説明

呼吸矯正

呼吸動因が完全な状態で、呼吸筋または呼吸神経を刺激して、呼吸系を調節することによって呼吸障害を治療する手段。本発明の実施形態は、適切な刺激エネルギーが加えられているかどうかを決定するために周波数分析を用いる。方法は、A.筋肉の内在性収縮に関連付けられる測定される生理的信号に基づいて測定される周波数帯を規定することと、B.内在性周波数とは異なる周波数で該筋肉または該筋肉と関連付けられた神経を刺激するように構成される電気パルス発生器の刺激周波数に基づいて刺激周波数帯を規定することと、C.筋肉または筋肉と関連付けられた神経を刺激することと、D.測定された周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーを該刺激周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーと比較することによって刺激の衝撃を決定することとを包含する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(背景)
ヒトにおいて、ガス交換は、肺のリズミカルな膨張および収縮によって達成される。換気運動中、肺は受動的であり、肺の容積は胸郭のサイズによって決定され、胸郭は、次いで主として内肋間筋および横隔膜の活動に依存している。
【0002】
横隔膜の垂直運動は、静止呼吸時約1.5cmであり、深呼吸時最大7cmに上昇し得る。横隔膜の1cmの降下は、おおよそ300mL程度胸郭容量を増加させ、対応する量の空気を肺に入れる。従って、横隔膜の運動は、肺の拡大および呼吸される総空気の約60%〜80%の原因であり得る。
【0003】
脳における呼吸制御中枢は、呼吸筋を制御する。呼吸筋は、呼吸ポンプ(横隔膜および内肋間筋)および気道筋から成る。呼吸筋に伝わる神経信号は、中枢呼吸動因を構成する。横隔膜は呼吸ポンプの主動力源である一方、気道筋の機能は気道を開いたままにすることである。中枢神経動因がない場合、気道は、虚脱するかまたは部分的に閉塞し得る。
【0004】
睡眠中、呼吸制御は、無意識であり、代謝要求(主として血液からCO2を除去する必要)によって管理される。すべてのヒトにおいて、睡眠中、呼吸ポンプおよび気道筋に対する中枢神経動因は、覚醒状態と比較して減少させられる。軽い病変がある場合、睡眠中息の流れに対する気道抵抗が増加させられ、結果として例えばいびきをもたらし得る。極端な場合、気道は完全に閉じ、結果として閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)をもたらし得る。一部のケースでは、中枢制御の調節解除は、結果として周期性変動呼吸および複数の器官に損傷を与え得る重篤な疾患をもたらし得る。
【0005】
中枢性睡眠時無呼吸(CSA)は、振動呼吸中枢動因によって特徴付けられる周期性変動呼吸の一形態である。CSAは、歴史的にチェーン−ストークス呼吸(CSR)と呼ばれる、交互に起る無呼吸および過呼吸(換気亢進の期間)から成る典型的な漸増および漸減の呼吸パターンによって特徴付けられ得る。
【0006】
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、上部気道の不安定性によって特徴付けられる。虚脱気道は、継続するかまたは増加する呼吸努力にも関わらず吸気を妨げるかまたは減少させる。一般の人におけるOSAのありふれたパターンは、結果として気道の突然の開放をもたらす周期性覚醒によって特徴付けられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、例えばうっ血性心不全(CHF)を有する患者などの一部の患者集団において、OSAおよびCSAの基本的機構を分離することが不可能ではないとしても困難であることを発見した。純粋の中枢CSRパターンは、いくぶん稀である。CHF患者における周期性変動呼吸のありふれた提示は、過呼吸と、減呼吸と、中枢、閉塞性および混合の無呼吸とを含み得る交互の呼吸イベントから成り得る。有意のオーバーラップが存在し、ほとんどの患者は、様々な程度の中枢イベントおよび閉塞性イベントの両方を経験する。実際に、振動呼吸中枢動因が上部気道の閉鎖または抵抗増加を引き起こし得ると考えられる。
【0008】
広範囲の一連の実験の後に、発明者は、周期性変動呼吸の多くのケースの効果的な治療が呼吸の中枢神経動因ならびに気道排出に対処することが必要であることを理解した。呼吸ポンプ筋と気道筋との関係のために、発明者は、呼吸の両方の局面に影響を及ぼす脳の内在性呼吸活動を調節することを所望した。脳の呼吸制御中枢は、脳の延髄に位置を定められ、現代の神経調節技術にとって直接にアクセス可能ではない。従って本発明者は、呼吸制御中枢の行動を管理する、脳への神経入力を調査することを余儀なくされた。
【0009】
脳の呼吸制御中枢は、動脈脈管系(大動脈弓、頚動脈小体および脳自体における血管における)における化学受容器および呼吸ポンプ筋などの機械受容器、肺における肺伸張受容器、ならびに内肋間伸張受容器から入力を受け取る。患者にいくらかの二酸化炭素を呼吸させることによって化学受容器から脳の中への入力を変えることが周期性変動呼吸を制御し得ることは公知である。
【0010】
横隔神経は、横隔膜の運動を制御し、横隔膜の運動は、次いで、例えば胸腔内の様々な刺激された組織を伸張させることによって脳への一連の神経入力の活動化を引き起こし得る。へーリング−ブロイエル反射は、肺伸張受容器から脳への強力な神経フィードバックである。肺が膨張させられ伸張させられた場合、脳の呼吸中枢は呼吸動因を一次停止する。眠っているヒトにおける外的刺激に対する呼吸のエントレイメントがヘーリング−ブロイエル反射ならびに他の神経入力を伴うことが考えられる。
【0011】
本技術発明者は、調査のために横隔膜神経刺激を選んだ。「電気横隔膜換気」または「横隔膜ペーシング」として公知の横隔膜神経刺激の一形態は、内在性呼吸に取って代わるために長年用いられてきた。呼吸ペーシングの生理学は、直接的である。横隔膜神経は、刺激されて、患者をわずかに換気亢進させることによって呼吸を引き継ぐ。血液二酸化炭素濃度の結果としての減少は脳の呼吸制御中枢によって感知され、中枢(呼吸中枢動因)からの実質的にすべての神経出力は停止する。従ってペーシングされた患者は、ペーシングされている間、呼吸障害を経験しない場合があるが、換気およびガス交換に関して横隔膜「ペーシング」に一時的に依存するようになる。
【0012】
そのような横隔膜ペーシングは、1960年代から子供の対麻痺および先天的中枢性低酸素換気症候群を治療するために用いられ、自然の呼吸動因を人工の呼吸動因に取り替えることによってうまく死亡を防いだ。呼吸を引き継ぐことによって、そのようなペーシングは、内在性呼吸中枢動因を抑制する。呼吸動因の振動を除去しながら、スペーシングはまた、気道を開放のままにする動因も除去し得る。先天的中枢性低酸素換気症候群を有する患者において、この制限は、気管開口術(気管における切開を通って直接の気道を開く、首に対する外科手術処置)によって克服され得る。気管開口術は、周期性変動呼吸を有する患者において容認できない。
【0013】
対照的に、本発明に従う実施形態は、一部の実施形態において患者の内在性速度よりわずかに遅い一定の速度で1つの横隔膜神経のみに刺激を加える。これらの実施形態は、結果として内在性動因の抑制よりはむしろ患者の呼吸中枢活動のエントレイメントをもたらし得る。眠っている個人における周期性変動呼吸中に加えられ、刺激パラメータの特定の範囲内で送達された場合、横隔膜神経刺激のこの形態は、しばしば結果として正常な呼吸リズムの回復をもたらし、保持可能であり、自然の睡眠中うまく許容される。
【0014】
本発明に従う一部の実施形態において、刺激は、結果として、刺激された神経によって刺激された1つの半横隔膜のリズミカルな収縮および結果としてのリズミカルな肺の膨張をもたらす。患者の内在性呼吸リズムは、刺激によって調節され、より規則正しい周期性となり、より少ない周期性を示す。呼吸の改善は、呼吸自体の制御によるよりはむしろ、機構のなかでも特に、肺膨張および脳呼吸中枢におけるニューロンのエントレインメントの機構によって達成されると考えられる。自発呼吸および呼吸中枢動因が、好ましくは保たれ、従って結果として気道筋緊張および自然の血液ガス調節が維持される利益をもたらす。
【0015】
本発明に従う別の実施形態は、横隔膜刺激および刺激のエントレインメントをモニタリングし制御することに関する。この実施形態は、刺激が呼吸を調整する場合、駆動周波数の近い範囲における呼吸信号のスペクトルパワーが他の周波数帯域におけるよりも有意に高いという仮定に基づく。一実施形態において、刺激周波数を中心とする狭帯に入る呼吸信号の全分散と、より広い呼吸周波数における全分散との比率が計算され得る。この比率の値が、刺激による呼吸のエントレインメントに比例して増加し、従って実際の呼吸に対する刺激の影響に基づいて、導かれ較正された療法を可能にすることが予期され得る。そのような比率に対して2つの例示的計算方法が本明細書に開示される。すなわち、スペクトル方法およびヒストグラム方法である。これらの方法が周波数分析によるエントレインメントまたは神経もしくは筋肉の捕捉効力を決定する唯一の方法ではなく、本開示を読み次第、他の方法が当業者に浮かぶことは理解されるべきである。
【0016】
発明者は、片側の横隔膜刺激中、時折の呼吸リズムの正規化および中枢および閉塞性の無呼吸の両方の分解能を観察した。発明者は、睡眠中振動呼吸を頻繁に示す患者の呼吸の内在性周期性を横隔膜刺激が防ぎ矯正することがわかった。発明者は、以前は非常に不規則であった患者の呼吸が横隔膜刺激のリズムに徐々に同調されるようになり、刺激の速度が変化させられた場合、それに従うことを観察した。発明者はまた、脳の呼吸制御中枢における外的刺激と神経吸気活動との固定し反復する連結も観察した。発明者は、以下の観察を行うことによって、患者の呼吸が調整され実際に自発的であることを確認した。
【0017】
(1)刺激が突然停止させられた場合、患者は呼吸を停止しなかった。一部のケースにおいて、患者は、刺激前のパターンに戻る前に、数分間、もはや存在しないキューに従って「あたかもなおも刺激されているかのように」呼吸し続けた。
【0018】
(2)1つのみの横隔膜神経が刺激されるので、第2の肺は、刺激の直接の影響がなく、自由に膨張し収縮した。発明者は、別個の経胸腔的インピーダンス測定によって、刺激されない肺の独立した運動を確認した。
【0019】
(3)頻繁に患者は、刺激に合わせてエントレインされた呼吸の間に自発小呼吸を挿入するかまたは織り交ぜることが観察され、従って呼吸中枢動因が活動状態のままであることが確認された。これらの織り交ぜられた呼吸は、調節のパターンを妨げなかった。
【0020】
血液ガスの安定化ならびに横隔膜刺激によるエントレインメントによって換気亢進に関連付けられる間欠性の低酸素および覚醒の除去または減少が気道の緊張を改善することが考えられる。低酸素は、低酸素にしばしば続く神経覚醒の場合のように、換気亢進にする非常に強い刺激である。間欠性低酸素に続く換気亢進の激しさは、血液CO2のその後の減少を決定し、この減少は、結果として呼吸ポンプ筋および気道筋の両方に対する神経刺激の取り消しをもたらす。逆もまた真である。低酸素およびその後の低酸素悪化の換気亢進の減少は、一時的過呼吸の終了後、呼吸動因の保持および気道の神経筋緊張を維持することを助ける。
【0021】
CSAが上部気道安定性を減少させOSAを誘引すると考えられる別の態様は、減呼吸の期間を増進することによる。減呼吸中、呼吸ポンプ筋(例えば、横隔膜)および上部気道拡張筋(例えば、頤舌筋)の両方の活動は、減少させられる。従って、虚脱する傾向のある上部気道を有する個人における呼吸中枢動因の漸増−漸減パターンは、結果として、上部気道低血圧(低筋肉緊張)のために減呼吸の期間中、閉塞性無呼吸/減呼吸をもたらし得る。反対もまた真であると仮定することは妥当である。CSA患者における減呼吸を減少させることは、気道筋緊張を増加させることによって気道を安定させることを助ける。
【0022】
本開示の文脈において、減呼吸は、一時的な浅い呼吸または異常に遅い呼吸速度の原因で少なくとも10秒間続く(睡眠中の)息の流れの一時的減少を広く指す。医学文献において、浅すぎる呼吸(減呼吸)または遅すぎる呼吸(緩徐呼吸)は、時折区別される。減呼吸は、(息の流れのより完全な欠如である)無呼吸より重篤さは少ないが、同様に結果として肺の中への空気の動きの量の減少をもたらし得、血液内の酸素レベルを降下させ得る(低酸素)。
【0023】
減呼吸の狭いまたは定量的な定義についての確固たる科学的コンセンサスはなく、多くの定義が科学的文献においてしばしば用いられ、適用され得ることが理解される。
【0024】
例えば、本開示の論拠として役立ったそれらの研究において、発明者は、減呼吸の定量的「技術的な」定義として、検出可能(4%)酸素脱飽和を伴って10〜60秒の継続時間で、>30%の呼吸(息の流れ)の一時的減少を用いた。この定量的定義の狭い範囲内において、減呼吸および一時的換気過少は、すべての実際的目的の均等物に関してである。
【0025】
広く定義すると、換気過少は、減少した量の空気が肺内の肺胞に入り、結果として血液内における酸素の減少したレベルおよび/または二酸化炭素の増加したレベルをもたらすという状態である。低酸素はまた、体の必要を満たすのに適切ではない呼吸として、広くたぶんより良く定義され得る。換気過少は、減呼吸または低下した肺機能によるものであり得る。換気過少は、(減呼吸の結果として)一時的であり得るか、または先天的疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)もしくは肥満などの様々な病変により保持され得る。
【0026】
周期性肺膨張は、交感神経−副交感神経のバランス、心臓リズム、および血圧調節の維持において重要な役割を果たす。早くも1940年代に、これらの生理的相互作用の多くが、肺拡張の信号を自律神経系に送る神経フィードバックにまで調べられた。体のホメオスタシスにおける自律神経系の役割は、睡眠中特に重要である。これらの利益あるフィードバックは、肺膨張に従って段階別にされる。
【0027】
肺における伸張受容器から心臓血管活動を制御する複数の脳中枢への神経フィードバックの重要性は、いわゆる呼吸性洞性不整脈によって最も良く証明され得る。呼吸性洞性不整脈(RSA)は、呼吸と同時発生する心拍数変化であり、それによってECG上のR−R間隔は、吸気中に短くされ、呼気中に長くされる。RSAは、心臓迷走神経機能の指標として用いられてきたが、脊椎間に普遍的に観察される呼吸−血液循環の相互作用を反映する生理的現象でもある。研究は、肺ガス交換の効率がRSAによって改善されることを示し、RSAが能動的な生理的役割を果たし得ることを示唆する。各呼吸サイクル内における肺胞換気とRSAに伴う肺胞換気の潅流との適合したタイミングは、呼気中の不要な心拍および潅流の減退中の効果のない換気を抑制することによってエネルギー消費を減少させ得る。呼吸と同時発生するRSAまたは心拍数の可変性は、生物学的現象であり、効率的な換気/潅流の適合によって肺のレベルにおけるガス交換に対する明確な影響を有し得る。
【0028】
発明者は、CHFを有する患者が本発明の実施形態に従って治療された場合、RSAの増加を観察した。血管の拡張および悪性の不整脈の減少などの他の利益が後に続くことを期待することは妥当である。
【0029】
本発明の実施形態に従う横隔膜(phrenic)刺激または横隔膜(diaphragm)刺激は、減呼吸の影響に立ち向かうために呼吸量または肺容量を拡張し得る。刺激はまた、結果として、CSAに見出される漸増および漸減のパターンとは反対に、保持された肺拡張をもたらすことが期待される。さらなる気道緊張の利益は、これらの改善から期待され得る。重大なCSAを有する患者において、上部気道の虚脱および結果として生ずるOSAは、副交感神経活動の減少および中枢性無呼吸/減呼吸エピソード中の肺膨張の減衰によって引き起こされる、気道に対する神経刺激および機械的刺激の取り消しに対して副次的であり得る。
【0030】
臨床的利益は、刺激による内在性呼吸リズムのエントレインメントから引き出され得る。肺容積の増加、安定した血液ガス組成および換気過少の減少はすべて、中枢呼吸不安定性の第1の矯正の他に、気道動態の改善を示唆する。
【0031】
上部気道拡張筋は、気道開存性を維持する際に重要な役割を果たす。咽頭拡張筋の多くは、公知であり、吸気位相活動を証明し、吸気位相活動の開始は横隔膜活動より先に起こる。すなわち、気道筋は、呼吸ポンプ筋の直前に呼吸と同位相で収縮し、従って吸気中負圧の発達のために咽頭気道を「準備」する。
【0032】
最も良く研究された咽頭筋は、頤舌筋である。頤舌筋は、延髄に位置を定められる脳呼吸制御中枢から(またはより正確には、脳幹呼吸中枢パターン発生器から)入力を受け取る。舌下神経は、頤舌筋を作動させ、舌下神経は、元気な患者における横隔膜神経の50〜100ms前に発射したことが検出された。
【0033】
化学受容入力はまた、舌下運動神経出力に影響を及ぼす際に重要であり得る。低血液CO2(低炭酸)は作動を減少させ、高CO2(高炭酸)は作動を増加させる。従って、任意の周期性変動呼吸治療において低炭酸および低炭酸に伴う気道筋作動の減少を避けることが有用であり得る。
【0034】
本発明に従う実施形態は、眠っている患者における周期性変動呼吸を治療するのに有用であるが、それらの実施形態は、虚血性心疾患、心臓病、心不全、高血圧、COPD、および呼吸改善効果が有利である他の健康状態を有する休息している人の呼吸を規則正しくするためにも用いられ得る。
【0035】
本発明に従う一実施形態において、測定される周波数帯は、筋肉の内在性収縮に関連付けられる測定される生理的信号に基づいて規定される。刺激周波数帯は、内在性周波数とは異なる周波数で筋肉または筋肉と関連付けられた神経を刺激するように構成される電気パルス発生器の刺激周波数に基づいて規定される。筋肉または筋肉と関連付けられた神経が刺激され、刺激の衝撃は、測定された周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーを刺激周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーと比較することによって決定される。この実施形態の変形形態において、生理的信号は、呼吸を表す信号である。別の実施形態において、筋肉は横隔膜筋である。さらに別の実施形態において、測定された周波数帯は、患者の呼吸周波数に近似の周波数の範囲を含む。
【0036】
本発明に従う別の実施形態において、神経または筋肉の電気刺激のためのシステムは、第1の周波数でエネルギーを送達して、筋肉を刺激する電気パルス発生器を含み、第1の周波数は、筋肉が内在的に収縮する第2の周波数とは異なる。この実施形態のシステムはまた、刺激された筋肉の収縮を示す生理的活動を感知するセンサと、ある時間の期間にわたりセンサによって生成されたデータの配列を格納する電子的メモリとを有する。周波数分析器は、データの配列を分析して、感知された生理的活動に対する周波数帯全体のパワー分布を決定し、システムの回路は、刺激周波数付近の帯におけるパワーを感知された生理的活動に対する周波数帯全体の総パワーと比較する能力がある。
【0037】
本発明に従う別の実施形態において、神経または筋肉の電気刺激のためのシステムは、第1の周波数でエネルギーを送達して筋肉を刺激する電気パルス発生器を含み、第1の周波数は、筋肉が内在的に収縮する第2の周波数とは異なる。この実施形態のシステムはまた、刺激された筋肉の収縮を示す生理的活動を感知するセンサと、ある時間の期間にわたりセンサによって生成されたデータの配列を格納する電子的メモリとを有する。周波数分析器は、データの配列を分析して、感知された生理的活動に対する周波数帯全体のパワー分布を決定し、システムの回路は、刺激周波数に付近の帯におけるパワーを感知された生理的活動に対する周波数帯全体の総パワーと比較する能力がある。この実施形態において、回路は、刺激周波数付近の近似の帯におけるパワーと総パワーとの比率が閾値未満である場合、パルス発生器によって送達されるエネルギーを増加させる能力がある。
【0038】
本発明に従う別の実施形態において、呼吸障害を治療するシステムは、所定の信号周波数で電気刺激信号を患者の横隔膜神経または横隔膜に提供する能力のある電気パルス発生器を含む。この実施形態は、患者の呼吸を表す信号を感知する能力のある呼吸センサと、刺激周波数帯にわたり感知された呼吸信号の周波数分布のパワー密度を呼吸周波数帯にわたり感知された呼吸信号のパワー密度と比較する周波数コンパレータとを有する。システムは、パワー調整回路を含み、パワー調整回路は、パワー密度の比較に基づく電気パルス発生によって提供される電気刺激信号のパワーを調整する。様々な実施形態において、パワー調整回路は、刺激電流、刺激電圧、パルス列におけるパルスの周波数、パルス列におけるパルスのパルス継続時間、または他のパラメータを調整し得る。
【0039】
本発明に従うさらに別の実施形態において、横隔膜神経または横隔膜は、内在性呼吸速度未満の周波数で刺激される。刺激は、内在性動因が完全に呼吸している状態で、呼吸を調節するのに十分な強度で送達される。いくつかの実施形態において、呼吸動因は、2:1エントレインメントとして表され、他の実施形態において刺激されない肺の自発呼吸として表され、他の実施形態において調節された呼吸間において組み合された小呼吸として表され、そして他の実施形態において気道筋の周期性活動として表される。
【0040】
本発明に従う別の実施形態において、呼吸障害は、患者の呼吸を表す信号を検出し、呼吸と一致する周波数の範囲にわたり呼吸を表す信号の周波数分析を行うことによって、治療される。この実施形態は、内在性呼吸速度または内在性呼吸周波数を決定するステップと、内在性呼吸周波数とは異なる周波数で患者の1つの半横隔膜を刺激するステップとを含む。この実施形態において、刺激中の呼吸信号の周波数分析が行われる。捕捉指数は、呼吸と一致する周波数の範囲のパワーに刺激周波数付近の周波数範囲におけるパワー分布を分割することによって決定され、捕捉指数を決定する。刺激パラメータは、計算された捕捉指数に基づいて修正される。いくつかの実施形態において呼吸を表す信号は、経胸腔インピーダンスであり得る。いくつかの実施形態において刺激周波数は、内在性呼吸周波数より低い。
【0041】
本発明に従う別の実施形態において、呼吸障害は、患者の呼吸を表す信号を検出し、呼吸と一致する周波数の範囲にわたり呼吸を表す信号の周波数分析を行うことによって、治療される。この実施形態は、内在性呼吸速度または内在性呼吸周波数を決定するステップと、内在性呼吸周波数とは異なる周波数で患者の1つの半横隔膜を刺激するステップとを含む。この実施形態において、刺激中の呼吸信号の周波数分析が行われる。捕捉指数は、呼吸と一致する周波数の範囲のパワーを刺激周波数付近の周波数範囲におけるパワー分布を分割することによって決定され、捕捉指数を決定する。刺激パラメータは、計算された捕捉指数に基づいて修正される。いくつかの実施形態において刺激パワーは、捕捉指数が特定の閾値未満の場合、増加させられる。いくつかの実施形態において刺激パワーは、捕捉指数が特定の閾値を超える場合、減少させられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、治療をされていない患者の呼吸データの波形である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に従う療法中の、図1の患者の呼吸の波形である。
【図3】図3は、図1に提示される呼吸データのスペクトルグラフである。
【図4】図4は、図2に提示される呼吸データのスペクトルグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施形態に従って治療される患者における呼吸障害に関する実験データのグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施形態に従う患者療法に関連づけられる呼吸データおよび刺激データの波形である。
【図7】図7は、本発明の実施形態に従う制御フローチャートである。
【図8】図8は、本発明の実施形態に従う患者および療法デバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(詳細な説明)
図1は、治療をされていない患者の呼吸データの波形である。波形は、患者が眠っている時間中に得られた60秒のデータを表す。トレース101は、この患者に関する正常な呼吸(安静時)を表す。トレース101は、患者が療法を受ける直前の午後10:42に得られた。トレース101は、流量計(温度センサ)を用いてモニタリングされた、患者の肺に入る息の流れおよび患者の肺から出る息の流れを表す。この時点で、患者は周期性変動呼吸または無呼吸を示さず、患者は毎分24回の呼吸(0.4Hz)で規則正しく呼吸している。
【0044】
図2は、本発明の実施形態に従う療法中の、図1の患者の呼吸の波形である。この波形もまた、患者が眠っているときに得られた60秒のデータを表す。患者は、CSAを有し、右横隔膜神経の経静脈刺激を用いて治療された。トレース103は、刺激パルス列を表す。刺激パルス列は、毎分18回(0.3Hzパルスレート)の一定の速度で加えられ、この場合、毎分24回の呼吸である患者の本来の呼吸速度より低い。各パルス列は、1.67秒の長さである。パルス列の適用中、右横隔膜神経が刺激され、右半横隔膜筋が収縮した(刺激位相104)。各パルス列は、その後にこの実施例においても1.67秒である弛緩位相105が続く。弛緩位相中、横隔膜神経は刺激されない。従って刺激パターン103は、50%デューティサイクル刺激(50%吸気−50%呼気)を表す。他のデューティサイクルまたは比率が、本発明の目的を達成するために用いられ得る。
【0045】
各パルス列104は、パルス発生器によって供給される一連の個々のパルス(図示されていない)から構成される。パルス発生器は、外部にあり得るかまたは移植され得る。この実施例において、パルスは、150μs(マイクロ秒)の長さであり、20Hz周波数で加えられる。この実施例のパルス発生器は、4.9mAのプログラムされたピーク電流振幅に達する制御されたプ事前プログラム態様でパルスを加える。患者の快適さを増加させるために、パルス列内のパルスの電流振幅は、同じパルス列内において、徐々に増加させられ、一定に保たれ、次いで徐々に減少させられ得る。本開示の範囲から逸脱することなく、横隔膜筋の所望の収縮および弛緩の反応を引き出すために他のパルス列形状が用いられ得る。
【0046】
トレース102は、刺激療法中の患者の呼吸を表す。図1のトレース101と同様に、トレース102は、流量計によってモニタリングされた個々の呼吸から成る。各呼吸は、吸気位相106と、呼気位相107とから成る。大部分の大きい呼吸108およびいくらかの、より小さい呼吸109があることが注意され得る。大きい呼吸は、刺激パルス103に位相がロックされ、患者の呼吸は、刺激にエントレインされるといわれ得る。これらの大きい呼吸は、毎分18回の刺激パルス列速度(0.3Hz)と同じ速度で現れる。
【0047】
大きい呼吸のみが連続して現れる場合、それらは、1:1のエントレインメントを示す(各刺激パルス列に対して1呼吸)。小さい呼吸が現れる場合、それらは、いくつかの形態で現れ得る。一部のケースにおいて、小さい呼吸は、概して毎分24回の呼吸(0.4Hz)の自発呼吸速度に対応する速度で、大きい呼吸の間に織り交ぜられる。一部のケースにおいて、小さい呼吸は代謝要求が必要とする場合にのみ時折現れる。他のケースにおいて、組み合わされた呼吸の期間は、2:1のエントレインメントに対応する(各刺激パルス列に対して2呼吸)。すべてのケースにおいて、小さい自発呼吸または2:1エントレインされた呼吸の存在は、この態様で呼吸がエントレインされる間、呼吸制御中枢がなおも活動的あるという推論を支持する。
【0048】
トレース102上の呼吸は、刺激103と同じ基本周波数で現れるが、それらが刺激に必ずしも正確に同期させられるとは限らない。吸気106は、刺激パルス列104の開始に続いて異なる遅延時間に開始し得、特定の状況下において対応する刺激パルス列の開始に先行さえし得る。
【0049】
図2に表される実施形態において、刺激は、安静時の自発呼吸速度よりいくらか低い速度で加えられる(この実施例において:18回対24回/分)。刺激は、自発呼吸を調節し得るが、それに取って代わることはない。エントレインメントは、可変時間遅延および刺激パルス列と患者の吸気運動と間の位相角によって立証される。エントレインメントのさらなる証拠は、2:1および1:1のエントレインメントの周期的出現またはエントレインされない他の小さい呼吸であり、このことは、呼吸動因が抑制されないで、エントレインされることを示す。
【0050】
図3は、図1に提示される呼吸データのスペクトルグラフである。図1によって例示される呼吸波形などの周期性波形は、様々な周波数領域の方法を用いて分析され得、それらのうちの最も一般的な方法は、スペクトル分析である。
【0051】
図3は、図1のトレース101によって例示される患者の正常な自発呼吸のスペクトルを示す。そのようなスペクトルは、2〜3分間のデジタルで得られた呼吸信号データ(この実施例において、息の流れ)に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことによって得られ得る。スペクトルは、パワースペクトル、パワー密度スペクトルまたは振幅スペクトルであり得る。また、出力スペクトルを周波数が信号の分散に最も寄与することの結果と考えられ得る。振幅が大きければ大きいほど、分散が大きくなる。これは、「パワースペクトル」の意味ある広い定義である。周期性信号の周波数分布を計算するために多くの数値解析法が存在することが理解され、これらの方法のすべてが本明細書において企図される。「スペクトル」は、概して0Hz〜1.0Hzである自然の呼吸周波数の範囲に対して計算され得る。開示される実施形態において、おおよそ0.1Hz〜0.5Hzの周波数範囲が見出された。選択された範囲は、この開示の目的のために「呼吸周波数帯」(RFB)として表示される。他の周波数範囲が選択され得、この範囲の選択は単に例示である。
【0052】
図3において、RFB204は、この実施例においてエントレインメントの有効性を決定する目的のために重要なすべての呼吸周波数を含む四角枠によって表示される。患者の自然の呼吸周波数が0.4Hz202において頂点に達するという事実は、図1の呼吸トレース101から予期され得る。エントレインメントの決定に重要な別の周波数帯は、「刺激周波数帯」(SFB)として表示される。SFBは、狭帯四角203によって表され、このケースにおいて、刺激パルス列が図2のトレース103に対するように加えられる周波数に中心がある。
【0053】
図3のスペクトルグラフは、刺激療法が適用されない場合の期間に対応する。このケースにおいて0.3Hzである中心周波数が卓越呼吸周波数202とは有意に異なる場合、SFB帯におけるパワーは低い。
【0054】
呼吸エントレインメントの有効性は、例えば、SFB帯におけるスペクトルパワーを総スペクトルパワーまたは他の周波数帯におけるスペクトルパワーと比較することによって決定され得る。発明者は、療法の有効性の尺度として捕捉指数(Capture Index)(CI)を指定することが有用であることを見出した。捕捉指数は、SFBにおけるスペクトルパワーをRFBにおけるスペクトルパワーで割ることによって計算される。捕捉指数は、刺激周波数付近の狭帯内に入る呼吸の全スペクトルプロットの分数を表す。捕捉指数の値が刺激による呼吸のエントレインメントと比例して増加することが期待され得る。従って、エントレインメントが増加すると、刺激周波数は、呼吸信号の卓越周波数となる。捕捉指数を計算するために用いられ得る多くの数値計算がある。例えば、発明者は、とりわけ次の方法論を用いた。
【0055】
スペクトルプロットは、周波数領域における周期的構造を調査する図式技術である。厳密に定義すると、スペクトルプロットは、自己共分散関数の滑らかなフーリエ変換である。周波数は、単位時間当りの周期で測定される。スペクトルプロットは、滑らかな分散の垂直軸(パワー)および周波数(requency)の水平軸(1観察当りの周期)で表示される。
【0056】
滑らかな分散を生成する計算が、含まれ得、ここではさらには考察されない。スペクトルプロットは、時系列の周波数分析における基本的技術であり、当業者に良く知られている。スペクトルプロットは、周期性波形にどのくらい多くの周期性成分があるか、周期性波形に卓越周期性周波数があるか否か、そしてある場合、卓越周期性周波数は何かを決定するために用いられ得る。この開示の目的のために、卓越(刺激)周波数の「卓越」の程度は、捕捉指数に関係している。
【0057】
図3に示される実施例において、CIは、(刺激周波数(+/−0.0183Hz)の範囲内のパワー)/(0.1Hz〜0.5Hzのパワー)として計算された。この実施例における分子の幅は、0.0366Hzである。分子の幅は、下にある3ビンおよび上にある3ビン(計6ビン)の分子幅を有する最も近いFFT「ビン」に切り上げられる刺激周波数値から計算される。周波数領域における分解能は、この実施例において0.0061Hz/ビンである。これは、「ビン幅」と呼ばれる。+/−3ビンの選択は、いくらかまたは刺激周波数が正確なFFTビン周波数ではない場合にわかる「ビン拡散」およびエントレインされた呼吸の周波数におけるある自然の分散の原因を説明する。FFT間隔は、データサンプリング速度(400サンプル/秒)およびFFT長(216=65,636)によって固定される。
【0058】
データサンプル速度は、400サンプル/秒である。例えば、20サンプル/秒などのより低い他のサンプリング速度が埋込みソフトウェア計算または他の用途により適している場合があることは理解される。記録長は、65,536サンプルである(これは164.84秒に対応する)。より遅いデータ取得サンプリング速度が用いられる場合、有意に、より少ないサンプルが必要であるが、例えば、1024または2048より少ないということはありそうではない。例えば2、3および5分などの他の記録長もまた成功裏に用いられた。この実施例において、捕捉指数は、既知の刺激速度のあたりを中心とする周波数帯±3ビン幅の振幅(0.0366Hz)の合計と0.1Hz〜0.5Hzの振幅(またはパワー)の合計との比率として計算される。SFBおよびRFBの両方に対する他のウィンド幅が異なる実施形態において用いられ得、SFBは刺激周波数を中心とする必要はない。すべての実施形態に共通であるが、「刺激周波数帯」SFBは、例えば<RFBの10%などの「呼吸周波数帯」(RFB)より狭く、RFB内に含まれる。
【0059】
図4は、図2に提示された呼吸データのスペクトルグラフである。図2のトレース103によって例示されるように、この実施例において、刺激は、0.3Hzの事前設定の周波数でエントレインされ適用される。
【0060】
呼吸信号(息の流れ)パワースペクトルピーク302が刺激周波数と正確に対応する周波数0.3Hzにあることが見られ得る。0.4Hzにおける自然の呼吸パワーは、より小さいピーク301に表される。スペクトルにおける自然の呼吸周波数パワーの存在が刺激の強度および患者の内在性呼吸動因に従って変化し得ることが理解される。自然の呼吸周波数における目立つ呼吸活動の存在は、呼吸動因が、エントレインされるが、なおも活動的であり、すなわち抑制されなくまたは睡眠状態ではないことを示唆する。この実施例のSFB303におけるパワーは、図3によって例示される実施例の場合よりもRFB304のより大きい部分を表す。従って、捕捉指数(SFB/RFB)もまた有意に増加させられることが予期され得る。事実、計算は、この実施例において捕捉指数が0.24(図3)から0.46(図4)に増加したことを示す。異なる計算方法は結果として異なる数をもたらし得るが、患者の呼吸がエントレインされた場合、捕捉指数が有意に増加させられる。
【0061】
図5は、本発明の実施形態に従って治療される患者における呼吸障害に関する実験データのグラフである。図5は、周期性変動呼吸の状況において正常な呼吸を回復する目的のために捕捉指数化の実際的な重要性を例示する。周期性変動呼吸の激しさは、一般的には無呼吸減呼吸指数(AHI)によって特徴付けられる。AHIは、1時間の間に発生する呼吸イベント(無呼吸および減呼吸)の総計である。AHI>15は有意であり、AHI>30は激しくかつ非常に危険であると考えられる。睡眠ポリグラフ(PSG)を用いて睡眠中のAHIを計算する研究の公知の標準の臨床的方法がある。PSGは、診断検査であり、診断検査中、いくつかの生理的変数が睡眠中に測定され記録される。図5のグラフは、本発明の実施形態に従う刺激療法を受けながら、重大な周期性変動呼吸に苦しむ患者においてPSGを用いる研究者によって得られた。患者のAHIは、X軸上の捕捉指数の関数としてY軸上に表される。実験中、刺激エネルギー(このケースでは刺激電流)は、異なるレベルの横隔膜活動およびその結果として異なるレベルのエントレインメントを生成するように変化させられた。捕捉指数は、睡眠研究のデジタル化した記録および本開示に説明されるものと同等の方法論を用いて後に計算された。
【0062】
捕捉指数がより高い時間期間中にAHIが減少させられることが見られ得る。この実施例において計算されるように、結果として0.5より高い捕捉指数をもたらした刺激は、周期性呼吸を事実上完全に除去した。
【0063】
FFTの使用および呼吸スペクトルの計算が捕捉指数の計算を実装する唯一の方法ではないことは理解される。例えば、呼吸波形は、呼吸長に対応する一連の数として処理されかつ提示され得る。呼吸データの最後の3〜4分間を表すひと続きは、例えば60〜80の呼吸長から成り得る。呼吸長の周波数分布を表す呼吸長のヒストグラムが、次いで作成される。内在性呼吸が刺激周波数にエントレインされた場合、その周波数の波長に対応する呼吸長の発生の頻度が増加する。例えば、刺激周波数が20/分である場合、呼吸長は3秒である。捕捉およびエントレインメントが増加すると、およそ3秒の長さの呼吸が益々頻繁に発生する。自然の可変性を補償するために、例えば2.84〜3.18秒の長さである呼吸は、捕捉指数計算の分子に含まれ得る。この呼吸長の長さは、前に説明されたスペクトルベースの実施例に用いられた+/−0.0183Hzの周波数帯に対応する。
【0064】
この方法における捕捉指数は、(刺激周波数+/−選択された帯の範囲における呼吸長の占有の合計)/(呼吸範囲におけるすべての呼吸数の占有の合計)として計算される。呼吸長の呼吸範囲は、例えば2〜10秒であり得る。2〜10秒の呼吸長範囲は、0.1〜0.5Hzの呼吸周波数に対応する。
【0065】
ヒストグラムベースの捕捉検証方法は、スペクトルベースの方法とは数学的に異なるが、原理において類似している。この方法は、刺激が呼吸をエントレインした場合、動因周波数の近くの範囲における呼吸信号の呼吸長が他の呼吸周波数帯における周波数よりも有意に高い周波数を有して発生するという仮定に基づいている。従って、捕捉指数はなおも、刺激周波数を中心とする狭帯に入る呼吸信号の分散と、より広い呼吸周波数帯における全分散との比率として計算され得る。発明者は、ヒストグラム方法を用いて計算された捕捉指数の値が、刺激による呼吸のエントレインメントに比例して増加し、従って導かれる療法を可能にし、スペクトル方法を用いて計算された捕捉と密接に相互に関係することを証明した。類似した原理に基づく捕捉指数計算の他の方法が、可能であり、この開示を読むと当業者の心に浮かぶことは理解される。
【0066】
図6は、本発明の実施形態に従う患者療法に関連づけられる呼吸データおよび刺激データの波形である。上部トレース501は、患者の呼吸(息の流れ)を表す。X軸は16分のデータ記録を表し、個々の呼吸はたった1分のデータを示す図1および図2と比較して圧縮される。この療法期間中、刺激エネルギー(電流)はまず徐々に減少させられ、次いで完全にオフにされる。下部トレース503は、刺激電流を表す。最初の3分間の間、電流はおおよそ5mAで一定に保たれた。呼吸501は十分に調節され、周期性変動呼吸は存在しなかった。記録されたセグメントの3〜10分の期間中、電流503は徐々に減少させられた。周期性変動呼吸がもはや制御されず、10分後、チェーン−ストークス呼吸
として公知の周期性変動呼吸の典型的なパターンを示す交互に起る無呼吸504および過呼吸503が戻ることが見られ得る。
【0067】
図7は、本発明の実施形態に従う制御フローチャートである。図7は、呼吸障害療法を実装し改善する捕捉指数化を利用する1つの可能な方法およびアルゴリズムを例示する。提案された捕捉指数方法論が、横隔膜神経または横隔膜刺激を用いる呼吸療法に対して、そして潜在的に機械的換気に対して広い関連を有することが理解される。
【0068】
本発明に従う一実施形態は、捕捉指数型計算を用い、捕捉指数型計算は、計算された捕捉指数に応答して横隔膜神経刺激エネルギーを調整する能力のある移植可能パルス発生器(IPG)のマイクロプロセッサにおけるアルゴリズムに埋め込まれる。捕捉指数は、例えば経胸腔インピーダンスなどの呼吸信号の2〜3分の履歴に基づいて計算され得、刺激パラメータは、計算された捕捉指数に基づいて自動的に調整され得る。
【0069】
この実施形態の埋め込まれたアルゴリズムは、患者の内在性安静呼吸速度を決定する能力がある601。この速度は、例えば6〜40呼吸/分であり得るが、周期性変動呼吸を有する患者の1つの対象とする集団において、たぶん12〜30呼吸/分であろう。アルゴリズムは、いくつかの実施形態において内在性速度よりいくぶん低い設定される速度で患者の横隔膜神経に刺激パルス列を加える能力がある602。設定される速度は、例えば内在性速度より低い2〜4呼吸であり得る。従って、患者がアルゴリズムによって毎分20呼吸で呼吸すると決定された場合、刺激速度は例えば毎分16呼吸に自動的に設定され得る。埋め込まれたソフトウェアによって十分な呼吸信号情報(これは、例えば毎秒20サンプルでデジタル化された3分のデータであり得る)が収集された後、捕捉指数が計算され得る603。
【0070】
患者の姿勢、睡眠状態、横隔膜の疲労および他のことなどの生理的状態がエントレインメントに対する応答に影響を及ぼし得るので、捕捉指数が時間の経過に従って一定ではないことが予期され得る。所望のエントレインメントを指示する捕捉指数の事前設定の目標値があり得る。この値は、例えば0.2〜0.8の範囲内であり得る。フィードバック制御工学の公知の技術に従って、埋め込まれたアルゴリズムは実際の捕捉指数を目標と比較し得604、捕捉指数が目標未満である場合、刺激エネルギーを増加させるか、または捕捉指数が目標を超える場合、刺激エネルギーを減少させ得る605。刺激エネルギーは、送達される電流、電圧、周波数またはパルス継続時間を変化させることによって調整され得る。例えば刺激電流は、適切なステップにおいて1〜10mAの範囲内に増加させられるかまたは減少させられ得る。あるいは、刺激パルス継続時間は、例えば適切なステップにおいて100〜500μsの範囲内に増加させられるかまたは減少させられ得る。フィードバック制御アルゴリズムは、制御工学の分野において公知のPIまたはPIDレギュレータなどのIPG埋め込みソフトウェアにおいて実装され得る。実験データを集めるために発明者によって用いられる実施形態において、刺激電流は、所望の捕捉指数を達成するために0.1〜0.5mAのステップで操作された。
【0071】
図8は、本発明の実施形態に従う患者および療法デバイスの概略図である。移植可能パルス発生器702は、固定の速度で刺激パルス列703を生成するようにプログラムされる。患者705の右横隔膜神経は、右横隔膜706を刺激する。刺激パルス列703は、電極リード線704を介して右横隔膜神経705に送達される。
【0072】
横隔膜自体の横隔膜神経のどちらかが、刺激され得る。1つ以上の電極が、神経(例えば、カフ電極)に隣接し静脈内において神経に接近した横隔膜、または適切な刺激を提供するのに適した任意の他の位置に配置され得る。電極(単数または複数)は、リード線またはリード線なしの技術を用いて電気パルス発生器に接続され得る。パルス発生器は、患者内に移植されるかまたは外部に位置を定められ得る。
【0073】
右横隔膜神経705は右半横隔膜706に刺激を伝え、右半横隔膜706は下方への運動707によって応答する。横隔膜の下方への運動707は、結果として胸腔内において肺の膨張および伸張受容器の起動をもたらす。周期性伸張が脳701への神経フィードバック入力708の周期性の規則正しいリズムを生成することが考えられる。脳の呼吸ニューロンは、神経入力708によって調節される。刺激703の強度は、刺激された半横隔膜706から比例した応答を引き出す。増加した横隔膜の運動は、従って、結果として脳701への増加した周期性の規則正しい神経入力708をもたらす。
【0074】
信号が必要な強度に達すると、呼吸エントレインメントが存在し、所望の固定した反復の連結が、刺激と、肺の機械的膨張と、脳の呼吸制御中枢における神経吸気活動との間で一時的に確立される。エントレインメントは、1:1比率(1神経呼吸作用に対して1機械的膨張)で生じ得るが、他の積分比率、ならびに異なる積分比率のエントレインメントパターン間の移行時に時折非同期性無秩序の行動が見られ得る。1神経呼吸努力に対して2刺激された膨張の2:1比率は、1:1比率と共に一般的に見られる。
【0075】
脳は、呼吸動因709の規則正しい周期性シーケンスによるエントレインメントに応答し、呼吸動因709の規則正しい周期性シーケンスは、右705および左712横隔膜神経の両方を介して横隔膜の呼吸筋に送られ、ならびに起動制御神経710を介して起動筋に送られ、結果として起動711の所望の拡張をもたらす。左半横隔膜715は、IPGによって刺激されない左横隔膜神経712によって刺激され、従って、脳701から入力した信号に応答して時折独立した行動を示し得、IPG702によって直接に影響を受けない。右および左の半横隔膜の筋肉群が、右および左の横隔膜神経によって別個に刺激され、これらの神経からの信号に応答して独立して動くことは公知である。刺激されない半横隔膜の同期した呼吸活動は、呼吸のペーシングとは反対にエントレインメントの指標である。
【0076】
IPG702は、追加のリード線713および経胸インピーダンス感知714を介するなどの呼吸を測定する手段が装備され得る。IPGプログラマブルロジックに埋め込まれるソフトウェアは、刺激パルス列リズム703を調整することによって呼吸の変化に応答し得る。呼吸感知714はまた、感知された内在性呼吸速度709に従って刺激パルス列703の速度を設定し変更するためにIPGによって用いられ得る。
【0077】
当業者は、本発明が開示された実施形態以外の実施形態で実施され得ることを理解する。開示された実施形態は、例示の目的で提示されるのであり、限定する目的のために提示されるのではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A.筋肉の内在性収縮に関連付けられる測定された生理的信号に基づいて測定される周波数帯を規定することと、
B.該内在性周波数とは異なる周波数で該筋肉または該筋肉と関連付けられた神経を刺激するように構成される電気パルス発生器の刺激周波数に基づいて刺激周波数帯を規定することと、
C.該筋肉または該筋肉と関連付けられた神経を刺激することと、
D.該測定された周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーを該刺激周波数帯内に入る信号の配列の測定されたパワーと比較することによって刺激の影響を決定することと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記生理的信号は、呼吸を表す信号である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記筋肉は、横隔膜筋である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された周波数帯は、患者の呼吸周波数に近似の周波数の範囲を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
神経または筋肉の電気刺激のためのシステムであって、
A.第1の周波数でエネルギーを送達して、筋肉を刺激する電気パルス発生器であって、該第1の周波数は、該筋肉が内在的に収縮する第2の周波数とは異なる、電気パルス発生器と、
B.該刺激された筋肉の収縮を示す生理的活動を感知するセンサと、
C.ある時間の期間にわたりセンサによって生成されたデータの配列を格納する電子的メモリと、
D.周波数分析器であって、該データの配列を分析して、感知された生理的活動に対する周波数帯全体のパワー分布を決定する、周波数分析器と、
E.回路であって、刺激周波数に近似の帯におけるパワーを該感知された生理的活動に対する周波数帯全体の総パワーと比較する、回路と
を備えている、システム。
【請求項6】
前記刺激周波数に近似の帯におけるパワーの総パワーに対する比率が閾値未満である場合、パルス発生器によって送達されるエネルギーを増加させるように構成される回路をさらに備えている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記電気パルス発生器は、前記」エネルギーを送達して、前記筋肉に関連付けられた神経を刺激することによって該筋肉を刺激する、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
呼吸障害を治療するシステムであって、
A.電気パルス発生器であって、所定の信号周波数で電気刺激信号を患者の横隔膜神経または横隔膜に提供する能力のある、電気パルス発生器と、
B.該患者の呼吸を表す信号を感知する能力のある呼吸センサと、
C.周波数コンパレータであって、刺激周波数帯にわたり感知された呼吸信号の周波数分布のパワー密度を呼吸周波数帯にわたり感知された呼吸信号のパワー密度と比較する、周波数コンパレータと、
D.パワー調整回路であって、該パワー密度の比較に基づく電気パルス発生によって提供される電気刺激信号のパワーを調整する、パワー調整回路と
を備えている、システム。
【請求項9】
前記パワー調整回路は、刺激電流を調整する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記パワー調整回路は、刺激電圧を調整する、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記パワー調整回路は、パルス列の前記パルスの周波数を調整する、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記パワー調整回路は、パルス列の前記パルスの継続時間を調整する、請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
方法であって、内在性動因が完全に呼吸している状態で、呼吸を調節するのに十分な強度で、内在性呼吸速度未満の周波数で横隔膜神経または横隔膜を刺激する、方法。
【請求項14】
呼吸動因は、2:1エントレインメントとして表される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
呼吸動因は、刺激されない肺の自発呼吸として表される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
呼吸動因は、調節された呼吸の間に織り交ぜられた小呼吸として表される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
呼吸動因は、気道筋の周期性活動として表される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
呼吸障害を治療する方法であって、
A.患者の呼吸を表す信号を検出することと、
B.呼吸と一致する周波数の範囲にわたり呼吸を表す信号の周波数分析を行うことと、
C.内在性呼吸速度または内在性呼吸周波数を決定することと、
D.該内在性呼吸周波数とは異なる周波数で該患者の1つの半横隔膜を刺激することと、
E.刺激中の該呼吸信号の周波数分析を行うことと、
F.呼吸と一致する周波数の範囲のパワーを刺激周波数に近似する周波数範囲におけるパワー分布で割って、捕捉指数を決定することと、
G.該計算された捕捉指数に基づいて刺激パラメータを修正することと
を包含する方法。
【請求項19】
前記呼吸を表す信号は、経胸インピーダンスである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記刺激周波数は、前記内在性呼吸周波数未満である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記刺激パワーは、前記捕捉指数が特定の閾値未満の場合、増加させられる、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記刺激パワーは、前記捕捉指数が特定の閾値を超える場合、減少させられる、請求項18に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2013−504372(P2013−504372A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528807(P2012−528807)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/045992
【国際公開番号】WO2011/031427
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(508148345)レスピカーディア, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】