説明

呼吸機能測定装置

【課題】胸腔内圧変化などの呼吸機能信号を簡易に測定する。
【解決手段】血圧を検出するための血圧トランスデューサ11と、前記血圧トランスデューサ11により検出された血圧から、心臓収縮由来の信号または呼吸由来の信号を用いて呼吸機能信号を抽出する抽出手段である呼吸成分分離部35と、生体から心臓収縮由来の信号または呼吸由来の信号を取り出し、前記呼吸成分分離部35に対し供給する手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観血血圧から胸腔内圧変化などの呼吸機能信号を測定することができる呼吸機能測定装置に関するものである。
【0002】
近年の呼吸管理においては、自発呼吸を残した換気モードが用いられることもあり、呼吸仕事量等の測定が注目されるに到っている。呼吸仕事量の測定には、胸腔内圧の測定が必要となるが、胸腔内圧の測定が不可能であるために、食道内圧の測定で代用している。しかしながら、食道内圧の測定においては、食道にバルーンカテーテルを挿入するという煩雑な作業が必要であるばかりか、被検者の負担が大きいという問題がある。
【背景技術】
【0003】
一方、中心静脈圧(CVP;Central Venous Pressure)は輸血などの循環管理上において重要なパラメータとされており、人工呼吸を施すような重症例では高い頻度で測定が行われている。心臓は胸腔内にあるために、胸腔内圧の影響を受けている。特に、右心房近傍の中心静脈圧は低圧であり、胸腔内圧を強く反映する。このような関係は、従来より認識されていることである(特許文献1、0018〜0021参照)。
【0004】
しかし、血圧波形の表示は、圧トランスデューサから得られる波形情報を忠実に表示することを目的としているため、周波数特性が0〜10Hz或いは20Hz程度であり、呼吸性変動を読み取ることは困難であった。ただし、平均血圧、CVPなどから血管のコンプライアンスを測定することは行われている(特許文献2参照)。しかしながら、呼吸管理上の有用情報を含んでいる胸腔内圧変化を簡便にモニタする手法は開発されていない。
【0005】
さらに、基本周波数として心拍数または呼吸数を用いて複数の高調波成分を圧波形より分離することで呼吸作用を除去するものもある(特許文献3)。しかし、これは呼吸による胸腔内圧の変化が循環機能に与える影響を計測するものであり、血圧波形の心臓由来の周波数成分と呼吸由来の周波数成分の比を、フーリエ変換による周波数パワースペクトルから求めるものである。この手法は処理が複雑であるだけでなく、呼吸機能の計測においては時間軸上の波形解析が必要であり、周波数パワースペクトルという周波数軸上で解析することはできない。さらに、フーリエ変換する為に所定数のデータを収集する必要がある。信号のリアルタイムでの処理を考慮した場合に、この収集により時間遅れの発生が懸念される。また、収集されたデータ数が不十分な状態でフーリエ変換した場合、出力される信号の精度が悪くなる可能性もある。
【特許文献1】特許3857684明細書
【特許文献2】米国特許6315735明細書
【特許文献3】特開2008−36433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような呼吸機能信号測定における現状に鑑みてなされたもので、その目的は、循環管理の目的で測定されている中心静脈圧波形から、心臓収縮由来の成分を取り除き、胸腔内圧の呼吸性変動を簡易に推定することができる呼吸機能測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る呼吸機能測定装置は、観血血圧を検出するための血圧センサと、心拍動の周期又は呼吸の周期のいずれかを測定するセンサと、前記センサから得られた周期成分とその高調波成分を用いて前記観血血圧より呼吸機能信号を抽出する抽出手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、抽出される前記呼吸機能信号を、胸腔内圧と推定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記抽出手段は、測定された心拍動の周期及びその高調波成分を選択的に除去することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記抽出手段は、測定された心拍動の周期より低い周波数を通過させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記抽出手段は、測定された呼吸の周期及びその高調波成分を通過させることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る呼吸機能測定装置では前記心拍動の周期は、心電図、光電容積脈波、動脈圧のいずれかから求められることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼吸の周期は、呼気CO2濃度、呼吸流量、気道内圧、インピーダンス呼吸、呼吸温のいずれかから求められることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記観血血圧は、中心静脈圧(CVP)又は末梢静脈圧のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼吸の周期を測定するセンサは呼気終末を推定し前記呼気終末を基準とする抽出された呼吸信号の大きさを求める呼吸変動検出手段を更に含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼気終末は、前記観血血圧の平坦部、呼気CO2濃度、呼吸流量、気道内圧、インピーダンス呼吸、呼吸温のいずれかより求められることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼吸信号の大きさの極性に基づき、自発呼吸か人工呼吸かを判別する呼吸判別手段を更に含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼吸信号の大きさに基づき、PTP、内因性PEEP、呼吸仕事量、P0.1のいずれか一つ以上を求める二次呼吸機能演算手段を更に含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼気終末時点を基準として、前記抽出された呼吸信号を塗りつぶし表示することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記呼気終末時点を示すマークを、波形表示と同時に表示することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、前記抽出された呼吸信号を横軸、前記呼吸流量を積分して得られる換気量を縦軸に波形表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上の通り、本発明に係る呼吸機能測定装置では、観血血圧を検出するための血圧センサにより検出された血圧から、心臓収縮由来の周期または呼吸由来の周期を用いて呼吸機能信号を抽出するので、被検者に大きな負担をかけることなく、胸腔内圧変化などの呼吸機能信号を容易に測定することができるという効果がある。
【0023】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、心拍動の周期及びその高調波成分を選択的に除去するので、血圧波形に含まれる心拍による影響を排除した胸腔内圧変化などの呼吸機能信号の測定が可能となる。特に心拍動の周期の高調波成分をくし型フィルタを用いて選択的に除去することは、必要な情報を失わずに、呼吸に由来する胸腔内圧変化の信号を抽出できる。
【0024】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、測定された心拍動の周期より低い周波数を通過させるので、血圧波形に含まれる心拍による影響を排除した胸腔内圧変化などの呼吸機能の測定が可能となる。これは、通常呼吸周期は心拍動より遅いため、心拍動の周期より低い周波数成分のみを通過させれば、呼吸に由来する胸腔内圧変化の基本波を取り出すことができるからである。さらに、この胸腔内圧変化の大きさの推移を見る用途として、高調波成分を持たない基本波成分のみであっても有用な情報となる。特に低域のみ通過するフィルタは比較的容易に実現可能であり、CPUの能力に依存せずに呼吸機能を測定できる。
【0025】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、測定された呼吸の周期及びその高調波成分を通過させるので、血圧波形から呼吸変動成分のみ抽出でき、胸腔内圧変化などの呼吸機能の測定が可能となる。よって、呼吸に由来する胸腔内圧変化を、心拍動以外の外乱要因を除去し、血圧信号から高調波成分を含めて忠実に取り出すことを可能とする。
【0026】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、自発呼吸か人工呼吸かを判別できるため、被検者の人工呼吸離脱のタイミングを知る指標となる。ここで、人工呼吸中に気道内圧や呼吸流量信号から、患者の肺コンプライアンス測定などにおいて、胸郭の筋肉が弛緩していることを前提とする場合がある。この際に上記タイミングにより、自発呼吸を対象から外すことで、より正確な肺コンプライアンス測定が可能となる。
【0027】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、二次呼吸機能を算出できるため、患者の呼吸努力、呼吸筋の酸素消費などの指標が得られる。これら指標は従来技術では食道内圧を測定することで算出されていた。本発明では、食道内圧を測定することなく、従来から高い頻度で測定されている中心静脈圧を用いて、これら指標を推定できるため人工呼吸器離脱の管理を有効かつ簡便に実現できる。
【0028】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、呼吸系パラメータを循環系パラメータと異なる掃引速度で表示した場合でも、血圧波形を呼吸系パラメータと同じ時相で表示できるため、呼吸機能の把握がより容易になる。
【0029】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、呼吸信号を塗りつぶし表示できるため、塗りつぶし面積から後述するPTPを視覚的に強調することを可能とするだけでなく、患者の呼吸努力を直感的に迅速に知ることができる。
【0030】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、呼気終末時点を示すマークを波形と同時に表示できるため、体位変換などの処置により計測波形が乱れても、呼気終末点を示すマークを波形に重畳させて表示することにより、呼気終末点検出処理が正確に作動しているか否かを知ることが可能となる。
【0031】
本発明に係る呼吸機能測定装置では、圧力を横軸、換気量を縦軸として表示できるため、自発呼吸においても肺の膨らみやすさ(コンプライアンス)を表示された波形形状より容易に確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例を説明する。各図において同一の構成要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。まず、呼吸の原理について説明する。呼吸系の等価回路は図1に示されるようである。呼吸は、横隔膜を中心とした呼吸筋により生じさせられるものであり、肺や胸郭を運動させるために肺エラスタンスEl及び胸郭壁エラスタンスEwに対する仕事が必要となる。呼吸流は気道抵抗Rlと胸郭壁抵抗Rwに妨げられるものであり、呼吸に必要な仕事量は、気道抵抗Rl、肺エラスタンスEl、胸郭壁抵抗Rw及び胸郭壁エラスタンスEwに対する仕事量の和になる。
【0033】
気流Fawは、気道内圧Pawと胸腔内圧Pplの差圧により生じる。人工呼吸にあっては、気道内圧Pawを陽圧とすることにより、気流Fawを肺に送り込む。このとき、胸腔内圧Pplも陽圧となる。一方、自発呼吸の場合には、呼吸筋により胸郭が広げられ、胸腔内圧Pplは陰圧となる。
【0034】
従って、胸腔内圧Pplにより人工呼吸による呼吸と呼吸筋による呼吸とを識別可能であり、呼吸筋の振る舞いを推定することが可能となる。
【0035】
本発明の実施例に係る呼吸機能測定装置においては、図2に示される構成を採用する。即ち、血圧トランスデューサ11、心電図電極12、メインストリームCO2センサ13、呼吸流量/気道内圧センサ14を備える。
【0036】
観血血圧を検出するための血圧センサである血圧トランスデューサ11には、血圧処理回路21が接続されており、更に血圧処理回路21の出力信号はCPU30へ送られるように構成されている。心拍動の周期を測定するセンサである心電図電極12には、心電図処理回路22及びインピーダンス呼吸処理回路23が接続されており、心電図処理回路22及びインピーダンス呼吸処理回路23の出力信号はCPU30へ送られるように構成されている。心拍動の周期を測定するセンサとしては、上記心電図のセンサ以外に、光電容積脈波のセンサ、動脈圧のセンサなどを用いることができる。
【0037】
呼吸の周期を測定するセンサであるメインストリームCO2センサ13には、CO2濃度処理回路24が接続されており、CO2濃度処理回路24の出力信号はCPU30へ送られるように構成されている。呼吸の周期を測定するセンサである呼吸流量/気道内圧センサ14には、呼吸流量/気道内圧処理回路25が接続されており、呼吸流量/気道内圧処理回路25の出力信号はCPU30へ送られるように構成されている。呼吸周期を測定するセンサとしては、呼吸温のセンサを採用することができる。
【0038】
CPU30には、解析部31が備えられており、上記の血圧処理回路21により作成される血圧波形信号、心電図処理回路22により作成される心電図波形信号、インピーダンス呼吸処理回路23により作成されるインピーダンス呼吸波形信号、CO2濃度処理回路24により作成されるCO2濃度波形信号及び呼吸流量/気道内圧処理回路25により作成される呼吸流量信号(図3でのフロー)と気道内圧Paw信号はいずれも解析部31に取り込まれる。
【0039】
解析部31は、上記の各信号を用いて呼吸機能を求め、呼吸機能波形と呼吸機能数値として、LCDなどのディスプレイと表示コントローラにより構成される波形/数値表示部40へ送り呼吸機能に係る波形と数値を表示させる。
【0040】
解析部31は図3に示されるように、呼吸成分分離部35、呼吸波形信号選択部36及び呼吸パラメータ算出部37を備えている。呼吸波形信号選択部36には、インピーダンス呼吸処理回路23により作成されるインピーダンス呼吸波形信号、CO2濃度処理回路24により作成されるCO2濃度波形信号及び呼吸流量/気道内圧処理回路25により作成される呼吸流量信号と気道内圧Paw信号が与えられている。呼吸波形信号選択部36は、上記各信号から所要の信号を選択して呼吸成分分離部35及び呼吸パラメータ算出部37に与える。信号選択の基準は後述する。
【0041】
呼吸成分分離部35には、血圧処理回路21により作成される血圧波形信号と心電図処理回路22により作成される心電図波形信号が与えられ、更には、呼吸波形信号選択部36により選択された信号が与えられる。呼吸成分分離部35は、血圧処理回路21により作成される血圧波形信号について心臓収縮由来の信号または呼吸由来の信号を用いて呼吸機能信号を抽出する抽出手段として機能するもので、ここでは、呼吸機能波形情報を出力する。
【0042】
呼吸パラメータ算出部37には、上記呼吸波形信号選択部36により選択された信号と、呼吸成分分離部35から出力される呼吸機能波形情報を得ている。さらに呼吸パラメータ算出部37は呼吸機能のパラメータとして公知の処理を用いて、PTP(Pressure-Time Product)、内因性PEEP、呼吸仕事量、呼吸努力を開始から0.1秒後の値(P0.1)といった二次呼吸機能を算出し、これら計測結果を出力する。これらのパラメータは、波形/数値表示部40において表示される。
【0043】
ここで、PTPとは、自発呼吸の吸気中の胸腔内圧を時間積分することで得られる指標であり、呼吸努力や呼吸筋の酸素消費を表し、人工呼吸器から離脱後に患者に過剰な呼吸努力を強いていないか等の判断として用いられる。内因性PEEPとは、呼気努力の開始時点と吸気流量の開始時点での胸腔内圧の絶対値変化より得られる指標である。呼吸仕事量とは、気道、肺、胸郭の抵抗に逆らって換気量を変化させるのに必要とする仕事量である。P0.1とは瞬間的に気道を閉塞し呼吸努力を開始から0.1秒後の値であり、呼吸中枢機能すなわち呼吸ドライブの評価の指標である。
【0044】
上記二次呼吸機能の算出は、公知の手法としては、食道内圧を用いて算出されるのが一般的である(例えば、石川清・勝屋弘忠著「機械換気下の呼吸機能モニター」 1993年2月発行 集中治療(vol.2 no.2))。しかし、食道内圧に代えて、胸腔内圧を反映した本願発明により抽出される呼吸信号を適用すれば、これら二次呼吸機能を算出できる。
【0045】
上記のように構成された呼吸機能測定装置は、中心静脈圧を用いて呼吸機能信号の測定を行う。この場合には、被検者の中心静脈圧が取り出せるように血圧トランスデューサ11をセットし、心電図電極12、メインストリームCO2センサ13及び呼吸流量/気道内圧センサ14をそれぞれ被検者の所要部位に装着して測定を開始する。
【0046】
血圧処理回路21には、血圧トランスデューサ11により検出された血圧信号が到来し、血圧処理回路21は、この血圧信号に基づき血圧値(中心静脈圧)を算出してディジタル化した血圧波形信号として出力する。
【0047】
また、心電図処理回路22には、心電図電極12により検出された心電図信号が到来し、心電図処理回路22は、この心電図信号に基づき心電図波形を得てディジタル化した心電図波形信号として出力する。
【0048】
CPU30の解析部31は、上記血圧波形信号及び心電図波形信号を取り込み、呼吸成分分離部35において呼吸機能信号である呼吸性成分を抽出する。ここで、血圧波形信号はCVPであり、抽出される呼吸性成分をCVPrとする。呼吸成分分離部35は、呼吸性成分CVPrを通過させるフィルタを用いて抽出を行う。フィルタは、CVP波形から心臓収縮由来の周波数成分を除去するフィルタにより実現でき、或いは、CVP波形から呼吸由来の周波数を選択的に取り出すフィルタにより実現できる。
【0049】
ここでは、CVP波形から心臓収縮由来の周波数成分を除去するフィルタにより実現する手法を説明する。呼吸成分分離部35は、図4、図5に示されるフローチャートによる動作を行うことにより、上記フィルタによる心臓収縮由来の周波数成分の除去を行う。即ち、心電図波形信号を取り込みQRS波の到来を、例えば信号値の急峻な立上り及び立下りにより検出する(S11)。
【0050】
QRS波の到来が検出できた場合には、検出した時刻情報を記憶し(S12)、前回のQRS検出時刻との差を算出してRRインターバルを求める(S13)。以降、次データを取り込んでステップS11〜S13を繰り返す。
【0051】
上記図4のフローチャートに示される処理と並行して、呼吸成分分離部35は、血圧波形信号であるCVP波形を取り込み、図4のステップS13において算出したRRインターバルから求まる心臓収縮基本周波数と、その高調波を取り除く櫛形フィルタ処理を行い、呼吸機能信号(以下、呼吸性成分CVPr)を抽出する(S21)。
【0052】
呼吸成分分離部35の構成としては、CVP波形を、心臓収縮由来の成分と呼吸由来の成分である呼吸性成分CVPrに分離するために、心拍動の周期(心周期)より低い周波数のみ通過する低域通過フィルタを用いるようにしても良い。この構成に用いられる低域通過フィルタは、比較的容易に実現可能であり、CPUの能力に依存せずに呼吸機能を測定できる利点がある。
【0053】
上記において得られた呼吸性成分CVPrの波形情報は、CVP波形情報や呼吸波形信号選択部36を介して送られたCO2濃度波形信号から作成したCO2濃度波形情報と共に波形/数値表示部40へ送られ、波形/数値表示部40において、例えば図6(a)、図6(b)に示されるように横軸を時間とし縦軸をボリュームとして表示される。図6(a)は、人工呼吸を行っている被検者から得られたCVP波形(図上段)とCO2濃度波形(図下段)を並列表示したものであり、図6(b)は、人工呼吸を行っている被検者に係るCVPから抽出して得られた呼吸性成分CVPr波形(図上段)とCO2濃度波形(図下段)を並列表示したものである。
【0054】
上記では、CO2濃度波形を並列表示したが、呼吸流量波形、気道内圧波形、インピーダンス呼吸波形の少なくとも一つと並列表示するようにしても良い。この場合、呼吸波形信号選択部36は、外部からのオペレータの指示入力や予め設定することにより、所要の信号を選択して呼吸成分分離部35及び呼吸パラメータ算出部37に与える。図7(a)には、自発呼吸を行っている被検者から得られたCVP波形(図上段)とインピーダンス呼吸波形(図下段)を並列表示したものが示されており、図7(b)には、自発呼吸を行っている被検者に係るCVPから抽出して得られた呼吸性成分CVPr波形(図上段)とインピーダンス呼吸波形(図下段)を並列表示したものが示されている。
【0055】
更に、本実施例においては呼吸パラメータ算出部37が、食道内圧と同様に、呼気終末(吸気開始点)を基準とした呼吸性成分CVPrの大きさΔCVPrを計測する。呼吸流量信号が得られている場合には、呼吸流量の変化が図8のように変化し、呼気終末(吸気開始点)は、容易に検出できるので、呼気終末(吸気開始点)を基準とした呼吸性成分CVPrの大きさΔCVPrも容易に計測できる。計測されたΔCVPrは、波形/数値表示部40へ送られ、波形/数値表示部40において、他の呼吸パラメータ等と共に表示される。また、呼吸パラメータ算出部37は、計測したΔCVPrの極性に基づき、人工呼吸であるか自発呼吸であるかを検出し、波形/数値表示部40において表示する。
【0056】
気管チューブ抜去などにより呼吸流量信号が得られていない場合には、呼吸パラメータ算出部37は、インピーダンス呼吸を用いて呼気相と吸気相を判定する。図9を用いて説明する。一呼吸時間よりやや多い区間において、最低インピーダンス値より20Ω以上の上昇がある山の頂上に対し前後する最低インピーダンス値の二点を求める。この二点に挟まれる山の部分が吸気相である。また、上記二点に挟まれるやや平坦な部分が呼気相である。
【0057】
呼吸パラメータ算出部37は、上記のようにして求めた呼気相中において、最も高い値の呼吸性成分CVPrの位置を、ΔCVPrの基準点とする。この基準点に対する呼吸性成分CVPrの大きさをΔCVPrとして計測する。計測結果は前述の通り、波形/数値表示部40において、他の呼吸パラメータ等と共に表示される。なお、ΔCVPrについては、これを「胸腔内圧変化」という呼吸パラメータとして表示しても良い。
【0058】
上記においては、呼吸流量によりまたはインピーダンス呼吸により呼気終末を検出したが、これ以外に、CVPの平坦部から呼気終末を検出する手法、CO2濃度波形から呼気終末を検出する手法、気道内圧から呼気終末を検出する手法、呼吸温を求め、これから呼気終末を検出する手法を採用しても良い。
【0059】
上記の実施例では、被検者の中心静脈圧が取り出したが、血圧トランスデューサ11を末梢静脈圧センサとして、末梢静脈圧を取り出して、これを用いても良い。末梢静脈圧を用いることが可能な理由は次の通りである。血管は血液で満たされているため、圧力の伝達系であると考えられる。ただし、血液の流れがあるために血管抵抗により圧力差が生じる。末梢血管を用いた場合には、その圧力差が中心静脈圧との乖離になって現れる。
【0060】
しかしながら、静脈血管の中を流れる血流は、定常流と考えられ、ほとんど脈流成分を持たない。従って、ここで現れる乖離は、直流的なオフセットとして現れるに過ぎない。本発明においては、血圧の呼吸性変動から胸腔内圧変動を推定することが目的であるために、圧力に生じる直流的な乖離は大きな問題とはならないのである。
【0061】
胸腔内圧と、気道内圧や胸郭運動など他の呼吸系パラメータとの関連性を把握することは、臨床上重要である。従って、本発明で得られた血圧の呼吸性成分波形を、胸腔内圧を反映するものとして、他の呼吸系パラメータと同じ時相で表示することは有用である。ところが、呼吸系パラメータは、心電図などの循環系パラメータとは別の遅い掃引速度で、画面表示する場合があり、その場合、従来の生体情報モニタでは、血圧の呼吸性変動を呼吸系パラメータと同じ時相で観察することは不可能であった。
【0062】
本発明では、呼吸系パラメータを循環系パラメータと異なる掃引速度で表示した場合でも、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示する構成を採用している。ここに、呼吸系パラメータとは、呼吸流量、気道内圧、呼吸性成分CVPrなどであり、循環系パラメータとは、心電図、動脈圧などである。また、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示する手法としては、次の手法が考えられる。まず、呼気終末時点での圧力値を基準として、呼吸性成分波形を塗りつぶし表示する手法である(図10a)。塗りつぶされた部分はPTPに相当し、患者の呼吸努力を直感的に確認できる。また、呼気終末時点を示すマークを、波形と同時に表示する手法も採用する(図10b)。これにより、体位変換などの処置により計測波形が乱れても、呼気終末点検出処理が正確に作動しているか否かを容易に確認できる。更に、CVPrを横軸、換気量を縦軸として波形表示する手法(図10c及び図10d)も可能である。図10dの波形は図10cの波形に比べて傾きが急峻である。これは、患者の少ない呼吸努力で大きな換気量が得られることが示している。よって表示される波形形状から自発呼吸における肺の膨らみやすさ(コンプライアンス)を容易に確認できる。このような表示手法によれば、呼吸機能の把握がより容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】呼吸系の等価回路を示す図。
【図2】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例の構成を示すブロック図。
【図3】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例の要部構成を示すブロック図。
【図4】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例による呼吸機能信号を抽出する処理を示すフローチャート。
【図5】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例による呼吸機能信号を抽出する処理を示すフローチャート。
【図6】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例により表示される呼吸機能信号の一例を示す図。
【図7】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例により表示される呼吸機能信号の一例を示す図。
【図8】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例による呼吸性成分CVPrの大きさΔCVPrを計測する処理を説明するための波形図。
【図9】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例による呼吸性成分CVPrの大きさΔCVPrを計測する処理を説明するための波形図。
【図10a】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例によって、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示した表示例を示す図。
【図10b】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例によって、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示した表示例を示す図。
【図10c】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例によって、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示した表示例を示す図。
【図10d】本発明に係る呼吸機能測定装置の実施例によって、呼吸系パラメータと循環系パラメータを同じ時相で表示した表示例を示す図。
【符号の説明】
【0064】
11 血圧トランスデューサ
12 心電図電極
13 メインストリームCO2センサ
14 気道内圧センサ
21 血圧処理回路
22 心電図処理回路
23 インピーダンス呼吸処理回路
24 濃度処理回路
25 気道内圧処理回路
30 CPU
31 解析部
35 呼吸成分分離部
36 呼吸波形信号選択部
37 呼吸パラメータ算出部
40 数値表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観血血圧を検出するための血圧センサと、
心拍動の周期又は呼吸の周期のいずれかを測定するセンサと、
前記センサから得られた周期成分とその高調波成分を用いて前記観血血圧より呼吸機能信号を抽出する抽出手段と
を具備することを特徴とする呼吸機能測定装置。
【請求項2】
抽出される前記呼吸機能信号を、胸腔内圧と推定すること
を特徴とする請求項1に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項3】
前記抽出手段は、測定された心拍動の周期及びその高調波成分を選択的に除去すること
を特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項4】
前記抽出手段は、測定された心拍動の周期より低い周波数を通過させること
を特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、測定された呼吸の周期及びその高調波成分を通過させること
を特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項6】
前記心拍動の周期は、心電図、光電容積脈波、動脈圧のいずれかから求められること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項7】
前記呼吸の周期は、呼気CO2濃度、呼吸流量、気道内圧、インピーダンス呼吸、呼吸温のいずれかから求められること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項8】
前記観血血圧は、中心静脈圧(CVP)又は末梢静脈圧のいずれかであること
を特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項9】
前記呼吸の周期を測定するセンサは呼気終末を推定し
前記呼気終末を基準とする抽出された呼吸信号の大きさを求める呼吸変動検出手段を更に含むこと
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項10】
前記呼気終末は、前記観血血圧の平坦部、呼気CO2濃度、呼吸流量、気道内圧、インピーダンス呼吸、呼吸温のいずれかより求められること
を特徴とする請求項9に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項11】
前記呼吸信号の大きさの極性に基づき、自発呼吸か人工呼吸かを判別する呼吸判別手段を更に含むこと
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項12】
前記呼吸信号の大きさに基づき、PTP、内因性PEEP、呼吸仕事量、P0.1のいずれか一つ以上を求める二次呼吸機能演算手段
を更に含むこと
を特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項13】
前記呼気終末時点を基準として、前記抽出された呼吸信号を塗りつぶし表示すること
を特徴とする請求項請求項9乃至12のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項14】
前記呼気終末時点を示すマークを、波形表示と同時に表示すること
を特徴とする請求項請求項9乃至13のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。
【請求項15】
前記抽出された呼吸信号を横軸、前記呼吸流量を積分して得られる換気量を縦軸に波形表示すること
を特徴とする請求項請求項1乃至14のいずれか1項に記載の呼吸機能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【公開番号】特開2010−142594(P2010−142594A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326242(P2008−326242)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】