説明

呼吸気情報測定センサ

【課題】簡易な構成であるにも拘わらず、適切に鼾検出を行う。
【解決手段】呼吸気を通過させる筒体20と、前記筒体20内に設けられた熱線22A、22Bと、前記熱線22A、22Bを抵抗として含むブリッジ回路と、前記ブリッジ回路から呼吸気による前記熱線の抵抗変化に応じた呼吸気量信号を取り出す抽出回路と、前記抽出回路の出力側に設けられた第一フィルタと第二フィルタと、前記第一フィルタの出力信号から呼吸流量を検出し、前記第二フィルタの出力信号から鼾を検出する検出回路とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱線式の呼吸気情報測定センサに関するものであり、呼吸流量だけでなく、鼾も同時に検出可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)の診断にあたり呼吸流量や鼾は基礎的なパラメータである。従来、鼾を検出するためにセンサを喉付近に貼着するなどし、鼾を音声信号や振動信号として検出を行うものが広く用いられている。この手法によると、呼気流量などとは全く別のセンサが必要となるため、被検者にセンサ装着の煩わしさや不快感を与えるという問題があった。
【0003】
また、圧電素子を用いる手法(特許文献1参照)により、生体の呼吸および鼾を検出するものも知られている。しかし、この手法によると、圧電素子の装着状態や口の形状や口の開け方等によって呼吸流量により生じる出力が変動する。更には圧電素子が大気に開放されているので呼気と吸気の流量を定性的な測定しかできず、呼吸流量を定量的に測定するのが不可能である。
【0004】
上記に対し、呼吸流量を制御する観点から鼾検出を行う装置が知られており、この装置では、圧力センサを用いて患者の気道圧力を示す圧力を監視し、気道圧力を示す圧力信号を検出し、検出した圧力信号を濾波して、特定の周波数領域内の周波数を含む濾波圧力信号を得て、閾値と上記濾波圧力信号を比較して、閾値を交差する濾波圧力信号に応答して第1の振動を検出し、この第1の振動の基準期間を決定する。
【0005】
更に、濾波圧力信号内で継続する第2の振動が閾値を超えるとき、第2の振動を検出して、この継続する第2の振動の第2の期間を決定し、該第2の期間を基準期間と比較して、第2の期間と基準期間とが整合するかを決定し、基準期間に整合する第2の期間に応答して鼾と判断するようにしたものである(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、この装置では、前述の通り処理が複雑であり、単純に波形を見ることにより鼾検出ができるというものではなかった。更に、気道圧力から呼吸信号を測定しているため、小児のような低換気の被検者に適用した場合、呼気が弱く十分な圧力や振動が得られず、的確に鼾を捉えられない可能性があった。
【特許文献1】特開2006−212271号公報
【特許文献2】特表2005−505329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、簡易な構成であるにも拘わらず、適切に呼吸流量の測定と同時に、鼾検出を行うことが可能な呼吸気情報測定センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る呼吸気情報測定センサは、呼吸気を通過させる筒体と、前記筒体内に設けられた熱線と、前記熱線を抵抗として含むブリッジ回路と、前記ブリッジ回路から呼吸気による前記熱線の変化に基づき呼吸気信号を取り出す抽出回路と、前記抽出回路の出力側に設けられた第一フィルタと第二フィルタと、前記第一フィルタの出力信号から呼吸流量を検出し、前記第二フィルタの出力信号から鼾を検出する検出回路とを具備すること
を特徴とする。
【0009】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、前記熱線の変化とは、熱線の温度変化、又は前記ブリッジ回路への供給電流の変化のいずれかであること
を特徴とする。
【0010】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、前記筒体の長手方向に更に熱線を設け並べて隣接配置させ、呼吸気の方向を検出する呼気/吸気判別回路を更に設けたこと
を特徴とする。
【0011】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、前記熱線の長手方向の前後に熱線をそれぞれ設け並べて隣接配置させ、呼吸気の方向を検出する呼気/吸気判別回路を更に設けたこと
を特徴とする。
【0012】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、生体の口と鼻とを覆い、前記筒体の一端側の開口部と連通するマスクを備えていること
を特徴とする。
【0013】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、第一フィルタはローパスフィルタであり、第二フィルタはハイパスフィルタであること
を特徴とする。
【0014】
本発明に係る呼吸気情報測定センサでは、前記検出回路は検出された呼吸流量から換気量を算出すること
を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る呼吸気情報測定センサによれば、生体の呼吸気による熱線の温度変化から呼吸気信号を取り出す抽出回路の出力をフィルタ処理する構成であるため、構成が簡単な単一のセンサで呼吸流量と鼾を同時かつ、応答性良く検出可能となる。
【0016】
本発明に係る呼吸気情報測定センサによれば、被検者の呼気圧や振動などに依存せず、呼吸気による熱線の温度変化を検出するため、小児のような低換気の被検者であっても精度良く測定が可能である。
【0017】
本発明に係る呼吸気情報測定センサによれば、センサが一つになることで、センサの小型化が可能となり被検者のセンサ装着の煩わしさや不快感といった問題も解決される。
【0018】
本発明に係る呼吸気情報測定センサによれば、上記熱線の長手方向前後に複数の熱線を隣接配置させたので、呼気と吸気とを識別可能である。また、生体の口と鼻とを覆い、上記筒体の一端側の開口部と連通するマスクを備えているので、呼気と吸気の定量的な流量測定が可能なだけでなく、正確な換気量測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明に係る呼吸気情報測定センサの実施例を説明する。図1に、呼吸気情報測定センサの実施例の構成図を示す。この呼吸気情報測定センサの実施例では、マスク11に筒体20の一端側の開口部21が連通するように構成されたセンサ部10を用いる。マスク11は、被検者の口と鼻とを覆い、呼気及び吸気の全てが筒体20を通過する構成を採用する。
【0020】
図1(a)に全体構成を示し、図1(b)に筒体20につき内部を透過して示した拡大図を示す。呼気吸気を通過させる筒体20内には、長手方向に並ぶように隣接された3本の熱線22A、22B、22Cが配置されている。熱線22A、22B、22Cは、白金やタングステンなどの知られた材料により構成され、通電により発熱し抵抗を変化させる素子である。熱線22Aがマスク11側に配置され、熱線22Bがマスク11から遠い側に配置され、熱線22Cが熱線22Aと熱線22Bに挟まれて配置されている。熱線22Aの端部に接続されたリード23A、24Aと、熱線22Bの端部に接続されたリード25B、26Bと、熱線22Cの端部に接続されたリード27C、28Cとは、それぞれ抽出回路30に接続されている。
【0021】
抽出回路30は、上記熱線22Cを含む図2に示すようなブリッジ回路31を有し、このブリッジ回路31から呼気吸気による熱線22Cの抵抗変化に応じた呼気吸気量信号を取り出すものである。本実施例に係る抽出回路30は、呼気か吸気かを検出するための方向検出のための図3のブリッジ回路32を更に含むものである。
【0022】
図2のブリッジ回路31は、熱線定温度回路と称される回路である。ブリッジ回路31中のRが熱線22Cであり、他の抵抗r1〜r3は固定抵抗である。ブリッジ回路31には、抵抗r1と抵抗r3の接続点にオペアンプ33から電流が供給され、抵抗Rと抵抗r2の接続点がグランドに接続され、電流が流れるようにされている。この電流により、抵抗Rが例えば摂氏400度程度に発熱し抵抗Rの抵抗値が増加して、ブリッジ回路31は平衡状態となるように各抵抗値が設定されている。
【0023】
抵抗r1と抵抗r2の接続点をオペアンプ33の非反転側入力端子に接続し、抵抗r3と抵抗Rの接続点をオペアンプ33の反転側入力端子に接続して、ブリッジ回路31が不平衡となったときの信号値を増幅して出力信号Eoを得ている。この出力信号Eoによる電流源は、ブリッジ回路31へフィードバックされて、ブリッジ回路31が平衡するまで電流が増加する。つまり、測定前の筒体20においては、抵抗Rが例えば摂氏400度程度に発熱し抵抗Rの抵抗値が増加して、ブリッジ回路31が平衡状態となるまでオペアンプ33の出力によりブリッジ回路31に電流が増加する。
【0024】
上記の抽出回路30においては、測定状態となって呼吸気流が筒体20内を流れると、熱線22Cである抵抗Rが呼吸気流により冷却されて抵抗Rの抵抗値が変化しブリッジ回路31の平衡が崩れて不平衡電圧が増幅されて出力信号が得られると共に、ブリッジ回路31を平衡に戻すように電流を増加するようにフィードバックがなされる。呼吸流量に応じて、抵抗Rが冷却されるので、オペアンプ33の出力信号Eoは筒体20の内径を考慮した演算をすれば呼吸流量として得られる。
【0025】
図3のブリッジ回路32は、方向識別用のブリッジ回路である。ここで用いられるブリッジ回路32に含まれる熱線22A(図3のR1)と熱線22B(図3のR2)は、熱線22Cと同じ熱線であるが、熱線22Aと22Bの温度がほとんど上昇しないようにブリッジに印加する電圧を設定しており、熱線22Aと22Bは感熱線として機能させる。
【0026】
前述の通り、筒体20内においては、長手方向に並べられて隣接された3本の熱線22A、22B、22Cが配置され、熱線22Cは温度が高く保たれているので、呼気または吸気の気流の流れにおいて最下流となる側の熱線(22Aまたは22B)は22Cによって暖められた気流を受ける。この結果、熱線(22Aまたは22B)の抵抗値が上昇してブリッジ回路32の平衡が崩れ、不平衡電圧が出力される。気流の方向によって出力される不平衡電圧は例えば図4(b)に示すようにプラスあるいはマイナスとなるため、方向を識別することができる。すなわち、筒体20内を呼気が流れているのか又は吸気が流れているのかを検出可能である。熱線22Aと熱線22Bを含むブリッジ回路32に接続されたオペアンプ34の出力は、出力ライン38を介して呼気/吸気判別回路43へ送られ、呼気/吸気判別回路43による上記検出結果に基づきフィルタ処理やゼロ調整等の処理が施され、検出回路45へ出力される。
【0027】
熱線2Cを含むブリッジ回路31に接続されたオペアンプ33の出力は、出力ライン39を介して出力される。出力ライン39の分岐された一方にはカットオフ周波数が20Hz程度のローパスフィルタ41および直線近似するためのリニアライズ回路44が接続されており、また、出力ライン39の分岐された他方にはカットオフ周波数が20Hz程度のハイパスフィルタ42が接続されている。
【0028】
ここで、図4(a)はローパスフィルタ41で処理された後の呼吸流量に関する波形の一例であり、図4(b)は呼気/吸気判別回路43で処理された後の方向検出に関する波形の一例であり、図4(c)はハイパスフィルタ42で処理された後の鼾に関する波形の一例である。
【0029】
この図4(c)から明らかなように、ハイパスフィルタ42を通過させた信号は、一定周期で他の部分よりも振幅が短時間間隔で大きく振動した波形部分を観察することができ、鼾発生を視覚的に捕らえることができる。
【0030】
ローパスフィルタ41の出力信号はリニアライズ回路44にて直線近似された後、検出回路45において呼気/吸気判別回路43からの信号に基づいて吸気相または呼気相を判別し、呼吸流量信号に変換される。さらに検出回路45では呼吸流量信号を積分して換気量信号を算出し、呼吸流量信号と換気量信号は鼾信号と共に生体情報測定装置50へ送られる。生体情報測定装置50は、検出回路45からの信号を受けて、表示波形画像を生成するなどの信号処理を行うコンピュータ等により構成されるものである。
【0031】
生体情報測定装置50は、検出回路45からの信号を受信し表示波形画像を生成してディスプレイに表示する。
【0032】
なお、上記においてブリッジ回路31は、熱線定温度回路を用いたが、ブリッジ回路32のR1を熱線22Cで構成した熱線の温度変化を検出する定電流型のブリッジ回路を用いて、呼吸流量と鼾を検出するようにしても良い。
【0033】
また、抽出回路30におけるブリッジ回路31とブリッジ回路32を、2つのブリッジ回路31で構成しても良い。
【0034】
流れの下流側の熱線は流れの上流側の熱線の熱の影響を受けて、下流側の抵抗が上流側の抵抗より温度を奪われにくくなるので、同じ流量でも下流側のブリッジ回路31の出力は上流側のブリッジ回路31の出力よりも小さくなる。この出力の大小関係より流れの方向を検出することができる。なお流量検出は、常に上流側のブリッジ回路の出力を採用する。上流側のブリッジ回路31の出力信号Eoを一つのローパスフィルタを通過させて呼吸流量波形画像を得ると共に、ブリッジ回路31の出力信号Eoを一つのハイパスフィルタを通過させて鼾波形画像を得るように、呼吸気情報測定センサを構成する。その他の構成は、前述の構成に等しく構成する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る呼吸気情報測定センサの実施例の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る呼吸気情報測定センサの実施例に採用されるブリッジ回路の一例を示す図。
【図3】本発明に係る呼吸気判別用のセンサに採用されるブリッジ回路の他の一例を示す図。
【図4】本発明に係る呼吸気情報測定センサの実施例により表示される換気量及び鼾に係る波形の例を示す図。
【符号の説明】
【0036】
10 センサ部
11 マスク
20 筒体
22A、22B 熱線
31、32 ブリッジ回路
33、34 オペアンプ
41 ローパスフィルタ
42 ハイパスフィルタ
43 呼気/吸気判別回路
44 リニアライズ回路
45 検出回路
50 表示情報生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸気を通過させる筒体と、
前記筒体内に設けられた熱線と、
前記熱線を抵抗として含むブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路から呼吸気による前記熱線の変化に基づき呼吸気信号を取り出す抽出回路と、
前記抽出回路の出力側に設けられた第一フィルタと第二フィルタと、
前記第一フィルタの出力信号から呼吸流量を検出し、前記第二フィルタの出力信号から鼾を検出する検出回路と
を具備することを特徴とする呼吸気情報測定センサ。
【請求項2】
前記熱線の変化とは、熱線の温度変化、又は前記ブリッジ回路への供給電流の変化のいずれかであること
を特徴とする請求項1に記載の呼吸気情報測定センサ。
【請求項3】
前記筒体の長手方向に更に熱線を設け並べて隣接配置させ、
呼吸気の方向を検出する呼気/吸気判別回路を更に設けたこと
を特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の呼吸気情報測定センサ。
【請求項4】
前記熱線の長手方向の前後に熱線をそれぞれ設け並べて隣接配置させ、
呼吸気の方向を検出する呼気/吸気判別回路を更に設けたこと
を特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の呼吸気情報測定センサ。
【請求項5】
生体の口と鼻とを覆い、前記筒体の一端側の開口部と連通するマスクを備えていること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の呼吸気情報測定センサ。
【請求項6】
第一フィルタはローパスフィルタであり、第二フィルタはハイパスフィルタであること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の呼吸気情報測定センサ。
【請求項7】
前記検出回路は、検出された呼吸流量から換気量を算出すること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の呼吸気情報測定センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−131264(P2010−131264A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311290(P2008−311290)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】