説明

呼気成分測定装置及び呼気成分測定方法

【課題】低コスト且つ迅速に被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在するか否かを判定する。
【解決手段】被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に、被検者の呼気中のアンモニアの濃度と、被検者の呼気中の酸素及び二酸化炭素のいずれか一方の成分の濃度とを検出し、尿素を含む溶液又は固形物を飲んだ後に胃酸を中和して二酸化炭素を発生させる発生剤を飲んだ被検者の呼気中のアンモニアの濃度及び上記成分の濃度を検出し、被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度及び上記成分の濃度と、被検者が上記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度及び上記成分の濃度とに基づいて、被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出し、該算出されたアンモニアの濃度と予め定められた閾値とを比較して、被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気成分測定装置及び呼気成分測定方法に係り、特に人間の呼気に含まれるアンモニアの濃度を検出する呼気成分測定装置及び呼気成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌と略す)が胃に存在しているか否かを判定する方法として、尿素呼気法という方法が知られている。この方法では、被検者に、胃内を空にした状態で尿素を含む錠剤もしくは溶液を服用させる。胃にピロリ菌が存在している場合にはピロリ菌が有するウレアーゼという酵素によって、尿素が二酸化炭素とアンモニアとに分解され、分解された二酸化炭素及びアンモニアは胃壁から吸収されて血中に入り、その一部が肺に到達して呼気として排出される。そして、この呼気中に含まれるアンモニアを検出することにより、ピロリ菌が被検者の胃に存在しているか否かを判定するようにしている。
【0003】
なお、下記特許文献1には、安定同位体13Cで標識された尿素を被検者に投与し、呼気に出てきた13CO2を赤外分光分析法で測定する方法が開示されている
【0004】
また、下記特許文献2及び特許文献3には、標識のない通常の尿素を被検者に投与し、被検者の呼気に出てきたアンモニアの濃度を測定する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−105714号公報
【特許文献2】特開平08−145991号公報
【特許文献3】特開2007−205993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術では、安定同位体13Cで標識された尿素という特殊な試薬を使用するため高価である。加えて、13CO2を検出するためには赤外分光分析が必要となるが、この装置もかなり高価である。
【0007】
また、上記特許文献2及び特許文献3等に開示されている技術では、標識のない通常の尿素を使用して、被検者の呼気に出てきたアンモニアの濃度を測定しているため、特許文献1に記載の技術を用いるよりも低コストにできる可能性がある。
【0008】
しかしながら、こうした技術はいずれも胃中で発生した二酸化炭素やアンモニアが胃壁から吸収され、血液を通して肺に到達して呼気として排出されたガスから二酸化炭素やアンモニアを検出するものであるため、尿素を投与してから判定可能となるまで、長い時間、例えば20分以上の時間を要するという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、低コスト且つ迅速に被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在するか否かを判定することができる呼気成分測定装置及び呼気成分測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の呼気成分測定装置は、被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に、前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度と、前記被検者の呼気中の酸素及び二酸化炭素のいずれか一方の成分の濃度とを検出すると共に、前記尿素を含む溶液又は固形物を飲んだ後に胃酸を中和して二酸化炭素を発生させる発生剤を飲んだ前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度及び前記成分の濃度を検出する検出手段と、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度と、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度とに基づいて、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する算出手段と、前記算出手段で算出されたアンモニアの濃度と予め定められた閾値とを比較して、前記被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定する判定手段と、を有するものである。
【0011】
このように、被検者が尿素を飲む前の呼気中のアンモニアの濃度と酸素又は二酸化炭素の濃度とを検出すると共に、尿素を飲んだ後に発生剤を飲んだ被検者の呼気中のアンモニア濃度と酸素又は二酸化炭素の濃度とを検出し、検出された各濃度に基づいて被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出して、被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定するようにしたため、従来のように、アンモニアが胃壁に吸収され血液を介して肺に到達して呼気としてアンモニアが排出されるまで待つ必要がなく、また、安定同位体で標識された特別な試薬を用いる必要もないため、低コスト且つ迅速に被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在するか否かを判定することができる。
【0012】
なお、前記検出手段は、前記成分の濃度として、前記被検者の呼気中の酸素の濃度を検出し、前記算出手段は、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度[Am]stomachを、下記(1)式により算出するようにしてもよい。
【0013】
【数1】

【0014】
ただし、[O2]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出された酸素の濃度、[O2]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出された酸素の濃度、[Am]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度、[Am]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度である。
【0015】
また、前記検出手段は、前記成分の濃度として、前記被検者の呼気中の二酸化炭素の濃度を検出し、前記算出手段は、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度[Am]stomachを、下記(2)式により算出するようにしてもよい。
【0016】
【数2】

【0017】
ただし、[CO2]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出された二酸化炭素の濃度、[CO2]postは前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出された二酸化炭素の濃度、[Am]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度、[Am]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度である。
【0018】
また、本発明の呼気成分測定方法は、被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に、前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度と、前記被検者の呼気中の酸素及び二酸化炭素のいずれか一方の成分の濃度とを検出する第1の検出工程と、前記尿素を含む溶液又は固形物を飲んだ後に、胃酸を中和して二酸化炭素を発生させる発生剤を飲んだ前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度及び前記成分の濃度を検出する第2の検出工程と、前記第1の検出工程で検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度と、前記第2の検出工程で検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度とに基づいて、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する算出工程と、前記算出工程で算出されたアンモニアの濃度と予め定められた閾値とを比較して、前記被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定する判定工程と、を有するものである。
【0019】
このような方法によっても、呼気成分測定方法と同様に作用するため、低コスト且つ迅速に被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在するか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、低コスト且つ迅速に被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在するか否かを判定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係る呼気成分測定装置の構成を模式的に示した図である。
【図2】検出部の詳細な構成を示す図である。
【図3】呼気成分測定装置の算出判定部で実行される処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。
【図4】呼気中の胃由来ガスの割合と、酸素センサにより検出される酸素の濃度(酸素センサの出力値)との関係を示すグラフである。
【図5】呼気中の胃由来ガスの割合と、二酸化炭素センサにより検出される二酸化炭素の濃度(二酸化炭素センサの出力値)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施の形態]
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本実施の形態では、被検者の呼気からウレアーゼ活性を有する微生物であるヘリコバクターピロリ菌(以下、ピロリ菌と略する)が胃に存在するか否かを判定するための呼気成分測定装置に、本発明を適用した場合を例に挙げて説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る呼気成分測定装置10の構成を模式的に示した図である。図1に示すように、本実施の形態に係る呼気成分測定装置10は、検出部20及び算出判定部40を備えている。図2は、検出部20の詳細な構成を示す図である。
【0025】
図2に示すように、検出部20は、被検者が呼気を吹き込むためのマウスピース26aが形成された細長円筒状の呼気導入管26を備えており、呼気導入管26の中間部の内部には、被検者の呼気中のアンモニアの濃度を検出して出力するアンモニアセンサ22、及び被検者の呼気中の酸素の濃度を検出して出力する酸素センサ24の各々が、被検者の呼気に等しく当たるように対向して設けられている。呼気導入管26の内部であって、アンモニアセンサ22及び酸素センサ24よりマウスピース26a側には、被検者の呼気を吸い込むために駆動される吸い込みファン28がロッド30に支持された状態で設けられている。
【0026】
アンモニアセンサ22は、呼気導入管26内を流れる気体中に含まれるアンモニアガスを検出するセンサで、例えば酸化物半導体式の酸化錫を主体としたガスセンサを用いることができる。アンモニアセンサ22は、呼気導入管26内を流れる気体中に含まれるアンモニアガスの濃度が高くなるに従って、レベルが高い検出信号を出力し、呼気導入管26内を流れる気体中に含まれるアンモニアガスの濃度が低くなるに従って、レベルが低い検出信号を出力する。
【0027】
酸素センサ24は、呼気導入管26内を流れる気体中の酸素を検出するセンサであり、例えば、限界電流式の酸化ジルコニアを主体としたセンサを用いることができる。酸素センサ24は、呼気導入管26内を流れる気体中に含まれる酸素の濃度が高くなるに従って、レベルが高い検出信号を出力し、呼気導入管26内を流れる気体中に含まれる酸素の濃度が低くなるに従って、レベルが低い検出信号を出力する。
【0028】
本実施の形態によれば、ファン28を駆動することにより、被検者から吐き出された呼気が呼気導入管26のマウスピース26aから呼気導入管26内に取り込まれ、アンモニアセンサ22及び酸素センサ24へ一定流速で到達する。そして、呼気は、アンモニアセンサ22及び酸素センサ24に接触した後、呼気導入管26の外に排出される。
【0029】
検出部20のアンモニアセンサ22及び酸素センサ24は、算出判定部40に接続されている。算出判定部40は、アンモニア濃度算出部42及び微生物判定部44を備えている。アンモニア濃度算出部42は、アンモニアセンサ22からの検出信号が示すアンモニアの濃度、酸素センサ24からの検出信号が示す酸素の濃度に基づいて、被検者に尿素及び炭酸水素ナトリウムを飲ませた後の胃の中の気体(胃の中のガスともいう)に含まれるアンモニアの濃度を算出する。微生物判定部44は、アンモニア濃度算出部42により算出されたアンモニアの濃度に基づいて、被検者の胃にピロリ菌が存在しているか否かを判定する。
【0030】
算出判定部40には、表示部50が接続されている。微生物判定部44の判定結果は、表示部50に出力され、表示部50に表示されるよう構成されている。
【0031】
なお、算出判定部40は、アンモニア濃度算出部42及び微生物判定部44の各々の機構を有するハードウェアにより構築されていてもよいが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備えたコンピュータにより構成されていてもよい。すなわち、例えば、ROMを、算出判定部40で実行されるアンモニアの濃度の算出処理及び判定処理を実行するためのプログラムを記憶した記憶媒体とし、CPUがROMに記憶されたプログラムを、RAMをワークエリアとして用いて実行することにより算出判定部40及びアンモニア濃度算出部42を実現するようにしてもよい。以下、本実施の形態では、算出判定部40が、コンピュータを用いたソフトウェアにより実現されているものとして説明する。
【0032】
次に、本実施の形態の呼気成分測定装置10を用いた検査の流れについて説明する。なお、検査開始時において、被検者は空腹であることが望ましい。
【0033】
まず、検査が開始されると、被検者に、図2に示す検出部20のマウスピース26aを介して、予め定められた適正な時間、呼気を吹き込ませる。
【0034】
そして、被検者が呼気の吹き込みを開始してから、上記予め定められた適正な時間が経過したときに、図3に示す処理ルーチンが開始される。
【0035】
ステップ100では、被検者の呼気中のアンモニアの濃度を示す検出信号をアンモニアセンサ22から取得すると共に、酸素の濃度を示す検出信号を酸素センサ24から取得する。
【0036】
マウスピース26aから呼気が正しく吹き込まれれば、酸素センサ24は、人間の肺胞中の生理的な酸素の濃度である約15%前後の値を示す検出信号を出力する。酸素の濃度が15%を含む予め定められた範囲内にあれば、このときのアンモニアセンサ22からの検出信号が示す濃度の値を、尿素及び炭酸水素ナトリウムの経口投与前の呼気中のアンモニアの濃度[Am]preとして予め定められた記憶手段(例えば、上記RAMであってもよい)に記憶する。また、このときの酸素センサ24から出力された検出信号が示す濃度の値を、尿素及び炭酸水素ナトリウムの経口投与前の酸素の濃度[O2]preとして該記憶手段に記憶する。
【0037】
なお、ここで、尿素及び炭酸水素ナトリウムを飲む前にマウスピース26aを介して被検者により吹き込まれる呼気は、通常の呼気、すなわち肺胞からのガス(以下、肺胞由来ガスともいう)であって、胃からのガス(以下、胃由来ガスともいう)は含まれないものとする。従って、ステップ100で取得されるアンモニアの濃度及び酸素の濃度は、肺胞由来ガス中のアンモニア及び酸素の各々の濃度となる。
【0038】
次に、被検者に予め定められた濃度の尿素を含む溶液もしくは固形物(錠剤等)を飲ませる(経口投与する)。被検者の胃にピロリ菌が存在していれば、ピロリ菌のウレアーゼという酵素によって、下記式(1)に示す反応が生じて、アンモニアが発生する。
【0039】
【数3】

【0040】
発生したアンモニアは、胃液が酸性の状態にあっては、多くが胃液中に溶解した状態で存在する。胃液の酸性のレベルが低くなれば、その溶解度は下がる。そこで、尿素を被検者に投与して5分程度経過した後に、炭酸水素ナトリウムを含む溶液もしくは固形物(錠剤等)を被検者に飲ませる(経口投与する)。これにより、胃液が中和され胃内で二酸化炭素が発生する。そして、胃液中のアンモニアの溶解度が低下してガス状となり、アンモニアが胃内のガス中に放出される。また、二酸化炭素が十分に発生することにより胃内のガスが吐き出される状態になる。
【0041】
この状態で、検出部20のマウスピース26aを介して、予め定められた適正な時間、被検者に呼気を吹き込ませる。このときに被検者から吐き出される呼気は、胃内がガスで充満しているため、肺胞由来ガス及び胃由来ガスが混合されたものとなっている。
【0042】
被検者が呼気の吹き込みを開始してから上記予め定められた適正な時間が経過したときに、図3のステップ102を行い、アンモニアの濃度を示す検出信号をアンモニアセンサ22から取得すると共に、酸素の濃度を示す検出信号を酸素センサ24から取得する。ここで取得したアンモニアセンサ22からの検出信号が示す濃度の値を、尿素及び炭酸水素ナトリウムの経口投与後の呼気中のアンモニアの濃度[Am]postとして予め定められた記憶手段(上記RAMであってもよい)に記憶すると共に、同じく取得した酸素センサ24から出力された検出信号が示す濃度の値を、尿素及び炭酸水素ナトリウム経口投与後の酸素の濃度[O2]postとして該記憶手段に記憶する。
【0043】
なお、発生したアンモニアは時間が経過するにつれ胃壁に吸収されてしまうため、炭酸水素ナトリウムの投与後は、二酸化炭素が十分に発生して胃内のガスがゲップ等により吐き出される状態になってから、アンモニアの多くが胃壁に吸収される前に、アンモニアの濃度及び酸素の濃度を検出して取得する必要がある。
【0044】
ステップ104では、胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度(胃中のアンモニアの濃度)[Am]stomachを算出する。胃中のアンモニアの濃度[Am]stomachは、下記式(2)から算出される。
【0045】
【数4】

【0046】
なお、前述したように、尿素及び炭酸水素ナトリウム投与前に被検者により吐き出される呼気は、肺胞由来ガスであるが、尿素及び炭酸水素ナトリウム投与後に吐き出される呼気は、肺胞由来ガス及び胃由来ガスが混合されたものとなっている。また、肺胞由来ガスの酸素の濃度は、尿素及び炭酸水素ナトリウムの投与前に検出した酸素の濃度と同等と考えられる。一方、胃由来ガスの酸素の濃度は、尿素及び炭酸水素ナトリウムの投与後は胃内の気体がほとんど二酸化炭素で置換されるためのゼロに近いと考えられる。従って、図4に示すように、呼気中の胃由来ガスの割合が高くなるほど、酸素センサ24により検出される酸素の濃度は低くなる。すなわち、呼気中の酸素を検出する酸素センサ24の出力から、胃由来ガスの割合を推定できる。上記式(2)は、胃由来ガスの割合を推定して、胃中のアンモニアの濃度を求める式となっている。
【0047】
なお、上記式(2)は、下記式(2)’を変形したものである。式(2)’において、右辺第一項は、胃由来ガスのアンモニア量を示し、右辺第二項は、肺胞由来ガスのアンモニア量を示し、右辺第一項と右辺第二項を加算したものが[Am]postになる。
【0048】
【数5】

【0049】
ステップ106では、上記算出した、胃中のアンモニアの濃度[Am]stomachに基づいて、ウレアーゼ活性を有する微生物(ここでは、ピロリ菌)の有無を判定する。具体的には、アンモニアの濃度[Am]stomachが予め定められた閾値以上の濃度である場合に、被検者の胃にピロリ菌が存在していると判定し、閾値未満であれば、被検者の胃にピロリ菌は存在しないと判定する。
【0050】
ここで、炭酸水素ナトリウム投与後に検出されたアンモニアの濃度[Am]postを用いて判定しないのは以下の理由による。炭酸水素ナトリウムを飲んだ被検者からは、胃由来ガスと肺胞由来ガスとが混ざった呼気が吐き出される。従って、胃由来ガスの割合が変動するとこれに応じてアンモニアの濃度[Am]postも変動してしまい、[Am]postを用いた判定では精度が低くなる。そこで、本実施の形態では、上記式(2)により算出されるアンモニアの濃度[Am]stomachを用いて判定するようにしている。
【0051】
ステップ108では、上記判定結果を表示部50に出力して表示させる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態では、尿素を投与して発生したアンモニアを、胃液を中和させて二酸化炭素を発生させる発生剤(ここでは炭酸水素ナトリウム)を更に投与することで、アンモニアをガスとして胃から直接取り出してアンモニアの濃度を検出するようにしたため、従来技術のようにアンモニアが胃壁から吸収されて血液で肺へ送られるまで待つ必要がなく、判定時間を5分程度(従来技術における判定時間約20分に比べて、1/3程度)に短縮することができる。また、上記式(2)から明らかなように、検出された酸素の濃度から呼気に含まれる胃由来ガスの割合を推定して算出した胃中のアンモニア濃度を用いて判定するため、定量的で精度の高い判定ができる。また、例えば安定同位体等の特殊な試薬も必要なく、更にまた、アンモニアや酸素を検出するセンサは安価に手に入れることができるため、低コストで判定できる。
【0053】
[第2の実施の形態]
【0054】
なお、第1の実施の形態では、酸素センサ24を用いる場合について説明したが、酸素センサ24の代わりに、二酸化炭素の濃度を検出する二酸化炭素センサを用い、酸素の濃度の代わりに二酸化炭素の濃度を検出して、上記と同様にピロリ菌の有無を判断するようにしてもよい。以下、酸素の濃度の代わりに二酸化炭素の濃度を検出して判断する場合の具体例について説明する。
【0055】
本実施の形態の構成は、酸素センサ24の代わりに二酸化炭素センサを設ける点以外は、第1の実施の形態と同様の構成とする。なお、二酸化炭素センサとしては、例えば、非分散赤外吸収式(NDIR)のセンサが好適な例として挙げられる。
【0056】
肺胞中の二酸化炭素の濃度は、生理的に約3.8%前後でほぼ一定である。また、尿素を投与し、炭酸水素ナトリウムで中和したときの胃由来ガスの二酸化炭素の濃度は、ほぼ100%と考えられる。
【0057】
第1の実施の形態と同様に、尿素及び炭酸水素ナトリウムを飲む前の被検者の呼気から、アンモニアの濃度[Am]pre及び二酸化炭素の濃度[CO2]preを検出し、取得する。そして、尿素を被検者に飲ませ、その後炭酸水素ナトリウムを被検者に飲ませた後に被検者の呼気から、アンモニアの濃度[Am]post及び二酸化炭素の濃度[CO2]postを検出して取得する。なお、図5に示すように、呼気中の胃由来ガスの割合が高くなるほど、検出される二酸化炭素の濃度は高くなる。
【0058】
本実施の形態において、胃中のアンモニアの濃度は、以下の式(3)から算出される。
【0059】
【数6】

【0060】
そして、算出されたアンモニアの濃度[Am]stomachが予め定められた閾値以上の濃度である場合に、被検者の胃にピロリ菌が存在すると判定し、閾値未満であれば、被検者の胃にピロリ菌は存在しないと判定する。判定結果は、表示部50に出力して表示する。本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0061】
なお、上記第1及び第2の実施の形態では、マウスピース26aから被検者が呼気を吹き込むことにより、呼気導入管26に呼気を送り込むようにしているが、これに限定されず、例えば、被検者の呼気をガス採集バッグに採集し、ガス採集バッグから検出部20の呼気導入管26に呼気を送り込んでアンモニアの濃度や酸素の濃度或いは二酸化炭素の濃度を検出するようにしてもよい。
【0062】
また、上記第1及び第2の実施の形態では、胃液を中和させ二酸化炭素を発生させる発生剤として、炭酸水素ナトリウムを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、二酸化炭素を含みアンモニアを含まないもの、より具体的には、炭酸水や、炭酸ナトリウムを含む溶液もしくは固形物であってもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、ピロリ菌を例に挙げて説明したが、これに限定されず、ウレアーゼ活性を有する他の微生物の有無を判定する場合にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0064】
10 呼気成分測定装置
20 検出部
22 アンモニアセンサ
24 酸素センサ
40 算出判定部
42 アンモニアの濃度算出部
44 微生物判定部
50 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に、前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度と、前記被検者の呼気中の酸素及び二酸化炭素のいずれか一方の成分の濃度とを検出すると共に、前記尿素を含む溶液又は固形物を飲んだ後に胃酸を中和して二酸化炭素を発生させる発生剤を飲んだ前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度及び前記成分の濃度を検出する検出手段と、
前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度と、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度とに基づいて、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出されたアンモニアの濃度と予め定められた閾値とを比較して、前記被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定する判定手段と、
を有する呼気成分測定装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記成分の濃度として、前記被検者の呼気中の酸素の濃度を検出し、
前記算出手段は、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度[Am]stomachを、下記(1)式により算出する請求項1記載の呼気成分測定装置。
【数1】

ただし、[O2]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出された酸素の濃度、[O2]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出された酸素の濃度、[Am]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度、[Am]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度である。
【請求項3】
前記検出手段は、前記成分の濃度として、前記被検者の呼気中の二酸化炭素の濃度を検出し、
前記算出手段は、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度[Am]stomachを、下記(2)式により算出する請求項1記載の呼気成分測定装置。
【数2】

ただし、[CO2]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出された二酸化炭素の濃度、[CO2]postは前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出された二酸化炭素の濃度、[Am]preは、前記検出手段により前記被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に検出されたアンモニアの濃度、[Am]postは、前記検出手段により前記被検者が前記発生剤を飲んだ後に検出されたアンモニアの濃度である。
【請求項4】
被検者が尿素を含む溶液又は固形物を飲む前に、前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度と、前記被検者の呼気中の酸素及び二酸化炭素のいずれか一方の成分の濃度とを検出する第1の検出工程と、
前記尿素を含む溶液又は固形物を飲んだ後に、胃酸を中和して二酸化炭素を発生させる発生剤を飲んだ前記被検者の呼気中のアンモニアの濃度及び前記成分の濃度を検出する第2の検出工程と、
前記第1の検出工程で検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度と、前記第2の検出工程で検出されたアンモニアの濃度及び前記成分の濃度とに基づいて、前記被検者の胃の中のガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出されたアンモニアの濃度と予め定められた閾値とを比較して、前記被検者の胃にウレアーゼ活性を有する微生物が存在しているか否かを判定する判定工程と、
を有する呼気成分測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202874(P2012−202874A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68815(P2011−68815)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】