説明

呼吸情報検出方法及びそれに用いる呼吸情報検出用チューブ

【課題】口呼吸でも鼻呼吸でも確実に呼吸の気流の変化を検出できると共に、チューブに形成された孔に体液が進入することの無い呼吸情報検出方法及びそれに用いる呼吸情報検出用チューブを提供する。
【解決手段】一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有する医療用チューブの他端に検出装置及び/又はポンプを接続して、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき、呼吸情報を検出することを特徴とする呼吸情報検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
患者の呼吸の有無や圧などの呼吸情報を検出する呼吸情報検出方法及びそれに用いる呼吸情報検出用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の呼吸の有無や圧を検出するものとしては、鼻カニューレにより呼吸の気流によって生じる圧変化を検出するもの(例えば、特許文献1参照)、或いは鼻腔と口に置かれたサーミスタや熱伝対による温度変化を検出するもの(例えば、特許文献2参照)が広く知られている。
【0003】
また、上記特許文献1や特許文献2の呼吸の情報を取得するための鼻カニューレは、鼻腔内の圧力や温度の変化を検出して呼吸の情報を検出するものであるが、被験者の咽頭部の二酸化炭素を測定して呼吸情報を取得するもの(特許文献3参照)も知られている。
【0004】
上記特許文献3には、肺胞部が含有する二酸化炭素の量を測定するための咽頭部にセットするカテーテルとして以下のものが開示されている。
【0005】
この発明は、肺胞部が含有する二酸化炭素を測定するために使用する装置に関する。
この発明の目的は、麻酔をかけた状態又は人工呼吸を実施する場合等に患者の動脈中の血液に含まれる気体における二酸化炭素を測定するために、カテーテルを血管内に直接挿入する等の侵襲的な方法をとらずに実施する方法を提供することにある。
【0006】
特許文献3の実施例を図4を用いて説明する。
この発明による咽頭部にセットするカテーテル10は、患者の軟口蓋3上に位置する鼻孔1及び鼻咽喉2へ挿入する。カテーテル10は端部12,14からなり、カテーテル10全体に内腔15を形成している。端部14には気体取込用の穴16を数個配置し、挿入したカテーテル10に端部14は中咽頭4と咽喉頭6の接合部又はできるだけ近い部位にセットする。
この結果、端部14は喉頭蓋7、気管8及び食道9の上に位置することになる。
【0007】
カテーテル10の直径は約2〜4mmで、気体取込用の穴16の直径は約1〜3mmである。端部14に近い部位18が患者の鼻から鼻咽喉2の開口部の位置にセットするため、気体取込用の穴を患者の咽頭部にセットすることができる。
また、部位18は塩化ビニル等の固めの素材を患者の鼻腔の形態に一致し、端部14が後部咽頭部から離れた中鼻孔の開口部に位置するように成形したものである。
【0008】
一方、カテーテル10の反対側の端部12は部位22の近くに位置し、患者の顔及び頭部の形状に一致し簡単に取り付けることができるように、ポリ塩化ビニルに可塑剤を混合した柔軟な部位である。また、患者の顔より離れた位置にある部位22には吸入口26を装備した吸引トラップ24を配置する。端部12は取込ライン30により気体の測定装置86に連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008−543447号公報
【特許文献2】特表2008−526328号公報
【特許文献3】米国特許明細書第5555890号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載のものでは、患者が呼吸をする時に、鼻カニューレを装着して患者の鼻腔内での圧力の変化を検出する方式であるので、患者が口呼吸をした場合には測定できない問題があった。
また、上記特許文献2に記載のものでは、患者が口呼吸した場合に測定はできるものの、口の開口状態が変化して口からの気流が検出部から外れてしまうので、気流の変化を確実に捉えることができず、患者の呼吸の圧変化を捉えるなど正確な測定はできなかった。
また、上記特許文献3に記載のものでは、気体取込用の穴が数個配置された端部を咽頭部近傍に挿入して咽頭部近傍の気体を吸引して取込み、測定装置で二酸化炭素を測定する方式であるため、咽頭部近傍の体液が気体取込用の穴を塞いで確実な気体の取込みが出来なくなるという問題があった。
【0011】
本発明の課題(目的)は、患者への身体的負担や医療従事者の業務負担をかけることなく、口呼吸でも鼻呼吸でも確実に呼吸の気流の変化を検出できると共に、チューブに形成された孔に体液が進入することの無い呼吸情報検出方法及びそれに用いる呼吸情報検出用チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の呼吸情報検出方法は、一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有する医療用チューブの他端に検出装置及び/又はポンプを接続して、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき、呼吸情報を検出することを特徴とする。
【0013】
また、前記医療用チューブは、さらに第二のルーメンを有し、第二のルーメンの一端を鼻腔、口腔及び食道を介して胃に留置される部分に少なくとも1個の孔を備え、前記第二のルーメンの一端を胃に留置した状態で、前記第一のルーメンの孔を介し、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動を検出することを特徴とする。
【0014】
また、前記検出装置の前記第一のルーメンとの接続部には、常に前記第一のルーメンの孔近傍には陽圧がかけられていることを特徴とする。
また、前記陽圧は一定流量でかけられていることを特徴とする。
また、前記呼吸情報とは、呼吸圧、呼吸の有無、換気量、いびき、呼吸状態、呼吸数のいずれか一つ以上であることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の呼吸情報検出方法に用いる医療用チューブは、一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有すると共に、他端に検出装置及び/又はポンプを接続可能に構成し、前記検出装置により、前記第一のルーメンの孔を介して得られる患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき、呼吸情報を検出可能とすることを特徴とする。
【0016】
また、前記医療用チューブは、さらに第二のルーメンを有し、第二のルーメンの一端を鼻腔、口腔及び食道を介して胃に留置される部分に少なくとも1個の孔を備え、前記第二のルーメンを胃に留置した状態で、前記第一のルーメンの孔を介し、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の呼吸情報検出方法によれば、一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有する医療用チューブの他端に検出装置及び/又はポンプを接続して、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき呼吸情報を検出するので、患者が口呼吸をした場合でも鼻呼吸をした場合でも確実に呼吸の気流の変化を検出できる。
また、更に圧センサとルーメンとの接続部近傍には、安定した圧を送出するポンプを接続して常に陽圧をかけておくことによって、ルーメンの咽頭部近傍に形成された孔に体液が進入することを防止することができる。特に、一定の流量で陽圧をかけた場合、ベースラインが安定するため、圧変化の把握が容易となる。
また、複数の孔が設けられた場合、いずれかが詰まった場合でも、測定を続行することができる。
さらに、呼吸情報検出用チューブが、医療現場で広く用いられているマーゲンチューブ(胃管チューブ)と一体構成としたダブルルーメン構造とすれば、患者に新たなチューブを挿入することがないうえ、患者への身体的負担や医療従事者に更なる業務負担をかけずに、従来できなかった呼吸の有無や圧などの呼吸情報の測定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例であるシングルルーメン呼吸情報検出用チューブで患者の呼吸検出を実行している状態を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例であるダブルルーメン呼吸情報検出用チューブで患者の呼吸検出を実行している状態を示す図である。
【図3】本発明の呼吸検出における圧センサの検出波形を示す図である。
【図4】従来の肺胞部が含有する二酸化炭素を測定するために使用する装置の使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の呼吸情報検出方法の第1の実施例を図1を用いて説明する。
図1は、シングルルーメン呼吸情報検出用チューブで患者の呼吸検出を実行している状態を示す図である。
図1において、シングルルーメン呼吸情報検出用チューブ10は、その一端を鼻腔1又は口腔3を介して挿入され患者の咽頭近傍4に留置されている。
【0020】
前記シングルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の一端には、空気を咽頭部内に排出するための孔4が少なくとも1個設けられている。
また、前記シングルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の他端には、検出装置(圧センサ)86が接続されて、孔4を介して得られる患者の呼吸に基づく気流の変化による圧変動の有無や圧などの呼吸情報を検出している。なお、複数の孔が存在するのが望ましい。いずれか一つの孔が唾液や痰などを含む体液により閉塞しても、いずれか他の孔により測定可能となるからである。なお、呼吸情報とは、この圧変動に基づき得られる、呼吸圧、呼吸の有無、換気量、いびき、呼吸数、呼吸状態(例えば、呼吸が閉塞気味であるなどの判定)など呼吸に関連する情報を意味し、これらに限られない。
【0021】
前記圧センサの検出出力波形は図3(a)の如くである。
図3は時間と咽頭部近傍の気流(圧)との関係を示すものである。
図3(a)において、患者が呼吸をしている場合には、呼吸による気流の変化に基づいて咽頭部近傍の圧が変動して図示の如く連続する変動波形が現れている。
患者の呼吸が停止した場合には変動波形は現れなくなるので、患者が呼吸をしているか否かの判断ができる。
【0022】
図1における検出装置(圧センサ)の近傍に接続されているポンプ100によって、空気を前記シングルルーメン呼吸情報検出用チューブを介して当該シングルルーメン呼吸情報検出用チューブの一端部に設けられた孔から空気を排出して、孔近傍を陽圧に保持する。すなわち、孔を介して、チューブ内からチューブ外へ陽圧がかけられている。
このように安定した圧を送出するポンプを接続して常に陽圧をかけておくことによって、ルーメンの咽頭部近傍に形成された孔に体液が進入することを防止することができる。
このポンプ100は、少量の空気の排出を高速で駆動実行することでポンプによる圧力の変動を少なくして、呼吸による気流の変化に基づく孔近傍の圧が変動のみを正確に検出できる構成としている。
【0023】
図3(b)では、前記ポンプによる陽圧で所定のバイアスがかかった状態で、呼吸による気流の変化に基づいて咽頭部近傍の圧が変動して図示の如く連続する変動波形が現れていることを示している。特に一定の流量で陽圧をかけると、圧のベースライン(図3(b)の点線)が安定するため、安定かつ容易に圧の測定が可能となる。また、陽圧としてかける圧の大きさは、孔に体液が侵入しない程度であれば良い。
【0024】
次に、本発明の呼吸情報検出方法の第2の実施例を図2を用いて説明する。
図2は、ダブルルーメン呼吸情報検出用チューブで患者の呼吸検出を実行している状態を示す図である。
図2において、ダブルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の一方のルーメンは図1のシングルルーメンと同様に、その一端を鼻腔1又は口腔3を介して挿入され患者の咽頭近傍4に留置されている。
【0025】
前記ダブルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の一方のルーメンの一端には、図1と同様に空気を咽頭部内に排出するための孔4が少なくとも1個設けられている。
また、前記ダブルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の一方のルーメンの他端には、図1と同様に検出装置(圧センサ)86が接続されて、患者の呼吸に基づく気流の変化による圧変動の有無を検出している。検出された圧変動に基づき、呼吸情報を検出する。
【0026】
前記ダブルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の他方のルーメンの一端は食道を介して図示しない胃に挿入され留置されている。ここでの他方のルーメンは、従来より医療現場で頻繁に用いられているマーゲンチューブと同様の作用効果を有するものである。
このダブルルーメン呼吸情報検出用チューブ10の他方のルーメンの他端200は患者の胃に対する種々の治療等(吸引や栄養の供給など)で使用される。
【0027】
図2の検査装置の検出波形は図1の場合と同様である。
前記検出装置(圧センサ)の検出出力波形は図3(a)の如くである。
図3(a)において、患者が呼吸をしている場合には、呼吸による気流の変化に基づいて咽頭部近傍の圧が変動して図示の如く連続する変動波形が現れている。
患者の呼吸が停止した場合には変動波形は現れなくなるので、患者が呼吸をしているか否かの判断ができる。
【0028】
また、図2においても、図1と同様に検出装置(圧センサ)の近傍に接続されているポンプ100によって、空気を前記シングルルーメン呼吸情報検出用チューブを介して当該シングルルーメン呼吸情報検出用チューブの一端部に設けられた孔から空気を排出して、孔近傍を陽圧に保持する。
このポンプ100は、少量の空気の排出を高速で実行することでポンプによる圧力の変動を少なくして、一定の流量で、呼吸による気流の変化に基づく咽頭部近傍の圧が変動のみを正確に検出できる構成としている。
【0029】
図3(b)では、前記ポンプによる陽圧で所定のバイアスがかかった状態で、呼吸による気流の変化に基づいて咽頭部近傍の圧が変動して図示の如く連続する変動波形が現れていることを示している。
【0030】
図1及び図2のシングルルーメン呼吸情報検出用チューブ及びダブルルーメン呼吸情報検出用チューブは、患者の体内に挿入されるものであるので、鼻腔、口腔、食道等を傷を付けないような素材を使用する。
素材として、例えば、シリコーン、ポリウレタン及びポリ塩化ビニル等が適している。
【符号の説明】
【0031】
1:鼻腔部
3:口腔部
4:咽頭部
10:呼吸情報検出用チューブ
10−1:胃管
16:孔(穴)
86:検出装置(圧センサ)
100:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有する医療用チューブの他端に検出装置及び/又はポンプを接続して、
前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき、呼吸情報を検出することを特徴とする呼吸情報検出方法。
【請求項2】
前記医療用チューブは、さらに第二のルーメンを有し、
第二のルーメンの一端を鼻腔、口腔及び食道を介して胃に留置される部分に少なくとも1個の孔を備え、
前記第二のルーメンの一端を胃に留置した状態で、前記第一のルーメンの孔を介し、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動を検出すること
を特徴とする請求項1に記載する呼吸情報検出方法。
【請求項3】
前記検出装置の前記第一のルーメンとの接続部には、常に前記第一のルーメンの孔近傍には陽圧がかけられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の呼吸情報検出方法。
【請求項4】
前記陽圧は一定流量でかけられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の呼吸情報検出方法。
【請求項5】
前記呼吸情報とは、呼吸圧、呼吸の有無、換気量、いびき、呼吸状態、呼吸数のいずれか一つ以上である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の呼吸情報検出方法。
【請求項6】
一端を鼻腔又は口腔を介して挿入して患者の咽頭近傍に留置される部分に少なくとも1個の孔を備えた第一のルーメンを有すると共に、他端に検出装置及び/又はポンプを接続可能に構成し、
前記検出装置により、前記第一のルーメンの孔を介して得られる患者の咽頭部近傍の圧変動に基づき、呼吸情報を検出可能とする
ことを特徴とする医療用チューブ。
【請求項7】
前記医療用チューブは、さらに第二のルーメンを有し、
第二のルーメンの一端を鼻腔、口腔及び食道を介して胃に留置される部分に少なくとも1個の孔を備え、
前記第二のルーメンを胃に留置した状態で、前記第一のルーメンの孔を介し、前記検出装置による患者の咽頭部近傍の圧変動を検出すること
を特徴とする請求項6に記載の医療用チューブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−85671(P2012−85671A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232289(P2010−232289)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】