説明

品質管理しきい値計算装置、品質管理しきい値計算方法、品質管理しきい値計算プログラム

【課題】ユーザが重視する要因のセグメント毎に、サービスに対する総合的なユーザの満足度に基づく品質管理しきい値を計算する。
【解決手段】品質管理しきい値計算装置において、複数のユーザに対して予め測定された、ユーザ満足度に影響を与える要因である複数の影響要因の各々の評価値と、ユーザ満足度の設定値とを入力するデータ入力手段と、ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々について、評価値が前記ユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因のセグメントに各ユーザを分類するユーザ分類手段と、前記セグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値との関係を求め、当該関係に基づいて、前記ユーザ満足度の設定値を満足する当該特定の影響要因の評価値の最小値を、当該特定の影響要因についての品質管理しきい値として算出する品質管理しきい値算出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチメディアサービスに関し、特に動画像サービスに対するユーザ満足度に基づくサービス品質管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザ満足度の高い情報通信サービスを提供するためには、サービスに対するユーザ体感品質を安定かつ効率的に評価し、ユーザ体感品質に基づく品質の設計・管理が必要であり、ITU-T勧告G.1070など、音声・映像サービスにおけるメディア品質(画質・音質)に対するユーザ体感品質の評価法が確立されている。また、特許文献1に記載のように、バースト的な無効パケットを含む映像通信でも、ユーザ体感品質を推定する手法などが確立されている。
【0003】
従来は、これらの技術を用い、パケット損失率などの情報に基づいて映像/音響に対するユーザ体感品質を推定し、その映像/音響に対するユーザ体感品質が一定水準(MOS≧3.5等)を満足するように、パケット損失率の目標値を2%以下とする等の、品質設計・管理が行われてきた。このときのパケット損失率の目標値のように、一定のユーザ体感品質を満足するための品質設計・管理のための指標を、品質管理しきい値と定義する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4634339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、ユーザ体感品質を、映像/音響に対する体感品質として捉えており、映像/音響に対する体感品質のみに基づいて品質設計・管理が行われてきた。しかし、必ずしも全てのユーザが映像/音響品質のみを重視しているわけではない。そのため、映像/音響に加え、利用目的の達成度やコンテンツの面白さ等、複数の要因に対する体感品質を合わせてユーザ満足度として扱い、ユーザが重視する要因毎に異なる品質設計・管理を実施する必要がある。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、マルチメディアサービスにおいて、映像/音響の体感品質に加え、ユーザ満足度に影響を与える複数の要因の中で、ユーザが重視する要因のセグメントにユーザを分類し、セグメント毎に、サービスに対する総合的なユーザの満足度に基づく品質管理しきい値を計算する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える要因である複数の影響要因の中で、ユーザが重視する要因である重視要因のセグメントにユーザを分類し、分類したユーザのセグメント毎に、ユーザ満足度に基づく品質管理しきい値を計算する品質管理しきい値計算装置であって、
複数のユーザに対して予め測定された前記複数の影響要因の各々の評価値と、品質の設計/監理を行う者が最低限満たすべきと考えるユーザ満足度の設定値とを入力するデータ入力手段と、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々について、評価値が前記ユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因を前記重視要因として、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するユーザ分類手段と、
前記ユーザ分類手段で分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値との関係を求め、当該関係に基づいて、前記ユーザ満足度の設定値を満足する当該特定の影響要因の評価値の最小値を、当該特定の影響要因についての品質管理しきい値として算出する品質管理しきい値算出手段と、を備えることを特徴とする品質管理しきい値計算装置として構成される。
【0008】
また、本発明は、マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える要因である複数の影響要因の中で、ユーザが重視する要因である重視要因のセグメントにユーザを分類し、分類したユーザのセグメント毎に、ユーザ満足度に基づく品質管理しきい値を計算する品質管理しきい値計算装置が実行する品質管理しきい値計算方法であって、
複数のユーザに対して予め測定された前記複数の影響要因の各々の評価値と、ユーザ満足度の設定値とを入力するデータ入力ステップと、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々について、評価値が前記ユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因を前記重視要因として、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するユーザ分類ステップと、
前記ユーザ分類ステップで分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値との関係を求め、当該関係に基づいて、前記ユーザ満足度の設定値を満足する当該特定の影響要因の評価値の最小値を、当該特定の影響要因についての品質管理しきい値として算出する品質管理しきい値算出ステップと、を備えることを特徴とする品質管理しきい値計算方法として構成することもできる。
【0009】
また、本発明は、コンピュータを、前記品質管理しきい値計算装置の各手段として機能させるための品質管理しきい値計算プログラムとして構成することもできる。
【発明の効果】
【0010】
マルチメディアサービスにおいて、ユーザが重視する要因に基づくユーザセグメント毎に、映像/音響の品質に限らない各影響要因についての品質管理しきい値を算出することができるようになるので、例えば、ユーザが重視する要因毎に異なる品質設計・管理を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る品質管理しきい値計算装置1の構成図である。
【図2】品質管理しきい値計算装置1が実行する処理の手順を表すフローチャートである。
【図3】入力データである利用目的達成度評価値と、画質評価値と、面白さ評価値と、ユーザ満足度の一例を示す図である。
【図4】入力データであるユーザ満足度の設定値と、重視要因の優先順位の一例を示す図である。
【図5】重み付け部21によって算出されるユーザ毎の重み(重回帰式)の一例を示す図である。
【図6】重視要因順位付け部22によって算出される重視要因順位の一例を示す図である。
【図7】セグメント分類部23によって算出されるユーザ分類の一例を示す図である。
【図8】平均値算出部31によって算出されたユーザ満足度の平均値と画質評価値の平均値の対応の例を示す図である。
【図9】近似式算出部32によって算出されるユーザセグメント毎の近似式の一例を示す図である。
【図10】ユーザ毎に重み付けを変えた場合に得られたユーザ満足度と画質評価値の関係を示す図である。
【図11】ユーザセグメントを考慮せずにユーザ満足度と画質評価値の関係を、全評価者平均で示した図である。
【図12】管理しきい値算出部34にて算出された管理しきい値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
(概要、及び装置構成)
本発明の実施の形態では、マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える複数の要因の体感品質とユーザ満足度に基づき決定したユーザが重視する要因のセグメントにユーザを分類し、セグメント毎に、前記ユーザ満足度に影響を与える要因の体感品質を考慮して算出したユーザ満足度に基づく品質管理しきい値の計算を行う品質管理しきい値計算装置を実現する。なお、本実施の形態では、ユーザ満足度に影響を与える要因として、利用目的達成度、画質、面白さを考慮するが、これらは一例に過ぎず、本発明はこれらの要因に限定されるものではない。ユーザ満足度に影響を与える要因として、他の要因を考慮しても構わない。
【0014】
すなわち、本実施の形態に係る装置は、マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える要因である影響要因の中で、ユーザが重視する要因であり重視要因のセグメントにユーザを分類し、分類したユーザのセグメント毎に、サービスに対する総合的なユーザの満足度に基づく品質管理しきい値を計算する品質管理しきい値装置である。
【0015】
図1に、本発明の実施の形態に係る品質管理しきい値計算装置1の構成例を示す。図1に示すように、品質管理しきい値計算装置1は、データ入力部10、ユーザ分類部20、品質管理しきい値算出部30を備える。これら機能部により、マルチメディアサービスにおけるユーザが重視する要因を考慮したユーザ満足度に基づく品質管理しきい値が計算される。各機能部の機能概要は以下のとおりである。
【0016】
データ入力部10は、利用目的達成度に対する評価値(利用目的達成度評価値)と、画質に対する評価値(画質評価値)と、面白さに対する評価値(面白さ評価値)と、ユーザ満足度と、ユーザ満足度の設定値と、重視要因が複数ある場合の優先順位と、を装置外部から受け取り、装置内部に入力する機能を備える。データ入力部10により入力されたデータは、品質管理しきい値計算装置1が備えるメモリ等の記憶装置に格納され、各機能部から適宜読み出されることにより、品質管理しきい値計算が行われる。
【0017】
ユーザ分類部20は、ユーザ毎に、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値がユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因を重視要因として、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類する機能を備える。なお、本実施の形態では、ユーザ満足度に与える影響が最も大きい要因が複数ある場合は、データ入力部10にて入力された、予め設定された利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値の優先順位に基づいて各ユーザを分類する。
【0018】
品質管理しきい値算出部30は、ユーザ分類部20で分類されたセグメント毎に、管理しきい値を計算し、計算した結果を出力する。以下、ユーザ分類部20及び品質管理しきい値算出部30をより詳細に説明する。
【0019】
図1に示すとおり、ユーザ分類部20は、重み付け部21と、重視要因順位付け部22と、セグメント分類部23とを備える。
【0020】
重み付け部21は、ユーザ毎に、影響要因の値として、ユーザ満足度に与える影響の大きさである利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値の各重みを算出する。重視要因順位付け部22は、ユーザ毎に、重み付け部21において算出した各影響要因の値を比較し、ユーザへの影響が大きい順にユーザが重視する要因として影響要因を順位付けして、重視要因を決定する。セグメント分類部23は、ユーザ毎に、重視要因順位付け部22において最もユーザが重視する要因として順位付けされた影響要因を重視要因として、当該セグメントに、当該ユーザを分類する。
【0021】
品質管理しきい値算出部30は、平均値算出部31と、近似式算出部32と、管理しきい値算出部34とを備える。
【0022】
平均値算出部31は、セグメント分類部23で分類された重視要因のセグメント毎に、ユーザ満足度の平均値と、利用目的達成度評価値の平均値と、画質評価値の平均値と、面白さ評価値の平均値を求める。近似式算出部32は、平均値算出部31で算出した利用目的達成度評価値の平均値、又は画質評価値の平均値、又は面白さ評価値の平均値のいずれかと、ユーザ満足度の平均値との関係に基づき近似式を求める。管理しきい値算出部34は、近似式算出部32で算出した近似式を基に、データ入力部10で入力したユーザ満足度の設定値を満たす重視要因の最小値、すなわち管理しきい値を求め、出力する。
【0023】
ここで、ユーザ分類部20での重み付け部21において、より詳細には例えば、ユーザ毎の影響要因の値として、ユーザ満足度を目的変数とし、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値を説明変数として標準化した値を基に重回帰分析を行い、ユーザ満足度に与える影響の大きさである利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値それぞれの重みである標準偏回帰係数を算出する。
【0024】
また、この場合、重視要因順位付け部22において、ユーザ毎に、重み付け部21において算出した各影響要因の値である各標準偏回帰係数の大きさを比較し、ユーザ毎に影響要因を順位付けして重視要因を決定し、セグメント分類部23において、ユーザ毎に、重視要因順位付け部22において決定した、重視要因のセグメントにユーザを分類することで、重視要因が同一のユーザが同一のセグメントに属するようにする。
【0025】
前述したように、重み付け部21での重みの算出は、重回帰分析等によって行う。以下、重回帰分析を用いた一例を示すが、重回帰分析の他、ニューラルネットワーク等の方法を用いても構わない。重回帰分析を利用する場合、下記の式1に示すように、ユーザ満足度を目的変数とし、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値を説明変数として標準化して重回帰分析を行い、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値それぞれの重み(標準偏回帰係数)を算出する。
【0026】
(式1)ユーザ満足度=利用目的達成度評価値の重み×標準化した利用目的達成度評価値+画質評価値の重み×標準化した画質評価値+面白さ評価値の重み×標準化した面白さ評価値
また、品質管理しきい値算出部30における近似式算出部32においては、平均値算出部31で算出した利用目的達成度評価値の平均値、画質評価値の平均値、面白さ評価値の平均値それぞれと、ユーザ満足度の平均値との関係に基づき、それぞれの近似式を算出し、管理しきい値算出部34において、近似式算出部32で算出した近似式を基に、予め設定されたユーザ満足度設定値の条件を満たす利用目的達成度、画質、面白さについての管理しきい値を算出するようにしてもよい。
【0027】
品質管理しきい値計算装置1は、CPU、メモリ等から構成されるコンピュータに、本実施の形態で説明する機能に対応したプログラムを実行させることにより実現可能である。すなわち、品質管理しきい値計算装置1の各機能部は、当該品質管理しきい値計算装置1を構成するコンピュータに内蔵されるCPUやメモリなどのハードウェア資源を用いて、各機能部で実施される処理に対応するプログラムを実行することによって実現することが可能である。また、各機能部は、メモリ等の記憶手段に記憶されたデータ(入力データや他機能部で処理されたデータ等)を読み出して処理を行い、処理されたデータを記憶手段に記憶するようにして処理を行う。
【0028】
上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体、例えばFD(Floppy(登録商標) Disk)や、MO(Magneto−Optical disk)、ROM(Read Only Memory)、メモリカード、CD(Compact Disk)−ROM、DVD(Digital Versatile Disk)−ROM、BD(Blu−ray Disk)−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RW、BD−R、BD−RE、HDD、リムーバブルディスクなどに記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メールなど、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0029】
(品質管理しきい値計算装置1の動作)
図2に、本実施の形態に係る品質管理しきい値計算装置1が実行する処理の手順を表すフローチャートを示す。図2のフローチャートには、各ステップの処理内容とともに、該当の処理に対応する機能部も示されている。以下、図2に従って品質管理しきい値計算のための処理手順を説明する。なお、前述したように、本実施の形態に係る処理手順においては、ユーザ満足度に影響を与える要因(影響要因)として、利用目的達成度、画質、面白さを用いることとするが、他の影響要因を用いることも可能である。
【0030】
まず、データ入力部10にて、ユーザ満足度に影響を与える要因(影響要因)の品質である利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値を入力し、さらに、ユーザ満足度、ユーザ満足度の設定値、重視要因の優先順位を入力する(ステップ1)。これらの値は、主観品質評価実験によって計算された値でもよいし、国際標準化されたアルゴリズムに基づいて算出される客観品質評価値でも構わない。
【0031】
ここでは、主観品質評価実験によって計算した評価値を用いる例を説明する。モバイル映像サービスにおいて約60秒のコンテンツを視聴した場合の、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値、ユーザ満足度をそれぞれ5段階尺度により求め、入力データとして用いる。主観品質評価実験は、ITU−T勧告P.800、P.910、P.911、P.912、P.920やITU−R勧告BS.1284、BT.500、BT.1866等で標準化されるメディア品質の主観品質評価法などを利用する。なお、このときの5段階尺度は、利用目的達成度評価値においては「5: 達成できた」、「4: どちらかといえば達成できた」、「3: どちらともいえない」、「2: どちらかといえば達成できなかった」、「1: 達成できなかった」、画質評価値においては「5: 非常に良い」、「4: 良い」、「3: 普通」、「2: 悪い」、「1: 非常に悪い」、面白さ評価値においては「5: 面白かった」、「4: どちらかといえば面白かった」、「3: どちらともいえない」、「2: どちらかといえば面白くなかった」、「1: 面白くなかった」、ユーザ満足度においては「5: 満足」、「4: やや満足」、「3: 普通」、「2: やや不満」、「1: 不満」の5段階である。
【0032】
主観品質評価実験によって得られる入力データである利用目的達成度評価値と、画質評価値と、面白さ評価値と、ユーザ満足度の一例を図3に示す。また、ユーザ満足度の設定値と、重視要因の優先順位の一例を図4に示す。この例での評価者は20〜39才までの男女計48名である。
【0033】
次に、ユーザ分類部20にて、ユーザが重視する要因に基づいてユーザを分類するため、まず、重み付け部21によって、ユーザ毎に、ユーザ満足度を目的変数とし、利用目的達成度評価値、画質評価値、面白さ評価値を説明変数とする重回帰分析を行い、各説明変数を重み付けする(ステップ2)。
【0034】
次に、重視要因順位付け部22によって、重回帰分析によって得られた各説明変数の標準偏回帰係数を比較し、ユーザ毎に重視する影響要因の順位付けを行い、最も重視する影響要因である重視要因を決定する(ステップ3)。さらに、セグメント分類部23によって、重視要因順位付け部22によって決定された各ユーザの重視要因に、当該ユーザを分類する(ステップ4)。具体的には、利用目的達成度評価値がユーザ満足度に強く影響するユーザを"利用目的達成度を重視するユーザ"に分類し、面白さ評価値がユーザ満足度に強く影響するユーザを"面白さを重視するユーザ"に分類し、画質評価値がユーザ満足度に強く影響するユーザを"画質を重視するユーザ"に分類する。
【0035】
ユーザ分類部20の各機能部にて算出されるデータの一例を図5〜図7に示す。図5は、ユーザ分類部20の重み付け部21によって算出されるユーザ毎の重み(重回帰式)の一例を示す。図6は、ユーザ分類部20の重視要因順位付け部22によって算出される重視要因順位の一例を示す。また、図7は、ユーザ分類部20のセグメント分類部23によって算出されるユーザ分類の一例を示す。
【0036】
例えば、ユーザNo.1のユーザについて、図5から、利用目的達成度の係数(重み)が0.21、画質の係数が0.92、面白さの係数が0.11であるから、図6に示すとおりの重視要因順位となり、図7に示すとおり、ユーザNo.1のユーザは、画質重視のセグメントに入れられる。
【0037】
最後に、品質管理しきい値算出部30にて品質管理しきい値を算出する。ここでは、一例として重視要因として"画質"を重視するセグメントと"面白さ"を重視するセグメントに着目し、 ユーザ満足度の平均値と画質評価値の平均値の関係を用いて品質管理しきい値の算出方法を説明するが、これは一例に過ぎず、画質評価値の平均値の代わりに利用目的達成度評価値の平均値や、面白さ評価値の平均値を用いても良い。
【0038】
まず、平均値算出部31によって、ユーザセグメント毎にユーザ満足度の平均値と画質評価値の平均値の関係を求める(ステップ5)。次に、近似式算出部32によって、その近似式を求める(ステップ6)。
【0039】
図8に、平均値算出部31によって算出されたユーザ満足度の平均値と画質評価値の平均値の対応の例を示す。図8において、例えば、一行目のユーザ(画質重視のユーザ)に関して、複数回の評価を行った評価値における画質評価値の平均値が1.2であり、ユーザ満足度の平均値が1.5であることが示されている。図9に、近似式算出部32によって算出されるユーザセグメント毎の近似式の一例を示す。ここでは近似式として、対数近似曲線を用いることとしている。
【0040】
図10に、ステップ5とステップ6の結果をグラフで表した例を示す。図10は、ユーザ毎に重み付けを変えた場合に得られたユーザ満足度と画質評価値の関係を示す図である。図10では、面白さを重視するユーザと画質を重視するユーザについて示されている。
【0041】
その後、管理しきい値算出部34によって、近似式から管理しきい値を算出する。ここで、品質管理しきい値の算出方法の一例として、ユーザ満足度の設定値を3.5としてサービスを提供する場合について、図10を用いて説明する。
【0042】
図10では、近似曲線から、面白さを重視するユーザは画質≧3.0のときにユーザ満足度の設定値を満足し、画質を重視するユーザは画質≧3.5のときにユーザ満足度の設定値を満足することがわかる。すなわち、管理しきい値算出部34は、近似式を用いて、面白さを重視するユーザについて、ユーザ満足度の設定値を満足する画質評価値の最小値として3.0を求め、画質を重視するユーザについて、ユーザ満足度の設定値を満足する画質評価値の最小値として3.5を求める。これらの値は、ユーザセグメントを考慮した場合における品質管理しきい値となる。
【0043】
ここで、図11を用いて、ユーザセグメントを考慮しない場合の品質管理しきい値の算出結果(ユーザ満足度と画質評価値の関係)を説明する。図11は、前記主観品質評価実験によって得られたデータから、ユーザセグメントを考慮せずにユーザ満足度と画質評価値の関係を、全評価者平均で示したものである。このとき、対数近似曲線から、画質≧3.3のときにユーザ満足度≧3.5のユーザ満足度の設定値を満足することがわかる。よって、サービス提供者が従来通りユーザセグメントを考慮せずに品質管理しきい値を設定する場合、画質≧3.3が品質管理しきい値となるが、ユーザセグメントを考慮し、画質重視のユーザのために画質≧3.5を品質管理しきい値とすることもでき、面白さ重視のユーザのために画質≧3.0を品質管理しきい値として設定することもできる。
【0044】
このように、品質管理しきい値は、近似式がユーザ満足度の設定値を満足する、重視要因の最小値として算出する。上記の観点で管理しきい値算出部34にて算出された管理しきい値の例を図12に示す。図12では、品質設計・管理の一例として、No.1の場合では、通常時と品質劣化時を分けてしきい値を設定する例を示し、No.2の場合では、常時面白さ重視ユーザ中心でしきい値を設定する例を示している。
【0045】
No.1の場合をより具体的に説明する。例えば、ユーザ満足度≧3.5を設定条件としてサービスを提供する場合、図11では画質≧3.3で条件を満足する。一方、図10から、ユーザが重視する要因に基づいてユーザを分類すると、面白さを重視するユーザは画質≧3.0、画質を重視するユーザは画質≧3.5で条件を満足する。そこで、通常時は画質≧3.5を満たすようにメディア品質設計・管理を行い、ユーザが一時的に電波状況の悪い場所に移動した等で、画質を落とす必要があるときには画質≧3.0を満たすようにメディア品質設計・管理を行う。従って、本実施の形態では、メディア品質が最低限満たすべき管理しきい値を算出できる。
【0046】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る技術によって、ユーザ毎に重視する要因が異なる点を考慮した際の、マルチメディアサービスにおけるユーザ満足度に基づく品質管理しきい値が計算可能となる。また、求めた品質管理しきい値を、品質設計に適用しても良い。このように、本実施の形態により、従来技術では実現できない、ユーザ毎に重視する要因が異なる点を考慮した際の品質管理を実現できる。
【0047】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 品質管理しきい値計算装置
10 データ入力部
20 ユーザ分類部
21 重み付け部
22 重視要因順位付け部
23 セグメント分類部
30 品質管理しきい値算出部
31 平均値算出部
32 近似式算出部
34 管理しきい値算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える要因である複数の影響要因の中で、ユーザが重視する要因である重視要因のセグメントにユーザを分類し、分類したユーザのセグメント毎に、ユーザ満足度に基づく品質管理しきい値を計算する品質管理しきい値計算装置であって、
複数のユーザに対して予め測定された前記複数の影響要因の各々の評価値と、ユーザ満足度の設定値とを入力するデータ入力手段と、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々について、評価値が前記ユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因を前記重視要因として、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するユーザ分類手段と、
前記ユーザ分類手段で分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値との関係を求め、当該関係に基づいて、前記ユーザ満足度の設定値を満足する当該特定の影響要因の評価値の最小値を、当該特定の影響要因についての品質管理しきい値として算出する品質管理しきい値算出手段と、
を備えることを特徴とする品質管理しきい値計算装置。
【請求項2】
前記ユーザ分類手段は、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々についての評価値の重みを算出する重み付け手段と、
ユーザ毎に、前記重み付け手段において算出した各影響要因の重みの値を比較し、ユーザへの影響が大きい順にユーザが重視する要因として影響要因を順位付けして、重視要因を決定する重視要因順位付け手段と、
ユーザ毎に、前記重視要因順位付け手段において最もユーザが重視する要因として順位付けされた影響要因を前記重視要因とし、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するセグメント分類手段と、を備え、
前記品質管理しきい値算出手段は、
前記セグメント分類手段で分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値を求める平均値算出手段と、
前記平均値算出手段で算出した前記特定の影響要因についての評価値の平均値と、前記ユーザ満足度の平均値との関係に基づき近似式を求める近似式算出手段と、
前記近似式算出手段で算出した前記近似式を基に、前記ユーザ満足度の設定値を満足する前記特定の影響要因の評価値の最小値を算出する管理しきい値算出手段と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の品質管理しきい値計算装置。
【請求項3】
前記重み付け手段は、前記ユーザ満足度を目的変数とし、前記複数の影響要因の各々の評価値を説明変数として標準化した値を基に重回帰分析を行い、前記重みとして各説明変数の標準偏回帰係数を算出し、
前記重視要因順位付け手段は、ユーザ毎に、前記重み付け手段において算出した前記各標準偏回帰係数の大きさを比較し、当該標準偏回帰係数が大きい順にユーザが重視する要因として影響要因を順位付けして、重視要因を決定する
ことを特徴とする請求項2に記載の品質管理しきい値計算装置。
【請求項4】
前記複数の影響要因は、マルチメディアサービスについての利用目的達成度、面白さ、及び画質を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の品質管理しきい値計算装置。
【請求項5】
マルチメディアサービスにおいて、ユーザ満足度に影響を与える要因である複数の影響要因の中で、ユーザが重視する要因である重視要因のセグメントにユーザを分類し、分類したユーザのセグメント毎に、ユーザ満足度に基づく品質管理しきい値を計算する品質管理しきい値計算装置が実行する品質管理しきい値計算方法であって、
複数のユーザに対して予め測定された前記複数の影響要因の各々の評価値と、ユーザ満足度の設定値とを入力するデータ入力ステップと、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々について、評価値が前記ユーザ満足度に与える影響の大きさを算出し、最も影響が大きい影響要因を前記重視要因として、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するユーザ分類ステップと、
前記ユーザ分類ステップで分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値との関係を求め、当該関係に基づいて、前記ユーザ満足度の設定値を満足する当該特定の影響要因の評価値の最小値を、当該特定の影響要因についての品質管理しきい値として算出する品質管理しきい値算出ステップと、
を備えることを特徴とする品質管理しきい値計算方法。
【請求項6】
前記ユーザ分類ステップは、
ユーザ毎に、前記複数の影響要因の各々についての評価値の重みを算出する重み付けステップと、
ユーザ毎に、前記重み付けステップにおいて算出した各影響要因の重みの値を比較し、ユーザへの影響が大きい順にユーザが重視する要因として影響要因を順位付けして、重視要因を決定する重視要因順位付けステップと、
ユーザ毎に、前記重視要因順位付けステップにおいて最もユーザが重視する要因として順位付けされた影響要因を前記重視要因とし、当該重視要因のセグメントに各ユーザを分類するセグメント分類ステップと、を備え、
前記品質管理しきい値算出手段は、
前記セグメント分類ステップで分類されたセグメント毎に、前記ユーザ満足度の平均値と、特定の影響要因についての評価値の平均値を求める平均値算出ステップと、
前記平均値算出ステップで算出した前記特定の影響要因についての評価値の平均値と、前記ユーザ満足度の平均値との関係に基づき近似式を求める近似式算出ステップと、
前記近似式算出ステップで算出した前記近似式を基に、前記ユーザ満足度の設定値を満足する前記特定の影響要因の評価値の最小値を算出する管理しきい値算出ステップと、を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の品質管理しきい値計算方法。
【請求項7】
前記重み付けステップにおいて、前記ユーザ満足度を目的変数とし、前記複数の影響要因の各々の評価値を説明変数として標準化した値を基に重回帰分析を行い、前記重みとして各説明変数の標準偏回帰係数を算出し、
前記重視要因順位付けステップにおいて、ユーザ毎に、前記重み付けステップにおいて算出した前記各標準偏回帰係数の大きさを比較し、当該標準偏回帰係数が大きい順にユーザが重視する要因として影響要因を順位付けして、重視要因を決定する
ことを特徴とする請求項6に記載の品質管理しきい値計算方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の品質管理しきい値計算装置の各手段として機能させるための品質管理しきい値計算プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−38609(P2013−38609A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173411(P2011−173411)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】