説明

咬耗評価装置、咬耗評価方法および咬耗評価プログラム

【課題】使用した義歯の咬耗を定量的に評価できる装置を提供する。
【解決手段】咬耗評価装置は、使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込んで、使用前の義歯の三次元形状と使用後の義歯の三次元形状との間の物理量の差、例えば、上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対角度の変化量、相対位置の変化量、義歯の体積の変化量、咬頭頂の高さの変化量等を算出して表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咬耗評価装置、咬耗評価方法および咬耗評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、義歯は、定期的に作り直すことが必要である。患者の口腔内の状態や筋力等は、時間と共に変化するため、単に、現在使用している義歯の咬耗(咬合による摩耗)する前の形状を再現するだけでは、患者にとって最適な義歯とはならない。このため、技工士は、使用済み義歯の咬耗状態を観察して、患者に最適な義歯の形状を思い描きながら、新たに作成する義歯の詳細な形状を定めている。例えば、義歯が片減りしている場合には、咬頭の形状や配置を調整して、摩耗の激しかった部分が摩耗し難くなり、その他の部分が摩耗し易くなるようにする。
【0003】
このような義歯の作成において、義歯の詳細な形状は、医師や技工士の勘と経験に基づいて定められている。そこで、経験の少ない医師や技工士でも患者に最適な義歯の形状を定めることができるように、使用済みの義歯の咬耗を定量的に評価できる装置の提供が望まれる。
【0004】
義歯の形状に関しては、特許文献1に、歯の三次元形状を読み取り、コンピュータ表示させるシステムが記載され、特許文献2に、上顎歯および下顎歯の三次元データを用いて、コンピュータ上で咬合状態を再現またはシミュレートすることが記載されている。また、特許文献3に、歯を予め定めた方向や大きさで画面に表示するシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−329055号公報
【特許文献2】特開2004−195152号公報
【特許文献3】特開2007−111519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、使用した義歯の咬耗を定量的に評価できる咬耗評価装置、咬耗評価方法および咬耗評価プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明により提供される咬耗評価装置は、使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込んで、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して表示するものとする。
【0008】
この構成によれば、咬耗量を定量化して表示するので、勘に頼らない診断および義歯の再設計が可能になり、その精度が向上する。
【0009】
義歯は、噛み癖等によって、多く使用される部分の摩耗が大きくなり易いので、片減りによって咬合時の顎が傾斜することも少なくなかった。したがって、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、中心咬合位における上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対角度を含めれば、摩耗の偏りを定量的に把握することができ、多く使用される部分の当接領域を多くすることで、偏った摩耗を抑制するといった措置を講じられる。
【0010】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、中心咬合位における上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対位置を含めれば、噛み合わせ位置の変化を知ることができる。
【0011】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、第1の所定咬合状態から第2の所定咬合状態までの上顎歯と下顎歯との擦動による相対移動距離および相対移動角度の少なくともいずれかを含めれば、歯の擦動運動の変化を確認できる。
【0012】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、義歯の体積を含めれば、全体的摩耗量を把握できる。
【0013】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、咬合の標点とされることが多い咬頭頂の高さを含めてもよい。
【0014】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量に、前記義歯の特定範囲を代表する平面の角度差を含めてもよい。
【0015】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記使用前の義歯の形状と前記使用後の義歯の形状とを重ねて表示すれば、摩耗状態を分かりやすく視認できる。
【0016】
また、本発明の咬耗評価装置において、前記物理量の差が大きい部分を特定して表示すれば、摩耗が大きく、特に考慮すべき部分を喚起できる。
【0017】
また、本発明の咬耗評価装置は、複数の義歯について、前記物理量の差を算出し、比較して表示してもよい。これにより、同一の患者の義歯について行った設計変更の効果や、患者の咀嚼能力の変化による義歯の設計変更の必要性が評価できる。
【0018】
また、本発明による咬耗評価方法は、コンピュータに使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込ませ、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して画面に表示させる方法とする。
【0019】
また、本発明による咬耗評価プログラムは、使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込んで、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して、表示装置に表示するものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、義歯の使用による摩耗を定量化して表示するので、正確な診断や義歯の再設計ができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態の咬耗評価装置の概略構成図である。
【図2】図1の咬耗評価装置の画面表示の例である。
【図3】図1の咬耗評価装置で評価する使用前の義歯の概略図である。
【図4】図1の咬耗評価装置で評価する使用後の義歯の概略図である。
【図5】図1の咬耗評価装置が表示するグラフの例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明による咬耗評価装置は、図1に示すように、演算装置1と、データ入力装置2と、表示装置3と、ユーザ入力装置4とを備えるコンピュータシステムを用いて実現され得るものである。
【0023】
演算装置1は、パーソナルコンピュータとソフトウェア・プログラムとを用いて実現することができるが、専用に設計したものであってもよい。データ入力装置2は、直接三次元形状を読み取る三次元スキャナ等の機器だけでなく、メモリデバイスやディスク装置などのメディア読み取り装置またはデータ通信装置のように外部の三次元スキャナ等で読み取った三次元形状データを演算装置1に読み込ませるための装置であってもよい。表示装置3は、一般的なディスプレイでよい。ユーザ入力装置4は、キーボードやマウス等の汎用の入力装置が利用できる。
【0024】
本発明の咬耗評価装置は、データ入力装置2を用いて、使用前の義歯の三次元形状データと患者が使用して摩耗した後の同じ義歯の三次元形状データとを、演算装置1に読み込んで、演算装置1において、義歯の使用の前後における様々な物理量の変化を算出し、表示装置3に表示する。
【0025】
図2に、表示装置3の表示画面の例を示す。この例では、画面左上に、義歯の断面を表示する断面表示部5、画面左下に、使用前後の義歯の物理量の差を表示する結果表示部6、および、画面右側に、義歯全体を概略表示し、断面表示部5に表示する断面の位置を特定する全体表示部7が配置されている。
【0026】
断面表示部5は、使用後の義歯の断面形状と使用前の義歯の同じ位置の断面形状とを、色や線種を変えて重ねて表示する。例えば、図2では、使用後の義歯の断面形状を実線で示し、使用前の義歯の同じ位置の断面の輪郭を破線で示している。これにより、特定断面における義歯の摩耗が判りやすく視覚化される。
【0027】
結果表示部6は、使用前の義歯と使用後の義歯との物理量の差(咬耗による変化量)を表示する部分である。演算装置1により算出されて結果表示部6に表示される物理量の差は、上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対角度の変化、上顎歯列弓の特定の評点と下顎歯列弓の特定の評点との相対位置(咬合高径等)の変化を含む。
【0028】
結果表示部6に表示される物理量は、さらに、第1咬合状態(例えば中心咬合位)から第2の咬合状態(例えば側方咬合位)までの上顎歯と下顎歯との擦動による相対移動距離および相対移動角度、義歯の体積、咬頭頂の高さを含む。結果表示部6に表示される物理量の差は、さらに、義歯の特定範囲を代表する平面、例えば最小二乗法によって近似される平面の角度差(法線の向きの変化量)等を含んでもよい。
【0029】
また、結果表示部6に表示される変化量には、断面表示部5に表示された断面における物理量(例えば、断面積、高さ等)の使用前後における差を含んでもよい。
【0030】
また、咬耗評価装置は、演算装置1により咬合器による顎運動をシミュレートして、例えば、咬合器の設定(顆路間距離、上弓・下弓間距離、矢状顆路傾斜度、平衡側側方顆路角、イミディエイト・サイドシフト、作業側側方顆路角、矢状切歯路傾斜度、側方切歯路誘導角)の変化量を算出して結果表示部6に表示できることが好ましい。
【0031】
全体表示部7は、ユーザがユーザ入力装置4を介して、断面表示部5に表示する断面位置を特定するために用いることを主な目的としており、歯列弓を概略的に示すものであって、実際のデータに基づく形状を表示することを要しない。断面表示部5の表示は、全体表示部7において特定される断面位置の移動に伴って逐次更新されることが好ましい。演算表示部6の表示も、断面位置の変化に伴って逐次更新することが理想的であるが、演算装置1の演算負荷を軽減するために、ユーザ入力装置4を介してユーザが指定したタイミングで更新してもよい。
【0032】
このため、全体表示部7は、ユーザ入力装置4を使用して画面上のカーソルを移動させて、表示する歯列弓をx,y,zの各方向に移動および回転させるためのバーハンドルと、表示された歯列弓上において断面表示部5に表示する断面位置を指定するためのバーハンドルと、断面表示部5の表示を拡大または縮小するためのバーハンドルとを備える。
【0033】
さらに、全体表示部7は、結果表示部6に示した物理量の差が最大となる位置を特定して、画面表示可能であることが好ましい。例えば、位置の変化が最も大きい咬頭の位置、体積変化が最も大きい歯等を色を変えたりマーカーを表示する等して特定できるようにするとよい。
【0034】
図3に使用前の義歯、図4に使用後の義歯を模式化して示し、本発明の咬耗評価装置の利用法について説明する。咬耗評価装置は、使用前の義歯と使用後の義歯について、それぞれ、上顎歯の三次元形状データと下顎歯の三次元形状データとを噛み合わせ、最も接触点が多くなる中心咬合位を再現する。そして、使用前の義歯と使用後の義歯とで、上顎歯列弓に対する下顎歯列弓の相対角度の差を、x、y、zの3つの軸方向の角度として算出し、結果表示部6に表示する。例えば、xは左右の顆頭を結ぶ方向であり、yはx軸に直交し咬合平面に平行な方向であり、zは、x,yに直交する方向である。
【0035】
また、本発明の咬耗評価装置は、使用前の義歯と使用後の義歯とで、上顎歯列弓に対する下顎歯列弓の相対位置の差を、x、y、zの3つの軸方向の距離として算出し、結果表示部6に表示する。この相対位置の変化は、左右の顆路および中切歯切端の左右の中間点の3点を標点として算出することが好ましい。
【0036】
このために、咬耗評価装置は、使用前の義歯の三次元形状データについて、上顎歯に対する関節窩の位置と下顎歯に対する顆頭の位置とを設定する。このとき、使用前の義歯では、関節窩と顆頭とは、中心咬合位において両者の中心が一致するように設定される。使用後の義歯については、使用前の義歯に対して設定した上顎歯と関節窩との位置関係および下顎歯と顆頭と位置関係が変化しないものとして、関節窩および顆頭の位置を算出する。
【0037】
尚、図3においては、上顎の評点の位置と下顎の標点の位置とが一致しているため、図4における上顎の評点と下顎の評点との相対位置が、図3と図4との間の変化量と一致している。
【0038】
義歯は、咬耗によって上下顎の相対角度が変化しないことが、摩耗が均等で片減りのない理想的な状態であると考えられる。また、義歯の摩耗による関節窩に対する顆頭の位置変化は、顎関節症の危険を示すものと考えられる。よって、これらの数値は、義歯が患者に適していたか否かを評価する上で大きな目安となる。
【0039】
また、各歯についての咬頭頂の高さの変化は、噛み合わせの診断の指標となる。特に、下顎第1大臼歯の頬側咬頭および上顎第1大臼歯の舌側咬頭の咬頭頂の高さの変化量は、咬合高径の変化量の目安となる。
【0040】
また、咬耗評価装置は、使用前後で変化量の大きい部分、つまり、摩耗の大きい部分を特定して表示することで、特に注意すべき位置を歯科医や技工士に知らせることができる。
【0041】
また、義歯の体積が大きく減少する場合には、クランチング(無意識の食いしばり)が疑われる。
【0042】
さらに、本発明の咬耗評価装置は、複数の義歯の使用前後の物理量の差を比較して表示できることが好ましい。図5は、同一の患者に対して半年毎に義歯を作成し直し、各義歯の上顎歯列弓と下顎歯列弓との摩耗による相対角度の変化をグラフ化して表示したものである。この例では、徐々に相対角度変化量が小さくなっており、新しい義歯ほど患者に適したものであったことが確認できる。
【0043】
このよう咬耗による上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対角度の変化は、義歯の形状を変更したことによっても、患者の筋力変化等による咀嚼能力の変化によっても生じる。よって、これらの情報は、絶対的な結論を直接的に導き出すものではないが、問診結果等も考慮して行われる医師の総合的な診断の一助となる有益な情報である。
【符号の説明】
【0044】
1…演算装置
2…データ入力装置
3…表示装置
4…ユーザ入力装置
5…断面表示部
6…結果表示部
7…全体表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込んで、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して表示することを特徴とする咬耗評価装置。
【請求項2】
前記物理量は、中心咬合位における上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対角度を含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項3】
前記物理量は、中心咬合位における上顎歯列弓と下顎歯列弓との相対位置を含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項4】
前記物理量は、第1の所定咬合状態から第2の所定咬合状態までの上顎歯と下顎歯との擦動による相対移動距離および相対移動角度の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項5】
前記物理量は、義歯の体積を含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項6】
前記物理量は、咬頭頂の高さを含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項7】
前記物理量は、前記義歯の特定範囲を代表する平面の角度差を含むことを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項8】
前記使用前の義歯の形状と前記使用後の義歯の形状とを重ねて表示することを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項9】
前記物理量の差が大きい部分を特定して表示することを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項10】
複数の義歯について、前記物理量の差を算出し、比較して表示することを特徴とする請求項1に記載の咬耗評価装置。
【請求項11】
コンピュータに使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込ませ、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して画面に表示させることを特徴とする咬耗評価方法。
【請求項12】
使用前の義歯の三次元形状データと使用後の義歯の三次元形状データとを読み込んで、前記使用前の義歯の三次元形状と前記使用後の義歯の三次元との間の物理量の差を算出して、表示装置に表示することを特徴とする咬耗評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−42869(P2013−42869A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181796(P2011−181796)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【特許番号】特許第4997340号(P4997340)
【特許公報発行日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】