説明

呼気を用いる静脈薬剤濃度をモニタするための方法および装置

麻酔の深度を検出するための方法およびシステムが提供され、少なくとも1つの麻酔剤が、麻酔の投与中に患者の血流に吸収されるものであり、これは、患者の呼気を試料採取する段階と、センサ技術を使用して、遊離(新陳代謝されていない)麻酔剤またはその代謝産物等の麻酔であることを示す少なくとも1つの物質の濃度についての呼吸を分析する段階と、その濃度に基づいて薬剤の効果を決定する段階と、それに基づいて麻酔の深度を決定する段階と、を含む。方法はまた、呼気内のケトンおよびアンモニア等の内因性化合物、さらに、他の病理有機体も検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液中の物質/化合物の濃度を非侵襲的にモニタすることに関し、より詳細には、呼吸検出システムを使用してそのようなレベルを検出するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
麻酔は非常に安全である。麻酔医は、最新式の技術を使用して、外科的処置を受けている患者の生命徴候をモニタし、呼吸および心臓血管をサポートする。歴史的に、多くの麻酔は吸入剤を使用して行われた。吸入麻酔剤によって誘発される麻酔の深度は、主に、脳における麻酔の分圧(またはガス張力)に依存し、麻酔の誘発およびそれからの回復の速度は、脳における分圧の変化の速度に依存する。麻酔の深度は、感覚、反射、精神およびモータの機能の遮断の程度を反映し、これは、吸入または静脈(IV)麻酔剤のいずれか、または両方の薬剤の組み合わせ、を使用することによって達成することができる。吸入剤では、送出される薬物の濃度を正確に計量することができ、吸入剤の既知の濃度から生じる麻酔の深度の患者間での変動は比較的狭く、麻酔医は、送出される麻酔ガスの濃度に基づいて麻酔の特定のレベルを確信を持って推定することができる。時として、そうではない場合があり、患者は外科的処置の間に発生した事象を思い出す。思い出すことは通常、重大な問題ではないが、筋弛緩剤も与えられる場合には、患者を麻痺させ、不適切な麻酔の深度は、結果として患者が痛みを知覚し、麻酔医に注意を喚起することができないことがある。また、患者は、手術中の会話または他の不愉快な事象を覚えていることもある。この稀ではあるが、劇的な事象は、患者に心理的に打撃を与える。これらの事象のため、および麻酔の深度をより厳密に測定したり調整することが望ましいため、脳によって生成される電気信号を処理することによって患者の麻酔の深度をモニタするとされている多数の装置が開発されている。これらの技術は不正確である傾向があり、麻酔剤が特異的であることを研究が示している。麻酔の深度または代替的に麻酔剤の血中濃度を決定するより特異的な方法が望ましい。最近、IV麻酔を含む麻酔を提供する他の方法が普及してきており、吸入麻酔剤により有利な点を提供する。
【0003】
より新しい麻酔技術の中には、完全静脈麻酔(TIVA)があり、これは、従来の蒸気吸入剤の代わりにIV剤を使用する。吸入麻酔剤とは異なり、IV麻酔剤は、特定の薬物投与量用の広い範囲の麻酔をもたらしたが(あまり予測可能ではない)、少なくとも部分的には、他の薬剤との相互作用、血液および他の身体組織における結合部位の競合、および薬物代謝を担う酵素の遺伝的変異のためであった。現在、吸入麻酔剤ではなく、IV麻酔剤を広く使用することに対する主要な障害は、過剰な量を蓄積することなく、十分な「麻酔の深度」を提供するのに必要な薬剤の量を正確に決定することができないことである。
【0004】
例えば、プロポフォールは、短期作用静脈麻酔剤として広く使用されている薬剤である。その生理化学特性は、疎水性および揮発性である。これは通常、特定の血漿濃度を送出し維持するために、一定の静脈注入として投与される。新陳代謝は主に肝性であり急激であるが、既知の投与量で達成される血漿濃度には患者間で有意な変動がある。しかし、既知の血漿濃度用の麻酔深度は、あまり変わりやすくはなく、したがって、麻酔効果を正確に維持するためにリアルタイムで血漿濃度を評価することができることが非常に望ましい[「A Simple Method for Detecting Plasma Propofol」、Akihiko Fujita、MDら、2000年2月25日、国際麻酔研究会議(International Anesthesia Research Society)]。著者らは、固相マイクロ抽出法でヘッドスペースガスクロマトグラフィを使用して総プロポフォールではなく血漿を測定する手段を記載している。血漿(遊離)プロポフォールが麻酔効果に責任を負うため、これは好ましい。血液中のプロポフォール濃度をモニタする従来の方法は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)およびガスクロマトグラフィ(GC)を含む。静脈注入後、プロポフォールの97%〜99%がアルブミンおよび赤血球に結合され、残余物が遊離型として血液中に存在することが報告された。HPLCおよびGCは、総プロポフォール濃度を検出するが、これは、血漿プロポフォールレベルほど麻酔効果には相関しない。
【0005】
プロポフォールは、尿中でモニタされてもよい。代謝過程は、プロポフォールの身体からのクリアランスを制御し、肝臓が主な排除器官である[First-pass Uptake and Pulmonary Clearance of Propofol、Jette Kuipers ら、Anesthesiology, V91, No. 6, Dec. 1999]。調査では、ヒドロキシル化され共役した代謝産物として、プロポフォールの投与量の88%が尿で回収された。
【0006】
麻酔における任意の投与法の目的は、望ましくない毒性の副作用を最小限にしながら個々の患者用に望ましい薬理効果を達成するように、薬剤の送出速度を測定したり調節することである。プロポフォール、アフェンタニルおよびレミフェンタニル等の一定の薬剤は、血中濃度と効果との間に密接な関係がある。したがって、薬剤の投与は、投与法を薬剤の薬物動態学に基づかせることによって改良することができる[Kenny, Gavin、Target-Controlled Infusions - Pharmacokinetics and Pharmodynamic Variations、http://www.anaesthesiologie.med.unierlangen.de/esctaic97/a_Kenny.htm]。目標制御注入法(Target controlled infusion)(TCI)は、輸液ポンプを制御するためにコンピュータを使用して静脈麻酔剤を投与するための1つの手段である。薬物動態学プログラムを備えたコンピュータを使用することによって、プロポフォール等の薬剤の所望の血漿濃度を制御することができる。システムは、血液をリアルタイムに試料採取しないが、先に獲得した個体群速度論を使用して、予想された血中濃度の最良の評価を提供する。しかし、TCIシステムが血中濃度の正確な目標濃度を生成したとしても、その濃度が個人個人の患者に満足なものであるか否か、および外科手術中の異なる点で満足できるものであるか否かを知ることは不可能であると思われる。
【0007】
電気頭脳信号を処理しモニタするのに使用される技術の中に、EEGのBIS(バイスペクタルインデックスモニタ(Bispectral Index Monitor))モニタリングがある。これは、麻酔の深度を間接的にモニタする。BISモニタは、脳からのEEG波を、1〜100の尺度で麻酔の深度を示す単一の数字に翻訳する。加えて、神経回路網を使用して、鎮静濃度をEEG信号のパワースペクトルから分類する。しかし、この技術は高価であり、また、完全には予測するものではない。
【0008】
麻酔の深度を予測するために、患者の年齢、体重、心拍、呼吸数および血圧を使用する人工神経回路網もまた開発されている。ネットワークは、生理的な信号を統合し、意味のある情報を抽出する。一定のシステムは、中潜時聴覚誘発電位(MLAEP)を使用し、これは、麻酔の深度を決定する際に分類のために小波変換され且つ人工神経回路網に供給される。[Depth of Anesthesia Estimating & Propofol Delivery System、Johnnie W. Huang ら、August 1, 1996]。
【0009】
総静脈麻酔送出のための装置および方法もまた、Andrewsに付与された米国特許第6,186,977号に開示されている。この特許には、心電図(EKG)、血中酸素モニタ、血中二酸化炭素モニタ、吸気/呼気酸素、吸気/呼気二酸化炭素、血圧モニタ、脈拍数モニタ、呼吸速度モニタ、および患者体温モニタの少なくとも1つを使用して、患者がモニタされる方法が記載されている。
【0010】
したがって、当技術分野においては、血液中の薬剤、特に麻酔剤の濃度を非侵襲的に検出するためのより予測的な方法および装置が必要である。
【発明の開示】
【0011】
発明の簡単な概要
本発明は、血液中の物質/化合物の濃度を非侵襲的にモニタするための方法および装置を提供することによって、より詳細には、呼吸検出システムを使用してIV送出された薬剤濃度を検出し定量化し傾向づけるための方法および装置を提供することによって、当技術分野におけるニーズを解決する。この方法は、被験者の呼気を受け取る段階と、呼気の1つまたは複数の構成要素の濃度を測定する段階と、を含む。次いで、これらの測定された構成要素を使用して、例えば、麻酔の深度をモニタすることができる。
【0012】
呼気成分、特にガスを集めモニタするために様々なシステムが開発されてきている。例えば、Silkoffに付与された米国特許第6,010,459号には、ヒトの呼気の成分を測定するための方法および装置が記載されている。呼気を集め分析するための様々な他の装置として、Glaser らに付与された米国特許第5,081,871号の呼吸試料;Kenny らに付与された米国特許第5,042,501号の装置;Osbornに付与された米国特許第4,202,352号の幼児の呼気を測定するための装置; Ekstromに付与された米国特許第5,971,937の呼吸気から血中アルコール濃度を測定する方法;およびMitsuiらに付与された米国特許第4,734,777号の、ヒトの尿および呼気における代謝産物を平行分析するための器具が挙げられる。コンピュータ化されたデータ分析構成要素を含む肺疾患診断システムも公知であり、例えば、Snow らに付与された米国特許第4,796,639号である。
【0013】
本発明の1つの具体的な用途は、呼吸検出システムを使用して麻酔の深度を予測することである。麻酔剤(例えばプロポフォール)の血中濃度と麻酔の深度との間には、良好な相関があることが示されている。
【0014】
薬剤の血中濃度を連続してモニタする直接オンライン方法はないため、血中濃度と呼気濃度とは比較的比例するという理由で、本発明の方法は、血液ではなく呼吸をモニタすることによって麻酔の深度をモニタするより予測的な方法を提供する。
【0015】
本発明の方法を使用して、パーフルブロン(perflubron)濃度もモニタしてもよい。乳化パーフルブロンは、ヘモグロビンの代替として貧血患者に酸素を送出するために使用される化合物の部類の1つである。
【0016】
本発明の装置は、先に記載した方法で被験者の呼気の成分を測定するための装置を提供する。この装置は、このような濃度を非侵襲的にモニタするために、「人工鼻」または「電子鼻」と称される市販の装置等のセンサ技術を含む。他のセンサとして、金属絶縁体金属集合体(MIME)センサ、交叉反応光学マイクロセンサアレイ、および蛍光ポリマーフィルム、表面増強ラマン分光(SERS)等の当技術分野で公知のいずれのものを含んでもよい。本発明は、濃度をトラッキングすることができ(遠隔または近位)、且つ、必要な出力、制御および警報を提供することができる報告システムを更に含む。
【0017】
一例において、本発明の呼吸検出器を完全静脈麻酔(TIVA)の送出時に使用して、プロポフォール等の静脈麻酔の薬剤濃度を、呼気中のプロポフォール濃度を測定することによってモニタする。さらに、本発明の呼気検出方法で抗生物質を検知することは、血中抗生物質濃度の代理としてこの方法を使用することを可能にする。これは、血中濃度が価値のある広範囲の薬物にも当てはまる。本発明の方法を使用する呼気検出は、 薬剤研究および個々の患者の両方用に薬力学および薬物動態学を評価してもよい。さらに、これは、通常、血液中で見られるグルコース、ケトンおよび電解質等の内因性化合物を検知するのに使用されてもよい。
【0018】
したがって、本発明の目的は、センサ技術(例えば、シリコンチップ技術)を含むがそれに限定されない方法によって、物質の濃度を非侵襲的にモニタすることである。結果として得られた利点は、より経済的かつ常習的なやり方でそのような濃度をモニタすることができることである。この方法は、濃度を測定するために血液を抜く侵襲的なやり方に取って代わってもよい。さらに、呼気中の薬物(medication)(および他の物質)を測定することにより、様々な薬剤、化合物、天然の代謝産物および分子のモニタリングの面で大きな主進歩を遂げていることが証明できる。
【0019】
本発明は、添付の図面を参照して、例として、限定としてではなく、説明され、本発明の他の目的、特徴および利点は、この詳細な開示からおよび添付の特許請求の範囲から明らかになる。本明細書に参照されるか引用されるかまたは優先権の利益が請求されているすべての特許、特許出願、仮出願および刊行物は、本明細書の明白な開示に矛盾しない程度まで全体を参照により組み入れられる。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、呼吸検出システムを使用することによって血液中の物質/化合物の濃度を非侵襲的にモニタするための方法および装置を提供する。
【0021】
本発明の1つの態様は、本発明の呼吸検出システムを使用して麻酔の深度を検出するための方法である。
【0022】
静脈麻酔時に、麻酔剤は、患者の血流中に直接投与される。投与された薬物は、血液中を循環するタンパク質に結びつくか、脂肪内に吸収されるか、または、「遊離」形態で存在してもよい。タンパク質に結びついたかまたは脂質内に吸収された薬物は、薬理的な効果を発揮せず、結びついていない薬物と均衡して存在する。タンパク質の結合部位を他の薬物との競合、体内の脂肪の量、および生成されるタンパク質の量を含む多数の要因が、結合した薬物と結合しない薬物との間の均衡を決定する。結合しない薬物は、薬理効果に直接関与してもよく、または、効果を発揮する薬物内に代謝されてもよい。活性薬物の代謝は、血流からの除去およびその効果の終了を招くことが多い。薬物効果は、遊離型薬物の排泄によって終了することもある。遊離型薬物または代謝産物は、尿または消化管または呼気に排泄されることができる。このような薬剤(例えば、プロポフォール、アルフェンタニルおよびレミフェンタニル)の血液(または血漿または血清)中の濃度は、薬剤の臨床効果に関連する。図2は、プロポフォール(2,6−ジイソプロピルフェノール)のFT-IR信号を表す。麻酔剤(例えば、プロポフォール)の血中濃度と麻酔の深度との間に良好な相関関係があることが明確に示されている。したがって、血中濃度を検査することは、薬剤の効果(麻酔の深度)の良好な指標である。残念ながら、血液を直接検査することは、侵襲的であり、時間がかかる。薬物またはその代謝産物が呼吸に排泄される場合には、呼気中の濃度は、血液中の遊離型薬物または代謝産物の濃度に比例し、したがって、麻酔の深度および/または薬物代謝の速度を示す。呼気で測定された代謝産物は、活性代謝産物であるかまたは活性薬物の分解生成物であってもよい。活性薬物と呼吸に排泄される不活性代謝産物との間に均衡がある限り、活性薬物の活性は公知である。本発明の方法は、このような比例濃度を考慮に入れ、患者の呼吸内の結合されていない物質、薬剤および/または活性代謝産物の濃度を測定することによって、麻酔の深度および/または薬物の代謝の速度を決定するのを可能にする。したがって、それから適切な投与処方を決定することができる。
【0023】
一般に、呼気流は、続発またはステージを含む。息を吐き出し初めには初期ステージがあり、それを代表するガスは、呼吸器系の解剖学的に不活発な(死腔)部分、言い換えれば、口および上気道から来るものである。この次は、プラトーステージである。プラトーステージの早期に、ガスは、死腔と代謝的に活性なガスとの混合物である。呼気の最後の部分は、深肺、いわゆる肺胞気ガスに他ならない。このガスは、肺胞から来るものであり、呼気終末ガスと称される。一態様において、呼気試料は、呼気終末呼吸で集められる。呼気終末二酸化炭素モニタリングに使用されるものに類似した技術を使用して、試料が集められる場合を決定することができる。気道内圧測定は、呼吸サイクルの適切なフェーズで試料を集める別の手段を提供する。サイドストリーム方法によって集められた単一または複数の試料が好ましいが、センサ獲得時間が短い場合には、インラインサンプリングを使用してもよい。前者では、試料は、気管内チューブの近位端にあるアダプタを通して集められ、細い内腔チューブを通ってセンサチャンバへ引き込まれる。試料のサイズおよび検出器応答時間に依存して、ガスは、連続サイクルで集められてもよい。インラインサンプリングで、センサは、ガス流に直接ETチューブに近接して置かれる。呼気終末ガスを試料採取する代替として、試料は、呼吸の呼気フェーズの全体にわたって取ることができ、平均値が決定され、血中濃度と相関される。
【0024】
次に図3を参照すると、上の枠は一呼吸サイクルのカプノグラムを例示する。正確な血液レベル相関のために、肺のCO2濃度を反映する「呼気終末PCO2」と標識された点で試料が取られる。下の枠は、閉塞性肺疾患患者からの数呼吸のカプノグラムを示す。再度、呼気終末試料が、血中濃度と最良に相関される。
【0025】
次に図4を参照すると、4(4)センサのポリマーコーティングされたSAWアレイからのプロポフォールの特徴的「ふたこぶ(double hump)」シグネチャが示されている。この例では、1ccのプロポフォールを「ヘッドスペース」ガスクロマトグラフィバイアルに入れた。センサアレイを含むベイパーラボ(VaporLab)(商標)ガス検出器に取り付けられた19ゲージ皮下注射針をバイアルに挿入し、37℃に加熱し、「シグネチャ」を記録した。ベイパーラボ(VaporLab)(商標)ブランド計器は、本発明にしたがって蒸気を検出するのに適切な、携帯型で電池式のSAW系化学蒸気識別計器である。この計器は、より高い精度および弁別のために直交蒸気応答を提供する高安定性SAWセンサアレイを有する揮発性および半揮発性の化合物に感度を示す。装置は、コンピュータと通信し、高められたパターン分析およびレポート生成を提供する。装置は、容易に「訓練」することができ、高速の「オンザフライ」分析のために、化学蒸気シグネチャパターンを覚える。
【0026】
別の態様において、試料は、別個のサンプリングポートを備えたチューブを通って気管内チューブ(ETT)の遠位端で集められる。これは、各呼吸サイクル中により大きな試料を可能にすることによって試料採取を改良する可能性がある。
【0027】
体内の麻酔剤の濃度は、所与の時間にわたって投与される薬剤の量と、薬剤が身体から排除される速度(代謝)と、の両方によって規制される。本発明は、薬剤を被験者に投与する段階と、適切な時間後の結合していない物質、活性代謝産物または不活性代謝産物の濃度に関して被験者の呼気を分析する段階とを提供し、濃度は、被験者内の薬剤の代謝の特性を示す。この方法は、呼息の開始および完了を検出するためにフローセンサを使用することを更に含んでもよい。この方法は、分析から結果を提供することと、その結果に基づいて静脈麻酔剤を送出するための輸液ポンプを制御することとを更に含んでもよい。更に、呼気の試料採取を制御するためにフローセンサからの信号を自動的に検出するためのデータ処理/制御ユニットとして、CPUが設けられてもよい。CPUは、輸液ポンプまたは他の投与手段の分析および制御を更に提供してもよい。
【0028】
薬剤を投与するための方法は、当業者には容易に理解される。例えば、輸液ポンプを使用してもよい。化合物は、非経口で、舌下で、経皮的に、静脈内ボーラスによって、および持続注入によって、投与されてもよい。これも当業者には公知であるように、多数の適切な薬剤が投与のために利用可能である(レミフェンタニル−グラクソウエルカム、プロポフォール−ゼネカ)。薬剤は、健忘症、鎮痛、筋弛緩、および鎮静の薬剤であってもよい。薬剤は、当技術分野で公知のように鎮痛、意識下鎮静または意識消失のために一定の量を投与されてもよい。患者の特徴が、薬剤の投与中にモニタされてもよい。
【0029】
遊離型薬剤または代謝産物に関して本発明の呼吸分析によって測定されるような血液中の濃度は、患者が、麻酔濃度(高投与量)または鎮痛濃度(低投与量)を受け取っている場合、または、完全な回復を可能にするレベルの結果として麻酔から覚醒しつつある場合を示してもよい。代謝または麻酔剤への応答には幅広い変動があるが、呼気濃度を知ることによって、麻酔医は、薬剤が血液中に蓄積して、おそらくは麻酔の危険的に深いレベルおよび/または長い回復時間に招く濃度が落ちて不適切な麻酔および早すぎる覚醒を招くのかを知ることができる。したがって、濃度の変化をモニタすることが有用である。
【0030】
別の態様において、呼気は、遊離型薬剤または代謝産物濃度に関して、連続してかまたは周期的かのいずれかで測定される。呼気から少なくとも1種の測定された遊離型薬剤または代謝産物の濃度値が抽出される。本発明の方法を実行するために、多数の種類の機器が使用されてもよい。一態様において、機器は、従来のフローチャネルを含み、それを通って呼気が流れる。フローチャネルには、遊離型薬剤または代謝産物の濃度を測定するためのセンサ要素が設けられている。更に、必要に応じて、機器は、少なくとも測定された濃度結果をオペレータへ送出するために必要な出力要素を含む。アラーム機構も設けられてもよい。類似の種類の計器が、引用例として本明細書に取り込む米国特許第5,971,937号の図1および2に示されている。
【0031】
一態様において、ひとたび濃度のレベルが測定されると、数値が与えられる(例えば、1から100までのスケールで50)。濃度がその値より下に落ちる場合は、新しい値が濃度の減少を示す。濃度がその値を超えて上昇する場合は、新しい値は濃度の上昇を示す。この数字目盛によって、濃度の変化をより容易にモニタすることができる。また、この数字目盛によって、アラーム用の制御信号、出力、記録、および外部装置(例えば、輸液ポンプ)の制御に、より容易に転換することができる。上限および下限は、麻酔効果のないレベルから危険な麻酔レベルまで等の閾値を示すように設定することができる。
【0032】
本発明は、濃度を非侵襲的にモニタするために、例えば「人工鼻」または「電子鼻」と称される市販の装置等のガスセンサ技術を使用することが好ましい(図1)。電子鼻は、大半が、食品、ワインおよび香料の業界で使用されており、その感度が、グレープフルーツ油とオレンジ油とを弁別することを可能にし、腐りやすい食品が駄目になったのを、匂いが人間の鼻でわかる前に識別することを可能にする。医学に基づいた研究および適用はほとんどないが、最近の例は、この非侵襲性技術の能力を示している。電子鼻は、単に特定の細菌に特異的な匂い用に患者の呼気を分析することによって、肺に細菌感染が存在することを決定した(Hanson CW, Steinberger HA:The use of a novel electronic nose to diagnose the presence of intrapulmonary infection、Anesthesiology, V87, No.3A, Abstract A269, Sep. 1997)。また、泌尿生殖器科クリニックでは、電子鼻を使用して、細菌性膣炎をスクリーニングし検出したが、訓練後では94%成功率であった(Chandiok Sら:Screening for bacterial vaginosis: a novel application of artificial nose technology、Journal of Clinical Pathology, 50 (9):790-1, 1997)。特殊な細菌種もまた、有機体によって生成される特別な匂いに基づいて電子鼻で識別することができる(Parry ADら:Leg ulcer odor detection identifies beta-haemolytic streptococcal infection、Journal of Wound Care, 4:404- 406,1995)。
【0033】
ガスセンサ技術を記載する多数の特許として、下記が挙げられる。すなわち、Buchlerに付与された米国特許第5,945,069号、発明の名称「ガスセンサ検査チップ(Gas sensor test chip)」、Mifsud らに付与された米国特許第5,918,257号、発明の名称「匂い物質を検出するための方法および装置、および応用(Method and devices for the detection of odorous substances and applications)」、Koda らに付与された米国特許第4,938,928号、発明の名称「ガスセンサ(Gas sensor)」、Grateに付与された米国特許第4,992,244号、発明の名称「ガス検出マイクロセンサにおけるジチオレン錯体のフィルム(Films of dithiolene complexes in gas-detecting microsensors)」、Wrighton らに付与された米国特許第5,034,192号、発明の名称「分子に基づいたマイクロ電子装置(Molecule-based microelectronic devices)」、Kolesar, Jr.に付与された米国特許第5,071,770号、発明の名称「#3ポリマーフィルムでガス状構成要素を識別するための方法(Method for gaseous component identification with #3 polymeric film)」、Zakin らに付与された米国特許第5,145,645号、発明の名称「導電性ポリマー選択種センサ(Conductive polymer selective species sensor)」、Hirata らに付与された米国特許第5,252,292号、発明の名称「アンモニアセンサ(Ammonia sensor)」、Park らに付与された米国特許第5,605,612号、発明の名称「ガスセンサおよびその製造方法(Gas sensor and manufacturing method of the same)」、Yamagishi らに付与された米国特許第5,756,879号、発明の名称「揮発性有機化合物センサ(Volatile organic compound sensors)」、Althainz らに付与された米国特許第5,783,154号、発明の名称「還元ガスまたは酸化ガス用のセンサ(Sensor for reducing or oxidizing gases)」、Kimura らに付与された米国特許第5,830,412号、発明の名称「センサ装置、および各々が中に組み込まれたセンサ装置を有する防災システムおよび電子機器(Sensor device, and disaster prevention system and electronic equipment each having sensor device incorporated therein)」であり、これらはすべて、全体を参照により本明細書に組み入れられる。本発明に適切な他のセンサとして、金属絶縁体金属集合体(MIME)センサ、交叉反応光学マイクロセンサアレイ、および蛍光ポリマーフィルム、表面増強ラマン分光(SERS)、ダイオードレーザ、選択イオンフローチューブ、プロトン転移反応質量分析、金属酸化物センサ(MOS)、非分散赤外分光計、バルク音響波センサ、比色チューブ、赤外分光法(図2は、プロポフォール(2,6−ジイソプロピルフェノール)用のFT-IR信号を表す)が挙げられるが、それに限定されない。
【0034】
検出の分野における最近の開発として、半導体ガスセンサ、質量分析計、IRまたはUVまたは可視または蛍光の分光光度計が挙げられるが、それに限定されない。物質は、その電気抵抗を変えさせることによって半導体の電気特性を変え、これらの変化を測定することによって、物質の濃度を決定することを可能にする。物質を検出するために使用されるこれらの方法および機器が使用するのは、比較的短い検出時間であり、約数秒である。本発明によって企図される他の最近のガスセンサ技術として、導電性ポリマーガスセンサ(重合体)を有する装置、および弾性表面波(SAW)ガスセンサを有する装置が挙げられる。
【0035】
導電性ポリマーガスセンサ(「ケモレジスタ」とも称される)は、匂い物質の分子に感受性のある導電性ポリマー製のフィルムを有する。分子に接触すると、センサの電気抵抗が変化し、この抵抗の変化を測定することが、匂い物質の濃度を決定することを可能にする。この種類のセンサの利点は、室温に近い温度で機能するということである。また、選択された導電性ポリマーに従って、異なる物質を検出するための異なる感受性を得ることもできる。
【0036】
重合体ガスセンサは、センサのアレイ内に作ることができ、各センサは、異なるガスには異なって応答し且つ物質の選択性を増大するように設計される。
【0037】
弾性表面波(SAW)ガスセンサは、一般に、物質を選択的に吸収することができるポリマーコーティングで覆われた圧電特性を備えた基板を含む。結果として得られる質量の変化は、その共鳴周波数の変化を招く。この種類のセンサによって、物質の非常に優れた大量測定が可能である。SAW装置では、基板を使用して、弾性表面波を、互いに噛み合った電極のセットの間に伝播する。化学選択的材料がトランデューサの表面にコーティングされる。化学分析物が、基板にコーティングされた化学選択的材料と互いに影響し合う場合には、相互作用が、結果として、伝播する波の速度の振幅等のSAW特性の変化になる。波の特性の検出可能な変化は、化学分析物が存在することを示す。SAW装置は、多数の特許および刊行物に記載されており、Wohltjenに付与された米国特許第4,312,228号、Pykeに付与された米国特許第4,895,017号、およびGroves WAら著、Analyzing organic vapors in exhaled breath using surface acoustic wave sensor array with preconcentration: Selection and characterization of the preconcentrator adsorbent、Analytica Chimica Acta 371 (1988) 131-143、を含み、そのすべてが参照により本明細書に組み入れられる。本発明の操作に適用可能な化学選択的コーティングを使用する当技術分野において公知の他の種類の化学センサとして、バルク音響波(BAW)装置、プレート音響波装置、互いに噛み合った微小電極(IME)装置、および導光板(OW)装置、電気化学センサ、光学センサ、および電気伝導センサが挙げられる。
【0038】
ポリマーおよび医用材料の大面積フィルムを形成するための多くの最新の技術は、基板を巨大分子の溶液および揮発性溶媒内に、回転させること、噴射すること、または浸すことを含む。これらの方法は、基板全体をコーティングする。また、小さな面積の生体分子およびポリマー単分子層がパターン化されるのを可能にするマイクロコンタクトプリンティングおよびヒドロゲルスタンピング等の技術もある。パルスレーザ堆積法(PLD)等の他の技術を使用してもよい。この方法によって、コーティング用に使用されるべき材料の化学量論的化学組成を構成する標的は、パルスレーザによって切除され、切除された材料の柱状噴出を形成し、基板上に堆積する。
【0039】
ポリマー薄膜は、海軍研究試験所(Naval Research Laboratory)の研究者によって開発されたマトリックス支援パルスレーザ蒸着(Matrix Assisted Pulsed Laser Evaporation)(MAPLE)と呼ばれる新規のレーザに基づいた技術を使用して、最近、化学選択的弾性表面波蒸気センサの感受性および特異性を上げることが示されている。好ましくは、この技術の改変版の、パルスレーザ支援表面機能化(Pulsed Laser Assisted Surface Functionalization)(PLASF)を使用して、本発明用に感受性が増加した化合物特異バイオセンサコーティングを設計する。PLASFは、結合受容体を備えたセンサ用途用に類似薄膜を、またはバイオセンサ用途用に抗体を生成する。溶媒蒸発によって誘発される膜不完全部を排除し且つ特定の抗体への分子接着を検出することによって、改良されたSAWバイオセンサ応答を提供することによって、高い感受性および特異性を可能とする。
【0040】
ある種の非常に感受性が高い、市販の標準製品(commercial off-the-shelf)(COTS)の電子鼻10、例えば、Cyrano Sciences, Inc.(「CSI」)が販売のもの(例えば、CSIの携帯用電子鼻および匂い検知用のCSIのノーズチップ集積回路、米国特許第5,945,069号、図1)を、患者からの呼気をモニタするために本発明に使用してもよい。これらの装置は、最小サイクル時間を提供し、複数の匂いを検出することができ、特別な試料調製または隔離状態なしでほぼいかなる環境でも作動することができ、高度なセンサ設計または試験の間の洗浄を必要としない。
【0041】
一態様において、本発明の装置は、患者が口または鼻を経由して装置内へ直接息を吐くことができるように設計されてもよい。
【0042】
本発明の別の好ましい電子鼻技術は、ポリマー、例えば各々が物質に露出される32の異なるポリマーのアレイを具備する。32の個別のポリマーの各々は、匂いに対して異なる程度に膨潤し、その膜の抵抗を変化させ、その特定の物質(「シグネチャ」)に応答してアナログ電圧を生成する。次いで、抵抗の標準化変化をプロセッサへ伝えることができ、センサアレイのパターン変化に基づいて、物質の種類、量および質を識別する。独特の応答は、結果として、物質を特徴づけるのに使用される明確な電気フィンガープリントになる。アレイの抵抗変化のパターンは試料を診断するものであり、一方、パターンの振幅は試料の濃度を示す。
【0043】
特定の物質に対する電子鼻の応答は、従来のガスセンサ特徴づけ技術の組み合わせを使用して、完全に特徴づけることができる。例えば、センサをコンピュータに取り付けることができる。結果をコンピュータスクリーンに表示し、格納し、伝達すること等ができる。データアナライザが、応答のパターンを、既知の物質からの先に測定され特徴づけられた応答に比較することができる。これらのパターンの整合は、神経回路網を含む多数の技術を使用して、実行することができる。32ポリマーの各々からのアナログ出力を「ブランク」または対照に比較することによって、例えば神経回路網は、その物質に独特であるパターンを制定することができ、その後その物質を認識するよう学習する。検知されている特定の物質に対する所望の応答を最適化するために、特定のレジスタ形状が選択される。本発明のセンサは、好ましくは、様々な物質の液相または気相の生物学的溶液に同時に適したセルフキャリブレートポリマーシステムである。
【0044】
本発明のセンサは、ポリマーコーティングのパルスレーザ堆積法用の修正された真空チャンバに製造された集積回路(チップ)を含んでもよい。これは、同時薄膜蒸着波検出を操作し、SAWセンサの高感度に最適な状態を得る。バイオセンサコーティングの形態および微細構造は、プロセスパラメータの関数として特徴づけられる。
【0045】
本発明に使用されるセンサは、患者が装置内に直接息を吐くことができるように修正されてもよい。例えば、呼気をセンサに容易に伝えるための装置を患者とインターフェースさせるためにマウスピースまたはノーズピースが設けられる(例えば、米国特許第 5,042,501号参照)。修正されたセンサの神経回路網からの出力は、同一の患者が装置内に直接息を吐く場合と、呼気が、センサによって試料採取される前に乾燥することができる場合とで類似しているべきである。
【0046】
呼気の湿度は、「乾燥」ガスでのみ作用する一定の電子鼻装置(SAWセンサでないにもかかわらず)の場合に問題を示す。このような湿度感受性の装置を使用する場合には、本発明は、試料を除湿するための手段を備えた装置内に患者が直接息を吐くことができるように、このような電子鼻技術を使用してもよい。これは、市販の除湿器または熱湿度交換器(HME)、乾燥ガスで換気中に気道の乾燥を防止するように設計された装置を含むことによって達成される。あるいは、患者は、通常の呼吸中に脱水を防止するために解剖学的、生理学的な除湿器である鼻を通して息を吐き出してもよい。あるいは、センサ装置にはプレコンセントレータを装着することができ、これは、GCカラムの特性のいくつかを有する。ガス試料は、センサアレイに通される前に、プレコンセントレータに回される。このガスを加熱し揮発することによって、湿気を除去し、測定される化合物(分析物)を、潜在的な干渉物質から分離することができる。
【0047】
好ましくは、操作において、必要に応じて、センサを使用して送出前に患者の基線スペクトルを識別する。これは、患者が一度に2つまたはそれ以上の薬物を受け取る場合に2つまたはそれ以上の薬物、ならびに胃、口、食道および肺内の異なる食物および匂いからの可能な干渉を検出するために有益であることがわかる。
【0048】
下記は、本発明を実施するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は、限定として解釈されるべきではない。別途記載のない限り、すべてのパーセンテージは重量によるものであり、すべての溶媒混合割合は容量によるものである。
【0049】
実施例I
呼気プロポフォール蒸気濃度を測定することによる静脈プロポフォール麻酔の深度の評価
プロポフォールの初期静脈投与は、2〜5mg/kgのボーラスか、または、25〜200mcg/kg/分の持続注入か、のいずれかによってもよく、結果として、血漿濃度は1〜10mcg/mlの範囲になる。達成された麻酔(または鎮静)の深度は、患者の特徴、およびオピオイドおよび亜酸化窒素等の他の薬物の同時使用に依存する。
【0050】
麻酔深度でプロポフォールの大半を投与するために、患者の換気は、外部フェイスマスク、咽頭マスク(LMA)、または、気管に置かれたチューブによって、患者に取り付けられた呼吸回路を通して発生する。閉鎖回路のこれらの例は、すべて、必要に応じた正圧換気、亜酸化窒素を備えた追加吸入麻酔の投与、および二酸化炭素測定による換気適切度のモニタリングを容易にする。加えて、閉鎖呼吸回路は、プロポフォール測定センサへ方向転換することができる呼気のサイドストリームサンプリングを可能にする。非閉鎖回路プロポフォール鎮静投与用に、鼻孔または口にサンプリングカテーテルを使用して、プロポフォール蒸気を試料採取してもよい。同時二酸化炭素測定は、サンプリングの正確さを説明するのを補助する可能性がある。
【0051】
呼気の呼気終末部分は、体循環から肺へ戻る血液と釣り合っている部分である。1患者呼吸につき複数のプロポフォール蒸気決定を可能にする下記に引用された測定方法では、最高濃度は、呼気終末プロポフォール蒸気濃度とみなされる。より緩徐な分析方法では、平均の吐き出された濃度が使用され、呼気終末から平均の二酸化炭素濃度データを使用して訂正される。あるいは、サンプリングライン圧力または二酸化炭素レベルを使用して、瞬時に呼気終末ガスを規定して試料流のこの部分のみをセンサに送ってもよい。
【0052】
臨床範囲内で、プロポフォールの血中レベルは、プロポフォール麻酔の深度に直接関係する。プロポフォールの血液から呼気終末への勾配は、理論的に下記の4つの特徴に依存する。すなわち、1)血管から肺胞へのプロポフォール蒸気の移行、2)肺換気量の潅流への整合、3)混合肺胞ガス試料のサンプリング部位への送出、および4)計測正確度および精度である。血管から肺胞への移行は、関与するプロポフォールが少量であり且つその高度な極性のため、安定的且つ予測可能であると予想される。換気量潅流不整合は、プロポフォールの血中レベルの変化が比較的緩徐な時間的経過であるため、二酸化炭素測定よりも少ないプロポフォール測定に影響を与える。同様に、サンプリング部位へ到達する時間までの呼吸ガス試料の適切な混合は、二酸化炭素サンプリングに比較して、問題ではない。プロポフォール蒸気のキャリブレートされた加圧ガスキャニスタが、センサ精度を維持するために必要に応じて頻繁に自動再較正を容易にする。臨床業務におけるプロポフォールの血中レベルの比較的緩徐な変化のため、複数の決定を使用して、精度を改良してもよい。
【0053】
測定された呼気終末プロポフォール蒸気濃度の解釈は、次の2つの特徴を強調する。すなわち、1)臨床シナリオに必要である可能性が高いものに対する濃度自体、および2)経時プロポフォール蒸気濃度の傾向、である。第1の特徴は、濃度自体の大きさであり、当初は、不正確な投与量、極端な年齢、変化したタンパク質結合、または、他の個別の薬物動態学的偏りを反映することもある。標的プロポフォール蒸気濃度の範囲が予想されてもよいが、臨床シナリオ用には標的レベルの個別の調整が必要である。気管内挿管、外科的切開、または、折れた手足を動かす等の刺激処置には、穏やかな鎮静、神経損傷患者の麻酔、または、衰弱している老人患者用の麻酔よりも高い範囲を必要とする。オピオイド、または、亜酸化窒素等の他の麻酔剤の存在もまた、プロポフォール蒸気濃度の目標範囲を低くする。
【0054】
呼気終末プロポフォール蒸気濃度の解釈の第2の主な特徴は、経時濃度の傾向である。当初、十分な麻酔が制定され、プロポフォール注入が開始された場合には、過剰な速度のプロポフォールが不適切に投与されることもあり、血中レベルが、必要であり手堅いレベルを超えて上昇する可能性がある。患者が反応するまで注入速度の試験的減少を臨床シナリオが許すのであれば、過剰な投与速度は除外される。しかし、場合によっては手術中に動く危険、麻痺剤の同時投与、または、手術中に覚醒するリスクが、適切な注入速度と思われるようなものの試験的な低下を妨げる可能性がある。血液中に過剰なプロポフォールの蓄積が、投与が進行する場合に、所与の注入速度で発生していないことがわかった場合には、試験的な注入の低下は必要ではない。同様に、所与の患者におけるプロポフォールのクリアランスが注入速度を超えた場合には、突然の動きまたは覚醒が予期され、現在測定されたプロポフォールレベルを維持するために注入速度を増すことによって回避される。
【0055】
実施例II
麻酔時に投与された追加薬物の血中濃度の評価および呼気を測定することによるその濃度傾向。オピオイドのレミフェンタニルおよびアルフェンタニルが例として検討される。
レミフェンタニルの静脈投与は、0.05〜1mcg/kgのボーラスか、または、0.0125〜2mcg/kg/分の持続注入か、のいずれかによってもよく、結果として、血漿濃度は0.5〜50ng/mlの範囲になる。同様に、アルフェンタニル、関連オピオイドが、10〜300mcg/kgのボーラスか、または、0.1〜15mcg/kg/分の持続注入か、のいずれかによって投与されてもよく、結果として、血漿濃度は10〜500ng/mlの範囲になる。両薬物用に関して、達成される効果は、服薬量、個別患者の特徴、および他の薬物の同時投与に依存する。広い服薬量範囲が、広い範囲の所望の効果、すなわち、意識下鎮静中の鎮痛から小投与量の催眠剤を追加する場合の深い全身麻酔まで、の結果である。
【0056】
無意識鎮静または全身麻酔時にレミフェンタニルまたはアルフェンタニルが投与される場合には、患者の換気は、外部フェイスマスク、咽頭マスク(LMA)、または、気管に置かれたチューブによって、患者に取り付けられた呼吸回路を通して発生する。閉鎖回路のこれらの例はすべて、オピオイドの呼吸抑圧効果による陽圧換気、吸入麻酔および酸素の投与、および二酸化炭素測定による換気適切度のモニタリングを容易にする。加えて、閉鎖呼吸回路は、レミフェンタニルまたはアルフェンタニル測定センサへ方向転換することができる呼気のサイドストリームサンプリングを可能にする。非閉鎖回路レミフェンタニルまたはアルフェンタニル鎮痛投与用に(通常、意識下鎮静中)、鼻孔または口にサンプリングカテーテルを使用して、吐かれた蒸気を試料採取してもよい。同時二酸化炭素測定は、サンプリングの正確さを解釈するのを補助する可能性がある。
【0057】
呼気の呼気終末部分は、体循環から肺へ戻る血液と釣り合っている部分である。1患者呼吸につき複数のレミフェンタニルまたはアルフェンタニル蒸気決定を可能にする下記に引用された測定方法では、最高濃度は、呼気終末蒸気濃度とみなされる。より緩徐な分析方法では、平均の吐き出された濃度が使用され、呼気終末から平均の二酸化炭素濃度データを使用して訂正される。あるいは、サンプリングライン圧力または二酸化炭素濃度を使用して、瞬時に呼気終末ガスを規定して試料流のこの部分のみをセンサに送ってもよい。
【0058】
臨床範囲内で、オピオイドのレミフェンタニルおよびアルフェンタニルの血中濃度は、その薬力学的効果に直接関係する。レミフェンタニルおよびアルフェンタニルの血液から呼気終末への勾配は、理論的に下記の4つの特徴に依存する。すなわち、1)薬物の血管から肺胞への移行、2)肺換気量の潅流への整合、3)混合肺胞ガス試料のサンプリング部位への送出、および4)計測正確度および精度、である。血管から肺胞への移行は、関与するレミフェンタニルまたはアルフェンタニルが少量であり且つその高度な極性のため、安定的且つ予測可能であると予想される。換気量潅流不整合は、レミフェンタニルおよびアルフェンタニルの血中濃度の変化が比較的緩徐な時間的経過であるため、二酸化炭素測定よりも少ない測定に影響を与える。同様に、サンプリング部位へ到達する時間までの呼吸ガス試料の適切な混合は、二酸化炭素サンプリングに比較して、問題ではない。薬剤蒸気のキャリブレートされた加圧ガスキャニスタが、センサ精度を維持するために必要に応じて頻繁に自動再較正を容易にする。臨床業務におけるこれらのオピオイドの血中濃度の比較的緩徐な変化のため、複数の決定を使用して、精度を改良してもよい。
【0059】
測定された呼気終末オピオイド蒸気濃度の解釈は、次の2つの特徴を強調する。すなわち、1)臨床シナリオに必要である可能性が高いものに対する濃度自体(血漿範囲の1mLにつきナノグラムで)、および2)経時オピオイド蒸気濃度の傾向である。第1の特徴は、濃度自体の大きさであり、当初は、不正確な投与量、極端な年齢、変化したタンパク質結合、または、他の個別の薬物動態学的逸脱を反映することもある。標的オピオイド蒸気濃度の範囲が予想されてもよいが、臨床シナリオ用には標的レベルの個別の調整が必要である。薬理学的耐性および広い範囲の強度の痛い外科的刺激が、必要な濃度を大いに変える。吸入麻酔剤または局部麻酔等の他の麻酔剤の存在もまた、オピオイド蒸気濃度の目標範囲を低くする。
【0060】
呼気終末オピオイド蒸気濃度の解釈の第2の主な特徴は、経時濃度の傾向である。当初、レミフェンタニルまたはアルフェンタニルの静脈内ボーラスで十分なオピオイド効果が制定され、且つ、レミフェンタニルまたはアルフェンタニルの注入が開始された後に、過剰な速度の注入または薬剤相互作用もしくは低薬剤新陳代謝が発生することもあり、血中濃度が、必要であり手堅い濃度を超えて上昇する可能性がある。患者の状態が不適切な投与を示すまで注入速度の試験的減少を臨床シナリオが許すのであれば、過剰な投与速度は除外される。しかし、場合によっては手術中に動く危険、麻痺剤の同時投与、または、手術中の覚醒を伴う軽麻酔のリスクが、適切な注入速度と思われるようなものから試験的な低下を妨げる可能性がある。呼気測定に反映されるように、血液中に過剰なオピオイドの蓄積が、投与が進行する場合に、所与の注入速度で発生していないことを確信することができる場合には、試験的な注入の低下は必要ではない。同様に、所与の患者におけるレミフェンタニルまたはアルフェンタニルのクリアランスが注入速度を超えた場合には、突然の動きまたは不適切な麻酔の兆候が予期され、現在測定されたオピオイド蒸気濃度を維持するために注入速度を増すことによって回避される。
【0061】
上記に検討された即効性オピオイドのレミフェンタニルおよびアルフェンタニルに加えて、フェンタニルおよびサフェンタニルの類似の吐かれた蒸気評価は、血中濃度を間接的に示すものとして臨床的に有用である可能性がある。他の非オピオイド静脈麻酔剤および麻酔補助薬、例えば、エトミデート、ケタミンおよびバルビツール(特に持続時間が短いもの)もまた、血中濃度の非侵襲的即時評価として吐かれた蒸気濃度をモニタして、より精密に且つ安全に投与されてもよい。
【0062】
実施例III
呼気中のケトンおよびアンモニア等の内因性および外因性化合物の測定
通常、ヒトの呼気は、水蒸気と、二酸化炭素と、酸素と、窒素と、微濃度の一酸化炭素、水素およびアルゴンとを含み、これらのすべては無臭である。一般的な内科的問題は口臭であり、これは、普通、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルジスルフィド、インドール等の臭気物質を生成する細菌によって食物が分解することによって引き起こされる。ここに記載されたセンサ技術は、これらの臭気物質用の、および虫歯、歯周病、または、様々な口腔、肺および副鼻腔の状態を診断するための、高感度検出器として使用されてもよい。
【0063】
他の気相化合物として、ケトアシドーシスである糖尿病患者に存在するアセトン、肝疾患患者に存在するアンモニア、および肺、胃、胆嚢および腎臓の機能障害の場合に存在する様々な臭気物質が挙げられる。これらの化合物を呼気検知することは、これらの疾患を診断し、治療過程に従う高感度の方法である。癌のマーカー用に呼気を評価する可能性が積極的に探索されており、センサ技術はこの領域でも役割を果たす。
【0064】
呼気検出に基づいた1つの特に価値のある非侵襲的検査は、ヘリコバクターピロリ、すなわち、胃潰瘍の原因である細菌の検査である。被験者は、同位炭素で標識づけされた75mg投与量の尿素を服用し、呼気は、標識づけされた二酸化炭素が評価される。ヘリコバクターピロリは、酵素ウレアーゼを分泌して、胃の酸から有機体を保護する。ウレアーゼは、標識づけされた尿素をアンモニアと二酸化炭素とに分解する。従来の検査は標識づけされた二酸化炭素を測定するが、それは、時間がかかり、高価である。センサ技術を使用して、呼吸中のアンモニアを即座に安価に測定することができ、放射性標識化合物を使用する必要性を軽減する。
【0065】
胃腸管および体液内の他の病理有機体を検出するための、センサ技術を使用する他の非侵襲的検査を開発することができる。
【0066】
実施例IV
センサの選択
下記は、本発明の方法を実行するために使用されてもよい様々なセンサ技術の例である。
【0067】
導電性ポリマー
導電性ポリマーセンサは、速い応答時間、低コスト、および良好な感受性および選択性を請け合う。この技術は、概念が比較的簡単である。炭素等の導電性の材料は、特定の非導電性ポリマーに均一に混ぜられ、酸化アルミニウム基板上に薄膜として蒸着される。フィルムは、2本の導線にわたって存在し、ケモレジスタを形成する。ポリマーが様々な化学蒸気を受けると、膨張し、炭素粒子の間の距離を増大し、それによって抵抗を増加する。ポリマーマトリクスは膨潤するが、これは、分析物蒸気が、分析物の分配係数によって決定される程度までフィルム内に吸収されるからである。分配係数は、特定の温度で気層と凝縮相との間における分析物の平衡分布を規定する。各個別の検出器要素は、基線ノイズより上に顕著な応答を引き起こす分析物の最小吸収量を必要とする。異なる蒸気への選択性は、ポリマーの化学組成を変えることによって達成される。これによって各センサは、特定の化学蒸気に合わせることができる。したがって、大半の用途では、選択性を改良するために直交応答センサのアレイが必要である。アレイ内のセンサの数にかかわらず、それからの情報は、対象の化学蒸気を正しく識別するために、パターン認識ソフトウェアで処理されなければならない。感度濃度は、良好であると言われている(数十ppm)。この技術は非常に携帯用(小型且つ低電力消費)であり、応答時間が比較的速く(1分未満)、低コストであり、且つ、頑丈で信頼のできるものである。
【0068】
電気化学センサ
電気化学センサは、測定するために不可逆化学反応に依存する。特定のガスに反応する電解質を含み、存在するガスの量に比例する出力信号を生成する。電気化学センサは、塩素、一酸化炭素、硫化水素および水素等のガス用に存在するが、炭化水素を測定するのに使用することはできない。この技術を使用して検出することができるガスの数は、比較的少ないが、年々増加している。
【0069】
電気化学センサは、100万分の1の低濃度を検出するのに優良である。これも頑丈であり、ほとんど電力を引き出さず、線形であり、重要なサポート電子機器または蒸気ハンドリング(ポンプ、弁等)を必要としない。コストが妥当であり(低容量では50ドルから200ドル)、サイズが小型である。
【0070】
ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)
ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)は、実際に2つの技術の組み合わせである。一方の技術が化学成分を分離し(GC)、他方の技術がそれを検出する(MS)。技術的に、ガスクロマトグラフィは、2つのフェーズ、すなわち、移動相と固定相との間の異なる分布に基づいた2つまたはそれ以上の化合物の物理的な分離である。移動相は、固定相がコーティングされたカラムを通って気化した試料を動かすキャリアガスであり、そこで分離が起こる。分離された試料成分がカラムから溶出する場合に、検出器は、カラム溶離液を電気信号に転換し、これが測定され記録される。信号は、クロマトグラムプロットのピークとして記録される。クロマトグラフのピークは、その対応する保持時間から識別することができる。保持時間は、試料注入時間から最大ピーク時間まで測定され、他の試料成分の存在によって影響されない。保持時間は、選択されたカラムおよび成分に依存して、秒から時間の間の範囲である。ピークの高さは、試料混合物の成分の濃度に関係する。
【0071】
分離後、化学成分を検出する必要がある。質量分析は、このような検出方法の1つであり、カラムから溶出する場合に、分離された試料成分分子に電子ビームで衝突する。これは、分子に電子を失わせ、正電荷のイオンを形成させる。分子を一緒に保持する結合のいくつかは、その過程で壊れ、結果として得られた小部分は、再配置してもよく、または、更に分解してより安定な小部分を形成してもよい。所与の化合物は、所与のセットの状態下で再生可能なやり方で、イオン化し、細分化し、再配置する。これは、分子の識別を可能にする。質量スペクトルは、試料分子およびその小部分からのイオンに関する質量/電荷比対存在度データを示すプロットである。この比率は、通常、その小部分の質量に等しい。スペクトルの最大ピークは、基準ピークである。GC/MSは、正確で、選択的であり且つ高感度である。
【0072】
赤外分光法(FTIR、NDIR)
赤外分光法(IR)は、有機化学者および無機化学者が使用する最も一般的な分光技術の1つである。単に、赤外線ビームの経路に位置決めされた試料による異なる赤外線周波数の吸収測定である。赤外線は、0.78〜1000マイクロメートル(ミクロン)の波長を有する電磁スペクトルの広いセクションにわたる。一般に、赤外線吸収は、その波数によって表され、これは、波長を10,000倍した逆数である。赤外分光法を使用して検出されるべき所与の試料に関して試料分子は赤外線領域で活性でなければならず、すなわち、分子は赤外線にさらされる場合に振動しなければならないことを意味する。CRCプレスの「Handbook of Chemistry and Physics」を初めとして、このデータを含む参考図書が数冊市販されている。
【0073】
赤外分光計には、2つの全体的な分類があり、分散型と非分散型とである。典型的な分散型赤外分光計では、広域源からの放射線は試料を通って進み、単色光分光器によって成分周波数に分散される。ビームは次いで、検出器、典型的にサーマル検出器またはフォトン検出器に当たり、これは、分析用に電気信号を生成する。フーリエ変換赤外分光計(FTIR)が、その優れた速度および感度のため、分散型赤外分光計に取って代わっている。FTIRは、ムービングミラーマイケルソン干渉計を使用し信号をフーリエ変換することによって、光学成分周波数の物理的分離を排除する。
【0074】
逆に、非分散型赤外(NDIR)分光計において、NDIRは、試料ガスの範囲を分析するために広い赤外線スペクトルを供給する代わりに、標的試料の吸収波長に対応する特定の波長を供給する。これは、比較的広い赤外線源を使用し且つスペクトルフィルタを使用して対象の波長の放出を制限することによって、達成される。例えば、NDIRは、一酸化炭素(CO)を測定するのに使用されることが多く、これは、4.67マイクロメートルの波長で赤外線エネルギを吸収する。設計中に赤外線源および検出器を注意深く合わせることによって、高容量生成COセンサが製造される。二酸化炭素は一般的な干渉物であり、4.26マイクロメートルの吸収波長を有し、COの波長に非常に近いため、これは特に印象的である。
【0075】
NDIRセンサは、低コスト(200ドル未満)であり、繰り返し発生するコストが無く、感度および選択性が良好であり、較正が無く、信頼性が高いものと見込まれる。これは、小型で、ほとんど電力を引き出さず、応答が早い(1分未満)。ウォームアップタイムはほんのわずかである(5分未満)。残念ながら、1つの標的ガスを検出するのみである。より多くのガスを検出するためには、追加のスペクトルフィルタおよび検出器が必要であり、広帯域赤外線源を方向づけるために追加光学機器も必要である。
【0076】
イオン移動度分光分析(IMS)
イオン移動度分光分析(IMS)は、チューブ内で電場を受ける際にその遷移時間に基づいてイオン化された分子試料を分離する。試料が器具内に引き込まれると、弱放射線源によってイオン化される。イオン化された分子は、電場の影響下でセルを通ってドリフトする。電子シャッターグリッドによって、イオンがドリフトチューブ内に周期的に導入されるのを可能にし、そこで、電荷、質量および形状に基づいて分離する。より小さなイオンは、ドリフトチューブを通ってより大きなイオンよりも早く動き、検出器により速く到着する。検出器からの増幅された電流は、時間の関数として測定され、スペクトルが生成される。マイクロプロセッサは、標的化合物用のスペクトルを評価し、ピーク高さに基づいて濃度を決定する。
【0077】
IMSは、非常に速い方法であり、ほぼリアルタイムの分析を可能にする。これもまた非常に高感度であり、対象のすべての分析物を測定することができる。IMSは、コストが中程度であり(数千ドル)、サイズおよび電力消費がより大きい。
【0078】
金属酸化膜半導体(MOS)センサ
金属酸化膜半導体(MOS)センサは、検知材料として、半導体酸化金属結晶、典型的に酸化スズを使用する。酸化金属結晶は、およそ400℃に加熱され、その点で表面が酸素を吸着する。結晶中のドナー電子は、吸着された酸素へ移動し、正電荷を空間電荷領域に残す。したがって、表面電位が形成され、これは、センサの抵抗を増大する。センサを脱酸素性または還元性ガスに露出すると、表面電位が除去され、これが抵抗を低下させる。最終結果は、脱酸素性ガスへの露出によって電気抵抗を変えるセンサである。抵抗の変化は、ほぼ対数的である。
【0079】
MOSセンサは、きわめて低コストであり(低容量では8ドル未満)、分析時間が速い(ミリ秒から秒)という利点を有する。長い作動期間を有し(5年より長い)、報告された貯蔵寿命問題はない。
【0080】
光イオン化検出器(PID)
光イオン化検出器は、すべての要素および化学物質をイオン化することができるという事実に依存する。電子を変位してガスを「イオン化」するのに必要なエネルギは、イオン化ポテンシャル(IP)と呼ばれ、電子ボルト(eV)で測定される。PIDは、紫外線(UV)光源を使用して、ガスをイオン化する。UV光源のエネルギは、少なくとも試料ガスのIPと同じほど大きくなければならない。例えば、ベンゼンは9.24eVのIPを有し、一方、一酸化炭素は、14.01leVのIPを有する。ベンゼンを検出するPIDの場合、UV灯は、少なくとも9.24eVのエネルギを有さなければならない。灯が15eVのエネルギを有するならば、ベンゼンと一酸化炭素との両方がイオン化される。ひとたびイオン化されると、検出器は電荷を測定し、信号情報を表示された濃度に転換する。残念ながら、表示は2つのガスを区別せず、単に両方を一緒に合計した総濃度を読み取るだけである。
【0081】
3台のUV灯エネルギが一般に利用可能であり、9.8eV、10.6eV、および11.7eVである。最低エネルギの灯を選択しながら対象のガスをイオン化するのに十分なエネルギを依然として有することによって、幾分の選択性を達成することができる。PIDによって測定される化合物の最大の群は、有機物(炭素を含む化合物)であり、典型的に100万分の1の濃度(ppm)で測定することができる。PIDは、11.7eVより大きなIPを備えたいずれのガス、例えば、窒素、酸素、二酸化炭素および水蒸気を測定しない。CRCプレスの「Handbook of Chemistry and Physics」は、様々なガスのIPをリストする表を含む。
【0082】
PIDは、高感度があり(低ppm)、低コストで応答が速く、携帯可能な検出器である。また、消費電力も少ない。
【0083】
弾性表面波センサ(SAW)
弾性表面波(SAW)センサは、弾性表面波を生成し且つ検出するために、圧電基板上に作られた互いに噛み合った金属電極を備えて製造される。弾性表面波は、表面に最大振幅を有し、そのエネルギはほぼすべてが表面の15〜20波長内に含まれる波である。振幅が表面で最大であるため、このような装置は非常に表面感度が高い。通常、SAW装置は、携帯電話の電子帯域通過フィルタとして使用される。これらは、その性能が、SAWダイの表面に接触する物質によって変化しないことを保証するために、密閉包装される。
【0084】
SAW化学センサは、センサとして機能するためにこの表面感度をうまく利用する。特定の化合物に対する特異性を増大するために、SAW装置は、薄いポリマーフィルムでコーティングされることが多く、これは、周期的に且つ再現可能なやり方で、装置の周波数および挿入損失に影響を与える。センサアレイの各センサは、異なるポリマーでコーティングされ、ポリマーコーティングの数および種類は、検出されるべき化学物質に基づいて選択される。ポリマーコーティングを備えた装置は次いで化学蒸気を受け、これはポリマー材料内に吸収され、次いで、装置の周波数および挿入損失が更に変化する。装置が化学センサとして機能するのを可能にするのは、この最終変化である。
【0085】
数台のSAW装置の各々が異なるポリマー材料でコーティングされる場合、所与の化学蒸気への応答は、装置によって変動する。ポリマーフィルムは、通常、様々な有機化学分類、すなわち、炭化水素、アルコール、ケトン、酸化、塩素化および窒素化ごとに、各々が異なる化学親和力を有するように、選択される。ポリマーフィルムが適切に選択される場合には、対象の各化学蒸気は、装置のセットに独特な全体的効果を与える。SAW化学センサは、軽く揮発性極限のヘキサンから、重く低揮発極限の半揮発性化合物までの有機化合物の範囲に有用である。
【0086】
モータ、ポンプおよび弁を使用して、試料をアレイに送りこれに通す。システムの感度は、アレイの前に化学プレコンセントレータを使用するという選択肢によって、低蒸気濃度で高めることができる。操作において、プレコンセントレータは、一定期間の間、検査蒸気を吸収し、次いで、かなり短いタイムスパンで加熱されて蒸気を放出し、それによってアレイにおける蒸気の効果的な濃縮を増大する。システムは、アレイ用のいくつかの種類の駆動および検出電子機器を使用する。搭載マイクロプロセッサを使用して、システムの配列を制御し、計算能力を提供してアレイからのデータを解釈して分析する。
【0087】
SAWセンサは、穏当な価格であり(200ドル未満)、良好な感受性(数十ppm)を有し、非常に良好な選択性を備える。これは、携帯用であり、頑丈で、電力消費はほんのわずかである。ウォームアップは2分未満であり、大半の分析には1分未満しか必要ではない。これは、典型的に、高精度定量用途には使用されず、したがって較正は必要ではない。SAWセンサは、経時ドリフトせず、長い作動期間を有し(5年より長い)、貯蔵寿命問題はない。湿気に対して感度があるが、これは、熱的に脱着されるコンセントレータおよび処理アルゴリズムを使用して対処される。
【0088】
本願に記載の実施例および態様は、例示目的のみであり、それを考慮に入れた様々な修正および変更が当業者に対して提案され、本願および添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれるものであることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明用のセンサとして使用することができるガスセンサチップを示す図である。
【図2】プロポフォールのFT-IR信号を示す図である。
【図3】単一呼吸サイクルのカプノグラムおよび閉塞性肺疾患患者からの数呼吸のカプノグラムを示す図である。
【図4】4センサのポリマーコーティングされたSAWアレイからプロポフォールの特徴的な「ふたこぶ」シグネチャを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻酔の深度を決定するための方法であって、少なくとも1つの麻酔剤が、麻酔の送出時に、患者の血流内に投与される方法において、
患者の呼気を試料採取する段階;、
センサ技術を使用して麻酔剤であることを示す少なくとも1つの物質の濃度用に呼吸を分析する段階;および、
濃度に基づいて麻酔の深度を決定する段階;
を含む方法。
【請求項2】
呼吸が所定の期間後に分析される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料採取する段階中に、呼気の開始および完了を検出するために流れセンサを使用する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
決定された麻酔の深度に基づいて、薬剤を静脈内に送出するための輸液ポンプを制御する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
薬剤が、静脈内送出、非経口送出、舌下送出、経皮送出、および静脈内ボーラス送出からなる群から選択される送出方法によって送出される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
薬剤が連続注入によって送出される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
薬剤が輸液ポンプによって送出される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
薬剤がレミフェンタニルおよびプロポフォールからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
段階が周期的に繰り返されて、経時傾向をモニタする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
薬剤が健忘症用である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
薬剤が鎮痛用である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
薬剤が筋弛緩用である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
薬剤が鎮静用である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
薬剤の組み合わせが投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
麻酔剤血中濃度を決定するために濃度が測定される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
鎮痛薬血中濃度を決定するために濃度が測定される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
回復を示すレベル用に濃度が測定される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
試料採取が連続的である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
試料採取が周期的である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
患者の呼吸が、半導体ガスセンサ技術、導電性ポリマーガスセンサ技術、または弾性表面波ガスセンサ技術から選択されるセンサ技術によって分析される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
センサ技術が、少なくとも1つの物質の濃度を特徴づけるために独特な電子フィンガープリントを生成する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
患者の呼吸の分析から生じるデータを記録する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
患者の呼吸の分析から生じるデータを伝達する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
患者の呼吸の分析が、患者の呼吸内で検知された物質を所定のシグネチャプロファイルと比較する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
分析前に容器内に患者の呼吸を捕らえる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項26】
分析前に患者の呼吸から湿気を除去する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項27】
分析が、患者の呼吸の呼気をセンサで検出する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項28】
麻酔であることを示す物質が遊離麻酔剤である、請求項1記載の方法。
【請求項29】
麻酔であることを示す物質が麻酔剤の代謝産物である、請求項1記載の方法。
【請求項30】
麻酔であることを示す物質が遊離麻酔剤および麻酔剤の代謝産物である、請求項1記載の方法。
【請求項31】
患者において麻酔効果のレベルに達した場合に分析される濃度に数値を割り当て、その後、その相対的な変化に基づいて濃度により高い値またはより低い値を割り当てる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項32】
値の変化をモニタすることによって濃度をモニタする段階と、所望の麻酔効果を維持するために麻酔の投与を調整する段階と、をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
患者の内因性化合物をモニタするための方法であって、
患者の呼気を試料採取する段階;
センサ技術を使用して内因性化合物の濃度用に呼吸を分析する段階;および
内因性化合物の濃度を計算する段階;
を含む方法。
【請求項34】
内因性化合物が、グルコース、ケトンまたは電解質から選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
所望の投与量の麻酔剤を患者に送出するための麻酔剤送出システムであって、
麻酔剤供給装置(anesthetic supply)によって提供される麻酔剤の量を制御するためのコントローラを有する供給装置;
患者へ送出された麻酔剤濃度を示すために信号を提供する、患者の血流における麻酔剤濃度を示す少なくとも1つの物質の濃度用に患者の呼吸を分析するための呼吸アナライザ;および
信号を受け取り且つ信号に基づいて麻酔剤の量を制御する麻酔剤供給装置に接続されたシステムコントローラ;
を具備する麻酔剤送出システム。
【請求項36】
呼吸アナライザが、患者の呼気を試料採取するためのコントローラと、麻酔剤濃度を示す少なくとも1つの物質の濃度用に呼吸を分析するためのセンサと、濃度に基づいて薬剤の効果を計算し麻酔の深度を決定するためのプロセッサと、を具備する、請求項35記載のシステム。
【請求項37】
センサが、半導体ガスセンサ技術、導電性ポリマーガスセンサ技術、または弾性表面波ガスセンサ技術から選択される、請求項36記載のシステム。
【請求項38】
静脈麻酔を患者へ投与するための装置であって、
少なくとも1つの静脈麻酔剤の少なくとも1つの供給装置(supply);
少なくとも1つの静脈麻酔剤を患者へ制御可能に静脈内に送出するための静脈送出手段;
患者へ送出された麻酔剤濃度を示すために信号を提供する、患者の血流における麻酔であることを示す少なくとも1つの物質の濃度用に患者の呼吸を分析するための呼吸アナライザ;および
信号を受け取り、信号に基づいて麻酔剤の量を制御する、静脈送出手段に接続されたシステムコントローラ;
を具備する装置。
【請求項39】
貧血患者のパーフルブロンレベルをモニタするための方法であって、
(i)患者の呼吸を試料採取する段階;
(ii)センサ技術を使用してパーフルブロンの濃度用に呼吸を分析する段階;および
(iii)濃度に基づいてパーフルブロンの血中濃度を計算する段階;
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−513435(P2006−513435A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567641(P2004−567641)
【出願日】平成15年1月23日(2003.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/002287
【国際公開番号】WO2004/066839
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(500228159)ユニバーシティ・オブ・フロリダ・リサーチ・ファンデーション・インコーポレーテッド (13)
【Fターム(参考)】