説明

呼気中14CO2の連続測定システム

【課題】呼気中14COを測定することによって、マイクロドーズ臨床試験等における有用な薬物動態特性が得られるような方法及びシステム等を提供する。
【解決手段】被験体が発生する呼気中の14COを連続的に測定する方法であって、(1)被験体が発生する呼気中に含まれている全COを塩基性化合物水溶液に吸収させる工程;及び(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する工程、を含むことを特徴とする前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロドーズ臨床試験等において、生体内に投与された14C標識化合物の各種薬物動態パラメータを得るために有利に使用することができる、呼気中14COの連続測定システム及びそれに用いる装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
平成20年6月3日付けで、厚生労働省医薬食品局審査管理課から「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス」が公布された。このガイダンスは新薬の開発創出における臨床試験の効率・促進化を図る等の目的で出されたものである。
【0003】
このようなマイクロドーズ臨床試験の実効性を高める際に重要なことは、被験者に投与した、14C標識化合物のような放射線標識化合物の臨床薬物動態特性を明らかにすることである。
【0004】
上記ガイダンスには、「健康ヒトに500nCi投与した場合の線量係数は10.7nSv/18.5kBq(500nCi)と計算され、これに100倍の安全係数をかけても、一般公衆の年間被ばく線量限度の1mSvと同等となることから、ボランティアへの影響への十分なVerificationとなる」、と記載されている。
【0005】
従って、500nCi程度/60kg/1回を投与した場合に、被験者から得られる生体試料から臨床薬物動態特性が得られる必要がある。
【0006】
生体は炭素源を主なエネルギー源として取り込み、同様に取り込まれた空気もしくは水中の酸素と共に、生体の保持、再生、代謝、成長等を行なっている。炭素の取り込みから排泄までの時間は短く、代謝回転は速い。その結果、投与した14C標識化合物の体内動態は血中濃度動態の速度よりも速く、更に、回収率は標識位置から予め推定することも可能である。従って、投与量に対する排出比が高くなるように14C標識位置を設計することによって、モデル度物の体重及び容量に大きく左右されずに、そのプロファイルからAUC、CMAX、TMAX及びT1/2等の各種パラメータを求めることができる。
【0007】
発明者は、体内に取り込まれた14C標識化合物の14CO呼気排出動態パターンから、体内器官・組織への14C取り込みパターンとCMAX、TMAX及び対外排出に伴う減少パターンの記録が可能であることを報告している(非特許文献1)。
【0008】
尚、本発明者は、高速液体クロマトグラフ連動型のラジオ液体クロマトグラフにおいて使用する放射線感知セル(特許文献1)、及び、放射能分析装置(特許文献2)等に関する特許出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−321273号公報
【特許文献2】特開2006−194729号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】重松昭世:Radioisotopes, 41 (No.2), 116-124 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
500nCi程度の14C標識化合物を投与した場合に、14C標識位置が生体代謝によって14COに転換する化合物に関しては、血中動態を指標にすることは好ましくなく、呼気中14COを測定することが必要である。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、このような呼気中14COを測定することによって、マイクロドーズ臨床試験等における有用な薬物動態特性が得られるような方法及びシステム等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、以下の各態様に係るものである。
[態様1]被験体が発生する呼気中の14COを連続的に測定する方法であって、
(1)被験体が発生する呼気中に含まれている全COを塩基性化合物水溶液に吸収させる工程;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する工程、を含むことを特徴とする前記方法。
[態様2]上記の測定方法によって得られた呼気中の14CO量の経時変化プロファイルに基づき、薬物動態特性パラメータを得る方法。
[態様3]上記の測定方法を実施する為のシステムであって、
(1)被験体が発生する呼気中に含まれているCOを塩基性化合物水溶液に吸収させるための捕捉手段;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する手段、を含むことを特徴とする前記システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法・システムによって、14C標識化合物をマイクロドーズされた被験体が発生する呼気中の極めて微量な14COを連続的に高感度で簡便に測定することが可能となり、マイクロドーズ臨床試験等における有用な薬物動態特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明システムの好適一例の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法は、少なくとも以下の2つの工程を含むことを特徴とする、被験体が発生する呼気中の14COを連続的に測定する方法である。
(1)被験体が発生する呼気中に含まれている全COを塩基性化合物水溶液に吸収させる工程;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する工程、を含むことを特徴とする前記方法。
更に該方法は、塩基性化合物水溶液に吸収させた該水溶液中の全CO量を測定する工程を含むことが好ましい。
【0017】
又、本発明のシステムは、上記本発明の方法を実施する為のシステムであって、少なくとも以下の2つの手段を有することを特徴とする。
(1)被験体が発生する呼気中に含まれているCOを塩基性化合物水溶液に吸収させるための捕捉手段;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する手段。
更に該システムは、塩基性化合物水溶液に吸収させた該水溶液中の全CO量を測定する手段を含むことが好ましい。
【0018】
本発明の方法及びシステムを一具体例を図1に示す。以下の記載中の番号は図1に付された番号と一致する。
【0019】
被験体がマウス等の実験動物である場合には、当該動物はチャンバー(4)等の適当な施設内で飼育され、そこで排出された呼気を適当な手段で回収し、その後の工程に送られる。又、被験体がヒト若しくは或る種の実験動物の場合には、それらの鼻口部分に呼気を回収する適当な装置を装着して、それによって排出された呼気を直接に回収することも可能である。
【0020】
これら被験体には、生体内代謝によって14C標識位置が14COに変換するような適当な14C標識化合物、例えば、14C−グルコース、14C−メチオニン、及び14C−アスピリン等を静注及び経口投与等の当業者に公知の適当な方法で投与する。1回の投与量は、方法の目的及び被験体の種類とに応じて当業者が適宜決めることが出来る。例えば、マクロドーズ試験では、通常、500nCi程度/60kgである。
【0021】
尚、チャンバー(4)内に送る空気は、KOH(1)、ソーダ石灰(2)、及び、ケイ酸(3)のような適当なアルカリ物質を事前に通過させて、空気中の二酸化炭素を予め除去することが好ましい。
【0022】
こうして回収された被験体が発生する呼気は、当業者に公知の適当なエアーポンプ(5)、有機ガス除去手段(6)及び流量制御手段(7)を適宜通過させた後、該呼気中に含まれているCOを塩基性化合物水溶液に吸収させるための捕捉手段に送られる。ここで、呼気中に含まれている全COを塩基性化合物水溶液に吸収させる工程が行なわれる。塩基性化合物としては、当業者に公知の適当な物質、例えば、2−アミノエタノール等を挙げることができる。尚、有機ガス除去手段(6)から排出される気体は、実質的に窒素、酸素及び二酸化炭素のみが含まれたものとなる。2−アミノエタノール水溶液としては、例えば、2−アミノエタノール:ポリエチレングリコール:水(10:2:100)の混合物が用いられる。
【0023】
該捕捉手段は、呼気中に含まれている全COを吸収することが出来る限り、その構造に特に制限はないが、一例として、2−アミノエタノール水溶液内に被験体が発生する呼気及び空気の混合体を気泡化させる構造を有する手段(8)を挙げることができる。この手段(8)においては、2−アミノエタノール水溶液が滴下する気洗蛇管中で被験体が発生するCO以外の呼気及び空気の混合体を気泡化させて徐外し、CO成分を吸収した2−アミノエタノール水溶液が管底から流出するような構造を有している。
【0024】
こうして呼気中の全CO成分を吸収した塩基性化合物水溶液は該水溶液中の全CO量を測定する工程に送られる。この該水溶液中のCO量の測定は、当業者に公知の任意の手段、例えば、pHメータ(9)等で行なうことが出来る。この工程の目的は、放射線測定(検知)装置におけるCO量の変動を消去することであり、設けることが好ましい。
【0025】
次に、該水溶液は、その中に吸収された14CO量を測定する手段(10)に送られる。該手段において、塩基性物質水溶液中に吸収された14CO量は、当業者に公知の任意の方法・手段、好ましくは、シンチレーションを利用することによって測定することが出来る。即ち、水溶液中に吸収された14CO量を測定する手段として、シンチレータで放射線を検出する放射線測定(検知)装置を用いることが出来る。尚、該放射線測定(検知)装置等から排出された塩基性物質水溶液は、適当なポンプ(11)を経て、最終的に廃棄槽(12)に回収される。
【0026】
この際、シンチレーションを発する物質はシンチレータと称され、当業者に周知である。放射線の作用で発光したシンチレーションは、光電子増倍管で電気信号に変えられ、増幅されて、電流パルスとして計測される。発光したシンチレーションは、光電子増倍管で電気信号に変えられ、増幅されて、電流パルスとして計測される。弱エネルギーベータ線用シンチレータとしては、固体(ガラス)シンチレータ、プラスチックシンチレータ、液体シンチレータや液体シンチレータに界面活性剤を加えた乳化シンチレータが用いられる。
【0027】
14Cの崩壊に伴い放出される弱エネルギーベータ線は物質透過力が弱く、その作用で発するシンチレーションも微弱である。従って、弱エネルギーベータ線放射性物質とシンチレータの間にあるものは限りなく薄くし、発したシンチレーションも効率良く光電子増倍管に入る必要がある。
【0028】
従って、例えば、特許文献1の図1又は図5に示されるように、塩基性化合水溶液をフローセル型シンチレータ含有液槽内を一定の距離に亘って、渦巻状又はらせん状に通過させ、その際にシンチレーションによる放射線の測定を行うことが好ましい。
【0029】
ここで、14COが吸収された塩基性物質水溶液を流す管には、1)弱エネルギーのベータ線(例えば、炭素14、硫黄35)が透過できる肉薄であること、2)肉薄部分は、そこを透過したベータ線がシンチレータに効率よく作用するようにシンチレータに近接していること、3)管の材質は、流出流に含まれる物質及びシンチレータによって、物理、化学的に侵されないこと、等の条件が求められる。また、シンチレーションの検知感度を高めるためには、管は可能な限り細く、長さもできるだけ長くすることが必要になる。細管の長さを確保するためには、細管を渦巻き状やコイル状にすることが行われる。その上、高速液体クロマトグラフに連結する細管の直径は0.5mm〜1mm(外径)程度とごく細いものとなっている。
【0030】
更に、上記の放射線測定(検知)装置として、特許文献1の図4に示されるような、外パイプの内側に外パイプの内径よりも小さい外径をもつ肉薄の内パイプを挿入し二重管とし、外パイプの内面と内パイプの外面で形成される間隙に充たされたシンチレータ外液によって内パイプ中の電子線(β)が肉薄の内パイプを透過し、外液に含まれる蛍光体に衝突することによって蛍光が光電子増幅管に達するような構造を有するものを使用することが出来る。
【0031】
本発明方法又はシステムを用いることによって、呼気中の14CO量の経時変化プロファイルを得ることが出来る。このプロフィールに基づき、例えば、非特許文献1に記載されているような常法により、AUC、CMAX、TMAX及びT1/2等の各種薬物動態パラメータを求めることが出来る。
【0032】
以下、参考例及び実施例を参照して本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれらによって何等制限されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1に示したシステムを用いて、異なる炭素位置が標識された3種類の14C−グルコース(静注投与量:18,426 dpm/kg)、カルボキシ部分及びメチル部分がそれぞれ標識された2種類の14C−メチオニン(静注投与量:18,426 dpm/kg)、及び14C−アスピリン(静注投与量:18,426 dpm/kg:経口投与量:18,426 dpm/kg)をラットに投与し、その呼気に排泄される14CO量を連続的に測定した。その結果から、非特許文献1に記載されている方法に基づき、それらの呼気排泄波形から以下の薬物動態パラメータを求めた(表1)。尚、各薬物動態パラメータは以下の通りである。
TMAX:波形の0から上昇し、最初の最大値(cpm)に達する時間(分)。
CMAX:波形の最大値近辺をプラトーとして保っている平均濃度(14C放射能)。
T1/2:プラトーを過ぎて下降線になった点の濃度を分母として下降線の上で1/2になった時の時間(分)。
AUC0-∞:波形とX軸との間で囲まれた面積(縦軸:濃度(cpm)x 横軸:時間(分))
MRT(∞):平均滞留時間(分)
VRT(∞):統計的分散率
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、マイクロドーズ臨床試験等において、生体内に投与された14C標識化合物の各種薬物動態パラメータを得るために有利に使用することができ、新薬の開発創出における臨床試験の効率・促進化に貢献するものである。更に、癌等の各種疾患の診断等にも広く利用することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が発生する呼気中の14COを連続的に測定する方法であって、
(1)被験体が発生する呼気中に含まれている全COを塩基性化合物水溶液に吸収させる工程;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する工程、を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
塩基性物質水溶液中に吸収された14CO量をシンチレーションによって測定することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
シンチレーションによる放射線の測定を塩基性化合水溶液がフローセル型シンチレータ含有液槽内を通過する際に行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
塩基性化合物が2−アミノエタノールである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
呼気中の14COが生体内に投与された14C標識化合物の代謝産物である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
更に、塩基性化合物水溶液に吸収させた該水溶液中の全CO量を測定する工程を含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法によって得られた呼気中の14CO量の経時変化プロファイルに基づき、薬物動態パラメータを得る方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の方法を実施する為のシステムであって、
(1)被験体が発生する呼気中に含まれているCOを塩基性化合物水溶液に吸収させるための捕捉手段;及び
(2)該水溶液中に吸収された14CO量を測定する手段、を含むことを特徴とする前記システム。
【請求項9】
塩基性化合水溶液中に吸収された14CO量を測定する手段がシンチレータで放射線を検出する放射線測定装置である、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
放射線測定装置において、塩基性化合物水溶液がフローセル型蛍光液槽内を通過する構造を有することを特徴とする、請求項9記載のシステム。
【請求項11】
放射線測定装置において、外パイプの内側に外パイプの内径よりも小さい外径をもつ肉薄の内パイプを挿入し二重管とし、外パイプの内面と内パイプの外面で形成される間隙に充たされたシンチレータ外液によって内パイプ中の電子線(β)が肉薄の内パイプを透過し、外液に含まれる蛍光体に衝突することによって蛍光が光電子増幅管に達する、請求項10記載のシステム。
【請求項12】
被験体が発生する呼気中に含まれているCOを塩基性化合物水溶液に吸収させるための捕捉手段が、2−アミノエタノール溶液内に被験体が発生するCO以外の呼気及び空気の混合体を気泡化させて徐外し、全CO成分を吸収した2−アミノエタノール水溶液が管底から流出するような構造を有している、請求項8ないし11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
更に、塩基性化合物水溶液に吸収させた該水溶液中の全CO量を測定する手段を含む、請求項8ないし12のいずれか一項に記載のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−276404(P2010−276404A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127607(P2009−127607)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年12月1日 社団法人 日本アイソトープ協会発行の「Isotope News2008年12月号」の第2〜9ページに発表
【出願人】(390000675)株式会社生体科学研究所 (4)
【Fターム(参考)】