説明

品質保持剤およびその用途

【課題】本発明は、小麦粉を原料とする加工食品における、製造時における色調の維持、すなわち経時的な黄色みの退色を効率的に防止し、品質を保持するための技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品用の品質保持剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質保持剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を原料とする加工食品において、製造時の品質を、製造後、保存期間中に維持することは、商品価値の維持の観点から重要である。小麦粉の加工食品において重要な品質の一つとして、小麦に含まれるカロテノイドの一種であるルテインに起因する黄色みの発色も挙げられる。例えば、パスタはルテインの含量が多く黄色みが強いものほど商品価値が高く、うどんにおいても明るい黄色みは高い品質評価につながる。ルテインは近年、加齢黄斑変性など目の疾病に対する予防効果が報告されており、機能性物質として注目されている。よって、小麦粉を原料とする加工食品の黄色みの維持は、上記ルテインの生理活性が発揮されている機能性食品であることも示すこととなり、商品に付加価値を与える点で非常に重要である。しかしこの黄色みは、食品製造後のルテインの分解の進行により経時的に退色するため、何らかの品質保持手段の開発が期待されていた。
【0003】
小麦粉を原料とする加工食品の品質保持技術に関しては、従来さまざまな報告がある。例えば、特許文献1(特開平8−140605号公報)では、フェルラ酸を小麦粉に添加配合することにより、小麦粉や小麦粉製品のスペックの発生や色調低下が防止されることが記載されている。また、特許文献2(特開2004−173508号公報)では、小麦粉等の生地にリポキシゲナーゼを添加して色相改善(漂白)した後に、リポキシゲナーゼ阻害物質を添加して経時的な変色が防止されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−140605号公報
【特許文献2】特開2004−173508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、いずれも小麦粉を原料とする加工食品の黄色みよりも、むしろ白さの維持を図る技術であり、上述のような小麦本来の黄色みの維持に関する技術ではない。また、これらの技術は小麦粉を原料とする加工食品の色に特に着目しており、小麦粉を原料とする加工食品の保存性や性状を総合的に考慮するものではなかった。
【0006】
本発明は、小麦粉を原料とする加工食品における品質の保持、すなわち製造時における品質を長期間保持または維持する技術、中でも、該食品の経時的な黄色みの退色を効率的に防止するとともにpH調整により日持ち向上をはかるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた。その過程でまず、小麦粉に本来含まれるリポキシゲナーゼが、食品製造の際に通常添加されるpH調整剤により加熱後も活性が保持され、その結果として色素成分ルテインの分解が促進し、加工食品の黄色みの退色が引き起こされるとの知見を得た。そして試行錯誤を重ねた結果、上記pH調整剤のうちの特定の酸と、退色抑制成分とを併用することにより、小麦粉を原料とする加工食品の保存性を維持しながら退色も効果的に抑制され、高品質の加工食品が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕を提供するものである。
〔1〕リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品用の品質保持剤。
〔2〕前記小麦粉は、総ルテイン含量が0.2μg/100mg以上の小麦粉である、上記〔1〕に記載の品質保持剤。
〔3〕前記退色抑制成分は、フェルラ酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、コメヌカ油抽出物、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、カテキンおよびトコフェロールから選ばれる1種または2種以上の成分である、上記〔1〕または〔2〕に記載の品質保持剤。
〔4〕前記加工食品はゆで麺または生麺である上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の品質保持剤。
〔5〕リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを用いて、小麦粉を原料とする加工食品の品質を保持する方法。
〔6〕小麦粉を含む原料に、リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを添加する、小麦粉を原料とする加工食品の製造方法。
〔7〕リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小麦粉を原料とする加工食品の品質、特に小麦本来の黄色みを保持することができ、商品価値の高い加工食品が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】図1−1は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のa*値の経時的変化を示すグラフである。
【図1−2】図1−2は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のb*値の経時的変化を示すグラフである。
【図2−1】図2−1は、実施例3、実施例4、比較例1および比較例2のa*値の経時的変化を示すグラフである。
【図2−2】図2−2は、実施例3、実施例4、比較例1および比較例2のb*値の経時的変化を示すグラフである。
【図3−1】図3−1は、実施例18、比較例1および比較例2のa*値の経時的変化を示すグラフである。
【図3−2】図3−2は、実施例18、比較例1および比較例2のb*値の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の対象は、小麦粉(小麦を挽く等により製粉して得られる粉)を原料とする加工食品である。小麦粉を原料とする加工食品とは、小麦粉を含む原料を加工して得られる食品である。具体例としては、生麺、ゆで麺、乾麺、即席麺、マカロニ、パン、ビスケット、プレミックス、パン粉、小麦でんぷん、フラワーペースト、麩が挙げられる。これらのうち、小麦粉に水を加えて整形する工程および加熱する(ゆでる、蒸す)工程を経て得られる食品であることが好ましく、ゆで麺、蒸し麺がより好ましい。ゆで麺にはうどん、中華麺、日本そばがあるが、本発明においてはいずれも対象とされ得る。
【0012】
本発明は、小麦粉の加工食品のうち総ルテイン含量が0.2μg/100mg以上、好ましくは0.21/100mg以上、より好ましくは0.22μg/100mg以上の小麦粉の加工食品を対象とすることで、より顕著な効果が発揮され得る。0.2μg/100mg以上の小麦粉としては、品種「あやひかり」単品の小麦粉(一般的には0.26〜0.37μg/100mg)、「あやひかり」のブレンド粉および「国産小麦のブレンド粉(「あやひかり」を3割以上含むもの、例としては「あやひかり」と「ホクシン」のブレンド粉(あやひかり6割以上含む)(一般的には0.22〜0.24μg/100mg)等が挙げられる。中でも、「あやひかり」単品の小麦粉や同等の総ルテイン含量を含む単品の小麦粉、及び「あやひかり」単品と同等の総ルテイン含量を含む単品の小麦粉のブレンド粉がより好ましい。
【0013】
小麦粉の総ルテイン含量とは、ルテイン、ルテインモノエステル及びルテインジエステルの総量をいう。分光光度計などによって分析することができる。分光光度計による分析の手順や条件は、金子らの方法(Kaneko,S.,Nagamine,T.and Yamada,T.:Esterification of Endosperm Lutein with Fatty Acids during the Storage of Wheat Seeds,Biosci.Biotech.Biochem.,59,(1995)1−4)に従い得る。すなわち、小麦粉の水飽和ブタノール抽出液を調製し、449nmにおける吸光度を測定する。総ルテイン含量は、ルテインの1mg/100ml溶液の吸光度2.336から算出され得る。
【0014】
なお、加工食品の原料が小麦粉以外の食材を含むものであってもよいことは、言うまでもない。小麦粉以外の原料としては米粉、大麦粉等の穀粉;コーンスターチ、タピオカ澱粉等の澱粉;水、かんすい;他の添加料等が例示される。当該他の添加剤としては、食塩、増粘多糖類(例:グルテン、卵白、カラギーナン、グアーガム、タマリンドガム、ペクチン等)、酸化防止剤、防腐剤、色素、香料等が例示される。
【0015】
本発明において品質の保持とは、本来有する品質をそのまま保持または維持することを意味する。品質の保持の例としては、保存性の向上が挙げられ、より具体的には、保存期間中における小麦粉本来の色調(黄色み)の保持(退色の防止)、日持ち(衛生面での安全性)を挙げることができる。
【0016】
本発明において、色調保持効果は、色調測定及び目視による色相から評価することができる。すなわち、例えば、色彩色差計(たとえばミノルタ製)により、小麦粉を原料とする加工食品のL*、a*値およびb*値を経時的に測色し、各測定値の変化の度合いを考察すると共に、同製造直後及び一定期間保存後の色調の変化を肉眼でも観察する。測定時点は、小麦粉を原料とする加工食品は、一般に製造後の経過時間に伴い退色が進行すること並びに賞味期限内の色調保持効果が求められることから、製造から数日後(例えば、ゆで麺の場合製造3日前後、生麺では5日前後)の間の2〜3回とすることが好ましい。また保存条件については一定の温度(例えば5〜15℃)及び一定の湿度(例えば30%〜50%)であればよい。また、目視については、製造直後及び一定期間保存後の前記加工食品の色調の変化を肉眼で見て判断すればよい。色調測定においてb*は黄色みの指標であり、値が増加するほど黄色みが強くなったものと判断される。また、L*値は明るさの指標であり、値が増加するほど色が明るくなったと判断される。a*値は赤みの指標であり、値が増加するほど赤みが強くなったと判断される。
【0017】
本発明において「日持ち」は、前記加工食品のpHが酸領域(通常は5以下)であるかどうかにより評価することができる。なお、pHの下限は通常4以上、好ましくは4.4以上である。pHの測定は慣用手段により行うことができ、例えば実施例の方法を挙げることができる。
【0018】
また、食品の「性状」については、前記加工食品がゆで麺の場合、歩留の測定により評価することができる。pHが必要以上に下がるとゆでどけが顕著になり、麺に肌荒れが生じるなど、食感の低下を引き起こす。歩留は、ゆでる前の生麺の重量に対するゆで麺の重量比率であり、例えば実施例の方法で算出できる。
【0019】
本発明においては、小麦粉を原料とする加工食品の品質の保持に当たり、酸成分と退色抑制成分を用いる。
【0020】
酸成分は、リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上である。塩としては、金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。酸成分としてはフマル酸またはその塩が好ましい。酸成分としては、pH調整剤などとして製剤化されている市販品を用いることもできる。
【0021】
退色抑制成分とは、小麦粉を原料とする加工食品の退色を抑制する成分である。退色抑制成分が退色を抑制することは、前記色調保持効果において述べた評価方法(すなわち色調測定及び目視による観察)と同様にして評価され得る。退色抑制成分の代表的なものとしては、リポキシゲナーゼの活性阻害及び/又は抗酸化性を発揮するものが挙げられる。すなわち、「退色抑制成分」をリポキシゲナーゼの活性阻害成分及び/又は抗酸化成分と言い換えることもできる。なお、リポキシゲナーゼの活性阻害とは、リポキシゲナーゼの活性の直接的な阻害および間接的な阻害(例えばリポキシゲナーゼにより生じたフリーラジカルを消去する)の両方を含む。
【0022】
退色抑制成分としては、フェルラ酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、カテキンおよびトコフェロールが例示される。係る具体例の化合物は純粋な精製物である必要はなく、植物の抽出物のように他の成分が混在する状態で用いられていてもよい。このようなフェルラ酸を含む植物の抽出物としては、コメヌカ油抽出物が例示される。コメヌカ油抽出物とは、イネ科イネ(Olyza sativa LINNE)の種子より得られる米ぬか油の不けん化物より、エタノールで抽出して得られたものである。
【0023】
これらのうち、退色抑制成分としては、小麦粉を原料とする加工食品に、抗酸化性等他の機能をあわせて付与できる点で、フェルラ酸、コメヌカ油抽出物が好ましく、フェルラ酸がより好ましい。
【0024】
小麦粉を原料とする加工食品に対する酸成分の添加量は特に限定されないが、下限は小麦粉100重量部に対して0.1重量部以上であることが好ましく、0.2重量部以上であることがより好ましい。上記下限未満であると、十分な効果が得られないおそれがある。上限は小麦粉100重量部に対して1重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以下であることがより好ましい。上記上限を超えると、小麦粉を原料とする加工食品の性状に影響が出るおそれがある。
【0025】
小麦粉を原料とする加工食品に対する退色抑制成分の添加量は特に限定されないが、小麦粉100重量部に対して0.0025重量部以上であることが好ましく、0.01重量部以上であることがより好ましい。上記下限未満であると、十分な効果が得られないおそれがある。上限は、小麦粉100重量部に対して0.1重量部以下であることが好ましく、0.01重量部以下であることがより好ましい。上記上限を超えると、麺の風味に影響が出るおそれがある。
【0026】
酸成分と退色抑制成分の配合比は、1:0.0025〜0.1:0.1であることが好ましく、0.5:0.01〜0.2:0.05であることがより好ましい。上記範囲であると本発明の効果が顕著に発揮される。
【0027】
上記酸成分と退色抑制成分の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加する時期については、原料である小麦粉やその他の原料と共に練りこむことが好ましい。添加する方法は、酸成分と退色抑制成分を、同時に添加するか、またはいずれか一方を先に、他方を後に添加することもできる。また、酸成分と退色抑制成分とはそれぞれ、全量を一度に添加してもよいし、分割して何度かに分けて添加してもよい。また、酸成分と退色抑制成分は、水に予め溶解しておいた状態で小麦粉に添加してもよい。
【0028】
本発明においては、小麦粉を原料とする加工食品の品質の保持のために、上記酸成分と退色抑制成分とを用いる。例えば、上記酸成分と退色抑制成分とを有効成分とする、小麦粉を原料とする加工食品用の品質保持剤(品質保持用組成物)としての利用が可能である。また、上記酸成分と退色抑制成分とをそれぞれ別個に用意しておいて、小麦粉を原料とする加工食品の製造過程のいずれかにおいて同時に、或いはそれぞれの適時に添加することも可能である。さらに、上記酸成分と退色抑制成分とを、加工食品の原料である小麦粉等と混合して、小麦加工食品原料組成物として利用することも可能である。そして、上記酸成分と退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品は、本来の品質が保持された加工食品として高い市場価値を有するものとして期待される。
【0029】
小麦粉を原料とする加工食品の製造は、上記酸成分と退色抑制成分とを製造過程のどの過程かで添加することを除けば、一般的な小麦の加工食品と同様でよい。
【実施例】
【0030】
実施例1〜4
1)生麺の製造
以下の手順でゆで麺を製造した。
原料として、小麦粉(あやひかりの小麦粉を6割含むブレンド粉)100gに対して、食塩3.2重量%、pH調整剤としての市販のフマル酸製剤(ナショナル商事:メンコート、フマル酸20重量%を含む)1重量%、退色抑制成分としてフェルラ酸を0.05重量%(実施例1)、アスコルビン酸を0.05重量%(実施例2)、フェルラ酸を0.025重量%(実施例3)、フェルラ酸を0.01重量%(実施例4)それぞれ添加した。加水量は38重量%とした。
【0031】
原料を縦型ミキサー(カントー製)にかけ、低速で加水後、中速、高速で計4分間混捏した。ロール間隙4mmで2回複合し、2.5mmまで圧延後、10番の角切刃で幅3mmに切り出し、生麺を製造した。生麺として試験に供する場合には5℃の冷蔵庫で保存した。
【0032】
2)ゆで麺の製造
ゆで水に蒸留水300mlを用い、生麺10gを8分間ゆでた。流水下で30秒水冷して水を切った後、プラスチックフィルムで覆い、5℃の冷蔵庫で保存した。
【0033】
実施例5〜実施例8
退色成分としてフェルラ酸の代わりに、カフェイン酸(実施例5)、クロロゲン酸(実施例6)、カテキン(実施例7)、トコフェロール(実施例8)をそれぞれ0.05重量%添加したほかは、実施例1と同様にしてゆで麺を製造した。
【0034】
実施例9〜実施例16
pH調整剤としてフマル酸製剤の代わりに、リン酸(実施例9)、酢酸(実施例10)、フマル酸(実施例11)、リンゴ酸(実施例12)、コハク酸(実施例13)、クエン酸(実施例14)、酒石酸(実施例15)および乳酸(実施例16)をそれぞれ0.25重量%用いたほかは、実施例1と同様にしてゆで麺を製造した。
【0035】
比較例1
pH調整剤および退色抑制成分を添加しなかったほかは、実施例1と同様の条件で製麺を行った。
【0036】
比較例2
退色抑制成分を添加しなかったほかは、実施例1と同様の条件で製麺を行った。
【0037】
比較例3〜比較例10
pH調整剤としてフマル酸製剤の代わりに、リン酸(比較例3)、酢酸(比較例4)、フマル酸(比較例5)、リンゴ酸(比較例6)、コハク酸(比較例7)、クエン酸(比較例8)、酒石酸(比較例9)および乳酸(比較例10)をそれぞれ0.25重量%用いたほかは、比較例2と同様にしてゆで麺を製造した。
【0038】
実施例17
原料の小麦粉としてあやひかりの小麦粉を6割含むブレンド粉の代わりに、総ルテイン量が0.37μg/100mgのさとのそらの小麦粉を用いた他は、実施例1と同様にしてゆで麺を製造した。
【0039】
比較例11
原料の小麦粉としてあやひかりの小麦粉を6割含むブレンド粉の代わりに、総ルテイン量が0.37μg/100mgのさとのそらの小麦粉を用いた他は、比較例1と同様にしてゆで麺を製造した。
【0040】
比較例12
原料の小麦粉としてあやひかりの小麦粉を6割含むブレンド粉の代わりに、総ルテイン量が0.37μg/100mgのさとのそらの小麦粉を用いた他は、比較例2と同様にしてゆで麺を製造した。
【0041】
実施例18
実施例1において、フマル酸製剤の添加量を0.75重量%としたほかは同様の原料を用いて、同様に圧延までの工程を行った。その後、10番の角切刃で切断する前の麺帯をポリフィルム製袋に入れ5℃で保存した。
【0042】
評価(1):小麦粉の総ルテイン含量
実施例において用いた小麦粉の総ルテイン含量を、金子らの方法(Kaneko,S.,Nagamine,T.and Yamada,T.:Esterification of Endosperm Lutein with Fatty Acids during the Storage of Wheat Seeds,Biosci.Biotech.Biochem.,59,(1995)1−4)に従い分光光度計により測定した。小麦粉の水飽和ブタノール抽出液を調製し、449nmにおける吸光度を測定する。総ルテイン含量は、ルテインの1mg/100ml溶液の吸光度2.336から算出され得る。
【0043】
その結果、小麦粉あやひかりブレンド中の総ルテイン含量は、0.22〜0.24μg/100mg、あやひかり単品では0.26〜0.37μg/100mg、さとのそら単品では0.34〜0.37μg/100mgであることが明らかとなった。
【0044】
評価(2):麺の測色(色彩値L*a*b*値および目視による観察)
ゆで麺製造直後および1〜5日経過後、それぞれのゆで麺を切断し15mm長さの断片を得た。該断片6〜7本(1試料とする)をプラスチック容器に詰め、測色部を色彩色差計(ミノルタ製)に軽く押し当ててL*値、a*値およびb*値を測定した。a*値およびb*値は値が大きいほど、それぞれ赤みおよび黄色みが強いことを意味する。ゆで麺ではb*値が7以下になると黄色みの退色が顕著となった。なお1試料につき3回測色し、各ゆで麺につき3試料測定した。また、上記試料について目視による観察も行い、観察者1名が、黄色みが強いものを「++」、黄色みが有るものを「+」、白く退色しているものを「−」、より白く退色しているものを「−−」と判定した。
【0045】
評価(3):麺のpH測定
製造直後のゆで麺5gに蒸留水45mlを加え、ホモジナイズ後、30分静置し、電極式pHメーターを用いた測定手段により測定した。
【0046】
評価(4):ゆで麺の歩留
麺の歩留として、生めん重量に対するゆで麺の重量比率を測定した。つまり、生麺を所定の時間(8分程度)ゆで、流水下で水冷した後、水を切った直後のゆで麺の重量を測定し、生麺重量に対するゆで麺の重量比率を算出した。
【0047】
実施例1、実施例2、比較例1および比較例2のa*値、b*値の経時的変化を、図1−1および図1−2に示す。同様に実施例3、実施例4、比較例1および比較例2のa*値、b*値の経時的変化を、図2−1および図2−2に示す。
【0048】
図1−1および図1−2の結果から、フマル酸製剤と、フェルラ酸やアスコルビン酸との組み合わせが、小麦粉を原料とする加工食品の退色を有効に防止することから、これらの組み合わせが品質保持剤の有効成分として有用であることが明らかとなった。また、図2−1および図2−2の結果から、フェルラ酸添加量が、小麦粉に対して0.025重量%で5日以上、0.01重量%で3日間の効果の持続性が明らかとなった。
【0049】
実施例1および実施例5〜8について、ゆで後3日後の色調の測定結果および目視による観察(色相)の結果、ゆで麺のpH及び歩留を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(表1の脚注)
+ :黄色み有
− :白く退色
−−より白く退色
%:重量%
【0052】
表1の結果から、フェルラ酸に換え、カフェイン酸、クロロゲン酸、カテキンおよびトコフェロールにおいてもフマル酸製剤との組み合わせが品質保持剤の有効成分として有用であることが明らかとなった。
【0053】
実施例1と実施例9〜16および比較例1〜10について、ゆで後3日目の色調の測定結果および目視による観察(色相)の結果、ゆで麺のpH及び歩留を表2および表3に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
(表1の脚注)
+ :黄色み有
− :白く退色
−−:より白く退色
%:重量%
【0056】
【表3】

【0057】
(表3の脚注)
+ :黄色み有
− :白く退色
−−:より白く退色
%:重量%
【0058】
表2および表3の結果から、以下のことが分かる。まず、実施例1と実施例9〜16のように、フマル酸製剤や各種酸とフェルラ酸の組み合わせが、小麦粉を原料とする加工食品の退色を有効に防止するとともに品質保持の有効成分として有用であることが明らかになった。一方、比較例1のように、フマル酸製剤並びの各種酸が無添加の場合、加工食品について目的とするpHが得られなかった。さらに、比較例2〜10のようなフマル酸製剤並びに各種の酸のみの添加では、加工食品の退色が明らかになった。また、実施例1〜17の麺の歩留は、比較例2に比べても遜色なく、保存中の風味についても特に問題が無かった。
【0059】
実施例17、比較例11および比較例12のゆで麺について、実施例1と同様に各種測定を行った結果を、表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
(表4の脚注)
++:黄色み強い
+ :黄色み有
− :白く退色
−−:より白く退色
%:重量%
【0062】
表4の結果から、原料の小麦粉としてさとのそらの小麦粉を用いた場合もフマル酸製剤とフェルラ酸の組み合わせが小麦粉を原料とする加工食品の退色を有効に防止することはもちろん、品質保持の有効成分として有用であることが明らかになった。
【0063】
評価(5):生麺の測色
実施例18の麺帯と、比較例1および比較例2において生麺を切り出す前の麺帯(実施例18と同様にポリフィルム製袋に入れ5℃で保存しておいたもの)とを、2日後と7日後に取り出し、前記評価(2)と同様に色彩色差計(ミノルタ製)により測色を行った。実施例18と比較例1および比較例2のa*値、b*値の経時的変化を、図3−1および図3−2に示す。
【0064】
図3−1および図3−2の結果から、フマル酸製剤とフェルラ酸の組み合わせが、小麦粉を原料とする加工食品のうち、生麺においても退色を抑制する効果があることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品用の品質保持剤。
【請求項2】
前記小麦粉は、総ルテイン含量が0.2μg/100mg以上の小麦粉である、請求項1に記載の品質保持剤。
【請求項3】
前記退色抑制成分は、フェルラ酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、コメヌカ油抽出物、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、カテキンおよびトコフェロールから選ばれる1種または2種以上の成分である、請求項1または2に記載の品質保持剤。
【請求項4】
前記加工食品は、ゆで麺または生麺である請求項1〜3のいずれか一項に記載の品質保持剤。
【請求項5】
リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを用いて、小麦粉を原料とする加工食品の品質を保持する方法。
【請求項6】
小麦粉を含む原料に、リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを添加する、小麦粉を原料とする加工食品の製造方法。
【請求項7】
リン酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、およびアジピン酸、並びにそれらの塩から選ばれる1種または2種以上の酸成分と、退色抑制成分とを含む、小麦粉を原料とする加工食品。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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