンザ大流行の原因となり、ヒト、他の哺乳動物、および鳥類に感染する。B型インフルエンザウイルスはヒトおよびアシカ・アザラシ類に感染し、C型インフルエンザウイルスはヒトおよびブタに感染する。イサウイルスはサケに感染し、トゴトウイルスは脊椎動物(ヒトを含む)および無脊椎動物に感染する。
【0055】
従って、本発明の組成物は、任意のA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、もしくはC型インフルエンザウイルス、またはその派生物による感染症を治療するために使用されうる。その組成物は、A型インフルエンザ、またはその派生物による感染症を治療するために使用されうることが好ましい。A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面タンパク質である血球凝集素(HAまたはH)およびノイラミニダーゼ(NAまたはN)に基づいて分類される。A型インフルエンザウイルスの16種類のHサブタイプ(または血清型)および9種類のNサブタイプが同定されている。従って、本発明の組成物は、H1N1;H1N2;H2N2;H3N1;H3N2;H3N8;H5N1;H5N2;H5N3;H5N8;H5N9;H7N1;H7N2;H7N3;H7N4;H7N7;H9N2;およびH10N7からなる血清型の群より選択される任意の血清型のA型インフルエンザウイルス、またはその派生物による感染症を治療するために使用されうる。本発明者らは、本発明の組成物がH1N1ウイルス、またはその派生物によるウイルス感染症の治療のために特に有用でありうると考える。豚インフルエンザがH1N1ウイルスの株であることは理解されているであろう。
【0056】
本発明者らは、ウイルス感染後、IFN-γおよびTNF-αが、感染した対象の肺に体液を漏出させ、それが最終的に死に至り得る呼吸器疾患を引き起こすことを発見した。仮説に拘束されることを望まないが、本発明者らは、本発明の組成物が、サイトカイン産生、詳細には、IFN-γおよび/またはTNF-αの阻害剤として作用し得るために、ウイルス感染症を治療するために使用され、従って、本発明の組成物がウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患を治療するために使用され得ると考える。
【0057】
本発明の化合物は、従って、ウイルス誘導性サイトカイン産生の炎症症状を改善するために使用されうる。その抗炎症性組成物は、任意のサイトカインに影響を及ぼしうる。しかし、好ましくは、それはIFN-γおよび/またはTNF-αを調節する。組成物は、未感作の対象の急性ウイルス感染症における炎症を治療するために使用されうる。「未感作の対象」という用語は、以前にそのウイルスに感染したことがない個体を指し得る。個体が一度ヘルペスなどのウイルスに感染すると、その個体は常に感染を維持するものであることが理解される。
【0058】
特に、組成物は、インフルエンザの末期のような、ウイルス感染症の最終段階を治療するために使用されうることが意図される。組成物はまた、ウイルスの再燃を治療するためにも使用されうる。ウイルスの再燃とは、病徴の再発、またはより重篤な症状の発症のいずれかを指し得る。
【0059】
本明細書に記載される組成物は単独療法(すなわち、第一の態様の医薬組成物の単独での使用)で微生物(例えばウイルス)感染症を治療するために使用されうることが、理解されるであろう。あるいは、本発明の組成物は、既知の抗微生物療法の補助として、またはそれと併用して使用されうる。例えば、細菌感染に対抗するための従来の抗生物質は、アミカシン、アモキシシリン、アズトレオナム、セファゾリン、セフェピム、セフタジジム、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、イミペネム、リネゾリド、ナフシリン、ピペラシリン、キヌプリスチン・ダルホプリスチン(quinopristin-dalfoprisin)、チカルシリン、トブラマイシン、およびバンコマイシンを含む。加えて、抗ウイルス療法に使用される化合物は、アシクロビル、ガングシクロビル(gangcylovir)、リバビリン、インターフェロン、逆転写酵素のヌクレオチドまたは非ヌクレオシド阻害剤、プロテアーゼ阻害剤および融合阻害剤を含む。更に、従来の抗真菌薬は、例えば、ファルネソール、クロトリマゾール、ケトコナゾール、エコナゾール、フルコナゾール、ウンデシレン酸カルシウムまたはウンデシレン酸亜鉛、ウンデシレン酸、ブテナフィン塩酸塩、シクロピロクスオラミン(ciclopirox olaimine)、ミコナゾール硝酸塩、ナイスタチン、スルコナゾール、およびテルビナフィン塩酸塩を含む。従って、本発明の組成物は、このような抗菌薬、抗ウイルス薬、および抗真菌薬と併用して使用されうる。
【0060】
本発明の組成物は、それが経口投与可能であるという条件で多数の異なる剤型を有しうる。組成物は、液体または固体のいずれかの組成物剤型で経口投与されうる。経口投与に適した組成物は、丸剤(pills)、カプセル、顆粒、錠剤(tablets)、および散剤などの固体形態、ならびに溶液、シロップ、エリキシル、口腔を経由して投与するためのエアロゾル、スプレー、ミセル溶液、リポソーム懸濁液などの液体形態、または治療を必要とする対象(ヒトまたは動物)への経口投与に適した他の任意の形態を含む。本発明の薬剤のためのベヒクルは、それを投与される対象が良好な耐容性を示すものでなくてはならず、また、呼吸器疾患を治療するために、肺などの、病原体(すなわちウイルス、細菌、または真菌)に感染した部位への直接的なNSAIDの送達を可能にすることが理解されるであろう。
【0061】
必要とされる組成物中のNSAIDの量は、その生物学的活性および生物学的利用能によって決定され、それは同様に、NSAIDの物理化学的特性、およびそれが単独療法として用いられているか、または併用療法において用いられているかどうかに依存することが理解されるであろう。投与頻度もまた、上述の要因、および特に、治療される対象の体内での化合物の半減期の影響を受けるものである。
【0062】
投与されるべき至適用量は、当業者によって決定されうるが、使用される特定のNSAID、調製物の強さ、および病状の進行によって異なる。治療される特定の対象に応じた更なる要因は、対象の年齢、体重、性別、食生活、および投与時期を含み、用量を調整する必要性を生じる。
【0063】
当業者は、選択された化合物の薬物動態に基づいて、必要とされる用量、および標的組織でのNSAIDの至適濃度を計算できることが理解されるであろう。製薬業界で通常用いられるような既知の方法(例えば、in vivo実験、臨床試験など)は、本発明の化合物の特定の製剤ならびに正確な治療計画(化合物の1日用量および投与頻度など)を確立するために使用されうる。
【0064】
通常、ほとんどの症状を治療するために患者が入手可能なイブプロフェンの最大市販(OTC)1日用量は、1200mgイブプロフェン/日である。しかし、例えば嚢胞性線維症などの特定の疾患に罹っている患者は、このような高い用量がこれらの疾患(例えばCF)の症状の軽減に良い効果を及ぼし得るため、最大800mgのイブプロフェンの1日に4回の投与(すなわち、3200mg/日の最大1日用量)を医師によって処方されうる。しかし、このような高い用量のイブプロフェンおよび他のNSAIDに関する重大な問題は、(それらが処方箋を必要とするゆえんであるが)治療される患者が胃潰瘍または消化管のびらん、ならびに吐き気、下痢、頭痛、および高血圧の副作用に悩まされることである。
【0065】
実施例2に記載され、図5に示されるように、本発明者らは、本発明者らのin vivoラットモデルにおいて、第一の態様の組成物に用いられる脂質/エタノールベヒクル(すなわち脂質/アルコール)中に調製された大量のイブプロフェンによって治療されたラットが、意外にも胃潰瘍に抵抗力を示すことを観察して非常に驚いた。実際、実施例2に記載されるラットに投与された1OOmg/kgおよび200mg/kgのイブプロフェン用量は、7000mgおよび14000mgのヒト等価用量(HED)と同等であり、その両方は(上述のような、現在の最大ヒト1日用量の3200mgイブプロフェンと比較して)ラットにおいて限られた消化管のびらんを示した。従って、都合のよいことに、本発明の組成物は、高用量のNSAID(例えば、すなわち3200mg/日超)による治療を必要としている患者に投与されうるが、NSAIDによって引き起こされるであろう消化管のびらんという有害な副作用を回避しうる。これは、その組成物が、そうでなければこの副作用を受けやすい患者に、長期間および/または高用量で投与され得ることを意味する。
【0066】
従って、通常、0.001μg/kg体重〜200mg/kg体重のNSAIDの1日用量が、その疾患に応じて化合物が使用される呼吸器疾患(例えば、微生物(例えばウイルス)感染によって引き起こされうるもの)の予防および/または治療のために使用されうる。適切には、0.001μg/kg体重〜150mg/kg体重、または0.001μg/kg体重〜100mg/kg体重、または0.01μg/kg体重〜100mg/kg体重、または0.1μg/kg体重〜100μg/kg体重、または0.01μg/kg体重〜80mg/kg体重のNSAIDの1日用量が使用されうる。
【0067】
適切には、0.1μg/kg体重〜65mg/kg体重、または約0.1μg/kg体重〜50mg/kg体重、または0.001μg/kg体重〜20mg/kg体重、または0.01μg/kg体重〜10mg/kg体重、または0.01μg/kg体重〜1mg/kg体重、または0.1μg/kg体重〜10μg/kg体重のNSAIDの1日用量が使用されうる。
【0068】
NSAIDの1日用量は、単回投与(例えば1日1回の錠剤またはカプセル)として与えられうる。適切な1日用量は、0.07μg〜14000mg(すなわち体重70kgと仮定)、または0.70μg〜10000mg、または0.70μg〜7000mg、または10mg〜3200mgでありうる。適切な1日用量は、0.07μg〜700mg、または0.70μg〜500mg、または10mg〜450mgでありうる。組成物は、ウイルスなどの、呼吸器疾患を引き起こす病原体への感染の前または後に投与されうる。組成物は、感染後2、4、6、8、10、または12時間以内に投与されうる。組成物は、感染後14、16、18、20、22、または24時間以内に投与されうる。組成物は、感染後1、2、3、4、5、もしくは6日以内、またはそれらの間の任意の時期に投与されうる。
【0069】
治療されている感染症がインフルエンザによる感染症である実施形態では、インフルエンザが汎発性インフルエンザ(pandemic influenza)であるか否かとは無関係に、対象は、本発明の組成物によって治療される人であり、呼吸困難の症状が起こるか、および/またはサイトカインレベル(上述の任意のサイトカイン、しかし、通常はIFN-αもしくはTNF-γ)が呼吸困難の症状の発症時に増加する人である。より好ましくは、対象は、インフルエンザ症状の発症後、下記の時点で:すなわち、12、24、18、または36時間以上(より好ましくは、48時間以上、60時間以上、もしくは72時間以上;最も好ましくは36〜96時間、48〜96時間、60〜96時間、もしくは72〜96時間)で、呼吸困難の症状が起こるか、および/あるいはサイトカインレベルが増加する対象である。あるいは、インフルエンザが汎発性インフルエンザであるか否かとは無関係に、対象は、感染した肺内への適応免疫系の動員の開始時(もしくはより早期)に、呼吸困難の症状が起こるか、および/またはサイトカインレベルが増加する人である。
【0070】
本発明の組成物は、治療を必要とする対象に2回以上経口投与されうることが想定される。組成物は、1日のうちに2回以上の投与を必要としうる。例として、組成物は、0.07μg〜14000mg、または0.07μg〜7000mg、または0.07μg〜700mg(すなわち体重70kgと仮定)の1日2回(もしくは治療されているウイルス感染症の重症度に応じてそれ以上)の用量として投与されうる。治療を受けている患者は、1回目の用量を起床時に摂取し、その後(2回の投与計画である場合)2回目の用量を夜に、またはその後3もしくは4時間間隔などで服用しうる。組成物は、病原体感染後、毎日(必要であれば2回以上)投与されうることが想定される。このように、本発明の組成物は、好ましくは、上述のような対象への投与に適しており、好ましくは、インフルエンザ症状の発症後、上記の時点での投与に適している。
【0071】
NSAIDの「治療上有効な量」は、対象に投与した場合、急性ウイルス感染症などの微生物感染症の予防および/または治療をもたらす任意の量である。
【0072】
例えば、NSAIDの治療上有効な量は、約0.07μg〜約14000mg、または約0.07μg〜約10000mg、または約0.07μg〜約7000mg、好ましくは約0.7μg〜約4800mgでありうる。NSAIDの量は、約7μg〜約3200mg、または約7μg〜約1200mgでありうる。NSAIDの量は、あるいは約0.07μg〜約1500mg、または0.07μg〜約700mg、好ましくは約0.7μg〜約70mgでありうる。NSAIDの量は、約7μg〜約7mg、または約7μg〜約700μgでありうる。
【0073】
上記に議論されたように、上記の有害な消化管のびらんの副作用のために、3200mg/日超の用量でイブプロフェンを処方することは、現在のところできない。しかし、本発明者らは、驚くべきことに、図5において、本発明の脂質/エタノールベヒクル中に調製された大量のイブプロフェン(すなわち、ラットでの1OOmg/kgおよび200mg/kgのイブプロフェンは、それぞれ7000 mgおよび14000 mgのヒト等価用量(HED)と同等である)によって治療されたラットが、消化管潰瘍に高い抵抗力を有することを示した。従って、現在利用可能なNSAID製剤とは異なり、本発明の組成物は、消化管非びらん性であり、以前には高くて通常消化管びらん性であったイブプロフェンなどのNSAIDの用量(すなわち3200mg/日)を、痛みの専門医(pain physicians)の懸念なしに患者に投与することを可能にする。従って、NSAIDと脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む本発明の組成物は、CFなどの呼吸器疾患を患っている患者だけでなく、関節リウマチまたは変形性関節症などの任意の炎症性疼痛の治療に使用するための(すなわち、超鎮痛剤(supra-analgesic)のような)強い鎮痛性を有する。
【0074】
従って、第四の態様では、3200mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、NSAIDまたはその誘導体を含む経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルが提供される。
【0075】
本発明の第五の態様では、3200mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、治療上有効な量のNSAIDまたはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む経口投与可能な鎮痛組成物が提供される。
【0076】
第六の態様では、炎症性疼痛を治療する方法が提供され、その方法は、このような治療を必要とする対象に、(i)非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはその誘導体を含む経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクル、または(ii)NSAIDもしくはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む経口投与可能な鎮痛組成物のいずれかを経口投与することを含み、その方法は、対象に、3200mg/日超のNSAIDまたはその誘導体の用量を投与することを含む。
【0077】
都合のよいことに、本発明の組成物は、医師がイブプロフェンなどのNSAIDを3200mg/日超の用量で処方することを可能にする。詳細には、組成物は、高濃度のNSAID、すなわち3200mg/日超の服用に関連する、消化管のびらんのような有害な副作用を受けやすい患者に投与されうる。例えば、組成物は、3300mg/日、3400mg/日、3500mg/日、4000mg/日、4500mg/日、5000mg/日、6000mg/日、7000mg/日、8000mg/日、9000mg/日、1Og/日、11g/日、12g/日、13g/日、もしくは14g/日以上の、NSAIDまたはその誘導体の1日用量で投与されうる。都合のよいことに、図5に示されるように、このようなより高いNSAIDの用量は、胃潰瘍を回避する。
【0078】
NSAIDまたはその誘導体の1日用量は、単回投与(例えば1日1回の錠剤もしくはカプセル)として与えられうる。適切な1日用量は、3200mg超〜14000mg(すなわち体重70kgと仮定)、または3200mg超〜10000mg、または3200mg超〜7000mg、または3200mg超〜5000mgでありうる。適切な1日用量は、4000mg超〜14000mg、または4000mg超〜10000mg、または4000mg超〜7000mgでありうる。
【0079】
本発明の組成物は、治療を必要とする対象に2回以上経口投与されうることが想定される。組成物は、1日のうちに2回以上の投与を必要としうる。例として、組成物は、3200mg超〜7000mg、または3200mg超〜5000mg、または3200mg超〜4000mg(すなわち体重70kgと仮定)の1日2回以上の用量として投与されうる。
【0080】
更に、これらのより高いNSAID用量で消化管のびらんが回避されるため、これらのより高い用量で現在のような医師による制御および管理をなくすことが可能になり、そのため、これらの組成物は市販(OTC)医薬品となり、処方箋を必要としなくなるであろう。従って、これは、多数の患者集団に、より高い用量でより有効性の高い製品を提供するであろう。逆に、本発明の組成物はまた、より低い用量(すなわち1600mg/日〜3200mg/日)で投与されてもよく、都合のよいことに、患者が胃のびらんを患う危険性を低下させながら、それでもなお、より高い用量の既知のNSAID組成物によって達成されるのと同様の鎮痛効果を達成する。このような(現在処方箋のもとでのみ利用可能な)より高い用量のNSAIDの使用の安全性によって、今やこれらの組成物を処方箋のもとでのみ入手する必要はなくなり、そのためそれらは店頭で得られるかもしれない。
【0081】
従って、第七の態様では、1600mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、NSAIDまたはその誘導体を含む市販(OTC)の経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルが提供される。
【0082】
本発明の第八の態様では、1600mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、治療上有効な量のNSAIDまたはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む市販(OTC)の経口投与可能な鎮痛組成物が提供される。
【0083】
NSAIDまたはその誘導体の用量は、1600mg/日〜3200mg/日でありうる。第七および第八の態様の組成物は、1600mg/日超であれば、本明細書に記載される任意の用量で投与されうることが理解されるであろう。
【0084】
好ましくは、NSAIDは、プロフェン、例えばイブプロフェンである。
【0085】
本発明の組成物は、様々な疾患症状、例えば関節炎(例えば関節リウマチもしくは変形性関節症)、炎症性腸疾患、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、乾癬、または嚢胞性線維症における炎症性疼痛を治療あるいは軽減するために使用されうる。
【0086】
「対象」は、脊椎動物、哺乳動物、または家畜であり得、好ましくはヒトである。従って、本発明の組成物は、任意の哺乳動物、例えばヒト、家畜、ペットを治療するために使用されてもよく、または他の獣医学的用途に使用されてもよい。
【0087】
本明細書に記載される「製薬上許容されうるベヒクル」は、医薬組成物の調製において有用であることが当業者に知られている化合物の任意の組み合わせであり得るが、それは脂質(例えば少なくとも30%(w/w))およびアルコールを含有する。
【0088】
1つの実施形態では、本明細書に記載される製薬上許容されうるベヒクルは固体であり、医薬組成物は粉末または錠剤の形態でありうる。脂質成分およびアルコールに加えて、固体の製薬上許容されうるベヒクルは、矯味剤、潤滑剤、可溶化剤、懸濁化剤、色素、充填剤、流動促進剤、圧縮助剤(compression aids)、不活性な結合剤、甘味剤、保存剤、色素、被覆剤、または錠剤崩壊剤としても機能しうる、1つ以上の物質を含みうる。ベヒクルはまた、カプセル化材料でありうる。粉末では、ベヒクルは、微粉化された活性物質(すなわちNSAID)との混合物である微粉化固体でありうる。錠剤では、活性物質は、必要な圧縮特性を有するベヒクルと適切な比率で混合され、目的とする形および大きさに圧縮されうる。適切な固体ベヒクルは、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖類、乳糖、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスおよびイオン交換樹脂を含みうる。
【0089】
好ましい実施形態では、製剤ベヒクルは液体であり、医薬組成物は溶液の形態でありうる。液体ベヒクルは、溶液、懸濁液、エマルション、シロップ、エリキシル、および加圧組成物の調製に使用される。活性化合物は、水(ベヒクルは水を含まないことが好ましいが)、有機溶媒、両方の混合物、または製薬上許容されうる油もしくは脂肪などの製薬上許容されうる液体ベヒクルに、溶解あるいは懸濁されうる。脂質成分に加えて、液体ベヒクルはまた、可溶化剤、乳化剤、バッファー、保存剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、増粘剤、着色剤、粘性調節剤、安定剤、または浸透圧調節剤などの、他の適切な医薬品添加物を含有しうる。経口投与のための液体ベヒクルの適切な例は、水(部分的に上記のような添加物、例えばセルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコール、例えばグリコールを含む)およびそれらの誘導体、ならびに油(例えばヤシ油およびラッカセイ油)を含みうる。ベヒクルはまた、オレイン酸エチルまたはミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルであり得る。 組成物は、好ましくは、他の溶質または懸濁化剤(例えば、溶液を等張にするために十分な塩類もしくはブドウ糖)、胆汁酸塩、アラビアゴム、ゼラチン、モノオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80(エチレンオキシドと共重合された、ソルビトールおよびその無水物のオレイン酸エステル)などを含有する滅菌溶液または懸濁液の形態で経口投与される。
【0090】
しかし、組成物は、界面活性剤(surfactant)を含んでも含まなくてもよい。組成物に含まれても含まれなくてもよい界面活性剤の例は、ホスファチジルコリン(レシチン)およびホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質;脂肪酸アルカリ金属塩、アンモニウム塩、およびトリエタノールアミン塩を含む石鹸および洗剤(detergent)、ならびに(a)ハロゲン化ジメチルジアルキルアンモニウム、およびハロゲン化アルキルピリジニウムなどの陽イオン界面活性剤(detergent);(b)アルキル、アリール、およびオレフィンのスルホン酸塩、アルキル、オレフィン、エーテル、およびモノグリセリドの硫酸塩、およびスルホコハク酸塩などの陰イオン界面活性剤(detergent);(c)脂肪酸アミンオキシド(fatty amine oxides)、脂肪酸アルカノールアミド、およびポリオキシエチレンポリプロピレン共重合体などの非イオン界面活性剤(detergent);(d)アルキル-b-アミノプロピオン酸塩(alkyl-b-aminopropionates)、および2-アルキル-イミダゾリン四級アンモニウム塩などの両性界面活性剤(detergent)を含む界面活性剤を包含する。洗剤の別の例は、ドデシル硫酸ナトリウムジメチルスルホキシドを包含しうる。好ましくは、本発明のベヒクルは、これらの界面活性剤のいずれも含有しない。
【0091】
本発明者らは、製薬上許容されうるベヒクルが、好ましくは、おそらくエタノールの非存在下で、少なくとも30%(w/w)の脂質を含有しうると考える。
【0092】
従って、更なる態様では、経口投与のための医薬組成物が提供され、その組成物は、治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、少なくとも30%(w/w)の脂質を含む製薬上許容されうるベヒクルとを含み、その組成物は呼吸器疾患の治療に使用される。
【0093】
別の態様では、呼吸器疾患を予防、治療および/または改善する方法が提供され、その方法は、このような治療を必要としている対象に、治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、少なくとも30%(w/w)の脂質を含む製薬上許容されうるベヒクルとを含有する医薬組成物を経口投与することを含む。
【0094】
別の態様では、対象の肺における非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の生物学的利用能を増加させるための、少なくとも30%(w/w)の脂質を含む製薬上許容されうるベヒクルの、経口投与可能な医薬組成物中での使用が提供される。
【0095】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面のいずれをも包含する)に記載されるすべての特徴、および/または開示される方法もしくは工程のすべてのステップは、このような特徴および/またはステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで任意の上記の態様と組み合わされうる。
【0096】
本発明の実施形態はここから、単に例として、下記の実施例、および添付の図面に関して、更に記載される。
【実施例】
【0097】
本発明者らは、油性/脂質ベヒクル中で経口投与された場合(本明細書ではBC1054として識別される)、または腹腔内投与された場合での、インフルエンザ攻撃マウスに対するイブプロフェンの効果を決定するために、様々なin vivoマウス実験を行った。本発明者らは、以下に記載される結果において、イブプロフェンが、油性製剤中で経口投与された場合、ウイルス症状の大幅な減少(すなわち、体重減少の軽減、および生存率の増加)を引き起こす結果となるが、腹腔内投与ではそのような結果にならないことを、説得力をもって実証した。本発明者らはまた、本発明の組成物(BC1054)がin vivoでラットの消化管をびらんさせるか否かを調べ、それが潰瘍形成作用の減少を示すことを解明した。最後に、本発明者らはまた、BC1054で処理されたマウスの肺におけるイブプロフェンのin vivo濃度、すなわちその生物学的利用能を測定した。
【0098】
材料および方法
in vivoマウス試験
プロトコール:
5群(n=10)のメスのC57BLK/6マウス(6〜7週齢)を、各10匹の動物を含む5つの実験群に分けた。1日目に、動物に、ハロタン誘導性麻酔下で鼻腔内に致死量(全50μl、鼻孔25μl)のインフルエンザA/PR/8/34を接種した。
【0099】
ウイルス攻撃後3日目に、動物は、下記の処理を受けた。
【0100】
・A群は、10μl DMSO中335.6 μg/動物(20mg/kg/日;すなわち最大標準用量としてヒト1日あたり1200 mgに相当する)の用量でイブプロフェンを腹腔内注射された。
【0101】
・B群は、A群と同一用量だが100μlの10%エタノール;90%菜種油に溶解されたイブプロフェン(本明細書では製剤BC1054と呼ばれる本発明の組成物の実施形態)を強制経口投与された。
【0102】
・C群の動物1〜5はベヒクル対照(IP 10μl DMSO)を投与され、動物6〜10はベヒクル対照(10%エタノール;90%菜種油の強制投与)を投与された。
【0103】
すべての動物は、処分される6日目まで毎日、動物を体重測定し、感染の兆候を観察した。図1〜4は、群ごとの平均体重減少および動物の生存率を示す。
【0104】
ラットの胃の炎症のin vivo実験
各群5匹の動物からなる7群のラットに、それぞれ試験製剤および対照化合物を経口投与(PO)した。第1群の動物は、イブプロフェンを含まない1%カルボキシメチルセルロース(CMC)ベヒクル10mL/kgで処理され、第2群は、BC1054製剤のベヒクルのみ(すなわち10%エタノール、90%菜種油)1OmL/kgで処理された。従って、イブプロフェンはこの群に投与されなかった。第3群の動物は、150mg/kgアスピリンで処理され、第4群の動物は、1% CMCベヒクルに溶解された1OOmg/kgのイブプロフェンで処理された。第5群は、10%エタノール、90%菜種油に溶解された1OOmg/kgのイブプロフェン(すなわちBC1054)で処理され、第6群は、1% CMC中2OOmg/kgのイブプロフェンで処理された。最後に、第7群の動物は、10%エタノール、90%菜種油に溶解された2OOmg/kgのイブプロフェン(すなわちBC1054)で処理された。
【0105】
試験化合物(または対照ベヒクル)の投与4時間後に動物を屠殺し、その後、下記の基準に従って胃粘膜病変のスコアを記録した:すなわち、0=病変なし、1=充血、2=1〜2ヶ所の軽度の病変、3=2ヶ所を超える軽度または重度の病変、4=非常に重度の病変(Herreriasら、Dig. Dis. Sci., 2003)。アスピリン処理群(150 mg/kg PO、100%と設定)と比較して50パーセント以上(≧50%)のスコアを、胃の炎症について陽性と見なし、図5の表中の括弧内に示した。
【0106】
マウスでのin vivoイブプロフェン濃度の測定
動物
5週齢および4週齢の、メスおよびオスのC57BLK6マウスは、それぞれ、Elevage Janvierによって供給された。到着後、マウスを少なくとも7日間順化させた。動物は3つの群で飼育され、試験および順化の期間中、自由に餌および水を摂取できた。すべてのケージから処理群中に選ばれていることを確実にするために、マウスを試験に均等に割り振った。
【0107】
試験プロトコール
物質:イブプロフェン(水への懸濁液)およびBC1054
用量:20[mg/kg]
処理:単回投与;p.o.
適用量:5 ml/kg体重(bw)
適用時期:適用=T0
群あたりの動物数:n=3
【0108】
肺における検体の測定
投与4時間後、動物を屠殺し、肺を摘出して、必要とされるまで-80℃で冷凍保存した。肺サンプルを3倍容のアセトニトリル(100 mg臓器、300μLアセトニトリル)中で破砕し、沈殿したタンパク質を14000xg RCF、10分間の遠心分離によって除去した。上清を新しいチューブに移し、真空下、40℃で120分間乾燥させた。超音波処理によって、乾燥残渣を50 mg組織あたり25μLの0.01%アンモニアV/Vを含有する水に再溶解し、その後、14000xg RCFで2分間遠心分離を行った後、HPLCシステムの自動注入のためのガラスバイアルに入れた。
【0109】
HPLCシステム
より強力な溶離液としてメタノール(0.1%ギ酸アンモニウム(Ammonium formiate)、pH 7.2)を用いた勾配系によって、HPLC分離を行った。直径2 mm、50 mmのreprosil C18(Dr. Maisch, GmbH, Ammerbuch)カラムを用い、流速は1分間あたり200μLであった。ブランクサンプルQCは20サンプル毎にカラムに流され、検量線はサンプルをカラムに流した後に繰り返された。有意なサンプル間の持ち越しは観察されなかった。
【0110】
実施例-in vivoでのマウスおよびラット試験
実施例1-ウイルス攻撃実験
上述のような標準的な技術を用いて、マウスを、それぞれの対象に定着できるH1N1ウイルスに感染させた。それぞれの試験マウスを、その後、腹腔内(DMSO中)または経口(脂質/エタノール製剤、BC1054)のいずれかでイブプロフェンによって処理した。その後、処理マウスおよび未処理マウスの体重減少を測定した。
【0111】
図1に示されるように、DMSO中のイブプロフェンの腹腔内投与を受けたマウスは、体重減少において対照マウスより約30%多くの減少を示した。同様に、図2に関して、DMSO中のイブプロフェンの腹腔内投与を受けたマウスは、特に4日目以降、対照マウスより低い生存率を有した。従って、これらのデータから、本発明者らは、イブプロフェンの腹腔内投与はインフルエンザ攻撃マウスに対して有益な効果を示さなかったと考える。
【0112】
図3では、脂質に溶解されたイブプロフェン(すなわち本明細書ではBC1054として識別される組成物)の経口投与を受けたマウスは、意外にも、体重減少において対照マウスより約20%低い減少を示し、この効果は特に6日目までに明らかになった。同様に、図2に関して、BC1054製剤中のイブプロフェンの経口投与を受けたマウスは、特に5日目以降、対照マウスより20%高い生存率を有した。従って、本発明者らは、本明細書に記載されるように、親油性の油性ベヒクル中のイブプロフェンを経口投与することは、マウスの生存率に対して顕著な利点を有すると考える。
【0113】
実施例2-ラットでの胃のびらん実験
図5に示される表は、ラットでの胃の炎症実験の結果を要約する。5匹の動物のそれぞれに対する個別の潰瘍スコア「4」、全スコア「20」(4×5)で示されるように、150mg/kgの用量でのアスピリンは、ラットにおいて消化管びらん性が高いことが知られており、そのため、他の製剤を比較するための100%の基準値として設定された。予想した通り、ベヒクルのみの2つの対照(第1群および第2群)は潰瘍を示さず、スコアは「0」であった。しかし、第4群(すなわち100mg/kg)の1% CMCベヒクル中のイブプロフェンは、著しい潰瘍、すなわち、アスピリンの潰瘍スコアと比較して75%の潰瘍を示した。1% CMCベヒクル中のイブプロフェンの用量を200mg/kgに倍加すると、潰瘍スコアはアスピリンの95%にまで増加した。
【0114】
しかし、脂質製剤BC1054(すなわち10%エタノールおよび90%菜種油)中100mg/kgおよび200mg/kgのイブプロフェン用量である2つの試験群、第5群および第7群は、それぞれ、アスピリンの基準スコアと比較してわずか20%および40%の潰瘍スコアしか示さなかった。これらの両方の効果は、専門の研究者によって消化管非びらん性を示すと判断された。従って、これらのデータから、本明細書ではBC1054として識別される本発明の組成物が、他の試験製剤、特にアスピリンと比較して、意外にも低いレベルの消化管潰瘍を示すことは明白である。ラットでの100mg/kgイブプロフェンは7g/日のヒト等価用量と同等であり、ラットでの200mg/kgイブプロフェンは14g/日のヒト等価用量と同等であるため、これは特に驚くべきことであった。これらの用量は、ヒトが通常1200mg〜3200mg/日のイブプロフェンの最大1日用量を処方されることを考えると、莫大な用量である。従って、本発明者らは、本発明の製剤が、消化管の内膜に対する何らかの既知の保護効果を有するので、消化管の潰瘍およびびらんの問題に苦しむことなく非常に高い用量のイブプロフェンをラットに(従ってヒトにも)投与しうると考える。
【0115】
実施例3-マウスでのin vivoイブプロフェン濃度の測定
図6では、マウスの肺で見られるイブプロフェンの濃度の相対比較が示される。図に見られるように、対照マウス(すなわち、標準的なベヒクル中のイブプロフェンを経口投与された動物)の肺で見られるイブプロフェンの濃度は、約400 nmolであった。しかし、意外にも、本発明の製剤(すなわちBC1054)を投与されたマウスの肺でのイブプロフェンの濃度は、約3250 nmolであり、すなわち約8倍高かった。これは全く予想外のことであり、本発明の組成物が肺でのNSAID(この場合、イブプロフェン)の生物学的利用能の著しい増加をもたらす明白な証拠である。
【0116】
要約
要約すると、本発明者らは、親油性賦形剤(すなわち、オリーブ油、菜種油、または亜麻仁油)中で経口投与された際、イブプロフェンがインフルエンザ攻撃マウスの生存率を著しく改善する(図3および4を参照)一方で、腹腔内投与された同一用量のイブプロフェンが良い効果を示さない(図1および2)ことを観察して驚いた。実施例に記載されたin vivoマウス試験の有望な結果は、H1N1ウイルスに感染したマウスが、油性製剤中に存在するイブプロフェンの単回経口用量の投与によって効果的に治療され得ることを明示する。従って、任意のNSAIDは、高濃度の脂質を有する担体中に調製され経口投与された場合、腹腔内送達または非脂質ベヒクルを用いた経口送達と比較して、肺でのはるかに高い生物学的利用能が得られるであろう。これが事実であることは図6において明示されており、図6は、本発明の脂質性組成物を経口投与されたマウスの肺でのイブプロフェン濃度が、通常の(すなわち非脂質性の)ベヒクル中に存在するイブプロフェンを経口投与されたマウスの肺での濃度より8倍高いことを示す。いかなる説にも拘束されることを望まないが、本発明者らは、このような生物学的利用能の劇的な増加は、薬物/脂質製剤を飲んだ際、脂質が胃で胆汁と混合され、油/NSAIDミセルを形成するために、達成されると考える。これらの油/NSAIDミセルはその後、近接した消化管の上皮細胞によって吸収されてカイロミクロンに変換されると考えられ、それはその後、リンパ系内に放出され、最初に中心静脈血管系に輸送され、その後速やかに心臓に輸送され、NSAIDに富む静脈血を最終的に肺に送り出す。その結果、NSAIDは酸素化された血液中非常に高濃度で直接肺に送達され、治療部位でのその生物学的利用能を増加させる。明らかに、肺においてイブプロフェンなどのNSAIDの高い濃度を実現すること(すなわち8倍高い)は、呼吸器疾患、例えばウイルス感染によって引き起こされる疾患を治療する際、特に有利であろう。
【0117】
上記のBaumgarthおよびKelsoに記述されたように、Th1サイトカインは、微生物病原体に対する肺での過剰な炎症反応の病態生理において重要である。IFN-γおよびTNF-αがそれらの炎症作用を引き起こす重要な機構は、プロスタグランジン合成を促進することによる。プロスタグランジン機能の促進は、炎症を起こした肺において血管収縮、浮腫、および好中球走化性を引き起こし、これは、肺炎などの重度の肺炎症兆候の発症機序において非常に重要である。従って、本明細書に記載されるように、十分な治療濃度での本発明の油性製剤中のイブプロフェンの投与のような、プロスタグランジン分泌を減少させる治療は、下流のTh1に開始される微生物性肺炎の結果を防ぐであろう。
【0118】
本発明者らは、図5に示される、試験された高濃度のBC1054での低い消化管びらんデータを観察して非常に驚いたが、これは、本発明の製剤がプロスタグランジンの分泌および活性を阻害できるという事実によって説明されうると考える。加えて、本発明の製剤中の高い脂質成分が、NSAIDの浸食作用に対する物理的な保護障壁を提供することも想定される。従って、本発明者らは、本発明の組成物が、おそらくカイロミクロン経路を介して、NSAID(例えばイブプロフェン)の肺での生物学的利用能を増加させるだけでなく、胃粘膜に対する物理的な障壁を形成することによって、高い用量(すなわち7g/日および14g/日のヒト等価用量)であっても、消化管のびらんを防ぐと考える。
【0119】
従って、都合のよいことに、BC1054は高い用量のイブプロフェンによる治療を必要としている患者(例えば、嚢胞性線維症)に投与され、消化管のびらんという有害な副作用を回避しうるが、これは、この組成物が、そうでなければこのような副作用を受けやすい患者に長期間投与され得ることを意味する。従って、「拡大された(engorged)治療域」、すなわち、有効な薬物の用量と有毒な用量との間に大きな幅がある。実際に、本発明者らは、脂質/アルコールベヒクルを任意のNSAIDと組み合わせて超鎮痛組成物(supra-analgesic composition)を製造することができ、これにより、高い鎮痛効果が実現できる一方で、患者が消化管のびらんという副作用に苦しむ危険性を回避するか、または少なくとも減少させることができることを明示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含み、呼吸器疾患の治療に用いられる、経口投与のための医薬組成物。
【請求項2】
前記ベヒクルが、少なくとも約50%(w/w)、60%(w/w)、70%(w/w)または少なくとも約80%(w/w)の脂質を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ベヒクルが少なくとも約90%(w/w)の脂質を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ベヒクルが、油または油性液体;脂肪;脂肪酸(例えば、オレイン酸、ステアリン酸もしくはパルミチン酸など)、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、グリセリド(モノ-、ジ-もしくはトリグリセリド);リン脂質;グリコールエステル;ショ糖エステル;ワックス;グリセロールオレアート誘導体;中鎖脂肪酸トリグリセリド;あるいはそれらの混合物からなる群より選択される脂質成分を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記油が天然油または植物油である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記天然油が、亜麻仁油;ダイズ油;ヤシ油;鉱油;トリアセチン;オレイン酸エチル;水素添加天然油;またはそれらの混合物を包含する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物油が、オリーブ油;菜種油;ラッカセイ油(peanut oil);ダイズ油;トウモロコシ油;紅花油;ラッカセイ油(arachis oil);ヒマワリ油;キャノーラ油;クルミ油;アーモンド油;アボカド油;ヒマシ油;ヤシ油;トウモロコシ油;綿実油;米ぬか油;ゴマ油;および精製パーム油;またはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記ベヒクルが菜種油を含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
製剤ベヒクルの脂質成分が、8〜24炭素原子、10〜22炭素原子、14〜20炭素原子、または16〜20炭素原子を含む脂肪酸を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記脂質が、ミリスチン酸(C 14:0);パルミチン酸(C 16:0);パルミトレイン酸(C 16:1);ステアリン酸(C 18:0);オレイン酸(C 18:1);リノール酸(C 18:2);リノレン酸(C 18:3)およびアラキジン酸(C 20:0)からなる群より選択される脂肪酸;またはそれらの混合物を含有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
製剤ベヒクルの脂質成分の融点が、約-20℃〜20℃、または約-15℃〜16℃である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
製剤ベヒクルの脂質成分が、オメガ3および/またはオメガ6脂肪酸を含有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ベヒクルが、約50%(w/w)未満のアルコール、好ましくは約25%未満のアルコールを含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記アルコールがエタノールである、請求項15に記載の組成物。
【請求項15】
前記ベヒクルが、約80%〜95%(w/w)の脂質および約5%〜20%(w/w)のエタノールを含有する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ベヒクルが、約88%〜92%(w/w)の脂質および約8%〜12%(w/w)のエタノールを含有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が、プロピオン酸誘導体、酢酸誘導体、エノール酸誘導体、フェナム酸誘導体、または選択的もしくは非選択的シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
非ステロイド性抗炎症薬が、アルミノプロフェン;ベノキサプロフェン;デクスケトプロフェン;フルルビプロフェン;イブプロフェン;インドプロフェン;ケトプロフェン;ロキソプロフェン;プラノプロフェン;プロチジン酸;スプロフェン;アセクロフェナク;アセメタシン;アクタリット;アルクロフェナク;アンフェナク;クロメタシン;ジクロフェナク;エトドラク;フェルビナク;フェンクロフェナク;インドメタシン;ケトロラク;メチアジン酸;モフェゾラク;ナプロキセン;オキサメタシン;スリンダク;ゾメピラク;セレコキシブ;エトリコキシブ;ルミラコキシブ;メロキシカム;ロフェコキシブ;バルデコキシブ;アロキシピリン;アミノフェナゾン;アントラフェニン;アスピリン;アザプロパゾン;ベノリラート;ベンジダミン;ブチブフェン;クロルテノキサジン;サリチル酸コリン;ジフルニサル;エモルファゾン;エピリゾール;フェクロブゾン;フェンブフェン;グラフェニン;サリチル酸ヒドロキシエチル;ラクチルフェネチジン;メフェナム酸;メタミゾール;モフェブタゾン;ナブメトン;ニフェナゾン;ニフルム酸;フェナセチン;ピペブゾン;プロピフェナゾン;プロカゾン;サリチルアミド;サルサラート;チアラミド;チノリジンおよびトルフェナム酸からなる群より選択される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
非ステロイド性抗炎症薬が、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、デクスケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、プラノプロフェン、プロチジン酸、またはスプロフェンである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
非ステロイド性抗炎症薬がイブプロフェンである、請求項1〜19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が、NSAIDのR-またははS-エナンチオマーを含有する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物がR-イブプロフェンを含有する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物がS -イブプロフェンを含有する、請求項1〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、感冒、副鼻腔炎、扁桃炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎、肺炎、呼吸窮迫症候群(RDS)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、浮腫、嚢胞性線維症、または細気管支炎の治療に用いられる、請求項1〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、細菌感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項1〜24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が、真菌感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項1〜24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が、ウイルス感染、好ましくは急性ウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項1〜24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物が、任意のA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、もしくはC型インフルエンザウイルス、またはその派生物の感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記組成物が、H1N1;H1N2;H2N2;H3N1;H3N2;H3N8;H5N1;H5N2;H5N3;H5N8;H5N9;H7N1;H7N2;H7N3;H7N4;H7N7;H9N2;およびH10N7からなる血清型の群より選択される任意の血清型のA型インフルエンザウイルス、またはその派生物の感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物が、H1N1ウイルス、またはその派生物のウイルス感染によって引き起こされる呼吸器疾患の治療に用いられる、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記組成物が、ウイルス誘導性サイトカイン産生の炎症症状の改善に用いられる、請求項27〜30のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項32】
前記組成物が、未感作の対象の急性ウイルス感染における炎症の治療に用いられる、請求項27〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物が、ウイルスの再燃の治療に用いられる、請求項27〜32のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項34】
対象の肺における非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の生物学的利用能を増加させるための、経口投与可能な医薬組成物中での、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルの使用。
【請求項35】
前記ベヒクルが、対象の肺におけるNSAIDまたはその誘導体の濃度を、腹腔内投与もしくは脂質を含まないベヒクルを用いた経口投与によって達成されるであろう濃度と比較して、少なくとも50%、100%、200%、または少なくとも300%増加させることができる、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
3200mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、NSAIDまたはその誘導体を含む経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクル。
【請求項37】
3200mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、治療上有効な量のNSAIDまたはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む、経口投与可能な鎮痛組成物。
【請求項38】
前記組成物が、3300mg/日、3400mg/日、3500mg/日、4000mg/日、4500mg/日、5000mg/日、6000mg/日、7000mg/日、8000mg/日、9000mg/日、1Og/日、11g/日、12g/日、13g/日、または14g/日以上のNSAIDの1日用量で投与される、請求項36または請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
NSAIDの1日用量が単回投与として与えられる、請求項37〜38のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項40】
1日用量が、3200mg超〜14000mg、または3200mg超〜10000mg、または3200mg超〜7000mg、または3200mg超〜5000mgである、請求項37〜39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項41】
前記組成物が、3200mg超〜7000mg、または3200mg超〜5000mg、または3200mg超〜4000mgの1日2回以上の用量として投与される、請求項37〜39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項42】
1600mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、NSAIDまたはその誘導体を含む市販(OTC)の経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクル。
【請求項43】
1600mg/日超の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体の用量の経口投与によって炎症性疼痛の治療に使用するための、治療上有効な量のNSAIDまたはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む、市販(OTC)の経口投与可能な鎮痛組成物。
【請求項44】
NSAIDまたはその誘導体の用量が1600mg/日〜3200mg/日である、請求項42または請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
NSAIDが請求項17〜23のいずれか1項に定義される、請求項34もしくは請求項35に記載の使用、または請求項36〜44のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項46】
関節炎(例えば関節リウマチもしくは変形性関節症)、炎症性腸疾患、子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、乾癬、または嚢胞性線維症における炎症性疼痛の治療あるいは軽減に使用するための、請求項17〜23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項47】
呼吸器疾患を予防、治療および/または改善する方法であって、このような治療を必要とする対象に、治療上有効な量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含有する医薬組成物を経口投与することを含む方法。
【請求項48】
炎症性疼痛を治療する方法であって、このような治療を必要とする対象に、(i)非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)もしくはその誘導体を含む経口投与可能な医薬組成物中の、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクル、または(ii)NSAIDもしくはその誘導体と、脂質およびアルコールを含む製薬上許容されうるベヒクルとを含む経口投与可能な鎮痛組成物のいずれかを経口投与することを含み、その方法が、対象に、3200mg/日超のNSAIDまたはその誘導体の用量を投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−518869(P2013−518869A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551685(P2012−551685)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050189
【国際公開番号】WO2011/095814
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(510179526)バイオコピア リミテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】Biocopea Limited
【Fターム(参考)】