説明

呼気試験を用いたチトクロムP4502D6アイソザイム活性を評価するための方法と組成物

本発明は、概して、13C標識されたCYP2D6基質化合物を静脈内または経口投与された被験哺乳類から吐出された13CO2の相対量を測定することによる呼気試験を介して、個々の被験者のチトクロムP450 2D6アイソザイム(CYP2D6)関連代謝能力を評価する方法に関する。本発明は、呼気中の代謝産物13CO2を用いて、被験者のCYP2D6酵素活性を評価するため、またCYP2D6基質化合物の最適投与量と投与タイミングを決定するインビボアッセイとして有用である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、13C標識されたCYP2D6基質化合物を静脈内または経口投与された哺乳類の被験者(被験哺乳類)から吐出された13CO2の相対量を測定することによる呼気試験を介して、個々の被験哺乳類のチトクロムP450 2D6アイソザイム (CYP2D6) 関連代謝能力を評価する方法に関する。本発明は、呼気中の代謝産物13CO2を用いて、被験者のCYP2D6酵素活性を評価するため、また個々の被験者の表現型、ならびに薬物投与の選択、最適用量およびタイミングを決定するための、非侵襲的なインビボアッセイとして有用である。
【背景技術】
【0002】
治療化合物の多くは、同一疾患の患者の約30-60%に対して有効である(Lazarou、J. et al., J. Amer. Med. Assoc., 279:1200-1205 (1998))。またこれらの患者の一部は重篤な副作用を被っている。かかる副作用は米国の死亡原因の第1位となっており、年間1000億ドルもの経済的影響があると見積もられている(Lazarou、J. et al., J. Amer. Med. Assoc., 279:1200-1205 (1998))。多くの研究により、患者は、少なくとも一部において、薬物治療に内在する不確定性の多くが要因とされている遺伝学的多様性によって、薬物に対する薬理学的反応と毒物学的反応の点で相違することが示されている。一塩基多型(SNPs)−人口の少なくとも1%で見つかるDNA上の1塩基変化−は、ヒト遺伝子において最も頻度の高い多様性である。薬学的に重要なタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチドの一次配列におけるこのような僅かな変化が、当該タンパク質の発現、構造および/または機能において重要な変異として現れるのかもしれない。
【0003】
疾患を診断し治療するための慣用の医療的方法は、臨床データだけに基づくか、または臨床データを診断試験と組み合わせて行われる。こうした伝統的な慣行は、処方薬の治療効果に最適でない治療を選択する結果をもたらすか、または個々の被験者に対する副作用の可能性を最小化する治療を選択する結果になる。治療特異的診断(別名、「セラノスティック」)は先端医療技術分野であり、疾患の診断、正しい治療計画の選択および患者の反応のモニターに有用な試験を提供する。すなわち、セラノスティックは、個々の被験者の薬物反応、言い換えれば個人に合わせて処方された薬物に対する反応を予測し評価するために有用である。セラノスティック試験は、その治療によって利益が得られる可能性が特に高い被験者を選択するために有用である。また、個々の被験者に有効な治療の目安を早期に客観的に提供するのに有用であるため、遅延を最小限にしながら、治療を変更することもできる。セラノスティック試験は、限定されないが、例えば非侵襲的な呼気試験、免疫組織化学的試験、臨床化学、免疫学的検定、細胞に基づいた技術、および核酸試験などといった診断テストに適した形に開発されるかもしれない。
【0004】
当業界において、被験者の表現型または薬物代謝能を決定して、医師に個々に合わせた治療を可能とすることによって、不全代謝者における潜在的な薬物関連毒性を回避し、かつ薬効を上げるために、信頼できるセラノスティック試験が必要とされる。従って、個々に対して最適化された薬物の選択と投与量を決定するために、チトクロムP450酵素(CYPs)などの薬物代謝酵素の代謝活性を評価するために有用な新しい診断方法を開発する必要がある
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少なくとも一の特定部位に組み込まれた同位体で標識されたCYP2D6基質化合物を用いてCYP2D6活性を評価するための、診断に関する、非侵襲的なインビボ表現型試験に関する。本発明は、哺乳類の被験者(被験哺乳類)の呼気中に安定同位体で標識されたCO2(例えば13CO2)が放出されるようなCYP2D6酵素と基質との相互作用を利用したものである。その後に安定同位体標識CO2を定量することにより、上記基質の薬物動態の測定とCYP2D6酵素活性(すなわち、CYP2D6関連代謝能)の評価を間接的に行うことが可能となる。
【0006】
一つの態様において、本発明は、CYP2D6関連代謝能を測定するための製剤を提供する。当該製剤は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を有効成分として含有するものであって、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有している。当該製剤の1実施態様において、上記同位体は、13C、14C、および18Oからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0007】
別の態様において、本発明は、CYP2D6関連代謝能を測定するための方法を提供する。当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、および当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程を有する。当該方法の1実施態様において、上記同位体標識代謝産物は、被験者の体内から呼気中に同位体標識CO2として排出される。
【0008】
本発明の1実施態様において、本発明の方法は、被験哺乳類のCYP2D6関連代謝能を測定する方法である。当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程、および得られた当該被験者における排出パターンを評価する工程を有する。1実施態様において、当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、呼気中の同位体標識CO2の排出パターンを測定する工程、および得られた当該被験者における上記CO2の排出パターンを評価する工程を有する。1実施態様において、当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程、および得られた当該被験者における上記排出パターンまたはそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なCYP2D6関連代謝能を有する健常者における対応する排出パターンまたはパラメータと比較する工程を有する。
【0009】
本発明の1実施態様において、本発明の方法は、被験哺乳類のCYP2D6関連代謝能の異常の有無またはその程度を測定する方法である。当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程、および得られた当該被験者の排出パターンを評価する工程を有する。
【0010】
本発明の1実施態様において、本発明の方法は、CYP2D6関連代謝能を測定する方法である。当該方法は、同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含むCYP2D6基質化合物を含有し、被験哺乳類に投与された後に同位体標識CO2を生成する能力を有する製剤を被験哺乳類に投与する工程、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程を有する。当該方法の1実施態様において、同位体標識代謝産物は、被験者の体内から呼気中に同位体標識CO2として排出される。
【0011】
本発明の1実施態様において、本発明の方法は被験者に対する予防または治療処置を選択する方法である。当該方法は、(a)被験者の表現型を測定する、(b)当該被験者の表現型に基づいて、被験者を各被験クラスに割り当てる、および(c)当該被験クラスに基づいて予防または治療処置を選択する工程を有する。上記の被験クラスは、CYP2D6関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度低いCYP2D6関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含む。当該方法の1実施態様において、被験クラスは、CYP2D6関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度高いCYP2D6関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含む。当該方法の1実施態様において、被験クラスは、CYP2D6関連代謝能の標準レベルの少なくとも±10%程度内のCYP2D6関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含む。当該方法の1実施態様において、予防または治療処置は、薬物投与、薬物の投与量の選択、および薬物の投与タイミングの選択の中から選択される。
【0012】
本発明の1実施態様において、本発明の方法はCYP2D6関連代謝能を評価する方法である。当該方法は、被験哺乳類に13C標識CYP2D6基質化合物を投与する工程、当該被験者から吐出された13CO2を測定する工程、および当該測定した13CO2からCYP2D6関連代謝能を測定する工程を有する。当該方法の1実施態様において、13C標識CYP2D6基質化合物は、13C標識デキストロメトルファン、13C標識トラマドール、および13C標識コデインからなる群から選択される化合物である。当該方法の1実施態様において、13C標識CYP2D6基質化合物は非侵襲的に投与される。当該方法の1実施態様において、13C標識CYP2D6基質化合物は静脈内または経口的に投与される。当該方法の1実施態様において、吐出された13CO2は分光学的に測定される。当該方法の1実施態様において、吐出された13CO2は赤外分光法によって測定される。当該方法の1実施態様において、吐出された13CO2は、質量分析器を用いて測定される。当該方法の1実施態様において、吐出13CO2を少なくとも3回測定して、用量反応曲線を作成し、特定の時点における曲線下面積(AUC)または用量回収率(PDR)またはベースラインに対するデルタ(DOB)値、または他の適切な薬物動態パラメータからCYP2D6関連代謝活性を測定する。当該方法の1実施態様において、吐出された13CO2は、少なくとも2つの異なる用量の13C標識CYP2D6基質化合物を用いて測定されたものである。当該方法の1実施態様において、吐出された13CO2は、少なくとも次の3ポイントで測定されたものである:t013C標識CYP2D6基質化合物を摂取する前、t13C標識CYP2D6基質化合物が被験者の血流に吸収された後、t:第1排出相の期間。当該方法の1実施態様において、CYP2D6関連代謝活性は、下式に従って算出される、tとtの時点におけるδ13COの勾配から測定される:
【0013】
【数1】

【0014】
当該方法の1実施態様において、13C標識CYP2D6基質化合物を投与する前に、少なくとも1つのCYP2D6修飾剤を被験者に投与する。当該方法の1実施態様において、上記CYP2D6修飾剤はCYP2D6阻害剤である。当該方法の1実施態様において、上記CYP2D6修飾剤はCYP2D6誘導剤である。
【0015】
本発明の1実施態様において、本発明の方法は、疾患を予防または治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験哺乳類を選択する方法である。当該方法は、(a)被験者に13C標識チトクロムP450 2D6酵素基質化合物を投与する工程、(b)当該被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物の代謝産物排出パターンを測定する工程、(c)当該被験者について測定された代謝産物排出パターンを標準の排出パターンと比較する工程、(d)当該被験者を、得られた代謝産物の排出パターンに基づいて、不全代謝者、中間代謝者、正常代謝者、および高代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する工程、および(e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験への参加者として選択する工程を含む。
【0016】
他の態様において、本発明は、13C標識CYP2D6基質化合物、および当該基質について、被験者における13C標識CYP2D6基質化合物の代謝を測定する方法を記載した説明書を含むキットを提供する。このキットの1実施形態において、当該キットはさらに少なくとも3つの呼気収集バックを含む。このキットの1実施形態において、当該キットはさらにチトクロムP450 2D6修飾剤を含む。
【0017】
特に本発明は、下記の特徴を含む:
項1.同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含む、チトクロムP450 2D6アイソザイムの基質化合物を有効成分として含有し、被験哺乳類に投与した後に同位体標識CO2を生成する能力を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の測定製剤。
【0018】
項2.上記同位体が、13C;14C;および18Oからなる群から選択される少なくとも1つの同位体である、項1記載の製剤。
【0019】
項3.項1の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の測定方法。
【0020】
項4.上記同位体標識代謝産物が、呼気中に同位体標識CO2として体内から排出されるものである、項3記載の方法。
【0021】
項5.項1または2の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンを評価する工程を有する、被験哺乳類のチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を測定する方法。
【0022】
項6.項1または2の製剤を被験哺乳類に投与し、呼気中の同位体標識CO2の排出パターンを測定し、得られた当該被験者におけるCO2の排出パターンを評価する工程を有する、項5に記載する方法。
【0023】
項7.項1または2の製剤を被験哺乳類に投与し、同位体標識の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンまたはそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を有する健常者における対応する排出パターンまたはパラメータと比較する工程を有する、項5または6に記載する方法。
【0024】
項8.項1または2の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンを評価する工程を有する、被験哺乳類におけるチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の異常の有無またはその程度を測定する方法。
【0025】
項9.下記の工程を有する、被験者に対する予防または治療処置を選択する方法:
(a)被験者の表現型を測定する、
(b)当該被験者の表現型に基づいて、被験者を各被験クラスに割り当てる、および
(c)当該被験クラスに基づいて予防または治療処置を選択する、
ここで被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度低いチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる。
【0026】
項10.上記被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度高いチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる、項9記載の方法。
【0027】
項11.上記被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルの少なくとも約±10%範囲内のチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる、項9または10に記載する方法。
【0028】
項12.上記処置が、薬物投与、薬物の投与量の選択、および薬物投与のタイミングの選択の中から選択される、項9−11のいずれか1つに記載する方法。
【0029】
項13.被験哺乳類に13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与し、当該被験者から吐出された13CO2を測定し、当該測定した13CO2からチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を測定する工程を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を評価する方法。
【0030】
項14.上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が、13C標識デキストロメトルファン;13C標識トラマドール;および13C標識コデインからなる群から選択される化合物である、項13に記載する方法。
【0031】
項15.上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が非侵襲的に投与される、項13または14に記載する方法。
【0032】
項16.上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が静脈内または経口的に投与される、項13または14に記載する方法。
【0033】
項17.吐出された13CO2を分光学的に測定する、項13−16のいずれか1つに記載する方法。
【0034】
項18.吐出された13CO2を赤外分光法によって測定する、項13−16のいずれか1つに記載する方法。
【0035】
項19.吐出された13CO2を質量分析器を用いて測定する、項13−16のいずれか1つに記載する方法。
【0036】
項20.吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、用量反応曲線を作成し、当該曲線下面積からチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、項13−19のいずれか1つに記載する方法。
【0037】
項21.上記吐出された13CO2が、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、項20に記載する方法。
【0038】
項22.吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、ベースラインに対するデルタ(DOB)を算出し、当該DOBからチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、項13−19のいずれか1つに記載する方法。
【0039】
項23.上記吐出された13CO2が、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、項22に記載する方法。
【0040】
項24.上記吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、用量回収率(PDR)を算出し、当該PDRからチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、項13−19のいずれか1つに記載する方法。
【0041】
項25.上記吐出された13CO2が、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、項24に記載する方法。
【0042】
項26.上記吐出された13CO2が少なくとも下記の3ポイントで測定されたものである、項13−19のいずれか1つに記載する方法:
013C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を摂取する前、
13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が被験者の血流に吸収された後、
:第1排出相の期間。
【0043】
項27.チトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性が、下式に従って算出されるtとtの時点におけるδ13COの勾配から測定されるものである、項26に記載する方法:
【0044】
【数2】

【0045】
項28.13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与する前に、少なくとも1つのチトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤を被験者に投与する工程を有する、項13−27のいずれか1つに記載する方法。
【0046】
項29.上記チトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤がチトクロムP450 2D6阻害剤である、項28に記載する方法。
【0047】
項30.上記チトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤がチトクロムP450 2D6誘導剤である、項28に記載する方法。
【0048】
項31.下記の工程を有する、疾患を予防または治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験哺乳類を選択する方法:
(a)当該被験者に13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与する、
(b)当該被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物の代謝産物排出パターンを測定する、
(c)当該被験者について測定された代謝産物排出パターンを標準の排出パターンと比較する、
(d)当該被験者を、得られた代謝産物の排出パターンに基づいて、不全代謝者、中間代謝者、正常代謝者、および高代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する、および
(e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験参加者として選択する。
【0049】
項32.被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物が、呼気中の同位体標識CO2である、項31に記載する方法。
【0050】
項33.13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物、および当該基質について、被験者における13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の代謝の測定方法を記載した説明書を含むキット。
【0051】
項34.さらに少なくとも3つの呼気収集バックを含む項33に記載するキット。
【0052】
項35.さらにチトクロムP450 2D6修飾剤を含む項33または34に記載するキット。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明の態様、様式、実施態様、バリエーションおよび特徴を、本発明が実質的に理解されるように、以下に様々なレベルで詳細に記載する。少なくとも1つの特定の箇所に組み込まれた同位体で標識されたCYP2D6基質化合物を用いてCYP2D6活性(E.C 1.14.14.1, 別称:デブリソキン 4−ヒドロキシラーゼ;CYPIID6)を評価するための、診断に関する、非侵襲的なインビボ表現型試験に関する。本発明は、哺乳類の被験者(被験哺乳類)の呼気中に安定同位体標識CO2(例えば、13CO2)が放出されるような、CYP2D6酵素と基質との相互作用を利用したものである。その後に安定同位体標識CO2を定量することにより、当該基質の薬物動態の測定とCYP2D6酵素活性(すなわち、CYP2D6関連代謝能)の評価を間接的に行うことが可能となる。一つの態様において、本発明は、安定同位体13C標識CYP2D6基質化合物を経口または静脈投与し、市販の器具(例えば、質量分析計または赤外分光計)を用いて呼気中の13CO2/12CO2比を測定することに基づいた、CYP2D6関連代謝能を評価する呼気試験を提供する。
【0054】
CYP2D6はデブリソキンの水酸化を触媒するもので、ヒト等の哺乳類において肝臓CYPの約2−5%を占める。また、CYP2D6はその他の化合物(下記表2参照)を代謝する。例えば、CYP2D6基質である向精神薬(抗鬱剤など)としては、アミトリプチリン(Elavil)、デシプラミン(Normramin)、イミプラミン、ノルトリプチリン(Pamelor)、トリミプラミン(Surmontil)などが挙げられるが、これらに限定されない。CYP2D6基質である抗精神病薬としては、パーフェナジン(Trilafon)、リスペリドン(Risperdal)、ハロペリドール(Haldol)、およびチオリダジン(Mellaril)などが挙げられるが、これらに限定されない。CYP2D6基質であるβブロッカーとしては、例えば、メトプロロール(Lopressor)、プロプラノロール(Inderal)およびチモロールなどが挙げられるが、これらに限定されない。CYP2D6基質である鎮痛薬としては、コデイン、デキストロメトルファン、オキシコドン、およびヒドロコドンなどが挙げられるが、これらに限定されない。CYP2D6基質である不整脈治療薬としては、エンカイニド、フレカイニド、メキシレチンおよびプロパフェノンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
機能的多様性を示すCYPは、哺乳類において、量的に最も重要なフェーズIドラッグトランスフォーメーション酵素である。このCYP遺伝子スーパーファミリーのいくつかのメンバーにおける遺伝的改変は集中的に研究されてきた(Bertilssonら, Br. J. Clin. Pharmacol., 53: 111-122(2002年))。CYP2D6(Bertilssonら, Br. J. Clin. Pharmacol., 53:111-122(2002年))、CYP2C9(Leeら、Pharmacogenetics, 12:251-263(2002年))、CYP2C19(Xieら、Pharmacogenetics, 9:539-549(1999年))およびCYP2A6(Raunioら、Br. J. Clin. Pharmacol., 52:357-363(2001年))はすべて酵素活性を変えるか、あるいは酵素活性を無くすという機能的多様性を示す。CYP2D6遺伝子座は非常に多型で、75ものアレル多型を有する(下記表4参照)。基本的に、CYP2D6多型は、3つの表現型(不全代謝(PM)0機能性アレル、中間代謝(IM)1機能性アレル、正常代謝(EM)2機能性アレル、および高代謝(ultrarapid metabolizer、UM)2より多い機能性アレル)によって特徴づけられる、酸化薬物代謝における遺伝的改変である。しかしながら、具体的には、EMより低い酸化薬物代謝を有する表現型は中間代謝(IM)、すなわちEMとPMの間の表現型として分類される。これらの代謝カテゴリー、その臨床的性質および提案される個別治療法を表1に具体的に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1にまとめたように、酵素活性の劇的な減少または欠損により、PM表現型がもたらされる。当該PM表現型を有する個体は、通常の薬物量で影響を受けた酵素で主に代謝されて生じる、治療レベルを超えた毒性の副作用を導く血漿薬物濃度にさらされる危険性がある。CYP2D6酵素は人口の10%近くが欠損している(Pollockら、Psychopharmacol. Bull., 31(2):327-331(1995年))。一方、CYP2D6関連の治療ミスもまた、患者が、酵素誘導(Fuhr, Clin. Pharmacokinet., 38:493-504(2000年))あるいは単一のアレルにおいてタンデムに構成されたマルチプル遺伝コピーを含む遺伝学的改変(Dahlenら、Clin. Pharmacol. Ther., 63:444-452(1998年))のために高い活性を示す酵素経路によって代謝される通常量の薬物で処置される場合に起こり得る。本発明の方法は、個々の表現型にとって有用な、迅速で非侵襲的な方法を所望する当技術分野における要望を満たし、CYP2D6遺伝薬理学的可変性あるいはCYP2D6関連薬物−薬物相互副作用の存在による薬物副作用(ADRs)を最小にする、個々の被験者における治療レジュメを決める。一つの方法の実施態様において、表現型呼気試験は、適切に13C安定同位体標識した(非放射性)基質を投与すること、および、市販の器具を用いて呼気中の13CO2/12CO2比を測定することに基づいている。
【0058】
本発明の診断試験は迅速かつ非侵襲的であるため、被験体の負担を減らし、安全に、かつ副作用を起こすこともなく、CYP2D6酵素活性の正確なインビボ評価が得られるという利点を有する。したがって、本発明は、疾患にかかりやすい個体を識別するため、または薬剤反応性、副作用、もしくは最適投与量に関して個体を分類するために有用な製剤、診断/治療方法およびキットに関する様々な局面を含む。これらの局面を例示する様々な具体的な態様を以下に示す。
【0059】
I.定義
ここでおいて使用されるように、“臨床応答(clinical response)”という用語は、次のいずれか又は全てを意味する:
応答、応答がないこと(非応答)、及び逆の応答(即ち、副作用)の定量的測度。
【0060】
ここで使用される“CYP2D6修飾剤”という用語は、CYP2D6修飾剤の非存在下におけるCYP2D6の発現レベル又は生物学的活性レベルと比較して、CYP2D6ポリペプチドの発現レベル又は生物学的活性レベルを変化(例えば、増加又は減少)させる任意の化合物である。CYP2D6修飾剤は、小さな分子、ポリペプチド、炭水化物、脂質、ヌクレオチド、又は無機化合物であり得る。CYP2D6修飾剤は、有機化合物又は無機化合物であり得る。
【0061】
ここで使用される、化合物の“有効量”とは所望の治療的及び/又は予防的効果を達成するために十分な量であり、例えば、治療される疾患(例えば、うつ病及び心不整脈)に付随した症状の防止又は軽減を結果として生じる量である。被験者に投与される化合物の量は、疾患のタイプ及び重症度、並びに一般的健康、年齢、性別、体重及び薬剤に対する耐性などの個人の特性に依存する。それは、疾患の程度、重症度及びタイプにも依存する。
【0062】
ここに使用される“病状”という用語は、限定はされない、治療が望まれる1つ以上の身体的及び/又は精神的症状のような、任意の現れた症状又は疾患を含み、これまで及び新たに同定される疾患及び他の障害を含む。
【0063】
ここで使用される“標準”という用語は、1つ以上の生物学的特徴(例えば、薬物代謝プロフィール;薬物代謝速度、薬物応答、遺伝子型、ハプロタイプ、表現型等)によって特徴付けられる1以上の被験者から導かれた閾値又は一連の値である。
【0064】
ここで使用される“被験者”という用語は、好ましくはヒトのような哺乳類である被験者を意味するが、動物、例えば家畜(domestic animal)(例えば、動物及び猫等)、家畜(farm animal)(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ等)及び実験動物(サル、ラット、ネズミ、テンジクネズミ等)でもあり得る。
【0065】
ここで使用される“遺伝子型(遺伝型)”という用語は、個体における一対の相同染色体上の座における1つ以上の多型部位において見られる非フェーズの(unphased)5’から3’のヌクレオチド対の配列を意味する。ここで使用される遺伝子型は、完全な遺伝子型及び/又はサブ(sub-)遺伝子型を含む。
【0066】
ここで使用される“表現型”という用語は、個体に存在する遺伝子の発現を意味する。これは、直接的に観察可能であり得(例えば、目の色、及び毛の色)、又は特定の試験をもってのみ明らかであり得る(例えば、血液型、尿、唾液、薬物代謝能力)。血液型のような幾つかの表現型は、遺伝によって完全に決定されるが、他のものは環境的因子によって容易に変化される。
【0067】
ここで使用される“多型(多様性)”という用語は、人口の>1%の頻度で存在する任意の配列変異である。配列変異は5%又は10%以上のように、1%よりも顕著に高い頻度で存在し得る。またこの用語は、個体における多型サイトにおいて見られる配列変異を示しために使用され得る。多型(多様性)は、ヌクレオチドの置換、挿入、欠失、及びマイクロサテライトを含み、必要であるわけではないが、遺伝子発現又はタンパク質機能における検出可能な違いを結果として生じ得る。
【0068】
ここで使用される、被験者に対する剤又は薬剤の投与は、自己投与及び他者による投与を含む。記載される病状の治療又は予防の種々のモードが“実質的”を意味することが意図され、これは完全及び完全未満の治療又は予防(ここにおいて幾らかの生物学的又は医学的関連性のある結果が達成される)を含む。
【0069】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が以下の記載において示される。ここに記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料が、本発明の実施又は試験において使用され得るが、好ましい方法及び材料はここで記載される。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、当該記載及び特許請求の範囲から明らかである。明細書及び特許請求の範囲において、単数形は、そうでないことを内容が明示しない限り、複数のリファレント(referent)を含む。そうでないと明示されない限り、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。ここで引用される全てのリファレンスは、あたかも各刊行物、特許または特許出願が具体的かつ独立して全ての目的のために援用されるのと同程度に、参照によりそれらの全てが全目的で、ここに援用される。
【0070】
II.一般
哺乳類の肝臓は、ステロイドの代謝(薬剤及び生体異物の解毒、及び前発癌物質の活性化)において重要な役割を担う。肝臓は、種々の化学物質をより可溶性のプロダクトに変換する酵素系(例えば、CYPシステム)含む。CYPは、肝臓の混合機能モノオキシゲナーゼの主要な構成タンパク質に含まれる。肝臓のアイソザイムには多くのクラスがあり、例えば、CYP3As(40〜60%の肝臓P-450アイソザイム);CYP2D6(2−5%の肝臓P-450アイソザイム);CYP2As(<1%の肝臓P−450アイソザイム)、CYP1A2、CYP2Csを含む多くのCYPクラスが存在する。CYPの作用は、薬剤及び毒素の体からの除去を促進する。実際、CYPの作用は、多くの場合、薬剤的除去(pharmaceutical elimination)における律速段階である。CYPは、プロドラッグのそれらの生物学的に活性な代謝産物への変換においても役割を担う。
【0071】
CYPは、量的に最も重要なフェーズI薬剤の生体内変換酵素であり、この遺伝子スーパーファミリーの幾つかのメンバーの遺伝変異が大規模に調べられてきた。薬剤及び環境汚染物質のフェーズI代謝において、CYPは多くの場合基質を1つ以上の水溶性基(例えば、ヒドロキシル等)で修飾し、よってそれをフェーズIIの複合酵素による攻撃を受け易くする。フェーズIの上昇した水溶性及び特にフェーズIIのプロダクトは、即時の排出を可能にする。結果として、CYPの活性を弱める因子は、通常医薬物質の効果を長引かせ、一方でCYPの活性を上昇させる因子は、反対の効果を有する。
【0072】
CYP2D6は、幾つかのβ−レセプター拮抗薬、抗不整脈剤、抗うつ剤、及び抗精神障害剤(anti-psychotics)、並び下記表2に要約されるモルヒネ誘導体を含む40以上の治療薬剤の生体変換に関与する。表2のCYP2D6基質の同位体標識物は、同位体標識された基質を被験者に投与することによって、安定に同位体で標識されたCO2を放出する化合物を生成するため、本発明の方法において有用である。
【0073】
【表2−1】

【0074】
【表2−2】

【0075】
選択試薬はCYP2D6の活性を誘導するか、又は阻害する(例えば、CYP2D6修飾剤)。CYP修飾剤は本発明の方法において有用である。CYP2D6を阻害することが知られている化合物を表3に要約する。当該化合物には、例えばフルオキセチン(Fluoxetine)(Prozac)といったCYP2D6阻害剤を含む向精神薬が含まれる。抗精神病薬ハロペリドール(Haloperidol) (Haldol)及びチオリダジン(Thioridazine) (Mellaril)もまたCYP2D6活性を阻害し得る。セレコキシブ(Celecoxib) (Celebrex)といった鎮痛薬もCYP2D6を阻害し得る。アミオダロン(Amiodarone)及びキニジン(Quinidine)といった抗不整脈薬もまたCYP2D6を阻害し得る。シメチジン(Cimetidine)及びジフェンヒドラミン(Diphenhydramine)といった他のCYP2D6を阻害する薬も含まれる。CYP2D6の阻害剤は、本願発明の方法においてCYP2D6修飾剤として有用である。
【0076】
【表3−1】

【0077】
【表3−2】

【0078】
CYP2D6を誘導する薬剤としては、例えばリトナビル(Ritonavir)、アミオダロン(Amiodarone)、キニジン(Quinidine)、パロセチン(Paroxetine)、シメチジン(Cimetidine)、フルオキセチン(Fluoxetine)、デキサメトゾン(dexamethasone)及びリファムピン(Rifampin)を含む (Eichelbaum et al., Br. J. CHn. Pharmacol., 22:49-53 (1986); Eichelbaum et al., Xenobiotica, 16(5):465-481 (1986))。CYP2D6の誘導剤は、本願発明の方法においてCYP2D6修飾剤として有用である。
【0079】
III. CYP2D6多型及び臨床応答
各CYPの遺伝的多型は、それらの特定の薬剤の生体内変化反応を達成する能力において明確な、個々の被験者の部分母集団をもたらす。これらの表現型による区別は、薬剤選択のための重要な示唆を有する。例えば、被験者(例えばヒト被験者)の大多数に投与した際、安全である薬剤が、薬剤の解毒のために必要なCYP酵素の欠損に苦しむ個々の被験者においては、重篤な副作用の原因となり得る。あるいは、ほとんどの被験者にとって効果的な薬剤が、代謝的に活性な型へと薬剤を変換するのに必要な特定のCYP酵素の欠損のために、特定の被験者の部分母集団においては、無効となり得る。従って、薬剤をスクリーニングし、薬剤の活性化及び/又は解毒にどのCYPが必要なのかを決定することは、薬剤開発及び臨床使用の両方において重要である。
【0080】
また、特定のCYPが欠損した個々の被験者を同定することも重要である。こうした情報は多型を予測し、そして個々の被験者に与えた薬剤の代謝能力を予測する発展的遺伝子アッセイに、以前より有利に使用されてきた。この情報は、様々な薬剤で起こり得る副作用及び治療不全の決定に特に価値がある。所定の表現型検査(Routine phenotyping)は、それを必要とする被験者のあるカテゴリー(例えばPM、IM、EM及びUM被験者)のために有用である。こういった表現型検査はまた、薬剤の臨床試験に登録するための候補者の選別(参加/排除)に有用である。
【0081】
上記するように、CYP2D6の遺伝子座にある75以上のアレルバリアント(allelic variants)が、下の表4に要約するように同定されている。
【0082】
【表4−1】

【0083】
【表4−2】

【0084】
【表4−3】

【0085】
【表4−4】

【0086】
【表4−5】

【0087】
【表4−6】

【0088】
表4の酵素活性を示す欄において、ブフラロール(Bufuralol)は“b”で表され、デブリソキン(Debrisoquine)は“d”で表され、デキストロメトルファン(Dextromethorphan)は“dx”で表され、そしてスパルテイン(Sparteine)は“s”で表されている。
【0089】
表4に詳述するように、個々のアレルはアスタリスク及びアラビア数字に続く遺伝子名(CYP2D6)で表され、例えばCYP2D6*1Aは、慣習により、全ての機能的な野生型(wild-type)アレルを表す。アレルバリアントは、点変異、一塩基対の欠失又は付加、遺伝子再構築(gene arrangements)、又は活性の減少もしくは完全な消失をもたらし得る遺伝子全体の欠失の結果をもたらす。2つの劣勢機能喪失アレル(recessive loss-of-function alleles)を受け継ぐと、PM表現型となり、これは白人(Caucasians)の約5〜10%及びアジア人の約1〜2%にみられる。白人において、*3、*4、*5及び*6アレルが最も一般的な機能喪失アレルであり、これが不全代謝者のおよそ98%を占める(Gaedigk et al., Pharmacogenetics, 9: 669-682 (1999))。これとは対照的に、機能喪失アレル(*3、*4、*5及び*6)が低頻度であり、しかも野生型(wild-type)CYP2D6*1アレルと比べて減少した活性に関連する種族に選択的なアレルを比較的高頻度に有するために、アジア人及びアフリカ系アメリカ人はより低いCYP2D6活性を有している。例えば、CYP2D6*10アレルは、アジア人のおよそ50%の頻度において起こる(Johansson et al., MoI. Pharmacol., 46: 452-459 (1994); Bertilsson, Clin. Pharmacokin., 29: 192-209 (1995))一方で、CYP2D6*17及びCYP2D6*29はアフリカ起原の黒人の対象において比較的高頻度で起こる(Gaedigk et al., CHn. Pharmacol. Ther., 72: 76-89 (2002); Masimirembwa et al., Br. J. CHn. Pharmacol., 42: 713-719 (1996))。
【0090】
変異性のCYP2D6活性の臨床的帰結は、第一に薬剤基質のクリアランスの減少に関係することが最近概説されている(Bertilsson et al., Br. J. CHn. Pharmacol., 53: 11 1-122 (2002))。本質的には、遺伝子型によるPMs又は他の因子(例えば薬剤の相互作用)のために機能的にPMsの個人において、薬剤クリアランスが減少し、そしてその結果として、付随したADRsのリスクと共に血漿薬剤濃度が増加する。
【0091】
安定したアイソトープトレーサープローブ(isotope tracer probes)は、特に小児科集団における、個々の被験者のCYP2D6の代謝状態を分類するための、インビボでの薬剤代謝の非侵襲的な速度論的評価(kinetic assessment)のために理想的なツール(tool)である。薬剤の体内動態及び反応における個人内の(inter-individual)変動の1つの重要な結論はADRsのリスクである。薬理遺伝学的な変動のケースでは、個々の患者又は患者人口の遺伝型及び表現型の特徴は、酵素活性を予測するため、そして薬剤の安全性及び効果を最適化するために有用である。またそれは、薬剤の臨床試験に登録する被験者の選別(参加/排除)において重要な役割を果たし得る。本発明は、個々の被験者のCYP2D6活性評価のための、簡潔で、迅速で、かつ非侵襲的な表現型呼気試験を提供する。
【0092】
IV.本発明の製剤及び方法
A.本発明の同位体標識CYP2D6基質製剤
本発明は、個々の被験哺乳類におけるCYP2D6関連代謝能を容易に測定または評価するための製剤を提供する。該製剤は、被験者におけるCYP2D6関連代謝挙動(behavior)の測定、そして代謝能の容易な評価、そして、該被験者におけるCYP2D6活性に関する臨床応答及び/または病状同定に有用である。特に、本発明の製剤は、被験者におけるCYP2D6酵素基質化合物の代謝様式、特にこのような化合物の代謝産物の排出パターン(排出量、排出速度、ならびに経時的な当該量と速度の変化を含む)を測定することによる、臨床環境(ケアの場所)での個々の被験者におけるCYP2D6関連代謝能の測定及び評価に有用である。
【0093】
本発明の方法において有用な製剤は、有効成分として同位体標識CYP2D6基質化合物を含有する。一つの実施形態において、該CYP2D6基質化合物は、少なくとも一つの炭素または酸素原子が同位体で標識された表2のCYP2D6基質であり、該製剤は被験者に投与した後に同位体標識CO2を生成する能力を有している。本発明のCYP2D6基質化合物は、13C;14C;および18Oで、少なくとも一つの位置で標識され得る。好ましい実施形態において、CYP2D6基質化合物は、被験者に投与した後に製剤が安定13CO2を生成する能力を有するように、13Cで同位体標識される。例えば、基質として、デキストロメトルファン(DXM)、トラマドール、コデイン、メタセチン、アミノピリン、カフェイン及びエリスロマイシン13Cを用いる呼気試験は、すべて、N−またはO−脱メチル化反応、次いで放出されたメチル基の、最終的に経時的に呼気に排出される13CO2(または用いる同位体に依存して14CO2)を生成する生体の一つの炭素プールを介した代謝運命に依存する:
【0094】
【化1】

【0095】
好ましい実施形態において、CYP2D6基質化合物は、13C標識DXM;13C標識トラマドール;または13C標識コデインであるが、これらの基質に限定されない。本発明の製剤は、薬学的に許容可能な担体と共に製造されてもよい。
【0096】
ここで使用するように「薬学的に許容可能な担体」は、薬学的な投与に適合した任意の及び全ての溶剤(solvents)、分散媒(dispersion media)、被覆剤、抗菌性及び抗真菌性化合物、等張化合物及び吸収遅延化合物などを含有することを意図する。好適な担体は、当該分野の標準テキスト、Remington’s Pharmaceutical Sciencesの最新の版に記載されている。補足の有効化合物もまた該組成物中に配合し得る。
【0097】
同位体で、CYP2D6基質化合物を標識するための方法は制限されないが、従来法(Sasaki, “5.1 Application of Stable Isotopes in Clinical Diagnosis”: 化学の領域(Journal of Japanese Chemistry)107, “Application of Stable Isotope in Medicine, Pharmacy, and Biology”, pp. 149-163 (1975), 南江堂: Kajiwara, RADIOISOTOPE, 41, 45-48 (1992))を用いることができる。幾つかの同位体標識CYP2D6基質化合物は市販されており、これらの市販製品は簡便に利用できる。例えば、被験者への投与後に13CO2を生成する能力を有する13C標識DXM、及び13C標識トラマドール基質は、本発明の方法に有用であり、またケンブリッジ・アイソトープ・ラボラトリーズ、インコーポレーティド(Andover, MA, USA)から市販されている。
【0098】
本発明の薬学的組成物は、その意図される投与経路と適合するように製造される。投与経路の例は、非経口、例えば静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入)、経粘膜、及び直腸投与を含有する。本発明の製剤は、本発明の目的に好適な任意の形態にあり得る。好適な形態の例は、注射剤、静脈注射剤、坐薬、点眼剤、点鼻剤、及び他の非経口形態;及び液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤、乳剤、タブレット(非被覆または被覆のいずれでもよい)、カプセル剤、錠剤、散剤、細粒剤、粒剤及び他の経口形態を含有する。経口組成物は一般的に不活性希釈剤または可食性担体を含有する。
【0099】
本発明の製剤は、実質的に、有効成分として同位体標識CYP2D6基質化合物からなるが、本発明の製剤の作用及び効果を損なわない限り、薬学的に許容可能な担体または該薬剤の形態(剤型)(CYP2D6代謝能を測定するための組成物)に従う当該分野において一般的に使用される添加剤をさらに含有する組成物である。このような組成物において、有効成分としての同位体標識CYP2D6基質化合物の割合は制限されないが、組成物の全乾燥重量の約0.1重量%〜約99重量%であり得る。該割合は、上記範囲内において好適に調整され得る。
【0100】
同位体標識CYP2D6基質組成物が錠剤に形成される場合、有用な担体は、制限されないが、例えばラクトース、スクロース、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム及びカリウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、及び他の賦形剤;単純シロップ(simple syrups)、グルコース溶液、澱粉溶液、セラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン及び他の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、ラミナラン粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、ラクトース及び他の崩壊剤;スクロース、ステアリン酸、カカオバター、硬化油、及び他の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム、及び他の吸収促進剤;グリセリン、澱粉、及び他の湿潤剤;澱粉、ラクトース、カオリン、ベントナイト、ケイ酸コロイド、及び他の吸収剤;ならびに精製タルク、ステアラート、ホウ酸粉末、ポリエチレングリコール、及び他の滑沢剤を包含する。さらに、錠剤は、通常のコーティング(糖衣錠、セラチンコーティング錠、またはフィルムコーティング錠のような)、二層コーティング、または多層コーティングを有するものであり得る。
【0101】
CYP2D6関連代謝能を測定するための組成物を錠剤に形成する場合、有用な担体は、例えば、グルコース、ラクトース、澱粉、カカオバター、硬化植物油、カオリン、タルク、及び他の賦形剤;アラビアガム粉末、トラガカント粉末、ゼラチン、及び他の結合剤;及びラミナラン、寒天、及び他の崩壊剤を包含する。カプセルは、本発明による有効成分と、任意の上記担体とを混合し、そしてこの混合物を硬化ゼラチンカプセル、ソフトカプセルなどに充填することによる、所定の手法により調製される。坐薬に使用するための有用な担体は、例えばポリエチレングリコール、カカオバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル、ゼラチン、及び半合成グリセリドを包含する。
【0102】
経口液剤は、本発明による有効成分と、通常使用される任意の担体とを混合することによる、所定の手法により調製される。経口液剤の具体例としては、シロップ製剤を包含する。該シロップ製剤は液状である必要はなく、粉末または粒状の形態を有するドライシロップ製剤であってもよい。
【0103】
該製剤が注射剤の形態に調製される場合、注射液剤、乳剤または懸濁液は滅菌され、血液と等張であることが好ましい。該注射剤を調製するために有用な希釈剤は、例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを包含する。該注射剤は、等張溶液を作成するのに十分量の塩化ナトリウム、グルコースまたはグリセリンを含有し得る。また、通常の可溶化剤、緩衝剤、無痛化剤などを該注射剤に添加することもできる。
【0104】
さらに、上記任意の剤型を有する本発明の製剤は、着色剤、保存剤、風味剤、香り改善剤、呈味改善剤、甘味剤、又は安定剤等の薬学的に許容される添加剤を含有することができる。上記担体及び添加剤は、単独で又は組み合わせて使用され得る。本発明の製剤の単位用量あたりの同位体標識CYP2D6基質化合物(有効成分)の量は、被験試料及び使用された有効成分の種類によって異なり、一般的に定義することができない。好ましい量としては、例えば、単位用量あたり1〜300mg/人であるが、上記の条件が充足される限り特に限定されない。
【0105】
B.本発明の方法
被験者におけるCYP2D6酵素活性に関連する病状又は臨床応答は、同位体標識CYP2D6基質化合物を被験者に投与し、呼気中の同位体標識COの排出パターン(排出量、排出率、ならびに経時的な量及び比率の変化を含む)を測定することによる本発明の方法を使用して、簡便に評価され得る。このように、本発明は、これらの被験者におけるCYP2D6代謝能に基づいて、個々の被験者に対してより有効なCYP2D6基質化合物の用法、用量(処方、投薬量、投薬の回数等)を設定するために、同位体標識CYP2D6基質化合物のクリアランスを測定する方法を提供する。
【0106】
本発明の方法のある実施態様においては、同位体標識CYP2D6基質化合物を投与する前に、少なくとも1種のCYP2D6修飾剤を被験者に投与する。そのような方法は、被験者におけるCYP2D6代謝能を修飾(亢進又は低下)させるために有用である。例えば、CYP2D6酵素機能を阻害する剤の投与は、CYP2D6基質の代謝に対してPM又はIM表現型を表すことから、被験者におけるCYP2D6代謝能を低下させるために有用である。あるいは、CYP2D6酵素の誘導剤の投与は、CYP2D6基質の代謝に対してEM又はUM表現型を表すことから、被験者におけるCYP2D6代謝能を亢進させるために有用である。
【0107】
1つの実施態様において、本発明は、被験哺乳類に本発明の同位体標識CYP2D6基質製剤を投与し、体内から排出された同位体標識代謝産物の排出パターンを測定することによって、CYP2D6代謝能を測定する方法を提供する。1つの実施態様に置いて、同位体標識代謝産物は、呼気中の安定な同位体標識COとして体内から排出される。
【0108】
被験試料中の同位体標識代謝産物は、液体シンチレーションカウンティング、質量分析、赤外分光分析、発光分光分析(emission spectrochemical analysis)、又は核磁気共鳴スペクトル分析等の公知の分析技術によって測定及び分析され、使用された同位体が放射性であるか非放射性であるかによって選択される。13COは、当該技術分野で公知の任意の方法によって測定することができ、吐出された13CO量を検出し得る方法であればいずれでもよい。例えば13COは、赤外分光分析により分光学的に測定され得る。13CO測定機器の典型例としては、Meratek(デンバー,コロラド州,アメリカ合衆国)より商業的に入手可能な、UBiT.−IR300赤外分光計が挙げられる。13Cで標識されたCYP2D6基質化合物を摂取した被験者は、呼気収集バック中に息を吐き出し、その後、その袋はUBiT−IR300に取り付けられる。UBiT−IR300は、呼気中の12COに対する13COの割合を測定する。測定結果を、標準又は13Cで標識されたCYP2D6基質摂取前の呼気の結果と比較することによって、吐出された13COの量が実質的に算出され得る。あるいは、吐出された13COを、質量分析器を用いて測定することができる。
【0109】
本発明の製剤を、経口的又は非経口的経路で被験者に投与し、被験者におけるCYP2D6関連代謝能(存在、非存在、又はCYP2D6関連の病状、例えば代謝異常(亢進/低下))を、得られた同位体標識代謝産物の排出パターン(経時的な排出量及び排出速度の挙動)から決定するために、体内から排出された同位体標識代謝産物を測定する。体内から排出される代謝産物は、製剤中に使用される有効成分の種類によって変化する。例えば、製剤が有効成分として同位体標識DXMを含有する場合、最終代謝産物は、デキストロルファン(dextrorphan)及び同位体標識COである(下記実施例1を参照)。好ましくは、本発明の製剤は、代謝の結果として呼気中に同位体標識COの排出を可能にする、同位体標識CYP2D6基質化合物を、有効成分として含有する。そのような製剤の使用により、被験者におけるCYP2D6関連代謝能(存在、非存在、又はCYP2D6関連代謝異常(亢進/低下))を、本発明の製剤を経口的又は非経口的経路で被験者に投与し、呼気中に排出された同位体標識COを測定することによって得られる、同位体標識COの排出パターン(経時的な排出量及び排出速度の変動)より決定することができる。
【0110】
1実施形態において、本発明は、本発明の同位体標識CYP2D6基質製剤を被験者に投与し、体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定し、そして得られた当該被験者における排出パターンを評価することによって、被験哺乳類におけるCYP2D6関連代謝能を測定するための方法を提供する。該方法の1実施形態において、同位体標識CYP2D6基質製剤を被験哺乳類へ投与し、呼気中の同位体標識COの排出パターンを測定し、そして評価する。該方法の1実施形態において、同位体標識COの排出パターンまたはそこから得られる薬物動態パラメータを、正常なCYP2D6代謝能を有する健常者における対応の排出パターンまたはパラメータと比較する。即ち、被験者におけるCYP2D6関連代謝能は、例えば、上記の測定によって得られる同位体標識代謝物の排出パターン(経時の排出量または排出速度の挙動)と、同一の方法で測定される標準における該同位体標識代謝物の排出パターンとを比較することによって、評価される。さらに、同位体標識代謝物の排出パターンの代わりに、またはこれに加えて、曲線下面積(AUC)、排出速度(特に、初期排出速度)、最大排出濃度(Cmax)、時間関数としての用量回収率、または時間関数としてのδ13CO2の勾配、被験者における排出パターン(排出量の遷移曲線)から得られる特定の時点でのベースラインに対するデルタ(DOB)または類似のパラメータ(好ましくは、薬物動態パラメータ)が、標準における対応のパラメータと比較される。1実施形態において、標準は、正常な代謝能を有する1またはそれ以上の健常者において観察される排出パターンである。
【0111】
1実施形態において、CYP2D6関連代謝能は、曲線下面積(AUC)によって測定され、これは、13C標識CYP2D6基質が摂取された後の時間に対して、y軸において、吐出された13CO2の量をプロットする。曲線下面積は、回収された累積的δ13CO2を示す。
【0112】
13CO2はまた、下記の式に従ってδ13CO2(別名、DOB)として定量化される:δ13CO2は、(サンプル中のδ13CO2 マイナス 13C標識CYP2D6基質の摂取前のベースラインサンプル中のδ13CO2)に等しく、ここで、δ値は、[(Rサンプル/R標準)−1]×1000によって算出される。ここで「R」は、サンプルまたは標準中の軽同位体に対する重同位体の比(13C/12C)である。吐出された呼気サンプル中の13CO2(または14CO2)および12CO2は、UBiT-IR300 (Meretek Diagnostics, Lafayette, CO; 13CO2 urea breath analyzer instruction manual. Lafayette, CO: Meretek Diagnostics; 2002; A1-A2)を使用してIR分光光度計で測定される。Meretek Diagnostics, Inc. Meretek UBiT-IR300: 13CO2 urea breath analyzer instruction manual. Lafayette, CO: Meretek Diagnostics; 2002; A1-A2を参照のこと。
【0113】
呼気サンプル中に存在する13CO2の量は、13C標識CYP2D6基質化合物摂取の前および後に回収された呼気サンプルの13CO2/12CO2比の変化を示す、ベースラインに対するデルタ(DOB)として表される。
【0114】
【数3】

【0115】
吸収され、かつ13CO2として呼気中に放出された13C標識CYP2D6基質化合物の量は、Amarri. Amarri et al., Clin Nutr. 14: 149-54 (1995)に記載される式を使用して、各時点について測定される。これらの結果は、用量回収率(PDR)として表される。
【0116】
PDRは下記の式を使用して算出される:
【0117】
【数4】

【0118】
なお、式中、13δ=[R/RPDB)−1]×10
=サンプル中の13C:12
PDB=PDB中の13C:12C(国際標準PeeDeeBelemnite)=0.0112372)
Pは、原子%過剰率である
nは、標識した炭素部位の数である
δ、δt+1、δは、それぞれ、時間t、t+1および投与前での富化(enrichments)である
Cは、CO2産生速度(C = 300 [mmol/h]*BSAである
BSA = W0.5378*h0.3963*0.024265 (体表面積)
w:体重(kg)
h:身長(cm)
maxは、13C標識CYP2D6基質化合物による呼気曲線からのDOBの最高値である。
【0119】
上述のように、本発明は、被験哺乳類へ本発明の製剤を投与し、体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定し、そして得られた当該被験者における排出パターンを評価することによって、被験哺乳類におけるCYP2D6関連代謝異常(即ち、病状)の有無または程度を測定するための方法を提供する。該方法の好ましい実施形態において、該同位体標識代謝物は、呼気中に安定な同位体標識CO2として体内から排出される。
【0120】
1実施形態において、本発明は、下記の工程を有する、被験者に対する予防または治療処置を選択する方法を提供する:(a)当該被験者の表現型を測定すること;(b)当該被験者の表現型に基づいて、被験者を各被験クラスに割り当てること、および(c)当該被験クラスに基づいて予防または治療処置を選択すること、ここで被験クラス(被験クラスI)は、CYP2D6関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも約10%低いCYP2D6関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含む。該方法の1実施形態において、被験クラス(被験クラスII)は、CYP2D6関連代謝活性の標準レベルよりも少なくとも約10%高いCYP2D6関連代謝活性のレベルを示す2以上の人を含む。該方法の1実施形態において、被験クラス(被験クラスIII)は、CYP2D6関連代謝活性の参照標準レベルよりも少なくとも約±10%範囲内のCYP2D6関連代謝活性のレベルを示す2以上の人を含む。それぞれ、PMまたはIM表現型を有する被験者は、被験クラスIへ割り当てられ、そしてEMまたはUM表現型を有する被験者は、被験クラスIIIまたはIIへ割り当てられる。
【0121】
選択される治療処置は、薬物を投与すること、薬物投与量を選択すること、および薬物投与のタイミングを選択することである。
【0122】
一態様では、本発明は、被験哺乳類に13C標識CYP2D6基質化合物を投与し、被験者から吐出された13COを測定し、当該測定した13COからCYP2D6関連代謝能を測定する工程を有する、CYP2D6関連代謝能を評価する方法を提供する。当該方法の一態様では、13C標識基質は、13C標識DXM、13C標識トラマドール、13C標識コデインからなる群から選択される。当該方法の一態様では、13C標識基質化合物は、非侵襲的に投与される。当該方法の一態様では、13C標識基質化合物は、静脈内又は経口投与される。
【0123】
当該方法の一態様では、吐出された13COは、分光学的に測定される。当該方法の一態様では、吐出された13COは赤外分光法によって測定される。当該方法の別の態様では、吐出された13COを、質量分析器を用いて測定する。当該方法の一態様では、吐出された13COを少なくとも3回測定して、用量反応曲線を作成し、当該曲線下面積からCYP2D6関連代謝活性を測定する。当該発明の方法の一態様では、吐出された13COが、少なくとも2つの異なる用量の13C標識CYP2D6基質化合物を用いて測定されたものである。当該方法の一態様では、吐出された13COが、少なくとも次の期間に測定される。t013C標識CYP2D6基質化合物を摂取する前、t13C標識CYP2D6基質化合物が被験者の血流に吸収された後、及びt:第1排出相(フェーズ1)の期間。
【0124】
当該方法の一態様では、CYP2D6関連代謝能が、下式に従って算出されるtとtの時点におけるδ13COの勾配から測定されるものである。
【0125】
勾配=[(δ13CO)−(δ13CO)]/(t−t)
式中、δ13COは、吐出された13CO量である。
【0126】
本発明の別の態様では、13C標識CYP2D6基質化合物を投与する前に、少なくとも1つのCYP2D6修飾剤を被験者に投与する。本発明の方法に使用されるCYP2D6修飾剤は、CYP2D6酵素活性阻害剤又はCYP2D6酵素活性誘導剤とすることができる。表3にまとめたCYP2D6阻害剤は、本発明の方法において有用である。同様に、誘導CYP2D6を含む化合物、例えば、リトナビル(Ritonavir)、アミオダロン(Amiodarone)、キニジン(Qunidine)、パロキセチン(Paroxetine)、シメチジン(Cimetidine)、フルオキセチン(Fluoxetine)、デキサメタゾン(Dexamethasone)及びリファンピン(Rifampine)もまた本発明の方法において有用である。CYP2D6は、被験者のCYP2D6代謝能に所望の抑制又は誘導/活性を与えるために、13C標識CYP2D6基質化合物の投与の前に、適切な用量又は時間間隔で被験者に投与することができる。
【0127】
一態様では、本発明は、疾患を予防または治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験哺乳類を選択する方法を提供する。該方法には、次の工程を含む。(a)当該被験者に13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与する、(b)当該被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物の代謝産物排出パターンを測定する、(c)当該被験者について測定された代謝産物排出パターンを標準の排出パターンと比較する、及び(d)排出パターンが標準排出パターンに似ている被験者を、臨床試験に参加する被験者として選択する。
【0128】
本発明の方法は、非侵襲的であり、被験者に呼気試験を行うことのみを要求する。本試験は、試験の実行のために高度な訓練を受けた技術者を必要としない。該試験は、分析装置(例えば、UBJT-IR300等)が設置された一般的な医師(general practitioner)のオフィスにて実施することができる。あるいは、該試験は、ユーザーの自宅で行うことができ、自宅ユーザーは、分析する関連研究所に呼気収集バックを送ることができる。
【0129】
本発明の別の態様では、CYP2D6関連代謝能を測定するためのキットを提供する。該キットは、13C標識CYP2D6基質化合物(例えば、13C標識DMX、13C標識トラマドール、13C標識コデイン)、および当該基質について、被験者における13C標識CYP2D6関連代謝能をどのように測定するかを記載した説明書を含む。13C標識CYP2D6基質化合物は、錠剤、パウダー、粒状、カプセルまたは溶液として供給することができる。説明書は、前述した曲線下面積、勾配又は他の薬物動態パラメータを用いて、CYP2D6関連代謝能の方法を記載しえる。該キットは、少なくとも3つの呼気収集バックを含む。該キットの一態様では、該キットは、さらにCYP2D6修飾剤を含む。
【0130】
C. 発明の方法の抜粋した臨床適用
i. 標準対照集団への被験者の対応付け
本発明の一つの側面は、個人が異常型のCYP2D6の発現又は活性と関連した病気又は疾患に罹患しているか否か、又は疾患を発症するリスクがあるか否かをそれによって決定する生物学的サンプル(例えば、呼気)という意味合いでの、CYP2D6関連代謝能力を決定するための診断アッセイに関する。治療への臨床応答と遺伝子発現パターン又は表現型との間の相関関係を推定するために、治療を受けた個人の集団、即ち臨床集団によって表された臨床応答のデータを得ることが必要である。この臨床データは臨床試験(単数又は複数)の結果の遡及的な分析によって得られるかもしれない。代替的に、臨床データは1以上の臨床試験をデザインし実施することによって得られるかもしれない。臨床集団データの分析は、次には臨床試験登録又は治療法の選択のために被験者を分類するために有効である標準対照集団(単数又は複数)を定義するために有効である。臨床集団に含まれる被験者は関心のある医学的状況の存在、例えばCYP2D6 PM表現型、CYP2D6 IM表現型、CYP2D6 EM表現型、又はCYP2D6 UM表現型について類別されることは好ましい。潜在的な被験者の類別は、例えば標準的な理学的診断又は本発明の呼気試験のような1以上の検査を含み得る。代替的に、被験者の分類は遺伝子発現パターン、例えばCYP2D6アレル変異の使用を含み得る(表4参照)。例えば、遺伝子発現パターンは遺伝子発現パターンと表現型又は疾患の感受性又は重症度との間の強い相関関係がある類別基準として有効である。応答の変異性が測定され得る1以上の特性又は変数によって引き起こされるか否か、またはそれと相関関係があるか否かという仮説を検査するためにANOVAが使用される。遺伝子発現パターンプロフィール及び/又は表現型特性(単数又は複数)を共有する被験者を含むそのような標準対照集団は与えられた被験者におけるCYP2D6関連代謝能力又はCYP2D6代謝産物排出パターンの測定されたレベルと比較する本発明の方法にとって有効である。一つの実施態様において、被験者はCYP2D6代謝産物の測定された発現パターンと対照の標準集団で観察されたCYP2D6代謝産物の発現パターンの間の類似性に基づいて特定の遺伝子型グループ又は表現型クラスに分類又は割り当てられる。本発明の方法は臨床応答とCYP2D6遺伝子の遺伝子型又はハプロタイプ(又はハプロタイプ対) 又はCYP2D6表現型の間の関連を同定するための診断方法として有効である。更に、本発明の方法は治療に応答する又はしないであろう個人、又は代替的により低いレベルで応答し、従ってより多くの治療、即ち、より多くの薬剤の量を必要とするかもしれない個人を決定するために有効である。
【0131】
ii. 臨床的な有効性のモニタリング
本発明の方法はCYP2D6関連代謝能力の発現又は活性に基づく薬品(例えば、薬剤、化合物)の影響をモニタリングするのに有効であり、基本的な薬剤スクリーニング及び臨床試験に適用され得る。例えば、CYP2D6関連代謝活性を増加させる発明のCYP2D6表現型アッセイによって決定された薬品の有効性は減少したCYP2D6関連代謝活性を示す被験者の臨床試験においてモニターされ得る。代替的に、CYP2D6関連代謝活性に本発明のCYP2D6表現型アッセイによって決定された薬品の有効性は、増加したCYP2D6関連代謝活性を示す被験者の臨床試験においてモニターされ得る。
【0132】
代替的に、臨床試験の間CYP2D6関連代謝能力に基づく薬品の効果は本発明のCYP2D6表現型アッセイを使用して測定され得る。このように、本発明の方法を使用して測定されたCYP2D6代謝産物発現パターンは、薬品への被験者の生理学的応答を示す、ベンチマークとして役立ち得る。よって、被験者のこの応答状態は、薬品での個人の治療前、及び治療の間の様々な点において決定されるかもしれない。
【0133】
次の実施例は本発明の好ましい実施態様をより詳細に説明するために提供される。これらの実施例は、添付する特許請求の範囲によって定義された発明の範囲を限定するように決して解釈されるべきではない。
【実施例】
【0134】
実施例1 発明の13CO2呼気試験を用いたデキストロメトルファン(DXM)代謝能によるヒト被験者の分類
半合成麻酔薬であるDXMは、風邪、インフルエンザまたは他の疾患で生じる乾性咳嗽の治療に有効な市販薬の中から見つけた鎮咳剤である。DXMは、中枢に作用して咳嗽の閾値を上昇させる。咳治療に推奨される用量で(薬物の1/6から1/3オンス、15mgから30mgのDXMを含む)当該薬剤は安全でかつ有効である。より高い用量で(4オンス以上)、DXMはPCPとケタミンのそれらに類似した解離効果を生じる。DXM代謝は、コデインの代謝と類似して、遺伝的に多様である。下記に示すように、CYP2D6は、DXM-O-13CH3のO-脱メチル化を仲介する。
【0135】
【化2】

【0136】
遺伝的要素に加えて、個々の被験者の見かけの表現型および投与された基質の生体内変化におけるCYP2D6の全体における意義は、別の代謝経路の量的重要性によって影響される(Abdel-Rahmanら、Drug Metab. Disposit., 27(7):770-775 (1999))。例えば、CYP2D6によって選択的に代謝される薬理学的阻害剤は、基質代謝における変化の大きさを遺伝学的不全代謝者における当該大きさに模倣するように、酵素活性を修飾することができる(すなわち、正常代謝者から不全代謝者への表現型における見かけ上の変化)。CYP2D6の阻害剤により、併用されたCYP2D6基質の代謝は、正常代謝者として分類された集団の93%近くが有意に変化するかもしれない(Brosenら、Eur. J. Clin. Invest., 36:537-547 (1989))。このような相互作用は、代謝による活性型への変化が必要なプロドラッグの効力を低下させるかもしれないし、あるいは、治療係数の低いCYP2D6基質に毒性を生じるかもしれない。例えば呼気試験などの非侵襲的な診断/セラノスティック試験は、個々の被験者のCYP2D6代謝状態を評価するのに有用である。
【0137】
この研究では、個々のヒト被験者(すなわち、ボランティア1および2)を、各自のDXM-O-13CH3の代謝能力によって分類するために、本発明の13CO2呼気試験方法を採用した。簡単にいえば、正常なヒト被験者に、8−12時間絶食させた後、2錠のAlka seltzer Gold錠剤(バイエルヘルスケア)を摂取させた。当該錠剤は、胸焼けおよび/または胃酸過多が抑制されており、1錠あたり1000mgのクエン酸、344mgの重炭酸カリウム、1050mgの重炭酸ナトリウム(加熱処理)、135mgのカリウム、309mgのナトリウム、およびステアリン酸マグネシウムやマンニトールなどの他の成分を含んでいる。胸やけおよび/または胃酸過多を有する被験者においてこの薬物の吸収は遅いので、当該被験者は、正常な代謝能を有していたとしても、当該試験薬の代謝は遅いかまたは代謝しないと、誤った診断がされてしまうかもしれない(EM,IMまたはPMとして)。このため、当該錠剤は、13C標識CYP2D6基質化合物(例えば、DXM)を経口投与するときに生じる「吸収の個体差」を取り除くために投与される。
【0138】
Alka seltzer Gold錠を投与してから30分後、当該被験者にDXM-O-13CH3 75mgを投与した。薬物投与前、それからDXM-O-13CH3投与後、5分間隔で30分まで、10分間隔で90分まで、そして30分間おいて120分めに、呼気サンプルを集めた。DXM-O-13CH3呼気試験を行った2名のボランティアについての呼気曲線(時間に対するDOB(パネルA)と時間に対するPDR(パネルB))を図1に示す。ボランティア1は、CYP2D61/*1遺伝型を有する、正常DXM代謝者(EM)であった。当該CYP2D61/*1遺伝型は、ホモ接合型またはヘテロ接合型においてCYP2D61AからCYP2D61XNのいずれかのアレルを有しており、そして正常なCYP2D6酵素活性に基づいて正常なDXM代謝能を有している。ボランティア2は、5アレル、遺伝子欠失を有する不全代謝者(PM)である(Courtesy of Leederら、CMH, Kansas City, MO)。すなわち、ボランティア2は全CYP2D6遺伝子が欠失しているため、当該ボランティア2ではCYP2D6酵素が全く合成されない(DXM代謝能がない)(表4のCYP2D6*5に相当する)。この研究は、特定の時点におけるDOB値またはPDR値のいずれかが、EM者(2以上のアレル)をPM者(0または1のアレル)と区別するために有用であることを示す。
【0139】
13CO2呼気試験を用いたDXM-O-13CH3表現型の決定法は、質量分析検出が赤外線分析で置換できるというように、他に存在する表現型の決定法よりも、いくつかの利点を潜在的に有している。
【0140】
CYP2D6活性を測定するプローブとして、DXMの安全性と実用性に加えて、呼気試験によれば、医院やその他の医療環境で、比較的安価な機器(UBiT-IR300IR分光光度計、Meretek)を用いて、より短時間(DXM投与後1時間以内)に、かつ直接的に表現型を決定することができる。
【0141】
実施例2 発明の13CO2呼気試験法を用いたトラマドール代謝能によるヒト被験者の分類
コデインの合成類似体である(+/-)-トラマドールは、選択受容体(例えば、Muオピオイド受容体)に対してアフィニティーの低い中枢鎮痛剤である。(+/-)-トラマドールは、種々の受容体に対して異なるアフィニティーを示す2つのエナンチオマーのラセミ混合物である。(+)-トラマドールは、Mu受容体の感受性の高いアゴニストであり、セラトニンの再取り込みを選択的に阻害する。これに対して(-)-トラマドールは、主としてノルエピネフリンの再取り込みを阻害する。これらの2つのエナンチオマーの作用は、相補的かつ相乗的であり、結果として(+/-)-トラマドールの鎮痛効果をもたらす。
【0142】
(+/-)-トラマドールは、哺乳類中で、“M1”、すなわちO-デスメチルトラマドールと称されるO-デスメチル代謝物に変化する。当該トラマドールのM1代謝物は、親の薬物よりもオピオイド受容体に対して高いアフィニティーを示す。M1誘導体の生成速度は、CYP2D6の酵素活性によって影響される。CYP2D6は、二酸化炭素を付随的に放出しながら(+/-)-トラマドールをM1に変化させる。なお、当該二酸化炭素は被験者の体内から呼気中に排出される。
【0143】
【化3】

【0144】
前述するように、遺伝的要素に加えて、個々の被験者の見かけの表現型および投与された基質の生体内変化におけるCYP2D6の全体における意義は、別に存在する代謝経路の量的重要性によって影響される(Abdel-Rahmanら、Drug Metab. Disposit., 27(7):770-775 (1999))。このような相互作用は、代謝による活性型への変化が必要なプロドラッグの効力を低下させるかもしれないし、あるいは、治療係数の低いCYP2D6基質に毒性が生じるかもしれない。(+/-)-トラマドールは、成人および小児において、強い痛みを和らげるのに有効な薬剤である。潜在的な問題にはCYP2D6欠失が含まれ、これが臨床的に影響を与えるかもしれない(鎮痛剤の約30%がM1代謝物に由来する)。
【0145】
(+/-)-トラマドールは正常代謝者においてより有効かもしれない。例えば呼気試験のような非侵襲的な診断/セラノスティック試験は、個々の被験者のCYP2D6代謝状態を評価するために有用である。
【0146】
この研究では、本発明の13CO2呼気試験法を採用して、個々のヒト被験者(すなわち、ボランティア1および2)を、各自の(+/-)-トラマドール-O-13CH3の代謝能力によって分類した。簡単にいえば、正常なヒト被験者に、8−12時間絶食させた後、2錠のAlka seltzer Gold錠剤(バイエルヘルスケア)を摂取させた。Alka seltzer Gold錠を投与してから30分後、当該被験者に(+/-)-トラマドール-O-13CH3 75mgを投与した(〜1.5mg/kg体重)。(+/-)-トラマドール-O-13CH3の投与前、それから投与後、5分間隔で30分まで、10分間隔で90分まで、そして30分間隔で150分まで呼気サンプルを集めた。(+/-)-トラマドール-O-13CH3呼気試験を行った2名のボランティアの呼気曲線(時間に対するDOB(パネルA)と時間に対するPDR(パネルB))を図2に示す。ボランティア1は、CYP2D61/*1遺伝型を有し、正常(+/-)-トラマドール代謝者(EM)であった。ボランティア2は、5アレル、遺伝子欠失を有する(+/-)-トラマドール不全代謝者(PM)である(Courtesy of Leederら、CMH, Kansas City, MO)。この研究は、特定の時点におけるDOB値またはPDR値のいずれかが、EM者(2以上のアレル)をPM者(0または1のアレル)と区別するために有用であることを示す。
【0147】
13CO2呼気試験を用いた(+/-)-トラマドール-O-13CH3表現型の決定法は、質量分析検出が赤外線分析で置換できるというように、他に存在する表現型の決定法よりも、いくつかの利点を潜在的に有している。
【0148】
CYP2D6活性を測定するプローブとして、(+/-)-トラマドールの安全性と実用性に加えて、呼気試験によれば、医院やその他の医療環境で、比較的安価な機器(UBiT-IR300IR分光光度計、Meretek)を用いて、より短時間((+/-)-トラマドール投与後1時間以内)にかつ直接的に表現型を決定することができる。
【0149】
実施例3 呼気試験法
本発明の呼気試験法の一態様において、被験者に、一晩(8-12時間)絶食させた後、13C標識CYP2D6基質化合物(0.1mg−500mg)を約10−15秒間かけて摂取させる。13C標識CYP2D6基質化合物の摂取前、そして摂取後、5分間隔で30分まで、10分間隔で90分まで、30分間隔で150分まで、呼気サンプルを収集する。呼気サンプルは、被験者に、サンプル収集バック内に呼気を吐く前に、一時的に呼吸を3秒間で止めてもらうことによって回収する。
呼気サンプルは、排出された呼気中の13CO214CO2の比を測定するためにUBiT IR-300分光光度計(Meretek、Denver、Colo.)で分析するか、関連研究所に送付する。
【0150】
実施例4
呼気試験の1実施態様において、一晩(8-12時間)絶食させた3名の被験者に、水に溶解したAlka seltzer錠を摂取させ、その15-30分後に、水に溶解したAlka seltzer錠をDXM-O-13CH3(75mg)と一緒に摂取させる。呼気を、DXM-O-13CH3摂取前、並びに摂取後5、10、15、20、25、30分、および90分まで10分間隔で集める。DXM-O-13CH3呼気試験を行った3名のボランティアの呼気曲線(時間に対するDOB(パネルA)および時間に対するPDR(パネルB))を図3に示す。
【0151】
ボランティア1、2および3は、それぞれCYP2D61/1遺伝型を有する正常DXM代謝者(EM)、*5アレル、遺伝子欠失(CYP2D65遺伝型)を有する不全DXM代謝者(PM)、および中間代謝者(IM: CYP2D61/4遺伝型)であった。ボランティア3は、表4に示すアレルCYP2D61A〜CYP2D61XNのうちの1つと表4に示すアレルCYP2D64A〜CYP2D64X2のうちの1つを有する遺伝型(CYP2D61/4遺伝型)を有していた。CYP2D6中、アレル1は正常なCYP2D6活性を有するのに対して、アレル4はその活性を消失している。このため、CYP2D61/4は全体として半分のCYP2D6活性を有する。
【0152】
この研究は、特定の時点におけるDOB値またはPDR値のいずれかが、EM者、IM者およびPM者の区別に有用であることを示している。言い換えれば、これらの実施例は、本発明の呼気試験がEMとPMの間のCYP2D6酵素活性を有する被験者(IM)の診断に使用できることを示している。
【0153】
本明細書に記載する特定の実施形態は、本発明の1態様を1例として示すことを目的としたものであり、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。本発明の修飾および変更の多くは、その精神と範囲から離れるものでない限り可能であることは、当業者において明らかであろう。明細書に列挙されたものに加えて、本発明の範囲内に含まれる機能的同等方法および装置は、前述の記載から当業者に明らかであろう。そのような修飾と変更は、添付する特許請求の範囲の範囲内に含まれるように意図される。本発明は、添付する特許請求の範囲と権利化される特許請求の範囲の均等物の全範囲に限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0154】
図面は、例示として好ましい実施態様を示すものであって、これに限定されるものではない。各図において、番号は同じまたは類似する成分を意味する。
【図1】ヒト被験者におけるデキストロメトルファンO-13CH3(DXM-O-13CH3)のCYP2D6代謝産物の変化を示す図である。パネルAは、2名のヒト被験者(すなわち、ボランティア1と2)について、呼気サンプル中の13CO2の存在を、時間(分)の関数として、ベースラインに対するデルタ値(DOB)として示したグラフである。パネルBは、2名のヒト被験者から排出された呼気サンプル中の13CO2として、DXM-O-13CH3の用量回収率(PDR)を示したグラフである。ボランティア1(Vlt1;符号◆)はDXM-O-13CH3に対して正常な代謝を示すDXM-O-13CH3の正常代謝者である。ボランティア2(Vlt2;符号▲)はDXM-O-13CH3の不全代謝者である。
【図2】ヒト被験者におけるトラマドール-O-13CH3のCYP2D6代謝産物の変化を示す図である。パネルAは、2名のヒト被験者(すなわち、ボランティア1と2)について、呼気サンプル中の13CO2の存在を、時間(分)の関数として、DOBとして示したグラフである。パネルBは、2名のヒト被験者から排出された呼気サンプル中の13CO2として、トラマドール-O-13CH3のPDRを示したグラフである。ボランティア1(Vlt1;符号◆)はトラマドール-O-13CH3に対して正常な代謝を示すトラマドール-O-13CH3の正常代謝者である。ボランティア2(Vlt2;符号▲)はトラマドール-O-13CH3の不全代謝者である。
【図3】ヒト被験者におけるデキストロメトルファンO-13CH3(DXM-O-13CH3)のCYP2D6代謝産物の変化を示す図である。パネルAは、3名のヒト被験者(すなわち、ボランティア1、2および3)について、呼気サンプル中の13CO2の存在を、時間(分)の関数として、ベースラインに対するデルタ値(DOB)として示したグラフである。パネルBは、3名のヒト被験者から排出された呼気サンプル中の13CO2として、DXM-O-13CH3の用量回収率(PDR)を示したグラフである。ボランティア1(Vlt1;符号◆)はDXM-O-13CH3に対して正常な代謝を示すDXM-O-13CH3の正常代謝者である。ボランティア2(Vlt2;符号▲)はDXM-O-13CH3の不全代謝者である。ボランティア3(Vlt3;符号■)はDXM-O-13CH3の中間代謝者である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同位体で標識された炭素原子または酸素原子の少なくとも1つを含む、チトクロムP450 2D6アイソザイムの基質化合物を有効成分として含有し、被験哺乳類に投与した後に同位体標識CO2を生成する能力を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の測定製剤。
【請求項2】
上記同位体が、13C;14C;および18Oからなる群から選択される少なくとも1つの同位体である、請求項1記載の製剤。
【請求項3】
請求項1の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定する工程を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の測定方法。
【請求項4】
上記同位体標識代謝産物が、呼気中に同位体標識CO2として体内から排出されるものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識代謝産物の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンを評価する工程を有する、被験哺乳類のチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を測定する方法。
【請求項6】
請求項1の製剤を被験哺乳類に投与し、呼気中の同位体標識CO2の排出パターンを測定し、得られた当該被験者におけるCO2の排出パターンを評価する工程を有する、請求項5に記載する方法。
【請求項7】
請求項1の製剤を被験哺乳類に投与し、同位体標識の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンまたはそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を有する健常者における対応する排出パターンまたはパラメータと比較する工程を有する、請求項5に記載する方法。
【請求項8】
請求項1の製剤を被験哺乳類に投与し、当該被験者の体内から排出される同位体標識の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における排出パターンを評価する工程を有する、被験哺乳類におけるチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の異常の有無またはその程度を測定する方法。
【請求項9】
下記の工程を有する、被験者に対する予防または治療処置を選択する方法:
(a)被験者の表現型を測定する、
(b)当該被験者の表現型に基づいて、被験者を各被験クラスに割り当てる、および
(c)当該被験クラスに基づいて予防または治療処置を選択する、
ここで被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度低いチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる。
【請求項10】
上記被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルよりも少なくとも10%程度高いチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
上記被験クラスは、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能の標準レベルの少なくとも約±10%範囲内のチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能のレベルを示す2以上の人を含んでいる、請求項9記載の方法。
【請求項12】
上記処置が、薬物投与、薬物の投与量の選択、および薬物投与のタイミングの選択から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項13】
被験哺乳類に13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与し、当該被験者から吐出された13CO2を測定し、当該測定した13CO2からチトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を測定する工程を有する、チトクロムP450 2D6アイソザイム関連代謝能を評価する方法。
【請求項14】
上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が、13C標識デキストロメトルファン;13C標識トラマドール;および13C標識コデインからなる群から選択される化合物である、請求項13に記載する方法。
【請求項15】
上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が非侵襲的に投与される、請求項13に記載する方法。
【請求項16】
上記13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が静脈内または経口的に投与される、請求項13に記載する方法。
【請求項17】
吐出された13CO2を分光学的に測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項18】
吐出された13CO2を赤外分光法によって測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項19】
吐出された13CO2を、質量分析器を用いて測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項20】
吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、用量反応曲線を作成し、当該曲線下面積からチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項21】
上記吐出された13CO2が、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、請求項20に記載する方法。
【請求項22】
吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、ベースラインに対するデルタ(DOB)を算出し、当該DOBからチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項23】
上記吐出された13CO2が、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、請求項22に記載する方法。
【請求項24】
上記吐出された13CO2を少なくとも3回測定して、用量回収率(PDR)を算出し、当該PDRからチトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性を測定する、請求項13に記載する方法。
【請求項25】
上記吐出された13COが、13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の少なくとも2つの異なる用量を用いて測定されたものである、請求項24に記載する方法。
【請求項26】
上記吐出された13COが少なくとも下記の3ポイントで測定されたものである、請求項13に記載する方法:
013C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を摂取する前、
13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物が被験者の血流に吸収された後、
:第1排出相の期間。
【請求項27】
チトクロム2D6アイソザイム関連代謝活性が、下式に従って算出されるtとtの時点におけるδ13COの勾配から測定されるものである、請求項26に記載する方法:
勾配=[(δ13CO2)2−(δ13CO2)1]/(t2−t1)
式中、δ13CO2は、吐出された13CO2量である。
【請求項28】
13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与する前に、少なくとも1つのチトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤を被験者に投与する工程を有する、請求項13に記載する方法。
【請求項29】
上記チトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤がチトクロムP450 2D6阻害剤である、請求項28に記載する方法。
【請求項30】
上記チトクロムP450 2D6アイソザイム修飾剤がチトクロムP450 2D6誘導剤である、請求項28に記載する方法。
【請求項31】
下記の工程を有する、疾患を予防または治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験哺乳類を選択する方法:
(a)当該被験者に13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物を投与する、
(b)当該被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物の代謝産物排出パターンを測定する、
(c)当該被験者について測定された代謝産物排出パターンを標準の排出パターンと比較する、
(d)当該被験者を、得られた代謝産物の排出パターンに基づいて、不全代謝者、中間代謝者、正常代謝者、および高代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する、および
(e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験参加者として選択する。
【請求項32】
被験者の体内から排出された同位体標識代謝産物が、呼気中の同位体標識CO2である、請求項31に記載する方法。
【請求項33】
13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物、および当該基質について、被験者における13C標識チトクロムP450 2D6アイソザイム基質化合物の代謝の測定方法を記載した説明書を含むキット。
【請求項34】
さらに少なくとも3つの呼気収集バックを含む請求項33に記載するキット。
【請求項35】
さらにチトクロムP450 2D6修飾剤を含む請求項33に記載するキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−538275(P2008−538275A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548253(P2007−548253)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【国際出願番号】PCT/JP2006/308364
【国際公開番号】WO2006/112513
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【出願人】(504324925)ケンブリッジ アイソトープ ラボラトリーズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】